(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】光活性層のための溶媒ブレンド物
(51)【国際特許分類】
H01L 51/48 20060101AFI20220510BHJP
H01L 51/40 20060101ALI20220510BHJP
H01L 51/42 20060101ALI20220510BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20220510BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
H01L31/04 182A
H01L29/28 310J
H01L31/08 T
B05D1/26 Z
B05D7/24 303E
B05D7/24 302F
(21)【出願番号】P 2018566979
(86)(22)【出願日】2017-06-23
(86)【国際出願番号】 EP2017065505
(87)【国際公開番号】W WO2017220766
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-06-18
(32)【優先日】2016-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】597063048
【氏名又は名称】ケンブリッジ ディスプレイ テクノロジー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】トビョーク,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ハギンス,ジョナサン
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-527624(JP,A)
【文献】国際公開第2016/076213(WO,A1)
【文献】特表2014-534606(JP,A)
【文献】特開2016-025181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/42-51/56
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型有機半導体、p型有機半導体、および溶媒ブレンド物を含み、前記溶媒ブレンド物が、
(a)安息香酸アルキル、安息香酸アリール、アルキルベンゾチアゾールまたはジアルコキシベンゼン;
(b)ジアルキルまたはトリアルキル置換芳香族炭化水素である第1の芳香族炭化水素;および
(c)前記第1の芳香族炭化水素とは異なる第2の芳香族炭化水素
を含む、
配合物であって、
前記第1の芳香族炭化水素が200℃より低い沸点を有し、かつ前記第2の芳香族炭化水素が200℃またはそれより高い沸点を有し、
(a)、(b)および(c)のそれぞれのハンセン溶解度パラメーターの分散および水素結合寄与度δ
D
およびδ
H
と、前記p型有機半導体のハンセン溶解度パラメーターのそれぞれの分散および水素結合寄与度δ
D
およびδ
H
の間の差異がすべて5MPa
0.5
またはそれ未満であり、
(a)、(b)および(c)のそれぞれのハンセン溶解度パラメーターの分散および水素結合寄与度δ
D
およびδ
H
と、前記n型有機半導体のハンセン溶解度パラメーターのそれぞれの分散および水素結合寄与度δ
D
およびδ
H
の間の差異がすべて5MPa
0.5
またはそれ未満である、配合物。
【請求項2】
成分(a)が、前記安息香酸アルキルまたは前記安息香酸アリールから選択される、請求項1に記載の
配合物。
【請求項3】
成分(a)が、安息香酸C
1~C
18アルキルまたは安息香酸C
6~C
18アリールエステルから選択され、前記C
6~C
18アリール基は非置換であってもよいし、またはC
1~C
12アルキル基で置換されていてもよく、
成分(b)が、C
1~C
12アルキル基から独立して選択されるものであってよいアルキル基を含むジアルキルベンゼン、またはトリアルキルベンゼンから選択され、ここで、前記アルキル基は同一であってもよいし、または異なっていてもよく、かつC
1~C
12アルキル基から選択されるものであってよく、かつ/または
成分(c)が、縮合していてもよい2つのベンゼン環を含む芳香族炭化水素である、
請求項2に記載の
配合物。
【請求項4】
前記第2の芳香族炭化水素
が200℃~300℃の間の沸点を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の
配合物。
【請求項5】
成分(a)が安息香酸ベンジルであり、
成分(b)がトリアルキルベンゼン
である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の
配合物。
【請求項6】
成分(b)がトリメチルベンゼンであり、かつ/または
成分(c)が1-メチルナフタレンまたはジフェニルメタンのいずれかから選択される、
請求項5に記載の配合物。
【請求項7】
前記安息香酸アルキルまたは安息香酸アリール、前記アルキルベンゾチアゾールまたは前記ジアルコキシベンゼンが、前記溶媒ブレンド物の全体積に基づいて、0.5~50体積
%の含有量範囲で存在する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の
配合物。
【請求項8】
前記アルキルベンゾチアゾールまたは前記ジアルコキシベンゼンが、前記溶媒ブレンド物の全体積に基づいて、0.5~30体積%の含有量範囲で存在する、請求項7に記載の配合物。
【請求項9】
前記アルキルベンゾチアゾールまたは前記ジアルコキシベンゼンが、前記溶媒ブレンド物の全体積に基づいて、1~10体積%の含有量範囲で存在する、請求項7に記載の配合物。
【請求項10】
前記第1の芳香族炭化水素が、前記溶媒ブレンド物の全体積に基づいて、30~99.4体積
%の含有量範囲で存在する、請求項1~
9のいずれか一項に記載の
配合物。
【請求項11】
前記第1の芳香族炭化水素が、前記溶媒ブレンド物の全体積に基づいて、60~99体積%の含有量範囲で存在する、請求項10に記載の配合物。
【請求項12】
前記第1の芳香族炭化水素が、前記溶媒ブレンド物の全体積に基づいて、70~98体積%の含有量範囲で存在する、請求項10に記載の配合物。
【請求項13】
前記第2の芳香族炭化水素が、前記溶媒ブレンド物の全体積に基づいて、0.1~50体積
%の含有量範囲で存在する、請求項1~
12のいずれか一項に記載の
配合物。
【請求項14】
前記第2の芳香族炭化水素が、前記溶媒ブレンド物の全体積に基づいて、0.5~30体積%の含有量範囲で存在する、請求項13に記載の配合物。
【請求項15】
前記第2の芳香族炭化水素が、前記溶媒ブレンド物の全体積に基づいて、1~20体積%の含有量範囲で存在する、請求項13に記載の配合物。
【請求項16】
成分(a)が前記アルキルベンゾチアゾールであり、かつ前記アルキルベンゾチアゾールが2-メチルベンゾチアゾールおよび4-メチルベンゾチアゾールから選択される、請求項1
~15のいずれか一項に記載の
配合物。
【請求項17】
成分(a)が前記ジアルコキシベンゼンであり、かつ1,2-ジメトキシベンゼンである、請求項1
~15のいずれか一項に記載の
配合物。
【請求項18】
前記第2の芳香族炭化水素および前記p型有機半導体
のハンセン溶解度パラメーターが、以下の関係:
0MPa
0.5≦│δD
SAH-δDp│≦2MPa
0.5、
0MPa
0.5≦│δP
SAH-δPp│≦3MPa
0.5、および
0MPa
0.5≦│δH
SAH-δHp│≦4MPa
0.5
(式中、δD
SAH、δP
SAHおよびδH
SAHは、前記第2の芳香族炭化水素の分散、極性および水素結合のハンセン溶解度パラメーターを示し、かつδD
p、δP
pおよびδH
pは、前記p型有機半導体の分散、極性および水素結合のハンセン溶解度パラメーターを示す)を満たす、請求項
1~17のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項19】
前記p型有機半導体が、共役有機ポリマーであり、かつ/または、前記n型有機半導体がフラーレンまたはフラーレン誘導体である、請求項
1~
18のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項20】
25℃でのテトラリン溶液中の前記p型有機半導体の動粘度が3.6~5.4mPa・sの範囲内である、請求項
1~
19のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項21】
溶液堆積
法における、請求項1~
20のいずれか一項に記載の
配合物の使用。
【請求項22】
前記溶液堆積法がインクジェット印刷法である、請求項21に記載の配合物の使用。
【請求項23】
アノード、カソード、および前記カソードと前記アノードとの間の光活性層を含む有機電子デバイスを製造する方法であって、溶液堆積法によって、請求項
1~
20のいずれか一項に記載の配合物を塗布して前記光活性層を形成することを含
む、方法。
【請求項24】
前記溶液堆積法がインクジェット印刷法である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
光活性薄膜または光活性層の作製のためのコーティングまたは印刷インクとしての、請求項
1~
20のいずれか一項に記載の配合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも3つの溶媒を含む溶媒ブレンド物、溶媒ブレンド物ならびにp型およびn型有機半導体を含む配合物、および、上記配合物を使用することによって有機電子デバイスならびに光活性層および膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機感光性電子デバイスは高い柔軟性を提供し、かつ低温真空蒸着または溶液処理技術を使用することによって比較的低費用で製造および加工することができるので、無機光電子デバイスの代替として新規の有機感光性電子デバイスの開発に対する関心が増している。
【0003】
有機感光性電子デバイスの例として、有機光起電デバイス(OPV)、フォトセルおよび光検出器を挙げることができる。通常、そのような有機感光性電子デバイスは、光活性層としてp-n接合を含み、p-n接合は、溶液からのドナー/アクセプターブレンド物の膜堆積によって作製され、デバイスが入射放射線を電流に変換することを可能にする。
【0004】
p型材料の典型例は、共役有機オリゴマーまたはポリマー(例えば、チオフェン、フェニレン、フルオレン、ポリアセチレン、ベンザチアジアゾール(benzathiadiazoles)およびこれらの組合せのオリゴマーまたはポリマー)である一方、フラーレンおよびフラーレン誘導体(例えば、C60PCBMおよびC70PCBM)は、n型材料として重要な役割を果たす(例えば、欧州特許出願公開第1447860号明細書を参照)。
【0005】
近年、ドナー/アクセプター溶液の調製のために使用される溶媒または溶媒混合物の選択がp-n接合の構造のマニピュレーションのために重要な役割を果たし、有機感光性電子デバイスにおける電荷輸送の増進を可能とすることが示されている。
【0006】
有機感光性電子デバイスからの光電流の最大の生成を達成するには、ドナー/アクセプター境界面からの好適な励起子拡散長を有する膜内の最適化されたドナー-アクセプター分布を有する活性層が必要とされることが想定される。
【0007】
国際公開第2011/076324号には、向上した効率を有する有機電子デバイスの作製用のインクとして使用できる有機半導体(OSC)組成物のために使用される広範囲の好適な溶媒が開示されており、溶媒は、芳香族炭化水素、芳香族エーテル、芳香族ケトン、アルキルケトン、複素環式芳香族の溶媒、ハロゲンアリーレンおよびアニリン誘導体からなる群から選択される。
【0008】
米国特許出願公開第2010/0043876号明細書には、少なくとも1つのアルキルベンゼンまたはベンゾシクロヘキサンを含む第1の溶媒と、少なくとも1つの炭素環化合物を含む第2の溶媒とのブレンド物を含む有機半導体配合物が開示されている。
【0009】
国際公開第2013/029733号には、第2の異なる溶媒を伴ってもよい、アルキル化テトラリン、アルキル化ナフタレンおよびアルキル化アニソールから選択される溶媒が、光活性層の構造をさらに調整することが提案されている。
【0010】
米国特許出願公開第2011/0156018号明細書には、ベンゾチアジアゾールおよびベンゾオキサジアゾールをベースとするポリマー配合物のための溶媒混合物として2つまたはそれより多くの溶媒を含むブレンド物を使用することが膜成形性およびデバイス特性の見地から有利であることが開示されている。
【0011】
しかしながら、好都合な光応答を有する有機感光性電子デバイスの製造のために最適化された有機半導体配合物のための従来の溶媒系は一般に不良な安定性を呈する傾向があり、それが多数の溶液堆積技術におけるそれらの応用を制限する。例えば、インク噴射塗布の間によく観察される現象はノズルの詰まりであり、これは典型的に、低周波数での長期間の噴射の間または噴射しない期間、例えば基板アライメントの間に起こるため、短い間隔での大規模なパージングおよびクリーニングステップが必要とされる。多くの場合、詰まりは非可逆的であり、溶媒パージの後でさえ回復しないことがあるノズルの完全な閉塞に繋がることさえある。
【0012】
上記に鑑みて、インクジェット印刷のために好適であると同時に優れた光電流レベルおよび効率を達成する有機感光性電子デバイスの製造を可能とするn型およびp型有機半導体を含有する安定なインクの作製を可能とする溶媒ブレンド物を提供する必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】欧州特許出願公開第1447860号明細書
【文献】国際公開第2011/076324号
【文献】米国特許出願公開第2010/0043876号明細書
【文献】国際公開第2013/029733号
【文献】米国特許出願公開第2011/0156018号明細書
【発明の概要】
【0014】
本発明は、本明細書で定義する特許請求の範囲の主題によりこれらの課題を解決する。本発明の利点を以下のセクションにおいて詳細にさらに説明し、さらなる利点は本発明の開示を考慮すれば当業者に明らかとなるであろう。
【0015】
n型およびp型有機半導体を含む配合物における特定の溶媒混合物の使用は光電流性能を与えることなく優れたインクの安定性を提供し、したがって、ノズルの詰まりが効果的に低減および抑制されるため、インクジェット印刷によって優れた効率を有する有機感光性デバイスを単純な様式で製造できることを本発明者らは見出した。
【0016】
概しては、本発明は、(a)安息香酸アルキル、安息香酸アリール、アルキルベンゾチアゾールまたはジアルコキシベンゼン;(b)ジアルキルまたはトリアルキル置換芳香族炭化水素である第1の芳香族炭化水素;および(c)第1の芳香族炭化水素とは異なる第2の芳香族炭化水素を含む溶媒ブレンド物に関する。
【0017】
第2の態様では、本発明は、上述の溶媒ブレンド物、n型有機半導体、およびp型有機半導体を含む配合物に関する。
【0018】
さらなる態様では、本発明は、アノード、カソード、およびカソードとアノードとの間の光活性層を含む有機電子デバイスを製造する方法に関し、方法は、溶液堆積法によって上述の配合物を塗布して、光活性層を形成することを含む。
【0019】
本発明の別の態様は、溶液堆積法、好ましくはインクジェット印刷法における上述の溶媒ブレンド物の使用、および、光活性薄膜または光活性層の作製のためのコーティングまたは印刷インクとしての上述の配合物の使用である。
【0020】
本発明による配合物の好ましい実施形態および本発明のその他の態様は、以下の説明および特許請求の範囲に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】従来の有機光検出デバイスの一般的構造を図式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のより完全な理解のために、これよりその例示的な実施形態の以下の説明について言及する。
【0023】
溶媒ブレンド物および半導体配合物
第1の実施形態では、本発明は、(a)安息香酸アルキル、安息香酸アリール、アルキルベンゾチアゾールまたはジアルコキシベンゼン;(b)ジアルキルまたはトリアルキル置換芳香族炭化水素である第1の芳香族炭化水素;および(c)第1の芳香族炭化水素とは異なる第2の芳香族炭化水素を含む溶媒ブレンド物に関する。溶媒ブレンド物は、優れたインクの安定性を有する半導体配合物の作製において有用であることが示された。
【0024】
安息香酸アルキルは、好ましくは安息香酸C1~C18アルキルであり、より好ましくは安息香酸C1~C12アルキル、例えば安息香酸C1~C6アルキルである。
【0025】
安息香酸アリールは、好ましくは安息香酸C6~C18アリールエステルであり、好ましくは安息香酸C6~C10アリールエステルである。アリール基は非置換であってもよいし、あるいはC1~C12アルキル基または好ましくはC1~C6アルキル基で置換されていてもよい。
【0026】
優れたn型有機半導体の溶解性の観点からの好ましい実施形態では、特にフラーレンおよび/またはフラーレン誘導体が使用される場合、成分(a)は安息香酸アルキルまたは安息香酸アリールである。好ましくは、安息香酸アルキルまたは安息香酸アリールは安息香酸ベンジルである。成分(a)がアルキルベンゾチアゾールである場合、それはメチルベンゾチアゾール、より好ましくは2-メチルベンゾチアゾールまたは4-メチルベンゾチアゾールであってもよい。成分(a)がジメトキシベンゼンである場合、それはジメトキシベンゼン、より好ましくは1,2-ジメトキシベンゼンであってもよい。
【0027】
安息香酸アルキルまたは安息香酸アリール、アルキルベンゾチアゾールまたはジアルコキシベンゼンは、溶媒ブレンド物の全体積に基づいて、好ましくは0.5~50体積%、より好ましくは0.5~30体積%、さらに好ましくは1~10体積%の含有量範囲で存在する。
【0028】
成分(b)、すなわち第1の芳香族炭化水素は、ジアルキルまたはトリアルキル置換芳香族炭化水素である。
【0029】
ジアルキル置換芳香族炭化水素は、好ましくはアルキル基を含み、アルキル基は、C1~C12アルキル基またはより好ましくはC1~C6アルキル基から独立して選択されるものであってよい。より好ましくは、ジアルキル置換芳香族炭化水素は、ジアルキルベンゼン、より好ましくはオルト-ジアルキルベンゼンであり、アルキル基は同一または異なるものであってよく、かつC1~C12アルキル基またはより好ましくはC1~C6アルキル基から選択されるものであってよい。
【0030】
好ましくは、トリアルキル置換芳香族炭化水素はトリアルキルベンゼンであり、アルキル基は同一または異なるものであってよく、かつC
1~C
12アルキル基またはより好ましくはC
1~C
6アルキル基から選択されるものであってよい。さらに好ましくは、トリアルキル置換芳香族炭化水素は、以下の一般式(I):
【化1】
【0031】
(式中、R1およびR2は独立してC1~C6アルキル基を表し、C1~C6アルキル基は互いに連結して環を形成していてもよく、かつR3は水素またはC1~C6アルキル基を表す)によって表される。
【0032】
一般式(I)による化合物の具体例としては、1,2-ジアルキルベンゼン(例えば、o-キシレン)、1,2,4-トリアルキルベンゼン(例えば、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリエチルベンゼン、1,2-ジメチル-4-エチルベンゼン)、1,2,3-トリアルキルベンゼン(例えば、1,2,3-トリメチルベンゼン、1,2,3-トリエチルベンゼン)、インダンおよびそのアルキル置換誘導体、およびテトラリンおよびそのアルキル置換誘導体を挙げることができる。好ましい実施形態では、ジアルキルまたはトリアルキル置換芳香族炭化水素はトリアルキルベンゼン、より好ましくはトリメチルベンゼン、さらに好ましくは1,2,4-トリメチルベンゼンである。
【0033】
第1の芳香族炭化水素は、溶媒ブレンド物の全体積に基づいて、好ましくは30~99.4体積%、好ましくは60~99体積%、より好ましくは70~98体積%の含有量範囲で用いられる。
【0034】
成分(c)、すなわち第2の芳香族炭化水素は、好ましくは、縮合していてもよい2つのベンゼン環を示し、例えば、ナフタレンおよびアルキルナフタレンおよびジフェニルアルカンなどである。より好ましくは、第2の芳香族炭化水素は、1-メチルナフタレンまたはジフェニルメタンのいずれかから選択される。
【0035】
第2の芳香族炭化水素は、溶媒ブレンド物の全体積に基づいて、0.1~50体積%、好ましくは0.5~30体積%、より好ましくは1~20体積%の含有量範囲で存在することが好ましい。
【0036】
好ましくは、第1の芳香族炭化水素は、-30℃未満、例えば-80℃~-40℃の融点を呈し、かつ/または、第2の芳香族炭化水素は、-30℃またはそれより高い、例えば-25℃~+20℃の融点を呈する。沸点の特徴について、第1の芳香族炭化水素は200℃より低い沸点を有してもよい。第2の芳香族炭化水素は、200℃またはそれより高い沸点、より好ましくは200℃~300℃の沸点を、さらに好ましくは160またはそれ未満、例えば120またはそれ未満、または80またはそれ未満の相対蒸発速度(DIN 53170:2009~08;酢酸ブチル=100にしたがって決定される)との組合せで有することが好ましく、それにより、噴射中の第1の芳香族炭化水素の蒸発による損失が半導体(典型的にp型有機半導体)の沈殿を引き起こさないことを確実にし、それによってノズルの詰まりをさらに低減する。
【0037】
溶媒ブレンド物は成分(a)、(b)および(c)からなることが好ましいことがあるが、溶剤混合物は、1つまたは複数のさらなる溶媒を含んでもよい。上記さらなる溶媒は、n型OSCおよびp型OSCのいずれかまたは両方が0.2mg/mlまたはそれより大きい溶解度で可溶性である液体成分であってよい。そのような追加の溶媒は特に限定されず、当業者によって適切に選択され得る。その例としては、直鎖状または環状ケトン(例えば、シクロヘキサノン)、芳香族および/または脂肪族エーテル(例えば、アニソール)、芳香族アルコール、置換されていてもよいチオフェン、ベンゾチオフェン、アルコキシル化ナフタレン、安息香酸アルキル、塩素化溶媒(例えば、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジクロロベンゼンまたはクロロホルム)およびこれらの混合物を挙げることができる。別の好ましい実施形態では、追加の溶媒は、溶媒の全体積に対して3体積%未満、より好ましくは2体積%未満の全含有量で含まれる。しかしながら、環境に優しいという観点からは、組成物は塩素化溶媒を含有しないことが好ましい。
【0038】
第2の実施形態では、本発明は、n型有機半導体、p型有機半導体、および上記の第1の実施形態による溶媒ブレンド物を含む配合物に関する。
【0039】
p型有機半導体は特に限定されず、有機ポリマー、オリゴマーおよび小分子などの、当業者に公知のおよび文献に記載された標準的な電子供与性材料から適切に選択することができる。好ましい実施形態では、p型有機半導体は、共役有機ポリマーを含み、これはホモポリマーまたは交互、ランダムもしくはブロックコポリマーなどのコポリマーであり得る。非結晶性または半結晶性の共役有機ポリマーが好ましい。 例示的なp型OSCポリマーとしては、ポリアセン、ポリアニリン、ポリアズレン、ポリベンゾフラン、ポリフルオレン、ポリフラン、ポリインデノフルオレン、ポリインドール、ポリフェニレン、ポリピラゾリン、ポリピレン、ポリピリダジン、ポリピリジン、ポリトリアリールアミン、ポリ(フェニレンビニレン)、ポリ(3-置換チオフェン)、ポリ(3,4-二置換チオフェン)、ポリセレノフェン、ポリ(3-置換セレノフェン)、ポリ(3,4-二置換セレノフェン)、ポリ(ビスチオフェン)、ポリ(テルチオフェン)、ポリ(ビスセレノフェン)、ポリ(テルセレノフェン)、ポリチエノ[2,3-b]チオフェン、ポリチエノ[3,2-b]チオフェン、ポリベンゾチオフェン、ポリベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン、ポリイソチアナフタレン、ポリ(一置換ピロール)、ポリ(3,4-二置換ピロール)、ポリ-1,3,4-オキサジアゾール、ポリイソチアナフタレン、これらの誘導体およびコポリマーなどの共役の炭化水素または複素環ポリマーから選択されるポリマーを挙げることができる。p型有機半導体の好ましい例は、それぞれ置換されていてもよいポリフルオレンとポリチオフェンとのコポリマー、および、それぞれ置換されていてもよいベンゾチアジアゾールベースおよびチオフェンベースの繰返し単位を含むポリマーである。p型有機半導体は複数の電子供与性材料の混合物からなるものであってもよいことが理解される。
【0040】
n型有機半導体もまた特に限定されず、当業者に公知の電子受容性材料から好適に選択することができ、また、複数の電子受容性材料の混合物からなるものであってもよい。その例としては、n型共役ポリマー、フラーレンおよびフラーレン誘導体を挙げることができる。好ましくは、n型有機半導体は、C60、C70、C96、PCBM型フラーレン誘導体(C60PCBMおよびC70PCBMなど)、TCBM型フラーレン誘導体(例えば、トリル-C61-酪酸メチルエステル(C60TCBM))、ThCBM型フラーレン誘導体(例えば、チエニル-C61-酪酸メチルエステル(C60ThCBM)などの、フラーレンおよび/またはフラーレン誘導体の単一種または混合物である。フラーレン誘導体のさらなる例としては、国際公開第2004/073082号、米国特許出願公開第2011/0132439号明細書、国際公開第2015/036075号、および米国特許出願公開第2011/0132439号明細書に開示されたものを挙げることができる。
【0041】
配合物中に存在するp型材料対n型材料の比は、当業者によってルーチンに決定することができる。比は、好ましくは10:1~1:10、より好ましくは4:1~1:4、特に好ましくは1:1~1:3である。
【0042】
噴射の安定性と効率との優れたバランスの観点から、p型有機半導体は、好ましくは、1~30mPa・sの範囲内、より好ましくは3~6mPa・sの範囲、さらに好ましくは3.6~5.4mPa・s、例えば3.7~4.1mPa・sの範囲のテトラリン溶液中25℃での動粘度を呈するように選択される。25℃での動粘度は、p型有機半導体をテトラリン(テトラヒドロナフタレン)中に約0.6重量%のp型有機半導体濃度を有する溶液を提供するように溶解し、溶液を45℃~85℃の間の温度で12~20時間攪拌し、加熱後少なくとも1時間25℃に溶液を保ち、粘度計(例えば、ブルックフィールド粘度計)を使用して25℃での動粘度を測定することによって測定することができる。p型有機半導体が有機ポリマーの場合、その重量平均または数平均分子量を適切に選択して所望の動粘度を有する配合物を得ることができる。好ましくは、p型ポリマーの重量平均分子量Mwは100,000未満、より好ましくは30,000~95,000の範囲内、さらに好ましくは50,000~85,000の範囲内である。 最終のインク配合物、すなわち、n型有機半導体、p型有機半導体および溶媒ブレンド物を含む配合物の25℃での動粘度は特に限定されず、典型的には0.1~10mPa・sの範囲内、多くの場合0.5~2mPa・sの範囲内である。
【0043】
好ましくは、溶媒ブレンド物中のn型およびp型材料の総濃度は、0.1~2.5w/v%、より好ましくは0.5~1.8w/v%の範囲内である。
【0044】
一般に、ドナーおよびアクセプターの相対溶解度および溶媒の沸点は、高効率を達成するためのインク配合物を設計する時の重要なパラメーターと考えられる。
【0045】
効率および光電流は、ドナー材料およびアクセプター材料の両方を可溶化するために通常良好である主溶媒およびアクセプターまたはドナーのいずれかについて良好な溶解度を通常達成するより高い沸点の添加物を含めることによって制御されると考えられる。
【0046】
p型およびn型有機半導体の相対溶解度による好適な溶媒の選択は、例えば、ハンセン溶解度パラメーター(HSP)のような公知のパラメーターの使用を通じて達成することができる。ハンセン溶解度パラメーターは、HansenおよびAbbotらによって提供されるHSPiPプログラム(バージョン4.1または5.0)にしたがって決定することができる。ハンセンパラメーターの値およびその計算に関する詳細は、C.M.Hansenによる「Hansen Solubility Parameters:A User’s Handbook」、第2版、2007年、Taylor and Francis Group LLCに見出すことができる。それに限定されるものではないが、本発明の配合物の有機半導体のそれぞれのハンセン溶解度パラメーターは、好ましくは以下の範囲内である:p型半導体の分散寄与度δD(P)は好ましくは17~22MPa0.5の範囲内であり、p型半導体の極性寄与度δP(P)は好ましくは0~7MPa0.5、より好ましくは0~3MPa0.5の範囲内であり、かつp型半導体の水素結合寄与度δH(P)は好ましくは0~6MPa0.5、より好ましくは0~3MPa0.5の範囲内である。n型半導体の分散寄与度δD(N)は好ましくは17~21MPa0.5の範囲内であり、n型半導体の極性寄与度δP(N)は好ましくは0~7MPa0.5、より好ましくは3~7MPa0.5の範囲内であり、n型半導体の水素結合寄与度δH(N)は好ましくは0~8MPa0.5、より好ましくは3~6MPa0.5の範囲内である。
【0047】
安息香酸アルキルまたは安息香酸アリール、アルキルベンゾチアゾールまたはジアルコキシベンゼン、第1の芳香族炭化水素、および第2の芳香族炭化水素は、それらのハンセン溶解度パラメーターがp型またはn型有機半導体の少なくとも1つに合致することにより、それらの分散、極性および水素結合の寄与度δD、δPおよびδHの間の差異が5MPa0.5またはそれ未満、より好ましくは3MPa0.5またはそれ未満、よりいっそう好ましくは2MPa0.5またはそれ未満であるように選択されることが好ましい。
【0048】
好ましい実施形態では、第2の芳香族炭化水素およびp型有機半導体のハンセン溶解度パラメーターは、以下の関係を満たす:
0MPa0.5≦│δD(SAH)-δD(P)│≦5MPa0.5;
0MPa0.5≦│δP(SAH)-δP(P)│≦5MPa0.5;および
0MPa0.5≦│δH(SAH)-δH(P)│≦5MPa0.5;
またはより好ましくは以下の関係を満たす:
0MPa0.5≦│δDSAH-δDp│≦2MPa0.5;
0MPa0.5≦│δPSAH-δPp│≦3MPa0.5;および
0MPa0.5≦│δHSAH-δHp│≦4MPa0.5;
(式中、δD(SAH)、δP(SAH)およびδH(SAH)は、第2の芳香族炭化水素の分散、極性および水素結合のハンセン溶解度パラメーターを示し、δD(P)、δP(P)およびδH(P)は、p型有機半導体の分散、極性および水素結合のハンセン溶解度パラメーターを示す)。
【0049】
配合物は、n型有機半導体、p型有機半導体および溶媒ブレンド物に加えて、さらなる成分を含んでもよい。そのような成分の例としては、粘着剤、消泡剤、脱気剤、粘度増強剤、希釈剤、助剤、流動性向上剤 着色剤、染料または色素、増感剤、安定化剤、ナノ粒子、表面活性化合物、潤滑剤、湿潤剤、分散剤および阻害剤を挙げることができる。
【0050】
上に特定した第1および第2の実施形態の好ましい特徴は、特徴の少なくとも一部が互いに排他的である組合せを除いて、任意の組合せで組み合わせることができることが理解されるであろう。
【0051】
上に定義した配合物は、溶液堆積用途のために有利に高い安定性を有する光活性層および膜の溶液堆積のための出発材料として働き、有機感光性デバイス、特に、優れた効率を有する光検出器のより迅速かつより精密な製造を可能とする。
【0052】
有機感光性電子デバイスおよびその製造方法
第3の実施形態では、本発明は、溶液堆積法における第1の実施形態による溶媒ブレンド物の使用に関し、溶液堆積法としては、例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、ウェブ印刷、刷毛コーティング、ディップコーティング、スロットダイ印刷、インクジェット印刷、活版印刷、スクリーン印刷、ドクターブレードコーティング、ローラー印刷、オフセットリソグラフィー印刷、フレキソ印刷、またはパッド印刷のようなコーティングまたは印刷またはマイクロディスペンシングの方法が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、溶液堆積法は、本発明の第4の実施形態に関して以下にさらに詳細に論じるように、インクジェット印刷法である。
【0053】
すなわち、第4の実施形態では、本発明は、アノード、カソード、およびカソードとアノードとの間の光活性層を含む有機電子デバイスを製造する方法に関し、方法は、溶液堆積法によって上記の第2の実施形態による配合物を塗布して光活性層を形成することを含む。
【0054】
有機電子デバイスは、例えば有機フォトダイオードなどの、p-n有機半導体接合を含む層を必要とする任意の有機電子デバイスまたは部品であってよい。典型的に、有機電子デバイスは有機感光性電子デバイスであり、これは例えば、光起電デバイスまたは太陽電池、光導電セルまたは光検出器であってよく、これらのそれぞれは、所望の目的に応じて単一デバイスとしてまたはアレイとして作動することができる。
【0055】
有機感光性電子デバイスの典型的な一般的構造を
図1に図式的に示す。ここで、通常高仕事関数材料からなるアノード2は、可視光線を通す材料から作られた基板1に堆積される。典型的なアノード材料としては、酸化インジウムスズ(ITO)およびインジウム亜鉛酸化物(IZO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AlZnO)などの導電性金属酸化物、および金属(例えば、金)が挙げられる一方、ガラスまたはプラスチックは基板材料として従来使用されている。アノード2と、金属(例えば、Ag、Ag:Mg)または金属酸化物から作られていてもよいカソード4との間に、いわゆるバルクヘテロ接合を含む光活性層3が第1の実施形態による配合物の溶液堆積によって形成される。コンタクト5がアノード2とカソード4との間に設けられ、これは、例えば生成された光応答を測定するために、バイアス電圧供給源および検出器(例えば、検出回路としてバイアス電圧供給源と直列で接続された、電流計または読出しデバイス)を含んでもよい。
【0056】
本発明による配合物は、任意の好適な選択的溶液堆積法によって有機感光性電子デバイスの基板または部品に塗布することができ、方法としては、以下に限定されないが、例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、ウェブ印刷、刷毛コーティング、ディップコーティング、スロットダイ印刷、インクジェット印刷、吐出印刷、活版印刷、スクリーン印刷、ドクターブレードコーティング、ローラー印刷、オフセットリソグラフィー印刷、フレキソ印刷、またはパッド印刷のようなコーティングまたは印刷またはマイクロディスペンシングの方法が挙げられるが、選択的溶液堆積法は、本発明の利点を完全に活かすためにインクジェット印刷法(連続インクジェット印刷またはドロップ・オン・デマンド(DOD)インクジェット印刷法など)であることが好ましい。
【0057】
インクジェット印刷は、一般に、チャンバからノズルを通じて小滴の形態の一定量の液体相、すなわちインクの排出を伴う。排出された滴が基板に提供されてパターンを形成する。液滴の凝固は化学的変化または結晶化を通じてもたらされ得るが、溶媒蒸発が通常使用され、これは場合によっては、好ましくは印刷直後に、堆積されたウェットフィルムを高温および/または低減された圧力に曝露することによって為される。
【0058】
従来法では、ノズルの詰まりおよび閉塞のリスクを避けるために噴射感覚を短く設定しなければならない。本発明の方法は、詰まりのリスクが著しく低減されるという利点を有し、それにより、アイドル状態の周波数、すなわち、50Hzより低い、典型的には20Hzよりも低いことさえある周波数(5~10Hzの範囲内など)での安定な作動が可能となる。さらに、レイテンシー/デキャップ時間(すなわち、再びノズルの噴射を行う前にヘッドをパージしなくてもインクが非噴射のままであることができる時間)が、従来の有機半導体配合物の使用と比べた時に有利に増加し得る。
【0059】
乾燥した光活性層または膜の厚さは、好ましくは10nm~3μm、より好ましくは20nm~2μm、例えば50nm~600nmである。さらなる好ましい実施形態では、乾燥した層の膜の厚さは80~250nmの範囲内である。
【0060】
光活性層または膜は均質であってもよいし、あるいは相分離して、p型材料対n型材料の比が異なっていてもよい異なる相を含有してもよい。光活性層は、光活性層の厚さ全体を通じてある程度均一な比を有していてもよいし、あるいはp型材料対n型材料の比は光活性層の厚さ全体を通じて徐々にまたは段階的に変化してもよい。
【0061】
本発明の配合物において使用される溶媒ブレンド物は、結果としてもたらされる光活性層の均一性および構造に決定的な影響を及ぼすので、後者は特徴的な特性(例えば、質感および/または相分布)を呈することに留意すべきである。また、高い沸点(例えば、200℃またはより高い)を有する溶媒の残留量は、大規模な乾燥後においてさえ活性層に見出されることがあり、したがって独特の構造的特性に寄与することがある。
【0062】
[実施例]
インク安定性試験
n型有機半導体としてC
70PCBMおよび構造式(1)によるp型有機半導体を含む配合物(2:1の比、溶媒中w/vで1%の濃度)のインク噴射の安定性を異なる溶媒ブレンド物を使用して試験した:
【化2】
【0063】
試験したインク配合物を構成する材料を表1に示す:
【表1】
【0064】
[比較例1]
最初に、トリメチルベンゼンおよび安息香酸ベンジルからなる溶媒ブレンド物(9:1)中に上記で特定したn型およびp型有機導体(1%のw/v)を含むOPDインクを作製し、Fujifilm Dimatix社より入手可能な8pL SX3印字ヘッド(27μmのノズル直径)および35pL SE3印字ヘッド(42μmのノズル直径)を使用してその噴射安定性を評価した。
【0065】
[実施例1]
90:5:5の体積比でトリメチルベンゼン、安息香酸ベンジルおよびジフェニルメタンを含む溶媒ブレンド物を使用した以外は比較例1と同様にして、OPDインクを作製し、評価した。
【0066】
両方の種類の印字ヘッドを使用して50Hzの周波数で比較例1の組成物を噴射したところ、数時間または最大数日以内にノズルの詰まりが観察され、印字ヘッドに利用可能な128のノズルのうち1つより多くのノズルがそれ以上噴射しなくなり、その後に非可逆的なノズル閉塞のリスクが増加した。しかしながら、3成分溶媒ブレンド物としてジフェニルメタンを加えた場合、最大3日より長く噴射させたままとした時に(5~10Hzまで噴射周波数を落としてさえ)、詰まりは観察されなかった。2種類のインクについての噴射安定性の差異を下記の表2に要約する。
【表2】
【0067】
低周波数での(「スタンドバイ」モードでの)安定なアイドル噴射のための時間は、比較例1によるインクを用いるよりも3成分溶媒ブレンド物で実質的により長いことが判明した。再びノズルの噴射を行う前にヘッドをパージしなくてもインクが非噴射のままであることができる時間であるレイテンシー/デキャップ時間も、実施例1の組成物で有意により良好であることが判明した。
【0068】
デバイスの性能試験
さらなる一連の実験では、異なる溶媒系を含む有機半導体配合物をスピンコーティングによるデバイス積層物の作製に使用した。
【0069】
具体的には、以下の構成を有するデバイス積層物を作製した:
トラッキング領域の100nmのMoCrと共にガラス上のアノードとしての光パターニングしたGeomaticの45nmのITO
50nmのNissanのNDHIL層
100nmのスピンコーティングした光活性層
200nmの蒸発させたAgカソード
ゲッターを用いたガラス封止
1:2の重量比の構造式(1)によるp型有機半導体およびC70PCBM乾燥物を合わせ、窒素環境中で24mg/mlの濃度の溶媒ブレンド物を加えることによって光活性層の配合を作った。次いで、攪拌しながらこの溶液を14時間80℃に加熱した。次いで、溶液を8分間冷却させ、直後にスピンコーティング用のシリンジに引き入れた。ガラスシリンジ、2μmのガラスフィルターおよび針を用いてスピンコーティングを行った。
【0070】
基板を溶液に完全に浸した後、500~1000rpm(1000rpmの加速度)の速度および6秒の継続時間で単一のスピン相(蓋+ジャイロセットのカバー)を使用してスピン処理を適用した。
【0071】
次いで、コーティングした基板を、Vacucel真空オーブン中で5分間、80℃の温度、5×10-2ミリバール未満の真空圧力で乾燥させた。
【0072】
乾燥後、カソードプロセスのための堆積ツールに投入するために窒素充填グローブボックスに膜を移した。この移送中に膜を真空下のチャンバに短時間置いた。
【0073】
次いで、カソードを堆積した後、窒素環境中でデバイスを封入した。次いで、試験の準備でデバイスのスクライビングおよびピニングを行った。
【0074】
試験手順は、密封した試験箱の内側でのキャリブレーションしたLED(λ=525nm)による各OPD素子の照明、および平均光電流の測定(活性のデバイス面積=1mm
2)を伴った。選択した波長は、バイオセンサーへの応用に有用であると考えられる。光検出器の外部量子効率(EQE)は、式:
【数1】
【0075】
(式中、Iは平均光電流、Pは光検出器に入ってくる波長λの単色光のパワー、hはプランク定数、eは電子電荷、およびcは真空中の光速である)に基づいて算出した。
【0076】
[比較例2]
比較例2では、1,2,4-トリメチルベンゼンと安息香酸ベンジルとのブレンド物(9:1)を溶媒系として使用した。結果として、49.2nA/mm2の平均光電流が測定された(EQE=44.1%)。2回目の測定で48.3nA/mm2の値が得られた(EQE=43.3%)。
【0077】
ドナー材料およびアクセプター材料と、アクセプターにとって良好な溶解度を達成するがドナーの非溶媒であるより高い沸点の添加物(この場合、安息香酸ベンジル)との両方を可溶化するために良好である主溶媒(この場合、1,2,4-トリメチルベンゼン)を含めることによって高い効率は制御されると考えられる。
【0078】
[実施例2]
1,2,4-トリメチルベンゼンと安息香酸ベンジルとジフェニルメタンとのブレンド物(85:5:10)を実施例2の溶媒系として使用した。49.8nA/mm2(EQE=44.7%)の平均光電流が測定され、これは、ジフェニルメタン(成分(c))の追加はデバイスの効率に負の提供を及ぼさないことを実証する。反対に、外部量子効率は、比較例2で測定されたよりもさらにわずかに高い。
【0079】
[実施例3~6]
別のシリーズの実験では、本発明による異なる組成物を、以下の構成を有するインクジェット印刷されたデバイスにおいて試験した:
トラッキング領域の100nmのMoCrと共にガラス上のアノードとしての光パターニングしたGeomaticの45nmのITO
インクジェット印刷した50nmのNissanのPN7-B1層
インクジェット印刷した光活性層
200nmの蒸発させたAgカソード
ゲッターを用いたガラス封止
1:2の重量比の構造式(1)によるp型有機半導体およびC70PCBM乾燥物を合わせ、窒素環境中で9.8mg/mlの濃度の溶媒ブレンド物を加えることによって光活性層の配合を作った。次いで、攪拌しながらこの溶液を14時間80℃に加熱した。次いで、真空下での超音波処理プロセスを使用して溶液を1時間脱気した後、Litrexインクジェットプリンターに搭載した。10~100Hzの噴射周波数で連続的に数時間プリンターを噴射させたままとした後、デバイスへの印刷を行った。
【0080】
インクジェット印刷したデバイス(有効デバイス面積=1mm2)の平均光電流を測定し、比較例2および実施例2に関して上記に概要を述べたのと同じようにEQEを算出した。
【0081】
試験した組成物のそれぞれについての測定の結果を表3に示す。
【表3】
【0082】
本発明の組成物を使用することによって作製したデバイスの外部量子効率は、1,2,4-トリメチルベンゼンおよび安息香酸ベンジルの2つの溶媒のHSPiPに最適化されたブレンド物を使用して光活性層がスピンコーティングされた比較例2によるデバイスに匹敵するレベルを達成することが分かる。
【0083】
したがって、本発明による有機半導体配合物は、低い噴射周波数においてさえ、インク噴射用途のために向上した安定性を呈し、高品質の光活性薄膜または光活性層を提供するために使用できると同時に、優れた光電流レベルを達成する有機感光性電子デバイスの製造を可能とすることができる。
【0084】
p型半導体に依存する測定
最終シリーズの実験では、異なる重量平均分子量で構造式(1)によるp型ポリマーを使用して、テトラリン溶液中の異なる動粘度を有するp型半導体を含むインク配合物を調製し、試験した。25℃での動粘度は、p型有機半導体をテトラリン(テトラヒドロナフタレン)中に0.6重量%のp型有機半導体濃度を有する溶液を提供するように溶解し、溶液を50℃で16時間攪拌し、加熱後約4時間25℃に溶液を保ち、ブルックフィールド粘度計(モデルDV2TLV CP;スピンドルCPA-40Z;回転速度30rpm;0.70mLの液体;3回の測定)を使用して25℃での動粘度を測定することによって測定した。次いで、異なるp型ポリマーをC70PCBMと1:2の重量比で、および90:5:5(0.98w/v%)の体積比でトリメチルベンゼン、安息香酸ベンジルおよびジフェニルメタンからなる溶媒ブレンド物と合わせて、実施例7~15によるインク配合物を得た。
【0085】
インク配合物を濾過性および噴射安定性(実施例1による)に関して試験し、インク配合物を使用してOPDデバイス(それぞれ1mm
2の有効デバイス面積を有する)を実施例2にしたがって製造した。その後、相対効率を光電流性能(実施例2を参照)に基づいて比較した。評価の結果を表3に示し、ここで「++」は非常に良好、「+」は良好、および「ο」は許容される性能を示す。
【表4】
【0086】
上記に示すように、噴射安定性と光電流との好都合なバランスが実施例9~13で観察される。理想的な結果が実施例9および10で得られ、p型有機半導体は、テトラリン溶液中25℃で3.9および4.1mPa・sの動粘度を呈する。
【0087】
上記の開示を与えられれば、多くのその他の特徴、改変、および改良が当業者に明らかとなるであろう。
【符号の説明】
【0088】
1 基板層
2 アノード
3 光活性層
4 カソード
5 コンタクト