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  • 特許-高純度塩化コバルト水溶液の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】高純度塩化コバルト水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 51/08 20060101AFI20220511BHJP
   C01G 51/06 20060101ALI20220511BHJP
   C22B 3/28 20060101ALI20220511BHJP
   C22B 3/42 20060101ALI20220511BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20220511BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20220511BHJP
   C25C 1/08 20060101ALI20220511BHJP
   C25C 7/06 20060101ALI20220511BHJP
   B01D 11/04 20060101ALI20220511BHJP
   C02F 1/04 20060101ALI20220511BHJP
   C02F 1/62 20060101ALI20220511BHJP
   B01J 41/07 20170101ALI20220511BHJP
   B01J 41/12 20170101ALI20220511BHJP
   B01J 47/02 20170101ALI20220511BHJP
   H01M 4/525 20100101ALN20220511BHJP
【FI】
C01G51/08
C01G51/06
C22B3/28
C22B3/42
C22B3/44 101A
C22B3/44 101B
C22B23/00 102
C25C1/08
C25C7/06 301A
B01D11/04 B
C02F1/04 C
C02F1/62 Z
B01J41/07
B01J41/12
B01J47/02
H01M4/525
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018143223
(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公開番号】P2020019664
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】藤 亜季子
(72)【発明者】
【氏名】中川 英一
(72)【発明者】
【氏名】新宮 正寛
(72)【発明者】
【氏名】早田 二郎
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-203134(JP,A)
【文献】特開2017-226568(JP,A)
【文献】特開2009-074132(JP,A)
【文献】特開2000-017347(JP,A)
【文献】特開2016-030847(JP,A)
【文献】特開2013-095979(JP,A)
【文献】特開2011-021219(JP,A)
【文献】特開2008-266774(JP,A)
【文献】特開2012-211375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-47/00
C01G 49/10-99/00
C22B 1/00-61/00
C25C 1/08-7/08
B01D 11/00-12/00
C02F 1/02-1/18、1/58-1/64
B01J 41/00-41/20、47/02
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト及びマグネシウムを含有する塩化ニッケル水溶液にアミン系抽出剤を混合してコバルトを有機相に抽出すると共にコバルトが除去された塩化ニッケル水溶液を得る抽出段、前記有機相に洗浄液を混合して該有機相中に含まれるエントレインメントとして該有機相中に混入した微量のニッケルを除去する洗浄段、及び前記洗浄段で洗浄した有機相に弱酸性水溶液を混合してコバルトを逆抽出して粗塩化コバルト水溶液を得る逆抽出段から構成される溶媒抽出工程と、マグネシウムを含有する塩化コバルト水溶液を前記粗塩化コバルト水溶液に混合して得た混合液に酸化剤及び/又は硫化剤と共に炭酸コバルトのスラリーを添加して不純物を除去する浄液工程とから構成される高純度塩化コバルト水溶液の製造方法であって、前記浄液工程で得た高純度塩化コバルト水溶液の少なくとも一部を電解採取法による電解工程に電解給液として供給すると共に、該電解工程から排出される電解廃液を前記洗浄液として使用するものと、前記炭酸コバルトの生成用の原料として使用するものと、該生成した炭酸コバルトのレパルプ用水溶液として使用するものと、蒸発濃縮して電解給液として繰り返すものとに分配することを特徴とする高純度塩化コバルト水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記炭酸コバルトは、前記電解廃液に炭酸化剤として炭酸ナトリウムを添加し、pH6.5~7.5で炭酸化反応を行うことで生成することを特徴とする、請求項1に記載の高純度塩化コバルト水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記浄液工程が、前記混合液に前記酸化剤及び前記炭酸コバルトスラリーを添加することでpH1.4~3.0及び酸化還元電位800~1050mV(Ag/AgCl電極基準)に調整してマンガン酸化物を生成し、これを除去してマンガンが除去された塩化コバルト水溶液を得る脱マンガン工程と、
前記マンガンが除去された塩化コバルト水溶液に前記硫化剤及び前記炭酸コバルトスラリーを添加することでpH1.3~2.0及び酸化還元電位-100~-50mV(Ag/AgCl電極基準)に調整して銅硫化物を生成し、これを除去してマンガン及び銅が除去された塩化コバルト水溶液を得る脱銅工程と、
前記マンガン及び銅が除去された塩化コバルト水溶液を弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させることによって該塩化コバルト水溶液中の亜鉛を吸着除去して高純度塩化コバルト水溶液を得る脱亜鉛工程とからなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の高純度塩化コバルト水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記アミン系抽出剤が、TNOA(Tri-n-octylamine)又はTIOA(Tri-i-octylamine)であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の高純度塩化コバルト水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記浄液工程で得た高純度塩化コバルト水溶液の質量基準のCo/Mg比が700となるように前記電解廃液を前記洗浄液として使用する量を調整することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の高純度塩化コバルト水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度塩化コバルト水溶液の製造方法に関し、より詳しくは、コバルト及びマグネシウムを含有する塩化ニッケル水溶液、及びマグネシウムを含有する塩化コバルト水溶液を処理してマグネシウム濃度の低い塩化コバルト水溶液を得る高純度塩化コバルト水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルトは、特殊鋼や磁性材料の合金用元素として様々な産業界において広く利用されている。例えば特殊鋼では、コバルトの有する優れた耐摩耗性や耐熱性を活かして航空宇宙、発電機、特殊工具の分野で用いられており、磁性材料では、コバルトを含有する強磁性合金材料が小型ヘッドホンや小型モーター等に用いられている。コバルトは更にリチウムイオン二次電池の正極材の原料としても使用されており、近年、小型パーソナルコンピューターやスマートフォン等の移動式情報処理端末用はもとより自動車用及び電力貯蔵用のリチウムイオン二次電池が普及するに従って、コバルトを含有する正極材料に対する需要は増加の一途をたどっている。
【0003】
コバルトは、鉱物資源としてはニッケルや銅に付随して含まれることが多く、ニッケル製錬や銅製錬の副産物として産出されるものが大半を占めている。そのため、コバルトの製造においては、ニッケルや銅を始めとする他元素からコバルトを効率よく分離することが技術的に重要であり、そのための様々な技術が提案されている。例えばニッケルの湿式製錬において副産物としてコバルトを回収する場合、まず原料に対して鉱酸や酸化剤等を用いて浸出処理又は抽出処理を行うことでニッケル及びコバルトを含む水溶液を得た後、得られた酸性水溶液等に対して各種の有機抽出剤を用いた溶媒抽出を行うことによってニッケル及びコバルトを含む水溶液からコバルトを分離して回収することが一般的に行われている。このようにして回収したコバルトは不純物の品位が低いことが好ましく、特にリチウムイオン二次電池の正極材料の原料として用いる塩化コバルト水溶液では、不純物であるマグネシウムの含有率ができるだけ低いことが求められている。
【0004】
例えば、不純物を含むニッケル水溶液から高純度硫酸ニッケル水溶液を得る方法として、特許文献1には溶媒抽出法が開示されている。この技術は、ニッケルを担持した酸性抽出剤と不純物を含む粗硫酸ニッケル水溶液とを接触させることにより、酸性抽出剤中のニッケルと粗硫酸ニッケル水溶液中の不純物とを置換してニッケルの純度を高めるものである。この特許文献1では、抽出剤の濃度と処理時のpHとを調整することで、不純物、特にマグネシウム品位の低い高純度の硫酸ニッケルが得られると記載されている。
【0005】
上記特許文献1の溶媒抽出法では、粗硫酸ニッケル水溶液中の銅、マンガン、亜鉛、カドミウム等の不純物のほとんどが酸性抽出剤側に抽出されるため、これら不純物元素は、最終的に塩化コバルト水溶液に分配される。そのため、上記溶媒抽出法で得た塩化コバルト水溶液は、例えば特許文献2に開示されているような浄液工程に送られ、ここで該不純物元素の除去が行われる。
【0006】
またニッケル水溶液からコバルトを回収する溶媒抽出法として、アミン系抽出剤を用いる技術が提案されている。例えば特許文献3には、コバルトを含む塩化ニッケル水溶液に対してアミン系抽出剤と希釈剤とからなる有機溶媒を混合することにより、コバルトを溶媒抽出して塩化コバルト水溶液を生成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-100204号公報
【文献】特開2015-203134号公報
【文献】特開2015-183267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したような酸性抽出剤によるニッケル水溶液の抽出処理に際し、マグネシウムはコバルト、カルシウム、鉄などの他の不純物に比べて酸性抽出剤に抽出されにくく、その抽出特性はニッケルとコバルトの中間に位置する。そのため、マグネシウムは他の不純物に比べてニッケル及びコバルトと分離し難いという傾向がある。従って、高純度硫酸ニッケル水溶液にはニッケルと共に液相に分配された一部のマグネシウムが残存することになり、残りのマグネシウムは有機相に抽出された後、粗塩化コバルト液に分配されることとなる。
【0009】
このように、塩化コバルト液にはマグネシウムが含まれるものの、これを選択的に除去するのは困難であった。塩化コバルトは、電解工程で処理されて電気コバルトとして製品化されるほか、中和用の炭酸コバルトの原料として一部使用されることがあり、この炭酸コバルトの生成条件ではマグネシウムはほとんど炭酸塩を生成しないため、炭酸コバルト製造工程においてろ液側にマグネシウムを抜き出すことができる。
【0010】
しかしながら、この炭酸コバルト製造工程から抜き出されるマグネシウムの量は、ニッケルの湿式製錬プラント全体からみれば微量であるため、マグネシウムを効果的に除去するものではなかった。また、塩化コバルト液にマグネシウムが含まれていても、電解工程においてはマグネシウムが電気コバルトに分配されることは無いが、塩化コバルト液は、直接リチウムイオン二次電池の正極材料の原料として用いられるため、塩化コバルト液に許容限度以上のマグネシウムが含まれていると、リチウムイオン二次電池の正極材料の原料として使用することができなくなる。従って、ニッケルの湿式製錬プラントにおいてマグネシウムを効率よく除去して副産物として回収されるコバルトを高純度の塩化コバルト水溶液として製造する方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく、ニッケルの湿式製錬プロセスに組み込まれているコバルト回収プロセス全体におけるマグネシウムの分配挙動に着目して鋭意検討を重ねた結果、高純度塩化コバルト水溶液を電解工程で処理した後に排出される電解廃液にはマグネシウムが濃縮しているため、この電解廃液を上流側の溶媒抽出工程に繰り返すことで、マグネシウム濃度の低い塩化コバルト水溶液を効率的に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る高純度塩化コバルト水溶液の製造方法は、コバルト及びマグネシウムを含有する塩化ニッケル水溶液にアミン系抽出剤を混合してコバルトを有機相に抽出すると共にコバルトが除去された塩化ニッケル水溶液を得る抽出段、前記有機相に洗浄液を混合して該有機相中に含まれるエントレインメントとして該有機相中に混入した微量のニッケルを除去する洗浄段、及び前記洗浄段で洗浄した有機相に弱酸性水溶液を混合してコバルトを逆抽出して粗塩化コバルト水溶液を得る逆抽出段から構成される溶媒抽出工程と、マグネシウムを含有する塩化コバルト水溶液を前記粗塩化コバルト水溶液に混合して得た混合液に酸化剤及び/又は硫化剤と共に炭酸コバルトのスラリーを添加して不純物を除去する浄液工程とから構成される高純度塩化コバルト水溶液の製造方法であって、前記浄液工程で得た高純度塩化コバルト水溶液の少なくとも一部を電解採取法による電解工程に電解給液として供給すると共に、該電解工程から排出される電解廃液を前記洗浄液として使用するものと、前記炭酸コバルトの生成用の原料として使用するものと、該生成した炭酸コバルトのレパルプ用水溶液として使用するものと、蒸発濃縮して電解給液として繰り返すものとに分配することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マグネシウム濃度の低い高純度塩化コバルト水溶液を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る高純度塩化コバルト水溶液の製造方法のプロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る高純度塩化コバルト水溶液の製造方法について図1のプロセスフロー図を参照しながら説明する。この図1に示す高純度塩化コバルトの製造方法は、ニッケルの湿式製錬プロセスに組み込まれたコバルト回収プロセスである。この高純度塩化コバルトの製造方法は、2種類の原料を用いており、それらのうちの第1の原料であるコバルト及びマグネシウムを含有する粗塩化ニッケル水溶液は電気ニッケルの製造プロセスで生成され、第2の原料である含マグネシウム塩化コバルト水溶液は硫酸ニッケルの製造プロセスで生成される。従って、まずこれら2つの上流プロセスについて簡単に説明し、その後、本発明の実施形態の高純度塩化コバルト水溶液の製造方法について説明する。
【0016】
1.電気ニッケルの製造プロセス
電気ニッケルの製造プロセスでは、まず、原料のニッケル・コバルト混合硫化物(MS又はミックスサルファイドとも称する)及びニッケルマットを塩素浸出して塩素浸出液を得る。ニッケル・コバルト混合硫化物の化学組成は、一般的にNiが50~60質量%、Coが4~6質量%、Sが30~34質量%(いずれも乾燥量基準)であり、不純物としてMg、Fe、Cu、Znなどを含んでいる。一方、ニッケルマットの化学組成は、一般的にNiが74~80質量%、Coが約1質量%、Cuが0.1~0.4質量%、Feが0.1~0.7質量%、Sが18~23質量%(いずれも乾燥量基準)であり、不純物としてFe、Cu、Znなどを含んでいる。
【0017】
これらを原料にして得られる塩素浸出液は、主成分が塩化ニッケル溶液であり、不純物としてコバルトのほか、鉄、銅、鉛、マンガン、亜鉛、マグネシウム等を含んでいる。この塩素浸出液は、セメンテーション工程及び脱鉄工程で順次処理される。セメンテーション工程では、原料のニッケルマットスラリー及びニッケル・コバルト混合硫化物スラリーと上記塩素浸出液との混合により該塩素浸出液中の銅が還元されてセメンテーション残渣となることで銅の除去が行われる。脱鉄工程では上記セメンテーション工程で脱銅された塩化ニッケル水溶液に酸化剤及び中和剤を加えて鉄澱物を生成することで脱鉄を行う。このようにして銅及び鉄が除去されることで、前述した第1の原料としてのコバルト及びマグネシウムを含有する粗塩化ニッケル水溶液が得られる。
【0018】
2.硫酸ニッケルの製造プロセス
硫酸ニッケルの製造プロセスでは、まず、原料のニッケルマット又はニッケル・コバルト混合硫化物を加圧浸出して浸出液を得る。この加圧浸出により、ニッケルマットやニッケル・コバルト混合硫化物に含まれるニッケル、コバルト、及び不純物が浸出され、粗硫酸ニッケル水溶液が得られる。上記の加圧浸出の条件は、例えば圧力1.8~2.0MPaG、温度140~180℃である。この加圧浸出で得られる加圧浸出液は主成分が硫酸ニッケル水溶液であり、不純物としてコバルトのほか、鉄、銅、鉛、マンガン、亜鉛、マグネシウム等を含んでいる。
【0019】
上記加圧浸出液としての粗硫酸ニッケル水溶液は、脱鉄工程を経て酸性抽出剤による溶媒抽出工程で処理され、該粗硫酸ニッケル水溶液に含まれる不純物が除去される。上記酸性抽出剤としては、ジ-(2-エチルヘキシル)ホスホン酸(通称D2EHPA)や、2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシル(製品名PC-88A)などの燐酸エステル系酸性抽出剤が用いられる。この酸性抽出剤による溶媒抽出工程は、抽出段、洗浄段、交換段、ニッケル回収段、コバルト回収段、及び逆抽出段から一般的に構成される。
【0020】
上記酸性抽出剤を用いた溶媒抽出では、抽出反応に水素イオンが関与するため、pHによって抽出率が変化する。抽出率は金属によって異なり、Fe>Zn>Cu>Mn>Co>Ca>Mg>Niの順に抽出されやすい。すなわち、Feが最も抽出され易く、Niが最も抽出されにくい。そこで、有機相の流れに従って抽出段、洗浄段、交換段、ニッケル回収段、コバルト回収段、及び逆抽出段の順に段階的にpHを下げていくことにより、これら複数種類の金属をそれぞれの段で別々に分離回収することができる。
【0021】
この酸性抽出剤で抽出されたコバルトは、コバルト回収段にて塩酸水溶液で逆抽出された後、脱亜鉛工程で処理されることで、前述した第2の原料としてのマグネシウムを含有する塩化コバルト水溶液となる。上記したように、マグネシウムの抽出のされやすさは、ニッケルとコバルトの中間に位置するため、脱鉄工程を経て酸性抽出剤による溶媒抽出工程で処理される硫酸ニッケル水溶液に含まれるマグネシウムの大部分についても、コバルト回収段にて塩酸水溶液で逆抽出されるので、脱亜鉛工程を経た後の塩化コバルト水溶液に含まれることになる。このマグネシウムを含有する塩化コバルト水溶液は、例えばCo濃度が70~85g/L程度、Mg濃度が0.1~0.7g/L程度になる。
【0022】
3.高純度塩化コバルト水溶液及び電気コバルトの製造方法
次に、ニッケルの湿式製錬プロセスに組み込まれた本発明の実施形態の高純度塩化コバルトの製造方法について図1を参照しながら説明する。この本発明の実施形態の高純度塩化コバルトの製造方法は、溶媒抽出工程S1、脱マンガン工程S2、脱銅工程S3、脱亜鉛工程S4、電解工程S5、炭酸コバルト製造工程S6、及び蒸発濃縮工程S7で構成されており、脱亜鉛工程S4で得た高純度塩化コバルト水溶液を電解採取法の電解給液として電解工程S5に供給することにより、製品として電気コバルトを製造している。更に、高純度塩化コバルト水溶液は一部抜き取られてリチウムイオン二次電池の正極材料の原料として用いられている。なお、図1において「[]」の内側に記載されている元素は、各溶液に含まれ得る代表的な元素を例示したものであり、これらが必ず記載通りに含まれていることを意味するわけではない。以下、これら工程の各々について説明する。
【0023】
(1)溶媒抽出工程S1
溶媒抽出工程S1は、抽出始液としての前述した第1の原料である粗塩化ニッケル水溶液に対して抽出処理を行うことにより、ニッケルとコバルトとを分離する工程である。この溶媒抽出工程S1は、抽出段S11、洗浄段S12、及び逆抽出段S13から構成されており、それらの各々は、例えば複数のミキサー・セトラー装置を直列に接続して有機相と水相とを互いに向流に流す方式の向流多段方式が好適に用いられる。この場合、ミキサー・セトラーの数は抽出始液の組成、抽出剤の種類、抽出装置等によって適宜定めることができる。このように、有機相と水相との接触を確実に行って効率のよい液液抽出を行うためには向流多段方式を採用することが好ましい。
【0024】
この溶媒抽出工程S1では抽出剤にアミン系抽出剤を使用する。このアミン系抽出剤の種類については特に制約はないが、反応性の高さや水に対する溶解度の低さの点から3級アミン系抽出剤が好ましく、取り扱いやすさや価格等を考慮すると、例えば、TNOA(Tri-n-octylamine)やTIOA(Tri-i-octylamine)がより好ましい。この抽出剤を希釈して抽出用の有機溶媒を調製するための希釈剤としては、水に対する溶解度の低さや良好な油水分離性の点から芳香族炭化水素が好ましい。この希釈剤を抽出剤と混合して有機相(有機溶媒)を調製する際、有機相としての好適な粘度を確保するために抽出剤の濃度を10~40体積%にするのが好ましい。
【0025】
上記のTNOAやTIOA等の3級アミンは、下記式1に示すように塩酸が付加することで活性化し、その結果、下記式2に例示するように金属クロロ錯イオンの抽出能力が発現する。これにより、ニッケルとコバルトの分離特性に優れた抽出剤となる。なお、式1及び式2中の「:」は、窒素原子の非共有電子対を表す。
[式1]
N:+HCl→RN:HCl
[式2]
2RN:HCl+CoCl 2-→(RN:H)CoCl+2Cl
【0026】
上記式2に示す反応から分かるように、抽出段S11では金属元素のクロロ錯イオンとアミンとが反応して金属元素のクロロ錯イオンを担持したアミンが生成される。従ってCo、Cu、Zn、Fe等のクロロ錯イオンを形成する金属種が有機相中に抽出され、クロロ錯イオンを形成しないニッケルやマグネシウムは抽出残液に残留する。これによりNi及びMgがそれ以外の金属元素から分離される。
【0027】
上記抽出段S11から抜き出された抽出後有機は、次に後段の洗浄段S12に移送される。この洗浄段S12では、該抽出後有機に洗浄液を混合することで、前段の抽出段S11において水相から分離しきれず微細な水滴の形態のエントレインメントとして抽出後有機相中に懸濁する主にニッケルからなる不純物が除去される。この洗浄段S12での洗浄は、従来は純度が高い塩化コバルト水溶液である逆抽出液を用いていたが、本発明の実施形態の製造方法では、この洗浄液に後述する電解工程S5から排出される電解廃液を用いている。
【0028】
すなわち、電解廃液は塩化コバルト水溶液からなるため、該電解廃液で有機相を洗浄することによって、抽出段S11からエントレインメントとして持ち込まれる該有機相中のニッケルと塩化コバルト水溶液からなる洗浄液中のコバルトとが置換され、これにより有機相のニッケル濃度を低下させることができる。更に電解廃液にはマグネシウムが濃縮しているため、この電解廃液を洗浄段S12の洗浄液として用いることで、ニッケル製錬プロセスに組み込まれたコバルト回収プロセスの系内から効果的にマグネシウムを抜き出すことができる。つまり、マグネシウムが濃縮した洗浄終液が抽出段に繰り返されることで、マグネシウムが抽出残液側に分配し、図1に示したプロセスから抜出されることになる。
【0029】
これにより、後述する脱亜鉛工程S4で得た高純度塩化コバルト水溶液の質量基準のCo/Mg比を500~1000程度に、より好ましくは700程度にすることができる。なお、このCo/Mg比が所望の値に満たない場合は、上記電解廃液を洗浄液として洗浄段S12に供給する量を増やせばよい。すなわち、上記高純度塩化コバルト水溶液の質量基準のCo/Mg比は、電解廃液を洗浄液として使用する量で調整することができる。
【0030】
上記洗浄段S12で洗浄された洗浄後有機は、次に後段の逆抽出段S13に移送される。この逆抽出段S13では、洗浄済みの有機相である洗浄後有機に弱酸性水溶液を混合することにより、上記式2の逆反応である下記式3に従ってコバルトのクロロ錯イオンを担持したアミンが逆抽出処理される。これにより、コバルトは有機相から水相中に移動する。
[式3]
(RN:H)CoCl→2RN:HCl+CoCl
【0031】
上記したように、溶媒抽出工程S1では、金属のクロロ錯イオンの生成のしやすさに基づき、塩化ニッケル水溶液からコバルト等を分離し、塩化コバルト水溶液を得ている。一般的には溶媒抽出工程S1の抽出始液であるコバルト及びマグネシウムを含有する塩化ニッケル水溶液は、塩化物イオン濃度が200~250g/Lと高濃度であり、Co、Cu、Zn、Feは安定したクロロ錯イオンを形成している。この抽出始液を上記溶媒抽出工程S1で処理することによって、逆抽出段S13からの水相中の塩化物イオン濃度を100g/L以下にまで低減することができる。すなわち、コバルトのクロロ錯イオンは逆抽出段S13の水相中の塩化物イオン濃度が低濃度の領域では不安定となり、塩化コバルトとなって水相中に逆抽出される。ただし、銅、亜鉛、鉄のクロロ錯イオンは該逆抽出段S13の水相中の塩化物イオン濃度が低濃度の領域において安定であるため、それらのほとんどは有機相中に留まる。
【0032】
前述したようにマグネシウムはアミン系抽出剤に抽出されないので、上記の逆抽出段S13から水相側として抜き出される逆抽出液としての粗塩化コバルト水溶液には、マグネシウムは含まれていない。しかしながら、この粗塩化コバルト水溶液には微量のMn、Cu、Zn、Cd等の不純物が含まれている。そのため、以下に示すような脱マンガン工程S2、脱銅工程S3、及び脱亜鉛工程S4で構成される浄液工程でこれら不純物の除去処理が行われる。
【0033】
(2)脱マンガン工程S2
脱マンガン工程S2は、マンガン、銅、亜鉛を含有する上記粗塩化コバルト水溶液に、硫酸ニッケルの製造プロセスから供給される前述した第2の原料であるマグネシウムを含有する塩化コバルト水溶液を混合し、これにより得られる混合水溶液に酸化剤を添加すると共に炭酸コバルトスラリーを添加してpHを1.4~3.0に調整することにより、マンガンの酸化物からなる沈澱物を生成させ、これを固液分離により除去してマンガンが除去された脱Mn塩化コバルト水溶液を得る工程である。
【0034】
すなわち、塩化コバルト水溶液中のマンガンは、酸化剤による高酸化性雰囲気下での反応により酸化物からなる沈澱物を生成するため、塩化コバルト水溶液から分離除去することができる。この高酸化性雰囲気下での酸化物の生成反応は、例えば酸化剤として塩素ガスを用いた場合は下記式4により表すことができる。
[式4]
Mn2++Cl+2CoCO→MnO+2Cl+2Co2++2CO
【0035】
この生成反応は、pHが1.4未満ではマンガンの除去が不十分となり、3.0を超えるとマンガンの沈澱に伴うコバルトの共沈澱量が増加する。また、酸化還元電位(ORP)は800~1050mV(Ag/AgCl電極基準)に調整することが好ましい。上記酸化還元電位が800mV未満では水溶液中のマンガンの除去が不十分となり、逆に酸化還元電位が1050mVを超えてもさらなるマンガンの除去効果は得られないため経済的でない。上記酸化還元電位は、酸化剤の添加量によって調整することができる。使用する酸化剤としては、特に限定されるものではないが、酸化還元電位を800mV以上に維持することができ、アルカリ金属等による新たな不純物汚染の恐れがなく、しかも安価であることから塩素ガスが好ましい。
【0036】
この脱マンガン工程S2で処理する粗塩化コバルト水溶液は、pH1.4未満の強酸性水溶液であるため、炭酸コバルトスラリーを適量添加することで上記のpHの範囲内となるように調整する。このようにpH調整に炭酸コバルトを用いることで他の不純物金属元素の混入を避けることができる。また、炭酸コバルトを後述する炭酸コバルト製造工程S6において作製することにより、ニッケル湿式製錬プロセスに組み込まれているコバルト回収プロセス系内からマグネシウムをろ液として効果的に抜き出すことも可能になる。
【0037】
(3)脱銅工程S3
脱銅工程S3は、上記脱マンガン工程S2で得られたマンガンが除去された脱Mn塩化コバルト水溶液に硫化剤を添加すると共に、炭酸コバルトスラリーを添加してpHを1.3~2.0に調整することにより、塩化コバルト水溶液から銅の硫化物からなる沈澱物を生成させ、これを固液分離により除去してマンガン及び銅が除去された脱Cu塩化コバルト水溶液を得る工程である。すなわち、塩化コバルト水溶液中の銅は、下記化学式5に従って硫化銅の沈澱物を生成して、水溶液中から除去される。
[式5]
CuCl+HS→CuS+2HCl
【0038】
この生成反応では、pHが1.3未満では、水溶液中の銅の除去が不十分となると共に、生成する硫化物沈澱のろ過性が悪化する。逆にpHが2.0を超えると、銅の除去に伴うコバルト共沈澱量が増加するため好ましくない。また、塩化コバルト水溶液の酸化還元電位(ORP)を-100~-50mV(Ag/AgCl電極基準)に調整することが好ましい。すなわち、酸化還元電位が-50mVを超えると水溶液中の銅の除去が不十分となり、逆に酸化還元電位が-100mV未満ではコバルトの共沈殿量が増加するため好ましくない。
【0039】
上記酸化還元電位は、硫化剤の添加量によって調整することができる。硫化剤としては、特に限定されるものではないが、硫化水素、硫化ナトリウム、水硫化ナトリウム等を用いることができ、これらの中ではアルカリ金属等による新たな不純物汚染の恐れがない点で硫化水素ガスが好ましい。また、上記pHは、硫化剤として硫化水素や水硫化ナトリウムを用いる場合は、その硫化剤の添加量とpH調整剤としての炭酸コバルトスラリーの添加量とによって調整することができる。上記のように、pH調整剤として炭酸コバルトスラリーを用いることで、他の不純物金属元素の混入を避けることができる。この炭酸コバルトスラリーは、前述したように、炭酸コバルト製造工程S6においてマグネシウムをろ過側に抜き出しながら作製することができる。
【0040】
(4)脱亜鉛工程S4
脱亜鉛工程S4は、上記脱銅工程S3で得られたマンガン及び銅が除去された塩化コバルト水溶液を弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させることによって、該塩化コバルト水溶液中の亜鉛を吸着除去し、これにより高純度塩化コバルト水溶液を得る工程である。すなわち、塩化コバルト水溶液中の亜鉛は、下記式6に従って弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着されることにより、塩化コバルト水溶液中から除去される。
[式6]
ZnCl 2-+2R(CH)N:H-Cl
→(R(CH)N:H)ZnCl+2Cl
(式中のRは樹脂の基材(母体)を表し、「:」は窒素原子の非共有電子対を表す。)
【0041】
この脱亜鉛工程S4で得た高純度塩化コバルト水溶液は、後段の電解工程S5に電解給液として連続的に供給される。なお、この高純度塩化コバルト水溶液は、その一部をリチウムイオン二次電池の正極材の製造工程に移送してリチウムイオン二次電池の正極材料の原料として用いてもよい。この場合、リチウムイオン二次電池の正極材の製造工程では、高純度塩化コバルト水溶液と硫酸ニッケル水溶液を所定の比率で混合し、更にアルミン酸ソーダを添加してアルミニウム比率を調整し、中和剤を添加することにより、Ni-Co-Alの混合水酸化物を生成する。更に、Ni-Co-Alの混合水酸化物を乾燥し、水酸化リチウムと混合して焙焼することにより、リチウムイオン二次電池の正極材が完成する。
【0042】
脱亜鉛工程S4において弱塩基性陰イオン交換樹脂に供給する塩化コバルト水溶液は、上記脱銅工程S3で処理された後の塩化コバルト水溶液であるから、そのpHは1.3~2.0であり、塩化物イオン濃度は100g/L以下である。前述の通り、このように塩化物イオン濃度が低い場合、塩化コバルト水溶液中のCu、Zn、Fe等はクロロ錯イオンを形成するが、Coはクロロ錯イオンを形成しない。
【0043】
上記した低い塩化物イオン濃度では、陰イオン交換樹脂に対するコバルトの分配係数はほぼゼロであるが、亜鉛クロロ錯イオンの分配係数は1000程度である。従って、亜鉛を含有する塩化コバルト水溶液を弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させることによって、塩化コバルト水溶液中の亜鉛を選択的に吸着除去することができる。この脱亜鉛工程S4において用いる弱塩基性イオン交換樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、オルガノ社製の弱塩基性陰イオン交換樹脂IRA400(商品名)およびIRA96SB(商品名)を好適に使用することができる。
【0044】
なお、この脱亜鉛工程S4に用いる亜鉛吸着装置は一般的なものでよく、例えばカラム方式の充填塔を用いることができる。充填塔の場合は、塔内充填部の流速分布が流れ方向に垂直な断面全体に亘ってほぼ均一になるような給液方法が好ましく、一般的には塔底から給液する方式よりも塔頂から給液する方式が好ましいが、これは使用する装置の構造等によって異なる場合がある。
【0045】
(5)電解工程S5
電解工程S5は、上記脱亜鉛工程S4で得られた高純度塩化コバルト水溶液の少なくとも一部を不溶性電極をアノードに用いた電解採取法の電解給液として供給することにより電気コバルトを生成する工程である。その際、副生成物として塩素ガス及び電解廃液が排出される。この電解工程S5では、まず種板電解により母板に薄くコバルトを電着させて種板を製造し、その電着した種板を剥ぎ取って加工することでカソードを作製する。このカソードの加工は、具体的には剥ぎ取った種板の4辺を切断等によりトリミングし、その上辺部2ヶ所に湾曲させた吊手リボンの両端部を取り付ける。この吊手リボンの内側に導電及び支持のためのクロスビームを挿通させることで、該カソードを電解槽内に垂下させることができる。
【0046】
上記の電解槽には電解液が満たされており、この電解液に浸漬するようにカソードとアノードを交互に並べ、コマーシャル電解用の直流電流を流すことによって電気コバルトを作製することができる。上記アノードには、チタン板に酸化ルテニウムがコーティングされたものを用いる。アノード表面からは電気分解によって塩素ガスが発生するので、アノードは隔膜に隔てられたアノードボックス内に収められており、このアノードボックスから塩素ガスと電解廃液とが吸引排出される。
【0047】
この電解工程S5での電解条件の一具体例を挙げると、アノード及びカソードの寸法が約1m×0.8m、電解槽1槽当たりカソードが52枚及びアノードが53枚、電流密度は270A/m、通電時間は種板電解が約1日、コマーシャル電解が7~10日である。電解給液は連続的に供給され、その供給量は電解槽1槽当たり35~45L/分である。
【0048】
この電解工程S5では電解採取法による電気分解が行われるので、電解給液のコバルト濃度に対して電解廃液のコバルト濃度は低下するが、マグネシウム濃度は低下しない。従来、この電解工程S5から排出される電解廃液は、後述する炭酸コバルトの原料として使用される以外は電解給液として繰り返していた。その際、コバルト濃度を一定に保つために電解廃液を後述する蒸発濃縮工程S7で蒸発濃縮する。従って、マグネシウムは電解工程S5の系内に徐々に蓄積していくことになる。従来は、マグネシウムは、炭酸コバルトへの付着液や炭酸コバルトのレパルプ用水溶液としての電解廃液として浄液工程に繰り返されるため、ニッケル製錬プロセスに組み込まれたコバルト回収プロセスの系内に徐々に蓄積しくことになっていた。よって、上記脱亜鉛工程S4で得られた高純度塩化コバルト水溶液のマグネシウム濃度が高い状態となっていた。
【0049】
そこで、本発明の実施形態の高純度塩化コバルト水溶液の製造方法では、電解工程S5から排出される電解廃液を、上記洗浄段S12の洗浄液として使用するものと、後述する炭酸コバルト製造工程S6において炭酸コバルトの生成用の原料として使用するものと、該生成した炭酸コバルトのレパルプ用水溶液として使用するものと、後述する蒸発濃縮工程S7において蒸発濃縮して電解給液として繰り返すものとに分配している。
【0050】
(6)炭酸コバルト製造工程S6
炭酸コバルト製造工程S6は、上記の電解工程S5から排出される電解廃液の一部を抜き取って、炭酸化反応により炭酸コバルトを生成し、これを固液分離により回収した後に電解廃液でレパルプして炭酸コバルトスラリーを製造する工程である。この炭酸コバルト製造工程S6では、炭酸化剤として炭酸ナトリウムを用いるのが好ましい。炭酸ナトリウムは、入手が容易でコスト上有利だからである。
【0051】
また、炭酸化反応時はpHを6.5~7.5とすることが好ましい。pHが6.5未満ではろ液中のコバルト濃度が増加するため、そのまま排水処理工程で処理するとコバルトのロスになり、逆にpHが7.5を超えると水酸化物を生成し、ろ過性が悪化するからである。上記のように生成した炭酸コバルトを固液分離した後、電解廃液でレパルプすることにより、炭酸塩を生成しないマグネシウムをろ液として排出することができる。固液分離装置には特に限定がなく、フィルタープレス等のろ過器を使用することができるが、デカンターと称される連続式の遠心重力分級器が好ましい。
【0052】
(7)蒸発濃縮工程S7
蒸発濃縮工程S7は、上記電解工程S5で得られた電解廃液のうち、溶媒抽出工程S1及び炭酸コバルト製造工程S6で使用した以外の残部を蒸発濃縮して、該電解工程S5の電解給液として繰り返す工程である。蒸発濃縮装置としては一般的な真空蒸発濃縮装置を使用することができるが、低pHかつ高塩化物イオン濃度水溶液を取り扱うため、その接液部は耐腐食性の材質を用いるのが好ましい。なお、蒸発濃縮工程S7で処理する電解廃液は、上記電解工程S5から排出される電解廃液の全量から、上記溶媒抽出工程S1の洗浄段で使用する量と、上記炭酸コバルト製造工程S6で炭酸化によって生成される炭酸コバルトの原料として使用する量と、炭酸コバルト製造工程S6でレパルプのために使用する量とを減じた残量となる。
【0053】
上記したように、本発明の実施形態の高純度塩化コバルト水溶液の製造方法ではマグネシウムが濃縮した電解廃液を溶媒抽出工程の洗浄段における洗浄始液として用いることで、コバルト回収プロセスの系内でのマグネシウムの蓄積を防止でき、よってマグネシウム濃度の低い高純度塩化コバルト水溶液を効率よく製造することができる。
【実施例
【0054】
[実施例]
図1に示すような高純度塩化コバルトの製造プロセスフローに従って約3ヶ月間の実操業を行った。その結果、電解廃液中の質量基準のCo/Mg比を170にすることができ、結果的に脱亜鉛工程S4で得た塩化コバルト水溶液中の質量基準のCo/Mg比を700にすることができ、マグネシウム濃度の低い高純度塩化コバルト水溶液を得ることができた。
【0055】
[比較例]
比較のため、溶媒抽出工程S1の洗浄段S12に導入する洗浄液に、電解廃液に代えて逆抽出段S13から抜き出される粗塩化コバルト水溶液の一部を使用した以外は上記の実施例と同様にして約3ヶ月間の実操業を行った。その結果、電解廃液中のマグネシウム濃度は0.7g/Lとなり、結果的に脱亜鉛工程S4で得た塩化コバルト水溶液中の質量基準のCo/Mg比が450となり、上記実施例に比べてマグネシウム濃度が高くなった。
【符号の説明】
【0056】
S1 溶媒抽出工程
S2 脱マンガン工程
S3 脱銅工程
S4 脱亜鉛工程
S5 電解工程
S6 炭酸コバルト製造工程
S7 蒸発濃縮工程
S11 抽出段
S12 洗浄段
S13 逆抽出段
図1