(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】ナノトポロジー測定機の選定方法及び調整方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20220509BHJP
G01B 11/30 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
H01L21/66 Z
H01L21/66 J
G01B11/30 101
(21)【出願番号】P 2019091562
(22)【出願日】2019-05-14
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】大西 理
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-158261(JP,A)
【文献】特開2017-79249(JP,A)
【文献】特開2006-54358(JP,A)
【文献】特開平11-214299(JP,A)
【文献】特開2004-325143(JP,A)
【文献】特開2013-238595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
G01B 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のナノトポロジー測定機の中から測定精度が高いナノトポロジー測定機を選定する方法であって、
予めソフトレーザーマーカーでシリコンウェーハの表面の任意の位置に、少なくとも1箇所、同一のパターンを繰り返したパターン列を印字し、
前記複数のナノトポロジー測定機により、前記パターン列を印字したシリコンウェーハ表面の前記パターン列印字箇所の断面プロファイルを複数回測定し、
該複数回測定した断面プロファイルから、前記複数回測定間の各断面プロファイルの差分プロファイルを求めたときの、該断面プロファイルの差分プロファイルの最大値が所定の値よりも小さいナノトポロジー測定機、
前記複数回測定した断面プロファイルから、前記複数回測定毎の前記断面プロファイルの印字周期スペクトルデータを求めたときの、前記複数回測定間の各印字周期スペクトルデータ同士の相関関係における相関度が所定の値より大きいナノトポロジー測定機、
前記複数回測定毎の前記印字周期スペクトルデータを求め、前記複数回測定間の各印字周期スペクトルデータの差分データ、異なる前記パターン列印字箇所間の各印字周期スペクトルデータの差分データの少なくともいずれかを算出したときの、前記各印字周期スペクトルデータの差分データの最大値が所定の値よりも小さいナノトポロジー測定機、
のうち少なくともいずれかのナノトポロジー測定機を選ぶことで、測定精度の高い測定機を選定することを特徴とするナノトポロジー測定機の選定方法。
【請求項2】
前記複数のナノトポロジー測定機において、それぞれ複数回測定する際に、前記シリコンウェーハを所定の角度で回転させて投入角度を変更し、前記パターン列の断面プロファイルを測定することを特徴とする請求項1に記載のナノトポロジー測定機の選定方法。
【請求項3】
前記複数のナノトポロジー測定機において、それぞれ複数回測定する際に、前記ナノトポロジー測定機の表面側測定系及び裏面側測定系で前記パターン列の断面プロファイルをそれぞれ1回以上測定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のナノトポロジー測定機の選定方法。
【請求項4】
前記断面プロファイルの差分プロファイルを、前記表面側測定系で測定された断面プロファイルと前記裏面側測定系で測定された断面プロファイルとの差から求めることを特徴とする請求項3に記載のナノトポロジー測定機の選定方法。
【請求項5】
前記断面プロファイルを、前記パターン列印字箇所での切断面のx-y座標データとすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のナノトポロジー測定機の選定方法。
【請求項6】
前記印字周期スペクトルデータを、x-y座標データをフーリエ変換したパワースペクトルのスペクトル強度から求めることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のナノトポロジー測定機の選定方法。
【請求項7】
前記パワースペクトルのスペクトル強度を、前記パターン列のパターン印字周期におけるスペクトル強度とすることを特徴とする請求項6に記載のナノトポロジー測定機の選定方法。
【請求項8】
前記シリコンウェーハ表面にソフトレーザーマーカーで印字するパターンを、ドットで印字し、該ドットのサイズを、直径が25μm以上、深さが5μm以下とすることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のナノトポロジー測定機の選定方法。
【請求項9】
前記シリコンウェーハ表面にソフトレーザーマーカーで印字するパターン列を、所定の角度の中心角間隔で複数個所に印字することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のナノトポロジー測定機の選定方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のナノトポロジー測定機の選定方法により選定されなかったナノトポロジー測定機の表面側測定系及び/または裏面側測定系を調整することで、測定精度を向上させることを特徴とするナノトポロジー測定機の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノトポロジー測定機の選定方法及び調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Siウェーハの平坦度測定にはKLA-Tencor社(ケーエルエー・テンコール社)のWaferSightに代表されるような、Siウェーハの表面と裏面の変位量を個別に計測し、平坦度として算出される測定機が多く用いられている(特許文献1参照)。
【0003】
デザインルールの狭小化に伴い、ウェーハフラットネスに求められる平坦度の要求も一層高まっているが、単純に平坦度だけを追求するだけではなく、フラットネスよりも短波長の凹凸の平滑化も求められている。
【0004】
そのよい例がナノトポロジーである。ウェーハサイトに代表されるフラットネス測定機にはナノトポロジーの測定機能も付加され、ウェーハ像を捉えるカメラのピクセル分解能も数百μmのオーダーまで高精度化されてきた。
【0005】
ナノトポロジーは各種干渉計や光学測定機等によって計測される。これらの測定機によって得られるウェーハジオメトリーの情報はウェーハの表面変位量に限定される。ウェーハは一見して極めて平らに作られているが、ミクロ的視点で見た場合、数μmから数十μmのうねりを持っている。これは一般的にBowやWarp、SORIと表現される。更に微視的にウェーハのうねりを観察した場合、BowやWarpで表現される大きなうねりの上に更にnmオーダーの微細なうねりが存在する。これをナノトポロジーという。ナノトポロジー情報の抽出は、数学的に行われ、測定機で得られたウェーハの表面変位量に対して、重みづけされた一定の距離の移動平均を求め、移動平均を行う前の基の表面変位プロファイルから移動平均によって求められた変位プロファイルを差し引くことによって得られる。
【0006】
ナノトポロジーはTHA(Threshold Height Analysis)と呼ばれる任意の一定領域内での高低差を表す指標で評価され、測定機同士の相関性についてもTHAの値で検証されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、THAは任意の領域内での高低差のみを表すもので、測定機の測定分解能や高さ方向の解像度を直接的に表現するものではない。実際、ウェーハと測定機とのフォーカスが合わないことでピクセル分解能に応じた凹凸は検出できないものの、一定領域での高低差(THA)は一致するということが起きている。
【0009】
これまで、測定機の分解能や解像度を定量的に評価する手法が無く、得られるナノトポロジー品質が適正かどうかを判断することができなかった。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、複数のナノトポロジー測定機の中から測定精度の高いナノトポロジー測定機を選定することで、ウェーハのナノトポロジー品質を適正に判断することを可能にするナノトポロジー測定機の選定方法、及び、調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を解決するために、本発明は、複数のナノトポロジー測定機の中から測定精度が高いナノトポロジー測定機を選定する方法であって、
予めソフトレーザーマーカーでシリコンウェーハの表面の任意の位置に、少なくとも1箇所、同一のパターンを繰り返したパターン列を印字し、
前記複数のナノトポロジー測定機により、前記パターン列を印字したシリコンウェーハ表面の前記パターン列印字箇所の断面プロファイルを複数回測定し、
該複数回測定した断面プロファイルから、前記複数回測定間の各断面プロファイルの差分プロファイルを求めたときの、該断面プロファイルの差分プロファイルの最大値が所定の値よりも小さいナノトポロジー測定機、
前記複数回測定した断面プロファイルから、前記複数回測定毎の前記断面プロファイルの印字周期スペクトルデータを求めたときの、前記複数回測定間の各印字周期スペクトルデータ同士の相関関係における相関度が所定の値より大きいナノトポロジー測定機、
前記複数回測定毎の前記印字周期スペクトルデータを求め、前記複数回測定間の各印字周期スペクトルデータの差分データ、異なる前記パターン列印字箇所間の各印字周期スペクトルデータの差分データの少なくともいずれかを算出したときの、前記各印字周期スペクトルデータの差分データの最大値が所定の値よりも小さいナノトポロジー測定機、
のうち少なくともいずれかのナノトポロジー測定機を選ぶことで、測定精度の高い測定機を選定することを特徴とするナノトポロジー測定機の選定方法を提供する。
【0012】
本発明のナノトポロジー測定機の選定方法であれば、複数のナノトポロジー測定機のなかから、シリコンウェーハに印字したパターン列を正確に測定することができる測定機を選ぶことで、測定精度が高いナノトポロジー測定機を選定することができるため、従来よりもシリコンウェーハのナノトポロジー品質を適正に判断することが可能となる。また、そのような測定機を用いて測定を行えば、シリコンウェーハのナノトポロジー測定の機差を低減することが可能となる。
【0013】
このとき、前記複数のナノトポロジー測定機において、それぞれ複数回測定する際に、前記シリコンウェーハを所定の角度で回転させて投入角度を変更し、前記パターン列の断面プロファイルを測定することが好ましい。
【0014】
このような方法であれば、ウェーハに対する測定機の面内精度ばらつきを知ることができ、より確実に測定精度の高い測定機を選定することが可能となる。
【0015】
また、前記複数のナノトポロジー測定機において、それぞれ複数回測定する際に、前記ナノトポロジー測定機の表面側測定系及び裏面側測定系で前記パターン列の断面プロファイルをそれぞれ1回以上測定することが好ましい。
【0016】
このような方法であっても、より確実に測定精度の高い測定機を選定することが可能となる。
【0017】
この場合、前記断面プロファイルの差分プロファイルを、前記表面側測定系で測定された断面プロファイルと前記裏面側測定系で測定された断面プロファイルとの差から求めることが好ましい。
【0018】
このようにすれば、表面側測定系と裏面側測定系の測定精度の差をより小さくすることができ、さらに確実に測定精度の高い測定機を選定することが可能となる。
【0019】
また、前記断面プロファイルを、前記パターン列印字箇所での切断面のx-y座標データとすることが好ましい。
【0020】
このようにすれば、シリコンウェーハ表面の周期的な凹凸を2次元的にx-y座標系で表現することができ、断面プロファイルの差分プロファイル、印字周期スペクトルデータの算出が容易となる。
【0021】
また、前記印字周期スペクトルデータを、x-y座標データをフーリエ変換したパワースペクトルのスペクトル強度から求めることが好ましい。
【0022】
このようにすれば、任意の間隔で印字したソフトレーザーマークの凹凸がパワースペクトルとして表れるため、印字周期スペクトルデータをより確実に求めることができる。
【0023】
この場合、前記パワースペクトルのスペクトル強度を、前記パターン列のパターン印字周期におけるスペクトル強度とすることが好ましい。
【0024】
このようにすれば、パターン列を正確に測定することができているか容易に判断することが可能となる。
【0025】
また、前記シリコンウェーハ表面にソフトレーザーマーカーで印字するパターンを、ドットで印字し、該ドットのサイズを、直径が25μm以上、深さが5μm以下とすることが好ましい。
【0026】
このようにすれば、パターン列印字箇所の断面プロファイル測定の際にデータの欠損が発生する等の問題がない。
【0027】
また、前記シリコンウェーハ表面にソフトレーザーマーカーで印字するパターン列を、所定の角度の中心角間隔で複数個所に印字することが好ましい。
【0028】
このようにすれば、ナノトポロジー測定機内の測定位置の違いによる測定精度の差の少ない測定機をより確実に選定することが可能となる。
【0029】
また、本発明は、上記記載のナノトポロジー測定機の選定方法により選定されなかったナノトポロジー測定機の表面側測定系及び/または裏面側測定系を調整することで、測定精度を向上させることを特徴とするナノトポロジー測定機の調整方法を提供する。
【0030】
このような調整方法であれば、上記選定方法で選定されなかったナノトポロジー測定機であっても、測定精度を向上させることができるため、シリコンウェーハのナノトポロジー測定の機差が少ない測定機をより確実に準備することが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明のナノトポロジー測定機の選定方法であれば、複数のナノトポロジー測定機のなかから測定精度が高いナノトポロジー測定機を選定することができるため、従来よりもウェーハのナノトポロジー品質を適正に判断することが可能となる。また、そのような測定機を用いて測定を行えば、ウェーハのナノトポロジー測定の機差を低減することが可能となる。
また、本発明の調整方法であれば、ウェーハのナノトポロジー測定の機差が少ない測定機をより確実に準備することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】実施例において用いたパターン列が印字されたポリッシュドウェーハ及び印字パターンの概略図である。
【
図2】実施例において採取したナノトポロジー像の一例の概略図である。
【
図3】測定機Aの表面側光学系及び裏面側光学系の測定により採取された各印字箇所における断面プロファイルの例を示す図である。
【
図4】0°方向及び45°方向における、測定機Aの表面側光学系及び裏面側光学系での断面プロファイルをフーリエ変換したパワースペクトル((a)、(b))と表裏面プロファイルの差分プロファイルから算出したパワースペクトル((c)、(d))を示す図である。
【
図5】315°方向における、測定機Aの表面側光学系及び裏面側光学系での断面プロファイルをフーリエ変換したパワースペクトルとそれらの差分データを示す図である。
【
図6】135°、180°、225°方向における、測定機Cの表面側光学系及び裏面側光学系の測定により採取された断面プロファイルとそれらのパワースペクトルを示す図である。
【
図7】波長0.67mmのパワースペクトルの強度と測定機へのウェーハノッチ投入角度との関係を示す図である。
【
図8】測定機(M/#)A~Dの表面側光学系と裏面側光学系とでのスペクトル強度の相関関係を示す図である。
【
図9】測定機(M/#)A~Gの、投入角度0°における表面側光学系と裏面側光学系とでのスペクトル強度の平均値の平均強度からのずれを示す図である。
【
図10】面分解能の投入角度による異方性をより詳細に例示する図である。
【
図11】測定機Cの調整前と調整後の表面側光学系と裏面側光学系とでのスペクトル強度の相関関係を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
上記のように、従来、ウェーハのナノトポロジーはTHAの値で検証されてきたが、THAは任意の領域内での高低差のみを表すもので、測定機の測定分解能や高さ方向の解像度を直接的に表現するものではない。また、これまで、測定機の分解能や解像度を定量的に評価する手法が無く、得られるナノトポロジー品質が適正かどうかを判断することができなかった。
【0035】
本発明者は、創意工夫を重ねた結果、任意の位置、任意の周期でウェーハ(シリコンウェーハ)の片面にソフトレーザーマーク(SLM)パターンを印字したウェーハを作製し、このウェーハのナノトポロジーの断面プロファイルの解析、周波数解析を行うことによって、測定機の面分解能、解像度を定量的に評価できることが分かった。
【0036】
即ち、本発明は、複数のナノトポロジー測定機の中から測定精度が高いナノトポロジー測定機を選定する方法であって、
予めソフトレーザーマーカーでシリコンウェーハの表面の任意の位置に、少なくとも1箇所、同一のパターンを繰り返したパターン列を印字し、
前記複数のナノトポロジー測定機により、前記パターン列を印字したシリコンウェーハ表面の前記パターン列印字箇所の断面プロファイルを複数回測定し、
該複数回測定した断面プロファイルから、前記複数回測定間の各断面プロファイルの差分プロファイルを求めたときの、該断面プロファイルの差分プロファイルの最大値が所定の値よりも小さいナノトポロジー測定機、
前記複数回測定した断面プロファイルから、前記複数回測定毎の前記断面プロファイルの印字周期スペクトルデータを求めたときの、前記複数回測定間の各印字周期スペクトルデータ同士の相関関係における相関度が所定の値より大きいナノトポロジー測定機、
前記複数回測定毎の前記印字周期スペクトルデータを求め、前記複数回測定間の各印字周期スペクトルデータの差分データ、異なる前記パターン列印字箇所間の各印字周期スペクトルデータの差分データの少なくともいずれかを算出したときの、前記各印字周期スペクトルデータの差分データの最大値が所定の値よりも小さいナノトポロジー測定機、
のうち少なくともいずれかのナノトポロジー測定機を選ぶことで、測定精度の高い測定機を選定することを特徴とするナノトポロジー測定機の選定方法である。
【0037】
このようなナノトポロジー測定機の選定方法であれば、複数のナノトポロジー測定機のなかから、シリコンウェーハに印字したパターン列を正確に測定することができる測定機を選ぶことで、測定精度が高いナノトポロジー測定機を選定することができるため、従来よりもシリコンウェーハのナノトポロジー品質を適正に判断することが可能となる。また、そのような測定機を用いて測定を行えば、シリコンウェーハのナノトポロジー測定の機差を低減することが可能となる。
【0038】
本発明のナノトポロジー測定機の選定方法では、まず、予めソフトレーザーマーカーでシリコンウェーハの表面の任意の位置に、少なくとも1箇所、同一のパターンを繰り返したパターン列を印字する。
【0039】
このとき、シリコンウェーハ表面にソフトレーザーマーカーで印字するパターンを、ドットで印字し、該ドットのサイズを、直径が25μm以上、深さが5μm以下とすることが好ましい。ここで、直径とはドットの凹み部分の直径である。ソフトレーザーマーカーで印字した場合、凹みの周辺にレーザーで溶解されたSiのデブリ(凸)が発生する。実際はこの凸をレーザーマークとして装置で検出することになるのだが、一般的にレーザーマーカーはダブルドットと呼ばれる、一照射に対して4点のドットで印字する。デブリを合わせた直径は凹みの直径が25μmの場合、125μmとなり、ダブルドットにした場合、ドットの幅はその倍の250μm以上となる。KLA-Tencor社に代表されるWaferSight2の面分解能(ピクセル分解能)は、一般的に、おおよそ200μmと言われており、この面分解能より大きな幅の印字を行えば、凹凸をピクセルでより確実に検出することができる。そのため、SLMによる凹みの直径は25μm以上とすることが好ましい。また、深さを5μm以下にすれば、KLA-Tencor社に代表されるWaferSightの様な光学干渉計を原理とする測定機であっても、使用する光源波長によらず、急峻な凹凸としてとらえられることがなく、フェイズエラーの発生、データの欠損が発生することがない。したがって、凹みの深さは5μm以下にすることが好ましい。また、ドットの直径の最大値は特に限定されるものではなく、ドット間隔が重ならない直径にすればよい。また、ドットの深さの最小値は、干渉計を原理とする測定機の場合、光源波長以上とすればよい。
【0040】
また、パターン列を印字するとき、同一パターンを、一定間隔で、複数個、直線状に印字することができる。このようにすれば、確実に周期的な凹凸を形成することができるため、断面プロファイルの差分プロファイル、印字周期スペクトルデータの算出をするうえで好ましい。パターン列内のパターンの間隔は、例えば、測定機の最小面分解能以上とすることができる。また、パターンの数は、パターン列が測定機の最小面分解能の6倍以上の長さになるようにすることができる。
【0041】
印字するパターン列のパターンは特に限定されないが、周期的な断面プロファイルとして抽出しやすい文字列、例えば、パターンを“I”等とすることができる。
【0042】
また、上記シリコンウェーハ表面にソフトレーザーマーカーで印字するパターン列を、所定の角度の中心角間隔で複数個所に印字することが好ましい。このようにすれば、ナノトポロジー測定機内の測定位置の違いによる測定精度の差の少ない測定機をより確実に選定することが可能となる。
【0043】
次に、ナノトポロジー測定機により、パターン列を印字したシリコンウェーハ表面のパターン列印字箇所の断面プロファイルを複数回測定する。ここで、複数回測定する際に、シリコンウェーハを所定の角度で回転させて投入角度を変更し、パターン列の断面プロファイルを測定することができる。また、複数回測定する際に、ナノトポロジー測定機の表面側測定系及び裏面側測定系でパターン列の断面プロファイルをそれぞれ1回以上測定することもできる。これらの方法であれば、より確実に測定精度の高い測定機を選定することが可能となる。
【0044】
パターン列印字箇所の断面プロファイルの測定は、ナノトポロジー測定機で、シリコンウェーハのSLM印字面のナノトポロジーを測定し、SLM部分の断面プロファイルを採取すればよい。このとき、上記断面プロファイルを、前記パターン列印字箇所での切断面のx-y座標データとすることが好ましい。このようにすれば、シリコンウェーハ表面の周期的な凹凸を2次元的にx-y座標系で表現することができ、断面プロファイルの差分プロファイル、印字周期スペクトルデータの算出が容易となる。
【0045】
次に、複数回測定した断面プロファイルから、上記複数回測定間の各断面プロファイルの差分プロファイルを求めることができる。このとき、断面プロファイルの差分プロファイルを、前記表面側測定系で測定された断面プロファイルと前記裏面側測定系で測定された断面プロファイルとの差から求めることが好ましい。このようにすれば、表面側測定系と裏面側測定系の測定精度の差をより小さくすることができ、さらに確実に測定精度の高い測定機を選定することが可能となる。
【0046】
次に、SLM部分の断面プロファイルに(高速)フーリエ変換等、数学的に周波数解析を行い、SLM部分の断面プロファイルのパワースペクトルを得ることができる。このようにすれば、任意の間隔で印字したSLMの凹凸がパワースペクトルとして現れるため、印字周期スペクトルデータをより確実に求めることができる。
複数個の同一パターンで、例えば、直線状に印字されたレーザーマークは立体的にみると直線的に並んだ連続した凹凸となる。これらの凹凸の周波数成分を取得するにはフーリエ変換等が効果的だが、フーリエ変換を行う際には変換対象がx-y座標系の2次元データであることが望ましい。
【0047】
またこのとき、上記パワースペクトルのスペクトル強度を、上記パターン列のパターン印字周期におけるスペクトル強度とすることが好ましい。このようにすれば、パターン列を正確に測定することができているか容易に判断することが可能となる。
【0048】
ここで、上述のように、複数回測定する際に、シリコンウェーハを所定の角度で回転させて投入角度(ノッチ角度)を変更する場合は、ノッチを任意の角度で回転させて測定機にSLM印字ウェーハを投入し、上記と同様の測定と断面プロファイルの処理を行い、測定機のSLM印字箇所のパワースペクトルを得ることができる。そして、さらに、ウェーハを、所定の回転角度分ノッチ角度を変更し、上記と同様にして、測定機のSLM印字箇所におけるパワースペクトルを得ることができる。
【0049】
また、上述のように、複数回測定する際に、ナノトポロジー測定機の表面側測定系及び裏面側測定系で前記パターン列の断面プロファイルをそれぞれ1回以上測定する場合は、ウェーハを反転させ、反転前の表面側測定系での測定に加えて、裏面側測定系に対しても、表面側測定系と同様の手続きを行うことができる。
【0050】
上記測定を、異なる複数のナノトポロジー測定機において同様に行う。
【0051】
次に、複数回測定した断面プロファイルから、複数回測定間の各断面プロファイルの差分プロファイルを求めたときの、断面プロファイルの差分プロファイルの最大値が所定の値よりも小さいナノトポロジー測定機、
複数回測定した断面プロファイルから、複数回測定毎の断面プロファイルの印字周期スペクトルデータを求めたときの、複数回測定間の各印字周期スペクトルデータ同士の相関関係における相関度が所定の値より大きいナノトポロジー測定機、
複数回測定毎の印字周期スペクトルデータを求め、複数回測定間の各印字周期スペクトルデータの差分データ、異なるパターン列印字箇所間の各印字周期スペクトルデータの差分データの少なくともいずれかを算出したときの、各印字周期スペクトルデータの差分データの最大値が所定の値よりも小さいナノトポロジー測定機、のうち少なくともいずれかのナノトポロジー測定機を選ぶことで、測定精度の高い測定機を選定する。
このように選定することで、表裏面の測定系、装置内視野(測定系の異なる測定位置)、測定機の号機間における断面プロファイル、パワースペクトルの周波数特性や任意の周波数における振幅の違いから装置内バラツキ、号機間差を定量的に評価することができる。
【0052】
複数回測定間の各断面プロファイルの差分プロファイルの最大値を用いて測定機を選定する場合、断面プロファイルの差分プロファイルは、表面側測定系と裏面側測定系とで測定された同一パターン列印字箇所の断面プロファイルの差分等とすることができるが、これに限定されず、異なるウェーハの投入角度同士や異なるパターン列印字箇所同士等での差分を断面プロファイルの差分プロファイルとすることもできる。
【0053】
複数回測定間の各印字周期スペクトルデータ同士の相関関係における相関度を用いて測定機を選定する場合、例えば、表面側測定系と裏面側測定系での印字周期スペクトルデータの相関関係を、異なる投入角度、異なるパターン印字箇所について、求めることができる。
【0054】
各印字周期スペクトルデータの差分データの最大値を用いて測定機を選定する場合、各印字周期スペクトルデータの差分データは、例えば、表面側測定系と裏面側測定系で求められた印字周期スペクトルデータの差分、異なる投入角度で求められた印字周期スペクトルデータの差分、ウェーハの異なるパターン列印字箇所における印字周期スペクトルデータの差分等とすることができる。
【0055】
また、本発明は上記記載のナノトポロジー測定機の選定方法により選定されなかったナノトポロジー測定機の表面側測定系及び/または裏面側測定系を調整することで、測定精度を向上させることを特徴とするナノトポロジー測定機の調整方法を提供する。このような調整方法であれば、上記選定方法で選定されなかったナノトポロジー測定機であっても、測定精度を向上させることができるため、シリコンウェーハのナノトポロジー測定の機差が少ない測定機をより確実に準備することが可能となる。
【0056】
測定系の調整は、ナノトポロジー測定機の選定方法において求めた断面プロファイルや印字周期スペクトルデータの結果を基に、測定系を調整する等すればよく、測定系が光学測定系の場合、リファレンスミラーの平行度調整、カメラフォーカスの調整等の手段により光学系の調整を行うことができる。
また、調整後のナノトポロジー測定機は、再度、本発明のナノトポロジー測定機の選定方法により測定精度が高い測定機かどうか選定すればよく、それでも測定精度が高いと判断されなかった場合は、本発明の調整方法を繰り返すこともできる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0058】
[SLM印字]
7台のナノトポロジー測定機(測定機(M/#)A~G)から測定精度の高い測定機を選定するためにポリッシュドウェーハを準備した。
図1に、実施例において用いたパターン列が印字されたポリッシュドウェーハ及び印字パターンの概略図を示す。
図1に示すようにポリッシュドウェーハ(直径300mm)の片面に、“I”の字を、連続的に0.67mm間隔で、8方向(45°間隔毎)に、ウェーハの内側から外側に向けて36文字ずつソフトレーザーマーカーで印字した(パターン列の印字)。文字を形成するドットの直径は50μm、深さは1μmとした。文字はダブルドット方式で印字され、ドット周辺のデブリを合わせた一文字の幅は0.406mm、高さは0.812mmとした。また、ソフトレーザーマーカーのレーザー出力は440μJであった。
[計測]
KLA-Tencor社製ウェーハサイト2+で、準備したポリッシュドウェーハのナノトポロジー(ナノトポ)の測定を行った。測定の際にはウェーハの反転を行い、表面側測定系(光学系)だけでなく、裏面側測定系での測定も実施した。また、このような測定をポリッシュドウェーハを回転させることで、投入角度を変更して行った(60°間隔毎)。ナノトポロジー像の算出はダブルガウシアンフィルター(フィルター波長λ=20mm)を用い、表裏面8方向のナノトポロジーの断面プロファイルを採取した。
図2に、実施例において採取したナノトポロジー像の一例の概略図を示す。またこのとき、断面プロファイルは、パターン列印字箇所での切断面のx-y座標データとして採取した。
図3に、測定機Aの表面側光学系及び裏面側光学系の測定により採取された各印字箇所における断面プロファイルの例を示す。縦軸は断面プロファイル及び差分プロファイルの高さ変化を示し、分かりやすいようにそれぞれのデータをずらして表示した。
【0059】
[断面プロファイルの解析]
これらの断面プロファイルに対してフーリエ変換を行い、波長(空間的な周期)に対する振幅強度を得ることで、上記間隔で印字したSLMの凹凸をパワースペクトルとして表した。
【0060】
図3から、測定機Aの断面プロファイル及び差分プロファイルは、同様のパターン列を測定しているにも関わらず、光学系(表面側及び裏面側)、印字箇所により異なる周期性を示していることが定性的に分かる。次に、
図3の結果を定量的に比較するために、それぞれの断面プロファイルをフーリエ変換し、パワースペクトルを得た。
図4に0°方向及び45°方向における、測定機Aの表面側光学系及び裏面側光学系での断面プロファイルをフーリエ変換したパワースペクトル((a)、(b))と表裏面プロファイルの差分プロファイルから算出したパワースペクトル((c)、(d))を示す。
【0061】
図4の0°方向の断面プロファイルからは、0.67mmの波長に最も大きなピークが発生しているが、0.67mmの間隔でSLMを印字したにも関わらず、約2.1mm周期のスペクトルが検出されている。一方、45°方向の断面プロファイルからは約2.1mm周期のスペクトルはほとんど検出されず、表面側及び裏面側光学系でのパワースペクトルの差もほとんどなかった。このように、0°方向の断面プロファイルは、45°方向の断面プロファイルとは異なる傾向を示しており、測定機内で異方性が発生していることが分かる。
【0062】
また、
図5に315°方向における、測定機Aの表面側光学系及び裏面側光学系での断面プロファイルをフーリエ変換したパワースペクトルとそれらの差分データを示す。
図5では、表面側光学系と裏面側光学系で同一の凹凸(パターン列)を測定しているにも関わらず、0.67mmのスペクトルの強度が異なり、表裏面の光学系において解像度が異なっていることが分かる。
【0063】
また、
図6に、135°、180°、225°方向における、測定機Cの表面側光学系及び裏面側光学系の測定により採取された断面プロファイルとそれらのパワースペクトルを示す。
図6は、装置Cの裏面光学系の特定部位(方向)で0.67mm以下の波長の凹凸が全く検出できないことを示している。即ち、180°方向の裏面側光学系では、0.67mm以下の波長でのパワースペクトルの大きさが小さく、また、225°方向の裏面側光学系では、0.67mm以下の波長でのパワースペクトルの大きさがほとんどゼロであり、裏面側光学系のこれらの測定位置における0.67mm以下の波長の分解能が得られていないことが分かる。
【0064】
次に、測定機(M/#)A~Dについて、ウェーハ投入角度と、波長0.67mmでの断面プロファイルのパワースペクトルの強度(スペクトル強度)との関係を、各パターン列印字箇所において求めた。
図7は、波長0.67mmのパワースペクトルの強度と測定機へのウェーハノッチ投入角度との関係を示している。投入角度によって、同じ印字箇所を測定しているにも関わらず、スペクトル強度が変動する測定機が見られ、このことから測定機によっては、表裏面の光学系においてSLMパターンの検出に対する投入角度による異方性が発生することがあることが分かる。なお、
図7の縦軸は、同じ印字箇所におけるパワースペクトルの強度の全投入角度についての平均値からのずれを各測定機において求めたものである。
【0065】
また、
図8に、測定機(M/#)A~Dの表面側光学系と裏面側光学系とでのスペクトル強度の相関関係を示す。ここで、スペクトル強度は
図7と同様に波長0.67mmでのパワースペクトルの強度であり、各測定機において、投入角度毎に、8つの異なる印字箇所でのスペクトル強度が存在する。また、
図8中のそれぞれのプロット中の平均Rの値は、全ての投入角度で求めた相関係数の平均値である。
【0066】
また、
図9に、測定機(M/#)A~Gの表面側光学系及び裏面側光学系の、全投入角度、全印字箇所についてのスペクトル強度の平均値の平均強度からのずれを示す。ここで、平均強度とは、全ての測定機のスペクトル強度の平均値の平均のことである。
【0067】
図8から明らかなように、ウェーハの投入角度によって異方性が発生するため、同じSLMパターンを計測していても表裏面の光学系で得られるスペクトル強度の相関が投入角度毎に異なる。同様に、
図9から、表裏面の光学系それぞれについて、装置毎にスペクトル強度の平均値は異なっており、装置の組合せによって、装置間の相関も異なっていることが分かる。
【0068】
図10は面分解能の投入角度による異方性をより詳細に示す例である。ウェーハの0°の印字箇所における、同一SLMパターンを測定しているにも関わらず、装置へのウェーハの投入角度によって得られる断面プロファイルが異なり、上記のようにウェーハに刻んだλ=0.67mmの波長以外の成分(λ=2.1mm)が投入角度によって発生していることが分かる。THA(Threshold Height Analysis)はウェーハ面全体で評価を行う手法であるため、投入角度を振っても異方性や面分解能を議論することが困難だが、このように任意の周期でSLMを打刻したウェーハを用い、得られたナノトポプロファイルを周波数解析することで、定量的に装置の個体差、表裏面カメラの個体差、投入角度や測定位置による異方性を簡便に評価することができる。
【0069】
上記のように、一定周期でSLMを印字した部位のナノトポロジー断面プロファイルにフーリエ変換を行ったところ、同一装置で同一箇所を測定しても、測定機の測定位置やウェーハの投入角度によっては、異なる断面プロファイルが得られることや、SLMの印字周期(周波数)および凹凸の大きさ(振幅)に応じたスペクトルが現れたり、異なる周期、振幅のスペクトルが現れたりすることがあり、装置内でも分解能のバラツキがあることが分かった。従って、これら結果を利用すれば、複数回測定した断面プロファイルから、複数回測定間の各断面プロファイルの差分プロファイルを求めたときの、断面プロファイルの差分プロファイルの最大値が所定の値よりも小さいナノトポロジー測定機、複数回測定毎の断面プロファイルの印字周期スペクトルデータを求めたときの、複数回測定間の各印字周期スペクトルデータ同士の相関関係における相関度が所定の値より大きいナノトポロジー測定機、複数回測定間の各印字周期スペクトルデータの差分データ、異なるパターン列印字箇所間の各印字周期スペクトルデータの差分データの少なくともいずれかを算出したときの、各印字周期スペクトルデータの差分データの最大値が所定の値よりも小さいナノトポロジー測定機、のうち少なくともいずれかのナノトポロジー測定機を選ぶことで、測定精度の高い測定機を選定することができることが示された。
【0070】
また、
図8に示すように、測定機中、相関度が低く、測定精度が最も低いと判断された測定機Cについて、測定機の調整を行った。
図11は、測定機Cの調整前と調整後の表面側光学系と裏面側光学系とでのスペクトル強度の相関関係を比較した図である。調整の手法としては、表面側及び裏面側の光学系の調整(リファレンスミラーの平行度調整、カメラフォーカスの調整等)を行った。このような調整を行った際、
図11のように測定機Cの表面側光学系と裏面側光学系とのナノトポ相関は改善し、測定精度の高い測定機とすることができた。
【0071】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。