(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】分析機器の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/26 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
G01N30/26 Q
(21)【出願番号】P 2017147889
(22)【出願日】2017-07-31
【審査請求日】2020-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中山 亮
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-118779(JP,A)
【文献】特開平10-318999(JP,A)
【文献】特開2014-039481(JP,A)
【文献】特開2016-116512(JP,A)
【文献】特開2003-318999(JP,A)
【文献】国際公開第2016/118576(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
G01N 35/00 -37/00
G01N 33/48 -33/98
G01N 27/26 -27/49
B01D 15/00 -15/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類以上のプロテアーゼを含み、有機溶媒を含まない洗浄剤を
グリコヘモグロビン分析機器に供給した後、少なくとも1種類以上の界面活性剤を含み、有機溶媒を含まない洗浄剤を
グリコヘモグロビン分析機器に供給することを特徴とする
グリコヘモグロビン分析機器の洗浄方法。
【請求項2】
前記プロテアーゼを含む洗浄剤及び前記界面活性剤を含む洗浄剤のいずれもpH3以上11以下であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記
グリコヘモグロビン分析機器が液体クロマトグラフであることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析機器の洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分析機器はその使用試薬や測定試料によって汚染されることがあり、しばしば測定結果に影響を与える。特に、血液試料などの様々な物質を含むクルードサンプルを分析対象とする機器においては汚染が発生しやすいことが知られており、分析機器を正常な状態に維持するための洗浄剤組成物や洗浄方法に関連する技術が必要とされている。
【0003】
分析機器を洗浄するとき、強酸液、強アルカリ液、有機溶媒などを単独又は組み合わせて汚染を除去する方法が知られている。例えば、液体クロマトグラフの洗浄において、硝酸水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アセトンなどが使用されうる。しかしながら、強酸液、強アルカリ液、有機溶媒などを洗浄剤として使用する場合、人体への有害性や危険性、分析機器に対する腐食性などからその取扱いには注意を要するため、より穏やかな条件で汚染を除去することができる洗浄方法が求められている。そのような技術として、例えば液体クロマトグラフの洗浄方法(特許文献1参照)や血液分析器に対する洗浄方法(特許文献2参照)が提案されているが、洗浄効果が不十分な場合があるため、より効果的な洗浄方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-318999号公報
【文献】特開2017-057420公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、分析機器の洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題に関し鋭意研究を行なった結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下のとおりである。
(1)少なくとも1種類以上のプロテアーゼを含む洗浄剤を分析機器に供給した後、少なくとも1種類以上の界面活性剤を含む洗浄剤を前記分析機器に供給することを特徴とする分析機器の洗浄方法。
(2)前記プロテアーゼを含む洗浄剤及び前記界面活性剤を含む洗浄剤のいずれもpH3以上11以下であることを特徴とする(1)に記載の方法。
(3)有機溶媒を含む洗浄組成物を分析機器に供給する工程を含まないことを特徴とする(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記分析機器が液体クロマトグラフであることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
【0007】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明は、少なくとも1種類以上のプロテアーゼを含む洗浄剤を分析機器に供給した後、少なくとも1種類以上の界面活性剤を含む洗浄剤を前記分析機器に供給することを特徴とする分析機器の洗浄方法に関する。なお、本発明において、「洗浄剤を分析機器に供給する」とは、測定サンプルが接触する分析機器の部位に、洗浄剤を接触させることを言う。接触は連続的でも断続的でよく、通液させても滞留させてもよい。例えば、液体クロマトグラフの流路を洗浄する場合においては、ポンプやシリンジを用いて流路に洗浄剤を注入することで、流路に洗浄剤を接触させることができる。分析機器の種類に応じて適当な方法で測定サンプルが接触する部位に洗浄剤を接触させればよい。
【0009】
本発明は、分析機器の汚染箇所に対してプロテアーゼによる洗浄効果を発揮させた後、界面活性剤による洗浄効果を発揮させることを特徴としている。
【0010】
本発明において、洗浄剤とは水を主成分として、プロテアーゼ又は界面活性剤を含有するものを言う。
【0011】
本発明におけるプロテアーゼとしては、化学的又は遺伝的に改変された変異体を含む、動物又は植物、微生物等、種々の起源のものであってよいが、その特徴、例えば至適pHや共存物質との適合性などを考慮すべきであり、かつその活性を発揮するのに十分な量を含有していることが好ましい。具体的には、0.001-10重量%である。使用できるプロテアーゼの例として、セリンプロテアーゼ(例えばキモトリプシン、スブチリシンなど)、金属プロテアーゼ(サーモリシンなど)、システインプロテアーゼ(パパイン、カスパーゼなど)、などが挙げられる。好ましくはpH3-11の範囲でプロテアーゼ活性を有するプロテアーゼであり、基質特異性が広いプロテアーゼや基質特異性の異なる複数のプロテアーゼからなる混合物であることがより好ましい。例えば、ブタ膵臓由来のプロテアーゼ画分やウシ膵臓由来のプロテアーゼ画分が挙げられる。
【0012】
本発明における界面活性剤としては、例えば陽イオン界面活性剤(塩化ベンザルコニウムなど)、陰イオン界面活性剤(モノアルキル硫酸塩など)、非イオン界面活性剤(オクチルフェノールエトキシレートなど)、両イオン界面活性剤(アルキルアミンオキシドなど)であってよく、これらの混合物であってもよい。界面活性剤の含有量としては0.01-30重量%が好ましい。
【0013】
上述した洗浄剤のpHは、3以上11以下であることが好ましい。また、洗浄剤のpHを維持するために緩衝剤を使用してもよい。緩衝剤としては、リン酸、クエン酸、こはく酸、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム又はこれらの組合せが挙げられるが、特に制限はない。なお、洗浄剤に緩衝剤を添加する場合、プロテアーゼ又は界面活性剤の含有量は緩衝剤の含有量を加味した上で計算される。
【0014】
本発明の対象となる分析機器としては、液体クロマトグラフ、フローサイトメーター、生化学分析装置、免疫測定装置などが例示されるが、中でも液体クロマトグラフに好適である。
また、本発明では、プロテアーゼを含む洗浄剤を分析機器に供給する前、プロテアーゼを含む洗浄剤を分析機器に供給した後であって界面活性剤を含む洗浄剤を分析機器に供給する前、界面活性剤を含む洗浄剤を分析機器に供給した後のいずれの場合であっても、アルコール(メタノールなど)、ケトン(アセトンなど)などの有機溶媒を含む洗浄組成物は分析機器に供給しない方が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、分析機器、特に血液試料などの様々な物質を含むクルードサンプルを分析対象とする機器に生じる汚染を安全かつ、簡便に効率よく洗浄することができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例により限定されるものではない。
【0017】
分析機器の汚染状態の評価と汚染部位の特定は下記のように実施した。
分析機器として東ソー自動ヘモグロビン分析計HLC-723G8 Variant Mode(東ソー株式会社)を用いた。該分析機器はその継続的な使用により、極稀にサンプルループに汚染が発生することが確認されている。測定サンプルとしてHbA1cコントロールセット(東ソー株式会社)のLevel-2の蒸留水希釈サンプルおよびHSi溶血・洗浄液(東ソー株式会社)希釈サンプルを用いた。これらのサンプルのHbA1c%を比較した。結果を表1に示す。汚染されたサンプルループ使用時では、蒸留水希釈サンプルのHbA1c%とHSi溶血・洗浄液希釈サンプルのHbA1c%の差の絶対値(以下、HbA1c%差と表記する)が0.15ポイント以上あった。次に新品のサンプルループを取り付けて同様の測定を実施すると、HbA1c%差は0.05ポイント以下であった。
【0018】
以上より、HbA1cコントロールセットのLevel-2のHbA1c%差が0.15ポイント以上のとき該分析機器は汚染状態とし、0.05ポイント以下であるとき該分析機器は非汚染状態と判断した。また、サンプルループの交換により該分析機器の汚染状態が解消されたとき、該分析機器の汚染部位はサンプルループであると判断した。
【0019】
【0020】
(実施例1) 洗浄剤組成物による汚染分析機器の洗浄
まず、以下の洗浄剤1、2を調製した。
洗浄剤1 プロテアーゼ(シグマアルドリッチ、P4630)を0.1重量%含む
10mM リン酸緩衝液(pH8.5)
洗浄剤2 ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(以下、
TritonX-100とする)(キシダ化学、020-81155)
を0.1重量%含む10mM リン酸緩衝液(pH8.5)
【0021】
次に、汚染部位であることが確認されたサンプルループ4つに対してそれぞれ、以下の条件で洗浄を行った。
洗浄方法1 洗浄剤1を汚染状態のサンプルループに1時間接触させた後、
さらに洗浄剤1を該サンプルループに1時間接触させた。
洗浄方法2 洗浄剤2を汚染状態のサンプルループに1時間接触させた後、
さらに洗浄剤2を該サンプルループに1時間接触させた。
洗浄方法3 洗浄剤1を汚染状態のサンプルループに1時間接触させた後、
さらに洗浄剤2を該サンプルループに1時間接触させた。
洗浄方法4 洗浄剤2を汚染状態のサンプルループに1時間接触させた後、
さらに洗浄剤1を該サンプルループに1時間接触させた。
【0022】
洗浄前後のサンプルループの汚染状態を上述の基準で評価した結果を表2に示す。洗浄方法1、2及び4では洗浄実施後のHbA1c%差が0.15ポイント以上であり、汚染状態は解消しなかった。一方、洗浄方法3では洗浄実施後のHbA1c%差が0.05%ポイント以下であり、汚染状態が解消した。すなわち、分析機器の汚染箇所に対してプロテアーゼによる洗浄効果を発揮させた後、界面活性剤による洗浄効果を発揮させることが重要であることが確認された。
【0023】
【0024】
(実施例2) 界面活性剤の種類による洗浄効果の比較
まず、以下の洗浄剤3~5を調製した。
洗浄剤3 ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート
(以下、Tween20とする)(和光純薬、167-11515)を
0.1重量%含む10mM リン酸緩衝液(pH8.5)
洗浄剤4 塩化ベンザルコニウム(東京化成工業、B0414)を
0.1重量%含む10mM リン酸緩衝液(pH8.5)
洗浄剤5 ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬、196-08675)を
0.1重量%含む10mM リン酸緩衝液(pH8.5)
【0025】
次に、汚染部位であることが確認されたサンプルループ3つに対してそれぞれ、以下の条件で洗浄を行った。
洗浄方法5 洗浄剤1を汚染状態のサンプルループに1時間接触させた後、
さらに洗浄剤3を該サンプルループに1時間接触させた。
洗浄方法6 洗浄剤1を汚染状態のサンプルループに1時間接触させた後、
さらに洗浄剤4を該サンプルループに1時間接触させた。
洗浄方法7 洗浄剤1を汚染状態のサンプルループに1時間接触させた後、
さらに洗浄剤5を該サンプルループに1時間接触させた。
【0026】
洗浄前後のサンプルループの汚染状態を実施例1の上述の基準で評価した結果を表3に示す。洗浄方法5~7のいずれにおいても、洗浄実施後のHbA1c%差が0.05%ポイント以下であり、汚染状態が解消した。すなわち、洗浄剤組成物に用いる界面活性剤としては、非イオン界面活性剤(TritonX-100、Tween20)、陽イオン界面活性剤(塩化ベンザルコニウム)、陰イオン界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム)のいずれを用いてもよいことが確認された。
【0027】