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特許7070211磁性ワイヤ整列装置および磁性ワイヤ整列方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】磁性ワイヤ整列装置および磁性ワイヤ整列方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20220511BHJP
   H01L 43/00 20060101ALI20220511BHJP
   B23K 26/38 20140101ALI20220511BHJP
   B23D 57/00 20060101ALN20220511BHJP
   H01F 1/03 20060101ALN20220511BHJP
【FI】
G01R33/02 D
H01L43/00
B23K26/38 A
B23D57/00
H01F1/03 104
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018145098
(22)【出願日】2018-08-01
(65)【公開番号】P2019035743
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-04-13
(31)【優先権主張番号】15/674,171
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西畑 克彦
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-206683(JP,A)
【文献】特開2016-213304(JP,A)
【文献】特開平11-144970(JP,A)
【文献】特開2014-24115(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0074951(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/02
H01L 43/00
B23K 26/38
B23D 57/00
H01F 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤボビン、ワイヤリール、ワイヤ張力負荷装置、および磁性ワイヤの所定位置からの位置ずれ防止のために前記磁性ワイヤを直接狭圧することなく保持するワイヤ保持部を備えたワイヤ供給装置部と、
ワイヤ引出しチャック、引出張り状態の前記磁性ワイヤの所定位置からの位置ずれ防止のために前記磁性ワイヤの中間位置を直接狭圧することなく保持するワイヤ中間保持部、前記磁性ワイヤを整列させるためのワイヤ整列用基板、該ワイヤ整列用基板を固定するための基板固定台、および前記磁性ワイヤを切断するワイヤ切断機を備えたワイヤ整列装置部と、
前記引出張り状態の前記磁性ワイヤの長手方向位置によって定められる基準線と前記ワイヤ整列用基板上に前記磁性ワイヤを整列させるための所定位置を示す基軸線との位置ずれ状態を検知する位置ずれ検出装置と、
前記磁性ワイヤを、前記ワイヤ引出しチャックにより引出し、前記ワイヤ整列用基板上の基軸線上に配置し、その後切断する一連の工程を連続的に行うための、装置の各部位の動作を制御する制御装置部とを有し、
前記基板固定台は、前記引出張り状態の前記磁性ワイヤの前記基準線に、前記ワイヤ整列用基板上の前記基軸線を位置ずれなく合わせることを可能にするための横送り、昇降、回転によって位置調整するための位置調整装置と、前記磁性ワイヤを前記ワイヤ整列用基板上の前記基軸線上に、磁力により吸着させるための磁力発生装置とを備えていることを特徴とする磁性ワイヤ整列装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁性ワイヤ整列装置において、
前記ワイヤ整列用基板は、前記磁力発生装置と一体となった状態で前記基板固定台に脱着できるように構成されていることを特徴とする磁性ワイヤ整列装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の磁性ワイヤ整列装置において、
前記磁力発生装置は、複数の柱形状の磁石が、前記ワイヤ整列用基板上の前記基軸線に対し、垂直な方向となるように隣接して配置されてなる複合磁石を、鉄ヨークに埋設した構造を有し、前記複数の柱形状の磁石は、交互にN極、S極に並ぶように配置されていることを特徴とする磁性ワイヤ整列装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の磁性ワイヤ整列装置において、
前記ワイヤ中間保持部は、前記磁性ワイヤを収容する溝が形成されたガイド部を備え、前記ワイヤ整列用基板の前記ワイヤ供給装置部側の端と前記ワイヤ切断機による切断位置との中間に位置する前記磁性ワイヤを位置ずれなく保持するように構成されていることを特徴とする磁性ワイヤ整列装置。
【請求項5】
請求項4に記載の磁性ワイヤ整列装置において、前記ワイヤ中間保持部は、さらに前記磁性ワイヤを磁力によって吸着保持するための磁石を備えていることを特徴とする磁性ワイヤ整列装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の磁性ワイヤ整列装置において、
前記ワイヤ保持部は、前記磁性ワイヤを収容する溝が形成されたガイド部を備え、前記ワイヤ切断機による切断位置よりも前記ワイヤ供給装置部側に位置する前記磁性ワイヤを位置ずれなく保持するよう構成されていることを特徴とする磁性ワイヤ整列装置。
【請求項7】
請求項6に記載の磁性ワイヤ整列装置において、前記ワイヤ保持部は、さらに前記磁性ワイヤを磁力によって吸着保持するための磁石を備えていることを特徴とする磁性ワイヤ整列装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の磁性ワイヤ整列装置において、
前記磁性ワイヤを整列させる所定位置を示す前記基軸線は、前記ワイヤ整列用基板上に形成された溝の長手方向に沿った線、又は前記ワイヤ整列用基板上の1本の前記基軸線当たり少なくとも2箇所以上の位置に形成された複数のガイドを結んだ線によって示されることを特徴とする磁性ワイヤ整列装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の磁性ワイヤ整列装置において、
前記ワイヤ切断機は、刃を用いた機械式切断機、又はレーザを用いたレーザ切断機から構成されていることを特徴とする磁性ワイヤ整列装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の磁性ワイヤ整列装置において、
前記ワイヤ供給装置部は、複数本の前記磁性ワイヤを同時に供給でき、供給された複数本の前記磁性ワイヤを同時に、前記ワイヤ整列用基板上の対応する複数の前記基軸線の位置に整列することができるように構成されていることを特徴とする磁性ワイヤ整列装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の磁性ワイヤ整列装置において、
前記制御装置部は、前記磁性ワイヤを素子間の間隔ピッチと素子内の間隔ピッチの組み合わせからなるピッチ送りの組み合わせを制御するプログラムから構成されていることを特徴とする磁性ワイヤ整列装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の磁性ワイヤ整列装置において、
前記基板固定台は、前記基準線に対して前記基軸線の位置ずれを吸収するために、前記ワイヤ整列用基板を上昇させる際に振動可能な揺らし機構を備えていることを特徴とする磁性ワイヤ整列装置。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の磁性ワイヤ整列装置を使用して前記磁性ワイヤを前記ワイヤ整列用基板上のワイヤ整列の所定位置である前記基軸線上に整列させる磁性ワイヤ整列方法であって、
前記磁性ワイヤに張力を負荷した状態で前記磁性ワイヤを前記ワイヤ引出しチャック、前記ワイヤ保持部及び前記ワイヤ中間保持部により、前記ワイヤ整列用基板上の前記基軸線上からの移動を阻止された状態で保持すると共に、前記基板固定台の前記磁力発生装置の磁力により前記磁性ワイヤを前記ワイヤ整列用基板上に吸着し、
前記ワイヤ整列用基板上に保持および吸着された前記磁性ワイヤを、前記磁性ワイヤの内部応力を前記磁性ワイヤの長手方向に一様にした状態で、前記ワイヤ切断機により切断し、
前記ワイヤ保持部、前記ワイヤ中間保持部と前記ワイヤ引出しチャックによって保持又は固定された状態から解放して前記磁性ワイヤを拘束のない状態に解放することにより、前記磁性ワイヤのひねり方向の応力のない状態の前記磁性ワイヤを、前記ワイヤ整列用基板上の前記基軸線位置に前記磁力発生装置による磁力により仮止めして維持することを特徴とする磁性ワイヤの整列方法。
【請求項14】
請求項13の磁性ワイヤの整列方法において、
前記磁性ワイヤを前記ワイヤ整列用基板に仮止め維持した状態で、さらに前記ワイヤ整列用基板に樹脂を塗布し固化させて、前記磁性ワイヤをひねり応力のない状態で前記ワイヤ整列用基板に固定することを特徴とする磁性ワイヤの整列方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性ワイヤを基板上の多数の溝等で示された所定位置に沿って、ひねり応力を残存させることなく多数本整列配置する装置および磁性ワイヤ整列方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超高感度マイクロ磁気センサであるMIセンサや直交フラックスゲート型センサは、毛髪(直径約150μm)よりも細い例えば直径10~30μm程度の極細のアモルファス磁性ワイヤを感磁体としたもので、電子コンパス、医療用センサ、セキュリティセンサなど幅広く使用されている。例えば、磁界検知素子である検出コイル出力型MI素子では、素子の長手方向に配置したアモルファスの磁性ワイヤと、それを周回するように設けられた検知コイルと、前記コイル両端及びワイヤ両端に接続された電極とを、基板上に有する。
【0003】
ここで、前記磁気センサに感磁体として用いられる磁性ワイヤは、内部応力を調整し、磁気特性を改善するため、事前に張力を負荷した状態で熱処理がされる。従って、磁気センサとして用いるのに適した磁気特性に調整し、かつこの磁性ワイヤを用いてMIセンサを製造する際は、熱処理により適した状態となっている磁性ワイヤに対し、新たな応力が負荷されることにより性能低下を招かないように、ワイヤと電極を接続する必要があり、これを生産性良く量産する技術開発が必要となっていた。
【0004】
すなわち、磁性ワイヤを用いてMIセンサを製造する際には、例えば直径10~30μm程度のワイヤが素子基板上に取り付けられ、ワイヤ両端を電極に接続する必要がある。例えば、両端を電極に接続する方法としては、半田付けが考えられるが、非常に極細のワイヤに対し、単純に半田付けをした場合、ワイヤへの応力負荷を避けつつ接続することは、非常に難しい。
【0005】
つまり、半田付け後にワイヤに内部応力が負荷されることとなって磁性ワイヤの磁気特性が大きく低下する。このことは磁気センサの性能低下の大きな原因となる。また、非常に極細のため、そもそも電極と接続する以前に基板上に応力が負荷されないよう、生産性良く配置すること自体も、非常に困難である。
【0006】
この問題を解決するための提案として、特許文献1には、磁性ワイヤを基板上にフリーな状態に設置しておいて、素子毎の磁性ワイヤ両端を超音波により固定する方法が開示されている。この技術は、ひねり応力の発生が無くなり、対称性を有するセンサ出力を得られるという特徴がある。
【0007】
現在、MIセンサは、用途の拡大に伴い、その高感度化、マイクロサイズ化、測定レンジの拡大など一層の性能改善が求められている。例えば、要求される性能改善の一つとして、より高感度かつ小型化を求めたMI素子の開発では、磁性ワイヤの直径の30μmから10μmへの細径化、素子内の磁性ワイヤ感磁体の複数化、ワイヤ周囲に巻かれる検出コイルのファインピッチ化等の検討が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-81471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記した通り、アモルファス磁性ワイヤの有する磁気特性を最大限活かした性能を有するMIセンサを量産可能とするには、複数の課題を解決する必要があるが、まずは、生産性良く基板上の所定の位置に、毛髪よりも細い極細の磁性ワイヤを、応力が負荷されることで磁気特性の低下を招かないように生産性良く配置できる、ワイヤ整列装置を開発することが必要不可欠である。
【0010】
上記特許文献1の方法は、一点一点を超音波接合するので極めて生産性が悪い上に、生産性良くワイヤを基板上に整列する技術について、何ら参考となる技術を提案するものではなかった。また、前記した通り、MI素子の高感度化、小型化等といった磁気センサとしての性能向上の取組みが行われているが、そもそもこのような改善をする前に、ワイヤを効率よく整列させる技術がなければ、MI素子の仕様に関係なく、量産自体が困難である。
【0011】
しかしながら、本発明の開発開始時において、直径が毛髪よりもはるかに細い数十μm程度の極細の細線を基板上の所定の位置に多数本、連続的に生産性良く整列させることが可能な設備は提案されておらず、このような細線を基板上に整列すること自体の要求が必要となる製品もなかったため、そもそも既存のワイヤ整列装置自体の技術が皆無の状態である。
【0012】
本発明は、前記課題を解決するために成されたものであり、事前に張力を負荷した状態で熱処理することにより最適状態に磁気特性が改善された磁性ワイヤの性能を最大限活かした磁気センサを量産可能とするために、余分な応力が負荷されて、磁気特性の低下を招かないよう、基板上の所定の位置に生産性良くワイヤを整列することを可能とする磁性ワイヤ整列装置、及び磁性ワイヤの整列方法を提供することを目的とする。
すなわち、磁性ワイヤを基板上のワイヤを整列させる所定の位置である基軸線上にひねり応力を残存させることなく整列配置することができる、磁性ワイヤ整列装置、および磁性ワイヤの整列方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上説明した課題を解決するために成された本発明は、
ワイヤボビン、ワイヤリール、ワイヤ張力負荷装置、および磁性ワイヤの所定位置からの位置ずれ防止のために前記磁性ワイヤを直接狭圧することなく保持するワイヤ保持部を備えたワイヤ供給装置部と、
ワイヤ引出しチャック、引出張り状態の前記磁性ワイヤの所定位置からの位置ずれ防止のために前記磁性ワイヤの中間位置を直接狭圧することなく保持するワイヤ中間保持部、前記磁性ワイヤを整列させるためのワイヤ整列用基板、該ワイヤ整列用基板を固定するための基板固定台、および前記磁性ワイヤを切断するワイヤ切断機を備えたワイヤ整列装置部と、
前記引出張り状態の前記磁性ワイヤの長手方向位置によって定められる基準線と前記ワイヤ整列用基板上に前記磁性ワイヤを整列させるための所定位置を示す基軸線との位置ずれ状態を検知する位置ずれ検出装置と、
前記磁性ワイヤを前記ワイヤ引出しチャックにより引出し、前記ワイヤ整列用基板上の基軸線上に配置し、その後切断する一連の工程を連続的に行うための、装置の各部位の動作を制御する制御装置部とを有し、
前記基板固定台は、前記引出張り状態の前記磁性ワイヤの前記基準線に、前記ワイヤ整列用基板上の前記基軸線を位置ずれなく合わせることを可能にするための横送り、昇降、回転によって位置調整するための位置調整装置と、前記磁性ワイヤを前記ワイヤ整列用基板上の前記基軸線上に、磁力により吸着させるための磁力発生装置とを備えていることを特徴とする磁性ワイヤ整列装置にある。
【0014】
以下、本発明である磁性ワイヤ整列装置の開発が成功したポイントについて説明する。
まず、第1に、極細の磁性ワイヤをワイヤ整列用基板上のあらかじめ定められた所定位置に整列するためには、磁性ワイヤをまず直線状に張った状態としてから整列する必要がある。しかし、磁気特性の低下を防止するために、この整列の際に余分な応力が負荷されないようにしなければならない。
【0015】
そこで、あらかじめ張力熱処理がされた磁性ワイヤが巻かれたワイヤボビンから磁性ワイヤを直線状に張った状態でワイヤ引出しチャックにより引出す際に、ワイヤ張力負荷装置を用いることにより、磁性ワイヤの長手方向にかかる張力が適正な値となるよう厳しく管理することとした。
【0016】
具体的には、事前に磁性ワイヤの機械的特性(弾性限界応力等)を把握しておき、磁性ワイヤにかかる応力が磁性ワイヤの弾性域内となるよう正確に調整できるようにした。極細の磁性ワイヤは、非常に小さな張力で伸びたり、破断したりしてしまうことから、この調整は極めて重要であり、このワイヤ張力負荷装置の採用によって、磁性ワイヤを直線状に張った状態としつつ、破断の防止は勿論の事、磁気特性が低下することなく整列させることが可能となる。
【0017】
第2に、本発明では、ワイヤ直径が例えば10~30μm程度の極細の磁性ワイヤを、ワイヤ整列用基板上の所定位置に精度良く整列させなければならないが、この所定位置は、その幅がワイヤ直径に比べわずかに広いだけであり、極めて難しい作業の自動化が求められる。
【0018】
そこで、まず、基準となる線を基板側ではなく、前記した磁性ワイヤをワイヤ引出しチャックにより直線状に引出した際の位置を基準線とし、この基準線の位置と磁性ワイヤを整列させる所定位置であるワイヤ整列用基板上の基軸線の位置との間の位置ずれ状態を正確に検知できる位置ずれ検出装置を設けることとした。
【0019】
さらに、測定した位置ずれ状態に基づき、ワイヤ整列用基板上のワイヤを整列させる所定位置である基軸線を前記した磁性ワイヤを張った位置である基準線に正確に合わせることができるようにするために、ワイヤ整列用基板を固定する基板固定台に対し、ワイヤ整列用基板を固定しつつ、回転、昇降、横送り(水平移動)ができる機能を設け、基準線の位置に対し、容易に基軸線を精度良く合わせられるようにした。極細の磁性ワイヤを自由に取扱うことは非常に難しく、ワイヤ整列用基板側を磁性ワイヤを張った位置(基準線)にずれなく合うよう移動させる方が、はるかに容易なためである。
【0020】
第3に、本発明では、磁性ワイヤをワイヤ整列用基板上に整列させた後、引き続いてワイヤ整列用基板上の別の基軸線上に継続して磁性ワイヤを整列させなくてはならないことから、必ず整列直後に磁性ワイヤを切断しなければならない。この切断の際に折角整列させた磁性ワイヤが基軸線からずれてしまっては、それまでの作業が無駄となり、かつ量産も不可能となる。
【0021】
そこで、本発明では、前記した基板固定台を、磁力発生装置を備えた構造とし、磁性ワイヤを切断した後も整列させた磁性ワイヤが基軸線上からずれることなく、そのまま維持できるようにした。この磁力発生装置により、磁性ワイヤをその長手方向位置に関係なくほぼ均等な力でワイヤ整列用基板上の基軸線に吸着させた状態とすることができるため、切断時に磁性ワイヤにひねり応力といった余分な応力を負荷させることなく、切断することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、あらかじめ張力熱処理がされた磁性ワイヤが巻かれているワイヤボビンからワイヤ張力負荷装置により適切な応力が負荷された状態で直線状に引出した磁性ワイヤの位置を基準線とし、ワイヤ整列用基板上の磁性ワイヤを整列させる所定位置である基軸線を、ワイヤ整列用基板を固定した基板固定台に昇降、回転、横移動の機能をもたせることにより、前記基準線に容易にずれなくあわせることができるようにしている。
【0023】
また、磁性ワイヤを切断した後も継続して基軸線から位置ずれなく維持するために、基板固定台に、磁性ワイヤを吸着するための磁力発生装置を設けている。これにより、多数の感磁ワイヤを基板上に効率良く、かつひねり等の余分な応力を負荷させることなく整列させることが可能となり、極細の磁性ワイヤを用いる磁気センサである直交フラックゲートセンサやMIセンサの量産を可能とすることができる。
【0024】
また、本発明により、同じ素子内に複数本の磁性ワイヤを整列させたり、小型の磁気センサ製造のため、非常に狭い間隔毎に精度良く極細の磁性ワイヤを整列させたりする等の製造が可能となり、性能が高くかつ小型化した磁気センサの量産製造を可能にできるという大きな効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】磁性ワイヤ整列装置の全体構成を示す概念正面図である。
図2】ワイヤ保持部の上流側部分における平面図である。
図3】ワイヤ固定時におけるワイヤ保持部の下流側部分、ワイヤ切断機、ワイヤ中間保持部の位置関係を示す平面図である。
図4】ワイヤ切断時におけるワイヤ保持部の下流側部分、ワイヤ切断機、ワイヤ中間保持部の位置関係を示す平面図である。
図5】ワイヤ固定時におけるワイヤ切断機の可動刃と固定刃の位置関係を示す側面図(ワイヤ軸方向から視た図)である。
図6】ワイヤ切断時におけるワイヤ切断機の可動刃と固定刃の位置関係を示す側面図(ワイヤ軸方向から視た図)である。
図7】ワイヤ保持部のキャップ部材の側面図(ワイヤ軸方向から視た図)である。
図8】ワイヤ引出しチャックの側面図(ワイヤ軸方向から視た図)である。
図9】ワイヤ整列用基板と(磁力発生装置)と固定ジグの平面図である。
図10】ワイヤ整列用基板と磁力発生装置と固定ジグの側面図である。
図11】ワイヤ整列用基板の部分拡大平面図である。
図12】ワイヤ整列用基板の部分拡大側面図である。
図13】磁力発生装置の構造を示す概念斜視図である。
図14】第1の変更形態における磁性ワイヤ整列装置のワイヤ供給装置部側の正面図である。
図15】第2の変更形態における磁性ワイヤ整列装置のワイヤ供給装置部側の正面図である。
図16】第3の変更形態におけるワイヤ保持部、ワイヤ切断機、ワイヤ中間保持部の位置関係を示す平面図である。
図17】基板23の基軸線位置を明確にする方法として、基板にガイドとなるポストを形成した場合の側面図である。
図18】基板23の基軸線位置を明確にする方法として、基板にガイドとなるポストを形成した場合の平面図である。
図19】基板上のMI素子と磁性ワイヤの位置関係を示す平面図である。
図20】MIセンサの構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明である磁性ワイヤ整列装置の好適な実施形態を、その部位毎に詳細に説明する。
(ワイヤ供給装置部)
本発明では、事前に磁性ワイヤが適切な条件で張力熱処理されており、熱処理後の磁性ワイヤがワイヤボビンに巻かれた状態で提供されることになる。しかし、前記の通り本発明で扱う磁性ワイヤは、極めて極細であり、人が軽く引っ張っただけで破断してしまうほどの扱いの難しいものである。
【0027】
そして、本発明では、まず、このような扱いが難しい磁性ワイヤを、事前に熱処理され、巻かれているワイヤボビンからワイヤ引出しチャックにより、直線状に張られた状態で引出すことになるが、この際、適切な張力が負荷された状態としないと、張力が弱すぎる場合には、弛んでしまい整列が困難となり、張力が強すぎると磁性ワイヤが伸びたり破断してしまうことになる。
【0028】
そこで、本発明では、あらかじめ磁性ワイヤの機械的特性を把握することにより、磁性ワイヤの直径に応じた適切な張力を把握しておき、適切な張力が負荷されるように張力を制御することが可能なワイヤ張力負荷装置を採用している。これにより、ワイヤ引出しチャックにより引出した際に、磁性ワイヤの弾性変形範囲内の適切な張力に容易に調整することができ、磁性ワイヤに永久伸びが生じたり、破断したりすることを回避しつつ、かつ磁性ワイヤが直線状に張られた状態でワイヤボビンから確実に引出すことができる。
【0029】
なお、ワイヤ張力負荷装置は、ワイヤボビンとワイヤリールとの間やワイヤリール間に単独で設けてもいいし、ワイヤボビンを直接脱着可能なワイヤボビンと一体的な構造となるものを用いてもよい。どちらであっても、張力を適切かつ精度良く調整できるものであれば、特にその構造は限定されない。
なお、ここで言うワイヤボビンとは、前工程で張力熱処理された磁性ワイヤが巻かれた筒状の部品のことであり、ワイヤリールとは、ワイヤをワイヤ整列用基板側に案内する役割をする回転可能な部品を言う。
ワイヤ引出しチャックについては、後述する。
【0030】
(ワイヤ保持部、ワイヤ中間保持部、ワイヤ引出しチャック)
本発明において、最も注意すべき点は、磁性ワイヤへの応力負荷による磁気特性低下を防止するために、いかに磁性ワイヤに応力を負荷させることなく、磁性ワイヤをワイヤ整列用基板上に効率良く整列させるかという点にある。従って、可能な限り磁性ワイヤに直接力が加わる場面を排除するよう工夫することが重要である。
【0031】
磁性ワイヤに直接外力が加わる可能性がある本発明の磁性ワイヤ整列装置の主な部位としては、ワイヤ保持部、ワイヤ中間保持部、ワイヤ引出しチャックの3箇所があるが、このうち、ワイヤ引出しチャックについては、磁性ワイヤをワイヤボビンから真っ直ぐ伸びた、直線状に引出す必要があるため、かならずチャック(直接挟むことを意味する)する必要がある。
【0032】
なお、ここで、ワイヤ中間保持部とは、ワイヤ切断位置に比べワイヤ整列用基板側に近い位置(切断位置と同じ位置も含む)での磁性ワイヤを保持する部分を意味し、ワイヤ保持部とは、ワイヤ切断位置よりもワイヤ整列用基板側からみて遠い位置での磁性ワイヤを保持する部分を意味する。
【0033】
前記のワイヤ引出しチャックに対し、ワイヤ保持部、ワイヤ中間保持部については、磁性ワイヤを直接狭圧することなく、磁性ワイヤを保持するよう構成されている。つまり、ワイヤ引出チャックは、磁性ワイヤを、径方向から直接挟むことによって、磁性ワイヤを保持する。それゆえ、磁性ワイヤにおける、挟持された部分には、ある程度大きな外力が径方向から負荷されることとなる。これに対して、ワイヤ保持部およびワイヤ中間保持部は、磁性ワイヤを直接狭圧することなく、磁性ワイヤを保持する。それゆえ、ワイヤ保持部又はワイヤ中間保持部によって保持された、磁性ワイヤの部位に、大きな外力が作用することを避けることができる。
【0034】
ワイヤ保持部およびワイヤ中間保持部は、例えば、磁性ワイヤの上下方向、水平方向への移動が拘束されるように溝が形成されたガイド部を設けたり、このガイド部に加え、磁性ワイヤを磁力によって吸着保持されるような機能をさらに設けたりする等によって、ワイヤ保持部とワイヤ中間保持部の2つの保持部の組合せでもって、磁性ワイヤを引出した際に位置を安定して保持するとともに、磁性ワイヤを整列させた際に基軸線からずれることを防ぐようにすることができる。
【0035】
より具体的には、磁性ワイヤを通る溝が形成されたガイド部を設け、この溝内に引出した磁性ワイヤを通すことにより、磁性ワイヤの保持を実現できる。また、磁性ワイヤが通るワイヤ整列用基板に至る経路状に磁石を設け、この磁石の磁力によって磁性ワイヤを吸着保持することで、磁性ワイヤの保持を実現できる。
【0036】
すなわち、前記ワイヤ中間保持部は、前記磁性ワイヤを収容する溝が形成されたガイド部を備え、前記ワイヤ整列用基板の前記ワイヤ供給装置部側の端と前記ワイヤ切断機による切断位置との中間に位置する前記磁性ワイヤを位置ずれなく保持するように構成されていることが好ましい(請求項4)。
【0037】
また、前記ワイヤ中間保持部は、さらに前記磁性ワイヤを磁力によって吸着保持するための磁石を備えていることが好ましい(請求項5)。
【0038】
また、前記ワイヤ保持部は、前記磁性ワイヤを収容する溝が形成されたガイド部を備え、前記切断位置よりも前記ワイヤ供給装置部側に位置する前記磁性ワイヤを位置ずれなく保持するよう構成されていることが好ましい(請求項6)。
【0039】
また、前記ワイヤ保持部は、さらに前記磁性ワイヤを磁力によって吸着保持するための磁石を備えていることが好ましい(請求項7)。
【0040】
これらの場合、ガイド機能については、ガイド機能を有する溝の壁面に磁性ワイヤが接触することはあっても、磁性ワイヤを直接挟むわけではないので、磁性ワイヤに対して大きな外力が負荷されることを避けることができる。磁力保持機能については、磁性ワイヤを磁石の表面を沿って移動させることになるが、ガイド機能と同様に、磁性ワイヤを直接挟むわけではないので、磁性ワイヤに対して大きな外力が負荷されることを避けることができる。
【0041】
上記の2つの保持部の組合せで、ワイヤを引出した際に基準線の位置が安定した状態で保持できる。また、ワイヤを基軸線上に整列した後においても、ワイヤ保持部とワイヤ中間保持部の各々における、ガイド及び磁力保持の両機能によって、磁性ワイヤの水平方向及び上下方向の位置ずれを抑制することができる。
【0042】
また、別の手段としては、例えば2つの保持部のガイド機能のみによって、磁性ワイヤの水平方向の位置ずれが起きないよう拘束するとともに、ワイヤ保持部で上方向の位置ずれを抑制し、ワイヤ中間保持部により下方向の位置ずれを抑制することで、磁性ワイヤの上下、水平の両方向の位置ずれを防止するという方法を選択することも可能である。
【0043】
さらに、実際に磁気センサの一部として用いる磁性ワイヤは、整列後にワイヤ整列用基板上に位置する部分だけのため、ワイヤ整列用基板から外れる部分があれば、ワイヤ引出しチャックで直接挟むという手段を選択したとしても、その部分を廃棄する等で最終的に磁気センサの感磁体として用いないようにすれば問題ない。
【0044】
しかし、ワイヤ中間保持部付近のワイヤ位置は、次に引出しする際のワイヤ引出しチャックに近い位置になるのに対し、ワイヤ保持部付近のワイヤ位置は、次に引出した際に基板位置内となる場合もある。
【0045】
従って、前記した通り、ワイヤ保持部のガイド機能と磁力保持機能の組合せで、磁性ワイヤを直接挟む場合のように直接外力が負荷されることがないようにすれば良い。
【0046】
このように配慮することにより、次に引出した際に引出す前の段階でワイヤ保持部内に位置していたワイヤ部分を、引出した後に基板上の位置となるようにして整列することができるため、廃棄しなければならないワイヤ部分を削減でき、歩留まり良く磁気センサの感磁体として使用することができる。
【0047】
なお、ワイヤ切断機として機械式切断機を用いる場合には、ワイヤ切断機を各保持部とは別に単独で設けた構造であっても良いが、ワイヤ中間保持部については、ワイヤ切断機と兼ねた構造とすることもできる。すなわちワイヤ切断機の切断刃を、固定刃と可動刃とからなる構造とし、磁性ワイヤが通る程度の幅の溝形状を形成した固定刃によって磁性ワイヤを溝の幅方向に移動しないよう拘束保持する形状とし、同様に磁性ワイヤが通る程度の幅の溝形状を形成した可動刃をスライド移動させることによって切断するようにすれば、固定刃をワイヤ中間保持部としての機能を兼ねた状態として用いることができる。
【0048】
なお、上述したように、勿論ワイヤ切断機の固定刃をワイヤ中間保持部として兼ねるようにしてもよいが、固定刃とは別に、ワイヤ中間保持部としてワイヤを挿入できる程度の大きさの溝を形成したガイドを別に設けるようにしてもよい。
【0049】
また、ワイヤ保持部、ワイヤ中間保持部においては、前記した通り、磁力保持機能を利用して引出した磁性ワイヤが、位置ずれなく安定して保持するとともに、整列した際に基軸線上に確実に保持されるようにすることもできる。
【0050】
ガイド機能としての溝とは別に保持機能として磁石を設けることについて、別の実施形態として、基板部分と同様にワイヤ直径に比べわずかに幅広の溝を形成した保持ガイドを用意し、この溝部の下側位置にシート状の磁石を敷く等の方法でもよい。すなわち、保持ガイドと磁石を一体的に構成したものでもよいが、勿論、保持ガイドと磁石を別体として構成しても良い。基板部以外の磁石は、基板部ほどの磁力は必ずしも必要でないため、それより磁力の弱いフェライトラバー磁石等のシート状磁石でも問題なく使用できる。
【0051】
また、本発明のワイヤ整列装置は、同時に複数の磁性ワイヤを引出し、整列させることができる仕様とすることもできる。すなわち、前記ワイヤ供給装置部は、複数本の前記磁性ワイヤを同時に供給でき、供給された複数本の前記磁性ワイヤを同時に、前記ワイヤ整列用基板上の対応する複数の前記基軸線の位置に整列することができるように構成されていることとすることもできる(請求項10)。この場合には、生産性の向上を図ることができるため、より好ましい。
【0052】
但し、複数の磁性ワイヤを同時に整列可能とするには、当然のことであるが、前記したワイヤ供給装置部は、同時に整列させる本数分必要となるとともに、ワイヤ保持部、ワイヤ中間保持部は複数本を同時に保持可能な仕様(溝を複数本分加工する等)とする必要がある。また、ワイヤ引出しチャックで磁性ワイヤを引出した際に、複数の磁性ワイヤからなる基準線が同一平面上であって、間隔が、ワイヤ整列用基板上の基軸線ピッチの整数倍となるよう引出せるようにすることが好ましい。このように引出すことにより、複数の磁性ワイヤからなる基準線の位置を基板上の複数の基軸線の位置に、同時に位置ずれなく合わせて、整列することができる。
【0053】
なお、間隔を基軸線ピッチの整数倍としたのは、ワイヤ整列用基板上には多数のワイヤ整列位置(基軸線)があるため、必ずしも同時に基軸線ピッチと同じ間隔で引出す必要はなく、複数回の整列の繰返しによって、全ての基軸線への整列を完了するようにすれば、全く問題ないからである。このように引出すことにより、複数本引出した際の間隔を都合よく調整でき、複数の引出しチャック等の部位において、複数本同時に引出した際に互いに干渉することのないよう、適切な引出し間隔に調整することができる。
【0054】
また、同じ素子内に複数本整列する必要がある場合は、素子内ピッチは当然の如く素子間ピッチ(=基軸線ピッチ)より小さい距離となるが、この場合であっても、最初に素子内の同じ位置(例えば、素子内のワイヤ供給装置に近い側等)の磁性ワイヤを整列するようにすれば、同じ素子間ピッチ毎に整列すればよいことになる。これを同じ素子内に2本の磁性ワイヤを整列する場合であれば2回繰り返す(最初に素子内のワイヤ供給装置に近い側の整列をした場合には、2回目に素子内のワイヤ供給装置から遠い側の整列をする等)ことで、ワイヤ整列用基板上の全ての基軸線上に磁性ワイヤを整列することができる。
【0055】
(磁力発生装置)
また、磁性ワイヤ整列装置は、切断した後もワイヤ整列用基板の基軸線上に吸着したままとするために設けた磁力発生装置を有する。前記磁力発生装置は、複数の柱形状の磁石が、前記ワイヤ整列用基板上の前記基軸線に対し、垂直な方向となるように隣接して配置されてなる複合磁石を、鉄ヨークに埋設した構造を有し、前記複数の柱形状の磁石は、交互にN極、S極に並ぶように配置されていることが好ましい(請求項3)。
【0056】
そして、ワイヤ整列用基板上の基軸線の位置に関係なく、適切な吸着力が得られるよう設計することが必要である。なお、磁力発生装置に用いる磁石は、ワイヤ整列用基板上に磁性ワイヤを適切な力で吸着できるものであれば特に限定はされないので、磁石の種類としては永久磁石でもよいが、電磁石であっても構わない。但し、ワイヤ整列基板での吸着は、確実に位置ずれしないことが要求され、また、後工程でワイヤを樹脂で固定する際の加熱の影響を考慮しても安定した吸着力が得られることが必要なことから、永久磁石として強力かつ高温環境でも安定した性能の得られるサマリウムコバルト磁石の使用が好ましい。
【0057】
(ワイヤ整列用基板上の基軸線)
前記磁性ワイヤを整列させる所定位置を示す前記基軸線は、前記ワイヤ整列用基板上に形成された溝の長手方向に沿った線、又は前記ワイヤ整列用基板上の1本の前記基軸線当たり少なくとも2箇所以上の位置に形成された複数のガイドを結んだ線によって示されることとすることができる(請求項8)。
【0058】
ワイヤ整列用基板上において、磁性ワイヤを整列させる所定位置を示す基軸線は、ワイヤ整列用基板上にワイヤ直径に比べわずかに幅広の溝を形成することにより、その位置を明確とすることもできるが、溝を形成せずに、ワイヤ整列用基板上のワイヤ整列位置である基軸線1本の少なくとも2箇所以上の位置に、フォトリソ技術でワイヤを整列させるガイドとなる一対のポストを、上記の溝と同様にワイヤ直径に比べわずかに幅広の間隔で形成することによって基軸線位置が明確となるようにしてもよい。そして、ポストの形成数は、基板の大きさ等を考慮して整列作業をするのに問題のない数を形成することで対応できる。なお、この場合には、複数のポストからなるガイドの中心を結ぶ線が基軸線となる。
【0059】
(基板固定台)
基板固定台は、前記の通り直径が例えば10~30μm程度の極細の引出し張り状態の磁性ワイヤからなる基準線にワイヤ整列用基板上の基軸線を正確に合わせる必要があることから、±1μm程度の精度で位置調整ができる移動機能をもたせた固定台とする必要がある。
【0060】
そして、生産性の効率化から、1枚のワイヤ整列用基板上に多数のMI素子が規則的に並んだ状態でMI素子を形成する必要があることから、1本の磁性ワイヤを整列させた後も基板上の素子間ピッチ(大体100~800μm程度)毎に正確に移動させ、隣りの磁性ワイヤ、また次の隣りの磁性ワイヤというように精度よく連続的に整列することができるよう、正確に移動できる移動機能を備えることが必要である。
【0061】
従って、移動機能としては、容易に基準線に位置ずれなく合わせることができるよう、昇降、回転(水平方向の軸を中心とする回転と垂直方向の軸を中心とする回転の両方を含む)、水平方向の横移動の全てを備えることが好ましい。
【0062】
また、本発明の装置により、磁性ワイヤを整列した後は、磁性ワイヤを基板上に仮固定した状態で次工程に移動できるようにする必要がある。従って、前記ワイヤ整列用基板は、前記磁力発生装置と一体となった状態で前記基板固定台に脱着できるように構成されていることが好ましい(請求項2)。これにより、磁性ワイヤを磁力により仮固定した状態のまま、ワイヤ整列用基板を次工程に移動することができる。この際、取り外した後も安定した磁力を確保しようとするならば、前記の磁力発生装置は、電力の確保が不要な永久磁石からなる方が好ましい。
【0063】
(位置ずれ検出装置)
さらに、本発明では、前記した基準線に、ワイヤ整列用基板上の基軸線を位置ずれなく合わせるために、位置ずれ検出装置を設けている。より具体的には、引出し張り状態の磁性ワイヤからなる基準線と、基板固定台に固定されたワイヤ整列用基板上の基軸線を、ワイヤ整列用基板に近接する位置に設置したマイクロスコープ等の拡大鏡にて観察して位置ずれを検出し、位置ずれがなくなる方向に、前記の基板固定台の移動機能を動作させて、基軸線が基準線と位置が合うようにするものである。
【0064】
また、複数のワイヤを同時に整列させる場合であっても、複数本のワイヤのうち、いずれか1本について基準線と対応する基軸線が位置ずれなく合わせるようにすれば良い。すなわち、ワイヤ整列用基板は、事前に素子間ピッチ毎に精度良く溝やガイドとなるポストが形成されており、一方、複数本のワイヤを引出す際もその間隔が素子間ピッチの整数倍となるよう精度良く引出しがされるように調整されている。この点が前提であれば、いずれか1本について位置ずれなく合わせれば、他のワイヤは自動的に位置が合うことになるからである。
【0065】
さらに、位置ずれ検出装置による基軸線の基準線への位置合わせは、本装置を稼動して、最初に位置合わせをする際に、位置ずれなく合わせられた位置を制御装置部に記憶させておくことにより、それ以降の位置合わせは、磁性ワイヤを同じ位置に引出した後、前記記憶位置まで基板固定台を繰返し移動させ、さらに素子間ピッチ分横移動させることにより、自動的に位置を合わせることができるため、効率良く整列することができる。従って、この最初の位置合わせのみ、人が確認するようにして、その後は自動運転するようにしてもいいし、画像処理により、最初の位置合わせから完全自動化するようにしてもよい。
【0066】
前記の通りワイヤ直径が例えば直径が10~30μm程度の極細の磁性ワイヤを扱うことから、前記拡大鏡は、1μm以下の解像度を有するものを用いることが好ましい。また、取扱いの難しい磁性ワイヤではなく、ワイヤ整列用基板の方を引出したワイヤからなる基準線に合わせるように移動させる点は、前記の通りである。
【0067】
(ワイヤ切断機)
本発明では、量産可能とすることを前提とした磁性ワイヤ整列装置の提供を目的としている。従って、1本の磁性ワイヤを整列した後、すぐに切断して、再度磁性ワイヤを引出し、ワイヤ整列用基板上の次の所定の位置に続けて磁性ワイヤを整列させることができるようにする必要がある。そのため、本発明の磁性ワイヤ整列装置では、ワイヤ切断機を備えている。
【0068】
前記ワイヤ切断機は、刃を用いた機械式切断機、又はレーザを用いたレーザ切断機から構成されたものとすることができる(請求項9)。
すなわち、切断は、例えば固定刃と可動刃とからなる切断刃や、鋏み等の機械式による切断機や、レーザによる切断機等を用いることができる。なお、固定刃、可動刃による機械式切断機を設けた場合には、前記の通り固定刃の溝を利用して、磁性ワイヤが例えば水平方向等に移動しないよう保持することが可能なため、固定刃にワイヤ中間保持部の機能を兼ねる構造を採用することができる。
【0069】
しかしながら、鋏み等の機械式の切断機やレーザによる切断機を用いる場合のように、ワイヤ切断機によって、ワイヤ中間保持部の機能を兼ねることができない場合には、ワイヤ切断機とは別にワイヤ中間保持部を設ける必要があることは勿論である。
【0070】
(一連の整列作業と制御装置部の役割)
本発明では、磁性ワイヤに所定の応力(応力は前記のワイヤ張力負荷装置にて制御)が負荷された状態で、ワイヤ引出しチャックにより、直線状に引出した後、まずワイヤ保持部、ワイヤ中間保持部で位置ずれなく拘束された状態とすることにより、直線状に磁性ワイヤが張られた状態の基準線が明確となった状態とする。
【0071】
そして、整列先であるワイヤ整列用基板が固定された基板固定台の前記した移動機能(昇降、回転、横移動等)を最大限活用して、ワイヤが直線状に引出された位置からなる基準線とワイヤ整列用基板上の基軸線が概ね一致(磁力発生装置での吸着が可能な程度のずれは許容)するように合わせる。
【0072】
この際、基準線と基軸線は、全体を同時に合わせるように基板固定台を基準線に対し傾斜させることなく近づけるようにしてもよいが、基板固定台をワイヤ供給側端部から反対側端部に向けて下り傾斜させた状態で近づけ、傾斜角を徐々に小さくする等の方法により、ワイヤ整列用基板上の一方の端部から少しずつ近接させるようにすることも可能である。
【0073】
そして、位置ずれなく基準線と基軸線が合わせられると、磁性ワイヤは、磁力発生装置によりワイヤ整列用基板上の基軸線上に吸着されるため、この状態でワイヤ切断機により切断することにより、整列作業が完了する。なお、ワイヤ保持部、ワイヤ中間保持部、ワイヤ引出しチャックによる磁性ワイヤの保持は、切断した後に解放しても良いが、磁性ワイヤが基軸線上に吸着された後であれば前記各保持部による拘束と、ワイヤ引出しチャックによる固定を解放した後に切断をすることもできる。
【0074】
しかしながら、磁性ワイヤを切断した際に、切断位置よりもワイヤ供給側に位置するワイヤがずれてしまうと、次にワイヤ引出しチャックで引出すことが困難となるため、この位置がずれないようにしておく必要がある。特に切断した後の磁性ワイヤの先端部分については、磁性ワイヤの長手方向のずれだけでなく、その直角方向へのずれも生じないように、ワイヤ保持部の切断位置に近い位置に用いる磁石の磁力を調整する等によって、保持方法を最適化しておく必要がある。先端位置が可動刃の動き等、切断時にずれてしまうと、次のワイヤ引出し時に、引出しチャックによりチャックすることが難しくなるためである。
【0075】
また、前記のように切断前に解放する場合でも、ワイヤ中間保持部が固定刃を兼ねている場合は、ワイヤ中間保持部による保持は、切断後に解放することとなる。なお、切断する際に磁性ワイヤにワイヤ張力負荷装置による張力が負荷されたままとなっていると、切断した瞬間に切断位置よりもワイヤ供給装置部側の磁性ワイヤが、ワイヤ張力負荷装置の方に引寄せられてしまうため、切断の直前に張力を一時的に解放し、次に引出しチャックにて磁性ワイヤを掴んだ直後に、再度同じ張力を負荷するように制御する必要がある。
【0076】
上記一連の整列作業には、ワイヤ引出しチャックによる引出しから始まって、基板固定台の移動による基準線と基軸線の位置合わせ、磁性ワイヤの解放、切断の一連の装置の動きがあるが、この動き方、動きの順序等を前記した制御装置部により制御して、精度の良い整列作業ができるようにしている。従って、制御装置部の働きは、本装置にとって極めて重要である。
【0077】
そして、前記の通りワイヤ整列用基板には、多数の素子が規則正しく一定の間隔毎に並んだ状態で製造する方が効率的のため、多数の磁性ワイヤを所定の間隔(基板上の素子間ピッチ)毎に整列する必要がある。また、素子の仕様によっては、同一素子内に複数の磁性ワイヤを整列させる場合もある。
【0078】
なお、ここで言う同一素子には、同じ検出コイル内に複数本のワイヤを整列させる場合や、ワイヤを複数本直列や並列に接続し、それぞれに検出コイルが巻かれていて、1つの素子を形成するような場合で、1つの素子に複数本のワイヤを整列させる必要があるような場合も含まれる(米国特許第8587300号、Fig.12、13等)。
【0079】
従って、前記制御装置部は、このような所定間隔毎の整列が可能となるようなピッチ送りの組合せを制御するプログラムを備えていることが好ましい。すなわち、前記制御装置部は、前記磁性ワイヤを素子間の間隔ピッチと素子内の間隔ピッチの組み合わせからなるピッチ送りの組み合わせを制御するプログラムから構成されていることが好ましい(請求項11)。
【0080】
なお、ワイヤ整列用基板への磁性ワイヤの整列は、最終的に全ての基軸線上に整列させれば良いので、1回の引出し時のワイヤ間隔を素子間ピッチの整数倍の適当な間隔に選択して引出せばよいことは前記した通りである。
【0081】
(揺らし機構)
本発明では、回転、昇降、横移動等の精度の高い移動機能を有する基板固定台を設けて、引出し張り状態の磁性ワイヤで定められる基準線に、ワイヤ整列用基板上の基軸線を位置ずれなく合わせられるようにしている。
【0082】
しかし、実際には、基板製作時の溝加工やガイドとなるポスト形成時の寸法精度の問題や、本発明の整列装置自体の寸法精度(引出し時の間隔等の精度に影響)の問題から、多数本の磁性ワイヤを整列している途中には、例えばワイヤ整列用基板上の基軸線であることを示す溝等からわずかなずれ(基軸線として形成した溝幅又はポスト間の隙間間隔よりも小さいわずかな位置ずれ)が生じてしまう可能性がある。このような場合に、基板固定台に振幅が最大でも溝幅(又はポスト間の隙間)程度となる揺らし機構を設けても良い。すなわち、前記基板固定台は、前記基準線に対して前記基軸線の位置ずれを吸収するために、前記ワイヤ整列用基板を上昇させる際に振動可能な揺らし機構を備えているものとすることができる(請求項12)。
【0083】
この揺らし機構によりワイヤ整列用基板を上昇させている際に振動を加えてやると、前記した基板製造時の精度等の問題からわずかな位置ずれが生じてしまったような場合でも、磁性ワイヤを溝内(又はガイドとなるポスト間の隙間内)に誘導するテーパ機能(溝の開口部分をテーパ形状にした場合と同様な機能)を発揮し、スムーズに溝内(又はガイドとなるポスト間の隙間内)に磁性ワイヤを誘導させて整列させることができる。基板固定台には、前記した磁力発生装置による吸着力が働いているため、わずかな位置ずれがあっても、前記揺らし機構による振動により、所定の位置に誘導されやすくなるためである。
【0084】
また、前記磁性ワイヤ整列装置を使用して、前記磁性ワイヤを前記ワイヤ整列用基板上のワイヤ整列の所定位置である前記基軸線上に整列させる磁性ワイヤ整列方法として、以下の方法を採用することができる。すなわち、当該磁性ワイヤの整列方法は、
前記磁性ワイヤに張力を負荷した状態で前記磁性ワイヤを前記ワイヤ引出しチャック、前記ワイヤ保持部及び前記ワイヤ中間保持部により、前記ワイヤ整列用基板上の前記基軸線上からの移動を阻止された状態で保持すると共に、前記基板固定台の前記磁力発生装置の磁力により前記磁性ワイヤを前記ワイヤ整列用基板上に吸着し、
前記ワイヤ整列用基板上に保持および吸着された前記磁性ワイヤを、前記磁性ワイヤの内部応力を前記磁性ワイヤの長手方向に一様にした状態で、前記ワイヤ切断機により切断し、
前記ワイヤ保持部、前記ワイヤ中間保持部と前記ワイヤ引出しチャックによって保持又は固定された状態から解放して前記磁性ワイヤを拘束のない状態に解放することにより、前記磁性ワイヤのひねり方向の応力のない状態の前記磁性ワイヤを、前記ワイヤ整列用基板上の前記基軸線位置に前記磁力発生装置による磁力により仮止めして維持することを特徴とする磁性ワイヤの整列方法である(請求項13)。
【0085】
(磁性ワイヤのワイヤ整列用基板への固定)
磁性ワイヤをワイヤ整列用基板上の基軸線に整列させ、切断し、ワイヤ整列用基板に磁力で吸着したままの状態では、あくまでも仮固定の状態にすぎず、ワイヤ整列用基板への固定が完成されていないので、例えば、さらにワイヤ整列用基板の磁性ワイヤを整列させた周囲の適当な位置に樹脂を塗布し、固化させてワイヤを基板上に固定する。すなわち、前記磁性ワイヤを前記ワイヤ整列用基板に仮止め維持した状態で、さらに前記ワイヤ整列用基板に樹脂を塗布し固化させて、前記磁性ワイヤをひねり応力のない状態で前記ワイヤ整列用基板に固定することができる(請求項14)。
【0086】
上記の樹脂による固定は、ワイヤ整列用基板へのワイヤ整列が完了後、基板固定台からワイヤ整列用基板を磁力発生装置と一体となった状態ではずしてから行なうことになるが、はずした後も磁力発生装置による吸着力はそのままの状態となるように保持する。また、磁性ワイヤは、ワイヤ張力負荷装置による張力負荷や前記各ワイヤ保持部、ワイヤ引出しチャックからは解放され、前記吸着力以外には何らの応力も作用していない状態となっている。
【0087】
従って、その状態で樹脂により固定した場合、ひねり応力等の残留応力がほとんど生じない状態で磁性ワイヤを固定することができる。このように整列を完了した後製造された磁気センサは、ひねり応力等により磁気特性の低下を招くことを防止できるので、品質の優れた磁気センサの量産が可能となる。
【実施例
【0088】
以下、本発明である磁性ワイヤ整列装置の特徴を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0089】
(実施例1)
実施例1である磁性ワイヤ整列装置1について、図1図18を用いて以下に説明する。
磁性ワイヤ整列装置1は、ワイヤ供給装置部10と、ワイヤ整列装置部20と、位置ずれ検出装置30と、制御装置部40とから構成されている。
【0090】
先ず、ワイヤ供給装置部10について説明する。
ワイヤ供給装置部10は、ワイヤボビン11、ワイヤリール12、ワイヤ張力負荷装置13およびワイヤ保持部14とから構成されている。
【0091】
尚、本実施例1のワイヤ供給装置部10におけるワイヤ張力負荷装置13は、ワイヤボビン11が直接着脱可能な構造であり、ワイヤボビン11を介して磁性ワイヤ50(以下、ワイヤ50とも記す)の張力を調整する構造であるが、図14に示すように、ワイヤ張力負荷装置13をワイヤリール12間に単独で設け、ワイヤ50の張力を直接調整するような構造であっても良い。ワイヤ張力負荷装置13により負荷される張力は、ワイヤ50の弾性領域内の適切な値に予め設定されるものである。ワイヤボビン11から送り出されたワイヤ50は、ワイヤリール12を介してワイヤ保持部14に送られる。
【0092】
本実施例では、生産性向上のため、同時に6本のワイヤ50をワイヤ整列用基板23の6箇所の溝231が形成された基軸線上に同時に整列させることができるように構成されているが、以下では、1本のワイヤ50に対応した構造に着目して、複数本のワイヤ50に対応した構造についての詳細な説明は省略する。尚、6本のワイヤ50を同時に供給する際は、図15に示すように、6個のワイヤボビン11、6個のワイヤ張力負荷装置13、6個のワイヤリール12及び6本のワイヤ50を同時に保持可能なワイヤ保持部14を設けることで、6本のワイヤ50を同時に供給でき、供給された6本のワイヤ50を同時に後述するワイヤ整列用基板23面上の基軸線の位置に整列させることができる。この構造の場合、ワイヤ整列装置部20も6本のワイヤ50を同時に供給可能とするために、6個のワイヤ引出しチャック21と6本のワイヤ50を同時に保持可能なワイヤ中間保持部22と6本のワイヤ50を切断可能なワイヤ切断機25が必要となる。なお、ワイヤ引出しチャック21は、ワイヤ50を直接挟んで引出す必要があるので、本実施例では図8に示すような構造のものを用いている。
【0093】
次に、ワイヤ保持部14について図2図3に基づいて説明する。
ワイヤ保持部14は、後述するワイヤ切断機25よりも上流側に設けられたワイヤ50の位置ずれを防止するための保持部である。このワイヤ保持部14は、ワイヤ切断機25よりも上流側に位置し、ワイヤ50の上流側部分を保持する上流側保持部14Aと、ワイヤ50の下流側部分を保持する下流側保持部14Bとを備えている。
【0094】
上流側保持部14Aは、図2に示すように、ワイヤ50が挿通可能な上方開口の溝151a,151b(例えば、ワイヤ50の直径が30μmの場合はそれより僅かに幅広な幅50μm、深さ50μm程度)が夫々形成された1対のガイド部15a,15bと、この1対のガイド部15a,15b間に設置されたシート状磁石16を備えた構造となっている。ワイヤ50が引出しチャック21による引出しにより移動する場合は、ガイド部15aの溝151aを通り、シート状磁石16(例えば、フェライトラバー磁石)の磁力によって表面に吸着され、その表面を沿うように移動し、ガイド部15bの溝151bを通って下流側保持部14B側に送られる。
【0095】
下流側保持部14Bは、図3図7に示すように、ワイヤ50が挿通可能な上方開口の溝171(例えば、幅50μm、深さ50μm)が形成されたガイド部17と、ワイヤ50を上方から弾性変形内に収まる程度の力で押圧可能なキャップ部18とを備えた構造となっている。ワイヤ50が移動する場合は、ガイド部17の溝171を通り、キャップ部18の下方を通ってワイヤ切断機25側に送られる。
【0096】
尚、ワイヤ保持部14の構造は、ワイヤ50を保持する際に、ワイヤ50に直接負荷がかからないよう配慮した構造であるが、本実施例のものに限定する必要はない。ワイヤ50に直接応力を負荷しないために、本実施例では、ワイヤ保持部14を上記のような構成とした。
【0097】
次に、ワイヤ整列装置部20について説明する。
ワイヤ整列装置部20は、ワイヤ引出しチャック21、ワイヤ中間保持部22、ワイヤ整列用基板23(以下、基板23とも記す)、基板固定台24およびワイヤ切断機25(以下、切断機25とも記す)とから構成されている。
【0098】
ここで、ワイヤ中間保持部22について、図1図3に基づいて説明する。
ワイヤ中間保持部22は、図1に示すように、後述するワイヤ切断機25と基板23との間に設置され、ワイヤ保持部14と同様に、ワイヤ整列用基板23に対してワイヤボビン11からワイヤ引出しチャック21により引出されたワイヤ50の位置ずれを防止するための保持部である。
【0099】
ワイヤ中間保持部22は、図3に示すように、ワイヤ50が挿通可能な上方開口の溝261(例えば、幅50μm、深さ50μm)が形成されたガイド部26と、このガイド部26に隣接するように設置されたシート状磁石27(例えば、フェライトラバー磁石)とを備えている。ワイヤ50が移動する場合は、ガイド部26の溝261を通り、シート状磁石27の磁力によって表面に吸着されることにより、ワイヤ50の位置ずれが防止され、その表面を沿うように移動して基板23に送られる。
【0100】
尚、図1に示すごとく、ワイヤ保持部14の下流側保持部14B、ワイヤ中間保持部22、切断機25は、支持台28の上端部に夫々設けられているが、これら支持台28は上下水平方向に移動可能に構成されており、ワイヤ引出しチャック21が切断後のワイヤ50の先端部を引出す際に、ワイヤ引出しチャック21との干渉を避ける為に、支持台28は、制御装置部40によって退避位置へ移動するように制御されると共に、ワイヤ50をある程度引き出した後は再び元のワイヤ保持位置へ移動するように制御される。また、切断前にワイヤ50の保持を解放しようとする場合にも切断機25の位置はそのままで、下流側保持部14Bとワイヤ中間保持部22を移動することにより解放できるように構成されている。
【0101】
上記したワイヤ保持部14のガイド部15a,15b,17とシート状磁石16や、ワイヤ中間保持部22のガイド部26とシート状磁石27は、図2図3では別体となっている場合について説明したが、これらを一体的に設けた構造であってもよい。すなわち、溝が形成されたガイド部の溝の下部にシート状の磁石が設けられた構造であっても良い。ワイヤ保持部14及びワイヤ中間保持部22にて、ガイド部15a,15b,17,26と磁石16,27を設けることで、ワイヤ50が引出された際に、確実に位置ずれなく保持して、基準線位置を安定させるとともに、さらに基板23の基軸線上に整列された際にも、基板23面上の基軸線の延長上に形成された溝の位置から位置ずれしないように、保持する構造となる。
【0102】
次に、ワイヤ切断機25について説明する。
図3図6に示すように、ワイヤ切断機25は、機械式のものであり、ワイヤ50の直径よりわずかに幅広い溝253、254が夫々形成された可動刃251と固定刃252とからなる構造となっている。可動刃251の端面と対向する固定刃252の端面とは面接触状に設置されている。ワイヤ切断機25は、固定刃252に対して可動刃251がワイヤ50の長手方向に対して直交する方向にスライドすることで各溝253、254に挿入されたワイヤ50を切断するように構成されている。
すなわち、図3(平面図)、図5(ワイヤ軸方向から視た図)が、ワイヤ固定時の図であり、図4図6が、前記図3図5に対応するワイヤ切断時の状態を説明する図である。
【0103】
尚、本実施例のワイヤ切断機25は、ワイヤ中間保持部22とは別体として設けているが、ワイヤ中間保持部22を省略した構造であっても良い。すなわち、固定刃252自体が、ワイヤ50が基軸線上から位置ずれしないよう拘束する保持機能も兼ねる構成としても良い。この構造の場合、図16に示すように、固定刃252は、ワイヤ50が固定刃252の溝によって水平方向への移動が拘束されるガイド機能を備えるので、ワイヤ中間保持部22として機能する。
【0104】
次に、位置ずれ検出装置30及び基板固定台24について説明する。
位置ずれ検出装置30は、図1に示すように、引出張り状態として直線状に張られた状態のワイヤ50で示される基準線上に基板23の溝231で規定される基軸線を一致させるために基板23の上方に設けられたマイクロスコープ31から構成されている。
【0105】
基板固定台24は、図1に示すように、基板23上の所定のワイヤ挿入位置である基軸線上に、ワイヤ50を整列させた後、磁力で吸着させる磁石331からなる磁力発生装置33及び左右に横送りする横送り機構321と昇降機構322と回転機構323(水平軸に対する回転と垂直軸に対する回転の両方を含む)からなる基板固定台送り装置32とを備えている。
【0106】
次に、制御装置部40及び基板23について説明する。
制御装置部40は、ワイヤ50の引出し及びワイヤ50を引出した際のワイヤ保持部14の下流側保持部14B、ワイヤ中間保持部22及び切断機25等を支持した支持台28の位置調整、基板固定台24の調整位置への上昇とワイヤ50の磁力固定、切断、基板固定台24の下降および横方向への移動、ワイヤ張力負荷装置13による張力値の変更等を連続的に繰り返す一連の移動等の装置全体の制御が可能となるよう構成されている。
【0107】
そして、基板23面上には、図11図12に示すように、予め溝231が形成され、ワイヤ整列の所定位置である基軸線の位置が明確にされている。上記構成からなる磁性ワイヤ整列装置1を用いることにより、この基軸線上へのワイヤ50の整列を行った。ワイヤ供給装置部10であるワイヤボビン11からワイヤリール12を通してワイヤ引出しチャック21により引出された引出し張り状態の直線状のワイヤ50を基準線にして、基板23上の溝231からなる前記基軸線との位置関係を、位置ずれ検出装置30であるマイクロスコープ31で測定した。これにより、両者の位置ずれ状態を測定した。基板23を固定している基板固定台24が備える基板固定台送り装置32の横送り機構321と回転機構323と昇降機構322とにより、位置ずれなく基準線と基軸線との位置を調整した。このようにすることで、ワイヤ50を基軸線上に精度良く整列させることができた。ここで、図11図12には、ワイヤ50が溝231上に整列されている場合と、整列されていない場合の状態を共に示している。
なお、基板23面上の基軸線位置を明確にする手段としては、図11図12のように基板に溝を形成する方法以外に、図17図18に示すように、基板23面上にフォトリソグラフィの技術によって、ワイヤ50整列時のガイドの役目を果たすポスト232を1つのMI素子の少なくとも2箇所以上の位置に形成しておくことによっても、対応できる。この場合、複数のガイドとなるポスト232の隙間の中心を結ぶ直線が基軸線となる。
以下、さらに詳細に説明する。
【0108】
ワイヤ50としては、回転液中紡糸法(例えば米国特許第4527614号、第4781771号等)により製造された直径30μmのCoFeSiB系合金からなる磁性アモルファスワイヤを使用した。回転液中紡糸法自体は公知の製造技術であるので、説明は省略する。
【0109】
基板23は、材質はシリコンで、サイズは60mm×60mmの正方形とした。その基板23の全体に、溝231を形成する為に、幅50μm、深さ50μmの溝を700μmピッチで72本の溝加工を施し、MI素子60の検出コイル61の下側パターン611と電極62を形成する電極配線パターン622を焼き付けて基板23として使用した(図19参照)。その後、図9図10に示すように、基板23と磁力発生装置33とを固定治具34を介して基板固定台24に取り付け、以下のワイヤ整列のテストを行った。
【0110】
尚、固定治具34は、収容凹部35と1対の係合爪部36を有し、収容凹部35に基板23と磁力発生装置33とを重ね合わせた状態で収容し、1対の係合爪部36で基板23上に形成された溝231や移動するワイヤ引出しチャック21と干渉しない位置の基板23の上面を係合することで、基板23と磁力発生装置33とを一体的に構成する。
【0111】
ここで、基板23に形成されるMI素子60の最終製品状態について簡単に説明する。
図20に示すように、MI素子60は、基板23と、基板23上に配設されたワイヤ50と、ワイヤ50の外周囲を周回する検出コイル61と、ワイヤ50及び検出コイル61を保持する絶縁樹脂体(図示略)と、基板23の平坦面上に形成されたワイヤ50用の電極62a及び検出コイル用の電極62bとからなる。本実施例1の磁性ワイヤ整列装置1は、このMI素子60の製造に適用されたものである。
【0112】
ワイヤ整列のテストについて説明すると、ワイヤ供給装置部10のワイヤ張力を適切に調整するために設けられたワイヤ張力負荷装置13は、ワイヤ引出しチャック21によりワイヤ50を引出した際に、ワイヤ50が直線状でたるみが生じることなく、かつワイヤ50の磁気特性が変化しないよう、その弾性変形域内の応力となる適切な張力に調整を行うための重要な装置である。これにより、ワイヤ50が直線状に張られた状態とすることができ、かつ基板23上に整列した後の磁気特性低下の悪影響も回避することができる。そして、本発明では、6本のワイヤ50を同時に引出した際に、6本の基準線が同一平面上で平行かつ基板23の溝間(素子間)ピッチの12倍である8.4mm間隔となるよう引出すことができるように調整されている。
【0113】
すなわち、引出し時のワイヤ50の間隔を8.4mmの間隔とすることにより、複数本を同時に引出しても、複数の隣り合うワイヤ引出しチャック21同士が互いに干渉することがないよう調整可能となる。そして、6本ずつの整列を基板固定台24の有する横送り機構321により、素子間ピッチである700μmずつ移動させて12回整列を繰り返すことにより、基板23面上の溝231が形成された全ての基軸線上に72本のワイヤ50の整列を行うことができる。
【0114】
ワイヤ50の基板23上に形成された溝231への整列作業は、まず、前記の通り適切な張力が負荷され、直線状にピーンと張ったワイヤ50の位置を基準線とし、基板23上に形成された溝231の位置を基軸線として両者のずれをマイクロスコープ31で観察することから行う。ここで、基板固定台24を上昇移動させ、基準線と基軸線の位置を合わせる前の段階においても、前記各保持部14、22によるワイヤ50の保持は、既にされており、位置ずれが防止された状態となっている。
【0115】
この状態において、そのずれ量を水平方向±1μm、回転方向±0.01度の精度で測定し、ずれ量だけ左右方向への横送り機構321で回転方向は回転機構323で、基板固定台24を移動させた。その後に、ワイヤ50が基板23の溝231の底と接触するまで基板固定台24を昇降機構322で上昇移動させた。
【0116】
ワイヤ50が基板23に形成された溝231の底と接触したことをマイクロスコープ31で確認し、これらの制御数値を、その後のワイヤ整列時の動作に活かすため、制御装置部40に記憶させた。ワイヤ50が基板23に形成された溝231の底に接触すると、基板23には、後述の磁力発生装置33により基板23に吸着する力を発生させているため、ワイヤ50は、この磁力によって溝231に引寄せられ、整列させることができることを確認した。
【0117】
この際、前記した6本の引出したワイヤ50が、同一平面上かつ、基板23の溝間ピッチの12倍となる間隔で、互いに平行となるよう引出されているため、6本のワイヤを同時に6本の基軸線位置に合わせることができ、効率良く、基板23上に形成された溝231内に整列させることができた。
【0118】
その後、前記したように、基板固定台24を素子間ピッチである700μmずつ横移動させ、前記と同様の整列作業を12回繰返し行うことにより、ワイヤ整列用基板23上の72本の全ての溝231からなる基軸線上にワイヤ50を整列させることができた。
【0119】
なお、位置ずれ検出装置30による検出は、本発明の磁性ワイヤ整列装置1の稼動開始後の最初にワイヤ引出しチャック21により引出したワイヤ50を整列させる際に、基準線と基軸線が位置ずれなく合った際の基板固定台24の位置を制御装置部40に記憶させた。そして、その後のワイヤ整列については、その記憶した位置から、基板固定台24の位置を素子間ピッチである700μmずつ横移動させれば自動的に位置を合わせることができ、残りの11回の整列も、問題なく行なうことができた。
【0120】
以上説明したように、上記構成による磁性ワイヤ整列装置1でワイヤ50を基板23に整列させることが可能なことを確認したが、磁気センサを量産する場合には、この整列作業を非常に多くの回数繰返し継続する必要があり、その繰返し作業の途中では、前記した通り、基板23自体の加工精度や、装置自体の製作精度等の問題から、ワイヤ50が基板23の溝231の位置からわずかにずれてしまう可能性があった。
【0121】
その場合に備え、基板固定台24の基板固定台送り装置32には、基板23の溝幅に等しい振動幅±25μmの振動を発生することができる揺らし機構が備えられている。実際に揺らし機構を備えた基板固定台送り装置32を使ってワイヤ整列のテストを行ったところ、ワイヤ整列をより確実に行うことができることが確認できた。但し、基板23の加工精度等をより精密にする等の対策により、揺らし機構を稼動しなくても整列作業は可能であるので、揺らし機構自体は必ずしも必須とする必要はない。
【0122】
また、この実施例1では、基板固定台24をワイヤ50からなる基準線に対して平行なまま、基板23上の基軸線全体が基準線に対し同じ距離となる状態で基板固定台24を近づけて整列作業を行ったが、基板固定台送り装置32は、基板固定台24を傾斜させる機能も有しているので、基板固定台24をワイヤ供給側端部から反対側端部にかけて下り傾斜させた状態で上昇させ、基板23上の基軸線の一方の端から先にワイヤ50と接触させ、基板23の傾斜角を徐々に小さくしながら整列させるという手段で整列作業を行うこともできる。
【0123】
基軸線であることを意味する基板23に形成された溝231内にワイヤ50を整列させた後は、まず、ワイヤ張力負荷装置13による調整により、ワイヤ50に負荷している張力を一時的に0とし、切断後に切断位置よりもワイヤ供給装置部10側に位置するワイヤ50が、ワイヤ張力負荷装置13側に引っ張られて位置ずれしないようにした上で、ワイヤ機械式の切断機25の固定刃252に対して可動刃251を水平方向へスライド動作させ、ワイヤ50を切断機25により切断し、切断後はワイヤ中間保持部22とワイヤ引出しチャック21による磁性ワイヤ50の保持を解放して、フリーな状態にし、切断後の基板23面上に整列されているワイヤ50を後述の磁力発生装置33による磁力により溝231内に吸着させた状態とした。
【0124】
なお、この実施例では、ワイヤ50の保持を、切断後に解放した場合の例を示したが、ワイヤ50を溝231内に確実に整列することができれば、ワイヤ50は、切断中も磁力発生装置33の磁力で十分に基板23上に吸着させた状態で維持することができるため、ワイヤ保持部14、ワイヤ中間保持部22を移動させて、ワイヤ50の保持及び固定を切断前に解放することも可能である。前記したように、本実施例の装置では、そのためにワイヤ保持部14の下流側保持部14B、ワイヤ中間保持部22を移動できる機能を有している。なお、ワイヤ保持部14の上流側保持部14Aによるワイヤ50の保持は、次のワイヤを引き出しやすくするため、そのまま保持を維持できる構成としている。但し、この場合でも、切断前にワイヤ張力負荷装置13の設定張力を一時的に0とする点は全く同様である。
【0125】
次に、位置ずれ検出装置30の主となる構成であるマイクロスコープ31としては、1μm程度の解像度を有するものを使用し、マイクロスコープ台が振動することの無いように磁性ワイヤ整列装置1の本体に強く取り付けた。マイクロスコープ31の焦点調整は、手元のつまみで容易に調整できるようにした。ここで、位置ずれ検出装置30による位置合わせが、1枚の基板23毎に最初のワイヤ50の整列時のみでよいことは、既に記載した通りであり、画像処理により自動化することも可能である。
【0126】
基板固定台24の左右および昇降の移動は、移動距離として左右方向には100mm、昇降方向には20mmとし、移動の全範囲で±1μmの制御能力をもつ制御装置部40を使って精度を確保した。
【0127】
次に、磁力発生装置33について説明する。
磁力発生装置33が備える磁石331は、図13に示す形状のものを採用した。すなわち、具体的には、1つの磁石が長さ120mm、幅5mm、厚み3mmの薄型の直方体形状の磁石331を引出張り状態のワイヤ50の長手方向に対し、垂直となるように連続的に隣接して配置した。磁石331は、基板固定台24から基板を磁力発生装置とともにはずした後も電力供給の有無に関係なく磁力を維持できるようにするため、電力の不要な永久磁石を用いた。
【0128】
その際、磁石331はN極332、S極333が交互となるようにし、それを鉄のヨーク334に埋設させ、その上に厚さ0.2mmの非磁性材料335(材質はアルミナ)でカバーする構造とした。なお、磁石は、強力かつ後工程であるワイヤの樹脂固定時の加熱の影響を考慮しても安定した磁力を維持できることを配慮して、高温環境での使用でも安定した磁力を維持できるサマリウムコバルト磁石を用いた。この上に基板23を設置して、維持固定した。この磁石331の磁力により、切断後のワイヤ50を基板23の溝231の中に仮止め維持することができ、次工程の樹脂による固着工程でワイヤ50を溝内に安定して維持固定することができた。
【0129】
制御装置部40は、ワイヤ径などのワイヤ特性を入力して自動でワイヤ50の張力を調整する機能(一時的に解放し、再び元通り張力を負荷する制御も含む)、ワイヤ引出しチャック21の圧力、ワイヤ切断力を調整する機能、基板固定台24の原点調整と原点復帰、作業基準位置への自動復帰機能、マイクロスコープ31によるずれ量の観察結果に基づいて、位置ずれがなくなるように基板固定台24の位置を調整する機能、また基板23の厚み、溝深さ、ワイヤ径などの作業データを基礎に基板固定台24の高さの自動調整昇降機能等の一連の整列作業時の装置の動きを制御する機能および生産状況を管理する機能を組み込んだ。さらに非常時のためにマニュアル操作への切り替えも可能とした。
【0130】
なお、基板23には、図19に示すように多数のMI素子60が規則的に並んだ状態で形成されることになるため、1本のワイヤ50を整列させた後も、連続して繰返し整列作業を行う必要があるが、問題なく連続して整列できることを確認できた。
【0131】
また、1サイクルの整列作業も、ワイヤ引出、基板固定台24の調整位置への上昇、ワイヤ50の磁力による仮止め、張力の一時的解放、切断、ワイヤ保持部14の下流側保持部14B、ワイヤ中間保持部22と切断機25の退避行動及び復帰行動、基板固定台24の下降および横方向への移動、張力の再負荷の作業があり、複数の整列作業を行うには、これを繰返し連続的に行う必要があるが、問題なく基板全面で磁性ワイヤ50を溝に沿って整列できることが確認できた。
【0132】
以上の実施結果から分かるように、本実施例からなる磁性ワイヤ整列装置1は、ワイヤ50を微細な間隔で基板23上の基軸線上に高速かつ確実に整列させることができ、MI素子等の極細のワイヤ50を用いることが不可欠となる磁気センサの量産を実現するために必須となる重要な装置であり、その工業的意義は非常に大きいものである。
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の改変を行うことが可能である。
【0133】
(実施例2)
実施例2は、実施例1において、ひねり内部応力のない状態のまま磁性ワイヤを基板23上に整列し、その後固定することを可能にした方法に関するものである。前記した実施例1に示す磁性ワイヤ整列装置1により、ワイヤ50を応力フリーな状態で基板23上の基軸線上に磁石331の磁力で吸着した状態で維持できることを説明した。しかし、MI素子として製造するには、ワイヤ50を磁力による吸着という仮固定ではなく、基板23上に完全固定する必要がある。以下、その方法について説明する。
【0134】
前記実施例1による整列作業が完了すると、基板23上には、素子間ピッチである700μm間隔毎にワイヤ50が72本整列された状態となっている。そこで、この基板23を磁力発生装置33と一体の状態でワイヤ50に吸着力が維持されたままの状態で、磁性ワイヤ整列装置1から次工程の作業位置に移動させた。
【0135】
そして、次工程では仮止め維持したワイヤ50の周囲に樹脂を塗布してワイヤ50を固定した。この樹脂を塗布し、固定する際にMI素子に応力が負荷されると磁気特性が低下して、製造されたMI素子の性能に影響が生じる可能性があるが、本発明の磁性ワイヤ整列装置1によりワイヤ50の整列テストを実施し、ワイヤ50を樹脂により本固定した後に得られたMI素子の性能を測定したところ、ヒステリシスの問題もなく、感度等の狙いとする性能も、当初の期待通り得られることが確認できた。
【0136】
(実施例3)
MI素子は、今後様々な仕様が登場することが予想され、本発明の磁性ワイヤ整列装置1を使い、様々な仕様のMI素子について、ワイヤ50の整列作業を行う必要が生じることが予想される。具体的には、同一素子内で同じ検出コイル内に複数のワイヤ50を平行に整列させたり、素子の小型化のために、より短いピッチ間隔でワイヤ50を整列させる必要が生じたりすることが考えられる。また、複数のワイヤ50を直列又は並列に接続し、それぞれのワイヤ50に検出コイルが巻かれた状態で1つのMI素子を構成するような場合も考えられる。
【0137】
そこで、実施例3は、前記実施例1と同じ装置(但し、ワイヤ引出しチャック21、各保持部14、22のガイドの溝幅、切断機25の刃の溝幅等は、ワイヤ径に合わせて変更)とより細い直径10μmのワイヤを使い、基板23に、前の実施例1の素子間ピッチである700μmよりも短い間隔(50~300μm)で溝231(幅20μm、深さ20μm)を形成し、問題なくワイヤ整列ができるかどうかをテストした。その結果、問題なく整列できることが確認できた。
【0138】
このように、本発明の磁性ワイヤ整列装置1は、ワイヤ50を用いた磁気センサであって、様々な仕様の磁気センサに適用可能となるため、MIセンサ等の今後のワイヤを用いる磁気センサの改良及び量産に効果的に利用できるものであり、その工業的価値は極めて大きいものである。
【符号の説明】
【0139】
1:磁性ワイヤ整列装置
10:ワイヤ供給装置部
11:ワイヤボビン
12:ワイヤリール
13:ワイヤ張力負荷装置
14:ワイヤ保持部
15a,15b:1対のガイド部
151a:溝
151b:溝
16:シート状磁石
17:ガイド部
171:溝
18:キャップ部
20:ワイヤ整列装置部
21:ワイヤ引出しチャック
22:ワイヤ中間保持部
23:ワイヤ整列用基板
231:溝
232:ポスト
24:基板固定台
25:ワイヤ切断機
251:可動刃
252:固定刃
253:溝
254:溝
26:ガイド部
261:溝
27:シート状磁石
28:支持台
30:位置ずれ検出装置
31:マイクロスコープ
32:基板固定台送り装置
321:横送り機構
322:昇降機構
323:回転機構
33:磁力発生装置
331:磁石
332:N極着磁磁石
333:S極着磁磁石
334:鉄ヨーク
335:非磁性材料
34:固定治具
35:収容凹部
36:係合爪部
40:制御装置部
50:磁性ワイヤ
60:MI素子
61:検出コイル
611:検出コイルの下側パターン
62a,62b:電極
622:電極配線パターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20