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特許7069867液体吐出装置、及び液体吐出ヘッドのクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】液体吐出装置、及び液体吐出ヘッドのクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
B41J2/165 307
B41J2/165 401
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018045240
(22)【出願日】2018-03-13
(65)【公開番号】P2019155716
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【弁理士】
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】安宅 拓未
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-100862(JP,A)
【文献】特開2017-154361(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047193(WO,A1)
【文献】特開2014-104746(JP,A)
【文献】特開2014-188900(JP,A)
【文献】特開2012-071573(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0298475(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体をノズルから吐出する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドのノズル面を払拭するための、液体を吸収可能な長尺状の払拭部材と、
前記払拭部材を長手方向に搬送する払拭部材搬送手段と、
払拭時に前記払拭部材を前記ノズル面に押圧する押圧手段と、
前記払拭部材搬送手段及び前記押圧手段を制御する制御手段と、を備え、
前記払拭部材は、払拭時の押圧条件下において、下記〔1〕及び〔2〕の条件を満たすことを特徴とする液体吐出装置。
〔1〕ノズル面に対する接触率が60~95%
〔2〕払拭部材の空隙率をV(%)、払拭部材の厚さをT(mm)としたとき、V×T/100で表される単位面積当たりの空隙量の値が0.1~0.7(mm/mm
【請求項2】
前記払拭部材に洗浄液を付与する洗浄液付与手段を備え、
前記洗浄液を含浸した前記払拭部材により前記ノズル面を払拭することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記押圧手段が前記払拭部材を前記ノズル面に対して押圧する力を調整することを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記払拭部材搬送手段は、前記払拭部材を送り出す供給ローラ、及び前記払拭部材を巻き取る巻取ローラを有し、
前記制御手段は、前記供給ローラと前記巻取ローラとの間に張架された前記払拭部材の張力を調整することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記押圧手段が前記払拭部材を前記ノズル面に対して押圧する力が5N以下となるように調整することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記払拭部材の前記ノズル面と当接する領域に含浸された前記洗浄液の体積が、払拭対象となる前記ノズル面上の異物の体積の90%以上であることを特徴とする請求項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記払拭部材が、複数の材料からなる積層体であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記払拭部材は、少なくとも払拭層と液体吸収層とを有し、前記払拭層が前記ノズル面と当接することを特徴とする請求項7に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
液体を吐出するノズルが設けられた液体吐出ヘッドのノズル面に、液体を吸収可能な長尺状の払拭部材を当接押圧して前記ノズル面を払拭するクリーニング方法において、
前記払拭部材は、払拭時の押圧条件下において、下記〔1〕及び〔2〕の条件を満たすことを特徴とするクリーニング方法。
〔1〕ノズル面に対する接触率が60~95%
〔2〕払拭部材の空隙率をV(%)、払拭部材の厚さをT(mm)としたとき、V×T/100で表される単位面積当たりの空隙量の値が0.1~0.7(mm/mm
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置、及び液体吐出ヘッドのクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置、プロッタ、及びこれらの複合機等の画像形成装置として、例えば、液体吐出ヘッドまたは液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて液体を吐出させる液体吐出装置(インクジェット記録装置)が知られている。
【0003】
インクジェット記録装置においては、液体吐出ヘッドのノズル面の異物によって吐出不良等の不具合が生じるため、定期的にクリーニングを行う必要がある。
ノズル面の異物としては、例えば、付着したインクが乾燥して形成される固着インクが挙げられる。特に、定着性を向上させたインクはノズル面などに固着しやすいという問題がある。
【0004】
このような固着インクに対し、不織布等からなる長尺状の液体吸収性を有する払拭部材をヘッドのノズル面に当接させ、ノズル面に沿って摺動させることにより払拭清掃する機構を備えた装置が知られている。
【0005】
しかしながら、液体吸収性を有する払拭部材によって固着インクを除去するクリーニング方法は効率が悪く、払拭回数の増大によりノズル面に形成した撥水膜が劣化する等の弊害が生じるという課題がある。払拭部材に洗浄液を含浸させてクリーニングを行う場合であっても、払拭部材やインク成分中の粒子等による摩耗を防ぐことは困難である。
【0006】
このような払拭部材の接触に起因するノズル周辺領域へのダメージを抑えるために、ノズル面のうちノズル周辺領域に付与される圧力が、ノズル周辺領域以外の領域に付与される圧力より小さくなるような構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたような押圧力を調整して払拭部材がノズル面に接触することによるダメージを抑制する方法では、固着インクの除去効率の向上を実現することは困難である。
【0008】
そこで、本発明は、ノズル面の固着インクを効率良く除去することができる液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の液体吐出装置は、液体をノズルから吐出する液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドのノズル面を払拭するための、液体を吸収可能な長尺状の払拭部材と、前記払拭部材を長手方向に搬送する払拭部材搬送手段と、払拭時に前記払拭部材を前記ノズル面に押圧する押圧手段と、前記払拭部材搬送手段及び前記押圧手段を制御する制御手段と、を備え、前記払拭部材は、払拭時の押圧条件下において、下記〔1〕及び〔2〕の条件を満たすことを特徴とする。
〔1〕ノズル面に対する接触率が60~95%
〔2〕払拭部材の空隙率をV(%)、払拭部材の厚さをT(mm)としたとき、V×T/100で表される単位面積当たりの空隙量の値が0.1~0.7(mm/mm
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ノズル面の固着インクを効率良く除去することができる液体吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る液体吐出装置の一例を示す機構部の平面説明図である。
図2】払拭対象の液体吐出ヘッドのノズル面の模式図である。
図3】払拭機構要部構成と、払拭対象のノズル面上の固着インクを模式的に示した側面図である。
図4】払拭部材がノズル面に当接押圧された状態を、当接面側から3次元的に観察した像の模式図である。
図5図4に示した観察像を得る方法の一例を示す説明図である。
図6】払拭機構の制御手段の構成要部を示すブロック図である。
図7】本実施形態のクリーニング方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る液体吐出装置、及び液体吐出ヘッドのクリーニング方法について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0013】
本発明に係る液体吐出装置の一例としてのシリアル型の画像形成装置を図1に示す。
図1は、同装置の機構部の平面説明図である。
本実施形態の液体吐出装置は、図示しない左右の側板に横架した主ガイド部材1及び図示しない従ガイド部材でキャリッジ3を移動可能に保持している。そして、主走査モータ5によって、駆動プーリ6と従動プーリ7間に架け渡したタイミングベルト8を介して主走査方向(キャリッジ移動方向)に往復移動する。
【0014】
このキャリッジ3には、液体吐出ヘッドからなる記録ヘッド4a、4b(区別しないときは「記録ヘッド4」という)を搭載している。記録ヘッド4は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出する。
また、記録ヘッド4は、複数のノズルからなるノズル列4nを主走査方向と直交する副走査方向に配置し、滴吐出方向を下方に向けて装着している。
【0015】
記録ヘッド4を構成する液体吐出ヘッド4a、4bのノズル面41a、41b(区別しないときは「ノズル面41」という)の一例を図2に示す。
図2に示すノズルプレートは、複数のノズル4nを配列した2つのノズル列Na、Nbを有する。液体吐出ヘッドは、例えば、一方のノズル列Naはブラック(K)の液滴を、他方のノズル列Nbはシアン(C)の液滴を吐出する。記録ヘッド4bの一方のノズル列Naはマゼンタ(M)の液滴を、他方のノズル列Nbはイエロー(Y)の液滴を、それぞれ吐出する。
【0016】
記録ヘッド4を構成する液体吐出ヘッドとしては、例えば、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータを用いることができる。
【0017】
一方、用紙10を搬送するために、用紙を静電吸着して記録ヘッド4に対向する位置で搬送するための用紙搬送手段である用紙搬送ベルト12を備えている。この用紙搬送ベルト12は無端状ベルトであり、ベルト搬送ローラ13とテンションローラ14との間に掛け渡されている。
【0018】
そして、用紙搬送ベルト12は、副走査モータ16によってタイミングベルト17及びタイミングプーリ18を介してベルト搬送ローラ13が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。この用紙搬送ベルト12は、周回移動しながら図示しない帯電ローラによって帯電(電荷付与)される。
【0019】
さらに、キャリッジ3の主走査方向の一方側には用紙搬送ベルト12の側方に記録ヘッド4の維持回復を行う維持回復機構(クリーニング部)20が配置され、他方側には用紙搬送ベルト12の側方に記録ヘッド4から空吐出を行う空吐出受け21がそれぞれ配置されている。
維持回復機構20は、例えば記録ヘッド4のノズル面(ノズルが形成された面)をキャッピングするキャップ部材20a、ノズル面を払拭する払拭機構20b、画像形成に寄与しない液滴を吐出する図示しない空吐出受けなどで構成されている。
払拭機構20bとしては、後述する液体を吸収可能な長尺状の払拭部材を少なくとも備え、さらに弾性材料(例えば、ゴム等)によって形成されたブレード状の部材を備えていてもよい。
【0020】
また、用紙搬送ベルト12と維持回復機構20との間の記録領域外であって、記録ヘッド4に対向可能な領域には、吐出検知ユニット100が配置されている。一方、キャリッジ3には、吐出検知ユニット100の後述する電極板101を清掃する清掃ユニット200が設けられている。
【0021】
また、キャリッジ3の主走査方向に沿って両側板間に、所定のパターンを形成したエンコーダスケール23を張装し、キャリッジ3にはエンコーダスケール23のパターンを読取る透過型フォトセンサからなるエンコーダセンサ24を設けている。これらのエンコーダスケール23とエンコーダセンサ24によってキャリッジ3の移動を検知するリニアエンコーダ(主走査エンコーダ)を構成している。
【0022】
また、ベルト搬送ローラ13の軸にはコードホイール25を取り付け、このコードホイール25に形成したパターンを検出する透過型フォトセンサからなるエンコーダセンサ26を設けている。これらのコードホイール25とエンコーダセンサ26によって用紙搬送ベルト12の移動量及び移動位置を検出するロータリエンコーダ(副走査エンコーダ)を構成している。
【0023】
このように構成したこの画像形成装置においては、図示しない給紙トレイから用紙10が帯電された用紙搬送ベルト12上に給紙されて吸着され、用紙搬送ベルト12の周回移動によって用紙10が副走査方向に搬送される。
【0024】
そこで、キャリッジ3を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド4を駆動することにより、停止している用紙10にインク滴を吐出して1行分を記録する。そして、用紙10を所定量搬送後、次の行の記録を行う。
【0025】
記録終了信号又は用紙10の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙10を図示しない排紙トレイに排紙する。
【0026】
また、記録ヘッド4のクリーニングを行う場合は、印字(記録)待機中にキャリッジを維持回復機構(クリーニング部)20に移動し、清掃を実施する。
【0027】
維持回復機構20の払拭機構20bの構成とクリーニング方法について、図3図6及び図7に基づき説明する。
図3は払拭機構20bの要部構成と、払拭対象のノズル面41上の固着インク500を模式的に示した側面図である。
図6は、払拭機構20bを制御するための機能の要部を示すブロック図であり、図8はクリーニング方法の流れを示すフローチャートである。
【0028】
本実施形態の液体吐出装置は、上述のように液体をノズル4nから吐出する液体吐出ヘッドと、図3に示す払拭機構20bを備える。
払拭機構20bは、液体吐出ヘッドのノズル面41を払拭するための、液体を吸収可能な長尺状の払拭部材320と、払拭部材320を長手方向に搬送する払拭部材搬送手段34と、払拭時に払拭部材320をノズル面41に押圧する押圧手段33と、払拭部材搬送手段34及び押圧手段33を制御する制御手段32と、を備える。
【0029】
押圧手段33は押圧ローラ400及びバネを備え、払拭部材320とノズル面41との距離を調整することで押圧力を調整することができる。押圧力は、制御手段により調整される。
制御手段32は、押圧手段33が払拭部材320をノズル面41に対して押圧する力が5N以下となるように調整することが好ましい。
【0030】
払拭部材搬送手段34としては、払拭部材320を送り出す供給ローラ410、及び払拭部材320を巻き取る巻取ローラ420を有し、供給ローラ410による送出量と巻取ローラ420による巻取量を調整することで、供給ローラ410と巻取ローラ420との間に張架された払拭部材320の張力を調整することができる。張力は、制御手段32により調整される。
【0031】
払拭部材320は、ノズル面41の払拭動作時に、上述の押圧手段による押圧力及び払拭部材搬送手段34による張力が調整され、後述の条件を満たした状態でノズル面41の払拭動作を行う。払拭動作は、ノズル面41に当接押圧された払拭部材320と、液体吐出ヘッドが相対的に移動することにより行われる。
また、払拭機構20bを移動させるための図示しない払拭機構搬送手段を備えていてもよい。
【0032】
本実施形態の液体吐出装置において、払拭部材320は、払拭時の押圧条件下において、下記〔1〕及び〔2〕の条件を満たす。
〔1〕ノズル面に対する接触率が60~95%
〔2〕払拭部材の空隙率をV(%)、払拭部材の厚さをT(mm)としたとき、V×T/100で表される単位面積当たりの空隙量の値が0.1~0.7(mm/mm
【0033】
条件〔1〕を満たすことにより、固着インクを掻き取りやすくなり、条件〔2〕を満たすことにより掻き取った固着インク500を払拭部材320内部に取り込みやすくなる。
よって、これらの条件を満たすことにより、ノズル面41の固着インクを効率良く除去することができる。
【0034】
払拭部材としては、上記の条件を満たすことができる材料であれば特に限定されないが、例えば、不織布が好ましい。不織布としては、例えば、半合成繊維のキュプラや合成繊維のPET、PP、PE、Nyなどが挙げられる。
また、液体吸収性を有する材料として、例えば、PVAなどからなる多孔質体、織布、編布なども挙げられる。
【0035】
<条件〔1〕>
払拭部材320のノズル面41に対する接触率について図4及び図5に基づき説明する。
図4は、払拭部材320としての不織布がノズル面41に当接押圧された状態を、当接面側から3次元的に観察した像を模式的に示した図である。
払拭部材320とノズル面41の境界近傍に焦点を当てて観察したとき、ノズル面41に不織布の繊維が接触している部分600と、接触していない部分610とが現れる。
【0036】
全体の面積のうち、接触している部分600の面積の比率(以下、「接触率」という)が60~95%である場合、繊維が固着インクに加える加重が大きくなり、かきとり性が向上する。
接触率が60%未満であると、繊維が固着インクに接触する頻度が低くなり、かきとり性が低下する。一方、接触率が95%を超えると、繊維によって固着インクに加えられる加重が分散してしまい、かきとり性が低下する。
接触率は、60~80%であることがより好ましい。
【0037】
図4に示した観察像を得る方法の一例を図5に示す。
図5(A)に示すように、払拭部材320を透明なガラスプレートGで挟み、矢印Lで示す一定荷重を加えた状態で固定する。
この状態で、レーザー顕微鏡を用いてガラスプレートGと払拭部材320との当接部を探す。当接部からやや払拭部材側の位置(図中P1で示す)からスキャン(観察)を行うことにより、当接面における接触状態を観察することができる。
レーザー顕微鏡を用いるため、得られるデータは高さ情報を含んでいる。
ガラスプレートGの部分(例えば、図中P2で示す位置)では、図5(B)に示すような均一な観察像が得られるのに対し、払拭部材320の部分(例えば、図中Hで示す範囲)では図5(C)に示すような繊維状の観察像が得られる。このため、最表面の当接部の像を比較的容易に探し出すことができる。
すなわち、図中Hで示す範囲の観察を行い、最表面部分を抜き出すことにより当接面の像を得ることができる。
【0038】
なお、観察時に加える一定荷重の値は、実際の液体吐出装置において払拭部材がノズル面に加える荷重を測定して得た値を使用することができ、例えば、センサシート(ニッタ株式会社製、I-SCAN40)を用いて測定することができる。
【0039】
<条件〔2〕>
払拭部材の単位面積あたりの空隙量について説明する。
払拭部材の空隙量は、以下のように求められる。
空隙量(mm)=空隙率V(%)×払拭部材の厚さT(mm)×面積(mm
上記式から、払拭時の押圧条件下における厚さに基づき単位面積あたりの空隙量(mm/mm)を計算したとき、得られる値が0.1~0.7である。
【0040】
払拭時の押圧条件下において、払拭部材の単位面積当たりの空隙量が0.1~0.7mm/mmであることにより、かきとった固着インクが繊維間の隙間に入り込みやすくなる。
単位面積当たりの空隙量が0.1mm/mm未満であると、かきとった固着インクを吸収することが困難であり、0.7mm/mmを超えると、毛細管力の作用が小さく、吸収性が低下する。
単位面積当たりの空隙量は、0.3~0.5(mm/mm)であることがより好ましい。
【0041】
なお、上記式中の「空隙率(%)」は、以下のように算出される。
払拭部材の目付(単位面積当たりの重量)[g/m]を測定し、払拭部材の密度を算出する。目付の測定は、一定面積(例えば、50000mm以上)に切り出した不織布の重量を測定し、切り出した面積で重量を割ることで算出する。
算出された密度の実測値Aと、払拭部材の材質の理論密度Bとの比から、下記式に基づき、体積当たりの空隙率(%)が算出される。
(1-(A/B))×100
【0042】
制御手段32は、図6に示すように、ROM31に格納された払拭部材320の情報を読み取ったCPU30の処理に応じて、押圧手段33及び払拭部材搬送手段34を制御する。
払拭部材320の情報とは、上述の条件を満たすための制御に必要な空隙率や厚さ等の情報である。当該払拭部材の情報は、複数の予め格納された値から選択される値であっても、ユーザが個別に入力した値であってもよい。
【0043】
上述の液体吐出装置を用いた本発明の液体吐出ヘッドのクリーニング方法は、液体を吐出するノズルが設けられた液体吐出ヘッドのノズル面に、液体を吸収可能な長尺状の払拭部材を当接押圧してノズル面を払拭するクリーニング方法であって、払拭部材は、払拭時の押圧条件下において、下記〔1〕及び〔2〕の条件を満たす。
〔1〕ノズル面に対する接触率が60~95%
〔2〕払拭部材の空隙率をV(%)、払拭部材の厚さをT(mm)としたとき、V×T/100で表される単位面積当たりの空隙量の値が0.1~0.7(mm/mm
【0044】
本実施形態のクリーニング方法のフローの一例を図7に示す。
図7に示すように、実際の払拭動作が行われる前に、装置が備える払拭部材の情報を取得する(S01)。取得された払拭部材の情報から、上述の条件〔1〕及び〔2〕を満たすために必要な押圧力と張力が判断される(S02)。
【0045】
ステップS02で判断された値に応じて、制御手段により払拭部材搬送手段34が制御され、供給ローラ410による送出量と巻取ローラ420による巻取量が調整されることにより払拭部材320に張力が付与される(S03)。
同様に、ステップS02で判断された値に応じて、制御手段により押圧手段33が制御され、押圧ローラ400により払拭部材320がノズル面41に当接、押圧される(S004)。
そして、上述の条件〔1〕及び〔2〕を満たした状態で、払拭部材搬送手段34の動作により、払拭部材320によるノズル面41の払拭(クリーニング)が行われる(S05)。
【0046】
本実施形態の液体吐出装置は、払拭部材320に洗浄液を付与する洗浄液付与手段を備え、洗浄液を含浸した払拭部材320によりノズル面41を払拭することが好ましい。
【0047】
払拭部材320のノズル面41と当接する領域に含浸された洗浄液の体積は、払拭対象となるノズル面上の異物(固着インク)の体積の90%以上であることが好ましい。固着インクを除去するために、払拭部材320に洗浄液を十分に含浸させることにより、ノズル面41に対するダメージを抑制することができる。具体的には、ノズル面に形成された撥水膜へのダメージを低減することができる。
【0048】
払拭時に塗布する洗浄液は、例えば、固着インクを溶解・膨潤させて払拭による除去を容易にするとともに、払拭時に潤滑剤としても作用するものが好ましい。かきとった固着インクやインク内に含まれる顔料は、研磨剤のような作用を有し、払拭時の摩耗によりノズル面の撥水膜を劣化させる原因のひとつとなる。
【0049】
洗浄液の成分としては特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、有機溶剤、及び界面活性剤、更に必要に応じて、その他の成分を含有してなるものが挙げられる。
【0050】
有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水溶性有機溶剤などが挙げられる。
界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フッ素系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、超純水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤などが挙げられる。
【0051】
払拭部材は、複数の材料からなる積層体であることが好ましい。多層構造にすることで、上述した払拭時の押圧条件下における条件(〔1〕の接触率及び〔2〕の単位面積あたりの空隙量)をより好ましい範囲で両立させることが可能となる。
また、払拭部材は、少なくとも払拭層と液体吸収層とを有し、払拭層がノズル面と当接することが好ましい。払拭面ではない層に液体吸収性の材料を使用することで、液体の吸収性が向上するとともに、吸収した液体がノズル面に再転写されてクリーニング効率が低下することを防ぐことができる。
【0052】
積層体を構成する層としては、その他に、液体吸収層の強度を向上させるための構造維持層、構造維持や強度向上とともに、液体の裏うつり防止のためのフィルム層等が挙げられる。
【0053】
積層体の構成としては特に限定されないが、例えば、以下のような構成とすることができる。
[構成例1](ノズル面と当接する側から順に)
払拭層/構造維持層/液体吸収層
[構成例2](ノズル面と当接する側から順に)
払拭層/液体吸収層/フィルム層
【0054】
払拭層としては、例えば、キュプラやレーヨンなどの半合成繊維、PET、PP、PE、Ny、アクリルなどの合成繊維からなる不織布、織布、及び編布などが挙げられる。これらの中でも、特にPET、PP、PEなどの合成繊維からなる不織布が好ましい。
合成繊維はセルロース系の繊維に比べて硬く、特に固着したインクの払拭性が向上するため好ましい。
【0055】
吸収層としては、上述の払拭層と同様の材料に加え、PVAやオレフィン系樹脂などからなる多孔質体などが挙げられる。これらの中でも特に、吸収量の観点から空隙の多い不織布や多孔質体が好ましい。
なお、吸収層の材質としては、除去対象のインクの種類に応じて好適な吸収性が得られる材料を選択することもできる。例えば、払拭対象が水系インクの場合は、セルロース系繊維やPVAが好適であり、払拭対象が樹脂の多いラテックスインクやオイルインクの場合は、PPやPETなどの合成繊維が好適である。
【実施例
【0056】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例により限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
液体吐出ヘッド(株式会社リコー製、MH5440)のノズル面に、インク(株式会社リコー製、RICOH Pro AR インクホワイト)を0.1mL滴下した後、温度32℃、湿度30%の環境下に15時間放置して乾燥させ、払拭対象としての固着インクを形成した。
【0058】
払拭部材として、払拭層及び液体吸収層を有する不織布の積層体を用いた。
払拭層(A1):ポリオレフィン系繊維の不織布、繊維の太さ:3d
液体吸収層(B1)レーヨン系繊維の不織布、繊維の太さ:3d
積層体の構成を表1に示す。
【0059】
払拭部材には、固着インクの体積に対し90%以上となる量の洗浄液を含浸させた。
洗浄液の組成は以下のとおりである。
【0060】
[洗浄液の組成]
・3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(株式会社クラレ製) 20質量%
・ポリエーテル変性シリコーン界面活性剤
(商品名:WET270、エボニック・デグサ・ジャパン株式会社製) 1質量%
・イオン交換水 残量
【0061】
払拭部材に対し、以下の条件〔1〕及び〔2〕を満たすようにノズル面に押圧する圧力及び張力を調整し、固着インクの除去を行った。
条件〔1〕:ノズル面に対する接触率が40%
条件〔2〕:単位面積当たりの空隙量が0.4(mm/mm
それぞれの値を表1に示す。
【0062】
ノズル面に対する接触率は、図5(A)に示すように、払拭部材を透明なガラスプレートGで挟み、払拭時の押圧荷重を加えた状態で固定し、レーザー顕微鏡により得た当接部の観察像から算出した。
【0063】
単位面積当たりの空隙量は、払拭部材の空隙率がV(%)、払拭部材の厚さがT(mm)のとき、下記式に基づき算出した値である。
V×T/100
なお、空隙率V(%)は、払拭部材の目付を測定して得た密度の実測値Aと、払拭部材の材質の理論密度Bとの比から、下記式に基づき算出した値である。
(1-(A/B))×100
【0064】
以下の基準に従い、ノズル面の固着インクの除去効率を評価した。
結果を表1に示す。
[評価]
○:3回の払拭動作でノズル面上の固着インクが除去された
△:4~5回の払拭動作でノズル面上の固着インクが除去された
×:5回の払拭動作後、ノズル面上に固着インクの残存がみられた
なお、「△」以上が実用可能な範囲である
【0065】
[実施例2~8]
払拭部材に対し、条件〔1〕の接触率、及び条件〔2〕の空隙量を表1に示す値とした以外は、実施例1と同様に固着インクの除去を行い、除去効率を評価した。
結果を表1に示す。
【0066】
[実施例9]
払拭部材を構成する液体吸収層をポリオレフィン系多孔質体とし、条件〔1〕の接触率、及び条件〔2〕の空隙量を表1に示す値とした以外は、実施例1と同様に固着インクの除去を行い、除去効率を評価した。
結果を表1に示す。
【0067】
[実施例10]
払拭部材を、ポリオレフィン系繊維の不織布(厚さ0.6mm)のみからなる構成とし、条件〔1〕の接触率、及び条件〔2〕の空隙量を表1に示す値とした以外は、実施例1と同様に固着インクの除去を行い、除去効率を評価した。
結果を表1に示す。
【0068】
[比較例1~4]
払拭部材に対し、条件〔1〕の接触率、及び条件〔2〕の空隙量を表2に示す値とした以外は、実施例1と同様に固着インクの除去を行い、除去効率を評価した。
結果を表2に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
表1及び表2中の払拭部材の構成A1、A2、B1、B2は以下のとおりである。
<払拭層>
A1:ポリオレフィン系繊維の不織布、繊維の太さ:3d
A2:ポリオレフィン系繊維の不織布、繊維の太さ:3d(液体吸収層と一体)
<液体吸収層>
B1:レーヨン系繊維の不織布、繊維の太さ:3d
B2:ポリオレフィン系多孔質体
【0072】
表1及び表2の結果から明らかなように、払拭部材が払拭時の押圧条件下において、ノズル面に対する接触率が60~95%、かつ単位面積当たりの空隙量の値が0.1~0.7(mm/mm)であることにより、ノズル面の固着インクを効率良く除去することができる。
【符号の説明】
【0073】
4 記録ヘッド(液体吐出ヘッド)
4n ノズル
41 ノズル面
320 払拭部材
400 押圧ローラ
410 供給ローラ
420 巻取ローラ
500 固着インク
【先行技術文献】
【特許文献】
【0074】
【文献】特開2014-108594号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7