(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】パイロリティック窒化ホウ素及びパイロリティック窒化ホウ素の製造方法、並びにパイロリティック窒化ホウ素を用いた結晶成長装置
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20220502BHJP
C30B 33/10 20060101ALI20220502BHJP
C01B 21/064 20060101ALI20220502BHJP
C23C 16/38 20060101ALI20220502BHJP
C23C 16/54 20060101ALI20220502BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
C30B29/38 A
C30B33/10
C01B21/064 B
C23C16/38
C23C16/54
C23C16/455
(21)【出願番号】P 2017252803
(22)【出願日】2017-12-28
【審査請求日】2020-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】岡山 玲子
(72)【発明者】
【氏名】永島 徹
(72)【発明者】
【氏名】人見 達矢
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-069973(JP,A)
【文献】特表2004-523649(JP,A)
【文献】特開2007-238966(JP,A)
【文献】特開2015-013781(JP,A)
【文献】特開2016-113338(JP,A)
【文献】特開平06-219899(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0320549(US,A1)
【文献】韓国公開特許第2006-0106317(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 33/10
C01B 21/064
C23C 16/38
C23C 16/54
C23C 16/455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイロリティック窒化ホウ素の全表面積に対するラマンシフト2800~3000cm
-1にピークを有する部位の面積の比が0.01以下であるパイロリティック窒化ホウ素。
【請求項2】
熱分解CVD法で製造された窒化ホウ素の表面を硫酸と過酸化水素水の混合液に接触させることを特徴とする請求項1記載のパイロリティック窒化ホウ素の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のパイロリティック窒化ホウ素
からなる部材を
用いてなる
III族窒化物単結晶
の気相成長装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なパイロリティック窒化ホウ素およびパイロリティック窒化ホウ素の製造方法に関する。詳しくは、繰り返し結晶成長を行っても結晶への異物の付着の少ない結晶成長装置内の部材に適用可能なパイロリティック窒化ホウ素およびパイロリティック窒化ホウ素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パイロリティック窒化ホウ素(以下、「pBN」とも言う)とは、一般的には、塩化ホウ素やフッ化ホウ素等のハロゲン化ホウ素とアンモニアを原料とした熱分解CVD法により製造される。パイロリティック窒化ホウ素材料は、熱的安定性及び化学的安定性が高いこと、上記方法によって種々の形状に成形可能であることから、結晶成長装置の反応容器内の部材として広く用いられている材料である。
【0003】
結晶成長装置としては、ハイドライド気相エピタキシー(HVPE:Hydride Vapor Phase Epitaxy)法、有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、昇華(PVT:Physical Vapor Transport)法等の気相成長装置や、液体封止引き上げ(LEC:Liquid Encapsulated Czochralski)法や水平ブリッジマン(HB:Horizontal Bridgman)法等の液相成長装置等が挙げられる。また、該装置で成長する結晶としては、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、ヒ化ガリウムといったIII-V族化合物単結晶や、酸化亜鉛やセレン化亜鉛といったII-VI族化合物単結晶が挙げられる。以上のように、パイロリティック窒化ホウ素は、様々な化合物、様々な成長方法における、結晶成長装置の反応容器内の部材に用いられている。
【0004】
上記の結晶成長装置を用いた結晶製造時の課題として、結晶成長面への異物の付着がある。異物が結晶表面に付着した状態で結晶成長を行うと、付着した異物周辺における結晶成長異常による結晶欠陥の発生の要因となり、多結晶粒を形成することもある。
【0005】
ここで、結晶成長面への異物の付着は、加熱や原料ガス等の雰囲気ガスとの接触による装置部材の劣化によって、装置部材が有する元素や化合物が雰囲気中に放出されてベース基板に付着する場合や、結晶成長中に副次的に生成する結晶粒子等がベース基板に付着する場合があると考えられており、これらの異物の付着を防ぎながら、結晶成長を行う方法は種々提案されている。例えば、pBN部材の劣化の抑制としては、表面剥離厚さが制御されたpBN部材(特許文献1)や、加熱・冷却時の割れが抑制されたpBN部材(特許文献2)が提案されている。また、結晶成長中の副次反応による異物の付着の抑制としては、反応器内のガスの流れを調整することにより、気相反応で生じた粒子が結晶成長面に付着するのを防止し、高品質な単結晶を製造する方法(特許文献3)やハロゲン系ガスの供給による副反応の抑制(特許文献4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4144847号
【文献】特開2016-113338
【文献】国際公開WO2014/031119
【文献】特開2015-017030
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の方法により異物の付着の抑制がある程度達成され、多結晶粒の形成がある程度抑制された高品質な結晶が製造できるようになってきているが、本発明者らの検討により、上記対策を講じてもなお、多結晶粒の形成が完全には抑制できないことが判明した。特に、同じ結晶成長装置を用いて繰り返し結晶成長を行った際には、繰り返す回数が増加するにつれて結晶表面に多結晶粒の形成が増加すること、また、上記多結晶粒は結晶成長装置内壁面に付着している異物が結晶成長前または結晶成長中に結晶表面に飛来し、付着することに起因することが判明した。
【0008】
通常、同じ結晶成長装置を用いて繰り返し結晶成長を行う際には、結晶成長装置内の異物等を除去するため、水素ガスや窒素ガス等のキャリアガス、或いは、塩化水素ガスや塩素ガス等の酸性ガス等による加熱処理を行った後に結晶成長を行うが、かかる加熱処理によっても結晶成長装置内の異物が完全には除去できず、結晶への異物の付着を起因とした多結晶の形成が抑制できないことが判明した。すなわち本発明の目的は、結晶成長時における結晶表面への異物の付着を抑制し、多結晶粒の形成を抑制できるパイロリティック窒化ホウ素および該パイロリティック窒化ホウ素の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するため、鋭意検討を行った。まず、結晶成長装置内で使用される一般的なパイロリティック窒化ホウ素部材の表面観察を行ったところ、該表面はおおむね平滑で均一な表面を形成していたが、一部に他の領域とは異なる表面形態を示す部位が存在することが判明した。このような部位は他の領域に対し凸形状を有する場合が多く、さらに当該部位は、元素分析の結果より他の領域と比して酸素を多く含んでいること、またラマンスペクトルにおいて高波数領域にピークを有することも判明した。そしてこのようなパイロリティック窒化ホウ素を使用した結晶成長装置を用いて、例えば、窒化アルミニウム単結晶の成長を行い、成長後に、使用したパイロリティック窒化ホウ素部材の表面の元素分析を行った結果、上記異なる表面形態を示す部位に、アルミニウム及び塩素を含む異物が多く存在する傾向にあるという知見を得た。更には、上記加熱処理として塩素ガスを用いた加熱処理を行った後に、処理後のパイロリティック窒化ホウ素部材の表面の元素分析を行った結果、当該部位に塩素が存在することも分かった。
【0010】
そこで、パイロリティック窒化ホウ素表面における上記異なる表面形態を示す部位を低減し、パイロリティック窒化ホウ素表面の均一化方法についてさらに検討を進めた結果、パイロリティック窒化ホウ素表面を、硫酸と過酸化水素水の混合液と接触させることで、上記部位が消失すること、このような処理を行ったパイロリティック窒化ホウ素を用いた結晶成長装置を用いて、結晶成長を繰り返し行った結果、異物の付着が抑制され、多結晶粒の形成が抑制された結晶を安定的に製造できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。すなわち、第1の本発明は、パイロリティック窒化ホウ素の全表面積に対するラマンシフト2800~3000cm-1にピークを有する部位の面積の比が0.01以下であるパイロリティック窒化ホウ素。である。また、第2に本発明は、熱分解CVD法で製造されたパイロリティック窒化ホウ素部材の表面を硫酸と過酸化水素水の混合液に接触させることを特徴とするパイロリティック窒化ホウ素の製造方法である。さらに第3の本発明は、上記第1の本発明のパイロリティック窒化ホウ素からなる部材を用いてなるIII族窒化物単結晶の気相結晶成長装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のパイロリティック窒化ホウ素は、均一な表面を有するパイロリティック窒化ホウ素である。
【0012】
このような本発明のパイロリティック窒化ホウ素を用いた結晶成長装置を用いて、結晶成長を行うことにより、成長時における結晶への異物の飛来及び付着を抑制することができる。このため、多結晶粒が非常に少ない結晶を製造することができる。特に同じ結晶成長装置を用いて繰り返し結晶成長する際においても成長回数を重ねても安定的に結晶表面への異物の付着を防止することができるため、安定的に多結晶粒が非常に少ない結晶を製造することができる。従って、得られた結晶は、研磨加工時にピット(窪み)や貫通孔を形成することがないため、該結晶上に半導体素子層を積層させる際に、均一に積層させることが可能であり、素子層を形成したウェハを製造した後、該ウェハを切断してチップとした際、該チップの歩留まりを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のパイロリティック窒化ホウ素を用いた横型結晶成長装置の一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(パイロリティック窒化ホウ素)
本発明のパイロリティック窒化ホウ素は、該パイロリティック窒化ホウ素表面積に対するラマンシフト2800~3000cm-1にピークを有する部位の面積比が0.01以下である、均一な表面を有することが特徴である。上記のとおり、パイロリティック窒化ホウ素は熱分解CVD法によって製造されるが、一部に他の領域とは表面形態が異なる部位を有する場合がある。このような部位は幅数μm~数100μm(ほとんどは幅数10μm)で、他の領域に対し凸形状を有する場合が多い。該部位は、通常の熱分解CVD法によって製造されるパイロリティック窒化ホウ素表面に点在しており、該部材表面積に対しておよそ5~15%の面積(面積比0.05~0.15)を占める。結晶成長後にこのような部位に異物が存在しやすい理由について詳細には不明ではあるが、本発明者らは以下のとおり推測している。すなわち、上記異なる表面形態の部位において、高波数領域にピークを有すること、また元素分析の結果から他の領域と比して酸素を多く含んでいることから、当該部位には、酸素を含む化合物が形成しているものと推測され、他の領域と比べて反応安定性が低いと考えられる。結晶成長の際に当該部位表面を、反応性ガスが流通することにより、当該部位と反応性ガスが反応して反応性ガスが何らかの化合物として表面に付着或いは吸着しているものと推測される。そして、結晶成長時には、高温で反応を行うため高温にさらされることで上記付着物が脱離し、結晶表面へ飛来、付着して結晶成長に悪影響を及ぼすものと推測される。
【0015】
一方、本発明のパイロリティック窒化ホウ素を結晶成長装置内の部材として用いた場合には、上記異物が付着しやすい部位が少ないため、成長時における結晶への異物の飛来及び付着を抑制することができる。このため、多結晶粒が非常に少ない結晶を製造することができる。特に同じ結晶成長装置を用いて繰り返し結晶成長する際においても成長回数を重ねても安定的に異物の付着を防止することができるため、安定的に多結晶粒が非常に少ない結晶を製造することができる。
【0016】
本発明のパイロリティック窒化ホウ素において、ラマンシフト2800~3000cm-1にピークを有する部位の割合が少ないほど、異物の付着が抑制されるため、当該部位は、パイロリティック窒化ホウ素表面の面積に対する面積比が0.005以下であることがより好ましい。
【0017】
(パイロリティック窒化ホウ素の製造方法)
本発明のパイロリティック窒化ホウ素は、公知の技術を用いて製造したパイロリティック窒化ホウ素を、硫酸と過酸化水素水の混合液と接触させることで製造できる。公知の技術とは、例えば、アンモニアとハロゲン化ホウ素を原料として熱分解CVD法にて黒鉛基材の上に析出させる技術が挙げられる。ハロゲン化ホウ素には、塩化ホウ素やフッ化ホウ素が用いられる。特許文献1および特許文献2に記載の通り、pBN成長中にカーボンを含むガスや酸素を含むガスを供給することもできる。また、該pBN部材は、黒鉛基材から離型せずに、黒鉛基材をpBNでコーティングした状態であってもよいし、黒鉛基材から離型してpBNのみからなる部材であっても良い。ただし、本発明においては、水溶液との接触工程を含むため、吸水したまま加熱するとガス化しやすい黒鉛部材から離型したpBNのみからなる部材であることが好ましい。
【0018】
本発明のパイロリティック窒化ホウ素は、上記熱分解CVD法で製造された窒化ホウ素部材の表面を硫酸と過酸化水素水の混合液に接触させることにより製造することができる。該混合液の組成、pBN部材との接触温度および接触時間は、上記部位が除去されれば特に制限されることはないが、混合液の組成としては約98%濃硫酸と約30%の過酸化水素水が1:1~100:1の範囲内であることが好ましく、2:1~10:1の範囲内であることがさらに好ましい。接触温度は、50℃~200℃が好ましく、より好ましくは70℃~180℃、さらに好ましくは90℃~130℃の範囲である。接触時間としては1分から120分の範囲が好ましく、5分以上30分以下であることがさらに好ましい。
【0019】
上記混合液を接触させたpBN部材を結晶成長装置に用いる場合には、該混合液成分がpBN部材表面に残らないように、純水または超純水でリンスすることが好ましく、結晶成長の前に水素ガスや窒素ガス等のキャリアガスを流通した状態で加熱することが好ましい。
【0020】
なお、後述する結晶成長を繰り返し行った場合には、反応管中に飛来する粒子の衝突や、表面における化学反応等によって、パイロリティック窒化ホウ素表面中に裂傷が生じ、裂け目よりラマンシフト2800~3000cm-1にピークを有する部位が露出する場合がある。かかる場合には、再度上記硫酸と過酸化水素水の混合液と接触させることで、露出した表面を均一化することができるため好ましい。
【0021】
(pBN部材の表面分析)
pBN部材の表面形状は、光学顕微鏡で行うことができる。特に、表面の凹凸が観察しやすい、ノマルスキー型微分干渉顕微鏡を使用することが好ましい。pBN部材表面の平滑な領域に焦点を合わせた後、該領域に比べて凹凸となっている部位に焦点を合わせ、そのときのステージ作動距離を計測することで、凹凸の深さあるいは高さを得られる。
【0022】
pBN部材には、上記凸形状の部位と、その他平滑な領域が存在する。それぞれの元素組成を求めるには、エネルギー分散型元素分析(EDS)や電子線マイクロアナライザー(EPMA)を使用することができる。また、それぞれのラマンシフトを求めるには、顕微レーザーラマン分光光度計を使用することができる。BNではラマンシフト1367cm-1付近にE2gに由来するピークが存在することが分かっている。本検討により、上記異物が付着しやすい部位においてラマンシフト2800~3000cm-1にピークが発現することが分かったため、ラマンスペクトルの測定波数範囲は少なくとも1000~3300cm-1である。また、pBN部材表面に対する、ラマンシフト2800~3000cm-1にピークを有する部位の面積比を求めるには、該部材全表面を測定することが好ましいが、測定時間が長くなるため、例えば、任意の5か所においてそれぞれ0.5mm角~2mm角程度の面積内を格子状に測定すれば良い。測定時のレーザー照射面積および測定間隔は小さいほど良いが、測定時間が長くなるため、例えば、レーザー照射サイズは1μm以上5μm以下、測定間隔は1μm以上10μm以下とすれば良い。ラマンシフト2800~3000cm-1に発現するピークは強度がE2gのピークに比べて弱いため、露光時間は10秒以上240秒以下で適宜測定すれば良い。
【0023】
(パイロリティック窒化ホウ素を用いた結晶成長装置)
上述したとおり、本発明のパイロリティック窒化ホウ素を用いた結晶成長装置を用いて、結晶を成長することにより、単結晶の成長時における異物の付着を防止することができる。
【0024】
図1は、本発明のパイロリティック窒化ホウ素を用いた横型のIII族窒化物単結晶の気相成長装置の一例の概略図である。
図1に示す装置100は、一体型の反応管10でできており、III族源ガスを生成する原料部30、III族窒化物単結晶を成長する成長部31、キャリアガスや未反応のガスを排気する排気部34から成る。原料部においては、III族金属40を充填した原料部反応管38を原料部外部加熱手段35により加熱した状態で、原料発生用ハロゲン系ガス導入管39からハロゲン系ガスを導入することで、III族ハロゲン化物ガスが発生する。発生したIII族ハロゲン化物ガスは、追加ハロゲン系ガス導入管41から供給したハロゲン系ガスと混合されてIII族源ガス供給ノズル42から成長部31へ供給される。窒素源ガス導入管43から導入された窒素源ガスは、追加ハロゲン系ガス(窒素源ガス用)導入管44から導入されたハロゲン系ガスと混合され、窒素源ガス供給ノズル45から成長部31へ供給される。また、これら原料ガスを効率よくベース基板20上へ供給するために、押し出しキャリアガス導入部33から押し出しキャリアガスが成長部へ供給される。成長部へ供給されたIII族源ガスおよび窒素源ガスはサセプタ32上に設置されたベース基板20上で反応し、III族窒化物単結晶が成長する。このとき、サセプタ32は局所加熱手段37により加熱され、成長部31内の部材は成長部外部加熱手段36により加熱される。
【0025】
ここで、本発明のパイロリティック窒化ホウ素は上記装置における原料部反応管38内の材料の一部または全部として好適に用いることができる。例えば、塩化アルミニウムガスをIII族原料ガスとして用いる窒化アルミニウム単結晶の成長装置においては、成長装置内の部材として一般的に使用される石英を用いると、サセプタを高温にした際に石英が劣化すること、および、石英と一塩化アルミニウムガスが接触したときに石英が劣化することから、高温となるサセプタ32およびサセプタ32周辺の部材や、一塩化アルミニウムガスと接触しやすい原料部反応管38をパイロリティックホウ素とすることが好ましい。
【0026】
上記本発明の結晶成長装置は、前述のとおり異物が付着しやすい部位が少ないため、成長時における結晶への異物の飛来及び付着を抑制することができ、多結晶粒が非常に少ない結晶を製造することができる。従って本発明の結晶成長装置は種々の結晶の成長装置として好適に用いることができる。特に高温下で気相成長を行う場合に異物の付着が生じやすい傾向にあるため、窒化アルミニウム単結晶や窒化アルミニウムガリウム等のアルミニウムを含むアルミニウム系III族窒化物単結晶の結晶成長に特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を上げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、pBN部材表面の分析に関しては、結晶装置内に用いるpBN部材と同様の方法で製造した10mm角のpBN板材を分析した。
【0028】
pBN部材表面の形態、元素組成、ラマンスペクトル、部材表面積に対するラマンシフト2800~3000cm-1にピークを有する部位の面積比および、pBN部材を用いた結晶装置で成長した窒化アルミニウム単結晶の多結晶粒の数は、以下の方法で測定した。
【0029】
(pBN部材表面の形態)
ノマルスキー型微分干渉顕微鏡(ニコン製LV150)を使用した。pBN部材表面の平滑な領域に焦点を合わせた後、凸部の頂点に焦点を合わせ、そのときのステージ作動距離を凸部の高さとした。
【0030】
(pBN部材表面の元素組成)
エネルギー分散型元素分析(EDS)が搭載された走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製S-3400N)を使用した。加速電圧を15kV、プローブ電流60μAとして、分析箇所に電子線を照射し、エネルギー分散型元素スペクトルの収集には積算時間30秒として行った。
【0031】
(pBN部材表面のラマンスペクトル)
顕微レーザーラマン分光光度計(日本分光製NRD-7100)を使用した。励起レーザーとして波長532nmのレーザーを使用し、φ25μmのスリットと、600本/mmのグレーティングを使用した。励起レーザー出力は10.8mWとして100倍の対物レンズを用いて測定スポットを直径約1μmに集光する設定とした。露光時間0.5秒、積算回数2回として、シリコン基板にレーザーを照射し、シリコン基板のラマンシフト520.5cm-1により波数を校正した。次に、20倍の対物レンズを用いて測定スポットを直径約4μmに集光する設定とし、露光時間30秒、積算回数2回として、励起レーザーを分析箇所に照射して局所的なラマンスペクトルを測定した。測定波数範囲は100~4000cm-1とした。
【0032】
(pBN部材表面積に対するラマンシフト2800~3000cm-1にピークを有する部位の面積比)
上記ラマンシフトの測定方法と同様の方法で、4μm間隔で0.5mm×0.5mmの範囲を格子状に測定し、全15876点のラマンスペクトルを得た。さらに、pBN部材の任意の5箇所において同測定を行い、計79380点のラマンスペクトルを得た。得られたすべてのラマンスペクトルに対して、1220~1520cm-1をベースラインの端部としてBNのE2gピークの面積(面積1)を算出し、2750~3050cm-1をベースラインの端部として上記部位が有するラマンシフト2800~3000cm-1に存在する特異なピークの面積(面積2)を算出した。面積1に対する面積2の比の値(面積2/面積1)を算出した。全測定点の数に対する、該比の値が0.03以上である測定点の数の比を算出し、これをpBN部材表面積に対するラマンシフト2800~3000cm-1にピークを有する部位の面積比とした。
【0033】
(窒化アルミニウム単結晶の多結晶粒の数)
ノマルスキー微分干渉顕微鏡(ニコン製LV150)を使用した。窒化アルミニウム単結晶表面を、観察倍率50倍~1000倍で観察した。単結晶表面に露出した不定形な凸部の個数を多結晶粒の個数としてカウントした。なお、不定形な凸部が多結晶であることは下記顕微レーザーラマン分光分析により確認した。顕微ラマン分光分析においては、上記pBN部材表面の顕微レーザーラマン分光分析と同様の条件により行った。c面を表面とした窒化アルミニウム単結晶の場合は、ラマンシフト657cm-1付近にE2
H由来のシングルピークが発現するが、多結晶であると、上記ラマンシフト657cm-1付近のピークに加え、671cm-1付近のE1(TO)由来のピークと、611cm-1付近のA1(TO)由来のピークが発現することが分かっている。不定形な凸部の頂点に焦点を当ててレーザーを照射した際に、上記3箇所のラマンシフトにピークが観察されたことから、該凸部は多結晶であることが判明した。
【0034】
比較例1
(pBN部材の表面分析)
公知の製造方法にて縦10mm、横10mm、厚さ1mmのpBN板材を製造した。該板材の表面形態を観察したところ、他の領域と比べて凸になっている部位が存在した。該部位の高さは5μmであった。該部位の表面元素組成は、B:45.8atom%、N:50.5atom%、O:3.4atom%であった。他の平滑な領域はB:46.5atom%、N:53.5atom%であった。また、該部位のピークは1367cm-1および2900cm-1に存在した。他の平滑な領域のピークは1367cm-1のみに存在した。測定点のうち、E2gのピーク面積に対するラマンシフト2800~3000cm-1のピーク面積の比の値の最大値は0.13であった。pBN部材表面積に対するラマンシフト2800~3000cm-1にピークを有する部位の面積比は0.092であった。
【0035】
(pBN部材を用いた気相成長装置を使用した窒化アルミニウム単結晶の成長)
上記pBN板材と同様の製造方法にて、
図1に示す気相成長装置100内に用いるpBN製の原料部反応管38を製造した。III族金属40としてAlペレット(純度99.9999%)を充填した原料部反応管38を、反応管10に装着した。気相成長装置100内の水分を除去するため、下記方法で空焼を行った。各ガス供給管からキャリアガスを供給しながら、原料部反応管38が400℃になるように原料部外部加熱手段35である抵抗加熱電気炉に電力を印加し、一方、成長部31側は局所加熱手段37である高周波加熱コイルに電力を印加してサセプタ32を1500℃に加熱した。設定温度に達した状態で30分間保持した後、室温まで冷却した。
【0036】
その後、窒化アルミニウム単結晶ベース基板20をサセプタ32上に設置し、気相成長装置100内の各ガス供給管からキャリアガスを流通した状態で、原料部反応管38を400℃、サセプタ32およびベース基板20を1500℃に加熱した。設定温度到達後に、原料反応管38に塩化水素ガスを供給し、原料反応管38内で生成した塩化アルミニウムガスに、追加ハロゲン系ガス導入管41を通じて供給した塩化水素ガスを混合し、得られた塩化アルミニウムガスと塩化水素ガスの混合ガスをIII族源ガス供給ノズル42を通じてベース基板20上に供給した。さらに、窒素源ガス供給ノズル45を通してアンモニアガスおよび塩化水素ガスを供給して、ベース基板20上において窒化アルミニウム単結晶の成長を開始した。ベース基板中心位置において成長速度は55μm/hで6時間成長し、膜厚330μmの窒化アルミニウム単結晶を成長した。所定時間を経過後、塩化水素ガスおよびアンモニアガスの供給を停止し、室温まで冷却し、窒化アルミニウム単結晶積層体を取り出した。上記窒化アルミニウム単結晶の成長により、成長部31のベース基板20設置個所周辺の部材には窒化アルミニウムが析出したため、該部材を、析出物のない部材と交換した。
【0037】
以降、再度上記空焼、成長、成長部の部材交換を行い、合計で5回の窒化アルミニウム単結晶の成長を行った。
【0038】
(窒化アルミニウム単結晶積層体の分析)
得られた5枚の窒化アルミニウム単結晶積層体について、多結晶粒を算出したところ、成長した順に、0個、3個、3個、4個、7個であった。
【0039】
実施例1
約98%濃硫酸と約30%過酸化水素水を4:1の割合で混合した混合液を100℃に加熱した。比較例1と同様の方法で製造されたpBN板材を該混合液に浸漬し、10分間保持した。その後、超純水で5分間リンスし、室温で乾燥させ、pBN板材を製造した。該板材の表面を分析したところ、凸となっている部位は観察されなかった。ラマン分析において、全測定点のうち、E2gのピーク面積に対するラマンシフト2800~3000cm-1のピーク面積の比の値の最大値は0.031であった。該pBN部材表面積に対するラマンシフト2800~3000cm-1にピークを有する部位の面積比は0.0008であった。
【0040】
上記pBN板材と同様の製造方法にて、
図1に示す気相成長装置内に用いるpBN製の原料部反応管38を製造し、比較例1と同様の方法で窒化アルミニウム単結晶積層体を5枚製造した。得られた5枚の窒化アルミニウム単結晶積層体について、多結晶粒を算出したところ、成長した順に、0個、0個、0個、1個、1個であった。
【符号の説明】
【0041】
100:気相成長装置(HVPE装置)
10:反応管
20:ベース基板
30:原料部
31:成長部
32:サセプタ
33:押し出しキャリアガス導入管
34:排気部
35:原料部外部加熱手段
36:成長部外部加熱手段
37:局所加熱手段
38:原料部反応管
39:原料発生用ハロゲン系ガス導入管
40:III族金属
41:追加ハロゲン系ガス導入管
42:III族源ガス供給ノズル
43:窒素源ガス導入管
44:追加ハロゲン系ガス(窒素源ガス用)導入管
45:窒素源ガス供給ノズル