(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】食肉加工用液および食肉加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 13/70 20160101AFI20220502BHJP
A23B 4/005 20060101ALI20220502BHJP
A23B 4/06 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
A23L13/70
A23B4/005
A23B4/06 501A
A23B4/06 501B
(21)【出願番号】P 2018558861
(86)(22)【出願日】2017-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2017039516
(87)【国際公開番号】W WO2018123257
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2016252496
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】河合 正悟
(72)【発明者】
【氏名】水品 亜由菜
(72)【発明者】
【氏名】小林 功
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅博
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-041011(JP,A)
【文献】特開2005-000113(JP,A)
【文献】国際公開第2012/164801(WO,A1)
【文献】特開2000-157218(JP,A)
【文献】特開2004-173572(JP,A)
【文献】国際公開第2012/111199(WO,A1)
【文献】特開2005-318871(JP,A)
【文献】特開平09-308462(JP,A)
【文献】特開平03-277250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 13/00-13/70
A23B
A23D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)
~(
C):
(A)
原料澱粉と、食用油脂および食用油脂類縁物質からなる群から選択される1種または2種以上との混合物の加熱処理物である、油脂加工澱粉
、
(B)液状油、
および
(C)α化澱粉
を含む、食肉加工用液であって、
当該食肉加工用液中の前記成分(A)の含有量が、当該食肉加工用液全体に対して2質量%以上25質量%以下であり、
当該食肉加工用液中の前記成分(B)の含有量が、当該食肉加工用液全体に対して5質量%以上60質量%以下である、食肉加工用液。
【請求項2】
前記成分(A)が、油脂加工タピオカ澱粉、油脂加工コーンスターチおよび油脂加工ワキシーコーンスターチからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1に記載の食肉加工用液。
【請求項3】
前記成分(B)の上昇融点が15℃以下である、請求項1または2に記載の食肉加工用液。
【請求項4】
前記成分(C)の冷水膨潤度が3以上40以下である、請求項
1乃至3いずれか1項に記載の食肉加工用液。
【請求項5】
請求項1乃至
4いずれか1項に記載の食肉加工用液を食肉に適用する工程を含む、食肉加工食品の製造方法。
【請求項6】
食肉加工用液を食肉に適用する前記工程が、インジェクション、タンブリング、浸漬、噴霧および塗布からなる群から選択される1または2以上の方法により前記食肉加工用液を前記食肉に適用する工程である、請求項
5に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項7】
食肉加工用液を食肉に適用する前記工程の後、前記食肉を加熱調理して前記食肉加工食品を得る工程と、
食肉加工用液を食肉に適用する前記工程の後、食肉を加熱調理する前記工程の前に前記食肉を室温保存、冷蔵保存または冷凍保存する工程、あるいは、食肉を加熱調理する前記工程の後に前記食肉加工食品を温蔵保存、室温保存、冷蔵保存または冷凍保存する工程と、
をさらに含む、請求項
5または
6に記載の食品加工食品の製造方法。
【請求項8】
前記食肉加工食品が、温蔵保存用、室温保存用、冷蔵保存用および冷凍保存用からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項
5乃至
7いずれか1項に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項9】
前記食肉が塊肉である、請求項
5乃至
8いずれか1項に記載の食肉加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉加工用液および食肉加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食肉加工食品の品質を改善しようとする技術として、特許文献1~4に記載のものがある。
特許文献1(特開2000-157218号公報)には、油脂分、α化澱粉とβ澱粉の混合物、および、乳化剤をそれぞれ特定量含む食肉加工用水中油滴型乳化液について記載されており、かかる食肉加工用水中油滴型乳化液を用いることにより、加工後の食感および加熱調理歩留に優れた食肉加工製品が得られることが記載されている。
【0003】
特許文献2(特開平9-84555号公報)には、加工澱粉と1種または2種以上の糊料を含有する食肉加工用ピックル液組成物について記載されており、かかる組成物は泡立ちが少なく分散性が良いという特性を有しており、該組成物を食肉に注入してハム等の食肉製品を製造した場合、製品の容積を大きくしながら肉に近い自然な食感を持つ食肉製品が得られることが記載されている。
【0004】
特許文献3(特開平9-308462号公報)には、ヨウ素染色されうる程度に限定分解された冷水可溶性澱粉と結晶構造を持つβ澱粉とをそれぞれ特定量含有する食肉加工ピックル用澱粉について記載されており、かかるピックル液を用いることにより、ジューシーな食感を有する製品ができることが記載されている。
【0005】
また、特許文献4(特開2004-173572号公報)には、実質的に水を含むことなく、食用油脂と澱粉からなり、澱粉が食用油脂中に均質に分散した状態で存在する肉質改良剤を、油脂含量の低い魚肉にインジェクションすることにより、優れた食感と歩留まりを有した高付加価値製品が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-157218号公報
【文献】特開平9-84555号公報
【文献】特開平9-308462号公報
【文献】特開2004-173572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1~4に記載の技術を用いても、温蔵保存、室温保存、冷蔵保存または冷凍保存した後においても柔らかくジューシーな食肉加工食品を得るとともに、食肉加工食品の歩留まりを向上させるという点において、なお改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、
以下の成分(A)~(C):
(A)原料澱粉と、食用油脂および食用油脂類縁物質からなる群から選択される1種または2種以上との混合物の加熱処理物である、油脂加工澱粉、
(B)液状油、および
(C)α化澱粉
を含む、食肉加工用液であって、
当該食肉加工用液中の前記成分(A)の含有量が、当該食肉加工用液全体に対して2質量%以上25質量%以下であり、
当該食肉加工用液中の前記成分(B)の含有量が、当該食肉加工用液全体に対して5質量%以上60質量%以下である、食肉加工用液が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、上記本発明における食肉加工用液を食肉に適用する工程を含む、食肉加工食品の製造方法が提供される。
また、本発明によれば、上記本発明における食肉加工食品の製造方法により製造される、食肉加工食品が提供される。
【0010】
なお、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた本発明の態様として有効である。
たとえば、本発明には、上記本発明における食肉加工食品を食肉に適用する工程を含む、食肉加工食品の改良方法も包含される。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明によれば、温蔵保存、室温保存、冷蔵保存または冷凍保存した後においても柔らかくジューシーな食肉加工食品を得るとともに、食肉加工食品の歩留まりを向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、各成分の具体例を挙げて説明する。なお、各成分はいずれも単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
(食肉加工用液)
本実施形態において、食肉加工用液は、以下の成分(A)および(B)を含む。
(A)油脂加工澱粉
(B)液状油
そして、本実施形態において、食肉加工用液中の成分(A)の含有量が、食肉加工用液全体に対して2質量%以上25質量%以下であり、食肉加工用液中の成分(B)の含有量が、食肉加工用液全体に対して5質量%以上60質量%以下である。
また、本実施形態における食肉加工用液は、食肉、具体的には、畜肉等の哺乳動物の肉、家禽等の鳥類の肉、魚肉等の魚介類の肉に適用される食肉加工用液である。
【0014】
(成分(A))
成分(A)は、油脂加工澱粉である。油脂加工澱粉とは、原料澱粉に食用油脂および食用油脂類縁物質からなる群から選択される1種または2種以上を添加した後、混合、加熱する操作を備えた工程を経て生産される澱粉質素材である。
【0015】
成分(A)の原料澱粉に制限はなく、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コムギ澱粉、コメ澱粉、サゴ澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、エンドウ豆澱粉およびこれらの化工澱粉、たとえばアセチル化;エーテル化;リン酸架橋化、アジピン酸架橋化などの架橋化を単独もしくは組み合わせたものなどが挙げられる。
また、成分(A)は、温蔵保存、室温保存、冷蔵保存または冷凍保存後の喫食時に柔らかくジューシーな食感を与える観点から、油脂加工タピオカ澱粉、油脂加工コーンスターチおよび油脂加工ワキシーコーンスターチからなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。なお、上記油脂加工タピオカ澱粉、油脂加工コーンスターチおよび油脂加工ワキシーコーンスターチの原料であるタピオカ澱粉、コーンスターチおよびワキシーコーンスターチは、化工澱粉であってもよい。
【0016】
また、食肉加工食品の歩留まりを向上させる観点からは、原料澱粉として、膨潤度が45以下、好ましくは40以下、より好ましくは30以下のものを用いる。なお、原料澱粉の膨潤度の下限に制限はないが、食感改良の観点からは、たとえば5以上、好ましくは10以上である。
ここで、膨潤度は、以下の方法で求められる。すなわち、原料澱粉1gを100mLの水に分散させ、80℃恒温槽内で30分加熱した後に30℃に冷却し、遠心分離(3000rpm、10分間)する。得られた沈澱を一部とり、乾熱(105℃、4時間)し、前後の質量を測定する。膨潤度は、沈澱の乾固後質量に対する乾固前質量の割合(乾固前質量/乾固後質量)として求められる。
上記範囲の膨潤度の低い澱粉は、たとえば架橋澱粉、アセチル化澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉から選択することができ、架橋澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉が好ましい。また、架橋澱粉としては、架橋タピオカ澱粉が好ましい。
【0017】
また、成分(A)の原料である食用油脂として、大豆油、ハイリノールサフラワー油等のサフラワー油、コーン油、ナタネ油、エゴマ油、アマニ油、ヒマワリ油、落花生油、綿実油、オリーブ油、コメ油、パーム油、ヤシ油、ゴマ油、椿油、茶油、カラシ油、カポック油、カヤ油、クルミ油、ケシ油などが挙げられる。
また、食用油脂類縁物質として、モノグリセリン脂肪酸エステル;ポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル;有機酸脂肪酸エステル;ショ糖脂肪酸エステル;ソルビタン脂肪酸エステル;ポリソルベート;リン脂質などが挙げられる。
【0018】
また、食用油脂として、ヨウ素価が100以上の油脂を用いることがより好ましく、さらに140以上の油脂を用いることが好ましい。このようなヨウ素価の高い油脂は加熱による酸化を受けやすく、澱粉の改質効果が高く、食肉加工食品等の食品の食感改良効果が期待できる。ヨウ素価が140以上の油脂として、具体的には、ハイリノールサフラワー油、アマニ油などが挙げられる。
【0019】
ここで、食用油脂または食用油脂類縁物質の配合量は、澱粉の改質効果をより確実に得る観点から、100質量部の原料澱粉に対して、食用油脂および食用油脂類縁物質の合計でたとえば0.005質量部以上とし、0.008質量部以上が好ましく、より好ましくは0.02質量部以上とする。また、100質量部の原料澱粉に対しての食用油脂または食用油脂類縁物質の配合量は、食感改良効果の観点から、食用油脂および食用油脂類縁物質の合計でたとえば2質量部以下とし、1.5質量部以下が好ましく、より好ましくは0.8質量部以下とする。
【0020】
また、油脂加工澱粉の製造に用いる澱粉と食用油脂の組み合わせは、柔らかくジューシーな食肉加工食品を得るとともに、食肉加工食品の歩留まりを向上させる観点から、好ましくは架橋タピオカ澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチおよびワキシーコーンスターチからなる群から選ばれる1種または2種以上と、ヨウ素価が100以上の油脂との組み合わせである。
また、油脂加工澱粉の製造に用いる食用油脂は、後述する成分(B)と同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0021】
次に、成分(A)の製造方法を説明する。
成分(A)の油脂加工澱粉の製造方法は、たとえば、以下の工程を含む:
原料澱粉に、食用油脂および食用油脂類縁物質からなる群から選択される1種または2種以上を配合して混合物を調製する工程、ならびに
混合物を調製する工程で得られた混合物を加熱処理する工程。
【0022】
ここで、混合物を調製する工程において、油脂加工澱粉の酸化臭を抑制する観点から、混合物がpH調整剤を含む構成としてもよい。
pH調整剤とは、食品に利用可能なpH調整剤であればよく、原料澱粉および食用油脂の種類に応じて選択することができるが、水への溶解性や、最終製品への味などの影響から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩;およびリン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム等のリン酸塩類;およびクエン酸3ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、コハク酸2ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、フマル酸1ナトリウム等の上記以外の有機酸塩等が好ましく、これらの一種以上を配合するのが好ましい。さらに好ましくは、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩類を一種以上用いる。
また、油脂加工澱粉の酸化臭をさらに効果的に抑制する観点からは、pH調整剤として、1質量%水溶液の25℃におけるpHが6.5以上であるものを用いることが好ましく、より好ましくは8.0以上、さらに好ましくは10以上である。
【0023】
pH調整剤の添加量は、成分(A)の酸化臭を抑制する観点から、澱粉100質量部に対して、たとえば0.005質量部以上であり、好ましくは0.02質量部以上、さらに好ましくは0.03質量部以上である。また、食肉加工食品にえぐみが生じることを抑制する観点から、pH調整剤の添加量は、澱粉100質量部に対してたとえば2質量部以下であり、好ましくは1.5質量部以下、さらに好ましくは1.2質量部以下、よりいっそう好ましくは1質量部以下である。
また、pH調整剤の添加量は、混合物のpHがたとえば6.5~10.9程度、好ましくは6.5~10.5程度となるように調整することができる。
混合物のpHは、前述の混合物を調製する工程にて得られた混合物の10質量%濃度の澱粉スラリーを調製し、このスラリーのガラス電極法によるpHの値である。
【0024】
pH調整剤は、好ましくは澱粉と油脂を混合するときに、添加する。pH調整剤の添加方法に制限はなく、塩をそのままの形で添加してもよいが、好ましくは、事前に塩類に対して、1~10倍量程度の水でpH調整剤を溶解させた後、得られた塩溶液を添加する。さらに好ましくは、100質量部の原料澱粉に対して0.1質量部以上10質量部以下の水にpH調整剤を溶解した後、添加することが好ましい。pH調整剤を事前に水溶液とすることにより、加熱による澱粉の損傷をさらに安定的に抑制できる。
なお、混合物を調製する工程におけるpH調整剤の添加順序に制限はなく、原料澱粉と食用油脂または食用油脂類縁物質を混合した後にpH調整剤を添加してもよいし、原料澱粉とpH調整剤を添加した後、食用油脂または食用油脂類縁物質を加えてもよい。好ましくは、作業性の点から、原料澱粉と食用油脂または食用油脂類縁物質を混合した後にpH調整剤を添加するのがよい。
【0025】
また、混合物を調製する工程において、混合物がタンパク質を含む構成としてもよい。
タンパク質に制限はなく、植物タンパク質、動物タンパク質等の精製物やタンパク質を含む食品素材等が挙げられる。
このうち、植物タンパク質として、たとえば小麦タンパク質、大豆タンパク質、トウモロコシタンパク質等の植物タンパク質が挙げられる。植物タンパク質を含む食品素材としては脱脂大豆粉、全脂大豆粉等が挙げられ、好ましくは脱脂大豆粉が挙げられる。
また、動物タンパク質として、卵白タンパク質、卵黄タンパク質等の卵タンパク質、ホエータンパク質、カゼイン等の乳タンパク質、血漿タンパク質、血球タンパク質等の血液タンパク質、畜肉タンパク質、魚肉タンパク質等の食肉タンパク質が挙げられ、動物タンパク質を含む食品素材としては乾燥全卵、乾燥卵白等が挙げられる。
【0026】
タンパク質の添加量は、食肉加工食品の食感のべたつきを抑制する観点から、澱粉100質量部に対して、たとえば0.1質量部以上であり、好ましくは0.5質量部以上である。また、油脂加工澱粉の分散性の低下を抑制する観点から、タンパク質の添加量は、澱粉100質量部に対してたとえば10質量部以下であり、好ましくは5質量部以下である。
【0027】
次に、混合物を加熱処理する工程について説明する。
混合物を加熱処理する工程において、混合物を調製する工程で得られた混合物を加熱することにより、油脂加工澱粉が得られる。
加熱処理については、たとえば150℃以上の高温で加熱、焙焼すると澱粉粒の損傷により、澱粉の粘度が低下し、澱粉本来の保水性が失われる懸念がある。すると、食肉加工食品に加えたときに歩留まりの減少などが生じるおそれがある。そのため、加熱処理は、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃未満の低温でおこない、より好ましくは40~110℃程度の低温で加熱処理する。こうすることにより、澱粉の損傷を押さえ、食肉改良効果がより高くなる。なお、加熱温度の下限に制限はないが、加熱期間を適度に短縮して生産性を向上させる観点から、たとえば40℃以上とする。
【0028】
加熱処理する期間は、澱粉の状態および加熱温度に応じて適宜設定され、たとえば0.5時間以上25日以下、好ましくは5時間以上20日以下であり、より好ましくは6時間以上18日以下である。
【0029】
食肉加工用液中の成分(A)の含有量は、喫食時の食肉加工食品の柔らかさおよびジューシー感を向上させる観点から、食肉加工用液全体に対して2質量%以上であり、好ましくは4質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上である。
また、食肉加工食品の歩留まりの低下を抑制する観点から、食肉加工用液中の成分(A)の含有量は、25質量%以下であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下である。
【0030】
(成分(B))
成分(B)は、液状油であり、具体的には食用の液状油である。
また、成分(B)は、具体的には、1気圧下、25℃にて液状のすなわち流動性を有する油である。成分(B)は、保存工程を含んで得られる食肉加工食品の食感改善効果を向上させる観点から、好ましくは15℃で液状である油であり、より好ましくは5℃で液状である油である。
また、成分(B)の上昇融点は、保存工程を含んで得られる食肉加工食品の食感改善効果を向上させる観点から、たとえば25℃以下であり、好ましくは15℃以下、より好ましくは5℃以下である。なお、上昇融点は、たとえば、基準油脂分析試験法2.2.4.2-1996に準じて測定することができる。
【0031】
成分(B)の具体例として、大豆油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、エゴマ油、アマニ油、ヒマワリ油、落花生油、綿実油、オリーブ油、コメ油、パーム油、ヤシ油、ゴマ油、椿油、茶油、カラシ油、カポック油、カヤ油、クルミ油、ケシ油及びこれらの水素添加油脂、分別油脂、エステル交換油脂などが挙げられ、喫食時の食肉加工食品の柔らかさおよびジューシー感を向上させる観点、および、食肉加工食品の歩留まりを向上させる観点から、大豆油、ナタネ油およびパームオレインからなる群から選択される1種または2種以上が好ましく挙げられる。
【0032】
食肉加工用液中の成分(B)の含有量は、喫食時の食肉加工食品の柔らかさおよびジューシー感を向上させる観点、および、食肉加工食品の歩留まりを向上させる観点から、食肉加工用液全体に対して5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは12質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上である。
また、食肉加工食品の食感のべたつきを抑制する観点、および油っぽさを抑制する観点から、食肉加工用液中の成分(B)の含有量は、60質量%以下であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0033】
食肉加工用液中の成分(B)の含有量に対する成分(A)の含有量の割合である(成分(A)/成分(B))は、質量比で、食肉加工用液の分離を抑制する観点から、たとえば0.05以上であり、好ましくは0.1以上である。
また、食肉加工食品の歩留まりを向上させる観点から、上記質量比(成分(A)/成分(B))は、たとえば2.0以下であり、好ましくは1.0以下である。
【0034】
また、本実施形態において、食肉加工用液は、成分(A)および(B)以外の成分を含んでもよい。
【0035】
たとえば、食肉加工用液は水を含んでもよく、水の含有量は、たとえば食肉加工用液中の水以外の成分を除いた残部とすることができる。
また、食肉加工用液中の水の含有量は、喫食時の食肉加工食品の柔らかさおよびジューシー感を向上させる観点から、食肉加工用液全体に対してたとえば15質量%以上であり、好ましくは30質量%以上である。また、上記水の含有量をたとえば40質量%以上、たとえば50質量%以上としてもよい。
また、食肉加工食品の歩留まりを向上させる観点から、食肉加工用液中の水の含有量は、93質量%以下であり、好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下、よりいっそう好ましくは75質量%以下、さらにまた好ましくは70質量%以下である。
【0036】
また、食肉加工用液は乳化液であってもよく、たとえば水中油型の乳化液であってもよいし、油中水型の乳化液であってもよい。
【0037】
(成分(C))
また、食肉加工用液は、成分(C)としてα化澱粉をさらに含んでもよい。
ここで、α化澱粉とはα化処理された澱粉であり、α化処理の方法としては、たとえばジェットクッカー処理、ドラムドライヤー処理、エクストルーダー処理等が挙げられる。なお、成分(C)のα化澱粉には、部分的にα化された澱粉も含まれる。
食肉加工用液が成分(C)を含む構成とすることにより、喫食時の食肉加工食品の柔らかさおよびジューシー感をさらに向上させることができる。また、食肉加工用液が成分(C)を含む構成とすることにより、食肉加工食品の歩留まりをさらに向上させることができる。
【0038】
成分(C)のα化度の指標としては、澱粉・関連糖質実験法、279-280頁、1986年、学会出版センターに記載される冷水膨潤度を用いることができ、具体的には以下の方法で測定される。
試料を無水換算で1g精秤し、遠心管にとり、メチルアルコール1mLで含浸させ、ガラス棒で撹拌しながら、25℃の純水を加え正確に50mLとする。ときどき振盪し、25℃で20分間放置する。25℃で30分間、4500rpmで遠心分離し、上清を傾斜して、秤量瓶にとり、蒸発乾固させ、110℃にて3時間減圧乾燥し、秤量し溶解分を求める。沈澱部分の重量をもとめ、次式で溶解度、冷水膨潤度を算出する。
溶解度(S)db%=上清乾燥重量(mg)/1000×100
冷水膨潤度=沈澱部重量(mg)/(1000×(100-S)/100)
【0039】
成分(C)の冷水膨潤度は、食肉加工食品の歩留まりを向上させる観点から、好ましくは3以上であり、より好ましくは5以上である。
また、成分(C)の冷水膨潤度の上限は喫食時の食品のべたつきを抑制する観点から、好ましくは40以下であり、より好ましくは35以下である。
【0040】
成分(C)の原料澱粉に制限はなく、たとえばコーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コムギ澱粉、コメ澱粉、サゴ澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、エンドウ豆澱粉およびこれらの化工澱粉、たとえばアセチル化、エーテル化、架橋化を単独もしくは組み合わせたものなどが挙げられる。
成分(C)の原料澱粉は、成分(A)の原料澱粉と同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0041】
食肉加工用液中の成分(C)の含有量は、喫食時の食肉加工食品の柔らかさおよびジューシー感を向上させる観点から、食肉加工用液全体に対して好ましくは0.05質量%以上であり、さらに好ましくは0.1質量%以上、よりいっそう好ましくは0.5質量%以上である。
また、食肉加工食品の歩留まりを向上させる観点から、食肉加工用液中の成分(C)の含有量は、好ましくは15質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下、よりいっそう好ましくは8質量%以下、さらにまた好ましくは4質量%以下である。
【0042】
また、食肉加工用液は、上述した成分以外の成分を含んでもよく、たとえば、砂糖、食酢、酒、食塩、醤油、胡椒、グルタミン酸ナトリウム等の調味料;乳化剤;香料;酵素製剤、アルカリ製剤、リン酸塩、タンパク質素材等の食肉改良剤等の通常食品に用いられる成分を含んでもよい。
【0043】
本実施形態においては、食肉加工用液が成分(A)および(B)を含むため、温蔵保存、室温保存、冷蔵保存または冷凍保存した後においても、喫食時に柔らかくジューシーな食肉加工食品を得ることができる。また、食肉加工用液が成分(A)および(B)を含むため、食肉加工食品の歩留まりを向上させることができる。また、たとえば、温蔵保存、室温保存、冷蔵保存または冷凍保存等の保存後の食肉加工食品の歩留まりを向上させることも可能となる。
【0044】
(食肉加工食品)
本実施形態において、食肉加工食品は、上述した本実施形態における食肉加工用液を用いて製造される。
食肉加工食品の原料である食肉の具体例として、牛、豚、羊、山羊等の哺乳動物の肉;鶏、アヒル、七面鳥、ガチョウ、鴨等の鳥類の肉;魚、エビ等の魚介類の肉が挙げられる。
使用可能な部位に制限はないが、牛肉ではバラ、かたロース、リブロース、サーロイン、ヒレ、らんぷ、ももなど、豚肉ではかたロース、ロース、ヒレ、バラ、もも、そとももなど、鶏肉ではむね、もも、ささみなどの部位に適用すると、さらに柔らかくジューシー感を付与することができる。
また、喫食時の食感改良効果を高める観点から、食肉加工食品の原料である食肉は、好ましくは塊肉である。
【0045】
本実施形態において、食肉加工食品としては、たとえば、比較的大きな塊肉をそのまま用いた製品が挙げられる。さらに具体的には、食肉加工食品として、ハム、焼豚、ローストビーフなどが挙げられる。また、食肉加工食品として、塊肉をスライス、ミンチなどにして加工、調理したものも挙げられる。かかる食肉加工食品の具体例として、焼き肉、焼き鳥、ステーキ、焼き魚、焼きエビ等の焼肉類;トンカツ、ビーフカツ、チキンカツ、唐揚げ、竜田揚げ、フライドチキン、鮭フライ、アジフライ、ホッケフライ、サバフライ、タラ等の白身魚のフライ、エビフライ等のフライ(様)食品;カレー、シチュー等の煮込み;ホッケの開き等の干物が挙げられる。
【0046】
中でも、食肉加工食品が温蔵保存後に喫食される際に、喫食時の柔らかくジューシーな食感を効果的に得る観点、および、食肉加工食品の歩留まりを向上させる観点から、食肉加工食品がフライ(様)食品であることが好ましい。
フライ(様)食品は、油中で揚げる(油ちょうする)工程を経て得られるフライ食品であってもよいし、油ちょうする工程は経ず、少量の油による焼成調理やスチーム調理で製造される、フライ食品様の食味食感を有するフライ様食品(ノンフライ食品)であってもよい。
本明細書において、フライ食品およびフライ様食品をあわせて「フライ(様)食品」と呼ぶ。
【0047】
また、本実施形態において、食肉加工食品の用途は、喫食時の食感改良効果を高める観点、および、食肉加工食品の保存後の歩留まりを向上させる観点から、温蔵保存用、室温保存用、冷蔵保存用および冷凍保存用からなる群から選択される1種または2種以上である。
また、本実施形態における食肉加工食品は、電子レンジ加熱後、喫食されるものであってもよい。
【0048】
次に、本実施形態における食肉加工食品の製造方法を説明する。
本実施形態において、食肉加工食品の製造方法は、たとえば、食肉加工用液を食肉に適用する工程を含む。
【0049】
食肉加工用液を食肉に適用する工程は、食肉加工食品における食肉加工用液の効果を高める観点から、好ましくは、インジェクション、タンブリング、浸漬、噴霧および塗布からなる群から選択される1または2以上の方法により食肉加工用液を食肉に適用する工程であり、さらに好ましくはインジェクションまたはタンブリングであり、よりいっそう好ましくはインジェクションまたは減圧条件下でのタンブリングである。
【0050】
食肉加工用液の添加量は、原料として用いる食肉の種類、大きさ、適用方法等により設定できるが、食肉加工食品における食肉加工用液の効果を高める観点から、食肉原料として用いる食肉100質量部に対して、たとえば5質量部以上であり、好ましくは10質量部以上である。
また、原料として用いる食肉の好ましい味または食感の劣化を抑制する観点から、食肉加工用液の添加量は、食肉原料として用いる食肉100質量部に対して、たとえば150質量部以下であり、好ましくは100質量部以下である。
【0051】
また、本実施形態において、食肉加工食品の製造方法は、以下の工程をさらに含んでもよい。
(加熱調理工程)食肉加工用液を食肉に適用する工程の後、食肉を加熱調理して食肉加工食品を得る工程、ならびに、
(保存工程)食肉加工用液を食肉に適用する工程の後、食肉を加熱調理する工程の前に食肉を室温保存、冷蔵保存または冷凍保存する工程、あるいは、食肉を加熱調理する工程の後に食肉加工食品を温蔵保存、室温保存、冷蔵保存または冷凍保存する工程
【0052】
加熱調理工程における加熱調理方法は、食肉加工食品の種類に応じて選択される。
たとえば、フライ(様)食品においては、加熱調理の具体例として、140℃~220℃程度の食用油中での油ちょう、油をひいたフライパンや鉄板上での加熱が挙げられる。また、オーブン等で乾熱調理、マイクロ波加熱調理(電子レンジ調理)または過熱水蒸気調理等により加熱調理をおこなってもよい。たとえば、食用油中で油ちょうする場合の油ちょう温度は、160℃~200℃程度である。
また、フライ(様)食品は、種物となる食肉に食肉加工用液を適用し、適宜衣材を被覆した後、予備油ちょう等の加熱処理工程、冷凍保存等の保存工程、再油ちょう等の再加熱工程を経て得られるものであってもよい。
【0053】
保存工程は、食肉加工用液を食肉に適用する工程の後であれば、加熱調理工程の前後のいずれにおこなわれてもよい。
温蔵における保存温度は、室温より高い温度であり、たとえば50℃以上80℃以下とすることができる。また、温蔵保存に用いられる温蔵庫として、たとえばショーケース型のケース(ホットショーケース)が挙げられる。
室温における保存温度は、たとえば10℃超50℃未満とすることができる。
冷蔵における保存温度は、たとえば0℃以上10℃以下とすることができる。
冷凍における保存温度は、たとえば-100℃以上0℃未満とすることができる。
【0054】
本実施形態において得られる食肉加工食品は、成分(A)および(B)を含む食肉加工用液が適用されたものであるため、温蔵保存後等の保存後に喫食される際にも、喫食時の食感が柔らかくジューシーなものとすることができる。
また、本実施形態において得られる食肉加工食品は、成分(A)および(B)を含む食肉加工用液が適用されたものであるため、歩留まりに優れるものである。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 以下の成分(A)および(B):
(A)油脂加工澱粉、および
(B)液状油、
を含む、食肉加工用液であって、
当該食肉加工用液中の前記成分(A)の含有量が、当該食肉加工用液全体に対して2質量%以上25質量%以下であり、
当該食肉加工用液中の前記成分(B)の含有量が、当該食肉加工用液全体に対して5質量%以上60質量%以下である、食肉加工用液。
2. 前記成分(A)が、油脂加工タピオカ澱粉、油脂加工コーンスターチおよび油脂加工ワキシーコーンスターチからなる群から選択される1種または2種以上である、1.に記載の食肉加工用液。
3. 前記成分(B)の上昇融点が15℃以下である、1.または2.に記載の食肉加工用液。
4. 成分(C):α化澱粉をさらに含む、1.乃至3.いずれか1つに記載の食肉加工用液。
5. 前記成分(C)の冷水膨潤度が3以上40以下である、4.に記載の食肉加工用液。
6. 1.乃至5.いずれか1つに記載の食肉加工用液を食肉に適用する工程を含む、食肉加工食品の製造方法。
7. 食肉加工用液を食肉に適用する前記工程が、インジェクション、タンブリング、浸漬、噴霧および塗布からなる群から選択される1または2以上の方法により前記食肉加工用液を前記食肉に適用する工程である、6.に記載の食肉加工食品の製造方法。
8. 食肉加工用液を食肉に適用する前記工程の後、前記食肉を加熱調理して前記食肉加工食品を得る工程と、
食肉加工用液を食肉に適用する前記工程の後、食肉を加熱調理する前記工程の前に前記食肉を室温保存、冷蔵保存または冷凍保存する工程、あるいは、食肉を加熱調理する前記工程の後に前記食肉加工食品を温蔵保存、室温保存、冷蔵保存または冷凍保存する工程と、
をさらに含む、6.または7.に記載の食品加工食品の製造方法。
9. 前記食肉加工食品が、温蔵保存用、室温保存用、冷蔵保存用および冷凍保存用からなる群から選択される1種または2種以上である、6.乃至8.いずれか1つに記載の食肉加工食品の製造方法。
10. 前記食肉が塊肉である、6.乃至9.いずれか1つに記載の食肉加工食品の製造方法。
【実施例】
【0055】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の趣旨はこれらに限定されるものではない。
以下の例において、断りのない場合、「%」とは、「質量%」である。また、断りのない場合、「部」とは、「質量部」である。
【0056】
(原材料)
原材料として、主に以下のものを使用した。
β澱粉:アクトボディーTP-2、株式会社J-オイルミルズ製
油脂加工澱粉1:後述する製造例1で得られた油脂加工澱粉
油脂加工澱粉2:後述する製造例2で得られた油脂加工澱粉
油脂加工澱粉3:後述する製造例3で得られた油脂加工澱粉
油脂加工澱粉4:後述する製造例4で得られた油脂加工澱粉
α化澱粉1:ジェルコールAH-F(冷水膨潤度6.5)、株式会社J-オイルミルズ製
α化澱粉2:アルファワキシースターチ(冷水膨潤度33)、株式会社J-オイルミルズ製
架橋小麦澱粉:ジェルコールWP、株式会社J-オイルミルズ製
ナタネ油:AJINOMOTOさらさらキャノーラ油(5℃で液状、上昇融点5℃以下)、株式会社J-オイルミルズ製
大豆油:大豆白絞油(5℃で液状、上昇融点5℃以下)、株式会社J-オイルミルズ製
パームオレイン:ヨウ素価67(5℃で液状、上昇融点5℃以下)、株式会社J-オイルミルズ製
乳化剤:エヌクリーマー46(オクテニルコハク酸エステル化澱粉)、イングレディオン・ジャパン株式会社製
【0057】
(製造例1)
本例では、国際公開第2012/164801号の実施例1に準じて、油脂加工澱粉を製造した。
すなわち、タピオカ架橋澱粉「アクトボディーTP-1」(膨潤度18.4、株式会社J-オイルミルズ製)100部にハイリノールサフラワー油(ヨウ素価145、株式会社J-オイルミルズ製)0.1部、炭酸ナトリウム10部に対して水30部を加えて炭酸ナトリウムを完全に溶解させた25%炭酸ナトリウム水溶液0.4部(炭酸ナトリウム当量として0.1部)を混合機(スーパーミキサー、株式会社カワタ製)で3000rpm、3分間均一に混合し、混合物(水分14.8%)を得た。この混合物を棚段式乾燥機にて、70℃14日間加熱し、油脂加工澱粉(油脂加工澱粉1)を得た。
【0058】
(製造例2)
本例では、特開2002-218920号公報の実施例1に準じて、油脂加工澱粉を製造した。
すなわち、未加工タピオカ澱粉(膨潤度23.4、株式会社J-オイルミルズ製)に対して0.1部のハイリノールサフラワー油(ヨウ素価145、株式会社J-オイルミルズ製)、および、1部のニッカミルキーS(脱脂大豆粉(蛋白質含量50質量%)、株式会社J-オイルミルズ製)を添加し、高速攪拌混合機で3分混合した。混合物の加熱前の水分含量は13.9質量%であった。その後、密閉タンクに詰めて、60℃にて3日間加熱処理した。加熱処理後の混合物の水分含量は8.2質量%であった。その後、室温まで冷却し、本例の油脂加工澱粉(油脂加工澱粉2)を得た。
なお、本例において、上述した油脂および蛋白質の添加量は、澱粉100質量部に対して添加した質量部である。
【0059】
(製造例3)
コーンスターチY(膨潤度13.0、株式会社J-オイルミルズ製)に対して0.1部のハイリノールサフラワー油(ヨウ素価145、株式会社J-オイルミルズ製)を添加し、高速攪拌混合機で3分混合した。混合物の加熱前の水分含量は12.5質量%であった。その後、70℃にて14日間加熱処理した。加熱処理後の混合物の水分含量は6.8質量%であった。その後、室温まで冷却し、本例の油脂加工澱粉(油脂加工澱粉3)を得た。
なお、本例において、上述した油脂の添加量は、澱粉100質量部に対して添加した質量部である。
【0060】
(製造例4)
ワキシーコーンスターチY(膨潤度23.7、株式会社J-オイルミルズ製)に対して0.1部のハイリノールサフラワー油(ヨウ素価145、株式会社J-オイルミルズ製)、炭酸ナトリウム10部に対して水30部を加えて炭酸ナトリウムを完全に溶解させた25%炭酸ナトリウム水溶液0.4部(炭酸ナトリウム当量として0.1部)を添加し、高速攪拌混合機で3分混合した。混合物の加熱前の水分含量は14.7質量%であった。その後、70℃にて18日間加熱処理した。加熱処理後の混合物の水分含量は6.6質量%であった。その後、室温まで冷却し、本例の油脂加工澱粉(油脂加工澱粉4)を得た。
なお、本例において、上述した油脂およびpH調整剤の添加量は、澱粉100質量部に対して添加した質量部である。
【0061】
(実施例1-1~1-3、2-1、2-2、3~10、比較例1-1~1-3、2~5)
表1~表3に示す各成分を混合して、各例の食肉加工用液を得た。得られた食肉加工用液をピックル液として用いて以下の方法で唐揚げを作製し、ホットショーケース保存後の食感および歩留まりを以下の方法で評価した。評価結果を表1~表3にあわせて示す。
【0062】
(唐揚げの作製方法)
ピックル液400gを、皮を除去し、20~30gに切断した鶏モモ肉1kgとともにロータリータンブラー(株式会社大道産業製)に入れ、600mmHgまで吸気した後、12rpm、10℃で1時間タンブリングをおこなった。
タンブリングをおこなった鶏モモ肉を一晩5℃の冷蔵庫で保存した後、小麦粉にまぶし、170~180℃に熱した植物油で5分加熱し、唐揚げを作製した。
油ちょう後、得られた唐揚げを庫内温度70℃程度(60~80℃)に設定したホットショーケース(以下、適宜「ホッター」とも呼ぶ。)内に6時間静置した。
【0063】
(評価方法)
(歩留まり)
原料に用いた鶏モモ肉の質量に対する、ホッター保管後の唐揚げの質量比(%)を算出した(原料肉:100%)。
(食感)
ホッター保管後の唐揚げのジューシーさをパネラー4名で食して評価した。
ジューシーさを5段階(1、2、3、4、5:数字が大きいほどジューシー)で評価し、平均値(n=4)を食感(ジューシーさ)の評価結果として示した。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
表1~表3より、各実施例で得られた唐揚げは、同じ表中の各比較例のものに比べて、ホッター保管後の食感がジューシーであるとともに、ホッター保管後における唐揚げの歩留まりが向上した。
また、各実施例で得られた唐揚げは、いずれも、ホッター保管後においても充分に柔らかい食感であった。
【0068】
(実施例11、12、比較例6、7)
表4に示す各成分を混合して、各例の食肉加工用液を得た。得られた食肉加工用液をピックル液として用いて以下の方法で唐揚げを作製し、冷凍保存後、電子レンジ加熱した際の食感および歩留まりを以下の方法で評価した。評価結果を表4にあわせて示す。
【0069】
(唐揚げの作製方法)
ピックル液400gを、皮を除去し、20~30gに切断した鶏モモ肉1kgとともにロータリータンブラー(株式会社大道産業製)にいれ、600mmHgまで吸気した後、12rpm、10℃で1時間タンブリングをおこなった。
タンブリングをおこなった鶏モモ肉に小麦粉をまぶし、170~180℃に熱した植物油で5分加熱し、唐揚げを作製した。作製した唐揚げを-20℃で1週間冷凍保管した。
冷凍保管後の唐揚げ4個を皿にのせ、ラップをかけずに、電子レンジで500W、1分40秒加熱した。
【0070】
(評価方法)
(歩留まり)
原料に用いた鶏モモ肉の質量に対する、電子レンジ加熱後の唐揚げの質量比(%)を算出した(原料肉:100%)。
(食感)
電子レンジ加熱後の唐揚げのジューシーさを、実施例1の評価基準に準じて、パネラー4名で食して評価した。
【0071】
【0072】
表4より、各実施例で得られた唐揚げは、各比較例のものに比べて、冷凍保存後、電子レンジ加熱した際の食感がジューシーであるとともに、電子レンジ加熱後における唐揚げの歩留まりが向上した。
また、各実施例で得られた唐揚げは、いずれも、電子レンジ加熱後においても充分に柔らかい食感であった。
【0073】
(実施例13、14、比較例8、9)
表5に示す各成分を混合して、各例の食肉加工用液を得た。得られた食肉加工用液をピックル液として用いて以下の方法で唐揚げを作製し、冷蔵保存後、温め直さずに喫食した際の食感および歩留まりを以下の方法で評価した。評価結果を表5にあわせて示す。
【0074】
(唐揚げの作製方法)
ピックル液400gを、皮を除去し、20~30gに切断した鶏モモ肉1kgとともにロータリータンブラー(株式会社大道産業製)にいれ、600mmHgまで吸気した後、12rpm、10℃で1時間タンブリングをおこなった。
タンブリングをおこなった鶏モモ肉に小麦粉をまぶし、170~180℃に熱した植物油で5分加熱し、唐揚げを作製した。作製した唐揚げを4℃で2日間保管した。
【0075】
(評価方法)
(歩留まり)
原料に用いた鶏モモ肉の質量に対する、冷蔵2日後の唐揚げの質量比(%)を算出した(原料肉:100%)。
(食感)
冷蔵2日後の唐揚げのジューシーさを、実施例1の評価基準に準じて、パネラー4名で食して評価した。
【0076】
【0077】
表5より、各実施例で得られた唐揚げは、冷蔵保存後、温め直さずに喫食した場合にも、各比較例のものに比べて、食感がジューシーであるとともに、冷蔵保存後における唐揚げの歩留まりが向上した。
また、各実施例で得られた唐揚げは、いずれも、冷蔵保存後、温め直さずに喫食した場合においても充分に柔らかい食感であった。
【0078】
(実施例15~17、比較例10)
表6に示す各成分を混合して、各例の食肉加工用液を得た。得られた食肉加工用液をピックル液として用いて以下の方法で唐揚げを作製し、ホッター保存後の食感および歩留まりを以下の方法で評価した。評価結果を表6にあわせて示す。
【0079】
(唐揚げの作製方法)
ピックル液400gを、皮を除去し、20~30gに切断した鶏モモ肉1kgとともにロータリータンブラー(株式会社大道産業製)にいれ、600mmHgまで吸気した後、12rpm、10℃で1時間タンブリングをおこなった。
タンブリングをおこなった鶏モモ肉に小麦粉をまぶし、170~180℃に熱した植物油で3分予備加熱し、-20℃で1日保存後、170~180℃に熱した植物油で3分加熱し、唐揚げを作製した。
得られた唐揚げを70℃程度(60~80℃)に設定したホッター内に6時間静置した。
【0080】
(評価方法)
(歩留まり)
原料に用いた鶏モモ肉の質量に対する、ホッター保管後の唐揚げの質量比(%)を算出した(原料肉:100%)。
(食感)
ホッター保管後の唐揚げのジューシーさを、実施例1の評価基準に準じて、パネラー4名で食して評価した。
【0081】
【0082】
表6より、各実施例で得られた唐揚げは、比較例のものに比べて、ホッター保管後の食感がジューシーであるとともに、ホッター保管後における唐揚げの歩留まりが向上した。
また、各実施例で得られた唐揚げは、いずれも、ホッター保管後においても充分に柔らかい食感であった。
【0083】
(実施例18~20、比較例11)
表7に示す各成分を混合して、各例の食肉加工用液を得た。得られた食肉加工用液をピックル液として用いて以下の方法で唐揚げを作製し、室温(25℃、以下同じ。)保存後、温め直さずに喫食した際の食感および歩留まりを以下の方法で評価した。評価結果を表7にあわせて示す。
【0084】
(唐揚げの作製方法)
ピックル液400gを、皮を除去し、20~30gに切断した鶏モモ肉1kgとともにロータリータンブラー(株式会社大道産業製)にいれ、600mmHgまで吸気した後、12rpm、10℃で1時間タンブリングをおこなった。
タンブリングをおこなった鶏モモ肉に小麦粉をまぶし、170~180℃に熱した植物油で3分予備加熱し、-20℃で1日保存後、170~180℃に熱した植物油で3分加熱し、唐揚げを作製した。
得られた唐揚げを室温にて6時間静置した。
【0085】
(評価方法)
(歩留まり)
原料に用いた鶏モモ肉の質量に対する、室温保存後の唐揚げの質量比(%)を算出した(原料肉:100%)。
(食感)
室温保存後の唐揚げのジューシーさを、実施例1の評価基準に準じて、パネラー4名で食して評価した。
【0086】
【0087】
表7より、各実施例で得られた唐揚げは、室温保存後、温め直さずに喫食した場合にも、各比較例のものに比べて、食感がジューシーであるとともに、室温保存後における唐揚げの歩留まりが向上した。
また、各実施例で得られた唐揚げは、いずれも、室温保存後、温め直さずに喫食した場合においても充分に柔らかい食感であった。
【0088】
(実施例21、比較例12)
表8に示す各成分を混合して、各例の食肉加工用液を得た。得られた食肉加工用液をピックル液として用いて以下の方法で豚カツを作製し、ホットショーケース保存後の食感および歩留まりを以下の方法で評価した。評価結果を表8にあわせて示す。
【0089】
(豚カツの作製方法)
調製したピックル液を使用して一晩流水解凍した冷凍豚ロース肉(食肉加工業者より入手)500gにインジェクター(株式会社トーニチ製、スーパーインジェクターTN-SP18)を用いて135%(肉質量の35%のピックル液の添加)インジェクションした。
インジェクション後の豚ロース肉をロータリータンブラー(株式会社大道産業製)に入れ、600mmHgまで吸気した後、12rpm、10℃で60分タンブリングをおこなった。タンブリングが終わった豚ロース肉を、ケースに入れて-18℃で一晩冷凍し、再び0℃まで解凍した後、ハムスライサー(花木製作所株式会社製)で厚さ1cm、質量80gに成型した。
このように成型された肉を-18℃の冷凍庫で一晩保存した後、小麦粉、液卵、パン粉をつけ170℃の植物油で6分フライし、豚カツを作製した。
油ちょう後、得られた豚カツを庫内温度70℃程度(60~80℃)に設定したホッター内に6時間静置した。
【0090】
(評価方法)
(歩留まり)
原料に用いた豚ロース肉の質量に対する、ホッター保管後の豚カツの質量比(%)を算出した(原料肉:100%)。
【0091】
【0092】
表8より、実施例で得られた豚カツは、比較例のものに比べて、ホッター保管後における豚カツの歩留まりが向上した。
また、実施例で得られた豚カツは、ホッター保管後においても充分に柔らかく、ジューシーな食感であった。
【0093】
この出願は、2016年12月27日に出願された日本出願特願2016-252496号を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。