(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】駆動波形生成装置、液体を吐出する装置、ヘッド駆動方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/015 20060101AFI20220509BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220509BHJP
B41J 2/045 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/01 403
B41J2/045
B41J2/01 401
(21)【出願番号】P 2018050913
(22)【出願日】2018-03-19
【審査請求日】2020-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】230100631
【氏名又は名称】稲元 富保
(72)【発明者】
【氏名】寒川 哲幹
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-030379(JP,A)
【文献】特開2015-066772(JP,A)
【文献】特開2000-052560(JP,A)
【文献】特開2017-052153(JP,A)
【文献】特開2017-164954(JP,A)
【文献】特開2017-105131(JP,A)
【文献】特開2015-089645(JP,A)
【文献】特開2015-051599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体吐出ヘッドの圧力発生素子に与える駆動波形を生成する装置であって、
前記駆動波形は、時系列で
順次生成された第1波形と第2波形とを含み、
前記第1波形は、中間電位から立ち下がった後に前記中間電位より高い電位に立ち上がり、前記立ち上がった電位を保持した状態を維持し、前記保持した電位から前記中間電位まで立ち下がらない波形であり、
前記第2波形は、前記中間電位から前記中間電位より高い電位まで立ち上がり、前記立ち上がった電位を保持した後、前記中間電位まで立ち下がる波形であ
り、
前記第1波形と前記第2波形とは不連続である
ことを特徴とする駆動波形生成装置。
【請求項2】
前記第1波形は、前記中間電位より低い電位から前記中間電位より高い電位まで段階的に立ち上がる
ことを特徴とする請求項1に記載の駆動波形生成装置。
【請求項3】
前記第1波形は、前記中間電位より低い電位から前記中間電位より高い電位まで立ち上がる間に、少なくとも2つの電圧変化率の異なる立ち上がり波形要素を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の駆動波形生成装置。
【請求項4】
前記中間電位から立ち下がった後に少なくとも前記中間電位まで立ち上がる第3波形を含む
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の駆動波形生成装置。
【請求項5】
少なくとも2つの前記第2波形を含む
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の駆動波形生成装置。
【請求項6】
液体を吐出する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドの圧力発生素子に与える駆動波形を生成する請求項1ないし5のいずれかに記載の駆動波形生成装置と、を備えている
ことを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項7】
前記液体吐出ヘッドから液体を吐出させる駆動をするときには、前記第1波形を前記圧力発生素子に与え、前記第1波形の前記立ち上がった電位を保持している間に前記圧力発生素子への入力を遮断し、前記第2波形の前記立ち上がった電位を保持しているときに前記第2波形を前記圧力発生素子に与え、
前記液体を吐出させない程度に駆動するときには前記第2波形を前記圧力発生素子に与える
ことを特徴とする請求項6に記載の液体を吐出する装置。
【請求項8】
液体吐出ヘッドの圧力発生素子に駆動波形を与えて駆動するヘッド駆動方法であって、
時系列で
順次生成された第1波形と第2波形とを含み、
前記第1波形は、中間電位から立ち下がった後に前記中間電位より高い電位に立ち上がり、前記立ち上がった電位を保持した状態を維持し、前記保持した電位から前記中間電位まで立ち下がらない波形であり、
前記第2波形は、前記第1波形の前記電位を保持している波形要素と不連続で、前記中間電位から前記中間電位より高い電位まで立ち上がり、前記立ち上がった電位を保持した後、前記中間電位まで立ち下がる波形であ
り、
前記第1波形と前記第2波形とは不連続である駆動波形を生成し、
前記液体吐出ヘッドから液体を吐出させる駆動をするときには、前記第1波形を前記圧力発生素子に与え、前記第1波形の前記立ち上がった電位を保持している間に前記圧力発生素子への入力を遮断し、前記第2波形の前記立ち上がった電位を保持しているときに前記第2波形を前記圧力発生素子に与え、
前記液体を吐出させない程度に駆動するときには前記第2波形を前記圧力発生素子に与える
ことを特徴とするヘッド駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は駆動波形生成装置、液体を吐出する装置、ヘッド駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドを使用する装置では、液滴が吐出しない程度にノズルメニスカスを揺らして液体の粘度上昇を防ぐ微駆動(微振動、非吐出駆動、上記の予備吐出などともいう。)動作が行なわれる。
【0003】
従来、液体を吐出させる吐出パルスが2段階で立ち上がる立ち上がり波形要素を含み、2段目の電圧保持波形要素と立ち上がり波形要素を微駆動パルスとして使用するものも知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の構成にあっては、先頭の吐出パルスの立下り波形要素から最終の吐出パルスの立ち上り波形要素までの間、圧力発生素子への電圧供給が遮断されるため、圧力発生素子に電圧が供給されない時間が長くなって、駆動が不安定になるという課題がある。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、安定した駆動を行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明に係る駆動波形生成装置は、
液体吐出ヘッドの圧力発生素子に与える駆動波形を生成する装置であって、
前記駆動波形は、時系列で順次生成された第1波形と第2波形とを含み、
前記第1波形は、中間電位から立ち下がった後に前記中間電位より高い電位に立ち上がり、前記立ち上がった電位を保持した状態を維持し、前記保持した電位から前記中間電位まで立ち下がらない波形であり、
前記第2波形は、前記中間電位から前記中間電位より高い電位まで立ち上がり、前記立ち上がった電位を保持した後、前記中間電位まで立ち下がる波形であり、
前記第1波形と前記第2波形とは不連続である
構成とした。
【0009】
本発明によれば、安定した駆動を行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る液体を吐出する装置の一例に機構部の平面説明図である。
【
図3】液体吐出ヘッドの一例のノズル配列方向と直交する方向(液室長手方向)の断面説明図である。
【
図4】同じくノズル配列方向(液室短手方向)の断面説明図である。
【
図6】ヘッド駆動制御に係る部分の一例のブロック説明図である。
【
図7】本発明の第1実施形態における共通駆動波形、マスク信号、非吐出駆動波形、吐出駆動波形の説明に供する説明図である。
【
図8】本発明の第2実施形態における共通駆動波形、選択信号(マスク信号)、非吐出駆動波形、吐出駆動波形の説明に供する説明図である。
【
図9】本発明の第3実施形態における共通駆動波形、選択信号(マスク信号)、非吐出駆動波形、吐出駆動波形の説明に供する説明図である。
【
図10】本発明の第4実施形態における共通駆動波形、選択信号(マスク信号)、非吐出駆動波形、吐出駆動波形の説明に供する説明図である。
【
図11】本発明の第5実施形態における共通駆動波形、選択信号(マスク信号)、非吐出駆動波形、吐出駆動波形の説明に供する説明図である。
【
図12】本発明の第6実施形態における共通駆動波形、選択信号(マスク信号)、非吐出駆動波形、吐出駆動波形の説明に供する説明図である。
【
図13】本発明の第7実施形態における共通駆動波形、選択信号(マスク信号)、非吐出駆動波形、吐出駆動波形の説明に供する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず、本発明に係る液体を吐出する装置の一例について
図1を参照して説明する。
図1は同装置の概略説明図である。
【0012】
この液体を吐出する装置は、フルライン型ヘッドを備える装置であり、装置本体1と乾燥時間を稼ぐ出口ユニット2とを並置している。
【0013】
この装置においては、液体が付着するものである媒体10として連続紙を使用している。媒体10は、元巻きローラ11から巻き出され、搬送ローラ12~18によって搬送されて、巻取りローラ21にて巻き取られる。なお、本発明を適用する装置はシート状媒体を使用するものでもよい。
【0014】
この媒体10は、搬送ローラ13と搬送ローラ14との間で、搬送ガイド部材19上を液体吐出ユニット5に対向して搬送され、液体吐出ユニット5から吐出される液体によって画像が形成される。
【0015】
ここで、液体吐出ユニット5には、例えば、媒体搬送方向上流側から、4色分のフルライン型ヘッドユニット51D、51C、51M、51Y(以下、色の区別しないときは「ヘッドユニット51」という。)が配置されている。各ヘッドユニット51は、それぞれ、搬送される付与部材である媒体10に対してブラックD,シアンC、マゼンタM、イエローYの液体を吐出して付与する。なお、色の種類及び数はこれに限るものではない。
【0016】
ヘッドユニット51は、例えば、
図2に示すように、複数の液体吐出ヘッド(これを、単に「ヘッド」ともいう。)100をベース部材52上に千鳥状に並べてヘッドアレイとしたものを使用しているが、これに限らない。また、ヘッドユニット51は、液体吐出ヘッドとこの液体吐出ヘッドに液体供給するヘッドタンクとで構成しているが、これに限るものではなく、液体吐出ヘッド単独の構成でもよい。
【0017】
次に、ヘッドユニットを構成する1つの液体吐出ヘッドの一例について
図3及び
図4を参照して説明する。
図3は同ヘッドのノズル配列方向と直交する方向(液室長手方向)の断面説明図、
図4は同じくノズル配列方向(液室短手方向)の断面説明図である。
【0018】
この液体吐出ヘッドは、ノズル板101と、流路板102と、振動板部材103とを接合している。そして、振動板部材103を変位させる圧電アクチュエータ111と、共通流路部材としてフレーム部材120とを備えている。
【0019】
これにより、液滴を吐出する複数のノズル104に通じる個別液室(圧力室、加圧室などとも称される。)106、個別液室106に液体を供給する流体抵抗部を兼ねた液体供給路107と、液体供給路107に通じる液導入部108とを形成している。隣り合う個別液室106はノズル配列方向で隔壁106Aによって隔てられている。
【0020】
そして、フレーム部材120の共通流路としての共通液室110から振動板部材103に形成したフィルタ部109を通じて、液導入部108、液体供給路107を経て複数の個別液室106に液体を供給する。
【0021】
圧電アクチュエータ111は、振動板部材103の個別液室106の壁面を形成する変形可能な振動領域130を挟んで、個別液室106とは反対側に配置されている。
【0022】
この圧電アクチュエータ111は、ベース部材113上に接合した複数の積層型圧電部材112を有している。圧電部材112にはハーフカットダイシングによって溝加工して、駆動波形を与える柱状の圧力発生素子としての圧電素子(圧電柱)112Aと、支柱112Bを所定の間隔で櫛歯状に形成している。
【0023】
そして、圧電素子112Aを振動板部材103の振動領域130に形成した島状の凸部103aに接合している。また、支柱112Bを振動板部材103の凸部103bに接合している。
【0024】
この圧電部材112は、圧電層と内部電極とを交互に積層したものであり、内部電極がそれぞれ端面に引き出されて外部電極が設けられ、圧電素子112Aの外部電極に駆動波形を与えるための可撓性を有するフレキシブル配線基板としてのFPC115が接続されている。
【0025】
フレーム部材120には、ヘッドタンクや液体カートリッジから液体が供給される共通液室110が形成されている。
【0026】
このように構成した液体吐出ヘッドにおいては、例えば圧電素子112Aに印加する電圧を中間電位Veから下げることによって圧電素子112Aが収縮し、振動板部材103の振動領域130が下降して個別液室106の容積が膨張することで、個別液室106内に液体が流入する。
【0027】
その後、圧電素子112Aに印加する電圧を上げて圧電素子112Aを積層方向に伸長させ、振動板部材103の振動領域130をノズル104方向に変形させて個別液室106の容積を収縮させる。これにより、個別液室106内の液体が加圧され、ノズル104から液体が吐出(噴射)される。
【0028】
そして、圧電素子112Aに印加する電圧を基準電位に戻すことによって振動板部材103の振動領域130が初期位置に復元し、個別液室106が膨張して負圧が発生するので、共通液室110から液体供給路107を通じて個別液室106内に液体が充填される。そこで、ノズル104のメニスカス面の振動が減衰して安定した後、次の吐出のための動作に移行する。
【0029】
次に、この装置の制御部の概要について
図5を参照して説明する。なお、
図5は同制御部のブロック説明図である。
【0030】
この制御部は、この装置全体の制御を司るCPU511、ROM512、RAM513、I/Oななどを含むマイクロコンピュータと、画像メモリと、通信インタフェースなどで構成した主制御部(システムコントローラ)501を備えている。
【0031】
主制御部501は、外部の情報処理装置(ホスト側)などから転送される画像データ及び各種コマンド情報に基づいて媒体に画像を形成するために、印刷制御部502に印刷用データを送出する。
【0032】
印刷制御部502は、主制御部501から受領した画像データをシリアルデータで転送するとともに、この画像データの転送及び転送の確定などに必要な転送クロックやラッチ信号、制御信号などをヘッドドライバ503に出力する。
【0033】
また、印刷制御部502は、内部ROMに格納されている共通駆動波形のパターンデータをD/A変換するD/A変換器及び電圧増幅器、電流増幅器等で構成される駆動波形生成部を含み、1又は複数の駆動パルス(駆動信号)で構成される共通駆動波形をヘッドドライバ503に対して出力する。
【0034】
ヘッドドライバ503は、シリアルに入力される1つのヘッドユニット51に相当する画像データに基づいてる共通駆動波形を構成する駆動パルスを選択して圧力発生素子(手段)としての圧電素子112Aに対して与えて液体を吐出させる。このとき、共通駆動波形を構成するパルスの一部又は全部或いはパルスを形成する波形要素の全部又は一部を選択することによって、例えば、大滴、中滴、小滴など、大きさの異なるドットを打ち分けることができる。
【0035】
また、主制御部501は、モータドライバ504を介して、元巻きローラ11、搬送ローラ12~18、巻取りローラ21などの各ローラ類510を駆動制御する。
【0036】
また、主制御部501には各種センサからなるセンサ群506からの検出信号が入力され、また、操作部507との間で各種情報の入出力及び表示情報のやり取りを行う。
【0037】
次に、ヘッド駆動制御に係る部分の一例について
図6のブロック説明図を参照して説明する。
【0038】
印刷制御部502は、本発明に係る駆動波形生成装置としての駆動波形生成部701を含んでいる。また、印刷画像に応じた2ビットの画像データ(階調信号0、1)と、クロック信号、ラッチ信号、共通駆動波形を構成する駆動パルス(又は波形要素)を選択するマスク信号(選択信号)MNを出力するデータ転送部702を含んでいる。
【0039】
ここで、駆動波形生成部701からは、1印刷周期(1駆動周期)内に、液体を吐出させる1又は複数の駆動パルス(駆動信号)を含む駆動波形Vcomが生成出力される。
【0040】
なお、マスク信号MNは、ヘッドドライバ503のスイッチ手段であるアナログスイッチASの開閉を滴毎に指示する信号である。共通駆動波形Vcomの印刷周期(駆動周期)に合わせて選択すべき駆動パルス(又は波形要素)でHレベル(ON)に状態遷移し、非選択時にはLレベル(OFF)に状態遷移する。
【0041】
ヘッドドライバ503は、シフトレジスタ711と、ラッチ回路712と、デコーダ713と、レベルシフタ714と、アナログスイッチアレイ715とを備えている。
【0042】
シフトレジスタ711は、データ転送部702からの転送クロック(シフトクロック)及びシリアル画像データ(階調データ:2ビット/1チャンネル(1ノズル)を入力する。ラッチ回路712は、シフトレジスタ711の各レジスト値をラッチ信号によってラッチする。
【0043】
デコーダ713は、階調データと選択信号をデコードして結果を出力する。レベルシフタ714は、デコーダ713のロジックレベル電圧信号をアナログスイッチアレイ715のアナログスイッチASが動作可能なレベルへとレベル変換する。
【0044】
アナログスイッチアレイ715のアナログスイッチASは、レベルシフタ714を介して与えられるデコーダ713の出力でオン/オフ(開閉)される。
【0045】
アナログスイッチアレイ715のアナログスイッチASは、圧電素子112Aの個別電極に接続され、駆動波形生成部701からの共通駆動波形Vcomが入力されている。したがって、シリアル転送された画像データ(階調データ)と選択信号MNをデコーダ713でデコードした結果に応じてアナログスイッチASがオンにする。これにより、共通駆動波形Vcomを構成する所要の駆動パルス(あるいは波形要素)が通過して(選択されて)、圧電素子112Aの個別電極に与えられる。
【0046】
次に、本発明の第1実施形態における駆動波形について
図7を参照して説明する。
図7は同実施形態における共通駆動波形、マスク信号、非吐出駆動波形、吐出駆動波形の説明に供する説明図である。
【0047】
なお、「共通駆動波形」は駆動波形データをD/A変換等して生成する波形、非吐出駆動波形は液体を吐出しない程度に駆動する微駆動波形、吐出駆動波形は液体を吐出させる波形である。また、「中間電位」とは「1周期の駆動波形において時系列で最初の電圧」である。
【0048】
まず、共通駆動波形Vcomは、
図7(a)に示すように、時系列で連続する第1波形である駆動パルスとしての吐出パルスPaと、第2波形である駆動パルスとしての非吐出パルス(微駆動パルス)Pbとを含む。
【0049】
第1波形である吐出パルスPaは、中間電位V0から立ち下がった後に中間電位より高い電位V1に立ち上がり、立ち上がった電位V1を保持する波形である。
【0050】
この吐出パルスP1は、立下り波形要素aと、保持波形要素bと、立ち上がり波形要素cと、保持波形要素dとを含む。立下り波形要素aは個別液室106を膨張させる波形要素であり、引き込み波形要素、又は、膨張波形要素ともいう。また、立ち上がり波形要素cは、個別液室106を収縮させる波形要素であり、収縮波形要素、又は、押し込み波形要素ともいう。
【0051】
立下り波形要素aは、中間電位V0から中間電位V0より低い電位V2(V2<V0)まで立下がって個別液室106を膨張させる。保持波形要素bは、立下り波形要素aによる立下り電位V2を一定時間保持する。立ち上がり波形要素cは、保持波形要素bで保持された電位V2から中間電位V0より高い電位V1まで立ち上がって個別液室106を収縮させて液体を吐出させる。
【0052】
第2波形である非吐出パルスPbは、第1波形である吐出パルスPaの電位を保持している波形要素と不連続で、中間電位V0から中間電位V0より高い電位V1まで立ち上がり、立ち上がった電位V1を所定時間保持した後、中間電位V0まで立ち下がる波形である。
【0053】
この非吐出パルスP2は、中間電位V0を保持する保持波形要素eと、保持波形要素eで保持している中間電位V0から電位V1まで立ち上がる立ち上がり波形要素fと、立ち上がった電位V1を保持する保持波形要素gと、保持波形要素gで保持された電位V1から中間電位V0まで立下がる立ち上がり波形要素hとを含む。このとき、非吐出パルスPbによる駆動はメニスカスが揺れる程度の駆動(微駆動)であり、液体は吐出されない。
【0054】
次に、マスク信号(選択信号)MN0は、
図7(b)に示すように、時点t3から時点t5までのON状態になる信号である。したがって、このマスク信号MN0を与えたときには、非吐出パルスPbの波形要素が選択され、それ以外の波形要素はマスクする。
【0055】
これにより、
図7(c)に示すように、非吐出パルスP2が非吐出駆動波形(微駆動波形)として圧電素子112Aに与えられる。この非吐出駆動波形により、個別液室106が収縮されることで微駆動が行われる。
【0056】
また、マスク信号MN1は、
図7(b)に示すように、時点t1から時点t2までON状態になり、時点t2~時点t4までの間はOFF状態になり、時点t4で再びON状態になって時点t5でOFF状態になる振動である。
【0057】
これにより、
図7(c)に示すように、吐出パルスPa及び非吐出パルスPbの波形要素で構成される吐出駆動波形が圧電素子111Aに与えられる。
【0058】
つまり、吐出パルスPaの立下り波形要素aから保持波形要素b、立ち上がり波形要素cが与えられることで液体が吐出さえる。そして、吐出波形Paの保持波形要素dが圧電素子112Aに与えられた後、圧電素子112Aに与える駆動波形が遮断される。圧電素子112は駆動波形が遮断されたときの電位V1を保持する。
【0059】
その後、非吐出パルスPbの保持波形要素gが選択されて時点t5になるまで非吐出パルスPbが圧電素子112Aに与えられるので、圧電素子112Aには再度電位V1が与えられた状態に戻る。
【0060】
ここで、吐出パルスPaの電位V1を保持する保持波形要素dは、立ち上がり波形要素cによる液体吐出後の制振、或いは、サテライト滴短縮化を行うためのものである。保持波形要素dの印加が遮断されても、電位V1が保持され、非吐出パルスPbの保持波形要素gによって再度電位V1が印加されるので、電位V1を所定時間保持することができ、液体吐出後の制振やサテライト滴短縮化を行うことができる。
【0061】
つまり、本実施形態では、吐出パルスPaの制振ないしサテライト滴短縮化の波形要素中に非吐出パルスPbを埋め込んでいる。このとき、制振用波形要素で駆動波形が遮断される時間が短く、圧電素子の自由放電による影響を緩和でき、安定した駆動を行うことができる。また、微駆動のために波形長を長くする必要がないため,高周波駆動を実現することができる.
【0062】
次に、本発明の第2実施形態における駆動波形について
図8を参照して説明する。
図8は同実施形態における共通駆動波形、選択信号(マスク信号)、非吐出駆動波形、吐出駆動波形の説明に供する説明図である。
【0063】
本実施形態では、吐出パルスPaの立下り電位V2から立ち上がりV1まで立ち上がる波形要素cは、電位V2から、中間電位V0より高く、電位V1より低い電位V3(V0<V3<V1)まで立ち上がって液体を吐出させる第1立ち上がり波形要素c1と、電位V3を保持する保持波形要素itと、電位V3から電位V1まで立ち上がる第2立ち上がり波形要素c2で構成されて、段階的に電位が変化して立ち上がる。第2立ち上がり波形要素c2で立ち上がった電位V1は保持波形要素dで保持される。
【0064】
このとき、第1立ち上がり波形要素c1によって液体が吐出され、所定時間保持波形要素iで保持された後、再度、第2立ち上がり波形要素c2によって個別液室106が収縮させる。
【0065】
このように、液体吐出後に2段階で押し出しを実施することで、第1実施形態の駆動波形より制振又はサテライト短縮を行うことができる。そして、第1実施形態と同様に.制振波形要素を途中から微駆動用として共用することで、微駆動のために波形長を長くする必要がなく、高周波駆動を実現することができる。
【0066】
次に、本発明の第3実施形態における駆動波形について
図9を参照して説明する。
図9は同実施形態における共通駆動波形、選択信号(マスク信号)、非吐出駆動波形、吐出駆動波形の説明に供する説明図である。
【0067】
本実施形態では、前記第2実施形態の吐出パルスPaの第1立ち上がり波形要素c2の立ち上がり電位V4を中間電位V0より低い電位(V4<V0)としている。
【0068】
これにより、第2実施形態に比べて、同じ吐出速度で滴サイズを小さくすることができる。
【0069】
次に、本発明の第4実施形態における駆動波形について
図10を参照して説明する。
図10は同実施形態における共通駆動波形、選択信号(マスク信号)、非吐出駆動波形、吐出駆動波形の説明に供する説明図である。
【0070】
本実施形態では、吐出パルスPaの前に、中間電位V0から立下り波形要素aで電位V2まで立ち下がり、電位V2を保持波形要素bで保持した後、立ち上がり波形要素cで中間電位V0まで立ち上がる第3波形である吐出パルスPcを配置している。この吐出パルスPcは液体を吐出させる波形である。
【0071】
一方、マスク信号MNとして、非吐出パルスPaを選択するマスク信号MN0、吐出パルスPaと非吐出パルスPbを選択するマスク信号MN1とともに、吐出パルスPc、Paの両方及び非吐出パルスPbを選択するマスク信号MN2を設定している。
【0072】
吐出パルスPc、Paを選択することで2滴が吐出され、液体付着量を増やして画像濃度を上げることができる。また、吐出パルスPaで1滴を吐出させることで画像の粒状性や画像濃度の階調変化を滑らかにすることができる.
【0073】
次に、本発明の第5実施形態における駆動波形について
図11を参照して説明する。
図11は同実施形態における共通駆動波形、選択信号(マスク信号)、非吐出駆動波形、吐出駆動波形の説明に供する説明図である。
【0074】
本実施形態では、非吐出パルスPbの後に、中間電位V0から立下り波形要素aで電位V2まで立ち下がり、電位V2を保持波形要素bで保持した後、立ち上がり波形要素cで中間電位V0まで立ち上がる第3波形である吐出パルスPcを配置している。この吐出パルスPcは液体を吐出させる波形である。
【0075】
一方、マスク信号MNとして、非吐出パルスPaを選択するマスク信号MN0、吐出パルスPaと非吐出パルスPbを選択するマスク信号MN1とともに、吐出パルスPc、Paの両方及び非吐出パルスPbを選択するマスク信号MN2を設定している。
【0076】
吐出パルスPc、Paを選択することで2滴が吐出され、液体付着量を増やして画像濃度を上げることができる。また、吐出パルスPaで1滴を吐出させることで画像の粒状性や画像濃度の階調変化を滑らかにすることができる.
【0077】
次に、本発明の第6実施形態について
図12を参照して説明する。
図12は同実施形態における共通駆動波形、選択信号(マスク信号)、非吐出駆動波形、吐出駆動波形の説明に供する説明図である。
【0078】
本実施形態では、吐出パルスPa、非吐出パルスPbと同様に、吐出パルスPd,非吐出パルスPeを配置している。
【0079】
第1波形である吐出パルスPdは、中間電位V0から立ち下がった後に中間電位より高い電位V5に立ち上がり、立ち上がった電位V5を保持する波形である。
【0080】
この吐出パルスPdは、立下り波形要素aと、保持波形要素bと、立ち上がり波形要素cと、保持波形要素dとを含む。立下り波形要素aは個別液室106を膨張させる波形要素である。
【0081】
立下り波形要素aは、中間電位V0から中間電位V0より低い電位V2(V2<V0)まで立下がって個別液室106を膨張させる。保持波形要素bは、立下り波形要素aによる立下り電位V2を一定時間保持する。立ち上がり波形要素cは、保持波形要素bで保持された電位V2から中間電位V0より高い電位V5まで立ち上がって個別液室106を収縮させて液体を吐出させる。
【0082】
非吐出パルスPeは、吐出パルスPdの電位を保持している保持波形要素dと不連続で、中間電位V0から中間電位V0より高い電位V5まで立ち上がり、立ち上がった電位V5を保持した後、中間電位V0まで立ち下がる波形である。
【0083】
この非吐出パルスPeは、中間電位V0を保持する保持波形要素eと、保持波形要素eで保持している中間電位V0から電位V5まで立ち上がる立ち上がり波形要素fと、立ち上がった電位V5を保持する保持波形要素gと、保持波形要素gで保持された電位V5から中間電位V0まで立下がる立ち上がり波形要素hとを含む。このとき、非吐出パルスPbによる駆動はメニスカスが揺れる程度の駆動(微駆動)であり、液体は吐出されない。
【0084】
次に、マスク信号MN0は、前記第1実施形態のマスク信号MN0と同様である。マスク信号MN1は、時点t3から時点t5までON状態になり、時点t6から時点t8までON状態になる。このマスク信号MN1を与えることで、非吐出パルスPb、Peが選択される。
【0085】
また、マスク信号MN2は、時点t1から時点t2までON状態になり、時点t2から時点t4までOFF状態になり、時点t4から時点t6までON状態になり、時点t6から時点t8までOFF状態になる。
【0086】
このマスク信号MN2を与えることで、前記第1実施形態と同様に、吐出パルスPaの保持波形要素dの途中までが与えられた後、圧電素子112Aへの駆動波形が遮断され、非吐出パルスPbの保持波形要素gの途中から時点t5になるまで非吐出パルスPbが選択される。同様に、吐出パルスPdの保持波形要素dの途中までが与えられた後、圧電素子112Aへの駆動波形が遮断され、非吐出パルスPeの保持波形要素gの途中から時点t9になるまで非吐出パルスPeが選択される。
【0087】
このように、本実施形態では、1つの非吐出パルスPbによる微駆動と、2つの非吐出パルスPb,Pdによる微駆動とを使い分けることができる。これにより、例えば、放置時間が異なる場合や、液体中の顔料サイズが異なる場合などに使い分けることができる。
【0088】
次に、本発明の第7実施形態について
図13を参照して説明する。
図13は同実施形態における共通駆動波形、選択信号(マスク信号)、非吐出駆動波形、吐出駆動波形の説明に供する説明図である。
【0089】
本実施形態では、吐出パルスPaの立ち上がり波形要素は、電位V2から電位V6(V6<V0)まで立ち上がる第1立ち上がり波形要素c1と、電位V6から第1立ち上がり波形要素c1と異なる傾き(電圧変化率)で電位V7(V1>V7>V0)まで立ち上がる第2立ち上がり波形要素c2と、電位V7から電位V1まで立ち上がる第3立ち上がり波形要素c3とで構成している。
【0090】
このように、連続した立ち上げ波形要素において単位時間当たりの電位変化率が異なっており,さらに複数の立ち上げ波形要素で収縮(押し出し)を行うことで、前記第3実施形態の波形よりも、押し出しによるメニスカス振動を小さくすることができ、粘度の低い液体でも吐出安定性を向上することができる.
【0091】
本願において、吐出される液体は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどであり、これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0092】
液体を吐出するエネルギー発生源として、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子及び薄膜型圧電素子)、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものが含まれる。
【0093】
また、「液体を吐出する装置」には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0094】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0095】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0096】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0097】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0098】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0099】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0100】
また、「液体を吐出する装置」としては、他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0101】
なお、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【符号の説明】
【0102】
5 液体吐出ユニット
10 媒体
51 ヘッドユニット
100 液体吐出ヘッド(ヘッド)
106 個別液室
500 制御部
502 印刷制御部
503 ヘッドドライバ
701 駆動波形生成部
702 データ転送部