(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】マトリクス(matrix)用高分子、非水電解質ゲル(gel)、及び電気化学デバイス(device)
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0565 20100101AFI20220509BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220509BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2018089337
(22)【出願日】2018-05-07
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】干場 弘治
(72)【発明者】
【氏名】深谷 倫行
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-098123(JP,A)
【文献】特開平11-080296(JP,A)
【文献】特開2000-149905(JP,A)
【文献】特開平10-308238(JP,A)
【文献】特開2001-210377(JP,A)
【文献】特開2000-058126(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0018428(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104124415(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
H01G 11/00-11/86
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質ゲルのマトリクスを構成するマトリクス用高分子であって、
前記マトリクス用高分子は、高分子(A)、高分子(B)を(A)/(B)=55/45以上99/1以下の質量比で少なくとも含み、
前記高分子(A)は、以下の化学式(1)を少なくとも含む第1の骨格と、以下の化学式(2)を少なくとも含む第2の骨格とが、グラフト共重合及びブロック共重合のうち、少なくとも1種以上の態様で共重合した構造を有し、
前記高分子(B)は、前記第2の骨格を有することを特徴とする、マトリクス用高分子。
【化1】
【化2】
前記化学式1、2において、l、m、qは1以上の整数である。
【請求項2】
前記高分子(A)は、前記第1の骨格に前記第2の骨格がグラフト共重合した構造を有することを特徴とする、請求項1記載のマトリクス用高分子。
【請求項3】
前記高分子(A)は、前記第1の骨格と前記第2の骨格とが(メタ)アクリル酸エステルユニットを介してグラフト共重合した構造を有しており、
前記(メタ)アクリル酸エステルユニットは、前記第2の骨格を構成するユニットの総モル数に対して0モル%超10モル%以下で前記第2の骨格に含まれることを特徴とする、請求項2記載のマトリクス用高分子。
【請求項4】
前記高分子(B)は、酸性官能基含有ユニットを、前記高分子(B)を構成するユニットの総モル数に対して2モル%以上10モル%以下で含むことを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載のマトリクス用高分子。
【請求項5】
前記マトリクス用高分子は、前記高分子(A)、高分子(B)を(A)/(B)=70/30以上95/5以下の質量比で少なくとも含むことを特徴とする、請求項1記載のマトリクス用高分子。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載のマトリクス用高分子を含むことを特徴とする、非水電解質ゲル。
【請求項7】
請求項6記載の非水電解質ゲルを含むことを特徴とする、電気化学デバイス。
【請求項8】
前記電気化学デバイスは非水電解質二次電池であることを特徴とする、請求項7記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリクス用高分子、非水電解質ゲル、及び電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーをマトリクスとした非水電解質ゲルを利用した非水電解質二次電池は、その内部の電池素子の形状安定性に優れる。このことから、剛性をもたないアルミラミネートフィルム(Aluminium laminated film)を外装材に使用したアルミラミネート外装電池に好適に用いられている。
【0003】
そしてアルミラミネート外装電池は軽量、寸法変更が容易などの利点から、携帯電話、スマートフォン(smartphone)及び自動車電池等への使用が拡大している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-80296号公報
【文献】特開2000-90728号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】PROGRESS IN POLYMER SCIENCE,30(2005)1-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、近年の電池の高エネルギー(energy)密度化の進展により、電池動作中の電極の膨張収縮による内部のひずみが大きくなる傾向がある。このため、より高い形状保持能力のために、非水電解質ゲルの高強度化が求められている。
【0007】
また、今後は、非水電解質ゲルの用途が非水電解質二次電池以外の電気化学デバイスに拡大することも期待されている。これらの電気化学デバイスにおいても高強度の非水電解質ゲルが求められる可能性が高い。
【0008】
そのため、非水電解質ゲルの強度を高めるための技術が特許文献1、2で提案されているが、これらの技術によっても、非水電解質ゲルの強度が十分高められているとはいえなかった。また、非特許文献1では水系のゲル(ハイドロゲル)の機械的強度を向上させる技術が記載されているが、非水溶媒を使用した非水電解質ゲルについての言及はない。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、非水電解質ゲルの強度を高めることが可能な、新規かつ改良されたマトリクス用高分子、非水電解質ゲル、及び電気化学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、非水電解質ゲルのマトリクスを構成するマトリクス用高分子であって、マトリクス用高分子は、高分子(A)、高分子(B)を(A)/(B)=55/45以上99/1以下の質量比で少なくとも含み、高分子(A)は、以下の化学式(1)で示される骨格を少なくとも含む第1の骨格と、以下の化学式(2)で示される骨格を少なくとも含む第2の骨格とが、グラフト(graft)共重合及びブロック(block)共重合のうち、少なくとも1種以上の態様で共重合した構造を有し、高分子(B)は、第2の骨格を有することを特徴とする、マトリクス用高分子が提供される。
【0011】
【0012】
【0013】
前記化学式1、2において、l、m、qは1以上の整数である。
【0014】
本観点によれば、マトリクス用高分子が上記構成を有するので、このマトリクス用高分子をマトリクスとして含む非水電解質ゲルは、高い強度を有する。
【0015】
ここで、高分子(A)は、第1の骨格に第2の骨格がグラフト共重合した構造を有するものであってもよい。
【0016】
本観点によれば、非水電解質ゲルがさらに高い強度を有する。
【0017】
また、高分子(A)は、前記第1の骨格と第2の骨格とが(メタ)アクリル酸エステルユニット(Acrylate ester unit)を介してグラフト共重合した構造を有しており、(メタ)アクリル酸エステルユニットは、第2の骨格を構成するユニットの総モル(mol)数に対して0モル%超10モル%以下で第2の骨格に含まれてもよい。
【0018】
本観点によれば、非水電解質ゲルがさらに高い強度を有する。
【0019】
また、高分子(B)は、酸性官能基含有ユニットを、高分子(B)を構成するユニットの総モル数に対して2モル%以上10モル%以下で含んでいてもよい。
【0020】
本観点によれば、非水電解質ゲルがさらに高い強度を有する。さらに、非水電解質ゲルは、高い接着力を有する。
【0021】
また、マトリクス用高分子は、高分子(A)、高分子(B)を(A)/(B)=70/30以上95/5以下の質量比で少なくとも含んでいてもよい。
【0022】
本観点によれば、非水電解質ゲルがさらに高い強度を有する。
【0023】
本発明の他の観点によれば、上記に記載のマトリクス用高分子を含むことを特徴とする、非水電解質ゲルが提供される。
【0024】
本観点による非水電解質ゲルは、高い強度を有する。
【0025】
本発明の他の観点によれば、上記の非水電解質ゲルを含むことを特徴とする、電気化学デバイスが提供される。
【0026】
本観点による電気化学デバイスは、高い強度を有する非水電解質ゲルを含むので、特性の向上が期待できる。
【0027】
ここで、電気化学デバイスは非水電解質二次電池であってもよい。
【0028】
本観点による非水電解質二次電池は、高い特性、例えば高い寿命特性を有する。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように本発明によれば、非水電解質ゲルの強度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池の構成を示す断面図である。
【
図2】マトリクス用高分子中に占める高分子(A)の質量比と非水電解質ゲルの圧縮強度との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0032】
<1.非水電解質二次電池の構成>
まず、
図1を参照して、本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池1の構成について説明する。
図1は、非水電解質二次電池1の平断面図と、巻回素子(扁平状巻回素子)100の領域Aを拡大した拡大図とを示す。非水電解質二次電池1は、巻回素子100と、電解液と、外装材40とを備える。巻回素子100は、2枚のセパレータ(separator)10、正極20、及び負極30を有する。2枚のセパレータ10、正極20、及び負極30は、セパレータ10、負極30、セパレータ10、正極20の順に積層されている。もちろん、各構成要素の積層順序はこの限りではない。また、セパレータ10、正極20、及び負極30は、扁平状かつ渦巻状に巻回されている。したがって、セパレータ10は、正極20と負極30との間に介在している。また、詳細は後述するが、セパレータ10は、基材層10aと、接着層10bとを備える。また、正極20の最内周部分には正極タブ50が設けられており、負極30の最内周部分には負極タブ60が設けられている。このように、非水電解質二次電池1は巻回型の非水電解質二次電池となっている。もちろん、非水電解質二次電池1は巻回型に限定されず、あらゆる形状の(例えば積層型の)二次電池であってもよい。
【0033】
(1-1.セパレータの構成)
つぎに、巻回素子100の各構成要素について詳細に説明する。まず、セパレータ10について説明する。セパレータ10は、正極20と負極30との間に介在される。また、セパレータ10は、扁平状かつ渦巻状に巻回されている。
【0034】
セパレータ10は、基材層10aと、接着層10bとを備える。基材層10aは、いわゆる帯状の多孔質膜である。基材層10aは、特に制限されず、例えばリチウムイオン二次電池のセパレータとして使用されるものであれば、どのようなものであってもよい。基材層10aとしては、優れた高率放電性能を示す多孔質膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。基材層10aを構成する樹脂としては、例えばポリエチレン(polyethylene),ポリプロピレン(polypropylene)等に代表されるポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate),ポリブチレンテレフタレート(polybutylene terephthalate)等に代表されるポリエステル(Polyester)系樹脂、PVDF、フッ化ビニリデン(VDF)-ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル(par fluorovinyl ether)共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン(trifluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン(fluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン(hexafluoroacetone)共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン(ethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン(propylene)共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン(trifluoro propylene)共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)-ヘキサフルオロプロピレン(hexafluoropropylene)共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン(ethylene)-テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)共重合体等を挙げることができる。
【0035】
接着層10bは、セパレータ10と正極20、負極30とを接着するものである。接着層10bは、非水電解質ゲルで構成される。非水電解質ゲルは、マトリクス用高分子が電解液によってゲル化したものである。言い換えれば、マトリクス用高分子は、非水電解質ゲルのマトリクスを構成する。以下、マトリクス用高分子について詳細に説明する。
【0036】
マトリクス用高分子は、高分子(A)、高分子(B)を(A)/(B)=55/45以上99/1以下の質量比で少なくとも含む。高分子(A)は、以下の化学式(1)で示される骨格を少なくとも含む第1の骨格と、以下の化学式(2)で示される骨格を少なくとも含む第2の骨格とが、グラフト共重合及びブロック共重合のうち、少なくとも1種以上の態様で共重合した構造を有する。高分子(B)は、第2の骨格を有する。化学式1、2において、l、m、qは1以上の整数である。
【0037】
【0038】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びポリアクリロニトリル(PAN)は、いずれも単独で非水電解質ゲルを形成することができる。しかし、これらの非水電解質ゲルは、十分な強度を有していなかった。そこで、本発明者は、ポリフッ化ビニリデン及びポリアクリロニトリルを混合して非水電解質ゲルの作製を試みた。この結果、ポリフッ化ビニリデン及びポリアクリロニトリルの相溶性が悪く、非水電解質ゲルが2層に分離してしまった。
【0039】
そこで、本発明者は、ポリフッ化ビニリデン及びポリアクリロニトリルの相溶性を高める技術について鋭意検討した。この結果、本発明者は、ポリフッ化ビニリデンにアクリロニトリルを共重合させることに想到した。ポリフッ化ビニリデン及びアクリロニトリルの共重合体は、当該共重合体中のアクリロニトリル鎖がポリアクリロニトリルと親和するので、ポリアクリロニトリルとの高い相溶性を有する。本発明者は、この知見をさらに発展させ、本実施形態に係るマトリクス用高分子に想到した。
【0040】
高分子(A)は、上述したように、化学式(1)で示される骨格を少なくとも含む第1の骨格と、化学式(2)で示される骨格を少なくとも含む第2の骨格とが、グラフト共重合及びブロック共重合のうち、少なくとも1種以上の態様で共重合した構造を有する。これにより、高分子(A)中の第2の骨格が高分子(B)と親和するので、高分子(A)及び高分子(B)の相溶性を高めることができる。
【0041】
第1の骨格は、化学式(1)で示される通り、フッ化ビニリデンユニットとアクリル酸ユニットとを有する。ここで、フッ化ビニリデンユニットとアクリル酸ユニットとのモル比(l/m)は、95/5以上99.8/0.2以下であることが好ましい。モル比が95/5より小さいとフッ化ビニリデンユニットの結晶性が低下してゲル強度が低下する可能性があり、モル比が99.8/0.2より大きいとアクリル酸ユニットが少なすぎて第1の骨格に第2の骨格をグラフト共重合させることができなくなる可能性がある。このように、第1の骨格の主成分はフッ化ビニリデンとなる。したがって、第1の骨格は、フッ化ビニリデンに類似する特性を有する。例えば、第1の骨格は、結晶性が高く、硬いという特性を有する。
【0042】
第2の骨格は、第1の骨格にグラフト共重合していることが好ましい。つまり、第2の骨格は、第1の骨格を構成するアクリル酸ユニットにグラフト共重合することが好ましい。この場合、高分子(A)は、所謂櫛歯状の形状を有することになる。そして、櫛歯の歯を形成する第2の骨格が高分子(B)と親和するので、高分子(A)と高分子(B)との相溶性がより高くなり、非水電解質ゲルの強度がより高くなる。
【0043】
さらに、高分子(A)は、第1の骨格と第2の骨格とが(メタ)アクリル酸エステルユニットを介してグラフト共重合した構造を有することが好ましい。本発明者は、第1の骨格及び第2の骨格について検討した。この結果、本発明者は、第2の骨格の末端にアクリル酸ユニットを結合させることで、第2の骨格が第1の骨格に容易にグラフト共重合することを見出した。末端がアクリロニトリルユニットであると、ニトリル基の電子吸引性が影響して最末端のハロゲン基が脱離しにくくなる。この結果、グラフト化反応が阻害されると推察される。ここで、アクリル酸エステルユニットは、第2の骨格を構成するユニットの総モル数に対して0モル%超10モル%以下で第2の骨格に含まれることが好ましい。この場合、第2の骨格が第1の骨格により容易にグラフト共重合することができる。好ましい上限値は5モル%以下であり、好ましい下限値は1モル%以上である。
【0044】
アクリル酸エステルユニットは、グラフト化反応を阻害しないという観点、およびマトリクスとして使用する際の溶媒親和性(エステルのアルキル鎖が長くなると、電解液溶媒と親和性が落ちてマトリクスとしての性能が落ちる)という観点から選択されることが好ましい。アクリル酸エステルユニットとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、などの1級(メタ)アクリル酸エステルを使用することができる。
【0045】
ここで、高分子(A)の質量平均分子量は100,000以上、3,000,000以下であることが好ましい。質量平均分子量は、例えばゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって測定可能である。
【0046】
高分子(A)の構造は、例えば以下の方法により特定される。すなわち、高分子(A)の1H-NMRにより、化学式(1)および化学式(2)の骨格に相当するプロトンのケミカルシフトが観察される。つぎに示差熱分析(DSC)を測定し、高分子(A)中の化学式(1)の構造に由来する融点(Tm)と、化学式(2)の構造に由来するガラス転移温度(Tg)が両方観察される。これらの結果、高分子(A)が化学式(1)および化学式(2)の骨格を両方有することが分かる。さらに、高分子(A)のゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を測定すると、単一物であることを示す単峰性の結果が得られることから、化学式(1)および化学式(2)の骨格をもつ高分子の混合物が存在するのではなく、化学的に結合した高分子(A)が存在することがわかる。また、高分子(A)を溶解する溶媒(例えば、1-メチル-2-ピロリドン)に高分子(A)を溶解したときに、層分離しないことからも化学式(1)と化学式(2)の混合物でないことがわかる(化学式(1)の骨格を持つ高分子と化学式(2)の骨格を持つ高分子は相溶性がないので、可溶性溶媒下にあっても2層に分離する)。
【0047】
高分子(B)は、上述したように、第2の骨格を有する。高分子(B)は、概略的にはポリアクリロニトリル(PAN)あるいはポリアクリロニトリルに他のユニットが共重合した高分子である。
【0048】
高分子(B)は、酸性官能基含有ユニットを、高分子(B)を構成するユニットの総モル数に対して2モル%以上10モル%以下で含むことが好ましい。この場合、非水電解質ゲルと各電極との接着性が向上する。
【0049】
ここで、酸性官能基含有ユニットとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、及び2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート等が挙げられる。高分子(B)は、1種または2種以上の酸性官能基含有ユニットを含んでいてもよい。高分子(B)は、酸性官能基含有ユニットとしてアクリル酸を含んでいることが好ましい。
【0050】
ここで、高分子(B)の質量平均分子量は100,000以上3,000,000以下であることが好ましい。質量平均分子量は、例えばゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって測定可能である。
【0051】
高分子(B)の構造は、例えば1H-NMRによって特定することができる。
【0052】
化学式(1)、(2)において、炭素原子に結合している水素原子のいずれかは炭化水素基で置換されていても良い。
【0053】
マトリクス用高分子は、高分子(A)、高分子(B)を(A)/(B)=55/45以上99/1以下の質量比で少なくとも含む。本発明者が高分子(A)、(B)の質量比について鋭意検討したところ、高分子(A)、高分子(B)の質量比が(A)/(B)=55/45以上99/1以下となる場合に、非水電解質ゲルの強度が特異的に大きくなることを見出した。本発明者は、その理由を以下のように考えている。すなわち、高分子(A)を構成する第1の骨格は、第2の骨格及び高分子(B)に比べて硬く、もろいという特性を有する。一方で、第2の骨格及び高分子(B)は、第1の骨格に比べて柔らかく、しなやかであるという特性を有する。そして、非水電解質ゲル中では、高分子(A)の第2の骨格が高分子(B)と複雑に絡み合っている。そして、第1の骨格は、非水電解質ゲル中に分散して配置されている。このような非水電解質ゲルに何らかの外力(例えば電池動作中の電極の膨張収縮によるひずみ)が作用した場合、第1の骨格が第2の骨格または高分子(B)に優先して破壊される。つまり、非水電解質ゲル内に分散した第1の骨格が破壊されることで、非水電解質ゲルの特定の箇所への応力集中が抑制される。この結果、非水電解質ゲルの強度が向上すると考えられる。
【0054】
高分子(A)、高分子(B)の好ましい質量比は、(A)/(B)=60/40以上98/2以下であり、更に好ましくは、(A)/(B)=70/30以上95/5以下であり、更に好ましくは、(A)/(B)=75/25以上93/7以下であり、更に好ましくは、(A)/(B)=80/20以上85/15以下である。この場合、非水電解質ゲルの強度がより向上する。
【0055】
本実施形態に係る非水電解質ゲルは、上述した構造を有するマトリクス用高分子がマトリクスとなっているので、高い強度を有する。このため、電池動作中の電極の膨張収縮による内部のひずみが大きくなっても、電解質ゲルは各電極とセパレータ10とを強固に接着することができる。したがって、高い形状保持性が実現される。
【0056】
接着層10bの厚さは特に制限されないが、例えば、0.5~5μmであってもよい。
【0057】
接着層10bは、接着層10bの耐熱性を向上させるために、耐熱粒子をさらに含有してもよい。ここで、本実施形態に適用可能な耐熱粒子は特に制限されない。例えば、耐熱粒子は、有機粒子であっても、無機粒子であっても、これらの混合物であってもよい。ただし、無機粒子は、有機粒子よりも耐熱性に優れていることが多いので、より好ましい。
【0058】
有機粒子としては、例えば、架橋ポリスチレン(架橋PS)、架橋ポリメタクリル酸メチル(架橋PMMA)、シリコーン(silicone)樹脂、エポキシ(epoxy)硬化物、ポリエーテルスルホン(polyethersulfone)、ポリアミドイミド(polyamideimide)、ポリイミド(polyimide)、メラミン(melamine)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(polyphenylenesulfide)樹脂の微粒子等が挙げられる。有機粒子は、これらのうち1種で構成されていてもよく、2種以上で構成されていてもよい。無機粒子は、例えばセラミック(ceramic)粒子であり、より具体的には、金属酸化物粒子である。金属酸化物粒子としては、例えばアルミナ(alumina)、ベーマイト(boehmite)、チタニア(titania)、ジルコニア(zirconia)、マグネシア(magnesia)、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の微粒子が挙げられる。
【0059】
正極20、負極30、電解液、及び外装材については、一般的な非水電解質二次電池で使用可能なものを任意に使用することができる。これらについて、概略的に説明すると以下の通りである。
【0060】
(1-2.正極の構成)
正極20は、正極集電体20aと、正極集電体20aの両面に形成された正極活物質層20bと、正極タブ50とを有する。
【0061】
正極集電体20aは、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、及びニッケルメッキ鋼等で構成される。正極集電体20aには、正極タブ50が接続される。なお、正極集電体20aは、いわゆる帯状の集電体である。
【0062】
正極活物質層20bは、少なくとも正極活物質を含み、導電剤及び結着剤をさらに含んでいてもよい。正極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することが可能な物質であれば特に限定されず、例えば、コバルト酸リチウム(LCO)、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(以下、「NCA」と称する場合もある。)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(以下、「NCM」と称する場合もある。)、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、硫化ニッケル、硫化銅、硫黄、酸化鉄、酸化バナジウム等が挙げられる。これらの正極活物質は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0063】
正極活物質は、上記に挙げた正極活物質の例のうち、特に、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩であることが好ましい。このような層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩としては、例えば、Li1-x-y-zNixCoyAlzO2(NCA)またはLi1-x-y-zNixCoyMnzO2(NCM)(0<x<1、0<y<1、0<z<1、かつx+y+z<1)で表される3元系の遷移金属酸化物のリチウム塩が挙げられる。
【0064】
導電剤は、例えばケッチェンブラック(Ketjenblack)、アセチレンブラック(acetylene black)等のカーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ等の繊維状カーボン、天然黒鉛、人造黒鉛等であるが、正極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されない。
【0065】
結着剤は、正極活物質同士を結合すると共に、正極活物質と正極集電体20aとを結合する。結着剤の種類は特に限定されず、従来のリチウムイオン二次電池の正極活物質層に使用された結着剤であればどのようなものであっても使用できる。例えばポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、フッ化ビニリデン(VDF)-ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル(par fluorovinyl ether)共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン(trifluoroethylene)共重合体、エチレンプロピレンジエン(ethylene-propylene-diene)三元共重合体、スチレンブタジエンゴム(Styrene-butadiene rubber)、アクリロニトリルブタジエンゴム(acrylonitrile-butadiene rubber)、フッ素ゴム(fluororubber)、ポリ酢酸ビニル(polyvinyl acetate)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリエチレン(polyethylene)、ニトロセルロース(cellulose nitrate)等であるが、正極活物質及び導電剤を正極集電体20a上に結着させることができるものであれば、特に制限されない。また、正極活物質層20bには、公知の添加剤等をさらに添加してもよい。
【0066】
(1-3.負極の構成)
負極30は、負極集電体30aと、負極集電体30aの両面に形成された負極活物質層30bと、負極タブ60とを含む。負極30は、いわゆる水系負極であってもよい。
【0067】
負極集電体30aは、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)等で構成される。負極集電体30aには、負極タブ60が接続される。なお、負極集電体30aは、いわゆる帯状の集電体である。
【0068】
負極活物質層30bは、負極活物質を少なくとも含み、増粘剤及び結着剤をさらに含んでもよい。負極活物質層30bを構成する負極活物質としては、リチウムとの合金化、又は、リチウム(Li)の可逆的な吸蔵及び放出が可能な物質であれば特に限定されない。負極活物質としては、例えば、リチウム、インジウム(In)、スズ(Sn)、アルミ(Al)、ケイ素(Si)等の金属及びこれらの合金や酸化物、Li4/3Ti5/3O4、SnO等の遷移金属酸化物や、人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛、難黒鉛化性炭素、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス(coke)、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール(furfuryl alcohol)樹脂焼成炭素、ポリアセン(polyacene)、ピッチ(pitch)系炭素繊維等の炭素材料などが挙げられる。これらの負極活物質は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。中でも、黒鉛系材料を主材料として用いるのが好ましい。
【0069】
増粘剤は、負極合剤スラリーを塗工に適した粘度に調整するとともに、負極活物質層30b内で結着剤として機能するものである。増粘剤としては水溶性高分子が好適に用いられ、例えばセルロース系高分子、ポリアクリル酸(Polyacrylic acid)系高分子、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)、ポリエチレンオキシド(polyethylene oxide)等が挙げられる。セルロース系高分子としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)の金属塩またはアンモニウム塩、メチルセルロース(methylcellulose)、エチルセルロース(ethyl cellulose)、ヒドロキシアルキルセルロース(hydroxy alkyl cellulose)などのセルロース(Cellulose)誘導体等が挙げられる。他の例としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、スターチ(starch)、リン酸スターチ、カゼイン(casein)、各種変性デンプン(starch)、キチン(chitin)、キトサン(chitosan)誘導体などが挙げられる。これらの増粘剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩が特に好ましい。
【0070】
結着剤は、負極活物質同士を結着するものである。結着剤は、負極の結着剤として使用可能なものであれば特に制限されない。本実施形態に使用可能な結着剤としては、例えば、エラストマー系高分子の微粒子が挙げられる。エラストマー系高分子としては、SBR(スチレンブタジエンゴム)、BR(ブタジエンゴム)、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、NR(天然ゴム)、IR(イソプレンゴム)、EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体)、CR(クロロプレンゴム)、CSM(クロロスルホン化ポリエチレン)、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの共重合体、および、これらの部分水素化物、あるいは完全水素化物、アクリル酸エステル系共重合体等が挙げられる。これらは結着性向上のため、カルボン酸やスルホン酸、リン酸、水酸基等の極性官能基をもつ単量体により変性されていてもよい。
【0071】
増粘剤及び結着剤の負極活物質層30b内の含有比は特に制限されず、従来の負極活物質層に適用可能な含有比であればよい。また、負極活物質層30bには、公知の添加剤等をさらに添加してもよい。
【0072】
(1-4.電解液)
【0073】
電解液は、電解質を有機溶媒に溶解させた溶液である。上記特性を満たす電解質としては、例えばLiBF4、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3,LiN(CF3SO2)2,LiN(C2F5SO2)2,LiN(CF3SO2)(C4F9SO2),LiC(CF3SO2)3,LiC(C2F5SO2)3,(CH3)4NBF4,(CH3)4NBr,(C2H5)4NClO4,(C2H5)4NI,(C3H7)4NBr,(n-C4H9)4NClO4,(n-C4H9)4NI,(C2H5)4N-maleate,(C2H5)4N-benzoate,(C2H5)4N-phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム(stearyl sulfonic acid lithium)、オクチルスルホン酸リチウム(octyl sulfonic acid)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(dodecyl benzene sulphonic acid)等の有機イオン塩等が挙げられる。また、有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)/プロピオン酸エチル(ethyl propionate)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate)、ブチレンカーボネート(ethylene carbonate)、クロロエチレンカーボネート(chloroethylene carbonate)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate)等の環状炭酸エステル(ester)類;γ-ブチロラクトン(butyrolactone)、γ-バレロラクトン(valerolactone)等の環状エステル類;ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate)、エチルメチルカーボネート(ethyl methyl carbonate)等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル(methyl formate)、酢酸メチル(methyl acetate)、酪酸メチル(butyric acid methyl)、酢酸エチル(ethyl acetate)、酢酸プロピル(propyl acetate)、プロピオン酸エチル(ethyl propionate)、プロピオン酸プロピル(propyl propionate)、等の鎖状エステル類;テトラヒドロフラン(Tetrahydrofuran)またはその誘導体;1,3-ジオキサン(dioxane)、1,4-ジオキサン(dioxane)、1,2-ジメトキシエタン(dimethoxyethane)、1,4-ジブトキシエタン(dibutoxyethane)、メチルジグライム(methyl diglyme)等のエーテル(ether)類;アセトニトリル(acetonitrile)、ベンゾニトリル(benzonitrile)等のニトリル(nitrile)類;ジオキソラン(Dioxolane)またはその誘導体;エチレンスルフィド(ethylene sulfide)、スルホラン(sulfolane)、スルトン(sultone)またはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等が挙げられる。
【0074】
(1-5.外装材)
外装材40は、非水電解質二次電池の外装材に使用されるものであればどのようなものであってもよいが、柔軟性のある外装材であることが好ましい。このような外装材は、例えばアルミラミネートフィルムであるが、金属製の外装材であってもよい。
【0075】
<3.非水電解質二次電池の製造方法>
つぎに、非水電解質二次電池1の製造方法について説明する。まず、ゲルマトリクス塗工セパレータ、正極20、及び負極30を作製する。
【0076】
(3-1.ゲルマトリクス塗工セパレータの製造方法)
高分子(A)、(B)を上述した質量比で溶媒(例えばN-メチルピロリドン(NMP))に溶解させることで接着層スラリーを作成する。ついで、この接着層スラリーを基材層10aの両面のうち、少なくとも一方の表面に塗工することで塗工層を形成する。ついで、この塗工層が乾燥する前に、塗工層及び基材層10aを水浴に浸漬する。これにより、基材層10aの表面にマトリクス用高分子が析出する。つまり、基材層10aの表面にマトリクス層が形成される。ついで、マトリクス層が形成された基材層10aを水洗、乾燥させる。以上の工程により、ゲルマトリクス塗工セパレータを作製する。
【0077】
(3-2.正極の製造方法)
正極活物質層20bの材料を溶媒に分散させることで正極合剤スラリーを形成し、この正極合剤スラリーを正極集電体20a上に塗工する。これにより、塗工層が形成される。ついで、塗工層を乾燥する。ついで、乾燥した塗工層を正極集電体20aとともに圧延する。ついで、正極タブ50を正極集電体20aの端部に溶接等により固定する。これにより、正極20を作製する。
【0078】
(3-3.負極の製造方法)
負極活物質層30bの材料を溶媒に分散させることで負極合剤スラリーを形成し、この負極合剤スラリーを負極集電体30a上に塗工する。これにより、塗工層を形成する。ついで、塗工層を乾燥する。ついで、乾燥した塗工層を負極集電体30aとともに圧延する。ついで、負極タブ60を負極集電体30aの端部に溶接等により固定する。これにより、負極30を作製する。
【0079】
(3-4.巻回素子の製造方法)
ついで、ゲルマトリクス塗工セパレータ、負極30、ゲルマトリクス塗工セパレータ、及び正極20をこの順で積層することで、電極積層体を作製する。ついで、電極積層体を扁平状に巻回する。これにより、電極積層体のある部分の表面(すなわち、正極20)に電極積層体100aの他の部分の裏面(すなわちセパレータ10)が接触する。これにより、圧縮前巻回素子を作製する。ついで、圧縮前巻回素子を押しつぶすことで、扁平状巻回素子を作製する。ここで、圧縮前巻回素子を押しつぶす際の加圧方向は、例えば
図1に示す矢印B方向となる。
【0080】
<6.巻回型二次電池の製造方法>
つぎに、扁平状巻回素子及び電解液を外装材に封入することで、圧着前二次電池を作製する。ここで、正極タブ50及び負極タブ60は、外装材の外部に引き出される。ついで、圧着前二次電池を加熱しながら加圧することで、扁平状巻回素子を一体化させる。加圧方向は、例えば
図1に示す矢印B方向となる。以上の工程により、非水電解質二次電池1を作製する。
【0081】
このように、本実施形態では、扁平状巻回素子を加熱しながら加圧することで、扁平状巻回素子を一体化する。この工程によって、マトリクス層中のマトリクス用高分子は、電解液を吸収して膨潤する。その後、マトリクス用高分子は、電解液に完全に溶解する(すなわち、ゾル化する)。加熱温度は、マトリクス用高分子が電解液に完全に溶解するように調整されれば良い。一例として、加熱温度は、80~120℃程度とされてもよい。その後、ゾル化したマトリクス用高分子は、冷却によって微結晶化し、非水電解質ゲルが形成される。冷却時の温度は非水電解質ゲルが生成する程度に調整されれば良いが、例えば室温(25℃程度)であってもよい。これにより、接着層10bが形成される。この接着層10bは、各電極に強固に接着する。
【実施例】
【0082】
<1.実施例1>
つぎに、本発明の実施例について説明する。実施例1では、以下の試験を行った。
【0083】
(1-1.高分子Aの合成)
2Lの反応容器に純水1kgおよびカルボキシメチルセルロース(carboxymethylcellulose)0.35gを入れ、窒素置換を行った。次に、0.5gのアクリル酸と500gのフッ化ビニリデン(VDF)単量体を当該反応容器に加えた後、過ピバリン酸t-アミルの75質量%イソドデカン溶液1.7gを当該反応容器に導入した。そして、系内を50℃に昇温した。ついで、アクリル酸の2質量%水溶液を連続して反応容器内に供給しながら、系内圧力を一定に保った状態で、12時間撹拌を継続した。加熱を止めて、反応容器内の圧力が大気圧に達するまで放圧した。その後、反応生成物を水洗、乾燥した。以上の工程により、アクリル酸変性PVDF重合体(高分子(a1))(第1の骨格を有する重合体)を得た。アクリル酸変性PVDF重合体(高分子(a1))の特性は以下のとおりである。なお、質量平均分子量はGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定した。
組成:VDF:アクリル酸=98.8:1.2(モル比)
質量平均分子量:1,000,000
融点:165℃
【0084】
また、アクリロニトリル142.5gをテトラブチルアンモニウムヨージド5.4gおよび2-ヨード-2-メチルプロパンニトリル2.8g存在下で窒素雰囲気中で24時間110℃を維持した。これにより、アクリロニトリルをバルク重合させた。その後、アクリル酸n-ブチル7.5gを加え、さらに12時間110℃をさせた。これにより、化学式(2)で示され、ヨウ素末端の隣接にアクリル酸n-ブチルをもつ高分子(b)を合成した。GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)による質量平均分子量は1万であった。アクリロニトリル:アクリル酸n-ブチルのモル比=98:2であった。
【0085】
ついで、高分子(a1)89gと高分子(b)11gをN-メチル-2-ピロリドン1400g中に溶解させた。ついで、溶解液を窒素雰囲気下で60℃に昇温した後、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン3.3gを添加して12時間保持した。これにより、高分子(a1)のカルボン酸と、高分子(b)の末端ヨウ素を反応させた。すなわち、グラフト化させた。その後多量のメタノールで生成物を沈殿させてろ別、乾燥することで高分子(A1)を得た。
【0086】
(1-2.高分子Bの合成)
アクリロニトリル28g、及びアクリル酸2g、(アクリロニトリル:アクリル酸のモル比=95:5)をイオン交換水270gへ投入し、窒素雰囲気下で60℃に昇温した。その後、混合液に過硫酸アンモニウム3.17gを加えて沈殿重合させることで、化学式(2)で示されるランダム共重合体を合成した。沈殿物をろ別しメタノールで洗浄後乾燥することで高分子(B1)を得た。GPCによる質量平均分子量は45万(ポリエチレンオキシド換算)であった。
【0087】
(1-3.非水電解質ゲルの調製)
エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネートを3対7(体積比)で混合した溶媒に1MのLiPF6を溶解させることで非水電解液を作製した。この非水電解液を30ml PFA容器に19g投入し、そこへ高分子(A1)0.98gおよび(B1)0.02g((A1)/(B1)=98/2質量比)を加えた。この混合液をドライ雰囲気下で100℃に加熱しながら撹拌して高分子を溶解させた。その後、溶解液を室温まで放冷することで非水電解質ゲルを調製した。
【0088】
(1-4.非水電解質ゲル強度の測定)
得られた非水電解質ゲルを、直径4mmの円柱状圧子を用いて1mm/minでゲルを圧縮するときの応力変位曲線を測定した。変位0.5以上2.0mm以下の間の応力曲線を直線近似することで、圧縮強度(圧縮弾性率)を算出した。結果を
図2に示す。
【0089】
(1-5.非水電解質二次電池(ゲルポリマー電池)の作製)
(正極の作製)
コバルト酸リチウム、カーボンブラック、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を固形分の質量比96:2:2でN-メチルピロリドン中に溶解分散させることで正極合剤スラリーを作製した。ついで、正極合剤スラリーを厚さ12μmのアルミ箔集電体の両面に塗工後、乾燥した。乾燥後の塗工層を圧延することで正極活物質層を作製した。集電体及び正極活物質層の総厚は120μmであった。ついで、アルミリード線(正極タブ)を集電体の端部に溶接することで正極を得た。
【0090】
(負極の作製)
黒鉛、変性SBR微粒子の水分散体、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を固形分の質量比97.5:1.5:1で水溶媒中に溶解分散させることで、負極合剤スラリーを作製した。ついで、この負極合剤スラリーを厚さ10μmの銅箔集電体の両面に塗工後、乾燥した。乾燥後の塗工層を圧延することで負極活物質層を得た。集電体及び負極活物質層の総厚は120μmであった。その後、ニッケルリード線(負極タブ)を集電体の端部に溶接することで帯状負極を得た。
【0091】
(ゲルマトリクス塗工セパレータの作製)
高分子(A1)4.9g、高分子(B1)0.1g(すなわち、高分子(A1)、(B1)の総質量を5gとし、質量比を(A1)/(B1)=98/2とした)をNMP95g中に溶解させた。この溶液を厚さ9μmの多孔質ポリエチレンセパレータフィルムの両面に塗工した。塗工面が乾燥する前に水浴中に浸漬させることでゲルマトリクスポリマーをセパレータフィルム上に析出させた。その後、ポリマーが析出したフィルムを水洗、乾燥することで、多孔質状のゲルマトリクスポリマーが塗布されたセパレータを作製した。ゲルマトリクスポリマーの塗工量は、両面で2g/m2であった。
【0092】
(非水電解質二次電池の作製)
上記セパレータ、負極、セパレータ、正極をこの順に積層することで、電極積層体を作製した。ついで、電極積層体を扁平状の巻き芯に巻きつけた。すなわち、電極積層体を巻回した。ここで、正極タブ及び負極タブ側の端部を巻き始めとした。これにより、圧縮前巻回素子を作製した。圧縮前巻回素子の最外周部分の端部をテープにて固定した後、巻き芯を取り除いた。ついで、2枚の金属プレートの間に圧縮前巻回素子を挟み込むことで、圧縮前巻回素子を押しつぶした。これにより、扁平状巻回素子を得た。
【0093】
上記扁平状巻回素子及び電解液を、ポリプロピレン/アルミ/ナイロンの3層からなるラミネートフィルム(外装材)に封入した。ここで、2本のリード線はラミネートフィルムの外部に引き出した。また、電解液には、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネートを3対7(体積比)で混合した溶媒に1MのLiPF6を溶解させたものを使用した。
【0094】
ついで、圧着前二次電池を、100℃に加熱した厚さ3cmの2枚の金属プレートの間に挟みこみ、0.5MPaの圧力で2分間保持した。この工程により、セパレータフィルム上に塗布されたゲルマトリクスが、封入された電解液に溶解される。その後、25℃の2枚の金属プレートの間に二次電池を挟み直し、0.5MPaの圧力で保持しながら1時間放冷した。この工程により、溶解したゲルマトリクスポリマーが微結晶化を起こして非水電解質ゲルを形成する。このゲル形成により扁平状巻回素子を一体化した。以上の工程により、初期充電前二次電池を作製した。
【0095】
ついで、初期充電前二次電池を設計容量の1/10CA(1CAは1時間放電率)で4.35Vまで定電流充電行い、引き続き4.35Vで1/20CAになるまで定電圧充電を行った。その後1/2CAで3.0Vまで定電流放電を行った。この工程により、非水電解質二次電池を作製した。また、このときの放電容量を初期放電容量とした。
【0096】
(1-6.寿命試験)
この非水電解質二次電池を25℃の温度下で0.5CAで充電、1CAで放電する寿命試験を200サイクル実施した。そして、200サイクル後の放電容量を初期放電容量で除算することで、容量維持率を測定した。実施例1の容量維持率は84%であり、寿命試験後の電池外観は寿命試験開始前の状態と変化はなかった。
【0097】
(1-7.サイクル膨れ試験)
作製した非水電解質二次電池の初回放電容量を測定した後の厚みを厚み計で計測して初期厚みとした。その後、25℃下で、4.35Vで1/2CA定電流充電、1/20CA定電圧充電、1/2CA定電流放電をこの順に200サイクル繰り返した。その後、電池の厚みを厚み計で計測し、初期厚みからの変化率(膨れ率)を算出した。膨れ率は8%であった。膨れ率が小さいほど電池の寸法安定性に優れており好ましい。圧縮弾性率、容量維持率、膨れ率を表1に示す。
【0098】
<2.実施例2>
高分子(A1)と高分子(B1)の混合比率を93/7(質量比)とした外は実施例1と同様の試験を行った。圧縮弾性率、容量維持率、膨れ率を表1に示す。
【0099】
<3.実施例3>
高分子(A1)と高分子(B1)の混合比率を83/17(質量比)とした以外は実施例1と同様の試験を行った。圧縮弾性率、容量維持率、膨れ率を表1に示す。
【0100】
<4.実施例4>
高分子(A1)と高分子(B1)の混合比率を75/25(質量比)とした以外は実施例1と同様の試験を行った。圧縮弾性率、容量維持率、膨れ率を表1に示す。
【0101】
<5.実施例5>
高分子(A1)と高分子(B1)の混合比率を60/40(質量比)とした以外は実施例1と同様の試験を行った。圧縮弾性率、容量維持率、膨れ率を表1に示す。
【0102】
<6.比較例1>
高分子(A1)と高分子(B1)の混合比率を50/50(質量比)とした以外は実施例1と同様の試験を行った。圧縮弾性率、容量維持率、膨れ率を表1に示す。寿命試験後のセル外観には歪みが見られた。
【0103】
<7.比較例2>
高分子(A1)のみを使用した以外は実施例1と同様の試験を行った。圧縮弾性率、容量維持率、膨れ率を表1に示す。
【0104】
<8.比較例3>
高分子(B1)のみを使用した以外は実施例1と同様の試験を行った。圧縮弾性率、容量維持率、膨れ率を表1に示す。調製した非水電解質ゲルは、架橋の連続性を示す性状ではあるが、固体的性質はほとんどいないため、圧縮変位に対して応力を全く示さなかった。寿命試験後のセル外観には歪みが見られた。
【0105】
<9.比較例4>
アクリル酸変性PVDF重合体(高分子(a1))を使用した以外は実施例1と同様の試験を行った。圧縮弾性率、容量維持率、膨れ率を表1に示す。
【0106】
<10.比較例5>
高分子(a1)と高分子(B1)の混合比率を50/50とした以外は実施例1と同様の試験を行った。圧縮弾性率、容量維持率、膨れ率を表1に示す。
【0107】
【0108】
<11.考察>
実施例1~5、比較例1,2,3における圧縮強度について、横軸を高分子(A1)の含有率(質量%)、縦軸を圧縮強度とするグラフを
図2に示す。
図2中の直線は高分子(A1)単独および高分子(B1)単独のプロットを直線で結んだものであり、単純に加成性が成り立つ場合は(A1)/(B1)の任意の割合でこの直線近傍にプロットされると予想される。実際の結果では高分子(A1)の含有率(質量%)が55%以上99%以下((A)/(B)=55/45以上99/1以下)のとき、より具体的には(A)/(B)=60/40以上98/2以下のとき(実施例1~5)に、各プロットが直線から逸脱し特異な強度向上作用が認められた。さらに、高分子(A1)の含有率が70%以上95%以下((A)/(B)=70/30以上95/5以下)のとき(実施例2~4)に、強度向上作用がより顕著になった。
【0109】
一方、50%含有率の圧縮強度(比較例1)は、0%含有率の弾性率(比較例3)とほとんど変わらず、混合の加成性から想定される弾性率に対して特異的に低かった。また、(a1)/(B1)が50/50(質量比)のとき(比較例5)は、比較例1のように特異的に弾性率が低くなることはなかった。これは高分子(a1)が、式(2)で示される構造を持たないために、高分子(B1)との相互作用を起こさないためと考えられる。
【0110】
さらに、マトリクス用高分子を使用した非水電解質ゲルを含む非水電解質二次電池の寿命試験結果と、圧縮弾性率およびセル変形との間に相関が認められた。つまり、実施例1~5では、高い圧縮弾性率が実現され、容量維持率に優れ、かつ歪みも認められなかった。一方、比較例1~5では、圧縮弾性率が低く、結果として容量維持率が低くなった。一部の比較例では歪みも見受けられた。
【0111】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0112】
例えば、上記実施形態では、非水電解質ゲルを電気化学デバイスの1種である非水電解質二次電池に適用することとしたが、本発明はかかる例に限定されない。本実施形態に係る非水電解質ゲルは、非水電解質ゲルを含むあらゆる電気化学デバイスに適用しても良い。
【符号の説明】
【0113】
10 セパレータ
10a 基材層
10b 接着層
20 正極
20a 正極集電体
20b 正極活物質層
30 負極
30a 負極集電体
30b 負極活物質層
50 正極タブ
60 負極タブ