(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/10 20060101AFI20220510BHJP
B22D 11/18 20060101ALI20220510BHJP
B22D 11/20 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
B22D11/10 330Z
B22D11/18 Z
B22D11/20 A
(21)【出願番号】P 2018082820
(22)【出願日】2018-04-24
【審査請求日】2021-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】綾部 陽介
(72)【発明者】
【氏名】松本 大輝
(72)【発明者】
【氏名】加納 優
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-112650(JP,A)
【文献】特開2001-087844(JP,A)
【文献】特開平04-172158(JP,A)
【文献】特開2007-229736(JP,A)
【文献】特開平11-291003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンディッシュ底部から流下して溶湯流が形成された溶湯を、前記タンディッシュの下部に配置された浸漬ノズルを介して鋳型に注湯して、前記鋳型内で形成された鋳塊を引抜く鋳造方法において、
前記浸漬ノズルの上面において、前記溶湯流と前記浸漬ノズルの内壁面との距離が等間隔となるように前記浸漬ノズルを水平方向に移動させながら前記タンディッシュの溶湯を前記浸漬ノズルに流下する鋳造方法。
【請求項2】
0.005m/分~0.100m/分の引抜速度で前記鋳塊を引抜く請求項
1に記載の鋳造方法。
【請求項3】
前記タンディッシュ底部下面と前記浸漬ノズルの上面を離間させて、隙間を設けて鋳造する請求項1
または請求項2に記載の鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳塊の鋳造方法に係り、浸漬ノズルの閉塞を抑制できる鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳塊の鋳造方法における一手段として、タンディッシュの溶湯を流下して、タンディッシュの下部に配置された浸漬ノズルを介して鋳型に注湯して、鋳型内で形成された鋳塊を引抜く技術が適用されている。そして、中心偏析、逆V偏析等の偏析を抑制し、微細組織を形成することができる鋳造方法として、特許文献1では、合金溶湯を保持するタンディッシュより、水冷モールド壁で囲まれた凝固空間へスラグを介して、合金溶湯の注入速度に応じて鋳塊を引抜く合金溶湯の鋳造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したタンディッシュの溶湯を浸漬ノズルに流下すると、溶湯が浸漬ノズルの下部に形成された浸漬ノズル孔から連続して鋳型に注湯される。このとき、タンディッシュノズルの直径に対して、浸漬ノズル胴部の内径が大きい場合や浸漬ノズル孔部の面積が大きい場合、つまり、浸漬ノズルから鋳型への注湯量に対してタンディッシュから浸漬ノズル内への溶湯の供給量が少ないと、浸漬ノズル内が溶湯で満たされない、すなわち満鋳されない場合がある。このような状態のとき、浸漬ノズルの内部には、浸漬ノズル上面と浸漬ノズル内に形成される湯面と浸漬ノズル内壁面で囲まれる空間が形成される。
浸漬ノズルの内部に空間が形成された状態で、タンディッシュの溶湯を浸漬ノズルに流下させると、溶湯が上記空間内の浸漬ノズル内壁面に接しない状態で流下する溶湯流が形成される。この溶湯流に乱れが生じると、溶湯流が上記空間内の浸漬ノズル内壁面に接触してしまい、急激な温度低下に伴い、浸漬ノズル内壁面に固着して、凝固物を形成する場合がある。
【0005】
この状態で連続して鋳造を行なうと、上記した凝固物が氷柱状に成長することがあり、その結果、浸漬ノズル内を閉塞させてしまい、鋳造の途中で浸漬ノズルの交換が必要となり、生産性の低下という問題が生じる。
また、浸漬ノズルに流下される溶湯流が、浸漬ノズル内の湯面に衝突することにより、浸漬ノズルの内壁面にスプラッシュとして付着してしまう場合もある。そして、このスプラッシュは、酸化物を含む場合があり、浸漬ノズルの孔から鋳型内に沈降し、得られる鋳塊に酸化物が運ばれて、製品の機械的性質を低下させてしまうという問題も生じる。
【0006】
本発明の目的は、上記の問題に鑑み、鋳塊の鋳造にあたり、浸漬ノズルの閉塞を抑制でき、清浄な鋳塊を得ることが可能な鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、タンディッシュ底部から流下して溶湯流が形成された溶湯を、前記タンディッシュの下部に配置された浸漬ノズルを介して鋳型に注湯して、前記鋳型内で形成された鋳塊を引抜く鋳造方法において、前記浸漬ノズルを水平方向に移動させながら前記タンディッシュの溶湯を前記浸漬ノズルに流下する鋳造方法である。
本発明の鋳造方法は、前記浸漬ノズルの上面において、前記溶湯流と前記浸漬ノズルの内壁面との距離が等間隔となるように、前記浸漬ノズルを水平方向に移動させることが好ましい。
本発明の鋳造方法は、0.005m/分~0.100m/分の範囲の引抜速度で前記鋳塊を引抜くことが好ましい。
また、本発明の鋳造方法は、前記タンディッシュ底部下面と前記浸漬ノズルの上面を離間させて、隙間を設けて鋳造することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、鋳塊の製造という面では、浸漬ノズルの閉塞を抑制でき、生産性の向上に対して有用な技術となる。また、本発明は、鋳塊の品質という面では、酸化物が引き起こす機械的性質の低下という、製品に生じるさまざまな問題を解決でき、品質の向上に対しても有用な技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の鋳造方法について、その一例を示す
図1を用いて説明する。上述したように、タンディッシュノズル2の直径に対して、浸漬ノズル4胴部の内径が大きい場合や浸漬ノズル4孔部の面積が大きい場合、すなわち、浸漬ノズル4から鋳型5への注湯量に対してタンディッシュ1から浸漬ノズル4内への溶湯の供給量が少ないと、浸漬ノズル4内が満鋳されない場合がある。このようなときは、浸漬ノズル4の内部に、浸漬ノズル4の上面と浸漬ノズル4内の湯面と浸漬ノズル4の内壁面で囲まれる空間が形成される。
そして、浸漬ノズル4の内部に空間が形成された状態で、タンディッシュ1の溶湯を浸漬ノズル4に流下させると、溶湯が上記空間内の浸漬ノズル4の内壁面に接しない状態で流下する溶湯流3が形成される。この溶湯流3に乱れが生じると、溶湯流3が上記空間内の浸漬ノズル4の内壁面に接触してしまい、急激な温度低下に伴い、浸漬ノズル4の内壁面に固着して、凝固物を形成する場合がある。この状態で連続して鋳造を行なうと、その凝固物が氷柱状に成長することがあり、浸漬ノズル4の内部を閉塞させる場合がある。
【0011】
本発明の鋳造方法は、タンディッシュ1の底部に配置されたタンディッシュノズル2から溶湯を流下して、溶湯流3が形成された溶湯を、タンディッシュ1の下部に配置された浸漬ノズル4を介して鋳型5に注湯して、鋳型5内で形成された鋳塊6を引抜くことを基本技術とする。
そして、本発明では、タンディッシュ1の底部に配置されたタンディッシュノズル2から溶湯を流下させる際に、浸漬ノズル4を水平方向に移動させることに特徴を有する。
具体的には、
図1において、浸漬ノズル4を紙面左右方向または紙面前後方向、紙面左右方向および紙面前後方向、あるいは斜め方向、すなわち、水平面における面内移動させながら、溶湯を浸漬ノズル4に流下させる。これにより、本発明は、溶湯流3が浸漬ノズル4の内壁面に接触することを避けることができ、浸漬ノズル4の内部の空間において、内壁面への凝固物の固着が抑制されるとともに、同じ箇所に凝固物が固着・成長することが抑制されることで、連続した鋳造においても、浸漬ノズル4が閉塞することを抑制できる。
【0012】
本発明では、浸漬ノズル4の上面において、溶湯流3と浸漬ノズル4の内壁面との距離が等間隔となるように、浸漬ノズル4を水平方向に移動せながら、タンディッシュ1の溶湯を浸漬ノズル4に流下させることで、上記効果に加えて、浸漬ノズル4の内壁面へのスプラッシュの付着も抑制される上、さらに、偏平の水平断面を有する鋳型5内へ溶湯を均一に注湯することができる点で好ましい。
【0013】
また、本発明では、タンディッシュ1の溶湯を浸漬ノズル4内に流下させる際に、浸漬ノズル4を水平方向で連続的に移動させることで、浸漬ノズル4内の湯面に生じる微小で揺らぎ的なレベル変動により、溶湯流3の浸漬ノズル4内の湯面への衝突を軽減できるため、スプラッシュの生成抑制にも寄与する点で好ましい。
また、本発明では、溶湯流3が、浸漬ノズル4の内壁面と所定の距離、具体的には、溶湯流3およびスプラッシュが浸漬ノズル4の内壁面に接触しない距離を保持するように、浸漬ノズル4を水平方向に移動させながら、タンディッシュ1の溶湯を流下させることがより好ましい。これにより、溶湯流3と浸漬ノズル4の内壁面との距離を確保することができ、浸漬ノズル4の内壁面への溶湯流3の接触に起因する凝固物の付着や、スプラッシュに起因する凝固物の付着が解消され、これら凝固物による浸漬ノズル4の閉塞が抑制でき、長時間の鋳造に寄与する。
【0014】
本発明では、鋳塊6を0.005m/分~0.100m/分の速度で引抜くことが好ましい。そして、鋳塊6の引抜速度は、生産性を考慮すると、0.005m/分以上にすることが好ましい。また、鋳塊6の引抜速度は、0.010m/分以上にすることで、タンディッシュ1から浸漬ノズル4内への溶湯の供給量が確保され、浸漬ノズル4内の溶湯の温度低下を抑制できる点でより好ましい。
また、鋳塊6の引抜速度は、0.100m/分以下にすることで、浸漬ノズル4の内壁面にスプラッシュが付着することを抑制できる点で好ましい。また、鋳塊6の引抜速度は、より好ましくは0.050m/分以下、さらに好ましくは0.040m/分以下にすることで、偏析の少ない均質な組織を有する鋳塊6を得ることができる。
【0015】
本発明では、タンディッシュ1の底部下面と浸漬ノズル4の上面は、直結せずに離間させて、隙間を設けて鋳造することが好ましい。この隙間により、タンディッシュノズル2から浸漬ノズル4に流下させる溶湯流3の傾きや乱れを常時確認することができ、溶湯流3の傾きや乱れに応じて、浸漬ノズル4の水平方向の移動量を調整することができる。
また、このように鋳造することで、上記効果に加え、浸漬ノズル4の水平方向の移動に伴う、タンディッシュ1の底部下面やタンディッシュノズル2の下面と、浸漬ノズル4の上面の干渉を抑制することができ、浸漬ノズル4内への耐火物等の異物の混入を抑制することができる点で好ましい。
本発明では、タンディッシュ1の底部下面と浸漬ノズル4の上面を直結せずに離間させて、隙間を設けて鋳造する際は、酸化物の生成を抑制する観点から、その隙間をAr等の不活性ガスでシーリングすることが好ましい。
【0016】
また、本発明では、タンディッシュ1の上ノズルとなるタンディッシュノズル2の下方に、下ノズルとして、鋳造中に交換が可能な図示しないスライディングノズルを配置して鋳造することができる。このとき、本発明の主旨から、溶湯流3の傾きや乱れを常時確認するために、スライディングノズル2の下面と浸漬ノズル4の上面は、直結せずに離間させて、隙間を設けて鋳造することが好ましい。これにより、本発明は、上記効果に加えて、長時間の鋳造を継続することができる。
そして、本発明では、スライディングノズルの下面と浸漬ノズル4の上面を直結せずに離間させて、隙間を設けて鋳造する際にも、酸化物の生成を抑制する観点から、その隙間をAr等の不活性ガスでシーリングすることがより好ましい。
【0017】
以下、
図1を用いて、本発明の鋳造方法の具体例について説明する。
タンディッシュ1の底部に配置されたタンディッシュノズル2から流下して溶湯流3が形成された溶湯を、タンディッシュ1の下部に配置された浸漬ノズル4を介して鋳型5に注湯して、鋳型5内で形成された鋳塊6を引抜いた。このとき、タンディッシュ1の底部下面と浸漬ノズル4の上面を、直結せずに離間させて、隙間を設けて鋳造した。そして、タンディッシュ1の底部下面と浸漬ノズル4の上面で形成される隙間から溶湯流3の傾きや乱れを確認しつつ、溶湯流3が浸漬ノズル4の内壁面に接触しないように、浸漬ノズル4を水平方向に移動させながら、浸漬ノズル4内に溶湯を流下させて、続いて、鋳型5に注湯して、鋳型5内で形成された鋳塊6を引抜いた。
尚、溶湯は、質量%で、C:1.5%、Si:0.3%、Mn:0.4%、Cr:12.0%、Mo:1.0%、V:0.3、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼種を用いた。
【0018】
そして、鋳塊6の引抜速度は、0.030m/分(30mm/分)として鋳造を行なった。その結果、本発明の鋳造方法では、485分の鋳造を行なっても、浸漬ノズル4の閉塞がないことを確認できた。また、本発明の鋳造方法で得た鋳塊6は、その縦断面および横断面を見ても、スプラッシュ等の酸化物に起因する異物の混入はなく、清浄な鋳塊6が得られることを確認できた。
【0019】
比較例として、
図1の装置を用いて、タンディッシュ1の底部に配置されたタンディッシュノズル2から流下して溶湯流3が形成された上記と同じ鋼種の溶湯を、タンディッシュ1の下部に配置された浸漬ノズル4を介して鋳型5に注湯して、鋳型5内で形成された鋳塊6を引抜いた。このとき、このとき、タンディッシュ1の底部下面と浸漬ノズル4の上面を、直結せずに離間させて、浸漬ノズル4の水平方向の移動を行なわずに、浸漬ノズル4内に溶湯を流下させて、続いて、鋳型5に注湯して、鋳型5内で形成された鋳塊6を引抜いた。
【0020】
そして、鋳塊6の引抜速度は、0.030m/分(30mm/分)として鋳造を行なった。その結果、比較例となる鋳造方法では、368分の鋳造を行なった時点で、浸漬ノズル4が閉塞していることが確認され、鋳造を中止した。
【符号の説明】
【0021】
1.タンディッシュ
2.タンディッシュノズル
3.溶湯流
4.浸漬ノズル
5.鋳型
6.鋳塊