(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】搬送装置、画像形成装置
(51)【国際特許分類】
B65H 9/00 20060101AFI20220506BHJP
B65H 7/14 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
B65H9/00 B
B65H7/14
(21)【出願番号】P 2018049444
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2020-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100207181
【氏名又は名称】岡村 朋
(72)【発明者】
【氏名】山根 淳
(72)【発明者】
【氏名】松田 裕道
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 英之
【審査官】佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-236672(JP,A)
【文献】特開2007-246193(JP,A)
【文献】特開2016-108152(JP,A)
【文献】特開2016-034860(JP,A)
【文献】特開2014-133634(JP,A)
【文献】特開2006-335516(JP,A)
【文献】特開平4-251058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 9/00
B65H 7/00
B65H 43/00
G03G 15/00
B41J 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートを搬送する搬送装置において、
前記シートの幅方向に並設された、前記シートを搬送するための第一挟持ローラおよび第二挟持ローラと、
前記第一挟持ローラを駆動する第一駆動機構と、
前記第二挟持ローラを駆動する第二駆動機構と、
前記第一挟持ローラおよび前記第二挟持ローラの回転速度を検知可能な検知部と、
前記検知部による検知結果に基づいて、前記第一駆動機構および前記第二駆動機構の駆動負荷を認識可能な制御部とを有し、
前記制御部は、前記第一駆動機構および前記第二駆動機構に電流指令値を入力することで前記第一挟持ローラおよび前記第二挟持ローラを回転駆動し、
前記制御部は、前記第一挟持ローラを駆動するために必要な第一駆動機構の駆動負荷の増加、あるいは、前記第二挟持ローラを駆動するために必要な第二駆動機構の駆動負荷の増加により、前記第一挟持ローラあるいは前記第二挟持ローラに前記シートが到達したことを認識し、
前記第一挟持ローラあるいは前記第二挟持ローラを挟持したことによる前記駆動負荷の増加分を、前記電流指令値と前記検知部によって検知された前記回転速度とにより推定し、
前記制御部は、前記第一挟持ローラおよび前記第二挟持ローラへの前記シートの到達時間の違いに基づいて、前記シートの斜行量を算出することを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第一挟持ローラおよび前記第二挟持ローラの回転速度を調整可能に設けられており、
前記シートの斜行量に基づいて、前記制御部が前記第一挟持ローラと前記第二挟持ローラとの相対的な回転速度を変更することにより、前記シートの斜行を補正する請求項1記載の搬送装置。
【請求項3】
前記シートの幅方向の位置ズレを検知するための検知機構をさらに有し、
前記検知機構の検知結果に基づいて、前記シートの幅方向の位置ズレを補正すると共に、前記シートを搬送する搬送部材とを有する請求項2記載の搬送装置。
【請求項4】
フィードバック制御により、前記シートの幅方向の位置ズレが補正される請求項3記載の搬送装置。
【請求項5】
前記検知機構を複数有し、
前記検知機構のうち少なくとも一つは、前記第一挟持ローラおよび前記第二挟持ローラのシート搬送方向下流側に設けられ、
前記複数の検知機構により前記シートの斜行を検知し、当該検知結果に基づいて、前記第一挟持ローラおよび前記第二挟持ローラの相対的な回転速度を変化させて前記シートの斜行を補正する請求項3または4いずれか記載の搬送装置。
【請求項6】
前記複数の検知機構による検知結果に基づいた前記シートの斜行補正が、フィードバック制御により行われる請求項5記載の搬送装置。
【請求項7】
前記複数の検知機構が、コンタクトイメージセンサである請求項5または6記載の搬送装置。
【請求項8】
請求項1から
7いずれか1項に記載の搬送装置を備えた画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置、および、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シートを搬送する搬送装置では、搬送時におけるシートの斜行や幅方向のズレ等の位置ズレが問題となる。例えば、記録媒体に画像を形成する画像形成装置では、記録媒体の搬送時の位置ズレにより、記録媒体に形成される画像位置が理想の位置からずれてしまうことが問題になる。
【0003】
そして、このようなシートの位置ズレを検知してその位置ズレを補正する発明が既になされている。例えば特許文献1(特開平4-251058号公報)のシート整合装置では、シートのスキュー検出器や縁部検出器が設けられ、これらの検出器により、シートのスキューや横方向の位置ズレを検出し、シートの位置ズレを補正している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、シートの位置ズレを検知するために専用の検知機構を設けているが、これらの検知機構を設けることで装置全体のコストアップや大型化につながってしまうという課題がある。
【0005】
このような課題から、本発明では、専用の検知機構を設けることなく、シートの位置ズレを検知することのできる搬送装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明は、シートを搬送する搬送装置において、前記シートの幅方向に並設された、前記シートを搬送するための第一挟持ローラおよび第二挟持ローラと、前記第一挟持ローラを駆動する第一駆動機構と、前記第二挟持ローラを駆動する第二駆動機構と、前記第一挟持ローラおよび前記第二挟持ローラの回転速度を検知可能な検知部と、前記検知部による検知結果に基づいて、前記第一駆動機構および前記第二駆動機構の駆動負荷を認識可能な制御部とを有し、前記制御部は、前記第一駆動機構および前記第二駆動機構に電流指令値を入力することで前記第一挟持ローラおよび前記第二挟持ローラを回転駆動し、前記制御部は、前記第一挟持ローラを駆動するために必要な第一駆動機構の駆動負荷の増加、あるいは、前記第二挟持ローラを駆動するために必要な第二駆動機構の駆動負荷の増加により、前記第一挟持ローラあるいは前記第二挟持ローラに前記シートが到達したことを認識し、前記第一挟持ローラあるいは前記第二挟持ローラを挟持したことによる前記駆動負荷の増加分を、前記電流指令値と前記検知部によって検知された前記回転速度とにより推定し、前記制御部は、前記第一挟持ローラおよび前記第二挟持ローラへの前記シートの到達時間の違いに基づいて、前記シートの斜行量を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、シートを搬送する第一挟持ローラおよび第二挟持ローラの駆動負荷の増加により、シートの斜行量を算出することができる。従って、専用の検知機構を設けることなく、シートの斜行量を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】搬送装置を示す図であり、(a)図が平面図、(b)図が側面図である。
【
図3】用紙が第二CISに到達した状態を示す平面図である。
【
図4】用紙が第三挟持ローラに到達した状態を示す平面図である。
【
図6】CISの検知結果により、用紙の斜行量を算出する方法を示す図である。
【
図7】搬送装置が用紙を搬送および補正する動作を示すフロー図である。
【
図8】本実施形態の搬送装置の制御部の構成を示すブロック図である。
【
図9】外乱オブザーバによる負荷トルクの推定部分を示すブロック図である。
【
図10】異なる実施形態の画像形成装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0010】
図1に示すカラー画像形成装置1には、4つのプロセスユニット9Y,9M,9C,9Bkが着脱可能に設けられた作像部2が配置されている。各プロセスユニット9Y,9M,9C,9Bkは、カラー画像の色分解成分に対応するイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)の異なる色の現像剤を収容している以外は同様の構成となっている。
【0011】
具体的な各プロセスユニット9としては、表面上に現像剤としてのトナーを担持可能なドラム状の回転体である感光体ドラム10と、感光体ドラム10の表面を一様に帯電させる帯電ローラ11や、感光体ドラム10の表面にトナーを供給する現像装置12、クリーニング装置等を備えている。
【0012】
プロセスユニット9の上方には、露光部が配置されている。露光部は、画像データに基づいて、レーザ光を発するように構成されている。
【0013】
作像部2の直下には転写部4が配置されている。転写部4は、駆動ローラ13、二次転写対向ローラ15、複数のテンションローラ、これらのローラによって周回走行可能に張架されている無端状の中間転写ベルト16、各プロセスユニット9の感光体ドラム10に対して中間転写ベルト16を挟んだ対向位置に配置されている一次転写ローラ17等で構成されている。各一次転写ローラ17はそれぞれの位置で中間転写ベルト16の内周面を押圧しており、中間転写ベルト16の押圧された部分と各感光体ドラム10とが接触する箇所に一次転写ニップが形成されている。
【0014】
また、中間転写ベルト16の駆動ローラ13と、中間転写ベルト16を挟んで駆動ローラ13に対向した位置には二次転写ローラ18が配設されている。二次転写ローラ18は中間転写ベルト16の外周面を押圧しており、二次転写ローラ18と中間転写ベルト16とが接触する箇所に二次転写ニップが形成されている。
【0015】
給紙部5は、画像形成装置1の下部に位置しており、シートとしての用紙Pを収容したシート積載部としての給紙カセット19や、各給紙カセットから用紙Pを搬出する給紙ローラ20等からなっている。
【0016】
搬送路6は、給紙部5から搬出された用紙Pを搬送する搬送経路である。搬送路6上には、複数の搬送ローラ対が、後述する排紙部に至るまで、適宜配置されている。
【0017】
搬送路6上で、給紙部5よりも用紙搬送方向下流側で二次転写ニップ位置よりも上流側には、搬送路6上における用紙Pの位置ズレを補正し、用紙Pを下流側へ搬送する搬送装置30が設けられる。
【0018】
定着装置7は、加熱源によって加熱される定着ローラ22、その定着ローラ22を加圧可能な加圧ローラ23等を有している。
【0019】
排紙部は、画像形成装置1の搬送路6の最下流に配され、用紙Pを外部へ排出するための一対の排紙ローラ24が設けられる。
【0020】
搬送路6は、排紙部8に至る経路とは別に、定着装置7の下流で分流する反転搬送路6aが設けられる。反転搬送路6aは、その末端で給紙部5から続く搬送路6に合流する。
【0021】
以下、
図1を参照して上記画像形成装置1の基本的動作について説明する。
【0022】
画像形成装置1において、画像形成動作が開始されると、各プロセスユニット9Y,9C,9M,9Bkの感光体ドラム10の表面に静電潜像が形成される。各感光体ドラム10に露光部3によって露光される画像情報は、所望のフルカラー画像をイエロー、シアン、マゼンタおよびブラックの色情報に分解した単色の画像情報である。各感光体ドラム10上には静電潜像が形成され、各現像装置に蓄えられたトナーが、ドラム状の現像ローラによって感光体ドラム10に供給されることにより、静電潜像は顕像であるトナー画像(現像剤像)として可視像化される。
【0023】
転写部4では、駆動ローラ13の回転駆動により中間転写ベルト16が図の矢印A1の方向に走行駆動される。また、各一次転写ローラ17には、トナーの帯電極性と逆極性の定電圧又は定電流制御された電圧が印加される。これにより、一次転写ニップにおいて転写電界が形成され、各感光体ドラム10に形成されたトナー画像は一次転写ニップにて中間転写ベルト16上に順次重ね合わせて転写される。このように、例えば、作像部2、露光部、転写部4等は、用紙Pに画像を形成する画像形成部として機能する。
【0024】
一方、画像形成動作が開始されると、画像形成装置1の下部では、給紙部5の給紙ローラ20が回転駆動することによって、給紙カセット19に収容された用紙Pが搬送路6に送り出される。
【0025】
搬送路6に送り出された用紙Pは、搬送路6上の搬送装置30やローラ対40等によって下流側へ搬送されると共に、搬送装置30によってその位置ズレを補正され、二次転写ローラ18と二次転写対向ローラ15との間に形成される二次転写ニップへ送られる。このとき、中間転写ベルト16上のトナー画像のトナー帯電極性と逆極性の転写電圧が印加されており、二次転写ニップに転写電界が形成されている。二次転写ニップに形成された転写電界によって、中間転写ベルト16上のトナー画像が用紙P上に一括して転写される。
【0026】
用紙Pに両面印刷がされる場合には、用紙Pが排紙ローラ24へ搬送され、用紙Pの後端が排紙ローラ24を抜けるまでのタイミングで、排紙ローラ24が逆回転し、用紙Pが逆方向へ搬送されて反転搬送路6aへ送り出される。その後、用紙Pは、反転搬送ローラによって反転搬送路6a上を搬送されて、表裏反転した状態で、再び搬送路6の搬送装置30よりも上流側へ送られる。そして、用紙Pは、搬送装置30によってその位置ズレを補正された後、裏面への画像の転写、定着が行われ、排紙ローラ24によって排紙トレイへと排出される。
【0027】
トナー画像が転写された用紙Pは、定着装置7へと搬送され、定着ローラ22と加圧ローラ23とによって用紙Pが加熱および加圧されてトナー画像が用紙Pに定着される。そして、トナー画像が定着された用紙Pは、定着ローラ22から分離されて下流の排紙部に搬送され、装置外へ排出される。
【0028】
以上の説明は、用紙P上にフルカラー画像を形成するときの画像形成動作であるが、4つのプロセスユニット9Y,9C,9M,9Bkのいずれか1つを使用して単色画像を形成したり、2つ又は3つのプロセスユニット9を使用して、2色又は3色の画像を形成したりすることも可能である。
【0029】
図2(a)および
図2(b)に示すように、本実施形態の搬送装置30には、用紙Pを挟持して搬送する第一挟持ローラ31、第二挟持ローラ32、第三挟持ローラ(搬送部材)33、および、用紙Pを検知する第一CIS(検知機構)34、第二CIS(検知機構)35が設けられる。
【0030】
第一挟持ローラ31、第二挟持ローラ32、および第三挟持ローラ33は、それぞれ一対のローラによって構成される。各挟持ローラは、ローラ対のニップ部で用紙Pを挟持した状態で、ローラが回転することにより、用紙Pを搬送方向下流側(
図2の矢印方向の下流側で)へ搬送する。なお、以下の説明では、この方向を単に搬送方向、用紙搬送方向の上流側および下流側を単に上流側および下流側とも呼ぶ。また、第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32は、用紙Pの幅方向に並設される。以下の説明では、この方向を単に幅方向とも呼ぶ。
【0031】
第一CIS34および第二CIS35は、LED等の発光素子とフォトダイオード等の受光素子とからなるフォトセンサが、用紙Pの幅方向に複数並設されたコンタクトイメージセンサである。
【0032】
次に、搬送装置30が用紙Pを搬送しながら用紙Pの位置ズレを補正する方法について説明する。
図2~
図6、および、
図7のフロー図を用いて説明する。
【0033】
まず、
図2(a)に示すように、上流側のローラ対によって搬送装置30へ搬送されてきた用紙Pは、第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32に到達する(
図8のステップS1)。そして、用紙Pは第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32によって挟持され、さらに下流側へ搬送される。なお、搬送装置30の上流側に配置されるローラ対としては、例えば、ローラ対40(
図1参照)が挙げられる。ただし、ローラ対40と搬送装置30との間に異なるローラ対が配置され、このローラ対によって用紙Pが搬送装置30へ搬送される構成であってもよい。
【0034】
第一挟持ローラ31、あるいは、第二挟持ローラ32が用紙Pを挟持すると、それぞれのローラ対のニップ部において、用紙Pとローラ対との間に摩擦抵抗が生じ、ローラを回転駆動するための駆動負荷が増大する。つまり、用紙Pを挟持する前と挟持後で、挟持ローラの駆動負荷が大きく増加することになる。本実施形態では、この駆動負荷の増加を認識することにより、第一挟持ローラ31、あるいは、第二挟持ローラ32への用紙Pの到達を認識することができる。
【0035】
さらに本実施形態では、第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32へのそれぞれの到達時間の違いを用いて、用紙Pの斜行量を算出することができる(ステップS2)。つまり、
図2(a)に示すように、用紙Pが斜行した状態で搬送されてくると、第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32に用紙Pの先端P1が到達する時間にズレが生じる。この時間差から、用紙Pの斜行量を求めることができる。
【0036】
具体的には、
図5に示すように、第一挟持ローラ31の挟持位置K1と挟持位置K2とをある一点で定め、挟持位置K1と挟持位置K2の幅方向の距離をLとする。そして、搬送装置30の上流側の搬送ローラによる用紙Pの搬送速度をvとし、用紙Pが第一挟持ローラ31に到達した時間と第二挟持ローラ32に到達した時間との時間差をtとすると、用紙Pの斜行量θ1は、
tanθ1=vt/L・・・(1)
と表すことができる。ここで、距離Lおよび速度vは計測可能な値である。また、上記のように、各挟持ローラの駆動負荷によって挟持ローラへの到達時間を知ることができ、時間差tを算出することができる。従って、上記式(1)により、角度θ1を算出することができる。以上のようにして、第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32の駆動負荷の変化から、用紙Pの斜行量を算出することができる。
【0037】
第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32に用紙Pが到達すると、これらの挟持ローラによって用紙Pが搬送される。この際、求められた斜行量(角度θ1)に基づいて、第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32の相対的な搬送速度を変更し、用紙Pの斜行を補正する(ステップS3)。
【0038】
例えば、
図5に示すように、用紙Pの先端P1において、第二挟持ローラ32の側が第一挟持ローラ31の側に比べて搬送方向上流側にある(第二挟持ローラ32の側の搬送が遅れている)場合を考える。この場合、第二挟持ローラ32の搬送速度V2を、第一挟持ローラ31の搬送速度V1よりも大きくすることにより、搬送の過程で用紙Pの斜行を徐々に補正することができる。
【0039】
具体的な搬送速度V1,V2の求め方について説明する。まず、斜行補正完了の目標位置を搬送方向に対して垂直な垂直線Nとし、垂直線Nと挟持位置K1あるいは挟持位置K2との搬送方向の距離をM1とする。そして、
図5のように、用紙Pの先端P1が2つ目の挟持ローラの挟持位置(図では、挟持ローラ32の挟持位置K2)に到達したタイミングでは、挟持ローラ32の側では、用紙Pの先端部P1bと垂直線Nとの距離はM1である。一方、前述した到達時間差tを用いると、挟持ローラ31の側では、先端部P1aが、先端部P1bよりもvtだけ下流へ搬送されていることになる。従って、先端部P1aと垂直線Nとの距離はM1-vtと表すことができる。さらに、第二挟持ローラ32の搬送速度をV2、第一挟持ローラ31の搬送速度をV1に設定すると、先端部P1bが垂直線Nに到達するまでの時間は、
M1/V2・・・(2)
と表すことができる。
そして、先端部P1aが垂直線Nに到達するまでの時間は、
(M1-vt)/V1・・・(3)
と表すことができる。そして、式(2)と式(3)が等式となるように速度V1、V2を設定することにより、先端部P1aと先端部P1bとを同じタイミングで垂直線Nに到達させることができる。つまり、用紙Pの斜行を補正することができる。具体的な補正の一例としては、
図3の点線部から実線部のように、用紙Pの斜行を補正することができる。以下、この補正を、用紙の斜行の一度目の補正とも呼ぶ。
【0040】
図2(a)から
図3にかけて、第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32により、用紙Pがさらに下流側へ搬送されながら、用紙Pの斜行の一度目の補正が行われる。そして、
図3に示すように、用紙Pが第一CIS34および第二CIS35に到達すると(ステップS4)、第一CIS34および第二CIS35によって検知動作が行われ、この検知結果に基づいて、用紙Pの斜行量が再び算出される(ステップS5)。
【0041】
具体的には、
図6に示すように、第一CIS34によって検知される側端P2の位置P2aの幅方向位置をLa、第二CIS35によって検知される側端P2の位置P2bの幅方向位置をLbとし、第一CIS34と第二CIS35の搬送方向の距離をM2とすると、傾斜角θ2は、
TANθ2=(La-Lb)/M2・・・(4)
により求めることができる。また、後述する用紙Pの幅方向の位置ズレは、二つのCISの平均値により求めることができる。
【0042】
本実施形態では、上記のCISによる検知結果に基づいて、用紙Pの斜行を再度補正する(ステップS5)。以下、この補正を、用紙の斜行の再補正と呼ぶ。
【0043】
このように、用紙Pが第二CIS35に到達すると、CISによる検知結果に基づいて斜行の再補正が開始されるため、一度目の斜行補正は、それ以前に完了している。従って、目標位置である垂直線N(
図3参照)は、第二CIS35の位置か、それよりも上流側に設けられる。
【0044】
用紙Pの斜行の再補正は、斜行量の一度目の補正の場合と同様に、第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32の相対的な搬送速度(回転速度)を変更することにより行われる。一度目の補正と異なる点は、CISの検知結果に基づいて行われること、また、目標位置である垂直線Nの位置が異なることである。つまり、斜行の再補正は、用紙Pが第三挟持ローラ33に挟持されて、第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32が用紙Pから離間するまでの間に行われる必要がある。従って、再補正時の垂直線Nは、第三挟持ローラ33の位置か、それよりも上流側に設けられる。
【0045】
本実施形態では、斜行の再補正は、フィードバック制御により行われる。つまり、第一CIS34および第二CIS35によって算出される時々刻々の斜行量がフィードバックされ、その都度、搬送速度V1および搬送速度V2が修正される。このように、一度目の斜行補正後に再補正を行い、かつ、再補正をフィードバック制御により行うことにより高精度に用紙Pの斜行を補正することができる。
【0046】
そして、
図4に示すように、用紙Pが第三挟持ローラ33に到達すると、第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32が用紙Pから離間し、斜行の再補正が終了する(ステップS6)。
【0047】
第三挟持ローラ33は、用紙Pを下流側へ搬送すると共に、幅方向の移動により、用紙Pの幅方向の位置ズレを補正する(ステップS7)。
【0048】
用紙Pの幅方向の位置ズレ量は、第一CIS34および第二CIS35によって検知される。幅方向の位置ズレ量は、前述したように、各CISによって用紙Pの側端P2の位置を検知し、その平均値を算出する。ただし、一つのCISによって検知した結果を用いて、用紙Pの幅方向の位置ズレ量としてもよい。本実施形態では、第一CIS34および第二CIS35によって検知される時々刻々の幅方向の位置ズレ量がフィードバックされ、第三挟持ローラ33の幅方向の移動量が修正される。
【0049】
以上の幅方向の補正動作は、下流側のローラに用紙Pが受け渡しされ、用紙Pが第三挟持ローラ33を通過するまでの間に終了する(ステップS8)。用紙Pが下流側のローラに受け渡しされると、挟持ローラ33は搬送路から離間し、搬送装置30による用紙Pの搬送が終了する。
【0050】
以上のフローにより、搬送装置30によって用紙Pの斜行量および幅方向の位置ズレ量が補正される。そして、用紙Pの位置ズレが補正された状態で、用紙Pがさらに下流の転写工程へと搬送される。これにより、用紙Pの位置ズレが補正された状態で、用紙Pに画像が転写される。また、搬送および補正動作を完了した搬送装置30は、次の用紙を搬送するための準備動作へ移行する。
【0051】
以上のように、本実施形態の搬送装置30では、第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32が、用紙Pを下流側へ搬送する搬送機能と、駆動負荷の増加から、制御部による用紙Pの斜行量の算出を可能とする機能と、用紙Pの斜行量に基づいて、用紙Pの斜行を補正する補正機能とを兼ねている。従って、用紙Pの到達を検知する光学系の先端検知センサ等を設けることなく、用紙Pが第一挟持ローラ31、あるいは、第二挟持ローラ32に到達したことを検知することができる。また、用紙Pの位置を検知するCIS等の検知センサを設けることなく、斜行量の算出を可能としている。これにより、搬送装置30全体の部品数を減らし、装置の小型化およびコストダウンを実現することができる。
【0052】
また、本実施形態の搬送装置30では、第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32によって斜行補正を行った後、第三挟持ローラ33によって幅方向の補正を行っている。このように、斜行補正と幅方向の位置ズレ補正とをそれぞれ独立して行うことにより、それぞれの補正動作をより簡易化することができ、補正の精度を向上させることができる。つまり、斜行補正と幅方向の補正を同時に行う場合には、斜行補正によって用紙Pが幅方向に位置ズレすることも考慮しなければならず、その補正の方法が複雑化する。特に本実施形態のように、第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32の搬送速度の変化によって用紙の斜行を補正する方法の場合には、(これらの挟持ローラを幅方向にも移動させて)幅方向の補正を同時にすると、その移動経路が複雑になりやすい。従って、本実施形態のように、用紙の斜行のみをまず補正し、下流に設けられた第三挟持ローラ33によって幅方向の補正をする方法が好ましい。
【0053】
図8は、以上の搬送装置30の各動作を制御する制御部の構成を示すブロック図である。
図8に示すように、制御部60は、第一モータ制御部61と、第二モータ制御部62と、第三モータ制御部63と、第一位置認識部64と、第二位置認識部65と、第一外乱オブザーバ(第一外乱推定部)66と、第二外乱オブザーバ(第二外乱推定部)67とを備える。
【0054】
第一モータ制御部61は、第一挟持ローラ31の回転駆動動作を制御する。第一モータ制御部61からの信号(第一指令値)により、第一モータドライバ611が第一モータ(第一駆動機構)612を駆動させて第一挟持ローラ31を回転させる。そして、第一モータエンコーダ613により、第一挟持ローラ31の回転量を検知する。
【0055】
第二モータ制御部62は、第二挟持ローラ32の回転駆動動作を制御する。第二モータ制御部62からの信号(第二指令値)により、第二モータドライバ621が第二モータ(第二駆動機構)622を駆動させて第二挟持ローラ32を回転させる。そして、第二モータエンコーダ623により、第二挟持ローラ32の回転量を検知する。
【0056】
第三モータ制御部63は、第三挟持ローラ33の幅方向への移動動作を制御する。第三モータ制御部63からの信号(第三指令値)により、第三モータドライバ631が第三モータ632を駆動させて第三挟持ローラ33を幅方向へ移動させる。そして、第三モータエンコーダ633により、第三挟持ローラ33の幅方向への移動量を検知する。
【0057】
第一モータ制御部61および第二モータ制御部62は、後述する第一位置認識部64および第二位置認識部65によって決定された各挟持ローラの回転速度(各モータの必要となる回転速度)に従って、各電流指令値を各モータドライバに入力することになる。また、この電流指令値は、各外乱オブザーバにも伝達される。
【0058】
本実施形態では、第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32の駆動負荷の増加分うち、外的負荷の増加、つまり、用紙Pを挟持したことによる駆動負荷の増加を推定する方法として、外乱オブザーバ(詳しくは後述)が用いられる。第一モータエンコーダ613、第二モータエンコーダ623によって検知された回転量は、それぞれ、第一外乱オブザーバ66、第二外乱オブザーバ67に伝達される。
【0059】
第一外乱オブザーバ66、および、第二外乱オブザーバ67は、モータ制御部から伝達された電流指令値、および、実際のモータの回転量から、それぞれの外乱トルクを推定し、推定された外乱トルクを第一位置認識部64に入力する。
【0060】
第一位置認識部64は、入力された推定外乱トルクに基づいて、用紙Pの各挟持ローラへの到達の有無、つまり、到達したタイミングを検知し、用紙Pの斜行量を算出することができる。そして、算出された斜行量に基づいて、第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32のそれぞれの回転速度(それぞれの用紙搬送速度)を決定し、第一モータ制御部61および第二モータ制御部62に、決定した回転速度の情報を入力する。これにより、各モータ制御部が各挟持ローラを決定した速度で回転させ、用紙Pの一度目の斜行補正を行うことができる。
【0061】
第一CIS34および第二CIS35の検知情報は、第二位置認識部65に入力される。第二位置認識部65は、入力された検知情報に基づいて、用紙Pの斜行量および幅方向の位置ズレ量を算出することができる。
【0062】
第二位置認識部65は、算出された用紙Pの斜行量に基づいて、第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32の回転速度を決定し、第一モータ制御部61および第二モータ制御部62に決定した回転速度の情報を入力する。これにより、各モータ制御部が各挟持ローラを決定した速度で回転させ、用紙Pの斜行の再補正を行うことができる。
【0063】
また、第二位置認識部65は、算出された用紙Pの幅方向の位置ズレ量に基づいて、第三挟持ローラ33の移動量を決定し、第三モータ制御部63に決定した移動量の情報を入力する。これにより、第三モータ制御部63が第三挟持ローラ33を幅方向に移動させ、用紙Pの幅方向の位置ズレを補正することができる。
【0064】
次に、外乱オブザーバを用いて、第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32における、用紙Pを挟持したことによる駆動負荷の増加分を推定する方法を、
図9を用いて説明する。なお、
図9では、第一モータ制御部61の場合について示しているが、第二モータ制御部62も同様の構成である。
【0065】
図9に示すように、第一モータ制御部61に第一挟持ローラ31の目標回転速度が入力されると、第一モータ制御部61は、入力された目標値に従って、第一モータドライバ611に電流指令値を入力する。そして、第一モータドライバ611から第一モータ612に電流が流され、第一モータ612が第一挟持ローラ31を回転駆動する。また、第一モータドライバ611が第一モータ612に入力した電流指令値は、第一外乱オブザーバ66に入力される。
【0066】
第一モータエンコーダ613によって、第一モータ612の実際の回転速度が検知されると、検知された回転速度を第一外乱オブザーバ66に入力する。第一外乱オブザーバ66は、入力された電流指令値から計算される入力トルクと、と、第一モータ612の実際の回転速度から計算される出力トルクとの差分から、第一モータ612の外乱トルクを推定(算出)する。この外乱の推定は、第一モータ制御部61の制御周期毎に行われる。なお、電流指令値から入力トルクを計算する方法としては、電流指令値にモータのトルク定数を乗じる方法が挙げられる。また、回転速度から出力トルクを計算する方法としては、回転速度を微分して回転加速度を求め、回転加速度に第一モータの制御対象系のイナーシャを乗じる方法が挙げられる。
【0067】
推定された外乱トルクは、第一位置認識部64に入力される。第一位置認識部64は、入力された推定外乱トルクが大きく増加すると、そのタイミングで用紙Pが第一挟持ローラ31に挟持されたものと認識する。つまり、外乱トルクの増加は、挟持ローラ31が用紙Pを挟持したことによるトルクの増加であると判断する。以上の方法により、用紙Pが第一挟持ローラ31に到達したタイミングを検知することができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0069】
本実施形態で説明した第三挟持ローラ33は、二次転写ローラ18(
図1参照)へ用紙Pを搬送するタイミングローラであってもよい。この場合、第三挟持ローラ33へ搬送された用紙Pは、タイミングを計られて、二次転写位置へ搬送される。
【0070】
第一挟持ローラ31および第二挟持ローラ32の下流側に設けられる検知機構としては、本実施形態のようなコンタクトイメージセンサの他、適宜、公知のセンサを用いることができる。
【0071】
本発明に係る画像形成装置は、
図1に示すカラー画像形成装置に限らず、モノクロ画像形成装置や、複写機、プリンタ、ファクシミリ、あるいはこれらの複合機等であってもよい。
【0072】
また、以上で説明した実施形態では、電子写真方式の画像形成装置1に設置される搬送装置30に対して本発明を適用したが、インクジェット方式の画像形成装置に設置される搬送装置に対しても本発明を適用することができる。以下、
図10を用いてインクジェット方式の画像形成装置について説明する。
【0073】
図10に示すように、インクジェット方式の画像形成装置100は、給紙部110と、搬送装置120と、画像形成部130と、乾燥部140と、排紙部150とを備えている。
【0074】
給紙部110から送り出された用紙Pは、搬送装置120によって搬送され、画像形成部130へ送り出される。
【0075】
画像形成部130においては、用紙Pが円筒形状ドラム131に位置決めされ、円筒形状ドラム131の回転によって図中矢印方向へ搬送される。そして、各色の吐出ヘッド132の下部(用紙Pへの画像形成位置)に所定のタイミングで用紙Pが搬送され、各色のインクが用紙Pに吐き出され、用紙Pの表面上に画像が形成される。
【0076】
画像形成部130によって画像が形成された用紙Pは、乾燥部140に搬送されてインク中の水分を蒸発させた後、排紙部150にて、作業者が取り出し可能な位置に排出される。
【0077】
両面印刷が行われる場合には、乾燥工程の後、用紙Pが反転搬送路160へ送られて、用紙Pの表裏が反転した状態で、再び搬送装置120へ送り出される。
【0078】
上記の搬送装置120に、前述した本発明の搬送装置の構成を適用することにより、前述した本実施形態と同様の効果を得ることができる。つまり、搬送装置120によって用紙Pの斜行および幅方向の位置ズレが補正される。そして、用紙Pの位置ズレが補正された状態で下流の画像形成部130へ搬送される。
【0079】
シートとしては、用紙P(普通紙)の他、厚紙、はがき、封筒、薄紙、塗工紙(コート紙やアート紙等)、トレーシングペーパ、OHPシート、プラスチックフィルム、プリプレグ、銅箔等が含まれる。
【符号の説明】
【0080】
1 画像形成装置
30 搬送装置
31 第一挟持ローラ
32 第二挟持ローラ
33 第三挟持ローラ(搬送部材)
34 第一CIS(検知機構)
35 第二CIS(検知機構)
60 制御部
61 第一モータ制御部
612 第一モータ(第一駆動機構)
613 第一モータエンコーダ(検知部)
62 第二モータ制御部
622 第二モータ(第二駆動機構)
623 第二モータエンコーダ(検知部)
P 用紙(シート)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0081】