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特許7068906多視点カメラ制御装置及びそのプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】多視点カメラ制御装置及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04N 13/296 20180101AFI20220510BHJP
   H04N 13/243 20180101ALI20220510BHJP
   H04N 13/275 20180101ALI20220510BHJP
   H04N 13/349 20180101ALI20220510BHJP
   G03B 15/00 20210101ALI20220510BHJP
   G03B 17/00 20210101ALI20220510BHJP
   G03B 17/56 20210101ALI20220510BHJP
   G03B 19/07 20210101ALI20220510BHJP
   G03B 35/08 20210101ALI20220510BHJP
【FI】
H04N13/296
H04N13/243
H04N13/275
H04N13/349
G03B15/00 H
G03B15/00 P
G03B17/00 Q
G03B17/56 A
G03B19/07
G03B35/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018081194
(22)【出願日】2018-04-20
(65)【公開番号】P2019193002
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】池谷 健佑
(72)【発明者】
【氏名】三科 智之
【審査官】秦野 孝一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-152999(JP,A)
【文献】特開2017-11520(JP,A)
【文献】特開2007-96951(JP,A)
【文献】特開2005-252459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 13/00-13/398
G03B 15/00
G03B 17/00-17/46
G03B 17/56-17/58
G03B 19/00-19/16
G03B 35/00-37/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定した1台のマスターカメラ及び前記マスターカメラ以外のリファレンスカメラからなる多視点カメラで被写体を撮影した多視点映像から、IP立体像表示装置で表示するIP立体映像を生成するために、前記多視点カメラを制御する多視点カメラ制御装置であって、
前記IP立体像表示装置の奥行き方向再現範囲と、前記IP立体像表示装置の観視位置とがパラメータとして入力されるパラメータ入力手段と、
少なくとも端の前記観視位置において、当該観視位置を頂点として前記IP立体像表示装置の画面周縁を通過する四角錐状の空間領域を求め、当該空間領域と前記奥行き方向再現範囲とが重複する四角錐台状の観視領域を求め、それぞれの前記観視位置で求めた観視領域の和を前記IP立体像表示装置の再現領域として設定する再現領域設定手段と、
前記IP立体像表示装置の再現領域が前記リファレンスカメラの画角に収まるように前記リファレンスカメラの姿勢及び画角を制御するリファレンスカメラ制御手段と、
前記マスターカメラの撮影に同期して、前記リファレンスカメラに撮影を指令する撮影指令手段と、
を備えることを特徴とする多視点カメラ制御装置。
【請求項2】
前記パラメータ入力手段は、前記マスターカメラの位置を基準として、2次元方向で複数の前記観視位置が入力され、
前記再現領域設定手段は、前記観視位置毎に前記空間領域及び前記観視領域を算出することを特徴とする請求項1に記載の多視点カメラ制御装置。
【請求項3】
前記パラメータ入力手段は、前記被写体の位置である注視点から前記マスターカメラまでの距離を表すデプスdと、前記マスターカメラの画角θと、前記IP立体像表示装置の飛び出し量Δとがさらに入力され、
前記再現領域設定手段は、前記デプスd、前記画角θ、前記IP立体像表示装置の画面サイズW、及び、前記飛び出し量Δが含まれる式(1)を用いて、前記観視領域と前記再現領域の縮尺比kを算出し、
【数1】
前記縮尺比kに応じた寸法の前記再現領域を設定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多視点カメラ制御装置。
【請求項4】
コンピュータを、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の多視点カメラ制御装置として機能させるための多視点カメラ制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多視点カメラ制御装置及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
任意の視点で自由に立体像を視認することが可能な立体像表示方式の一つとして、インテグラルフォトグラフィ(Integral Photography:以下IP)方式が知られている。このIP方式では、実体のある被写体を1台のカメラで撮影し、平面上に配列されたレンズアレイを利用して要素画像を生成する。
【0003】
また、IP方式では、多視点ロボットカメラが撮影した映像から生成した3次元モデルを用いて、要素画像を生成することもできる(非特許文献1,2)。これら従来技術では、IPディスプレイの再現領域を実空間に設定し、多視点ロボットカメラの協調制御により、四角錐台状の再現領域が収まる最小画角で多視点映像を撮影し、要素画像を生成するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】池谷他、「三次元復元のための多視点ロボットカメラの開発」、2017年電子情報通信学会総合大会講演論文集、情報・システム講演論文集2、D-11-3、2017,p.3
【文献】池谷他、「多視点ロボットカメラを用いたインテグラル立体撮影技術」、映像情報メディア学会技術報告、2017年11月30日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記した従来技術では、IPディスプレイの視域内で観視者が動いたとき、IPディスプレイが表示する立体像に欠損が生じるという問題がある。具体的には、従来技術では、図8に示すように、マスターカメラCの位置を基準としてIPディスプレイの再現領域ARoldを設定する。このため、従来技術では、観視者が視域の端でIPディスプレイを観視した場合、再現領域ARoldが十分な大きさでなく、立体像が正しく表示されないことがある。
なお、図8が平面図のため、四角錐台状の再現領域ARoldを台形状で図示した。
【0006】
そこで、本発明は、IP立体像表示装置が表示する立体像の欠損を抑制できる多視点カメラ制御装置及びそのプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題に鑑みて、本発明に係る多視点カメラ制御装置は、予め設定した1台のマスターカメラ及びマスターカメラ以外のリファレンスカメラからなる多視点カメラで被写体を撮影した多視点映像から、IP立体像表示装置で表示するIP立体映像を生成するために、多視点カメラを制御する多視点カメラ制御装置であって、パラメータ入力手段と、再現領域設定手段と、リファレンスカメラ制御手段と、撮影指令手段と、を備える構成とした。
【0008】
かかる構成によれば、多視点カメラ制御装置は、パラメータ入力手段によって、IP立体像表示装置の奥行き方向再現範囲と、IP立体像表示装置の観視位置とがパラメータとして入力される。
多視点カメラ制御装置は、再現領域設定手段によって、少なくとも端の観視位置において、観視位置を頂点としてIP立体像表示装置の画面周縁を通過する四角錐状の空間領域を求める。そして、再現領域設定手段は、空間領域と奥行き方向再現範囲とが重複する四角錐台状の観視領域を求める。さらに、再現領域設定手段は、それぞれの観視位置で求めた観視領域の和をIP立体像表示装置の再現領域として設定する。
【0009】
多視点カメラ制御装置は、リファレンスカメラ制御手段によって、IP立体像表示装置の再現領域がリファレンスカメラの画角に収まるようにリファレンスカメラの姿勢及び画角を制御する。
多視点カメラ制御装置は、撮影指令手段によって、マスターカメラの撮影に同期して、リファレンスカメラに撮影を指令する。
【0010】
このように、IP立体像表示装置の再現領域は、端の観視位置を用いて設定するので、マスターカメラの位置のみで設定した場合に比べ、大きくなる。従って、観視者が視域の端からIP立体像表示装置を観視しても、IP立体像表示装置の再現領域が不足する事態を低減できる。
なお、前記した多視点カメラ制御装置は、一般的なコンピュータを前記した各手段として協調動作させる多視点カメラ制御プログラムで実現することもできる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、観視者が視域の端からIP立体像表示装置を観視しても、IP立体像表示装置の再現領域が不足する事態を低減し、IP立体像表示装置が表示する立体像の欠損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態における多視点映像撮影システムの全体構成図である。
図2図1の多視点カメラの配置を説明する説明図である。
図3図1の多視点カメラ制御装置の構成を示すブロック図である。
図4図3のパラメータ設定手段に設定するパラメータの説明図である。
図5図3の再現領域設定手段が設定する再現領域の説明図であり、再現領域を垂直方向から見た図である。
図6図5の再現領域を水平方向から見た説明図である。
図7図3の多視点カメラ制御装置の動作を示すフローチャートである。
図8】従来技術における再現領域の設定を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態)
[多視点映像撮影システムの概略]
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1を参照し、実施形態に係る多視点映像撮影システム1の概略について説明する。
図1に示すように、多視点映像撮影システム1は、多視点ロボットカメラ(多視点カメラ)Cで多視点映像を撮影し、撮影した多視点映像を用いて、IP立体映像(要素画像)を生成するものである。このとき、多視点映像撮影システム1は、IP立体映像を表示するIP立体像表示装置(不図示)の観視位置を考慮して、IP立体像表示装置の再現領域を設定する。
【0014】
まず、多視点映像撮影システム1では、IP立体像表示装置の観視位置を予め設定する。続いて、図示を省略したカメラマンが、マスターカメラCを姿勢やズームを操作し、そのときのパラメータを多視点映像撮影システム1に設定する。続いて、多視点映像撮影システム1では、IP立体像表示装置の観視位置を考慮して、IP立体像表示装置の再現領域を設定する。
なお、IP立体像表示装置の観視位置及び再現領域の詳細は、後記する。
【0015】
続いて、多視点映像撮影システム1では、隣接カメラ間のベースラインB(図2)を等間隔にするため、リファレンスカメラC(C~C)を正六角形状に配置する。このとき、隣接カメラ間のベースラインBは、3次元モデルを生成する奥行推定処理の許容視差角に基づいて算出される。
なお、添え字nは、何台目のリファレンスカメラCであるかを表す整数である(但し、1≦n≦6)。
【0016】
続いて、多視点映像撮影システム1は、IP立体像表示装置の再現領域を構成する各頂点がリファレンスカメラCの画角に収まるように、リファレンスカメラCの姿勢及び画角を制御する。そして、多視点映像撮影システム1は、マスターカメラC及びリファレンスカメラCで被写体90を撮影し、多視点映像を生成する。さらに、多視点映像撮影システム1は、生成した多視点映像から被写体90の3次元モデルを生成し、その3次元モデルのIP立体映像を生成する。
【0017】
[多視点映像撮影システムの全体構成]
以下、多視点映像撮影システム1の全体構成について説明する。
図1に示すように、多視点映像撮影システム1は、多視点ロボットカメラCと、多視点カメラ制御装置2と、3次元モデル生成装置3と、IP立体映像生成装置4とを備える。
【0018】
多視点ロボットカメラCは、予め設定した1台のマスターカメラCと、マスターカメラC以外のリファレンスカメラCとを備えるものである。ここでは、多視点ロボットカメラCは、リファレンスカメラCが、水平方位だけでなく、垂直方向にも配置されている。本実施形態では、多視点ロボットカメラCは、マスターカメラCと、このマスターカメラCを中心として正六角形状に配置された6台のリファレンスカメラCとを備える。このとき、多視点ロボットカメラCは、マスターカメラCと、マスターカメラCの左右に位置するリファレンスカメラC,Cとを結んだ軸線が水平となるように配置されている。
また、多視点ロボットカメラCは、ケーブルを介して、多視点カメラ制御装置2及び3次元モデル生成装置3に接続されている。
【0019】
マスターカメラCとは、カメラマンが操作する撮影カメラのことである。ここで、カメラマンが、マスターカメラCの姿勢(パン、チルト)、画角(ズーム)、デプスを操作する。すると、マスターカメラCは、そのときの姿勢、画角及びデプスをパラメータとして、多視点カメラ制御装置2に出力する。さらに、マスターカメラCは、カメラマンがシャッターを切ると、被写体90を撮影し、その撮影映像を3次元モデル生成装置3に出力する。このとき、マスターカメラCは、撮影映像を撮影したタイミングを多視点カメラ制御装置2に通知する(撮影通知)。
【0020】
リファレンスカメラCとは、3次元モデルを生成するときの奥行推定処理において、ステレオマッチングに用いる撮影映像を撮影する撮影カメラのことである。つまり、リファレンスカメラCは、マスターカメラCに追従するように自動制御される。本実施形態では、リファレンスカメラCは、パン、チルト、ズーム(画角)を制御可能な雲台に搭載されている。そして、リファレンスカメラCは、多視点カメラ制御装置2からの制御信号に応じて、姿勢(パン、チルト)及びズーム(画角)を駆動する。さらに、リファレンスカメラCは、多視点カメラ制御装置2から、撮影が指令されたタイミングで被写体90を撮影し、その撮影映像を3次元モデル生成装置3に出力する。
【0021】
なお、多視点ロボットカメラCは、図2示すように、隣接カメラ間のベースラインBを手動で調整する。ベースラインBは、マスターカメラCと各リファレンスカメラCとの距離、及び、隣接するリファレンスカメラC同士の距離のことである。例えば、多視点ロボットカメラCは、マスターカメラC及び各リファレンスカメラCを三脚(不図示)に搭載する。この場合、カメラマン等が、多視点カメラ制御装置2が出力したベースライン情報を参照し、マスターカメラC及び各リファレンスカメラCを手動で移動させる。
【0022】
多視点カメラ制御装置2は、多視点ロボットカメラCが多視点映像を撮影する際、多視点ロボットカメラC(リファレンスカメラC)を制御するものである。この多視点カメラ制御装置2の詳細は、後記する。
【0023】
3次元モデル生成装置3は、マスターカメラCの撮影映像から、被写体90の3次元モデルを生成するものである。本実施形態では、3次元モデル生成装置3は、奥行推定処理を行うため、マスターカメラCと各リファレンスカメラCとの撮影映像を用いて、ステレオマッチングを行う。そして、3次元モデル生成装置3は、生成した3次元モデルをIP立体映像生成装置4に出力する。
【0024】
IP立体映像生成装置4は、3次元モデル生成装置3が生成した3次元モデルから、IP立体映像を生成するものである。本実施形態では、IP立体映像生成装置4は、仮想空間に多視点ロボットカメラC、被写体90及びIP立体像表示装置の位置関係を再現し、斜投影により3次元点群モデルの多視点映像を撮影する。
【0025】
なお、多視点ロボットカメラC、3次元モデル生成装置3及びIP立体映像生成装置4の詳細は、以下の参考文献1,2に記載されているため、これ以上の説明を省略する。
参考文献1:池谷他、「三次元復元のための多視点ロボットカメラの開発」、2017年電子情報通信学会総合大会講演論文集、情報・システム講演論文集2、D-11-3、2017,p.3
参考文献2:池谷他、「多視点ロボットカメラを用いたインテグラル立体撮影技術」、映像情報メディア学会技術報告、2017年11月30日
【0026】
[多視点カメラ制御装置の構成]
図3を参照し、多視点カメラ制御装置2の構成について説明する。
図3に示すように、多視点カメラ制御装置2は、パラメータ設定手段(パラメータ入力手段)20と、再現領域設定手段22と、ベースライン算出手段24と、リファレンスカメラ制御手段26と、撮影指令手段28とを備える。
【0027】
パラメータ設定手段20は、多視点ロボットカメラCの制御に必要な各種パラメータを設定(入力)するものである。本実施形態では、パラメータ設定手段20は、パラメータとして、多視点ロボットカメラCから、マスターカメラCの姿勢及び画角と、デプスとを取得する。また、カメラマンが、図示を省略したマウス、キーボード等の操作手段を用いて、パラメータをパラメータ設定手段20に入力する。例えば、カメラマンが入力するパラメータには、IP立体像表示装置の奥行き方向再現範囲、画面サイズ、飛び出し量、観視位置及び視域が含まれる。そして、パラメータ設定手段20は、設定された各種パラメータを再現領域設定手段22に出力する。
【0028】
<パラメータの説明>
以下、パラメータ設定手段20に設定する各種パラメータについて説明する。
図4に示すように、マスターカメラCの姿勢は、カメラマンがマスターカメラCを操作して被写体90を撮影したときのパン・チルトを表す。
マスターカメラCの画角θは、カメラマンがマスターカメラCを操作して被写体90を撮影したときの水平方向及び垂直方向の画角を表す。
デプスdは、マスターカメラCから注視点Gまでの距離を表す。
注視点Gとは、被写体90の位置のことである。つまり、注視点Gは、IP立体映像として主に表示したい被写体90の位置を表す。
なお、図4では、X軸が水平方向を表し、Y軸が垂直方向を表し、Z軸が奥行き方向を表す。
【0029】
図5に示すように、IP立体像表示装置の奥行き方向再現範囲Dは、IP立体像表示装置が奥行き方向(Z軸方向)で立体像を再現できる範囲を表す。図5に示すように、IP立体像表示装置の奥行き方向再現範囲Dは、画面5(レンズアレイ)を中心とした、手前再現範囲から奥再現範囲までの間を表す。
IP立体像表示装置の画面サイズは、画面5の幅W及び高さH(図6)を表す。
IP立体像表示装置の飛び出し量Δは、注視点GがIP立体像表示装置の画面5から奥行き方向に離れて表示される距離を表す。
IP立体像表示装置の視域Ωは、IP立体像表示装置が立体像を適正に表示できる角度を表す。
【0030】
IP立体像表示装置の観視位置Vは、多視点映像撮影システム1が生成したIP立体映像をIP立体像表示装置で表示する際、観視者がIP立体映像を観視する位置を表す。例えば、IP立体像表示装置の観視位置Vは、IP立体像表示装置が備えるレンズアレイの要素レンズのピッチや焦点距離、IP立体像表示装置の解像度を考慮して、任意に設定できる。例えば、観視位置Vは、マスターカメラCの位置を基準として、水平方向及び垂直方向に等間隔で複数設定できる。
なお、前記したパラメータ設定手段20では、後記する空間領域及び観視領域の算出に利用する観視位置Vのみを設定すればよい。
【0031】
図3に戻り、多視点カメラ制御装置2の構成の説明を続ける。
再現領域設定手段22は、少なくとも端の観視位置において、観視位置を頂点としてIP立体像表示装置の画面周縁を通過する四角錐状の空間領域を求めるものである。そして、再現領域設定手段22は、その空間領域と奥行き方向再現範囲とが重複する四角錐台状の観視領域を求める。さらに、再現領域設定手段22は、それぞれの観視位置で求めた観視領域の和をIP立体像表示装置の再現領域として設定する。
【0032】
<再現領域の設定>
以下、図5及び図6を参照し、IP立体像表示装置の再現領域の設定について説明する。
ここでは、IP立体像表示装置の観視位置は、図5及び図6に示すように、マスターカメラCの位置を基準(中心)として、水平方向及び垂直方向にそれぞれ11箇所設定されている。また、中央の観視位置VがマスターカメラCの位置に対応し、左右両端の観視位置V,Vが視域Ωの端に位置する。また、本実施形態では、各観視位置Vが、奥行き方向で同一距離(つまり、同一のX-Y平面上)に位置する。
【0033】
まず、水平方向について考える。再現領域設定手段22は、デプスd、画角θ、画面サイズ(幅W)及び飛び出し量Δが含まれる式(1)を用いて、縮尺比kを算出する。具体的には、再現領域設定手段22は、パラメータ設定手段20から入力されたデプスd、画角θ、画面サイズW及び飛び出し量Δを式(1)に代入し、縮尺比kを算出する。この縮尺比kは、3次元モデルを配置する仮想空間と、マスターカメラCで撮影する実空間とのスケールの比を表す。
【0034】
【数1】
【0035】
図5に示すように、画面5の幅がkWとなり、画面5の幅kWから左端E及び右端Eが求められる。また、実空間上の飛び出し量がkΔとなり、奥行き方向再現範囲が画面5を中心として奥行き方向にkDとなる。
【0036】
次に、再現領域設定手段22は、要素画像を生成する際の観視位置VをマスターカメラCで撮影する実空間に設定する。そして、再現領域設定手段22は、各観視位置Vと画面5の形状とを結んだ直線で形成される四角錘台状の観視領域に、IP立体像表示装置の再現範囲を適合させる。このように、観視位置V毎の観視領域を合成することで、図5のIP立体像表示装置の再現領域ARを設定する。
【0037】
まず、左端の観視位置Vについて考える。この場合、再現領域設定手段22は、実空間において、観視位置Vを頂点として、画面5の周縁E(左端E,右端E,上端E,下端E)を通過する四角錐状の空間領域を求める。図5のように垂直方向から見ると、観視位置Vの空間領域は、観視位置Vから画面5の左端Eに向けて延長した線分と、観視位置Vから画面5の右端Eに向けて延長した線分とで囲われる三角形状の領域となる(破線で図示)。そして、再現領域設定手段22は、観視位置Vの空間領域と、奥行き方向再現範囲とが重複する観視領域を求める(太破線で図示)。この観視領域は、空間領域の側面と、手前再現範囲に対応する平面と、奥再現範囲に対応する平面とで囲われる四角錐台状の領域となる。
なお、図5が平面図のため、実際には四角錐状になる空間領域を三角形状で図示し、四角錐台状の観視領域を台形状で図示した(図6も同様)。
【0038】
次に、右端の観視位置Vについて考える。この場合、再現領域設定手段22は、実空間において、観視位置Vを頂点として、画面5の周縁Eを通過する空間領域を求める(一点鎖線で図示)。そして、再現領域設定手段22は、観視位置Vの空間領域と、奥行き方向再現範囲とが重複する観視領域を求める(太一点鎖線で図示)。
【0039】
ここで、再現領域設定手段22は、水平方向だけでなく、垂直方向でも観視領域を求める。図6に示すように、再現領域設定手段22は、実空間において、上端の観視位置Vを頂点として、画面5の周縁Eを通過する四角錐状の空間領域をそれぞれ求める。図6のように水平方向から見ると、観視位置Vの空間領域は、観視位置Vから画面5の上端Eに向けて延長した線分と、観視位置Vから画面5の下端Eに向けて延長した線分とで囲われる三角形状の領域となる(破線で図示)。そして、再現領域設定手段22は、観視位置Vの空間領域と、奥行き方向再現範囲とが重複する観視領域を求める(太破線で図示)。さらに、再現領域設定手段22は、上端の観視位置Vと同様、下端の観視位置Vの観視領域を求める。
なお、図6では、θが垂直方向の画角を表し、Hが画面5の高さを表し、Ωが垂直方向の視域を表す。
【0040】
本実施形態では、再現領域設定手段22は、水平方向及び垂直方向の端に位置する観視位置V(V,V,V,V)のみで空間領域及び観視領域を求めているが、他の観視位置Vを用いてもよい。例えば、再現領域設定手段22は、中央の観視位置Vから空間領域及び観視領域を求めてもよく、観視位置V毎に空間領域及び観視領域を求めてもよい。
【0041】
次に、再現領域設定手段22は、各観視位置Vで求めた観視領域の和を再現領域ARとして設定する。具体的には、再現領域設定手段22は、各観視位置Vの観視領域の論理和(OR演算)を取って、再現領域ARを求める。つまり、再現領域設定手段22は、再現領域ARが最大となるように、何れかの各観視位置Vで求めた観視領域が存在する最大領域を再現領域ARとして設定する。図5及び図6に示すように、再現領域ARは、画面5の位置で2個の四角錐台の上底面が合わさった形状の領域となり、12個の頂点Pで構成される(ドットで図示)。なお、図面を見やすくするため、一部のみ符号Pを図示した。
【0042】
次に、再現領域設定手段22は、3次元モデルを生成する仮想空間のスケールを実空間と等しくし、実空間に設定した再現領域ARを仮想空間に同一の位置及びスケールで設定する。
その後、再現領域設定手段22は、求めた再現領域AR及び縮尺比kと、パラメータ設定手段20からの各種パラメータとをベースライン算出手段24に出力する。
【0043】
図3に戻り、多視点カメラ制御装置2の構成の説明を続ける。
ベースライン算出手段24は、多視点ロボットカメラCにおける隣接カメラ間のベースラインB(隣接カメラ間の距離)を、予め設定された許容視差角から算出するものである。
なお、許容視差角とは、高精度な3次元モデルを生成するために許容される隣接カメラの輻輳角のことであり、例えば、奥行推定処理(奥行推定アルゴリズム)に応じて、適切な値で予め設定される。
【0044】
本実施形態では、ベースライン算出手段24は、隣接カメラ間のベースラインBを式(2)により算出する。この式(2)は、許容視差角Φと、各パラメータに含まれるデプスd、奥行き方向再現範囲D及び飛び出し量Δとで表される。従って、ベースライン算出手段24は、許容視差角Φ及び各種パラメータを式(2)に代入することで、ベースラインBを算出できる。
【0045】
【数2】
【0046】
そして、ベースライン算出手段24は、算出したベースラインBを外部(例えば、図示を省略したディスプレイ)に出力する。すると、カメラマン等が、ベースラインBに従って、マスターカメラC及び各リファレンスカメラCを手動で配置する。
【0047】
さらに、ベースライン算出手段24は、再現領域設定手段22からの再現領域ARと、縮尺比kと、各種パラメータとをリファレンスカメラ制御手段26に出力する。
なお、図3では、ベースラインBを手動で設定するため、ベースライン算出手段24からリファレンスカメラCへの出力を破線で図示した。
【0048】
リファレンスカメラ制御手段26は、ベースライン算出手段24からの再現領域ARがリファレンスカメラCの画角に収まるように、リファレンスカメラCの姿勢及び画角を制御するものである。
まず、リファレンスカメラ制御手段26は、再現領域ARの各頂点Pの世界座標を取得する。なお、添え字iは、何番目の頂点であるかを表す整数である(但し、1≦i≦12)。
【0049】
次に、リファレンスカメラ制御手段26は、各リファレンスカメラCのカメラ座標系において、再現領域ARの全頂点Pが各リファレンスカメラCの画角Oに収まるように、パン値Ppan及びチルト値Ptiltを算出する。本実施形態では、式(3)に示すように、パン値O´panは、リファレンスカメラCが再現領域ARの各頂点Pを向いたときのパン最大値Max(Ppan)とパン最小値Min(Ppan)との平均から求める(チルトO´tiltも同様)。
【0050】
【数3】
【0051】
次に、リファレンスカメラ制御手段26は、式(4)を用いて、カメラ姿勢制御後のカメラ座標系において、再現領域ARの全頂点Pが収まるように、各リファレンスカメラCの画角θ´を算出する。
なお、式(4)では、W/HがIP立体像表示装置のアスペクト比を表し、ifが後段の条件式が成立するときに前段の演算を行う関数を表す。
【0052】
【数4】
【0053】
その後、リファレンスカメラ制御手段26は、算出した姿勢(パン値θ´pan、チルト値θ´tilt)及び画角θ´を表す制御信号を生成し、生成した制御信号をリファレンスカメラCに出力する。この制御信号に応じて、各リファレンスカメラCが所望の姿勢をとるように駆動し、画角θ´となるようにズームする。
【0054】
撮影指令手段28は、マスターカメラCの撮影に同期させて、姿勢及び画角が制御されたリファレンスカメラCに撮影を指令するものである。本実施形態では、撮影指令手段28は、マスターカメラCから撮影通知が入力されたタイミングで、撮影映像の撮影を全リファレンスカメラCに指令する。
なお、再現領域設定手段22以外の各手段は、前記した参考文献1,2に記載されているため、これ以上の詳細な説明を省略する。
【0055】
[多視点カメラ制御装置の動作]
図7を参照し、多視点カメラ制御装置2の動作について説明する(適宜図3参照)。
図7に示すように、パラメータ設定手段20は、各種パラメータを設定する。このパラメータには、マスターカメラCの姿勢、画角θ、デプスdが含まれる。また、パラメータには、IP立体像表示装置の奥行き方向再現範囲D、画面サイズ(幅W,高さH)、飛び出し量Δ、観視位置V、視域Ωが含まれる(ステップS1)。
【0056】
再現領域設定手段22は、IP立体像表示装置の再現領域の設定を設定する。具体的には、再現領域設定手段22は、観視位置Vを頂点として、画面5の周縁Eを通過する空間領域を求める。次に、再現領域設定手段22は、観視位置Vの空間領域と奥行き方向再現範囲とが重複する観視領域を求める。さらに、再現領域設定手段22は、求めた観視領域の和を再現領域ARとして設定する(ステップS2)。
【0057】
ベースライン算出手段24は、多視点ロボットカメラCにおける隣接カメラ間のベースラインBを算出する。具体的には、ベースライン算出手段24は、3次元モデルを生成する奥行推定処理の許容視差角により、前記した式(2)を用いて、ベースラインBを算出する(ステップS3)。
【0058】
リファレンスカメラ制御手段26は、再現領域ARがリファレンスカメラCの画角に収まるように、リファレンスカメラCの姿勢及び画角を制御する。具体的には、リファレンスカメラ制御手段26は、前記した式(3)及び式(4)を用いて、リファレンスカメラCの姿勢及び画角θ´を表す制御信号を生成し、生成した制御信号をリファレンスカメラCに出力する(ステップS4)。
【0059】
多視点カメラ制御装置2は、撮影指令手段28によって、マスターカメラCから撮影通知が入力されたタイミングで、撮影映像の撮影を全リファレンスカメラCに指令する(ステップS5)。
【0060】
[作用・効果]
以上のように、実施形態に係る多視点カメラ制御装置2は、図5及び図6に示すように、端の観視位置Vを用いて再現領域ARを設定する。これにより、再現領域ARは、画面5の位置で2個の四角錐台の上底面が合わさった形状となり、手前側が奥側より大きくなる。一方、従来の再現領域ARoldは、図8に示すように、マスターカメラCの位置のみで設定するので、四角錐台状の形状となり、手前側が奥側より狭くなる。このように、多視点カメラ制御装置2が設定する再現領域ARは、従来の再現領域ARoldに比べて大きくなる。従って、多視点カメラ制御装置2では、観視者が視域の端でIP立体像表示装置を観視した場合でも、再現領域ARが不足する事態を低減することができる。これにより、多視点カメラ制御装置2は、立体像の欠損を抑制し、高品質なIP立体映像を提供することができる。
【0061】
さらに、多視点カメラ制御装置2は、端の観視位置V,V,V,Vのみを用いた場合、再現領域ARの設定に必要な演算量を抑制し、IP立体映像を素早く提供することができる。一方、多視点カメラ制御装置2は、各観視位置Vを用いた場合、より正確な再現領域ARを設定し、より高品質なIP立体映像を提供することができる。
【0062】
(変形例)
以上、本発明の実施形態を詳述してきたが、本発明は前記した実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
前記した実施形態では、観察位置を水平方向及び垂直方向に11箇所設定することとして説明したが、これに限定されない。この観察位置は、任意に設定可能であり、マスターカメラの位置を基準として2次元方向で複数設定することができる。
【0063】
前記した実施形態では、多視点カメラが正六角形状に配置されることとして説明したが、これに限定されない。例えば、本発明では、多視点カメラが四角形状、円状、又は、正多角形状に配置されてもよい。さらに、本発明では、多視点カメラとしてステレオカメラを用いてもよい。
【0064】
前記した実施形態では、隣接カメラ間のベースラインを手動で調整することとして説明したが、本発明は、これに限定されない。例えば、多視点カメラは、各リファレンスカメラを支持すると共に、ベースラインを調整可能な支持機構(不図示)に搭載する。そして、支持機構は、多視点カメラ制御装置2からのベースライン情報を参照し、隣接カメラ間のベースラインを自動的に調整する。
【0065】
前記した実施形態では、多視点カメラ制御装置を独立したハードウェアとして説明したが、本発明は、これに限定されない。例えば、多視点カメラ制御装置は、コンピュータが備えるCPU、メモリ、ハードディスク等のハードウェア資源を、前記した各手段として協調動作させる多視点カメラ制御プログラムで実現することもできる。このプログラムは、通信回線を介して配布してもよく、CD-ROMやフラッシュメモリ等の記録媒体に書き込んで配布してもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 多視点映像撮影システム
2 多視点カメラ制御装置
3 3次元モデル生成装置
4 IP立体映像生成装置
5 IP立体像表示装置の画面
20 パラメータ設定手段(パラメータ入力手段)
22 再現領域設定手段
24 ベースライン算出手段
26 リファレンスカメラ制御手段
28 撮影指令手段
90 被写体
AR,ARold IP立体像表示装置の再現領域
C 多視点ロボットカメラ(多視点カメラ)
マスターカメラ
,C~C リファレンスカメラ
E 周縁
左端
右端
上端
下端
G 注視点
P,P 頂点
V,V,V,V,V,V 観視位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8