(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】レーザ溶接用接合材およびこれを用いたレーザ溶接方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20220511BHJP
B23K 26/211 20140101ALI20220511BHJP
C08L 53/00 20060101ALI20220511BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20220511BHJP
B29C 65/16 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
C08L23/10
B23K26/211
C08L53/00
C08K7/00
B29C65/16
(21)【出願番号】P 2020531108
(86)(22)【出願日】2018-12-07
(86)【国際出願番号】 KR2018015501
(87)【国際公開番号】W WO2019112362
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-06-08
(31)【優先権主張番号】10-2017-0167726
(32)【優先日】2017-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】509296890
【氏名又は名称】エルジー ハウシス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、ジン ミ
(72)【発明者】
【氏名】パク、チュン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ユー、ジェ ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、ユ ジン
(72)【発明者】
【氏名】リー、スン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】リー、スー ミン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ブ ウォン
(72)【発明者】
【氏名】シン、ブ ゴン
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-127405(JP,A)
【文献】特開2014-189049(JP,A)
【文献】巴工業株式会社,米国産ウォラストナイト(ワラストナイト)[和名:珪灰石],商品情報,2021年06月22日,https://www.tomo-e.co.jp/chemical/products/detail.php?id=25QU020
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/10
B23K 26/211
C08L 53/00
C08K 7/00
B29C 65/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
230℃の温度および2.16kgの荷重で測定された溶融指数が80g/10min以上95g/10min以下であるポリプロピレン樹脂を含む高分子マトリックスと、アスペクト比が10:1~20:1である針状形無機フィラーと、を含み、
前記針状形無機フィラーの平均幅は、
2μm以上
4μm以下であり、前記針状形無機フィラーの平均長さは、30μm以上40μm以下であり、
前記針状形無機フィラーは、マグネシウムオキシスルフェート、マグネシウムシリケートハイドレート、およびカルシウムシリケート系粒子のうちの少なくとも1種を含む、レーザ溶接用接合材。
【請求項2】
前記ポリプロピレン樹脂は、プロピレン単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレンと炭素数4~10のオレフィン系単量体の共重合体、およびポリプロピレンとエチレン-プロピレンゴムのブロック共重合体のうちの少なくとも1種を含むものである、請求項1に記載のレーザ溶接用接合材。
【請求項3】
前記エチレン-プロピレン共重合体は、エチレン繰り返し単位の含有量が3重量%以上10重量%以下である、請求項2に記載のレーザ溶接用接合材。
【請求項4】
前記針状形無機フィラーの含有量は、前記レーザ溶接用接合材100重量部に対して、5重量部以上30重量部以下である、請求項1から3の何れか一項に記載のレーザ溶接用接合材。
【請求項5】
前記高分子マトリックスは、熱可塑性エラストマーをさらに含むものである、請求項1から3の何れか一項に記載のレーザ溶接用接合材。
【請求項6】
前記熱可塑性エラストマーは、190℃の温度および2.16kgの荷重で測定された溶融指数が0.5g/10min以上10g/10min以下である、請求項5に記載のレーザ溶接用接合材。
【請求項7】
前記熱可塑性エラストマーは、エチレンと炭素数4~30のα-オレフィンのブロック共重合体を含むものである、請求項5または6に記載のレーザ溶接用接合材。
【請求項8】
前記エチレンと炭素数4~30のα-オレフィンのブロック共重合体におけるエチレンとα-オレフィンのモル比は、6:4~7:3である、請求項7に記載のレーザ溶接用接合材。
【請求項9】
前記熱可塑性エラストマーの含有量は、前記レーザ溶接用接合材100重量部に対して、5重量部以上30重量部以下である、請求項5から8の何れか一項に記載のレーザ溶接用接合材。
【請求項10】
前記レーザ溶接用接合材の厚さは、0.5mm以上5mm以下である、請求項1から9の何れか一項に記載のレーザ溶接用接合材。
【請求項11】
前記レーザ溶接用接合材の980nm波長での光透過率は、20%以上である、請求項1から10の何れか一項に記載のレーザ溶接用接合材。
【請求項12】
請求項1から11の何れか一項に記載のレーザ溶接用接合材を用意するステップと、
前記レーザ溶接用接合材および被接合材の少なくとも一部を貼り合わせるステップと、
レーザを照射して、前記レーザ溶接用接合材と前記被接合材との貼り合わされた領域内に溶接領域を形成する溶接ステップと、を含み、
前記レーザは、前記レーザ溶接用接合材を透過して、前記被接合材の表面に向けて照射されるものであるレーザ溶接方法。
【請求項13】
前記レーザの総ラインエネルギーは、1.5J/mm以上3J/mm以下であり、前記総ラインエネルギーは、下記式1で定義されるものである、請求項12に記載のレーザ溶接方法:
[式1]
E
tot=P/v×繰り返し回数
式1において、E
totは、総ラインエネルギー(J/mm)を意味し、Pは、レーザパワー(W)を意味し、vは、レーザの照射速度(mm/s)を意味する。
【請求項14】
請求項12または13に記載のレーザ溶接方法を用いて製造されたレーザ接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、2017年12月7日付で韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10-2017-0167726号の出願日の利益を主張し、その内容のすべては本発明に組み込まれる。
本発明は、レーザ溶接用接合材、これを用いたレーザ溶接方法およびこれを用いて製造されたレーザ接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車のような運送装置、家電およびモバイル機器などの多様な産業分野で軽量化のために部品の素材がプラスチックに代替されている。さらに、このようなプラスチック素材部品の結合のために多様な方法が試みられてきている。代表的な結合方法には、ねじやリベットのような機械的締結道具を用いる方式、接着剤による接合方式、振動溶着方式、および超音波溶着方式などがある。
【0003】
多様な結合方法のうち、特にレーザを用いてプラスチック素材を溶接する方法は比較的簡単な工程で、既存の他の結合方法と同等またはそれ以上の効果を示すことができる。
【0004】
ただし、プラスチック素材の物性強化のための有機無機フィラーなどの添加物が含まれたプラスチック部品の場合、このような添加物がレーザ透過時にエネルギーを分散させるか吸収することによって、接合効率を大きく低下させる問題点がある。さらに、結晶性が高いプラスチック素材の場合、レーザ透過時にエネルギーを散乱または吸収して部品間の界面に到達するエネルギーを減少させ分散させて、接合効率を低下させる問題点がある。
【0005】
そのため、レーザを用いた溶接が可能で、機械的物性に優れたプラスチック部品用素材の開発が必要なのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国公開公報:KR10-2015-0116669A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、プラスチック素材に含まれる添加物によってレーザ溶接の接合効率が低下する問題点を解決したものであって、被接合材とのレーザ溶接が効果的に行われることが可能なレーザ溶接用接合材およびこれを用いたレーザ溶接方法を提供しようとする。
【0008】
ただし、本発明が解決しようとする課題は上述した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は下記の記載から当業者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施態様は、230℃の温度および2.16kgの荷重で測定された溶融指数が80g/10min以上95g/10min以下であるポリプロピレン樹脂を含む高分子マトリックスと、アスペクト比が10:1~20:1である針状形無機フィラーと、を含むレーザ溶接用接合材を提供する。
【0010】
本発明の他の実施態様は、前記レーザ溶接用接合材を用意するステップと、前記レーザ溶接用接合材および被接合材の少なくとも一部を貼り合わせるステップと、レーザを照射して、前記レーザ溶接用接合材と前記被接合材との貼り合わされた領域内に溶接領域を形成する溶接ステップと、を含み、前記レーザは、前記レーザ溶接用接合材を透過して、前記被接合材の表面に向けて照射されるものであるレーザ溶接方法を提供する。
【0011】
本発明のさらに他の実施態様は、前記レーザ溶接方法を用いて製造されたレーザ接合体を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施態様に係るレーザ溶接用接合材を用いて製造されたレーザ接合体は、優れた機械的強度を有するので、多様な機器の部品として活用可能である。
【0013】
本発明の一実施態様に係るレーザ接合体は、優れた屈曲弾性率および接合強度を有するという利点がある。
【0014】
本発明の一実施態様に係るレーザ接合材は、レーザ照射時、エネルギーの分散および/または内部散乱を最小化して、被接合材とのレーザ溶接が効果的に行われることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】針状形無機フィラーのアスペクト比を説明するための図である。
【
図2】本発明の一実施態様に係るレーザ照射過程中のレーザ接合材および被接合材の断面を模式化したものである。
【
図3】本発明の一実施態様に係るレーザ溶接方法を示すものである。
【
図4】無機フィラー(C1)の走査電子顕微鏡(SEM)イメージである。
【
図5】無機フィラー(C2)の走査電子顕微鏡(SEM)イメージである。
【
図6】無機フィラー(C3)の走査電子顕微鏡(SEM)イメージである。
【
図7】無機フィラー(C4)の走査電子顕微鏡(SEM)イメージである。
【
図8】無機フィラー(C5)の走査電子顕微鏡(SEM)イメージである。
【
図9】本発明の融着強度測定時のレーザ接合体試験片を示すものである。
【
図10】本発明のレーザ接合体試験片の融着強度を測定する方法を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書全体において、ある部材が他の部材「上に」位置しているとする時、これは、ある部材が他の部材に接している場合のみならず、2つの部材の間にさらに他の部材が存在する場合も含む。
【0017】
本明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに包含できることを意味する。
本明細書全体において、「Aおよび/またはB」は、「AまたはB、またはAおよびB」を意味する。
本明細書全体において、単位「重量部」は、各成分間の重量の比率を意味することができる。
【0018】
本発明者らは、高強度のプラスチック素材として、レーザ溶接方法で被着材との接合が可能な素材の開発を継続した結果、下記の発明を開発するに至った。具体的には、本発明者らは、ポリプロピレン樹脂の物性を調節し、高硬度の物性を実現するための針状形無機フィラーのアスペクト比を調節して、レーザ溶接に最適化された接合材を開発し、このようなレーザ溶接用接合材は、多様な製品への適用の可能性があることを確認した。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0019】
本発明の一実施態様は、230℃の温度および2.16kgの荷重で測定された溶融指数が80g/10min以上95g/10min以下であるポリプロピレン樹脂を含む高分子マトリックスと、アスペクト比が10:1~20:1である針状形無機フィラーと、を含むレーザ溶接用接合材を提供する。
【0020】
本発明の一実施態様によれば、前記レーザ溶接用接合材は、前記ポリプロピレン樹脂を含む高分子マトリックス内に前記針状形無機フィラーが分散しているものであってもよい。
【0021】
前記レーザ溶接用接合材は、前記針状形無機フィラーが前記高分子マトリックス内に適切に分散して前記レーザ溶接用接合材の結晶化度を高めて、優れた機械的剛性および耐衝撃性を有することができる。さらに、前記レーザ溶接用接合材は、薄い厚さでも優れた機械的物性を実現できて、多様な製品への応用が可能であるという利点がある。
【0022】
本発明の一実施態様によれば、前記ポリプロピレン樹脂は、プロピレン単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレンと炭素数4~10のオレフィン系単量体の共重合体、およびポリプロピレンとエチレン-プロピレンゴムのブロック共重合体のうちの少なくとも1種を含むものであってもよい。具体的には、前記ポリプロピレン樹脂は、エチレン-プロピレン共重合体を含むことができる。
【0023】
本発明の一実施態様によれば、前記エチレン-プロピレン共重合体は、エチレン繰り返し単位の含有量が3重量%以上10重量%以下であってもよい。
【0024】
前記エチレン-プロピレン共重合体は、相対的に少ない含有量のエチレン繰り返し単位を含むことで、ポリプロピレン樹脂の結晶性を高め、前記レーザ溶接用接合材の剛性および耐衝撃性を向上させることができる。
【0025】
本発明の一実施態様によれば、前記ポリプロピレン樹脂の230℃の温度および2.16kgの荷重で測定された溶融指数は、80g/10min以上95g/10min以下である。
【0026】
前記高分子マトリックスは、前記範囲内の溶融指数を有するポリプロピレン樹脂を含むことで、前記高分子マトリックスを含むレーザ溶接用接合材がより向上した成形性および外観特性を有することができ、同時に高い機械的剛性を確保することができる。具体的には、前記ポリプロピレン樹脂の溶融指数が前記範囲未満の場合、射出成形時、樹脂の流れ性が低下して加工性が低下することがある。また、前記ポリプロピレン樹脂の溶融指数が前記範囲超過の場合、射出成形時、樹脂の流れ性が過度になり、前記高分子マトリックスを含むレーザ溶接用接合材の剛性および耐衝撃性のバランスが低下して機械的物性が減少することがある。
【0027】
本発明の一実施態様によれば、前記高分子マトリックスは、前記ポリプロピレン樹脂を40重量%以上90重量%以下で含むことができる。
【0028】
前記ポリプロピレン樹脂の含有量が前記範囲内の場合、針状形無機フィラーの濃度を適切に維持して、前記レーザ溶接用接合材で形成された製品の外観が針状形無機フィラーによって変形するのを防止することができ、針状形無機フィラーによる機械的物性の向上を効果的に実現することができる。
本発明の一実施態様によれば、前記ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量は、50,000g/mol以上500,000g/mol以下であってもよい。
【0029】
前記ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量が前記範囲内の場合、前記レーザ溶接用接合材の加工性の低下を最小化し、機械的物性を大きく高められるという利点がある。
【0030】
本発明の一実施態様によれば、前記針状形無機フィラーのアスペクト比は、10:1~20:1である。
【0031】
前述した範囲内で前記針状形無機フィラーのアスペクト比を調節することにより、レーザ溶接時に発生しうるエネルギーの分散または反射を最小化して、レーザ照射により前記レーザ溶接用接合材の適正な溶融プール(melt pool)の形成が可能である。
【0032】
アスペクト比が10:1未満であるか、アスペクト比が20:1を超える針状形無機フィラーの場合、レーザ照射時、接合材内でレーザが散乱して被接合材との界面に到達するレーザビームの面積が広くなる結果が現れることがある。このような結果はレーザ溶接の強度を低下させる原因になり、これは前記レーザ用接合材が製品の構成に用いられる場合、前記製品の信頼性低下の原因になりうる。
【0033】
また、前記針状形無機フィラーのアスペクト比が前記範囲に調節されることにより、前記レーザ溶接用接合材の機械的剛性を向上させることができ、前記高分子マトリックス内で均一に分散して、前記レーザ溶接用接合材の均一な物性を実現することができる。
【0034】
本発明において、無機フィラーのアスペクト比は、無機フィラーの平均幅(平均径)に対する平均長さ、すなわち、「平均長さ/平均幅」の値であり得る。
【0035】
図1は、針状形無機フィラーのアスペクト比を説明するための図である。具体的には、針状形無機フィラーの幅(w)と針状形無機フィラーの長さ(l)は、
図1に示された通りであり、これを用いて針状形無機フィラーのアスペクト比を取得することができる。
【0036】
本発明において、前記平均幅および平均長さの測定は、針状形無機フィラーをSEM(scanning electron microscope)で写真を撮って、最も小さい針状形無機フィラー1個の大きさが2mm~5mmになる倍率で300~500個の粒子の幅および長さを測定し、その平均値を取得する方法にすれば良い。
【0037】
また、本発明の一実施態様によれば、前記針状形無機フィラーの平均幅(平均径)は、約5μm以上10μm以下であり、前記針状形無機フィラーの平均長さは、約30μm以上40μm以下であってもよい。前記無機フィラーの平均幅と平均長さを調節することにより、前記針状形無機フィラーの適切な形状を実現することができる。尚、前記レーザ溶接用接合材にレーザを照射する場合、レーザの散乱を最小化することができる。
【0038】
本発明の一実施態様によれば、前記針状形無機フィラーは、マグネシウムオキシスルフェート、マグネシウムシリケートハイドレート、およびカルシウムシリケート系粒子のうちの少なくとも1種を含むことができる。具体的には、本発明の一実施態様によれば、前記針状形無機フィラーは、カルシウムシリケート系粒子としてウォラストナイト粒子を含むことができる。
【0039】
本発明の一実施態様によれば、前記針状形無機フィラーの含有量は、前記レーザ溶接用接合材100重量部に対して、5重量部以上30重量部以下であってもよい。具体的には、前記針状形無機フィラーの含有量は、前記レーザ溶接用接合材100重量部に対して、8重量部以上25重量部以下、10重量部以上20重量部以下、または12重量部以上16重量部以下であってもよい。
【0040】
前記無機フィラーの含有量が前記範囲内の場合、前記レーザ溶接用接合材は、レーザ溶接時、効果的に被接合材と結合することができ、さらに、前記レーザ溶接用接合材の機械的剛性が確保できる。
【0041】
本発明の一実施態様によれば、前記高分子マトリックスは、熱可塑性エラストマーをさらに含むことができる。
【0042】
前記熱可塑性エラストマーは、前記レーザ溶接用接合材の耐衝撃性および耐熱性を付与することができる。
【0043】
本発明の一実施態様によれば、前記熱可塑性エラストマーは、エチレンと炭素数4~30のα-オレフィンのブロック共重合体を含むことができる。
【0044】
本発明の一実施態様によれば、前記炭素数4~30のα-オレフィンは、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、および1-エイコセンのうちの少なくとも1種のα-オレフィン化合物を含むことができる。
【0045】
本発明の一実施態様によれば、前記エチレンと炭素数4~30のα-オレフィンのブロック共重合体におけるエチレンとα-オレフィンのモル比は、6:4~7:3であってもよい。
【0046】
本発明の一実施態様によれば、前記エチレンと炭素数4~30のα-オレフィンのブロック共重合体は、エチレン-1-オクテンブロック共重合体(ethylene-1-octene block copolymer)およびエチレン-1-ブテンブロック共重合体(ethylene-1-butene block copolymer)のうちの少なくとも1種を含むことができる。
【0047】
本発明の一実施態様によれば、前記熱可塑性エラストマーは、190℃の温度および2.16kgの荷重で測定された溶融指数が0.5g/10min以上10g/10min以下であってもよい。具体的には、前記エチレン-1-オクテンブロック共重合体は、190℃の温度および2.16kgの荷重で測定された溶融指数が5g/10min以上10g/10min以下であってもよい。また、前記エチレン-1-ブテンブロック共重合体は、190℃の温度および2.16kgの荷重で測定された溶融指数が0.5g/10min以上3g/10min以下であってもよい。前記熱可塑性エラストマーは、前記範囲内の溶融指数を有することによって、レーザ溶接用接合材の溶融指数を調節し、適切な流れ性をもたせて優れた寸法安定性および高い耐衝撃性を実現することができる。
【0048】
本発明の一実施態様によれば、前記熱可塑性エラストマーの重量平均分子量は、50,000g/mol以上180,000g/mol以下であってもよい。前記熱可塑性エラストマーは、前記範囲の重量平均分子量を有することによって、優れた寸法安定性および高い耐衝撃性を有するので、前記高分子マトリックスに含まれるポリプロピレン樹脂の不足する物性を向上させることができる。
【0049】
本発明の一実施態様によれば、前記熱可塑性エラストマーの密度は、0.8g/cm3以上0.9g/cm3以下、具体的には0.86g/cm3以上0.87g/cm3以下であってもよい。前記熱可塑性エラストマーは、前記範囲内の密度を有することによって、前記レーザ溶接用接合材の軽量化を可能にする。
【0050】
本発明の一実施態様によれば、前記熱可塑性エラストマーの含有量は、前記レーザ溶接用接合材100重量部に対して、5重量部以上30重量部以下であってもよい。
【0051】
前記熱可塑性エラストマーの含有量が前記範囲内の場合、前記レーザ溶接用接合材の耐衝撃性および寸法安定性を向上させると同時に、前記レーザ溶接用接合材を用いたレーザ溶接時の溶接効率の低下を防止することができる。
【0052】
本発明の一実施態様によれば、前記レーザ溶接用接合材の厚さは、0.5mm以上5mm以下であってもよい。
【0053】
前記レーザ溶接用接合材の厚さが前記範囲内の場合、前記レーザ溶接用接合材製造時の射出が容易であり得る。また、前記レーザ溶接用接合材の厚さが前記範囲内の場合、レーザ光を用いた溶接時、光透過率が過度に低くなって溶接強度が確保されないことを防止することができる。
【0054】
本発明の一実施態様によれば、前記レーザ溶接用接合材の980nm波長での光透過率は、20%以上であってもよい。具体的には、前記レーザ溶接用接合材の980nm波長での光透過率は、20%以上50%以下、25%以上50%以下、または20%以上40%以下、20%以上30%以下、または25%以上30%以下であってもよい。
【0055】
前記レーザ溶接用接合材の光透過率は、レーザ透過率と同一の意味であり得る。さらに、前記レーザ溶接用接合材の光透過率が前記範囲内の場合、前記レーザ溶接用接合材を用いたレーザ溶接時、レーザ光を被接合材に効果的に伝達することができ、これによって効果的に溶融プールを形成して高い接合力の実現が可能である。
【0056】
本発明の一実施態様によれば、前記レーザ溶接用接合材の優れた剛性と耐衝撃性によって製品を構成する材料に使用可能である。具体的には、インストルメントパネル、天井、ドア、シート、トランク室などの自動車内装材の材料であってもよい。ただし、これに限定されるものではなく、前記レーザ溶接用接合材は、多様な電子機器の部品、ハウジングなどの材料に使用可能である。
【0057】
本発明の一実施態様は、前記レーザ溶接用接合材を用意するステップと、前記レーザ溶接用接合材および被接合材の少なくとも一部を貼り合わせるステップと、レーザを照射して、前記レーザ溶接用接合材と前記被接合材との貼り合わされた領域内に溶接領域を形成する溶接ステップと、を含み、前記レーザは、前記レーザ溶接用接合材を透過して、前記被接合材の表面に向けて照射されるものであるレーザ溶接方法を提供する。
【0058】
図2は、本発明の一実施態様に係るレーザ照射過程中のレーザ接合材および被接合材の断面を模式化したものである。具体的には、
図2は、レーザ溶接用接合材100と被接合材200とを貼り合わせ、レーザ照射によりレーザ溶接をすることを示すものである。
図2において、レーザ溶接用接合材100内の棒は、針状形無機フィラーを示すものであり、aは、溶接幅を意味し、bは、溶融プール(melting pool)領域を意味する。
【0059】
本発明の一実施態様によれば、前記被接合材は、980nm波長での光吸収率が80%以上であるプラスチック部材であってもよい。すなわち、前記被接合材は、プラスチック部材であって、980nm波長の光を80%以上吸収できるものであってもよい。
【0060】
前記被接合材としてのプラスチック部材は、前述したレーザ溶接用接合材と同種の物質であってもよい。具体的には、前記被接合材としてのプラスチック部材は、プロピレン単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレンと炭素数4~10のオレフィン系単量体の共重合体、およびポリプロピレンとエチレン-プロピレンゴムのブロック共重合体のうちの少なくとも1種を含むものであってもよい。さらに、前記被接合材は、光吸収率を上昇させるために、必要に応じて、染料および/または顔料などの着色剤を含むことができる。
【0061】
本発明の一実施態様によれば、前記レーザの総ラインエネルギー値は、1.5J/mm以上3J/mm以下であり、前記総ラインエネルギーは、下記式1で定義されるものであってもよい。
【0062】
[式1]
Etot=P/v×繰り返し回数
【0063】
式1において、Etotは、総ラインエネルギー(J/mm)を意味し、Pは、レーザパワー(W)を意味し、vは、レーザの照射速度(mm/s)を意味する。
【0064】
本発明の一実施態様によれば、前記総ラインエネルギー値は、1.5J/mm以上3.0J/mm以下であってもよい。
【0065】
前記総ラインエネルギー値の範囲内にレーザ照射をする場合、レーザ照射の繰り返し回数を最適化して工程時間を短縮することができ、優れた付着力を実現することができる。
【0066】
本発明の一実施態様によれば、前記レーザの波長は、800nm以上1200nm以下のうちいずれか1つの波長値であってもよい。具体的には、前記レーザの波長は、980nmであってもよい。
【0067】
本発明の一実施態様によれば、前記レーザの出力は、50W以上2,000W以下であってもよいし、具体的には、50W以上100W以下、または55W以上70W以下であってもよい。前記レーザの出力は、レーザのスポットサイズと被接合材の種類に応じて適宜調節可能である。
【0068】
本発明の一実施態様によれば、前記レーザのスポットサイズは、100μm以上5,000μm以下であってもよいし、被接合材の種類に応じて適宜調節可能である。
【0069】
本発明の一実施態様によれば、前記レーザの照射速度は、10mm/s以上1,000mm/s以下、具体的には、30mm/s以上300mm/s以下、または50mm/s以上200mm/s以下であってもよいし、被接合材の種類に応じて適宜調節可能である。
【0070】
本発明の一実施態様によれば、前記レーザの繰り返し回数は、1回以上50回以下、具体的には、1回以上10回以下、3回以上7回以下、または4回以上7回以下であってもよいし、レーザが照射される素材の種類に応じて適宜調節可能である。
【0071】
本発明の一実施態様によれば、前記溶接ステップは、レーザ透過接合(Laser transmission joining)方法であって、前記レーザを前記レーザ溶接用接合材から前記被接合材の方向に、前記レーザ溶接用接合材と前記被接合材との界面に焦点を合わせて照射するものであってもよい。
【0072】
図3は、本発明の一実施態様に係るレーザ溶接方法を示すものである。具体的には、
図3は、レーザ溶接用接合材100から被接合材200の方向に、レーザ溶接用接合材100と被接合材200との界面に焦点を合わせてレーザ照射をして溶接領域300を形成することを示すものである。
【0073】
本発明の一実施態様によれば、前記レーザ溶接用接合材のレーザ透過率は、980nm波長で20%以上50%以下、25%以上40%以下、25%以上35%以下であってもよい。前記レーザ透過率の範囲内の場合、前記レーザ溶接用接合材を用いたレーザ溶接時、優れた付着力を実現することができる。
【0074】
本発明の一実施態様は、レーザ溶接方法を用いて製造されたレーザ接合体を提供する。前記レーザ接合体は、前記レーザ溶接用接合材と前記被接合材とがレーザ溶接を利用して接合されたものを意味することができる。
前記レーザ接合体は、自動車内装材または電子機器の部品であってもよい。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明に係る実施例は種々の異なる形態に変形可能であり、本発明の範囲が以下に述べる実施例に限定されると解釈されない。本発明の実施例は、当業界における平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0076】
[実施例1]
エチレン繰り返し単位の含有量が7重量%であり、230℃の温度および2.16kgの荷重で測定された溶融指数が90g/10minであるエチレン-プロピレン共重合体(A1)、190℃の温度および2.16kgの荷重で測定された溶融指数が7.5g/10minであるエチレン-1-オクテンブロック共重合体(ethylene-1-octene block copolymer)(B1)、190℃の温度および2.16kgの荷重で測定された溶融指数が1.75g/10minであるエチレン-1-ブテンブロック共重合体(ethylene-1-butene block copolymer)(B2)、および下記表1の針状形無機フィラー(C1)を下記表2に示す含有量で混合した。下記表2の含有量の単位は、重量部である。
【0077】
さらに、前記混合物を二軸押出機を用いて、200℃~240℃で押出して、1.5mmの厚さのレーザ溶接用接合材を製造した。
【0078】
[実施例2~実施例3、および比較例1~比較例4]
下記表1の無機フィラーをそれぞれ用い、下記表2のような含有量で混合することを除けば、実施例1と同様の方法でレーザ溶接用接合材を製造した。
【0079】
[比較例5および比較例6]
比較例5は230℃の温度および2.16kgの荷重で測定された溶融指数が10g/10minであるエチレン-プロピレン共重合体(A2)、比較例6は230℃の温度および2.16kgの荷重で測定された溶融指数が130g/10minであるエチレン-プロピレン共重合体(A3)を用い、下記表2のような含有量で混合することを除けば、実施例1と同様の方法でレーザ溶接用接合材を製造した。
【0080】
図4~
図8は、それぞれ無機フィラー(C1)から無機フィラー(C5)の走査電子顕微鏡(SEM)イメージである。
【0081】
前記SEMイメージを通して無機フィラー(C1)から無機フィラー(C5)のアスペクト比を測定し、その結果を下記表1に併せて示した。
【0082】
【0083】
【0084】
この後、前記実施例1~実施例3、および比較例1~比較例6のレーザ溶接用接合材の物性を下記の方法で測定した。
【0085】
引張強度の測定
厚さ6.4mmの試料を製造し、引張強度試験機で前記試料の両末端に力を加えて50mm/minの速度で引張強度を測定した。
【0086】
屈曲弾性率および曲げ強度の測定
ASTM D790に準じて、厚さ6.4mmの試料を製造し、前記試料の中心に力を加えて10mm/minの速度で屈曲弾性率および曲げ強度を測定した。
【0087】
レーザ透過率の測定
UV-Vis-NIR(紫外線-可視光-近赤外線)spectrometer(Solid spec)を用いて試料の波長別透過度を測定した。この時、透過率は、使用しようとするレーザ波長の出力値に対して試験片を透過したレーザの出力を測定してその比率で算定することができ、このような方法で980nmでの透過率を測定することができる。
【0088】
下記表3は、実施例1~実施例3、および比較例1~比較例6によるレーザ溶接用接合材の物性を示すものである。
【0089】
【0090】
前記表3によれば、実施例1~実施例3は、比較例1~比較例6と同じく、引張強度、屈曲弾性率と曲げ強度がレーザ接合体への使用に適した引張強度、屈曲弾性率と曲げ強度を有することを確認した。すなわち、実施例1~実施例3のような含有量でレーザ溶接用接合材を製造する場合、引張強度、屈曲弾性率および曲げ強度に損傷を与えることなく、レーザ溶接時の融着強度を向上させることができる。
【0091】
また、前記レーザ透過率は、前記無機フィラーに応じて変化する物性に相当し、適正水準のレーザ透過率を有する場合、レーザ溶接用接合材の物性を損傷させることなく、レーザ溶接の融着強度を向上させることができる。
【0092】
衝撃強度の測定
ASTM D256方法に基づき、硬質プラスチック用アイゾッド衝撃試験機(IZOD測定、TOYOSEIKI社)で実施例1、比較例5および比較例6のレーザ溶接用接合材の衝撃強度を測定した。
【0093】
試験片のサイズは64mm×12.5mm×6.36mmであり、ノッチングマシン(Notching Machine)を用いて25.4mmのノッチ(Notch)を形成した後、衝撃強度を測定し、その結果を下記表4に示した。
【0094】
【0095】
前記表4のように、ポリプロピレン樹脂の溶融指数に応じて前記レーザ溶接用接合材の衝撃強度が変化したことが分かる。
【0096】
具体的には、ポリプロピレン樹脂の溶融指数が10g/10minである比較例5の場合、衝撃強度が急激に増加するが、前記表3のように、実施例1~3に比べて屈曲弾性率が低くなるので、レーザ溶接用接合材としての使用に適した物性を有しないことが分かる。また、ポリプロピレン樹脂の溶融指数が130g/10minである比較例6の場合、屈曲弾性率は、実施例1~3の場合と類似するが、衝撃強度が低くなるので、レーザ溶接用接合材としての使用に適した物性を有しないことが分かる。
【0097】
この後、無機フィラーの種類によるレーザ溶接の融着強度とポリプロピレン樹脂の溶融指数によるレーザ溶接の融着強度を測定するために、下記の実験を進行させた。
【0098】
融着強度の測定
前記実施例1と同一の組成でかつ、カーボンブラックを総重量対比0.3重量部含む被接合材を製造した。
【0099】
前記実施例1~実施例3、および比較例1および比較例4により製造されたレーザ溶接用接合材を前記被接合材上に置いた後、ジグを用いて固定した。さらに、ダイオードレーザ(ELED-100RD)を用いてレーザ溶接をしてレーザ接合体を製造した。前記レーザの上限出力は110W、レーザ波長は980nmおよび正焦点サイズは1.6mmであった。
【0100】
図9は、融着強度測定時のレーザ接合体試験片を示すものである。具体的には、
図9は、被接合材200上の一部領域と製造されたレーザ溶接用接合材100とを貼り合わせた後、レーザ照射により溶接領域300を形成し接合したことを示すものである。
【0101】
前記レーザ溶接条件は1.8J/mm(条件:出力80W、照射速度180mm/sおよび繰り返し回数4回)の総ラインエネルギーに設定し、それによる融着強度(付着力)を測定して下記表5に示した。
【0102】
図10は、レーザ接合体試験片の融着強度を測定することを示すものである。前記融着強度は、引張強度試験機を用いて測定することができ、具体的には、製造されたレーザ接合体を10mm/minの速度で引張して、レーザ溶接用接合材と被接合材とが分離される時の力を測定した。
【0103】
【0104】
前記表5から明らかなように、実施例1~実施例3のアスペクト比が10:1~20:1である針状形無機フィラーを含むレーザ溶接用接合材を用いたレーザ接合体は、無機フィラーのアスペクト比が前記範囲を外れる比較例1~比較例4によるレーザ溶接用接合材を用いたレーザ接合体に比べて優れた融着強度を示すことが分かる。これは、比較例1~比較例4のレーザ溶接用接合材に含まれた無機フィラーによって適正範囲のレーザ透過率を外れて、結果的にレーザ接合体の融着強度が低下することが分かる。
【0105】
また、総ラインエネルギーを1.5J/mm(条件:出力60W、照射速度40mm/sおよび繰り返し回数1回)に設定したことを除き、前記融着強度の測定過程と同様の方法で実施例1、比較例5および比較例6のレーザ溶接用接合材と前記被接合材とをレーザ溶接し、それによる融着強度を測定し、その結果を下記表6に示した。
【0106】
【0107】
前記表6によれば、実施例1のレーザ溶接用接合材を用いたレーザ接合体が、比較例5および比較例6のレーザ溶接用接合材を用いたレーザ接合体に比べて融着強度が高いことを確認することができた。したがって、本発明の一実施態様に係る実施例1のレーザ溶接用接合材は、レーザ溶接用接合材に必要な適した物性を有していながら、融着強度も向上したことが分かる。
【0108】
結果的に、本発明の一実施態様に係るレーザ溶接用接合材の場合、レーザ溶接用接合材としての使用に適した引張強度、屈曲弾性率、曲げ強度および衝撃強度を確保し、レーザ溶接時のレーザ接合体の融着強度を向上させることを確認することができる。
【符号の説明】
【0109】
100:レーザ溶接用接合材
200:被接合材
300:溶接領域