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特許7068637リチウムイオン二次電池用正極活物質、及びこれを用いたリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質、及びこれを用いたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220510BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220510BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022508924
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(86)【国際出願番号】 JP2021025695
【審査請求日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2020120366
(32)【優先日】2020-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】所 久人
(72)【発明者】
【氏名】高野 秀一
(72)【発明者】
【氏名】中林 崇
(72)【発明者】
【氏名】高橋 心
【審査官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-192208(JP,A)
【文献】特開2008-174444(JP,A)
【文献】国際公開第2020/241804(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の一次粒子が凝集した二次粒子を有する、下記式(1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粉末からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
JIS K5101-13-1に基づく、前記リチウム遷移金属複合酸化物粉末100g当たりのN-メチル-2-ピロリドンの吸油量が19~30mL/100gであり、
SEM画像から計測した前記二次粒子の短軸Aと長軸Bの比A/Bで表される球形度が0.88≦A/B≦1.0であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
Li1+aNiCoe2+α ・・・(1)
[但し、組成式(1)において、Mは、Al及びMnから選ばれる少なくとも1種の元素であり、XはLi、Ni、Co、Al及びMn以外の少なくとも1種の元素であり、a、b、c、d、e及びαは、それぞれ、-0.1≦a≦0.1、0.8≦b<1.0、0≦c≦0.2、0≦d≦0.2、0≦e≦0.05、b+c+d+e=1、-0.2≦α≦0.2を満たす数である。]
【請求項2】
前記リチウム遷移金属複合酸化物粉末の平均粒径が6~15μm、比表面積が0.1~0.6m/gであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属複合酸化物粉末を0.01MPaで圧縮した時の粉末充填密度が1.65~2.20Mg/mであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含有する正極を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質、及びこれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高いエネルギー密度を有する軽量な二次電池として、リチウムイオン二次電池が広く普及しており、用途の拡大に伴って、更なる高エネルギー密度化が求められている。
このような状況下、電池特性を大きく左右する正極活物質について、高容量とともに、電極の塗工性を向上させることが安定製造の観点で重要な課題となっている。エネルギー密度の高い二次電池を得るためには正極活物質単体のエネルギー密度だけでなく、バインダと導電材とが混合された正極としてエネルギー密度が高いことが必要である。一般的に正極は、正極活物質とバインダ、導電材などを混錬した塗料を集電箔上に塗布し、乾燥後に加圧成形して製造される。加圧成形は電極密度を向上させることが目的であり、所定の密度となるまで加圧成形が繰り返される。この時、バインダの分散が不十分であると電極内にバインダが不足した空隙の領域が出現し、正極活物質同士あるいは正極活物質と集電箔との結着力が低下する。結果、電極密度が向上する前に電極が、ひび割れたり、集電箔から正極合剤層が剥離してしまう。
【0003】
この問題に対し、例えば、特許文献1では正極活物質100g当たりのDBP(フタル酸ジブチルフタル酸ジブチル)吸液量を20~40mL/100gに制御することで電極剥離強度が高くなり、サイクル特性が向上することを開示している。バインダの不足を回避するための指標として、一般的にはガス吸着法で測定された比表面積値が用いられるが、これは不適であり、実際には溶液で測定するDBP吸液量で判定した方が指標として適している旨が述べられている(段落0052参照)。
【0004】
また、特許文献2では正極活物質100g当たりのNMP(N-メチル-2-ピロリドン)吸油量(以下、吸油量と言う。)を30~50mL/100gに制御することで塗布性が良好となることを開示している。そして、従来の粒度分布、比表面積やタップ密度といったバルクの粉体特性では現れてこなかった材料表面の特性を簡便に把握する手段として、吸油量は有効な手段である旨が述べられている(段落0013参照)。しかし、塗工性を維持するための吸油量の好適範囲は規定できるものの、吸油量自体を、従来の粒度分布、比表面積やタップ密度で規定することが難しいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-285606号公報
【文献】国際公開2010/064504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2では、塗工性を維持するための吸油量の好適範囲は規定できるものの、吸油量そのものを制御することが困難である上、吸油量の制御だけでは安定した塗工性を得ることは困難であった。すなわち、従来、電極の塗工性を判定するための指標として「吸油量」が適するとされていたものの、この吸油量の規定と粉末物性の適性について明確な指標を持ち合わせていなかった。また、優れた塗工性を得るために吸油量を好適範囲にしても、正極活物質の容量が低下してしまうおそれがあった。
そこで、本発明は、高容量であり、塗工性に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質と、これを用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子を有する、下記式(1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粉末からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、JIS K5101-13-1に基づく、前記リチウム遷移金属複合酸化物粉末100g当たりのNMP(N-メチル-2-ピロリドン)の吸油量が19~30mL/100gであり、SEM画像から計測した前記二次粒子の短軸Aと長軸Bの比A/Bで表される球形度が0.88≦A/B≦1.0となしたリチウムイオン二次電池用正極活物質である。
Li1+aNiCoe2+α・・・(1)
[但し、組成式(1)において、Mは、Al及びMnから選ばれる少なくとも1種の元素であり、XはLi、Ni、Co、Al及びMn以外の少なくとも1種の元素であり、-0.1≦a≦0.1、0.8≦b<1.0、0≦c≦0.2、0≦d≦0.2、0≦e≦0.05、b+c+d+e=1、-0.2≦α≦0.2を満たす数である。]
以上により、塗工性が良好となる吸油量と、これに適した粉末物性を併せて備えることになり高容量、且つ塗工性を良好にできる。
【0008】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質に係るリチウム遷移金属複合酸化物粉末は、前記リチウム遷移金属複合酸化物粉末の平均粒径が6~15μm、比表面積が0.1~0.6m/g、であることが好ましい。これにより、吸油量を好適範囲としつつ、正極の製造を更に容易とすることができる。
また、前記リチウム遷移金属複合酸化物粉末を0.01MPaで圧縮した時の粉末充填密度を1.65~2.20Mg/mとすることが好ましい。これにより、吸油量を好適範囲に制御し易くなる。
【0009】
本発明は、上記したリチウムイオン二次電池用正極活物質を含有する正極を備えるリチウムイオン二次電池である。
【0010】
また、上記したリチウムイオン二次電池用正極活物質は、前記組成式(1)中のLi、Ni、Co、M、Xの金属元素を含む化合物を混合する混合工程と、前記混合工程で得られた原料混合スラリーを造粒乾燥させて造粒体を得る造粒乾燥工程と、前記造粒体を焼成して組成式(1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粉末を得る焼成工程と、
前記リチウム遷移金属複合酸化物粉末を圧縮した時の粉末充填密度を用いた検査工程と、を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法にも関与する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高容量であり、塗工性に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質と、これを用いたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】正極活物質の製造方法の一例を示すフロー図である。
図2】実施例及び比較例に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質における吸油量と球形度との関係を示す図である。
図3】実施例及び比較例に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質における平均粒径と球形度、並びに比表面積と球形度との関係を示す図である。
図4】実施例及び比較例に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質における吸油量と粉末充填密度との関係を示す図である。
図5】実施例に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質における放電容量と吸油量との関係を示す図である。
図6】実施例3(球形度0.93)の走査電子顕微鏡によるSEM写真である。
図7】比較例2(球形度0.81)の走査電子顕微鏡によるSEM写真である。
図8】リチウムイオン二次電池の一例を模式的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、正極活物質と言う。)と、この正極活物質の吸油量制御方法及びリチウムイオン二次電池について説明する。なお、以下において共通する構成については同一の符号を付し、重複した説明を省略する。また、数値範囲を「~」で示すとき、以上、以下を意味している。
【0014】
<正極活物質>
本実施形態に係る正極活物質は、層状構造を呈するα-NaFeO型の結晶構造を有し、リチウムと遷移金属とを含んで組成されるリチウム遷移金属複合酸化物粉末(以下、単に粉末と言うことがある。)を含む。この正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物粉末の一次粒子を含み、一次粒子が複数個凝集して構成された二次粒子を主成分としている。また、リチウム遷移金属複合酸化物粉末は、リチウムイオンの挿入及び脱離が可能な層状構造を主相として有する。
【0015】
本実施形態に係る正極活物質は、主成分であるリチウム遷移金属複合酸化物粉末の他、原料や製造過程に由来する不可避的不純物を含みうる。また、リチウム遷移金属複合酸化物粉末の粒子を被覆する他成分、例えば、ホウ素成分、リン成分、硫黄成分、フッ素成分、有機物等や、リチウム遷移金属複合酸化物粉末の粒子と共に混合される他成分等を含んでもよい。
【0016】
本実施形態に係る正極活物質は、下記組成式(1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粉末を含む、
Li1+aNiCoe2+α ・・・(1)
[但し、組成式(1)において、Mは、Al及びMnから選ばれる少なくとも1種の元素であり、XはLi、Ni、Co、Al及びMn以外の少なくとも1種の元素であり、-0.1≦a≦0.1、0.8≦b<1.0、0≦c≦0.2、0≦d≦0.2、0≦e≦0.05、b+c+d+e=1、-0.2≦α≦0.2を満たす数である。]で表される。
【0017】
組成式(1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粉末は、リチウムを除いた金属当たりのニッケルの割合が80%以上である。すなわち、Ni、Co、M及びXの合計に対する原子数分率で、Niが、80at%以上含まれている。ニッケルの含有率が高いため、高い充放電容量を実現することができる高ニッケル系酸化物である。また、ニッケルの含有率が高いため、LiCoO等と比較して原料費が安価であり、原料コストを含めた生産性の観点からも優れている。
【0018】
一般的に、ニッケルの含有率が高いリチウム遷移金属複合酸化物粉末は、結晶構造が不安定になり易い性質を有している。結晶構造中において、充電時はNiは、MeO(Meは、Ni等の金属元素を表す。)で構成される層を形成しており、四価のNiが多く存在する。四価のNiは安定な二価のNiになりLiサイトを占有(この状態をカチオンミキシングという)しやすいため、結晶構造の表面付近からNiO様結晶構造に転移し、容量低下や抵抗上昇が起こる。
【0019】
ここで、前記式(1)におけるa、b、c、d、e及びαの数値範囲の意義について説明する。
前記式におけるaは、-0.1以上、且つ、0.1以下とする。aは、一般式:Liで表されるリチウム複合化合物の化学量論比、すなわちLi::O=1:1:2からのリチウムの過不足量を表している。リチウムが過度に少ないと、正極活物質の充放電容量が低くなる。一方、リチウムが過度に多いと、充放電サイクル特性が悪化する。aが前記の数値範囲であれば、高い充放電容量と、良好な充放電サイクル特性とを両立させることができる。
【0020】
aは、-0.02以上、且つ、0.05以下としてもよい。aが-0.02以上であれば、充放電に寄与するのに十分なリチウム量が確保されるため、正極活物質の充放電容量を高くすることができる。また、aが0.05以下であれば、遷移金属の価数変化による電荷補償が十分になされるので、高い充放電容量と、良好な充放電サイクル特性とを両立させることができる。
【0021】
ニッケルの係数bは、0.8以上、且つ、1.0未満とする。bが0.8以上であると、他の遷移金属を用いる場合と比較して、十分に高い充放電容量が得られる。よって、bが前記の数値範囲であれば、高い充放電容量を示す正極活物質を、LiCoO等と比較して安価に製造することができる。
【0022】
bは、0.8以上、且つ、0.95以下とすることが好ましく、0.85以上、且つ、0.95以下とすることがより好ましい。bが0.8以上で、より大きいほど、より高い充放電容量が得られる。また、bが0.95以下で、より小さいほど、リチウムイオンの挿入や脱離に伴う格子歪みないし結晶構造変化に伴う残留応力が小さくなり、焼成時、リチウムサイトにニッケルが混入するカチオンミキシングや結晶性の低下が生じ難くなる。そのため、充放電容量や充放電サイクル特性の悪化が抑制される。
【0023】
コバルトの係数cは、0以上、且つ、0.2以下とする。コバルトが添加されていると、結晶構造が安定化し、リチウムサイトにニッケルが混入するカチオンミキシングが抑制される等の効果が得られる。そのため、充放電容量を大きく損なわず、充放電サイクル特性を向上させることができる。一方、コバルトが過剰であると、原料費が高くなるので、正極活物質の製造コストが増大してしまう。cが前記の数値範囲であれば、良好な生産性をもって、高い充放電容量と、良好な充放電サイクル特性とを両立させることができる。
【0024】
cは、0.01以上、且つ、0.2以下としてもよいし、0.03以上、且つ、0.2以下としてもよい。cが0.01以上で大きいほど、コバルトの置換による効果が十分に得られ、充放電サイクル特性がより向上する。また、cが0.2以下であれば、原料費がより低廉となり、正極活物質の生産性がより良好になる。
【0025】
Mの係数dは、0以上、且つ、0.2以下とする。マンガン及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素(M)でニッケルが置換されていると、充電によってリチウムが脱離しても層状構造がより安定に保たれるようになる。一方、これらの元素(M)が過剰であると、ニッケル等の他の遷移金属の割合が低くなり、正極活物質の充放電容量が低下する。dが前記の数値範囲であれば、正極活物質の結晶構造を安定に保ち、高い充放電容量と共に、良好な充放電サイクル特性や、熱的安定性等を得ることができる。
【0026】
Mで表される元素としては、マンガン、アルミニウムが好ましい。このような元素は、高いニッケル含有量を有する正極材の結晶構造安定化に寄与する。中でもマンガンが特に好ましい。マンガンでニッケルが置換されていると、アルミニウムで置換される場合と比較して、より高い充放電容量が得られる。また、リチウム複合化合物の焼成時、マンガンも炭酸リチウムと下記式(2)に示すように反応する。このような反応により結晶粒の粗大化が抑制され、高温でニッケルの酸化反応を進めることができるため、高い充放電容量を示す正極活物質を効率的に得ることができる。
【0027】
2LiCO+4M´O+O→4LiM´O+2CO ・・・(2)
(但し、前記式(2)中、M´は、Ni、Co、Mn等の金属元素を表す。)
【0028】
dは、0.02以上であることが好ましく、0.04以上であることがより好ましい。dが大きいほど、マンガンの置換による効果が十分に得られる。すなわち、より高温でニッケルの酸化反応を進めることが可能になり、高い充放電容量を示す正極活物質をより効率的に得ることができる。また、dは0.18以下であることが好ましい。dが0.18以下であれば、置換されていても充放電容量が高く保たれる。
【0029】
Xの係数eは、0以上、且つ、0.05以下とする。Xは、Li、Ni、Co、Al及びMn以外の少なくとも1種の元素である。好ましくはMg、Ti、Zr、Mo、Nbから選択される少なくとも1種の元素である。金属元素(X)が置換されていると、正極活物質の活性を維持しながらも、充放電サイクル特性等の諸性能を向上させることができる。一方、これらの元素(X)が過剰であると、ニッケル等の他の遷移金属の割合が低くなり、正極活物質の充放電容量が低下する。eが前記の数値範囲であれば、高い充放電容量と、良好な充放電サイクル特性等とを両立させることができる。
【0030】
前記式(1)におけるαは、-0.2以上、且つ、0.2以下とする。αは、一般式:Liで表されるリチウム複合化合物の化学量論比、すなわちLi::O=1:1:2からの酸素の過不足量を表している。αが前記の数値範囲であれば、結晶構造の欠陥が少ない状態であり、高い充放電容量と良好な充放電サイクル特性が得られる。
【0031】
<正極活物質の製造方法>
以下、正極活物質の製造方法について説明する。
本実施形態の正極活物質の製造方法は、前記組成式(1)中のLi、Ni、Co、M、Xの金属元素を含む化合物を混合する混合工程S10と、前記混合工程で得られた原料混合スラリーをスプレードライヤーなどで造粒乾燥させて造粒体を得る造粒乾燥工程S20と、前記造粒体を焼成して組成式(1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粉末を得る焼成工程S30と、前記リチウム遷移金属複合酸化物粉末を圧縮した時の粉末充填密度を用いた検査工程S40と、を有する。前記リチウム遷移金属複合酸化物粉末は、一次粒子と一次粒子が複数個凝集して構成される二次粒子である。
【0032】
出発原料となるLiの化合物は、炭酸リチウム、水酸化リチウムなどが用いられる。また、Ni,Co,M,Xの金属元素を含む化合物は、炭酸塩、水酸化物、酸化物、炭化物などを用いることができる。前記金属元素を含む化合物は、元素毎に独立した化合物でもよいし、複数の元素が同時に含まれた化合物でもよく、例えば共沈法によって得られるNiCo(OH)などの水酸化物を用いてもよい。
【0033】
混合工程S10は、リチウムを含む化合物と、組成式(1)中のLi以外の金属元素を含む化合物を混合する、または、組成式(1)中のLi以外の金属元素を含む化合物だけを混合する。例えば、これらの原料をそれぞれ秤量し、粉砕及び混合することにより、原料が均一に混和した粉末状の混合物を得ることができる。原料を粉砕する粉砕機としては、例えば、メディアミル、アトライター、ボールミル、ジェットミル、ロッドミル、サンドミル等の一般的な精密粉砕機を用いることができる。各出発原料の化合物を均一に混合するには粉砕を伴う粉砕混合が好ましく、乾式粉砕の後、水等の溶媒を加えて原料と溶媒から構成されるスラリーとしてもよいし、予め原料に水等の溶媒を加えてスラリー化してから湿式粉砕してもよい。平均粒径0.3μm以下、好ましくは0.1μm以上0.3μm以下の均一で微細な粉末となして混合することが良く、平均粒径0.3μm以下の均一で微細な粉末を得る観点からは、水等の媒体を使用した湿式粉砕を行うことがより好ましい。特に湿式で粉砕混合する場合は、生産効率を向上させるために溶媒に対する出発原料化合物の固形分比を高くすることが有効である。この固形分比は10質量%から40質量%が好ましく、より好ましくは15質量%から30質量%である。固形分比を高くすると粉砕混合した際のスラリー粘度が上昇してしまい、スラリーの攪拌や搬送が困難となるなどの取り扱い上の難点が生じる。そのため、分散剤を添加して適正なスラリー粘度とすることが好ましい。スラリー粘度としては1000mPa・s以下が好ましく、より好ましくは800mPa・s以下、更に好ましくは600mPa・s以下である。前記好適範囲であれば安定に製造することができる。
【0034】
前記原料混合スラリーの乾燥にはスプレードライヤーなどの噴霧造粒機、エバポレーター、真空乾燥機などが使用できる。造粒乾燥工程S20は、スプレードライヤーを用いると造粒体の粒子サイズや形状を制御できる。スプレードライヤーとしては、2流体ノズル式、4流体ノズル式、ディスク式等の各種の方式を用いることができる。噴霧造粒法であれば、湿式粉砕によって精密混合粉砕したスラリーを、乾燥しながら造粒させることができる。また、スラリーの濃度、噴霧圧、ディスク回転数等の調整によって、二次粒子の粒径を所定範囲に精密に制御することが可能であり、真球に近く、化学組成が均一な造粒体を効率的に得ることができる。造粒乾燥工程S20では、混合工程S10で得られた混合物を平均粒径(D50)が3μm以上50μm以下となるように造粒することが好ましい。本実施形態において、より好ましい造粒体の二次粒子は平均粒径(D50)が5μm以上20μm以下である。原料粉末や造粒二次粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定器等によって測定できる。
【0035】
混合工程S10で組成式(1)中のLi以外の金属元素を含む化合物だけを混合した場合は、リチウムを含む化合物と、前記造粒乾燥工程S20で得られた造粒体を混合する。混合は乾式混合が好ましく、V型混合機、アトライター等の各種の方法を用いることができる。また、造粒体は混合前に予め熱処理を行ってもよい。
【0036】
焼成工程S30では、電気炉やガス炉が用いられる。造粒乾燥工程S20で造粒された造粒体を熱処理して組成式(1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を焼成する。焼成工程S30は、熱処理温度が一定の範囲に制御される一段の熱処理で行ってもよいし、熱処理温度が互いに異なる範囲に制御される複数段の熱処理で行ってもよい。高い放電容量や容量維持率を示すリチウム遷移金属複合酸化物を得る観点からは、450℃以上730℃以下で保持される仮焼成段階と、750℃以上900℃以下で保持される本焼成段階を含むことが好ましい。また、本焼成段階の後に、500℃以上、本焼成段階での熱処理温度未満の温度で保持を行ってもよい。焼成工程での好ましい焼成温度と保持時間は、組成式(1)で示す範囲内の組成に応じて調整し、焼成後のリチウム遷移金属複合酸化物粉末の諸物性(吸油量、粉末充填密度、球形度、比表面積、平均粒径等)が好適範囲となるよう焼成される。
【0037】
ここで、混合工程における生産効率の向上と安定製造を両立させるために、例えば前記固形分比を50質量%とすると、スラリー粘度を好適範囲とするための分散剤の添加量は増加し、次の造粒乾燥工程で非球形(異形状)の造粒粉が生成してしまう。設備としてスプレードライヤーを用いる場合は、中央が窪んだ楕円形状や中央が空洞化したリング形状の粒子が生成してしまう。このような異形状粒子は焼成後も残り、得られたリチウム遷移金属複合酸化物からなる粉末充填密度が低下してしまう。粉末充填密度の低下は粉末内の粒子間隙の増加を意味しており、前記リチウム遷移金属複合酸化物粉末を正極活物質として正極を作製する際には、所定量のバインダを添加しても粒子間隙にバインダが入り込み粒子同士の結着力が低下して塗工不良となってしまう。したがって、粒子間隙の少ない、すなわち粉末充填密度の高い粉末であれば良好な塗工性を実現できる。
【0038】
共沈法を用いて化学的に合成する場合は粉砕混合自体を省略しても構わない。また、共沈法を用いた場合は、造粒が不要であり、乾燥後にLiの化合物と混合して原料混合粉とすることができる。
【0039】
以上の混合工程においても非球形(異形状)の粒子を含むことは、焼成後のリチウム遷移金属複合酸化物粉末の粉末充填密度を低下させる原因となり、正極活物質として正極を作製する際には塗工不良を招いてしまう。よって、粉末充填密度を高く維持するためには、粒子形状は球形が好ましい。そこで、本実施形態では下記する吸油量と球形度を指標として用いた。
【0040】
[吸油量]
本実施形態に係る正極活物質は、前記リチウム遷移金属複合酸化物粉末の一次粒子と一次粒子が凝集した二次粒子の粉末であり、粉末100g当たりのNMP(N-メチル-2-ピロリドン)の吸油量は19mL以上30mL以下、即ち、19~30mL/100gとしている。好ましくは22~29mL/100g、より好ましくは23~26mL/100gである。なお、吸油量の測定に用いる溶媒は、後述する電極作製における合剤調整工程で用いる溶媒と同一とすることが好ましい。電極作製では溶媒として汎用性の高いNMP(N-メチル-2-ピロリドン)を用いて合剤調整しているため、本実施形態でもNMPの吸油量を評価している。ここで、吸油量が19mL/100g未満であると、電極製造時のバインダ量は少なくて済むものの、実際には粒子径が粗大過ぎたり、一次粒子同士の空隙や粒子の凹凸が極めて少ないことを意味しており、電解液と接する総表面積が少なく電極として機能する際に十分な放電容量が得られず好ましくない。また、吸油量が30mL/100gを超える場合は、適正な電極を合成するために必要なバインダが多くなり、結着力を得るために必要最小限のバインダ量が増加してしまう。バインダの添加量が増加すると電極に含まれる正極活物質の含有率が低下するので、エネルギー密度が低下して好ましくない。あるいは、所定のエネルギー密度を確保するためにバインダ量を固定して電極を作製する場合は、バインダが不足して結着力不足となり、加圧成形時にひび割れや電極剥離の原因となり好ましくない。つまり、吸油量を前記好適範囲とすることで、エネルギー密度の高い電極が得られる。
尚、吸油量の測定はJIS K5101-13-1に準拠した方法で測定する。詳しくは後述する。
【0041】
[球形度]
正極の製造においては正極活物質の含有率をできるだけ高くしてバインダ量を可能な限り低減できた方がエネルギー密度を高くする観点で好ましい。そのためには粒子間隙をできるだけ少なくする必要があり、粒子形状は球形またはそれに近い方が好ましい。そこで、粒子の形状を定量表現するため、本実施形態では、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)によるSEM写真から計測した二次粒子の短軸Aと長軸Bを計測し、A/Bを球形度として定義した。なお、短軸Aについては、二次粒子一粒の電子画像上に二次粒子よりも小さい円図形をペーストし、二次粒子画像をはみ出さないよう円図形を拡大していった最大円を内接円とし、その内接円の直径を短軸Aとして計測した。一方、長軸Bについては、二次粒子の外縁が内側で接する円のうち最小の円を外接円とし、その外接円の直径を長軸Bとして計測した。
【0042】
本実施形態に係る正極活物質は、吸油量と共に、球形度も適正範囲にするものである。上記した二次粒子の短軸Aと長軸Bの比A/Bで表される球形度を0.88≦A/B≦1.0とする。球形度が0.88未満であると粒子形状が異形状で粒子間隙が多くなり、粉末充填密度の好適範囲に及ばず好ましくない。高い粉末充填密度で少ない吸油量とするには、粒子形状は球形またはそれに近い方が好ましく、A/Bは0.88以上1.0以下とする。実際の製造上のばらつきを考慮すると好ましくは0.89~1.0であり、より好ましくは0.90~1.0である。
【0043】
尚、球形度の測定は、各試料のSEM画像から、(平均粒径×0.5)~(平均粒径×2.0)の範囲内の粒径を有する粒子20個を抽出し、前記内接円の直径を短軸A、前記外接円の直径を長軸Bとして測定し、20個のA/Bの平均値を試料の球形度とした。
【0044】
球形度は、二次粒子同士の粒子間隙の多少を反映した物理パラメータと言える。なぜなら同一の粒度分布であれば球形度が高いほど粒子間隙は小さくなり、結果として電極作製時に必要なバインダ量を最小限に抑えられる。本実施形態では、この球形度が粉末充填密度を左右する因子の一つであるため、適正な電極を得るための要件であることを見出した。即ち、図1に吸油量と球形度の関係を示すように、吸油量を19~30mL/100gとするには、球形度A/Bは0.88≦A/B≦1.0が好適であることを見出した。なお、図1は実施例を●で、比較例を○で示している。以下の図2図3図4図5も同様である。
【0045】
[粉末充填密度]
また、本実施形態に係る正極活物質は、図4に示すように粉末充填密度を指標として吸油量を上記規定範囲に制御できることが分かる。即ち、正極活物質の吸油量は粉末充填密度で制御できることを見出した。本実施形態に係る正極活物質は、粉末充填密度は、0.01MPaで圧縮した時に1.65~2.20Mg/mとするものである。好ましくは1.65~2.10Mg/mとし、より好ましくは1.70~2.10Mg/m、さらに好ましくは1.80~2.00Mg/m3とする。ここで粉末充填密度とは、正極活物質粉末のみを所定の空間に充填した際の密度を表す。本実施形態では、密度計測のばらつき誤差を抑えて再現良く測定できるよう、0.01MPa加圧した時の密度を粉末充填密度とした。粉末充填密度の測定方法は以下の通りであるが、ここで設定した圧力値0.01MPaは粒子を破壊せずに充填した状態を計測するのに好適である。
【0046】
粉末充填密度が1.65Mg/m未満であると粒子間隙が多く、電極作成時に結着に必要なバインダ量が多くなることを意味し、結着力を得るために必要最低限のバインダ量が増加してしまう。バインダの添加量が増加すると電極に含まれる正極活物質の含有率が低下するので、正極のエネルギー密度が低下してしまい好ましくない。あるいは、所定のエネルギー密度を確保するためにバインダ量を固定して電極を作製する場合は、バインダが不足して結着力不足となり加圧成形時にひび割れや電極剥離の原因となり好ましくない。粉末充填密度が2.20Mg/mを超えると粒子間隙は少なく電極作製時に必要なバインダは少なくて済むが、実際には粒子径が粗大過ぎたり、一次粒子同士の空隙や粒子の凹凸が極めて少ないことを意味しており、電解液と接する総表面積が少なく電解液と正極活物質との接触面積も小さくなり十分な放電容量が得られず好ましくない。
【0047】
粉末充填密度の測定方法を以下に述べるが、手法はこれに限定されるものではない。
先ず、正極活物質の粉末1.0gを測り取り、7mm×7mm角のキャビティに充填する。これをオートグラフ装置にセットして1mm/minの速度で加圧しながらストローク長と試験力を計測し、試験力0.01MPaの時のストローク長から粉末充填密度を算出する。
【0048】
本実施形態は正極活物質の吸油量制御にも係わっている。粉末充填密度は粒子間隙の多少を反映した物理パラメータであり、バインダ量の適量を表す吸油量と相関関係にある。本発明は、リチウム遷移金属複合粉末を0.01MPaで圧縮した時の粉末充填密度を1.65~2.20Mg/mとすることで、JIS K5101-13-1に基づく、前記リチウム遷移金属複合酸化物粉末100g当たりのNMP(N-メチル-2-ピロリドン)の吸油量を19~30mL/100gにできる制御方法であるとも言える。
【0049】
この点について以下に説明する。電極を作製する際に投ずるバインダは、正極活物質同士、あるいは正極活物質と集電箔とを結着させることを目的としている。正極活物質は一般に複数の一次粒子が集合した二次粒子で構成されており、1粒の二次粒子において細孔や空隙を含む。この細孔や空隙にバインダが吸収されてしまうため、細孔や空隙が無いモデルによる粒度分布を元に予想されるバインダ必要量よりも実際には結着に必要なバインダ添加量が増えてしまう。実用的には電極の密度を高く、そして体積当たりのエネルギー密度を高くすることが好ましい。そこで電極内での正極活物質の含有率をできるだけ高く、かつバインダ添加量はできるだけ少なく、極小とすることが好ましい。そのためには、二次粒子1粒当たりの細孔や空隙はある程度少なく抑えた方が良い。同じく、二次粒子同士の粒子間隙を小さくすることもバインダ添加量を極小にするために重要である。粒子の形状が歪(イビツ)であると二次粒子間の空隙が増えてしまい、電極作製に必要なバインダ添加量が増えるので好ましくない。ここで、正極活物質が必要とするバインダ添加量を事前に見積もることは電極製造上の生産管理において非常に重要であり、吸油量が指標として相応しい。本実施形態は、更に簡便に計測できる粉末充填密度が、(i)二次粒子における細孔や空隙、(ii)二次粒子同士の粒子間隙、これらの両方を反映した指標であることに想到し、上述の吸油量と相関があることを見出したものである。このようなことから、本実施形態の正極活物質の製造方法では、リチウム遷移金属複合酸化物粉末を圧縮した時の粉末充填密度を用いた検査工程S40を有している。
【0050】
一般的に電極を作製する場合は、実用性のある電極密度やエネルギー密度を設定し、正極活物質と導電材、およびバインダの配合比が設計される。そのため正極活物質の粉末の性状に合わせてバインダ添加量を設計値から増やすことは好ましくなく、所定のバインダ添加量でも結着力を発現できる性状を有する正極活物質が好まれる。吸油量自体はバインダの必要量を推し量る指標であったが、適した吸油量とするための正極活物質の設計指針を得ることができなかった。本発明では吸油量と粉物性(粉末充填密度、球形度、比表面積、平均粒径等)との相関を見出し、適正な電極を得るための正極活物質粉末を設計する指針を提供することができる。
【0051】
[二次粒子の平均粒径]
前記正極活物質の二次粒子の平均粒径は6~15μmが好ましい。より好ましくは7~14μmである。平均粒径はレーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置で測定できる。平均粒径が6μm以上であれば粒子間隔が適切に保て電極密度の向上が図られる。平均粒径が15μm以下であれば電極厚み方向に粉末を積層でき高充填が可能となる。よって、前記好適範囲であれば、合剤調整時に所定のバインダ添加量でも結着力を維持することができる。また電極厚み方向に複数の粒子を積層することができ、良好な電極を製造できる。図3は平均粒径(D50)と球形度の関係を表す。
【0052】
[二次粒子の比表面積]
前記正極活物質の二次粒子の比表面積は0.1~0.6m/gが好ましい。より好ましくは0.1~0.4m/gである。比表面積は窒素ガス吸着を用いたBET法で測定される。比表面積が0.1m/g以上であれば電池として作動する際に正極活物質と電解液との接触面積を確保できて十分な容量が得られる。比表面積が0.6m/g以下であれば二次粒子内の空隙を抑えて、粉末充填密度の向上や吸油量の低減を図り、電極剥離を抑制することができる。よって、比表面積が前記好適範囲であれば、正極活物質と電解液との接触面積が確保できる。また、比表面積が0.6m/g以下であることは二次粒子自身の空隙が少ないことを意味しており、電極作製時は良好に塗工することができる。図3に比表面積と球形度の関係も示す。
【0053】
電極の高エネルギー密度を得るために正極活物質の含有率を高く(例えば95質量%以上)して良好な電極を製造するためには、電極剥離を回避することが必須である。そのため、組成式(1)で表される正極活物質については、吸油量が19~30mL/100gであることが好適である。この好適範囲に吸油量を制御するためには、正極活物質の粉末物性の指標としては、正極活物質の形状について球形度A/Bを0.88≦A/B≦1.0とすることで達成される。また、リチウム遷移金属複合粉末を0.01MPaで圧縮した時の粉末充填密度を1.65~2.20Mg/mとすることで達成される。そして、この条件を満足する正極活物質は検査工程において抽出される。
【0054】
<リチウムイオン二次電池>
次に、前記のリチウムイオン二次電池用正極活物質を正極に用いたリチウムイオン二次電池について説明する。
【0055】
図8は、リチウムイオン二次電池の一例を模式的に示す部分断面図である。
図8に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、非水電解液を収容する有底円筒状の電池缶101と、電池缶101の内部に収容された捲回電極群110と、電池缶101の上部の開口を封止する円板状の電池蓋102と、を備えている。
【0056】
電池缶101及び電池蓋102は、例えば、ステンレス、アルミニウム等の金属材料によって形成される。正極111は、正極集電体111aと、正極集電体111aの表面に形成された正極合剤層111bと、を備えている。また、負極112は、負極集電体112aと、負極集電体112aの表面に形成された負極合剤層112bと、を備えている。
【0057】
正極集電体111aは、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル等によって形成される。金属箔は、例えば、15μm以上、且つ、25μm以下程度の厚さにすることができる。正極合剤層111bは、前記のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含んでなる。正極合剤層111bは、例えば、正極活物質と、導電材、結着剤等とを混合した正極合剤によって形成される。
【0058】
負極集電体112aは、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金等の金属箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル等によって形成される。金属箔は、例えば、7μm以上、且つ、10μm以下程度の厚さにすることができる。負極合剤層112bは、リチウムイオン二次電池用負極活物質を含んでなる。負極合剤層112bは、例えば、負極活物質と、導電材、結着剤等とを混合した負極合剤によって形成される。
【0059】
負極活物質としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる適宜の種類を用いることができる。
導電材としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる適宜の種類を用いることができる。導電材の量は、例えば、合剤全体に対して、3質量%以上、且つ、10質量%以下とすることができる。
結着剤としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる適宜の種類を用いることができる。結着剤の量は、例えば、合剤全体に対して、2質量%以上、且つ、10質量%以下とすることができる。
【0060】
正極111は、例えば、一般的なリチウムイオン二次電池用電極の製造方法に準じて製造することができる。例えば、活物質と、導電材、バインダ等とを溶媒中で混合して電極合剤を調製する合剤調製工程と、調製された電極合剤を集電体等の基材上に塗布した後、乾燥させて電極合剤層を形成する合剤塗工工程と、電極合剤層を加圧成形する成形工程と、を経て製造することができる。
【0061】
合剤調製工程では、材料を混合する混合手段として、例えば、プラネタリーミキサ、ディスパーミキサ、自転・公転ミキサ等の適宜の混合装置を用いることができる。溶媒としては、結着剤の種類に応じて、例えば、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)、水、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等を用いることができる。
【0062】
良好な塗工性を得るためにはリチウム遷移金属複合酸化物粉末からなる正極活物質そのものの吸油量を適正範囲とすることが必要である。この吸油量を評価する際は、前記合剤調整工程において用いる溶媒と同一の溶媒を用いることが好ましい。前記溶媒の中でNMPは非常に高い溶解性と高沸点かつ低凝固点であるため汎用性が高く好ましい。
【0063】
電極の密度を高くして体積エネルギー密度を高くするためには、合剤調整工程において、可能な限りバインダ比率を下げ、かつ正極活物質比率を上げることが好ましい。例えば、正極活物質:導電材:バインダの質量比率を通常は92:4:4とすれば混合手段を乳鉢などの人的混錬としても合剤調整可能であるが、活物質の比率が92質量%と小さいため、実用的な電池に用いる正極電極としては更にバインダ比率を下げる必要がある。実用性を考慮すると活物質比率は96質量%以上が好ましく、例えば正極活物質:導電材:バインダ=96:2:2として混合する。この場合はバインダを均一に分散させることが重要であるため、混合手段として乳鉢等の人的混錬は適さず、前記プラネタリーミキサ、ディスパーミキサ、自転・公転ミキサ等の混合装置を用いて合剤スラリーを作製する。適正な塗工をするため合剤スラリーの粘度は所定の範囲とする必要があり、溶媒としてNMPを少しずつ添加しながら混合して合剤スラリーの粘度を調整する。上述してきたように限られたバインダ添加量で適正な電極を作製するには、粉末自体の細孔や空隙が少なく、粒子間隙も極小であることが要求される。そのためには適正な吸油量を有する活物質の粉末を提供する必要があり、粉末充填密度が好適範囲となるよう球形度の高い正極活物質を製造することが有効である。
【0064】
合剤スラリー塗工工程では、調製された合剤スラリーを塗布する手段として、例えば、バーコーター、ドクターブレード、ロール転写機等の適宜の塗布装置を用いることができる。塗布された合剤スラリーを乾燥する手段としては、例えば、熱風加熱装置、輻射加熱装置等の適宜の乾燥装置を用いることができる。
この合剤スラリー塗工工程において、前記バインダが不足、あるいは均一分散が不十分な場合は、局所的にバインダが存在しない領域が発生し、正極活物質が凝集して塗布時に筋引きの原因となる場合がある。
【0065】
成形工程では、電極合剤層を加圧成形する手段として、例えば、ロールプレス等の適宜の加圧装置を用いることができる。正極合剤層111bについては、例えば、50μm以上、且つ、300μm以下程度の厚さにすることができる。また、負極合剤層112bについては、例えば、20μm以上、且つ、150μm以下程度の厚さにすることができる。加圧成形した電極合剤層は、必要に応じて正極集電体と共に裁断して、所望の形状のリチウムイオン二次電池用電極とすることができる。
【0066】
吸油量が好適範囲を超える正極活物質を適用した場合は、バインダ不足となり、正極活物質同士、あるいは正極活物質と集電箔との結着が不十分となる。この状態で成形すると、加重によって正極活物質同士が容易に離れてしまいヒビ割れが発生したり、集電箔と正極活物質との結着が剥がれて剥離してしまう。適正な電極を得るためには、吸油量を好適範囲とする正極活物質を用いて、所定のバインダ添加量でも分散を十分に行ない正極活物質同士、あるいは正極活物質と集電箔との結着力を維持して成形することが重要である。バインダが不足しなければ成形工程で良好に電極密度を向上させることができる。
【0067】
図8に示すように、捲回電極群110は、帯状の正極111と負極112とをセパレータ113を挟んで捲回することにより形成される。捲回電極群110は、例えば、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド等で形成された軸心に捲回されて、電池缶101の内部に収容される。
【0068】
リチウムイオン二次電池100は、例えば、携帯電子機器、家庭用電気機器等の小型電源や、電力貯蔵装置、無停電電源装置、電力平準化装置等の定置用電源や、船舶、鉄道車両、ハイブリッド鉄道車両、ハイブリット自動車、電気自動車等の駆動電源等、各種の用途に使用することができる。
【実施例
【0069】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]
(1)正極活物質の製造
原料として、炭酸リチウム、水酸化ニッケル、炭酸コバルト、炭酸マンガン、酸化チタンを用意し、各原料を金属元素のモル比でLi:Ni:Co:Mn:Tiが、1.03:0.90:0.03:0.05:0.02となるように秤量し、固形分比が30質量%となるように純水を加えた。そして、粉砕機で湿式粉砕(湿式混合)して平均粒径が0.2μm未満となるよう原料スラリーを調製した。原料スラリー粘度が増粘するのを抑制するため、固形分比30質量%になるように1.2質量%の分散剤を添加した。
続いて、得られた原料スラリーをノズル式のスプレードライヤー(大川原化工機社製、ODL-20型)で噴霧乾燥させて平均粒径が13μmの造粒体を得た。噴霧圧は0.13MPa、噴霧量は260g/minである。
【0071】
乾燥させた造粒体を熱処理してリチウム遷移金属複合酸化物を得た。具体的には、造粒体を、連続搬送炉で、大気雰囲気下、400℃で5時間にわたって熱処理して第1前駆体を得た。
その後、第1前駆体を、酸素ガス雰囲気に置換した焼成炉で、酸素気流中、700℃で20時間にわたって熱処理(仮焼成)して第2前駆体を得た。
その後、第2前駆体を、酸素ガス雰囲気に置換した焼成炉で、酸素気流中、840℃で10時間にわたって熱処理(本焼成)した。その後、5℃/分で740℃まで降温して740℃で4時間保持し、740℃から700℃の降温速度を5℃/分となるように調整し、800℃から700℃の温度帯での保持時間を4.3時間(アニール処理)となるようにした。以上によりリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
なお、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の平均組成は、高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma;ICP)、原子吸光分析(Atomic Absorption Spectrometry;AAS)等によって確認することができる。
【0072】
以上によって得られたリチウム遷移金属複合酸化物を、目開き45μmの篩を用いて分級した。製造条件を表1に示す。
【0073】
(2)吸油量と粉末物性
リチウム遷移金属複合酸化物の粉末を試料とし、この粉末試料について吸油量と粉末物性を評価した。
【0074】
(吸油量)
粉末試料の吸油量はJIS K5101-13-1に準拠して測定し、溶媒はNMP(N-メチルピロリドン)を用いた。粉末試料5.0gを測りとり、平らなバットに山状に設置する。NMPはポリスポイト(2mL容量)で吸い上げ、質量を測定しておく。次に粉末試料にNMPを滴下しながらスパチュラで混錬し、粉末試料が全体的に粘土状となるまで滴下・混錬を続ける。NMPが過剰となると粉末試料に液滴が吸収されず表面に残る様子を視認でき、この時までに滴下したNMP量を粉末試料100g当たりに換算して吸油量とした。測定結果を表2に示す。
【0075】
(粉末充填密度)
焼成粉の粉末充填密度は、オートグラフを用いて測定した。まず7mm×7mm角のキャビティに焼成粉1.0gを投入し、オートグラフ装置にセットして1mm/minの速度で試験力0から500N超まで荷重を印加した。キャビティの断面積から算出した焼成粉にかかる圧力は、0.002MPaから10MPa超であった。荷重印加時のストローク長を0.1秒毎に計測し、各圧力に対する粉末充填密度を算出した。そして0.01MPaにおける粉末充填密度を読み取り、焼成粉の粉末充填密度とした。測定結果を表2に示す。
【0076】
(球形度)
焼成粉を走査電子顕微鏡(SEM)にて1000倍で写真撮影し、このSEM写真から平均粒径D50を基準に粒径がD50×0.5~D50×2.0の範囲内にある粒子20個を抽出して、短軸Aと長軸Bをそれぞれ計測した。なお、短軸Aは粒子画像に内接する円の直径、長軸Bは粒子画像に外接する円の直径とした。20粒子のA/Bを平均化して試料の球形度とした。測定結果を表2に示す。
【0077】
(平均粒径、比表面積)
正極活物質の焼成粉の二次粒子の平均粒径(D50)は、レーザー回折式粒度分布測定器によって測定した。比表面積は、自動比表面積測定装置を用いてガス吸着を利用したBET法により測定した。測定結果を表2に示す。
【0078】
(3)電極の製造
合成した正極活物質を用いてリチウムイオン二次電池用の正極(電極)を作製した。
得られた正極活物質と、炭素系の導電材と、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)に予め溶解させた結着剤とを質量比で96:2:2となるように混合した。
そして、所定の粘度となるようNMPを添加しながら混合して得た合剤スラリーを、厚さ15μmのアルミニウム箔の正極集電箔の両面に、塗布量が46mg/cmとなるように塗布した。
次いで、正極集電体に塗布された合剤スラリーを120℃で熱処理し、溶媒を留去することによって正極合剤層を形成した。その後、正極合剤層を熱プレスで加圧成形を5回繰り返し、25mm×41mmに打ち抜いて正極とした。
【0079】
(4)電極の塗工性の評価方法
成形後の電極密度が3.8Mg/m以上となるまで加圧した後の電極状態を目視し、ひび割れや剥離、破れなどの不具合が無い場合は「良好」、電極密度が3.8Mg/mに到達しない、あるいは前記不具合がある場合は「不可」とした。測定結果を表2に示す。
【0080】
[実施例2]
Al原料として酸化アルミニウム粉末を用い、各原料を金属元素のモル比でLi:Ni:Co:Mn:Al:Tiが、1.03:0.88:0.03:0.05:0.01:0.03となるように秤量した以外は実施例1と同様に第1前駆体を得て、第2前駆体の熱処理(本焼成)温度を820℃とした以外は実施例1と同様に正極活物質を合成し、同様に評価した。
【0081】
[実施例3]
Li原料として水酸化リチウムを用いた以外は実施例2と同様に各原料を秤量した。次に水酸化リチウムを除く原料のみを固形分比18質量%となるよう湿式粉砕し、実施例2と同様にスプレードライヤーで造粒体を得た。なお、湿式粉砕時の固形分比は少ないため増粘対策の分散剤は添加しなかった。この造粒体を600℃で脱水熱処理し水酸化物から酸化物として第1前駆体とした。得られた第1前駆体に、初期に設定した金属元素のモル比に相当する水酸化リチウムを所定量投入し、V型混合機で乾式混合して原料混合粉を得た。
この原料混合粉を酸素ガス雰囲気に置換した焼成炉で、酸素気流中、500℃で10時間にわたって熱処理(仮焼成)して第2前駆体とし、実施例2と同様に本焼成を行なって正極活物質を合成した。また、同様に評価した。
【0082】
[実施例4]
湿式粉砕時の固形分比を40質量%(分散剤2.0質量%)とした以外は実施例2と同様にして第2前駆体を得て、実施例1と同様に熱処理温度を840℃として正極活物質を合成した。また、同様に評価した。
【0083】
[実施例5]
各原料を金属元素のモル比でLi:Ni:Co:Mn:Al:Tiが、1.03:0.90:0.03:0.01:0.03:0.03となるように秤量したこと、および、熱処理条件を800℃に変更した以外は実施例3と同様に正極活物質を合成した。また、同様に評価した。
【0084】
[実施例6~実施例11および比較例5]
各原料を金属元素のモル比でLi:Ni:Co:Al:Tiが、1.03:0.92:0.03:0.02:0.03となるように秤量したこと、および、熱処理条件を780℃に変更した以外は実施例3と同様に正極活物質を合成した。但し、仮焼成段階やアニール処理の条件を適宜変更した。なお、評価は同様に行った。
【0085】
[比較例1]
湿式粉砕時の固形分比を50質量%とした以外は実施例1と同様の手法で正極活物質を合成した。また、同様に評価した。
【0086】
[比較例2]
湿式粉砕時の固形分比を50質量%とした以外は実施例2と同様にして正極活物質を合成した。また、同様に評価した。
【0087】
[比較例3]
本焼成温度を800℃とした以外は実施例2と同様にして正極活物質を合成した。また、同様に評価した。
【0088】
[比較例4]
湿式粉砕時の固形分比を50質量%とし、本焼成温度を810℃とした以外は実施例2と同様にして正極活物質を合成した。また、同様に評価した。
【0089】
各実施例、および比較例で合成した正極活物質の組成、スラリー固形分比、分散剤添加量、本焼成温度、および粉物性(平均粒径、比表面積、球形度、0.01MPa時の粉末充填密度、吸油量)、および電極の塗工性を表1および表2に示す。
【0090】
Ni比など組成が同じである実施例6~実施例11及び比較例5については、合成した正極活物質を正極の材料として用いてリチウムイオン二次電池を作製し、リチウムイオン二次電池の放電容量を求めた。この例では、作製した正極活物質と、炭素系の導電材と、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に予め溶解させた結着剤とを質量比で92.5:5:2.5となるように混合した。そして、均一に混合した正極合剤スラリーを、厚さ20μmのアルミニウム箔の正極集電体上に、塗布量が10mg/cmとなるように塗布した。次いで、正極集電体に塗布された正極合剤スラリーを120℃で熱処理し、溶媒を留去することによって正極合剤層を形成した。その後、正極合剤層を熱プレスで加圧成形し、直径15mmの円形状に打ち抜いて正極とした。
【0091】
続いて、作製した正極と負極とセパレータを用いて、リチウムイオン二次電池を作製した。負極としては、直径16mmの円形状に打ち抜いた金属リチウムを用いた。セパレータとしては、厚さ30μmのポリプロピレン製の多孔質セパレータを用いた。正極と負極とをセパレータを介して非水電解液中で対向させて、リチウムイオン二次電池を組み付けた。非水電解液としては、体積比が3:7となるようにエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを混合した溶媒に、1.0mol/LとなるようにLiPFを溶解させた溶液を用いた。
【0092】
作製したリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下で、正極合剤の質量基準で40A/kg、上限電位4.3Vの定電流/定電圧で充電した。そして、正極合剤の質量基準で40A/kgの定電流で下限電位2.5Vまで放電し、放電容量(初期容量)を測定した。その結果を表2に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
実施例1に対して比較例1では、原料混合時の固形分比を上げた影響で分散剤の添加量が増えた上にスプレードライ造粒乾燥時の液滴1粒当たりに含まれる分散剤量が増加した。このため、二次粒子の球形度が0.90から0.82まで低下しており、粉末充填密度も1.67Mg/mから1.60Mg/mに低下している。その結果、吸油量は29mL/100gから31mL/100gに増加して、電極の塗工性は不可となっている。
【0096】
実施例2に対して比較例3は焼成温度が低くなった。そのため、比表面積が大きく平均粒径は小さいため、球形度は0.90と高いものの、粉末充填密度が1.56Mg/mと小さくなっている。これは低温焼成により二次粒子内に空隙が残っており、球形度が高くても粉末充填密度が向上せず、吸油量が33mL/100gまで増大したと判断できる。結果、塗工性は不可となっている。
【0097】
図5は放電容量と吸油量との関係を示しており、吸油量と放電容量に相関があることが分かる。実施例6~実施例11では吸油量が19~26mL/100gであるのに対し、比較例5の吸油量は18mL/100gに減少している。その結果、放電容量が184Ah/kg~211Ah/kgあったものから181Ah/kgに低下している。また、実施例9~実施例11は吸油量が23~26mLである。その結果、放電容量が202Ah/kg~211Ah/kgとより高容量を得られた。
【0098】
その他の実施例、比較例の結果も考慮すると、吸油量を19~30mL/100gとすれば高容量、且つ塗工性は良好となり、この吸油量の好適範囲は0.01MPa時の粉末充填密度が1.65~2.20Mg/mの場合に達成される。
そして、粉末充填密度を好適範囲とするには比表面積は0.1~0.6m/gで、平均粒径が6~15μmの場合が好ましいことが分かる。



【要約】
吸油量と、これに適した粉末物性を併せて備えることにより、高容量、且つ塗工性に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供する。
一次粒子と一次粒子が凝集した二次粒子を有する、下記式(1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粉末からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
JIS K5101-13-1に基づく、前記リチウム遷移金属複合酸化物粉末100g当たりのNMP(N-メチル-2-ピロリドン)の吸油量が19~30mL/100gであり、SEM画像から計測した前記二次粒子の短軸Aと長軸Bの比A/Bで表される球形度が0.88≦A/B≦1.0であるリチウムイオン二次電池用正極活物質。
Li1+aNiCoe2+α・・・(1)[但し、組成式(1)において、Mは、Al及びMnから選ばれる少なくとも1種の元素であり、XはLi、Ni、Co、Al及びMn以外の少なくとも1種の元素であり、-0.1≦a≦0.1、0.8≦b<1.0、0≦c≦0.2、0≦d≦0.2、0≦e≦0.05、b+c+d+e=1、-0.2≦α≦0.2を満たす数である。]

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8