(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】オレキシン-2受容体アンタゴニストを用いてうつ病を治療する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/506 20060101AFI20220506BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220506BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20220506BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
A61K31/506
A61K45/00
A61P25/24
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2018547296
(86)(22)【出願日】2017-03-09
(86)【国際出願番号】 US2017021565
(87)【国際公開番号】W WO2017156266
(87)【国際公開日】2017-09-14
【審査請求日】2020-03-03
(32)【優先日】2016-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397060175
【氏名又は名称】ヤンセン ファーマシューティカ エヌ.ベー.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【氏名又は名称】星川 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ケント,ジャスティン,エム.
(72)【発明者】
【氏名】ドレヴェッツ,ウェイン,シー.
(72)【発明者】
【氏名】デ ブール,ピーター
【審査官】古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0171430(US,A1)
【文献】特表2013-508403(JP,A)
【文献】国際公開第2015/095108(WO,A1)
【文献】精神経誌,2012年,Vol.114, No.5,p.589-600
【文献】Frontiers in Neuroscience,2014年,Vol.8, Article No.5,p.1-11,doi: 10.3389/fnins.2014.00005
【文献】Neuropsychopharmacology,2012年,Vol.37,p.2210-2221
【文献】LETAVIC, Michael A. et al.,Novel Octahydropyrrolo[3,4-c]pyrroles Are Selective Orexin-2 Antagonists: SAR Leading to a Clinical,Journal of Medicinal Chemistry,2015年06月18日,58(14),pp.5620-5636
【文献】精神経誌,2012年,Vol.114, No.5,p.589-600
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 41/00-45/08
A61P 1/00-43/00
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるうつ病を治療するのに用いるための医薬組成物であって、[5-(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-ヘキサヒドロ-ピロロ[3,4-c]ピロール-2-イル]-(2-フルオロ-6-[1,2,3]トリアゾール-2-イル-フェニル)-メタノン
である化合物又はその医薬として許容される塩
を含み、
前記対象に、有効量の前記化合物、又はその医薬として許容される塩を含む医薬組成物を睡眠前に投与するように用いられる、医薬組成物。
【請求項2】
対象におけるうつ病を治療するのに用いるための医薬組成物であって、[5-(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-ヘキサヒドロ-ピロロ[3,4-c]ピロール-2-イル]-(2-フルオロ-6-[1,2,3]トリアゾール-2-イル-フェニル)-メタノンである
化合物を含み、
前記対象に、有効量の前記化合物を含む医薬組成物を睡眠前に投与するように用いられる、医薬組成物。
【請求項3】
対象におけるうつ病を治療するのに用いるための医薬組成物であって、[5-(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-ヘキサヒドロ-ピロロ[3,4-c]ピロール-2-イル]-(2-フルオロ-6-[1,2,3]トリアゾール-2-イル-フェニル)-メタノン塩酸塩である
化合物を含み、
前記対象に、有効量の前記化合物を含む医薬組成物を睡眠前に投与するように用いられる、医薬組成物。
【請求項4】
前記医薬組成物を夜間に投与するように用いられる、請求項
1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記対象が次の日に目覚めた時に抗うつ効果が維持されている、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記医薬組成物を1日1回投与するように用いられる、請求項
1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物を経口投与するように用いられる、請求項
1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記有効量が、約10~約40mgである、請求項
1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記有効量が、約20mgである、請求項
1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記うつ病が、大うつ病性障害、
又は双極性疾患に関連するうつ病
を含む、請求項
1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記うつ病が大うつ病性障害である、請求項
1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記うつ病が
双極性疾患に関連するうつ病である、請求項
1~11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
第2の抗うつ剤と組み合わせて用いられる、請求項
1~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
第2の抗うつ剤をさらに含む、請求項
13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記第2の抗うつ剤が、選択的セロトニン再取込み阻害剤、セロトニン及びノルアドレナリン再取込み阻害剤、又はこれらの組み合わせである、請求項
13又は14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記用いることが、うつ病の精神的症状を治療する、請求項1~15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、参照により本明細書に組み込まれる、2016年3月10日に出願された米国特許仮出願第62/306,487号に対する優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、特に、うつ病の治療方法を目的とする。
【背景技術】
【0003】
オレキシン(ヒポクレチンとしても知られている)は、脳弓周囲領域、視床下部背内側部、及び外側視床下部におけるニューロンによって発現される神経ペプチドである(de Lecea et al.,1998;Proc.Natl. Acad.Sci. U.S.A.95,322~327;Sakaurai et al,1998,Cell 92,573~585)。オレキシン作動性ニューロンは、他の視床下部核、視床正中室傍、脳幹核、腹側被蓋領域、及び側坐核外皮を含む脳の多くの領域に投射する。(Peyron et al.,1998,J.Neurosci.18,9996~10016)オレキシン-A又はオレキシン-Bのいずれかに分類されるオレキシン神経ペプチドは、7回膜貫通Gタンパク質結合受容体オレキシン-1(OX1R)及びオレキシン-2(OX2R)に結合する(de Lecea et al.,1998;Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.95,322~327;Sakaurai et al,1998,Cell 92,573~585)。オレキシン-Aは、OX1R及びOX2Rについて非選択的であるが、オレキシン-Bは、OX2Rに対してより高い親和性を示す(Sakaurai et al,1998,Cell 92,573~585)。オレキシン受容体アンタゴニストは、単一オレキシン受容体(SORA)又は二重受容体アンタゴニスト(DORA)として分類される。
【0004】
活動的な覚醒中に発火を表す視床下部オレキシン作動性ニューロンは、ノンレム睡眠中は実質的に無変化であり、レム睡眠中には一時的な発火を示す(Lee,2005,J.Neuroscience 25(8):6716~6720;Takahashi,2008,Neuroscience,153:860~870)。この活動パターンは、オレキシンが内因性の強力な覚醒(目覚め)促進ペプチドであるという考えを支持する。また、単一ユニット記録を使用する研究では、OX含有ニューロンが、報酬欲求行動中に優先的に活性化されることが示されている(Hassani et al.,2016.J Neuroscience 36(5):1747~1757)。しかし、オレキシンは、気分障害患者の一部で発生する過剰覚醒(例えば、過覚醒、不安、身体の緊張、興奮、及び/又は過剰の反芻)において役割を果たしているという仮説も立てられている。今日まで、選択的OXR2アンタゴニストの内因的抗うつ活性は臨床的に調査されたことがないと考えられる。
【0005】
当該技術分野において既知であるとおり、大うつ病性障害(MDD)と診断された対象におけるうつ病の症状を臨床的に有意に改善するには、現在利用可能な抗うつ剤による治療の開始後4~6週間かかり得る。したがって、MDD対象が、より短い期間、特に2週間以下の抗うつ剤療法から恩恵を受けるとは予測されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
うつ病の有効な治療を提供するという、大きな、満たされていない医学的必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一般的な説明及び以下の詳細な説明は、例示及び説明のためだけのものであり、添付の特許請求の範囲に規定されている本開示の範囲を限定するものではない。本開示の他の態様は、本明細書において提供される本開示の詳細な説明を考慮することで当業者に明らかになるであろう。
【0008】
一態様では、うつ病に罹患しているか又はうつ病であると診断された対象を治療する方法が提供される。これら方法は、有効量の式(I)の化合物又はその医薬として許容される塩(式中、R1~R4は、本明細書に定義される)を、このような治療を必要とする対象に投与することを含み、式(I)の化合物は、睡眠前に投与される。
【0009】
【0010】
別の態様では、本明細書に記載される方法に従って治療される対象は、不眠障害に罹患しても、診断されてもいない。
【0011】
更なる態様では、式(I)の化合物は、本明細書に記載される方法に従って夜間に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本開示は、本開示の一部を形成する、添付図面及び実施例に関連して取られる以下の詳細な説明を参照することにより、より容易に理解することができる。本開示は、本明細書に記載及び/又は図示される特定のデバイス、方法、用途、条件、又はパラメータに限定されるものではなく、本明細書で使用される専門用語は、例として特定の実施形態を記載する目的のためだけのものであり、特許請求される発明を限定することを意図するものではないことを理解すべきである。また、添付の特許請求の範囲を含む明細書において使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は複数を含み、特定の数値への言及は、文脈により明確に別様に指示されない限り、少なくともこの特定の値を含む。値の範囲が表されている場合、別の実施形態においては、ある特定の値から、及び/又は他の特定の値までが含まれる。同様に、先行する「約」によって値が近似の形式で表現された場合、その特定値により別の実施形態が形成されることは理解されるであろう。範囲はいずれも包括的であり、組み合わせが可能である。
【0013】
「発明の概要」及び以下の「発明を実施するための形態」は、添付の図面と併せて読むことで、更に理解される。
【
図1】[5(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-ヘキサヒドロ-ピロロ[3,4-c]ピロール-2-イル]-(2-フルオロ-2-[1,2,3]トリアゾール-2-イル-フェニル)-メタノン(化合物A)製剤の平均血漿濃度-時間プロファイルである。
【
図2】[5(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-ヘキサヒドロ-ピロロ[3,4-c]ピロール-2-イル]-(2-フルオロ-2-[1,2,3]トリアゾール-2-イル-フェニル)-メタノン(化合物A)製剤の平均血漿濃度-時間プロファイルである。
【
図3】化合物A製剤の複合血漿濃度-時間プロファイルである。
【
図4】化合物A製剤の複合血漿濃度-時間プロファイルである。
【
図5】化合物A製剤の複合血漿濃度-時間プロファイルである。
【
図6】化合物A製剤の複合血漿濃度-時間プロファイルである。
【
図7】化合物A製剤の複合血漿濃度-時間プロファイルである。
【
図8】化合物A製剤の複合血漿濃度-時間プロファイルである。
【
図9】化合物A製剤の個々の及び平均の血漿薬物動態パラメータ対処理プロットである。
【
図10】化合物A製剤の個々の及び平均の血漿薬物動態パラメータ対処理プロットである。
【
図11】化合物A製剤の個々の及び平均の血漿薬物動態パラメータ対処理プロットである。
【
図12】消灯から10分間の睡眠までの時間(分)対10/11日目におけるベースラインからの変化の線グラフである。
【
図13】合計睡眠時間(分)対10/11日目におけるベースラインからの変化の線グラフである。
【
図14】10/11日目におけるベースラインからのハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Depression Rating Scale、HAM-D
6)スコアの持続性睡眠までの待ち時間(latency to persistent sleep、LPS)の変化対11日目におけるベースラインからのHAM-D
6の変化の線グラフである。
【
図15】10/11日目におけるベースラインからのHAM-D
6スコアの合計睡眠時間(total sleep time、TST)の変化対11日目におけるベースラインからのHAM-D
6スコアの変化の線グラフである。
【
図16】本明細書で使用される錠剤の調製に関するプロセスフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
I.定義
用語「うつ病」は、大うつ病性障害、持続性うつ病性障害、双極性障害(aka双極性うつ病)に関連するうつ病、季節性感情障害、精神病性うつ病、産後うつ病、月経前不快気分障害、状況うつ病、無快感症、メランコリー、中年うつ病、晩年うつ病、特定可能なストレッサーに起因するうつ病、治療抵抗性うつ病、又はこれらの組み合わせを含む。特定の実施形態では、うつ病は、大うつ病性障害である。他の実施形態では、大うつ病性障害は、憂鬱の特徴又は不安による苦悩を伴う。
【0015】
本明細書に記載される方法は、うつ病の中核(又は精神的)症状の治療において有用である。これら症状は、抑うつ気分及びほぼ全ての活動における興味又は喜びの損失を含む。
【0016】
用語「睡眠開始」とは、覚醒状態からノンレム(non-rapid eye movement、NREM)睡眠への移行を指し、「睡眠」とは、一般に、ノンレム(NREM)又はレム(rapid eye movement、REM)睡眠を指す。
【0017】
用語「覚醒」は、脳波、自発的な急速眼球運動及び/又は瞬目によって検出されるアルファ波及びベータ波を特徴とする意識の合理的な覚醒状態を説明する。他の実施形態では、覚醒状態は、ノンレム又はレム睡眠が存在しないことを特徴とし得る。
【0018】
用語「夜間」は、24時間毎に1回発生する日没から日の出までの期間を含む。いくつかの実施形態では、夜間は、対象の睡眠前の日の24時間の時間枠を指す。
【0019】
「不眠障害」は、American Psychiatric AssociationによるDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(DSM-V)の第5版及びWorld Health OrganizationによるInternational Classification of Sleep Disorders(ICSD-3)の第3版にみられる基準を使用した診断を指す。いくつかの実施形態では、「不眠障害」は、睡眠の開始若しくは維持が困難であり、目覚めが早すぎる及び/又は体力の回復がみられない睡眠が生じることを含み、この場合、睡眠困難の結果、何らかの形態で日中障害が生じる。
【0020】
本明細書で与えられる量的表現の一部は、用語「約」により修飾されていない。用語「約」が明確に用いられていようといまいと、本明細書に記載する全ての量はその実際値を指すことを意味し、またかかる値の実験及び/又は測定条件による近似値を含む、当該技術分野における通常の技量に基づいて合理的に推測されるこのような値の近似値を指すことも意味することが理解される。
【0021】
本明細書で使用するとき、別途記載のない限り、用語「治療する」、「治療」などは、疾患、病状、又は障害と戦うことを目的とする、対象又は患者(好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒト)の管理及びケアを含み、また、症状若しくは合併症の発生の予防、症状若しくは合併症の緩和、又は疾患、病状、若しくは障害の排除のために本明細書に記載される化合物を投与することを含むものとする。同様に「治療」は、(a)1つ以上の症状の頻度の減少、(b)1つ以上の症状の重篤化の低減、(c)追加の症状の発症の遅延若しくは回避、及び/又は、(d)疾患若しくは病状の発症の遅延若しくは回避、又はこれらの任意の組み合わせを包含するように用いられる。
【0022】
本明細書で使用するとき、別途記載のない限り、「対象」及び「患者」という用語は、互換的に用いられてよく、治療、観察、又は実験の対象となっている動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトを指す。いくつかの実施形態では、対象又は患者は、治療及び/又は予防される疾患又は障害の少なくとも1つの症状を経験及び/又は呈したことがある。治療方法は、このような治療、予防、若しくは投薬レジメンを必要とする対象又は患者、より具体的には、種類又は根底にある原因にかかわらず、(好ましくは、大うつ病性障害又はエピソードの基準を満たす)うつ病と診断されたか又はうつ病の少なくとも1つの症状を呈する対象又は患者を対象とすることを、当業者は更に理解するであろう。更なる実施形態では、対象は、不眠障害に罹患しておらず、診断されてもいない。
【0023】
予防方法について記載する場合、それを必要とする対象(すなわち、予防を必要とする対象)が、予防される障害、疾患、若しくは病状のうちの少なくとも1つの症状を経験又は呈したことのある任意の対象を含むこととなると当業者は認識するであろう。更に、それを必要とする対象は、加えて、予防される障害、疾患、又は病状の任意の症状も示していないが、上記障害、疾患、又は病状の進行のリスクがあると医師、臨床医、又は他の医療専門家によって判断されている対象(好ましくは哺乳類、より好ましくはヒト)であり得る。例えば、対象は、家族歴、疾病素質、併発(重複)疾患又は併発(重複)症状、遺伝子検査等が挙げられるが、これらに限定されない、対象の医療歴の結果として、うつ病の新たなエピソードを有する危険性がある(それ故に二次予防又は予防的治療の必要がある)と判断され得る。
【0024】
更に、本明細書における定量的表現の一部は約X値から約Y値までの範囲として列挙される。範囲が列挙されている場合、その範囲は、列挙されている上限及び下限に限定されるものではなく、約X値から約Y値までの全範囲、又はその範囲内の任意の値若しくは値の範囲を含むと理解される。
【0025】
本明細書で使用するとき、用語「含む(including)」、「含有する(containing)」、及び「含む(comprising)」は、本明細書ではオープンな非限定的意味で用いられる。
【0026】
II.化合物
上述のように、本明細書に記載される化合物は、オレキシン-2アンタゴニストであり、うつ病の治療において使用することができる。いくつかの実施形態では、化合物は、最高血漿濃度になるまでにかかる時間が、特に、約3時間未満、約2時間未満、好ましくは約1時間未満、すなわち、約45分間未満、約30分間未満、約15分間未満になるように投与される。他の実施形態では、化合物は、約4時間、典型的には約4時間未満の排出半減期を有する。例えば、本開示の特定の化合物の半減期は、約2~約3時間、例えば、約2時間、約2.1時間、約2.2時間、約2.3時間、約2.4時間、約2.5時間、約2.6時間、約2.7時間、約2.8時間、又は約2.9時間~約3時間である。短い半減期に鑑みて、起床時に対象中に残存している化合物の量は、典型的には、薬力学的効果に必要な閾値を下回る。例えば、本開示の化合物は、典型的には、約5mg超の用量レベルから薬力学的効果を有する。
【0027】
特定の実施形態では、化合物は、式(I)の構造を有する:
【0028】
【化2】
R
1は、C
1~4アルキルである。いくつかの実施形態では、R
1はCH
3である。
【0029】
R2は、C1~4アルキルである。いくつかの実施形態では、R2はCH3である。
【0030】
R3は、H又はハロゲンである。いくつかの実施形態では、R3はハロゲンである。他の実施形態では、R3はフッ素である。更なる実施形態では、R3はHである。
【0031】
R4は、H又はC1~4アルコキシである。いくつかの実施形態では、R4はHである。更なる実施形態では、R4はC1~4アルコキシである。他の実施形態では、R4はメトキシである。
【0032】
「アルキル」とは、鎖内に1~12個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖のアルキル基を指す。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、並びに当該技術分野における通常の技能及び本明細書に提供される教示に照らして前述の例のうちのいずれか1つと等価であるとみなされる基が挙げられる。
【0033】
用語「シクロアルキル」とは、炭素環当たり5~7個の環原子を有する飽和又は部分飽和の単環式、縮合多環式又はスピロ多環式の炭素環を指す。シクロアルキル基の具体例として、適切に結合した部分の形態での以下の実体が挙げられる:
【0034】
【0035】
「ヘテロシクロアルキル」は、炭素原子から選択される環原子を環構造当たり4~7個有し、かつ窒素、酸素及び硫黄から選択されるヘテロ原子を2個以下有する、飽和又は部分飽和の単環式環構造を指す。そのような環構造は、硫黄環員上に、2個以下のオキソ基を任意に含有していてもよい。適切に結合した部分の形態での例となる実体には、以下が挙げられる:
【0036】
【0037】
用語「ヘテロアリール」は、複素環当たりの3~12個の環原子を有する単環式、縮合二環式、又は縮合多環式の芳香複素環(炭素原子から選択される環原子を有し、かつ窒素、酸素及び硫黄から選択されるヘテロ原子を4個以下有する環構造)を指す。ヘテロアリール基の具体例には、適切に結合した部分の形態での以下の実体が挙げられる:
【0038】
【0039】
当業者は、上に列挙又は例示したヘテロアリール、シクロアルキル、及びヘテロシクロアルキル基の化学種が網羅的ではないこと、及びこれらの定義された用語の範囲内の更なる化学種を選択してもよいことを理解するであろう。
【0040】
「アルコキシ」は、アルキル基を分子の残部に連結する末端酸素を有する、直鎖又は分枝鎖アルキル基を含む。アルコキシとしては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t-ブトキシなどが挙げられる。
【0041】
「ハロゲン」は、塩素、フッ素、臭素又はヨウ素を表す。
【0042】
本明細書で与えられるいずれかの式に言及する場合、指定された変数に関する可能な種のリストからの特定の部分の選択は、他の箇所に現れる変数に関してその種の同じ選択を定義することを意図するものではない。言い換えれば、変数が2回以上現れる場合、指定されたリストからの種の選択は、特に指示がない限り、式中の他の箇所における同じ変数に関する種の選択とは無関係である。
【0043】
命名法「Ci~j」(j>i)は、本明細書においてある置換基のクラスに適用するとき、i個以上j個以下の炭素メンバーの数の各々及び全てが独立して実現される実施形態を指すことを意味する。例として、C1~3という用語は、独立して、1個の炭素メンバー(C1)を有する実施形態、2個の炭素メンバー(C2)を有する実施形態、及び3個の炭素メンバー(C3)を有する実施形態を指す。
【0044】
用語Cn~mアルキルは、直鎖であるか、あるいは分岐しているかにかかわらず、鎖中の炭素メンバーの総数Nがn≦N≦m(ここで、m>n)を満たす脂肪鎖を指す。
【0045】
本明細書で与えられる式はいずれも、その構造式によって描写される構造を有する化合物に加えて、特定の変形又は形態も表すことを意図する。具体的には、本明細書で与えられる任意の式の化合物は、不斉中心を有していてもよく、したがって、異なる鏡像異性体型で存在し得る。一般式で表される化合物の光学異性体及び立体異性体並びにこれらの混合物は全て当該式の範囲内であるとみなされる。したがって、本明細書で与えられるいずれの式も、そのラセミ体、1つ以上の鏡像異性体型、1つ以上のジアステレオマー型、1つ以上のアトロプ異性体型、及びこれらの混合物を表すことを意図する。更に、特定の構造は、幾何異性体(すなわち、シス及びトランス異性体)として、互変異性体として、又はアトロプ異性体として存在してもよい。
【0046】
化合物は、いずれも参照により本明細書に組み込まれる米国特許8,653,263号及び米国特許出願公開第2014/0171430号に記載されているものを含み得る。いくつかの実施形態では、化合物は、5-(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-ヘキサヒドロ-ピロロ[3,4-c]ピロール-2-イル]-(2-フルオロ-6-[1,2,3]トリアゾール-2-イル-フェニル)-メタノン又はその医薬として許容される塩である。他の実施形態では、化合物は、5-(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-ヘキサヒドロ-ピロロ[3,4-c]ピロール-2-イル]-(2-フルオロ-6-[1,2,3]トリアゾール-2-イル-フェニル)-メタノンである。更なる実施形態では、化合物は、5-(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-ヘキサヒドロ-ピロロ[3,4-c]ピロール-2-イル]-(2-フルオロ-6-[1,2,3]トリアゾール-2-イル-フェニル)-メタノン塩酸塩である。更に他の実施形態では、化合物は、(5-(4,6-ジメチルピリミジン-2-イル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-c]ピロール-2(1H)-イル)(4-メトキシ-2-(2H-1,2,3-トリアゾール-2-イル)フェニル)メタノン又はその医薬として許容される塩である。また更なる実施形態では、化合物は、(5-(4,6-ジメチルピリミジン-2-イル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-c]ピロール-2(1H)-イル)(4-メトキシ-2-(2H-1,2,3-トリアゾール-2-イル)フェニル)メタノンである。特定の実施形態では、化合物は、(5-(4,6-ジメチルピリミジン-2-イル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-c]ピロール-2(1H)-イル)(4-メトキシ-2-(2H-1,2,3-トリアゾール-2-イル)フェニル)メタノン水和物である。他の実施形態では、化合物は、(5-(4,6-ジメチルピリミジン-2-イル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-c]ピロール-2(1H)-イル)(4-メトキシ-2-(2H-1,2,3-トリアゾール-2-イル)フェニル)メタノン塩酸塩水和物である。更なる実施形態では、化合物は、(5-(4,6-ジメチルピリミジン-2-イル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-c]ピロール-2(1H)-イル)(4-メトキシ-2-(2H-1,2,3-トリアゾール-2-イル)フェニル)メタノン臭化水素酸塩水和物である。
【0047】
更に、本明細書で与えられるいかなる式も、たとえこのような形態が明示的に列挙されていなかったとしても、このような化合物の水和物、溶媒和物及び多形、並びにこれらの混合物も指すことを意図する。式(I)の化合物又は式(I)の化合物の医薬として許容される塩は、溶媒和物として得ることもできる。溶媒和物は、化合物と1つ以上の溶媒との相互作用又は錯化から、溶液で又は固体若しくは結晶形として形成されるものを含む。いくつかの実施形態では、溶媒は水であり、その場合、溶媒和物は水和物である。更に、式(I)の化合物又は式(I)の化合物の医薬として許容される塩の結晶形は、共結晶として得られ得る。特定の実施形態では、式(I)の化合物は、結晶形で得られる。他の実施形態では、式(I)の化合物の結晶形は、本質的に立方体である。他の実施形態では、式(I)の化合物の医薬として許容される塩は、結晶形で得られる。更に他の実施形態では、式(I)の化合物は、いくつかの多形のうちの1つで、結晶形の混合物として、多形として、又は非晶形として得られる。他の実施形態では、式(I)の化合物は、溶液中で、1つ以上の結晶形及び/又は多形の間で変換される。
【0048】
また、本明細書で与えられるいかなる式も、化合物の非標識形態に加えて同位体標識形態も表すことを意図する。同位体標識化合物は、1つ以上の原子が、選択された原子質量又は質量数を有する原子に置換されていることを除いて本明細書で与えられる式で描写される構造を有する。本明細書に記載される化合物に組み入れることができる同位体の例としては、水素、炭素、窒素、酸素、リン、フッ素及び塩素の同位体、例えば、それぞれ、2H、3H、11C、13C、14C、15N、18O、17O、31P、32P、35S、18F、36Cl、125Iが挙げられる。このような同位体標識化合物は、代謝研究(好ましくは14Cを用いる)、反応速度論研究(例えば、2H又は3Hを用いる)、検出若しくは撮像技術[陽電子放出断層撮影(positron emission tomography、PET)又は単光子放射形コンピュータ断層撮影(single-photon emission computed tomography、SPECT)など](薬物又は基質組織分布アッセイを含む)、又は患者の放射線治療において有用である。特に、PET検査については18F又は11C標識化合物が、又はSPECT検査についてはI123が特に好ましい場合がある。更に、より重い同位体、例えば重水素(すなわち、2H)などによる置換を行うと、代謝安定性がより高くなることに起因する特定の治療的利点が得られ得る、例えば、インビボ半減期が長くなったり必要な投薬量が少なくなったりする。本明細書に記載される同位体標識化合物及びそのプロドラッグは、一般的に、容易に入手可能な同位体標識試薬を非同位体標識試薬の代わりに用いることによって、以下に説明するスキーム又は実施例及び調製に開示される手順を実施することによって調製することができる。
【0049】
また、式(I)の化合物の医薬として許容される塩及び本明細書に例示される具体的な化合物の医薬として許容される塩、及びこのような塩を用いる治療方法も含まれる。
【0050】
「医薬として許容される塩」は、無毒であるか、生物学的に耐容性であるか、又は別の理由で対象に投与するのに生物学的に好適である、式(I)によって表される化合物の遊離の酸又は塩基の塩を意味することを意図する。一般的には、G.S.Paulekuhn,「Trends in Active Pharmaceutical Ingredient Salt Selection based on Analysis of the Orange Book Database」,J.Med.Chem.,2007,50:6665~72、S.M.Berge,「Pharmaceutical Salts」,J Pharm Sci.,1977,66:1~19、及びHandbook of Pharmaceutical Salts,Properties,Selection,and Use,Stahl and Wermuth,Eds.,Wiley-VCH and VHCA,Zurich,2002を参照されたい。医薬として許容される塩の例は、薬理学的に有効であり、かつ過度の毒性、刺激、又はアレルギー反応を伴わずに患者の組織と接触するのに好適な塩である。
【0051】
医薬として許容される塩の例としては、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソ酪酸塩、カプロン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン-1,4-二酸塩、ヘキシン-1,6-二酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、スルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、γ-ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、酒石酸塩、メタン-スルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン-1-スルホン酸塩、ナフタレン2-スルホン酸塩、及びマンデル酸塩が挙げられる。
【0052】
望ましい医薬として許容される塩は、当該技術分野で利用可能な任意の好適な方法によって、例えば、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、硝酸、ホウ酸、リン酸など)、又は有機酸(例えば、酢酸、フェニル酢酸、プロピオン酸、ステアリン酸、乳酸、アスコルビン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、イセチオン酸、コハク酸、吉草酸、フマル酸、マロン酸、ピルビン酸、シュウ酸、グリコール酸、サリチル酸、オレイン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ピラノシジル酸(例えば、グルクロン酸又はガラクツロン酸)、α-ヒドロキシ酸(例えば、マンデル酸、クエン酸、又は酒石酸)、アミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタル酸、又はグルタミン酸)、芳香族酸(例えば、安息香酸、2-アセトキシ安息香酸、ナフトエ酸、又は桂皮酸)、スルホン酸(例えば、ラウリルスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸))、本明細書に例として与えられるものなどの酸の任意の適合性混合物、並びにこの技術における通常の技術レベルに照らして等価物又は許容可能な代替物としてみなされる任意の他の酸及びその混合物で遊離塩基を処理することによって調製することができる。
【0053】
式(I)の化合物が酸、例えば、カルボン酸又はスルホン酸であるとき、望ましい医薬として許容される塩は、任意の好適な方法によって、例えば、遊離酸を無機又は有機塩基、例えばアミン(一級、二級又は三級)、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、本明細書に例として与えられるものなどの塩基の任意の適合性混合物、並びに当該技術分野における通常の技能に照らして等価物又は許容可能な代替物としてみなされる任意の他の塩基及びその混合物で処理することによって調製することができる。好適な塩の具体例には、アミノ酸、例えばN-メチル-D-グルカミン、リジン、コリン、グリシン及びアルギニン、アンモニア、炭酸塩、重炭酸塩、第一級、第二級及び第三級アミン及び環式アミン、例えばトロメタミン、ベンジルアミン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン及びピペラジンから生じさせた有機塩、並びにナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、マンガン、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム及びリチウムから生じさせた無機塩が挙げられる。
【0054】
式(I)の化合物の医薬として許容されるプロドラッグ、及びこのような医薬として許容されるプロドラッグを使用する治療方法も想到される。「プロドラッグ」という用語は、対象に投与した後に化学的又は生理学的プロセス、例えば加溶媒分解又は酵素による開裂により、又は生理学的条件下で、インビボで当該化合物を生じる(例えばプロドラッグを生理学的pHにすると式(I)の化合物に変換される)指定化合物の前駆体を意味する。「医薬として許容されるプロドラッグ」とは、無毒であり、生物学的に耐容性であり、かつ別の理由で対象に投与するのに生物学的に好適であるプロドラッグである。好適なプロドラッグ誘導体の選択及び調製の例示的な手順は、例えば、「Design of Prodrugs」、H.Bundgaard編、Elsevier、1985年に記載されている。
【0055】
例示的なプロドラッグとしては、式(I)の化合物の遊離のアミノ、ヒドロキシ又はカルボン酸基にアミド又はエステル結合を介して共有結合している、アミノ酸残基、又は2つ以上(例えば、2、3又は4)のアミノ酸残基のポリペプチド鎖を有する化合物が挙げられる。アミノ酸残基の例としては、一般に3文字記号によって表記される、天然に存在する20種のアミノ酸に加えて、4-ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリシン、デモシン、イソデモシン、3-メチルヒスチジン、ノルバリン、ベータ-アラニン、ガンマ-アミノ酪酸、シトルリン、ホモシステイン、ホモセリン、オルニチン、及びメチオニンスルホンが挙げられる。
【0056】
例えば式(I)の構造の遊離カルボキシル基を、アミド又はアルキルエステルとして誘導体化することにより、更なる種類のプロドラッグを製造してもよい。アミドの例としては、アンモニア、一級C1~6アルキルアミン及び二級ジ(C1~6アルキル)アミンから誘導されるものが挙げられる。二級アミンとしては、5員又は6員のヘテロシクロアルキル又はヘテロアリール環部分が挙げられる。アミドの例としては、アンモニア、C1~3アルキル一級アミン、及びジ(C1~2アルキル)アミンから誘導されるものが挙げられる。エステルの例としては、C1~7アルキル、C5~7シクロアルキル、フェニル、及びフェニル(C1~6アルキル)エステルが挙げられる。好ましいエステルとしては、メチルエステルが挙げられる。また、プロドラッグは、Fleisher,Adv.Drug Delivery Rev.1996,19,115~130に概説されているものなどの手順に従って、半コハク酸エステル、リン酸エステル、ジメチルアミノ酢酸エステル、及びホスホリルオキシメチルオキシカルボニルを含む基を用いて遊離ヒドロキシ基を誘導体化することによって、調製することもできる。ヒドロキシ基及びアミノ基のカルバメート誘導体もプロドラッグを生じさせる場合がある。ヒドロキシ基の炭酸塩誘導体、スルホン酸エステル、及び硫酸エステルもプロドラッグを提供する場合がある。また、(アシルオキシ)メチル及び(アシルオキシ)エチルエーテル(アシル基は、1つ以上のエーテル、アミン若しくはカルボン酸官能基で任意に置換されているアルキルエステルであってもよく、又はアシル基は、上記のアミノ酸エステルである)としてヒドロキシ基を誘導体化することも、プロドラッグを生じさせるために有用である。この種のプロドラッグは、Robinson,J.Med.Chem.1996,39(I),10~18に記載のとおり調製することができる。また、遊離アミンは、アミド、スルホンアミド、又はホスホンアミドとして誘導体化することもできる。これらプロドラッグ部分の全ては、エーテル(-O-)、アミン(-N-)、及びカルボン酸(COO-)官能基を含む基を組み込んでもよい。
【0057】
III.組成物
式(I)の化合物を含む、本明細書に記載される化合物は、対象に投与するために医薬組成物として処方することができる。したがって、医薬組成物は、(a)有効量の本明細書に記載される少なくとも1つの化合物と、(b)医薬として許容できる賦形剤とを含み得る。「医薬として許容される賦形剤」は、薬理学的組成物に添加されるか、あるいは薬剤の投与を容易にするビヒクル、担体又は希釈剤として用いられかつその薬剤と相溶する、例えば、不活性な物質のような、毒性を有しないか、生物学的に許容されるか、あるいは対象に投与するうえで生物学的に適した物質を指す。賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖及びデンプンの種類、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0058】
本明細書に記載される化合物の1つ以上の投薬単位を含有する医薬組成物の送達形態は、好適な医薬賦形剤、及び当業者に既知であるか又は利用可能になっている配合技法を用いて調製することができる。組成物は、本発明の方法において、好適な送達経路、例えば、経口、非経口、直腸内、局所、眼経路によって、又は吸入によって投与され得る。
【0059】
調製物は、錠剤、カプセル剤、サッシェ剤、糖衣錠、粉剤、顆粒剤、ロゼンジ剤、再構成用粉剤、又は液体調製物の形態であり得る。いくつかの実施形態では、組成物は、静脈内注射、局所投与、又は経口投与用に処方される。特定の実施形態では、組成物は、即時放出用に処方される。
【0060】
経口投与の場合、化合物は、錠剤若しくはカプセル剤の形態で、又は液剤、乳剤、若しくは懸濁剤として提供され得る。特定の実施形態では、化合物は、食品と共に摂取してよい。
【0061】
経口錠剤は、医薬として許容される賦形剤、例えば、不活性充填剤、希釈剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、甘味剤、着香剤、着色剤、流動促進剤、及び保存剤と混合された化合物を含み得る。好適な不活性充填剤としては、炭酸ナトリウム及び炭酸カルシウム、リン酸ナトリウム及びリン酸カルシウム、ラクトース、ラクトース一水和物、デンプン、糖、グルコース、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール、ソルビトール、ヒプロメロースなどが挙げられる。例示的な経口用液体賦形剤としては、エタノール、グリセロール、水などが挙げられる。デンプン、ポリビニルピロリドン、グリコール酸ナトリウムデンプン、微結晶セルロース、クロスポビドン(架橋ポリビニルN-ピロリドン又はPVP)、及びアルギン酸が、好適な崩壊剤である。結合剤は、ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はHPMC)、デンプン、及びゼラチンを含み得る。滑沢剤は、存在する場合、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、又はタルクであってよい。流動促進剤は、存在する場合、コロイダルシリカなどのシリカ(SiO2)であってよい。必要に応じて、錠剤をモノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルなどの物質でコーティングして、消化管内での吸収を遅延させてもよく、又は腸溶コーティングでコーティングしてもよい。
【0062】
経口投与用カプセルとしては、ハードゼラチンカプセル及びソフトゼラチンカプセルが挙げられる。硬質ゼラチンカプセルを調製するために、化合物を固形状、半固形状、又は液状の希釈剤と混合してもよい。軟質ゼラチンカプセルは、化合物を水、ピーナッツオイル若しくはオリーブ油などの油、流動パラフィン、短鎖脂肪酸のモノ及びジ-グリセリドの混合物、ポリエチレングリコール400、又はプロピレングリコールと混合することによって調製することができる。
【0063】
経口投与用の液体は、懸濁剤、液剤、乳剤若しくはシロップ剤の形態であってもよく、又は使用前に水若しくは他の好適なビヒクルで再構成するために凍結乾燥させてもよく若しくは乾燥製品として提示してもよい。このような液体組成物は、所望により、医薬として許容される賦形剤、例えば、懸濁化剤(例えば、ソルビトール、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムゲルなど);非水性ビヒクル、例えば、油(例えば、アーモンド油又は分留ヤシ油)、プロピレングリコール、エチルアルコール又は水;保存剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸メチル若しくはp-ヒドロキシ安息香酸プロピル、又はソルビン酸);レシチンなどの湿潤剤;及び必要に応じて着香剤又は着色剤を含有していてもよい。
【0064】
また、本明細書に記載される化合物は、非経口経路によって投与されてもよい。例えば、化合物は、直腸内投与用に処方されてもよい。静脈内、筋肉内、又は腹腔内経路を含む非経口用途の場合、化合物は、適切なpH及び等張性に緩衝された無菌の水溶液若しくは懸濁液中、又は非経口的に許容できる油中で提供されてもよい。好適な水性ビヒクルとしては、リンガー液及び等張性塩化ナトリウムが挙げられる。かかる形態は、アンプル又は使い捨て注射装置などの単位用量形態、適切な用量を引き抜くことができるバイアルなどの多用量形態、又は注射可能な製剤を調製するために使用できる固体形態若しくは予濃縮物で提示されることになる。例示的な注入用量は、数分~数日の範囲の期間にわたって注入される、医薬担体と混合された化合物約1~1000μg/kg/分の範囲であり得る。
【0065】
局所投与の場合、化合物を、ビヒクルに対して約0.1%~約10%の薬物の濃度で医薬担体と混合してよい。化合物を投与する別の様式では、経皮送達を行うためにパッチ製剤を利用してもよい。
【0066】
あるいは、化合物は、吸入によって、鼻又は口経路を介して、例えば、好適な担体も含有する噴霧製剤で投与してもよい。
【0067】
VI.うつ病の治療方法
本明細書に記載のとおり、本発明者らは、記載される化合物をうつ病と診断された対象に対して使用したとき、驚くべき、強い抗うつ効果を見出した。理論に束縛されるものではないが、オレキシン含有ニューロンの活性は睡眠中(典型的には夜間)無視できる程度であるので、本明細書で論じられる化合物の抗うつ有効性は驚くべきことであると考えられる。本明細書に開示されるように、本開示の化合物の睡眠前(典型的には夜間)の投与は、統計的に有意な抗うつ有効性と関連し、この有効性は睡眠項目に対する影響とは関連しない。
【0068】
したがって、うつ病に罹患しているか又はうつ病であると診断された対象を治療する方法が提供される。これら方法は、このような治療を必要とする対象に、有効量の、本明細書に記載される化合物を投与することを含む。特定の実施形態では、化合物は、式(I)の化合物である。
【0069】
化合物は、好ましくは、1日1回投与され、睡眠前に対象に投与される。例えば、化合物は、睡眠前約2時間以内、約1時間以内、又は約30分間以内に投与される。他の実施形態では、化合物は、対象が覚醒するか又は睡眠から覚めようとする約5時間前、約5.5時間前、約6時間前、約6.5時間前、約7時間前、約7.5時間前、約8時間前、約8.5時間前、約9時間前、約9.5時間前、約10時間前、約10.5時間前、約11時間前、約11.5時間、又は約12時間前を含む、対象が覚醒するか又は睡眠から覚めようとする少なくとも約4時間前に投与される。特定の実施形態では、化合物は、対象が覚醒するか又は睡眠から覚めようとする少なくとも6時間~約12時間前に投与される。好ましい実施形態では、化合物は夜間に投与される。
【0070】
化合物の投与後、化合物は、対象が睡眠から覚める前に、少なくとも1半減期を経る。他の実施形態では、化合物は、対象が睡眠から覚める前に、少なくとも2半減期、好ましくは少なくとも3半減期を経る。
【0071】
望ましくは、化合物は、化合物の投与の約6時間~約8時間後、薬力学的効果に必要な閾値を下回る。これは、患者における抗うつ剤の濃度を定常状態にするために設計される当該技術分野における抗うつ剤とは異なる。本明細書に記載される方法は、薬物の投与の1~8時間後、薬物の濃度が薬力学的レベルを下回り、薬物の次の用量が投与されるまで、24時間の治療期間の残りの時間、このレベルを維持する点で異なる。
【0072】
本明細書に記載される化合物の治療的に有効な量は、治療される疾患又は障害の症状の緩和を含む、研究者、獣医、医師又は他の臨床医により求められている組織系、動物、又はヒト内の生物学的反応又は医学的反応を誘発する量を含む。投与される最適用量は、当業者が容易に決定することができ、かつ、投与方法、調製物の強度、及び病状の進行度によって変化し得る。とりわけ、そのような因子には、治療される具体的な患者、例えば、患者の性別、年齢、体重、食事、投与時間、及び付随する疾患などが含まれる。特定の実施形態では、本明細書に記載される化合物の各用量の有効量は、単一又は分割の投薬単位(このような投薬単位の例は、2.5mg、5mg、10mg、及び20mgの錠剤を含む)において、1日当たり対象の体重1kg当たり化合物約0.001~約200mg、約0.05~100mg/kg/日、又は約1~35mg/kg/日である。70kgのヒトの場合では、好適な投薬量の例示的な範囲は、約0.05~約7g/日又は約0.2~約2.5g/日である。
【0073】
本明細書に記載される化合物の有効量は、対象の体重を参照することなく記載することもできる。したがって、化合物の有効量は、約10~約60mgである。いくつかの実施形態では、化合物の有効量は、約10mg、約15mg、約20mg、約25mg、約30mg、約35mg、若しくは約40mg、又はこれら値のうちの任意の2つによって定義される範囲内である。
【0074】
化合物の有効量は、単回日用量で投与され得る。更なる実施形態では、化合物は、毎日投与され、最初の投与、すなわち、1日目から約11日間以内にうつ病の1つ以上の症状が低減又は改善される。
【0075】
頻度の調整は、頻度を1回変更することによって行われてもよく、又は2回以上の投与にわたって決定されてもよい。そうすることによって、主治医などが最適な投与頻度を決定し、それによって、患者に合わせて投与を調整することができる。
【0076】
これら方法では、本明細書に記載される化合物の臨時追加用量の投与も想到される。用語「臨時追加用量」は、本明細書で使用するとき、定期的に処方される用量に追加される、本明細書に記載される化合物の1つ以上の追加の用量を指す。臨時追加用量における本明細書に記載される化合物の量は、処方医又は臨床医が決定することができ、本明細書で論じられる任意の要因に依存する。特定の実施形態では、本明細書に記載される化合物の臨時追加用量は、通常の投与スケジュール中に用いられる有効量と同じである。他の実施形態では、臨時追加用量は、通常の投与スケジュール中に用いられる有効量とは異なる。
【0077】
本明細書に記載される方法において、患者における反応の維持は、例えば、臨床医、医師、精神科医、心理学者、又は他の好適な医療専門家によって決定され得ることを当業者は理解するであろう。更に、抗うつ反応の維持は、例えば、うつ病(又はうつ病の1つ以上の症状)の再発がないことによって、うつ病に対する追加の若しくは代替的な治療の必要がないことによって、又はうつ病の悪化がないことによって確定することができる。医師又は主治医は、限定するものではないが、一般的な患者の評価、診断質問票、並びに臨床全般印象-重篤度(Clinical Global Impression - Severity、CGI-S)尺度、EuroQol;5項目;5水準(EQ-5D-5L)、患者健康質問票-9項目(Patient Health Questionnaire- 9 Item、PHQ-9)、Sheehan障害尺度(Sheehan Disability Scale、SDS)、簡易抑うつ症状尺度-自己報告、30項目尺度(Inventory of Depressive Symptomatology-Clinician rated, 30-item scale、IDS-C30)、Montgomery Asbergうつ病評価尺度(Montgomery-Asberg Depression Rating Scale、MADRS)質問票、ハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton rating scale for depression、HAM-D又はHDRS) Beckうつ病尺度、又は簡易抑うつ症状尺度(Quick Inventory of Depressive Symptomology、QIDS)などの評価を含む当該技術分野において公知の任意の技術を利用することができる。上記の尺度又は質問票の1つ以上のスコアが変化した場合に、頻度を評価及び/又は変更してよい。
【0078】
更に、化合物は、上述の症状の治療において、更なる活性成分と組み合わせて使用され得る。更なる活性成分は、同時に、別々に、又は逐次投与されてよい。いくつかの実施形態では、例えば、別のオレキシン調節因子、又は特定の病状、障害若しくは疾患に関連する別の標的に対して活性のある化合物などの更なる活性成分が、オレキシン活性によって媒介される病状、障害、又は疾患の治療において有効である。このような組み合わせは、有効性を増大させる(例えば、本明細書における化合物の効力又は効果を高める化合物を組み合わせに含めることによって)、1つ以上の副作用を減少させる、又は本明細書に記載される化合物又は更なる活性剤の必要量を低減する機能を有し得る。特定の実施形態では、更なる活性成分は、抗うつ剤である。他の実施形態では、更なる活性成分は、モノアミン作動性抗うつ剤である。
【0079】
したがって、式(I)の化合物は、第2の抗うつ剤と組み合わせて使用することができる。第2の抗うつ剤は、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体アンタゴニスト、ノルエピネフリン再取込み阻害剤、選択的セロトニン再取込み阻害剤(selective serotonin reuptake inhibitors、SSRI)、モノアミン酸化酵素阻害剤(monoamine oxidase inhibitors、MAOI)、モノアミン酸化酵素の可逆的阻害剤(reversible inhibitors of monoamine oxidase、RIMA)、セロトニン及びノルアドレナリン再取込み阻害剤(serotonin and noradrenaline reuptake inhibitors、SNRI)、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ剤(noradrenergic and specific serotonergic antidepressants、NaSSAs)、コルチコトロピン放出因子(corticotropin releasing factor、CRF)アンタゴニスト、αアドレナリン受容体アンタゴニスト、並びに非定型抗うつ剤などのうつ病と戦うために使用される従来の薬物であってよい。いくつかの実施形態では、N-メチル-D-アスパラギン酸(N-methyl-D-aspartate、NMDA)受容体アンタゴニストは、そのラセミ体を含むケタミン、エスケタミン、アルケタミン、又はこれらの組み合わせである。更なる実施形態では、ノルエピネフリン再取込み阻害剤としては、アミトリプチリン、クロミプラミン、ドキセピン、イミプラミン、トリミプラミン、アモキサピン、デシプラミン、マプロチリン、ノルトリプチリン、プロトリプチリン、レボキセチン、又はこれらの医薬として許容される塩が挙げられる。他の実施形態では、選択的セロトニン再取込み阻害剤としては、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、又はこれらの医薬として許容される塩が挙げられる。更なる実施形態では、モノアミン酸化酵素阻害剤としては、イソカルボキサジド、フェネルジン、トラニルシプロミン、セレギリン、及びこれらの医薬として許容される塩が挙げられる。更に他の実施形態では、モノアミン酸化酵素の可逆的阻害剤としては、モクロベミド又はその医薬として許容される塩が挙げられる。また更なる実施形態では、セロトニン及びノルアドレナリン再取込み阻害剤としては、ベンラファキシン又はその医薬として許容される塩が挙げられる。他の実施形態では、非定型抗うつ剤としては、ブプロピオン、リチウム、ネファゾドン、トラゾドン、ビロキサジン、シブトラミン、又はこれらの医薬として許容される塩が挙げられる。なお更なる実施形態では、第2の抗うつ剤としては、アジナゾラム、アラプロクラート、アミネプチン、アミトリプチリン/クロルジアゼポキシドの組み合わせ、アチパメゾール、アザミアンセリン、バジナプリン、ベフラリン、ビフェメラン、ビノダリン、ビペナモール、ブロファロミン、ブプロピオン、カロキサゾン、セリクラミン、シアノプラミン、シモキサトン、シタロプラム、クレメプロール、クロボキサミン、ダゼピニル、デアノール、デメキシプチリン、ジベンゼピン、ドチエピン、ドロキシドパ、エネフェキシン、エスタゾラム、エトペリドン、フェモキセチン、フェンガビン、フェゾラミン、フルオトラセン、イダゾキサン、インダルピン、インデロキサジン、イプリンドール、レボプロチリン、リトキセチン、ロフェプラミン、メジホキサミン、メタプラミン、メトラリンドール、ミアンセリン、ミルナシプラン、ミナプリン、ミルタザピン、モンニレリン(monirelin)、ネブラセタム、ネホパム、ニアラミド、ノミフェンシン、ノルフルオキセチン、オロチレリン、オキサフロザン、ピナゼパム、ピルリンドン(pirlindone)、ピゾチリン、リタンセリン、ロリプラム、セルクロレミン、セチプチリン、シブトラミン、スルブチアミン、スルピリド、テニロキサジン、トザリノン、チモリベリン(thymoliberin)、チアネプチン、チフルカルビン、トフェナシン、トフィソパム、トロキサトン、トモキセチン、ベラリプリド、ビクアリン、ジメリジン、ゾメタピン、若しくはこれらの医薬として許容される塩;又はセントジョーンズワートハーブ、セイヨウオトギリソウ、又はこれらの抽出物が挙げられる。
【0080】
いくつかの実施形態では、式(I)の化合物は、エスケタミンと同時投与される。更なる実施形態では、式(I)の化合物は、エスケタミンとは別々に、例えば、逐次投与される。式(I)の化合物は、エスケタミンの前又は後に投与され得る。
【0081】
V.キット
うつ病を治療するために本明細書に記載される1つ以上の化合物を患者に投与するためのキットも本明細書に記載される。代表的なキットは、患者に所与の頻度で投与するため、有効量の本明細書に記載される1つ以上の化合物を含む1つ以上の投薬単位を含む。
【0082】
投薬単位は、任意の手段による送達用に製剤化され得る。特定の実施形態では、投薬単位は、経口、静脈内、鼻腔内、筋肉内、舌下、経皮、耳内、又は直腸内送達用に製剤化される。特定の実施形態では、投薬単位は、経口送達用に処方される。
【0083】
投薬単位は、投与経路に応じて、任意の量の本明細書に記載される化合物を含有するように処方され得る。したがって、各投薬単位は、患者に対して必要な投薬量を含んでもよく、又は1回の投薬量として必要な、本明細書に記載される化合物の一部を含んでもよい。
【0084】
キットは、所望により、うつ症状の評定尺度質問票も含む。質問票は、患者が単独で、又は医師と一緒に使用するためのものであってよい。質問票は、化合物投与の任意の段階における患者のうつ病のレベルを判定するのに有用であり得る。一実施形態では、質問票は、本明細書に記載される質問票のうちの1つ以上である。
【0085】
また、特許請求される方法の実施及び化合物の投与に関する指示書も、本明細書に記載されるキットに含まれていてよい。
【0086】
キットは、本明細書に記載される化合物を含有する単一製剤又はそれぞれが本明細書に記載される化合物を含有する製剤の組み合わせを示すようにオーガナイズされてもよい。組成物は、適切な量の本明細書に記載される化合物を含有するように細分割されてもよい。単位用量は、分包散剤、水薬瓶、アンプル、プレフィルド注射器、錠剤、カプレット、カプセル、又は液体を含有するサッシェなど、パッケージ化された組成物であってもよい。
【0087】
本明細書に記載される化合物は、単回投与であってもよく、又は連続的投与若しくは周期的な不連続投与用であってもよい。連続投与では、キットは、各投薬単位に本明細書に記載される化合物を含み得る。本明細書に記載される化合物の濃度、本明細書に記載される化合物を含有する組成物の構成成分、又は組成物中の本明細書に記載される化合物若しくは他の剤の相対比率が経時的に変化することが望ましいとき、キットは一連の投薬単位を含有し得る。
【0088】
キットは、所望の送達経路用に処方された、本明細書に記載される化合物の入ったパッケージ又は容器を含有し得る。また、キットは、投与指示書、本明細書に記載される化合物に関する挿入物、化合物の血中濃度をモニタリングするための指示書、又はこれらの組み合わせを含み得る。化合物を使用するための道具が更に含まれてもよく、例えば、限定するものではないが、試薬、ウェルプレート、容器、マーカー、又はラベルなどが挙げられる。かかるキットは、所望の適応症の治療に適した方法でパッケージされ得る。
【0089】
かかるキットに含まれる他の好適な構成要素は、所望の適応症及び送達経路を考慮すれば当業者には容易に明らかとなるであろう。また、キットは、化合物を患者に注入/投与するのを支援する器具を含んでもよく、又はその器具と共にパッケージされてもよい。このような器具としては、限定するものではないが、吸入器、注射器、ピペット、ピンセット、計量スプーン、点眼器、又は任意のこのような医学的に認められた送達手段が挙げられる。他の器具使用としては、インビトロにおける反応を読み取る又はモニタリングするのを可能にする装置を挙げることができる。
【0090】
化合物は、乾燥形態、凍結乾燥形態、又は液体形態で提供され得る。試薬又は構成成分が乾燥形態として提供される場合、再構成は、一般に、溶媒を添加することによって行われる。溶媒は、別のパッケージ手段で提供されてもよく、当業者によって選択されてもよい。
【0091】
医薬品を分配するための多くのパッケージ又はキットが当業者に既知である。特定の実施形態では、パッケージは、ラベル付ブリスターパッケージ、ダイアルディスペンサーパッケージ、又はボトルである。
【0092】
また、うつ病を有する又はうつ病にかかりやすい患者のために化合物の投薬量を最適化する方法も提供される。これら方法は、(a)有効量の化合物を患者に投与することと、(b)化合物の効果を分析することと、(c)規定の期間より低頻度で有効量の化合物を患者に投与することとを含み得る。
【0093】
VI.態様
本開示は、少なくとも以下の態様を含む。
【0094】
態様1.うつ病に罹患しているか又はうつ病と診断された対象を治療する方法であって、このような治療を必要とする対象に、有効量の、式(I)の化合物:
【0095】
【化6】
(式中、R
1は、C
1~4アルキルであり、R
2は、C
1~4アルキルであり、R
3は、H又はハロゲンであり、R
4は、H又はC
1~4アルコキシである)、又はその医薬として許容される塩若しくは水和物を投与することを含み、化合物が、睡眠前に投与される、方法。
【0096】
態様2.対象が、不眠障害に罹患しておらず、不眠障害と診断されてもいない、態様1に記載の方法。
【0097】
態様3.R3がハロゲンである、態様1又は2に記載の方法。
【0098】
態様4.R3がフッ素である、態様1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0099】
態様5.R4がHである、態様1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0100】
態様6.R4がC1~4アルコキシである、態様1又は2に記載の方法。
【0101】
態様7.R4がメトキシである、態様1、2、又は6のいずれか1つに記載の方法。
【0102】
態様8.R3がHである、態様1、2、6、又は7のいずれか1つに記載の方法。
【0103】
態様9.R1がCH3である、態様1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0104】
態様10.R2がCH3である、態様1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0105】
態様11.化合物が、5-(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-ヘキサヒドロ-ピロロ[3,4-c]ピロール-2-イル]-(2-フルオロ-6-[1,2,3]トリアゾール-2-イル-フェニル)-メタノン又はその医薬として許容される塩である、態様1又は2に記載の方法。
【0106】
態様12.化合物が、5-(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-ヘキサヒドロ-ピロロ[3,4-c]ピロール-2-イル]-(2-フルオロ-6-[1,2,3]トリアゾール-2-イル-フェニル)-メタノンである、態様1、2、又は11に記載の方法。
【0107】
態様13.化合物が、5-(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-ヘキサヒドロ-ピロロ[3,4-c]ピロール-2-イル]-(2-フルオロ-6-[1,2,3]トリアゾール-2-イル-フェニル)-メタノン塩酸塩である、態様1、2、又は11に記載の方法。
【0108】
態様14.化合物が、5-(4,6-ジメチルピリミジン-2-イル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-c]ピロール-2(1H)-イル)(4-メトキシ-2-(2H-1,2,3-トリアゾール-2-イル)フェニル)メタノン又はその医薬として許容される塩である、態様1又は2に記載の方法。
【0109】
態様15.化合物が、(5-(4,6-ジメチルピリミジン-2-イル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-c]ピロール-2(1H)-イル)(4-メトキシ-2-(2H-1,2,3-トリアゾール-2-イル)フェニル)メタノンである、態様1、2、又は12のいずれか1つに記載の方法。
【0110】
態様16.化合物が、5-(4,6-ジメチルピリミジン-2-イル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-c]ピロール-2(1H)-イル)(4-メトキシ-2-(2H-1,2,3-トリアゾール-2-イル)フェニル)メタノン水和物である、態様1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0111】
態様17.化合物が、5-(4,6-ジメチルピリミジン-2-イル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-c]ピロール-2(1H)-イル)(4-メトキシ-2-(2H-1,2,3-トリアゾール-2-イル)フェニル)メタノン塩酸塩水和物である、態様1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0112】
態様18.化合物が、5-(4,6-ジメチルピリミジン-2-イル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-c]ピロール-2(1H)-イル)(4-メトキシ-2-(2H-1,2,3-トリアゾール-2-イル)フェニル)メタノン臭化水素酸塩水和物である、態様1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0113】
態様19.化合物が夜間に投与される、態様1~18のいずれか1つに記載の方法。
【0114】
態様20.化合物の最高血漿濃度になるまでにかかる時間が約1時間未満であるように、化合物が投与される、態様1~19のいずれか1つに記載の方法。
【0115】
態様21.化合物の排出半減期が約2~約3時間である、態様1~20のいずれか1つに記載の方法。
【0116】
態様22.化合物が、対象が睡眠から覚めようとする少なくとも約4時間前に対象に投与される、態様1~21のいずれか1つに記載の方法。
【0117】
態様23.化合物が、化合物の投与の約6時間~約8時間後、薬力学的効果に必要な閾値を下回る、態様1~22のいずれか1つに記載の方法。
【0118】
態様24.化合物が、対象が睡眠から覚める前に少なくとも2半減期を経る、態様1~23のいずれか1つに記載の方法。
【0119】
態様25.化合物が定常状態に達しない、態様1~24のいずれか1つに記載の方法。
【0120】
態様26.化合物が毎日投与される、態様1~25のいずれか1つに記載の方法。
【0121】
態様27.化合物が経口投与される、態様1~26のいずれか1つに記載の方法。
【0122】
態様28.有効量が、約0.05~約100mg/kg/日である、態様1~27のいずれか1つに記載の方法。
【0123】
態様29.有効量が、約10~約40mgである、態様1~28のいずれか1つに記載の方法。
【0124】
態様30.化合物が、毎日投与され、最初の投与の約11日間以内にうつ病の1つ以上の症状が低減又は改善される、態様1~29のいずれか1つに記載の方法。
【0125】
態様31.うつ病が、大うつ病性障害、持続性うつ病性障害、双極性疾患に関連するうつ病、季節性感情障害、精神病性うつ病、産後うつ病、月経前不快気分障害、状況うつ病、無快感症、メランコリー、中年うつ病、晩年うつ病、特定可能なストレッサーに起因するうつ病、治療抵抗性うつ病、又はこれらの組み合わせを含む、態様1~30のいずれか1つに記載の方法。
【0126】
態様32.うつ病が大うつ病性障害である、態様31に記載の方法。
【0127】
態様33.大うつ病性障害が、憂鬱の特徴又は不安による苦悩を伴う、態様32に記載の方法。
【0128】
態様34.第2の抗うつ剤を投与することを更に含む、態様1~33のいずれか1つに記載の方法。
【0129】
態様35.上記第2の抗うつ剤が、ノルエピネフリン再取込み阻害剤、選択的セロトニン再取込み阻害剤、モノアミン酸化酵素阻害剤、モノアミン酸化酵素の可逆的阻害剤、セロトニン及びノルアドレナリン再取込み阻害剤、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ剤、コルチコトロピン放出因子アンタゴニスト、αアドレナリン受容体アンタゴニスト、非定型抗うつ剤、NMDAアンタゴニスト、又はこれらの組み合わせである、態様34に記載の方法。
【0130】
態様36.上記NMDAアンタゴニストがエスケタミンである、態様35に記載の方法。
【0131】
以下の実施例は、本開示の理解を助けるために記載するものであり、本明細書に付属する「特許請求の範囲」に記載される発明をいかなる意味においても限定することを意図するものではなく、またそのように解釈されるべきでもない。
【実施例】
【0132】
(実施例1)
この実施例は、懸濁製剤に対する、単一用量錠剤投与後の[5(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-ヘキサヒドロ-ピロロ[3,4-c]ピロール-2-イル]-(2-フルオロ-2-[1,2,3]トリアゾール-2-イル-フェニル)-メタノン(化合物A)の固体用量製剤の血漿薬物動態(plasma pharmacokinetic、PK)及び生物学的利用能を決定するために実施した。また、固体用量製剤の生物学的利用能の割合及び程度、並びに固体及び経口懸濁製剤の忍容性に対する半絶食状態の効果についても調べる。
【0133】
(i)試薬及び試験パラメータ
エタノール/2-プロパノール混合物の代わりにエタノールを使用して再結晶化を実施したことを除いて、米国特許第8,653,263号の実施例107の方法Bに記載のとおり、[5(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-ヘキサヒドロ-ピロロ[3,4-c]ピロール-2-イル]-(2-フルオロ-2-[1,2,3]トリアゾール-2-イル-フェニル)-メタノン(化合物A)を調製した。
【0134】
内部標準は、以下の構造を有する同位体標識された[5-(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-ヘキサヒドロ-ピロロ[3,4-c]ピロール-2-イル]-(2-フルオロ-2-[1,2,3]トリアゾール-2-イル-フェニル)-メタノンであった。
【0135】
【0136】
内部標準は、以下の構造の同位体標識された2-クロロ-4,6-ジメチルピリミジンを使用して調製された、同位体標識された中間体92、すなわち、2-(4,6-ジメチルピリミジン-2-イル)オクタヒドロピロロ[3,4-c]ピロール,ビス-HCl塩を使用して工程bを実施したことを除いて、米国特許第8,653,263号の実施例107の方法Bに記載のとおり調製した。
【0137】
【0138】
各処理期間中に、PK測定用に血液サンプルを収集した。具体的には、化合物の血漿濃度を決定するために各3mLの静脈血液サンプルを収集した。実際の血液サンプリング時間を使用して、以下の血漿化合物A PKパラメータを推定した:
・Cmaxピーク血漿濃度。
・tmaxピーク血漿濃度に到達するまでの時間。
・AUClast台形加算によって計算された、試験薬物投薬後0~t時間の血漿濃度-時間曲線下面積(時間tは、最後の定量可能な濃度Clastの時間である)。
・AUC∞ AUClast+Clast/λzとして計算された、無限に外挿されたAUClast。
・λz ln-線形血漿濃度-時間曲線の終点の線形回帰によって決定される排出速度定数。
・t1/2 0.693/λzとして定義される消失半減期。
・CL/F Dose/AUC∞として計算される、絶対生物学的利用能について補正されていない、血管外投与後の薬物の総クリアランス。
・Vd/F絶対生物学的利用能について補正されていない、血管外投与後の見かけの分布体積。
【0139】
表1~4に記載の機器及びパラメータを使用し、LC-MS/MSを使用して、化合物Aの血漿レベルを決定した。
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
以下に従って、化合物Aについて2つの原液、及び内部標準化合物Bについて1つの原液を調製した。
・化合物A原液:原液希釈溶媒(10.0mL)に化合物A(1.00mg)を溶解させることによって、この溶液を調製した。
・化合物A過曲線(Overcurve)原液:2.00mLの原液希釈溶媒(2.00mL)に化合物A(2.00mg)を溶解させることによって、この溶液を調製した。
・化合物B原液:10.0mLの原液希釈溶媒(2.00mL)に化合物B(1.00mg)を溶解させることによって、この溶液を調製した。
【0145】
以下に従って、化合物A及び内部参照について標準原液を調製した。
・化合物A標準溶液1(10.0μg/mL):化合物A原液(1000μL)を原液希釈溶媒(10.0mL)と合わせた。
・化合物A標準溶液2(1.00μg/mL):化合物A原液(100μL)を原液希釈溶媒(10.0mL)と合わせた。
・化合物A標準溶液3(0.100μg/mL):化合物A原液(10.0μL)を原液希釈溶媒(10.0mL)と合わせた。
・化合物B作業溶液(Working Solution)(200mg/mL):化合物B原液(200μL)を原液希釈溶媒(100mL)と合わせた。
【0146】
以下のプロトコルを用いて試験用にサンプルを調製した:
i.室温の血漿サンプルをホモジナイズした。
ii.約2500×g及び20℃で5分間、サンプルを遠心分離した。
iii.血漿サンプル(50.0μL)を、1.2mL丸底ウェル収集プレートにピペットで入れた。
iv.原液希釈溶媒(50.0μL)をブランクに添加し、内部標準作業溶液を全ての他のチューブに添加した。次いで、チューブを10秒間ボルテックスした。
v.アセトニトリル(100μL)を各チューブに添加し、そのチューブを10秒間再度ボルテックスで混合した。
vi.アセトニトリル(250μL)を各チューブに更に添加し、そのチューブを60秒間再度ボルテックスで混合した。
vii.約2500×g及び20℃で5分間、サンプルを遠心分離した。
viii.リキデータ(liquidator)を使用して、上清(50.0μL)を1.2mL丸底ウェル収集プレートに移した。
ix.水中ギ酸(0.1%;400μL)を各チューブに添加し、そのチューブを10秒間ボルテックスで混合した。
【0147】
Analyst(バージョン1.6.2、MDS Sciex,Concord,Canada)によって、クロマトグラム及びピーク面積積分のプロットを実施した。Watson 7.3 bioanalytical LIMS(Thermo Fisher Scientific)を使用して計算を行った。
【0148】
(ii)薬物組成物
ヒプロメロース(5mg/mL)溶液で粉末(100mg化合物A)を再構成して、化合物Aの経口5mg/mL経口懸濁液を提供することによって、化合物Aを含有する懸濁液を調製した。再構成に使用したヒプロメロースは、注射用滅菌水中0.5%ヒプロメロース溶液である。
【0149】
懸濁液を調製するための具体的な手順は、以下のとおりである:
(i)化合物Aを含有する粉末をバイアルに添加した。
(ii)懸濁液の所望の濃度を達成するために、適切な量の0.5%HPMC溶液をバイアルに添加した。
(iii)バイアルに清潔な攪拌棒を添加した。
(iv)原体を懸濁させる必要があったので、スピンバーの入ったバイアルを磁気撹拌板上に載置し、速度を調整して液体中に緩やかに渦を発生させた。緩やかな渦ができたら、2500RPM(約2400~約2600)で急速にボルテックスするために攪拌棒の速度を増大させた。
(v)最低約24~約36時間、組成物を混合した。
(vi)混合後、懸濁液の使用準備が整ったので、投与のために必要な体積を引き出した。
【0150】
化合物Aを含有する錠剤は、表5に記載の構成成分を含有していた。
【0151】
【0152】
図16に記載のとおり、そして、以下の直接圧縮プロセスに従って錠剤を調製した。
【0153】
A.スクリーニング及びブレンディング
1.1000rpmで07L039R03125ふるいを使用して、ステアリン酸マグネシウムを除く全ての材料をQuadro Comilに通した。ふるいに材料を添加する順序は以下のとおりであった:
(i)ラクトース一水和物の約1/2
(ii)化合物A
(iii)コロイド状二酸化ケイ素
(iv)クロスポビドン
(v)微結晶セルロース
(vi)ラクトース一水和物の約半分
2.混合物を20rpmで20分間ブレンドした。
3.#40ふるいを通してステアリン酸マグネシウムをふるった。
4.工程3の混合物を20rpmで5分間ブレンドした。
【0154】
B.圧縮
「D」型の7.0mmの丸底の浅い凹部を有するパンチ及び適切なダイを備えるロータリープレスを使用して、錠剤を圧縮した。インプロセスパラメータは、表6に記載のとおりである。
【0155】
【0156】
(iii)PKパラメータの測定
18歳~55歳の男性対象18人を試験した。対象は、14日間以内若しくは薬物の半減期の5倍未満の期間(どちらか長い方)強力なシトクロムP450(CYP)3A及びCYP2C19阻害剤を服用しなかったか、又は期間1の1日目の試験薬物投与前30日間以内の強力なCYP3A若しくはCYP2C19誘導剤を除外した。
【0157】
対象は、3つの各処理期間の1日目に単一経口用量の20mgの化合物A(懸濁剤又は固体用量製剤として)を服用した。各対象の合計試験期間(スクリーニング及び経過観察通院を含む)は、約7~8週間になるはずであった。
【0158】
この試験は、3相からなっていた:適格性スクリーニング検査(最初の用量投与の21日間~2日間前)、投薬間の少なくとも6日間の休薬期間によって分離された3つの処理期間からなる3群クロスオーバー単回投与非盲検処理相、及び経過観察通院(最後の用量投与の7日間~14日間後以内)。
【0159】
登録された全ての対象は、3つの処理のうちの1つに無作為に割り付けられた:
・処理A:化合物Aの20mg経口懸濁製剤(絶食状態)
・処理B:化合物Aの20mg固体製剤(絶食状態)
・処理C:化合物Aの20mg固体製剤(半絶食状態)
【0160】
(iii)結果
自然対数変換されたCmax及びAUCに混合効果モデルを適用した。このモデルは、固定効果として順序、期間、処理を含み、変量効果として対象を含んでいた。各パラメータについて、比較は以下を含んでいた:
・固体投薬製剤(絶食)対経口懸濁製剤(絶食)
・固体投薬製剤(絶食)対固体投薬製剤(半絶食)
【0161】
経口投与後、化合物Aは急速に吸収され、C
maxに達し、メジアンt
max値は0.5~1.0時間の範囲であった。C
max後、化合物Aの濃度は、単一指数的に急速に低下した(投与後12時間まで)。懸濁剤(絶食)及び錠剤(半絶食)の平均t
1/2値は類似していた(~2時間)。しかし、絶食状態下の錠剤の平均t
1/2値は、予測よりも長かった(~5時間)。処理相中の低レベルの血漿濃度の延長が一部の対象でみられ、その結果、t
1/2値は1.9~17.3時間の範囲になった。
図1~11を参照のこと。
【0162】
(実施例2)
この実施例は、多施設二重盲検ジフェンヒドラミン及びプラセボ対照試験として実施した。18歳~64歳のMDDと診断された男性及び女性が登録された。スクリーニング時に、対象はIDS-C30において≧30の合計スコアを有しており、これは中等度~重篤なうつ病に対応する。
【0163】
特に、バイオマーカーの評価のために血液及び唾液を収集した。[5(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-ヘキサヒドロ-ピロロ[3,4-c]ピロール-2-イル]-(2-フルオロ-2-[1,2,3]トリアゾール-2-イル-フェニル)-メタノンの血漿濃度を決定するために、午前8~10時に絶食状態で静脈血液サンプル(各3mL)を収集し、免疫系の活動、視床下部・下垂体・副腎(Hypothalamus pituitary adrenal、HPA)軸の活性化、向神経因子、及び代謝因子に関連するバイオマーカーを測定した。薬物動態(PK)血液サンプルも収集した。LC-MS/MSを使用して血漿サンプルを分析して、化合物Aの濃度を決定した。コルチゾールの濃度を測定するために唾液を収集した。コルチゾールの唾液濃度をバイオマーカーとして加えた。
【0164】
出産可能な女性(women of child bearing potential、WOCBP)については10日間、又は男性及び出産不可能な女性(women of non-child bearing potential、WONCBP)については4週間にわたって、20mgの化合物A、25mgのジフェンヒドラミン、又はプラセボを夜間にq.d.(1日1回)に、48人の対象を無作為に(2:1:1の比で)割り付けた。対象は、20mgの化合物Aの錠剤1個、25mgのジフェンヒドラミン又はプラセボの錠剤1個を含有するカプセルとして薬剤を服用した。男性及びWONCBPは、1日目~28日目の就寝直前に毎晩1個のカプセルを摂取した。WOCBPは、1日目~10日目の就寝直前に毎晩1個のカプセルを摂取した。3及び14日目に2回の経過観察通院を行った。
【0165】
うつ病の症状を評価するために、スクリーニング時及び試験中に評価を行った。具体的には、うつ病の症状は、精神疾患簡易構造化面接法(Mini International Neuropsychiatric Interview、MINI)6.0面接又はハミルトンうつ病評価尺度-17(HDRS17)を用いて実施した。また、睡眠ポリグラフ(polysomnography、PSG)を実施して、持続性睡眠までの待ち時間(LSP)及び合計睡眠時間(TST)を含む睡眠段階を定量した。その後、処理中の11及び29日目並びに処理後3及び14日目にうつ病の症状を調べた。試験薬の1回目及び10回目の用量投与後に終夜PSGを記録した。
【0166】
(i)薬量学
化合物Aは、オレキシン-2受容体の経口的に活性のある選択的アンタゴニストであることが見出された。20mgの経口投与後、化合物Aは、最高血漿濃度になるまでにかかる時間がより短く(T
max<1時間)、短い半減期を特徴としていた(2~3時間)。化合物Aの日中投与は健常対象において傾眠を誘発したが、夜間投与は、不眠障害(insomnia disorder、ID)の対象において持続性睡眠までの待ち時間(LPS)を短縮し、合計睡眠時間(TST)を延長した。LPS及びTSTに対する化合物Aの効果の大きさは、ベースラインにおける不眠のレベルに直接関連する。
図12~15を参照のこと。
【0167】
夜間投与(就寝前30分間以内)の結果、化合物Aが血漿に間欠暴露された。これにより、繰り返し(10日間)日用量を投与した結果蓄積しないことが証明された。
【0168】
(ii)HDRS17/HAM-D6
試験中に得られた17項目のスコアを合計することによって、HDRS17合計スコアを計算した。HDRS17合計スコアは0~52の範囲であり、より高いスコアがより重篤なうつ病を示す。睡眠に対する試験薬の推定される効果を補正するために、睡眠に関連する項目をHDRS17から除去して、(睡眠項目)調整HDRSを計算した。したがって、3つの不眠症に関する質問を除く項目のスコアを合計することによって、調整されたHDRS17合計スコアを計算した(4-初期不眠症、5-中期不眠症、及び6-後期不眠症)。HDRS17調整合計スコアは、0~46の範囲である。HDRS17(HAM-D6)から6項目のサブスケールを分析し、中核うつ病症状に情報を提供した。このサブスケールは、治療応答に対して感受性である。6項目は、抑うつ気分、罪悪感、労働及び関心、精神運動遅延、精神的不安、並びに全身症状(疲労感及び疼痛)を含んでいた。
【0169】
【0170】
表7の結果は、20mgの化合物Aの投与後に観察された合計HDRS17の改善が、睡眠の変化にほとんど無関係であるが(-5.5対-4.5ポイント)、睡眠に関連する変化は、ジフェンヒドラミンについてより重要であると考えられる(-4.1対-2.3)ことを示す。
【0171】
6項目のスコアを合計することによって、HAM-D6スコアを計算し、0~22の範囲である。より高いスコアは、より重篤な中核症状を示す。
【0172】
【0173】
表8の結果は、HDRS不安/身体化要因におけるベースラインからの変化が、化合物A群におけるうつ病評点において観察された改善の原因ではなかったことを示す。しかし、うつ病の中核症状(HAM-D6にしたがって)は、化合物A群におけるうつ病評点において観察された改善の原因であった。
【0174】
(iii)睡眠ポリグラフ
睡眠ポリグラフ(PSG)由来のパラメータに対する試験薬の効果を、1/2及び10/11日目に終夜評価した。更に、5/6日目に終夜、強制的に起こすまで及び起こした後のPSGを記録した。2回スクリーニングPSG記録を行い、スクリーニング1及び2で記録された平均値としてベースライン値を計算した。
【0175】
(a)合計睡眠時間(TST)
TSTは、レム(REM)睡眠及びノンレム睡眠に費やされた合計分数として定義される。プラセボと比較して、化合物A及びジフェンヒドラミンはいずれも1/2日目に終夜TSTを増加させた。10/11日目におけるプラセボ処理対象におけるTSTの増加に起因して、化合物A及びジフェンヒドラミンの相対効果はそれほど顕著ではなかった。表9を参照されたい。試験集団全体が不眠障害の基準(TST<360分間)を満たした訳ではなかったが、個々の対象はわずか263分間しかベースラインTST値を有していなかった。したがって、不眠障害の存在に関して集団は混在していた。
【0176】
【0177】
TSTに対する化合物Aの効果は、ベースラインにおけるTST期間に比例する(
図13)。しかし、LPS変化の大きさと中核うつ病症状の改善との間に関連性はみられず(
図15)、これは、抗うつ効果が不眠症に対する効果とは無関係であることを支持する。
【0178】
(b)持続性睡眠までの待ち時間
LPSは、消灯から10分間の連続睡眠までの経過時間(分)と定義される。プラセボと比較して、化合物A及びジフェンヒドラミンはいずれも1/2日目に終夜LPSが穏やかに低下した。10/11日目における終夜のプラセボ処理対象におけるLPSの減少に起因して、化合物A及びジフェンヒドラミンの相対効果はそれほど顕著ではなかった。表10を参照されたい。全体として、試験集団は、延長された(>20分間)LPSを特徴としていた。TSTと同様に、LPS値がわずか4.5分間であるベースラインにおいて不眠障害の存在に関して集団は混在していた。
【0179】
【0180】
LPSに対する化合物Aの効果は、ベースラインにおけるLPS期間に比例する(
図12)。しかし、LPS変化の大きさと中核うつ病症状の改善との間に関連性はみられず(
図14)、これは、抗うつ効果が不眠症に対する効果とは無関係であることを支持する。
【0181】
(iv)要約
これら結果は、プラセボ及びジフェンヒドラミンと比較して、化合物Aの抗うつ効果がより大きく、臨床的に関連があることを示す。驚くべきことに、化合物Aの効果は、うつ病の中核症状に対する効果と大きく関連しており、全体的に、睡眠関連項目に対する効果とは関連していなかった。抗うつ効果は、処理中断後少なくとも14日間維持された。重要なことに、11日目(最初の評価)には既に改善が観察され、処理中断時に維持されていた。
【0182】
(実施例3)
この実施例は、化合物Aを補助療法で使用することができることを示すために実施した。具体的には、(i)単剤療法として、及び(ii)公知の抗うつ剤と組み合わせて、MDDと診断された対象に化合物Aを投与し、HDRS17及びHAM-D6尺度を使用して、対象のうつ病の症状を評価した。
【0183】
群1では、37人の対象を、20mgの化合物A、25mgのジフェンヒドラミン、又はプラセボを10日間にわたって夕方にq.d.に無作為に割り付けた(2:1:1の比で)。群2では、10人の対象を、20mgの化合物A、25mgのジフェンヒドラミン、又はプラセボを10日間にわたって夕方にq.d.に無作為に割り付けた(2:1:1の比で)。群2の各対象は、ある量の、デュロキセチン、シタロプラム、パロキセチン、又はセルトラリンから選択される抗うつ剤も、主治医の処方に従って服用した。両群のうつ病の症状を評価するため、実施例2に記載のとおりHDRS17及びHAM-D6を使用して、スクリーニング時及び11日目、すなわち、試験の1日間後に独立して評価を実施した。評価の結果を表11及び12に要約する。表11~12では、#はコーエン効果の大きさを意味し、*はP<0.05(統計的に有意)を意味し、**はP<0.01を意味する。
【0184】
【0185】
【0186】
これら結果は、化合物Aが、未処理及び抗うつ薬で処理されたMDD対象において抗うつ有効性を有することを示し、これは単剤療法及び補助療法としての有効性を支持する。
【0187】
本明細書に引用又は記載されている各特許、特許出願、及び刊行物の開示は、その全文において本明細書に参考として組み込まれる。
【0188】
当業者であれば、本開示の好ましい実施形態に対して、多数の変更及び修正を加えることができ、そのような変更及び修正が、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で行うことができることを理解するであろう。したがって、添付の「特許請求の範囲」は、本開示の真の趣旨及び範囲に含まれる、そのような等価的な変形の全てを網羅することが意図されている。
以下の態様を包含し得る。
[1] うつ病に罹患しているか又は該うつ病と診断された対象を治療する方法であって、このような治療を必要とする対象に、有効量の、式(I)の化合物:
【化9】
(式中、
R
1
は、C
1~4
アルキルであり、
R
2
は、C
1~4
アルキルであり、
R
3
は、H又はハロゲンであり、
R
4
は、H又はC
1~4
アルコキシである)、
又はその医薬として許容される塩若しくは水和物を投与することを含み、
前記化合物が、睡眠前に投与される、方法。
[2] 前記対象が、不眠障害に罹患しておらず、該不眠障害と診断されてもいない、上記[1]に記載の方法。
[3] R
3
がハロゲンである、上記[1]に記載の方法。
[4] R
3
がフッ素である、上記[3]に記載の方法。
[5] R
4
がHである、上記[1]に記載の方法。
[6] R
4
がC
1~4
アルコキシである、上記[1]に記載の方法。
[7] R
4
がメトキシである、上記[6]に記載の方法。
[8] R
3
がHである、上記[1]に記載の方法。
[9] R
1
がCH
3
である、上記[1]に記載の方法。
[10] R
2
がCH
3
である、上記[1]に記載の方法。
[11] 前記化合物が、5-(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-ヘキサヒドロ-ピロロ[3,4-c]ピロール-2-イル]-(2-フルオロ-6-[1,2,3]トリアゾール-2-イル-フェニル)-メタノン又はその医薬として許容される塩である、上記[1]に記載の方法。
[12] 前記化合物が、5-(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-ヘキサヒドロ-ピロロ[3,4-c]ピロール-2-イル]-(2-フルオロ-6-[1,2,3]トリアゾール-2-イル-フェニル)-メタノンである、上記[1]に記載の方法。
[13] 前記化合物が、5-(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-ヘキサヒドロ-ピロロ[3,4-c]ピロール-2-イル]-(2-フルオロ-6-[1,2,3]トリアゾール-2-イル-フェニル)-メタノン塩酸塩である、上記[1]に記載の方法。
[14] 前記化合物が、(5-(4,6-ジメチルピリミジン-2-イル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-c]ピロール-2(1H)-イル)(4-メトキシ-2-(2H-1,2,3-トリアゾール-2-イル)フェニル)メタノン又はその医薬として許容される塩である、上記[1]に記載の方法。
[15] 前記化合物が、(5-(4,6-ジメチルピリミジン-2-イル)ヘキサヒドロピロロ[3,4-c]ピロール-2(1H)-イル)(4-メトキシ-2-(2H-1,2,3-トリアゾール-2-イル)フェニル)メタノンである、上記[1]に記載の方法。
[16] 前記化合物が夜間に投与される、上記[1]に記載の方法。
[17] 前記化合物が毎日投与される、上記[1]に記載の方法。
[18] 前記化合物が経口投与される、上記[1]に記載の方法。
[19] 前記有効量が、約10~約40mgである、上記[1]に記載の方法。
[20] 前記うつ病が、大うつ病性障害、双極性疾患に関連するうつ病、又は治療抵抗性うつ病を含む、上記[1]に記載の方法。
[21] 前記うつ病が大うつ病性障害である、上記[20]に記載の方法。
[22] 前記うつ病が治療抵抗性うつ病である、上記[20]に記載の方法。
[23] 第2の抗うつ剤を投与することを更に含む、上記[1]に記載の方法。
[24] 前記第2の抗うつ剤が、選択的セロトニン再取込み阻害剤、セロトニン及びノルアドレナリン再取込み阻害剤、又はこれらの組み合わせである、上記[23]に記載の方法。