(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】フィルタープレスの運転方法
(51)【国際特許分類】
B01D 25/12 20060101AFI20220511BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B01D25/12 U
B01D25/12 A
C01G49/00 K
(21)【出願番号】P 2018101950
(22)【出願日】2018-05-29
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 聡
(72)【発明者】
【氏名】三ツ井 宏之
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-089976(JP,A)
【文献】特表2008-513549(JP,A)
【文献】特開2005-218917(JP,A)
【文献】特開平06-304415(JP,A)
【文献】特開2014-176818(JP,A)
【文献】実開昭60-017207(JP,U)
【文献】特開2017-078219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 24/00-37/08
C25C 1/00-7/08
C01G 49/00-49/08
C22B 23/00-23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリーを固液分離するためのフィルタープレスの運転方法であって、
前記スラリーを濾室内に供給して濾過する濾過工程と、
前記濾室内にエアーを供給し、濾過後の澱物内を通過させるケーキブロー工程と、
前記濾室内に洗浄水を供給して前記澱物を洗浄する洗浄工程と、
前記濾室内で前記澱物を圧搾する圧搾工程と
、
前記濾室を開けて前記澱物をケーキとして落下させる開枠工程と
をその順に実行する
ことを特徴とするフィルタープレスの運転方法。
【請求項2】
前記ケーキブロー工程が、前記フィルタープレスが備える脱水ユニットの原液供給孔から濾室内にエアーを供給して、澱物内を通過させ、かつ濾布を透過させて、濾板に形成されている濾液排出孔に向けてエアーを通す工程である
ことを特徴とする請求項1記載のフィルタープレスの運転方法。
【請求項3】
前記洗浄工程が、前記原液供給孔から前記濾室内に洗浄水を供給して、澱物を通過させ、かつ濾布を透過させて、濾板に形成されている濾液排出孔に向けて洗浄水を通す工程である
ことを特徴とする請求
項2記載のフィルタープレスの運転方法。
【請求項4】
前記運転方法が、電気ニッケル製造プロセスの浄液工程である脱Fe工程において、脱Fe澱物の固液分離に用いられる
ことを特徴とする請求項1、2または3記載のフィルタープレスの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタープレスの運転方法に関する。さらに詳しくは、本発明はあらゆる産業分野における各種スラリーを洗浄脱水するフィルタープレスの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルタープレスは、各種スラリーを洗浄脱水する工程に従来から用いられている。また、特許文献1に記載されているような、両面に濾液の流路となる溝が形成された濾板と、両面に濾液の流路となる溝が形成されたダイヤフラムが備えられた濾板とを交互に配設した構成とし、ダイヤフラムが拡張して濾室内の澱物を圧搾する機能を備えたフィルタープレスが、広く用いられている。このフィルタープレスの従来の一般的な運転方法は、つぎのようであった。
スラリーを濾室内に供給して濾過する濾過工程を行い、ついで、濾過された澱物の水分を絞り出すために圧搾工程を行う。その後、必要ならば洗浄工程、圧搾工程を、その順に実行する。
【0003】
上記従来の一般的な運転方法を含む代表的な工程を全体的に示すと、
図6に例示するとおりである。
この例では、複数ある脱水ユニットの閉枠S101、各脱水ユニットの濾室へスラリーを供給して固液分離する濾過工程S102、濾室内の澱物を圧迫して水分を搾り出す圧搾1工程S103、澱物を洗浄水で洗浄する洗浄工程S104、再度の圧搾2工程S105、脱水ユニットの原液供給孔内の残留スラリー等を排出させるセンターブロウ工
程S106、そして澱物から水分を抜き取ったケーキを取り出すための開枠S107が、その順で行われる。
【0004】
しかるに、上記従来の運転方法では、洗浄工程S104での付着液希釈が能率よく行えず、必要なレベルの希釈を行うとすれば多量の洗浄水が必要となったり、高圧の洗浄水を必要とするという問題があった。
しかし、そうすることは、フィルタープレスの運転コストを高くするという欠点が伴っていた。
【0005】
また、澱物を有効に洗浄脱水することを目的として、特許文献2に記載の運転方法は、スラリーを濾室内に供給して濾過する濾過工程、濾過された澱物を洗う洗浄工程、洗浄された澱物を圧搾する圧搾工程を、その順に実行している。
しかし、濾過工程の後、濾室内の残留水分を脱水せずに洗浄工程を行うため、残留水分中の洗浄対象物質がそのまま洗浄工程に持ち込まれてしまい、洗浄効果を低下させるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-176818号公報
【文献】特開2006-68659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、澱物の洗浄が効率よく行えるフィルタープレスの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明のフィルタープレスの運転方法は、スラリーを固液分離するためのフィルタープレスの運転方法であって、前記スラリーを濾室内に供給して濾過する濾過工程と、前記濾室内にエアーを供給し、濾過後の澱物内を通過させるケーキブロー工程と、前記濾室内に洗浄水を供給して前記澱物を洗浄する洗浄工程と、前記濾室内で前記澱物を圧搾する圧搾工程と、前記濾室を開けて前記澱物をケーキとして落下させる開枠工程とをその順に実行することを特徴とする。
第2発明のフィルタープレスの運転方法は、第1発明において、前記ケーキブロー工程が、前記フィルタープレスが備える脱水ユニットの原液供給孔から濾室内にエアーを供給して、澱物内を通過させ、かつ濾布を透過させて、濾板に形成されている濾液排出孔に向けてエアーを通す工程であることを特徴とする。
第3発明のフィルタープレスの運転方法は、第2発明において、前記洗浄工程が、前記原液供給孔から前記濾室内に洗浄水を供給して、澱物を通過させ、かつ濾布を透過させて、濾板に形成されている濾液排出孔に向けて洗浄水を通す工程であることを特徴とする。
第4発明のフィルタープレスの運転方法は、第1,第2または第3発明において、前記運転方法が、電気ニッケル製造プロセスの浄液工程である脱Fe工程において、脱Fe澱物の固液分離に用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、濾過直後であって圧搾する前の澱物に対し、ケーキブロー工程において濾室内にエアーを吹き込むと、エアーは澱物内を通って濾布を透過して濾室から排気される。このとき、濾室内の残留水分がエアーと共に排出されるので、洗浄工程における洗浄効率が高くなる。このエアーの濾室内の2枚の濾布に対する透過はほぼ均等に行われると考えられるので、濾室内において澱物が一方の濾布側に偏って存在することはなくなる。このため、洗浄水の逃げ道ができないので洗浄工程に移ったとき洗浄液はまんべんなく澱物を洗うことができ、洗浄効率が高くなる。
第2発明によれば、給液配管から濾室内に供給されたエアーが澱物を通過するとき澱物内にエアーの通り路を作るが、その後は濾布に対し垂直に透過して濾板が有する濾液排出孔へ抜けていく。このときのエアーの通過によって澱物は2枚の濾布にほぼ均等な厚さで付着すると推定されるので、後工程の洗浄工程での洗浄水が2枚の濾布に付着している澱物のほぼ全量を通過して洗浄することができると考えられる。このため、洗浄効率が高くなる。
第3発明によれば、洗浄水は、2枚の濾布にほぼ均等な厚さに付着していると推定される澱物を通過し、かつ濾布に対し垂直に流れて透過するので、澱物のほぼ全量を洗浄できると考えられる。このため、洗浄効率が高くなり、澱物に付着している付着液も多く洗い流せるので、付着液の希釈率も高くなる。
第4発明により、本発明の運転方法を脱Fe工程における脱Fe澱物スラリーの固液分離に用いると、脱Fe澱物スラリーは固形のケーキと濾液に分けられる。そして、洗浄工程でケーキになる前の澱物を洗浄するが、そのとき、付着液中の水溶性有価金属を多めに排出できるので、澱物中に残留して廃棄される水溶性有価金属の量を少なくでき、有価金属のロスを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係るフィルタープレスの運転方法を示す工程図である。
【
図2】本発明で用いるフィルタープレスの基本構成図である。
【
図3】脱水ユニットの基本構成を示す分解図である。
【
図4】本発明の運転方法における重要工程S2~S5の説明図である。
【
図5】
図4に示すケーキブロー工程S3と洗浄工程S4における脱水ユニットの一部拡大図である。
【
図6】従来のフィルタープレスの運転方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の運転方法が適用されるフィルタープレスの基本構造をまず説明する。
図2から
図4に示すフィルタープレスAは種々ある形態のなかの一例であり、本発明が適用可能なフィルタープレスはこれに限られない。
【0012】
図2に示すフィルタープレスAは、2個一対の保持フレーム1,2の間に多数の脱水ユニット4が並列に配置された構成となっている。一方の保持フレーム1(固定側)には、原液供給管11と濾液を排出する濾液排出管12と圧搾流体を送る圧搾流体供給管13とが接続されている。他方の保持フレーム2(可動側)には、油圧シリンダ3が取付けられており、保持フレーム2を前記保持フレーム1に対し接近離間させることができるようになっている。各脱水ユニット4は油圧シリンダ3等で締め付けられると互いに密着して閉枠し、油圧シリンダ3等を緩めると互いに離間して開枠する。
【0013】
図3に示すように、各脱水ユニット4は、普通濾板4aと圧搾濾板4bとが交互に配置して構成される。
図3では、2枚の濾板4a,4bは閉枠した状態で示し、1枚の濾板4aは通常の開枠状態よりも更に広げた状態で示している。各濾板4a,4bは略四角形の板部材であって、外縁部は肉厚が厚く、外縁部の内側は凹所に形成されている。各濾板4a,4bの中心には原液供給孔5が形成され、外縁部の4隅のうち3カ所には図示しない濾液排出孔が形成され、4隅のうちの1カ所には図示しない圧搾流体供給孔が形成されている。
【0014】
各濾板4a,4bが互いに締め付けられ閉枠している状態では、原液供給孔5も図示しない濾液排出孔および圧搾流体供給孔も1本の連通管のように連通する。そして、各濾板4a,4bの二つの凹所が向かいあった空間が濾室6となる。
【0015】
各濾室6内には2枚の濾布7が配置されている。2枚の濾布7,7の間にスラリーが供給されると、濾布7を介して水分を透過させ、スラリーの固形分を澱物rとして残すことにより固液分離される。
【0016】
圧搾濾板4bにはゴム製のダイヤフラム8が被せられていて、このダイヤフラム8を空気圧等の圧搾流体で膨らませると濾室6内に残された澱物を2枚の濾布7を介して圧迫して更なる固液分離を行う圧搾を行うことができる。
【0017】
濾室6に面する濾板4aの表面には多数の溝9が形成されており、ダイヤフラム8の表面(濾布7に面する側)にも多数の溝9が形成されている。
濾過工程や圧搾工程でしぼり取られた水分は濾布7を透過した後、濾板4aやダイヤフラム8に形成された溝9を通って、濾板4a,4bの隅に形成されている濾液排出孔に導かれる。
圧搾された後の澱物は圧密されて一体化しており、ケーキkとも称される。このケーキkは開枠時に下方へ排出される。
【0018】
図3に示す濾板4a,4bは多種類ある脱水ユニット4の一例であって、原液供給孔5および濾液排出孔や圧搾流体供給孔などの形成位置や個数、さらに水分を排出させる溝9のパターン等は種々あって、それらのどれも任意に採用することができる。
ダイヤフラム8を膨張させるための圧搾流体としては、液体が用いられることもあり、空気等の気体が用いられることもある。
【0019】
ここで、本発明の技術原理の背景となる従来技術の問題点の原因を、本発明者らが解明したので、それを説明する。
前述の通り、従来の運転方法では、洗浄工程S104での付着液希釈が能率よく行えず、必要なレベルの希釈を行うとすれば多量の洗浄水が必要となったり、高圧の洗浄水を必要とするという問題があった。
図7は、従来技術における濾過工程S102、圧搾工程S103、洗浄工程S104からなる3工程における脱水ユニットの各状態を示している。同図において、4aは普通濾板、4bは圧搾濾板であり、多数ある脱水ユニットの一部を示している。図では濾板4a,4b間や2枚の濾布7,7間に隙間が見えるが、これは図形を分りやすくしたためであり、実際の工程では閉枠により各濾板4a,4bも2枚の濾布も外縁部分は互いに密着している。
【0020】
濾過工程S102では2枚の濾布7,7の間にスラリーslが供給され、濾布7を介して水分が抜けることにより固液分離される。固体分として残されたものは、澱物rとなる。つぎの圧搾1工程S103ではダイヤフラム8が膨張することにより、2枚の濾布7,7間の澱物rを圧搾し、さらに固液分離をすすめる。圧搾1工程S103を実行した後の濾室6内では、ダイヤフラム8で押圧された澱物rが一方の濾布7側に偏在することとなり、圧搾を終えたダイヤフラム8が元の位置に復帰すると、他方の濾布7と澱物rとの間に空間gができることとなると推定される。
【0021】
そして、次工程の洗浄工程S104に入り、澱物rを洗浄するため洗浄水wを供給すると、前工程で空間gができているので洗浄水wの多くが澱物rが付着しておらず通過抵抗の少ない濾布7側へ抜けてしまう。この場合、多くの洗浄水は澱物rの付着液を希釈しないまま濾布7を通じて濾室6外へと出てしまい、既述のごとく洗浄効率が低下することになっていた。この現象の解明が後述する本発明の技術原理(いわゆる澱物厚均一配分作用)に結びついている。
したがってまた、この従来技術において充分な洗浄をしようとすれば、洗浄水の圧力を高めて通過抵抗の大きい澱物中も強制的に通過させるか、あるいは洗浄水の使用量を多くする等の処置が必要であった。
【0022】
つぎに、本発明の運転方法を
図1に基づき説明する。
本発明の運転方法は、閉枠S1、濾過工程S2、ケーキブロー工程S3、洗浄工程S4、圧搾工程S5、センターブロウ工程S6、および開枠S7の各工程からなり、その順で実行される。
なお、上記工程のほか、圧抜きや水抜きなどの公知の工程も実際の運転には含まれるが、本明細書では説明を省略している。
【0023】
以下、上記工程の詳細を
図4および
図5を参酌しながら説明する。
図4は、上記各工程のうち、濾過工程S2、ケーキブロー工程S3、洗浄工程S4および圧搾工程S5における脱水ユニット4の状態を示している。また、
図5はケーキブロー工程S3と洗浄工程S4における脱水ユニット4の一部を拡大して示している。
図4および
図5において、濾板4a,4bや2枚の濾布7,7は少し隙間のある状態で図示されているが、これは形状を分りやすくするためであり、実際の工程中では、濾板4a,4bの外縁部分は互いに密着した閉枠状態であり、2枚の濾布7も濾板4a,4bの外縁部分で押圧され互いに閉じられて袋状になった状態にある。
【0024】
S1:閉枠
図1に示す閉枠S1は、
図2に示す保持フレーム1、2間の複数(通常50~60枚)の脱水ユニット4を油圧シリンダ3で締め付けることにより行う。これにより、
図4に示す各濾板4a,4bにおける外縁部間の隙間が無くなり、原液供給孔5および濾液排出孔や圧搾流体供給孔も互いに連通し、濾過工程や圧搾工程を実行できるようになる。
【0025】
S2:濾過
図1に示す濾過工程S2は、原液供給管11(
図2参照)で供給されたスラリーslを、
図4に示すように、各濾板4a,4bの原液供給孔5を通じて、濾室6内の2枚の濾布7,7間に供給することにより行う。スラリーslはこの濾布7,7の間に充満した後、濾過され固液分離される。分離された固形分は澱物rとなる。また分離された濾液は各濾板4aとダイヤフラム8に形成された溝9を通じ濾液排出孔に集められ、濾液排出管12(
図2に図示)から外部に排出される。
【0026】
S3:ケーキブロー工程
図1に示すケーキブロー工程S3は、原液供給管11(
図2)からエアーaを供給して、
図4および
図5に示すように、原液供給孔5から濾室6内の澱物r内にエアーaを送り込むことにより行う。
このエアーaは澱物r内を通過しつつ濾布7の各所から濾布7に対して垂直に透過した後、濾布7の外側にある濾板4aとダイヤフラム8に形成された溝9に沿って流れ、3カ所の濾液排出孔に集められる。
【0027】
このように澱物rを通過するエアーaは澱物rの中を通るが、この際に澱物rを2枚の濾布7,7に押し付ける。このため、澱物rは2枚の濾布7,7にほぼ均等な厚さで押し付けられると推定され、従来技術で生じていたような澱物rが一方の濾布7側に片寄って存在する偏在は生じない。よって、エアーaの通過に対する抵抗は2枚の濾布7,7に対し全体的に均一となると考えられる。
ここで全体的とは、局所的には澱物rの厚さの変動があって一方の濾布7に抜けるエアーaが多くても、別の場所では他方の濾布7に抜けるエアーaも存在するので、2枚の濾布7,7間でエアーaの通過する量はほぼ同じという意味である。
【0028】
また、上記のようにエアーaが澱物r中を通過する結果、エアーaの通り道となる隙間空間hができると推定されるが、その隙間空間hは一方の濾布7に接近したり他方の濾布7に接近するものの、全体的には2枚の濾布7,7から均等な距離をもつものと考えられる。なお、この通り道は後工程で洗浄水の通り道ともなる。
【0029】
上記のようにケーキブロー工程S3ではエアー圧をかけることにより、澱物rから水分を絞り出すと共に、澱物rを濾布7に密着させ、2枚の濾布7,7に対する澱物厚みを均一にする作用を奏すると考えられる。
このように、本発明のケーキブロー工程S3では脱水作用と澱物厚均一配分作用を発揮すると考えられるが、後者の澱物厚均一配分作用が重要である。
すなわち、この澱物厚均一配分作用によって、濾室6内の左右両側(2枚の濾布7,7)の通過抵抗が均一になるから、後の洗浄工程S4で洗浄水の均一な量の流れが生じるのである。
また、このようにして澱物の厚みが同じになると、低圧の洗浄水でも均一な流量を流せる前提条件を生成することができる。
【0030】
S4:洗浄工程
図1に示す洗浄工程S4は原液供給管11(
図2)から洗浄水を供給して、
図4および
図5に示すように、原液供給孔5から2枚の濾布7,7で挟まれた澱物r内に洗浄水wを供給することにより行う。供給された洗浄水wはケーキブロー工程S3でできたと推定される隙間空間h内に充満し、さらに洗浄水wは澱物rを通過し、濾布7に対し垂直に通り抜けて透過する。そして、各濾板4aの溝9とダイヤフラム8の溝9を通じて濾液排出孔に集められ、最終的には濾液排出管12(
図2参照)から外部に出される。
この際に、澱物rに付着している水溶性有価金属などが洗い流される。
【0031】
上記の洗浄工程S4では、濾室6内の澱物rが一方に偏在することなく2枚の濾布7,7に対しほぼ均等な厚みで存在していると推定されることにより、洗浄水wの通過抵抗も2枚の濾布7,7(左右両面の濾過面)に対し均一化されており、結果として澱物rのほぼ全量に洗浄水wを通過させることができる。
【0032】
本発明の作用の要点は、濾室内の澱物を粉砕するのでは無く、澱物に対して均等に洗浄水を通過させることにある。このため、本工程で用いる洗浄水は低圧水でよくなり、かつ使用量が少なくても、澱物の洗浄を充分に行うことができる。低圧水とは、スラリーslの供給圧力以下の圧力の洗浄水のことを言う。よって、一般的に、スラリーslの供給圧力は0.2~0.3MPa程度であるところ、洗浄水の圧力は0.1MPa程度で良い。このため、一般的なプラントにおける洗浄や冷却等のためのユーティリティー水を、昇圧せずに、そのまま用いることができる。
【0033】
S5:圧搾工程
図1に示す圧搾工程S5は、
図4に示すようにダイヤフラム8を膨張させることにより行われる。
ダイヤフラム8を膨張させる圧搾流体は圧搾流体供給管13(
図2参照)から供給され、各濾板4a,4bに形成されている圧搾流体供給孔を経て、圧搾濾板4b内の通孔からダイヤフラム8の裏面に供給される。
図4に示すように、この圧搾工程S5では、2枚の濾布7,7間の間隔がダイヤフラム8で押されて狭くなり、澱物rの固液分離が更にすすめられて、水分の少なくなった澱物rが得られる。
【0034】
S6:センターブロウ工程
原液供給孔内の残留スラリー等を排出させる。
S
7:開
枠
圧搾流体の供給を止め、ダイヤフラム8を収縮させると、濾布7に挟まれた澱物rに作用する圧搾力は抜ける。ついで、油圧シリンダ3を収縮させて各脱水ユニット4を開枠すると、
図3に示すように濾板4a,4b間の間隔が開くので、澱物をケーキkとして落下させ、外部に取り出すことができる。
【0035】
本実施形態の運転方法によれば、ケーキブロー工程S3において濾室6内にエアーaを吹き込むと、エアーaは澱物r内を通って濾布7を透過して濾室6から排気される。このエアーaの濾室6内の2枚の濾布7,7に対する透過はほぼ均等に行われると考えられるので、澱物rから付着液を絞り出すと共に、濾室6内において澱物rが一方の濾布7側に偏って存在することはなくなると推定される。このため、従来の圧搾によって澱物rから水分を絞り出す方法に比べて洗浄水wの逃げ道ができないので洗浄工程S4に移ったとき洗浄水wはまんべんなく澱物rを洗うことができ、洗浄効率が高くなる。
【実施例】
【0036】
本発明の運転方法の適用例の一つとして、電気ニッケル製造プロセスにおける浄液工程を説明する。
電気ニッケル製造プロセスにおいては、Niなどを含む原料中の金属成分を塩素浸出工程で浸出し、粗塩化Ni溶液を生成する。この粗塩化Ni溶液はFeイオン等の金属成分を不純物として含んでいるため浄液工程でこの不純物を除去したうえで電解採取により電気Niを生産する。
この浄液工程には脱Fe工程も含まれ、粗塩化Ni溶液を酸化条件下で中和することにより脱Fe澱物を生成せしめ、脱Fe澱物スラリーをフィルタープレスにかけFeを固体として除去している。除去された脱Fe澱物は工場外に払い出される。このため、脱Fe澱物に分配されたNiはロスとなる。
【0037】
しかるに、本発明の運転方法を脱Fe工程のスラリー処理に適用すると、既述のごとく本発明の洗浄工程S4は、事前のケーキブロー工程S3による澱物の脱水効果と澱物厚均一配分効果によって、濾布に対する洗浄水の透過が2枚の濾布の間で均等に行われる結果、澱物のほぼ全量の洗浄ができると考えられる。この結果、澱物に付着していた水溶性Niを洗浄水と共に回収できるので、工場外へ払い出される澱物に分配されるNiは少なくなる。
【0038】
上記実施例によれば、同じ洗浄水量であっても、ケーキに残留した水溶性Ni量が、従来の44%に削減された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の運転方法は、とくに制限なくスラリーを固液分離する工程ならどのような工程にも適用できる。たとえば、化学工業、食品工業、鉱工業、医薬品工業、紙パルプ工業、電気電子工業などの製造工程や排水処理工程で発生するスラリーの固液分離に利用できる。
【符号の説明】
【0040】
A フィルタープレス
S1 閉枠
S2 濾過工程
S3 ケーキブロー工程
S4 洗浄工程
S5 圧搾工程
S6 センターブロウ工程
S7 開枠
1,2 保持フレーム
3 油圧シリンダ
4 脱水ユニット
4a 普通濾板
4b 圧搾濾板
5 原液供給孔
6 濾室
7 濾布
8 ダイヤフラム
9 溝
11 原液供給管
12 濾液排出管
13 圧搾流体供給管