(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂、塗料用組成物、電着塗料用組成物、ポリイミド樹脂被膜を有する物品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20220510BHJP
C09D 179/08 20060101ALI20220510BHJP
C09D 5/44 20060101ALI20220510BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220510BHJP
【FI】
C08G73/10
C09D179/08 A
C09D5/44 A
C09D7/63
(21)【出願番号】P 2018114831
(22)【出願日】2018-06-15
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】藤本 翔平
(72)【発明者】
【氏名】山下 俊
(72)【発明者】
【氏名】小林 亜由美
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-033135(JP,A)
【文献】特開平05-232701(JP,A)
【文献】特開平11-049951(JP,A)
【文献】特開2003-268235(JP,A)
【文献】特開2009-256489(JP,A)
【文献】米国特許第09688881(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73、C09D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む、ポリイミド樹脂。
【化1】
[一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基である。mは、それぞれ独立して、1~5の整数である。]
【請求項2】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位として、下記式(2)~(4)で表される繰り返し単位の少なくとも1種を含む、請求項1に記載のポリイミド樹脂。
【化2】
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂と、溶媒とを含む、塗料用組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂と、中和化合物と、溶媒とを含む、電着塗料用組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の電着塗料用組成物の存在下に、物品の表面に前記ポリイミド樹脂を電着させる工程を含む、ポリイミド樹脂被膜を有する物品の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂により形成されたポリイミド樹脂被膜を有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂、塗料用組成物、電着塗料用組成物、ポリイミド樹脂被膜を有する物品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器分野等で小型化、薄膜化、高機能化に伴い絶縁性、耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性、難燃性、寸法安定性等に優れた、高機能な材料が求められている。特に、電気電子分野等の材料については、製品の安全性や信頼性を保証するために絶縁性に加え耐熱性の高い材料が求められている。
【0003】
電気電子分野において、電気伝導体としての金属製品には、通常、絶縁膜の被覆が必要となる。金属製品の表面に絶縁膜を形成する有用な手法として、電着塗装が挙げられる。電着塗装は、電着塗料を用いて通電によって金属製品等の被塗装物表面に塗料や樹脂の塗装膜を形成する方法であり、複雑な形状であっても均一に塗装できることから、電気電子機器分野等で多用されている。
【0004】
電着塗装には、カチオン電着塗装と、アニオン電着塗装とがある。カチオン電着塗装は、陰極とした被塗装物を、カチオン電着塗料組成物中に浸漬し、電圧を印加することにより、プラスに帯電した樹脂を被塗装物に付着させることで、塗装する手法である。一方、アニオン電着塗装は、陽極とした被塗装物を、アニオン電着塗料組成物中に浸漬し、電圧を印加することにより、マイナスに帯電した樹脂を被塗装物に付着させることで、塗装する手法である。
【0005】
電着塗装には、水性樹脂が用いられ、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等が一般的に用いられているが、これらの樹脂は、耐熱性に劣るという問題を有する。そこで、電着塗装に用いる水性樹脂として、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂等を用いることが試みられている。
【0006】
従来の一般的カチオン電着塗料に用いられるポリイミド樹脂は、溶剤に不溶性である。このため、その前駆体であるポリアミド酸の段階で電着塗装を行い、その後の高温処理によるポリアミド酸の脱水環化でポリイミド膜を得る必要がある。しかしながら、ポリアミド酸は不安定で分解しやすいことや、脱水環化後の膜減りが大きいことなどから、表面平滑性の高いポリイミド樹脂被膜を得るのは困難であり、実用化に多くの問題がある。
【0007】
これに対して、例えば、特許文献1には、重縮合ポリイミド樹脂、熱架橋イミド樹脂及び親水性カチオンポリマー樹脂からなる樹脂組成物であって、各樹脂の組成割合は、前記重縮合ポリイミド樹脂が5~60重量%、前記熱架橋イミド樹脂が10~80重量%、前記親水性カチオンポリマー樹脂が15~85重量%であるものが開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、及びポリアミド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の基体樹脂に、ウレア結合またはウレタン結合を介してカチオン性水和官能基が結合してなるカチオン性樹脂と、中和化合物とを含有するカチオン性樹脂組成物が開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1,2に記載のようなカチオン性樹脂組成物についても、ポリイミド樹脂被膜の表面平滑性の更なる向上が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2003-268235号公報
【文献】特開2009-256489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、表面平滑性に優れた被膜を形成し得るポリイミド樹脂を提供することを主な目的とする。また、本発明は、当該ポリイミド樹脂を用いた塗料用組成物、電着塗料用組成物、ポリイミド樹脂被膜を有する物品及びその製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含むポリイミド樹脂は、表面平滑性に優れたポリイミド樹脂被膜を形成できることを見出した。本発明は、このような知見に基づき、完成した発明である。
【0013】
【0014】
一般式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基である。mは、それぞれ独立して、1~5の整数である。
【0015】
すなわち、本発明は、下記の構成を備える発明を提供する。
項1. 下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む、ポリイミド樹脂。
【化2】
[一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基である。mは、それぞれ独立して、1~5の整数である。]
項2. 前記一般式(1)で表される繰り返し単位として、下記式(2)~(4)で表される繰り返し単位の少なくとも1種を含む、項1に記載のポリイミド樹脂。
【化3】
項3. 項1又は2に記載のポリイミド樹脂と、溶媒とを含む、塗料用組成物。
項4. 項1又は2に記載のポリイミド樹脂と、中和化合物と、溶媒とを含む、電着塗料用組成物。
項5. 項4に記載の電着塗料用組成物の存在下に、物品の表面に前記ポリイミド樹脂を電着させる工程を含む、ポリイミド樹脂被膜を有する物品の製造方法。
項6. 項1又は2に記載のポリイミド樹脂により形成されたポリイミド樹脂被膜を有する物品。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、表面平滑性に優れた被膜を形成し得るポリイミド樹脂を提供することができる。また、本発明は、当該ポリイミド樹脂を用いた塗料用組成物、電着塗料用組成物、ポリイミド樹脂被膜を有する物品及びその製造方法を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のポリイミド樹脂、塗料用組成物、電着塗料用組成物、ポリイミド樹脂被膜を有する物品及びその製造方法について、詳述する。
【0018】
なお、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0019】
1.ポリイミド樹脂
本発明のポリイミド樹脂は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含むことを特徴としている。本発明のポリイミド樹脂は、このような構成を備えていることにより、表面平滑性に優れたポリイミド樹脂被膜を形成することができる。
【化4】
【0020】
本発明のポリイミド樹脂は、一般式(1)で表される繰り返し単位を含んでいればよいが、特に好ましくは、実質的に当該繰り返し単位のみで構成されている。なお、実質的に一般式(1)で表される繰り返し単位のみで構成されているとは、本発明のポリイミド樹脂を構成する繰り返し単位のうち、95モル%以上が一般式(1)で表される繰り返し単位のみで構成されていることを意味しており、さらには、99モル%以上が一般式(1)で表される繰り返し単位のみで構成されていることが好ましい。
【0021】
一般式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基である。具体的には、2つのR1は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基である。また、4つのR2は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基である。本発明において、表面平滑性に優れたポリイミド樹脂被膜を好適に形成する観点から、2つのR1のうち少なくとも1つがメチル基又はエチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましく、2つのR1が共にメチル基及びエチル基のいずれかであることがさらに好ましく、メチル基であることが特に好ましい。同様の観点から、4つのR2のうち少なくとも1つがメチル基又はエチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましく、4つのR2が全てメチル基及びエチル基のいずれかであることがさらに好ましく、メチル基であることが特に好ましい。R1及びR2は、全てメチル基であることが特に好ましい。
【0022】
また、一般式(1)において、2つのmは、それぞれ独立して、1~5の整数である。表面平滑性に優れたポリイミド樹脂被膜を好適に形成する観点から、2つのmは、それぞれ独立して、1又は2であることが好ましい。
【0023】
表面平滑性に優れたポリイミド樹脂被膜を好適に形成する観点から、本発明のポリイミド樹脂は、一般式(1)で表される繰り返し単位として、下記式(2)~(4)で表される繰り返し単位の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【化5】
【0024】
本発明のポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸ジ無水物と、ベンゼン環の3,3’位に水酸基と4,4’にアミノ基を有するジフェニルジアミンを用い、公知のポリイミド樹脂の製造方法によって製造することができる。
【0025】
以下、本発明のポリイミド樹脂の製造方法について、具体例を用いて説明するが、以下の方法に限定されない。まず、下記反応式に示すように、例えば0~60℃の温度で、テトラカルボン酸ジ無水物と、下記式のジフェニルジアミン(ベンゼン環の3,3’位に水酸基と4,4’にアミノ基を有するジフェニルジアミン)とを、溶媒中で撹拌反応させて、下記式で表される繰り返し単位を有するポリアミド酸を得る。なお、得られたポリアミド酸の固形分濃度は、例えば5~40質量%、好ましくは10~30質量%である。
【0026】
【0027】
次に、得られたポリアミド酸を脱水閉環させるか、脱水縮合することにより、下記式で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂を得る。
【化7】
【0028】
次に、下記反応式に示すように、得られたポリアミド酸の2つの芳香環の水酸基(ベンゼン環の3,3’位に水酸基と4,4’にアミノ基を有するジフェニルジアミンに由来する)を、アミノ基(NR2)を1~5つ有する安息香酸と反応させることによって、一般式(1)で表される繰り返し単位を含む、ポリイミド樹脂が得られる。
【0029】
【0030】
本発明のポリイミド樹脂の製造に用いられる溶媒としては、有機溶媒が好ましく、特に有機極性溶媒が好ましい。有機極性溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド、ジメチルホルムアルデヒド及びジメチルサルフォキサイド(DMSO)などが挙げられる。溶媒は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
テトラカルボン酸ジ無水物と、前記ジフェニルジアミンとの反応によって得られたポリアミド酸は、公知の手法、例えば、加熱脱水閉環又は、別の成分を加えて脱水縮合することにより、ポリイミド樹脂となる。
【0032】
加熱脱水閉環する場合、例えば100~400℃、好ましくは150~350℃にて加熱することにより、ポリイミド樹脂を得ることができる。また、別の成分を加えて脱水縮合する場合には、脱水縮合剤を加えて0℃~100℃で攪拌する方法や、トリエチルアミンやピリジンなどの3級アミン類を加えて0℃~100℃で攪拌する方法がある。
【0033】
前記脱水縮合剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド(EDC)、塩酸1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド(EDC・HCl)、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)等のカルボジイミド系化合物;N,N’-カルボニルジイミダゾール(DIC)等のイミダゾール系化合物;無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸等の酸無水物;N,N’-カルボニルジ(1,2,4-トリアゾール)(CDI)、トリアジン系縮合剤、ホスホニウム系縮合剤、ウロニウム系縮合剤などが挙げられる。
【0034】
本発明のポリイミド樹脂の数平均分子量Mnとしては、特に制限されないが、ポリイミド樹脂被膜の表面平滑性を高め、さらには後述の電着塗装によって好適にポリイミド樹脂被膜を形成する観点から、下限については、好ましくは5000以上、より好ましくは8000以上が挙げられ、上限については、好ましくは15000以下、より好ましくは10000以下が挙げられる。なお、数平均分子量Mnは、GPC分析による標準ポリエチレングリコール換算の分子量である。
【0035】
2.塗料用組成物
本発明の塗料用組成物は、本発明のポリイミド樹脂と、溶媒とを含むことを特徴としている。本発明の塗料用組成物は、本発明のポリイミド樹脂を含んでおり、物品などの被塗装物の表面に塗布、乾燥させることによって、ポリイミド樹脂被膜を形成することができる。
【0036】
前述の通り、本発明のポリイミド樹脂は、表面平滑性に優れた被膜を形成することができるため、本発明の塗料用組成物を用いて表面にポリイミド樹脂被膜が形成された被塗装物は、高い表面平滑性を奏することができる。
【0037】
本発明のポリイミド樹脂の詳細については、前述の通りである。また、本発明の塗料用組成物に含まれる溶媒としては、ポリイミド樹脂を溶解又は分散させることができるものであれば特に制限されず、例えば、前述の有機極性溶媒が好適である。
【0038】
さらに、本発明の塗料用組成物には、必要に応じて、フィラー、顔料などの各種添加剤が含まれていてもよい。
【0039】
フィラーとしては、例えば、シリカ化合物、シリカアルミナ化合物、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、層状ケイ酸塩鉱物、及び窒化物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。なかでも、シリカ化合物、シリカアルミナ化合物や、層状ケイ酸塩鉱物であることが好ましい。前記層状ケイ酸塩鉱物としては、例えば、天然物または合成物の雲母、タルク、カオリン、パイロフィライト、セリサイト、バーミキュライト、スメクタイト、ベントナイト、スチーブンサイト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ノントロナイトなどが挙げられる。シリカアルミナ化合物としては、ゼオライト、ムライトなどが挙げられる。シリカ化合物としては、ワラステナイト、ガラスビーズなどが挙げられる。アルミニウム化合物としては、例えば、スピネル、水酸化アルミニウム、アルミナ水和物、酸化アルミニウム、ホウ酸アルミニウムなどが挙げられる。カルシウム化合物としては、例えば、炭酸カルシウムなどが挙げられる。窒化物としては、例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素などが挙げられる。これらフィラーは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。フィラーを用いることによって、被塗装物の表面に形成されるポリイミド樹脂被膜の絶縁寿命の向上、ガスバリア性の向上、熱伝導性の向上などが期待できる。
【0040】
本発明の塗料用組成物に含まれるポリイミド樹脂の濃度としては、好適にポリイミド樹脂被膜を形成する観点から、下限については、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上が挙げられ、上限については、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下が挙げられる。
【0041】
また、本発明の塗料用組成物を用いて形成するポリイミド樹脂被膜の厚みとしては、特に制限されないが、優れた表面平滑性を付与する観点からは、下限については、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上が挙げられ、上限については、好ましくは500μm以下、より好ましくは200μm以下が挙げられる。
【0042】
本発明の塗料用組成物は、本発明のポリイミド樹脂、前記溶媒、必要に応じて前記の各種添加剤を混合することによって製造することができる。
【0043】
3.電着塗料用組成物
本発明の電着塗料用組成物は、本発明のポリイミド樹脂と、中和化合物と、溶媒とを含むことを特徴としている。本発明のポリイミド樹脂は、その構造中に、カチオン電着塗装に必要なカチオン化部位として機能するアミノ基を有しているため、電着塗料用組成物(具体的には、カチオン電着塗料用組成物)に好適に用いることができる。すなわち、本発明の電着塗料用組成物は、本発明のポリイミド樹脂を含んでおり、物品などの被塗装物の表面にポリイミド樹脂を電着させることによって、ポリイミド樹脂被膜を形成することができる。
【0044】
すなわち、本発明の電着塗料用組成物の存在下に、物品の表面にポリイミド樹脂を電着させる工程を含む製造方法によって、ポリイミド樹脂被膜を有する物品などを製造することができる。
【0045】
前述の通り、本発明のポリイミド樹脂は、表面平滑性に優れた被膜を形成することができるため、本発明の電着塗料用組成物を用いて表面にポリイミド樹脂被膜が形成された被塗装物は、優れた表面平滑性を奏することができる。
【0046】
本発明のポリイミド樹脂の詳細については、前述の通りである。
【0047】
本発明の電着塗料用組成物に含まれるポリイミド樹脂の濃度としては、電着塗装によって好適にポリイミド樹脂被膜を形成する観点から、下限については、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上が挙げられ、上限については、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下が挙げられる。
【0048】
また、本発明の電着塗料用組成物には、カチオン化部位をカチオン化する中和化合物が含まれている。中和化合物は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
中和化合物としては、ポリイミド樹脂溶液に、例えばヨードメタン、塩酸、乳酸、酢酸、酪酸、硫酸、硝酸などを添加することで、アミノ基のN原子をカチオン化することができる。
【0050】
本発明の電着塗料用組成物に含まれる中和化合物の濃度としては、電着塗装によって好適にポリイミド樹脂被膜を形成する観点から、下限については、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上が挙げられ、上限については、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下が挙げられる。
【0051】
本発明の電着塗料用組成物に含まれる溶媒としては、ポリイミド樹脂の電着塗装に使用されるものであれば特に制限されず、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、水、テトラヒドロフラン(THF)、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、メトキシプロパノールなどの極性溶媒が挙げられる。溶媒は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
さらに、本発明の電着塗料用組成物には、必要に応じて、電気泳動助剤、前記のフィラー、顔料などの各種添加剤が含まれていてもよい。
【0053】
また、本発明の電着塗料用組成物を用いて形成するポリイミド樹脂被膜の厚みとしては、特に制限されないが、ポリイミド樹脂被膜に優れた表面平滑性を付与する観点からは、下限については、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上が挙げられ、上限については、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下が挙げられる。
【0054】
本発明の電着塗料用組成物を用いた電着塗装方法としては、公知の電着塗装方法を適用することができる。具体的には、本発明の電着塗料用組成物をカチオン電着塗料用組成物として使用してカチオン電着塗装をする場合、電着塗料用組成物に被塗装物を浸漬する工程と、被塗装物を陰極とし、陽極との間に電圧を印加して、被塗装物の表面にポリイミド樹脂被膜を電着させる工程とを含む方法によって、カチオン電着塗装を行うことができる。
【0055】
被塗装物としては、被塗装部分が導電性を有する物品等であって、例えば、銅、鉄、鋼、アルミニウムなどの金属により構成された被塗装部分を有するものが挙げられる。被塗装物の形状については、本発明の電着塗料用組成物を接触させることができれば、特に制限されない。
【0056】
カチオン電着塗装では、例えば、被塗装物を陰極とし、陽極との間に、通常、1V以上500V以下の電圧を印加して行うことができる。印加電圧が1V以上であれば十分な電着塗装が可能であり、500V以下であれば、消費電力を抑制し得、経済的である。
【0057】
本発明の電着塗料用組成物を用いてカチオン電着塗装する場合、電着塗料用組成物の温度は、例えば10~60℃である。
【0058】
本発明の電着塗料用組成物は、本発明のポリイミド樹脂と、前記中和化合物と、前記溶媒と、必要に応じて前記の各種添加剤を混合することによって製造することができる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し本発明は実施例に限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]
<ポリイミド樹脂の合成>
100mlフラスコにベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物(以下BTDA)(3.22g、10mmol)と2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(2.58g、10mmol)、およびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)50gを加え2日間攪拌した。攪拌後、5gのトルエンを加えた後に加熱、脱水してイミド化し、水100gに滴下して再沈殿を行い、ろ過後、1日乾燥させて下記式(A)で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂(A)を得た。
【0061】
【0062】
続いて、100mlフラスコにポリイミド樹脂(A)3.00g(0.055mol)と、4-ジメチルアミノ安息香酸1.98g(0.119mol)、ジシクロヘキシルカルボジミド(DCC)3.00g、およびNMP25gを加え、25℃で3時間攪拌した。その後、水100gに滴下し再沈殿を行い、ろ過を行った。ろ過後、1日乾燥させて下記式(2)で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂(1)5.82gを得た。ポリイミド樹脂は、NMR測定及びIR測定により同定した。
【0063】
【0064】
<電着塗料用組成物の調製>
ポリイミド樹脂(1)0.42gをNMP8.02gに溶解して、0.5質量%溶液を作製し、そこに乳酸を1.00g滴下し、次いでエタノール7.10g、水10gを貧溶媒として激しく攪拌しながら滴下して、カチオン電着塗料用組成物(1)を得た。
【0065】
<電着塗装>
陰極として銅板(被塗装物)、陽極としてSUS容器を使用し、カチオン電着塗料用組成物(1)に浸して100Vの電圧を印加して銅板の表面に電着塗装を行い、ポリイミド樹脂塗装物を得た。
【0066】
[比較例1]
<電着塗料用組成物の調製>
日本ペイント・インダストリアルコーティング株式会社製の「インシュリード4100F」(ポリアミドイミド 29wt%含有)を電着塗料として使用した。
<電着塗装>
陰極として銅板(被塗装物)、陽極としてSUS容器を使用し、前記のカチオン電着塗料用組成物(インシュリード4100F)に浸して150Vの電圧を印加して銅板の表面に電着塗装を行い、ポリアミドイミド樹脂塗装物を得た。
【0067】
[比較例2]
<電着塗料用組成物の調製>
株式会社シミズ製の「エレコートPI」(ポリイミド 25wt%含有)を電着塗料として使用した。
<電着塗装>
陰極として銅板(被塗装物)、陽極としてSUS容器を使用し、前記のカチオン電着塗料用組成物(エレコートPI)に浸して150Vの電圧を印加して銅板の表面に電着塗装を行い、ポリイミド樹脂塗装物を得た。
【0068】
<ポリイミド樹脂被膜の表面平滑性>
実施例1及び比較例1~2で得られたポリイミド樹脂塗装物及びポリアミドイミド樹脂塗装物に形成された被膜の表面粗さ(μm)を、以下の方法により測定して表面平滑性を評価した。結果を表1に示す。
<表面平滑性測定法>
株式会社ミツトヨ社の表面粗さ測定機(SJ-210)を用いて、上記の各被膜表面をそれぞれ3回ずつ測定し、その平均値を測定結果とした。
【0069】