(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】光電変換素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0749 20120101AFI20220510BHJP
H01L 31/18 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
H01L31/06 460
H01L31/04 420
(21)【出願番号】P 2017207415
(22)【出願日】2017-10-26
【審査請求日】2020-10-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発/先端複合技術型シリコン太陽電池、高性能CIS太陽電池の技術開発/CIS太陽電池モジュール高性能化技術の研究開発」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ 志力
(72)【発明者】
【氏名】杉本 広紀
(72)【発明者】
【氏名】ベルムデスベニート ヴェロニカ
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-524145(JP,A)
【文献】特開平04-326525(JP,A)
【文献】特開2015-220457(JP,A)
【文献】特開平10-135498(JP,A)
【文献】特開2009-135299(JP,A)
【文献】特開2014-067903(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104051569(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02-31/078
H01L 31/18-31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくとも、I族元素およびIII族元素を含むプリカーサ層を形成する工程と、
セレンを有するセレン源ガスの雰囲気中において前記プリカーサ層をセレン化し、少なくとも、
前記I族元素、
前記III族元素、及び、
前記セレンを含む光電変換層を形成する工程と、
硫黄を有する硫黄源ガス及び
前記セレン源ガスを含む混合ガスの雰囲気中において前記光電変換層の硫化を行う工程と、
を備え、
前記
混合ガスの雰囲気中において、前記セレン源ガスのモル数は、前記硫黄源ガスのモル数よりも少な
く、
前記混合ガスの雰囲気全体に対する前記セレン源ガスのモル比は、1.5%以下である、
光電変換素子の製造方法。
【請求項2】
前記
混合ガスの雰囲気全体に対する前記セレン源ガスのモル比は、0.3%以上、1.0%以下である、請求項
1に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項3】
前記
混合ガスの雰囲気中の前記硫黄源ガスに対する前記セレン源ガスのモル比は、5%以下である、請求項1に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項4】
前記
混合ガスの雰囲気中の前記硫黄源ガスに対する前記セレン源ガスのモル比は、1.0%以上、3.3%以下である、請求項
3に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
前記硫黄源ガスは、硫化水素である、請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
前記セレン源ガスは、セレン化水素である、請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項7】
前記セレン化は、セレン源ガスを含む加熱炉内で行われ、
前記セレン化で使用された前記セレン源ガスが前記加熱炉内から排出された後、前記硫化は、前記混合ガスを含む前記加熱炉内で行われる、
請求項
1乃至6のいずれか1項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項8】
前記硫化中において、前記加熱炉内の温度は、500℃以上である、請求項
7に記載の光電変換素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子は、例えば、太陽電池など、光エネルギーを電気エネルギーに変換する素子のことである。そのなかで、光電変換層として、I族元素、III族元素、及び、VI族元素を含む化合物半導体を使用する光電変換素子は、薄膜化及び低コスト化が可能であることから、次世代光電変換素子として有望である。
【0003】
例えば、光電変換層として、CuInSe2を使用する光電変換素子は、CIS系光電変換素子と呼ばれる。また、CIS系光電変換素子のうち、III族元素として、InとGaを使用する光電変換素子は、CIGS系光電変換素子と呼ばれる。
【0004】
CIS系光電変換素子又はCIGS系光電変換素子のうち、VI族元素として、SeとSを使用する光電変換素子は、光電変換効率などの特性の向上が期待できることから、特に注目される。ここでは、混晶を構成する複数の同族元素A, Bを(A, B)と記載し、I族元素と、III族元素と、VI族元素としてSe及びSと、を含む混晶化合物を、I-III-(Se, S)2と記載する。I-III-(Se, S)2の代表例としては、Cu(Inx, Ga1-x)(Sey, S1-y)2がある。但し、0≦x≦1、0<y<1である。以下、同じ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
I-III-(Se, S)2は、例えば、SAS法(Sulfurization after Selenization)により形成可能である。SAS法では、I族元素及びIII族元素を含むプリカーサ層(前駆体層)のセレン化によりI-III-Se2を形成した後、硫化によりVI族元素のSeをSに置換し、少なくとも光電変換層の表面部にI-III-S2又はI-III-(Se, S)2を形成する。尚、光電変換層の表面部とは、硫黄源ガスに晒される基板側とは反対側の表面部のことである。
【0007】
光電変換素子においては、光電変換効率などの特性の向上の観点から、光電変換層の表面部は、硫化後にI-III-S2又はI-III-(Se, S)2となり、I-III-Se2を含まないのが理想である。しかし、実際は、硫化後においても、I-III-Se2からなる結晶がI-III-(Se, S)2又はI-III-S2からなる結晶と分離されて光電変換層の表面部に残存することが多い。この場合、光電変換素子の特性、例えば、光電変換効率は、光電変換層の表面部がI-III-Se2を含まない理想構造に比べて、悪くなる。
【0008】
本発明の実施形態は、I族元素、III族元素、及び、セレンを含む光電変換層の表面部において、硫化により有効にセレンを硫黄に置換可能な製造方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態に係わる光電変換素子の製造方法は、基板上に、少なくとも、I族元素およびIII族元素を含むプリカーサ層を形成する工程と、セレンを有するセレン源ガスの雰囲気中において前記プリカーサ層をセレン化し、少なくとも、前記I族元素、前記III族元素、及び、前記セレンを含む光電変換層を形成する工程と、硫黄を有する硫黄源ガス及び前記セレン源ガスを含む混合ガスの雰囲気中において前記光電変換層の硫化を行う工程と、を備え、前記混合ガスの雰囲気中において、前記セレン源ガスのモル数は、前記硫黄源ガスのモル数よりも少なく、前記混合ガスの雰囲気全体に対する前記セレン源ガスのモル比は、1.5%以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、I族元素、III族元素、及び、セレンを含む光電変換層の表面部において、硫化により有効にセレンを硫黄に置換可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】光電変換素子の製造方法の一工程を示す断面図。
【
図4】光電変換素子の製造方法の一工程を示す断面図。
【
図5】光電変換素子の製造方法の一工程を示す断面図。
【
図6】光電変換素子の製造方法の一工程を示す断面図。
【
図7】セレン源ガスのモル比と光電変換効率との関係を示す図。
【
図8】セレン源ガスのモル比と光電変換効率との関係を示す図。
【
図9】光電変換層の表面部のXRDパターンを示す図。
【
図10】適用例としての太陽電池サブモジュールの例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら実施形態を説明する。
実施形態では、その説明を分かり易くするため、本発明の主要部以外の構造又は要素については、簡略化又は省略して説明する。また、図面において、同じ要素には、同じ符号を付すことにする。尚、図面において、各層の厚さ、形状などは、模式的に示したもので、実際の厚さや形状などを示すものではない。
【0013】
<光電変換素子の構造>
図1は、光電変換素子の例を示す。
光電変換素子10は、例えば、サブストレート構造を有し、太陽光などの光20は、基板11側とは反対側から光電変換素子10に入射される。
【0014】
基板11は、ガラス基板、樹脂基板、金属基板などから選択可能である。基板11は、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属を含んでもよい。基板11の形状は、例えば、四角形であるが、これに限られることはない。また、基板11は、固い基板を想定しているが、これに代えて、柔軟性のあるフレキシブル基板を用いてもよい。フレキシブル基板は、例えば、ステンレス箔、チタン箔、モリブデン箔、セラミックシート、又は、樹脂シートを含む。
【0015】
第1の電極層12は、基板11上に配置される。第1の電極層12は、例えば、金属電極層である。第1の電極層12は、後述する製造方法において、光電変換層12との反応が発生し難い材料を備えるのが望ましい。第1の電極層12は、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、クロム(Cr)などから選択可能である。第1の電極層12は、後述する第2の電極層15内に含まれる材料と同じ材料を含んでもよい。第1の電極層12の厚さは、200nm~500nmに設定される。
【0016】
光電変換層13は、第1の電極層12上に配置される。光電変換層13は、多結晶又は微結晶のp型化合物半導体層として機能する。光電変換層13は、I族元素と、III族元素と、VI族元素(カルコゲン元素)としてセレン(Se)及び硫黄(S)と、を含むカルコパイライト構造の混晶化合物(I-III-(Se, S)2)を備える。I族元素は、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などから選択可能である。III族元素は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)などから選択可能である。また、光電変換層13は、VI族元素として、セレン及び硫黄の他に、テルル(Te)などを含んでもよい。光電変換層13の厚さは、1.0μm~3.0μmに設定される。
【0017】
光電変換層13は、光電変換効率などの特性の向上の観点から、例えば、
図2に示すように、内部13-1と、表面部13-2と、を備えるのが望ましい。表面部13-2とは、基板11側とは反対側の光電変換層13の表面及びその近傍を含む部分である。内部13-1とは、表面部13-2以外の部分である。
【0018】
本例では、光電変換層13の表面部13-2は、I-III-S2又はI-III-(Se, S)2を備え、光電変換層13の内部13-1は、I-III-Se2を備える。即ち、光電変換層13内の硫黄(S)元素は、表面部13-2にピーク値を有する濃度プロファイルを持つ。また、光電変換層13内の硫黄(S)元素の濃度は、光電変換層13-1の表面部13-2のピーク値を有する部分から内部13-1に向かって次第に減少する。
【0019】
また、光電変換層13の表面部13-2は、主として、大きなエネルギーバンドギャップを持つI-III-S2又はI-III-(Se, S)2の結晶からなる。即ち、光電変換層13の表面部13-2は、I-III-S2又はI-III-(Se, S)2よりも小さなエネルギーバンドギャップを持つI-III-Se2の結晶を全く含まないか又はほとんど含まない構造を有する。但し、ほとんど含まないとは、従来方法により表面部13-2内に残存するI-III-Se2の結晶の量又は割合よりも少ないことを意味する。また、従来方法とは、I-III-Se2の硫化が、硫黄源ガスを含み、セレン源ガスを含まない雰囲気中で行われる方法のことである。その結果、表面部13-2のエネルギーバンドギャップは、内部13-1のエネルギーバンドギャップよりも大きくなる。これは、光電変換素子の並列抵抗が大きくなり、光電変換効率などの特性が向上することを意味する。
【0020】
尚、I-III-S2は、例えば、Cu(Inx, Ga1-x)S2であり、I-III-(Se, S)2は、例えば、Cu(Inx, Ga1-x)(Sey, S1-y)2であり、I-III-Se2は、例えば、Cu(Inx, Ga1-x)Se2である。
【0021】
また、光電変換層13の表面部13-2を上面部とし、光電変換層13の基板11側の表面部を下面部とした場合、光電変換層13の下面部は、表面部13-2と同様の構造、例えば、大きなバンドギャップを持つI-III-S2又はI-III-(Se, S)2の結晶を含む構造を有してもよい。この場合、光電変換層13内の硫黄元素の濃度又はバンドギャップは、上面部及び下面部でそれぞれ大きく、内部(真ん中)で小さいダブルグレーデッド構造を有する。
【0022】
バッファ層14は、光電変換層13上に配置される。バッファ層14は、例えば、n型又はi(intrinsic)型高抵抗導電層である。ここで言う「高抵抗」とは、後述する第2の電極層15の抵抗値よりも高い抵抗値を有するという意味である。
【0023】
バッファ層14は、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、インジウム(In)を含む化合物から選択可能である。亜鉛を含む化合物としては、例えば、ZnO、ZnS、Zn(OH)2、又は、これらの混晶であるZn(O, S)、Zn(O. S, OH)、さらには、ZnMgO、ZnSnOなど、がある。カドミウムを含む化合物としては、例えば、CdS、CdO、又は、これらの混晶であるCd(O, S)、Cd(O, S, OH)がある。インジウムを含む化合物としては、例えば、InS、InO、又は、これらの混晶であるIn(O, S)、In(O, S, OH)がある。また、バッファ層14は、これらの化合物の積層構造を有してもよい。バッファ層14の厚さは、10nm~100nmに設定される。
【0024】
バッファ層14は、光電変換効率などの特性を向上させる効果を有するが、これを省略することも可能である。バッファ層14が省略される場合、後述する第2の電極層15は、光電変換層13上に配置される。
【0025】
第2の電極層15は、バッファ層14上に配置される。第2の電極層15は、例えば、n型導電層である。第2の電極層15は、例えば、禁制帯幅が広く、抵抗値が十分に低い材料を備えるのが望ましい。また、第2の電極層15は、太陽光などの光の通り道となるため、光電変換層13が吸収可能な波長の光を透過する性質を持つのが望ましい。この意味から、第2の電極層15は、透明電極層又は窓層と呼ばれる。
【0026】
第2の電極層15は、例えば、III族元素(B、Al、Ga、又は、In)がドーパントとして添加された酸化金属を備える。酸化金属の例としては、ZnO、又は、SnO2がある。第2の電極層15は、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、ITiO(酸化インジウムチタン)、IZO(酸化インジウム亜鉛)、ZTO(酸化亜鉛スズ)、FTO(フッ素ドープト酸化スズ)、GZO(ガリウムドープト酸化亜鉛)など、から選択可能である。第2の電極層15の厚さは、0.5μm~2.5μmに設定される。
【0027】
<光電変換素子の製造方法>
図1及び
図2の光電変換素子の製造方法の例を説明する。
【0028】
まず、
図3に示すように、例えば、スパッタリング法により、基板11上に第1の電極層12を形成する。スパッタリング法は、直流(DC)スパッタリング法でもよいし、又は、高周波(RF)スパッタリング法でもよい。また、スパッタリング法に代えて、CVD(chemical vapor deposition)法、ALD(atomic layer deposition)法などを用いて、第1の電極層12を形成してもよい。
【0029】
また、例えば、スパッタリング法により、第1の電極層12上に、I族元素と、III族元素と、を含むプリカーサ層13-pを形成する。この後、プリカーサ層13-pのセレン化を行う。セレン化は、
図4に示すように、例えば、気相セレン化法により行う。即ち、セレン化は、セレンを有するセレン源ガス(例えば、セレン化水素、又はセレン蒸気)16の雰囲気中でプリカーサ層13-pを加熱することにより行う。その結果、プリカーサ層13-pは、I族元素と、III族元素と、セレンと、を含む化合物(光電変換層)に変換される。
【0030】
セレン化は、例えば、300℃以上、600℃以下の範囲内の温度で行うのが望ましい。また、セレン源ガス16としてセレン化水素(H2Se)を使用すれば、セレン源ガス16の常温での取り扱いが容易化される。さらに、セレン化は、加熱炉内で行うのが望ましい。この場合、セレン源ガスは、セレン供給源(例えば、セレン化水素の場合はボンベ、セレン蒸気の場合は蒸発源)から加熱炉内に導入される。この時、加熱炉内の全雰囲気に対するセレン源ガス16のモル比は、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガスなど)との混合比により制御される。
【0031】
尚、I族元素と、III族元素と、セレンと、を含む化合物(光電変換層)は、気相セレン化法以外の方法により形成してもよい。例えば、このような化合物は、固相セレン化法、蒸着法、インク塗布法、電着法などによっても形成可能である。
【0032】
次に、
図5に示すように、I族元素と、III族元素と、セレンと、を含む光電変換層13の硫化を行う。硫化は、硫黄を有する硫黄源ガス(例えば、硫化水素、又は硫黄蒸気)17-1及びセレンを有するセレン源ガス(例えば、セレン化水素、又はセレン蒸気)17-2の混合ガスの雰囲気中で光電変換層13を加熱することにより行う。その結果、光電変換層13は、I族元素と、III族元素と、VI族元素としてセレン及び硫黄と、を含む化合物に変換される。
【0033】
ここで、硫黄源ガス17-1は、光電変換層13の表面部13-2において、I族元素と、III族元素と、セレンと、からなる結晶、例えば、カルコパイライト結晶内のセレンを硫黄に置換する役割を有する。また、セレン源ガス17-2は、硫黄源ガス17-1によるセレンから硫黄への置換を促進する役割を有する。但し、この置換を促進する効果は、硫化に使用する混合ガスの雰囲気中において、セレン源ガス17-2のモル数が硫黄源ガス17-1のモル数よりも少ないことが条件である。
【0034】
その結果、硫化後、光電変換層13の表面部13-2は、I族元素と、III族元素と、硫黄と、からなる結晶(例えば、I-III-S2)、及び、I族元素と、III族元素と、VI族元素として硫黄及びセレンと、からなる結晶(例えば、I-III-(Se, S)2)を含み、かつ、I族元素と、III族元素と、セレンと、からなる結晶(例えば、I-III-Se2)を全く含まないか又はほとんど含まない構造となる。従って、光電変換素子の並列抵抗が大きくなり、光電変換効率などの特性の向上が実現される。
【0035】
尚、硫化後、光電変換層13内の硫黄元素は、表面部13-2にピーク値を有する濃度プロファイルを持つことになる。また、硫化後、光電変換層13内の硫黄元素の濃度は、ダブルグレーデッド構造を有してもよい。
【0036】
硫化は、例えば、450℃以上、650℃以下の範囲内の温度で行うのが望ましい。また、硫黄源ガス17-1として硫化水素(H2S)を使用すれば、硫黄源ガス17-1の常温での取り扱いが容易化される。硫黄源ガス17-1が硫化水素(H2S)である場合、硫化水素の分解を促進させるため、硫化の温度は、500℃以上であるのが望ましい。硫化時に使用するセレン源ガス17-2は、セレン化水素(H2Se)であるのが望ましい。セレン化水素は、硫化水素と同様に、常温での取り扱いが容易だからである。
【0037】
硫化は、加熱炉内で行うのが望ましい。この場合、まず、セレン化で使用された
図4のセレン源ガス16が加熱炉内から排出される。但し、これは、セレン化が気相セレン化法により行われた場合である。この後、硫化で使用する硫黄源ガス17-1及びセレン源ガス17-2を含む混合ガスが加熱炉内に導入される。硫黄源ガス17-1及びセレン源ガス17-2は、それぞれ、硫黄供給源(例えば、硫化水素の場合はボンベ、硫黄蒸気の場合は蒸発源)及びセレン供給源(例えば、セレン化水素の場合はボンベ、セレン蒸気の場合は蒸発源)から加熱炉内に導入される。この時、加熱炉内の全雰囲気に対する硫黄源ガス17-1及びセレン源ガス17-2のモル比は、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガスなど)との混合比により制御される。
【0038】
ここで重要となるのは、全雰囲気に対するセレン源ガス17-2のモル比、及び、雰囲気中の硫黄源ガス17-1に対するセレン源ガス17-2のモル比である。原理的には、雰囲気中において、セレン源ガス17-2のモル数が硫黄源ガス17-1のモル数よりも少なければ、セレンから硫黄への置換効果が促進され、表面部13-2に、I族元素と、III族元素と、セレンと、からなる結晶(例えば、I-III-Se2)が残存し難くなる、即ち、光電変換効率などの特性の向上が得られる、と考えられる。しかし、より顕著な効果を得るためには、セレン源ガス17-2のモル比は、所定範囲内に限定するのが望ましい場合がある。これについては、実験例で説明する。
【0039】
最後に、
図6に示すように、CBD(chemical bath deposition)法、スパッタリング法などの方法により、光電変換層13上にバッファ層14を形成する。また、スパッタリング法、CVD法、ALD法などの方法により、バッファ層14上に第2の電極層15を形成する。尚、バッファ層14は、省略可能である。
【0040】
以上の工程により、
図1及び
図2の光電変換素子が完成する。
【0041】
<変形例>
上述の製造方法は、様々な変形が可能である。以下、いくつかの変形例を説明する。
【0042】
・ ガス導入タイミング
硫化工程において、硫黄源ガス及びセレン源ガスの加熱炉内への導入タイミングは、同じでもよいし、又は、異なってもよい。後者の場合、硫黄源ガスが加熱炉内に導入された後にセレン源ガスが加熱炉内に導入されてもよいし、又は、セレン源ガスが加熱炉内に導入された後に硫黄源ガスが加熱炉内に導入されてもよい。また、硫黄源ガス及びセレン源ガスは、加熱炉外で混合された後、混合ガスとして加熱炉内に導入されてもよい。
【0043】
硫化工程において、硫黄源ガスの加熱炉内への導入は、1回のみでもよいし、又は、複数回に分けて行ってもよい。同様に、硫化工程において、セレン源ガスの加熱炉内への導入も、1回のみでもよいし、又は、複数回に分けて行ってもよい。
【0044】
・ 加熱タイミング
硫化工程において、加熱炉による加熱は、硫黄源ガス及びセレン源ガスが加熱炉内に導入される前でもよいし、又は、加熱炉内に導入された後でもよい。また、硫黄源ガス及びセレン源ガスの一部が加熱炉内に導入された後、加熱炉による加熱を開始してもよい。さらに、加熱炉による昇温中、又は、加熱炉の内部が所定温度に到達した後に、硫黄源ガス及びセレン源ガスが加熱炉内に導入されてもよい。
【0045】
・ 硫化反応との関係
硫化工程において、セレン源ガスの加熱炉内への導入タイミングは、硫化反応の開始時でもよいし、硫化反応の開始前でもよいし、又は、硫化反応の開始後でもよい。例えば、硫黄源ガスが加熱炉内に導入され、かつ、加熱炉内の温度が所定温度(硫化反応が開始する温度)に到達した時点を開始時としたとき、セレン源ガスは、開始時に導入してもよいし、開始時よりも前に導入してもよいし、又は、開始時よりも後に導入してもよい。
【0046】
・ 加熱炉
セレン化工程及び硫化工程は、同一の加熱炉内で実施してもよいし、又は、異なる加熱炉内で別々に実施してもよい。前者の場合、セレン化工程及び硫化工程において、基板の搬送が不要となるため、製造時間の短縮、さらには、製造コストの低下が図られる。また、後者の場合、2つの加熱炉により、セレン化工程及び硫化工程の制御性を高めることができる。
【0047】
・ 昇温工程
硫化工程を実施するに当たり、加熱炉内の温度は、常温から所定温度(硫化反応が開始する温度)よりも高い温度まで連続して上げてもよいし、又は、複数のステップを経由して上げてもよい。後者の場合、加熱炉内の温度は、例えば、常温から第1の温度に設定された後、第1の温度から所定温度(硫化反応が開始する温度)よりも高い第2の温度に設定されてもよい。
【0048】
特に、セレン化工程及び硫化工程が同一の加熱炉内で実施される場合、例えば、加熱炉内の温度が常温から第1の温度に設定された後、セレン化が第1の温度で実施され、かつ、加熱炉内の温度が第1の温度から所定温度(硫化反応が開始する温度)よりも高い第2の温度に設定された後、硫化が第2の温度で実施されてもよい。
【0049】
・ 硫化工程中の温度
硫化工程中の加熱炉内の温度は、一定でもよいし、又は、段階的に変化してもよい。例えば、硫化工程中の温度プロファイルは、450℃以上、650℃以下の範囲内で一定であってもよいし、又は、550℃以上、570℃以下の範囲内の値に保持された後、580℃以上、620℃以下の範囲内の値に保持され、さらにその後、550℃以上、570℃以下の範囲内の値に保持されてもよい。硫化工程中の温度プロファイルが段階的に変化する場合、温度が変化する度に硫黄源ガスが導入されてもよい。
【0050】
・ 降温工程
硫化工程を完了させるに当たり、加熱炉内の温度は、所定温度(硫化反応が開始する温度)よりも高い温度から常温まで連続して下げてもよいし、又は、複数のステップを経由して下げてもよい。後者の場合、加熱炉内の温度は、例えば、所定温度(硫化反応が開始する温度)よりも高い第2の温度(500℃以上の温度)から第3の温度(450℃以下の温度)に設定された後、第3の温度から常温に設定されてもよい。
【0051】
・ セレン化工程
セレン化工程でのガス導入タイミング及び加熱タイミングについては、硫化工程と同じことが言える。例えば、セレン源ガスの加熱炉内への導入は、1回のみでもよいし、又は、複数回に分けて行ってもよい。また、加熱炉による加熱は、セレン源ガスが加熱炉内に導入される前でもよいし、又は、加熱炉内に導入された後でもよい。
【0052】
また、セレン源ガスの一部が加熱炉内に導入された後、加熱炉による加熱を開始してもよい。さらに、加熱炉による昇温中、又は、加熱炉の内部が所定温度に到達した後に、セレン源ガスが加熱炉内に導入されてもよい。
【0053】
セレン化工程を実施するに当たり、加熱炉内の温度は、常温から所定温度(セレン化反応が開始する温度)よりも高い温度まで連続して上げてもよいし、又は、複数のステップを経由して上げてもよい。後者の場合、加熱炉内の温度は、例えば、300℃以上、400℃以下の範囲内の温度に保持された後、400℃以上の温度に保持される。
【0054】
<実験例>
実験例を説明する。以下の実験例は、硫化工程において、光電変換効率などの特性の向上に、より有効なセレン源ガスのモル比を見出すことを目的とする。
【0055】
実験例では、7つのサンプルSA1~SA7を作成した。サンプルSA1~SA4は、約2.5cm×約2.5cmの小サイズのガラス基板を採用し、サンプルSA5~SA7は、約90cm×約120cmの大サイズのガラス基板を採用した。サンプルSA1~SA7の製造方法は、後述する硫化を行う工程以外は同じであり、以下の通りである。
【0056】
まず、ガラス基板上に第1の電極層としてのモリブデン(Mo)層を形成する。また、モリブデン層上に、銅(Cu)、インジウム(In)、及び、ガリウム(Ga)を含むプリカーサ層を形成する。この後、このプリカーサ層をセレン化水素ガス(H2Se)の雰囲気中でセレン化する。その結果、モリブデン層上のプリカーサ層は、光電変換層としてのCu(Inx, Ga1-x)Se2化合物半導体層に変換される。
【0057】
次に、セレン化で使用したセレン化水素ガスの雰囲気を排気する。この後、Cu(Inx, Ga1-x)Se2を硫化水素(H2S)及びセレン化水素(H2Se)の雰囲気中で硫化する。但し、全雰囲気(例えば、加熱炉内の雰囲気全体)に対する硫化水素のモル比は、30%とし、かつ、全雰囲気に対するセレン化水素のモル比は、パラメータとして以下の6種類を用意した。
・ 0%(サンプルSA1及びSA5)
・ 0.3%(サンプルSA6)
・ 0.5%(サンプルSA2)
・ 0.6%(サンプルSA7)
・ 1.0%(サンプルSA3)
・ 2.0%(サンプルSA4)
【0058】
最後に、硫化された光電変換層上に、バッファ層及び第2の電極層を形成する。
【0059】
サンプルSA1~SA7の製造方法は、SAS法により光電変換層を形成する製造方法である。この実験例でSAS法を使用したのは、プリカーサ層を気相中でセレン化する気相セレン化法を採用することにより、ガラス基板上の光電変換層の厚さのばらつきが抑制される、即ち、面内均一性が向上するからである。例えば、SAS法による光電変換層は、蒸着法又はインク塗布法による光電変換層に比べて、面内均一性の向上により、基板の大サイズ化、光電変換効率などの特性の向上など、を実現できる。
【0060】
表1及び表2は、これら7つのサンプルSA1~SA7について、光電変換素子の特性を評価した結果を示す。表1及び表2において、Effは、光電変換効率であり、Vocは、開放電圧であり、Iscは、短絡電流であり、FFは、曲線因子であり、Rsは、直列抵抗であり、Rshは、並列抵抗である。
【表1】
【表2】
【0061】
Eff、Voc、Isc、FF、及び、Rshは、大きいのが望ましく、Rsは、小さいのが望ましい。即ち、Voc、Isc、及び、FFが大きければ、Effが大きくなる。また、Rshが大きければ、光電変換素子の漏れ電流が小さくなる。さらに、Rsが小さければ、光電変換素子の起電力の抵抗ロスが小さくなる。
【0062】
表1及び表2において、サンプルSA1及びSA5は、セレン化水素ガス無しで硫化を行う従来方法により形成されるので、これを基準に規格化すると、Eff、Voc、Isc、FF、及び、Rshについては、1よりも大きい結果だと従来方法よりも優れていることになり、Rsについては、1よりも小さい結果だと従来方法よりも優れていることになる。
【0063】
表1及び表2から分かることは、短絡電流Isc及び並列抵抗Rshについては、従来方法により形成されるサンプルSA1及びSA5以外の全てのサンプルSA2~SA4、SA6、及び、SA7で、サンプルSA1及びSA5の結果よりも良いことである。即ち、表1及び表2によれば、硫黄源ガスと、硫黄源ガスのモル数よりも少ないモル数のセレン源ガスと、を含んだ混合ガスにより硫化を行うことで、光電変換素子の特性が向上することが裏付けられる。
【0064】
ここで、光電変換素子の特性のうち、光電変換効率Effに着目する。
【0065】
表1によれば、光電変換効率Effは、サンプルSA2及びSA3においてサンプルSA1よりも良い結果であり、サンプルSA4においてサンプルSA1よりも悪い結果である。これは、雰囲気全体に対するセレン化水素のモル比をパラメータとしたときに、光電変換効率Effの向上と低下の閾値が1.0%と2.0%の間にあることを意味する。
【0066】
また、表2によれば、光電変換効率Effは、サンプルSA6及びSA7においてサンプルSA5よりも良い結果である。これは、雰囲気全体に対するセレン化水素のモル比が0.3%及び0.6%であるときに、光電変換効率Effの向上が実現されることを意味する。ここで、サンプルSA6及びSA7において、光電変換効率Effの向上の効果がサンプルSA2及びSA3のそれよりも小さいのは、基板サイズが表1のサンプルに比べて大きいからである。
【0067】
即ち、基板サイズが大きくなると、必然的に、光電変換層の面内均一性は悪くなる。光電変換効率Effの向上の効果が小さくなるのは、この面内均一性の悪化が影響していると考えられる。仮に、サンプルSA6及びSA7について、面内均一性が表1のサンプルSA2~SA4と同じであるとすると、サンプルSA6の光電変換効率(規格値)は、約1.020と見積もられ、サンプルSA7の光電変換効率(規格値)は、約1.040と見積もられる。
【0068】
以上を勘案し、さらにデータを積み重ねた結果、硫化に使用する雰囲気全体に対するセレン源ガスのモル比[%]と、光電変換効率Effと、の関係は、
図7に示す関係にあることが判明した。
図7によれば、光電変換効率Effの向上と低下の閾値は、1.5%である。即ち、雰囲気全体に対するセレン源ガスのモル比が1.5%以下である場合に、光電変換効率の向上の効果が実現される。また、雰囲気全体に対するセレン源ガスのモル比が0.3%以上、1.0%以下である場合には、光電変換効率が従来方法に比べて2%以上向上する。
【0069】
図8は、
図7の横軸を「雰囲気中の硫黄源ガスに対するセレン源ガスのモル比」に変更した結果を示す。即ち、実験例では、雰囲気全体に対する硫黄源ガスのモル比は、30%であるから、
図7の横軸の数値を30で割った値が
図8の「雰囲気中の硫黄源ガスに対するセレン源ガスのモル比」となる。
【0070】
図8によれば、光電変換効率Effの向上と低下の閾値は、5%である。即ち、雰囲気中の硫黄源ガスに対するセレン源ガスのモル比が5%以下である場合に、光電変換効率の向上の効果が実現される。また、雰囲気中の硫黄源ガスに対するセレン源ガスのモル比が1.0%以上、3.3%以下である場合には、光電変換効率が従来方法に比べて2%以上向上する。
【0071】
次に、光電変換効率Effの向上の効果が得られる理由を検証する。
【0072】
図9は、サンプルSA1及びSA3について、XRD(X-ray diffraction)による構造解析を行った結果を示す。
構造解析の対象は、光電変換層の表面部、例えば、
図5の表面部13-2である。即ち、光電変換層において、ガラス基板側とは反対側の表面から深さd1、d2、及び、d3までの結晶構造がどのようになっているかをXRDより解析した。但し、d1(例えば、約50nm)<d2(例えば、約130nm)<d3(例えば、約1μm)<tであり、かつ、tは、光電変換層の厚さである。
【0073】
同図によれば、サンプルSA3のXRDパターンは、深さd1、d2、及び、d3までの3つにおいて、ほぼ同じであり、かつ、急峻である。即ち、サンプルSA3のXRDパターンの回折強度(縦軸)の半値幅は小さい。これは、サンプルSA3では、深さd1、d2、及び、d3までのいずれにおいても、硫化(セレン元素から硫黄元素への置換)が有効に行われ、ほぼ同一の結晶、即ち、Cu(Inx, Ga1-x)S2、又は、Cu(Inx, Ga1-x)(Sey, S1-y)2が存在することを意味する。
【0074】
これに対し、サンプルSA1のXRDパターンは、光電変換層の表面に近くなるほど裾広がりとなる。即ち、サンプルSA1のXRDパターンの回折強度(縦軸)の半値幅は、光電変換層の表面に近くなるほど大きくなる。これは、サンプルSA1では、光電変換層の表面部において硫化(セレン元素から硫黄元素への置換)が有効に行われておらず、特に、光電変換層の表面付近では、多数の結晶、即ち、Cu(Inx, Ga1-x)S2、及び、Cu(Inx, Ga1-x)(Sey, S1-y)2に加えて、Cu(Inx, Ga1-x)Se2がこれらと分離して存在することを意味する。
【0075】
従って、サンプルSA3における光電変換効率の向上は、硫化により光電変換層の表面部においてVI族元素としてのセレンが硫黄に有効に置換され、光電変換層の表面部にCu(Inx, Ga1-x)Se2が残存しない又は従来方法よりも残存し難くなる結果であると結論付けることができる。
【0076】
<適用例>
図10は、適用例としての太陽電池サブモジュールの例を示す。
本例の太陽電池サブモジュールは、いわゆる集積型構造を有する。即ち、太陽電池サブモジュールは、直列接続される複数の光電変換素子10-1,10-2,…10-kを備える。但し、kは、2以上の自然数である。
【0077】
基板11は、複数の光電変換素子10-1,10-2,…10-kに共通である。基板11は、例えば、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、及び、酸化アルミニウムの積層構造を有するフレキシブル基板である。
【0078】
複数の第1の電極層12-1,12-2,…12-k,12-(k+1)は、基板11上に並んで配置される。複数の第1の電極層12-1,12-2,…12-k,12-(k+1)は、例えば、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、クロム(Cr)などの金属層を形成した後、その金属層をパターニングすることにより形成可能である(第1のパターニング)。
【0079】
各光電変換素子10-1,10-2,…10-kは、光電変換層13及びバッファ層14を有する。光電変換層13及びバッファ層14は、
図1乃至
図9で説明した光電変換層13及びバッファ層14に対応する。各光電変換素子10-1,10-2,…10-kの光電変換層13及びバッファ層14は、例えば、
図3乃至
図6の製造方法により、光電変換層13及びバッファ層14を形成した後、これらをパターニングすることにより形成可能である(第2のパターニング)。
【0080】
各光電変換素子10-1,10-2,…10-kにおいて、第2の電極層15は、複数の第1の電極層12-1,12-2,…12-kのうちの1つに接続される。例えば、光電変換素子10-1の第2の電極層15は、その隣に位置する光電変換素子10-2の第1の電極層12-2に接続される。残りの光電変換素子10-2,…10-kについても同様である。その結果、複数の光電変換素子10-1,10-2,…10-kは、互いに直列接続される。
【0081】
各光電変換素子10-1,10-2,…10-kの第2の電極層15は、例えば、
図3乃至
図6の製造方法により、第2の電極層15を形成した後、これをパターニングすることにより形成可能である(第3のパターニング)。
【0082】
第1の電極層12-1は、例えば、プラス電極18に接続され、第1の電極層12-(k+1)は、例えば、マイナス電極19に接続される。
【0083】
以上の太陽電池サブモジュールによれば、複数の光電変換素子10-1,10-2,…10-kを1つのユニットとした場合、複数のユニットをプラス電極18とマイナス電極との間に並列接続できる。しかも、これら複数のユニットは、1つの基板11上に形成可能である。従って、このような太陽電池サブモジュールを使用した太陽電池パネルは、部分的に日陰となっても、発電量の低下が限定的である。即ち、安定的に発電する太陽電池パネルが実現される。
【0084】
また、上述の太陽電池サブモジュールは、3回のパターニング(例えば、レーザパターニングやニードルを使用したメカニカルパターニング)により形成可能である。太陽電池サブモジュールの製造工程において、パターニングの回数は、太陽電池サブモジュールの製造コストに比例する。即ち、3回のパターニングにより太陽電池サブモジュールを製造できることは、太陽電池サブモジュールの製造コストの低下を実現できることを意味する。
【0085】
従って、実施形態に係わる光電変換素子が上述の太陽電池サブモジュールに適用されることにより、高い光電変換効率を有し、かつ、安定的な発電量を得ることができる太陽電池サブモジュールを低い製造コストで形成可能となる。
【0086】
<むすび>
以上、説明したように、本発明の実施形態によれば、I族元素、III族元素、及び、セレンを含む光電変換層の表面部において、硫化により有効にセレンを硫黄に置換可能となる。
【0087】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、一例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することを意図しない。これら実施形態は、上述以外の様々な形態で実施することが可能であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更など、を行える。これら実施形態及びその変形は、本発明の範囲及び要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明及びその均等物についても、本発明の範囲及び要旨に含まれる。
【符号の説明】
【0088】
11: 基板、 12: 第1の電極層、 13: 光電変換層、 13-1: 内部、 13-2: 表面部、 13-p: プリカーサ層、 14: バッファ層、 15: 第2の電極層、 16,17-2: セレン源ガス、 17-1: 硫黄源ガス、 18: プラス電極、 19: マイナス電極。