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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】導電性接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/00 20060101AFI20220510BHJP
   C09J 9/02 20060101ALI20220510BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20220510BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20220510BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20220510BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J9/02
C09J11/08
C09J11/04
H01B1/22 D
H01B1/00 K
H01B1/00 L
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019529749
(86)(22)【出願日】2018-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2018026104
(87)【国際公開番号】W WO2019013231
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2017135202
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小堀 航洋
(72)【発明者】
【氏名】今井 祥人
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛史
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/013230(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/063931(WO,A1)
【文献】特開2015-162392(JP,A)
【文献】特許第5872545(JP,B2)
【文献】特開平07-057805(JP,A)
【文献】特開2004-124160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
H01B1/00-1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径分布のD50が0.5~10μmの金属粒子(a1)と粒子径分布のD50が10~200nmの銀粒子(a2)とを含む導電性フィラー(A)と、
ナイロン12、ナイロン11、もしくはナイロン6、又はこれらの混合物からなる25℃において固体状の熱可塑性樹脂の粒子(B)と、
を含有する導電性接着剤組成物であって、
前記導電性接着剤組成物の全体量に対する、前記金属粒子(a1)の含有量が35~85質量%、前記銀粒子(a2)の含有量が5~50質量%、前記熱可塑性樹脂の粒子(B)の含有量が0.1~10質量%、バインダ樹脂の含有量が10質量%以下である、導電性接着剤組成物。
【請求項2】
前記金属粒子(a1)の主成分が銀である請求項1に記載の導電性接着剤組成物。
【請求項3】
前記金属粒子(a1)と前記銀粒子(a2)との含有比率が、質量比で95:5~40:60の範囲である請求項1または2に記載の導電性接着剤組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂の融点が、50~300℃の範囲である請求項1~のいずれか1項に記載の導電性接着剤組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂の粒子(B)の粒子径分布のD50が1~30μmである請求項1~のいずれか1項に記載の導電性接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の導電性接着剤組成物を硬化した、導電性接着剤硬化物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の導電性接着剤組成物を部品の接着に使用した電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品において、半導体素子をリードフレーム等の支持部材に接着・接合するためのダイボンド材として、導電性接着剤組成物が用いられている。導電性接着剤組成物には、高い電気伝導性を有することから銀粉や銅粉等の金属粉が一般的に用いられており、これらを含む接着剤や焼結により接着するペースト状の接着剤に関する報告が多くなされている。
【0003】
ここで、近年小型化・高機能化された電子部品、例えば、パワーデバイス又は発光ダイオード(LED)に対する需要が急速に拡大しており、電子部品の小型化が進行するに伴い、半導体素子の発熱量は増大傾向にある。ところが、半導体素子は、高温環境に長時間さらされると、本来の機能を発揮することができなくなり、また、寿命が低下することになる。そのため、ダイボンド材には半導体素子から発生した熱を支持部材に効率よく逃がすために、高い熱伝導率が求められており、その要求水準は上昇を続けている。
【0004】
導電性接着剤において、上述の要請から熱伝導性を向上させるために、導電性フィラーとして、従来から用いられていたマイクロメートルオーダーの金属粒子に加え、ナノメートルオーダーの金属粒子を用いる技術が報告されている。
【0005】
例えば、特許文献1において、平均粒径が2~20μm、タップ密度(TD)が2.0~7.0g/cm、かつ、炭素含有化合物の含有割合が0.5質量%以下であるフレーク状銀粉と、平均粒径が10~500nmである銀ナノ粒子と、熱硬化性樹脂と、を含有することを特徴とする導電性ペーストが報告されている。
【0006】
また、特許文献2において、銀粉、銀微粒子、脂肪酸銀、及びアミンを含み、前記銀粉は、平均粒径が0.3μm~100μmであり、前記銀微粒子は、1次粒子の平均粒子径が50~150nmであり、結晶子径が20~50nmであり、かつ、結晶子径に対する平均粒子径の比が1~7.5であり、さらに、銀レジネートを含む、熱伝導性組成物が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2015-162392号公報
【文献】日本国特許第5872545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先述のようなマイクロメートルオーダーの金属粒子にナノメートルオーダーの金属粒子を加えた導電性接着剤組成物の硬化物は、緻密な焼結構造を形成しているが、それでもなおその硬化物中には空隙が存在する。このような硬化物が上記のような半導体素子の発熱による温度変化を繰り返し受けた場合、ネッキング構造を形成していた金属が空隙に接する面積を減らして表面エネルギーを低下させる方向に移動し、その結果金属が成長する場合がある。一般に、マイクロメートルオーダーの金属粒子にナノメートルオーダーの金属粒子を加えた導電性接着剤組成物の硬化物は、その緻密な結晶構造に起因して応力緩和性能が低いが、上記のような金属の成長が生じた場合、金属の移動に伴い接着界面付近に大きな空隙が生じること等に起因し、応力緩和性能がさらに低下することとなる。このような場合、被接着材料同士の線熱膨張率の差により生じる応力によって、被接着材料の剥離が生じやすくなるという問題がある。
【0009】
また、導電性接着剤組成物においては導電性や熱伝導率を向上させるために、導電性接着剤組成物内の金属成分の含有率を高くして充填密度を高めることが行われている。特許文献1、及び2においても、導電性接着剤組成物の全体量に対して、マイクロメートルオーダー、ナノメートルオーダーの金属粒子をあわせて80%以上含むような導電性接着剤組成物が実施例において開示されている。しかし、このような金属含有率が高い導電性接着剤組成物の硬化物は一般的に応力緩和性能が低く、上述の剥離が特に生じやすい。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みて発明されたものであり、その目的は、熱伝導性に優れ、さらに繰り返し温度変化を受けた場合にも被接着材料の剥離が生じにくい導電性接着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究した結果、平均粒径0.5~10μmの金属粒子と平均粒径10~200nmの銀粒子とを含む導電性フィラーと、25℃において固体状の熱可塑性樹脂の粒子とを含有する導電性接着剤組成物によって、熱伝導性に優れ、かつ繰り返し温度変化を受けた場合にも被接着材料の剥離が生じにくい接着を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の導電性接着剤組成物は平均粒径0.5~10μmの金属粒子(a1)と、平均粒径10~200nmの銀粒子(a2)とを含む導電性フィラー(A)と、25℃において固体状の熱可塑性樹脂の粒子(B)とを含有する。
【0013】
本発明の一態様に係る導電性接着剤組成物は、前記金属粒子(a1)の主成分が銀である。
【0014】
本発明の一態様に係る導電性接着剤組成物は、導電性接着剤組成物の全体量に対して、前記金属粒子(a1)を35~85質量%、前記銀粒子(a2)を5~50質量%の範囲で含有する。
【0015】
本発明の一態様に係る導電性接着剤組成物は、金属粒子(a1)と前記銀粒子(a2)との含有比率が、質量比で95:5~40:60の範囲である。
【0016】
本発明の一態様に係る導電性接着剤組成物は、熱可塑性樹脂の融点が、50~300℃の範囲である。
【0017】
本発明の一態様に係る導電性接着剤組成物は、熱可塑性樹脂の粒子(B)の平均粒径が1~30μmである。
【0018】
本発明の一態様に係る導電性接着剤組成物は、導電性接着剤組成物の全体量に対して、前記熱可塑性樹脂の粒子(B)を0.1~10質量%の範囲で含有する。
【0019】
また、本発明の導電性接着剤硬化物は、前記いずれか1の導電性接着剤組成物を硬化したものである。
【0020】
また、本発明の電子機器は、前記いずれか1の導電性接着剤組成物を部品の接着に使用したものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の導電性接着剤組成物は、平均粒径0.5~10μmの金属粒子(a1)と、平均粒径10~200nmの銀粒子(a2)とを含む導電性フィラー(A)を含有することを特徴とし、このことにより熱伝導率を向上させている。また、25℃において固体状の熱可塑性樹脂の粒子(B)を含有することにより、ナノメートルオーダーの銀粒子を含有することに起因する、繰り返し温度変化を受けた場合における被接着材料の剥離発生の可能性の上昇を抑制している。このことから、本発明の導電性接着剤は、熱伝導性に優れ、さらに繰り返し温度変化を受けた場合にも被接着材料の剥離が生じにくいものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を実施するための形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。また、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値、及び上限値として含む意味で使用される。
【0023】
また、本明細書において金属粒子(a1)および25℃において固体状の熱可塑性樹脂の粒子(B)の平均粒子径はレーザー回折・散乱式粒度分析計を用いて測定された粒子径分布の50%平均粒子径(D50)とする。例えば、日機装株式会社製のレーザー回折・散乱式粒度分析計MT-3000を用いて測定することができる。銀粒子(a2)の平均粒子径は動的光散乱法を用いて測定された粒子径分布の50%平均粒子径(D50)とする。例えば、日機装株式会社製のナノトラック粒子分布測定装置を用いて測定することができる。
【0024】
[導電性フィラー(A)]
本発明における導電性フィラー(A)は、平均粒径0.5~10μmの金属粒子(a1)と、平均粒径10~200nmの銀粒子(a2)とを含むものである。
【0025】
<金属粒子(a1)>
本発明における金属粒子(a1)の平均粒径は0.5~10μmであり、好ましくは0.6~8μmであり、より好ましくは0.7~7μm、さらに好ましくは0.8~6μmである。金属粒子(a1)の平均粒子径が0.5μm未満であると、導電性接着剤組成物の硬化後の収縮が抑制されなくなるため被接着材料との密着性が低下してしまう。金属粒子(a1)の平均粒子径が10μmを超えると金属粒子(a1)の焼結が進みにくく被接着材料との密着性が低下してしまう。
【0026】
本発明における金属粒子(a1)は、導電性接着剤における導電性に寄与する成分であれば特に制限されない。中でも、金属やカーボンナノチューブ等が好ましい。金属としては、一般的な導体として扱われる金属の粉末は全て利用することができる。例えば、銀、銅、金、ニッケル、アルミニウム、クロム、白金、パラジウム、タングステン、モリブデン等の単体、これら2種以上の金属からなる合金、これら金属のコーティング品、これら金属の酸化物、あるいはこれら金属の化合物で良好な導電性を有するもの等が挙げられる。中でも、酸化しづらく熱伝導性が高いことから、銀を主成分とする金属がより好ましい。ここで「主成分」とは、金属粒子中の成分の中で、最も含有量の多い成分のことをさす。
【0027】
金属粒子(a1)のタップ密度は、特に限定されないが、被接着材料への接着強度を確保するために、4g/cm以上であることが好ましく、5g/cm以上であることがより好ましく、5.5g/cm以上であることがさらに好ましい。また、導電性接着剤組成物を長期保管した際に金属粒子(a1)が沈降し不安定になることを防ぐために、8g/cm以下であることが好ましく、7.5g/cm以下であることがより好ましく、7g/cm以下であることがさらに好ましい。タップ密度は、例えばJIS規格Z2512:2012の金属粉-タップ密度測定方法により測定され算出される。
【0028】
金属粒子(a1)の比表面積は、特に限定されないが、0.1~3m/gであることが好ましく、より好ましくは0.2~2m/gであり、さらに好ましくは0.3~1m/gである。金属粒子(a1)の比表面積が0.1m/g以上であることにより、被接着材料に接する金属粒子(a1)の表面積が確保できる。また、金属粒子(a1)の比表面積が3m/g以下であることにより、導電性組成物に添加する溶剤量を少なくできる。
【0029】
金属粒子(a1)の形状は特に限定されず、例えば、球状、フレーク状、プレート状、箔状および樹枝状等が挙げられるが、一般的にはフレーク状または球状が選択される。また、金属粒子(a1)には、単一の金属からなる粒子のほか、2種以上の金属からなる表面被覆された金属粒子、またはこれらの混合物を用いることができる。
【0030】
金属粒子(a1)は、その表面がコーティング剤で被覆されていてもよい。コーティング剤としては、例えば、カルボン酸を含むコーティング剤が挙げられる。カルボン酸を含むコーティング剤を用いることによって、導電性接着剤組成物の放熱性をより一層向上させることができる。
【0031】
コーティング剤に含まれるカルボン酸は特に限定されず、例えば、モノカルボン酸、ポリカルボン酸およびオキシカルボン酸等が挙げられる。
コーティング剤に含まれるカルボン酸は2種以上の混合物であってもよい。また、炭素数12~24の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸である高級脂肪酸が好ましい。
【0032】
金属粒子(a1)の表面をコーティング剤で被覆する方法としては、例えば、両者をミキサー中で撹拌、混練する方法、金属粒子(a1)にカルボン酸の溶液を含浸して溶剤を揮発させる方法等の公知の方法が挙げられる。
【0033】
<銀粒子(a2)>
本発明における銀粒子(a2)の平均粒径は10~200nmであり、好ましくは20~180nmであり、より好ましくは30~170nm、更に好ましくは40~160nmである。銀粒子(a2)の平均粒子径が10nm未満であると、銀粒子を被覆する有機物の除去が難しくなり焼結が進みにくい。銀粒子(a2)の平均粒子径が200nmを超えると比表面積が小さくなり銀粒子の焼結が進みにくい。
【0034】
銀粒子(a2)のタップ密度は、特に限定されないが、銀粒子の接触点を増やし焼結しやすくするために、4g/cm以上であることが好ましく、5g/cm以上であることがより好ましく、5.5g/cm以上であることがさらに好ましい。また、導電性接着剤組成物を長期保管した際に金属粒子(a2)が沈降し不安定になることを防ぐために、8g/cm以下であることが好ましく、7.5g/cm以下であることがより好ましく、7g/cm以下であることがさらに好ましい。タップ密度は、例えばJIS規格Z2512:2012の金属粉-タップ密度測定方法により測定され算出される。
【0035】
銀粒子(a2)の形状は特に限定されず、例えば、球状、キュービック状、ロッド状等が挙げられる。また、銀粒子(a2)には、純銀粒子のほか、銀で表面被覆された金属粒子、またはこれらの混合物を用いることができる。
【0036】
銀粒子(a2)は、その表面がコーティング剤で被覆されていてもよい。用いるコーティング剤や被覆方法は特に限定されないが、例えば、先述の金属粒子(a1)のコーティングに関する記載において例示されたものを使用することができる。
【0037】
本発明の導電性接着剤組成物において、導電性や熱伝導率の向上、及び塗工性の確保のために、金属粒子(a1)の含有量は導電性接着剤組成物の全体量に対して35~85質量%であることが好ましく、40~75質量%であることがより好ましく、45~65質量%であることがさらに好ましい。また、銀粒子(a2)の含有量は、導電性接着剤組成物の全体量に対して5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、15~35質量%であることがさらに好ましい。
【0038】
また、本発明の導電性接着剤組成物において、熱伝導率を向上させるために、金属粒子(a1)と銀粒子(a2)との含有比率は、質量比で95:5~40:60の範囲であることが好ましく、90:10~50:50の範囲であることがより好ましく、85:15~60:40の範囲であることがさらに好ましい。
【0039】
なお、本発明の導電性接着剤組成物においては、本発明の効果を損なわない限りにおいて、他の導電性フィラーを併用することができる。そのような導電性フィラーとしては、導電性を有するものであれば特に限定はされないが、例えばカーボンナノチューブなどが挙げられる。
【0040】
[25℃において固体状の熱可塑性樹脂の粒子(B)]
本発明の導電性接着剤組成物は、25℃において固体状の熱可塑性樹脂の粒子(B)(以下、単に「熱可塑性樹脂の粒子(B)」ともいう)をさらに含有する。
【0041】
通常、本発明のようにナノメートルオーダーの銀粒子を含有する導電性接着剤組成物の硬化物(以下、単に「導電性接着剤硬化物」ともいう)は、緻密な構造を有するため応力緩和性能が低い。さらに、繰り返しの温度変化を受けることにより金属が成長し、このことによって応力緩和性能がさらに低下する。そのため、ナノメートルオーダーの銀粒子を含有する導電性接着剤組成物による接着では、被接着材料同士の線熱膨張率の差により生じる応力によって、被接着材料の剥離が生じやすい。
しかし、熱可塑性樹脂の粒子(B)を含有する本発明の導電性接着剤組成物では、熱を加えて硬化させる際に、熱可塑性樹脂の粒子(B)が溶融し、導電性接着剤硬化物内の空隙を充填する。このことにより、導電性接着剤硬化物内での金属の移動が妨げられ、上記のように、金属の成長によって応力による被接着材料の剥離が生じやすくなることを防いでいるものと考えられる。
他にも、導電性接着剤硬化物内の空隙に充填された熱可塑性樹脂が弾性変形することによって応力を緩和することが可能となり、導電性接着剤硬化物の応力緩和性能が向上すること、また、熱可塑性樹脂が導電性接着剤硬化物と被接着材料の接着界面に存在する空隙を充填することにより、接着強度が向上することも、繰り返しの温度変化による剥離の抑制に寄与していると考えられる。
【0042】
本発明における熱可塑性樹脂の粒子(B)としては公知の樹脂の粒子であってよく、例えばナイロン11、ナイロン12、ナイロン6等の公知のポリアミド、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルエーテル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリビニルブチラール、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、エチルセルロース、酢酸セルロース、各種のフッ素樹脂、ポリオレフィンエラストマー、飽和ポリエステル樹脂等の粒子が挙げられ、それらの混合物であっても良い。
導電性接着剤硬化物内の空隙への充填性を向上させるために、これらの中でも、融点が50~300℃の範囲の樹脂の粒子が好ましく、融点が80~250℃の範囲の樹脂の粒子がより好ましく、融点が100~225℃の範囲の樹脂の粒子がさらに好ましく、100~220℃の範囲の樹脂の粒子が最適である。融点が50~300℃の範囲の樹脂としては、例えばナイロン12、ナイロン11、ナイロン6、ポリエチレン、ポリプロピレン、酢酸ビニル樹脂、飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。中でも、ナイロン12、ナイロン11、ナイロン6、ポリエチレンが好ましく用いられ、ナイロン12、ナイロン11、ナイロン6がより好ましく用いられ、ナイロン12、ナイロン11が更に好ましく用いられる。
【0043】
本発明における熱可塑性樹脂の粒子(B)の平均粒径は、接着強度を担保するために30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。
また、本発明における熱可塑性樹脂の粒子(B)の平均粒径は、導電性接着剤硬化物の応力緩和性能を担保するために1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。
【0044】
本発明における熱可塑性樹脂の粒子(B)の形状は特に限定されず、例えば、略球状、立方体状、円柱状、角柱状、円錐状、角錐状、フレーク状、箔状および樹枝状等が挙げられるが、略球状、立方体状が好ましい。
【0045】
本発明の導電性接着剤組成物において、繰り返し温度変化を受けた場合の被接着材料の剥離を高い水準で防止するために、熱可塑性樹脂の粒子(B)の含有量は導電性接着剤組成物の全体量に対して0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましい。また、熱可塑性樹脂の粒子(B)を過剰に含有することによって導電性接着剤硬化物の熱伝導率が低下することを防止するため、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
[その他の成分]
<バインダ樹脂>
本発明の導電性接着剤組成物において、導電性フィラー(A)、及び熱可塑性樹脂の粒子(B)は、バインダ樹脂中に分散されてもよい。バインダ樹脂は特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂又はポリイミド樹脂等を用いることができ、これらを単独で用いても、複数種類組み合わせて用いてもよい。作業性の観点から本発明におけるバインダ樹脂は熱硬化性樹脂であることが好ましく、エポキシ樹脂であることが特に好ましい。
【0047】
バインダ樹脂の含有量は、導電性接着剤組成物の全体量に対して10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。バインダ樹脂の含有量が10質量%以下であると、導電性フィラーのネッキングによるネットワークが形成され易く、安定した導電性および熱伝導性が得られる。またバインダ樹脂を含有させる場合は、0.5質量%以上用いることが好ましい。
【0048】
<硬化剤>
また、本発明の導電性接着剤組成物は、上記成分のほかにも、例えば、硬化剤を含有していてもよい。硬化剤としては、例えば、三級アミン、アルキル尿素、イミダゾール等のアミン系硬化剤や、フェノール系硬化剤等が挙げられる。
【0049】
硬化剤の含有量は導電性接着剤組成物の全体量に対して2質量%以下であることが好ましい。そうすることで未硬化の硬化剤が残りにくくなり、被接着材料との密着性が良好となる為である。
【0050】
<硬化促進剤>
本発明の導電性接着剤組成物には硬化促進剤を配合することもできる。硬化促進剤としては、例えば、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4―メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2―メチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノ-2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類、第3級アミン類、トリフェニルフォスフィン類、尿素系化合物、フェノール類、アルコール類、カルボン酸類等が例示される。硬化促進剤は1種類だけ使用しても2種類以上を併用してもよい。
【0051】
硬化促進剤の配合量は限定されるものではなく適宜決定すればよいが、使用する場合は一般には、本発明の導電性接着剤組成物の全体量に対して0.5質量%以下である。
【0052】
<溶剤>
本発明の導電性接着剤組成物には、さらに導電性接着剤組成物をペースト状にするために溶剤を含んでいてもよい。溶剤を含む場合は、ペースト中において熱可塑性樹脂の粒子(B)の形状を維持するために、これを溶解しない性質の溶剤を用いる。その他は特に限定されないが、導電性接着剤組成物の硬化の際に溶剤が揮発しやすいことから沸点350℃以下のものが好ましく、沸点300℃以下のものがより好ましい。具体的にはアセテート、エーテル、炭化水素等が挙げられ、より具体的には、ジブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等が好ましく用いられる。
溶剤の含有率は、導電性接着剤組成物に対して通常15質量%以下であり、作業性の観点から好ましくは10質量%以下である。
【0053】
本発明の導電性接着剤組成物には、上記成分の他にも、酸化防止剤、紫外線吸収剤、粘着付与剤、粘性調整剤、分散剤、カップリング剤、強靭性付与剤、エラストマー等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0054】
本発明の導電性接着剤組成物は、上記の(A)及び(B)並びにその他の成分を任意の順序で混合、撹拌することにより得ることができる。分散方法としては、例えば、二本ロール、三本ロール、サンドミル、ロールミル、ボールミル、コロイドミル、ジェットミル、ビーズミル、ニーダー、ホモジナイザー、及びプロペラレスミキサー等の方式を採用することができる。
【0055】
本発明の導電性接着剤硬化物は、上記の本発明の導電性接着剤組成物を硬化させることにより得られる。硬化の方法は特に限定されないが、例えば、導電性接着剤組成物を150~300℃で0.5~3時間熱処理することで、導電性接着剤硬化物を得ることができる。
【0056】
本発明の導電性接着剤硬化物の熱伝導率は、被接着材料の放熱性を確保するために、20W/m・K以上であることが好ましく、35W/m・K以上であることがより好ましく、50W/m・K以上であることがさらに好ましい。なお、導電性接着剤硬化物の熱伝導率は、実施例の欄において後述する方法を用いて算出することができる。
【0057】
本発明の導電性接着剤組成物を用いて接着を行う際には、通常加熱により導電性接着剤組成物を硬化させて接着を行う。その際の加熱の温度は特に限定はされないが、導電性フィラー(A)同士、及び、被接着材料と導電性フィラー(A)との間に、互いに点接触した近接状態を形成させ、接着部としての形状を安定させるために150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。
また、導電性フィラー(A)同士の結合が過度に進行し導電性フィラー(A)間のネッキングが生じて強固に結合し、硬すぎる状態となることを避けるために300℃以下であることが好ましく、275℃以下であることがより好ましく、250℃以下であることがさらに好ましい。
【0058】
本発明の導電性接着剤組成物を用いて被接着材料を接着した場合に、繰り返し温度変化を受けた場合にも被接着材料の剥離が生じにくくなっていることを評価する方法としては、種々の方法が挙げられるが、例えば、実施例の欄において後述する方法で冷熱サイクル試験を行い、試験後の剥離面積の割合を実施例の欄において後述する方法で測定する方法が挙げられる。当該方法で測定した剥離面積の割合は15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
【0059】
本発明の導電性接着剤組成物は、電子機器における部品の接着に用いることができる。
【実施例
【0060】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0061】
A.導電性接着剤組成物の調製
表1に記載された各材料を三本ロールにて混練し、表1に示す組成の導電性接着剤組成物を調製した(各材料の数値は導電性接着剤組成物の総質量に対する質量%を表す)。使用した材料は下記の通りである。なお、混練の順番は、金属粒子(a1)、銀粒子(a2)、熱可塑性樹脂の粒子(B)、バインダ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、溶剤の順である。
【0062】
[導電性フィラー(A)]
<金属粒子(a1)>
・銀粒子(1):フレーク状、平均粒子径d50:5.5μm、タップ密度:7.0g/cm、田中貴金属工業社製
・銀粒子(2):フレーク状、平均粒子径d50:4μm、タップ密度:6.7g/cm、田中貴金属工業社製
・銀粒子(3):球状、平均粒子径d50:0.8μm、タップ密度:5.5g/cm、田中貴金属工業社製・銅粒子:球状、平均粒子径d50:5μm、タップ密度:5.0g/cm、三井金属鉱業社製
<銀粒子(a2)>
・銀粒子(4):球状、平均粒子径d50:0.09μm、田中貴金属工業社製
【0063】
[熱可塑性樹脂の粒子(B)]
・熱可塑性樹脂粒子(1):「SP-500」(商品名)、東レ社製、ナイロン12製、平均粒子径d50:5μm、球状、融点:165~171℃
・熱可塑性樹脂粒子(2):「SP-10」(商品名)、東レ社製、ナイロン12製、平均粒子径d50:10μm、球状、融点:165~171℃
・熱可塑性樹脂粒子(3):「PM-200」(商品名)、三井化学社製、ポリエチレン製、平均粒子径d50:10μm、球状、融点:136℃
【0064】
[バインダ樹脂・硬化剤・硬化促進剤・溶剤]
・エポキシ樹脂(1):「EPICLON 830-S」(商品名)、大日本インキ化学工業社製、室温で液状、エポキシ当量:169g/eq
・エポキシ樹脂(2):「ERISYS GE-21」(商品名)、CVC社製、室温で液状、エポキシ当量:125g/eq
・硬化剤:フェノール系硬化剤(MEH8000H、明和化成社製)
・硬化剤促進:2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(2PHZ、四国化成社製)
・溶剤(1):ジブチルカルビトール(東京化成工業社製)
・溶剤(2):ブチルカルビトールアセテート(東京化成工業社製)
【0065】
B.物性評価
得られた導電性接着剤組成物を10mm×10mmの銀メッキした銅リードフレームに塗布し、塗布面に5mm×5mmの銀スパッタリングシリコンチップを戴置後、窒素雰囲気下、250℃で60分加熱し、銀メッキした銅リードフレームと銀スパッタリングしたシリコンチップが導電性接着剤硬化物により接合された金属接合体(以下、単に「金属接合体」ともいう)を作製した。
得られた金属接合体の熱伝導率を表1に示す。
なお、熱伝導率λ(W/m・K)は、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置 (「TC-7000」(商品名)、ULVAC-RIKO社製)を用いてASTM-E1461に準拠して熱拡散aを測定し、ピクノメーター法により室温での比重dを算出し、また、示差走査熱量測定装置(「DSC7020」(商品名)、セイコー電子工業社製)を用いてJIS-K7123 2012に準拠して室温での比熱Cpを測定して、関係式λ=a×d×Cpにより算出した。
【0066】
また、得られた金属接合体を用いて冷熱サイクル試験を行い、剥離面積を測定した。この試験では、基板を-50℃に30分間保持した後に150℃に30分間保持する操作を1サイクルとして2000サイクル繰返し、試験後のシリコンチップの剥離面積の割合を測定した。結果を表1に示す。
なお、剥離面積の割合は、2000サイクル後の超音波映像・検査装置「Fine SAT」(商品名)で得られた剥離状態の画像を二値化ソフト「image J」で濃淡を白と黒の二階調に画像変換し、以下の関係式で求めた。
剥離面積の割合(%)=剥離面積(黒色画素数)÷チップ面積(黒色画素数+白色画素数)×100
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示すように、実施例で得られた金属接合体は、比較例で得られた金属接合体と比べて冷熱サイクル試験後の剥離面積が少なかった。また、熱伝導率も良好な値であった。
この結果から、本発明の導電性接着剤組成物によれば、熱伝導性に優れ、さらに繰り返し温度変化を受けた場合にも被接着材料の剥離が生じにくい接着を達成できることが確認された。
【0069】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2017年7月11日付けで出願された日本特許出願(特願2017-135202)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。