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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】EC素子駆動システム
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/163 20060101AFI20220509BHJP
   G09G 3/38 20060101ALI20220509BHJP
   G09G 3/20 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
G02F1/163
G09G3/38
G09G3/20 670M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017042671
(22)【出願日】2017-03-07
(65)【公開番号】P2018146834
(43)【公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100127111
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 修一
(72)【発明者】
【氏名】大島 淳
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼沼 秀和
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】小林 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】八代 徹
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-050051(JP,A)
【文献】特開平02-046428(JP,A)
【文献】特開2007-225693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/163
G09G 3/38
G09G 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EC素子を定電圧駆動するEC素子駆動システムであって、
電源と、前記電源から供給された電力を一定電圧として出力する定電圧電源部と、前記定電圧電源部からの電圧を受け前記EC素子の駆動時において前記EC素子に加えられる初期電流を抑制する電流抑制部と、前記電流抑制部の作動を制御する制御部とを有し、
前記制御部は、前記初期電流が前記EC素子毎に決定されている、当該EC素子の寿命の短縮及びエネルギ効率の悪化が発生する限界値である特性許容値を超えないように、前記定電圧電源部から前記電流抑制部に供給される電圧値を制御することを特徴とするEC素子駆動システム。
【請求項2】
請求項1記載のEC素子駆動システムにおいて、
前記電流抑制部は定電流ダイオードを有し、前記電流抑制部から定電流であるピンチオフ電流値が出力されるように、かつ前記定電流ダイオードの最高使用電圧値を超えないように、前記制御部は前記定電圧電源部から前記電流抑制部に供給される電圧値を制御することを特徴とするEC素子駆動システム。
【請求項3】
請求項記載のEC素子駆動システムにおいて、
前記制御部により制御された電圧値は、前記定電流ダイオードにおける消費電力が定電流ダイオードの定格電力に納まるように制御されることを特徴とするEC素子駆動システム。
【請求項4】
請求項記載のEC素子駆動システムにおいて、
前記電流抑制部はゲートを備えた電界効果トランジスタを有し、前記電流抑制部から出力される定電流であるドレイン電流値が前記特性許容値を超えないように、前記制御部は前記定電圧電源部から前記ゲートに供給される電圧値を制御することを特徴とするEC素子駆動システム。
【請求項5】
請求項記載のEC素子駆動システムにおいて、
前記電流抑制部は前記初期電流の値を変動可能であることを特徴とするEC素子駆動システム。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか一つに記載のEC素子駆動システムにおいて、
前記電源は電池であることを特徴とするEC素子駆動システム。
【請求項7】
請求項6記載のEC素子駆動システムにおいて、
小型携帯機器に搭載可能であることを特徴とするEC素子駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EC素子駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力により着消色を行うエレクトロクロミック素子(以下、EC素子という)が知られている。このEC素子を駆動する場合、定電流方式では駆動電圧がEC素子の限界電圧を容易に超えてしまうため定電圧方式が一般的に用いられている。
しかし定電圧方式では、駆動初期時においてEC素子の電気特性上、EC素子の特性許容値を超える大きさの突入電流が発生することにより電源に対して過剰な負荷電流が作用することとなり、エネルギ効率が悪化すると共にEC素子の寿命が短くなるという課題があった。
【0003】
上述の課題を解決するため、電圧を高圧化するためのトランスにより一次側と二次側とに分離される電源モジュールの一次側の電流を検知することにより、電流値制御を行って突入電流の発生を防止する技術が開示されている(例えば「特許文献1」参照)。
しかし上述の技術では、電流検知制御回路が必要となって部品点数が多くなり、コストアップしてしまうと共に装置の小型化を阻害するという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、突入電流の発生を防止して省エネルギを図ることができると共にEC素子の長寿命化を図ることが可能なEC素子駆動システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、EC素子を定電圧駆動するEC素子駆動システムであって、電源と、前記電源から供給された電力を一定電圧として出力する定電圧電源部と、前記定電圧電源部からの電圧を受け前記EC素子の駆動時において前記EC素子に加えられる初期電流を抑制する電流抑制部と、前記電流抑制部の作動を制御する制御部とを有し、前記制御部は、前記初期電流が前記EC素子毎に決定されている、当該EC素子の寿命の短縮及びエネルギ効率の悪化が発生する限界値である特性許容値を超えないように、前記定電圧電源部から前記電流抑制部に供給される電圧値を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、EC素子に対して初期電流として突入電流が作用することが防止され、かつ省エネルギを図ることができると共に、EC素子の長寿命化を図ることが可能なEC素子駆動システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態を適用したEC素子駆動システムのブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に用いられるEC素子の構成を説明する概略図である。
図3】本発明の一実施形態におけるEC素子の駆動時間と電池電圧との関係を示す線図である。
図4】本発明の一実施形態における突入電流発生時に電池電圧が低下する現象を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本発明の一実施形態を適用したEC素子駆動システムのブロック図を示している。同図において、EC素子2を駆動するEC素子駆動システム1は、電源3、システム電源部4、定電圧電源部5、電流抑制部6、EC素子駆動回路7、制御部8等を有している。
【0009】
図2は、EC素子2の構成を示す概略図である。同図に示すようにEC素子2は、一対の基板9,10間に設けられた第1電極11と、第1電極11に対して所定の間隔をおいて対向配置された第2電極12と、各電極11,12間に配置された電解質13とを少なくとも有しており、一方の電極の表面に酸化状態で可視域に吸収帯を有している。
なお図2に示した構成では、第1電極11の表面に酸化状態で可視域に吸収帯を有するエレクトロクロミック化合物またはエレクトロミック組成物を含むエレクトロクロミックス層14が形成され、第2電極12の表面に還元状態で可視域に吸収帯を有するエレクトロクロミック化合物またはエレクトロクロミック組成物を含むエレクトロクロミックス層15が形成されている。符号16,17は、電解質13及び各エレクトロクロミックス層14,15を封止する封止部材を示している。
【0010】
上述したEC素子2に対して、第1電極11及び第2電極12に電荷が付与されると、エレクトロクロミックス層14,15が酸化還元反応することにより着色及び消色がコントロールされる。着色時には酸化電極であるエレクトロクロミックス層14より電荷を注入し、消色時にはEC素子2内の電荷の移動を行うために還元電極であるエレクトロクロミックス層15より電荷の注入を行うことで、速やかなEC素子2内の電荷移動によって発消色を行っている。このため、着色時のみならず消色時においても電力を消費する。
EC素子2では、第1電極11及び第2電極12に付与される電荷の大きさに応じて電荷の移動速度、すなわち反応速度が速くなるが、EC素子毎に決定されている特性許容値を超える電流が作用すると、エレクトロクロミックス層14,15に使用される酸化還元材料の分子構造が劣化することによりEC素子の寿命が短くなると共にエネルギ効率が悪化してコストアップを招く。ここでは、着色時は酸化電極からの電荷注入、消色時は還元電極からの電荷注入としたが、EC素子の構成によってはこの限りではなく、電極の電荷注入方向が逆の場合も成立する場合がある。
【0011】
またEC素子2の原理上、すなわち第1電極11及び第2電極12への電荷印加時に急激な電荷の移動が起こりうるため、初期電流作用時である着消色駆動時には突入電流が発生する。この突入電流の大きさはEC素子の構成や大きさによって様々であるが、本実施形態で示したEC素子2では、素子サイズが30×30mmであり30~100mAの突入電流が観測された。この突入電流による電源3における急激な電圧低下の一例を図3に示す。
【0012】
電源3としては、直流電源、交流電源、電池等、どのようなものを用いてもよいが、交流電源を用いる場合にはAC/DC変換器を併用して、交流を直流に変換する必要がある。本実施形態では電池を用いた例を説明する。
システム電源部4は、電源3から供給された電力により制御部8を駆動する。
定電圧電源部5は、電源3から供給された電力を受け、電流抑制部6に対して一定電圧を出力する。定電圧電源部5はEC素子2の駆動用電源であり、その具体的な構成としては、レギュレータやDCDCコンバータ等が挙げられる。
EC駆動回路7は、電流抑制部6から出力された電力を第1電極11及び第2電極12に供給してEC素子2を駆動する。
制御部8としては、図示しないCPU、ROM、RAM、I/O等を有する周知のマイクロコンピュータが用いられる。
【0013】
次に、本発明の特徴部である電流抑制部6について説明する。電流抑制部6は、EC素子2の駆動時においてEC素子2に加えられる初期電流を抑制する働きをする。電流抑制部6の具体的な構成としては、定電流ダイオード(CRD)または電界効果トランジスタ(FET)等の、電流値を制限することが可能な半導体素子が挙げられる。先ず、電流抑制部6として定電流ダイオードが用いられる場合を説明する。この場合、選択される定電流ダイオードとしては、出力されるピンチオフ電流値がEC素子2の特性許容値を超えない電流値となるものが選択される。
【0014】
電流抑制部6として定電流ダイオードを用いた場合には、電流抑制部6から定電流であるピンチオフ電流値が出力されるように、かつ定電流ダイオードの最高使用電圧値を超えないように、制御部8は定電圧電源部5から電流抑制部6に供給される電圧値を制御する。また、このときに制御された電圧値は、定電流ダイオードにおける消費電力が定電流ダイオードの定格電力に納まるように制御される。
【0015】
上述の構成により、EC素子2に加えられる初期電流値がEC素子2の特性許容値を超えない電流値となるように、制御部8は定電圧電源部5から電流抑制部6に供給される電圧値を制御することにより電流抑制部6の作動を制御する。これにより、EC素子2に対して初期電流として突入電流が発生することが防止され、EC素子2の寿命が短くなること及びエネルギ効率が悪化することを共に防止することができ、省エネルギを図ることができると共にEC素子2の長寿命化を図ることが可能なEC素子駆動システム1を提供することができる。
【0016】
次に、電流抑制部6として電界効果トランジスタが用いられる場合を説明する。電流抑制部6として電界効果トランジスタを用いた場合には、電流抑制部6から出力される定電流であるドレイン電流値がEC素子2の特性許容値を超えない電流値となるように、制御部8は定電圧電源部5から電流抑制部6、すなわち電界効果トランジスタのゲートに供給される電圧値を制御する。
【0017】
この構成により、電流抑制部6として定電流ダイオードを用いた場合と同様、EC素子2に対して初期電流として突入電流が発生することが防止され、EC素子2の寿命が短くなること及びエネルギ効率が悪化することを共に防止することができ、省エネルギを図ることができると共にEC素子2の長寿命化を図ることが可能なEC素子駆動システム1を提供することができる。
また、ゲートに供給される電圧値を制御することにより出力するドレイン電流値を変化させることが可能であるので、使用するEC素子の負荷範囲内であればEC素子駆動システム1を構成した後にEC素子2を変更した場合であっても、電流抑制部6を変更することなく定電流制御を行うことができる。
【0018】
上述した実施形態では、電源3として電池を用いたEC素子駆動システム1を説明した。このように電源3として電池を用いるEC素子駆動システムは、小型携帯機器、例えばウェアラブル機器に適用することが可能である。ウェアラブル機器では小型軽量が要求されるため、一般的には小容量の電池が使用される。例えば、直径4mm、長さ20mm程度の小型二次電池の容量は20mAh程度であり、EC素子の駆動時において、図3に示すような30mAを超える突入電流が流れると放電特性に著しく影響が出る。
図3に示すように、上記実施形態で示した電流抑制部6である電流抑制回路がない条件1では、電池電圧をシステム駆動時の下限値として3.6Vとすると、約2.5時間で電池電圧が降下してしまうことが判った。しかし、本発明の電流抑制部6を実装すると条件2となり、電圧降下が約5.0時間まで延長されることが確認された。これは、電池の放電特性が改善されることにより電池寿命が延長されたことを示している。
【0019】
図4は、EC素子駆動時において突入電流が発生した場合に電池電圧が低下する現象を示している。図4において、電流抑制回路を持たない条件1では約0.08Vの電圧ドロップが発生することが確認された。しかし、電流抑制回路を設けた条件2では、EC素子の反応速度等の性能を満足する条件で電流値の制限を行うことにより、電圧ドロップの発生を防止することが確認された。なお、図4における電圧のドロップ値は、EC素子の構成や大きさにより変化するものである。
【0020】
以上説明したように、本発明のEC素子駆動システム1によれば電源3として電池を用いることができるので、固定機器に限定されず移動可能な機器にも搭載することができ、利用範囲を拡張することができる。また、電源3として小型電池を用いることにより小型携帯機器、例えばウェアラブル機器にも本発明のEC素子駆動システムを搭載することができ、EC素子の寿命を延ばしつつ省エネルギにより電池の寿命も延ばすことが可能な小型携帯機器を提供することができる。
【0021】
上述した実施形態では、EC素子2を1個のみ駆動するEC素子駆動システム1を説明したが、EC素子を2個以上駆動する構成としてもよい。この場合、全てのEC素子の負荷に対応して、制御部8は定電圧電源部5から電流抑制部6に供給される電圧値を制御する。このときの全てのEC素子の負荷は、各EC素子の構成及び種類、各EC素子の接続状態等によって変化する。
【0022】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を例示したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0023】
1 EC素子駆動システム
2 EC素子
3 電源
6 電流抑制部
8 制御部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【文献】特開2007-225693号公報
図1
図2
図3
図4