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特許7070012電解めっき装置、および金属張積層板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】電解めっき装置、および金属張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/06 20060101AFI20220511BHJP
   C25D 17/10 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
C25D7/06 P
C25D17/10 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018079092
(22)【出願日】2018-04-17
(65)【公開番号】P2019183249
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越智 均
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-144120(JP,A)
【文献】特開2015-155563(JP,A)
【文献】特開2011-058057(JP,A)
【文献】特開2002-054000(JP,A)
【文献】特開2017-222907(JP,A)
【文献】特開2010-138483(JP,A)
【文献】特開2008-266670(JP,A)
【文献】特開2010-236037(JP,A)
【文献】特開平11-106992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00-7/12
C25D 17/00-21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールツーロールにより搬送される長尺帯状の基材に対向して配置された複数のアノードと、
前記複数のアノードのうちの一部または全部と前記基材の側部との間に配置された一または複数のアノード遮蔽板と、
前記基材の縁を囲う絶縁性の部材である一または複数のエッジ遮蔽部材と、を備え、
前記アノード遮蔽板は表裏を貫通する複数の孔が形成された絶縁性の板であり、
前記複数の孔はいずれも同一寸法であり、前記アノード遮蔽板の全体に渡って規則的に配置されており、
前記アノード遮蔽板のかぶり量は前記エッジ遮蔽部材のかぶり量より大きい
ことを特徴とする電解めっき装置。
【請求項2】
前記一または複数のアノード遮蔽板は、前記複数のアノードのうち設定電流密度が2A/dm2以上のアノードと前記基材の側部との間に配置されている
ことを特徴とする請求項記載の電解めっき装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の電解めっき装置を用いて、前記基材の表面に金属めっき被膜を成膜して金属張積層板を得る
ことを特徴とする金属張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解めっき装置、および金属張積層板の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、アノードと基材との間の電流を遮蔽するのに用いられるアノード遮蔽板を備える電解めっき装置、およびその電解めっき装置を用いた金属張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などには、樹脂フィルムの表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線板が用いられる。フレキシブルプリント配線板は、例えば、銅張積層板から製造される。
【0003】
銅張積層板の製造方法としてメタライジング法が知られている。メタライジング法による銅張積層板の製造は、例えば、つぎの手順で行なわれる。まず、樹脂フィルムの表面にニッケルクロム合金からなる下地金属層を形成する。つぎに、下地金属層の上に銅薄膜層を形成する。つぎに、銅薄膜層の上に銅めっき被膜を形成する。銅めっきにより、配線パターンを形成するのに適した膜厚となるまで導体層を厚膜化する。長尺帯状の樹脂フィルムを用いる場合、銅めっき被膜を形成する電解めっきはロールツーロールで行なわれる。
【0004】
フレキシブルプリント配線板の製造に用いられる銅張積層板は、銅めっき被膜の厚さが均一であることが求められる。そこで、銅張積層板の規格値として銅めっき被膜の厚さの最大値、最小値などが定められる。一方、電解めっきではめっき面の端に電流が集中しやすいことから、銅張積層板の銅めっき被膜は幅中央部に比べて側部が厚くなりやすい。そのため、銅めっき被膜の厚さが規格値を満たす幅中央部のみがフレキシブルプリント配線板の製造に用いられる。銅張積層板を無駄なく用いるために、銅めっき被膜の厚さが規格値を満たす膜厚有効幅の拡大が求められる。
【0005】
特許文献1には、電解めっき装置のアノードとシード層付長尺ポリイミドフィルムとの間に遮蔽板を設けて、アノードの有効幅を銅めっき被膜層幅の80~90%に調整することが開示されている。めっき面の端に集中する電流を遮蔽板で遮蔽することで、銅めっき被膜層の厚さを均一にできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-58057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術を採用した場合、銅めっき被膜のうち電流が遮蔽された側部の厚さは薄くなり、規格値として定められた最小値を下回ることがある。そのため、膜厚有効幅は銅めっき被膜幅の80~90%程度となる。
【0008】
遮蔽板の幅を狭くすれば、銅めっき被膜の側部を厚くすることが可能である。しかし、遮蔽板の幅を狭くすると、電流の回り込みにより銅めっき被膜の縁に電流が集中し、縁が極端に厚くなる。そうすると、銅張積層板をロール状に巻いたときに、ロールの端部が太くなり、長尺品を巻くことができなくなる。
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、金属めっき被膜の膜厚有効幅を拡大できる電解めっき装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、金属めっき被膜の膜厚有効幅が広い金属張積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の電解めっき装置は、ロールツーロールにより搬送される長尺帯状の基材に対向して配置された複数のアノードと、前記複数のアノードのうちの一部または全部と前記基材の側部との間に配置された一または複数のアノード遮蔽板と、前記基材の縁を囲う絶縁性の部材である一または複数のエッジ遮蔽部材と、を備え、前記アノード遮蔽板は表裏を貫通する複数の孔が形成された絶縁性の板であり、前記複数の孔はいずれも同一寸法であり、前記アノード遮蔽板の全体に渡って規則的に配置されており、前記アノード遮蔽板のかぶり量は前記エッジ遮蔽部材のかぶり量より大きいことを特徴とする。
第2発明の電解めっき装置は、第1発明において、前記一または複数のアノード遮蔽板は、前記複数のアノードのうち設定電流密度が2A/dm2以上のアノードと前記基材の側部との間に配置されていることを特徴とする。
第3発明の金属張積層板の製造方法は、第1または第2発明の電解めっき装置を用いて、前記基材の表面に金属めっき被膜を成膜して金属張積層板を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、アノード遮蔽板に形成された複数の孔により、電流の遮蔽力を弱めることができる。そのため、金属めっき被膜の側部への電流の集中を抑制しつつ、側部の膜厚を適度に増大できる。その結果、金属めっき被膜の幅中央部と側部との膜厚を均一にでき、膜厚有効幅を拡大できる。また、アノード遮蔽板の電流の遮蔽力が位置に依存せず均一となるので、金属めっき被膜の側部の膜厚を均一に増大させやすい。さらに、エッジ遮蔽部材により金属めっき被膜の縁近傍の電流を遮蔽することで、金属めっき被膜の縁が極端に厚くなることを抑制できる。
第2発明によれば、金属めっき被膜の側部に電流が集中しやすい高電流密度領域にアノード遮蔽板を設けることで、金属めっき被膜の幅中央部と側部とで電流密度を均一にできる。
第3発明によれば、金属めっき被膜の膜厚有効幅が広い金属張積層板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る電解めっき装置の概略図である。
図2図1の電解めっき装置が有する電解めっきセルの斜視図である。
図3】アノード遮蔽板の正面図である。
図4】アノード遮蔽板およびエッジ遮蔽部材の横断面図である。
図5】金属張積層板の断面図である。
図6】実施例における銅厚の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(金属張積層板)
まず、金属張積層板Lの構成を説明する。
図5に示すように、金属張積層板Lは、基材Bと、基材Bの表面に形成された金属めっき被膜15とからなる。図5に示すように基材Bの片面のみに金属めっき被膜15が形成されてもよいし、基材Bの両面に金属めっき被膜15が形成されてもよい。
【0014】
金属めっき被膜15は電解めっきにより成膜される。したがって、基材Bは金属めっき被膜15が成膜される側の表面に導電性を有する素材であればよい。例えば、基材Bは絶縁性を有するベースフィルム11の表面に金属層12が形成されたものである。ベースフィルム11としてポリイミドフィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。金属層12は、例えば、スパッタリング法により形成される。金属層12は下地金属層13と金属薄膜層14とからなる。下地金属層13と金属薄膜層14とはベースフィルム11の表面にこの順に積層されている。金属層12と金属めっき被膜15とにより導体層が構成されている。
【0015】
下地金属層13の厚さは、特に限定されないが、5~50nmが一般的である。金属薄膜層14の厚さは、特に限定されないが、50~1,000nmが一般的であり、生産性の観点からは50~500nmが好ましい。金属めっき被膜15の厚さは、特に限定されないが、サブトラクティブ法により配線パターンを形成してフレキシブルプリント配線板を製造する場合には5~20μmが一般的である。
【0016】
金属張積層板Lとして、特に限定されないが、銅張積層板が挙げられる。銅張積層板の金属めっき被膜15は銅めっき被膜である。金属薄膜層14は銅薄膜層である。下地金属層13はニッケル、クロム、またはニッケルクロム合金からなることが一般的である。
【0017】
(電解めっき装置)
つぎに、本発明の一実施形態に係る電解めっき装置Aの基本的構成を説明する。
図1に示すように、電解めっき装置Aは、ロールツーロールにより長尺帯状の基材Bを搬送しつつ、基材Bに対して電解めっきを行ない、金属張積層板Lを製造する装置である。
【0018】
電解めっき装置Aは、ロール状に巻回された基材Bを繰り出す供給装置21と、基材Bにめっき処理が施された金属張積層板Lをロール状に巻き取る巻取装置22とを有する。基材Bの搬送経路にはめっき槽20が配置されている。基材Bはめっき槽20内を搬送されつつ、電解めっきによりその表面に金属めっき被膜15が成膜される。これにより、長尺帯状の金属張積層板Lが得られる。
【0019】
めっき槽20の内部にはめっき液が貯留されている。銅めっきを行なう場合、めっき液として銅めっき液が用いられる。銅めっき液は水溶性銅塩を含む。水溶性銅塩として、無機銅塩、アルカンスルホン酸銅塩、アルカノールスルホン酸銅塩、有機酸銅塩などが挙げられる。銅めっき液は硫酸を含んでもよい。めっき液は添加剤を含んでもよい。添加剤として、レベラー成分、ポリマー成分、ブライトナー成分、塩素成分などが挙げられる。
【0020】
めっき液の温度は20~35℃が好ましい。また、めっき槽20内のめっき液を撹拌することが好ましい。めっき液を撹拌する手段は、特に限定されないが、噴流を利用した手段を用いることができる。例えば、ノズルから噴出させためっき液を基材Bに吹き付けることで、めっき液を撹拌できる。
【0021】
めっき槽20の液面より上方には複数の給電ロール23が並んで設けられている。また、めっき槽20内のめっき液中には複数の搬送ロール24が並んで設けられている。複数の給電ロール23と複数の搬送ロール24とはめっき槽20の長手方向に沿って互い違いに配置されている。基材Bは給電ロール23および搬送ロール24に交互に巻回され、それらの動作により搬送される。基材Bはめっき液中を上下に往復走行し、めっき液への浸漬と、引き上げとが繰り返される。
【0022】
めっき槽20内のめっき液中には複数のアノード25が設けられている。各アノード25はめっき液中を上下に往復走行する基材Bに対向して配置されている。各アノード25は板状であり、基材Bと平行になるように鉛直方向に沿って設けられている。アノード25は基材Bの上向きおよび下向きの各走行区間に配置されている。各走行区間に1つのアノード25を配置してもよいし、各走行区間を上下に分割して2つのアノード25を配置してもよい。
【0023】
アノード25として不溶性アノードが用いられる。不溶性アノードとして、白金、鉛などの金属アノード、チタン製フレームに酸化イリジウム、酸化ロジウム、酸化ルテニウムなどの導電性を有するセラミックスをコーティングしたセラミックス系アノードが挙げられる。
【0024】
各給電ロール23は基材Bの金属層12側の面に接触しており、金属層12に給電可能となっている。また、各アノード25は基材Bの金属層12側の面に対向して配置されている。複数のアノード25はそれぞれ電気的に独立した複数の制御用電源の正極に接続されている。各制御用電源の負極は対応するアノード25の直近に配置された給電ロール23に接続されている。一の給電ロール23と、一のアノード25と、これらに接続する制御用電源と、基材Bとで一の電解めっきセルが構成されている。
【0025】
各電解めっきセルにおいて、アノード25と基材Bの金属層12との間に電位差が生じ、金属層12上に金属めっき被膜15が成膜される。各アノード25の電流密度は、特に限定されないが、基材Bの搬送方向の上流側から下流側に向かって段階的に上昇するように設定されることが一般的である。各アノード25の電流密度の設定は、金属めっき被膜15の膜厚などを考慮して適宜定められる。
【0026】
電解めっき装置Aには、基材Bの張力制御を行なう張力制御ロールなどの搬送用装置のほか、めっき液の供給装置などの各種装置も必要に応じて設けられる。また、図1の電解めっき装置Aは給電ロール23を5つ、アノード25を8つ備える構成であるが、給電ロール23およびアノード25の数は、これより多くてもよいし、少なくてもよい。
【0027】
(アノード遮蔽板)
図2に示すように、基材Bの主面内において基材Bの搬送方向CDと直交する方向を幅方向WDと称する。また、基材Bの搬送方向CDに沿う縁EGを含み、幅方向WDに所定の幅を有する部分を側部SPと称する。
【0028】
電解めっき装置Aはアノード遮蔽板30を備えている。アノード遮蔽板30は基材Bの両方の側部SPとアノード25との間に配置されている。アノード遮蔽板30は絶縁性の板である。アノード遮蔽板30の素材は、特に限定されないが、絶縁性を有しめっき液に浸食されにくい樹脂、セラミックスなどである。
【0029】
アノード遮蔽板30は基材Bの搬送方向CDに長い略長方形の板である。なお、アノード遮蔽板30を電解めっき装置Aに取り付けるために、または取り付け時の他の部材との干渉を避けるために、略長方形のアノード遮蔽板30に突起、切り欠きなどを設けてもよい。
【0030】
図3に示すように、アノード遮蔽板30にはその表裏を貫通する複数の孔31が形成されている。孔31の形状は、円形でもよいし、四角形など他の形状でもよい。一のアノード遮蔽板30に異なる形状の孔31が混在してもよい。複数の孔31はそれぞれ、同一寸法であってもよいし、異なる寸法であってもよい。複数の孔31はアノード遮蔽板30の全体に渡って配置されてもよいし、アノード遮蔽板30の一部に偏って配置されてもよい。複数の孔31は、格子状、千鳥状など規則的に配置されてもよいし、不規則に配置されてもよい。
【0031】
図4に示すように、基材Bの金属層12はベースフィルム11の縁EG近傍を除く大部分に形成されることが一般的である。基材Bの表面のうち金属層12が形成された領域がめっき面となる。アノード遮蔽板30は基材Bのめっき面の側部と重なるように配置される。
【0032】
前述のごとく、電解めっきではめっき面の端に電流が集中しやすい。そのため、金属めっき被膜15は幅方向WDの中央部に比べて側部が厚くなりやすい。これに対して、アノード25と基材Bとの間にアノード遮蔽板30を配置すると、めっき面のうちアノード遮蔽板30と重なる部分は電流が遮蔽される。基材Bのめっき面のうち電流が集中しやすい側部における電流密度の増加が抑制されることから、めっき面の全体に渡って電流密度を均一にできる。
【0033】
ここで、アノード遮蔽板30には複数の孔31が形成されている。この孔31から電流が漏洩する。したがって、孔31を有さない場合に比べてアノード遮蔽板30の電流の遮蔽力を弱めることができる。すなわち、本実施形態のアノード遮蔽板30は電流を完全に遮蔽するのではなく、電流を適度に遮蔽する。そのため、金属めっき被膜15の側部への電流の集中を抑制しつつ、その側部の膜厚を適度に増大できる。これにより、金属めっき被膜15の幅中央部と側部との膜厚を均一にできる。その結果、金属めっき被膜15の厚さが規格値を満たす膜厚有効幅を拡大できる。
【0034】
アノード遮蔽板30の電流の遮蔽力は開孔率で調整できる。ここで、開孔率とはアノード遮蔽板30の主面の面積に対する孔31の総面積の割合を意味する。開孔率を高くするほど電流の遮蔽力を弱めることができる。開孔率を低くするほど電流の遮蔽力を強めることができる。
【0035】
前述のごとく、孔31の寸法および配置は特に限定されない。ただし、アノード遮蔽板30に形成された複数の孔31を、いずれも同一寸法とし、アノード遮蔽板30の全体に渡って規則的に配置することが好ましい。そうすれば、アノード遮蔽板30の電流の遮蔽力が位置に依存せず均一となる。そのため、アノード遮蔽板30と重なる金属めっき被膜15の側部の膜厚を均一に増大させやすい。
【0036】
基材Bのめっき面とアノード遮蔽板30とが重なる領域の幅寸法をかぶり量D1と称する。かぶり量D1は設定電流密度、金属めっき被膜15の厚さなどの条件に基づいて、めっき面の全体に渡って電流密度が均一になるように調整される。また、かぶり量D1を電解めっきセルごとに、設定電流密度などの条件に基づいて、個別に設定してもよい。例えば、設定電流密度が高い電解めっきセルではかぶり量D1を大きくし、設定電流密度が低い電解めっきセルではかぶり量D1を小さくしてもよい。かぶり量D1は、特に限定されないが、例えば、30~70mmに設定される。
【0037】
図2に示すように、アノード遮蔽板30はアノード25の上端から下端まで全体に渡って設けられてもよいし、アノード25の上部、中央部、下部など、一部のみに設けられてもよい。アノード25が上下に2つ配置された構成の場合、両方のアノード25にアノード遮蔽板30を設けてもよいし、一方のアノード25のみにアノード遮蔽板30を設けてもよい。
【0038】
ただし、一般に、一のアノード25においてもめっき液の液面に近い方が、電流密度が高くなる。これは、めっき液の液面より上方に配置された給電ロール23から基材Bのめっき面への給電が行なわれるためである。そのため、アノード遮蔽板30はアノード25の上部に設けることが好ましい。また、アノード25が上下に2つ配置された構成の場合、上側のアノード25のみにアノード遮蔽板30を設けることが好ましい。電流密度が高い方が電流の集中が起こりやすい。電流密度が高くなる位置にアノード遮蔽板30を設けることで、電流の集中を緩和する効果が高くなる。
【0039】
電解めっき装置Aが有するアノード遮蔽板30の数は1つでもよいし、複数でもよい。ただし、通常、電解めっき装置Aは複数のアノード遮蔽板30を有する。電解めっき装置Aが有する複数のアノード25のうちの一部にアノード遮蔽板30を配置してもよいし、全部にアノード遮蔽板30を配置してもよい。
【0040】
電解めっき装置Aが有する複数のアノード25のうち、設定電流密度が比較的高い、例えば設定電流密度が2A/dm2以上のアノード25のみに、アノード遮蔽板30を配置してもよい。金属めっき被膜15の側部に電流が集中しやすい高電流密度領域にアノード遮蔽板30を設けることで、電流の集中を緩和し、金属めっき被膜15の幅中央部と側部とで電流密度を均一にできる。
【0041】
一の電解めっき装置Aにおいて、孔31を有するアノード遮蔽板30と孔31を有さないアノード遮蔽板とを組み合わせて用いてもよい。すなわち、ある電解めっきセルには孔31を有するアノード遮蔽板30を設け、他の電解めっきセルには孔31を有さないアノード遮蔽板を設けてもよい。
【0042】
(エッジ遮蔽部材)
図2に示すように、電解めっき装置Aは基材Bの縁EGを囲うエッジ遮蔽部材40を備えてもよい。エッジ遮蔽部材40は絶縁性の部材である。エッジ遮蔽部材40の素材は、特に限定されないが、絶縁性を有しめっき液に浸食されにくい樹脂、セラミックスなどである。
【0043】
エッジ遮蔽部材40は基材Bの搬送方向CDに長い長尺の部材である。エッジ遮蔽部材40は基材Bが鉛直方向に走行する区間の全体に渡って設けられてもよいし、その区間の一部のみに設けられてもよい。ただし、電流密度が高くなるめっき液の液面に近い部分にエッジ遮蔽部材40を設けることが好ましい。
【0044】
図4に示すように、エッジ遮蔽部材40は、一対の側板41、41とそれら側板41、41の一方の端部同士を接続する端板42とからなる横断面が略U字形の部材である。一対の側板41、41と端板42とで形成された空間内に基材Bの縁EGが挿入されている。エッジ遮蔽部材40の少なくとも一方の側板41は基材Bのめっき面の縁と重なっている。
【0045】
エッジ遮蔽部材40により金属めっき被膜15の縁近傍に回り込む電流が遮蔽される。金属めっき被膜15の縁への電流の集中を抑制できることから、金属めっき被膜15の縁が極端に厚くなることを抑制できる。
【0046】
基材Bのめっき面と側板41とが重なる領域の幅寸法をかぶり量D2と称する。かぶり量D2は電解めっき装置Aの特性に応じて調整される。かぶり量D2は、特に限定されないが、例えば、5~30mmに設定される。
【0047】
電流の回り込み抑制するために、側板41と基材Bとの間隔は可能な限り狭い方が好ましい。ただし、搬送される基材Bがエッジ遮蔽部材40に干渉することは避ける必要がある。そこで、側板41と基材Bとの間隔は、例えば、3~30mmに設定される。
【0048】
電解めっき装置Aが有するエッジ遮蔽部材40の数は1つでもよいし、複数でもよい。ただし、通常、電解めっき装置Aは複数のエッジ遮蔽部材40を有する。電解めっき装置Aが有する複数のアノード25のうちの一部にエッジ遮蔽部材40を配置してもよいし、全部にエッジ遮蔽部材40を配置してもよい。
【0049】
一のアノード25に対してアノード遮蔽板30およびエッジ遮蔽部材40の両方を設けてもよいし、一方のみを設けてもよい。一のアノード25に対してアノード遮蔽板30およびエッジ遮蔽部材40の両方を設ける場合、アノード遮蔽板30のかぶり量D1をエッジ遮蔽部材40のかぶり量D2より大きくすることが好ましい。そうすれば、金属めっき被膜15の側部の膜厚を増大する効果が得られやすい。
【0050】
(金属張積層板の製造方法)
つぎに、電解めっき装置Aを用いた金属張積層板Lの製造方法を説明する。
図1に示すように、供給装置21から繰り出された基材Bはめっき槽20に供給される。めっき槽20において基材Bは給電ロール23および搬送ロール24の動作により搬送される。基材Bはめっき液中を上下に往復走行し、めっき液への浸漬と、引き上げとが繰り返される。
【0051】
基材Bがめっき液中を搬送される過程において、基材Bの金属層12とアノード25との間に電流が流れて、電解めっきが行なわれる。電解めっきにより基材Bの表面に金属めっき被膜15が成膜され、金属張積層板Lが得られる。金属張積層板Lは巻取装置22によりロール状に巻き取られる
【0052】
ここで、電解めっき装置Aが有する複数のアノード25のうち一部または全部にはアノード遮蔽板30が設けられている。アノード遮蔽板30により金属めっき被膜15の側部への電流の集中を抑制しつつ、その側部の膜厚を適度に増大できる。これにより、金属めっき被膜15の幅中央部と側部との膜厚を均一にできる。その結果、金属めっき被膜15の膜厚有効幅が広い金属張積層板Lを得ることができる。
【実施例
【0053】
つぎに、実施例を説明する。
(実施例1)
電解めっき装置を用いて基材に銅めっきを行ない、銅張積層板を製造した。使用した基材のベースフィルムの幅は524mmである。また、ベースフィルムの表面に形成された金属層の幅は514mmである。ベースフィルム両縁の金属層が形成されていない非めっき面の幅は、左右それぞれ5mmである。
【0054】
アノードと基材の側部との間にアノード遮蔽板を配置した。アノード遮蔽板にはその全体に渡って直径3mmの丸孔が6mm間隔で格子状に配置されている。アノード遮蔽板の開孔率は19.6%である。アノード遮蔽板のかぶり量を65mmに設定した。また、エッジ遮蔽部材を設けた。基材の右側に配置されたエッジ遮蔽部材のかぶり量を12.5mmに設定した。基材の左側に配置されたエッジ遮蔽部材のかぶり量を10.7mmに設定した。
【0055】
上記の条件で製造された銅張積層板について、幅方向の位置に対する銅めっき被膜の厚さ(以下、「銅厚」と称する。)を測定した。銅厚は蛍光X線膜厚計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、形式SFT9250)を用いて測定した。コリメータを直径0.5mmに設定し、測定点ごとの測定時間を30秒/点とした。銅張積層板の幅方向中心を原点、銅張積層板の右側をマイナス、左側をプラスとし、以下のように測定点を領域ごとの間隔として設定した。
-261~-230mm:1mm間隔
-230~-220mm:5mm間隔
-220~-200mm:10mm間隔
-200~ 0mm:20mm間隔
0~+200mm:20mm間隔
+200~+220mm:10mm間隔
+220~+230mm:5mm間隔
+230~+261mm:1mm間隔
【0056】
銅厚の結果を、図6のグラフに示す。図6のグラフの横軸は銅張積層板の幅方向の位置を示す。横軸は、銅張積層板の幅方向中心を原点とし、銅張積層板の右側をマイナス、左側をプラスとしたものである。図6のグラフの縦軸は銅厚を示す。
【0057】
(比較例1)
実施例1で用いたアノード遮蔽板の全てを、孔を有さないものに交換した。その余の条件は実施例1と同様である。製造された銅張積層板について、幅方向の位置に対する銅厚を測定した。その結果を、図6のグラフに示す。
【0058】
図6のグラフより、アノード遮蔽板とめっき面とが重なる領域、すなわち-192~-257mmの領域および+192~+257mmの領域における銅厚は、比較例1に比べて実施例1の方が全体的に厚いことが分かる。これより、アノード遮蔽板に孔を形成することで、銅めっき被膜の側部の膜厚を増大できることが確認された。
【0059】
また、-230~-240mmの領域における銅厚の平均値は、比較例1が8.32μmであるのに対して、実施例1が8.42μmであり、0.10μm増大されている。+230~+240mmの領域における銅厚の平均値は、比較例1が8.49μmであるのに対して、実施例1が8.77μmであり、0.28μm増大されている。
【0060】
このように、銅めっき被膜の側部の銅厚を増大できることから、膜厚有効幅を拡大できることが確認された。例えば、-230~+230mmであった膜厚有効幅を-240~+240mmに20mm拡大できる。
【符号の説明】
【0061】
A 電解めっき装置
20 めっき槽
21 供給装置
22 巻取装置
23 給電ロール
24 搬送ロール
25 アノード
30 アノード遮蔽板
31 孔
40 エッジ遮蔽部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6