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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】農薬用展着剤及び農薬散布液
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/24 20060101AFI20220510BHJP
   A01N 57/28 20060101ALI20220510BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
A01N25/24
A01N57/28 F
A01P7/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019537708
(86)(22)【出願日】2018-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2018031342
(87)【国際公開番号】W WO2019039588
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2017161179
(32)【優先日】2017-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】森川 圭介
(72)【発明者】
【氏名】香春 多江子
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-221461(JP,A)
【文献】特開2001-271222(JP,A)
【文献】特開2015-134704(JP,A)
【文献】国際公開第2006/022147(WO,A1)
【文献】特開平08-217604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン単位の含有量が1.0モル%以上19モル%以下であり、1,2-グリコール結合単位の含有量が1.2モル%以上2.0モル%以下であり、粘度平均重合度が200以上5000以下であり、且つけん化度が80モル%以上99.9モル%以下であるエチレン変性ビニルアルコール系重合体(A)を含有する、農薬用展着剤。
【請求項2】
エチレン変性ビニルアルコール系重合体(A)のけん化度が95モル%以上99.7モル%以下である、請求項1に記載の農薬用展着剤。
【請求項3】
さらに分子量1000以下の共役二重結合を有する化合物(B)を0.1ppm以上3000ppm以下含有する、請求項1又は2に記載の農薬用展着剤。
【請求項4】
化合物(B)が、(i)共役二重結合を有する不飽和脂肪族基を有する化合物(B-1)である、又は(ii)不飽和脂肪族基と芳香族基により共役二重結合を形成する化合物(B-2)である、請求項3に記載の農薬用展着剤。
【請求項5】
化合物(B)が、共役ジエン化合物である、請求項3又は4に記載の農薬用展着剤。
【請求項6】
化合物(B)が、カルボキシ基及びその塩、水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、メルカプト基、スルホン基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基及びその塩、リン酸基及びその塩、フェニル基、及びハロゲン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、請求項3~5のいずれかに記載の農薬用展着剤。
【請求項7】
化合物(B)が、共役二重結合を有する不飽和脂肪族基を有する化合物(B-1)であり、前記化合物(B-1)が極性基を有する、請求項3~6のいずれかに記載の農薬用展着剤。
【請求項8】
極性基が、カルボキシ基及びその塩、水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、メルカプト基、スルホン基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基及びその塩、リン酸基及びその塩、及びハロゲン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する化合物である、請求項7に記載の農薬用展着剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の農薬用展着剤、農薬活性成分及び水を含有する農薬散布液。
【請求項10】
農薬活性成分の含有量が、エチレン変性ビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して、0.1質量部以上1000質量部以下である、請求項9に記載の農薬散布液。
【請求項11】
5℃、12rpmにおける初期粘度(η初期)と、1週間放置後の粘度(η1週間)との比(η1週間/η初期)が5未満である、請求項9又は10に記載の農薬散布液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のエチレン変性ビニルアルコール系重合体を含有し、特に植物葉面への展着性に優れる農薬用展着剤、及び該農薬用展着剤を含有し保存安定性(特に粘度安定性)に優れる農薬散布液に関する。
【背景技術】
【0002】
農業分野では、一般に農薬を水で希釈した散布液が用いられている。しかしながら、このような散布液をそのまま植物表面に散布すると、含まれる農薬活性成分が降雨等により流亡したり、あるいは風により剥離し、脱落することで効果の持続性がしばしば損なわれる。
【0003】
そこで、農薬活性成分の植物表面への付着性を向上させる目的で、展着剤を含有する農薬散布液が用いられている。展着剤としては、散布液の表面張力を下げ、濡れにくい虫体や作物に対する付着性あるいは拡展性を向上させ防虫効果を高める性質を有する、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、リグニンスルホン酸塩、ナフチルメタンスルホン酸塩等が汎用されている。しかしながら、これらの汎用の展着剤は水に非常に馴染みやすい性質を有するため、降雨等による流亡を抑えることはできない。また、固着効果を示す展着剤として、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、パラフィン、ポリ酢酸ビニル等が挙げられるが、使用濃度を高くしないと効果を奏さない、乾いた皮膜が水に溶けないため植物表面にいつまでも残留する等の問題がある。
【0004】
近年、特許文献1及び2のように、ポリビニルアルコールを含有する農薬の展着性組成物や農業用液状散布液が提案されている。しかしながら、特許文献1及び2のポリビニルアルコールは、けん化度が低く水に溶けやすいため、降雨等により農薬が流亡しやすいという問題があった。
【0005】
特許文献3には、特定のポリビニルアルコール系樹脂を架橋することで、降雨等による農薬の流亡を防ぐことが提案されている。しかしながら、ポリビニルアルコール系樹脂を架橋することで農薬の流亡は防げるものの、ポリビニルアルコール系樹脂と架橋剤とを混合した溶液は、ポリビニルアルコール系樹脂と架橋剤が反応するため、保存時の溶液の安定性が悪いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-217604号公報
【文献】特開2015-134704号公報
【文献】特開2016-222569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、特に植物葉面への展着性に優れる農薬用展着剤、及び該農薬用展着剤を含有し長期保存した場合でも保存安定性(特に粘度安定性)に優れる農薬散布液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、特定のエチレン変性ビニルアルコール系重合体を含有する農薬用展着剤により上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の発明に関する。
[1]エチレン単位の含有量が1.0モル%以上19モル%以下であり、1,2-グリコール結合単位の含有量が1.2モル%以上2.0モル%以下であり、粘度平均重合度が200以上5000以下であり、且つけん化度が80モル%以上99.9モル%以下であるエチレン変性ビニルアルコール系重合体(A)を含有する、農薬用展着剤。
[2]エチレン変性ビニルアルコール系重合体(A)のけん化度が95モル%以上99.7モル%以下である、上記[1]の農薬用展着剤。
[3]さらに分子量1000以下の共役二重結合を有する化合物(B)を0.1ppm以上3000ppm以下含有する、上記[1]又は[2]の農薬用展着剤。
[4]化合物(B)が、(i)共役二重結合を有する不飽和脂肪族基を有する化合物(B-1)である、又は(ii)不飽和脂肪族基と芳香族基により共役二重結合を形成する化合物(B-2)である、上記[3]の農薬用展着剤。
[5]化合物(B)が、共役ジエン化合物である、上記[3]又は[4]の農薬用展着剤。
[6]化合物(B)が、カルボキシ基及びその塩、水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、メルカプト基、スルホン基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基及びその塩、リン酸基及びその塩、フェニル基、及びハロゲン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、上記[3]~[5]のいずれかの農薬用展着剤。
[7]化合物(B)が、共役二重結合を有する不飽和脂肪族基を有する化合物(B-1)であり、前記化合物(B-1)が極性基を有する、上記[3]~[6]のいずれかの農薬用展着剤。
[8]極性基が、カルボキシ基及びその塩、水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、メルカプト基、スルホン基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基及びその塩、リン酸基及びその塩、及びハロゲン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する化合物である、上記[7]の農薬用展着剤。
[9]上記[1]~[8]のいずれかの農薬用展着剤、農薬活性成分及び水を含有する農薬散布液。
[10]農薬活性成分の含有量が、エチレン変性ビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して、0.1質量部以上1000質量部以下である、上記[9]の農薬散布液。
[11]5℃、12rpmにおける初期粘度(η初期)と、1週間放置後の粘度(η1週間)との比(η1週間/η初期)が5未満である、上記[9]又は[10]の農薬散布液。
【発明の効果】
【0010】
本発明の農薬用展着剤は、特に植物葉面への展着性に優れる。また、該農薬用展着剤を含有する農薬散布液は長期保存した場合でも保存安定性(特に粘度安定性)に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の農薬用展着剤及び農薬散布液について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されない。また、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【0012】
〔農薬用展着剤〕
本発明の農薬用展着剤は、エチレン単位の含有量が1.0モル%以上19モル%以下であり、1,2-グリコール結合単位の含有量が1.2モル%以上2.0モル%以下であり、粘度平均重合度が200以上5000以下であり、且つけん化度が80モル%以上99.9モル%以下であるエチレン変性ビニルアルコール系重合体(A)(以下、ビニルアルコール系重合体を「PVA」と略記することがある)を含有する。エチレン変性PVA(A)は、疎水性のエチレン単位を有するため降雨等による農薬の流亡をより一層防ぐことが可能になり、さらに架橋構造を有さないため該農薬用展着剤を含有する農薬散布液は長期の保存安定性に優れる。
【0013】
〔エチレン変性PVA(A)〕
上記エチレン変性PVA(A)において、エチレン単位の含有量は1.0モル%以上19モル%以下であり、1.5モル%以上15モル%以下が好ましく、2.0モル%以上12モル%以下がより好ましい。エチレン単位の含有量が1.0モル%未満の場合は、得られる農薬散布液により形成される皮膜の耐水性が不十分となり、結果として降雨等による農薬の流亡を防ぐ効果が不十分となる。また、農薬散布液の粘度安定性も不十分となる。一方、エチレン単位の含有量が19モル%を超える場合は、エチレン変性PVA(A)の水への溶解が困難となる。
【0014】
上記エチレン変性PVA(A)において、エチレン単位の含有量は、例えば、該エチレン変性PVAの前駆体又は再酢化物であるエチレン単位を含有するビニルエステル系共重合体のH-NMRから求める。すなわち、得られたビニルエステル系共重合体をn-ヘキサン/アセトンで再沈精製を3回以上十分に行った後、80℃で3日間減圧乾燥して分析用のビニルエステル系共重合体を作製する。該ポリマーをDMSO-dに溶解し、H-NMR(例:500MHz)を用いて80℃で測定する。ビニルエステルの主鎖メチレンに由来するピーク(4.7~5.2ppm)とエチレン、ビニルエステル及び第3成分の主鎖メチレンに由来するピーク(0.8~1.6ppm)を用いてエチレン単位の含有量を算出できる。
【0015】
上記エチレン変性PVA(A)の粘度平均重合度(以下、単に「重合度」と略記することがある)は200以上5000以下であり、300以上4000以下が好ましく、350以上3000以下がより好ましく、500以上2500以下がさらに好ましい。粘度平均重合度が200未満の場合は、得られる農薬散布液により形成される皮膜の耐水性が不十分となり、結果として降雨等による農薬の流亡を防ぐ効果が不十分となる。一方、粘度平均重合度が5000を超えるエチレン変性PVA(A)は製造が困難である。エチレン変性PVA(A)の粘度平均重合度(P)は、JIS K 6726(1994年)に準じて測定される。すなわち、エチレン変性PVAを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](dL/g)から次式により求められる。
P=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0016】
上記エチレン変性PVA(A)のけん化度は80モル%以上99.9モル%以下であり、90モル%以上99.8モル%以下がより好ましく、95モル%以上99.7モル%以下がさらに好ましい。けん化度が80モル%未満の場合は、水への溶解性が低下するため水溶液形態の散布液を調製するのが困難となったり、得られる農薬散布液により形成される皮膜の耐水性が不十分となる。一方、けん化度が99.9モル%を超える場合は、得られる農薬散布液の保管中に粘度が急激に上昇して粘度安定性が不十分となる。
【0017】
上記エチレン変性PVA(A)の1,2-グリコール結合単位の含有量は1.2モル%以上2.0モル%以下であり、1.3モル%以上1.9モル%以下が好ましく、1.4モル%以上1.8モル%以下がより好ましい。1,2-グリコール結合単位の含有量が1.2モル%未満の場合は、得られる農薬散布液の粘度安定性が不十分となる。一方、1,2-グリコール結合単位の含有量が2.0モル%を超えるエチレン変性PVA(A)は製造が困難である。1,2-グリコール結合単位の含有量はビニルエステルの種類、溶媒、重合温度、ビニレンカーボネートの共重合等の様々な方法で制御できる。工業的な制御法としては、本発明では重合温度による制御が好ましい。
【0018】
1,2-グリコール結合単位の含有量は、得られたエチレン変性PVA(A)を解放容器中で水に約2時間かけて溶解させた後、ポリエチレンテレフタレート基材上に溶液を流涎、乾燥させてキャストフィルムを作製した。得られたフィルムをDMSO-dに溶解して、H-NMR(500MHz)を用いて80℃で測定することで算出した。
【0019】
上記エチレン変性PVA(A)は、例えば、エチレンとビニルエステル系単量体とを共重合してエチレン単位を有するビニルエステル系共重合体とした後、該ビニルエステル系共重合体を水酸化ナトリウム等のけん化触媒を用いてけん化し、必要に応じて粉砕や乾燥を行うことで得られる。
【0020】
エチレンとビニルエステル系単量体との共重合の方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法が挙げられる。中でも、無溶媒又はアルコール等の溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法を通常採用できる。上記アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される重合開始剤としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n-プロピルパーオキシジカーボネート等のアゾ系開始剤又は過酸化物系開始剤等の公知の重合開始剤が挙げられる。
【0021】
重合温度に特に制限はなく、0℃~150℃が好ましく、室温以上150℃以下がより好ましく、室温以上使用する溶媒の沸点以下がさらに好ましく、30~60℃が特に好ましい。
【0022】
上記ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバーサチック酸ビニル等が挙げられ、中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0023】
上記エチレン変性PVA(A)には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ビニルアルコール単位、エチレン単位及びビニルエステル単位以外の単量体単位を含有していてもよい。このような単位としては、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ヘキセン等のα-オレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類もしくはその塩又はモノもしくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレングリコールビニルエーテル、1,3-プロパンジオールビニルエーテル、1,4-ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類;アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類;オキシアルキレン基を有する単量体;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン類;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、7-オクテン-1-オール、9-デセン-1-オール、3-メチル-3-ブテン-1-オール等のヒドロキシ基含有のα-オレフィン類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等に由来するスルホン酸基を有する単量体又はその塩;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、3-(N-メタクリルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等に由来するカチオン基を有する単量体が挙げられる。これらの単量体の含有量は、使用される目的や用途等によって異なるが、好ましくは10モル%以下であり、より好ましくは5.0モル%未満であり、さらに好ましくは1.0モル%未満であり、0.1モル%未満であってもよい。
【0024】
〔化合物(B)〕
本発明の農薬用展着剤は、植物葉面への展着性に優れ、該農薬用展着剤を含有する農薬散布液が長期保存後の粘度安定性により優れる点から、上記エチレン変性PVA(A)に加えて、さらに分子量1000以下の共役二重結合を有する化合物(B)を0.1ppm以上3000ppm以下含有することが好ましい。化合物(B)は、少なくとも2個のエチレン性二重結合が1個のエチレン性単結合を介して繋がっている構造を有する。このような共役二重結合を有する化合物(B)は、2個のエチレン性二重結合と1個のエチレン性単結合とが交互に繋がってなる構造の共役ジエン化合物、3個のエチレン性二重結合と2個のエチレン性単結合とが交互に繋がってなる構造の共役トリエン化合物、及びそれ以上の数のエチレン性二重結合とエチレン性単結合とが交互に繋がってなる構造の共役ポリエン化合物を包含し、さらに2,4,6-オクタトリエンのような共役トリエン化合物をも包含する。また、本発明で用いられる共役二重結合を有する化合物には、共役二重結合が1分子中に独立して複数組あってもよく、例えば、桐油のように共役トリエンを同一分子内に3個有する化合物も含まれる。
【0025】
化合物(B)は、共役二重結合以外に、他の官能基を有していてもよい。他の官能基としては、例えばカルボキシ基及びその塩、水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基等の炭素数1~3の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有するアルキルアミノ基)、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、メルカプト基、スルホン基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基及びその塩、リン酸基及びその塩、フェニル基、ハロゲン原子等が挙げられる。このような官能基は、共役二重結合中の炭素原子に直接結合されていてもよく、共役二重結合から離れた位置に結合されていてもよい。官能基中の多重結合は前記共役二重結合と共役可能な位置にあってもよく、例えば、フェニル基を有する1-フェニルブタジエンやカルボキシ基を有するソルビン酸等も化合物(B)に含まれる。また、化合物(B)は非共役二重結合を有していてもよく、非共役三重結合を有していてもよい。化合物(B)としては、具体例に2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、1,3-ジフェニル-1-ブテン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、4-メチル-1,3-ペンタジエン、1-フェニル-1,3-ブタジエン、ソルビン酸、ミルセン等が挙げられる。
【0026】
化合物(B)は、共役二重結合を有していれば特に限定されず、(i)共役二重結合を有する不飽和脂肪族基を有する化合物(B-1)、又は(ii)不飽和脂肪族基と芳香族基により共役二重結合を形成する化合物(B-2)であってもよい。共役二重結合を有する不飽和脂肪族基を有する化合物(B-1)としては、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、ソルビン酸等が挙げられる。不飽和脂肪族基と芳香族基により共役二重結合を形成する化合物(B-2)としては、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、1,3-ジフェニル-1-ブテン等が挙げられる。また、本発明の効果がより優れる点から、共役二重結合を有する不飽和脂肪族基を有する化合物(B-1)が好ましく、また極性基を有する共役二重結合を含む化合物を選択することも好ましい。さらに、化合物(B)としては、共役二重結合を有する不飽和脂肪族基を有する化合物(B-1)のうち、極性基を有する化合物(B-1)がより好ましく、極性基を有し、共役ジエン化合物である化合物(B-1)がさらに好ましい。極性基としては、前記した他の官能基のうち、カルボキシ基及びその塩、水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、メルカプト基、スルホン基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基及びその塩、リン酸基及びその塩、ハロゲン原子等が挙げられ、カルボキシ基及びその塩、水酸基が好ましい。
【0027】
化合物(B)の分子量は1000以下が好ましく、800以下がより好ましく、500以下がさらに好ましい。また、化合物(B)の含有量は0.1ppm以上3000ppm以下が好ましく、1ppm以上2000ppm以下がより好ましく、3ppm以上1500ppm以下がさらに好ましく、5ppm以上1000ppm以下が特に好ましい。なお、化合物(B)の含有量は、エチレン変性PVA(A)及び化合物(B)の合計質量に対する、化合物(B)の含有量(質量ppm)を表す。化合物(B)の分子量及び含有量を上記範囲にすることで、得られる農薬散布液の長期に亘る保存安定性がより一層向上する。
【0028】
化合物(B)の添加方法としては、エチレン単位を有するビニルエステル系共重合体を得た後で、且つ該ビニルエステル系共重合体をけん化する前に添加するのが、得られる農薬散布液の長期に亘る保存安定性を向上させる点で好ましい。
【0029】
〔農薬散布液〕
本発明の農薬散布液は、上記の農薬用展着剤、農薬活性成分及び水を含有することが好ましく、水以外の溶媒を含有してもよい。農薬散布液の全量に対して、エチレン変性PVA(A)の含有量は0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.05質量%以上8質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。エチレン変性PVA(A)の含有量を上記範囲にすると展着性及び散布性等が一層向上する。
【0030】
農薬散布液の全固形分濃度は0.001質量%以上20質量%以下が好ましく、0.01質量%以上10質量%以下がより好ましい。全固形分濃度が0.001質量%未満である場合は、必要量の農薬活性成分を与えることが困難になる傾向がある。一方、20質量%を超える場合は、過剰の農薬活性成分による汚染が問題となる傾向がある。
【0031】
農薬散布液を製造する方法は特に限定されないが、溶解性に優れ均一な農薬散布液が得られる観点から、エチレン変性PVA(A)を含有する農薬用展着剤の溶液(とりわけ水溶液)と農薬活性成分と混合することが好ましい。農薬用展着剤の溶液におけるエチレン変性PVA(A)の濃度は0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましい。
【0032】
また、農薬活性成分の含有量は、エチレン変性PVA(A)100質量部に対して0.1質量部以上1000質量部以下が好ましく、1質量部以上500質量部以下がより好ましい。農薬活性成分の含有量が0.1質量部未満の場合は、必要量の農薬活性成分を与えることが困難になる傾向がある。一方、1000質量部を超える場合は、展着性が低下する傾向がある。
【0033】
農薬散布液の粘度(JIS K 6726:1994に準拠(20℃測定))は、水等の溶媒により希釈して、200mPa・s以下とすることが好ましく、100mPa・s以下がより好ましく、0.1~80mPa・sがさらに好ましい。農薬散布液の粘度が高すぎると、散布性が低下する傾向がある。
【0034】
上記農薬散布液は、展着剤として含まれるエチレン変性PVA(A)が架橋構造を有さないため、長期保存した場合でも保存安定性に優れる。具体的には、農薬散布液の5℃、12rpmにおける初期粘度(η初期)と、1週間放置後の粘度(η1週間)との比(η1週間/η初期)は1以上5未満が好ましく、1以上2.5未満がより好ましい。粘度比の測定方法は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0035】
上記農薬活性成分としては、例えば除草剤、殺虫剤、殺菌剤、植物調整剤、肥料等が挙げられ、常温(21℃)で液状又は粉末状の形態が好ましい。中でも、常温水(21℃)に対する飽和溶解度が50ppm以上である水溶性の農薬活性成分を含有するのが好ましい。これらの農薬活性成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
除草剤としては、例えば2,4-PA、MCP、MCPB、MCPAチオエチル(フェノチオール)、クロメプロップ、ナプロアニリド、CNP、クロメトキシニル、ビフェノックス、MCC、ベンチオカーブ、エスプロカルブ、モリネート、ジメピペレート、DCPA、ブタクロール、プレチラクロール、ブロモブチド、メフェナセット、ダイムロン、シメトリン、プロメトリン、ジメタメトリン、ベンダゾン、オキサジアゾン、ピラゾレート、ピラゾキシフェン、ベンゾフェナップ、トリフルラリン、ピペロホス、ACN、ベンスルフロンメチル等が挙げられる。
【0037】
殺虫剤としては、例えばMPP、MEP、ECP、ピリミホスメチル、ダイアジノン、イソキサチオン、ピリダフェンチオン、フロルピリホスメチル、クロルピリホス、ESP、バミドチオン、プロフェノホス、マラソン、PAP、ジメトエート、ホルモチオン、チオメトン、エチルチオメトン、ホサロン、PMP、DMTP、プロチオホス、スルプロホス、ピラクロホス、DDVP、モノクロトホス、BRP、CVMP、ジメチルビンホス、CVP、プロパホス、アセフェート、イソフェンホス、サリチオン、DEP、EPN、エチオン、NAC、MTMC、MIPC、BPMC、PHC、MPMC、XMC、エチオフェンカルブ、ベンダイオカルブ、ピリミカーブ、カルボスルファン、ベンフラカルブ、メソミル、チオジカルブ、アラニカルブ、アレスリン、レスメトリン、ペルメトリン、シペルメトリン、シハロトリン、シフルトリン、フェンプロパトリン、トラロメトリン、シクロプロトリン、フェンバレレート、フルシトリネート、フルバリネート、エトフェンプロックス、カルタップ、チオシクラム、ベンスルタップ、ジフルベンズロン、テフルベンズロン、クロルフルアズロン、ブフロフェジン、フェノキシカルブ、除虫菊、デリス、硫酸ニコチン、マシン油、なたね油、CPCBS、ケルセン、クロルベンジレート、フェニソブロモレート、テトラジホン、BPPS、キノキサリン、アミトラズ、ベンゾメート、フェノチオカルブ、ヘキシチアゾクス、酸化フェンブタスズ、ジエノクロル、フェンピロキシメート、フルアジナム、ピリダベン、クロフェンテジン、DPC、ポリナフチン複合体、ミルベメクチン、DCIP、ダゾメット、ベンゾエピン、メタアルデヒド、DCV、BT、フェントロチオン等が挙げられる。
【0038】
殺菌剤としては、例えばカスガマイシン、ベノミル、チアベンダゾール、チオファネートメチル、チウラム、プロクロラズ、トリフミゾール、イプコナゾール、塩基性塩化銅、塩基性硫酸銅、水酸化第二銅、ノニルフェノールスルホン酸銅、DBEDC、テレフタル酸銅、無機硫黄、ジネブ、マンネブ、マンゼブ、アンバム、ポリカーバメイト、有機ニッケル、プロピネブ、ジラム、チアジアジン、キャプタン、スルフェン酸系、TPN、フサライド、IBP、EDDP、トルクロホスメチル、ピラゾホス、ホセチル、カルベンダゾール、ジエトフェンカルブ、イプロジオン、ビンクロゾリン、プロシミドン、フルオルイミド、オキシカルボキシン、メプロニル、フルトラニル、テクロフタラム、トリクラミド、ペンシクロン、メタラキシル、オキサジキシル、トリアジメホン、ビテルタノール、ミクロブタニル、ヘキサコナゾール、プロピコナゾール、フェナリモル、ピリフェノックス、トリホリン、ブラストサイジンS、ポリオキシン、バリダマイシン、ストレプトマイシン、オキシテトラサイクリン、ミルディオマイシン、PCNB、ヒドロキシイソキサゾール、エクロメゾール、クロロネブ、メタスルホカルブ、メチルイソチオシアネート、有機ひ素、硫酸亜鉛、ジチアノン、ベンゾチアゾール、キノキサリン系、CNA、ジメチリモール、ジクロメジン、トリアジン、フェリムゾン、フルアジナム、プロベナゾール、イソプロチオラン、トリシクラゾール、ピロキロン、オキソリニック酸、イミノクダジン酢酸塩、アルギン酸、対抗菌、シイタケ菌糸体抽出物、こうじ菌産生物、アグロバクテリウムラジオバクター、イミベンコナゾール等が挙げられる。
【0039】
植物調整剤としては、例えばイナベンフィド、オキシエチレンドコサノール、ニコチン酸アミド、ベンジルアミノプリン等が挙げられる。
【0040】
肥料としては、例えばオキサミド、クロトニリデン二尿素(CDU)、イソブチリデン二尿素(IB)、ウレアホルム、熔性りん肥、混合りん酸肥料、副産石灰肥料、炭酸カルシウム肥料、混合石灰肥料、鉱さいけい酸質肥料、その他けい酸質肥料、水酸化苦土肥料、副産苦土肥料、加工苦土肥料、鉱さいマンガン肥料、熔性微量要素肥料等が挙げられる。その他、鉱さいけい酸質肥料と同様にけい酸供給及びアルカリ分によるpH矯正を目的とする加工鉱さいりん酸肥料等にも適用可能である。中でも、オキサミド、クロトニリデン二尿素(CDU)、イソブチリデン二尿素(IB)、ウレアホルム、加工鉱さいりん酸肥料、鉱さいけい酸質肥料、混合りん酸肥料が好ましい。
【0041】
本発明の農薬散布液は、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば他の展着剤、エチレン変性PVA(A)以外の他のPVA、PVA以外の水溶性樹脂、乳化剤、水和剤、フロアブル剤、界面活性剤、増粘剤、架橋剤、防腐剤等が挙げられる。他の成分の含有量は、農薬散布液の全量に対して10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0042】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例
【0043】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、エチレン変性PVA(A)の粘度平均重合度、けん化度及び1,2-グリコール結合単位の含有量、農薬散布液の粘度安定性、展着性は、以下の方法で測定又は評価した。
【0044】
[エチレン変性PVA(A)の粘度平均重合度]
各エチレン変性PVAの粘度平均重合度は、JIS K 6726(1994年)に記載の方法により求めた。
【0045】
[エチレン変性PVA(A)のけん化度]
各エチレン変性PVAのけん化度は、JIS K 6726(1994年)に記載の方法により求めた。
【0046】
[エチレン変性PVA(A)の1,2-グリコール結合単位の含有量]
以下の実施例で得られたエチレン変性PVAを解放容器中で水に約2時間かけて溶解させた後、ポリエチレンテレフタレート基材上に溶液を流涎、乾燥させることでキャストフィルムを作製した。得られたフィルムを、DMSO-dに溶解して0.1質量%溶液にし、当該溶液にトリフルオロ酢酸を数滴(約0.1ml)加えて、H-NMR(500MHz)を用いて80℃で測定した。精製PVAに含まれる1,2-グリコール結合単位(1,2-グリコール結合で結合した単量体単位)の含有量は、ビニルアルコール単位のメチンプロトンに由来する3.2~4.0ppmのピーク(積分値α)と、1,2-グリコール結合単位の1つのメチンプロトンに由来する3.25ppmのピーク(積分値β)とから、下記式(I)に従って算出される。
PVAの1,2-グリコール結合単位の含有量(モル%)=100×β/α (I)
【0047】
[農薬散布液の粘度安定性]
後記する実施例及び比較例で得た農薬散布液を300mlのガラス製ビーカーにいれ、5℃で1週間放置し、5℃放置後粘度(η1週間)と5℃の初期粘度(η初期)との比(増粘倍率=η1週間/η初期)を求め以下の基準で評価した。測定は、JIS K 6726(1994年)の回転粘度計法に準じてB型粘度計を用いて5℃、12rpmで行った。
A:η1週間/η初期が1以上2.5未満
B:η1週間/η初期が2.5以上5未満
C:η1週間/η初期が5以上
【0048】
[展着性評価]
後記する実施例及び比較例で得た農薬散布液を、植物(シェフレラ)の葉面に霧吹きで散布し、着色した。24時間放置後、その葉面(農薬散布液の散布面)に対し、霧吹きにて10回、水を噴きかけた。そして、農薬散布液が落ちずに残った展着面を目視観察し、農薬散布液の散布面の面積に対する、その展着面の割合を測定し、下記の基準で評価した。
A:残存着色面が80%以上
B:残存着色面が40%以上80%未満
C:残存着色面が40%未満
【0049】
[実施例1]
(PVA-1:エチレン変性PVA(A)の製造)
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口及び重合開始剤添加口を備えた250L加圧反応槽に酢酸ビニル106.1kg、メタノール43.9kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が1.4kg/cmとなるようにエチレンを導入した。重合開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(AMV)をメタノールに溶解した濃度2.8g/L溶液を調製し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記反応槽の内温を60℃に調整した後、上記重合開始剤溶液53mlを注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を1.4kg/cmに、重合温度を60℃に維持し、上記重合開始剤溶液を用いて168ml/hrでAMVを連続添加して重合した。4時間後に重合率が20%となったところで、ソルビン酸を2.22g投入後、冷却して重合を停止した。反応槽を開放してエチレンを除去した後、さらに窒素ガスをバブリングした。次いで減圧下に未反応の酢酸ビニルモノマーを除去しポリ酢酸ビニル(以下、「PVAc」と略記することがある)のメタノール溶液とした。得られた該PVAc溶液にメタノールを加えて濃度が25質量%となるように調整したPVAcのメタノール溶液400g(溶液中のPVAc100g)に、46.5g(PVAc中の酢酸ビニル単位に対してモル比[MR]0.08)のアルカリ溶液(NaOHの10質量%メタノール溶液)を添加して、40℃でけん化を行った。アルカリ添加後、ゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、合計1時間けん化反応を行った後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して、本発明のエチレン変性PVA(PVA-1)を得た。PVA-1の物性を表2に示す。
【0050】
(農薬散布液の調製)
PVA-1を用いて5質量%水溶液を調製し、調製したPVA水溶液100質量部に対して、農薬活性成分(住友化学園芸製オルチオン 有効成分:アセフェート、MEP)を0.5質量部添加した。PVA-1を用いて作製した農薬散布液の粘度安定性を上述の方法に従って評価した。また、農薬散布液の展着性評価のため食紅を0.2質量部添加後、上述の方法に従って評価した。結果を表2に示す。
【0051】
[実施例2~5]
(PVA-2~PVA-5の製造、農薬散布液の調製)
エチレン、酢酸ビニル、メタノール及び重合開始剤の量、化合物(B)の種類及び量、重合温度、重合時間及び重合率、並びに、けん化時におけるPVAc溶液濃度及びけん化触媒の使用量、けん化温度を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、各種PVA(PVA-2~PVA-5)を製造した。PVA-2~PVA-5の物性を表2に示す。PVA-1に代えて、PVA-2~PVA-5をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして、農薬散布液を調製した。得られた農薬散布液の粘度安定性及び展着性を上述の方法に従って評価した。結果を表2に示す。
【0052】
[比較例1]
(PVA-iの製造、農薬散布液の調製)
撹拌機、窒素導入口及び重合開始剤添加口を備えた反応槽に酢酸ビニル2.4kg、メタノール1.0kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで重合開始剤として2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)をメタノールに溶解した濃度10質量%溶液を調製し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記反応槽の内温を60℃に調整した後、上記重合開始剤溶液10mlを注入し重合を開始した。1.4時間後に重合率が30%となったところで、1,3-ジフェニル-1-ブテンを0.1g添加後、冷却して重合を停止した。未反応酢酸ビニルモノマーを除去しPVAcのメタノール溶液とした。得られた該PVAc溶液にメタノールを加えて濃度が25質量%となるように調整したPVAcのメタノール溶液400g(溶液中のPVAc100g)に、32.6g(PVAc中の酢酸ビニル単位に対するモル比[MR]0.008)のアルカリ溶液(NaOHの10質量%メタノール溶液)を添加して、40℃でけん化を行った。アルカリ添加後、ゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、合計1時間けん化反応を行った後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥することで、PVA(PVA-i)を得た。PVA-iの物性を表2に示す。PVA-1に代えて、PVA-iを用いた以外は実施例1と同様にして、農薬散布液を調製した。得られた農薬散布液の粘度安定性及び展着性を上述の方法に従って評価した。結果を表2に示す。
【0053】
[比較例2]
(PVA-iiの製造)
酢酸ビニルの量、重合時間及び重合率、化合物(B)の種類、並びに、けん化時におけるPVAc溶液濃度及びけん化触媒の使用量を表1に示すように変更した以外は比較例1と同様にして、PVA-iiを製造した。PVA-iiの物性を表2に示す。PVA-1に代えて、PVA-iiを用いた以外は実施例1と同様にして、農薬散布液を調製した。得られた農薬散布液の粘度安定性及び展着性を上述の方法に従って評価した。結果を表2に示す。
【0054】
[比較例3]
(PVA-iiiの製造)
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口及び重合開始剤添加口を備えた5L加圧反応槽に酢酸ビニル1.36kg、メタノール2.04kgを仕込み、0℃にて30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が0.2kg/cmとなるようにエチレンを導入した。重合開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(AMV)を81.6g投入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を0.2kg/cmに、重合温度を0℃に維持し、重合を実施した。35時間後に重合率が60%となったところで重合を停止した。反応槽を開放してエチレンを除去した後、さらに窒素ガスをバブリングした。次いで減圧下で未反応酢酸ビニルモノマーを除去しPVAcのメタノール溶液とした。得られた該PVAc溶液にメタノールを加えて濃度が25質量%となるように調整したPVAcのメタノール溶液400g(溶液中のPVAc100g)に、46.5g(PVAc中の酢酸ビニル単位に対するモル比[MR]0.20)のアルカリ溶液(NaOHの10質量%メタノール溶液)を添加して、60℃でけん化を行った。アルカリ添加後、ゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、合計1時間けん化反応を行った後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥することで、PVA(PVA-iii)を得た。PVA-iiiの物性を表2に示す。PVA-1に代えて、PVA-iiiを用いた以外は実施例1と同様にして、農薬散布液を調製した。得られた農薬散布液の粘度安定性及び展着性を上述の方法に従って評価した。結果を表2に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の農薬用展着剤は、特定のエチレン変性PVA(A)を含有するため、展着性に優れる。さらに、該農薬用展着剤を用いて得られる農薬散布液は、長期保存した場合でも粘度安定性に優れる。従って、農業分野で使用される液状散布液(例えば葉、茎、果実等への散布液)への適用に有効である。