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特許7070074樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付き金属箔、積層板及びプリント配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付き金属箔、積層板及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20220511BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20220511BHJP
   C08K 5/107 20060101ALI20220511BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20220511BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220511BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20220511BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
C08L63/00 A
C08L33/06
C08K5/107
C08J5/24 CEY
C08J5/24 CFC
B32B15/08 J
B32B27/38
H05K1/03 630H
H05K1/03 610H
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018094664
(22)【出願日】2018-05-16
(65)【公開番号】P2019199537
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100193976
【弁理士】
【氏名又は名称】澤山 要介
(72)【発明者】
【氏名】串田 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】富岡 健一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 香織
(72)【発明者】
【氏名】垣谷 稔
【審査官】佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-077590(JP,A)
【文献】特開2015-017247(JP,A)
【文献】特開2017-110104(JP,A)
【文献】特開2004-277460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
C08J 5/24
B32B 15/08
B32B 27/30
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アクリルポリマー、(B)熱硬化性樹脂及び(C)活性エステル硬化剤を含有する樹脂組成物であり、
前記(A)アクリルポリマーの含有量が、前記樹脂組成物の固形分総量100質量部に対して、3~30質量部であり、
前記(B)熱硬化性樹脂が、ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)アクリルポリマーが、下記一般式(A1)で表される(メタ)アクリル酸エステル由来の構造単位を含むアクリルポリマーである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化1】

(式中、RA1は水素原子又はメチル基を示し、RA2はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。)
【請求項3】
前記R A2 が、シクロアルキル基である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)アクリルポリマーの重量平均分子量が、100,000~1,500,000である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(C)活性エステル硬化剤が、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック及びジシクロペンタジエン型ジフェノールからなる群から選択される1種以上のフェノール化合物由来の構造を含むものである、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C)活性エステル硬化剤が、ジシクロペンタジエン型ジフェノール由来の構造を含むものである、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、(D)硬化促進剤を含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記(D)硬化促進剤が、アミン類及びイミダゾール類からなる群から選択される1種以上である、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、(E)フィラーを含有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記(E)フィラーが無機フィラーである、請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物を基材に含浸してなる、プリプレグ。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物と金属箔とを積層してなる、樹脂付き金属箔。
【請求項13】
請求項11に記載のプリプレグ又は請求項12に記載の樹脂付き金属箔を積層し加熱加圧してなる、積層板。
【請求項14】
請求項13に記載の積層板を回路加工してなる、プリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付き金属箔、積層板及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
情報電子機器の急速な普及に伴って、電子機器の小型化及び薄型化が進んでおり、その中に搭載されるプリント配線板にも高密度化及び高機能化の要求が高まっている。
プリント配線板の高密度化は、基材となるガラスクロスの厚さをより薄くすること、例えば、30μm以下の厚さにすることで好適に成し遂げられるため、そのようなガラスクロスを備えたプリプレグが、昨今、開発及び上市されている。プリント配線板の高密度化の進行により、プリント配線板の耐熱性、絶縁信頼性及び配線-基板間の接着性等を確保することが困難になってきている。
【0003】
このような高機能プリント配線板に使用される配線板材料には、耐熱性、電気絶縁性、長期信頼性、接着性等が要求されている。また、これらの高機能プリント配線板の中の1つに挙げられるフレキシブルな配線板材料には、上記の特性に加え、柔軟性、低弾性等の特性も要求されている。
【0004】
さらには、セラミック部品搭載後の基板において、セラミック部品と基板の熱膨張係数の差、及び外的な衝撃によって発生する部品接続信頼性の低下も大きな課題となっている。この問題の解決方法として、基材側からの応力緩和性が提唱されている。
これらの要求を満たす電子材料として、具体的にはアクリロニトリルブタジエン系樹脂、カルボキシ含有アクリロニトリルブタジエン樹脂等の架橋性官能基を付与したアクリルポリマーに熱硬化性樹脂を配合した樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-283535号公報
【文献】特開2002-134907号公報
【文献】特開2002-371190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アクリルポリマー等の熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを含有してなる樹脂組成物は、熱硬化性樹脂の硬化反応により発生する極性基の影響によって、十分に低誘電正接化することができず、高周波用途への適用が困難であった。
【0007】
本発明の目的は、十分な低弾性率、高伸び率、絶縁信頼性、耐熱性及び金属箔との接着性を有しつつ、低比誘電率及び低誘電正接に優れる樹脂組成物、該樹脂組成物を用いたプリプレグ、樹脂付き金属箔、積層板及びプリント配線板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、下記本発明により、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は下記[1]~[14]に関する。
[1](A)アクリルポリマー、(B)熱硬化性樹脂及び(C)活性エステル硬化剤を含有する樹脂組成物。
[2]前記(A)アクリルポリマーが、下記一般式(A1)で表される(メタ)アクリル酸エステル由来の構造単位を含むアクリルポリマーである、上記[1]に記載の樹脂組成物。
【化1】

(式中、RA1は水素原子又はメチル基を示し、RA2はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。)
[3]前記(A)アクリルポリマーの重量平均分子量が、100,000~1,500,000である、上記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4]前記(A)アクリルポリマーの含有量が、樹脂組成物の固形分総量100質量部に対して、3~30質量部である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]前記(B)熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]前記(C)活性エステル硬化剤が、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック及びジシクロペンタジエン型ジフェノールからなる群から選択される1種以上のフェノール化合物由来の構造を含むものである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]さらに、(D)硬化促進剤を含有する、上記[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8]前記(D)硬化促進剤が、アミン類及びイミダゾール類からなる群から選択される1種以上である、上記[7]に記載の樹脂組成物。
[9]さらに、(E)フィラーを含有する、上記[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[10]前記(E)フィラーが無機フィラーである、上記[9]に記載の樹脂組成物。
[11]上記[1]~[10]のいずれかに記載の樹脂組成物を基材に含浸してなる、プリプレグ。
[12]上記[1]~[10]のいずれかに記載の樹脂組成物と金属箔とを積層してなる、樹脂付き金属箔。
[13]上記[11]に記載のプリプレグ又は[12]に記載の樹脂付き金属箔を積層し加熱加圧してなる、積層板。
[14]上記[13]に記載の積層板を回路加工してなる、プリント配線板。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、十分な低弾性率、高伸び率、絶縁信頼性、耐熱性及び金属箔との接着性を有しつつ、低比誘電率及び低誘電正接に優れる樹脂組成物、該樹脂組成物を用いたプリプレグ、樹脂付き金属箔、積層板及びプリント配線板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について詳述するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
[樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、(A)アクリルポリマー(以下、「(A)成分」ともいう)、(B)熱硬化性樹脂(以下、「(B)成分」ともいう)及び(C)活性エステル硬化剤(以下、「(C)成分」ともいう)を含有するものである。
【0012】
<(A)アクリルポリマー>
(A)成分は、アクリルポリマーであり、通常、(メタ)アクリル酸エステルをモノマーとする重合体である。
(A)アクリルポリマーは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本実施形態において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」と「メタクリル酸」の双方を示し、他の類似用語も同様である。
【0013】
(A)アクリルポリマーは、下記一般式(A1)で表される(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むアクリルポリマーであることが好ましい。
【0014】
【化2】

(式中、RA1は水素原子又はメチル基を示し、RA2はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。)
【0015】
A2で示されるアルキル基の炭素数は、1~20が好ましく、1~15がより好ましく、2~10がさらに好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。これらのアルキル基は置換基を有していてもよい。アルキル基の置換基としては、例えば、シクロアルキル基、水酸基、ハロゲン、含酸素炭化水素基、含窒素環状基等が挙げられる。シクロアルキル置換アルキル基の炭素数は、6~13が好ましく、7~10がより好ましい。シクロアルキル置換アルキル基としては、ノルボルニルメチル基、トリシクロデシルエチル基等が挙げられる。
A2で示されるシクロアルキル基の炭素数は、6~13が好ましく、7~10がより好ましい。シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、トリシクロデカニル基、イソボルニル基、アダマンチル基等が挙げられ、これらの中でも、ノルボルニル基、トリシクロデカニル基、イソボルニル基が好ましい。
A2で示されるアリール基の炭素数は、6~13が好ましく、6~10がより好ましい。アリール基としては、フェニル基、ノニルフェニル基等が挙げられる。
A2で示されるアラルキル基の炭素数は、7~15が好ましく、7~11がより好ましい。アラルキル基としては、ベンジル基、4-メチルベンジル基等が挙げられる。
【0016】
(A)アクリルポリマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコールメチルエーテル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸トリシクロ[5.2.1,0(2,6)]デカ-8イル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸ノルボルニルメチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデシルエチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ノニルフェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-4-メチルベンジル等が挙げられる。
【0017】
(A)アクリルポリマーは、架橋性官能基を付与したアクリルポリマーであることが好ましい。このようなアクリルポリマーは、(メタ)アクリル酸エステルと、架橋性の官能基を有する共重合モノマー(以下、単に「架橋性共重合モノマー」ともいう)との共重合体として得ることができる。架橋性共重合モノマーとしては、例えば、カルボキシ基、水酸基、アミノ基、ビニル基、グリシジル基、エポキシ基等の架橋性の官能基を有するモノマーが挙げられる。これらの中でも、低吸湿性及び耐熱性の観点から、エポキシ基を有する架橋性共重合モノマーが好ましい。これらのモノマーは、二重結合を有する化合物が好ましい。
【0018】
架橋性共重合モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシ基を有するモノマー;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等のエポキシ基を有するモノマー;アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等の水酸基を有するモノマー;アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等のアミノ基を有するモノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド等のアミド基を有するモノマー;アクリルニトリル等のシアノ基を有するモノマーなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、電気絶縁信頼性の観点から、カルボキシ基を有するモノマー、エポキシ基を有するモノマー、水酸基を有するモノマー、アミノ基を有するモノマーが好ましく、低吸湿性及び耐熱性の観点から、エポキシ基を有するモノマーがより好ましく、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルがさらに好ましい。
また、上記一般式(A1)に示されるもの以外の(メタ)アクリル酸エステル、アクリル酸N-ビニルピロリドン、メタクリル酸N-ビニルピロリドン、N-アクリロイルモルホリン、N-メタクリロイルモルホリン、芳香族ビニル化合物、N-置換マレイミド類等の重合性モノマーを(メタ)アクリル酸エステルと共に用いて(A)アクリルポリマーを得ることもできるが、得られる(A)アクリルポリマーはニトリル基を有さないものであることが好ましい。
【0019】
(A)アクリルポリマーが、(メタ)アクリル酸エステルと、架橋性共重合モノマーとの共重合体である場合、(メタ)アクリル酸エステルの使用量は、(メタ)アクリル酸エステルと架橋性共重合モノマーとの総質量100質量部に対して、70~99.5質量部が好ましく、80~98質量部がより好ましく、90~97質量部がさらに好ましい。
架橋性共重合体モノマーの使用量は、(メタ)アクリル酸エステルと架橋性共重合モノマーとの総量100質量部に対して、0.5~30質量部が好ましく、2~25質量部がより好ましく、3~20質量部がさらに好ましい。このような範囲とすることにより、耐熱性、金属箔との接着強度、絶縁信頼性等がより向上する傾向にある。
(A)アクリルポリマーの全原料モノマー中、(メタ)アクリル酸エステルと架橋性共重合モノマーとの合計含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。
【0020】
(A)アクリルポリマーがエポキシ基を有する場合、そのエポキシ当量は、2,000~18,000g/eqが好ましく、2,000~8,000g/eqがより好ましい。エポキシ当量が2,000g/eq以上であると、貯蔵弾性率が大きくなりすぎることなく、基板の寸法安定性が保持される傾向にあり、18,000g/eq以下であると、硬化物のガラス転移温度の低下が抑えられて基板の耐熱性が十分に保たれる。
(A)アクリルポリマーのエポキシ当量は、(メタ)アクリル酸グリシジルとこれと共重合可能な他のモノマーとを共重合する際、共重合比を適宜調整することで調節可能である。
エポキシ基を有する(A)アクリルポリマーの市販品としては、例えば、「HTR-860」(ナガセケムテックス株式会社製、商品名、エポキシ当量2,900g/eq)、「KH-CT-865」(日立化成株式会社製、商品名、エポキシ当量3,300g/eq)等が入手可能である。
【0021】
(A)アクリルポリマーの重量平均分子量は、100,000~1,500,000が好ましく、低弾性及び伸び率を向上させる観点から、300,000~1,300,000がより好ましく、300,000~1,100,000がさらに好ましい。(A)アクリルポリマーの重量平均分子量が上記下限値以上であると、(A)アクリルポリマーと(B)熱硬化性樹脂とが完全に相溶することなく相分離構造が形成され易い傾向にあり、上記上限値以下であると、溶剤に溶解させ易く、取り扱い性及び分散性に優れる傾向にある。
なお、(A)アクリルポリマーは、重量平均分子量の異なる2種以上を組み合わせてもよい。
上記の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析によって測定される値であって、標準ポリスチレン換算値を意味する。GPC分析は、テトラヒドロフラン(THF)を溶解液として用いて行うことができる。
【0022】
なお、(A)アクリルポリマーは、室温(25℃)で粉状であっても液状であってもよいが、溶剤への溶解性及び樹脂組成物中における(A)アクリルポリマーの分散性に優れるという観点から、液状であることが好ましい。樹脂組成物への(A)アクリルポリマーの分散性を高める観点からは、(A)アクリルポリマーは上述した化合物を溶剤へ分散した状態で用いることが好ましい。
【0023】
本実施形態の樹脂組成物中における(A)アクリルポリマーの含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物の固形分総量100質量部に対して、3~30質量部が好ましく、5~20質量部がより好ましく、8~15質量部がさらに好ましい。(A)アクリルポリマーの含有量が上記下限値以上であると、(A)アクリルポリマーの優れた特徴である低弾性及び柔軟性が十分に得られる傾向にあり、また、上記上限値以下であると、金属箔との十分な密着強度が得られる。
ここで、本実施形態における「固形分」とは、有機溶剤等の揮発性成分を除いた不揮発分のことであり、樹脂組成物を乾燥させた際に揮発せずに残る成分を示し、室温で液状、水飴状又はワックス状のものも含む。
【0024】
<(B)熱硬化性樹脂>
(B)熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミド類、ビスマレイミド類とジアミンとの付加重合物、フェノール樹脂、レゾール樹脂、イソシアネート樹脂、トリアリルイソシアヌレート樹脂、トリアリルシアヌレート樹脂、ビニル基含有ポリオレフィン化合物等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、絶縁性、高ガラス転移温度等の性能のバランスに優れる観点から、エポキシ樹脂、シアネート樹脂が好ましい。
(B)熱硬化性樹脂は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
エポキシ樹脂としては、1分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が好ましい。
エポキシ樹脂としては、公知のものを用いることができ、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有エポキシ樹脂、アラルキレン骨格含有エポキシ樹脂、フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェノールサリチルアルデヒドノボラック型エポキシ樹脂、低級アルキル基置換フェノールサリチルアルデヒドノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂、多官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂、多官能脂環式エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、溶液化する際の(A)アクリルポリマーとの相溶性の観点から、エポキシ樹脂は、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂が好ましい。
【0026】
エポキシ樹脂の重量平均分子量は、200~1,000が好ましく、300~900がより好ましい。エポキシ樹脂の重量平均分子量が上記下限値以上であると、耐熱性に優れる傾向にあり、上記上限値以下であると、低弾性及び柔軟性が発現され易い傾向にある。
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、相溶性の観点から、150~500g/eqが好ましく、150~450g/eqがより好ましく、150~300g/eqがさらに好ましい。
【0027】
(B)熱硬化性樹脂として使用されるシアネート樹脂としては、公知のものを用いることができ、ノボラック型シアネート樹脂、ビスフェノールA型シアネート樹脂、ビスフェノールE型シアネート樹脂、ビスフェノールF型シアネート樹脂、テトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂、ジシクロペンタジエン型シアネート樹脂等が挙げられる。これらの中でも、溶液化する際の(A)アクリルポリマーとの相溶性の観点から、ビスフェノールA型シアネート樹脂を1種以上含むことが好ましい。
【0028】
本実施形態の樹脂組成物中における(B)熱硬化性樹脂の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物の固形分総量100質量部に対して、5~70質量部が好ましく、10~60質量部がより好ましく、15~50質量部がさらに好ましい。(B)熱硬化性樹脂の含有量が上記下限値以上であると、(B)熱硬化性樹脂の優れた特徴である高弾性及び高強度が十分に得られる傾向にあり、上記上限値以下であると、低弾性及び柔軟性に優れる傾向にある。
【0029】
<(C)活性エステル硬化剤>
本実施形態の樹脂組成物は、硬化剤として(C)活性エステル硬化剤を用いることにより、熱硬化性樹脂の硬化反応によって生成する極性基の量を低減し、これによって得られる硬化物の誘電正接及び比誘電率を低減することができる。
(C)活性エステル硬化剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、フェノールエステル化合物、チオフェノールエステル化合物、N-ヒドロキシアミンエステル化合物、複素環ヒドロキシ化合物のエステル化化合物等の反応活性が高いエステル基を有するものが好ましく挙げられる。
(C)活性エステル硬化剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
(C)活性エステル硬化剤は、特に制限はないが、1分子中に2個以上のエステル基を有する化合物が好ましく、2個以上のカルボン酸を有する化合物と、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物と、から得られる2個以上のエステル基を有する芳香族化合物がより好ましい。なお、(C)活性エステル硬化剤は、直鎖状であってもよく分岐状であってもよい。
【0031】
上記2個以上のカルボン酸を有する化合物が脂肪族鎖を含む化合物であれば、エポキシ樹脂との相溶性を高くすることができる。一方、上記2個以上のカルボン酸を有する化合物が芳香族環を有する化合物であれば耐熱性を高くすることができる。
【0032】
上記2個以上のカルボン酸を有する化合物としては、芳香族モノカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸等が挙げられ、具体的には、安息香酸、酢酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ピロメリット酸等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性の観点から、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸が好ましく、イソフタル酸、テレフタル酸がより好ましい。
【0033】
上記フェノール性水酸基を有する芳香族化合物としては、2価又は3価以上のフェノール化合物、ナフトール化合物等が挙げられ、具体的には、ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールフタリン、メチル化ビスフェノールA、メチル化ビスフェノールF、メチル化ビスフェノールS、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、カテコール、α-ナフトール、β-ナフトール、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、フロログルシン、ベンゼントリオール、ジシクロペンタジエニルジフェノール、フェノールノボラック等が挙げられる。
これらの中でも、(C)活性エステル硬化剤は、耐熱性及び溶解性の観点から、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック及びジシクロペンタジエン型ジフェノールからなる群から選択される1種以上のフェノール化合物由来の構造を含むものが好ましく、ジシクロペンタジエニルジフェノール及びフェノールノボラックからなる群から選択される1種以上のフェノール化合物由来の構造を含むものがより好ましく、ジシクロペンタジエニルジフェノール由来の構造を含むものがさらに好ましい。
【0034】
2個以上のカルボン酸を有する化合物とフェノール性水酸基を有する芳香族化合物は、各々について1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
(C)活性エステル硬化剤は、下記一般式(C1)で表される構造を含むものが好ましい。
【0036】
【化3】

(式中、RC1は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック及びジシクロペンタジエン型ジフェノールからなる群から選択される1種以上のフェノール化合物の2価の残基を示し、*は結合基を示す。nは1~10の整数を示す。nが2以上の整数である場合、複数のRC1は同一であっても異なっていてもよい。)
【0037】
(C)活性エステル硬化剤の製造方法は特に制限はないが、公知の方法により製造することができ、具体的には、カルボン酸化合物とヒドロキシ化合物との縮合反応によって得ることができる。また、(C)活性エステル硬化剤としては、特開2004-277460号公報に記載の活性エステル硬化剤を使用することもでき、市販のものを用いることもできる。
【0038】
市販されている(C)活性エステル硬化剤としては、ジシクロペンタジエニルジフェノール構造を含むもの、フェノールノボラックのアセチル化物、フェノールノボラックのベンゾイル化物等が好ましく、これらの中でも、ジシクロペンタジエニルジフェノール構造を含むものがより好ましい。具体的には、HPC-8000-65T(DIC株式会社製、エステル基当量約223g/eq)、SHC-5600TM65(SHIN-A社製、エステル基当量約238g/eq)、EXB9460S-65T(DIC株式会社製、エステル基当量約223g/eq)、DC808(三菱ケミカル株式会社製、エステル基当量約149g/eq)、YLH1026(三菱ケミカル株式会社製、エステル基当量約200g/eq)、YLH1030(三菱ケミカル株式会社製、エステル基当量約201g/eq)、YLH1048(三菱ケミカル株式会社製、エステル基当量約245g/eq)等が挙げられる。
【0039】
(C)活性エステル硬化剤のエステル基当量は、150~500g/eqが好ましく、170~450g/eqがより好ましく、200~300g/eqがさらに好ましい。
【0040】
本実施形態の樹脂組成物中における(C)活性エステル硬化剤の含有量は、特に限定されないが、3~50質量部が好ましく、5~40質量部がより好ましく、8~35質量部がさらに好ましい。(C)活性エステル硬化剤の含有量が上記下限値以上であると、低誘電正接が十分に得られる傾向にあり、上記上限値以下であると、銅箔引き剥がし強さに優れる傾向にある。
【0041】
<(D)硬化促進剤>
本実施形態の樹脂組成物は、(B)熱硬化性樹脂の種類に応じて、(D)硬化促進剤(以下、「(D)成分」ともいう)を含有していてもよい。
(B)熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合、(D)硬化促進剤としては、特に限定されないが、アミン類及びイミダゾール類からなる群から選択される1種以上が好ましい。アミン類としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルエタン、グアニル尿素等が挙げられる。イミダゾール類としては、2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、ベンゾイミダゾール等が挙げられる。
(D)硬化促進剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本実施形態の樹脂組成物が(D)硬化促進剤を含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物の固形分総量100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.05~2質量部がより好ましく、0.07~0.5質量部がさらに好ましい。なお、(B)熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合、(D)硬化促進剤の含有量は、樹脂組成物中のオキシラン環の総量に応じて決定することができる。
【0042】
<(E)フィラー>
本実施形態の樹脂組成物は、さらに、(E)フィラー(以下、「(E)成分」ともいう)を含有していてもよい。
(E)フィラーとしては、特に限定されないが、熱膨張率の低減及び難燃性を確保する観点から、無機フィラーが好ましい。無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミウイスカ、窒化ホウ素、炭化ケイ素等が挙げられる。(E)フィラーは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、比誘電率が低いこと、線膨張率が低いこと等からシリカが好ましい。シリカとしては、湿式法又は乾式法で合成された合成シリカ、破砕シリカ、溶融シリカ等が挙げられる。
【0043】
(E)フィラーの平均粒径としては、0.1~5.0μmが好ましく、0.2~4.5μmがより好ましく、0.3~4.3μmがさらに好ましい。平均粒径が上記下限値以上であると、(E)フィラーが分散し易くなり、ワニスの粘度が低下し、取り扱い易くなるため作業性が良くなる傾向にある。また、平均粒径が上記上限値以下であると、ワニス化の際に(E)フィラーの沈降が発生し難い傾向にある。
ここで、本実施形態における平均粒径とは、粒子の全体積を100%として粒子径による累積度数分布曲線を求めたとき、体積50%に相当する点の粒子径のことであり、レーザ回折散乱法を用いた粒度分布測定装置等で測定することができる。
【0044】
(E)フィラーは、(E-1)カップリング処理を施したフィラー(以下、「(E-1)成分」ともいう)であってもよい。前記カップリング処理に用いるカップリング剤としては、シランカップリング剤が好ましく、シランカップリング剤としては、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、フェニルシラン系カップリング剤、アルキルシラン系カップリング剤、アルケニルシラン系カップリング剤、アルキニルシラン系カップリング剤等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
また、本実施形態の樹脂組成物が(E)フィラーを含有する場合、(E-1)成分及び(E-2)カップリング処理を施していないフィラー(以下、「(E-2)成分」ともいう)の両方を含むことがより好ましい。これにより樹脂組成物内のフィラー分散性をコントロールすることができ、各成分の特徴を十分に発現することが可能となる。
(E-1)成分の平均粒径は、0.1~1.5μmが好ましく、0.2~1.0μmがより好ましく、0.3~0.8μmがさらに好ましい。(E-1)成分の平均粒径が上記下限値以上であると、ワニス化した際にフィラーが分散し易くなり凝集が発生し難い傾向にあり、上記上限値以下であると、ワニス化の際に(E)フィラーの沈降が発生し難い傾向にある。
(E-2)成分の平均粒径は、1.0~5.0μmが好ましく、1.5~4.5μmがより好ましく、2.0~4.3μmがさらに好ましい。(E-2)成分の平均粒径が上記下限値以上であると、フィラーが分散し易くなり凝集が発生し難い傾向にあり、上記上限値以下であるとワニス化の際にフィラーの沈降が発生し難い傾向にある。
【0046】
本実施形態の樹脂組成物が(E)フィラーを含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物の固形分総量100質量部に対して、10~60質量部が好ましく、15~50質量部がより好ましく、20~40質量部がさらに好ましい。(E)フィラーの含有量が上記下限値以上であると、線膨張率が低くなり十分な耐熱性が得られる傾向がある。(E)フィラーの含有量が上記上限値以下であると、(A)アクリルポリマーの有する低弾性、柔軟性が十分に得られる傾向がある。
【0047】
(E-1)成分及び(E-2)成分を併用する場合、その質量比[(E-1):(E-2)]は、10:90~90:10が好ましく、20:80~80:20がより好ましく、30:70~70:30がさらに好ましい。配合比が上記範囲内であると、(A)アクリルポリマー及び(B)熱硬化性樹脂、(C)活性エステル硬化剤の特徴が十分に発現される傾向にある。
【0048】
<(F)その他の硬化剤>
本実施形態の樹脂組成物は、(C)活性エステル硬化剤以外の(F)その他の硬化剤(以下、「(F)成分」ともいう)を含有していてもよい。
(F)その他の硬化剤としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ビフェニルノボラック型フェノール樹脂、アミノトリアジンノボラック型フェノール樹脂等のフェノール樹脂;ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン等のアミン系硬化剤;無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等の酸無水物などが挙げられる。(F)その他の硬化剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
本実施形態の樹脂組成物では、(B)熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を含むと共に、金属箔との密着強度確保の観点から、(F)成分を含むことが好ましく、フェノール樹脂を含むことがより好ましい。
【0049】
フェノール樹脂は、エポキシ樹脂との組み合わせに応じて任意の割合で使用することができ、通常、ガラス転移温度が高くなるようにその配合比を決定することができる。
本実施形態の樹脂組成物がフェノール樹脂を含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物の固形分総量100質量部に対して、1~30質量部が好ましく、3~20質量部がより好ましく、5~12質量部がさらに好ましい。
【0050】
なお、本実施形態の樹脂組成物がエポキシ樹脂とその硬化剤とを含有する場合、硬化剤の含有量は、特に限定されないが、エポキシ樹脂のエポキシ基に対する硬化剤由来の活性基の総量は、0.5~1.5当量が好ましく、0.6~1.3当量がより好ましく、0.7~1.2当量がさらに好ましい。硬化剤の含有量が上記範囲内であると、外層銅との接着性、ガラス転移温度及び絶縁性に優れる傾向にある。
【0051】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、必要に応じて、メラミン樹脂等の架橋剤;リン系化合物等の難燃剤;ゴム系エラストマー、導電性粒子、カップリング剤、流動調整剤、酸化防止剤、顔料、レベリング剤、消泡剤、イオントラップ剤などを含有していてもよい。これらのその他の成分は、公知のものを使用できる。
【0052】
本実施形態の樹脂組成物は、有機溶剤に溶解及び/又は分散させたワニス状の樹脂組成物(以下、単に「ワニス」ともいう)であってもよい。ワニスに用いられる有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;メトキシエチルアセテート、エトキシエチルアセテート、ブトキシエチルアセテート、酢酸エチル等のエステル系溶剤;N-メチルピロリドン、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤;メタノール、エタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等のアルコール系溶剤などが挙げられる。これらの有機溶剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
ワニス中の固形分濃度は、10~70質量%が好ましく、20~60質量%がより好ましく、30~50質量%がさらに好ましい。
【0053】
本実施形態の樹脂組成物の硬化物の25℃における貯蔵弾性率は、応力緩和の観点から、3.0×10Pa以下が好ましく、2.5×10Pa以下がより好ましく、2.0×10Pa以下がさらに好ましく、また、機械強度の観点からは、0.5×10Pa以上であってもよい。樹脂組成物の硬化条件及び貯蔵弾性率の測定方法は実施例に記載の通りである。
【0054】
[プリプレグ]
本実施形態のプリプレグは、本実施形態の樹脂組成物を基材に含浸してなるものである。プリプレグは、例えば、ワニス状の本実施形態の樹脂組成物を基材に含浸した後、乾燥させる方法により製造することができる。
基材としては、通常、織布、不織布等の繊維基材が用いられる。繊維基材の材質としては、例えば、ガラス、アルミナ、アスベスト、ボロン、シリカアルミナガラス、シリカガラス、チラノ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア等の無機繊維;アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、カーボン、セルロース等の有機繊維;これらの混抄系などが挙げられる。
基材の厚さは、10~100μmが好ましく、20~50μmがより好ましい。基材の厚さを上記上限値以下とすることにより、任意に折り曲げ可能なプリント配線板を得ることができ、製造プロセス上での温度、吸湿等に伴う寸法変化を小さくすることができる。
【0055】
プリプレグの製造条件は、特に限定されないが、得られるプリプレグ中において、ワニスに使用した有機溶剤が80質量%以上揮発していることが好ましい。乾燥温度は、例えば、80~180℃であり、乾燥時間はワニスのゲル化時間との兼ね合いで適宜設定される。また、ワニスの含浸量は、得られるプリプレグ中における本実施形態の樹脂組成物の固形分含有量が、30~80質量%となる量が好ましい。
【0056】
[樹脂付き金属箔]
本実施形態の樹脂付き金属箔は、本実施形態の樹脂組成物と金属箔とを積層してなるものである。樹脂付き金属箔は、例えば、ワニス状の本実施形態の樹脂組成物を金属箔に塗工し、乾燥させることで樹脂付き金属箔を製造することができる。乾燥条件は、例えば、80~180℃で乾燥させて製造することができる。
【0057】
[積層板]
本実施形態の積層板は、本実施形態のプリプレグ又は本実施形態の樹脂付き金属箔を積層し加熱加圧してなる積層板である。なお、金属箔を配置した積層板を「金属張積層板」と称することがある。
金属張積層板は、例えば、本実施形態のプリプレグを複数枚積層した積層体の両側の接着面と金属箔とを合わせるように重ね、真空プレス条件にて、通常、130~250℃、好ましくは150~230℃で、圧力0.5~10MPa、好ましくは1~5MPaで加熱加圧成形することによって製造することができる。他の金属張積層板の製造方法としては、本実施形態の樹脂付き金属箔の樹脂面同士が向き合うように2枚重ね、真空プレスにてプレスすることによって製造することができる。加熱加圧は、例えば、多段プレス、多段真空プレス、連続成形、オートクレーブ成形機等を使用することができる。
【0058】
金属張積層板に用いられる金属箔としては、例えば、銅箔、アルミニウム箔等が挙げられる。金属箔の厚さは、一般的に積層板に用いられる厚さとすることができ、例えば、1~200μmである。その他にも、例えば、ニッケル、ニッケル-リン、ニッケル-スズ合金、ニッケル-鉄合金、鉛、鉛-スズ合金等を中間層とし、この両面に0.5~15μmの銅層と10~300μmの銅層を設けた3層構造の複合箔、アルミニウムと銅箔とを複合した2層構造複合箔などを用いることができる。
【0059】
[プリント配線板]
本実施形態のプリント配線板は、本実施形態の積層板を回路加工してなるものである。本実施形態のプリント配線板は、例えば、片面又は両面に金属箔が設けられた本実施形態の積層板(金属張積層板)の金属箔に回路(配線)加工を施すことによって製造することができる。
さらに、本実施形態のプリント配線板に半導体を搭載することにより半導体パッケージを製造することもできる。半導体パッケージは、本実施形態のプリント配線板の所定の位置に、半導体チップ、メモリ等を搭載して製造することができる。
【実施例
【0060】
以下、実施例を示し、本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
[樹脂組成物の製造]
実施例1~20、比較例1~8
表1~3に示す各成分のうち、(D)成分以外の各成分を、表1~3に示す配合量(表中の数値は固形分の質量部であり、溶液又は分散液の場合は固形分換算量である。)で配合し、メチルイソブチルケトンに溶解後、(D)成分を配合し、不揮発分(固形分濃度)40質量%のワニスを得た。
【0062】
[プリプレグの作製]
各例で作製したワニスを、厚さ0.028mmのガラスクロス3313(日東紡績株式会社製、商品名)に含浸した後、140℃にて10分間加熱して乾燥させて、プリプレグを得た。
【0063】
[樹脂付き銅箔の作製]
各例で作製したワニスを、厚さ18μmの電解銅箔CFT9L-UR-18(福田金属箔粉工業株式会社製、商品名)上に塗工機を用いて塗工し、140℃にて約6分間熱風乾燥させて、樹脂組成物層の厚さが50μmの樹脂付き銅箔を作製した。
【0064】
[銅張積層板の作製]
4枚重ねたプリプレグの両側に厚さ18μmの電解銅箔CFT9L-UR-18(福田金属箔粉工業株式会社製、商品名)を接着面がプリプレグと合わさるように重ね、200℃にて60分間、4MPaの真空プレス条件で加熱加圧して両面銅張積層板を作製した。また、樹脂付き銅箔は樹脂面同士が向き合うように2枚重ね、200℃にて60分間、4MPaの真空プレス条件で加熱加圧して両面銅張積層板を作製した。
【0065】
[評価方法]
(1)ワニス性(成分の相溶性)
ワニス性は、作製したワニスを透明な容器に投入し、24時間後の外観を目視観察して評価した。ワニス色相が均一であるものはワニス成分の分離「なし」と判断した。結果を表1~3に示す。
【0066】
(2)プリプレグのタック性(密着発生の有無)
プリプレグのタック性は、作製したプリプレグを250mm×250mmサイズに加工して10枚重ねた後、密封封入可能な袋に入れたものを試験サンプルとして、これを温度25℃、湿度70%の恒温恒湿環境に投入し、48時間経過後に取り出したものについてプリプレグ同士の密着発生有無を確認して評価した。一番下に配置したプリプレグとそれと接するプリプレグを剥がすことができ、各々が投入前の表面を維持している場合は、密着発生「なし」と判断し、タック性が問題ないと判断した。結果を表1~3に示す。
【0067】
(3)プリプレグの外観(凝集物の有無)
プリプレグの外観は、プリプレグの表面を20倍の拡大鏡を用いて観察し、凝集物の有無を確認して評価した。凝集物が観察されなかったものは「なし」と表記した。結果を表1~3に示す。
【0068】
(4)25℃貯蔵弾性率
25℃貯蔵弾性率は、樹脂付き銅箔から作製した両面銅張積層板を全面エッチングして得た積層板を幅5mm×長さ30mmに切断したものを試験片として、動的粘弾性測定装置(株式会社UBM製)を用いて測定した。25℃の貯蔵弾性率が2.0×10Pa以下のものを評価「A」として応力緩和効果を発現可能と判断した。結果を表1~3に示す。
【0069】
(5)引張り強度
引張り強度は、樹脂付き銅箔から作製した両面銅張積層板を全面エッチングした積層板を幅10mm×長さ100mmに切断したものを試験片として、オートグラフ(株式会社島津製作所製)を用いて25℃にて測定した。引張り強度が10×10Pa以上であれば強度が十分であると判断した。結果を表1~3に示す。
【0070】
(6)引張り伸び率
引張り伸び率は、樹脂付き銅箔から作製した両面銅張積層板を全面エッチングした積層板を幅10mm×長さ100mmに切断したものを試験片として、オートグラフ(株式会社島津製作所製)を用いて25℃にて測定した。引張り伸び率が2.4%以上であれば応力緩和効果を発現可能と判断した。結果を表1~3に示す。なお、表中、引張り伸び率が3%を越えたものは「>3」と表記した。
【0071】
(7)耐熱性
耐熱性は、プリプレグから作製した両面銅張積層板を50mm四方の正方形に切り出して得た試験片を、260℃のはんだ浴中に浮かべて、その時点から試験片の膨れが目視で認められる時点までに経過した時間を測定して評価した。経過時間の測定は300秒までとし、250秒以上は耐熱性が十分であると判断した。結果を表1~3に示す。
【0072】
(8)銅箔引き剥がし強さ
銅箔引き剥がし強さは、プリプレグから作製した両面銅張積層板の銅箔を部分的にエッチングして3mm幅の銅箔ラインを形成したものを試験片として、銅箔ラインを、接着面に対して90°方向に50mm/分の速度で引き剥がした際の荷重を測定して評価した。引き剥がした際の荷重が0.5kN/m以上であれば金属箔との接着性は十分であると判断した。結果を表1~3に示す。
【0073】
(9)誘電特性(比誘電率Dk、誘電正接Df)
誘電特性は、プリプレグから作製した両面銅張積層板を銅エッチング液「過硫酸アンモニウム(APS)」(株式会社ADEKA製)に浸漬することにより銅箔を取り除いた後、2mm×85mmに切断したものを試験片として、ネットワークアナライザ「E8364B」(Aglient Technologies社製)を用い、空洞共振器摂動法により、1GHzでの比誘電率及び誘電正接を測定して評価した。
比誘電率及び誘電正接が小さいほど好ましい。特に、比誘電率は4.0以下、誘電正接は0.0100未満であれば比誘電率及び誘電正接が良好であると判断した。結果を表1~3に示す。
【0074】
(10)電気絶縁信頼性
電気絶縁信頼性は、プリプレグから作製した両面銅張積層板をスルーホール穴壁間隔が350μmとなるよう加工したテストパターンを用いて、各試料について400穴の絶縁抵抗を経時的に測定して評価した。測定条件は、85℃/85%RH雰囲気中、100V印加して行い、導通破壊が発生するまでの時間を測定した。測定時間は2000時間までとし、2000時間以上は電気絶縁信頼性が十分であると判断した。結果を表1~3に示す。なお、表中、2000時間を越えたものは「>2000」と表記した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
なお、各表中の成分の詳細は以下の通りである。
[(A)成分]
・KH-CT-865:一般式(A1)で表される化合物であって、エステル部分(RA2)に炭素数5~10のシクロアルキル基を有するメタクリル酸エステル由来の構造を含み、かつ構造中にニトリル基を含まないアクリルポリマー(日立化成株式会社製、商品名、重量平均分子量Mw=450,000~650,000、エポキシ当量:3,300g/eq)
[(B)成分]
・EPICLON 153:テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、商品名)
・N770:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、商品名)
・HP-7200:ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂(DIC株式会社製、商品名)
・FX-305:リン含有エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製、商品名)
[(C)成分]
・SHC-5600TM65:活性エステル硬化剤(SHIN-A社製、商品名)
・HPC-8000-65T:ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル硬化剤(DIC株式会社製、商品名)
[(D)成分]
・2PZ:2-フェニルイミダゾール(四国化成工業株式会社、商品名)
[(E)成分]
・F05-12:破砕シリカ(福島窯業株式会社製、商品名、平均粒子径2.5μm)
・F05-30:破砕シリカ(福島窯業株式会社製、商品名、平均粒子径4.2μm)
・SC-2050KNK:シランカップリング処理をした溶融球状シリカ(株式会社アドマテック製、商品名、平均粒子径0.5μm)
[(F)成分]
・KA-1165:クレゾールノボラック樹脂(DIC株式会社製、商品名)
・LA-7054:アミノトリアジンノボラック型フェノール樹脂(DIC株式会社製、商品名)
[カップリング剤]
・A-187:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ株式会社製、商品名)
【0079】
表1~3から明らかなように、本実施形態の樹脂組成物を用いた実施例1~20は、十分な低弾性率、高伸び率、絶縁信頼性、耐熱性及び金属箔との接着性を有しつつ、低比誘電率及び低誘電正接に優れていることが分かる。一方、比較例1~8は、比誘電率及び誘電正接に劣っていた。