(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極電極、これに用いられる正極活物質、およびこれを利用した非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20220509BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/36 C
(21)【出願番号】P 2017231350
(22)【出願日】2017-12-01
【審査請求日】2020-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2017102734
(32)【優先日】2017-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 三香子
(72)【発明者】
【氏名】林 徹太郎
(72)【発明者】
【氏名】栗原 好治
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/056449(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/015069(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-62
H01M 10/052-0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属複合酸化物からなる正極活物質により構成された正極と、
該正極の表面に形成された
、ニオブから
なる金属元素とタングステンとリチウムとを含むリチウムイオン伝導酸化物からなる被覆層と
からなり、
前記リチウムイオン伝導酸化物が、Li
2
WO
4
とLiNbO
3
からなる化合物である
ことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極電極
。
【請求項2】
前記Li
2WO
4とLiNbO
3からなるリチウムイオン伝導酸化物の、Wに対するNbのモル比が0.5を超え、4未満である
ことを特徴とする請求項
1記載の非水系電解質二次電池用正極電極。
【請求項3】
前記被覆層に含まれているタングステンおよびニオブの合計モル量が、前記リチウム金属複合酸化物に含まれるリチウム以外の金属元素の合計モル量に対して0.05~5.0%である
ことを特徴とする請求項1
または2記載の非水系電解質二次電池用正極電極。
【請求項4】
前
記ニオブから
からなる金属元素とタングステンとリチウムとを含むリチウムイオン伝導酸化物が非晶質状態である
ことを特徴とする請求項1
、2または3に記載の非水系電解質二次電池用正極電極。
【請求項5】
前記正極が薄膜であり、前記被覆層が前記正極に重畳して層状に形成されている
ことを特徴とする請求項1
、2、3または4に記載の非水系電解質二次電池用正極電極。
【請求項6】
前記リチウム金属複合酸化物が粒子状であり、前記被覆層は前記リチウム金属複合酸化物の粒子の表面に形成されている
ことを特徴とする請求項1
、2、3または4に記載の非水系電解質二次電池用正極電極。
【請求項7】
前記被覆層の厚さが、1~500nmである
ことを特徴とする請求項
5または
6に記載の非水系電解質二次電池用正極電極。
【請求項8】
請求項
5または
6に記載の非水系電解質二次電池用正極電極に用いられる正極活物質であって、前記リチウム金属複合酸化物
にニオブから
なる金属元素とタングステンとリチウムとを含むリチウムイオン伝導酸化物からなる被覆層が形成されている
ことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項9】
請求項
8の正極活物質を用いた正極電極が用いられている
ことを特徴とする非水系電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極電極、これに用いられる正極活物質、およびこれを利用した二次電池に関する。さらに詳しくは、電子機器や自動車に用いられる非水系電解質二次電池用正極電極、これに用いられる正極活物質、およびこれを利用した非水系電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車や電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。このような要求を満たす非水系電解質二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、正極活物質を主要構成成分とする正極と、負極活物質を主要構成成分とする負極と、非水系電解液とから構成され、負極および正極はリチウムを脱離・挿入することの可能な材料が用いられている。
このようなリチウムイオン二次電池は、現在研究・開発が盛んに行われており、層状型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0004】
これまで提案されている正極材料としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)などを挙げることができる。
【0005】
上記リチウム複合酸化物を自動車用電池として開発するためには、現状よりも高出力が得られる正極材料に改良すること、すなわち正極材料の低抵抗化が重要となる。
また、上記リチウム複合酸化物の中には、大気中で取り扱う際、大気中の水分や二酸化炭素と反応して表面の変性を起こし、容量低下や抵抗増加を引き起こすものがある。したがって、これらの正極活物質の劣化を防ぐことが重要となる。
【0006】
特許文献1には、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物からなる粒子の表面にLi3PO4、LiPON(リン酸リチウムオキシナイトライド)、Li2S-SiS2-Li3PO4等のLi化合物を添着することにより、1週間保存後における内部抵抗の上昇が抑制されることが報告されている。
【0007】
特許文献2には、Li元素と、遷移金属元素とを含むリチウム含有複合酸化物の粉末の表面をLi3PO4で被覆することにより、サイクル特性とレート特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供できる正極活物質が得られると報告されている。
【0008】
特許文献3には、リチウム金属複合酸化物粉末とタングステン酸リチウムを混合することで、電池の正極抵抗を低減して出力特性を向上させることが可能であると報告されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1、2のようにリチウムとリンを含む化合物で被覆した場合や、特許文献3のようにリチウムとタングステンを含む化合物を混合しただけでは、電池性能の劣化を防いだり、電解液/正極界面抵抗を減少させ高出力を得る効果は充分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4923397号公報
【文献】国際公開WO2012/176903
【文献】特開2013-171785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑み、電池の正極として用いられた際に、電池の高出力化が可能となり、電池の性能の劣化が少ない非水系電解質二次電池用正極電極と、該電極に用いられる正極活物質を提供することを目的とする。
また、高出力が得られるとともに、電池の性能の劣化が少ない非水系電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するため、非水系電解質二次電池用正極活物質として用いられるリチウム金属複合酸化物の諸特性について検討した結果、リチウム金属複合酸化物の表面にニオブからなる金属元素とタングステンとリチウムとを含む化合物からなる被覆層を形成することで、正極電極における、より詳細にはリチウム金属複合酸化物表面でのリチウムイオン伝導性を向上させることができるとの知見を得た。また、この正極電極を用いることで二次電池の電解液/正極界面抵抗を大幅に低減して、二次電池の出力特性を向上させるとともに、電池性能の劣化を抑制することが可能であるとの知見を得て、本発明を完成した。
【0013】
第1発明の非水系電解質二次電池用正極電極は、リチウム金属複合酸化物からなる正極活物質により構成された正極と、該正極の表面に形成された、ニオブからなる金属元素とタングステンとリチウムとを含むリチウムイオン伝導酸化物からなる被覆層とからなり、前記リチウムイオン伝導酸化物が、Li
2
WO
4
とLiNbO
3
からなる化合物であることを特徴とする。
第2発明の非水系電解質二次電池用正極電極は、第1発明において、前記Li2WO4とLiNbO3からなるリチウムイオン伝導酸化物の、Wに対するNbのモル比が0.5を超え、4未満であることを特徴とする。
第3発明の非水系電解質二次電池用正極電極は、第1または第2発明において、前記被覆層に含まれているタングステンおよびニオブの合計モル量が、前記リチウム金属複合酸化物に含まれるリチウム以外の金属元素の合計モル量に対して0.05~5.0%であることを特徴とする。
第4発明の非水系電解質二次電池用正極電極は、第1、第2または第3発明において、前記ニオブからからなる金属元素とタングステンとリチウムとを含むリチウムイオン伝導酸化物が非晶質状態であることを特徴とする。
第5発明の非水系電解質二次電池用正極電極は、第1、第2、第3または第4発明において、前記正極が薄膜であり、前記被覆層が前記正極に重畳して層状に形成されていることを特徴とする。
第6発明の非水系電解質二次電池用正極電極は、第1、第2、第3または第4発明において、前記リチウム金属複合酸化物が粒子状であり、前記被覆層は前記リチウム金属複合酸化物の粒子の表面に形成されていることを特徴とする。
第7発明の非水系電解質二次電池用正極電極は、第5または第6発明において、前記被覆層の厚さが、1~500nmであることを特徴とする。
第8発明の非水系電解質二次電池用正極活物質は、請求項5または6に記載の非水系電解質二次電池用正極電極に用いられる正極活物質であって、前記リチウム金属複合酸化物にニオブからなる金属元素とタングステンとリチウムとを含むリチウムイオン伝導酸化物からなる被覆層が形成されていることを特徴とする。
第9発明の非水系電解質二次電池は、請求項8の正極活物質を用いた正極電極が用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1発明によれば、非水系電解質二次電池用正極電極が、リチウム金属複合酸化物からなる正極活物質により構成された正極の表面の被覆層を形成するリチウムイオン伝導酸化物がLi
2
WO
4
とLiNbO
3
からなる化合物であることにより、電極におけるリチウムイオン伝導性を向上できるとともに、電解質に対して安定であり、タングステンやニオブの溶出等による電池への悪影響を低減できる。よって、この電極を用いることで、高出力化が実現可能であり、高出力性能が劣化しにくい非水系電解質二次電池用正極電極が提供できる。
第2発明によれば、被覆層を形成するLi2WO4とLiNbO3からなるリチウムイオン伝導酸化物のWに対するNbのモル比0.5を超えて4未満であることにより、被覆層のリチウムイオン伝導度をさらに向上させることができ、電池の出力特性を向上させることができる。
第3発明によれば、前記被覆層に含まれているタングステンおよびニオブの合計モル量が、前記リチウム金属複合酸化物に含まれるリチウム以外の金属元素の合計に対して0.05~5.0%であることにより、正極活物質粒子と電解液との間のリチウムイオンの拡散パスがより確実に確保でき、正極活物質粒子を用いた電池の高出力化が可能になる。
第4発明によれば、ニオブからなる金属元素とタングステンとリチウムとを含むリチウムイオン伝導酸化物が非晶質状態であることにより、正極電極の正極界面抵抗をさらに低減させることができる。
第5発明によれば、正極が薄膜であり被覆層が正極に重畳して形成されていることにより、正極活物質表面の劣化が抑制されると共に薄膜正極と電解液との間にリチウムイオンの拡散パスを確保することができ、薄膜正極を用いた電池の高出力化が可能となる。
第6発明によれば、リチウム金属複合酸化物が粒子状であり、被覆層がリチウム金属複合酸化物の粒子の表面に形成されていることにより、正極活物質表面の劣化が抑制されると共に正極活物質粒子と電解液との間にリチウムイオンの拡散パスを確保することができ、正極活物質粒子を用いた電池の高出力化が可能になる。
第7発明によれば、被覆層の厚さが、1~500nmであることにより、リチウムイオン伝導性があり、かつ耐候性のある被覆層を十分に確保できるので、電池の出力特性を向上させることができる。
第8発明によれば、正極活物質であるリチウム金属複合酸化物の粒子の表面にニオブからなる金属元素とタングステンとリチウムとを含むリチウムイオン伝導酸化物からなる被覆層が形成されていることにより、正極活物質のリチウムイオン伝導性を向上できるとともに、この性能の劣化を抑制することができる。
第9発明によれば、二次電池の高出力化が可能になるとともに、この高出力化の性能の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る正極薄膜電極の構造を示す断面の概略図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る正極活物質粒子の表面の拡大図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る正極電極を使用した電池の概略説明図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る正極電極のインピーダンススペクトルの測定結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(本発明の基本概念)
本発明の非水系電解質二次電池用正極電極(以下、単に「正極電極」という)は、リチウム金属複合酸化物の表面に、ニオブからなる金属元素とタングステンとリチウムとを含む化合物からなるリチウムイオン伝導酸化物を被覆した正極電極である。また、非水系電解質二次電池(以下、単に「電池」という)は、上記正極電極に加え、セパレータ、負極、および電解液から構成される電池である。
【0017】
本発明の正極電極では、ニオブからなる金属元素とタングステンとリチウムとを含む化合物からなるリチウムイオン伝導酸化物で形成された被覆層を有することにより、電極におけるリチウムイオン伝導性を向上できるとともに、正極活物質の劣化を抑制できる。よって、この電極を用いることで、高出力化が実現可能であるとともに、高出力性能が劣化しにくい非水系電解質二次電池用正極電極が提供できる。
【0018】
(正極活物質)
前記正極電極に用いられる薄膜や粒子の原料となるリチウム金属複合酸化物材料は、4V級の高い電圧が得られ、リチウムの拡散方向がa、b面方向に限定された層状型のリチウム複合酸化物であれば良い。このようなリチウム複合酸化物としては、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)などの材料が挙げられ、目的とする電池特性に応じて使い分けられている。中でもLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2は、充放電容量と電池の安全性のバランスが取れた正極活物質として広く用いられている。
【0019】
薄膜状の正極電極は、上記リチウム金属複合酸化物材料の粉末を焼結しターゲットを作製した後、PLD法(パルスレーザー堆積法、以下同じ)により、Pt/Cr/SiO2やPtなどの導電性基板の上にリチウム金属複合酸化物を堆積させることで得られる。
粒子状のリチウム金属複合酸化物を用いた正極電極は、上記リチウム金属複合酸化物材料の粉末と導電助剤および結着剤を混合し、必要に応じて粘度調整のための溶剤を添加し、これらを混練して正極合剤ペーストを作製した後、たとえばアルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥することで得られる。必要に応じて、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧することもある。
【0020】
(リチウムイオン伝導酸化物)
正極電極となるリチウム金属複合酸化物の表面に設けられるリチウムイオン伝導酸化物からなる被覆層は、ニオブからなる金属元素とタングステンとリチウムとを含む化合物から形成されている。このニオブからなる金属元素とタングステンとリチウムとを含むリチウムイオン伝導酸化物は、リチウムイオンの拡散パスが多方向に存在しリチウムイオン伝導性に優れ、かつ大気中で変質しにくく安定であるという特徴がある。
【0021】
リチウムイオン伝導酸化物としては、ニオブとタングステンとリチウムを含むものがある。
この物質には、Li2WO4とLiNbO3の複合酸化物やLi4WO5とLiNbO3の複合酸化物などがある。また、Li6W2O9とLiNbO3の複合酸化物やLi2WO4とLi3NbO4の複合酸化物やLi4WO5とLi3NbO4の複合酸化物、Li6W2O9とLi3NbO4の複合酸化物などがある。
【0022】
本発明では、ニオブからなる金属元素とタングステンとリチウムとを含む化合物を被覆に用いることによって、(ア)リチウムとリンの2つの元素を含む化合物や(イ)リチウムとタングステンの2つの元素を含む化合物や(ウ)リチウムとニオブの2つの元素を含む化合物を被覆に用いる場合では達成できない、つぎの効果を得ることができる。
【0023】
すなわち、(ア)リンとリチウムのみ、もしくは、(イ)タングステンとリチウムのみ、もしくは(ウ)ニオブとリチウムのみからなる化合物を形成する場合に比べ、ニオブからなる金属元素とタングステンとリチウムとを適切な割合で含むことにより、リチウムをトラップすると考えられる非架橋酸素の割合を減少させることが出来る。ここで言う非架橋酸素とは、リチウム金属複合酸化物中の酸素の中で一つの金属元素としか結合を形成していない酸素のことであり、非架橋酸素が多いと正極活物質中をリチウムが移動する際に、酸素原子にトラップされて移動を妨げられる現象が起こりやすくなり、リチウムイオン伝導性を低下させる。
本発明では、W-O,Nb-O結合が多いので、イオン結合性傾向が共有結合性傾向より高くなって非架橋酸素が少なくなる。このため、リチウムイオン伝導性を上記(ア)や(イ)や(ウ)の場合より高くすることができる。
【0024】
上記したリチウムイオン伝導酸化物としては、とくに、Li2WO4とLiNbO3からなる化合物が好ましい。
化合物がLi2WO4とLiNbO3からなる化合物であることにより、被覆層は非水系電解質二次電池に使用する電解質に対して安定であり、タングステンやリンやニオブの溶出等による電池への悪影響、たとえば、抵抗増加などを低減できる。各々単独の場合に比して、Li2WO4とLiNbO3が複合的に存在することで、Li2WO4からのタングステン溶出、LiNbO3からのニオブ溶出を相互に抑制することが可能と考えられるからである。
【0025】
【0026】
【0027】
前記Li2WO4とLiNbO3からなるリチウムイオン伝導酸化物の、Wに対するNbのモル比は、0.5を超え、4未満であることが好ましい。
Li2WO4とLiNbO3からなる化合物のWに対するNbのモル比0.5を超えて4未満であることにより、被覆層のリチウムイオン伝導度をさらに向上させることができ、電池の出力特性を向上させることができる。Wに対するNbのモル比が0.5以下、または4以上であると先述のリチウムをトラップする非架橋酸素の割合が増加し、リチウムイオン伝導度を向上させることが困難になるため好ましくない。
【0028】
前記被覆層に含まれているタングステンおよびニオブの合計モル量は、前記リチウム金属複合酸化物に含まれるリチウム以外の金属元素の合計モル量に対して0.05~5.0%であることが好ましい。
この場合、正極活物質粒子と電解液との間のリチウムイオンの拡散パスがより確実に確保でき、正極活物質粒子を用いた電池の高出力化が可能になる。
逆に、0.05%より小さいと正極活物質粒子21に十分な被覆層を設けることができず、電解液との間のリチウムイオンの拡散パスが確保されない。また、5.0%を超えると被覆層が厚くなりすぎて正極電極中の有効なリチウム金属複合酸化物の割合を減らすことになり電池としての充放電容量が低下してしまう。
【0029】
上記ニオブからなる金属元素とタングステンとリチウムとを含む化合物の状態としては、結晶状態よりも非晶質(アモルファス)状態が望ましい。非晶質状態の方がリチウムイオンの拡散に効果的なチャンネル構造を有するためである。これは結晶の整った層状化合物においてリチウムの拡散経路はc軸に垂直な方向面に限られるのに対して、非晶質状態では結晶の乱れから三次元方向にリチウム拡散経路が存在するためである。
【0030】
(正極電極:被覆層の形態)
本発明における被覆層は、正極に重畳して被覆してもよく(
図1参照)、正極を構成する正極活物質粒子に被覆してもよい(
図2参照)。
【0031】
図1に基づき、薄膜形の正極電極の実施形態を説明する。
図示の正極電極は薄膜形であり、集電体である基板12の上面に正極活物質13が層状に形成され、その正極活物質13の上面にリチウムイオン伝導酸化物14が層状に形成されている。このリチウムイオン伝導酸化物14の層が特許請求の範囲にいう被覆層である。
【0032】
上記のごとき薄膜形の正極電極1は、例えば、上記タングステンとリチウムとを含む粉末およびリンとリチウムとを含む粉末を焼結しリチウム金属複合酸化物からなる正極活物質13を作製する。その後、前記リチウム金属複合酸化物薄膜にPLD法により、ニオブからなる金属元素とタングステンとリチウムとを含む化合物を堆積させリチウムイオン伝導酸化物14を形成することで得られる。
【0033】
前記リチウム金属複合酸化物薄膜のみを正極として電池を組むと正極表面にリン酸塩などの電解液の分解成分の付着、電解液との接触に起因する表面劣化、正極表面からのCoの溶出などの影響によって、電解液/正極界面でのリチウムイオンの拡散が阻害され、電解液/正極界面の抵抗増加を招く。
一方、リチウム金属複合酸化物薄膜表面にリチウム拡散性の良いLi2WO4とLiNbO3からなる化合物のようなニオブからなる金属元素とタングステンとリチウムとを含む化合物で被覆した正極では、この被覆層が正極と電解液との接触を抑えると共にリチウムイオンの透過性が良い保護膜として機能するため、電解液の分解成分の付着や正極活物質表面の表面劣化、正極表面からのCoの溶出などの現象を防止できる。
【0034】
このため、電界液/正極界面の抵抗が、リチウム金属複合酸化物薄膜のみを正極とした場合と比較して大幅に低減され、電池の出力特性を向上させることができる。
この効果を活かすためにも、リチウムイオン伝導酸化物は正極表面全体に被覆されることが好ましい。
【0035】
前記リチウムイオン伝導酸化物からなる被覆層は、1~500nmの厚さであることが好ましい。この層厚は、正極に重畳して被覆した被覆層14(
図1参照)にも、正極を構成する正極活物質粒子に被覆した被覆層23(
図2参照)にも適用される。
被覆層の厚さが、1~500nmであることにより、リチウムイオン伝導性を発揮して、電池の出力特性を向上させることができる。すなわち、被覆膜の厚さが1nm未満になると、リチウムイオンの拡散パスが有効に作用しないことがあり、500nmを超えると、拡散パスが長くなり過ぎて、充放電容量や出力特性の向上が十分に得られないことがある。
【0036】
図2に基づき、正極活物質粒子を用いた正極電極の実施形態を説明する。この
図2は正極活物質12を構成する正極活物質粒子21の表面の拡大図である。
正極活物質21は、複数の1次粒子22が凝集して形成されたものである。そして、正極活物質粒子21においては、一次粒子であるリチウム金属複合酸化物22上、またはこれらの一次粒子22からなる二次粒子(つまり活物質粒子21)上に、リチウムイオン伝導酸化物からなる被覆層23が設けられている。正極活物質粒子21は、一次粒子22、または一次粒子22が凝集した二次粒子21、もしくは一次粒子22と二次粒子21の混合物のいずれでもよい。
【0037】
正極活物質21が、二次粒子21から構成されている場合には、内部まで(つまり、一次粒子22の表面に)被覆層23が設けられていることが好ましいが、二次粒子21の表面全体に薄膜状の被覆層23が設けられている場合には、内部まで被覆層が設けられておらずともよい。
被覆層23が、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面に形成されていることにより、正極活物質粒子と電解液との間にリチウムイオンの拡散パスを確保することができ、正極活物質粒子を用いた電池の高出力化が可能になる。
【0038】
(非水素電解質二次電池)
上記正極薄膜電極に加え、セパレータ、リチウムの挿抜が可能な負極、電解液から構成される電池を作製することによって、高出力が実現可能な非水系電解質二次電池用正極材料および二次電池を容易に提供することが可能となる。
【0039】
以下に、電池の各構成を詳細に説明する。
(1)正極
図1に示す正極薄膜電極1を構成する場合は、集電体である基板12上に、薄膜状にリチウム金属複合酸化物である正極活物質13が堆積され、さらに重畳し
てリチウムイオン伝導酸化物14が薄膜状に形成されている。
【0040】
図2に示すように、正極活物質粒子21により正極を形成する場合は、通常の非水系電解質二次電池の正極と同様に、正極活物質粒子21とカーボン粉などの導電材、バインダー、溶剤を混錬してペースト化し、集電体上のペーストを塗工することにより、正極を得ることができる。
【0041】
(2)負極
負極には、リチウムの挿抜が可能な材料であればよく、通常の非水系電解質二次電池の負極と同様に、炭素物質の粉状体を集電体上に塗工したものを用いることができ、コインセルの場合は、金属リチウム、もしくはリチウム合金が好ましく用いられる。負極を構成する金属リチウム、もしくはリチウム合金は、コインセルが膨れないように厚みを0.5~2.0mmの範囲とすることが好ましい。コインセルに収まるように直径(5~15mm)程度の面積に負極をくり抜くことが必要で、負極は正極より面積が大きいものが好ましい。
【0042】
(3)セパレータ
正極と負極との間にはセパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極間の絶縁、さらには電解液を保持するなどの機能を持つものであり、一般的な非水系電解質二次電池で使用されているものを用いることができる。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ガラス(SiO2)あるいはそれら積層品等の多孔膜など、その必要機能を有するものであればよく、一般的な非水系電解質二次電池で使用されているセパレータで測定妨害元素が含まれなければ、特に限定されるものではない。
【0043】
(4)非水系電解液
非水系電解液は、電解質としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0044】
電解質としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2等、およびそれらの複合塩を用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル補足剤、界面活性剤および難燃剤等を含んでいてもよい。
【0045】
(5)電池の構成
図3に示すように、上記(1)~(4)に記載の正極1および負極2を、セパレータ3を介して積層させて電極体とし、この電極体に非水電解液を含浸させる。正極1および負極2をそれぞれ外部端子と接続して導通させる。以上の構成のものを金属製の容器に入れて電池を作製する。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
本実施例においては、正極活物質13としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜を用い、その表面にリチウムイオン伝導酸化物14としてLi2WO4とLi3PO4からなる化合物薄膜を形成した。
【0047】
(1)正極活物質13
LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜は、PLD法により作製した。LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2の組成となるようにLi2CO3とNiO、Co3O4、MnO2を混合し、980℃酸素雰囲気で焼成してLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2粉末を作成した。その後、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2粉末をペレットに加圧成形し、1000℃酸素雰囲気下で焼結しLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2ペレットを作製した。このペレットをターゲットとして、500℃酸素雰囲気下において、Pt基板(基板12)上に8mm×8mmの面積でLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜(正極活物質13)のみを約300nmの厚みに形成した。
(2)リチウムイオン伝導酸化物14
Li2WO4とLi3PO4からなる化合物薄膜の作製には、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜と同様にPLD法を用いた。原料粉末をLi2WO4の組成となるよう混合した後、焼結してペレットにしてターゲットとした。また、原料粉末をLi3PO4の組成となるよう混合した後、焼結してペレットにしてターゲットとした。
(3)正極薄膜電極1
上記のターゲットを用いて、正極活物質13であるLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜の上にさらにリチウムイオン伝導酸化物14であるLi2WO4とLi3PO4からなる化合物薄膜を形成した。形成要領は、25℃、酸素分圧20Paで約300nmの厚さで形成したものであり、このようにして正極薄膜電極1を作製した。
XRDでLi2WO4とLi3PO4からなる化合物の状態を確認したところ、非晶質状態であり、XPSでLi2WO4とLi3PO4からなる化合物中のWとPの比を確認したところ、1:1であった。また、正極薄膜を600℃で2.5時間熱処理してXRD測定を行ったところ、Li2WO4とLi3PO4からなる化合物であることが確認された。
【0048】
(4)評価
正極薄膜の評価には以下のように
図3に示す電池を作製し、正極界面抵抗を測定することで行った。
正極薄膜電極1(評価用電極)を用いて2032型のコイン型電池10を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
負極2には、直径13mmの円盤状に打ち抜かれた厚さ0.5mmの金属リチウムを用い、電解液には、1MのLiPF
6を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(宇部興産株式会社製)を用いた。セパレータ3には薄膜25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。また、コイン型電池10は、ガスケット4で正極缶6と負極缶7とを組合わせで容器を構成し、その内部に入れた正極1や負極2等をウェーブワッシャー5で固定し、コイン状の電池に組み立てられた。
正極界面抵抗はコイン型電池10を充電電位4.0Vまで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタットを使用して、交流インピーダンス測定を行い
図4に示すインピーダンススペクトルを得た。得られたインピーダンススペクトルには、高周波領域と中間周波領域とに2つの半円が観測され、低周波領域に直線が観察されていることから、
図5に示す等価回路モデルを組んで正極界面抵抗を解析した。ここで、Rsはバルク抵抗、R1は正極被膜抵抗、Rctは電解液/正極界面抵抗(界面のLi
+移動抵抗)、Wはワーブルグ成分、CPE1,CPE2は定相要素を示す。次に、作製した非晶質状態の正極薄膜を用いて電池性能を比較した。その結果を表1に示す。
【0049】
(実施例2)
正極活物質13となるLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜上にリチウムイオン伝導酸化物14となるLi2WO4とLi3PO4からなる化合物を、そのWとPの比を1:2として成膜した以外は、実施例1と同様にして作製した非水系電解質二次電池用正極材料を用いてコイン型電池を作製し、その電池評価を行った。
【0050】
(実施例3)
正極活物質13となるLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜上にリチウムイオン伝導酸化物14となるLi2WO4とLi3PO4からなる化合物を、そのWとPの比を1:4として成膜した以外は、実施例1と同様にして作製した非水系電解質二次電池用正極材料を用いてコイン型電池を作製し、その電池評価を行った。
【0051】
(実施例4)
正極活物質13となるLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜上にリチウムイオン伝導酸化物14となるLi2WO4とLi3PO4からなる化合物を、そのWとPの比を1:0.5として成膜した以外は、実施例1と同様にして作製した非水系電解質二次電池用正極材料を用いてコイン型電池を作製し、その電池評価を行った。
【0052】
(実施例5)
本実施例においては、正極活物質13としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜を用い、その表面にリチウムイオン伝導酸化物14としてLi2WO4とLiNbO3からなる化合物薄膜を形成した。
【0053】
(1)正極活物質13
実施例1と同様にして作製した。
(2)リチウムイオン伝導酸化物14
Li2WO4とLiNbO3からなる化合物薄膜の作製には、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜と同様にPLD法を用いた。原料粉末をLi2WO4の組成となるよう混合した後、焼結してペレットにしてターゲットとした。また、原料粉末をLi3NbO4の組成となるよう混合した後、焼結してペレットにしてターゲットとした。
(3)正極薄膜電極1
上記のターゲットを用いて、正極活物質13であるLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜の上にさらにリチウムイオン伝導酸化物14であるLi2WO4とLiNbO3からなる化合物薄膜を形成した。形成要領は、25℃、酸素分圧20Paで約300nmの厚さで形成したものであり、このようにして正極薄膜電極1を作製した。
XRDでLi2WO4とLiNbO3からなる化合物の状態を確認したところ、非晶質状態であり、XPSでLi2WO4とLiNbO3からなる化合物中のWとNbの比を確認したところ、1:1であった。また、正極薄膜を600℃で2.5時間熱処理してXRD測定を行ったところ、Li2WO4とLiNbO3からなる化合物であることが確認された。
【0054】
(4)評価
実施例1と同様にして実施した。
【0055】
(実施例6)
正極活物質13となるLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜上にリチウムイオン伝導酸化物14となるLi2WO4とLiNbO3からなる化合物中のWとNbの比を1:2として成膜した以外は、実施例5と同様にして作製した非水系電解質二次電池用正極材料を用いてコイン型電池を作製し、その電池評価を行った。
【0056】
(実施例7)
正極活物質13となるLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜上にリチウムイオン伝導酸化物14となるLi2WO4とLiNbO3からなる化合物中のWとNbの比を1:4として成膜した以外は、実施例5と同様にして作製した非水系電解質二次電池用正極材料を用いてコイン型電池を作製し、その電池評価を行った。
【0057】
(実施例8)
正極活物質13となるLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜上にリチウムイオン伝導酸化物14となるLi2WO4とLiNbO3からなる化合物中のWとNbの比を1:0.5として成膜した以外は、実施例5と同様にして作製した非水系電解質二次電池用正極材料を用いてコイン型電池を作製し、その電池評価を行った。
【0058】
(比較例1)
比較例1においては、正極活物質としてLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2薄膜を用いた。
LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2薄膜は、実施例1と同様に作製した。得られたLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2ペレットをターゲットとして、500℃酸素雰囲気下において、Pt基板(基板12)上に8mm×8mmの面積でLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2薄膜(正極活物質13)のみを約300nmの厚みに形成して正極薄膜電極1を作製した。リチウムイオン伝導酸化物からなる被覆層は形成されていない。
正極薄膜の評価には実施例1~4と同様に、
図3に示す電池を作製し、正極界面抵抗を測定することで行った。
【0059】
(比較例2)
正極活物質となるLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜上にLi2WO4を成膜した以外は、実施例1と同様にして作製した非水系電解質二次電池用正極材料を用いてコイン型電池を作製し、その電池評価を行った。Li2WO4は特許文献3に記載された組成物である。
【0060】
(比較例3)
正極活物質となるLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜上にLi3PO4を成膜した以外は、実施例1と同様にして作製した非水系電解質二次電池用正極材料を用いてコイン型電池を作製し、その電池評価を行った。Li3PO4は特許文献1に記載されたリン酸リチウムに含まれる組成物であり、特許文献2に記載された組成物である
【0061】
(比較例4)
正極活物質となるLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜上にLiNbO3を成膜した以外は、実施例1と同様にして作製した非水系電解質二次電池用正極材料を用いてコイン型電池を作製し、その電池評価を行った。
【0062】
【0063】
表1より、実施例1~4のLi2WO4とLi3PO4からなるリチウムイオン伝導酸化物からなる被覆層を形成したLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜は、比較例1の未被覆のLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜と比較して正極界面抵抗が大幅に(約1/4~1/5)低減され、出力特性が向上している様子が分かった。要因としてはリチウムイオン伝導性に優れた非晶質状態のLi2WO4とLi3PO4からなる化合物を被覆したことによって、正極活物質であるLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜が直接電解液と接しなくなったため劣化が抑制され、さらに正極のリチウム拡散性が向上し、電界液/正極界面の抵抗がLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜と比較して大幅に低減されたためと考えられる。
【0064】
また、実施例1~4は、比較例2(特許文献3の従来技術に対応)のLi2WO4のみを堆積したLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜および比較例3(特許文献1,2の従来技術に対応)のLi3PO4のみを堆積したLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜と比較しても、正極界面抵抗が低減され、出力特性が向上している様子が分かった。要因としてはリチウムイオン伝導性に優れたLi2WO4およびLi3PO4を混合することにより、それぞれ単体よりもLi2WO4とLi3PO4からなる化合物の方がさらにリチウムイオン伝導性が向上し正極のリチウム拡散性が向上したためと考えられる。
【0065】
さらに、実施例1~4同士を比較すると、W:Pが1:4である実施例3とW:Pが1:0.5である実施例4は比較例1~3に比べ正極界面抵抗が低減されているものの、実施例1、2に比べるとやや正極界面抵抗が大きいことがある。それゆえ、W:Pは1:0.5を超えて1:4よりも小さいことがより効果的であることがわかる。
【0066】
【0067】
表2より、実施例5~8のLi2WO4とLiNbO3からなるリチウムイオン伝導酸化物からなる被覆層を形成したLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜は、比較例1の未被覆のLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜と比較して正極界面抵抗が大幅に(約1/4~1/5)低減され、出力特性が向上している様子が分かった。要因としてはリチウムイオン伝導性に優れた非晶質状態のLi2WO4とLiNbO3からなる化合物を被覆したことによって、正極活物質であるLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜が直接電解液と接しなくなったため劣化が抑制され、さらに正極のリチウム拡散性が向上し、電界液/正極界面の抵抗がLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜と比較して大幅に低減されたためと考えられる。
【0068】
また、実施例5~8は、比較例2(特許文献3の従来技術に対応)のLi2WO4のみを堆積したLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜および比較例4のLiNbO3のみを堆積したLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2薄膜と比較しても、正極界面抵抗が低減され、出力特性が向上している様子が分かった。要因としてはリチウムイオン伝導性に優れたLi2WO4およびLiNbO3を混合することにより、それぞれ単体よりもLi2WO4とLiNbO3からなる化合物の方がさらにリチウムイオン伝導性が向上し正極のリチウム拡散性が向上したためと考えられる。
【0069】
さらに、実施例5~8同士を比較すると、W:Nbが1:4である実施例7とW:Nbが1:0.5である実施例8は比較例1、2および4に比べ正極界面抵抗が低減されているものの、実施例5、6に比べるとやや正極界面抵抗が大きいことがある。それゆえ、W:Nbは1:0.5を超えて1:4よりも小さいことがより効果的であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の非水系電解質二次電池用正極材料および二次電池は、高出力が要求される電気自動車やハイブリッド自動車用電池に好適である。また、本正極材料は材料の溶解性などの諸特性に左右されることなく様々なリチウム金属複合酸化物、リチウムイオン伝導酸化物に適用できる。
【符号の説明】
【0071】
1 正極薄膜電極
2 負極
3 セパレータ
4 ガスケット
5 ウェーブワッシャー
6 正極缶
7 負極缶
10 コイン型電池
12 基板
13 正極活物質
14 リチウムイオン伝導酸化物
21 正極活物質粒子(二次粒子)
22 リチウム金属複合酸化物(一次粒子)
23 リチウムイオン伝導酸化物