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特許7065793官能化された3次元成形体を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-28
(45)【発行日】2022-05-12
(54)【発明の名称】官能化された3次元成形体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 69/02 20060101AFI20220502BHJP
   B29C 70/46 20060101ALI20220502BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
B29C69/02
B29C70/46
B29C45/14
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018568768
(86)(22)【出願日】2017-06-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-08-15
(86)【国際出願番号】 EP2017065434
(87)【国際公開番号】W WO2018001866
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-06-22
(31)【優先権主張番号】16177087.0
(32)【優先日】2016-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル カルベ
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ダルナー
(72)【発明者】
【氏名】ライナー シャイトハウアー
(72)【発明者】
【氏名】アレックス ホリスベアガー
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-127214(JP,A)
【文献】国際公開第2004/048435(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/081058(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
B29C 67/00-69/02
B29C 45/14
C08J 5/04-5/10,5/24
B29B 11/16,15/08-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程a)~d):
a)複合材を金型に装入する工程、ここで前記複合材は、少なくとも1種の繊維材料と、少なくとも1種の化合物V1と、少なくとも1種の化合物V2とを含有し、装入時の前記複合材の温度は、15~40℃の範囲にある、
b)前記複合材を前記金型内で成形して3次元成形体にする工程、
c)前記複合材または前記3次元成形体を、少なくとも1種の射出成形ポリマーを前記金型内で射出することにより官能化させる工程、および
d)前記官能化された3次元成形体を前記金型から取り出す工程、
を含む、金型内で複合材から官能化された3次元成形体を製造する方法において、
前記化合物V1およびV2が、前記金型内で架橋することで熱硬化により硬化し、前記金型の温度が、少なくとも方法工程a)およびb)で、互いに独立して80℃~180℃の範囲にあり、ここで
i)前記方法工程c)を、前記方法工程b)を実施する間に開始するか、
ii)前記方法工程c)を、前記方法工程b)が終わった後に初めて開始し、
前記射出成形ポリマーが、前記方法工程c)で前記金型に導入される際に、少なくとも160℃の温度に加熱してある
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
少なくとも1種の前記繊維材料が、天然繊維を含み、ここで前記天然繊維を、合成繊維と任意で組み合わせることができることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記化合物V1が、少なくとも1種の反応性側基を有し、前記化合物V2が、前記化合物V1の前記反応性側基と反応可能な化合物であることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記化合物V1が、アクリル酸、メタクリル酸、スチレン/アクリル酸コポリマー、スチレン/メタクリル酸コポリマー、マレイン酸系のポリマーであるか、アルカリ金属塩系のポリマーであるか、アクリル酸またはメタクリル酸エステル系のポリマーであるか、ホルムアルデヒド樹脂、ポリエステル、エポキシド樹脂またはポリウレタン系のポリマーであり、かつ/または前記化合物V2が、ポリオール、ポリアミン、ポリエポキシドまたはポリカルボン酸であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
i)前記方法工程a)およびb)における前記金型の温度が、互いに独立して、80℃~180℃であること、ならびに/または
ii)前記方法工程a)~c)における前記金型の温度が、80℃~180℃であること、ならびに/または
iii)少なくとも1種のさらなる加熱工程を、前記方法工程b)の前、前記方法工程c)の前、および/もしくは前記方法工程c)の後に実施し、ここで前記金型の温度が、80℃~180℃であること、
を特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
i)前記複合材における少なくとも1種の前記繊維材料の割合が、前記複合材の重量を基準として、少なくとも50重量%であること、ならびに/または
ii)前記複合材における前記化合物V1およびV2の割合が、前記複合材の重量を基準として合計で、最大でも70重量%であること
を特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
i)前記方法工程a)およびb)における前記金型の温度が、一定に保たれるか、5℃以下で変動すること、ならびに/または
ii)前記複合材は、前記方法工程a)による前記金型への装入時に、温度が20~30℃の範囲にあること、ならびに/または
iii)前記化合物V1の反応性側基が、酸基またはエポキシ基であること、ならびに/または
iv)前記複合材が、少なくとも1種の繊維材料、少なくとも1種の化合物V1および少なくとも1種の化合物V2のみならず、1種以上の触媒も含有すること、ならびに/または
v)前記方法工程b)における前記複合材の方法を圧縮として実施すること、ならびに/または
vi)前記方法工程c)を、前記方法工程b)が終わった後に初めて開始すること
を特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記金型が、圧縮用の金型と射出成形用金型とを組み合わせたものであることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記射出成形ポリマーが、100℃超の融点を有する高温安定性の熱可塑性樹脂であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記射出成形ポリマーは、前記射出成形ポリマーの総重量を基準として、最大でも70重量%が、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、天然繊維、ガラスビーズまたはこれらの混合物から選択される材料で強化されていることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
以下のように規定される工程a)~d):
a)前記複合材を前記金型に装入する工程、ここで前記複合材は、アクリル酸および/またはスチレン/アクリレートコポリマー系のポリマー、ポリオール、および天然繊維と合成繊維との混合物を含有し、前記複合材は、温度が15~40℃の範囲にあり、前記金型の温度が80℃~180℃である、
b)前記複合材を前記金型内で成形して3次元成形体にする工程、ここで前記金型の温度は、110℃~150℃である、
c)前記3次元成形体を、少なくとも160℃の温度に加熱した射出成形ポリマーを射出することにより前記金型内で官能化させる工程、ならびに
d)前記官能化された3次元成形体を前記金型から取り出す工程、
を含み、
アクリル酸および/またはスチレン/アクリレートコポリマー系のポリマーとポリオールとを前記金型内で反応させることにより互いに架橋させ、熱硬化により硬化させ、前記方法工程b)が終わった後に初めて前記方法工程c)を開始し、
ここで前記方法工程b)の後かつ前記方法工程c)の前に、または前記方法工程c)の間に、さらなる熱処理工程を実施し、ここで前記複合材を、前記金型内で80℃~180℃の温度に曝すことを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型内で、少なくとも1種の繊維材料と、少なくとも1種の化合物V1と、少なくとも1種の化合物V2とを含有する複合材から、官能化された3次元成形体を製造する方法であって、化合物V1およびV2を、金型内で互いに反応させることにより架橋させ、その際、熱硬化により硬化させる、方法に関する。さらに、本発明は、官能化された3次元成形体自体、ならびにその使用、例えば自動車組立および/または家具産業におけるその使用に関する。
【0002】
天然繊維の成形体は、自動車産業において、例えばドア構造体において、装飾材用の支持材料として使用される。その公知の製造方法は、冷たい材料(例えば繊維複合材)の熱間圧縮および予熱した材料の冷間圧縮である。
【0003】
独国特許出願公開第19948664号明細書(DE-A19948664)には、射出成形用金型内で繊維マット全体にプラスチックを射出する方法が開示されており、ここで繊維マットは、その表面のうちの1つが、射出成形用金型の第一の成形型半部に接触した状態で固定され、それに引き続き、プラスチック材料が、繊維マットと、射出成形用金型の第二の成形型半部との間の空間に導入される。しかしながら、独国特許出願公開第19948664号明細書(DE-A19948664)に記載の方法では、複合材材料は成形に使用されておらず、繊維マット自体しか使用されていない。繊維マット全体に射出するのに、あらゆる任意のプラスチックが使用される可能性があり、また、どの温度で個々の方法工程が実施されるかが明白ではない。
【0004】
国際公開第2013/030103号(WO2013/030103)には、繊維強化ポリマーから成形体を製造する方法であって、以下の工程:(a)繊維構造体を成形金型に装入して、繊維構造体全体にポリマー前駆体化合物を射出する工程、または繊維構造体をポリマー前駆体化合物に浸漬し、浸漬した繊維構造体を成形金型に装入する工程、ここでポリマー前駆体化合物は、粘度が最大で2000mPa・sである、(b)ポリマー前駆体化合物を重合させてポリマーにして、成形体を製造する工程、(c)成形体が実質的に寸法安定性になるまで少なくとも重合が進行したら成形体を成形金型から取り出す工程を含む方法が開示されている。国際公開第2013/030103号(WO2013/030103)に記載の方法では、ポリマー前駆体化合物が使用され、成形金型における重合により、このポリマー前駆体化合物から熱可塑性または熱硬化性ポリマーが生成される。しかしながら、そこで使用された繊維材料が、加熱された成形金型に装入される前に、熱硬化により硬化可能な化合物をすでに備えている必要があり、それに引き続き、成形金型内で製造された3次元成形体のさらなる官能化工程が射出成形ポリマーを用いて実施されることは、どこにも開示されていない。
【0005】
国際公開第2012/116947号(WO2012/116947)には、ポリアミドマトリックス系の繊維強化された平らな半製品を製造する方法であって、以下の工程:(a)テキスタイル構造体を、溶融したラクタムと、触媒と、場合によって活性化剤とを含有する混合物に浸漬する工程、(b)浸漬したテキスタイル構造体を冷却する工程、(c)冷却したテキスタイル構造体を、繊維強化された平らな半製品に仕上げる工程を含む方法が開示されている。さらに、国際公開第2012/116947号(WO2012/116947)は、繊維強化された平らな半製品からの部材を、半製品を圧縮して金型を加熱することで製造する方法に関し、ここでラクタムが重合されてポリアミドになる。しかしながら、国際公開第2012/116947号(WO2012/116947)に記載の方法では、熱硬化により硬化可能な化合物を使用することはできない。さらにそこには、繊維強化された平らな半製品から製造された部材が射出成形ポリマーで官能化可能であることは開示されていない。
【0006】
欧州特許出願公開第2596943号明細書(EP-A2596943)には、(i)担体層としての熱架橋性繊維複合層と、(ii)カバー層としての熱可塑性繊維複合層とを含み、ここで繊維複合層(i)が、熱架橋性バインダーを硬化していない状態で含み、かつ熱可塑性カバー層(ii)が、積み重ねられて、成形プレス機内で所望の形状にされて、熱により架橋させられる、繊維複合成形体を製造する方法において、担体層と接触する成形プレス機の第一の接触面が、カバー層と接触する成形プレス機の第二の接触面よりも高い温度を有することを特徴とする方法が開示されている。しかしながら、欧州特許出願公開第2596943号明細書(EP-A2596943)には、そのように製造された繊維部材および成形体が射出成形ポリマーにより官能化可能であることはどこにも開示されていない。ここで同様に、熱架橋性繊維複合層を、すでに加熱された金型に装入する必要があることについてもあまり記載されていない。
【0007】
独国特許出願公開第102011005350号明細書(DE-A102011005350)には、熱可塑性または熱硬化性材料からの繊維強化された担体と、これと結合した、プラスチックを有する少なくとも1種の追加部材とを有する成形体を製造する装置および方法が開示されている。すなわち、独国特許出願公開第102011005350号明細書(DE-A102011005350)に記載の方法において基本的には、繊維強化された担体の成形を圧縮により行う前に、すでに硬化し終えた熱硬化性樹脂または熱可塑性材料を繊維強化された担体中で使用してもよい。使用される支持材料は基本的に、金型の外部で予熱され、それから金型に装入される。しかしながら、独国特許出願公開第102011005350号明細書(DE-A102011005350)には、すでに加熱された金型に支持材料を装入する必要があることは開示されていない。
【0008】
T.Pfefferkorn等(「Vom Laminat zum Bauteil」Kunststoffe 12/2013;Karl Hanser Verlag、Muenchen)には、連続強化された熱可塑性樹脂を製造する方法が記載されている。この方法において、ポリマーまたはポリマー前駆体化合物を含浸させた複合材試験体/ラミネートは、成形用金型の外部でまず加熱され、それに引き続き、この成形用金型(射出成形用金型)の内部で、ラミネートが成形体に成形され、得られた成形体全体に熱可塑性樹脂が射出される。
【0009】
官能化された3次元成形体を製造するさらなる方法では、圧縮された熱いままの担体に、リブおよび連結点が直接射出される。この担体用の出発材料は、熱可塑性樹脂繊維と強化繊維とから製造されるハイブリッド不織布である(http://media.daimler.com/dcmedia/0-921-614316-49-1614580-1-0-1-0-0-0-13471-0-0-1-0-0-0-0-0.html参照、ページの検索日:2014年9月17日)。しかしながら、使用された出発材料中に熱硬化により硬化可能な化合物も存在するかは、この記事からは分からない。ここでも同様に、使用された出発材料をすでに加熱された成形金型内で使用する必要があることは、あまり開示されていない。
【0010】
本発明が基づく課題は、官能化された3次元成形体を製造する新たな方法または官能化された3次元成形体自体を提供することである。
【0011】
この課題は、以下の工程a)~d):
a)複合材を金型に装入する工程、ここで複合材は、少なくとも1種の繊維材料と、少なくとも1種の化合物V1と、少なくとも1種の化合物V2とを含有し、装入時の複合材の温度は、15~40℃の範囲にある、
b)複合材を金型内で成形して3次元成形体にする工程、
c)複合材または3次元成形体を、少なくとも1種の射出成形ポリマーを金型内で射出することにより官能化させる工程、および
d)官能化された3次元成形体を金型から取り出す工程、
を含む、金型内で複合材から官能化された3次元成形体を製造する方法において、
化合物V1およびV2が、金型内で架橋することで熱硬化により硬化し、金型の温度が、少なくとも方法工程a)およびb)で、互いに独立して80℃~180℃の範囲にあり、ここで
i)方法工程c)を、方法工程b)を実施する間に開始するか、
ii)方法工程c)を、方法工程b)が終わった後に初めて開始する、
ことを特徴とする方法により解決される。
【0012】
本発明による方法の実質的な利点は、もはや使用される複合材を、従来技術において一般的なように、成形前に相応する金型の外部で加熱させる必要がないことに基づく。その代わりに、完成した複合材を、すでに予熱してある金型に直接投入する。出発材料として使用される複合材は、繊維材料だけでなく、熱硬化により硬化可能な化合物も含有するため、熱安定性が高い3次元成形体を容易に製造することができる。
【0013】
本方法を中断する必要なく、3次元成形体の成形工程に引き続きすぐに、この成形体の官能化を、少なくとも1種の射出成形ポリマーを金型内で射出することにより実施することができる。代替的には、成形工程と同時に、または成形工程の実施の間に、官能化を開始してもよい。方法工程b)およびc)の実施順序に関するこの柔軟性、ならびに場合によってこれらに関連する時間削減は、本発明による方法のさらなる利点である。最終的には、複合材の熱機械特性が上昇することで、本発明による方法により官能化された3次元成形体の熱安定性が向上する。
【0014】
これにより同時に、より単純な官能化された3次元成形体を可能にするか、同じままの重量でもより安定した官能化された3次元成形体を可能にする、より高い機械的特性値を達成することができる。
【0015】
本方法のさらなる利点は、製造コストの低下である。というのも、複数のプロセスおよび/または方法工程が1つの金型に集約されているからである。
【0016】
これにより、個々の方法工程における各中間生成物の貯蔵場所を変える必要がないため、時間(延いては経費)も削減される。
【0017】
熱硬化により硬化可能な化合物の使用におけるさらなる利点は、熱機械特性が改善されていることから生じる:この方法により製造される官能化された3次元成形体は、自動車組立および/または家具産業、殊に自動車の日射領域、例えばドア支持モジュール、パーセルシェルフ、ダッシュボードまたは窓側の肘掛けにおける使用に適している。
【0018】
それとは反対に、熱可塑性樹脂は、先に記載した適用領域においてほとんど適しておらず、比較的低い温度でしか使用することができない。殊に、例えば日射によってより大きな熱に曝される材料は、次第に変形しないように、高い融点を必要とする。
【0019】
成形方法における熱可塑性により硬化可能な材料の加工も、熱硬化性樹脂の加工とは著しく異なる。一般的に、熱可塑性樹脂系の複合材は、成形工程前に、まず溶融物になるまで予熱され、加熱されていない金型内でさらに加工され、ここで溶融物が冷却されて凝固する。熱可塑性樹脂の成形性は、熱硬化性樹脂とは異なり、温度に応じて可逆的であり得るため、熱可塑性により硬化可能な材料を製造する方法にとって、相応する金型が、離型の間に、すなわち金型から成形体を取り剥がす間に、熱可塑性樹脂の融点温度未満にあることが重要である。離型の間の温度がより高いと、熱可塑性成形体が歪み、もはやそのままの形状で金型から取り出すことはできないだろう。
【0020】
本発明の範囲において、「熱硬化性樹脂」または「熱硬化による硬化」という用語は、以下のように理解される。デュロマーとも称される熱硬化性樹脂は、相応する出発材料を(熱硬化により)硬化させることで得られる。基本的に、熱硬化性樹脂を製造するために熱硬化により硬化させることで使用される出発材料は、少なくとも2種の異なる成分を含有する。第一の成分はしばしば、ポリマーであるか、場合によって各ポリマーを形成可能な相応するモノマーである。第二の成分は、架橋剤とも称され、第一の成分と化学的に反応し、それにより、第一の成分、好適にはポリマー鎖の第一の成分を架橋する。架橋は、3次元的に行われることが好ましい。よって、熱硬化性樹脂は、硬化プロセス後に、安定した構造体を形成し、この構造体は、成形が不可能であるか、または非常に困難であり得る。
【0021】
本発明の範囲において、「熱可塑性樹脂」という用語は、以下のように理解される。プラストマーとも称される可塑性樹脂は、特定の温度範囲で成形可能(熱可塑性)なポリマープラスチックである。このプロセスは、基本的に可逆的であり、すなわち、このプロセスを、冷却と溶融状態になるまでの再加熱とにより、複数回繰り返すことができる。
【0022】
以下で、官能化された3次元成形体を、少なくとも1種の繊維材料と、少なくとも1種の化合物V1と、少なくとも1種の化合物V2とを含有する複合材から本発明により製造する方法、本発明により官能化された3次元成形体自体、ならびに本発明によるその使用をより詳細に説明する。
【0023】
本発明の第一の対象は、金型内で複合材から官能化された3次元成形体を製造する方法であって、工程a)~d)を含む方法に関連する。
【0024】
方法工程a)では、複合材を金型に装入し、ここで複合材は、少なくとも1種の繊維材料と、少なくとも1種の化合物V1と、少なくとも1種の化合物V2とを含有し、かつここで金型の温度は、80℃~180℃である。本願の範囲において、金型の温度としては、複合材と接触する金型の領域が、方法工程a)~d)に挙げられた温度範囲を有することと理解される。
【0025】
複合材(複合材料)は、当業者に公知である。複合材は、少なくとも2種の成分を含有し、好適にはその個々の成分以外の材料特性を有する。本発明によると、複合材は、少なくとも1種の繊維と、化合物V1と、化合物V2とを含有する(以下に規定)。場合によって、さらなる成分が、方法工程a)において使用される複合材中に含有されていてもよい。複合材は例えば、当業者に公知の方法によって化合物V1およびV2で繊維材料を浸漬および/または被覆することにより製造可能である。
【0026】
複合材の形状は、基本的に任意であってよく、平面状の複合材を使用することが好ましい。平面状の複合材は、2次元複合材または不織布とも称される。この文脈において、「平面状の」とは、相応する複合材が、カルテシアン座標系(x-方向、y-方向およびz-方向)の3つの空間方向を基準として、2つの空間方向(次元)において、第三の空間方向に比べて著しく大きな値を取り得ることを意味する。このような複合材は例えば、そのx-方向(長さ)およびそのy-方向(幅)において、それぞれ値が10cm~2mであってもよい。それとは反対に、このような平面状の複合材のz-方向(厚さまたは高さ)は、著しくより小さく、例えば10倍または100倍小さく、数ミリメートル~数センチメートルの範囲にあり得る。
【0027】
方法工程a)において、平面状の複合材または少なくとも1種のほぼ平面状の複合材を使用することが好ましく、繊維材料の個々の側面が達成すべき3次元の形状に合わせて裁断されている平面状の複合材を使用することが特に好ましい。
【0028】
方法工程a)において、複合材は、金型への装入前および金型への装入時のどちらにおいても、15~40℃の範囲、好ましくは20~30℃の範囲、特に好ましくは23~28℃の範囲にある温度、殊に25℃の温度を有する。
【0029】
本発明によると、基本的に当業者に公知のあらゆる繊維を繊維材料として使用することができる。繊維材料を、個別の繊維の混合物として、または繊維束として使用することができる。その際、常に同じ繊維を使用してもよいが、2種以上の異なる繊維からの混合物を使用することも可能である。このような異なる種類の繊維の例を以下に挙げる。
【0030】
少なくとも1種の繊維材料は、例えば、天然繊維、好適にはリグノセルロース含有繊維、特に好ましくは、木材からの繊維、靱皮からの繊維、花繊維またはこれらの繊維の混合物を含み得る。靱皮からの適切な繊維は、例えば、ケナフ、亜麻、ジュートまたは麻からの繊維を含むか、これらの繊維の混合物を含む。適切な花繊維は、例えば木綿を含む。
【0031】
天然繊維を、合成繊維、好適には、ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)からの繊維、PETコポリエステルからのバイコ繊維、ポリアミド(PA)からの繊維、ポリプロピレン(PP)からの繊維、またはこれらの繊維の混合物と任意で組み合わせることができる。
【0032】
本発明の範囲において、合成繊維が混ぜ込まれた天然繊維系繊維材料を使用することが好ましい。混ぜ込まれた合成繊維の割合は、繊維材料の総重量を基準として、30重量%未満、好ましくは20重量%未満であることが好ましい。
【0033】
複合材における少なくとも1種の繊維材料の割合は、複合材の重量を基準として、好適には少なくとも50重量%、特に好ましくは少なくとも60重量%、極めて特に好ましくは少なくとも70重量%である。
【0034】
本発明による複合材は、少なくとも1種の化合物V1および少なくとも1種の化合物V2をさらに含有する。化合物V1およびV2自体は、例えば欧州特許出願公開第2596943号明細書(EPA2596943)から当業者に公知である。
【0035】
本出願の範囲において、化合物V1およびV2は、熱硬化性樹脂が製造可能なあらゆる化合物(すなわち、一緒に硬化して熱硬化性樹脂を生成することができるもの)である。そのために、化合物V1は、少なくとも3つの反応性側基を有することが好ましく、化合物V2は、化合物V1の反応性側基と反応可能な少なくとも2つの反応性側基を有する化合物であることが好ましい。
【0036】
化合物V1およびV2は、互いに異なる化合物であり、すなわち、化合物V1の定義に該当する化合物は、化合物V2の定義に該当せず、逆もまた然りである。しかしながら、互いに独立して、複数(例えば、2つまたは3つ)の異なる化合物V1および/またはV2を使用してもよい。
【0037】
化合物V1およびV2の割合は、複合材中に合計で、複合材の重量を基準として、好適には最大でも70重量%、特に好ましくは最大でも50重量%、極めて特に好ましくは最大でも30重量%である。
【0038】
化合物V1は、反応性側基を有するポリマーであり、化合物V2は、化合物V1によるポリマーの反応性側基と反応可能な低分子量化合物であることがより好ましい。化合物V1の反応性側基は、酸基またはエポキシ基であることが好ましい。低分子量化合物(化合物V2によるもの)は、分子量が、200g/mol以下、殊に150g/mol以下であることが好ましい。化合物V2は、架橋剤とも称され、ポリオール、殊にトリエタノールアミン、ポリアミン、ポリエポキシドまたはポリカルボン酸であることが好ましい。
【0039】
化合物V1は、アクリル酸、メタクリル酸、スチレン/アクリル酸コポリマー、スチレン/メタクリル酸コポリマー、マレイン酸系のポリマーであるか、アルカリ金属塩系のポリマーであるか、アクリル酸またはメタクリル酸エステル系のポリマー、例えば(メタ)アクリレートおよびスチレン/(メタ)アクリレートコポリマーであるか、ホルムアルデヒド樹脂、ポリエステル、エポキシド樹脂またはポリウレタン系のポリマーであることがより好ましい。
【0040】
化合物V1は、アクリル酸/スチレン/アクリレートコポリマーであることが特に好ましい。
【0041】
好ましいホルムアルデヒド樹脂の例は、尿素-ホルムアルデヒド樹脂(UF樹脂)、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂(PF樹脂)、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂(MF樹脂)およびメラミン-尿素-ホルムアルデヒド樹脂(MUF樹脂)である。先に挙げた化合物V1、好適には先に挙げたポリマーを、分散液として、好適には水性分散液として使用してもよい。
【0042】
化合物V1およびV2を混合物として使用することがさらに好ましい。このような混合物は、結合剤またはバインダーとも称され、例えば市販では、Acrodur(登録商標)(BASF SE)として得られる。化合物V1およびV2を一緒に硬化させるか、それらの混合物を硬化させて、熱硬化性樹脂(熱硬化により成形可能なもの)にして、好適には、熱を供給しながらこれを行う。
【0043】
複合材は、少なくとも1種の繊維材料、少なくとも1種の化合物V1および少なくとも1種の化合物V2だけでなく、さらなる構成要素、好適には1種以上の触媒をさらに含有していてもよい。適切な触媒は、好適にはリン含有触媒、殊に次亜リン酸ナトリウムである。
【0044】
本発明による方法において使用される金型自体は、当業者に公知である。成形(圧縮)、加熱および射出(例えばポリアミドを用いる)のどれも行うことが可能な圧縮用の金型と射出成形用金型とを組み合わせたものが好ましい。そのために、金型は、複合材を収容するためのキャビティおよび射出成形ポリマーを収容するためのキャビティの双方を有していてもよい。このような金型は、このようなキャビティを複数有することが好ましい。複合材を装入および/または成形(方法工程a)およびb))することで、金型内のキャビティのすべてが塞がれるわけではないことが好ましい。方法工程c)において、この空いたキャビティに、射出成形ポリマーを導入することが好ましい。当業者には、このような金型は公知である。このような金型は、例えば、独国特許出願公開第102011005350号明細書(DE102011005350A1)、欧州特許出願公開第2502723号明細書(EP2502723A1)または独国特許出願公開第102012022633号明細書(DE102012022633A1)に開示されている。
【0045】
本発明の方法の金型は、射出成形ポリマーのための圧縮用の金型と射出成形用金型とを組み合わせたものであることが好ましく、本発明の方法の金型は、熱可塑性樹脂のための圧縮用の金型と射出成形用金型とを組み合わせたものであることが特に好ましい。
【0046】
方法工程a)において、金型の温度は、好適には80℃~180℃、より好ましくは85℃~120℃である。
【0047】
したがって、方法工程b)において、成形前に金型の外部で、複合材を、40℃超、より好ましくは30℃超、特に好ましくは28℃超、殊に25℃超の温度に加熱せずに、方法工程a)において複合材を、方法工程a)で複合材を装入する前に少なくとも80℃、好ましくは少なくとも85℃に加熱した金型に装入することが好ましい。
【0048】
方法工程b)において、複合材を金型内で成形して3次元成形体にする。
【0049】
成形自体は、当業者に公知である。成形とは、好適には複合材の形状が、例えば相応する複合材を完全または少なくとも部分的に曲げることで変わることを意味する。したがって、複合材の形状は、カルテシアン座標系の3つの空間方向のうちの少なくとも1つに関して変わる。方法工程b)から得られる3次元成形体の形状は、金型の形状により決まる。相応する3次元成形体のz-方向における寸法の値が、平面状の複合材の相応する値に対して、好適には少なくとも2倍高くなるように、方法工程b)において平面状の複合材を成形することが好ましい。
【0050】
金型内での複合材の成形は、複合材の圧縮であることが好ましい。圧縮自体は、当業者に公知である。
【0051】
方法工程b)において、金型の温度は、80℃~180℃の範囲にある。方法工程b)において、金型の温度は、85℃~160℃、より好ましくは90℃~120℃であることが好ましい。
【0052】
方法工程c)において、3次元成形体を、金型内で少なくとも1種の射出成形ポリマーを射出することにより官能化させる。
【0053】
官能化自体は、当業者に公知である。これは好適には、所望の要素の取り付け、例えば、安定性および強度のためのリブ、組立用補助物、マップポケットなどの取り付けと理解される。これらの要素は、複合材または複合材から形成された3次元成形体を射出することで射出成形ポリマーから得られる。方法工程c)において方法工程b)による3次元成形体を官能化することが好ましい。
【0054】
射出自体は、同様に当業者に公知である。ここで、複合材または複合材から得られた3次元成形体の表面のうち1つ以上の領域に、射出成形ポリマーから形成された要素を備えることが好ましい。適切な要素については、「官能化する」という用語の範囲においてすでに規定した。本発明の範囲において、射出は、方法工程c)において金型内に存在する空いたキャビティに射出成形ポリマーが充填されるように実施されることが好ましい。この空いたキャビティにより、複合材または複合材から得られた3次元成形体の相応する表面へと射出によって施与される要素の具体的な形状が決まる。
【0055】
方法工程c)で使用される射出成形ポリマー自体は、当業者に公知である。射出成形ポリマーは、高温安定性の熱可塑性樹脂、例えばポリアミド(PA)であることが好ましく、100℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂であることがより好ましい。熱可塑性樹脂は、ポリオキシメチレン(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド6、ポリアミド6.6、ポリアミド6.10、ポリアミド6.12、ポリアミド11またはポリアミド12から選択されることがさらにより好ましく、熱可塑性樹脂は、ポリアミド6、ポリアミド6.6、ポリアミド6.10、ポリアミド6.12、ポリアミド11またはポリアミド12から選択されることが特に好ましい。このようなポリマーは、例えばUltramid(登録商標)(BASF SE)として市販で得られる。
【0056】
射出成形ポリマーは、射出成形ポリマーの総重量を基準として、最大でも70重量%、好適には最大でも50重量%、特に好ましくは最大でも30重量%が、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、天然繊維、ガラスビーズまたはこれらの混合物から選択される材料で強化することにより、さらに改質されていてもよい。
【0057】
官能化を射出により実施するために、方法工程c)で使用される射出成形ポリマーは、金型に導入される際に基本的に溶融している。ここで射出成形ポリマーは、射出成形ポリマーを方法工程c)で金型に導入される際に、少なくとも160℃の温度、好適には少なくとも250℃の温度、特に好ましくは少なくとも300℃の温度に加熱してあることが好ましい。
【0058】
本発明による方法において、方法工程b)およびc)の順序(時間的経過)は、すでに先に言及したように、必ずしも固定されてはおらず、以下の2つの選択肢i)およびii)の範囲において選択可能である。よって、選択肢i)に従って、方法工程b)を実施する間に方法工程c)を開始しても、選択肢ii)に従って、方法工程b)が終わった後に初めて方法工程c)を開始してもよい。選択肢i)および殊にii)の双方において、官能化は、ほぼまたはすでに完全に形成された3次元成形体において行われる。
【0059】
本発明によると、方法工程b)が終わった後に初めて方法工程c)を開始することが好ましい。
【0060】
選択肢i)およびii)において、方法工程b)およびc)は同じ時間を要しても、方法工程b)が方法工程c)より長い時間を要しても、方法工程c)が方法工程b)より長い時間を要してもよい。すでに先に言及したように、場合によっては、選択肢iii)の範囲において、中間工程、好適には熱処理工程を実施してから、方法工程c)を開始してもよい。個々の方法工程b)および/またはc)の実施期間は、基本的に自由に選択可能であり、当業者に公知である。基本的に、個々の方法工程b)およびc)は、所望の事象が起こるまで、すなわち、方法工程b)において複合材の成形が完了し、方法工程c)において3次元成形体に対してその事象を意図した箇所に射出成形ポリマーが完全に備えられるまで、実施される。
【0061】
方法工程c)において、金型の温度は、方法工程b)が終わった後に初めて方法工程c)を開始する場合、基本的に任意の値を想定することができる。このケースの場合、相応する温度値は、先に方法工程b)について挙げた温度範囲の記載(好ましい値を含む)と一致していることが好ましい。方法工程b)を実施する間に方法工程c)を開始する場合、金型の温度は、方法工程b)が終わるまでどちらの方法工程においても(必然的に)同一である。方法工程b)の終了後、温度は同様に、基本的に任意の値を想定することができる。このような場合、温度を、80~160℃、特に好ましくは85~140℃、殊に90~120℃の範囲にある温度に低下させることが好ましい。
【0062】
方法工程d)において、官能化された3次元成形体を金型から取り出す。この時点で、官能化された3次元成形体は、すでに完全に硬化していることが好ましいが、場合によっては、部分的にしか硬化していない官能化された3次元成形体を方法工程d)において金型から取り出すこともできる。場合によっては、熱硬化による硬化を、金型の外側で継続してもよい。当業者には、官能化された3次元成形体を方法工程d)により金型から取り出すことは、「離型」という名称でも知られている。
【0063】
方法工程d)における金型の温度も同様に、基本的に任意の値を想定することができる。しかしながら、相応する温度値は、工程c)において選択された温度値と一致していることが好ましい。
【0064】
さらに、本発明によると、方法工程a)~d)における金型の温度は、互いに独立して変動し得る。ただし、方法工程a)~d)における温度は、一定に保たれることが好ましい。
【0065】
場合によっては、方法工程d)に引き続き、さらなる方法工程を実施してもよく、例えば、官能化された3次元成形体を所望の使用に応じて、さらに加工してもよい。
【0066】
すでに先に説明したように、化合物V1および化合物V2は、金型内で架橋することで熱硬化により硬化する(すなわち、熱硬化性樹脂が得られる)。
【0067】
ここで架橋または架橋するとは、1次元の架橋、2次元の架橋または3次元の架橋を意味し、ここで3次元の架橋が好ましい。架橋は不可逆的であるため、それにより、複合材または3次元成形体は、熱硬化により硬化する。架橋の程度は、金型内での残留期間および/または金型の温度により制御可能である。
【0068】
すでに先に言及したように、化合物V1およびV2の熱硬化による硬化は、熱を供給することで行われる。本発明によると、硬化に必要な熱は、方法工程a)、b)および/またはc)において調整される金型の温度により、複合材、または複合材から得られる3次元成形体、または官能化された3次元成形体に伝達する。
【0069】
場合によっては、各方法工程の間にさらに1回以上の中間工程を実施してもよく、ここで例えば、複合材または3次元成形体を、方法工程a)~c)に記載の金型の温度範囲に曝すが、複合材または成形体のさらなる処理、例えば、方法工程b)による成形または方法工程c)による官能化が実施されることはない。このような中間工程は、熱処理工程とも称され、場合によっては、このような熱処理工程を、方法工程c)の終了後に、引き続き行ってもよい。
【0070】
本発明によると、熱硬化による硬化は、加熱された金型に方法工程a)により複合材を装入する間にすでに、すなわち複合材が熱源と接触したらすぐに、開始/実施することが可能である。硬化がすでに方法工程a)の間に起こるか、および硬化がすでに方法工程a)の間にどの程度起こるかということは、基本的にあまり重要ではない。硬化は、調整された温度により、ならびに/または方法工程b)および/もしくはc)の実施期間により、また同様に、事前、中間もしくは事後の熱処理工程(中間工程)としても制御されることが好ましい。複合材または複合材から製造された官能化された3次元成形体は、熱硬化による硬化がほぼまたは殊に完全に完了されるまで金型内にあることが好ましい。当業者は好適には、官能化された3次元成形体がそれ以上可逆的に成形可能ではないことから、硬化プロセスが終了したことを認識する。
【0071】
本発明による方法において、
i)方法工程a)およびb)における金型の温度が、互いに独立して、80℃~180℃、好適には85℃~120℃であること、ならびに/または
ii)方法工程a)~d)における金型の温度が、80℃~180℃、好適には85℃~160℃、特に好ましくは90℃~120℃であること、ならびに/または
iii)少なくとも1種のさらなる熱処理工程を、方法工程b)の前、方法工程c)の前、および/もしくは方法工程c)の後に実施し、ここで方法工程a)~d)における金型の温度が、80℃~180℃、好適には85℃~160℃、特に好ましくは90℃~120℃であること、
が好ましい。
【0072】
本発明による方法において、方法工程a)およびb)、好適には方法工程a)~d)における金型の温度を一定に保つことがさらに好ましい。中間工程、好適には熱処理工程を1回以上実施する場合、そこでも、方法工程a)~d)と同じ一定の温度を調整することがさらに好ましい。
【0073】
本発明による方法の好ましい実施形態は、以下のように規定される工程a)~d):
a)複合材を金型に装入する工程、ここで複合材は、アクリル酸/スチレンアクリレートコポリマー、天然繊維と合成繊維との混合物、およびポリオールを含み、複合材は、温度が15~40℃の範囲にあり、金型の温度が80℃~180℃である、
b)複合材を成形して金型の3次元成形体にする工程、ここで金型の温度は、80℃~180℃である、
c)3次元成形体を、少なくとも160℃の温度に加熱した射出成形ポリマーを射出することにより金型内で官能化させる工程、ならびに
d)官能化された3次元成形体を金型から取り出す工程、
を含み、
アクリル酸および/またはスチレン/アクリレートコポリマー系のポリマーと化合物V2とを金型内で反応させることにより互いに架橋させ、熱硬化により硬化させ、方法工程b)が終わった後に初めて方法工程c)を開始し、
ここで方法工程b)の後かつ方法工程c)の前に、または方法工程c)の間に、さらなる熱処理工程を実施し、ここで複合材を、金型内で80℃~180℃の温度に曝すことを特徴とする。
【0074】
本発明のさらなる対象は、本発明による方法により得られる官能化された3次元成形体に関する。これらの官能化された3次元成形体は、自動車内部空間用の部品の形態で、または家具産業において使用可能な形態として存在することが好ましい。
【0075】
本発明のさらなる対象は、自動車組立および/または家具産業における、好適には自動車の日射領域における、特に好ましくは自動車のドア支持モジュール、パーセルシェルフ、ダッシュボードまたは窓側の肘掛けのための、本発明による方法で得られる官能化された3次元成形体の使用に関する。
【0076】
本発明によるプロセスのために設けた定義はすべて、官能化された3次元成形体およびその使用にも当てはまる。
【0077】
以下の実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例に制限されることはない。
【0078】
実施例において、以下の化合物を使用する:
Acrodur 2850X:熱可塑性硬化結合剤
Acrodur DS3515:ポリカルボン酸および架橋剤としてのポリオールにより改質された、熱硬化により硬化するスチレン/アクリレート分散液
Acrodur 950L:ポリカルボン酸および架橋剤としてのポリオールから得られた、熱硬化により硬化する溶液
Ultramid B3WG6:ポリカプロラクタム系の高温安定性の熱可塑性樹脂。
【0079】
以下の実施例を、圧縮用の金型と射出成形用金型とを組み合わせたGK Nr.10104という名称のものを備える、Kraus Maffei社のKM300-1400CSシリーズの装置内で実施した。
【0080】
60秒にわたり複合材の予熱を赤外フィールドで行い、180℃にした。
【0081】
A)熱可塑性成形体Iの製造:
面積45×45cmの不織布からの天然繊維マットに、28%のAcrodur 2850X溶液を含浸させ、このようにして得られた温度T1の複合材を、温度T2の圧縮用および射出成形用の金型に移す。複合材を2%未満の残留水分になるまで100℃で乾燥させ、170℃で30秒以内に所望の厚さ1.6~1.8mmに圧縮する。引き続き、複合材にUltramid B3WG6を射出して、官能化させる。
【0082】
実験A1~A4において、熱可塑性硬化成形体を、異なる温度T1およびT2で製造する。それらの結果は、表1にある。
【0083】
B)熱可塑性成形体IIの製造:
面積45×45cmの木材繊維マットに、20%のAcrodur 2850X溶液を含浸させ、このようにして得られた温度T1の複合材を、温度T2の圧縮用および射出成形用の金型に移す。複合材を2%未満の残留水分になるまで100℃で乾燥させ、170℃で30秒以内に所望の厚さ1.6~1.8mmに圧縮する。引き続き、複合材にUltramid B3WG6を射出して、官能化させる。
【0084】
実験B1~B4において、熱可塑性硬化成形体を、異なる温度T1およびT2で製造する。それらの結果は、表1にある。
【0085】
C)スチレン/アクリレートポリマー系の熱硬化性成形体の製造:
面積45×45cmの不織布からの天然繊維マットに、50%のAcrodur DS3515溶液を含浸させ、このようにして得られた温度T1の複合材を、温度T2の圧縮用および射出成形用の金型に移す。複合材を2%未満の残留水分になるまで100℃で乾燥させ、150℃および4barの圧力で20秒以内に所望の厚さ1.6~1.8mmに圧縮する。引き続き、複合材にUltramid B3WG6を射出して、官能化させる。
【0086】
実験C1~C4において、熱硬化性硬化成形体を、異なる温度T1およびT2で製造する。それらの結果は、表1にある。
【0087】
D)ポリカルボン酸系の熱硬化性成形体の製造:
面積45×45cmの木材繊維マットに、35%のAcrodur 950L溶液を含浸させ、このようにして得られた温度T1の複合材を、温度T2の圧縮用および射出成形用の金型に移す。複合材を2%未満の残留水分になるまで80℃で乾燥させ、150℃および5barの圧力で20秒以内に所望の厚さ1.6~1.8mmに圧縮する。引き続き、複合材にUltramid B3WG6を射出して、官能化させる。
【0088】
実験D1~D4において、熱硬化性硬化成形体を、異なる温度T1およびT2で製造する。それらの結果は、表1にある。
【0089】
E)スチレン/アクリレートポリマー系の熱硬化性成形体の製造:
面積45×45cmの不織布からの天然繊維マットに、50%のAcrodur DS3515溶液を含浸させ、このようにして得られた温度T1の複合材を、温度T2の圧縮用および射出成形用の金型に移す。複合材を2%未満の残留水分になるまで100℃で乾燥させ、110℃および4barの圧力で20秒以内に所望の厚さ1.6~1.8mmに圧縮する。引き続き、複合材にUltramid B3WG6を射出して、官能化させる。
【0090】
実験E1~E4において、熱硬化性硬化成形体を、異なる温度T1およびT2で製造する。それらの結果は、表1にある。
【0091】
F)ポリカルボン酸系の熱硬化性成形体の製造:
面積45×45cmの木材繊維マットに、35%のAcrodur 950L溶液を含浸させ、このようにして得られた温度T1の複合材を、温度T2の圧縮用および射出成形用の金型に移す。複合材を2%未満の残留水分になるまで80℃で乾燥させ、110℃および5barの圧力で20秒以内に所望の厚さ1.6~1.8mmに圧縮する。引き続き、複合材にUltramid B3WG6を射出して、官能化させる。
【0092】
実験F1~F4において、熱硬化性硬化成形体を、異なる温度T1およびT2で製造する。それらの結果は、表1にある。
【0093】
G)スチレン/アクリレートポリマー系の熱硬化性成形体の製造:
天然繊維マットに含有される繊維の20%がポリエチレンテレフタレートからの繊維である、面積45×45cmの不織布からの天然繊維マットに、50%のAcrodur DS3515溶液を含浸させ、このようにして得られた温度T1の複合材を、温度T2の圧縮用および射出成形用の金型に移す。複合材を2%未満の残留水分になるまで100℃で乾燥させ、150℃および4barの圧力で20秒以内に所望の厚さ1.6~1.8mmに圧縮する。引き続き、複合材にUltramid B3WG6を射出して、官能化させる。
【0094】
実験G1~G4において、熱硬化性硬化成形体を、異なる温度T1およびT2で製造する。それらの結果は、表1にある。
【0095】
H)ポリカルボン酸系の熱硬化性成形体の製造:
天然繊維マットに含有される繊維の20%がポリエチレンテレフタレートからの繊維である、面積45×45cmの木材繊維マットに、35%のAcrodur 950L溶液を含浸させ、このようにして得られた温度T1の複合材を、温度T2の圧縮用および射出成形用の金型に移す。複合材を2%未満の残留水分になるまで80℃で乾燥させ、150℃および5barの圧力で20秒以内に所望の厚さ1.6~1.8mmに圧縮する。引き続き、複合材にUltramid B3WG6を射出して、官能化させる。
【0096】
実験H1~H4において、熱硬化性硬化成形体を、異なる温度T1およびT2で製造する。それらの結果は、表1にある。
【0097】
複合材を装入する際の複合材の温度T1および金型の温度T2の影響は、最終製品の品質に関して決定的な役割を果たす(表1参照)。
【0098】
(V)と記された例は、比較例である。
【0099】
「予熱」と記載されている金型については、110~115℃の温度T2に予熱し、成形体の製造の間にこの温度範囲に保った。
【0100】
その成形性がさらなる要求を満たさない製品は、亀裂を有し、表1において相応して、不十分と記されている。不十分と記された製品については、その離型性をさらに調査することはない。さらに、射出成形用金型からの取り剥がしによって歪む製品は、不十分と記される。離型において不十分と記される製品については、その温度耐性をさらに調査することはない。
【0101】
結論:
熱可塑性硬化複合材(A1~A4およびB1~B4)は、金型または熱可塑性硬化複合材のどちらかを加熱した場合、金型の温度に関わらず、基本的に良好な成形性を示す。しかしながら、熱可塑性の硬化可能な複合材は、これを離型の間に加熱しなかった場合のみ、反りなく、射出成形用金型から取り出すことが可能である(A2およびB2)。よって、射出成形用金型は、溶融物が射出成形用金型内で冷却されて凝固するために、熱可塑性硬化複合材の溶融物よりも低い温度に調整してある必要がある。
【0102】
それとは反対に、熱硬化性硬化複合材は、事前の加熱なしに熱い金型に装入される場合、3次元の形状にしかならない(C3、D3)。これらの複合材をなおも成形前に加熱し、それにより、それらの熱硬化状態にする場合、熱硬化性複合材は、それ以降、もはや成形可能ではない。
【0103】
温度耐性:
本発明による成形体の温度耐性を調べるために、例A2、B2、C3、D3、E3、F3、G3およびH3の加工材料から、長さ30cmおよび幅5cmで成形体を裁断した。これらの成形体を、互いに25cm離れた2つの台に置いた。成形体の中央に、100gの重りを置き、この構造体を120℃で30分にわたり乾燥棚に入れた。乾燥棚内での滞留時間の終了後に、成形体の水平面からの曲がり(たわみ)を測定した。成形体の水平面からの曲がりが測定されなかった場合、成形体は、温度耐性があると判断した。
【0104】
結論:
熱硬化性硬化複合材(C3、D3、E3、F3、G3およびH3)は、高温(例えば120℃)でも安定しており、その際、その形状が変わらない。そのことから、本発明による熱硬化性硬化複合材は、材料がより高い温度に曝される領域およびより高い融点の材料が必要とされる領域における使用にも非常によく適している。
【0105】
熱可塑性硬化複合材は、高温において再成形可能になるため、本発明による熱硬化性硬化複合材と同じ使用領域で利用可能ではない。
【表1-1】
【表1-2】