IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特許7067029非水系二次電池用負極材、非水系二次電池用負極及び非水系二次電池
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】非水系二次電池用負極材、非水系二次電池用負極及び非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20220509BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20220509BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/48
H01M4/36 E
H01M4/36 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2017224968
(22)【出願日】2017-11-22
(65)【公開番号】P2018088405
(43)【公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2016227262
(32)【優先日】2016-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】石渡 信亨
(72)【発明者】
【氏名】丸 直人
【審査官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-164871(JP,A)
【文献】特開2009-004304(JP,A)
【文献】特開2014-186955(JP,A)
【文献】特開2015-135811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
H01M 4/48
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合炭素粒子(A)と酸化珪素粒子(B)(但し、少なくとも酸化珪素粒子と黒鉛質粒子とを含む複合粒子を除く。)を含み、該複合炭素粒子(A)が少なくとも黒鉛質粒子、炭素質物、及び炭素質粒子を含む非水系二次電池負極用炭素材であって、
該複合炭素粒子(A)の表面に均一かつ連続的な微細流路が形成されており、
該酸化珪素粒子(B)と該複合炭素粒子(A)の平均粒子径比(R=[酸化珪素粒子(B)の平均粒子径(d50)]/[複合炭素粒子(A)の平均粒子径(d50)])が0.1以上1以下である非水系二次電池用負極材。
【請求項2】
複合炭素粒子(A)における炭素質粒子が、石炭微粉、気相炭素粉、カーボンブラック、ケッチェンブラック及びカーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載の非水系二次電池負極用炭素材。
【請求項3】
複合炭素粒子(A)における炭素質粒子の一次粒子径又は繊維径が1nm以上500nm以下である、請求項1又は2に記載の非水系二次電池負極用炭素材。
【請求項4】
複合炭素粒子(A)が球形化黒鉛を含む、請求項1乃至3の何れか1項に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項5】
酸化珪素粒子(B)の平均粒子径(d50)が0.01μm以上20μm以下である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項6】
酸化珪素粒子(B)の小粒子側から10%積算部の粒子径(d10)が0.001μm以上6μm以下である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項7】
酸化珪素粒子(B)における珪素原子数(MSi)に対する酸素原子数(MO)の比(MO/MSi)が0.5~1.6である、請求項1乃至のいずれか1項に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項8】
複合炭素粒子(A)の円形度が0.88以上である、請求項1乃至のいずれか1項に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項9】
酸化珪素粒子(B)がゼロ価の珪素原子を含むものである、請求項1乃至のいずれか1項に記載の非水系二次電池負極用炭素材。
【請求項10】
酸化珪素粒子(B)中に珪素の微結晶を含む、請求項に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項11】
集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備える非水系二次電池用負極であって、該活物質層が請求項1乃至10のいずれか1項に記載の非水系二次電池用負極材を含有する、非水系二次電池用負極。
【請求項12】
正極及び負極、並びに電解質を備える非水系二次電池であって、該負極が請求項11に記載の非水系二次電池用負極である、非水系二次電池。
【請求項13】
少なくとも黒鉛質粒子、炭素質物及び炭素質粒子を複合化して、表面に均一かつ連続的な微細流路が形成され複合炭素粒子(A)を製造し、
複合炭素粒子(A)及び酸化珪素粒子(B)を混合する、非水系二次電池用負極材の製造方法であって、
該酸化珪素粒子(B)と該複合炭素粒子(A)の平均粒子径比(R=[酸化珪素粒子(B)の平均粒子径(d50)]/[複合炭素粒子(A)の平均粒子径(d50)])が0.1以上1以下である非水系二次電池用負極材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池用負極材、それを用いた非水系二次電池用負極及びこの負極を備えた非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、高容量の二次電池に対する需要が高まってきている。特に、ニッケル・カドミウム電池や、ニッケル・水素電池に比べ、よりエネルギー密度が高く、急速充放電特性に優れた非水系二次電池、とりわけリチウムイオン二次電池が注目されている。特に、リチウムイオンを吸蔵・放出できる正極及び負極、並びにLiPFやLiBF等のリチウム塩を溶解させた非水電解液からなる非水系リチウム二次電池が開発され、実用化されている。
【0003】
この非水系リチウム二次電池の負極材としては種々のものが提案されているが、高容量であること及び放電電位の平坦性に優れていることなどから、天然黒鉛やコークス等の黒鉛化で得られる人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズピッチ、黒鉛化炭素繊維等の黒鉛質の炭素質粒子が用いられている。また、一部の電解液に対して比較的安定しているなどの理由で非晶質の炭素材料も用いられている。更には、黒鉛粒子の表面に非晶質炭素を被覆あるいは付着させ、黒鉛による高容量かつ不可逆容量が小さいという特性と、非晶質炭素による電解液との安定性に優れるという特性との2つの特性を併せもたせた炭素材料も用いられている。
【0004】
一方で、リチウムイオン二次電池を更に高容量化する目的から、これらの炭素材料に対し、酸化珪素材料を組み合わせて用いる検討がなされている。炭素質材料と酸化珪素材料を組み合わせて用いたものとして、特許文献1には、炭素質粒子として黒鉛粒子の表面の少なくとも一部に炭素層を備えた炭素質粒子を用いたものが記載されており、特許文献2には、炭素質粒子として球形化黒鉛と鱗片状黒鉛の混合物を用いたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-200983号公報
【文献】特開2013-200984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等の検討により、前記特許文献1及び前記特許文献2の負極材では、初期効率、サイクル特性等が不十分であるという問題があることが見出された。
即ち、本発明の課題は、高容量であり、初期効率、サイクル特性等に優れた非水系二次電池用負極材、並びにこれを用いた非水系二次電池用負極及び非水系二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等が上記課題を解決するために鋭意検討した結果、酸化珪素粒子と特定の炭素質粒子を含む非水系二次電池用負極材を用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0008】
[1] 複合炭素粒子(A)と酸化珪素粒子(B)(但し、少なくとも酸化珪素粒子と黒鉛質粒子とを含む複合粒子を除く。)を含み、該複合炭素粒子(A)が少なくとも黒鉛質粒子、炭素質物、及び炭素質粒子を含む非水系二次電池負極用炭素材。
【0009】
[2] 複合炭素粒子(A)における炭素質粒子が、石炭微粉、気相炭素粉、カーボンブラック、ケッチェンブラック及びカーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも1つである、[1]に記載の非水系二次電池負極用炭素材。
【0010】
[3] 複合炭素粒子(A)における炭素質粒子の一次粒子径又は繊維径が1nm以上500nm以下である、[1]又は[2]に記載の非水系二次電池負極用炭素材。
【0011】
[4] 複合炭素粒子(A)が球形化黒鉛を含む、[1]乃至[3]の何れか1項に記載の非水系二次電池用負極材。
【0012】
[5] 酸化珪素粒子(B)の平均粒子径(d50)が0.01μm以上20μm以下である、[1]乃至[4]のいずれかに記載の非水系二次電池用負極材。
【0013】
[6] 酸化珪素粒子(B)の小粒子側から10%積算部の粒子径(d10)が0.001μm以上6μm以下である、[1]乃至[5]のいずれかに記載の非水系二次電池用負極材。
【0014】
[7] 酸化珪素粒子(B)と複合炭素粒子(A)の平均粒子径比(R=[酸化珪素粒子(B)の平均粒子径(d50)]/[複合炭素粒子(A)の平均粒子径(d50)])が0.001以上10以下である、[1]乃至[6]のいずれかに記載の非水系二次電池用負極材。
【0015】
[8] 酸化珪素粒子(B)における珪素原子数(MSi)に対する酸素原子数(M)の比(M/MSi)が0.5~1.6である、[1]乃至[7]のいずれかに記載の非水系二次電池用負極材。
【0016】
[9] 酸化珪素粒子(B)がゼロ価の珪素原子を含むものである、[1]乃至[8]のいずれかに記載の非水系二次電池負極用炭素材。
【0017】
[10] 酸化珪素粒子(B)中に珪素の微結晶を含む、[9]に記載の非水系二次電池用負極材。
【0018】
[11] 集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備える非水系二次電池用負極であって、該活物質層が[1]乃至[10]のいずれかに記載の非水系二次電池用負極材を含有する、非水系二次電池用負極。
【0019】
[12] 正極及び負極、並びに電解質を備える非水系二次電池であって、該負極が[11]に記載の非水系二次電池用負極である、非水系二次電池。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高容量であり、初期効率、サイクル特性等に優れた非水系二次電池用負極材、並びにこれを用いた非水系二次電池用負極及び非水系二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本発明において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0022】
〔負極材〕
本発明の非水系二次電池負極用炭素材(以下において、「本発明の負極材」と称す場合がある。)は、複合炭素粒子(A)(以下において、「本発明の複合炭素粒子(A)」と称す場合がある。)と酸化珪素粒子(B)(以下において、「本発明の酸化珪素粒子(B)」と称す場合がある。)(但し、少なくとも酸化珪素粒子と黒鉛質粒子とを含む複合粒子を除く。)を含み、該複合炭素粒子(A)が少なくとも黒鉛質粒子、炭素質物、及び炭素質粒子を含むことを特徴とする。
【0023】
[メカニズム]
<複合炭素粒子(A)を含むことに基づく作用効果>
少なくとも黒鉛質粒子、炭素質物、及び炭素質粒子を含む複合炭素粒子(A)は、炭素質粒子の微小な凹凸を有するため、この複合炭素粒子(A)を含むことにより、電解液の細かな流路が確保され、低温時の入出力特性が向上すると考えられる。
【0024】
<酸化珪素粒子(B)を含むことに基づく作用効果>
高容量の酸化珪素粒子(B)を含むことによって、高容量な負極材を得ることが可能となる。
特に、酸化珪素粒子(B)における珪素原子数(MSi)に対する酸素原子数(M)の比(M/MSi)が0.5~1.6であることによって、高容量であると同時に、Liイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化量が小さく、複合炭素粒子(A)の体積変化量と近くなり、複合炭素粒子(A)との接触が損なわれることによる性能低下を低減させることが可能となる。
また、酸化珪素粒子(B)がゼロ価の珪素原子を含むことによって、Liイオンを吸蔵・放出する電位の範囲が複合炭素粒子(A)と近くなり、Liイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化が複合炭素粒子(A)と同時に起こるため、複合炭素粒子(A)と酸化珪素粒子(B)の界面のズレが生じにくくなり、複合炭素粒子(A)との接触が損なわれることによる性能低下を低減させることが可能となる。
【0025】
<複合炭素粒子(A)と酸化珪素粒子(B)のブレンドによる作用効果>
酸化珪素粒子(B)の粒子間に複合炭素粒子(A)が存在することで、複合炭素粒子(A)が有する微小な凹凸により、電解液の細かな流路を確保しつつ、且つ酸化珪素粒子(B)との接点を増やすことが可能となり、粒子間接着強度が増して極板強度が向上し、酸化珪素粒子(B)の充放電時における大きな膨張収縮によっても導電パスが切れることを抑制できると考えられる。このため高容量で初期効率とサイクル特性に優れた非水系二次電池負極用炭素材を得ることができたと考えられる。
【0026】
なお、本発明の負極材は、特定の複合炭素粒子(A)と酸化珪素粒子(B)とを含むものであるが、酸化珪素粒子(B)が少なくとも酸化珪素粒子と黒鉛質粒子とを含む複合粒子として存在する場合を除くものである。
【0027】
<複合炭素粒子(A)>
<構成>
本発明の複合炭素粒子(A)は、少なくとも黒鉛質粒子と炭素質物と炭素質粒子とを含む複合粒子である。炭素質粒子を含有することで、複合炭素粒子(A)の表面に均一かつ連続的な微細流路が形成され、低温下においてもスムーズなリチウムイオンの移動が可能となるため、非水系二次電池の低温時における入出力特性を向上させることが可能となる。
【0028】
<物性>
(粒子径)
本発明の複合炭素粒子(A)の平均粒子径(d50)は通常50μm以下、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下であり、通常3μm以上、好ましくは、6μm以上、より好ましくは8μm以上である。複合炭素粒子(A)のd50が小さすぎると、比表面積が大きくなるため電解液の分解が増え、初期効率が低下する傾向があり、d50が大きすぎると急速充放電特性の低下を招く傾向がある。
【0029】
なお、本発明において、本発明の複合炭素粒子(A)及び後述の本発明の酸化珪素粒子(B)、黒鉛質粒子や本発明の負極材等の「平均粒子径(d50)」は、体積基準の粒子径分布に基づいて測定された小粒子側から50%体積積算部の粒子径(d50)であり、「d10」は同小粒子側から10%体積積算部の粒子径であり、「d90」は同小粒子側から90%体積積算部の粒子径である。これらは、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0030】
後述の本発明の酸化珪素粒子(B)のd50と本発明の複合炭素粒子(A)のd50との比R=[酸化珪素粒子(B)の平均粒子径(d50)]/[複合炭素粒子(A)の平均粒子径](d50)は0.001以上10以下であることが好ましい。この平均粒子径比Rが上記範囲内であると、複合炭素粒子(A)同士の間隙に酸化珪素粒子(B)が存在させることができ、理論容量が複合炭素粒子(A)よりも大きい酸化珪素粒子(B)の存在によって、さらなる高容量化を実現することができる。充放電によるLiイオン等のアルカリイオンの吸蔵・放出に伴う酸化珪素粒子(B)の体積変化は、複合炭素粒子(A)により形成された間隙が吸収するため、酸化珪素粒子(B)の体積変化に伴う導電パス切れを抑制し、結果としてサイクル特性向上、急速充放電特性、高容量化を実現することができる。この平均粒子径比Rは、より好ましくは0.01~3であり、更に好ましくは0.1~1、特に好ましくは0.15~0.8であり、最も好ましくは0.2~0.7である。
【0031】
複合炭素粒子(A)の体積基準の粒子径分布における小粒子側から10%体積積算部の粒子径(d10)は通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上であり、また、通常50μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。
d10が小さすぎると、粒子の凝集傾向が強くなり、スラリー粘度上昇などの工程不都合の発生、非水系二次電池における電極強度や初期充放電効率の低下の傾向がある。d10が大きすぎると高電流密度充放電特性の低下、低温入出力特性の低下の傾向がある。
【0032】
本発明の複合炭素粒子(A)の体積基準の粒子径分布における小粒子側から90%体積積算部の粒子径(d90)は通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上であり、また、通常100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下である。
d90が小さすぎると、非水系二次電池における電極強度の低下や初期充放電効率の低下を招く場合があり、大きすぎるとスラリーの塗布時の筋引きなどの工程不都合の発生、高電流密度充放電特性の低下、低温入出力特性の低下を招く場合がある。
【0033】
(BET比表面積(SA))
本発明の複合炭素粒子(A)のBET法による比表面積は通常0.5m/g以上、好ましくは1m/g以上、より好ましくは2m/g以上、更に好ましくは3m/g以上である。また、通常15m/g以下、好ましくは12m/g以下、より好ましくは10m/g以下、更に好ましくは8m/g以下、特に好ましくは6m/g以下である。比表面積が大きすぎると負極活物質として用いた時に電解液に露出した部分と電解液との反応性が増加し、初期効率の低下、ガス発生量の増大を招きやすく、好ましい電池が得られにくい傾向がある。比表面積が小さすぎるとリチウムイオンが出入りする部位が少なく、高速充放電特性及び出力特性に劣る傾向がある。
複合炭素粒子(A)の比表面積は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0034】
(タップ密度)
本発明の複合炭素粒子(A)のタップ密度は、通常0.8g/cm以上、0.85g/cm以上が好ましく、0.9g/cm以上がより好ましく、0.95g/cm以上が更に好ましい。また、通常1.8g/cm以下、1.5g/cm以下が好ましく、1.3g/cm以下がより好ましい。
タップ密度が0.8g/cm以上であるということは、複合炭素粒子(A)が球状を呈していることを示す指標の一つである。タップ密度が0.8g/cmより小さいということは、複合炭素粒子(A)の原料である黒鉛質粒子が充分な球形粒子となっていないことを示す指標の一つである。タップ密度が0.8g/cmより小さいと、電極内で充分な連続空隙が確保されず、空隙に保持された電解液内のLiイオンの移動性が落ちることで、急速充放電特性が低下する傾向がある。
【0035】
本発明において、タップ密度は、粉体密度測定器タップデンサーKYT-3000((株)セイシン企業社製)を用い、直径1.6cm、体積容量20cmの円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して、試料を落下させて、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行なって、その時の体積と試料の重量から求めた密度をタップ密度として定義する。
【0036】
(アスペクト比)
本発明の複合炭素粒子(A)のアスペクト比は、通常1以上、好ましくは1.5以上、より好ましくは1.6以上、更に好ましくは1.7以上、通常4以下、好ましくは3以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2以下である。
アスペクト比が大きすぎると、電極とした際に粒子が集電対と平行方向に並ぶ傾向があるため、電極の厚み方向への連続した空隙が充分確保されず、厚み方向へのLiイオン移動性が低下し、急速充放電特性の低下を招く傾向がある。複合炭素粒子(A)のアスペクト比は、3次元的に観察したときの複合炭素粒子(A)の最長となる径Aと、それと直交する径のうち最短となる径Bとしたとき、A/Bで表される。複合炭素粒子(A)の観察は、拡大観察ができる走査型電子顕微鏡で行う。厚さ50ミクロン以下の金属の端面に固定した任意の50個の複合炭素粒子(A)を選択し、それぞれについて試料が固定されているステージを回転、傾斜させて、A、Bを測定し、A/Bの平均値を求める。
【0037】
(円形度)
本発明の複合炭素粒子(A)は、後述の実施例の項に記載の方法で測定されるフロー式粒子像分析より求められる円形度が0.88以上であることが好ましい。このように円形度が高い複合炭素粒子(A)を用いることで、高電流密度充放電特性を高めることができる。
【0038】
複合炭素粒子(A)の円形度を向上させる方法は、特に限定されないが、球形化処理を施して球形にしたものが、電極体にしたときの粒子間空隙の形状が整うので好ましい。球形化処理法の例としては、せん断力や圧縮力を与えることによって機械的に球形に近づける方法、複数の微粒子をバインダーもしくは粒子自身の有する付着力によって造粒する機械的・物理的処理方法等が挙げられる。
【0039】
複合炭素粒子(A)の円形度は、好ましくは0.9以上、特に好ましくは0.92以上である。また通常1以下、好ましくは0.98以下、より好ましくは0.95以下である。円形度が小さすぎると、高電流密度充放電特性が低下する傾向がある。一方円形度が高すぎると、真球状となる為、複合炭素粒子(A)同士の接触面積が減少して、それを使用して得られるリチウムイオン二次電池のサイクル特性が悪化する可能性がある。
BET法による比表面積は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0040】
<002面の面間隔(d002)及び結晶子サイズ(Lc)>
本発明の複合炭素粒子(A)は、その学振法によるX線広角回折で求めた格子面(002面)の面間隔d値(層間距離(d002))が、好ましくは0.338nm以下、より好ましくは0.337以下である。d002値が大きすぎるということは複合炭素粒子(A)の結晶性が低いことを示し、リチウムイオン二次電池の初期不可逆容量が増加する場合がある。一方、複合炭素粒子(A)の002面の面間隔の理論値は0.335nmであるため、通常0.335nm以上である。
【0041】
また、学振法によるX線広角回折で求めた本発明の複合炭素粒子(A)の結晶子サイズ(Lc)は、通常1.5nm以上、好ましくは3.0nm以上の範囲である。この範囲を下回ると、結晶性が低い粒子となり、リチウムイオン二次電池の可逆容量が減少してしまう可能性がある。また、前記下限は黒鉛の理論値である。
(d002)及び(Lc)の測定方法は、以下の通りである。
【0042】
<d002面間隔、Lc>
試料粉末に総量の約15重量%のX線標準高純度シリコン粉末を加えて混合したものを材料とし、グラファイトモノクロメーターで単色化したCuKα線を線源とし、反射式ディフラクトメーター法で広角X線回折曲線を測定する。学振法を用いて面間隔(d002)及び結晶子の大きさ(Lc)を求める。
【0043】
(ラマンR値)
ラマンR値は、ラマン分光法で求めたラマンスペクトルにおける1580cm-1付近のピークPAの強度IAと、1360cm-1付近のピークPBの強度IBとを測定したときの、その強度比R(R=IB/IA)として定義する。なお、「1580cm-1付近」とは1580~1620cm-1の範囲を、「1360cm-1付近」とは1350~1370cm-1の範囲を指す。
【0044】
本発明の複合炭素粒子(A)のラマンR値は、通常0.01以上、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは、0.36以上、特に好ましくは0.4以上、最も好ましくは0.5以上である。また、通常1.00以下、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.75以下、更に好ましくは0.7以下、最も好ましくは0.65以下である。
【0045】
ラマンR値が小さすぎると、本発明の複合炭素粒子(A)の製造工程における黒鉛質粒子等の力学的エネルギー処理において、粒子表面に充分なダメージが与えられていないということであり、このため複合炭素粒子(A)においては、ダメージによる黒鉛質粒子等の表面の微細なクラックや欠損、構造欠陥などのLiイオンの受け入れまたは放出の場所の量が少ないため、リチウムイオン二次電池において、Liイオンの急速充放電性が悪くなる場合がある。
【0046】
また、ラマンR値が大きいということは、例えば、黒鉛質粒子等を被覆している非晶質炭素の量が多い、及び/又はは過剰な力学的エネルギー処理による黒鉛質粒子等の表面の微細なクラックや欠損、構造欠陥の量が多すぎることを表しており、ラマンR値が大きすぎると非晶質炭素の持つ不可逆容量の影響の増大、電解液との副反応の増大により、リチウムイオン二次電池の初期充放電効率の低下やガス発生量の増大を招き、電池容量が低下する傾向がある。
【0047】
ラマンスペクトルはラマン分光器で測定できる。具体的には、測定対象粒子を測定セル内へ自然落下させることで試料充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルをこのレーザー光と垂直な面内で回転させながら測定を行う。
アルゴンイオンレーザー光の波長 :514.5nm
試料上のレーザーパワー :25mW
分解能 :4cm-1
測定範囲 :1100cm-1~1730cm-1
ピーク強度測定、ピーク半値幅測定:バックグラウンド処理、スムージング処理(単純平均によるコンボリューション5ポイント)
【0048】
(細孔容積)
本発明の複合炭素粒子(A)の水銀圧入法による10nm~100000nmの範囲の細孔容積は、通常1.0mL/g以下、好ましくは、0.9mL/g以下、より好ましくは0.8mL/g以下であり、通常、0.05mL/g以上、好ましくは、0.1mL/g以上、より好ましくは0.15mL/g以上である。全細孔容積が上記範囲を下回ると、非水系電解液の浸入可能な空隙が少なくなり易く、急速充放電をさせた時にLiイオンの挿入脱離が間に合わなくなり、それに伴いリチウム金属が析出しサイクル特性が悪化する傾向がある。一方、上記範囲を上回ると、極板作製時にバインダーが空隙に吸収され易くなり、それに伴い極板強度の低下を招く傾向がある。
【0049】
本発明の複合炭素粒子(A)の細孔径80nm~900nmの範囲の微細孔容積は、水銀圧入法(水銀ポロシメトリー)を用いて測定した値であり、通常0.08mL/g以上、好ましくは0.1mL/g以上、より好ましくは0.15mL/g以上、更に好ましくは0.3mL/g以上である。また、通常1mL/g以下であり、好ましくは0.8mL/g以下、更に好ましくは0.5mL/g以下である。
【0050】
細孔径80nm~900nmの範囲の微細孔容積が上記範囲を下回ると、非水系二次電池の充放電の際に電解液の移動が十分円滑に行われず、急速充放電をさせた時にLiイオンの挿入脱離が間に合わなくなり、それに伴いリチウム金属が析出しサイクル特性が悪化する傾向がある。一方、上記範囲を上回ると、極板作製時にバインダーが空隙に吸収され易くなり、それに伴い極板強度の低下や初期効率の低下を招く傾向がある。
【0051】
なお、水銀圧入法による細孔容積の測定方法は以下の通りである。
【0052】
上記水銀ポロシメトリー用の装置として、水銀ポロシメーター(オートポア9520:マイクロメリティックス社製)を用いることができる。試料を0.2g前後の値となるように秤量し、パウダー用セルに封入し、室温、真空下(50μmHg以下)にて10分間脱気して前処理を実施する。
引き続き、4psia(約28kPa)に減圧して前記セルに水銀を導入し、圧力を4psia(約28kPa)から40000psia(約280MPa)までステップ状に昇圧させた後、25psia(約170kPa)まで降圧させる。
【0053】
昇圧時のステップ数は80点以上とし、各ステップでは10秒の平衡時間の後、水銀圧入量を測定する。こうして得られた水銀圧入曲線からWashburnの式を用い、細孔分布を算出する。
なお、水銀の表面張力(γ)は485dyne/cm、接触角(ψ)は140°として算出する。平均細孔径は、累計細孔体積が50%となるときの細孔径として定義する。
【0054】
<複合炭素粒子(A)の製造方法>
本発明の複合炭素粒子(A)は、黒鉛質粒子と炭素質粒子と炭素質物との複合粒子であれば特にその製造方法は限定されないが、例えば、以下の(1)及び(2)の観点を考慮した製造方法を採用することが好ましい。
【0055】
(1)黒鉛質粒子と炭素質粒子を混合した混合粉体を準備し、それに炭素質物前駆体を混合して、これを不活性ガス中で熱処理する。
【0056】
このような製造方法を採用することにより、本発明の複合炭素粒子(A)の好ましい形態である、複合炭素粒子(A)の一部若しくは全面を炭素質粒子と炭素質物が被覆した複層構造炭素材を作製し易くなる利点がある。
【0057】
(2)黒鉛質粒子と炭素質粒子を混合する装置として、黒鉛質粒子と炭素質粒子を混合・撹拌する混合撹拌機構のみならず、黒鉛質粒子や炭素質粒子を解砕する解砕機構を備える装置、いわゆる解砕混合機を採用して混合する。
【0058】
このような解砕混合機を用いて黒鉛質粒子と炭素質粒子を混合することにより、黒鉛質粒子や炭素質粒子の凝集体を解砕して均一に混合することができる。複合化する前に黒鉛質粒子や炭素質粒子の凝集体を十分に解砕して均一に混合しておくことにより、その後の工程において生じる炭素質粒子同士の凝集も抑制することができる。例えば、炭素質粒子の凝集体が多く残存する複合炭素粒子(A)は、合計細孔体積及び顕微ラマン分光装置によるラマンR値の比が大きくなる傾向にあり、保存特性が低下する傾向がある。
【0059】
以上の(1)及び(2)の観点を考慮した製造方法としては、以下の工程(a)~(c)を含む製造方法が挙げられる。
工程(a):黒鉛質粒子と炭素質粒子を解砕しながら混合撹拌する工程
工程(b):工程(a)で得られた粉体に炭素質物前駆体を混合する工程
工程(c):工程(b)で得られた混合物を、不活性ガス中で熱処理する工程
なお、黒鉛質粒子、炭素質粒子及び炭素質物前駆体はそれぞれ1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
<工程(a)>
黒鉛質粒子と炭素質粒子を解砕しながら混合撹拌する方法は、常法により行うことができる。以下に一例を示す。
【0061】
(1)黒鉛質粒子と炭素質粒子の混合比率
黒鉛質粒子と炭素質粒子の混合比率は、目的とする複合粒子の組成に基づいて適宜選択されるべきものであるが、黒鉛質粒子に対して、炭素質粒子は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.15重量%以上であり、通常20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、更に好ましくは2.9重量%以下である。上記範囲であると、電池の充放電効率および放電容量などリチウムイオン二次電池に求められる諸特性を満足しつつ、低温下においても入出力特性が高くなる利点がある。
【0062】
(2)混合装置
黒鉛質粒子と炭素質粒子を混合する装置として解砕混合機を採用する場合、具体的な装置は特に限定されず、市販されているものを適宜採用することができるが、例えばロッキングミキサー、レーディゲミキサー、ヘンシェルミキサー等が挙げられる。また、解砕混合条件も特に限定されないが、解砕羽根(チョッパー)の回転数は、通常100rpm以上、好ましくは1000rpm以上、より好ましくは2000rpm以上であり、通常100000rpm以下、好ましくは30000rpm以下、好ましくは10000rpm以下である。さらに解砕混合時間は、通常30秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは10分以上であり、通常24時間以下、好ましくは3時間以下、より好ましくは1時間以下である。上記範囲内であると、黒鉛質粒子や炭素質粒子の凝集を効果的に防止することができる。
【0063】
<工程(b)>
工程(a)で得られた粉体(以下、「原料炭素材」と称す場合がある。)と炭素質物前駆体との混合は常法により行うことができる。以下に、一例を示す。
【0064】
(1)混合温度
混合温度は炭素質物前駆体の軟化点以上であり、通常5℃以上であり、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、一方通常250℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。軟化点より低い温度で混合した場合、炭素質物前駆体の流動性が悪くなり、均一に混合できないばかりではなく、加圧処理の際に液漏れの原因となる傾向がある。一方、温度が高すぎる場合、均一に混合又は捏合することが困難になり、且つ液状にするまでの加熱時間の長期化や高温で取り扱う必要が生じるため生産性に欠ける傾向がある。
【0065】
(2)工程(a)で得られた粉体と炭素質物前駆体の混合比率
工程(a)で得られた粉体と炭素質物前駆体の混合比率は、目的とする複合炭素粒子(A)の組成に基づいて適宜選択されるべきものであるが、原料炭素材に対して、炭素質物前駆体は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上であり、更に好ましくは1重量%以上であり、通常60重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下であり、更に好ましくは10重量%以下であり、特に好ましくは5重量%以下である。上記範囲であると、電池の充放電効率、放電容量、および低温下における入出力特性が高くなる利点がある。
【0066】
また、工程(a)で得られた粉体と混合する際に、炭素質物前駆体は有機溶媒によって希釈してもよい。希釈する理由としては、有機溶媒で希釈することで混合する炭素質物前駆体の粘度を下げ、より効率良く、均一に原料炭素材を被覆できるからである。
【0067】
ここで用いる有機溶媒の種類としては、ペンタン、ヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、ジメチルブタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素;エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジイソアミルエーテル、メチルフェニルエーテル、アミルフェニルエーテル、エチルベンジルエーテル等のエーテル;アセトン、メチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン等のケトン;ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸イソブチル、酢酸メチル、酢酸イソアミル、酢酸メトキシブチル、酢酸シクロヘキシル、酪酸メチル、酪酸エチル、安息香酸ブチル、安息香酸イソアミル等のエステル;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、アミルベンゼン、ジアミルベンゼン、トリアミルベンゼン、テトラアミルベンゼン、ドデシルベンゼン、ジドデシルベンゼン、アミルトルエン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素等があるが、これらに限定されるものではない。また、これらを2種以上混合したものでもよい。この中でも、ベンゼン、トルエン、キシレンが比較的沸点が高く粘度の低い有機溶媒であり、揮発による濃度変化等が起こり難く、炭素質物前駆体の粘度を下げられる点で特に好ましい。
【0068】
また、有機溶媒による希釈比率は、有機溶媒の重量に対して、炭素質物前駆体が、通常5重量%以上、好ましくは25重量%以上、より好ましくは40重量%以上、更に好ましくは重量50%以上であり、通常90重量%以下、好ましくは80重量%以下、より好ましくは70重量%以下、更に好ましくは60重量%以下である。この希釈倍率が大きすぎると炭素質物前駆体の濃度が低下し、効率的に原料炭素材を被覆することができない傾向がある。希釈倍率が小さすぎると炭素質物前駆体濃度が十分に低下せず、効率的に原料炭素材を被覆することができない傾向がある。
【0069】
混合は通常は常圧下で行うが、所望ならば、減圧下又は加圧下で行うこともできる。混合は回分方式及び連続方式のいずれで行うこともできる。いずれの場合でも、粗混合に適した装置及び精密混合に適した装置を組合せて用いることにより、混合効率を向上させることができる。
【0070】
本工程で得られた混合物又は希釈混合物の粘度は、通常100cP以下、好ましくは70cP以下、より好ましくは50cP以下である。また通常1cP以上、好ましくは10cP以上である。粘度が高すぎると、サイクル時の劣化が起こり易く、サイクル特性が悪くなる傾向がある。
【0071】
(3)混合装置
回分方式の混合装置としては、2本の枠型が自転しつつ公転する構造の混合機;高速高剪断ミキサーであるディゾルバーや高粘度用のバタフライミキサーの様な、一枚のブレートがタンク内で撹拌・分散を行う構造の装置;半円筒状混合槽の側面に沿ってシグマ型などの撹拌翼が回転する構造を有する、いわゆるニーダー形式の装置;撹拌翼を3軸にしたトリミックスタイプの装置;容器内に回転ディスクと分散媒体を有するいわゆるビーズミル型式の装置などが用いられる。
【0072】
またシャフトによって回転されるパドルが内装された容器を有し、容器内壁面はパドルの回転の最外線に実質的に沿って、好ましくは長い双胴型に形成され、パドルは互いに対向する側面を摺動可能に咬合するようにシャフトの軸方向に多数対配列された構造の装置(例えば栗本鉄工所製のKRCリアクタ、SCプロセッサ、東芝機械セルマック社製のTEM、日本製鋼所製のTEX-Kなど);更には内部一本のシャフトと、シャフトに固定された複数のすき状又は鋸歯状のパドルが位相を変えて複数配置された容器を有し、その内壁面はパドルの回転の最外線に実質的に沿って、好ましくは円筒型に形成された構造の(外熱式)装置(例えばレーディゲ社製のレーディゲミキサー、大平洋機工社製のフローシェアーミキサー、月島機械社製のDTドライヤーなど)を用いることもできる。連続方式で混合を行うには、パイプラインミキサーや連続式ビーズミルなどを用いればよい。
【0073】
また、混合条件も特に限定されないが、回転翼の回転数は、通常5rpm以上、好ましくは10rpm以上、より好ましくは50rpm以上、更に好ましくは100rpm、特に好ましくは150rpmであり、また通常100000rpm以下、好ましくは10000rpm以下、より好ましくは1000rpm以下、更に好ましくは500rpm以下、特に好ましくは200rpm以下である。混合時間は、通常30秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは10分以上であり、通常24時間以下、好ましくは3時間以下、より好ましくは1時間以下である。上記範囲内であると、原料炭素材に炭素質物前駆体を均一に被覆することができる。
【0074】
<工程(c)>
(1)焼成温度
焼成温度は混合物の調製に用いた炭素質物前駆体により異なるが、炭素化する場合、通常は600℃以上、好ましくは700℃以上、より好ましくは800℃以上に加熱し、通常1500℃以下、好ましくは1400℃以下、より好ましくは1200℃以下に止めるのが好ましい。
【0075】
黒鉛化する場合、通常2500℃以上、好ましくは2700℃以上、より好ましくは2900℃以上に加熱する。加熱温度の上限は、通常3500℃以下であり、好ましくは3200℃以下、より好ましくは3100℃以下に止めるのが好ましい。
焼成処理条件において、熱履歴温度条件、昇温速度、冷却速度、熱処理時間等は、適宜設定する。また、比較的低温領域で熱処理した後、所定の温度に昇温することもできる。なお、本工程に用いる反応機は回分式でも連続式でも、また一基でも複数基でもよい。
【0076】
(2)焼成に使用する炉
焼成に使用する炉は上記要件を満たせば特に制約はないが、例えば、シャトル炉、トンネル炉、リードハンマー炉、ロータリーキルン、オートクレーブ等の反応槽、コーカー(コークス製造の熱処理槽)、タンマン炉、アチソン炉、高周波誘導加熱炉などを用いることができ、加熱方式も、直接式抵抗加熱、間接式抵抗加熱、直接燃焼加熱、輻射熱加熱等を用いることができる。熱処理時には、必要に応じて攪拌を行なってもよい。
【0077】
<その他の工程>
前述の製造方法によって得られた複合粒子について、別途粉砕処理を行ってもよい。
粉砕処理に使用する粗粉砕機としては、ジョークラッシャー、衝撃式クラッシャー、コ-ンクラッシャー等が挙げられ、中間粉砕機としてはロールクラッシャー、ハンマーミル等が挙げられ、微粉砕機としてはボールミル、振動ミル、ピンミル、攪拌ミル、ジェットミル等が挙げられる。
【0078】
この中でも、ボールミル、振動ミル等が、粉砕時間が短く、処理速度の観点から好ましい。
【0079】
粉砕速度は、装置の種類、大きさによって適宜設定するものであるが、例えば、ボールミルの場合、通常50rpm以上、好ましい100rpm以上、より好ましくは150rpm以上、更に好ましくは200rpm以上である。また、通常2500rpm以下、好ましくは2300rpm以下、より好ましくは2000rpm以下である。速度が速すぎると、粒子径の制御が難しくなる傾向があり、速度が遅すぎると処理速度が遅くなる傾向がある。
粉砕時間は、通常30秒以上、好ましい1分以上、より好ましくは1分30秒以上、更に好ましくは2分以上である。また、通常3時間以下、好ましくは2.5時間以下、より好ましくは2時間以下である。粉砕時間が短すぎると粒子径制御が難しくなる傾向があり、粉砕時間が長すぎると、生産性が低下する傾向がある。
【0080】
振動ミルの場合、粉砕速度は、通常50rpm以上、好ましい100rpm以上、より好ましくは150rpm以上、更に好ましくは200rpm以上である。また、通常2500rpm以下、好ましくは2300rpm以下、より好ましくは2000rpm以下である。速度が速すぎると、粒子径の制御が難しくなる傾向があり、速度が遅すぎると処理速度が遅くなる傾向がある。
粉砕時間は、通常30秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは1分30秒以上、更に好ましくは2分以上である。また、通常3時間以下、好ましくは2.5時間以下、より好ましくは2時間以下である。粉砕時間が短すぎると粒子径制御が難しくなる傾向があり、粉砕時間が長すぎると、生産性が低下する傾向がある。
【0081】
さらに、前述の製造方法によって得られた複合粒子について、粒子径の分級処理を行ってもよい。
【0082】
分級処理条件としては、目開きが、通常53μm以下、好ましくは45μm以下、より好ましくは38μm以下である。
分級処理に用いる装置としては特に制限はないが、例えば、乾式篩い分けの場合:回転式篩い、動揺式篩い、旋動式篩い、振動式篩い等を用いることができ、乾式気流式分級の場合:重力式分級機、慣性力式分級機、遠心力式分級機(クラシファイア、サイクロン等)等を用いることができ、湿式篩い分けの場合:機械的湿式分級機、水力分級機、沈降分級機、遠心式湿式分級機等を用いることができる。
【0083】
(炭素質物の含有量)
本発明の複合炭素粒子(A)における炭素質物の含有量は、黒鉛質粒子に対して、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは0.3%以上、特に好ましくは0.7重量%以上であり、また前記含有量は、通常20重量%以下、好ましくは15重量%以下、更に好ましくは10重量%以下、特に好ましくは7重量%以下、最も好ましくは5重量%以下である。
【0084】
炭素質物の含有量が多すぎると、非水系二次電池において高容量を達成する為に十分な圧力で圧延を行った場合に、複合炭素粒子(A)にダメージが与えられて材料破壊が起こり、初期サイクル時充放電不可逆容量の増大、初期効率の低下を招く傾向がある。
一方、炭素質物の含有量が少なすぎると、被覆による効果が得られにくくなる傾向がある。すなわち、電池において電解液との副反応を十分に抑制できず、初期サイクル時充放電不可逆容量の増大、初期効率の低下を招く傾向がある。
【0085】
炭素質物の含有量は、材料焼成前後のサンプル重量より算出できる。なおこのとき、黒鉛質粒子の焼成前後重量変化はないものとして計算する。
w1を黒鉛質粒子の重量(kg)、w2を焼成後複合炭素粒子(A)重量(kg)とすると、炭素質物の含有量は、下記式で算出される。
炭素質物の含有量(重量%)=[(w2-w1)/w1]×100
【0086】
(炭素質粒子の含有量)
本発明の複合炭素粒子(A)における炭素質粒子の含有量は、黒鉛質粒子に対する炭素質粒子の含有量で、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは0.3%以上、特に好ましくは0.7重量%以上であり、また、通常20重量%以下、好ましくは15重量%以下、更に好ましくは10重量%以下、特に好ましくは7重量%以下、最も好ましくは5重量%以下である。
【0087】
炭素質粒子の含有量が多すぎると、電解液との反応性が高まり、電池のサイクル特性が低下する傾向がある。
一方、炭素質粒子の含有量が少なすぎると、被覆による効果が得られにくくなる傾向がある。すなわち、電池において電解液との副反応を十分に抑制できず、初期サイクル時充放電不可逆容量の増大、初期効率の低下を招く傾向がある。
【0088】
ここで、炭素質粒子の含有量は、炭素質粒子の混合時における添加量とする。
【0089】
<黒鉛質粒子>
本発明の複合炭素粒子(A)の原料となる、黒鉛質粒子としては、天然黒鉛、人造黒鉛の何れを用いてもよい。黒鉛としては、不純物の少ないものが好ましく、必要に応じて種々の精製処理を施して用いる。
黒鉛の形状は特に制限されず、薄片状、繊維状、不定形粒子などから適宜選択して用いることができるが、好ましくは薄片状である。
【0090】
前記天然黒鉛としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土壌黒鉛等が挙げられる。前記鱗状黒鉛の産地は、主にスリランカであり、前記鱗片状黒鉛の産地は、マダガスカル、中国、ブラジル、ウクライナ、カナダ等であり、前記土壌黒鉛の主な産地は、朝鮮半島、中国、メキシコ等である。
これらの天然黒鉛の中で、土壌黒鉛は一般に粒径が小さいうえ、純度が低い。これに対して、鱗片状黒鉛や鱗状黒鉛は、黒鉛化度が高く不純物量が低い等の長所があるため、本発明において好ましく使用することができる。
【0091】
また上記人造黒鉛としては、ピッチ原料を高温熱処理して製造した、コークス、ニードルコークス、高密度炭素材料等の黒鉛質粒子が挙げられる。
人造黒鉛の具体例としては、コールタールピッチ、石炭系重質油、常圧残油、石油系重質油、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然高分子、ポリフェニレンサイルファイド、ポリフェニレンオキシド、フルフリルアルコール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂などの有機物を、通常2500℃以上、3200℃以下の範囲の温度で焼成し、黒鉛化したものが挙げられる。
【0092】
黒鉛質粒子は、上述したように天然黒鉛、人造黒鉛、並びにコークス粉、ニードルコークス粉、及び樹脂等の黒鉛化物の粉体等を用いることができる。これらのうち、天然黒鉛が放電容量の高さ、製造の容易といった面から好ましい。
【0093】
本発明の複合炭素粒子(A)の原料となる、黒鉛質粒子としては、極板構造を制御しやすい等の理由から球形化処理した天然黒鉛を用いることが好ましい。
球状の黒鉛質粒子を得るには、例えば、原料となる黒鉛に対し球形化処理を行う方法が挙げられる。以下に、球形化処理を行う方法について記載するが、この方法に限定されるものではない。
【0094】
球形化処理に用いる装置としては、例えば、衝撃力を主体に、炭素材料の粒子間の相互作用も含めた圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を繰り返し粒子に与える装置を用いることができる。
具体的には、ケーシング内部に多数のブレードを設置したローターを有し、そのローターが高速回転することによって、内部に導入された炭素材料に対して衝撃圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を与え、表面処理を行なう装置が好ましい。また、黒鉛を循環させることによって機械的作用を繰り返し与える機構を有するものであるのが好ましい。
【0095】
炭素材料に機械的作用を与える好ましい装置としては、例えば、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所社製)、クリプトロン(アーステクニカ社製)、CFミル(宇部興産社製)、メカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン社製)、シータコンポーザ(徳寿工作所社製)等が挙げられる。これらの中で、奈良機械製作所社製のハイブリダイゼーションシステムが好ましい。
【0096】
前記装置を用いて処理する場合、例えば、回転するローターの周速度は通常30~100m/秒であり、40~100m/秒にするのが好ましく、50~100m/秒にするのがより好ましい。また、炭素材料に機械的作用を与える処理は、単に黒鉛を通過させるだけでも可能であるが、黒鉛を、30秒以上装置内を循環又は滞留させて処理するのが好ましく、1分以上装置内を循環又は滞留させて処理するのがより好ましい。
【0097】
(黒鉛質粒子の物性)
本発明における黒鉛質粒子は、次に示す物性の何れか1つ又は複数を満たしていることが好ましい。本発明においては、かかる物性を示す黒鉛質粒子1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせで併用してもよい。
なお、以下の物性の測定方法は、本発明の複合炭素粒子(A)の測定方法と同様である。
【0098】
(a)平均粒子径d50
黒鉛質粒子のd50は通常50μm以下、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下、特に好ましくは15μm以下であり、通常3μm以上、好ましくは4μm以上、より好ましくは5μm、更に好ましくは6μmμm以上である。d50が小さすぎると、比表面積が大きくなるため電解液の分解が増え、初期効率が低下する傾向があり、d50が大きすぎると急速充放電特性の低下を招く傾向がある。
【0099】
(b)アスペクト比
黒鉛質粒子のアスペクト比は、通常1以上、好ましくは1.5以上、より好ましくは1.6以上、更に好ましくは1.7以上、通常4以下、好ましくは3以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2以下である。
アスペクト比が大きすぎると、電極とした際に粒子が集電対と平行方向に並ぶ傾向があるため、電極の厚み方向への連続した空隙が充分確保されず、厚み方向へのリチウムイオン移動性が低下し、急速充放電特性の低下を招く傾向がある。
【0100】
(c)d10
黒鉛質粒子のd10は通常1μm以上、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上であり、また、通常20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。
d10が小さすぎると、粒子の凝集傾向が強くなり、スラリー粘度上昇などの工程不都合の発生、非水系二次電池における電極強度の低下や初期充放電効率が低下する傾向がある。d10が大きすぎると高電流密度充放電特性の低下、低温入出力特性が低下する傾向がある。
【0101】
(d)d90
黒鉛質粒子のd90は通常5μm以上、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上であり、また、通常100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは25μm以下である。
d90が小さすぎると、非水系二次電池における電極強度の低下や初期充放電効率の低下を招く場合があり、大きすぎるとスラリーの塗布時の筋引きなどの工程不都合の発生、高電流密度充放電特性の低下、低温入出力特性の低下を招く場合がある。
【0102】
(e)BET比表面積(SA)
黒鉛質粒子のBET法による比表面積は通常0.5m/g以上、好ましくは1m/g以上、より好ましくは3m/g以上、更に好ましくは4m/g以上、特に好ましくは5m/g以上である。また、通常30m/g以下、好ましくは20m/g以下、より好ましくは10m/g以下、更に好ましくは9m/g以下、特に好ましくは8m/g以下である。比表面積が大きすぎると負極活物質として用いた時に電解液に露出した部分と電解液との反応性が増加し、初期効率の低下、ガス発生量の増大を招きやすく、好ましい電池が得られにくい傾向がある。比表面積が小さすぎるとリチウムイオンが出入りする部位が少なく、高速充放電特性及び出力特性に劣る傾向がある。
【0103】
(f)タップ密度
黒鉛質粒子のタップ密度は、通常0.8g/cm以上、0.85g/cm以上が好ましく、0.9g/cm以上がより好ましく、0.95g/cm以上が更に好ましい。また、通常1.8g/cm以下、1.5g/cm以下が好ましく、1.3g/cm以下がより好ましい。
タップ密度が0.8g/cm以上であるということは、黒鉛質粒子が球状を呈していることを示す指標の一つである。タップ密度が0.8g/cmより小さいと、電極内で充分な連続空隙が確保されず、空隙に保持された電解液内のリチウムイオンの移動性が落ちることで、急速充放電特性が低下する傾向がある。
【0104】
(g)円形度
黒鉛質粒子の円形度は、通常0.88以上、より好ましくは0.9以上、更に好ましくは0.92以上である。また、円形度は通常1以下、好ましくは0.99以下、より好ましくは0.97以下である。円形度が小さすぎると、非水系二次電池の高電流密度充放電特性が低下する傾向がある。
【0105】
(h)ラマンR値
黒鉛質粒子のラマンR値は通常1以下、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.5以下であり、通常0.05以上、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.25以上である。ラマンR値がこの範囲を下回ると、粒子表面の結晶性が高くなり過ぎてLi挿入サイト数が減り、急速充放電特性の低下を招く傾向がある。一方、この範囲を上回ると、粒子表面の結晶性が乱れ、電解液との反応性が増し、充放電効率の低下やガス発生の増加を招く傾向がある。
【0106】
(i)細孔容積
黒鉛質粒子の水銀圧入法による10nm~100000nmの範囲の細孔容積は、通常1.0mL/g以下、好ましくは、0.9mL/g以下、より好ましくは0.8mL/g以下であり、通常、0.05mL/g以上、好ましくは、0.1mL/g以上、より好ましくは0.15mL/g以上である。全細孔容積が上記範囲を下回ると、非水系電解液の浸入可能な空隙が少なくなり易く、急速充放電をさせた時にLiイオンの挿入脱離が間に合わなくなり、それに伴いリチウム金属が析出しサイクル特性が悪化する傾向がある。一方、上記範囲を上回ると、極板作製時にバインダーが空隙に吸収され易くなり、それに伴い極板強度の低下を招く傾向がある。
【0107】
(j)細孔径80nm~900nmの範囲の微細孔容積
黒鉛質粒子の細孔径80nm~900nmの範囲の微細孔容積は、水銀圧入法(水銀ポロシメトリー)を用いて測定した値であり、通常0.08mL/g以上、好ましくは0.1mL/g以上、より好ましくは0.15mL/g以上、更に好ましくは0.3mL/g以上である。また、通常1mL/g以下であり、好ましくは0.8mL/g以下、更に好ましくは0.5mL/g以下である。
細孔径80nm~900nmの範囲の微細孔容積が上記範囲を下回ると、非水系二次電池の充放電の際に電解液の移動が十分円滑に行われず、急速充放電をさせた時にLiイオンの挿入脱離が間に合わなくなり、それに伴いリチウム金属が析出しサイクル特性が悪化する傾向がある。一方、上記範囲を上回ると、極板作製時にバインダーが空隙に吸収され易くなり、それに伴い極板強度の低下や初期効率の低下を招く傾向がある。
【0108】
<炭素質粒子>
本発明の複合炭素粒子(A)を構成する材となる、炭素質粒子としては種類も特に限定されないが、石炭微粉、気相炭素粉、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノファイバー等の1種又は2種以上が挙げられる。この中でもカーボンブラックが特に好ましい。カーボンブラックであると、低温下においても入出力特性が高くなり、同時に安価・簡便に入手が可能という利点がある。
【0109】
また、形状は特に限定されず、粒状、球状、鎖状、針状、繊維状、板状、鱗片状等の何れであってもよい。
【0110】
(炭素質粒子の物性)
本発明における炭素質粒子は、次に示す物性の何れか1つ又は複数を満たしていることが好ましい。本発明においては、かかる物性を示す炭素質粒子1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせで併用してもよい。
【0111】
(a)一次粒子径又は繊維径
本発明における炭素質粒子の一次粒子径又は繊維径は、通常1nm以上500nm以下である。一次粒子径は、好ましくは3nm以上、より好ましくは15nm以上であり、更に好ましくは30nm以上であり、特に好ましくは40nm以上であり、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、特に好ましくは70nm以下である。なお、炭素質粒子の一次粒子径又は繊維径は、SEM等の電子顕微鏡観察やレーザー回折式粒度分布計などによって測定することができる。
炭素質粒子の一次粒子径又は繊維径が大きすぎる場合、比表面積が小さくなり、低温時の入出力特性が低下する傾向がある。また、炭素質粒子の一次粒子径又は繊維径が小さすぎる場合、比表面積が大きくなり、容量が低下する傾向がある
【0112】
(b)BET比表面積(SA)
炭素質粒子のBET法による比表面積は、通常1m/g以上、好ましくは10m/g以上、より好ましくは30m/g以上であり、通常1000m/g以下、好ましくは500m/g以下、より好ましくは100m/g以下、更に好ましくは70m/g以下の範囲である。比表面積が大きすぎると負極活物質として用いた時に電解液に露出した部分と電解液との反応性が増加し、初期効率の低下、ガス発生量の増大を招きやすく、好ましい電池が得られにくい傾向がある。比表面積が小さすぎるとLiイオンが出入りする部位が少なく、高速充放電特性及び出力特性に劣る傾向がある。
【0113】
(c)嵩密度
炭素質粒子の嵩密度は、通常0.01g/cm以上、好ましくは0.1g/cm以上、より好ましくは0.15g/cm以上であり、更に好ましくは0.17g/cm以上であり、通常1g/cm以下、好ましくは0.8g/cm以下、より好ましくは0.6g/cm以下である。
炭素質粒子の嵩密度が大きすぎる場合、低温入出力特性が低下する傾向がある。また、嵩密度が小さすぎる場合、電池容量が低下する傾向がある。
炭素質粒子の嵩密度は、粉体密度測定器を用い、直径1.6cm、体積容量20cmの円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して、原料炭素材を落下させて、セルに満杯に充填した後、その時の体積と試料の重量から密度を求めることによって測定することができる。
【0114】
(d)タップ密度
炭素質粒子のタップ密度は、通常0.1g/cm以上、好ましくは0.15g/cm以上、より好ましくは0.2g/cm以上であり、通常2g/cm以下、好ましくは1g/cm以下、より好ましくは0.8g/cm以下である。炭素質粒子のタップ密度が大きすぎる場合、低温入出力特性が低下する傾向があり、小さすぎる場合、電池容量が低下する傾向がある。
【0115】
(e)DBP吸油量
炭素質粒子のDBP吸油量は、通常10mL/100g以上、好ましくは50mL/100g以上、より好ましくは60mL/100g以上、通常1000mL/100g以下、好ましくは500mL/100g以下、より好ましくは200mL/100g以下、更に好ましくは100mL/100g以下である。
炭素質粒子のDBP吸油量が大きすぎる場合、容量が低下する傾向があり、小さすぎる場合、低温入出力特性が低下する傾向がある。
【0116】
<炭素質物前駆体>
本発明の複合炭素粒子(A)の原料となる、炭素質物前駆体としては、以下の(i)又は(ii)に記載の炭素材が好ましく、これらは1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせで併用してもよい。
【0117】
(i)石炭系重質油、直流系重質油、分解系石油重質油、芳香族炭化水素、N環化合物、S環化合物、ポリフェニレン、有機合成高分子、天然高分子、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂からなる群より選ばれた炭化可能な有機物
(ii)炭化可能な有機物を低分子有機溶媒に溶解させたもの
【0118】
前記石炭系重質油としては、軟ピッチから硬ピッチまでのコールタールピッチ、乾留液化油等が好ましく、前記直流系重質油としては、常圧残油、減圧残油等が好ましく、前記分解系石油重質油としては、原油、ナフサ等の熱分解時に副生するエチレンタール等が好ましく、前記芳香族炭化水素としては、アセナフチレン、デカシクレン、アントラセン、フェナントレン等が好ましく、前記N環化合物としては、フェナジン、アクリジン等が好ましく、前記S環化合物としては、チオフェン、ビチオフェン等が好ましく、前記ポリフェニレンとしては、ビフェニル、テルフェニル等が好ましく、前記有機合成高分子としては、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、これらのものの不溶化処理品、ポリアクリロニトリル、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリスチレン等が好ましく、前記天然高分子としては、セルロース、リグニン、マンナン、ポリガラクトウロン酸、キトサン、サッカロース等の多糖類等が好ましく、前記熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド等が好ましく、前記熱硬化性樹脂としては、フルフリルアルコール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂等が好ましい。
【0119】
また、前記炭素質物前駆体は、ベンゼン、トルエン、キシレン、キノリン、n-へキサン等の低分子有機溶媒に溶解させた溶液等の炭化物であってもよい。
【0120】
[酸化珪素粒子(B)]
<構成>
前述のメカニズムの項に説明したように、本発明の酸化珪素粒子(B)における珪素原子数(MSi)に対する酸素原子数(M)の比(M/MSi)は0.5~1.6であることが好ましい。また、ゼロ価の珪素原子を含むことが好ましい。また、結晶化した珪素の微結晶を含むことが好ましい。
【0121】
/MSiは、より好ましくは0.7~1.3であり、特に好ましくは0.8~1.2である。M/MSiが上記範囲であると、Liイオン等のアルカリイオンの出入りのしやすい高活性な非晶質の珪素酸化物からなる粒子により、複合炭素粒子(A)に比べて高容量化を得ることができ、かつ非晶質構造により高サイクル維持率を達成することが可能となる。また、酸化珪素粒子(B)が、複合炭素粒子(A)によって形成された間隙に複合炭素粒子(A)との接点を確保しながら充填させることによって、充放電によるLiイオン等のアルカリイオンの吸蔵・放出に伴う酸化珪素粒子(B)の体積変化を該間隙により吸収させることが可能となる。このことにより、酸化珪素粒子(B)の体積変化による導電パス切れを抑制することができる。
【0122】
ゼロ価の珪素原子を含む酸化珪素粒子(B)は、固体NMR(29Si-DDMAS)測定において、通常、酸化珪素において存在する-110ppm付近を中心とし、特にピークの頂点が-100~-120ppmの範囲にあるブロードなピーク(P1)に加えて、-70ppmを中心とし、特にピークの頂点が-65~-85ppmの範囲にあるブロードなピーク(P2)が存在することが好ましい。これらのピークの面積比(P2)/(P1)は、0.1≦(P2)/(P1)≦1.0であることが好ましく、0.2≦(P2)/(P1)≦0.8の範囲であることがより好ましい。ゼロ価の珪素原子を含む酸化珪素粒子(B)が上記性状を有することによって、容量が大きく、かつ、サイクル特性の高い負極材を得ることができる。
【0123】
また、ゼロ価の珪素原子を含む酸化珪素粒子(B)は、水酸化アルカリを作用させた時に水素を生成することが好ましい。この時発生する水素量から換算される酸化珪素粒子(B)中のゼロ価の珪素原子の量としては、2~45重量%が好ましく、5~36重量%程度であることがより好ましく、10~30重量%程度であることが更に好ましい。ゼロ価の珪素原子の量が、2重量%未満では、充放電容量が小さくなる場合があり、逆に45重量%を超えるとサイクル特性が劣る場合がある。
【0124】
珪素の微結晶を含む酸化珪素粒子(B)は、下記性状を有していることが好ましい。
【0125】
i.銅を対陰極としたX線回折(Cu-Kα)において、2θ=28.4°付近を中心としたSi(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の広がりをもとに、シェーラーの式によって求めた珪素の結晶の粒子径が好ましくは1~500nm、より好ましくは2~200nm、更に好ましくは2~20nmである。珪素の微粒子の大きさが1nmより小さいと、充放電容量が小さくなる場合があるし、逆に500nmより大きいと充放電時の膨張収縮が大きくなり、サイクル性が低下するおそれがある。なお、珪素の微粒子の大きさは透過電子顕微鏡写真により測定することができる。
【0126】
ii.固体NMR(29Si-DDMAS)測定において、そのスペクトルが-110ppm付近を中心とするブロードな二酸化珪素のピークとともに-84ppm付近にSiのダイヤモンド結晶の特徴であるピークが存在する。なお、このスペクトルは、通常の酸化珪素(SiOx、x=1.0+α)とは全く異なるもので、構造そのものが明らかに異なっているものである。また、透過電子顕微鏡によって、シリコンの結晶が無定形の二酸化珪素に分散していることが確認される。
【0127】
酸化珪素粒子(B)中の珪素の微結晶の量は、2~45重量%が好ましく、5~36重量%程度であることがより好ましく、10~30重量%程度であることが更に好ましい。この珪素の微結晶量が2重量%未満では、充放電容量が小さくなる場合があり、逆に45重量%を超えるとサイクル性が劣る場合がある。
【0128】
<物性>
(粒子径)
本発明の酸化珪素粒子(B)の平均粒子径、即ち、体積基準の粒子径分布における小粒子側から50%体積積算部の粒子径(d50)は、0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。酸化珪素粒子(B)のd50が上記範囲であれば、電極にした場合、複合炭素粒子(A)によって形成された間隙に酸化珪素粒子(B)が存在し、充放電によるLiイオン等のアルカリイオンの吸蔵・放出に伴う酸化珪素粒子(B)の体積変化を間隙が吸収して、体積変化による導電パス切れを抑制し、結果としてサイクル特性を向上させることができる。酸化珪素粒子(B)のd50はより好ましくは0.3~15μmであり、更に好ましくは0.4~10μm、特に好ましくは0.5~8μmである。
【0129】
なお、本発明の酸化珪素粒子(B)のd50は、本発明の複合炭素粒子(A)のd50に対して、前述の好適なR=[酸化珪素粒子(B)の平均粒子径(d50)]/[複合炭素粒子(A)の平均粒子径(d50)]を満たすことが好ましい。
【0130】
本発明の酸化珪素粒子(B)の体積基準の粒子径分布における小粒子側から10%体積積算部の粒子径(d10)は0.001μm以上6μm以下であることが好ましい。酸化珪素粒子(B)のd10が上記範囲で、適切な微粉が存在することにより、複合炭素粒子(A)同士の間隙に存在する酸化珪素粒子(B)により、良好な導電パスを取ることができ、サイクル特性が良好となるとともに、比表面積の増大を抑制して不可逆容量を低減することができる。酸化珪素粒子(B)のd10はより好ましくは0.01~4μmであり、更に好ましくは0.1~3μmである。
【0131】
本発明の酸化珪素粒子(B)の体積基準の粒子径分布における小粒子側から90%体積積算部の粒子径(d90)は、0.5μm以上40μm以下であることが好ましい。d90が上記範囲であると酸化珪素粒子(B)が複合炭素粒子(A)同士の間隙に存在しやすくなり、良好な導電パスを取ることができ、サイクル特性が良好となる。酸化珪素粒子(B)のd90はより好ましくは0.8~30μmであり、更に好ましくは1~20μm、特に好ましくは1.2~12μmである。
【0132】
(比表面積)
本発明の酸化珪素粒子(B)のBET法による比表面積は80m/g以下であることが好ましく、60m/g以下であることが好ましい。また、0.5m/g以上であることが好ましく、1m/g以上であることがより好ましく、1.5m/g以上であることが更に好ましい。酸化珪素粒子(B)のBET法による比表面積が前記範囲内であると、Liイオン等のアルカリイオンの入出力の効率を良好に維持でき、酸化珪素粒子(B)が好適な大きさとなるため、複合炭素粒子(A)によって形成された間隙に存在させることができ、複合炭素粒子(A)との導電パスを確保することができる。また、酸化珪素粒子(B)が好適な大きさとなるため不可逆容量の増大を抑制し、高容量を確保することができる。
BET法による比表面積は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0133】
<酸化珪素粒子(B)の製造方法>
本発明で用いる酸化珪素粒子(B)は、通常、二酸化珪素(SiO)を原料とし、金属珪素(Si)及び/又は炭素を用いてSiOを熱還元させることにより得られる、SiOxのxの値が0<x<2で表される珪素酸化物からなる粒子の総称である(ただし、後述するように、珪素及び炭素以外の他の元素をドープすることも可能であり、この場合はSiOxとは異なる組成式となるが、このようなものも本発明に用いる酸化珪素粒子(B)に含まれる。)。珪素(Si)は、黒鉛と比較して理論容量が大きく、更に非晶質珪素酸化物は、リチウムイオン等のアルカリイオンの出入りがしやすく、高容量を得ることが可能となる。本発明の酸化珪素粒子(B)としては、前述の通り珪素原子数(MSi)に対する酸素原子数(M)の比(M/MSi)が0.5~1.6の酸化珪素粒子(B)であることが好ましい。
【0134】
本発明で用いる酸化珪素粒子(B)は、酸化珪素粒子を核として、この表面の少なくとも一部に非晶質炭素からなる炭素層を備えた複合型の酸化珪素粒子であってもよい。酸化珪素粒子(B)は、非晶質炭素からなる炭素層を備えていない酸化珪素粒子(B1)及び複合型の酸化珪素粒子(B2)からなる群より選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ここで、「表面の少なくとも一部に非晶質炭素からなる炭素層を備えた」とは、炭素層が酸化珪素粒子の表面の一部又は全部を層状に覆う形態のみならず、炭素層が表面の一部又は全部に付着・添着する形態をも包含する。炭素層は、表面の全部を被覆するように備えていてもよく、一部を被覆あるいは付着・添着してもよい。
【0135】
(酸化珪素粒子(B1)の製造方法)
酸化珪素粒子(B1)は、本発明の特性を満たすものであれば、製法は問わないが、例えば特許第3952118号公報に記載されたような方法によって製造された酸化珪素粒子を使用することができる。具体的には、二酸化珪素粉末と、金属珪素粉末あるいは炭素粉末とを特定の割合で混合し、この混合物を反応器に充填した後、常圧あるいは特定の圧力に減圧し、1000℃以上に昇温し、保持してSiOxガスを発生させ、冷却析出させて、一般式SiOx(xは0.5≦x≦1.6)で示される酸化珪素粒子を得ることができる。析出物は、力学的エネルギー処理を与えることで、粒子とすることができる。
【0136】
力学的エネルギー処理は、例えば、ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、転動ボールミル等の装置を用いて、反応器に充填した原料と、この原料と反応しない運動体を入れて、これに振動、回転又はこれらが組み合わされた動きを与える方法によって、前記物性を満たす酸化珪素粒子(B)を形成することができる。
【0137】
(複合型の酸化珪素粒子(B2)の製造方法)
酸化珪素粒子の表面の少なくとも一部に非晶質炭素からなる炭素層を備えた複合型の酸化珪素粒子(B2)を製造する方法としては特に制限はないが、酸化珪素粒子(B1)に石油系や石炭系のタールやピッチ、ポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリル、フェノール樹脂、セルロース等の樹脂を必要により溶媒等を用いて混合した後、非酸化性雰囲気で500℃~3000℃、好ましくは700℃~2000℃、より好ましくは800~1500℃で焼成することで、酸化珪素粒子の表面の少なくとも一部に非晶質炭素からなる炭素層を備えた複合型の酸化珪素粒子(B2)を製造することができる。
【0138】
(不均化処理)
本発明の酸化珪素粒子(B)は、上記のようにして製造された酸化珪素粒子(B1)や複合型の酸化珪素粒子(B2)を更に熱処理を施して不均化処理したものであってもよく、不均化処理を施すことで、アモルファスSiOx中にゼロ価の珪素原子がSi微細結晶として偏在する構造が形成され、このようなアモルファスSiOx中のSi微細結晶により、本発明の負極材のメカニズムの項に記載した通り、Liイオンを吸蔵・放出する電位の範囲が炭素質粒子と近くなり、Liイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化が複合炭素粒子(A)と同時に起こるため、複合炭素粒子(A)と酸化珪素粒子(B)の界面における相対位置関係が維持され、炭素質粒子との接触が損なわれることによる性能低下を低減させることが可能となる。
【0139】
この不均化処理は、前述の酸化珪素粒子(B1)又は複合型の酸化珪素粒子(B2)を、900~1400℃の温度域において、不活性ガス雰囲気下で加熱することにより行うことができる。
【0140】
不均化処理の熱処理温度が900℃より低いと、不均化が全く進行しないかシリコンの微細なセル(珪素の微結晶)の形成に極めて長時間を要し、効率的でなく、逆に1400℃より高いと、二酸化珪素部の構造化が進み、Liイオンの往来が阻害されるので、リチウムイオン二次電池としての機能が低下するおそれがある。不均化処理の熱処理温度は好ましくは1000~1300℃、より好ましくは1100~1250℃である。なお、処理時間(不均化時間)は不均化処理温度に応じて10分~20時間、特に30分~12時間程度の範囲で適宜制御することができるが、例えば1100℃の処理温度においては5時間程度が好適である。
【0141】
なお、上記不均化処理は、不活性ガス雰囲気において、加熱機構を有する反応装置を用いればよく、特に限定されず、連続法、回分法での処理が可能で、具体的には流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン等をその目的に応じ適宜選択することができる。この場合、(処理)ガスとしては、Ar、He、H、N等の上記処理温度にて不活性なガス単独もしくはそれらの混合ガスを用いることができる。
【0142】
(炭素コーティング/珪素微結晶分散酸化珪素粒子の製造)
本発明の酸化珪素粒子(B)は、珪素の微結晶を含む酸化珪素粒子の表面を炭素でコーティングした複合型の酸化珪素粒子であってもよい。
【0143】
このような複合型の酸化珪素粒子の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば下記I~IIIの方法を好適に採用することができる。
I:一般式SiOx(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素粉末を原料として、少なくとも有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下900~1400℃、好ましくは1000~1400℃、より好ましくは1050~1300℃、更に好ましくは1100~1200℃の温度域で熱処理することにより、原料の酸化珪素粉末を珪素と二酸化珪素の複合体に不均化すると共に、その表面を化学蒸着する方法
II:一般式SiOx(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素粉末をあらかじめ不活性ガス雰囲気下900~1400℃、好ましくは1000~1400℃、より好ましくは1100~1300℃で熱処理を施して不均化してなる珪素複合物、シリコン微粒子をゾルゲル法により二酸化珪素でコーティングした複合物、シリコン微粉末を煙霧状シリカ、沈降シリカのような微粉状シリカと水を介して凝固させたものを焼結して得られる複合物、又は珪素及びこの部分酸化物もしくは窒化物等の好ましくは0.1~50μmの粒度まで粉砕したものをあらかじめ不活性ガス気流下で800~1400℃で加熱したものを原料に、少なくとも有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下、800~1400℃、好ましくは900~1300℃、より好ましくは1000~1200℃の温度域で熱処理して表面を化学蒸着する方法
III:一般式SiOx(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素粉末をあらかじめ500~1200℃、好ましくは500~1000℃、より好ましくは500~900℃の温度域で有機物ガス及び/又は蒸気で化学蒸着処理したものを原料として、不活性ガス雰囲気下900~1400℃、好ましくは1000~1400℃、より好ましくは1100~1300℃の温度域で熱処理を施して不均化する方法
【0144】
上記I又はIIの方法における800~1400℃(好ましくは900~1400℃、特に1000~1400℃)の温度域での化学蒸着処理(即ち、熱CVD処理)において、熱処理温度が800℃より低いと、導電性炭素皮膜と珪素複合物との融合、炭素原子の整列(結晶化)が不十分であり、逆に1400℃より高いと、二酸化珪素部の構造化が進み、リチウムイオンの往来が阻害されるので、リチウムイオン二次電池としての機能が低下するおそれがある。
【0145】
一方、上記I又はIIIの方法における酸化珪素の不均化において、熱処理温度が900℃より低いと、不均化が全く進行しないかシリコンの微細なセル(珪素の微結晶)の形成に極めて長時間を要し、効率的でなく、逆に1400℃より高いと、二酸化珪素部の構造化が進み、リチウムイオンの往来が阻害されるので、リチウムイオン二次電池としての機能が低下するおそれがある。
【0146】
なお、上記IIIの方法においては、CVD処理した後に酸化珪素の不均化を900~1400℃、特に1000~1400℃で行うために、化学蒸着(CVD)の処理温度としては800℃より低い温度域での処理でも最終的には炭素原子が整列(結晶化)した導電性炭素皮膜と珪素複合物とが表面で融合したものが得られるものである。
【0147】
このように、好ましくは熱CVD(800℃以上での化学蒸着処理)を施すことにより炭素膜を作製するが、熱CVDの時間は、炭素量との関係で、適宜設定される。この処理において粒子が凝集する場合があるが、この凝集物をボールミル等で解砕する。また、場合によっては、再度同様に熱CVDを繰り返し行う。
【0148】
なお、上記Iの方法において、原料として一般式SiOx(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素を用いた場合には、化学蒸着処理と同時に不均化反応を行わせ、二酸化珪素中に結晶構造を有するシリコンを微細に分散させることが重要であり、この場合、化学蒸着及び不均化を進行させるための処理温度、処理時間、有機物ガスを発生する原料の種類及び有機物ガス濃度を適宜選定する必要がある。熱処理時間((CVD/不均化)時間)は、通常0.5~12時間、好ましくは1~8時間、特に2~6時間の範囲から選ばれるが、この熱処理時間は熱処理温度((CVD/不均化)温度)とも関係し、例えば、処理温度を1000℃にて行う場合には少なくとも5時間以上の処理を行うことが好ましい。
【0149】
また、上記IIの方法において、有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下に熱処理する場合の熱処理時間(CVD処理時間)は、通常0.5~12時間、特に1~6時間の範囲とすることができる。なお、SiOxの酸化珪素をあらかじめ不均化する場合の熱処理時間(不均化時間)は、通常0.5~6時間、特に0.5~3時間とすることができる。
【0150】
更に、上記IIIの方法において、SiOxをあらかじめ化学蒸着処理する場合の処理時間(CVD処理時間)は、通常0.5~12時間、特に1~6時間とすることができ、不活性ガス雰囲気下での熱処理時間(不均化時間)は、通常0.5~6時間、特に0.5~3時間とすることができる。
【0151】
有機物ガスを発生する原料として用いられる有機物としては、特に非酸化性雰囲気下において、上記熱処理温度で熱分解して炭素(黒鉛)を生成し得るものが選択され、例えばメタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素の単独もしくは混合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の1環乃至3環の芳香族炭化水素もしくはこれらの混合物が挙げられる。また、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油も単独もしくは混合物として用いることができる。
【0152】
なお、上記熱CVD(熱化学蒸着処理)及び/又は不均化処理は、非酸化性雰囲気において、加熱機構を有する反応装置を用いればよく、特に限定されず、連続法、回分法での処理が可能で、具体的には流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン等をその目的に応じ適宜選択することができる。この場合、(処理)ガスとしては、上記有機物ガス単独あるいは有機物ガスとAr、He、H、N等の非酸化性ガスの混合ガスを用いることができる。
【0153】
この場合、回転炉、ロータリーキルン等の炉芯管が水平方向に配設され、炉芯管が回転する構造の反応装置が好ましく、これにより酸化珪素粒子を転動させながら化学蒸着処理を施すことで、酸化珪素粒子同士に凝集を生じさせることなく、安定した製造が可能となる。炉芯管の回転速度は0.5~30rpm、特に1~10rpmとすることが好ましい。なお、この反応装置は、雰囲気を保持できる炉芯管と、炉芯管を回転させる回転機溝と、昇温・保持できる加熱機構を有しているものであれば特に限定せず、目的によって原料供給機構(例えばフィーダー)、製品回収機構(例えばホッパー)を設けることや、原料の滞留時間を制御するために、炉芯管を傾斜したり、炉芯管内に邪魔板を設けることもできる。また、炉芯管の材質についても特に限定はされず、炭化珪素、アルミナ、ムライト、窒化珪素等のセラミックスや、モリブデン、タングステンといった高融点金属、SUS、石英等を処理条件、処理目的によって適宜選定して使用することができる。
【0154】
また、流動ガス線速u(m/sec)は、流動化開始速度umfとの比u/umfが1.5≦u/umf≦5となる範囲とすることで、より効率的に導電性皮膜を形成することができる。u/umfが1.5より小さいと流動化が不十分となり、導電性皮膜にバラツキを生じる場合があり、逆にu/umfが5を超えると、粒子同士の二次凝集が発生し、均一な導電性皮膜を形成することができない場合がある。なお、ここで流動化開始速度は、粒子の大きさ、処理温度、処理雰囲気等により異なり、流動化ガス(線速)を徐々に増加させ、その時の粉体圧損がW(粉体重量)/A(流動層断面積)となった時の流動化ガス線速の値と定義することができる。なお、umfは、通常0.1~30cm/sec、好ましくは0.5~10cm/sec程度の範囲で行うことができ、このumfを与える粒子径としては一般的に0.5~100μm、好ましくは5~50μmとすることができる。粒子径が0.5μmより小さいと二次凝集が起こり、個々の粒子の表面を有効に処理することができない場合がある。
【0155】
<酸化珪素粒子(B)への他元素のドープ>
酸化珪素粒子(B)は、珪素、酸素以外の元素がドープされていてもよい。珪素、酸素以外の元素がドープされた酸化珪素粒子(B)は、粒子内部の化学構造が安定化することにより初期充放電効率、サイクル特性の向上が見込まれる。さらに、このような酸化珪素粒子(B)は、リチウムイオン受け入れ性が向上して複合炭素粒子(A)のリチウムイオン受け入れ性に近づくので、複合炭素粒子(A)と酸化珪素粒子(B)を共に含む負極材を用いることで、急速充電時にも負極電極内でリチウムイオンが極端に濃縮されることがなく、金属リチウムが析出しにくい電池を作製することができる。
【0156】
ドープされる元素は通常、周期表第18族以外の元素であれば任意の元素から選ぶことができるが、珪素、酸素以外の元素がドープされた酸化珪素粒子(B)がより安定であるためには周期表第4周期までの元素が好ましい。具体的には、周期表第4周期までのアルカリ金属、アルカリ土類金属、Al、Ga、Ge、N、P、As、Se等の元素から選ぶことができる。珪素、酸素以外の元素がドープされた酸化珪素粒子(B)のリチウムイオン受け入れ性を向上させるためには、ドープされる元素は周期表第4周期までのアルカリ金属、アルカリ土類金属であることが好ましく、Mg、Ca、Liがより好ましく、Liが更に好ましい。これらは1種のみでも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0157】
珪素、酸素以外の元素がドープされた酸化珪素粒子(B)における珪素原子数(MSi)に対するドープされた元素の原子数(M)の比、(M/MSi)としては、0.01~5が好ましく、0.05~4がより好ましく、0.1~3が更に好ましい。M/MSiがこの範囲を下回ると珪素、酸素以外の元素をドープした効果が得られず、この範囲を上回るとドープ反応で消費されなかった珪素、酸素以外の元素が酸化珪素粒子の表面に残存し、酸化珪素粒子の容量を低下させる原因となることがある。
【0158】
珪素、酸素以外の元素がドープされた酸化珪素粒子(B)を製造する方法としては、例えば、酸化珪素粒子とドープされる元素の単体、もしくは、化合物の粉体を混合し、不活性ガス雰囲気下において、50~1200℃の温度で加熱する方法が挙げられる。また、例えば、二酸化珪素粉末と、金属珪素粉末あるいは炭素粉末とを特定の割合で混合し、これにドープされる元素の単体、もしくは、化合物の粉体を加え、この混合物を反応器に充填した後、常圧あるいは特定の圧力に減圧し、1000℃以上に昇温し、保持して発生するガスを冷却析出させて、珪素、酸素以外の元素がドープされた酸化珪素粒子を得る方法も挙げられる。
【0159】
[負極材]
<複合炭素粒子(A)と酸化珪素粒子(B)の含有割合>
本発明の負極材は、前述の本発明に好適な物性を備える複合炭素粒子(A)と酸化珪素粒子(B)とを[複合炭素粒子(A)の重量]:[酸化珪素粒子(B)の重量]=30:70~99:1、特に40:60~98:3、とりわけ50:50~95:5の割合で含むことが好ましく、このような割合で複合炭素粒子(A)と酸化珪素粒子(B)とを混合して用いることにより、複合炭素粒子(A)同士によって形成された間隙に、高容量かつLiイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化が小さい酸化珪素粒子(B)が存在することで、複合炭素粒子(A)との接触が損なわれることによる性能低下が小さい、高容量な負極材を得ることが可能となる。
【0160】
<物性>
(平均粒子径(d50))
本発明の負極材は、平均粒子径、即ち、体積基準の粒径分布における小粒子側から50%積算部の粒子径(d50)は3μm以上30μm以下であることが好ましい。本発明の負極材のd50が3μm以上であると、比表面積が大きくなることによる不可逆容量の増加を防ぐことができる。一方、d50が30μm以下であると、電解液と負極材の粒子との接触面積が減ることによる急速充放電性の低下を防ぐことができる。負極材のd50は好ましくは5~27μm、更に好ましくは7~25μm、特に好ましくは8~23μmである。
【0161】
(タップ密度)
本発明の負極材のタップ密度は、好ましくは0.8~1.8g/cm、より好ましくは0.9~1.7g/cm、更に好ましくは1.0~1.6g・cmである。タップ密度が上記範囲内であると、負極とした場合に、複合炭素粒子(A)によって形成される間隙に電解液及び酸化珪素粒子(B)を存在させることができ、高容量化、高レート特性化を実現することができる。
タップ密度は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0162】
(比表面積)
本発明の負極材のBET法による比表面積は、通常0.5m/g以上、好ましくは2m/g以上、より好ましくは3m/g以上、さらに好ましくは4m/g以上、特に好ましくは5m/g以上である。また通常30m/g以下、好ましくは20m/g以下、より好ましくは10m/g以下、更に好ましくは9m/g以下、特に好ましくは8m/g以下である。比表面積がこの範囲を下回ると、Liが出入りする部位が少なく、リチウムイオン二次電池の高速充放電特性出力特性や低温入出力特性が劣り、一方、比表面積がこの範囲を上回ると活物質の電解液に対する活性が過剰になり、電解液との副反応の増大により電池の初期充放電効率の低下やガス発生量の増大を招き、電池容量が低下する傾向がある。
BET法による比表面積は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0163】
〔非水系二次電池用負極〕
本発明の非水系二次電池用負極(以下、「本発明の負極」と称す場合がある。)は、集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備え、該活物質層が本発明の負極材を含有するものである。
【0164】
本発明の負極材を用いて負極を作製するには、負極材に結着樹脂を配合したものを水性又は有機系媒体でスラリーとし、必要によりこれに増粘材を加えて集電体に塗布し、乾燥すればよい。
【0165】
結着樹脂としては、非水電解液に対して安定で、かつ非水溶性のものを用いるのが好ましい。例えば、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム及びエチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアクリル酸、及び芳香族ポリアミド等の合成樹脂;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体やその水素添加物、スチレン・エチレン・ブタジエン、スチレン共重合体、スチレン・イソプレン及びスチレンブロック共重合体並びにその水素化物等の熱可塑性エラストマー;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、及びエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニデンフルオライド、ポリペンタフルオロプロピレン及びポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素化高分子等を用いることができる。有機系媒体としては、例えば、N-メチルピロリドン及びジメチルホルムアミドを用いることができる。
【0166】
結着樹脂は、負極材100重量部に対して通常は0.1重量部以上、好ましくは0.2重量部以上用いるのが好ましい。結着樹脂の使用量を負極材100重量部に対して0.1重量部以上とすることで、負極材料相互間や負極材料と集電体との結着力が十分となり、負極から負極材料が剥離することによる電池容量の減少及びリサイクル特性の悪化を防ぐことができる。
【0167】
また、結着樹脂の使用量は負極材100重量部に対して10重量部以下とするのが好ましく、7重量部以下とするのがより好ましい。結着樹脂の使用量を負極材100重量部に対して10重量部以下とすることにより、負極の容量の減少を防ぎ、かつリチウムイオン等のアルカリイオンの負極材料への出入が妨げられる等の問題を防ぐことができる。
【0168】
スラリーに添加する増粘材としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース類、ポリビニルアルコール並びにポリエチレングリコール等が挙げられる。中でも好ましいのはカルボキシメチルセルロースである。増粘材は負極材料100重量部に対して、通常0.1~10重量部、特に0.2~7重量部となるように用いるのが好ましい。
【0169】
負極集電体としては、従来からこの用途に用い得ることが知られている、例えば、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、チタン及び炭素等を用いればよい。集電体の形状は通常はシート状であり、その表面に凹凸をつけたもの、ネット及びパンチングメタル等を用いることも好ましい。
【0170】
集電体に負極材と結着樹脂のスラリーを塗布・乾燥した後は、加圧して集電体上に形成された活物質層の密度を大きくして負極活物質層の単位体積当たりの電池容量を大きくするのが好ましい。活物質層の密度は1.2~1.8g/cmの範囲にあることが好ましく、1.3~1.6g/cmであることがより好ましい。
【0171】
活物質層の密度を1.2g/cm以上とすることで、電極の厚みの増大に伴う電池の容量の低下を防ぐことができる。また、活物質層の密度を1.8g/cm以下とすることで、電極内の粒子間空隙が減少に伴い空隙に保持される電解液量が減り、リチウムイオン等のアルカリイオンの移動性が小さくなり急速充放電性が小さくなるのを防ぐことができる。
【0172】
負極活物質層は、複合炭素粒子(A)によって形成された間隙に酸化珪素粒子(B)が存在して構成されていることが好ましい。複合炭素粒子(A)によって形成された間隙に酸化珪素粒子(B)が存在することで、高容量化し、レート特性を向上させることができる。
【0173】
本発明の負極材を用いて形成した負極活物質層の水銀圧入法による10nm~100000nmの範囲の細孔容量は、0.05ml/gであることが好ましく、0.1ml/g以上であることがより好ましい。細孔容量を0.05ml/g以上とすることによりリチウムイオン等のアルカリイオンの出入りの面積が大きくなる。
【0174】
〔非水系二次電池〕
本発明の非水系二次電池は、正極及び負極、並びに電解質を備える非水系二次電池であって、負極として、本発明の負極を用いたものである。
【0175】
本発明の非水系二次電池は、上記の本発明の負極を用いる以外は、常法に従って作成することができる。
【0176】
[正極]
本発明の非水系二次電池の正極の活物質となる正極材料としては、例えば、基本組成がLiCoOで表されるリチウムコバルト複合酸化物、LiNiOで表されるリチウムニッケル複合酸化物、LiMnO及びLiMnで表されるリチウムマンガン複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物、二酸化マンガン等の遷移金属酸化物、並びにこれらの複合酸化物混合物等を用いればよい。更にはTiS、FeS、Nb、Mo、CoS、V、CrO、V、FeO、GeO及びLiNi0.33Mn0.33Co0.33、LiFePO等を用いればよい。
【0177】
前記正極材料に結着樹脂を配合したものを適当な溶媒でスラリー化して集電体に塗布・乾燥することにより正極を作製できる。なおスラリー中にはアセチレンブラック及びケッチェンブラック等の導電材を含有させるのが好ましい。また所望により増粘材を含有させてもよい。
【0178】
増粘材及び結着樹脂としてはこの用途に周知のもの、例えば負極の作成に用いるものとして例示したものを用いればよい。正極材料100重量部に対する配合比率は、導電材は0.5~20重量部が好ましく、特に1~15重量部が好ましい。増粘材は0.2~10重量部が好ましく、特に0.5~7重量部が好ましい。
【0179】
正極材料100重量部に対する結着樹脂の配合比率は、結着樹脂を水でスラリー化するときは0.2~10重量部が好ましく、特に0.5~7重量部が好ましい。結着樹脂をN-メチルピロリドン等の結着樹脂を溶解する有機溶媒でスラリー化する場合は0.5~20重量部、特に1~15重量部が好ましい。
【0180】
正極集電体としては、例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ及びタンタル等並びにこれらの合金が挙げられる。なかでもアルミニウム、チタン及びタンタル並びにその合金が好ましく、アルミニウム及びその合金が最も好ましい。
【0181】
[電解質]
本発明の非水系二次電池に用いる電解質は、全固体電解質であっても、電解質が非水溶媒中に含まれる電解液であってもよいが、好ましくは電解質が非水溶媒中に含まれる電解液である。
【0182】
電解液は、従来周知の非水溶媒に種々のリチウム塩を溶解させたものを用いることができる。非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート及びビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ-ブチロラクトン等の環状エステル、クラウンエーテル、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、1,2-ジメチルテトラヒドロフラン及び1,3-ジオキソラン等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン等の鎖状エーテル等を用いればよい。通常はこれらの2種以上を混合して用いる。なかでも環状カーボネートと鎖状カーボネート、又はこれに更に他の溶媒を混合して用いるのが好ましい。
【0183】
電解液には、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、無水コハク酸、無水マレイン酸、プロパンスルトン及びジエチルスルホン等の化合物やジフルオロリン酸リチウムのようなジフルオロリン酸塩等が添加されていてもよい。更に、ジフェニルエーテル及びシクロヘキシルベンゼン等の過充電防止剤が添加されていてもよい。
【0184】
非水溶媒に溶解させる電解質としては、例えば、LiClO、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)及びLiC(CFSO等が挙げられる。電解液中の電解質の濃度は通常0.5~2mol/L、好ましくは0.6~1.5mol/Lである。
【0185】
[セパレータ]
正極と負極との間に介在させるセパレータとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンの多孔性シートや不織布を用いるのが好ましい。
【0186】
[負極/正極容量比]
本発明の非水系二次電池は、負極/正極の容量比を1.01~1.5に設計することが好ましく、1.2~1.4に設計することがより好ましい。
本発明の非水系二次電池は、Liイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに電解質を備えるリチウムイオン二次電池であることが好ましい。
【実施例
【0187】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0188】
〔物性ないし特性の測定・評価方法〕
[複合炭素粒子(A)、酸化珪素粒子(B)、負極材の物性の測定]
<粒度分布>
体積基準の粒度分布は、界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2重量%水溶液(約10mL)に試料を分散させて、レーザー回折・散乱式粒度分布計LA-700(堀場製作所社製)を用いて測定した。
【0189】
<タップ密度>
粉体密度測定器タップデンサーKYT-3000((株)セイシン企業社製)を用いて測定した。20ccのタップセルに試料を落下させ、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行って、そのときの密度をタップ密度とした。
【0190】
<比表面積(BET法)>
マイクロメリティックス社製 トライスターII3000を用いて測定した。150℃で1時間の減圧乾燥を実施した後、窒素ガス吸着によるBET多点法(相対圧0.05~0.30の範囲において5点)により測定した。
【0191】
<円形度>
フロー式粒子像分析装置(東亜医療電子社製FPIA-2000)を使用し、円相当径による粒径分布の測定および平均円形度の算出を行った。分散媒としてイオン交換水を使用し、界面活性剤としてポリオキシエチレン(20)モノラウレートを使用した。円相当径とは、撮影した粒子像と同じ投影面積を持つ円(相当円)の直径であり、円形度とは、相当円の周囲長を分子とし、撮影された粒子投影像の周囲長を分母とした比率である。測定した相当径が10~40μmの範囲の粒子の円形度を平均し、円形度とした。
【0192】
<ラマンR値>
ラマンスペクトルはラマン分光器で測定した。具体的には、測定対象粒子を測定セル内へ自然落下させることで試料充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルをこのレーザー光と垂直な面内で回転させながら測定を行った。
アルゴンイオンレーザー光の波長 :514.5nm
試料上のレーザーパワー :25mW
分解能 :4cm-1
測定範囲 :1100cm-1~1730cm-1
ピーク強度測定、ピーク半値幅測定:バックグラウンド処理、スムージング処理(単純平均によるコンボリューション5ポイント)
【0193】
本測定にて得られたラマンスペクトルにおいて、1580cm-1付近のピークPAの強度Iと、1360cm-1付近のピークPの強度Iとを測定したときの、その強度比R(R=I/I)として定義した。なお、「1580cm-1付近」とは1580~1620cm-1の範囲を、「1360cm-1付近」とは1350~1370cm-1の範囲を指す。
【0194】
[電池の評価]
<性能評価用負極の作製>
後述する複合炭素粒子(A)と酸化珪素粒子(B)との混合物97.5重量%と、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(CMC)1重量%及びスチレン・ブタジエンゴム(SBR)48重量%水性ディスパージョン3.1重量%(SBR:1.5重量%)とを、ハイブリダイズミキサーにて混練し、スラリーとした。このスラリーを厚さ20μmの銅箔上にブレード法で、目付け4~5mg/cmとなるように塗布し、乾燥させた。
【0195】
その後、負極活物質層の密度1.2~1.4g/cmとなるようにロールプレスして負極シートとし、この負極シートを直径12.5mmの円形状に打ち抜き、90℃で8時間、真空乾燥し、評価用の負極とした。
【0196】
<非水系二次電池(コイン型電池)の作製>
上記方法で作製した評価用負極と、対極としてリチウム金属箔を直径15mmの円板状に打ち抜いたものを用いた。両極の間には、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの混合溶媒(容積比=3:7)に、LiPFを1mol/Lになるように溶解させた電解液を含浸させたセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム製)を置き、コイン型の性能評価用電池を作製した。
【0197】
<充電容量、放電容量、効率、コインサイクル維持率>
前述の方法で作製した非水系二次電池(コイン型電池)を用いて、下記の測定方法で電池充放電時の充電容量(mAh/g)と放電容量(mAh/g)を測定した。
0.05Cの電流密度でリチウム対極に対して5mVまで充電し、さらに5mVの一定電圧で電流密度が0.005Cになるまで充電し、負極中にリチウムをドープした後、0.1Cの電流密度でリチウム対極に対して1.5Vまで放電を行った。
充電容量、放電容量は以下のように求めた。負極重量から負極と同面積に打ち抜いた銅箔の重量を差し引き、負極活物質とバインダーの組成比から求められる係数を乗ずることで負極活物質の重量を求め、この負極活物質の重量で1サイクル目の充電容量、放電容量を除して、重量当りの充電容量、放電容量を求めた。
このときの充電容量(mAh/g)を本負極材の1st充電容量(mAh/g)とし、放電容量(mAh/g)を1st放電容量(mAh/g)とした。
また、ここで得られた1サイクル目の放電容量(mAh/g)を充電容量(mAh/g)で除し、100倍した値を1st効率(%)とした。
上記操作を10サイクル実施し、10サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で除し、100倍した値をコインサイクル維持率とした。
【0198】
〔複合炭素粒子(A)〕
<複合炭素粒子(A1)>
d50が100μmの鱗片状天然黒鉛を、奈良機械製作所製ハイブリダイゼーションシステムNHS-1型にて、ローター周速度85m/秒で5分間の機械的作用による球形化処理を行った。このサンプルを分級により処理し、d50が7.5μmの球形化黒鉛粒子を得た。得られた球形化黒鉛粒子に、一次粒子径が24nm、BET比表面積(SA)が115m/g、DBP吸油量が110mL/100gのカーボンブラックを、黒鉛質粒子に対して2.0重量%添加し、混合・攪拌した。その混合粉体と炭素質物前駆体としてナフサ熱分解時に得られる石油系重質油を混合し、不活性ガス中で1300℃熱処理を施した後、焼成物を粉砕・分級処理することにより、黒鉛質粒子の表面にカーボンブラック微粒子と非晶質炭素とが添着された複合炭素粒子(A1)を得た。
【0199】
焼成収率から、得られた複合炭素粒子(A1)において、球形化黒鉛粒子と非晶質炭素との重量比率(球形化黒鉛粒子:非晶質炭素)は1:0.015であることが確認された。前記測定法で複合炭素粒子(A1)の物性を測定した。結果を表-1に示す。
【0200】
<複合炭素粒子(a1)>
カーボンブラックを添加しなかった点以外は複合炭素粒子(A1)と同様の方法で複合炭素粒子(a1)を作製した。焼成収率から、得られた複合炭素粒子(a1)において、球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素との質量比率(球形化黒鉛質粒子:非晶質炭素)は1:0.015であることが確認された。前記複合炭素粒子(a1)の物性を測定した。結果を表-1に示す。
【0201】
〔酸化珪素粒子(B)〕
<酸化珪素粒子(B1)>
市販の酸化珪素粒子(SiOx、x=1)(大阪チタニウムテクノロジーズ社製)を酸化珪素粒子(B1)として用いた。酸化珪素粒子(B1)は、d50が5.6μm、BET法比表面積が3.5m/gであった。酸化珪素粒子(B1)のX線回折パターンからは、2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線を確認することができず、酸化珪素粒子(B1)はゼロ価の珪素原子を微結晶として含まないことを確認された。
【0202】
<酸化珪素粒子(B2)>
酸化珪素粒子(B1)を不活性雰囲気下において、1000℃で6時間加熱処理して酸化珪素粒子(B2)を得た。酸化珪素粒子(B2)は、d50が5.4μm、BET法比表面積が2.1m/gであった。酸化珪素粒子(B2)のX線回折パターンからは、2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線を確認することが可能であり、酸化珪素粒子(B2)はゼロ価の珪素原子を微結晶として含むことを確認された。なお、上記の回折線の広がりをもとに、シェーラーの式によって求めた珪素の結晶の粒子径は3.2nmであった。
【0203】
酸化珪素粒子(B1)、(B2)の物性を表-2にまとめて示す。
【0204】
[実施例1]
複合炭素粒子(A1)90重量部に対して、酸化珪素粒子(B1)10重量部を乾式混合し、混合物とした。前記測定法で各評価を行った。
【0205】
[実施例2]
複合炭素粒子(A1)90重量部に対して、酸化珪素粒子(B2)10重量部を乾式混合し、混合物とした。実施例1と同様に評価を行った。
【0206】
[比較例1]
複合炭素粒子(a1)90重量部に対して、酸化珪素粒子(B1)10重量部を乾式混合し、混合物とした。実施例1と同様に評価を行った。
【0207】
実施例1~2、比較例1で得られた混合物の物性を表-4にまとめて示す。
また、実施例1~2、比較例1で得られた混合物よりなる負極材を用いて作製した電池の評価結果を表-4にまとめて示す。
表-4より、本発明の負極材を用いた非水系二次電池は、高容量で初期効率及びサイクル特性に優れることが分かる。
【0208】
【表1】
【0209】
【表2】
【0210】
【表3】
【0211】
【表4】