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特許7066968エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物ペレットおよび多層構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】エチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物ペレットおよび多層構造体
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20220509BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20220509BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20220509BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
C08L29/04 Z
C08K3/10
B32B27/18 Z
B32B27/28 102
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2016575983
(86)(22)【出願日】2016-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2016089122
(87)【国際公開番号】W WO2017115847
(87)【国際公開日】2017-07-06
【審査請求日】2019-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2015255783
(32)【優先日】2015-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】西村 大知
(72)【発明者】
【氏名】中島 拓也
(72)【発明者】
【氏名】谷口 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕司
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-278344(JP,A)
【文献】特表2005-509049(JP,A)
【文献】特開平07-330994(JP,A)
【文献】国際公開第2013/146533(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L29/04、C08K3、B32B27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体と鉄化合物とを含有するエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物ペレットであって、鉄化合物の含有量がエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物の重量あたり、金属換算にて0.01~40ppmであり、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体におけるエチレン構造単位の含有量が20~60モル%であることを特徴とするエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物ペレット。
【請求項2】
上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体の含有量が90重量%以上であり、上記ペレットの含水率が0.01~0.5重量%であることを特徴とする、請求項1記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物ペレット。
【請求項3】
上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体におけるビニルエステル成分のケン化度が、90~100モル%であることを特徴とする、請求項1または2記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物ペレット。
【請求項4】
上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体の、210℃、荷重2,160gでのメルトフローレートが、0.5~100g/10分であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物ペレット。
【請求項5】
上記鉄化合物が、酸化第二鉄、四三酸化鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄、亜酸化鉄、およびリン酸鉄からなる群から選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体組成物ペレット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH樹脂」と略記することがある。)を主成分とするEVOH樹脂組成物ペレット、およびそれを用いた多層構造体に関するものであり、さらに詳しくは、紫外線吸収能を有するEVOH樹脂組成物ペレットおよびかかるEVOH樹脂組成物ペレットの溶融成形層を少なくとも一層有する多層構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EVOH樹脂は、透明性、酸素等のガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性、機械強度などに優れており、フィルム、シート、ボトルなどに成形され、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料として広く用いられている。
【0003】
ところが、食品や薬品などには、紫外線によって劣化したり変質したりするものが多く、その包装材には紫外線吸収能を有するものが求められている。
包装材に紫外線吸収性を付与する方法としては、包装材料として用いられる樹脂中に紫外線吸収剤を配合することが一般的である。例えば、ポリオレフィンとEVOH樹脂からなる層を積層した積層構造体において、その一部の層、または全ての層に紫外線吸収剤を練りこむことで、紫外線の透過率を低減させた積層構造体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-230112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、紫外線吸収剤は一般的に低分子化合物であるため成形品となった後に樹脂中を移行しやすく、使用中に層表面に移行して内容物と接触したり、表面をべたつかせたりするという問題点を有していた。
また、充分な紫外線吸収能を得るには、多量の紫外線吸収剤を樹脂中に配合する必要があり、その結果、樹脂特性を低下させる傾向がある。
【0006】
すなわち本発明は、公知の紫外線吸収剤を配合しなくても良好な紫外線吸収性を有するEVOH樹脂組成物ペレットおよび多層構造体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、鉄化合物の含有量が、EVOH樹脂組成物の重量あたり、金属換算にて0.01~40ppmであり、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体におけるエチレン構造単位の含有量が20~60モル%であるEVOH樹脂組成物ペレットが良好な紫外線吸収能を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、EVOH樹脂と鉄化合物とを含有するEVOH樹脂組成物ペレットであって、鉄化合物の含有量がEVOH樹脂組成物の重量あたり、金属換算にて0.01~40ppmであり、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体におけるエチレン構造単位の含有量が20~60モル%であるEVOH樹脂組成物ペレットを第1の要旨とする。
また、本発明は、上記EVOH樹脂組成物ペレットの溶融成形層を少なくとも1層有する多層構造体を第2の要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のEVOH樹脂組成物ペレットは、表面移行や樹脂特性阻害の懸念がある紫外線吸収剤を用いることなく、良好な紫外線吸収能を有することから、紫外線による劣化や変質のおそれがある内容物の包装材に好適に用いることができる。
【0009】
そして、本発明のEVOH樹脂組成物ペレットの溶融成形層を少なくとも1層有する多層構造体は、紫外線吸収能が優れるため、食品の包装材料として特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に特定されるものではない。
【0011】
本発明のEVOH樹脂組成物(ペレット)は、EVOH樹脂を主成分とし、鉄化合物がEVOH樹脂組成物の重量あたり金属換算にて0.01~40ppm含有するものである。本発明のEVOH樹脂組成物は、ベース樹脂がEVOH樹脂である。すなわち、EVOH樹脂組成物におけるEVOH樹脂の含有量は、通常90重量%以上であり、好ましくは95重量%以上であり、好ましくは97重量%以上である。
以下に各成分について説明する。
【0012】
[EVOH樹脂]
本発明で用いるEVOH樹脂は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体であるエチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。上記ビニルエステル系モノマーとしては、経済的な面から、一般的には酢酸ビニルが用いられる。
重合法も公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合を用いて行うことができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
このようにして製造されるEVOH樹脂は、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、ケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含む。
【0013】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。他のビニルエステル系モノマーとしては、例えばギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等があげられ、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルを用いることができる。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0014】
EVOH樹脂におけるエチレン構造単位の含有量は、ビニルエステル系モノマーとエチレンとを共重合させる際のエチレンの圧力によって制御することができ、20~60モル%、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~35モル%である。かかる含有量が低すぎる場合は、高湿下のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。
なお、かかるエチレン含有量は、ISO14663に基づいて測定することができる。
【0015】
EVOH樹脂におけるビニルエステル成分のケン化度は、エチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化する際のケン化触媒(通常、水酸化ナトリウム等のアルカリ性触媒が用いられる)の量、温度、時間などによって制御でき、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
かかるEVOH樹脂のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に基づいて測定することができる。
【0016】
また、該EVOH樹脂のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2,160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜性が不安定となる傾向があり、小さすぎる場合には粘度が高くなり過ぎて溶融押出しが困難となる傾向がある。
かかるMFRは、EVOH樹脂の重合度の指標となるものであり、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合する際の重合開始剤の量や、溶媒の量によって調整することができる。
【0017】
本発明で用いられるEVOH樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば10モル%以下)で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。
前記コモノマーとしては、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物などの誘導体;2-メチレンプロパン-1,3-ジオール、3-メチレンペンタン-1,5-ジオール等のヒドロキシアルキルビニリデン類;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシアルキルビニリデンジアセテート類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1~18のモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタアクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;炭素数1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類;アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類;トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0018】
さらに、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOH系樹脂を用いることもできる。
【0019】
特に、ヒドロキシ基含有α-オレフィン類を共重合したEVOH樹脂は、二次成型性が良好になる点で好ましく、中でも1,2-ジオールを側鎖に有するEVOH樹脂が好ましい。
【0020】
また、本発明で使用されるEVOH樹脂は、異なる他のEVOH樹脂との混合物であってもよく、かかる他のEVOH樹脂としては、ケン化度が異なるもの、重合度が異なるもの、共重合成分が異なるものなどをあげることができる。
【0021】
[EVOH樹脂組成物(ペレット)]
本発明のEVOH樹脂組成物は、鉄化合物の含有量が、EVOH樹脂組成物の重量あたり金属換算にて0.01~40ppmであることを特徴とするものである。かかる鉄化合物の含有量は、特に好ましくは1~40ppm、さらに好ましくは3~40ppm、殊に好ましくは10~40ppmである。
鉄化合物の含有量が少なすぎると紫外線吸収能が不充分となる傾向があり、逆に多すぎると成形物が着色する傾向がある。
【0022】
ここで、鉄化合物の含有量とは、EVOH樹脂と鉄化合物を含むEVOH樹脂組成物を、希硫酸や塩酸等にて酸処理して得られた溶液に、純水を加えて定容したものを検液とし、原子吸光光度計にて測定することができる。
【0023】
なお、かかる鉄化合物は、EVOH樹脂組成物中で、例えば、酸化第二鉄、四三酸化鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄、亜酸化鉄、硫酸鉄、リン酸鉄等の鉄塩として存在する場合の他、イオン化した状態、あるいは樹脂や他の配位子とした錯体の状態で存在していてもよい。
【0024】
本発明のEVOH樹脂組成物(ぺレット)を製造する方法としては、例えば、(i)EVOH樹脂の製造過程で、EVOH樹脂の均一溶液(水/アルコール溶液等)に鉄化合物を含有させた後、凝固液中にストランド状に押し出し、次いで得られたストランドを切断してペレットに成形し、さらにこれを乾燥処理する方法、(ii)EVOH樹脂ペレットを、鉄化合物を含有する水溶液と接触させ、EVOH樹脂ぺレット中に鉄化合物を含有させた後、乾燥する方法、(iii)EVOH樹脂ペレットと鉄化合物をドライブレンドした後に溶融混練する方法や、(iv)溶融状態のEVOH樹脂に所定量の鉄化合物を添加して溶融混練する方法、などをあげることができる。
中でも、本発明の効果がより顕著な樹脂組成物が得られ、かつ、新たな製造工程を加えることが無い点で、(ii)の方法が好ましく用いられる。
【0025】
なお、上記(i)の方法によって得られるEVOH樹脂組成物ペレット、(ii)(iii)の方法で用いられるEVOH樹脂ペレットの形状は例えば、球形、円柱形、立方体形、直方体形等があるが、通常、球状(ラグビーボール状)または円柱形であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、球状の場合は径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、高さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、円柱状の場合は底面の直径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、長さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。
【0026】
また、上記(i)(iii)(iv)の方法で用いられる鉄化合物としては、好ましくは、水溶性の鉄化合物が用いられ、例えば、酸化第二鉄、四三酸化鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄、亜酸化鉄、硫酸鉄、硫化鉄、硝酸鉄、リン酸鉄などの鉄塩(無機酸塩等)があげられる。なお、かかる鉄化合物は、上述のとおり、EVOH樹脂中で、上記の塩として存在する場合の他、イオン化した状態、あるいは樹脂や他の化合物を配位子とした錯体の状態で存在していてもよい。
【0027】
また、上記(ii)の方法で用いられる鉄化合物を含有する水溶液としては、上記鉄化合物の水溶液や、鉄鋼材料を各種薬剤を含む水に浸漬することで鉄イオンを溶出させたものを用いることができる。なお、その場合、EVOH樹脂組成物中の鉄化合物の含有量(金属換算)は、EVOH樹脂ペレットを浸漬する水溶液中の鉄化合物の濃度や浸漬温度、浸漬時間などによって制御することが可能である。上記浸漬温度、浸漬時間としては、通常、0.5~48時間、好ましくは1~36時間であり、温度は通常10~40℃、好ましくは20~35℃である。
かかるEVOH樹脂組成物ペレットは公知の手法にて固液分離し、公知の乾燥方法にて乾燥する。かかる乾燥方法として、種々の乾燥方法を採用することが可能であり、静置乾燥、流動乾燥およびこれらを組み合わせて行うことができる。
【0028】
本発明のEVOH樹脂組成物ペレットの含水率は、通常、0.01~0.5重量%であり、好ましくは0.05~0.35重量%、特に好ましくは0.1~0.3重量%である。
【0029】
なお、本発明におけるEVOH樹脂組成物ペレットの含水率は以下の方法により測定・算出されるものである。
EVOH樹脂組成物ぺレットを電子天秤にて秤量(W1)し、150℃の熱風乾燥機中で5時間乾燥させ、デシケーター中で30分間放冷後の重量を秤量(W2)し、下記式より算出する。
含水率(重量%)=[(W1-W2)/W1]×100
【0030】
このようにして本発明のEVOH樹脂組成物(ぺレット)が得られる。
【0031】
このようにして得られたEVOH樹脂組成物のペレットは、そのまま溶融成形に供することが可能であるが、溶融成形時のフィード性を安定させる点で、ペレットの表面に滑剤を付着させることも好ましい。滑剤の種類としては、高級脂肪酸(例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸等)、高級脂肪酸エステル(高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和脂肪族アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス脂肪酸アミド)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500~10,000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン等、又はその酸変性品)、高級アルコール、エステルオリゴマー、フッ化エチレン樹脂等があげられる。好適には高級脂肪酸およびそのエステル、アミドが用いられ、更に好適には高級脂肪酸アミドが用いられる。かかる滑剤の含有量は、EVOH樹脂組成物の通常、5重量%以下、好ましくは1重量%以下である。
【0032】
また、本発明のEVOH樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般にEVOH樹脂に配合する配合剤が含有されていてもよい。
【0033】
[多層構造体]
本発明の多層構造体は、上記本発明のEVOH樹脂組成物を含む層を少なくとも1層有するものである。本発明のEVOH樹脂組成物を含む層(以下、単に「EVOH樹脂組成物層」という)は、本発明のEVOH樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂を主成分とする他の基材(以下、基材に用いられる樹脂を「基材樹脂」と略記することがある。)と積層することで、さらに強度を付与したり、EVOH樹脂組成物層を水分等の影響から保護したり、他の機能を付与することができる。
【0034】
上記基材樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および側鎖の少なくとも一方に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等があげられる。
【0035】
これらのうち、疎水性樹脂である、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂であり、特にポリ環状オレフィン系樹脂は疎水性樹脂として好ましく用いられる。
【0036】
多層構造体の層構成は、本発明のEVOH樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等任意の組み合わせが可能である。また、該多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本発明のEVOH樹脂組成物と本発明のEVOH樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂との混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。多層構造体の層の数はのべ数にて通常2~15、好ましくは3~10層である。
上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂を含有する接着性樹脂層を介層してもよい。
【0037】
上記接着性樹脂としては、公知のものを使用でき、基材樹脂「b」に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体をあげることができる。例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等があげられる。そして、これらから選ばれた1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0038】
多層構造体において、本発明のEVOH樹脂組成物層と基材樹脂層との間に、接着性樹脂層を用いる場合、接着性樹脂層がEVOH樹脂組成物層の両側に位置する少なくとも1つの層となることから、疎水性に優れた接着性樹脂を用いることが好ましい。
【0039】
上記基材樹脂、接着性樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば、30重量%以下、好ましくは10重量%以下)において、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、ワックス等を含んでいても良い。
【0040】
本発明のEVOH樹脂組成物と上記基材樹脂との積層(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)は、公知の方法にて行うことができる。例えば、本発明のEVOH樹脂組成物のフィルム、シート等に基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、基材樹脂層に本発明のEVOH樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、EVOH樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法、EVOH樹脂組成物(層)と基材樹脂(層)とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、基材樹脂上にEVOH樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等があげられる。これらの中でも、コストや環境の観点から考慮して共押出しする方法が好ましい。
【0041】
上記の如き多層構造体は、次いで必要に応じて(加熱)延伸処理が施される。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、多層構造体の融点近傍の温度で、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎた場合は延伸性が不良となり、高すぎた場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる。
【0042】
なお、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、次いで熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば上記延伸フィルムを緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で通常2~600秒間程度熱処理を行う。
また、本発明のEVOH樹脂組成物から得られた多層延伸フィルムをシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば延伸後のフィルムに冷風を当てて冷却固定するなどの処理を行えばよい。
【0043】
また、場合によっては、本発明の多層構造体を用いてカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。その場合は、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等があげられる。更に多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器(積層体構造)を得る場合はブロー成形法が採用される。具体的には、押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)などがあげられる。得られる積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液または溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
【0044】
多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、更には多層構造体を構成するEVOH樹脂組成物層、基材樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性などにより一概にいえないが、多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。EVOH樹脂組成物層は通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmであり、基材樹脂層は通常5~30000μm、好ましくは10~20000μm、特に好ましくは20~10000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。
【0045】
さらに、多層構造体におけるEVOH樹脂組成物層と基材樹脂層との厚みの比(EVOH樹脂組成物層/基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは5/95~45/55、特に好ましくは10/90~40/60である。また、多層構造体におけるEVOH樹脂組成物層と接着性樹脂層の厚み比(EVOH樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。
【0046】
上記の如く得られたフィルム、シート、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。
特に、本発明のEVOH樹脂組成物からなる層は、紫外線吸収能が優れるため、食品、特には紫外線による変色が問題となりやすい精肉、ハム、ウィンナー等の畜肉用の包装材料として特に有用である。
【実施例
【0047】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0048】
<実施例1>
鉄片(60mm×60mm×990mmのSS400のプレート:大同DMソリューション社製)を、添加物の水溶液(酢酸206ppm、リン酸二水素ナトリウム206ppm、リン酸カルシウム28ppm、酢酸ナトリウム280ppm、ホウ酸117ppm含む水溶液)へ24時間接触させることで、鉄化合物を金属換算にて30ppm有する水溶液を得た。この鉄化合物を含む添加物の水溶液に、エチレン構造単位の含有量44モル%、ケン化度99.6モル%、MFR12g/10分(210℃、荷重2160g)、EVOH樹脂の含水ペレット(EVOH樹脂ペレット)を接触(浸漬)させることにより、上記添加物と鉄化合物を上記EVOH樹脂ペレット中に含有させた。この後、118℃で14時間乾燥させることにより、EVOH樹脂組成物ペレットを得た。
【0049】
得られたEVOH樹脂組成物ペレット1gに10mlの希硫酸を加え、ホットプレートにて、250℃で1時間加熱した。その後、電気コンロにて、2時間加熱し、続いて電気炉にて、700℃で4時間加熱した。得られたサンプルを電気炉から、電気コンロへ移し、塩酸2ml、蒸留水3~4mlを添加し、沸騰させた。得られたサンプルをメスフラスコに投入し、蒸留水にて希釈した。このようにして調製したサンプルを用い、原子吸光光度計(HITACHI社製、Z-2300)にてEVOH樹脂組成物ペレットの重量あたりの鉄化合物含有量(金属換算)を測定した。
【0050】
得られたEVOH樹脂組成物ペレットを用いて、濃度5重量%の水/イソプロパノール(4/6)溶液を調製した。そして、この溶液の紫外線透過率(波長300nm)を、UV-VIS SPECTROPHOTOMETER(SHIMAZU社製「UV-2600」)を用いて測定した。
測定結果を表1に示す。
【0051】
<実施例2>
実施例1において、鉄片を添加物の水溶液と接触させる時間を3時間とし、EVOH樹脂ペレットを浸漬する水溶液中の鉄化合物の含有量を金属換算で6ppmとした以外は実施例1と同様にして、EVOH樹脂組成物ペレットを作製した。
このEVOH樹脂組成物ペレットの重量あたりの鉄化合物の含有量(金属換算)を測定した。また、このEVOH樹脂組成物ペレットを実施例1と同様に、濃度5重量%の水/イソプロパノール溶液とし、その溶液の紫外線透過率を測定した。
測定結果を表1に示す。
【0052】
<比較例1>
実施例1において、鉄片を添加物の水溶液と接触させず、EVOH樹脂ペレットを浸漬する水溶液中に鉄化合物を含有させなかった以外は実施例1と同様にEVOH樹脂組成物ペレットを作製した。このEVOH樹脂組成物ペレットを実施例1と同様に水/イソプロパノール溶液とし、その溶液の紫外線透過率を測定した。
測定結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
上記結果から、鉄化合物を所定量含有する本発明のEVOH樹脂組成物ペレットを用いた実施例1,2品は、鉄化合物を含有しない比較例1品と比較して紫外線透過率が低く、紫外線吸収能に優れたものであった。
【0055】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のEVOH樹脂組成物は、一般的な紫外線吸収剤を配合することなく、良好な紫外線吸収能を有することから、食品や薬品などの包装材として好適に使用することができる。