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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】磁気ディスク装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 17/038 20060101AFI20220510BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20220510BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20220510BHJP
   G11B 5/02 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
G11B17/038
G11B5/82
G11B5/73
G11B5/02 R
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020192623
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2021-03-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】北村 直紀
(72)【発明者】
【氏名】北脇 高太郎
(72)【発明者】
【氏名】畠山 英之
(72)【発明者】
【氏名】山田 涼平
(72)【発明者】
【氏名】中村 肇宏
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特許第6505960(JP,B1)
【文献】特開2017-199442(JP,A)
【文献】国際公開第2019/151459(WO,A1)
【文献】特許第6351780(JP,B1)
【文献】特開2010-067324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 17/038
G11B 5/82
G11B 5/73
G11B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金基板からなる磁気ディスクを搭載した3.5インチ磁気ディスク装置であって、
積層して配置される磁気ディスクの厚さTdは、0.3mm以上0.6mm以下、前記磁気ディスクの枚数Nは、10枚以上16枚以下、前記磁気ディスク間に配置されるスペーサの外径2Rsoは、35mm以上65mm以下であり、
前記スペーサの外径2Rso(mm)が、2Rso≧-60Td+70、かつ、2Rso≦-0.5N+16.5N-73を満たす、
ことを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項2】
前記磁気ディスクの厚さTdは、0.47mm以上0.55mm以下、前記磁気ディスクの枚数Nは、10枚、前記スペーサの外径2Rsoは、38mm以上42mm以下、前記スペーサの厚さが1.5mm以上であり、始動時の消費電力性に優れる、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項3】
ガラス基板からなる磁気ディスクを搭載した3.5インチ磁気ディスク装置であって、
積層して配置される前記磁気ディスクの枚数Nは、10枚以上16枚以下、前記磁気ディスク間に配置されるスペーサの外径2Rsoは、35mm以上65mm以下であり、
前記磁気ディスクの厚さTdは、0.3mm以上0.49mm以下、前記スペーサの外径2Rso(mm)が、2Rso≧-74Td+69.3、かつ、2Rso≦-0.42N+14.8N-63.1を満たす、
ことを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項4】
前記磁気ディスクの厚さTdは、0.37mm以上0.41mm以下、前記磁気ディスクの枚数Nは、10枚、前記スペーサの外径2Rsoは、39mm以上42mm以下、前記スペーサの厚さが1.6mm以上であり、始動時の消費電力性に優れる、
ことを特徴とする請求項3に記載の磁気ディスク装置。
【請求項5】
熱アシスト磁気記録方式またはマイクロ波アシスト磁気記録方式により記録する、
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の磁気ディスク装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやスマート家電の普及により、各個人の使用するデータ量が増加している。これらの膨大なデータはインターネットを通じデータセンター内の磁気ディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)に保存される。膨大なデータ量を記録するため、磁気ディスク装置の高容量化が求められている。
【0003】
磁気ディスク装置の高容量化を実現するための一例として、磁気ディスク装置に搭載する磁気ディスクの枚数を増やし、磁気ディスク装置1台あたりのデータ領域を拡大させるという技術動向がある。磁気ディスク装置に複数の磁気ディスクを搭載するために、磁気ディスクの間にリング状のスペーサが配置される。スペーサは、基板を複数枚用いる場合、基板間の距離を一定に保つ機能も果たす。例えば、引用文献1は、磁気ディスクに接する部分の平均表面粗さが0.001~0.3μmであるガラススペーサを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-307452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気ディスク装置は、その寸法が規格で定められているため、搭載させる磁気ディスク枚数を増やすためには、磁気ディスクの厚さを薄くするなどの工夫が必要である。磁気ディスクの厚さを薄くした場合、磁気ディスクの剛性が低下し、耐衝撃性および耐フラッタリング性が低下するという問題がある。すなわち、磁気ディスク装置の高容量化と、磁気ディスク装置の耐衝撃性および耐フラッタリング性は、ジレンマの関係にある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、優れた耐衝撃性および耐フラッタリング性を有し、磁気ディスク装置内のデータ領域が大きい磁気ディスク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の側面に係る磁気ディスク装置は、
アルミニウム合金基板からなる磁気ディスクを搭載した3.5インチ磁気ディスク装置であって、
積層して配置される磁気ディスクの厚さTdは、0.3mm以上0.6mm以下、前記磁気ディスクの枚数Nは、10枚以上16枚以下、前記磁気ディスク間に配置されるスペーサの外径2Rsoは、35mm以上65mm以下であり、
前記スペーサの外径2Rso(mm)が、2Rso≧-60Td+70、かつ、2Rso≦-0.5N +16.5N-73を満たす
ことを特徴とする。
【0009】
前記磁気ディスクの厚さTdは、0.47mm以上0.55mm以下、前記磁気ディスクの枚数Nは、10枚、前記スペーサの外径2Rsoは、38mm以上42mm以下、前記スペーサの厚さが1.5mm以上であり、始動時の消費電力性に優れるとよい。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の第2の側面に係る磁気ディスク装置は、
ガラス基板からなる磁気ディスクを搭載した3.5インチ磁気ディスク装置であって、
積層して配置される前記磁気ディスクの枚数Nは、10枚以上16枚以下、前記磁気ディスク間に配置されるスペーサの外径2Rsoは、35mm以上65mm以下であり、
前記磁気ディスクの厚さTdは、0.3mm以上0.49mm以下、前記スペーサの外径2Rso(mm)が、2Rso≧-74Td+69.3、かつ、2Rso≦-0.42N+14.8N-63.1を満たす、
ことを特徴とする。
【0011】
前記磁気ディスクの厚さTdは、0.37mm以上0.41mm以下、前記磁気ディスクの枚数Nは、10枚、前記スペーサの外径2Rsoは、39mm以上42mm以下、スペーサの厚さが1.6mm以上であり、始動時の消費電力性に優れるとよい。
【0012】
熱アシスト磁気記録方式またはマイクロ波アシスト磁気記録方式により記録するとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた耐衝撃性および耐フラッタリング性を有し、磁気ディスク装置内のデータ領域が大きい磁気ディスク装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)は、実施の形態に係る磁気ディスク装置を示す上面図であり、(B)は、磁気ディスク装置を示す側面図である。
図2】実施の形態に係る磁気ディスク装置が備える磁気ディスク用基板とスペーサを示す断面図である。
図3】実施の形態に係る磁気ディスク装置が備える磁気ディスク用基板とスペーサを示す斜視図である。
図4】実施の形態に係る磁気ディスク装置が備える磁気ディスク用基板とスペーサを示す拡大断面図である。
図5】実施の形態に係る磁気ディスク装置が備える磁気ディスク用基板に衝撃が加えられたことを示す図である。
図6】実施例に係る基板たわみ量の実測値と計算値の比較を示す図である。
図7】実施例に係る磁気ディスクの厚さ毎のスペーサの外径とたわみ量の良否関係を示すグラフである。
図8】実施例に係る磁気ディスクの枚数毎のスペーサの外径とデータ領域の良否関係を示すグラフである。
図9】実施例に係る磁気ディスクの厚さ毎のスペーサの外径とたわみ量の良否関係を示すグラフである。
図10】実施例に係る磁気ディスクの枚数毎のスペーサの外径とデータ領域の良否関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態の磁気ディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)およびスペーサについて説明する。
【0017】
本実施の形態の磁気ディスク装置100は、箱型の記録再生装置であり、図1(A)および図1(B)に示すように、筐体10と、基台20と、重ねて配置された複数の磁気ディスク30と、ヘッドスタックアッセンブリ40と、ボイスコイルモータ50と、ランプロード60と、クランプ70と、図示しないスピンドルモータおよび回路基板等の必要部材と、を備える。また、磁気ディスク装置100は、図2および図3に示すように、複数の磁気ディスク30の間に配置された複数のスペーサ80と、回転軸Zを中心に複数の磁気ディスク30を回転するハブ90と、を備える。
【0018】
図1に戻って、磁気ディスク装置100の寸法は共通規格で定められており、例えばデータセンター向けとして、SFF-8301という規格に準拠した寸法の3.5インチ磁気ディスク装置が好適に用いられている。この規格では、筐体10の高さHは、26.1mm、幅Wは、101.6mm、奥行Dは、147mmと定められている。
【0019】
筐体10は、一般的に金属製であり、一面が開放された立方体の箱形形状を有し、基台20と、磁気ディスク30と、ヘッドスタックアッセンブリ40と、ボイスコイルモータ50と、ランプロード60と、クランプ70と、スピンドルモータおよび回路基板等の必要部材と、を図示しないトップカバーにより密閉するものである。
【0020】
基台20は、筐体10の底に配置され、ボイスコイルモータ50、スピンドルモータおよび回路基板等が実装される部分である。基台20と筐体10は一体型の場合が多い。
【0021】
磁気ディスク30は、図2および図3に示すように、磁気的に情報を記録するための円盤状の媒体であり、基板、下地層、磁性層、保護層、潤滑層から構成され、回転軸Zを中心に回転する。磁気記録方式として、垂直磁気記録方式(PMR:Perpendicular Magnetic Recording)や、瓦書き方式(SMR:Shingled Magnetic Recording)のものが好適に用いられている。さらなる高容量化の実現のため、熱アシスト磁気記録方式(HAMR:Heat Assisted Magnetic Recording)やマイクロ波アシスト磁気記録方式(MAMR:Microwave Assisted Magnetic Recording)といった技術が開発されている。基板としては、アルミニウム合金基板またはガラス基板が好適に用いられている。アルミニウム合金基板およびガラス基板の詳細については、後述する。
【0022】
磁気ディスク30の厚さTdは、0.3mm以上0.6mm以下、外径2Rdは、95mmまたは97mm、内径は25mmである。また、本実施の形態の磁気ディスク装置100が備える磁気ディスク30の枚数Nは、10枚以上16枚以下である。磁気ディスク30は、ガラス基板からなる場合、磁気ディスク30の厚さTdは、0.3mm以上0.49mm以下であることが好ましい。磁気ディスク装置100の高容量化を実現するための一例として、搭載する磁気ディスク30の枚数を増やし、磁気ディスク装置100一台あたりのデータ領域を拡大させるという技術がある。しかしながら前述の通り、磁気ディスク装置100の寸法は規格で定められており、磁気ディスク30を搭載する空間には制限がある。そのため、搭載させる磁気ディスク30の枚数を増やすために、磁気ディスク30の厚さを薄くしている。
【0023】
図1に戻って、ヘッドスタックアッセンブリ40は、アーム41とアーム41の先端に取り付けられたヘッド部42と有する。HAMRにより記録する場合、ヘッド部42にレーザ素子を、MAMRにより記憶する場合、ヘッド部42にマイクロ波発生素子を搭載する。
【0024】
ボイスコイルモータ50は、ヘッドスタックアッセンブリ40を回動させる駆動用モータである。
【0025】
ランプロード60は、樹脂製の部品であり、磁気ディスク装置100の非動作時にヘッド部42を退避させることを目的に、磁気ディスク30外周部側で磁気ディスク30に最も接近した位置に搭載されたものである。
【0026】
クランプ70は、磁気ディスク30をハブ90に固定するためのものである。
【0027】
図2および図3に示すように、スペーサ80は、リング状の薄板であり、複数の磁気ディスク30の間に配置される。複数の磁気ディスク30間にスペーサ80が配置されることで、磁気ディスク30は、スピンドルモータのハブ90にクランプ70で強固に固定される。スペーサ80の役割は、複数の磁気ディスク30同士の間隔を確保すること、および、磁気ディスク30と接触・密着することで、ハブ90またはクランプ70と直接接触していない磁気ディスク30へハブ90の回転駆動力を伝えることである。
【0028】
スペーサ80の外径2Rsoは、35mm以上65mm以下である。これにより、磁気ディスク装置100の耐衝撃性および耐フラッタリング性を維持したまま、磁気ディスク装置100内のデータ領域を拡大することができる。耐衝撃性および耐フラッタリング性については、後述する。磁気ディスク装置100がアルミニウム合金基板からなる磁気ディスク30を搭載した場合、スペーサ80の外径2Rso(mm)は、2Rso≧-60Td+70、かつ、2Rso≦-0.5N+16.5N-73を満たすことが好ましい。磁気ディスク装置100が、ガラス基板からなる磁気ディスク30を搭載した場合、スペーサ80の外径2Rso(mm)は、2Rso≧-74Td+69.3、かつ、2Rso≦-0.42N+14.8N-63.1を満たすことが好ましい。
【0029】
スペーサ80の厚さTsに関して、磁気ディスク30同士の間隔は狭いほど、限られた空間内に多くの磁気ディスク30を搭載することができ好ましいが、磁気ディスク30表面にはヘッドスタックアッセンブリ40を稼働させる空間が必要である。特に、先述したHAMRおよびMAMRの高容量化技術において、HAMRにより記録する場合、ヘッド部42にレーザ素子を、MAMRにより記憶する場合、ヘッド部42にマイクロ波発生素子を搭載する必要があり、ヘッドスタックアッセンブリ40の小型化は容易ではない。磁気ディスク30同士の間隔、すなわちスペーサの厚さTsは、少なくとも1mm以上、好ましくは1.5mm、より好ましくは1.6mm以上が必要である。
【0030】
スペーサ80の形状は、スペーサ80両表面の平坦度が小さいものが望まれる。さらに、スペーサ80の表面と内外周端面の境界(以下、スペーサ内外周部)にはバリ取りなどを目的に面取りが施されていることが望ましい。磁気ディスク30とスペーサ80を積層する際に、スペーサ80内外周部のバリが磁気ディスク30に接触してキズを発生させる懸念があるからである。スペーサ80は、図4に示すように、面取り部81を有することが好ましい。スペーサ80の外半径Rso、スペーサ80の内半径Rsi、スペーサ80外周部の面取り部81の長さLso、スペーサ80内周部の面取り部82の長さLsi、スペーサ80と磁気ディスクの接触部83の外半径Rsso、スペーサ80と磁気ディスク30の接触部83の内半径Rssiとすると、Rsso=Rso-Lso、Rssi=Rsi+Lsiとなる。接触部83の径方向における長さRst=Rsso-Rssiとなる。スペーサ80の面取り部81、82は磁気ディスク30との接触に寄与せず、磁気ディスク30へハブ90の回転駆動力を伝えるという役割に寄与しないため、スペーサ80の面取り部81、82の長さLso、Lsi、はできる限り小さいほうが好ましく、具体的には0.1mm以下が好ましい。
【0031】
スペーサ80の材質は、スペーサ80と磁気ディスク30の熱膨張係数差が小さいことが望ましい。両者の熱膨張係数差が大きいと、磁気ディスク30装置動作時の環境温度が変化した場合に、スペーサ80と磁気ディスク30表面の位置ズレが発生し、読み書きエラーの原因となる。磁気ディスク30がアルミニウム合金基板からなる場合、スペーサ80はアルミニウムが好適に用いられる。磁気ディスク30がガラス基板からなる場合、スペーサ80はガラス、ステンレス、チタンなどが好適に用いられる。さらに、磁気ディスク30やスペーサ80への帯電防止を目的に、スペーサ80は導電性を有することが望ましい。スペーサ80にガラスを採用する場合は、ガラス製のスペーサ80の表面と側面にNi-Pめっき等の金属膜を備えることが望ましい。
【0032】
磁気ディスク装置100内に磁気ディスク30を複数枚搭載する場合について説明する。図2および図3に示すように、磁気ディスクの外半径Rd、磁気ディスクの厚さTd、スペーサの外半径Rso、スペーサ80の厚さTs、磁気ディスクとスペーサの積層高さTとする。磁気ディスク30の内径とスペーサ80の内径は等しく、磁気ディスクの内半径=スペーサの内半径Rsiである。磁気ディスク30の内径とスペーサ80の内径2Rsiは、例えば25mmである。
【0033】
ここで、SFF-8301に準拠した筐体10の高さHが26.1mmの磁気ディスク装置100について考える。磁気ディスク装置100に厚さTdの磁気ディスク30をN枚と、厚さTsのスペーサ80を(N-1)枚交互に積層した場合、その積層高さT=N×Td+(N-1)×Tsは26.1mmよりも低い必要がある。しかし、磁気ディスク装置100は、磁気ディスク30とスペーサ80以外にも、基台20、回路基板、スピンドルモータ、クランプ70、ハブ90、トップカバー等の部品が装置内の空間に搭載されるため、磁気ディスク30とスペーサ80の積層高さTは20mm以下であることが好ましく、より好ましくは19mm以下である。先述した通り、磁気ディスク30の厚さTdの下限値は0.3mm、スペーサ80の厚さTsの下限値は1mm、磁気ディスク30とスペーサ80の積層高さTの上限値は20mmであることから、磁気ディスク30の枚数Nの上限値は16枚となる。また、磁気ディスク装置100の高容量化を実現するため、磁気ディスク30の枚数Nは、10枚以上である。
【0034】
ハブ90は、円筒状の形状を有する小径部91と大径部92が回転軸Zの方向に接続された形状を有し、回転軸Zを中心軸としてスピンドルモータにより回転する。小径部91の直径は、磁気ディスク30の内径およびスペーサ80の内径2Rsiと同一である。大径部92は、クランプ70と共に、磁気ディスク30およびスペーサ80を挟んで固定する。
【0035】
磁気ディスク30は、上述したように、磁気的に情報を記録するための円盤状の媒体であり、基板、下地層、磁性層、保護層、潤滑層から構成される。基板は、アルミニウム合金基板またはガラス基板が好適に用いられている。
【0036】
(アルミニウム合金基板)
アルミニウム合金基板は、従来から使用されているJIS5086合金等のAl-Mg系合金が、強度が強く好適に用いられる。あるいは、Al-Fe系合金が、剛性が高く好適に用いられる。
【0037】
具体的には、Al-Mg系合金は、Mg:1.0~6.5質量%を含有し、Cu:0.070質量%以下、Zn:0.60質量%以下、Fe:0.50質量%以下、Si:0.50質量%以下、Cr:0.20質量%以下、Mn:0.50質量%以下、Zr:0.20質量%以下の1種又は2種以上を更に含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物やその他の微量元素からなるアルミニウム合金である。
【0038】
Al-Fe系合金は、必須元素であるFeと、選択元素であるMn及びNiのうち1種又は2種を含有し、これらFe、Mn及びNiの含有量の合計が1.00~7.00質量%の関係を有し、更に、Si:14.0質量%以下、Zn:0.7質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Mg:3.5質量%以下、Cr:0.30質量%以下、Zr:0.20質量%以下の1種又は2種以上を更に含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物やその他の微量元素からなるアルミニウム合金である。
【0039】
つぎに、アルミニウム合金基板の製造方法について説明する。
【0040】
まず、半連続鋳造法により鋳塊を作製し、それを熱間圧延および冷間圧延加工し、所望の厚さの板材を作製する。または、連続鋳造により板材を作製し、それを冷間圧延加工し、所望の厚さの板材を作製する。組織を均質化する目的で、鋳塊に熱処理を施してもよい。加工性を向上させる等の目的で、冷間圧延前、冷間圧延の途中、冷間圧延後の板材に熱処理を施してもよい。
【0041】
つぎに、前記の通り作製された板材を、プレス機で打抜き加工し、所望の内径寸法、外径寸法を有する円盤状のブランクを作製する。その後、ブランクの平坦度を小さくする目的で、ブランク同士を積層し、積層ブランクに荷重をかけ、加熱処理を行う。
【0042】
つぎに、ブランクの内径部、外径部を旋盤加工機で切削加工し、所望の内径寸法、外径寸法、および所望の長さの面取り部を有するTサブを作製する。さらにブランク両面の表面を切削加工し、所望の厚さの板厚を有するTサブとしてもよい。さらに切削加工により材料内部に発生した加工歪を取り除く目的で、Tサブに加熱処理を施してもよい。
【0043】
つぎに、Tサブ両面の表面を研削加工機で研削し、所望の厚さのGサブを作製する。さらに研削加工により材料内部に発生した加工歪を取り除く目的で、Gサブに加熱処理を施してもよい。
【0044】
つぎに、Gサブの表面、側面、面取り面を含む全ての面に所望の厚さのめっきを成膜したMサブを作製する。まずGサブにめっき密着性向上を目的に、前処理を行う。次いでめっき処理を行う。めっきはNi-P無電解めっきが好適に用いられる。さらにNi-P無電解めっきの内部応力を取り除く目的で、Mサブに加熱処理を施してもよい。
【0045】
つぎに、Mサブ両面の表面を研磨加工機で研磨し、所望の厚さの基板、すなわちアルミニウム合金基板を作製する。この方法で作製されるアルミニウム合金基板の厚さの下限値は0.3mmである。それは研磨加工機で研磨する際に、アルミニウム合金基板を保持するキャリアと呼ばれる部品の厚さに起因する。キャリアの厚さは被加工物であるアルミニウム合金基板の厚さ以上であれば任意に選択可能であるが、キャリアは薄すぎると強度が不足し研磨加工中に破損してしまう。キャリア強度の観点において、キャリアの厚さは0.3mm以上が好ましい。よって被加工物であるアルミニウム合金基板の厚さの下限値は0.3mmとなる。なお、キャリアはアラミド樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂製のものが好適に用いられる。強度向上を目的に、炭素繊維やガラス繊維等の繊維状補強材を含有させることもある。
【0046】
つぎに、アルミニウム合金基板の表面に、下地層、磁性層、保護層、潤滑層を成膜する。これにより、磁気ディスク30が得られる。
【0047】
(ガラス基板)
ガラス基板は、アルミノシリケートガラスが、硬度が強く好適に用いられる。具体的には、アルミノシリケートガラスは、SiO:55~70質量%を主成分として、AlO:25質量%以下、LiO:12質量%以下、NaO:12質量%以下、KO:8質量%以下、MgO:7質量%以下、CaO:10質量%以下、ZrO:10質量%以下、TiO:1質量%以下の1種又は2種以上を含有し、残部が不可避不純物やその他の微量元素からなる。
【0048】
つぎに、ガラス基板の製造方法について説明する。
【0049】
まず、所定の化学成分に調製したガラス素材を溶解し、ダイレクトプレス法で、その溶融塊を両面からプレス成形して、所望の厚さを有するガラス元板を作製する。ガラス元板の作製は前記ダイレクトプレス法に限定されず、フロート法、フュージョン法、リドロー法などでも良い。
【0050】
つぎに、このガラス元板を円環状にコアリングし、さらに内径部と外径部を研磨加工し、所望の内径寸法、外径寸法、面取り長さを有する円環状ガラス板とする。
【0051】
つぎに、この円環状ガラス板両面の表面を、研削加工機で研削し、所望の板厚、平坦度を有する円環状ガラス基板とする。
【0052】
さらに、この円環状ガラス板両面の表面を、研磨加工機で研磨し、所望の厚さの基板、すなわちガラス基板を作製する。研磨加工の途中に、硝酸ナトリウム溶液や硝酸カリウム溶液等による化学強化処理を行ってもよい。
【0053】
この方法で作製されるガラス基板の厚さの下限値は0.3mmである。それは研磨加工機で研磨する際に、ガラス基板を保持するキャリアと呼ばれる部品の厚さに起因する。キャリアの厚さは被加工物であるガラス基板の厚さ以上であれば任意に選択可能であるが、キャリアは薄すぎると強度が不足し研磨加工中に破損してしまう。キャリア強度の観点において、キャリアの厚さは0.3mm以上が好ましい。よって被加工物であるガラス基板の厚さの下限値は0.3mmとなる。なお、キャリアはアラミド樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂製のものが好適に用いられる。強度向上を目的に、炭素繊維やガラス繊維等の繊維状補強材を含有させることもある。
【0054】
(耐衝撃性)
磁気ディスク装置100が外部から衝撃を受けた場合、図5に示すように、磁気ディスク30にたわみが生じ、磁気ディスク30と例えばランプロード60が衝突する。ランプロード60は、上述したように、磁気ディスク装置100の非動作時にヘッド部42を退避させることを目的に、磁気ディスク30外周部側で磁気ディスク30に最も接近した位置に搭載される樹脂製の部品である。磁気ディスク30とランプロード60が衝突すると、ランプロード60の一部が欠けて異物が発生したり、磁気ディスク30にキズついたりし、故障の原因となる。磁気ディスク30の剛性が高いほど、たわみ量は小さくなり、故障の発生確率は低減する。すなわち、磁気ディスク30の剛性が高いほど、耐衝撃性が向上する。
【0055】
(耐フラッタリング性)
磁気ディスク装置100の動作中に、磁気ディスク30は高速回転する。その回転数は例えば7200rpmである。磁気ディスク30が高速回転すると磁気ディスク30装置内の気体に乱流が生じ、磁気ディスク30が振動する。この振動現象をフラッタリングと呼ぶ。磁気ディスク30が振動すると、ヘッド部42の位置精度が低下し、読み取りエラーの原因となる。磁気ディスク30の剛性が高いほど、振動量は小さくなり、読み書きエラーの確率は低減する。すなわち、磁気ディスク30の剛性が高いほど、耐フラッタリング性が向上する。なお、磁気ディスク装置100内の気体の乱流を低減させる目的で、磁気ディスク装置100内に空気に代わりヘリウムを充填する技術が知られている。
【0056】
(磁気ディスクの剛性)
磁気ディスク30の耐衝撃性は、磁気ディスク30が衝撃による加速度を受けた際の磁気ディスク30のたわみ量の大小で示される。磁気ディスク30の耐フラッタリング性は、磁気ディスク30が高速回転することにより発生した気体の乱流を受けた際の磁気ディスク30のたわみ量の大小で示される。すなわち、磁気ディスク30の耐衝撃性と耐フラッタリング性は、磁気ディスク30がたわみ易いか否かで決まる。
【0057】
磁気ディスク30のたわみ量については、磁気ディスク30が内周側を領域AX固定された円板で、円板の中心に対して対称形の垂直荷重を受け、回転軸Zに軸対象のたわみを生ずるモデルで考えることができ、「機械工学便覧/第4編 材料力学/第5章 板/第36表-18」に示される通り、次の式1で計算できる。
【0058】
【数1】
【0059】
ωは円板のたわみ量、2aは円板の直径、2bは円板の内周固定部の直径、rは円板の中心からの距離、pは単位面積当たりの荷重、D=Eh/12(1-ν):板の曲げ剛性、Eは円板のヤング率、hは円板の厚さ、νは円板のポアソン比である。
【0060】
これを図2および図3に示す磁気ディスク装置100内のパラメータに対応させると、磁気ディスクの外半径Rd=a、スペーサ80と磁気ディスク30の接触部の外半径Rsso=b、磁気ディスク30の厚さTd=h、磁気ディスク30の単位面積当たりの荷重p=ρTd、ただしρは磁気ディスク30の密度である。さらに、磁気ディスク30最外周位置でのたわみ量ωmaxは、r=Rdを代入することで求められる。これらを反映すると、式1は式2に変換できる。なお、図2および図5に示す領域AXはハブ90の大径部92と、スペーサ80の接触面と、クランプ70と、に挟まれ磁気ディスク30が強固に固定された領域であり、剛体と考える。
【0061】
【数2】
【0062】
すなわち、磁気ディスク30の最外周位置でのたわみ量ωmaxは、磁気ディスク30の外半径Rd、磁気ディスク30の厚さTd、スペーサ80と磁気ディスク30の接触部の外半径Rsso、磁気ディスク30のヤング率E、磁気ディスク30の密度ρ、磁気ディスク30のポアソン比νの関数で示すことができる。なお、式1、および式1から導き出された式2は、磁気ディスク30のみならず、磁気ディスク基板や、磁気ディスク用途以外のディスクなど、内周部を固定されたあらゆる円板に適用することができる。
【0063】
磁気ディスク30または磁気ディスク基板の密度ρはアルキメデス法、ヤング率Eとポアソン比νは超音波パルス法などで求めることができる。なお、磁気ディスク30の基板がアルミニウム合金基板からなる場合、アルミニウム合金基板はアルミニウム合金とNi-Pめっきの複合体であるため、ρ、E、νは、アルミニウム合金厚とNi-Pめっき厚に依存するが、前記の通りρはアルキメデス法、Eとνは超音波パルス法などで求めることができる。
【0064】
(磁気ディスク装置のデータ領域)
磁気ディスク装置内のデータ領域Sは、磁気ディスク両面1枚当たりのデータ領域Sd、搭載される磁気ディスクの枚数N、磁気ディスクのデータ領域の内半径Rddi、磁気ディスクのデータ領域の外半径Rddoとすると、次の式3で計算される。
【0065】
【数3】
【0066】
(磁気ディスク装置100の始動時の消費電力)
磁気ディスク装置100の消費電力は低いほど好ましい。ここでは、磁気ディスク装置100の始動時、すなわち磁気ディスク30が停止状態から定常状態(例えば7200rpm)に到達するまでにスピンドルモータを内蔵した直径25mmのハブ90が行う仕事量に着目した。ハブ90が行う仕事は、磁気ディスク30とスペーサ80からなる積層体(中空の円柱)を回転軸Zのまわりに回転させることであり、その仕事量は磁気ディスク30とスペーサ80からなる積層体の慣性モーメントに比例する。磁気ディスクが停止状態から定常状態に到達するまでの角加速度は一定値とした。
【0067】
まず、中空直円柱の慣性モーメントIzは「機械工学便覧/第3編 力学/第2章 重心および慣性モーメント/2・2・5 e.中空直円柱」に示される通り、次の式4で計算できる。
【0068】
【数4】
【0069】
mは中空直円柱の質量、Rは中空直円柱の外半径、rは中空直円柱の内半径である。磁気ディスク30とスペーサ80からなる積層体の慣性モーメントIdsは、磁気ディスク30の慣性モーメントIdとスペーサ80の慣性モーメントIsの和であり、式4を用いて算出すると式5が得られる。
【0070】
【数5】
【0071】
mdは磁気ディスク30の総質量、ρは磁気ディスク30の密度、Nは磁気ディスク30の枚数、Tdは磁気ディスク30の厚さ、Rdは磁気ディスク30の外半径、msはスペーサ80の総質量、ρsはスペーサ80の密度、N-1はスペーサ80の枚数、Tsはスペーサの厚さ、Rsoはスペーサ80の外半径である。Rsiはスペーサの内半径=磁気ディスクの内半径=25mmである。
【0072】
これらのパラメータにより、磁気ディスク30が停止状態から定常状態に到達するまでにハブ90が行う仕事量、すなわち磁気ディスク装置100の始動時の消費電力を見積もることができる。
【0073】
磁気ディスク装置100が、アルミニウム合金基板からなる磁気ディスク30を搭載した場合、磁気ディスク30の厚さTdは、0.47mm以上0.55mm以下、磁気ディスク30の枚数Nは、10枚、スペーサ80の外径2Rsoは、38mm以上42mm以下、スペーサ80の厚さTsが1.5mm以上であるとよい。このようにすることで、始動時の消費電力性に優れる。
【0074】
磁気ディスク装置100が、ガラス基板からなる磁気ディスク30を搭載した場合、磁気ディスク30の厚さTdは、0.37mm以上0.41mm以下、磁気ディスク30の枚数Nは、10枚、スペーサ80の外径2Rsoは、39mm以上42mm以下、スペーサ80の厚さTsが1.6mm以上であるとよい。このようにすることで、始動時の消費電力性に優れる。
【0075】
以上のように、本実施の形態の磁気ディスク装置100およびスペーサ80によれば、スペーサ80の外径2Rsoを上述した値に設定することで、磁気ディスク30のたわみ量を増やすことなく、すなわち磁気ディスク装置100の耐衝撃性および耐フラッタリング性を維持したまま、磁気ディスク装置100内のデータ領域を拡大し、高容量の3.5インチ磁気ディスク装置100を提供することができる。さらに、スペーサ80の厚さを上述した値に設定することで、HAMRまたはMAMR用途に適した磁気ディスク間距離を確保することができる。また、スペーサ80の外径2Rso、磁気ディスク30の厚さTdおよび枚数Nを上述した値に設定することで、始動時の消費電力性に優れる磁気ディスク装置100を提供することができる。従って、優れた耐衝撃性および耐フラッタリング性を有し、磁気ディスク装置100内のデータ領域が大きい磁気ディスク装置100およびスペーサ80を提供することができる。磁気ディスク装置100をデータセンターに搭載することで、データセンターの高容量化に寄与することができる。また、磁気ディスク装置100内のスペーサ80の外径を大きくすることで磁気ディスクのたわみを抑制し、磁気ディスク30の厚さを薄くし搭載枚数を増やすことでデータ領域を拡大するという本実施の形態の考え方は、3.5インチ磁気ディスク装置100に限らず、あらゆるサイズの磁気ディスク装置100に応用することができる。磁気ディスク30の種類はアルミニウム合金基板およびガラス基板からなる磁気ディスク30に限らず、あらゆる種類の磁気ディスク30に応用することができる。
【0076】
(変形例)
上述の実施の形態では、磁気ディスク30およびスペーサ80の内径2Rsiが、25mmである例について説明した。スペーサ80の役割は、複数の磁気ディスク30同士の間隔を確保し、磁気ディスク30と接触・密着することで、ハブ90またはクランプ70と直接接触していない磁気ディスク30へハブ90の回転駆動力を伝えることである。これらの役割を果たすことができれば、内径2Rsiは、特に限定されない。図4に示すスペーサ80の接触部83の径方向における長さRst=Rsso-Rssiは、7mm以上であれば、上述した役割を果たすことができる。スペーサ80の面取り部81の長さLsoは、長さRstに対して十分小さい場合、スペーサ80の内半径Rsiは、外半径Rso-7mm以下であることが好ましい。この場合、スペーサ80の接触部83の径方向における長さRst=Rsso-Rssiを7mm以上確保できる。
【実施例
【0077】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0078】
(磁気ディスクのたわみ量)
磁気ディスク30の最外周位置でのたわみ量ωmaxについて、磁気ディスク30のたわみ量ωmaxの実測値と、式2で求められる計算値を比較し、式2が実際の磁気ディスク30のたわみ量ωmaxを予測できることを示す。
【0079】
まず、Fe=0.7質量%、Mn=0.9質量%、Ni=1.7質量%、Si=0.06質量%、Zn=0.3質量%、Cu=0.02質量%、残部がアルミニウムと不可避不純物やその他の微量元素からなるアルミニウム合金の鋳塊を半連続鋳造法により作製した。
【0080】
つぎに、半連続鋳造法により作製した鋳塊を、均熱処理し、熱間圧延および冷間圧延加工し、板材を作製した。その板材を、プレス機で打抜き加工し、積層し荷重をかけ加熱処理を行い、ブランクを作製した。そのブランクの内径部、外径部を旋盤加工機で切削加工し、両面の表面を切削加工、研削加工し、アルミニウム合金基板(Gサブ)を作製した。アルミニウム合金基板の内径は、25mm、外径は97mmである。アルミニウム合金基板の板厚は、0.604mm、0.480mmおよび0.461mmの3種類を作製した。
【0081】
それらのアルミニウム合金基板について、衝撃試験装置を用いてアルミニウム合金基板のたわみ量ωmaxを実測した。衝撃試験装置は、アルミニウム合金基板をスペーサで挟んで固定するハブおよびクランプと、アルミニウム合金基板の最外周位置の変位を計測するセンサと、を備える。スペーサはアルミニウム製であり、外径32mm、内径25mm、厚さ1.7mmのものを使用した。アルミニウム合金基板をスペーサで挟んで衝撃試験装置に設置し、加速度50G、作用時間3msの衝撃を付与し、衝撃によるアルミニウム合金基板の最外周位置でのたわみ量ωmaxを実測した。たわみ量ωmaxの測定は各サンプル3回実施した。その後、板厚0.461mmの平均たわみ量ωmaxを100%として各板厚のたわみ量ωmaxの相対値を求めた。
【0082】
なお、衝撃による磁気ディスク30のたわみ量が大きいと、磁気ディスク装置100内の部品、例えばランプロード60に強く衝突し、ランプロード60の一部が欠けて異物が発生したり、磁気ディスク30にキズがついたりし、故障の原因となる。このため、磁気ディスク30のたわみ量が小さいほど、耐衝撃性は良い。磁気ディスク30は、アルミニウム合金基板に下地層、磁性層、保護層、潤滑層を成膜したものであり、磁気ディスク30のたわみ量ωmaxは、アルミニウム合金基板のたわみ量ωmaxと近似することができる。
【0083】
つぎに、式2を用い、アルミニウム合金基板の最外周位置でのたわみ量を計算した。アルミニウム合金基板の外径2Rd=97mm、アルミニウム合金基板の厚さTd=0.604mm、0.480mm、0.461mmの3水準、スペーサ84とアルミニウム合金基板の接触部の外直径2Rsso=31.8mm、E=79GPa、ρ=2.7g/cm、ν=0.33とした。その後、板厚0.461mmのたわみ量を100%として相対値を求めた。
【0084】
このように求めた、アルミニウム合金基板の最外周位置でのたわみ量の実測値と計算値を図6に示す。実測値と計算値はほぼ一致しており、式2が実際の磁気ディスク30のたわみ量を予測できることを示している。
【0085】
(耐衝撃性および耐フラッタリング性)
つぎに、市販の磁気ディスク装置を基準とし、磁気ディスク装置100が、耐衝撃性および耐フラッタリング性を維持したまま、磁気ディスク装置内のデータ領域を拡大できることを示す。
【0086】
市販の磁気ディスク装置の磁気ディスクの外半径Rd、磁気ディスクの厚さTd、スペーサの外半径Rso、スペーサの厚さTs、スペーサと磁気ディスクの接触部の外半径Rssoはノギスで実測した。
【0087】
耐衝撃性および耐フラッタリング性は、式2を用いて磁気ディスクの最外周位置でのたわみ量の大小で評価した。基準のたわみ量を100%として相対評価し、100%以下となる事例を良好とした。
【0088】
磁気ディスク装置100内のデータ領域Sは、式3を用いて計算した。ただし、磁気ディスク30のデータ領域Sの内半径Rddi=スペーサ80の内半径Rsi+2mm、磁気ディスク30のデータ領域Sの外半径Rddo=スペーサ80の外半径Rso-2mmとして計算した。基準のデータ領域Sを100%として相対評価し、100%以上となる事例を良好とした。
【0089】
磁気ディスク装置100始動時の消費電力は、式5を用いて磁気ディスク30とスペーサ80からなる積層体の慣性モーメントIdsを計算して求めた。基準の慣性モーメントIdsを100%として相対評価した。100%以下となる事例を好ましい例とした。
【0090】
(アルミニウム合金基板)
アルミニウム合金基板からなる外径95mm、内径25mmの磁気ディスクを9枚搭載した、東芝製MG07ACA14TEを基準Aとした。基準A、実施例および比較例を表1に示す。基準A、実施例および比較例の磁気ディスクはE=74GPa、ρ=2.8g/cm、ν=0.33、スペーサはρs=2.7g/cmとして計算した。計算結果を表1および表2に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
実施例1-1~1-27は、磁気ディスクのたわみ量が基準以下で、かつ、磁気ディスク装置内のデータ領域が基準以上である。図7に、横軸:磁気ディスクの厚さTd、縦軸:スペーサの外径2Rsoとし、磁気ディスクのたわみ量が基準以下となる実施例を良好○、基準を超える比較例を不良×、基準Aを□で示した。また、図8に、横軸:磁気ディスクの枚数N、縦軸:スペーサの外径2Rsoとし、磁気ディスク装置内のデータ領域が基準以上となる実施例を○、基準未満となる比較例を×、基準Aを□で示した。
【0094】
以上より、アルミニウム合金基板からなる磁気ディスクを搭載した3.5インチ磁気ディスク装置である場合、磁気ディスクの厚さTd=0.3~0.6mm、磁気ディスクの枚数N=10~16枚、スペーサの外径2Rsoが、2Rso≧-60Td+70、かつ、2Rso≦-0.5N+16.5N-73を満たすと、磁気ディスクのたわみ量が基準以下となり、データ領域が基準以上となることが示された。
【0095】
好ましくは、レーザ素子を搭載したHAMR用のヘッドスタックアッセンブリ、またはマイクロ波発生素子を搭載したMAMR用のヘッドスタックアッセンブリを稼働させるために十分な磁気ディスク間の距離1.5mm以上を確保し、磁気ディスク装置始動時の消費電力が基準以下であることが望まれる。表1の総合評価に◎で示された実施例1-1~1-9がそれに該当する。
【0096】
比較例1-1~1-7は、表2に示すように、磁気ディスクのたわみ量が基準より大きく、耐衝撃性および耐フラッタリング性に劣る。比較例1-8~1-18は、磁気ディスク装置内のデータ領域が基準より小さく、高容量化を実現できない。
【0097】
(ガラス基板)
ガラス基板からなる外径97mm、内径25mmの磁気ディスクを9枚搭載した、シーゲート製Exos X16 ST16000NM001Gを基準Bとした。基準Bおよび実施例と比較例を表3および表4に示す。基準B、実施例、比較例の磁気ディスクはE=83GPa、ρ=2.5g/cm、ν=0.23、スペーサはρs=4.4g/cmとして計算した。
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】
【0100】
実施例2-1~2-30は、磁気ディスクのたわみ量が基準以下で、かつ、磁気ディスク装置内のデータ領域が基準以上である。図9に、横軸:磁気ディスクの厚さTd、縦軸:スペーサの外径2Rsoとし、磁気ディスクのたわみ量が基準以上となる実施例を○、基準未満となる比較例を×、基準Bを□で示した。図10に、横軸:磁気ディスクの枚数N、縦軸:スペーサの外径2Rsoとし、磁気ディスク装置内のデータ領域が基準以上となる実施例を○、基準未満となる比較例を×、基準Bを□で示した。
【0101】
以上より、ガラス基板からなる磁気ディスクを搭載した3.5インチ磁気ディスク装置である場合、磁気ディスクの厚さTd=0.3~0.49mm、磁気ディスクの枚数N=10~16枚、スペーサの外径2Rsoが、2Rso≧-74Td+69.3、かつ、2Rso≦-0.42N+14.8N-63.1を満たすと、磁気ディスクのたわみ量が基準以下となり、データ領域が基準以上となることが示された。
【0102】
より好ましくは、レーザ素子を搭載したHAMR用のヘッドスタックアッセンブリ、またはマイクロ波発生素子を搭載したMAMR用のヘッドスタックアッセンブリを稼働させるために十分な磁気ディスク間の距離1.6mm以上を確保し、磁気ディスク装置始動時の消費電力が基準以下であることが望まれる。表3の総合評価に◎◎で示された実施例2-1~2-7がそれに該当する。
【0103】
比較例2-1、2-3~2-5は、表4に示すように、磁気ディスクのたわみ量が基準より大きく、耐衝撃性および耐フラッタリング性に劣る。比較例2-6~2-12は、磁気ディスク装置内のデータ領域が基準より小さく、高容量化を実現できない。
【0104】
なお、磁気ディスクとして、アルミニウム合金基板およびガラス基板の両方で、磁気ディスクのたわみ量が基準以下となり、データ領域が基準以上となる範囲は、次の通りである。
【0105】
アルミニウム合金基板またはガラス基板からなる磁気ディスクを搭載した3.5インチ磁気ディスク装置であり、磁気ディスクの厚さTd=0.3~0.49mm、磁気ディスクの枚数N=10~16枚、スペーサの外径2Rsoが、2Rso≧-60Td+70、かつ、2Rso≦-0.5N+16.5N-73を満たす領域である。
【0106】
以上のように、スペーサ80の外径2Rsoを上述した値に設定することで、磁気ディスク30のたわみ量を増やすことなく、すなわち磁気ディスク装置100の耐衝撃性および耐フラッタリング性を維持したまま、磁気ディスク装置100内のデータ領域を拡大し、高容量の3.5インチ磁気ディスク装置100を提供することができることがわかった。また、スペーサ80の外径2Rso、磁気ディスク30の厚さTdおよび枚数Nを上述した値に設定することで、始動時の消費電力性に優れる磁気ディスク装置100を提供することができることがわかった。
【0107】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0108】
10 筐体
20 基台
30 磁気ディスク
31 アルミニウム合金基板
40 ヘッドスタックアッセンブリ
41 アーム
42 ヘッド部
50 ボイスコイルモータ
60 ランプロード
70 クランプ
80 スペーサ
81、82 面取り部
83 接触部
90 ハブ
91 小径部
92 大径部
100 磁気ディスク装置
D 奥行
W 幅
H 高さ
N 枚数
Z 回転軸
AX 領域
ωmax たわみ量
Rd 外半径
Td、Ts 厚さ
T 積層高さ
Rsi Rssi Rddi 内半径
Rso Rsso Rddo 外半径
【要約】
【課題】優れた耐衝撃性および耐フラッタリング性を有し、磁気ディスク装置内のデータ領域が大きい磁気ディスク装置およびスペーサを提供することを目的とする。
【解決手段】磁気ディスク装置は、3.5インチ磁気ディスク装置であって、積層して配置される磁気ディスク30の厚さTdは、0.3mm以上0.6mm以下、磁気ディスク30の枚数Nは、10枚以上16枚以下、磁気ディスク30間に配置されるスペーサ80の外径2Rsoは、35mm以上65mm以下である。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10