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特許7069077放射線画像処理装置及びその作動方法並びに放射線画像処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】放射線画像処理装置及びその作動方法並びに放射線画像処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20220510BHJP
【FI】
A61B6/00 350M
A61B6/00 350S
A61B6/00 350A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019066182
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020162857
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001988
【氏名又は名称】特許業務法人小林国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 知幸
【審査官】宮川 数正
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-051081(JP,A)
【文献】特開2016-198176(JP,A)
【文献】特開2017-189379(JP,A)
【文献】特開2017-185080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線が照射された被写体を、放射線検出部にて撮影することにより得られる放射線画像を取得する画像取得部と、
前記放射線画像のうち、前記放射線が前記被写体を透過して前記放射線検出部に到達した被写体領域と、前記放射線が前記被写体を透過せずに前記放射線検出部に直接的に到達した直接放射線領域を検出して領域検出画像を得る領域検出部と、
前記領域検出画像と、散乱線の広がりに関する散乱線広がり情報とに基づいて、散乱線成分に関する散乱線画像を得る散乱線画像取得部と、
前記放射線画像から前記散乱線画像を減算することにより、散乱線成分除去済みの放射線画像を得る散乱線成分除去部と
前記被写体領域と前記直接放射線領域との境界位置を特定幅分だけ調整する境界位置調整部を備え、
前記特定幅は前記被写体の体厚分布に基づいて定められ、
前記散乱線成分除去部は、前記境界位置調整後の前記散乱線画像と、散乱線の広がりに関する散乱線広がり情報とに基づいて、前記散乱線画像を得る放射線画像処理装置。
【請求項2】
前記領域検出部は、前記放射線画像の画素値が領域用閾値未満の領域を前記被写体領域とし、前記放射線画像の画素値が前記領域用閾値以上の領域を前記直接放射線領域として検出する請求項1記載の放射線画像処理装置。
【請求項3】
前記放射線の線量と、画素値の飽和が無く、且つ、前記散乱線の影響を考慮した場合に得られる非飽和の画素値である非飽和散乱線画素値との関係を示す非飽和散乱線画素値用関係を参照して、前記被写体に対して照射した前記放射線の線量である撮影線量に対応する非飽和散乱線画素値を求める直接放射線領域画素値算出部と、
前記散乱線画像のうち前記直接放射線領域の画素値を前記非飽和散乱線画素値に置き換える画素値置換部とを有し、
前記非飽和散乱線画素値用関係は、前記撮影線量を含む撮影条件毎に、直接放射線領域用テーブルに予め定められており、
前記直接放射線領域画素値算出部は、前記直接放射線領域用テーブルを参照して、前記被写体を撮影する際の撮影条件に対応するいずれかの非飽和散乱線画素値用関係を使用する、又は、前記被写体を撮影する際の撮影条件を満たす複数の非飽和散乱線画素値用関係を組み合わせて使用し、
前記散乱線成分除去部は、前記放射線画像から、前記非飽和散乱線画素値に置換後の前記散乱線画像を減算する請求項2記載の放射線画像処理装置。
【請求項4】
前記直接放射線領域の画素値が画素値用閾値を上回っている場合、又は、前記放射線の線量が線量用閾値を上回っている場合に、前記境界位置の調整を行う請求項1ないし3いずれか1項記載の放射線画像処理装置。
【請求項5】
前記特定幅は、記被写体の撮影方法、前記放射線の線量、又は、撮影メニュー情報の少なくとも一つに基づいて、定められる請求項1ないし4いずれか1項記載の放射線画像処理装置。
【請求項6】
前記特定幅は、前記放射線画像のうち前記境界位置の近傍の画素値に基づいて、定められる請求項1ないし4いずれか1項記載の放射線画像処理装置。
【請求項7】
前記散乱線広がり情報は、撮影条件毎に、散乱線広がり情報用テーブルに予め定められており、
前記散乱線画像取得部は、前記散乱線広がり情報用テーブルを参照して、前記被写体を撮影する際の撮影条件に対応するいずれかの散乱線広がり情報を使用する、又は、前記被写体を撮影する際の撮影条件を満たす複数の散乱線広がり情報を組み合わせて使用する請求項1ないしいずれか1項記載の放射線画像処理装置。
【請求項8】
前記被写体領域は、前記放射線、前記被写体、及び、前記被写体が載置される天板をそれぞれ透過して、前記放射線検出部に入射する領域であり、
前記直接放射線領域は、前記放射線が前記天板を透過して前記放射線検出部に入射する領域であり、
前記散乱線広がり情報は、前記天板のいずれかの点に入射した前記放射線による前記散乱線の二次元的な広がりを定めた関数である請求項1ないしいずれか1項記載の放射線画像処理装置。
【請求項9】
画像取得部が、放射線が照射された被写体を、放射線検出部にて撮影することにより得られる放射線画像を取得するステップと、
領域検出部が、前記放射線画像のうち、前記放射線が前記被写体を透過して前記放射線検出部に到達した被写体領域と、前記放射線が前記被写体を透過せずに前記放射線検出部に直接的に到達した直接放射線領域を検出して領域検出画像を得るステップと、
散乱線画像取得部が、前記領域検出画像と、散乱線の広がりに関する散乱線広がり情報とに基づいて、散乱線成分に関する散乱線画像を得るステップと、
散乱線成分除去部が、前記放射線画像から前記散乱線画像を減算することにより、散乱線成分除去済みの放射線画像を得るステップと
前記被写体領域と前記直接放射線領域との境界位置を特定幅分だけ調整するステップとを有し、
前記特定幅は前記被写体の体厚分布に基づいて定められ、
前記散乱線成分除去部は、前記境界位置調整後の前記散乱線画像と、散乱線の広がりに関する散乱線広がり情報とに基づいて、前記散乱線画像を得る放射線画像処理装置の作動方法。
【請求項10】
画像取得部が、放射線が照射された被写体を、放射線検出部にて撮影することにより得られる放射線画像を取得する画像取得処理と、
領域検出部が、前記放射線画像のうち、前記放射線が前記被写体を透過して前記放射線検出部に到達した被写体領域と、前記放射線が前記被写体を透過せずに前記放射線検出部に直接的に到達した直接放射線領域を検出して領域検出画像を得る領域検出処理と、
散乱線画像取得部が、前記領域検出画像と、散乱線の広がりに関する散乱線広がり情報とに基づいて、散乱線成分に関する散乱線画像を得る散乱線画像取得処理と、
散乱線成分除去部が、前記放射線画像から前記散乱線画像を減算することにより、散乱線成分除去済みの放射線画像を得る散乱線成分除去処理と、
前記被写体領域と前記直接放射線領域との境界位置を特定幅分だけ調整する処理とををコンピュータに実行させる場合に、
前記特定幅は前記被写体の体厚分布に基づいて定められ、
前記散乱線成分除去部は、前記境界位置調整後の前記散乱線画像と、散乱線の広がりに関する散乱線広がり情報とに基づいて、前記散乱線画像を得る放射線画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線で照射された被写体を撮像して得られる放射線画像を画像処理する放射線画像処理装置及びその作動方法並びに放射線画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野においては、放射線で照射された被写体を放射線検出部で撮像して得られる放射線画像を用いた診断が行われている。被写体を透過して放射線検出部に到達する放射線には、一次線の他に、被写体のコントラスト低下の原因となる散乱線が含まれる。したがって、放射線画像から散乱線の成分を除去することによって、コントラスト低下を防ぐことが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、散乱線を除去するために使用が想定されるグリッドの種類に応じた仮想グリッド特性を取得し、仮想グリッド特性に基づいて、放射線画像の散乱線を除去している。また、特許文献2では、グリッドを使用して被写体を撮影した放射線画像に対して、使用したグリッドとは異なる仮想的なグリッドの特性に基づいて、グリッドを使用した場合の放射線画像から散乱線を除去することにより、実際に使用する散乱線除去グリッドと同様の散乱線除去の効果を放射線画像に付与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6006193号
【文献】特許6006454号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
散乱線の成分としては、被写体を透過した放射線に基づく被写体領域の散乱線の他に、被写体を透過せずに、直接的に放射線検出部に到達した放射線に基づく直接放射線領域の散乱線が含まれる。直接放射線領域の散乱線は、被写体と放射線検出部との間に設けられる天板から発生する。このような直接放射線領域の散乱線についても、放射線画像のコントラストを低下させる一因となる。直接放射線領域の散乱線の除去等については、特許文献1及び2のいずれにも記載及び示唆されていない。
【0006】
本発明は、被写体を透過せずに、直接的に放射線検出部に到達した放射線に基づく直接放射線領域の散乱線を推定し、除去することができる放射線画像処理装置及びその作動方法並びに放射線画像処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の放射線画像処理装置は、放射線が照射された被写体を、放射線検出部にて撮影することにより得られる放射線画像を取得する画像取得部と、放射線画像のうち、放射線が被写体を透過して放射線検出部に到達した被写体領域と、放射線が被写体を透過せずに放射線検出部に直接的に到達した直接放射線領域を検出して領域検出画像を得る領域検出部と、領域検出画像と、散乱線の広がりに関する散乱線広がり情報とに基づいて、散乱線成分に関する散乱線画像を得る散乱線画像取得部と、放射線画像から散乱線画像を減算することにより、散乱線成分除去済みの放射線画像を得る散乱線成分除去部と、被写体領域と直接放射線領域との境界位置を特定幅分だけ調整する境界位置調整部を備え、特定幅は被写体の体厚分布に基づいて定められ、散乱線成分除去部は、境界位置調整後の散乱線画像と、散乱線の広がりに関する散乱線広がり情報とに基づいて、散乱線画像を得る。
【0008】
領域検出部は、放射線画像の画素値が領域用閾値未満の領域を前記被写体領域とし、放射線画像の画素値が前記領域用閾値以上の領域を前記直接放射線領域として検出することが好ましい。放射線の線量と、画素値の飽和が無く、且つ、散乱線の影響を考慮した場合に得られる非飽和の画素値である非飽和散乱線画素値との関係を示す非飽和散乱線画素値用関係を参照して、被写体に対して照射した放射線の線量である撮影線量に対応する非飽和散乱線画素値を求める直接放射線領域画素値算出部と、散乱線画像のうち直接放射線領域の画素値を非飽和散乱線画素値に置き換える画素値置換部とを有し、非飽和散乱線画素値用関係は、撮影線量を含む撮影条件毎に、直接放射線領域用テーブルに予め定められており、直接放射線領域画素値算出部は、直接放射線領域用テーブルを参照して、被写体を撮影する際の撮影条件に対応するいずれかの非飽和散乱線画素値用関係を使用する、又は、被写体を撮影する際の撮影条件を満たす複数の非飽和散乱線画素値用関係を組み合わせて使用し、散乱線成分除去部は、放射線画像から、非飽和散乱線画素値に置換後の散乱線画像を減算する。
【0009】
非飽和散乱線画素値用関係は、撮影条件毎に、直接放射線領域用テーブルに予め定められており、直接放射線領域画素値算出部は、直接放射線領域用テーブルを参照して、被写体を撮影する際の撮影条件に対応するいずれかの非飽和散乱線画素値用関係を使用する、又は、被写体を撮影する際の撮影条件を満たす複数の非飽和散乱線画素値用関係を組み合わせて使用することが好ましい。
【0010】
被写体領域と直接放射線領域との境界位置を特定幅分だけ調整する境界位置調整部を備え、散乱線画像取得部は、境界位置調整後の前記散乱線画像と、散乱線の広がりに関する散乱線広がり情報とに基づいて、散乱線画像を得ることが好ましい。直接放射線領域の画素値が画素値用閾値を上回っている場合、又は、放射線の線量が線量用閾値を上回っている場合に、境界位置の調整を行うことが好ましい。
【0011】
特定幅は、被写体の部位、被写体の撮影方法、放射線の線量、又は、撮影メニュー情報の少なくとも一つに基づいて、定められることが好ましい。特定幅は、放射線画像のうち境界位置の近傍の画素値に基づいて、定められることが好ましい。
【0012】
散乱線広がり情報は、撮影条件毎に、散乱線広がり情報用テーブルに予め定められており、散乱線画像取得部は、散乱線広がり情報用テーブルを参照して、被写体を撮影する際の撮影条件に対応するいずれかの散乱線広がり情報を使用する、又は、被写体を撮影する際の撮影条件を満たす複数の散乱線広がり情報を組み合わせて使用することが好ましい。
【0013】
被写体領域は、放射線、被写体、及び、被写体が載置される天板をそれぞれ透過して、放射線検出部に入射する領域であり、直接放射線領域は、放射線が天板を透過して放射線検出部に入射する領域であり、散乱線広がり情報は、天板のいずれかの点に入射した放射線による散乱線の二次元的な広がりを定めた関数であることが好ましい。
【0014】
本発明の放射線画像処理装置の作動方法は、画像取得部が、放射線が照射された被写体を、放射線検出部にて撮影することにより得られる放射線画像を取得するステップと、領域検出部が、放射線画像のうち、放射線が被写体を透過して放射線検出部に到達した被写体領域と、放射線が被写体を透過せずに放射線検出部に直接的に到達した直接放射線領域を検出して領域検出画像を得るステップと、散乱線画像取得部が、領域検出画像と、散乱線の広がりに関する散乱線広がり情報とに基づいて、散乱線成分に関する散乱線画像を得るステップと、散乱線成分除去部が、放射線画像から散乱線画像を減算することにより、散乱線成分除去済みの放射線画像を得るステップと、被写体領域と直接放射線領域との境界位置を特定幅分だけ調整するステップとを有し、特定幅は被写体の体厚分布に基づいて定められ、散乱線成分除去部は、境界位置調整後の散乱線画像と、散乱線の広がりに関する散乱線広がり情報とに基づいて、散乱線画像を得る。
【0015】
本発明の放射線画像処理プログラムは、画像取得部が、放射線が照射された被写体を、放射線検出部にて撮影することにより得られる放射線画像を取得する画像取得処理と、領域検出部が、放射線画像のうち、放射線が被写体を透過して放射線検出部に到達した被写体領域と、放射線が被写体を透過せずに放射線検出部に直接的に到達した直接放射線領域を検出して領域検出画像を得る領域検出処理と、散乱線画像取得部が、領域検出画像と、散乱線の広がりに関する散乱線広がり情報とに基づいて、散乱線成分に関する散乱線画像を得る散乱線画像取得処理と、散乱線成分除去部が、放射線画像から散乱線画像を減算することにより、散乱線成分除去済みの放射線画像を得る散乱線成分除去処理と、被写体領域と直接放射線領域との境界位置を特定幅分だけ調整する処理とををコンピュータに実行させる場合に、特定幅は被写体の体厚分布に基づいて定められ、散乱線成分除去部は、境界位置調整後の散乱線画像と、散乱線の広がりに関する散乱線広がり情報とに基づいて、散乱線画像を得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被写体を透過せずに、直接的に放射線検出部に到達した放射線に基づく直接放射線領域の散乱線を推定し、除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】放射線画像撮影システムの概略図である。
図2】放射線画像処理装置の機能を示すブロック図である。
図3】放射線画像を示す画像図である。
図4】特定ライン部分の領域検出画像を示す説明図である。
図5】PSF(Point Spread Function)を示すグラフある。
図6】領域検出画像及びPSFから得られる特定ライン部分の散乱線画像を示す説明図である。
図7】特定ライン部分の体厚分布を示す
図8】本発明の一連の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示すように、放射線画像撮影システムは撮影装置10とコンピュータ12を備え、エネルギー分布が異なる2つの放射線画像を取得する。撮影装置10は、放射線源13から発せられ、被写体Hを透過した放射線(例えば、X線)を、天板14を介して、第1の放射線検出器15及び第2の放射線検出器16で受ける場合において、第1の放射線検出器15及び第2の放射線検出器16はそれぞれ放射線のエネルギーで変えて受け取る(1ショットエネルギーサブトラクション)。撮影時においては、放射線源13から近い側から順に、天板14、第1の放射線検出器15、銅板等からなる放射線エネルギー変換フィルタ17、及び第2の放射線検出器16を配置して、放射線源13を駆動させる。なお、第1及び第2の放射線検出器15,16と放射線エネルギー変換フィルタ17とは密着している。また、第1の放射線検出器15及び第2の放射線検出器16を含む装置が、本発明の「放射線検出部」に対応する。
【0019】
これにより、第1の放射線検出器15においては、いわゆる軟線を含む低エネルギーの放射線による被写体Hの第1の放射線画像G1が得られる。また、第2の放射線検出器16においては、軟線が除かれた高エネルギーの放射線による被写体Hの第2の放射線画像G2が得られる。第1及び第2の放射線画像G1、G2は、コンピュータ12に入力される。コンピュータ12においては、第1及び第2の放射線画像G1、G2に基づいて演算処理(差分処理)等を行うことにより、被写体Hに含まれる軟部及び骨部等が強調された放射線画像が得られる。なお、本実施形態においては、被写体Hの撮影時には、被写体Hを透過した放射線の散乱線成分を除去する散乱線除去グリッドを使用する場合には、第1の放射線画像G1及び第2の放射線画像G2には、被写体Hを透過した放射線の一次線成分が含まれる。一方、被写体Hの撮影時に、散乱線除去グリッドを使用しない場合には、第1及び第2の放射線画像G1、G2には放射線の一次線成分及び散乱線が含まれる。
【0020】
第1及び第2の放射線検出器15、16は、放射線画像の記録及び読み出しを繰り返して行うことができ、放射線の照射を直接受けて電荷を発生する、いわゆる直接型の放射線検出器を用いてもよい。もしくは、第1及び第2の放射線検出器15、16は、放射線を一旦可視光に変換し、その可視光を電荷信号に変換する、間接型の放射線検出器を用いてもよい。放射線画像信号の読出方式としては、TFT(Thin Film Transistor)スイッチをオン・オフさせることによって放射線画像信号が読み出される、いわゆる光読出方式を用いることが好ましい。
【0021】
コンピュータ12には表示部18及び入力部19が接続されている。表示部18は、CRT(Cathode Ray Tube)あるいは液晶ディスプレイ等からなり、撮影によって取得された放射線画像等を表示する。入力部19は、キーボード、マウスあるいはタッチパネル等からなる。
【0022】
コンピュータ12には、放射線画像処理プログラムがインストールされている。コンピュータ12は、操作者が直接操作するワークステーションあるいはパソコンでもよいし、それらとネットワークを介して接続されたサーバコンピュータでもよい。被写体情報取得プログラムは、DVD(Digital Versatile Disc)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等の記録媒体に記録されて配布され、その記録媒体からコンピュータ12にインストールされる。もしくは、ネットワークに接続されたサーバコンピュータの記憶装置、あるいはネットワークストレージに、外部からアクセス可能な状態で記憶され、要求に応じてコンピュータ12にダウンロードされ、インストールされる。
【0023】
図2は、コンピュータ12に放射線画像処理プログラムをインストールすることにより実現された放射線画像処理装置30の概略構成を示している。放射線画像処理装置30は、CPU(Central Processing Unit)21、メモリ22、及びストレージ23を備えている。ストレージ23は、ハードディスクまたはSSD(Solid State Drive)等のストレージデバイスからなり、撮影装置10の各部を駆動するためのプログラムおよび取得プログラムを含む各種情報が記憶されている。また、撮影により取得された放射線画像も記憶される。
【0024】
メモリ22には、各種処理をCPU21に実行させるために、ストレージ23に記憶されたプログラム等が一時的に記憶される。被写体情報取得プログラムは、CPU21に実行させる処理として、撮影装置10に撮影を実行させて、放射線画像を取得する画像取得処理、放射線画像のうち、放射線が被写体を透過して放射線検出部に到達した被写体領域と、放射線が被写体を透過せずに放射線検出部に直接的に到達した直接放射線領域を検出して領域検出画像を得る領域検出処理と、領域検出画像と、散乱線の広がりに関する散乱線広がり情報とに基づいて、散乱線成分に関する散乱線画像を得る散乱線画像取得処理と、放射線画像から散乱線画像を減算することにより、散乱線成分除去済みの放射線画像を得る散乱線成分除去処理を規定する。
【0025】
なお、本実施形態においては、CPU21が放射線画像処理プログラムによって、各部の機能を実行するようにしているが、ソフトウェアを実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサとしては、CPU21の他、FPGA (Field Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)を用いることができる。また、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等により、各部の処理を実行するようにしてもよい。
【0026】
1つの処理部は、これら各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種または異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、またはCPUとFPGAの組み合わせ等)で構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアントおよびサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアとの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等
に代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサを1つ以上用いて構成される。
【0027】
さらに、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)である。
【0028】
放射線画像処理装置30は、画像取得部31と、領域検出部32と、散乱線画像取得部33と、直線放射線領域画素値算出部34と、画素値置換部35と、境界位置調整部36と、散乱線成分除去部37とを備えている。
【0029】
画像取得部31は、第1及び第2の放射線検出器15、16によって検出された第1及び第2の放射線画像G1、G2を取得する。本実施形態では、被写体Hの胸部から腹部を撮影して、胸部から腹部についての第1及び第2の放射線画像G1、G2を取得する。第1及び第2の放射線画像G1、G2は、エネルギーサブトラクション処理などが施されることにより、被写体に含まれる軟部及び骨部等が強調された放射線画像が得られる。この放射線画像に対して、領域検出処理等が施されて、表示部18の表示に用いられる。なお、第1又は第2の放射線画像は、エネルギーサブトラクション処理などを施すことなく、領域検出処理等を行ってもよい。なお、放射線画像処理装置30とは別体の外部の装置から第1及び第2の放射線画像G1、G2を取得してストレージ23に保存するようにしてもよい。この場合、画像取得部31は、ストレージ23に保存された第1及び第2の放射線画像G1、G2の処理のためにストレージ23から読み出す。
【0030】
画像取得部31によって第1及び第2の放射線画像を取得する際には、撮影線量、菅電圧、天板の厚さ14、放射線源13と第1及び第2の放射線検出器15、16の表面との距離であるSID(Source Image receptor Distance)、放射線源13と被検体Hの表面との距離であるSOD(Source Object Distance)、散乱線グリッドの種別、フィルタ種別、又は、散乱線除去グリッドの有無などの少なくともいずれかを含む撮影条件が設定される。撮影条件は、操作者による入力部19からの入力により設定することが好ましい。設定された撮影条件は、ストレージ23に保存される。
【0031】
領域検出部32は、放射線画像Gのうち、放射線が被写体Hを透過して第1及び第2の放射線検出器15、16に到達した被写体領域と、放射線が被写体Hを透過せずに、天板14のみを透過して、第1及び第2の放射線検出器15、16に直接的に到達した直接放射線領域を検出して領域検出画像を得る。具体的には、図3に示すように、領域検出部32は、放射線画像Gの画素値が領域用閾値未満の領域を被写体領域RHとして検出し、放射線画像Gの画素値が領域用閾値以上の領域を直接放射線領域RDとして検出する。例えば、領域検出画像を、被写体領域RHを「0」とし、直接放射線領域を「1」とする二値化画像とした場合には、放射線画像Gの特定ラインLsでは、図4に示すような分布が得られる。なお、領域検出は、領域用閾値を用いずに、AI(Artificial Intelligence)処理によって行うようにしてもよい。
【0032】
なお、領域用閾値は、撮影条件毎に定められており、被写体Hを撮影する際の撮影条件に対応する領域用閾値を用いることが好ましい。また、領域検出処理は、第1の放射線画像G1又は第2の放射線画像G2のうちのいずれか一方に対して行ってもよい。
【0033】
散乱線画像取得部33は、領域検出画像と、散乱線の広がりに関する散乱線広がり情報とに基づいて、散乱線成分に関する散乱線画像を得る。散乱線成分除去部37は、放射線画像Gから散乱線画像を減算することにより、散乱線成分除去済みの放射線画像を得る。散乱線成分除去済みの放射線画像は、表示部18に表示される。
【0034】
散乱線画像取得部33で用いられる散乱線広がり情報としては、例えば、天板14のいずれかの点(入射点)に入射した放射線による散乱線の二次元的な広がりを定めた関数であるPSF(Point Spread Function)が用いられる。PSFは、図5に示すように、山型の形状を有しており、放射線の入射点に対応する中心部CPは一次線成分であり「0」となる一方、中心部CPに近いほど大きく、中心部CPから離れるにつれて小さくなっている。PSFは、撮影条件毎に定められており、被写体Hを撮影する際の撮影条件に対応するPSFを用いることが好ましい。
【0035】
なお、散乱線広がり情報は、撮影条件毎に、散乱線広がり情報用テーブル33aに予め定められている。散乱線画像取得部33は、散乱線広がり情報用テーブル33aを参照して、被写体Hを撮影する際の撮影条件に対応するいずれかの散乱線広がり情報を使用する、又は、被写体Hを撮影する際の撮影条件を満たす複数の散乱線広がり情報を組み合わせて使用する。また、散乱線広がり情報は、特定の手順で撮影した画像情報を用いて算出することが好ましい。また、散乱線広がり情報は、パラメータに基づいて生成することが好ましい。また、散乱線広がり情報は、事前に算出した情報の入力により得られることが好ましい。
【0036】
そして、散乱線画像取得部33では、領域検出画像とPSFと畳み込む以下の式(1)に基づく演算によって、散乱線成分を含む散乱線画像を得る。
式(1):散乱線画像=領域検出画像*PSF(ただし、*は畳み込み演算子)
散乱線画像では、直接放射線領域の散乱線成分の画素値を、放射線画像Gの直接放射線領域の画素値をそのまま用いてもよいが、放射線画像の直接放射線領域の画素値は飽和(第1及び第2の放射線検出器15、16の撮像センサが受光可能な画素値を超える)していることが多い。そのため、散乱線画像の直接放射線領域の画素値として、画素値の飽和が無く、且つ、散乱線の影響を考慮した非飽和の画素値である非飽和散乱線画素値を理論的に算出し、この理論的に算出した非飽和散乱線画素値を散乱線画像の直接放射線領域の画素値に置き換えることが好ましい。
【0037】
直接放射線領域画素値算出部34は、放射線の線量と、画素値の飽和が無く、且つ散乱線の影響を考慮した場合に得られる非飽和の画素値である非飽和散乱線画素値との関係を示す非飽和散乱線画素値用関係を参照して、撮影線量に対応する非飽和散乱線画素値を算出する。そして、画素値置換部35は、直接放射線領域の画素値を非飽和散乱線画素値に置き換える。具体的には、図6に示すように、式(1)に基づく演算により得られた散乱線画像において、直接放射線領域RDの画素値を、直接放射線領域画素値算出部34にて求めた非飽和散乱線画素値に置換する。
【0038】
非飽和散乱線画素値用関係は、撮影条件毎に、直接放射線領域用テーブル34aに予め定められている。直接放射線領域画素値算出部34は、直接放射線領域用テーブル34aを参照して、被写体Hを撮影する際の撮影条件に対応するいずれかの非飽和散乱線画素値用関係を使用する、又は、被写体Hを撮影する際の撮影条件を満たす複数の非飽和散乱線画素値用関係を組み合わせて使用する。また、非飽和散乱線画素値は、例えば、式(2)に基づいて算出することが好ましい。
式(2):非飽和散乱線画素値=画素値の飽和が無い場合に得られる非飽和画素値×直接放射線領域の散乱線含有率
【0039】
上記したように、領域検出部32では、領域用閾値を用いて、被写体領域と直接放射線領域を区別しているが、領域用閾値で検出した直接放射線領域には、被写体のうち皮膚に近い軟部領域を透過した領域も含まれる場合がある。このような軟部領域からも散乱線が出ているとした場合には、放射線画像Gから散乱線画像を減算処理した場合には、過剰に散乱線成分を除去することになる。そのため、被写体領域と直接放射線領域との境界位置を特定幅分だけ調整できるようにし、境界位置を調整後の領域検出画像と散乱線広がり情報とに基づいて、散乱線画像を得るようにする。
【0040】
境界位置調整部36は、被写体領域と直接放射線領域との境界位置を特定幅分だけ調整する。境界位置の調整は、直接放射線領域の画素値が画素値用閾値を上回っている場合、又は、放射線の線量が線量用閾値を上回っている場合に、行うことが好ましい。また、特定幅は、被写体の部位、被写体の撮影方法、放射線の線量、又は、撮影メニュー情報の少なくとも一つに基づいて、定められることが好ましい。ここで、撮影メニュー情報とは、ユーザーによって設定が可能な撮影条件に関する情報であり、撮影メニュー情報を表示部18に表示し、ユーザーが入力部19を操作することによって、撮影メニュー情報に表示されたいずれかの撮影条件が設定される。また、特定幅は、放射線画像のうち境界位置の近傍の画素値に基づいて、定められることが好ましい。
【0041】
具体的には、被写体の部位のうち被写体の形状、即ち、被写体の体厚分布から特定幅を定める場合には、図7の特定ラインLs部分の体厚分布に示すように、領域用閾値で検出した直接放射線領域のうち体厚が「0」を超える部分Pxを、特定幅とする。この部分Pxに対応する特定幅分だけ境界位置BPを調整することにより、被写体領域が特定幅分だけ広がる一方、直接放射線領域が特定幅分だけ狭まる。また、特定幅を境界位置の近傍の画素値に基づいて定める場合には、境界位置の画素と、境界位置から特定範囲にある画素であって画素値が特定範囲を有する近傍画素との画素間距離に基づいて、特定幅を定めることが好ましい。
【0042】
次に、本実施形態において行われる処理について、図8のフローチャートに沿って、説明する。画像取得部31は、放射線が照射された被写体Hを、第1及び第2の放射線検出器15,16を含む放射線検出部で撮影することによって得られる放射線画像を取得する。放射線画像としては、エネルギー分布がそれぞれ異なる第1及び第2の放射線画像G1、G2を取得することが好ましい。
【0043】
次に、領域検出部32は、放射線画像のうち、放射線が被写体Hを透過して放射線検出部に到達した被写体領域と、放射線が被写体Hを透過せずに放射線検出部に直接的に到達した直接放射線領域を検出して、領域検出画像を得る。散乱線画像取得部33は、領域検出画像と、散乱線の広がりに関する散乱線広がり情報とに基づいて、散乱線成分に関する散乱線画像を得る。散乱線成分除去部37は、放射線画像から散乱線画像を減算することにより、散乱線成分除去済みの放射線画像を得る。散乱線成分除去済みの放射線画像は、表示部18に表示される。
【0044】
なお、上記実施形態では、1ショットエネルギーサブトラクションによって第1及び第2の放射線画像G1、G2を取得しているが、それぞれエネルギー分布が異なる放射線を、異なるタイミングで、前記被写体に透過させて、1つの放射線検出部で検出する2ショット法により、第1及び第2の放射線画像G1、G2を取得してもよい。2ショット法の場合には、第1の放射線画像G1を取得した際の撮影条件、又は、第2の放射線画像G2を取得した際の撮影条件のいずれを用いてもよい。また、2ショット法の場合、被写体Hの体動により、第1の放射線画像G1及び第2の放射線画像G2に含まれる被写体Hの位置がずれる可能性がある。そのため、第1の放射線画像G1及び第2の放射線画像G2において、被写体の位置合わせを行うことが好ましい。
【0045】
例えば、第1および第2の放射線画像G1,G2のそれぞれについての、周波数帯域が異なる構造物を表す複数の第1の帯域画像および複数の第2の帯域画像を生成し、対応する周波数帯域の第1の帯域画像および第2の帯域画像における、互いに対応する位置の位置ずれ量を取得し、位置ずれ量に基づいて第1の放射線画像G1と第2の放射線画像G2との位置合わせを行う。
【符号の説明】
【0046】
10 撮影装置
12 コンピュータ
13 放射線源
14 天板
15 第1の放射線検出器
16 第2の放射線検出器
17 放射線エネルギー変換フィルタ
18 表示部
19 入力部
21 CPU
22 メモリ
23 ストレージ
30 放射線画像処理装置
31 画像取得部
32 領域検出部
33 散乱線画像取得部
33a 散乱線広がり情報用テーブル
34 直線放射線領域画素値算出部
34a 直接放射線領域用テーブル
35 画素値置換部
36 境界位置調整部
37 散乱線成分除去部
RH 被写体領域
RD 直接放射線領域
H 被写体
G 放射線画像
Ls 特定ライン
CP 中心部
BP 境界位置
Px 特定幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8