(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】リチウムニッケル複合酸化物の製造方法および非水系電解質二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20220511BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220511BHJP
F27B 1/09 20060101ALI20220511BHJP
F27B 1/24 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
F27B1/09
F27B1/24
(21)【出願番号】P 2017229935
(22)【出願日】2017-11-30
【審査請求日】2020-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【氏名又は名称】西 和哉
(72)【発明者】
【氏名】毛利 建
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-136419(JP,A)
【文献】特開2010-121856(JP,A)
【文献】特開平11-135118(JP,A)
【文献】特開平02-279982(JP,A)
【文献】特開2001-221573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
H01M 4/525
F27B 1/09
F27B 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを含む化合物と、リチウムを含む化合物とを焼成して、リチウムニッケル複合酸化物を製造する方法であって、
前記ニッケルを含む化合物と、前記リチウムを含む化合物との粉末を含む混合物を成形して得られた複数の成形体を、竪型炉の上部から炉内へ、連続的又は間欠的に供給することと、
前記竪型炉内にて、前記成形体を焼成することと、
焼成済みの複数の前記成形体を、前記竪型炉内の下部から外部へ、連続的又は間欠的に排出すること、を備
え、
前記成形体は、外形上の任意の2点間の最大距離が5mm以上であり、
前記成形体の密度は、1.5g/cm
3
以上2.5g/cm
3
以下である、
リチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記成形体を焼成することは、
焼成処理中に、焼成済みの前記成形体を前記竪型炉内の下部から排出しつつ、焼成前の前記成形体を前記竪型炉の上部から炉内へ供給することにより、前記成形体を上方から下方へ移動させながら焼成することを含む、請求項1に記載のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記竪型炉内の下部から外部へ排出された前記成形体を解砕して、前記リチウムニッケル複合酸化物の粉末を得ること、を備える、請求項1又は請求項2に記載のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記成形体は、前記竪型炉の上方に配置した成形体供給装置から、前記竪型炉内に供給され、
焼成済みの前記成形体は、前記竪型炉内から、前記竪型炉の下方に配置した成形体排出装置に排出されること、を備える、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記竪型炉は、前記成形体を加熱して焼成する加熱帯を炉内に備え、
反応ガスを前記加熱帯より下方から供給して、前記竪型炉内の前記成形体と接触させ、前記加熱帯より上方から排気すること、を備える、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記竪型炉は、前記加熱帯の下方に、前記成形体を冷却する冷却帯を備え、
前記反応ガスを前記冷却帯の下方から供給して、焼成済みの前記成形体を冷却させること、を備える、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項7】
ニッケルを含む化合物と、リチウムを含む化合物とを焼成して、リチウムニッケル複合酸化物を製造する方法であって、
前記ニッケルを含む化合物と、前記リチウムを含む化合物との粉末を含む混合物を成形して得られた複数の成形体を、竪型炉の上部から炉内へ、連続的又は間欠的に供給することと、
前記竪型炉内にて、前記成形体を焼成することと、
焼成済みの複数の前記成形体を、前記竪型炉内の下部から外部へ、連続的又は間欠的に排出すること、を備え、
前記成形体を前記竪型炉内へ供給する前に、セラミックボールを前記竪型炉内に供給し、前記竪型炉内を焼成する温度に到達するまで加熱することと、
前記竪型炉内が焼成温度にまで到達した後、前記セラミックボールを竪型炉の下部から炉外へ排出しつつ、複数の前記成形体を、前記竪型炉の上部から炉内へ供給すること、
を
含む、リチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
前記竪型炉外へ排出された前記セラミックボールと前記成形体とを併せて回収し、
前記回収された回収物を振とうして、前記成形体を解砕することと、
前記解砕された成形体をふるい分けして、前記セラミックボールから分離し、回収すること、を備える、請求項7に記載のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項9】
前記リチウムニッケル複合酸化物は、非水電解質二次電池の正極活物質として用いられる、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の製造方法で製造されたリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いて正極を得ることと、
前記正極、負極、及び、非水系電解質を用いて非水系電解質二次電池を得ること、を備える、非水系電解質二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムニッケル複合酸化物の製造方法および非水系電解質二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量なリチウムイオン二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車、電気自動車などの環境対応自動車用途に適した高出力二次電池の開発も強く望まれている。
【0003】
このような要望を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池などの非水系電解質二次電池がある。非水系電解質二次電池は、負極および正極と非水系電解質等で構成され、負極および正極の活物質として、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。
【0004】
非水系電解質二次電池については、現在研究開発が盛んに行われているところであるが、なかでも、層状またはスピネル型のリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質に用いた非水系電解質二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0005】
これまでに正極活物質として提案されているリチウムニッケル複合酸化物としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、さらに安価なマンガンを用いて安全性に優れたリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2など)、スピネル系リチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)などが挙げられる。
【0006】
これらの中でも、リチウムニッケル複合酸化物は、高容量で、かつ、高出力であり、今後の環境対応自動車で求められる特性を満足するものとして注目されており、需要が急速に拡大しつつある。
【0007】
さらに、環境対応自動車は、需要拡大に伴い、その低価格化が求められている。そのため環境対応自動車の高コスト要因の一つであるリチウムイオン二次電池の低コスト化の要求が高まってきており、リチウム二次電池の正極材料の一つである正極活物質も低コスト化を求められている。
【0008】
リチウムニッケル複合酸化物は、ニッケルを含む化合物とリチウムを含む化合物とを混合してリチウム混合物(原料混合物)を調整した後、リチウム混合物を焼成することで得ることができる。リチウム混合物の焼成は、例えば、650℃以上950℃以下程度の温度で8時間以上行われる。この焼成工程の間に、リチウムを含む化合物がニッケルを含む化合物(前駆体)と反応(焼結)して、高い結晶性を有するリチウムニッケル複合酸化物が得られる。
【0009】
リチウムニッケル複合酸化物を工業的に生産する場合、一般的に、リチウム混合物の粉末を、匣鉢等の容器にリチウム混合物を入れて、ローラーハースキルン、プッシャー炉などの横型の焼成炉で焼成される。しかしながら、容器に粉末を入れて焼成した場合、熱伝導が悪く、発生ガスと反応ガスとの置換性も悪いため、高い結晶性を有するリチウムニッケル複合酸化物を製造するためには、長時間の昇温と反応の時間が必要になり、これらを含めたトータルの焼成時間が非常に長時間になってしまう。
【0010】
このような課題を解決するために、これまでいくつかの提案がなされている。例えば、特許文献1には、ニッケル複合化合物とリチウムを含む化合物とを混合して得られる混合物(粉)を焼成容器に充填して焼成する工程において、酸素を混合物内に十分に拡散させるため、混合物の盛り量(混合物を焼成容器に入れたときの厚さ)に対する特定の温度領域に保持される最小保持時間及び、酸素濃度の範囲をそれぞれ特定し、可能な限り効率よく、混合物を焼成する方法が示されている。
【0011】
また、リチウム混合物を造粒して造粒物を得た後、又は、成形して成形体を得た後、焼成してリチウムニッケル複合酸化物を得る方法もいくつか開示されている。例えば、特許文献2には、少なくともニッケル塩とリチウム塩とを所定量混合して原料混合物とし、該原料混合物を焼成してLiNiO2を合成するに際して、前記原料混合物を造粒し得られた造粒物を酸化性雰囲気下で700℃~1000℃の温度で2~15時間保持して焼成しLiNiO2系層状複合酸化物を得ることが記載されている。特許文献2によれば、上記製造方法により、所望の結晶構造を有する合成物を、作業面を含めて生産性よく製造できるとしている。
【0012】
一方、粉体を焼成する焼成炉としては、竪型炉(縦型炉)を用いることがある。竪型炉では、連続的に粉体を焼成できること、粉体を収めるルツボあるいは匣鉢など消耗品が不要なので、ルツボあるいは匣鉢などの消耗品に係る費用を削減でき、またルツボあるいは匣鉢の搬送機構が不要になって焼成炉の構造が簡略化して設備費が安価になるメリットがある(例えば、特許文献3参照)。
【0013】
また、例えば、特許文献4には、粉体焼成用縦型焼成炉による粉体焼成方法であって、粉体をプレス成型または吸圧造形した成形体を被焼成物とし、炉内積層配置された該成形体を、該縦型焼成炉の上部入口から下部出口に間欠的に降下移動させながら焼成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2011-146309号公報
【文献】特開平11-135123号公報
【文献】特開2016-052646号公報
【文献】特開2010-121856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、生産性を上げるために混合粉の盛り量を増やすと混合粉の昇温時間が延び、また発生ガスと反応ガスの置換が悪くなるため、焼成時間が長くなってしまい生産性が損なわれることがある。また、特許文献2の実施例では、焼成条件を800℃で10時間以上としており、特許文献2に記載の製造方法では、リチウムニッケル複合酸化物を製造するための時間が長くなることがあり、より生産性の向上が求められている。
【0016】
さらに、特許文献1、2の製造方法で焼成を行う場合、原料粉をルツボまたは匣鉢に入れて焼成する方法が広く用いられているが、ルツボあるいは匣鉢は、熱衝撃性が低いため、繰り返し使用することによりルツボあるいは匣鉢が劣化して破損するという問題がある。この問題により、正極活物質の製造コストを低くすることに制限があった。
【0017】
上述したように、竪型炉を用いた場合、ルツボあるいは匣鉢を用いないため、ルツボあるいは匣鉢の破損による製造コストの増大という問題は、解消することができる。しかしながら、リチウムニッケル複合酸化物を生産する際に、特許文献3に記載されるような竪型炉を用いてリチウム混合物の粉末を焼成した場合、焼成中に、ニッケルを含む化合物の粉末とリチウムを含む化合物の粉末との比重差による分離が発生し、ニッケルを含む化合物とリチウムを含む化合物との反応(焼結)が不十分となる問題がある。またリチウムを含む化合物が焼成中に溶け出して炉内で焼結し、炉内で目詰まりを発生させるという問題がある。
【0018】
また、特許文献4では、被焼成物をプレス成型等した粉体(成形体)を、竪型炉で焼成する製造方法が記載されている。しかしながら、特許文献4には、直径の最大値が炉心管内径よりわずかに小さい円錐鉢形状の成形体を、1個ずつ間欠的に炉心管内(炉内)を下降移動させることにより焼成しており、炉内に粉体を充填して焼成するよりも熱が均一に伝達するというメリットはあるが、反応ガスの成形体内部への供給および反応により発生するガスの成形体からの脱離の効率が悪化するため、炉内滞留時間の短縮に制限があり、生産性に問題がある。
【0019】
本発明は係る問題点に鑑み、リチウム混合物の焼成時間を短縮することで生産性を向上させることができ、かつ、ルツボまたは匣鉢など消耗品を用いずに、製造コストを低減するリチウムニッケル複合酸化物の製造方法を提供する。また、製造方法により得られたリチウムニッケル複合酸化物を用いることにより、より生産性が向上し、コストを低減することができる、非水系電解質二次電池の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第1の態様によれば、ニッケルを含む化合物と、リチウムを含む化合物とを焼成して、リチウムニッケル複合酸化物を製造する方法であって、ニッケルを含む化合物と、リチウムを含む化合物との粉末を含む混合物を成形して得られた複数の成形体を、竪型炉の上部から炉内へ、連続的又は間欠的に供給することと、竪型炉内にて、成形体を焼成することと、焼成済みの複数の成形体を、竪型炉内の下部から外部へ、連続的又は間欠的に排出すること、を備え、成形体は、外形上の任意の2点間の最大距離が5mm以上であり、成形体の密度は、1.5g/cm
3
以上2.5g/cm
3
以下である、リチウムニッケル複合酸化物の製造方法が提供される。
【0021】
また、成形体を焼成することは、焼成処理中に、焼成済みの成形体を竪型炉内の下部から排出しつつ、焼成前の成形体を竪型炉の上部から炉内へ供給することにより、成形体を上方から下方へ移動させながら焼成することを含んでもよい。また、竪型炉内の下部から外部へ排出された成形体を解砕して、リチウムニッケル複合酸化物の粉末を得ること、を備えてもよい。また、成形体は、竪型炉の上方に配置した成形体供給装置から、竪型炉内に供給され、焼成済みの前記成形体は、竪型炉内から、竪型炉の下方に配置した成形体排出装置に排出されること、を備えてもよい。また、竪型炉は、成形体を加熱して焼成する加熱帯を炉内に備え、反応ガスを加熱帯より下方から供給して、竪型炉内の成形体と接触させ、加熱帯より上方から排気すること、を備えてもよい。また、竪型炉は、加熱帯の下方に、成形体を冷却する冷却帯を備え、反応ガスを冷却帯の下方から供給して、焼成済みの成形体を冷却させること、を備えてもよい。
【0022】
また、本発明の態様によれば、ニッケルを含む化合物と、リチウムを含む化合物とを焼成して、リチウムニッケル複合酸化物を製造する方法であって、ニッケルを含む化合物と、リチウムを含む化合物との粉末を含む混合物を成形して得られた複数の成形体を、竪型炉の上部から炉内へ、連続的又は間欠的に供給することと、竪型炉内にて、成形体を焼成することと、焼成済みの複数の成形体を、竪型炉内の下部から外部へ、連続的又は間欠的に排出すること、を備え、成形体を竪型炉内へ供給する前に、セラミックボールを竪型炉内に供給し、竪型炉内を焼成する温度に到達するまで加熱することと、竪型炉内が焼成温度にまで到達した後、セラミックボールを竪型炉の下部から炉外へ排出しつつ、複数の成形体を、竪型炉の上部から炉内へ供給すること、を含む、リチウムニッケル複合酸化物の製造方法が提供される。また、竪型炉外へ排出されたセラミックボールと成形体とを併せて回収し、回収された回収物を振とうして、成形体を解砕することと、解砕された成形体をふるい分けして、セラミックボールから分離し、回収すること、を備えてもよい。また、リチウムニッケル複合酸化物を非水電解質二次電池の正極活物質として用いてもよい。
【0023】
本発明の第2の態様によれば、上記の製造方法で製造されたリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いて正極を得ることと、上記正極、負極、及び、非水系電解質を用いて非水系電解質二次電池を得ること、を備える、非水系電解質二次電池の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法によれば、焼成時間を短縮することができ、これにより生産性を向上させることができる。また、上記の製造方法によれば、ルツボまたは匣鉢など消耗品を用いないため、製造コストを低減することができる。また、本発明の非水系電解質二次電池の製造方法によれば、上記の製造方法により得られたリチウムニッケル複合酸化物を用いることにより、より生産性が向上し、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るリチウムニッケル複合酸化物の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係るリチウムニッケル複合酸化物の製造方法に用いられる製造装置の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、第2実施形態に係るリチウムニッケル複合酸化物の製造方法の一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、実施例で使用したコイン型二次電池の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。また、図面においては、各構成をわかりやすくするために、一部を強調して、あるいは一部を簡略化して表しており、実際の構造、形状、縮尺等が異なっている場合がある。また、以下の各図において、XYZ座標系を用いて図中の方向を説明する。このXYZ座標系においては、鉛直方向をZ方向とし、水平方向をX方向、Y方向とする。また、X方向、Y方向、及びZ方向のそれぞれについて、適宜、矢印の先の側を+側(例、+X側)と称し、その反対側を-側(例、-X側)と称する。
【0027】
[第1実施形態]
1.リチウムニッケル複合酸化物の製造方法
第1実施形態に係るリチウムニッケル複合酸化物の製造方法(以下「製造方法」ともいう)は、ニッケルを含む化合物と、リチウムを含む化合物とを焼成して、リチウムニッケル複合酸化物を製造する方法である。本実施形態に係る製造方法は、リチウムニッケル複合酸化物を、生産性高く、かつ、低コストで製造することができる。また、本実施形態の製造方法を用いることにより、非水系電解質二次電池用の正極活物質として好適に用いることができるリチウムニッケル複合酸化物を工業的規模で大量、かつ、抵コストで製造することができる。
【0028】
図1は、本実施形態の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2は、本実施形態の製造方法に用いられる製造装置の一例を示す図である。以下、
図1及び
図2を適宜参照して、本実施形態の製造方法について説明する。
【0029】
本実施形態に係る製造方法は、
図1に示すように、ニッケルを含む化合物と、リチウムを含む化合物との粉末を含む混合物(リチウム混合物)を成形して得られた複数の成形体を、竪型炉の上部から炉内へ、連続的又は間欠的に供給することと(ステップS10)、竪型炉内にて、前記成形体を焼成することと(ステップS20)、焼成済みの複数の成形体を、竪型炉内の下部から外部へ、連続的又は間欠的に排出すること(ステップS30)、を備える。
【0030】
本実施形態の製造方法では、ステップS10において、リチウム混合物の成形体を用いることにより、竪型炉による焼成において、ニッケルを含む化合物の粉末とリチウムを含む化合物の粉末との比重差による分離が発生せず、リチウム混合物を均一に反応させることができ、かつ、焼成時間の短縮が可能となる。
【0031】
さらに、ステップS10において、複数の成形体を竪型炉の上部から連続的又は間欠的に供給することにより、供給されたそれぞれの成形体の間に空隙を形成し、この空隙を通じて、竪型炉から供給される反応ガスや熱、成形体から生成する生成ガスなどが流れることができるため、リチウム混合物をより均一に反応させ、かつ、焼結反応を促進させて、焼成時間の短縮が可能となる。
【0032】
以下、本実施形態の製造方法についてさらに説明する。まず、本実施形態の製造方法に用いられる成形体及び製造装置について説明した後、製造方法における各ステップについて説明する。
【0033】
(1)成形体
本実施形態に用いられる成形体は、ニッケルを含む化合物と、リチウムを含む化合物との粉末を混合して得られる混合物(リチウム混合物)を、成形して得られる(
図1のステップS1、S2参照)。以下、成形体を構成する各原料及び成形体の製造方法について説明する。
【0034】
(ニッケルを含む化合物)
本実施形態で用いられるニッケルを含む化合物は、特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。ニッケルを含む化合物としては、例えば、ニッケルを含む水酸化物、及び、ニッケルを含む酸化物の少なくとも一方を用いることができる。
【0035】
(ニッケルを含む水酸化物)
ニッケルを含む水酸化物は、ニッケル水酸化物、及び、ニッケルとニッケル以外の金属とを含む水酸化物(ニッケル複合水酸化物)を含む。ニッケル複合水酸化物は、ニッケル以外に、コバルト、アルミニウム及びマンガンのうち少なくとも1つ以上を含んでもよい。ニッケル複合水酸化物としては、例えば、ニッケルコバルト複合水酸化物、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物などが用いられる。また、ニッケル複合水酸化物は、モリブデン、タングステン、ケイ素、ホウ素、ニオブ、バナジウム、チタンなどの元素を含んでもよい。
【0036】
ニッケルを含む水酸化物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、晶析法を用いることができる。晶析法によって得られるニッケルを含む水酸化物は、粒子全体で組成が均一となり、最終的に得られる正極活物質の組成も均一になる。
【0037】
以下、ニッケルを含む水酸化物の製造方法の一例として、ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法について説明する。ニッケルコバルト複合水酸化物は、例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及び、任意の金属Mを含む水溶液を攪拌しながら、アンモニウムイオン供給体などの錯化剤の存在下、アルカリ水溶液を用いて中和して、晶析反応を行うことで製造することができる。晶析法により得られたニッケルコバルト複合水酸化物は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子で構成され、このニッケルコバルト複合水酸化物の粒子を前駆体として用いて得られる正極活物質も、複数の一次粒子が凝集した二次粒子で構成されたものとなる。
【0038】
なお、上記ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、任意の金属Mを含む水溶液を調整する際に用いる金属塩としては、例えば、硫酸塩、硝酸塩、塩化物などを用いることができる。
【0039】
ニッケル複合水酸化物がニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物である場合、例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びアルミニウム(Al)を含む水溶液を攪拌しながら、アンモニウムイオン供給体などの錯化剤の存在下、アルカリ水溶液を用いて中和する、晶析反応を行うことで製造することができる。
【0040】
また、ニッケル複合水酸化物が金属元素Mを含む場合、例えば、晶析反応において、Ni及びCoと共に晶析させ、ニッケル複合水酸化物中に均一に分散させてもよいし、ニッケル複合水酸化物を晶析により形成した後、得られたニッケル複合酸化物粒子の表面に被覆したり、リチウムを含む化合物の添加と同時に添加して混合したりしてもよい。
【0041】
(ニッケルを含む酸化物)
ニッケルを含む酸化物は、ニッケル酸化物、及び、ニッケルとニッケル以外の金属とを含む酸化物(ニッケル複合酸化物)を含む。ニッケル複合酸化物は、ニッケル以外に、コバルト、アルミニウム及びマンガンのうち少なくとも1つ以上を含んでもよい。ニッケル複合酸化物としては、例えば、ニッケルコバルト複合酸化物、ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物などが用いられる。また、ニッケル複合酸化物は、モリブデン、タングステン、ケイ素、ホウ素、ニオブ、バナジウム、チタンなどの元素を含んでもよい。
【0042】
ニッケルを含む酸化物は、例えば、上述したニッケルを含む水酸化物を酸化することで得られる。
【0043】
(リチウムを含む化合物)
リチウムを含む化合物は、リチウムを含む化合物をいう。リチウムを含む化合物としては、特に限定されず、公知のリチウムを含む化合物を用いることができ、例えば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、又はこれらの混合物が用いることができる。これらの中でも、好ましくは水酸化リチウム、炭酸リチウムが用いられる。
【0044】
(リチウム混合物)
ニッケルを含む化合物とリチウムを含む化合物との混合は、ニッケルを含む化合物中の金属元素(ニッケルを含む)の合計の原子数(Me)と、リチウムを含む化合物中のリチウムの原子数(Li)との比(Li/Me比)が、例えば、0.95以上1.10以下であり、好ましくは1.00以上1.05以下、より好ましくは1.01を超え1.03以下の範囲となるように行われる。Li/Me比が上記範囲未満である場合、一部のニッケル複合酸化物が反応せずに残存して十分な電池性能が得られないことがある。また、Li/Me比が上記範囲を超える場合、焼結が促進され、焼成物が硬くなり解砕が困難になる場合や、正極活物質の粒径や結晶子径が大きくなり十分な電池性能が得られないことがある。
【0045】
Li/Me比は、後述する焼成工程(ステップS20)前後でほぼ変化しないので、リチウム混合物中のLi/Me比がリチウムニッケル複合酸化物中でもほぼ維持される。よって、ニッケルを含む化合物とリチウムを含む化合物との混合は、得ようとするリチウムニッケル複合酸化物中のLi/Me比と同じになるように、混合することができる。Li/Me比は、二次電池において要求される電池特性、二次電池の構成などに応じて、適宜、好適な値を選択することができる。
【0046】
混合には、一般的な混合機を使用することができ、例えば、シェイカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができる。またこの混合は、ニッケルを含む化合物の形骸が破壊されない程度で、十分に混合されればよい。混合が十分でない場合には個々の粒子間でLi/Me比がばらつき、十分な電池特性が得られない等の問題が生じることがある。
【0047】
(バインダー)
リチウム混合物は、バインダーを含んでもよい。バインダーを含む場合、リチウム混合物の成形性が向上し、容易に種々の形状の成形体を形成することができる。バインダーとしては、公知のバインダーを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロースなどを用いることができる。これらの中でもポリビニルアルコールを用いることが好ましい。なお、リチウム混合物は、バインダーを含まなくてもよい。
【0048】
(成形体の製造方法)
次いで、リチウム混合物の粉末を成形して、成形体を得る。成形体を製造する装置としては、特に限定されず、リチウム混合物の粉末を加圧できるものであればよく、例えば、打錠機や成形機などのプレス装置を用いることができる。
【0049】
成形体の形状は、特に限定されず、複数の成形体を竪型炉に供給した際に、それぞれの成形体の間に、反応ガスや生成ガスが流通することができる程度の空隙が形成される形状であればよく、例えば、球状、または錠剤のようなタブレット状の形状とすることができる。
【0050】
成形体の大きさは、特に限定されないが、成形体の外形上の任意の2点間の最大距離が1mmであってもよく、5mm以上であることが好ましい。球状またはタブレット状の成形体を用いる場合、例えば、縦、横、高さがそれぞれ5mm以上とすることが好ましい。上記2点間の最大距離が上記範囲である場合、成形体の焼成を効率よく行うことができ、生産性が向上させることができ、また、打錠機や成形機等を用いた圧縮成形により強度の高い成形体を簡単に製造することができ、焼成中における成形体の崩壊を抑制することができる。一方、上記2点間の最大距離が1mm未満である場合、打錠機や成形機等を用いた成形が困難であり、強度の高い成形体を製造することが難しい。成形体の強度が十分でない場合、成形体が焼成中に炉内で崩壊して、微細な粉末(100μm以下程度)となり、竪型炉内のガス流で舞い上がって排ガスとともに竪型炉外に排出されて、成形体のロスとなることがある。
【0051】
また、成形体の外形上の任意の2点の最大距離の上限は、竪型炉の内径(炉心管内径)の1/3以下であることが好ましく、1/5以下であることがより好ましい。球状またはタブレット状の成形体を用いる場合、例えば、縦、横、高さが、それぞれ炉心管内径の1/5以下であることがより好ましい。
【0052】
成形体を製造する装置としては、特に限定されず、リチウム混合物の粉末を加圧できるものであればよく、例えば、打錠機あるいはブリケットマシン等を用いることができる。
【0053】
成形体は、竪型炉内で移動中(下降中)に解体(崩壊)して粉体にならない程度の硬度とする。一方、成形体が硬すぎる場合、焼成後に解砕機等を用いて成形体を粉砕(解砕)する際に解砕効率が悪くなるため、通常の解砕工程にて、粉砕可能な程度の硬度であることが好ましい。
【0054】
また、成形体の密度は、1.5g/cm3以上2.5g/cm3以下が好ましく、1.8g/cm3以上2.2g/cm3以下がより好ましい。成形体の密度が上記範囲である場合、バインダーを含まなくとも十分な強度を有し、かつ、解砕性に優れ、生産性に優れる。
【0055】
(2)製造装置
次に、本実施形態の製造方法に用いる製造装置の一例について、説明する。
図2に示すように、本実施形態の製造方法に用いる製造装置1は、成形体Cの焼成を行う竪型炉10を備える。なお、本実施形態では、製造装置1の一例として、
図2に示す製造装置1を例に説明するが、製造装置1は、竪型炉10を備える装置であれば、構成は任意である。
【0056】
成形体Cの焼成を竪型炉10で行う場合、成形体Cの自然落下作用により、焼成前の成形体Cを炉内に供給することができるため、横型の連続焼成炉と比較して、より簡易な構成で、簡単に、かつ、動力を要することなく成形体Cを炉内に供給する構成(ライン)にすることができる。
【0057】
図2に示す製造装置1は、竪型炉10、成形体供給装置30、成形体排出装置40、制御装置50を備える。成形体供給装置30は、竪型炉10の上方に配置され、焼成前の成形体Cを竪型炉10の上部から供給する。成形体排出装置40は、竪型炉10の下方に配置され、竪型炉10内の成形体Cを排出する。制御装置50(電源を含む)は、製造装置1の各部を制御する。例えば、制御装置50は、竪型炉10と成形体供給装置30と成形体排出装置40とを連動して制御する。
【0058】
竪型炉10は、炉心管11と、炉心管11を加熱するヒータ12と、炉心管11の温度を測定する温度センサ13と、炉心管11及びヒータ12を覆う断熱材14と、断熱材14の外側に設けられ、竪型炉10の各部を囲う金属製の外殻15と、を備える。竪型炉10は、ヒータ12により加熱された炉心管11内(加熱帯)にて、成形体Cを所定の温度で焼成する。また、竪型炉10は、加熱帯の下方(下流)に、焼成後(焼成済み)の成形体Cを冷却する冷却帯16を備えてもよい。
【0059】
炉心管11は、円筒状(管状)の形状であり、被焼成物を保持可能な炉内を備えている。炉心管11の内部には、成形体C等の被焼成物を充填することが可能である。竪型炉10では、炉心管11の内部に成形体Cを充填し、ヒータ12により炉心管11を加熱することで、成形体Cを焼成する。
【0060】
炉心管11は、焼成温度において耐熱性を有し、且つ、焼成温度で成形体を構成する成分と反応しない材質の材料で形成されている。例えば、炉心管11は、ステンレス管などの金属管;アルミナ、ムライトなどセラミックス管;から適宜選定される。
【0061】
炉心管11の直径(内径)は、限定されないが、50mm以上500mm以下が好ましく、100mm以上300mm以下がより好ましい。炉心管11の直径が500mmを超える場合、炉心管11の中心部付近に位置する成形体Cの温度が、所期の焼成温度に到達しないことにより、焼成が不十分となる場合がある。また、炉心管11の直径が50mm未満の場合、成形体Cの充填容量が少なくなるため、焼成の生産性が悪くなる。
【0062】
炉心管11は、例えば、上部と下部が開放され、焼成が行われる炉心管11内(炉内)と接続される。炉心管11の上部から、焼成を施す成形体Cが供給される。炉心管11の下部は、焼成後の成形体Cの排出(搬出)に用いられる。なお、炉心管11の上部及び下部には、それぞれ、開閉可能なシャッタ(図示せず)が設けられていてもよい。
【0063】
ヒータ12は、炉心管11を囲うように配置され、炉心管11を加熱する。ヒータ12により加熱される炉心管11の内部は、加熱帯を形成し、加熱帯にて成形体Cが焼成される。ヒータ12は、特に限定はないが、例えば、鉄クロムヒータ、ニクロムヒータ、炭化ケイ素ヒータ、ニ珪化モリブデンヒータ、黒鉛ヒータなどを採用可能である。ヒータ12は、制御装置50に接続され、加熱の動作(程度)が、制御装置50により制御される。
【0064】
温度センサ13は、熱電対や赤外線放射温度計など各種検出器を適宜選定できる。温度センサ13の配置位置及び数は、それぞれ、特に限定されず任意である。例えば、温度センサ13は、炉心管11の上部あるいは
図2の例のように炉心管11の側面から炉心管11内に挿入するように配置してもよい。例えば、温度センサ13は、
図2の例のように1つでもよいし、複数でもよい。温度センサ13は、制御装置50に接続され、その測定結果は制御装置50に送られる。
【0065】
断熱材14は、炉心管11及びヒータ12を覆うように配置され、炉心管11からの熱を断熱する。断熱材14は、特に限定されず、例えば、セラミックファイバ板、耐火煉瓦などが適宜選定される。
【0066】
炉心管11のヒータ12(加熱帯)より下部には、成形体C(焼成後)を冷却する冷却帯16が設けられる。冷却帯16は、炉心管11の下部に接続される接続部24(コネクタ)に設けられている。接続部24は、焼成後の成形体Cを収容可能に構成されている。
【0067】
冷却帯16では、後述するように、冷却帯16の下方から供給される反応ガス(図示せず)と、焼成後の成形体Cとが向流接触することにより、焼成後の成形体Cを冷却する。この構成の場合、焼成後の成形体Cの冷却を促進することができ、また、焼成後の成形体Cに反応ガスを接触させることによる熱交換により、反応ガスの温度を高めて、炉心管11内(加熱帯)に導入することができるので、成形体Cの焼成反応を安定、促進させることができる。また、後述すように反応ガスは、成形体Cから生成される生成ガスとともに、加熱帯の上方から排気してもよい。
【0068】
なお、冷却帯16は、例えば、水冷ジャケットなどの冷却装置を炉心管11(の下部)あるいは接続部24に配置して、焼成後の成形体Cの冷却を加速させる構成としてもよい。し、焼成後の成形体Cの自然放熱作用により冷却する構成でもよい。また、冷却帯16は、焼成後の成形体Cの温度を制御して冷却させる構成としてもよい。また、製造装置1が、冷却帯16を備えるか否かは任意である。
【0069】
また、竪型炉10(接続部20)の上部(上方、上流)には、成形体供給装置30が接続される。成形体供給装置30は、所定量の複数の成形体C(焼成前の成形体C)を炉心管11の上部から炉内へ、連続的又は間欠的に供給する。成形体供給装置30は、重力による自然落下作用を使って、成形体Cを炉心管11の上部から炉内に供給する。上述したように、成形体供給装置30などにより、複数の成形体Cを炉内(竪型炉10内)に供給されることにより、従来の製造方法よりも短時間で効率よく、成形体Cを焼成することができる。このように、製造装置1が成形体Cを竪型炉10に供給する成形体供給装置30を備える場合、リチウムニッケル複合酸化物の製造をより効率化することができる。
【0070】
成形体供給装置30は、制御装置50の制御により、成形体C(焼成前の成形体C)の供給量、供給時期を調整してもよい。例えば、成形体供給装置30は、内部にロードセルなどの重量計を備え、炉心管11に供給した成形体Cの重量をモニタすることにより、所定の量の複数の成形体Cを炉心管11に供給する量を調整する構成でもよい。本実施形態の成形体供給装置30は、制御装置50の制御により、焼成前の成形体Cの供給量、供給時期を調製し、自動的に竪型炉10内に供給する。このような成形体供給装置30としては、振動フィーダ、スクリューフィーダ、テーブルフィーダ(サークルフィーダ)などが適用可能であり、これらの中でも、成形体Cの供給安定性の観点から、テーブルフィーダ(サークルフィーダ)がより好適である。
【0071】
例えば、成形体供給装置30は、テーブルフィーダであり、竪型炉10に供給する焼成前の成形体Cを収容する収容部31と、収容部31に収容した焼成前の成形体Cの所定の量を、竪型炉10に供給する供給部32と、を備える。供給部32は、接続部20(コネクタ)を介して炉心管11の上部に接続される。
【0072】
なお、成形体供給装置30は、
図2に示すように、成形体を成形する装置(打錠機など)とは別に、予め製造された成形体を供給する成形体供給装置30を用いてよいし、打錠機などの成形体を製造する際に用いる装置(成形体製造装置)を有する成形体供給装置30として用いてもよい。
【0073】
なお、製造装置1が成形体供給装置30を備えるか否かは任意である。例えば、製造装置1は、成形体供給装置30を備えなくてもよく、この場合、例えば、製造装置1は、人間の作業により、所定の量の複数の成形体Cを炉心管11の上部から炉内へ、連続的又は間欠的に供給する構成でもよい。
【0074】
竪型炉10(接続部24)の下部(下方、下流)には、成形体排出装置40が接続される。炉心管11内で焼成された焼成済みの成形体Cは、竪型炉10の下部から接続部24を介して成形体排出装置40に排出される。これにより、竪型炉10内(炉心管11内)の成形体Cは、重力による自然落下作用で、下方に移動する。
【0075】
成形体排出装置40は、所定の量の複数の成形体C(焼成済みの成形体)を炉心管11(竪型炉10)の下部から外部へ、連続的又は間欠的に排出する。成形体排出装置40は、重力による自然落下作用を使って、成形体Cを炉心管11の下部から外部に排出する。成形体排出装置40は、制御装置50の制御により、所定の量の複数の成形体C(焼成済みの成形体)を、所定のタイミングで自動的に竪型炉10の外部に排出する。このように、製造装置1が焼成済みの成形体Cを連続的又は間欠的に自動的に排出する成形体排出装置40を備える場合、リチウムニッケル複合酸化物の製造を効率化することができる。
【0076】
成形体排出装置40は、焼成済みの複数の成形体Cを所定の量で排出するのが好ましい。例えば、成形体排出装置40は、排出する焼成後の成形体Cの重量を測定する重量測定部を備え、炉心管11から排出される焼成後の成形体Cの重量をモニタして、焼成後の成形体Cの排出量を調整する。なお、成形体排出装置40は、炉心管11から成形体Cを受け入れる部位等の部位において、焼成済みの成形体Cの受入に関する制御(例、受入れの量、受入れの速度、受入れのタイミング等)が可能な構成を有してもよい。このような成形体排出装置40としては、振動フィーダ、スクリューフィーダ、サークルフィーダなどが適用可能であり、これらの中でも、焼成後の成形体Cの排出安定性の観点から、テーブルフィーダ(サークルフィーダ)がより好適である。
【0077】
例えば、成形体排出装置40は、テーブルフィーダであり、竪型炉10から排出される焼成済みの成形体Cの導入に用いられる受入部41と、成形体Cを排出する排出部42とを備える。受入部41は、接続部24を介して、炉心管11に接続される。焼成済みの成形体Cを、焼成済みの成形体Cを格納(収容)する格納部26に回収する場合、排出部42は、格納部26に接続され、焼成済みの成形体Cを格納部26に排出する。
【0078】
なお、製造装置1が成形体排出装置40を備えるか否かは任意である。例えば、製造装置1は、成形体排出装置40を備えなくてもよく、この場合、例えば、製造装置1は、人間の作業により、所定の量の焼成済みの成形体Cを炉心管11から外部に、連続的又は間欠的に排出する構成でもよい。
【0079】
制御装置50は、温度センサ13から炉心管11の温度情報を取得し、取得した炉心管11の温度情報に基づいてヒータ12を制御することにより、炉心管11の温度を制御する。また、制御装置50は、成形体供給装置30から成形体の供給量情報と、成形体排出装置40から成形体の排出量情報とを取得し、取得した成形体の供給量情報及び排出量情報に基づいて、成形体供給装置30と成形体排出装置40とを連動して制御することにより、炉心管11内の成形体Cの量、及び成形体Cの滞留時間等を制御する。
【0080】
上述した竪型炉10の炉心管11内に供給された複数の成形体Cは、加熱帯にて、製造装置1から供給される反応ガス及び熱と接触しながら、焼結反応が進行する。
【0081】
図2に示すように、製造装置1では、反応ガスを、加熱帯より下方に設置された反応ガス供給口27から供給して、加熱帯より上方に設置されたガス排出口28から排気する。これにより、それぞれの成形体C間の空隙を、反応ガス及び成形体Cから生成される生成ガスが均一に同じ方向に流れることができ、各成形体への反応ガス及び熱の供給、並びに生成するガスの脱離が容易となる。これにより焼成効率が向上し、リチウム混合物のより均一な反応や、焼成時間の短縮が可能となる。
【0082】
例えば、反応ガス供給口27は、成形体排出装置40に備えられる。成形体排出装置40の反応ガス供給口27から供給された反応ガスは、接続部24の断面の中心部付近に導かれ、接続部24を通って、炉心管11の下部から炉心管11に導入される。この際、冷却帯16に収容される焼成済みの成形体Cが、反応ガスに向流接触することにより、焼成済みの成形体Cは冷却される。
【0083】
炉心管11内に導入された反応ガスは、炉心管11の下方から上方に向かって流れる。炉心管11内の成形体Cは、炉心管11の下方から上方に向かって流れるガス流と接触して、熱と反応ガスの供給を受ける。また、これと同時に、成形体Cから焼成の際に生成した生成ガスを、成形体Cから離脱し、このガス流へ排出することができる。
【0084】
反応ガスは、竪型炉10(接続部20)上方に設けられたガス排出口28から排出される。ガス排出口28から排出された排気ガスは、配管などを介して、排ガス処理装置(図示せず)に導かれて処理される。
【0085】
なお、反応ガスを供給する方法は、特に限定されず、任意の方法であってもよい。また、反応ガス供給口27は、成形体排出装置40以外に備えられてもよい。また、ガス排出口28は、接続部20以外に備えられてもよい。例えば、上記の特許文献3のように、反応ガス及び原料を、竪型炉の上部から竪型炉内に供給してよい。しかし、この場合、炉内の原料混合物の充填部にガスの通り道が生じる等の理由で反応ガスが竪型炉内の全体に行き渡らず、反応ガスの供給及び生成するガスの脱離が不十分になって焼結反応が十分でないことがある。
【0086】
また、製造装置1は、解砕装置60を備えてもよい。解砕装置60は、焼成済みの成形体Cを解砕して、リチウムニッケル複合酸化物の粉末とする。解砕装置60は、特に限定されないが、例えば、ボールミル、ジェットミル、ロールクラッシャー、ピンミルなどの公知の装置を用いることができる。
【0087】
図1の説明に戻り、以下、本実施形態の製造方法について説明する。
(3)成形体の供給(ステップS10)
ステップS10は、例えば、上述した複数の成形体Cを、竪型炉10の上部から竪型炉10内(炉心管11内)へ、連続的又は間欠的に供給することにより実施する。成形体Cの竪型炉10への供給は、
図2に示す成形体供給装置30を用いて行ってもよい。成形体Cを竪型炉10に供給するタイミングは、特に限定されず、任意であり、所定量の成形体Cを連続的に、又は、複数回に分けて間欠的に供給することができる。成形体Cを供給するタイミングは、例えば、焼成時間などにより適宜決定される。また、成形体供給装置30により成形体Cに供給する量は、特に限定されず、任意であり、例えば、この量は、炉心管11の収容能力、成形体Cの排出量などにより適宜決定される。
【0088】
(4)成形体の焼成(ステップS20)
次いで、本実施形態の製造方法では、ステップS20において、竪型炉内にて、成形体を焼成する。
【0089】
ステップS20は、例えば、ステップS10により、
図2の製造装置1の竪型炉10内(炉心管11内)に供給された成形体Cを、加熱帯にて焼成することにより実施する。成形体Cを焼成する温度(焼成温度)は、成形体Cを構成するリチウム混合物の組成に応じて適宜設定され、特に限定されないが、例えば、650℃以上、1000℃以下である。焼成温度が、650℃未満の場合、リチウムの拡散が十分行われず、未反応のリチウム化合物が残留したり、リチウムニッケル複合酸化物の結晶構造が十分整わなくなったりして、得られるリチウムニッケル複合酸化物が十分な電池特性を示さなくなることがある。一方、焼成温度が、1000℃を超える場合、リチウムニッケル複合酸化物粒子間で異常粒成長を生じて、得られたリチウムニッケル複合酸化物が十分な電池特性を示さなくなることがある。
【0090】
また、成形体Cの焼成時間は、成形体Cを構成するリチウム混合物の組成により適宜調整できる。本実施形態の製造方法は、成形体Cを効率よく焼成することができるため、従来の製造方法よりも短い焼成時間で、結晶性の高いリチウムニッケル複合酸化物を得ることができる。
【0091】
また、本実施形態では、ステップS20の焼成の際、上記したように、反応ガスを加熱帯より下方から供給して、竪型炉10内の成形体Cと接触させ、加熱帯より上方から排気してもよい。この場合、それぞれの成形体C間の空隙を、反応ガス及び成形体から生成される生成ガスが均一に同じ方向に流れることができ、各成形体Cへの反応ガス及び熱の供給、並びに生成するガスの脱離が容易となる。これにより焼成効率が向上し、リチウム混合物のより均一な反応や、焼成時間の短縮が可能となる。
【0092】
(5)成形体の排出(ステップS30)
次いで、本実施形態の製造方法では、ステップS30において、焼成済みの複数の成形体を、竪型炉内の下部から外部へ、連続的又は間欠的に排出する。
【0093】
ステップS30は、例えば、焼成済みの複数の成形体Cを炉心管11(竪型炉10)の下部から外部へ、連続的又は間欠的に排出することにより実施する。竪型炉10からの成形体Cの排出は、
図2の成形体排出装置40を用いて行ってもよい。焼成済みの複数の成形体Cは、例えば、格納部26に排出する。本実施形態の製造方法のように、焼成済みの成形体Cを格納部26等のような所定の場所に排出する場合、焼成済みの成形体Cに関する次工程を簡単に行うことができる。
【0094】
なお、焼成済みの複数の成形体Cを、炉心管11(竪型炉10)の下部から竪型炉10の外部へ、連続的又は間欠的に供給するタイミング及び排出量は、特に限定されず、任意であり、例えば、成形体供給装置30から成形体Cを供給するタイミング及び供給量に応じて適宜決定される。焼成済みの成形体Cを連続的又は間欠的に排出する場合、リチウムニッケル複合酸化物の製造を効率化することができ、中でも、上記した成形体排出装置40等を用いて自動的に行う場合、より効率化することができる。
【0095】
また、本実施形態の製造方法では、ステップS20の成形体Cの焼成は、焼成処理中に、ステップS30により焼成済みの成形体Cを竪型炉10内の下部から排出しつつ、ステップS10により焼成前の成形体Cを竪型炉10の上部から竪型炉10内(炉心管11内)へ供給することにより、成形体Cを上方から下方へ移動させながら焼成してもよい。すなわち、本実施形態の製造方法では、ステップS10、S20、S30を連動(同期)させて行ってもよい。これにより、リチウムニッケル複合酸化物の製造をより効率化することができる。なお、上記のステップS20の成形体Cの焼成は、ステップS10、S20、S30を連続的に行うことにより、成形体Cを竪型炉10内(炉心管11内)で連続的に下方に移動させながら焼成してもよいし、また、ステップS10、S20、S30を所定のタイミングで間欠的に行うことにより、成形体Cを竪型炉10内(炉心管11内)で間欠的に下方に移動させながら焼成してもよい。上記成形体Cを連続的に移動させる際の移動速度、及び、上記成形体Cを間欠的に下方に移動させる所定のタイミングは、例えば、成形体Cの焼成時間(炉心管11内の成形体Cの滞留時間)に合わせて設定される。本実施形態の製造装置1では、制御装置50により成形体供給装置30、成形体排出装置40、及びヒータ12を制御することにより、上記の移動速度及び移動のタイミングを制御して、上記のステップS20の成形体Cの焼成を実施する。なお、上記のステップS20の成形体Cの焼成では、ステップS30による焼成済みの成形体Cの排出のタイミングと、ステップS10による焼成前の成形体Cの供給のタイミングとは、同時でもよいし、異なっていてもよい。
【0096】
また、本実施形態の製造方法では、上記したように、竪型炉10から排出した焼成済みの成形体Cを、炉心管11の下流(下部)において、炉心管11に供給する反応ガスにより、冷却してもよい。
【0097】
(6)成形体の解砕(ステップS40)
次いで、本実施形態の製造方法では、ステップS40において、竪型炉内の下部から外部へ排出された成形体を解砕して、リチウムニッケル複合酸化物の粉末を得る。
【0098】
例えば、ステップS40は、上記した解砕装置60により、焼成済みの成形体Cを解砕することにより、リチウムニッケル複合酸化物の粉末を得る。なお、ステップS40を行うタイミングは、特に限定されず任意であり、ステップS10、S20、S30と同時に行ってもよいし、ステップS10、S20、S30と異なるタイミングで行ってもよい。
【0099】
以上のように、本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法によれば、リチウム混合物の均一な反応、及び、焼成時間を短縮することができ、これにより生産性を向上させることができる。また、上記の製造方法によれば、ルツボまたは匣鉢など消耗品を用いないため、製造コストを低減することができる。
【0100】
[第2実施形態]
2.リチウムニッケル複合酸化物の製造方法
第2実施形態について、
図3(A)~(C)を適宜参照して説明する。本実施形態において、上述の実施形態と同様の構成については、同じ符号を付してその説明を省略あるいは簡略化する。
【0101】
第2実施形態の製造方法は、
図3(A)~
図3(B)に示すように、成形体Cを竪型炉10内へ供給する前に、セラミックボールSを竪型炉10内に供給し(ステップS50)、竪型炉10内を焼成する温度に到達するまで加熱する(ステップS51)ことと、竪型炉10内が焼成温度にまで到達した後、セラミックボールSを竪型炉10の下部から炉外へ排出しつつ(ステップS60)、複数の成形体Cを、竪型炉10の上部から炉内へ供給すること(ステップS61(S10))を備える。
【0102】
一般的に竪型炉により粉体原料を焼成する場合には、焼成準備として炉内にダミーとなる粉体原料を充填して竪型炉を加熱し、炉内温度および炉内粉体原料温度が目的の温度となったら新たに粉体原料を竪型炉に投入して焼成を開始する。この焼成準備時に使用するダミーの粉体原料は、ロスとなりコストアップ要因となる。
【0103】
第2実施形態の製造方法では、成形体Cの竪型炉10への供給を開始する前に、セラミックボールSをダミーの粉体原料の代わりに使用するため、ダミー原料の費用を削減して、製造コストを低減することができる。
【0104】
セラミックボールSとしては、特に限定されず、公知の耐熱性の材料から構成されるものを用いることができ、アルミナ製、ジルコニア製から適宜選択可能である。
【0105】
セラミックボールSの寸法は、特に限定されないが、成形体Cの寸法と同じ、又は、同程度であるものが好ましい。また、成形体Cと同寸のセラミックボールSが入手できない場合は、市販品で最も寸法が近いものを選定すればよい。
【0106】
セラミックボールSの供給量は、例えば、炉心管11内の成形体Cの充填高さと同様の高さまで充填できる量を供給する。
【0107】
竪型炉10内が焼成温度にまで到達した後、セラミックボールSを竪型炉10の下部から炉外へ排出しつつ(ステップS60)、複数の成形体Cを、竪型炉10の上部から炉内へ供給すること(ステップS61(S10))により、セラミックボールSが成形体排出装置40から順次排出される。そして、
図3(C)に示すように、セラミックボールSに代えて、成形体Cの供給を行うことにより、セラミックボールSと成形体Cが混合したものが成形体排出装置40から排出される。なお、全てのセラミックボールSが排出された後は、成形体Cの焼成が終了するまで成形体Cのみが排出される。
【0108】
また、本実施形態の製造方法は、
図3(C)に示すように、竪型炉10外へ排出されたセラミックボールSと成形体Cとを併せて回収し(ステップS70)、回収された回収物を振とうして、成形体Cを解砕する(ステップS71)ことと、解砕された成形体Cをふるい分けして、セラミックボールSから分離し、回収すること(ステップS72)、を備える。
【0109】
例えば、格納部26に回収されたセラミックボールSと焼成した成形体Cの混合物は、セラミックボールSが篩上に残る大きさを有する目開きの篩に投入し、振とうする。篩で振とうした際にセラミックボールSと成形体C、及び/又は、複数の成形体C同士が衝突する。このとき成形体Cは解砕され、篩の目開きより小さい成形体Cは篩下に落ちる。セラミックボールSは、成形体に比べて固く解砕しないので篩上に残る。そして、篩下を回収することにより、成形体CをセラミックボールSと分離して、回収することができる。
【0110】
回収された成形体Cは、さらに、上述した解砕工程(ステップS40)に供給して粉砕してもよい。回収されたリチウムニッケル複合酸化物(少なくとも一部が解砕された焼成済みの成形体C)は、非水系電解質二次電池用の正極活物質として、好適に用いることができる。一方、篩上のセラミックボールSは、次回焼成時の準備段階に再利用してもよい。
【0111】
また、竪型炉10に供給したすべての成形体Cの焼成が終了段階で、成形体Cに換えて、再度、セラミックボールSを成形体供給装置30から炉心管11内に供給してもよい。この場合、成形体Cの成形体排出装置40からの排出が終了した時点を焼成終了とすることにより、次回、成形体Cを焼成する際には、炉心管11内にはセラミックボールSがすでに充填されている状態であるため、竪型炉10の立ち上げ時間が短縮できる。なお、焼成終了前の成形体CとセラミックボールSの分離は、上記の篩分けにより行うことができる。なお、本実施形態の製造方法において、上記以外は、第1実施形態の製造方法と同様である。
【0112】
[第3実施形態]
3.非水系電解質二次電池の製造方法
本実施形態に係る非水系電解質二次電池の製造方法(以下、「二次電池の製造方法」ともいう)は、上述の製造方法で得られたリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いて正極を得ることと、得られた正極、負極、及び、非水系電解質を用いて非水系電解質二次電池を得ることを備える。なお、本実施形態に係る製造方法により得られる二次電池は、少なくとも正極、負極および非水系電解質を備えればよく、正極、負極、セパレータおよび非水系電解液を備えてもよく、正極、負極、および固体電解質を備えてもよい。また、二次電池は、公知のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素により構成されてもよい。
【0113】
以下、本実施形態に係る二次電池の製造方法の一例として、非水系電解液を用いた二次電池の各構成材料と、その製造方法について説明する。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、二次電池の製造方法は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本実施形態に係る製造方法により得られる二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0114】
(正極)
正極は、上記の本実施形態に係る正極活物質を含む。正極は、例えば、以下のようにして、作製することができる。
【0115】
まず、上記の正極活物質、導電材、及び、結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。
【0116】
正極合材ペースト中のそれぞれの材料の混合比は、特に限定されず、要求される二次電池の性能に応じて、適宜、調整することができる。材料の混合比は、公知の非水系電解質二次電池の正極と同様の範囲とすることができ、例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量部とした場合、正極活物質の含有量を60質量部以上95質量部以下、導電材の含有量を1質量部以上20質量部以下、結着剤の含有量を1質量部以上20質量部以下とすることができる。
【0117】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させて、シート状の正極を作製することができる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレス等により加圧してもよい。
【0118】
作製したシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等をして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、上記例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0119】
導電剤としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0120】
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
【0121】
また、必要に応じ、正極活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加してもよい。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。
【0122】
(負極)
負極は、金属リチウムやリチウム合金等を用いることができる。また、負極は、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いることができる。
【0123】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。
【0124】
負極結着剤としては、正極同様、PVDF等の含フッ素樹脂等を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0125】
(セパレータ)
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂を含む薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0126】
(非水系電解液)
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0127】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0128】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2等、およびそれらの複合塩を用いることができる。
【0129】
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤等を含んでいてもよい。
【0130】
(非水系電解質二次電池の形状、構成)
上記の正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される二次電池の形状は、円筒型、積層型等、種々のものとすることができる。本実施形態に係る二次電池は、例えば、まず、正極及び負極を、セパレータを介して積層して、積層体(電極)を得て、次いで、得られた電極に、非水系電解液を含侵させた後、正極集電体と外部に通じる正極端子との間、及び、負極集電体と外部に通じる正極端子との間とを、リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉することにより、製造することができる。
【実施例】
【0131】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例の内容に限定されるものではない。
【0132】
[実施例1]
図2に示される製造装置にて、成形体の焼成を行い、得られたリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いた二次電池の電池特性の評価を行った。
【0133】
まず、竪型炉に成形体を充填し、次いで反応ガスを供給しながら加熱した。加熱帯温度が750℃に到達した時点で竪型炉上部からの成形体の供給および竪型炉下部からの成形体の排出を開始し、焼成開始とした。
【0134】
焼成は以下の条件で行った。
(竪型炉)
炉心管内径:150mmφ、炉心管長2000mm
加熱帯長:900mm
加熱帯制御温度:750℃
冷却帯長:900mm
反応ガス O2:80体積%、15L/min
成形体充填高さ:炉心管底部から1800mm
成形体供給装置:テーブルフィーダ
成形体排出装置:テーブルフィーダ
成形体供給速度:4.0kg/h
成形体の竪型炉滞留時間:8時間
【0135】
(成形体)
原料として以下のニッケル複合水酸化物粉およびリチウムを含むリチウム混合物を打錠機で成形体とし、竪型炉での焼成に供した。
【0136】
ニッケル複合水酸化物の粉末:Ni0.8Co0.1Al0.1(OH)2.0
リチウムを含む化合物の粉末粉:LiOH
ニッケル複合水酸化物とリチウムを含む化合物とのモル比:2対1
成形体の形状:直径10mm径の球体
成形体の密度:2.0g/cm3
成形体量:100kg(うち31kgは竪型炉昇温時の充填に用いた)
【0137】
竪型炉から排出された成形体のうち、焼成開始前に該竪型炉に供給、充填された成形体の約30%に破損が観察された。焼成開始前に該竪型炉に供給、充填され、焼成開始後に該竪型炉から排出された該成形体は、破損した該成形体を篩分けして篩下の該成形体を除去し、篩上の該成形体に、篩下該成形体と同量の新たな成形体を追加して、次回焼成開始時の充填用成形体として再利用できる。
【0138】
一方焼成開始後に竪型炉に供給され、焼成後に該竪型炉から排出された該成形体には、破損は観察されなかった。竪型炉より排出された焼成済みの該成形体のうち、焼成開始後に該竪型炉に供給した分の該成形体を電池特性評価の評価対象とした。
【0139】
評価用成形体をロールクラッシャーおよびピンミルを用いて平均粒径を50μmまで解砕して粉体とし、これをリチウムニッケル複合酸化物としてボタン電池を製作した。
【0140】
(評価用電池の製造および評価)
得られたリチウムニッケル複合酸化物の評価は、以下の方法により、
図4に示す評価用のコイン型二次電池CBAを作製し、初期放電容量を測定することで行った。
【0141】
(コイン型二次電池CBAの作製)
コイン型二次電池CBAは、ケースCAと、このケースCA内に収容された電極ELとから構成されている。ケースCAは、中空かつ一端が開口された正極缶PCと、この正極缶PCの開口部に配置される負極缶NCとを有しており、負極缶NCを正極缶PCの開口部に配置すると、負極缶NCと正極缶PCとの間に電極ELを収容する空間が形成されるように構成されている。電極ELは、正極PE、セパレータSEおよび負極NEとからなり、この順で並ぶように積層され、正極PEが正極缶PCの内面に接触し、負極NEが負極缶NCの内面に接するようにケースCAに収容されている。
【0142】
なお、ケースCAはガスケットGAを備えており、このガスケットGAによって、正極缶PCと負極缶NCが非接触の状態を維持するように固定されている。また、ガスケットGAは、正極缶PCと負極缶NCとの隙間を密封してケースCA内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。具体的に、コイン型二次電池CBAは、以下のようにして作製した。
【0143】
正極PE(評価用電極)は、リチウムニッケル複合酸化物52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、作製した。作製した正極PEを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
【0144】
負極NEには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用い、電解液には、1MのLiPF6を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。セパレータSEには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。
【0145】
上記の正極PEと、負極NE、セパレータSEおよび非水電解液とを用いて、コイン型二次電池CBAを、露点が-80℃以下に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0146】
[電池評価]
製造したコイン型二次電池CBAの性能を示す初期充放電容量を以下のように評価した。
(初期放電容量)
初期放電容量は、コイン型二次電池CBAを製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0147】
得られた評価用の二次電池の初期放電容量は、233mAh/gであった。
【0148】
[実施例2]
焼成開始前に成形体の代わりにセラミックボールを竪型炉炉心管に充填すること以外は実施例1と同じ方法で、ニッケル複合水酸化物粉およびリチウムを含む化合物粉の混合物の成形体の焼成をした。
【0149】
(セラミックボール)
材質:アルミナ(アルミナ99%以上)
形状:直径10mm径の球形
セラミックボール量:80kg
【0150】
全セラミックボールが竪型炉から排出後に、竪型炉から排出された成形体を正極材活物質の評価用成形体として、実施例1と同じ方法で評価した。
【0151】
竪型炉から排出されたセラミックボールに破損はなく、再利用可能な状態であった。また、得られた評価用の二次電池の初期放電容量は、228mAh/gであった。
【0152】
[比較例1]
実施例1で用いたのと同様のリチウム混合物を匣鉢に投入して、バッチ式の焼成炉に配置し、焼成炉に反応ガスを供給して炉内雰囲気を調整して昇温し、所定時間加熱して混合粉を焼成した。その後、焼成炉の加熱を停止して混合粉を冷却した。冷却後に匣鉢を焼成炉から取り出して、焼成済み混合粉を得た。この混合粉をロールクラッシャーおよびピンミルを用いて平均粒径を50μmまで解砕して粉体とし、これをリチウムニッケル複合酸化物として実施例1と同じ方法にて、ボタン電池を製作し、評価した。
【0153】
焼成は以下の条件で行った。
匣鉢内寸:300mm×400mm×100mm(12L)
リチウム混合物の匣鉢盛量:12kg
昇温時間:4時間
焼成温度:750℃
焼成時間:8時間
冷却時間:4時間
反応ガス O2:80体積% 15L/min
【0154】
得られた評価用の二次電池の初期放電容量は、230mAh/gであった。
【0155】
(評価結果)
上記の実施例1、2の製造方法では、リチウム混合物を成形体にした後、複数の成形体を竪型炉に供給して、焼成することにより、比較例1の製造方法と比較して、より短い焼成時間で、大量のリチウムニッケル複合酸化物を得られる。また、バッチ式の焼成炉を用いた場合と比較して、装置の立ち上げ・昇温に要する時間が短縮できる。また、実施例1、2の製造方法で得られたリチウムニッケル複合酸化物では、比較例1の方法で得られたリチウムニッケル複合酸化物と同程度又はそれ以上の電池容量を有する。よって、実施例1、2の製造方法においては、反応ガスおよび熱の成形体への供給が十分に行われることにより、焼成時間を短縮しつつ、均一な焼結反応が促進され、結晶性に優れるリチウムニッケル複合酸化物が得られることが確認できた。
【0156】
また、実施例2の評価結果から、成形体の焼成開始前に、成形体の代わりにセラミックボールを竪型炉炉心管に充填した場合においても、成形体の焼成に悪影響を及ぼさないことが示された。また、セラミックボールは、再利用可能であるため、本実施形態の製造方法において、セラミックボールを用いた場合、コスト低減により効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0157】
以上のように、本発明のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法では、リチウム混合物の均一な反応を促進させて、焼成時間を短縮することができるため、工業的規模で生産性高くリチウムニッケル複合酸化物を得ることができる。さらに、本発明の製造方法では、匣鉢を使用しないため、匣鉢の交換に要する費用を短縮できる。よって、本発明の製造方法は、近年、需要が拡大しているハイブリット自動車、電気自動車などの環境対応自動車用途の二次電池用正極活物質の製造方法として好適に用いることができる。
【0158】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態などで説明した態様に限定されるものではない。上述の実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態などで引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。
【符号の説明】
【0159】
1…製造装置
10…竪型炉(縦型炉)
11…炉心管
12…ヒータ
13…温度センサ
14…断熱材
15…外殻
16…冷却帯
20…接続部(コネクタ)
24…接続部(コネクタ)
26…格納部
27…反応ガス供給口
28…ガス排出口
30…成形体供給装置
31…収容部
32…供給部
40…成形体排出装置
41…受入部
42…排出部
50…制御装置
60…解砕装置
C…成形体
S…セラミックボール
CBA…コイン型二次電池
CA…ケース
EL…電極
GA…ガスケット
NC…負極缶
NE…負極
OCV…開回路電圧
PC…正極缶
PE…正極
SE…セパレータ