(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】塗膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20220506BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20220506BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20220506BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L29/04 B
C08L71/02
C09D5/00 Z
(21)【出願番号】P 2017158886
(22)【出願日】2017-08-21
【審査請求日】2020-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 晃平
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 泰暢
(72)【発明者】
【氏名】杉原 範洋
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-532752(JP,A)
【文献】国際公開第2015/046391(WO,A1)
【文献】特開昭57-092073(JP,A)
【文献】特開昭52-089138(JP,A)
【文献】特開2015-193685(JP,A)
【文献】特開2015-063615(JP,A)
【文献】特開昭51-018279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C09D 5/00-5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラテックス組成物の硬化物を含有する塗膜において、
前記ラテックス組成物は、ポリイソプレンと、高分子分散安定剤とを含有し、
前記高分子分散安定剤は
、ポリビニルアルコール及びポリエチレンオキサイドからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記ラテックス組成物は、ポリイソプレン100質量部あたり、前記高分子分散安定剤を0.5~2質量部含む、塗膜。
【請求項2】
請求項1に記載の塗膜を製造する方法において、
前記ラテックス組成物を塗工して硬化させる工程を備える、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイソプレンラテックスは、ポリイソプレンが媒体に乳化分散したゴムラテックスとして知られており、各種の用途に応用が展開されている。ポリイソプレンラテックスは、例えば、人工乳首、風船(バルーン)、手袋、指サック、フィルム等の成形体を製造するための原料として欠かすことのできない材料である。
【0003】
そのため、近年においてもポリイソプレンラテックスから得られる成形体の性能を向上させる方法、あるいは、ポリイソプレンラテックスをより簡便に得る方法等が広く検討されている。例えば、特許文献1には、引張強度に優れたディップ成形体を得ることができるイソプレン重合体ラテックスを得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のポリイソプレンラテックスを、例えば塗工するなどして塗膜を形成させようとする場合、塗膜の表面を均一に成膜することは難しく、塗膜表面に凹凸が生じやすかった。そのため、例えば、より平らな塗膜表面が要求される用途に適用することが難しく、用途上の制限を受け易いという問題があった。このような観点から、ポリイソプレンラテックスから得られる塗膜表面の凹凸が少なく、より均一に塗膜を形成できるようなポリイソプレンラテックス及びその塗膜が求められていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、表面の凹凸が少なく、より均一な表面を有するポリイソプレンラテックス組成物の硬化物を含有する塗膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、塗膜を形成するために使用するポリイソプレンラテックス組成物中に、高分子分散安定剤を含有させることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
ラテックス組成物の硬化物を含有する塗膜において、
前記ラテックス組成物は、ポリイソプレンと、高分子分散安定剤とを含有する、塗膜。
項2.
前記ラテックス組成物は、ポリイソプレン100質量部あたり、前記高分子分散安定剤を0.01~10質量部含む、項1に記載の塗膜。
項3.
前記高分子分散安定剤は水溶性高分子である、項1又は2に記載の塗膜。
項4.
項1~3に記載の塗膜を製造する方法において、
前記ラテックス組成物を塗工して硬化させる工程を備える、製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塗膜は、ポリイソプレンラテックス組成物の硬化物を含有し、表面の凹凸が少なく、より均一な表面を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で得られた塗膜のSEM画像である。
【
図2】実施例2で得られた塗膜のSEM画像である。
【
図3】実施例3で得られた塗膜のSEM画像である。
【
図4】実施例4で得られた塗膜のSEM画像である。
【
図5】実施例5で得られた塗膜のSEM画像である。
【
図6】実施例6で得られた塗膜のSEM画像である。
【
図7】実施例7で得られた塗膜のSEM画像である。
【
図8】実施例8で得られた塗膜のSEM画像である。
【
図9】比較例1で得られた塗膜のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
本発明の塗膜は、ラテックス組成物の硬化物を含有する。前記ラテックス組成物は、ポリイソプレンと、高分子分散安定剤とを含有する。ここでいうラテックス組成物の硬化物とは、例えば、ラテックス組成物から後記する分散媒が蒸発することで形成される固形物を意味する。つまり、ラテックス組成物の硬化物とは、ラテックス組成物の乾燥物ということができる。
【0013】
前記ラテックス組成物は、ポリイソプレンを含む。ポリイソプレンはラテックス組成物におけるゴム成分である。ポリイソプレンの種類は、特に限定されない。例えば、ポリイソプレンとして、イソプレンを重合して得られる合成イソプレン重合体を挙げることができる。
【0014】
合成イソプレン重合体は、イソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体を含む共重合体であってもよい。この場合、イソプレン単位の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。イソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体は、特に限定されず、公知の各種エチレン性不飽和単量体を広く採用できる。
【0015】
ポリイソプレンが合成イソプレン重合体である場合は、例えば、公知の合成イソプレン重合体ラテックスを、ラテックス組成物に適用することができる。つまり、ラテックス組成物は、公知の合成イソプレン重合体ラテックスを含むことができる。
【0016】
合成イソプレン重合体ラテックスの分散媒としては特に限定されない。例えば、ポリイソプレンの分散性に優れるという点で水を分散媒として挙げることができる。また、ポリイソプレンの分散安定性が損なわない限りは、分散媒は、有機溶媒と水との混合溶媒であってもよい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール等が挙げられる。有機溶媒は、1種単独でもよいし、2種以上の混合溶媒であってもよい。
【0017】
この合成イソプレン重合体ラテックスの固形分濃度は、特に限定されず、例えば、40重量%以上であり、好ましくは40~70重量%、より好ましくは50~70重量%である。
【0018】
ポリイソプレンの形状は特に限定されず、例えば、粒子状であってもよい。ポリイソプレンが粒子状である場合、例えば、球状粒子、楕円球状粒子の他、不規則に歪んだ異形状粒子等が挙げられる。
【0019】
ポリイソプレンの平均粒子径は特に限定されず、好ましくは0.6~3.0μm、より好ましくは0.8~2.0μmである。
【0020】
ポリイソプレンの製造方法も特に限定されず、公知のポリイソプレンの製造方法を広く採用することができる。例えば、特開2016-160365号公報又は特開2016-160366号公報に記載の方法により合成イソプレン重合体ラテックスを製造することができる。
【0021】
前記高分子分散安定剤は、例えば、ラテックス組成物においてポリイソプレンの分散を安定化させる作用を有することができる成分である。特に、ラテックス組成物に前記高分子分散安定剤が含まれることで、ラテックス組成物を塗工するなどして塗膜を形成させた場合に、その表面には凹凸が発生しにくく、より均一(つまり、よりフラットな表面)な塗膜が形成される。つまり、前記高分子分散安定剤は、ラテックス組成物の塗工性を向上させる作用を有し得る。
【0022】
前記高分子分散安定剤は、ラテックス組成物から形成される塗膜表面をより均一にできる限りは、その種類は特に限定されない。例えば、前記高分子分散安定剤は、合成高分子であってもよいし、天然高分子又は天然物由来高分子であってもよい。ラテックス組成物に含まれる高分子分散安定剤は、1種又は異なる2種以上であってもよい。
【0023】
前記高分子分散安定剤が合成高分子である場合、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリメタクリル酸又はその塩、ポリアクリル酸の中和物又は部分中和物、ポリメタクリル酸の中和物又は部分中和物、ポリアミノ酸又はその塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、デキストリン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。
【0024】
前記高分子分散安定剤が天然高分子又は天然物由来高分子である場合、例えば、デンプン、寒天、キサンタンガムなどの多糖類、ゼラチン、カゼイン又はその塩等のタンパク質系を挙げることができる。
【0025】
前記高分子分散安定剤が塩を形成している場合は、例えば、金属塩を挙げることができる。金属塩を形成する金属の種類は特に限定されず、例えば、ナトリウム等のアルカリ金属を挙げることができる。
【0026】
前記高分子分散安定剤は、ラテックス組成物に溶解してポリイソプレンラテックスの分散安定性をより高めることができ、また、塗膜表面の凹凸をより発生しにくくできるという観点から、水溶性高分子であることが好ましい。
【0027】
前記高分子分散安定剤は、塗膜表面の凹凸をより発生しにくくできるという観点から、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインマンガン、カゼイン亜鉛、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド等であることが好ましい。
【0028】
前記ラテックス組成物において、ラテックス組成物の塗膜表面をより均一にできる限りは、前記高分子分散安定剤の含有量は特に限定されない。例えば、前記ラテックス組成物は、ポリイソプレン100質量部あたり、前記高分子分散安定剤を0.01~10質量部含むことができる。この場合、ラテックス組成物から形成される塗膜表面に凹凸がより発生しにくくなり、均一な塗膜を形成しやすい。
【0029】
前記ラテックス組成物において、ポリイソプレン100質量部あたりの前記高分子分散安定剤の含有量の下限値は、0.1質量部であることが好ましく、0.2質量部であることがより好ましく、0.3質量部であることがより好ましく、0.5質量部であることが特に好ましい。
【0030】
前記ラテックス組成物において、ポリイソプレン100質量部あたりの前記高分子分散安定剤の含有量の上限値が5質量部であることが好ましく、3質量部であることがより好ましく、2質量部であることがより好ましく、1質量部であることが特に好ましい。
【0031】
前記ラテックス組成物の分散媒としては特に限定されず、例えば、前述の合成イソプレン重合体ラテックスの分散媒と同様とすることができる。
【0032】
ラテックス組成物は、ポリイソプレン及び前記高分子安定剤以外に、その他の添加剤を含むことができる。ラテックス組成物に含まれる添加剤としては、例えば、公知のイソプレンラテックスに含まれる添加剤を広く採用することができる。
【0033】
ラテックス組成物に含まれる添加剤としては、例えば、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、安定剤、pH調整剤、酸化防止剤等を挙げることができる。
【0034】
加硫剤としては、例えば、硫黄系加硫剤が挙げられる。硫黄系加硫剤としては、粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、および不溶性硫黄等の硫黄;塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリン-ジスルフィド、アルキルフェノール-ジスルフィド、N,N’-ジチオ-ビス(ヘキサヒドロ-2H-アゼピノンー2)、含りんポリスルフィド、高分子多硫化物、および2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール等の硫黄含有化合物が挙げられる。これらの硫黄系加硫剤の中でも、好ましくは硫黄であり、より好ましくはコロイド硫黄である。
【0035】
加硫剤の分散性を向上させるために、オレイン酸カリウム及びβ-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム等の添加剤を加硫剤と共に併用することもできる。
【0036】
前記加硫剤の使用量は、加硫後に得られる成形体の引張強度を調整しやすい観点から、ポリイソプレン(固形分)100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは1~5質量部である。
【0037】
加硫促進剤は、本発明の効果が阻害されない限りは、公知の加硫促進剤を広く採用できる。
【0038】
加硫促進助剤の種類も特に限定されず、酸化亜鉛等、公知の加硫促進助剤を広く採用することができる。加硫促進助剤として酸化亜鉛を使用する場合は、例えば、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム及びオレイン酸カリウム等の安定剤が含まれる酸化亜鉛分散液とすることができる。加硫促進助剤の使用量も特に限定されず、公知のラテックス組成物と同様の含有量とすることができる。
【0039】
pH調整剤は特に限定されず、例えば、公知の酸又はアルカリが挙げられ、ラテックス組成物の安定性が向上しやすいという観点から、アルカリが好ましい。アルカリは、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩;アンモニア;トリメチルアンモニウム、トリエタノールアミンなどの有機アミン化合物等を挙げることができる。ラテックス組成物がpH調整剤を含む場合、例えば、ラテックス組成物のpHが7以上、好ましくは8以上になる程度にpH調整剤を含むことが好ましい。
【0040】
安定剤としては、前記高分子安定剤以外の公知の安定剤を挙げることができる。具体的な安定剤は例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、ならびにソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。その他、安定剤としては、ドデシルベンゼンナトリウム、ソルビタン脂肪酸エステル界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)等も例示される。安定剤の使用量も特に限定されず、公知のラテックス組成物と同様の含有量とすることができる。
【0041】
酸化防止剤としては、例えば、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)等、公知の酸化防止剤を広く採用することができる。酸化防止剤の分散性を向上させるために、オレイン酸カリウム及びポリカルボン酸ナトリウム等の添加剤を酸化防止剤と共に併用することもできる。酸化防止剤の使用量も特に限定されず、公知のラテックス組成物と同様の含有量とすることができる。
【0042】
ラテックス組成物に含まれる前述の各添加剤はそれぞれ、1種のみを含むものであってもよいし、異なる2種以上を含むものであってもよい。
【0043】
ラテックス組成物の固形分濃度は、特に限定されない。例えば、ラテックス組成物を長期保管した後のポリイソプレン粒子の分離及び凝集が起こりにくくなるという観点から、ラテックス組成物の固形分濃度は30~70質量%であることが好ましく、40~70質量%であることがより好ましい。
【0044】
ラテックス組成物の調製方法は特に限定されず、公知の調製方法を広く適用することができる。ラテックス組成物の調製方法は、例えば、ボールミル、ニーダー、ディスパー等の公知の混合機又は分散機を用いて、ポリイソプレンと、前記高分子分散安定剤成分と、水と、必要に応じて添加される添加剤とを、所定の割合で混合する方法が挙げられる。
【0045】
ラテックス組成物を調製するにあたり、ポリイソプレンはラテックスの形態であってもよい。ポリイソプレンがラテックスである場合、分散媒は水、各種有機溶媒のいずれであってもよく、これらの混合溶媒でもよい。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール等が挙げられる。
【0046】
ラテックス組成物を調製するにあたり、ポリイソプレンの原料としては前記合成イソプレン重合体ラテックスを使用することができる。
【0047】
ラテックス組成物を調製するにあたり、前記高分子分散安定剤は、溶液の形態で使用しもよい。この場合、溶媒としては水が好ましい。
【0048】
本発明のラテックス組成物を用いることで、塗膜を形成することができる。ラテックス組成物から塗膜を形成する方法は特に限定されず、公知の塗膜の形成方法を広く採用することができる。
【0049】
本発明のラテックス組成物を用いて形成される塗膜は、例えば、前記ラテックス組成物を塗工して硬化させる工程を備える工程により得ることができる。
【0050】
ラテックス組成物の塗工するにあたっては、例えば、塗膜を形成するために使用される公知の基材を広く使用することができる。基材としては、塗工紙の他、ガラス基板、金属基板、樹脂基板等が例示される。
【0051】
ラテックス組成物の塗工は、例えば、公知の塗工手段を広く採用することができ、例えば、ブレードコーター、バーコーター、スクリーン印刷、ディップコーター等を挙げることができる。
【0052】
ラテックス組成物を基材上に塗工した後、乾燥工程によりラテックス組成物の溶媒などの揮発成分を乾燥させることができる。これにより、ラテックス組成物が乾燥して硬化物が形成され、該硬化物を含有する塗膜もしくは該硬化物のみからなる塗膜が形成される。
【0053】
乾燥工程では、例えば、自然乾燥、オーブン等の加熱器を使用した加熱乾燥等を行うことができる。乾燥温度及び乾燥時間等の乾燥条件は特に限定されず、公知の乾燥条件を広く採用することができる。
【0054】
ラテックス組成物が、加硫剤等を含む場合は、塗膜形成時に加硫処理を行うこともできる。例えば、前述の方法で塗膜を形成すると同時に加硫処理を行うことができ、あるいは、塗膜を形成した後、この塗膜に対して加硫処理を行うこともできる。加硫処理の方法は、特に限定されず、公知の方法を広く採用することができる。加硫処理は、例えば、100~140℃で行うことができる。
【0055】
ラテックス組成物から形成される塗膜の全質量に対し、ラテックス組成物の硬化物は50質量%以上含まれ、80質量%以上含まれることが好ましく、90質量%以上含まれることがより好ましく、99質量%以上含まれることが特に好ましい。また、塗膜は、ラテックス組成物の硬化物のみで形成されていてもよい。
【0056】
塗膜の厚みは特に限定されず、塗膜の使用目的に応じて所望の厚みに設定することができる。例えば、塗膜の厚みは1~1000μmとすることができる。
【0057】
本発明の塗膜は、高分子分散安定剤を含有するポリイソプレンラテックス組成物を用いて形成されることから、表面の凹凸が少なく、より均一な表面を有することができる。
【0058】
本発明の塗膜は、各種用途に適用することができ、特に、塗料、接着剤、粘着剤、コーティング剤等の各種用途への使用に好適である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0060】
[評価方法]
(塗工性評価)
塗工紙(プラス株式会社ジョインテックスカンパニー製、マルチコピーペーパーJ2 中性紙 A4)にポリイソプレンラテックス組成物を約2g量り取った。次に、バーコーター(テスター産業社製、ROD No.6)を用いて、塗工紙上にラテックス組成物を薄く塗工した。この塗工紙を、40℃に設定したオーブン(ESPEC社製、型式:PVH-231)内に5分間入れ、ポリイソプレンラテックス組成物を硬化(乾燥)させて塗膜を形成させた。塗膜の厚みは6.2μmであった。
【0061】
その後、塗膜が形成された塗工紙をオーブンから取り出し、走査電子顕微鏡(日本電子社製、型式:JSM-6390LA)を用いて、塗工紙上の塗膜の表面を観察した。具体的には、走査電子顕微鏡(SEM)1視野につき、長径が40μm以上である凹凸の個数をカウントした。その個数が10個未満であれば「塗工性が非常に良い」、10個以上30個未満であれば「塗工性が良い」、30個以上50個未満であれば「塗工性がやや良い」、50個以上~80個未満であれば「塗工性が普通」、80個以上であれば「塗工性が悪い」と判定した。
【0062】
[高分子分散安定剤水溶液の調製]
(カゼインナトリウム水溶液)
カゼインナトリウム(和光純薬工業社が販売する試薬)10.0質量部と蒸留水90.0質量部とを混合し、10.0質量%カゼインナトリウム水溶液を調製した。
【0063】
(ポリビニルアルコール水溶液)
ポリビニルアルコール(日本合成化学社製、製品名:ゴーセノールGH-23)5.0質量部と蒸留水95.0質量部とを混合し、5.0質量%ポリビニルアルコール水溶液を調製した。
【0064】
(ポリエチレンオキサイド水溶液)
ポリエチレンオキサイド(住友精化社製、製品名:PEO-3)5.0質量部と蒸留水95.0質量部とを混合し、5.0質量%ポリエチレンオキサイド水溶液を調製した。
【0065】
[実施例1]
500mL容のポリプロピレン製ビーカーに、合成ポリイソプレンラテックス(平均粒子径1.3μm、固形分濃度:65.0質量%、分散媒:水)を153.8質量部の添加量で加えた。次いで、ポリプロピレン製ビーカーの内容物を、4枚羽根ピッチパドルを装着した攪拌機を用いて攪拌しながら、前記10.0質量%カゼインナトリウム水溶液10.0質量部(ポリイソプレン100質量部に対して1.0質量部)をポリプロピレン製ビーカーに添加し、ポリイソプレンを含有するラテックス組成物を得た。得られた該ラテックス組成物を用いて、上記のポリイソプレンラテックス組成物の塗工性の評価を行なったところ、長径が40μm以上の凹凸は4個であった。
【0066】
【0067】
[実施例2]
10.0質量%カゼインナトリウム水溶液の添加量を5.0質量部(ポリイソプレン100質量部に対して0.5質量部)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でラテックス組成物を得た。得られた該ラテックス組成物を用いて、上記のポリイソプレンラテックス組成物の塗工性の評価を行なったところ、長径が40μm以上の凹凸は18個であった。
【0068】
【0069】
[実施例3]
10.0質量%カゼインナトリウム水溶液10.0質量部を、5.0質量%ポリビニルアルコール水溶液10.0質量部(ポリイソプレン100質量部に対して0.5質量部)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でラテックス組成物を得た。得られた該ラテックス組成物を用いて、上記のポリイソプレンラテックス組成物の塗工性の評価を行なったところ、長径が40μm以上の凹凸は16個であった。
【0070】
【0071】
[実施例4]
10.0質量%カゼインナトリウム水溶液10.0質量部を、5.0質量%ポリエチレンオキサイド水溶液10.0質量部(ポリイソプレン100質量部に対して0.5質量部)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でラテックス組成物を得た。得られた該ラテックス組成物を用いて、上記のポリイソプレンラテックス組成物の塗工性の評価を行なったところ、長径が40μm以上の凹凸は13個であった。
【0072】
【0073】
[実施例5]
10.0質量%カゼインナトリウム水溶液の添加量を3.0質量部(ポリイソプレン100質量部に対して0.3質量部)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行ない、ポリイソプレンラテックス組成物を得た。得られたポリイソプレンラテックス組成物を用いて、上記のポリイソプレンラテックス組成物の塗工性の評価を行なったところ、長径が40μm以上の凹凸は31個であった。
【0074】
【0075】
[実施例6]
10.0質量%カゼインナトリウム水溶液の添加量を2.0質量部(ポリイソプレン100質量部に対して0.2質量部)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行ない、ポリイソプレンラテックス組成物を得た。得られたポリイソプレンラテックス組成物を用いて、上記のポリイソプレンラテックス組成物の塗工性の評価を行なったところ、長径が40μm以上の凹凸は42個であった。
【0076】
【0077】
[実施例7]
10.0質量%カゼインナトリウム水溶液の添加量を1.0質量部(ポリイソプレン100質量部に対して0.1質量部)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行ない、ポリイソプレンラテックス組成物を得た。得られたポリイソプレンラテックス組成物を用いて、上記のポリイソプレンラテックス組成物の塗工性の評価を行なったところ、長径が40μm以上の凹凸は54個であった。
【0078】
【0079】
[実施例8]
10.0質量%カゼインナトリウム水溶液の添加量を0.10質量部(ポリイソプレン100質量部に対して0.01質量部)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行ない、ポリイソプレンラテックス組成物を得た。得られたポリイソプレンラテックス組成物を用いて、上記のポリイソプレンラテックス組成物の塗工性の評価を行なったところ、長径が40μm以上の凹凸は63個であった。
【0080】
【0081】
[比較例1]
実施例1において、10.0質量%カゼインナトリウム水溶液を添加しなかったこと以外は、同様の操作を行ない、ポリイソプレンラテックス組成物を得た。得られたポリイソプレンラテックス組成物を用いて、上記のポリイソプレンラテックス組成物の塗工性の評価を行なったところ、長径が40μm以上の凹凸は95個であった。
【0082】
【0083】
以上より、ポリイソプレンと、高分子分散安定剤とを含有するラテックス組成物の硬化物で形成される塗膜は、その表面に凹凸の形成が抑制されることがわかる。従って、塗工性に優れるポリイソプレンと、高分子分散安定剤とを含有するラテックス組成物は、塗工性に優れていることがわかった。