(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-27
(45)【発行日】2022-05-11
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 64/30 20060101AFI20220428BHJP
C08G 64/02 20060101ALI20220428BHJP
C08G 64/04 20060101ALI20220428BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20220428BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
C08G64/30
C08G64/02
C08G64/04
C08K7/14
C08L69/00
(21)【出願番号】P 2019509155
(86)(22)【出願日】2018-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2018009200
(87)【国際公開番号】W WO2018180366
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2017073152
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)事業「高強度・高透明GF-PC複合材料の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】薮上 稔
(72)【発明者】
【氏名】山尾 忍
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-126879(JP,A)
【文献】特開2003-034719(JP,A)
【文献】特開2003-034720(JP,A)
【文献】特開2016-000772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 64/30
C08G 64/02
C08G 64/04
C08L 69/00
C08K 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程1~3を有
し、
該下記工程の原料モノマーが、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、1,3-アダマンタンジメタノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-プロパン、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2-(5-エチル-5-ヒドロキシメチル-1,3-ジオキサン-2-イル)-2-メチルプロパン-1-オール、イソソルビド、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールからなる群より選ばれる少なくとも一つの脂肪族ジヒドロキシ化合物を含む、ポリカーボネート樹脂の製造方法。
工程1:反応器に原料モノマーを投入し、1mmHg以下の真空下で原料モノマーを溶融する工程
工程2:該工程1の後に、原料モノマーが溶融した状態で反応器内部の気相部を不活性ガスで置換する工程
工程3:該工程2の後に、反応器に触媒を投入し、原料モノマーを重合させて
ポリカーボネート樹脂を製造する工程
【請求項2】
前記原料モノマーが
前記脂肪族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを含む、請求項1に記載の
ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂の波長589.3nmにおける屈折率が1.450以上1.590以下である、請求項
1又は2に記載の
ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂が、
前記脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する脂肪族カーボネート繰り返し単位(A)を含み、前記脂肪族カーボネート繰り返し単位(A)が、下記式(I)で表されるものである、請求項
1~3のいずれか一項に記載の
ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【化1】
(式中、X
1は炭素数2~20の2価の脂肪族炭化水素基又は炭素数4~22の2価の脂環式炭化水素基を示す。前記2価の脂肪族炭化水素基及び2価の脂環式炭化水素基は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を含んでもよく、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれる少なくとも1つのハロゲン原子を含んでもよい。)
【請求項5】
前記繰り返し単位(A)が、下記一般式(a-1)、(a-2)及び(a-3)で表される繰り返し単位からなる群より選ばれる一つ以上を有する、請求項4に記載の
ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【化2】
【請求項6】
前記工程3における触媒が金属触媒と有機系触媒との組み合わせである、請求項
1~5のいずれか一項に記載の
ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記金属触媒の添加量が原料モノマー全量に対して2モルppm以下、前記有機系触媒の添加量が原料モノマー全量に対して300モルppm以下である、請求項6に記載の
ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記工程1における昇温後の反応器内の温度が70℃以上180℃以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の
ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記工程3における重合温度が100℃以上330℃以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の
ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項10】
炭酸ジエステルの10質量%溶液における吸光度を光路長50mmで測定した場合に、波長420nmにおける吸光度が0.015以下である炭酸ジエステルを原料として用いる、請求項2~9のいずれか一項に記載の
ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項11】
前記工程3において、酸化防止剤の存在下で原料モノマーを重合させる、請求項1~10のいずれか一項に記載の
ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項12】
工程3の重合反応終了後に酸化防止剤を混合する、請求項1~11のいずれか一項に記載の
ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項13】
前記原料モノマーがさらに芳香族ジヒドロキシ化合物を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項14】
前記芳香族ジヒドロキシ化合物がビスフェノールAを含む、請求項13に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項15】
前記重合がエステル交換法による重合である請求項1~14のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂、中でもポリカーボネート樹脂は、透明性、耐熱性あるいは耐衝撃性に優れたエンジニアリングプラスチックであって、現在、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野、その他工業分野で広く使用されている。一般に、ポリカーボネート樹脂の製造方法としては、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとを直接反応させる方法(界面重縮合法)、あるいは芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを溶融状態でエステル交換反応させる方法(溶融重合法)が知られている。このエステル交換反応法(溶融重合法)は、界面重縮合法に比べて、ポリカーボネート樹脂を安価に製造しうるという利点を有するものの、通常280~310℃という高温下で長時間に反応させるために、得られるポリカーボネート樹脂が着色するのを免れないという大きな欠点がある。
【0003】
特許文献1には、分子内に-CH2-O-で表される構造を有し、25℃において固体であるジヒドロキシ化合物と、溶融した炭酸ジエステルとを、圧力0.06MPa以上0.20MPa以下で、0.5時間以上30時間以下の条件下で混合して、ポリカーボネート樹脂の原料として用いる、ポリカーボネート原料の調製方法が開示されている。
特許文献2には、構造の一部に-CH2-O-で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(A)と、炭酸ジエステルとを混合してからの経過時間が5時間未満となるように反応器へ連続的に供給し、溶融重縮合する、または、これらを混合せずに独立に反応器へ連続的に供給し、溶融重縮合するポリカーボネート樹脂の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-210939号公報
【文献】特開2012-214775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~2に開示されたポリカーボネート樹脂は、黄変が十分に改善されているとは言えない。
また、ポリカーボネート樹脂成形品の機械強度をより高めるために、ガラスフィラー等を添加することが行われている。しかしながら、ガラスフィラーで補強したポリカーボネート樹脂成形品は透明性が低下するという問題があった。
本発明が解決しようとする課題は、黄変を抑制し、透明性に優れた成形品を与える熱可塑性樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、真空下で原料モノマーを溶融した後に重合反応を行うことで上記課題を解決しうることを見出した。
すなわち本発明は、以下の<1>~<15>を提供するものである。
【0007】
<1>下記工程1~3を有する、熱可塑性樹脂の製造方法。
工程1:反応器に原料モノマーを投入し、1mmHg以下の真空下で原料モノマーを溶融する工程
工程2:該工程1の後に、原料モノマーが溶融した状態で反応器内部の気相部を不活性ガスで置換する工程
工程3:該工程2の後に、反応器に触媒を投入し、原料モノマーを重合させて熱可塑性樹脂を製造する工程
<2>前記熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂であって、前記原料モノマーがジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを含む、上記<1>に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
<3>前記ポリカーボネート樹脂の波長589.3nmにおける屈折率が1.450以上1.590以下である、上記<2>に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
<4>前記ポリカーボネート樹脂が、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する脂肪族カーボネート繰り返し単位(A)を含み、前記脂肪族カーボネート繰り返し単位(A)が、下記式(I)で表されるものである、上記<2>又は<3>に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【化1】
(式中、X
1は炭素数2~20の2価の脂肪族炭化水素基又は炭素数4~22の2価の脂環式炭化水素基を示す。前記2価の脂肪族炭化水素基及び2価の脂環式炭化水素基は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を含んでもよく、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれる少なくとも1つのハロゲン原子を含んでもよい。)
<5>前記繰り返し単位(A)が、下記一般式(a-1)、(a-2)及び(a-3)で表される繰り返し単位からなる群より選ばれる一つ以上を有する、上記<4>に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
【化2】
<6>前記工程3における触媒が金属触媒と有機系触媒との組み合わせである、上記<2>~<5>のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
<7>前記金属触媒の添加量が原料モノマー全量に対して2モルppm以下、前記有機系触媒の添加量が原料モノマー全量に対して300モルppm以下である、上記<6>に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
<8>前記工程1における昇温後の反応器内の温度が70℃以上180℃以下である、上記<1>~<7>のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
<9>前記工程3における重合温度が100℃以上330℃以下である、上記<1>~<8>のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
<10>炭酸ジエステルの10質量%溶液における吸光度を光路長50mmで測定した場合に、波長420nmにおける吸光度が0.015以下である炭酸ジエステルを原料として用いる、上記<2>~<9>のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
<11>前記工程3において、酸化防止剤の存在下で原料モノマーを重合させる、上記<1>~<10>のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
<12>工程3の重合反応終了後に酸化防止剤を混合する、上記<1>~<11>のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂の製造方法。
<13>上記<1>~<12>のいずれか一項に記載の製造方法により得られた熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物。
<14>ガラスフィラーを熱可塑性樹脂100質量部に対して5質量部以上80質量部以下含む、上記<13>に記載の熱可塑性樹脂組成物。
<15>上記<13>又は<14>に記載の熱可塑性樹脂組成物を含む成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、黄変を抑制し、透明性に優れた成形品を与える熱可塑性樹脂の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の熱可塑性樹脂の製造方法について詳細に説明する。なお、本明細書において、好ましいとされている規定は任意に採用することができ、好ましいもの同士の組み合わせはより好ましいといえる。また、本明細書において、「XX~YY」の記載は、「XX以上YY以下」を意味する。
【0010】
[熱可塑性樹脂の製造方法]
本発明は、下記工程1~3を有する熱可塑性樹脂の製造方法に関する。
工程1:反応器に原料モノマーを投入し、1mmHg以下の真空下で原料モノマーを溶融する工程
工程2:該工程1の後に、原料モノマーが溶融した状態で反応器内部の気相部を不活性ガスで置換する工程
工程3:該工程2の後に、反応器に触媒を投入し、原料モノマーを重合させて熱可塑性樹脂を製造する工程
本発明者らは、溶融重合法による熱可塑性樹脂の製造方法において、真空下で原料モノマーを溶融することで、重合時の酸化反応を抑制し、その結果、熱可塑性樹脂の黄変を効果的に抑制することができることを見出したものである。すなわち、熱可塑性樹脂の黄変が抑制され、透明性に優れた成形品が得られる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0011】
(工程1)
本発明方法における工程1は、反応器に原料モノマーを投入し、1mmHg以下の真空下で原料モノマーを溶融する工程である。溶融状態の原料モノマーは、酸素によって酸化劣化しやすく、このような原料モノマーを用いて重合反応を行うと、着色した熱可塑性樹脂が得られると推測される。本発明において、1mmHg以下の真空下で原料モノマーを溶融することにより、溶融状態の原料モノマーが酸素と接触するのを防ぐことができ、その結果、熱可塑性樹脂の黄変を抑制することができると考えられる。
本発明において真空下とは、反応器内の圧力条件として、1mmHg以下(0.133kPa以下)の減圧度を保った状態を意味する。空気漏れ込み量が1mmHg/h以下である反応装置を用いることにより、前記範囲内の減圧度を保つことができる。
原料モノマーとは、前記熱可塑性樹脂の重合の原料として用いるモノマーであって、前記樹脂の構成単位の少なくとも一部を構成するものである。
【0012】
工程1は、真空下で反応器内を昇温することにより原料モノマーを溶融する方法が好ましい。昇温後の反応器内の温度としては、原料モノマーが溶融する温度であれば特に制限はないが、好ましくは70~180℃、より好ましくは80~150℃、更に好ましくは85~120℃、より更に好ましくは90~110℃である。
【0013】
工程1では、熱可塑性樹脂の黄変を抑制する観点から、真空下で昇温後の温度を保持し、原料モノマーが完全に溶融するまで、原料モノマーを撹拌することが好ましい。撹拌は、一般的な撹拌翼を用いて行えばよく、撹拌翼としては、例えば、アンカー翼、ファドラー翼、ヘリカル翼、マックスブレンド翼、ディスク型翼等が挙げられる。原料モノマーが完全に溶融した状態かどうかは目視によって判断することができる。
【0014】
(工程2)
本発明方法における工程2は、前記工程1の後に、原料モノマーが溶融した状態で反応器内部の気相部を不活性ガスで置換する工程である。不活性ガスとしては、例えばヘリウム、アルゴン、窒素等のガスが挙げられ、好ましくは窒素ガスである。反応器内部の気相部を不活性ガスで置換するとは、圧力が1mmHg以下の真空下に保たれた反応器内に不活性ガスを導入して、真空圧から常圧に復圧する操作を行うことをいう。この操作を、少なくとも1回行えばよいが、2回以上繰り返すことが好ましい。
不活性ガスの復圧操作は加圧条件下で行なってもよい。復圧時の圧力は、反応器の耐圧上限値以下の範囲内で高圧であるほど置換率が上がるので好ましい。一方で、高圧すぎると脱圧時に一方内部溶液が同伴して排出されてしまう恐れがあることから、復圧時の不活性ガス圧力は1.0MPa以下が好ましい。
【0015】
(工程3)
本発明方法における工程3は、該工程2の後に、反応器に触媒を投入し、原料モノマーを重合させて熱可塑性樹脂を製造する工程である。この工程3の重合工程は、熱可塑性樹脂の種類に応じて、公知の方法に従って行うことができる。例えば、熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂である場合には、工程3は、後述するエステル交換法(溶融重合法)によってポリカーボネート樹脂を製造する工程であることが好ましい。
工程3は、工程2で置換された不活性ガス雰囲気下で実施されることが好ましい。
【0016】
工程3において、重合時の高温条件下での酸化劣化による樹脂の着色を低減する観点から、酸化防止剤の存在下で原料モノマーを重合させることが好ましい。また、熱可塑性樹脂組成物の製造時及び成形時の樹脂の着色を低減する観点から、工程3の重合反応終了後に酸化防止剤をさらに混合することが好ましい。この場合には、工程3の重合反応終了後の溶融状態の熱可塑性樹脂に酸化防止剤を混合することが好ましい。このように酸化防止剤存在下で工程3を実施する、及び/または工程3の重合反応終了後に得られた熱可塑性樹脂に酸化防止剤を混合することにより、熱可塑性樹脂の黄変をより効果的に抑制することができる。
【0017】
酸化防止剤としては、公知のものが特に制限なく使用することができ、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ビタミン系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤等が挙げられる。これらの中でも、酸化防止効果の観点から、リン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤が好ましい。工程3の重合時に使用する酸化防止剤としてはフェノール系酸化防止剤がより好ましい。工程3の重合反応終了後に使用する酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤の組み合わせが好ましい。酸化防止剤は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0018】
リン系酸化防止剤としては、酸化防止効果と安定性の観点から、ホスファイト系酸化防止剤及びホスフィン系酸化防止剤が好ましい。
ホスファイト系酸化防止剤及びホスフィン系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルノニルホスファイト、ジフェニル(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、フェニルジ(トリデシル)ホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(イソデシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、ジブチルハイドロジェンホスファイト、トリラウリルトリチオホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、4,4’-イソプロピリデンジフェノールドデシルホスファイト、4,4’-イソプロピリデンジフェノールトリデシルホスファイト、4,4’-イソプロピリデンジフェノールテトラデシルホスファイト、4,4’-イソプロピリデンジフェノールペンタデシルホスファイト、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル)ジトリデシルホスファイト、1,1,3-トリス(2-メチル-4-トリデシルホスファイト-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、3,4,5,6-ジベンゾ-1,2-オキサホスファン-2-オキシド、トリフェニルホスフィン、ジフェニルブチルホスフィン、ジフェニルオクタデシルホスフィン、トリス(p-トリル)ホスフィン、トリス(p-ノニルフェニル)ホスフィン、トリス(ナフチル)ホスフィン、ジフェニル(ヒドロキシメチル)ホスフィン、ジフェニル(アセトキシメチル)ホスフィン、ジフェニル(β-エチルカルボキシエチル)ホスフィン、トリス(p-クロロフェニル)ホスフィン、トリス(p-フルオロフェニル)ホスフィン、ジフェニルベンジルホスフィン、ジフェニル-β-シアノエチルホスフィン、ジフェニル(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィン、ジフェニル-1,4-ジヒドロキシフェニル-2-ホスフィン、フェニルナフチルベンジルホスフィン等が挙げられる。
【0019】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマイド)、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジルホスホネートジエチルエステル、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、3,9-ビス{1,1-ジメチル-2-[β-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。
【0020】
工程3の重合時に使用する酸化防止剤の使用量としては、原料モノマーの合計に対して、好ましくは500~5000質量ppm、より好ましくは500~3000質量ppmである。
工程3の重合反応後に使用する酸化防止剤の使用量としては、原料モノマーの合計に対して、好ましくは500~6000質量ppm、より好ましくは500~4000質量ppmである。酸化防止剤としてリン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤を組み合わせて使用する場合には、それぞれの使用量が、原料モノマーの合計に対して、好ましくは500~3000質量ppm、より好ましくは500~2000質量ppmである。
【0021】
工程3の重合温度は、特に制限はなく、通常100~330℃の範囲、好ましくは180~300℃の範囲、より好ましくは200~240℃の範囲で選ばれる。
【0022】
<熱可塑性樹脂>
本発明方法で製造される熱可塑性樹脂としては、溶融重合法により製造されるものであれば特に制限がなく種々の熱可塑性樹脂を用いることができ、例えば、ポリカーボネート樹脂、(変性)ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、耐熱性及び耐衝撃性等の機械特性の観点から、ポリカーボネート樹脂、(変性)ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂が好ましく、ポリカーボネート樹脂がより好ましい。
【0023】
(ポリカーボネート樹脂)
熱可塑性樹脂としてのポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂であっても脂肪族ポリカーボネート樹脂であってもよいが、耐傷付性、耐候性、平行光線透過率に優れたポリカーボネート樹脂成形品を得る観点から、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する脂肪族カーボネート繰り返し単位(A)を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂が好ましい。本発明に係るポリカーボネート樹脂は、前記脂肪族カーボネート繰り返し単位(A)及び芳香族ジヒドロキシ化合物(二価フェノール)に由来する芳香族カーボネート繰り返し単位(B)を含むことがより好ましい。
【0024】
(脂肪族カーボネート繰り返し単位(A))
前記脂肪族カーボネート繰り返し単位(A)は、下記式(I)で表される。
【化3】
【0025】
上記一般式(I)において、X
1は炭素数2~20の2価の脂肪族炭化水素基又は炭素数4~22の2価の脂環式炭化水素基を示す。X
1における2価の脂肪族炭化水素基及び2価の脂環式炭化水素基としては、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を含んでもよく、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれる少なくとも1つのハロゲン原子を含んでもよい。ヘテロ原子を含む前記脂環式炭化水素基としては、例えば、炭素数4~20の2価の酸素若しくは窒素含有飽和複素環式基等が挙げられる。
X
1で示される2価の基の具体例としては、後述する脂肪族ジヒドロキシ化合物から2つの水酸基を除いた2価の基が挙げられ、中でも下記一般式(1)で示される脂肪族ジヒドロキシ化合物から2つの水酸基を除いた2価の基が好ましい。
前記繰り返し単位(A)としては、下記一般式(a-1)、(a-2)及び(a-3)で表される繰り返し単位からなる群より選ばれる一つ以上を有することが好ましい。
【化4】
【0026】
前記繰り返し単位(A)中の、上記一般式(a-1)、(a-2)又は(a-3)で表される繰り返し単位の合計含有量は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは100モル%である。
【0027】
(脂肪族ジヒドロキシ化合物)
脂肪族カーボネート繰り返し単位(A)は、脂肪族ジヒドロキシ化合物から誘導される。
脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。前記脂肪族ジヒドロキシ化合物は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【化5】
【0028】
上記一般式(1)において、R1は炭素数2~18、好ましくは2~10、より好ましくは3~6のアルキレン基、炭素数4~20、好ましくは5~20のシクロアルキレン基又は炭素数4~20、好ましくは5~20の2価の酸素若しくは窒素含有飽和複素環式基であり、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を含んでもよく、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれる少なくとも1つのハロゲン原子を含んでもよい。aは0または1の整数を示す。
【0029】
R1おける炭素数2~18のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、n-ペンチレン基、n-ヘキシレン基、n-ヘプチレン基、n-オクチレン基、2-エチルヘキシレン基、n-ノニレン基、n-デシレン基、n-ウンデシレン基、n-ドデシレン基、n-トリデシレン基、n-テトラデシレン基、n-ペンタデシレン基、n-ヘキサデシレン基、n-ヘプタデシレン基、n-オクタデシレン基等が挙げられる。R1おける炭素数4~20のシクロアルキレン基としては、例えば、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロオクチレン基、シクロデシレン基、シクロテトラデシレン基、アダマンチレン基、ビシクロヘプチレン基、ビシクロデシレン基、トリシクロデシレン基等が挙げられる。
【0030】
脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、オクタエチレングリコール、ジプロピレングリコ-ル、N-メチルジエタノールアミン、p-キシリレングリコール等の鎖式脂肪族炭化水素基を有するジヒドロキシ化合物;1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,6-デカリンジオール、1,5-デカリンジオール、2,3-デカリンジオール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジオール、2,5-ノルボルナンジオール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-プロパン、1,3-アダマンタンジオール、1,3-アダマンタンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール等の脂環式炭化水素基を有するジヒドロキシ化合物;イソソルビド等の縮合多環式エーテルジオール;3,9-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジエチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジプロピルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等のヘテロ環スピロ化合物;1,4-アンヒドロエリスリトール等の環状エーテルジオール;2-(5-エチル-5-ヒドロキシメチル-1,3-ジオキサン-2-イル)-2-メチルプロパン-1-オール等の環状アセタールジオール;3,4-ピロリジンジオール、3,4-ジメチルピペリジンジオール、N-エチル-3,4-ピペリジンジオール、N-エチル-3,5-ピペリジンジオール等のN-ヘテロ環状ジオール;デオキシチオフルクトース等のS-ヘテロ環状ジオール等が挙げられる。
【0031】
これらの脂肪族ジヒドロキシ化合物のうち、製造の容易さ、性質、用途の幅広さの観点から、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、1,3-アダマンタンジメタノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-プロパン、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2-(5-エチル-5-ヒドロキシメチル-1,3-ジオキサン-2-イル)-2-メチルプロパン-1-オール、イソソルビド、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールが好ましく、その中でも耐熱性の観点から1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、イソソルビドがより好ましい。
【0032】
本発明に用いる脂肪族ジヒドロキシ化合物の精製方法については特に限定されない。好ましくは、単蒸留、精留または再結晶のいずれか、もしくはこれらの手法の組み合わせにより精製してもよい。ただし、該脂肪族ジヒドロキシ化合物の市販品には安定剤や、保管中に生成した劣化物が含まれていることがあり、これらがポリマー品質に悪影響を与える可能性がある。該脂肪族ジヒドロキシ化合物を用いてポリマーを得る際には、再度精製を行い直ちに重合反応に使用するのが好ましい。やむを得ず精製後、暫く保管してから使用する際は、乾燥、40℃以下の低温、遮光および不活性雰囲気下で保管しておいて使用することが好ましい。
【0033】
(芳香族カーボネート繰り返し単位(B))
前記芳香族カーボネート繰り返し単位(B)は、下記式(II)で表される。
【化6】
【0034】
上記一般式(II)において、X2は、芳香族基を含む炭化水素残基を示す。
X2における芳香族基を含む炭化水素残基としては、芳香族炭化水素基がX2に隣接する酸素原子に結合する構造を有するものが好ましい。X2における芳香族基を含む炭化水素残基の中に、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子から選ばれる少なくとも1つのハロゲン原子;炭素数1~20の脂肪族炭化水素基;炭素数5~20脂環式炭化水素基;並びに炭素数6~20の芳香族炭化水素基から選ばれる1種以上の基を含んでいてもよい。
X2で示される芳香族基を含む炭化水素残基の具体例として、後述する芳香族ジヒドロキシ化合物から2つの水酸基を除いた基等が挙げられる。
【0035】
(芳香族ジヒドロキシ化合物)
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、様々なものを挙げることができるが、特に2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、及びビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン等を挙げることができる。この他、ハイドロキノン、レゾルシン及びカテコール等を挙げることもできる。これらは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系が好ましく、特にビスフェノールAが好適である。
【0036】
(組成比)
本発明に係るポリカーボネート樹脂の組成比は、脂肪族カーボネート繰り返し単位(A)と芳香族カーボネート繰り返し単位(B)のモル比(A/B)が、好ましくは99/1~0.5/99.5である。より好ましくは95/5~20/80、さらに好ましくは95/5~40/60である。
脂肪族カーボネート繰り返し単位比率を高くすることで、アッベ数が大きくなり易く、つまり色収差の少ない領域とすることが出来る。
また、脂肪族カーボネート繰り返し単位(A)を含むものを用いることで、芳香族カーボネート繰り返し単位(B)のみからなるポリカーボネート樹脂に比べて、さらに耐傷付性、耐候性、平行光線透過率に優れたポリカーボネート樹脂成形品を得ることができる。
脂肪族カーボネート繰り返し単位(A)及び芳香族カーボネート繰り返し単位(B)を有する共重合ポリカーボネートを1種単独、または2種以上を適宜組み合わせてブレンドすることにより、所望の組成比率に調整することができる。
本発明に係るポリカーボネート樹脂の組成は、前記繰り返し単位(A)及び(B)の他に効果を失わない程度に他のジヒドロキシ化合物に由来する繰り返し単位を含有してもよい。割合としては前記繰り返し単位(A)及び(B)の合計モル数に対して10モル%以下が好ましい。前記モル比は、プロトンNMRにて測定して算出する。
【0037】
本発明に係るポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、通常10,000~50,000である。この粘度平均分子量(Mv)がこの範囲内であると、機械物性と流動性のバランスが優れている。好ましくは10,000~35,000、より好ましくは10,000~22,000である。この粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求め、次式にて算出するものである。
[η]=1.23×10-5Mv0.83
本発明に係るポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)は、前記と同様の観点から、好ましくは10,000~50,000、より好ましくは10,000~35,000である。この重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により測定される。
【0038】
本発明に係るポリカーボネート樹脂の10質量%溶液における吸光度を光路長50mmで測定した場合に、波長420nmにおける吸光度は、0.2以下であることが好ましい。前記波長420nmにおける吸光度がこの範囲内にあれば、黄変が抑制されたポリカーボネート樹脂を得ることができる。前記420nmにおける吸光度は0.15以下がより好ましく、0.12以下が更に好ましく、0.10以下がより更に好ましく、0.08以下がより更に好ましい。前記波長420nmにおける吸光度は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0039】
本発明に係るポリカーボネート樹脂の屈折率としては、特に制限は無いが、例えば、波長589.3nmの光に対して1.450以上1.590以下であることが好ましく、1.470以上1.570以下がより好ましく、1.490以上1.550以下が更に好ましい。
ポリカーボネート樹脂の波長486.1nmの光に対する屈折率(nF)と波長656.3nmの光に対する屈折率(nC)との差(nF-nC)は、0.015以下であることが好ましく、0.013以下がより好ましく、0.011以下が更に好ましい。
【0040】
本発明に係るポリカーボネート樹脂のアッベ数は、色収差を少なくする観点から、35以上が好ましく、40以上がより好ましく、44以上が更に好ましい。
【0041】
本発明に係るポリカーボネート樹脂のガラス転移温度としては、75~175℃であることが好ましく、80~170℃がより好ましく、90~165℃が更に好ましい。ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が低すぎると使用できる用途が限られてくる。高すぎると成形する際の溶融流動性に劣り、ポリマー分解が少ない温度範囲で成形できなくなる。
【0042】
(ポリカーボネート樹脂の製造)
本発明では、溶融重合法(エステル交換法)により原料モノマーを重合させることにより、ポリカーボネート樹脂が製造される(工程3)。好ましくは末端停止剤の存在下に、原料モノマーであるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換法等により反応させることにより、ポリカーボネート樹脂が製造される。
【0043】
(炭酸ジエステル)
炭酸ジエステルとしては、炭酸ジアリール化合物、炭酸ジアルキル化合物及び炭酸アルキルアリール化合物から選択される少なくとも1種の化合物である。
炭酸ジアリール化合物は、下記一般式(4)で表される化合物、又は下記一般式(5)で表される化合物である。
【化7】
【0044】
式(4)中、Ar1及びAr2はそれぞれアリール基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。
式(5)中、Ar3及びAr4はそれぞれアリール基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよく、D1は前記芳香族ジヒドロキシ化合物から水酸基2個を除いた残基を示す。
【0045】
また、炭酸ジアルキル化合物は、下記一般式(6)で表される化合物、又は下記一般式(7)で表される化合物である。
【化8】
【0046】
式(6)中、R21及びR22はそれぞれ炭素数1~20のアルキル基又は炭素数4~20のシクロアルキル基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。
式(7)中、R23及びR24はそれぞれ炭素数1~20のアルキル基又は炭素数4~20のシクロアルキル基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよく、D2は前記芳香族ジヒドロキシ化合物から水酸基2個を除いた残基を示す。
そして、炭酸アルキルアリール化合物は、下記一般式(8)で表される化合物、又は下記一般式(9)で表される化合物である。
【0047】
【0048】
式(8)中、Ar5はアリール基、R25は炭素数1~20のアルキル基又は炭素数4~20のシクロアルキル基を示す。
式(9)中、Ar6はアリール基,R26は炭素数1~20のアルキル基又は炭素数4~20のシクロアルキル基、D1は前記芳香族ジヒドロキシ化合物から水酸基2個を除いた残基を示す。
【0049】
ここで、炭酸ジアリール化合物としては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、ビス(m-クレジル)カーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ビスフェノールAビスフェニルカーボネート等が挙げられる。
また、炭酸ジアルキル化合物としては、例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート、ビスフェノールAビスメチルカーボネート等が挙げられる。
そして、炭酸アルキルアリール化合物としては、例えば、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネート、ブチルフェニルカーボネート、シクロヘキシルフェニルカーボネート、ビスフェノールAメチルフェニルカーボネート等が挙げられる。
本発明において、炭酸ジエステルとしては、上記の化合物1種又は2種以上を適宜選択して用いるが、これらの中では、ジフェニルカーボネートを用いるのが好ましい。
【0050】
炭酸ジエステルの10質量%溶液における吸光度を光路長50mmで測定した場合に、波長420nmにおける吸光度は、好ましくは0.015以下、より好ましくは0.010以下である。
【0051】
また、エステル交換法では、上記ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステル以外の原料を用いてもよい。
例えば、ジヒドロキシ化合物のジエステル類として、例えば、ビスフェノールAのジ酢酸エステル、ビスフェノールAのジプロピオン酸エステル、ビスフェノールAのジブチル酸エステル、ビスフェノールAのジ安息香酸エステル等を挙げることができる。
また、ジヒドロキシ化合物のジ炭酸エステル類として、例えば、ビスフェノールAのビスメチル炭酸エステル、ビスフェノールAのビスエチル炭酸エステル、ビスフェノールAのビスフェニル炭酸エステル等を挙げることができる。
そして、ジヒドロキシ化合物のモノ炭酸エステル類として、例えば、ビスフェノールAモノメチル炭酸エステル、ビスフェノールAモノエチル炭酸エステル、ビスフェノールAモノプロピル炭酸エステル、ビスフェノールAモノフェニル炭酸エステル等を挙げることができる。
【0052】
(末端停止剤)
ポリカーボネート樹脂の製造においては、必要に応じて末端停止剤を用いることができる。末端停止剤としては、ポリカーボネート樹脂の製造における公知の末端停止剤を用いればよく、例えば、その具体的化合物としては、フェノール、p-クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、p-tert-オクチルフェノール、p-クミルフェノール、p-ノニルフェノール、及びp-tert-アミルフェノール等の一価フェノールを挙げることができる。末端停止剤はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
(分岐剤)
本発明では、必要に応じて、分岐剤を用いることもできる。分岐剤としては、例えばフロログルシン;トリメリット酸;1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン;1-〔α-メチル-α-(4’-ヒドロキシフェニル)エチル〕-4-〔α’,α’-ビス(4”-ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン;α,α’,α”-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリイソプロピルベンゼン;イサチンビス(o-クレゾール)などが挙げられる。分岐剤は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
(エステル交換法):工程3
本発明において、ジヒドロキシ化合物、炭酸ジエステル、触媒、及び必要に応じ末端停止剤あるいは分岐剤等を用いてエステル交換反応を行い、ポリカーボネート樹脂を得ることができる。具体的には、公知のエステル交換法(溶融重合法)に準じて反応を進行させればよい。以下に、本発明の好ましい製造方法の手順及び条件を具体的に示す。
【0055】
まず、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、ジヒドロキシ化合物に対して炭酸ジエステルが0.9~1.5倍モルになるような比率でエステル交換反応する。なお、状況に応じて、0.98~1.20倍モルが好ましい。
上記のエステル交換反応に当たって、前記の一価フェノール等からなる末端停止剤の存在量が、ジヒドロキシ化合物に対して、0.05~10モル%の範囲にあると、得られるポリカーボネート樹脂の水酸基末端が封止されるため、耐熱性及び耐水性に充分優れたポリカーボネート樹脂が得られる。
末端停止剤は、予め反応系に全量添加しておいてもよく、また予め反応系に一部添加しておき、反応の進行に伴って残部を添加してもよい。さらに場合によっては、前記ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応が一部進行した後に、反応系に全量添加してもよい。
上述した通り、ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルとともに、酸化防止剤を同時に反応器に投入し、酸化防止剤存在下でエステル交換反応を行うことが好ましい。
【0056】
エステル交換反応を行うに当たって反応温度は、特に制限はなく、通常100~330℃の範囲、好ましくは180~300℃の範囲、より好ましくは200~240℃の範囲で選ばれるが、更に好ましくは、反応の進行に合わせて次第に180~300℃まで温度を上げていく方法がよい。このエステル交換反応の温度が100℃以上であれば、反応速度が速くなり、一方、330℃以下であれば、副反応が生じることなく、生成するポリカーボネート樹脂が着色するなどの問題が生じにくい。
また、反応圧力は、使用するモノマーの蒸気圧や反応温度に応じて設定される。これは、反応が効率良く行われるように設定されればよく、限定されるものではない。通常、反応初期においては、1~50atm(760~38,000torr)までの大気圧(常圧)ないし加圧状態にしておき、反応後期においては、減圧状態、好ましくは最終的には1.33~1.33×104Pa(0.01~100torr)にする場合が多い。
さらに、反応時間は、目標の分子量となるまで行えばよく、通常、0.2~10時間程度である。
【0057】
上記のエステル交換反応は、通常不活性溶剤の不存在下で行われるが、必要に応じて、得られるポリカーボネート樹脂100質量部に対して、1~150質量部の不活性溶剤の存在下において行ってもよい。不活性溶剤としては、例えば、ジフェニルエーテル、ハロゲン化ジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、ポリフェニルエーテル、ジクロロベンゼン、メチルナフタレン等の芳香族化合物;トリシクロ(5,2,10)デカン、シクロオクタン、シクロデカン等のシクロアルカンなどが挙げられる。
また、必要に応じて不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、不活性ガスとしては、例えばアルゴン、二酸化炭素、一酸化二窒素、窒素等のガス、クロロフルオロ炭化水素、エタンやプロパン等のアルカン、エチレンやプロピレン等のアルケン等、各種のものが挙げられる。
【0058】
本発明におけるエステル交換法においては重合速度を速めるために、重合触媒を用いる。かかる重合触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等の金属触媒、含窒素化合物、あるいはアリール基を含む4級ホスホニウム塩等の有機系触媒、または金属化合物を挙げることができる。これらの化合物は単独もしくは組み合わせて用いることができる。これらの中で、前記金属触媒と有機系触媒との組み合わせが好ましい。
このような重合触媒としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の、有機酸塩、無機塩、酸化物、水酸化物、水素化物、及びアルコキシド;4級アンモニウムヒドロキシド;アリール基を含む4級ホスホニウム塩等が好ましく用いられる。重合触媒は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
アルカリ金属化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二リチウム、フェニルリン酸二ナトリウム、ビスフェノールAの二ナトリウム塩、二カリウム塩、二セシウム塩、二リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、リチウム塩等が挙げられる。
【0060】
アルカリ土類金属化合物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、二酢酸マグネシウム、二酢酸カルシウム、二酢酸ストロンチウム、二酢酸バリウム等が挙げられる。
【0061】
含窒素化合物としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル、アリール基等を有する4級アンモニウムヒドロキシド類が挙げられる。また、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン等の3級アミン類、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類が挙げられる。さらに、アンモニア、テトラメチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルアンモニウムテトラフェニルボレート等の塩基あるいは塩基性塩等が挙げられる。
【0062】
金属化合物としては亜鉛アルミニウム化合物、ゲルマニウム化合物、有機スズ化合物、アンチモン化合物、マンガン化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物等が挙げられる。
【0063】
アリール基を含む4級ホスホニウム塩の具体例としては、例えばテトラフェニルホスホニウムヒドロキシド、テトラナフチルホスホニウムヒドロキシド、テトラ(クロロフェニル)ホスホニウムヒドロキシド、テトラ(ビフェニル)ホスホニウムヒドロキシド、テトラトリルホスホニウムヒドロキシド、テトラメチルホスホニウムヒドロキシド、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド等のテトラ(アリール又はアルキル)ホスホニウムヒドロキシド類、テトラメチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムフェノラート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、メチルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ベンジルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ビフェニルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラトリルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムフェノレート、テトラ(p-tert-ブチルフェニル)ホスホニウムジフェニルホスフェート、トリフェニルブチルホスホニウムフェノレート、トリフェニルブチルホスホニウムテトラフェニルボレート等が挙げられる。
アリール基を含む4級ホスホニウム塩は、含窒素有機塩基性化合物と組合せることが好ましく、例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシドとテトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートとの組合せが好ましい。
【0064】
これらの重合触媒の使用量は、ジヒドロキシ化合物1モルに対し好ましくは1×10-9~1×10-2モル、好ましくは1×10-8~1×10-2モル、より好ましくは1×10-7~1×10-3モルの範囲で選ばれる。
【0065】
工程3で用いる重合触媒として、反応性及び重合条件における安定性の観点から、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物から選ばれる少なくとも1種の金属触媒が好ましく、前記金属触媒と含窒素化合物及びアリール基を含む4級ホスホニウム塩から選ばれる少なくとも1種の有機系触媒との組み合わせがより好ましい。
前記金属触媒の使用量は、原料モノマー全量に対して好ましくは2モルppm以下、より好ましくは0.5~2モルppm、更に好ましくは0.8~2モルppmであり、前記有機系触媒の使用量は、原料モノマー全量に対して好ましくは300モルppm以下、より好ましくは2.5~200モルppm、更に好ましくは5~100モルppmである。
【0066】
また、反応後期に触媒失活剤を添加することもできる。使用する触媒失活剤としては、公知の触媒失活剤が有効に使用されるが、この中でもスルホン酸のアンモニウム塩、ホスホニウム塩が好ましい。更にドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等のドデシルベンゼンスルホン酸の塩類、p-トルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩等のp-トルエンスルホン酸の塩類が好ましい。
【0067】
またスルホン酸のエステルとして、ベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸エチル、ベンゼンスルホン酸ブチル、ベンゼンスルホン酸オクチル、ベンゼンスルホン酸フェニル、p-トルエンスルホン酸メチル、p-トルエンスルホン酸エチル、p-トルエンスルホン酸ブチル、p-トルエンスルホン酸オクチル、p-トルエンスルホン酸フェニル等も好ましく用いられる。
【0068】
その中でも、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩またはp-トルエンスルホン酸ブチルが最も好ましく使用される。
これらの触媒失活剤の使用量はアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物から選ばれる少なくとも1種の重合触媒を用いた場合、その触媒1モル当たり好ましくは0.5~50モルの割合で、より好ましくは0.5~10モルの割合で、更に好ましくは0.8~5モルの割合で使用することができる。
前記でも述べたように、触媒失活剤を添加し、重合反応を終了させた後に酸化防止剤を混合することが好ましい。
【0069】
エステル交換法における反応は、連続式、およびバッチ式のいずれで行ってもよい。溶融重合に用いられる反応器は、アンカー型攪拌翼、マックスブレンド攪拌翼、もしくはヘリカルリボン型攪拌翼等を装備した縦型反応器、またはパドル翼、格子翼、もしくはメガネ翼等を装備した横型反応器のいずれでもよい。更にスクリューを装備した押出機型であってもよい。連続式の場合は、かかる反応器を適宜組み合わせて使用することが好ましい。
【0070】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記工程1~3を有する製造方法により得られた熱可塑性樹脂を含む。
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、熱可塑性樹脂が有する特性を損なわない範囲で、周知の添加剤を用いることができる。
【0071】
(添加剤)
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、用途や必要に応じて公知の添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、各種フィラー、酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、光安定剤、重合金属不活性化剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、離型剤等が挙げられる。
酸化防止剤は、熱可塑性樹脂組成物の製造時や成形時の樹脂の分解を抑制することができる。酸化防止剤として例えば、工程3の説明で例示したものを用いることができる。
各種フィラーについて以下詳述する。
【0072】
[フィラー]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に配合することができるフィラーとしては、球状フィラー、板状フィラー、繊維状フィラー等が挙げられる。
球状フィラーとしては、例えば、炭酸カルシウム、カオリン(ケイ酸アルミニウム)、シリカ、パーライト、シラスバルーン、セリサイト、ケイソウ土、亜硫酸カルシウム、焼成アルミナ、ケイ酸カルシウム、結晶ゼオライト、非晶質ゼオライト等が挙げられる。
板状フィラーとしては、例えば、タルク、マイカ、ワラストナイト等挙げられる。
繊維状フィラーとしては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、ウオラストナイトのような針状のもの、マグネシウムオキシサルフェイト、チタン酸カリウム繊維、繊維状炭酸カルシウムのような繊維状のもの等が挙げられる。
ガラス繊維としては、含アルカリガラス、低アルカリガラス、及び無アルカリガラス等を原料としたいずれをも好適に使用することができる。
これらのガラス繊維の形態は、特に制限はなく、例えば、ロービング、ミルドファイバー、及びチョップドストランド等いずれの形態のものも使用することができる。
ガラス繊維の市販品としては、CSH-3PA(日東紡績株式会社製)、T511(日本電気硝子株式会社製)、MA409C(旭ファイバーグラス株式会社製)等が挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を強化する観点から、ガラスフィラーを含むことが好ましく、ガラス繊維を含むことがより好ましい。
【0073】
(熱可塑性樹脂及びガラスフィラーの含有量)
本発明の熱可塑性樹脂組成物中に含まれるガラスフィラーの含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは5質量部以上80質量部以下で、より好ましくは10質量部以上60質量部以下、さらに好ましくは15質量部以上40質量部以下である。
前記ガラスフィラーの含有量が5質量部未満の場合、機械物性の向上が充分に得られない。また、前記ガラスフィラーの含有量が80質量部を超えると、樹脂とガラスとの接触界面が増大し、成形品の高い透明性が低下し、成形時の流動性が低下する。
【0074】
熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂である場合の組成物に含まれるガラスフィラーの量を上記の範囲にすることにより、高い透明性と良好な機械的物性とを兼ね備えた成形品が得られる。すなわち、ポリカーボネート樹脂が本来有する優れた透明性を保持したまま、ガラスフィラーを配合することによる弾性率等の強度向上や、低線膨張係数が実現できる。
【0075】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂と任意の添加剤とを混合する工程を有するものであれば特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂と任意の添加物とを混合機等を用いて混合し、溶融混練を行うことで製造できる。溶融混練は、通常用いられている方法、例えば、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ドラムタンブラー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、コニーダ、及び多軸スクリュー押出機等を用いる方法により行うことができる。溶融混練時の加熱温度は、通常150℃~300℃、好ましくは220~300℃程度の範囲で適宜選定される。
【0076】
[成形品]
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を含むものである。当該成形品は、前記熱可塑性樹脂組成物の溶融混練物、又は、溶融混練を経て得られたペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、及び発泡成形法等により製造することができる。特に、得られたペレットを用いて、射出成形法又は射出圧縮成形法により成形品を製造することが好ましい。
【0077】
成形品の厚さは用途に応じて任意に設定することができ、特に成形品の透明性が要求される場合には、0.2~4.0mmが好ましく、0.3~3.0mmがより好ましく、0.3~2.0mmがさらに好ましい。成形品の厚みが0.2mm以上であれば、反りが生じることがなく、良好な機械強度が得られる。また成形品の厚みが4.0mm以下であれば、高い透明性が得られる。
【0078】
成形品には、必要に応じてハードコート膜、防曇膜、帯電防止膜、反射防止膜の被膜を形成しても良く、2種類以上の複合被膜としてもよい。
中でも、耐候性が良好で、経時的な成形品表面の摩耗を防ぐことができることから、ハードコート膜の被膜が形成されていることが特に好ましい。ハードコート膜の材質は特に限定されず、アクリレート系ハードコート剤、シリコーン系ハードコート剤、無機系ハードコート剤等の公知の材料を用いることができる。
【0079】
ガラスフィラーを含む成形品の場合には、成形品の最表面に、ガラスフィラーの少なくとも一部分が存在することで、成形品の表面粗さが大きくなり、成形品表面での乱反射が多くなり、結果として成形品の透明性が悪化する場合がある。このため、成形品の表面粗さを小さくする方法として、成形品の最表面に樹脂の存在比率が高い層(スキン層)を形成させることにより、成形品の表面粗さを小さくする方法等がある。このスキン層を形成させる方法として、射出成形の場合には金型の温度を一般的な条件よりも高い温度にすることで、金型に接する樹脂が流動し易くし、成形品の最表面の表面粗さを小さくすることができる。また、圧縮成形の場合には、成形時の圧力を一般的な条件よりも高い圧力にすることにより、成形品の最表面の表面粗さを小さくすることができる。これらの方法を用いて、成形品の表面粗さを小さくすることにより、成形品表面での乱反射が少なくなり、ヘイズが小さくなり、結果として成形品の透明性を改善することができる。
【0080】
このようにして得られた成形品は、厚み2mmの平板に成形した際、可視光に対する全光線透過率は75%以上、かつ、ヘイズは35%以下であることが好ましい。全光線透過率は80%以上がより好ましく83%以上が更に好ましい。また、ヘイズは30%以下がより好ましく、25%以下が更に好ましい。
前記光学物性を備えた成形品は透明性に優れたものであるので、高い透明性を要求される用途において使用することができる。なお、可視光に対する全光線透過率はJIS-K7361もしくはASTM D1003に準じて測定し、ヘイズはJIS-K7105もしくはASTM D1003に準じて測定することができる。
【0081】
本発明に係るポリカーボネート樹脂を含む成形品は、透明性及び剛性、更には耐傷付性及び耐候性が必要とされる部材、例えば、1)サンルーフ、ドアバイザー、リアウィンド、サイドウィンド等の自動車用部品、2)建築用ガラス、防音壁、カーポート、サンルーム及びグレーチング類等の建築用部品、3)鉄道車両、船舶用の窓、4)テレビ、ラジオカセット、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダ、オーディオプレーヤ、DVDプレーヤー、電話器、ディスプレイ、コンピュータ、レジスター、複写機、プリンター、ファクシミリ等の各種部品、外板およびハウジングの各部品等の電気機器用部品、5)携帯電話、PDA、カメラ、スライドプロジェクター、時計、電卓、計測器、表示器機等の精密機械等のケース及びカバー類等の精密機器用部品、6)ビニールハウス、温室等の農業用部品、7)照明カバーやブラインド、インテリア器具類等の家具用部品等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、各例における特性値は、以下に示す要領に従って求めた。
【0083】
<ポリカーボネート樹脂の組成比及び末端構造>
核磁気共鳴(NMR)測定装置(日本電子株式会社製;JNM-AL500)を用いて、1H-NMRを測定し、各原料モノマーの共重合量(組成比)を算出し、ポリカーボネート樹脂の末端構造のヒドロキシル基/フェノール末端のモル比を算出した。
【0084】
<ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量>
ウベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液(濃度:g/L)の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求め、次式(Schnell式)にて粘度平均分子量(Mv)を算出した。
[η]=1.23×10-5Mv0.83
【0085】
<ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量>
重量平均分子量(Mw)は、展開溶媒としてTHF(テトラヒドロフラン)を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した。GPCは、カラムとして東ソー株式会社製TSKgel MultiporeHXL-Mを2本及びShodex KF801を1本、連結して用い、検出器に示差屈折率検出器(RI)を用いて温度40℃、流速1.0mL/分の条件で測定を行い、標準ポリスチレン換算分子量(重量平均分子量:Mw)として測定した。
【0086】
<ポリカーボネート樹脂の屈折率及びアッベ数>
アッベ屈折計(METRICON社製 MODEL 2010/M PRISM COUPLER)で、波長656.3nm(C線)、589.3nm(D線)、486.1nm(F線)の干渉フィルターを用いて、各波長の屈折率、nC、nD、nFを測定した。
測定試料は樹脂を130~220℃で圧縮成形し、厚み1mmの板を作製、測定試験片とした。
【0087】
<ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度Tg>
ポリカーボネート樹脂を用いてティー・エイ・インスツルメント(株)製の熱分析システムDSC-2910を使用して、JIS K 7121:2012に準拠して窒素雰囲気下(窒素流量:40mL/min)、昇温速度:20℃/minの条件下で測定した。
【0088】
<ポリカーボネート樹脂の溶液吸光度>
重合により得られたポリカーボネート樹脂3gをガラススクリュー管に入れ、そこへクロロホルム27gを投入する。その後、1時間程度シェーカーにて振とうし、ポリカーボネート樹脂を完全にクロロホルムに溶解させる。得られた10質量%クロロホルム溶液を光路長50mm石英ガラスセルに注ぎ込み、200~800nmの吸光度を測定する。
【0089】
実施例1
(工程1)
攪拌装置、及び蒸留器を備えた、500mLのステンレス製反応器に、原料モノマーとして、ビスフェノールA(出光興産株式会社製)38.4g、イソソルビド(ロケット・フレール社製)49.0g、トリシクロデカンジメタノール(オクセアジャパン株式会社製)65.9g、及び炭酸ジフェニル(三井化学ファイン株式会社製)183.0gを投入した。真空チューブを用い反応装置を真空ポンプと接続した。また窒素ガスを供給するため、窒素ラインを反応装置と接続した。用いた炭酸ジフェニルの10質量%溶液における吸光度を光路長50mmで測定した、波長420nmにおける吸光度は0.004であった。
室温状態で、真空ポンプのフルバキューム下、1mmHg(0.133kPa)以下へ減圧する操作と、窒素ラインを使い窒素ガスを供給しながら常圧へ復圧する操作(窒素復圧)とを3回繰り返し、反応器内部の気相部を窒素ガスで置換した。
次に、フルバキューム状態で内温を100℃に昇温し、100℃に到達した後、原料モノマーが完全に溶融するまで20rpm程度の撹拌速度で撹拌した。
【0090】
(工程2)
目視でモノマーの溶融を確認した後、上記と同様にして、窒素置換操作を3回実施した。
【0091】
(工程3)
次に、触媒として0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液(和光純薬工業株式会社製)0.1mL及びテトラエチルアンモニウムヒドロキシド20質量%水溶液(和光純薬工業株式会社製)0.08mLを反応器に投入し、撹拌回転数を150rpmにセットし、20~30分程度かけて反応器温度180℃、減圧度100mmHg(13.3kPa)まで昇温・減圧し、180℃、100mmHgに到達後、フェノール留出量が75mLとなるまで上記反応条件を保持した。フェノール留出量が75mLとなったら10~20分程度かけて反応器の内温200℃、減圧度10mmHg(1.33kPa)まで昇温・減圧し、200℃、10mmHgに到達後、フェノール留出量が130mLとなるまで上記反応条件を保持した。さらに、フェノール留出量が130mLとなったら、10~20分程度かけて反応器内を減圧度5mmHgまで減圧し、減圧度が5mmHgに到達したら、10~20分程度かけて1mmHg以下まで減圧した。その後、所定反応時間となったら窒素復圧(大気圧)し、失活剤として、p-トルエンスルホン酸ブチル(東京化成工業株式会社製)0.02mL、及びフェノール系酸化防止剤(ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、BASFジャパン株式会社製、商品名:イルガノックス1010)を原料モノマー合計に対して1,500質量ppm、及びリン系酸化防止剤(トリス-(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、BASFジャパン株式会社製、商品名:イルガフォス168)を原料モノマー合計に対して1,500質量ppmを投入し、5分以上撹拌した後、反応器内から目的のポリカーボネート共重合体(共重合PC)を得た。ポリカーボネート共重合体の重量平均分子量、波長589.3nmの光に対する屈折率(nD)、アッベ数、ガラス転移温度及び溶液吸光度(波長420nm)を測定した結果を表1に示す。
【0092】
比較例1
実施例1の(工程1)における原料モノマー溶融時に、圧力を1mmHg(133.3Pa)以下に減圧する操作を行わず、(工程1)及び(工程2)を、大気圧の窒素ガス雰囲気下で実施したこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0093】
【0094】
実施例1のポリカーボネート樹脂は、溶液吸光度が低い値となり、黄変が抑えられた。これに対し、比較例1では溶液吸光度が高い値となり、黄変が発生した。
【0095】
実施例2(実施例1の共重合PCとガラスフィラー(GF)とのコンパウンド)
二軸押出成形機(東芝機械株式会社製、TEM-37SS)を用い、シリンダー温度240℃にて実施例1で得られた共重合PC(80質量部)及び、GFとしてガラス繊維(T511:日本電気硝子株式会社製、20質量部)を混練し、熱可塑性樹脂組成物のペレット(GF-PCペレット)を作製した。このGF-PCペレットを塩化メチレンに投入して、メンブレンフィルターを用いたろ過により塩化メチレンに不溶なGFを除去した。得られる共重合PC溶液を100℃窒素気流下で乾燥させ、塩化メチレンを除去することにより共重合PCを得た。得られた共重合PCから作製したクロロホルム溶液(10質量%)の吸光度を測定すると、420nmにおける吸光度(光路長50mm)は0.11であり、黄変度が小さく良好な外観を有することを確認した。
【0096】
比較例2(比較例1の共重合PCとGFとのコンパウンド)
使用するPCを比較例1で得られたPCを使う以外は、実施例2と同様に実施した。F-PCペレットからGFを除去して得られた共重合PCから作製したクロロホルム溶液(10質量%)の吸光度を測定すると、420nmにおける吸光度(光路長50mm)は0.79であった。比較例2で得られたコンパウンドの黄変度は大きく、外観不良を引き起こすことがわかる。
【0097】
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の熱可塑性樹脂の製造方法により製造される熱可塑性樹脂は、黄変を抑制し、透明性に優れた成形品を与える。そのため、透明性等が要求される、例えば、自動車、鉄道車両、船舶及び建物等の窓、並びに自動車用、建築用、電気機器用、精密機器用、農業用及び家具用部品等として好適に用いることができる。