(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20220511BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220511BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
(21)【出願番号】P 2018160206
(22)【出願日】2018-08-29
【審査請求日】2021-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】末繁 由隆
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-160126(JP,A)
【文献】国際公開第2014/051089(WO,A1)
【文献】特開2001-057212(JP,A)
【文献】特開2012-252844(JP,A)
【文献】特開2016-222483(JP,A)
【文献】特開2014-103003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00ー47/00
C01G 49/10-99/00
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質の原料として使用される水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法であって、
晶析により作製したニッケルコバルト複合水酸化物粒子に水を加えてスラリー濃度100g/L以上500g/L以下のスラリーを調製した後、該スラリーに対して、そのpHを7.0を超え12.0以下に調整しながら硫酸銅溶液を連続的に供給することで該ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面に水酸化銅を被覆させることを特徴とする水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物は、一般式:Ni
1-x-y-zCo
xM
yCu
z(OH)
2(式中、MはAl、Mg、Mn、Ti、Fe、Cu、Zn、Gaからなる群から選ばれる1種以上の添加元素であり、0.05≦x≦0.5、0≦y≦0.10、0.01≦z≦0.05である)で表されることを特徴とする、請求項1に記載の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記ニッケルコバルト複合水酸化物粒子1kg当たり硫酸銅が0.05モル/分を超え0.4モル/分以下の速度で供給されるように前記硫酸銅溶液を供給することを特徴とする、請求項1又は2に記載の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記硫酸銅溶液は、硫酸銅濃度が0.5モル/L以上2.0モル/L以下であることを特徴とする、請求項3に記載の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記晶析により作製したニッケルコバルト複合水酸化物粒子に水を加えてスラリーを調製する前に、該ニッケルコバルト複合水酸化物をレパルプ洗浄して残留するアンモニアを除去することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【請求項6】
ニッケルコバルト複合水酸化物に対して酸化分解-化学発光法で測定した窒素分の含有量が乾燥物基準で0.1質量%以下になるまで前記レパルプ洗浄を行うことを特徴とする、請求項5に記載の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子技術の進歩に伴って電子機器の小型軽量化や高機能化が進んでおり、スマートフォンやタブレットPCなどの小型情報端末が極めて急速な勢いで普及している。そのため、これら電子機器に使用する電源として、高いエネルギー密度を有し且つ小型軽量な二次電池が求められている。このような要求を満たす二次電池として、非水系電解質二次電池であるリチウムイオン二次電池が既に利用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極活物質には、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)が主に使用されてきた。しかし、リチウムコバルト複合酸化物を製造する場合は、原料に希産で高価なコバルト化合物を必要とするため、リチウムコバルト複合酸化物を正極活物質として使用するリチウムイオン二次電池は、ニッケル水素二次電池などの旧来の二次電池に比べて高コストになる。したがって、リチウムコバルト複合酸化物に替わりより安価な正極活物質を用いることができれば、より安価なリチウムイオン二次電池を提供できるので極めて大きな意義を有する。また、リチウムイオン二次電池は上記の電子機器の用途に限られず、ハイブリッド自動車や電気自動車などの大型電源としての利用を目指した研究開発も近年盛んに進められている。
【0004】
このような状況のもと、リチウムコバルト複合酸化物に代替可能なリチウムイオン二次電池用の正極活物質として、コバルトよりも安価なマンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)、ニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)などの使用が検討されている。これらのうち、リチウムマンガン複合酸化物は、原料として用いるマンガンが安価である上、熱安定性や安全性に優れた材料であるという利点がある。しかしながら、リチウムマンガン複合酸化物は理論容量がリチウムコバルト複合酸化物の半分程度しかないため、年々高まるリチウムイオン二次電池の高容量化の要求に応えるのが難しいという欠点がある。また、45℃以上の温度では自己放電が著しく、充放電寿命も低下するという欠点もある。
【0005】
一方、リチウムニッケル複合酸化物は、主原料のニッケル化合物がマンガンと同様に安価かつ安定して入手可能であり、更には、リチウムコバルト複合酸化物に比べて高容量であるため、次世代の正極活物質の主流となることが期待されており、その研究開発が活発に進められている。しかしながら、リチウムとニッケルのみで構成されたリチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物に比べてサイクル特性に劣るという問題がある。これは、リチウムニッケル複合酸化物では、充電時にその結晶構造中からリチウムが脱離するに伴って、六方晶と単斜晶の間でその結晶構造が変化(相転移)し、かつその変化における可逆性に乏しいことに起因して、充放電反応を繰り返すうちにリチウムを脱離及び挿入することができるサイトを徐々に失ってしまうためと考えられている。
【0006】
そこで、リチウムニッケル複合酸化物とリチウムコバルト複合水酸化物の両者の特性を生かしたリチウムニッケルコバルト複合酸化物が提案されている。例えば特許文献1には、リチウムニッケルコバルト複合酸化物の前駆体であるニッケルコバルト水酸化物を、その主な製法である反応晶析法で作製する技術が開示されており、ニッケルの一部をコバルトで置換する量を制御することで均一にコバルトが分散した複合水酸化物が得られると記載されている。また、リチウムニッケルコバルト複合酸化物に銅を添加することでサイクル特性を向上させる技術が提案されており、例えば特許文献2には、ニッケルコバルト複合水酸化物の晶析過程において銅化合物を添加して共沈させるか、もしくは晶析により得たニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面に銅化合物を被覆させることでニッケルコバルト銅複合水酸化物が得られると記載されている。
【0007】
更に、特許文献3には、リチウムイオン二次電池用の正極合剤スラリーに亜リン酸を混合することで正極中のバインダ及び導電助剤の分布を変え、これにより電極の巻回性を高めて電極の割れや切れを防止する技術が開示されており、正極材中に銅を含んでもよいことが記載されている。また、特許文献4には、電極端子の材質をウッドメタルにすることで安全性が高められたリチウムイオン二次電池が開示されており、その正極活物質に含まれる金属元素の一つの候補としてCuが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平9-270258号公報
【文献】特許第6094591号
【文献】特開2012-160463号公報
【文献】特表2016-522969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、銅はニッケルやコバルトよりも優先的にアンミン錯体を形成しやすく、アンモニア存在下のアルカリ溶液中においては、アンミン錯体として反応液中に溶出しやすい。そのため、上記特許文献2に記載のようにニッケルコバルト複合酸化物の晶析過程で銅を共沈晶析させるには、アンミン錯体としてろ液中へ流出する銅を見越して多めに銅を添加する必要があり、ニッケルコバルト銅複合水酸化物の各金属元素の物質量比率を調整するのが難しかった。この物質量比率は、ニッケルコバルト複合酸化物の表面に銅化合物を被覆することで比較的容易に調整できるとも考えられるが、特許文献2~4のいずれにおいてもその具体的な方法について開示されていない。本発明は、上述した実状に鑑みてなされたものであり、リチウムニッケルコバルト銅複合酸化物の原料として使用される水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、発明者らは非水系電解質二次電池用の正極活物質の前駆体として使用する水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法について鋭意検討を重ねた結果、好適には連続晶析反応により作製したニッケルコバルト複合水酸化物に対して溶媒を添加してスラリーを調製した後、該スラリーに所定の条件で硫酸銅溶液を供給することによりリチウムイオン二次電池用の正極活物質の前駆体として好適な水酸化銅で被覆されたニッケルコバルト複合水酸化物粒子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係る水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法は、リチウムイオン二次電池用の正極活物質の原料として使用される水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法であって、晶析により作製したニッケルコバルト複合水酸化物粒子に水を加えてスラリー濃度100g/L以上500g/L以下のスラリーを調製した後、該スラリーに対して、そのpHを7.0を超え12.0以下に調整しながら硫酸銅溶液を連続的に供給することで該ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面に水酸化銅を被覆させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池用の正極活物質の前駆体として好適な、水酸化銅で被覆されたニッケルコバルト複合水酸化物粒子を効率よく作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例で作製した水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物の模式図であり、水酸化銅で被覆されている部分(すなわち、水酸化銅粒子が付着している部分)が白色で示されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法の実施形態について説明する。この水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物は、水酸化銅を被覆する前のニッケルコバルト複合水酸化物粒子(以下、基粒子とも称する)に対して、その表面に水酸化銅の微粒子によって被覆を行ったものであり、この基粒子は所定の濃度のニッケル塩及びコバルト塩を含む水溶液をアンモニウムイオン供給体を含む水溶液及び苛性アルカリ水溶液と共に反応槽に連続的に供給して中和晶析反応を生じさせることで生成することができる。得られた基粒子の表面に硫酸銅溶液の中和反応により析出する水酸化銅を被覆させることで水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物を生成することができる。
【0015】
より具体例に説明すると、先ず基粒子の生成工程では、撹拌翼を先端部に有する攪拌機を備えた反応槽内にアンモニウムイオン供給体及び苛性アルカリを含む水溶液を所定量入れておき、この水溶液の液温を約35~60℃に保持しながら600~1400rpm程度の回転数で上記撹拌翼を回転させる。この撹拌状態の水溶液に、必要に応じてAl、Mg、Mn、Ti、Fe、Zn、及びGaからなる群から選ばれる1種以上の添加元素Mを含む塩の水溶液を所定量添加する。
【0016】
次に、この撹拌状態の水溶液に、ニッケル塩とコバルト塩の合計濃度が0.1~2.4モル/L程度のニッケル及びコバルトの硝酸塩、硫酸塩、又は塩酸塩などの水溶液を、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液及び苛性アルカリ水溶液と共に供給する。これにより、アンモニウムイオン濃度3~10g/L程度、液温25℃基準でpH11.8~13.0程度に維持することで中和晶析反応が生じ、ニッケルコバルト複合水酸化物が析出する。このように、中和晶析反応の際に上記添加元素Mを添加することで、該添加元素Mを共沈させることができるので、該ニッケルコバルト複合水酸化粒子の内部に添加元素Mを均一に分散させることができる。
【0017】
上記のアンモニウムイオン供給体を含む水溶液としては、例えばアンモニア水、硫酸アンモニウムを含む水溶液、又は塩化アンモニウムを含む水溶液を挙げることができる。これらの中では、ハロゲンによる汚染防止の観点からアンモニア水又は硫酸アンモニウムを含む水溶液が好ましく、アンモニア水がより好ましい。アンモニア水の場合は、アンモニウムイオン濃度25~30質量%程度の市販品をそのまま使用することができる。
【0018】
一方、苛性アルカリ水溶液は、中和晶析反応時のpH調整剤として反応槽に添加するものであり、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液などを用いることができ、これらの中では取扱いやすさやコストの観点から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。添加する苛性アルカリ水溶液の濃度は10~30質量%程度が好ましい。この濃度が10質量%未満ではpH調整に必要な苛性アルカリ水溶液の量が増えすぎて生産性が低下するおそれがあり、逆に30質量%を超えると苛性アルカリ水溶中で苛性アルカリ結晶が析出したり苛性アルカリ水溶液の粘度が高くなりすぎたりするので好ましくない。
【0019】
また、上記の反応槽に供給するニッケル塩とコバルト塩の合計濃度が0.1モル/L未満では、生成するニッケルコバルト複合水酸化物のスラリー濃度が低いため反応容積の大きな生産装置が必要となり、生産性が低下するので好ましくなく、逆に2.4モル/Lを超えると飽和溶解度を超えて金属塩が析出したり、低温時に配管内で金属塩が析出したりするおそれがあるので好ましくない。また、該水溶液の液温が35℃未満では生成したニッケルコバルト複合水酸化物のタップ密度が低くなりすぎて最終的に作製したリチウムイオン二次電池の電池特性が低下するおそれがあるので好ましくなく、逆に60℃を超えるとアンモニアの揮発量が多くなりすぎてニッケルやコバルトや添加元素の錯体濃度が不安定になるので好ましくない。
【0020】
また、上記水溶液を入れた反応槽の攪拌機の回転数が600rpm未満では、ニッケル塩及びコバルト塩を含む水溶液に、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液や苛性アルカリを均一に混合するのが困難になり、逆に1400rpmを超えると生成したニッケルコバルト複合水酸化物粒子同士が衝突しやすくなり、該衝突により破壊して細かくなるものが生ずるおそれがある。すなわち、該撹拌翼の回転数を600~1400rpmの範囲内で調整することで、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の粒度分布の広がりを調整することができる。なお、撹拌翼タイプや反応槽の大きさ、形状等が異なることで反応槽内において十分に撹拌される状態が確保される場合は、上記の回転数の範囲から外れてもよい。
【0021】
上記のように、中和晶析反応時の反応槽内の液温、pH、アンモニウムイオン濃度、攪拌翼の回転速度などの各種条件を調整することにより、生成されるニッケルコバルト複合水酸化物の粒度分布、比表面積、充填密度、結晶性などの物性値を所望の範囲内に調整することができる。生成したニッケルコバルト複合水酸化物を含むスラリーは、ろ過などの固液分離を行うことで該ニッケルコバルト複合水酸化物を固形分として回収する。
【0022】
回収したニッケルコバルト複合水酸化物は、水を加えてスラリーにした状態で撹拌することにより洗浄するいわゆるレパルプ洗浄と、該洗浄後のスラリーのろ過等の固液分離とを繰り返すことで、残留するアンモニアを可能な限り除去しておくことが好ましい。その理由は、上記中和晶析反応時に使用したアンモニウムイオン供給体由来のアンモニアがニッケルコバルト複合水酸化物に残留していると、後段の被覆工程において銅が当該アンモニアと優先的に反応して錯体化するため、銅が水酸化銅として析出して被覆するのを阻害し、銅の歩留まりを低下させる恐れがあるからである。なお、上記のアンモニアに起因する問題が生じないようにするため、ニッケルコバルト複合水酸化物に対して酸化分解-化学発光法で測定した窒素分の含有量が乾燥物基準で0.1質量%以下になるまで上記レパルプ洗浄を行うのが好ましい。
【0023】
次に、被覆工程では、上記のようにして好適にはレパルプ洗浄とろ過が行われたニッケルコバルト複合水酸化物に対して、好ましくは純水からなる溶媒を混合してスラリー化する。溶媒に純水を用いる場合は、スラリー1L中に含まれる複合水酸化物が100g以上500g以下となるようにスラリー濃度を調整する。このスラリー濃度が100g/Lよりも低いと、析出により水酸化銅が生成した際にその近傍にニッケルコバルト複合水酸化物粒子が存在しない確率が高くなりすぎ、水酸化銅粒子としてスラリーの溶媒部に単独で晶析、析出しやすくなる。逆に、このスラリー濃度が500g/Lよりも高いと、スラリー中のニッケルコバルト複合水酸化物粒子の密度が高くなりすぎ、これら複合水酸化物粒子同士が近接する頻度が高くなるため、晶析析出した水酸化銅が媒介となって複数の複合水酸化物粒子が凝集しやすくなる。また、高スラリー濃度のスラリーを攪拌するために必要な攪拌動力が大きくなりすぎ、製造コストが高くなりすぎるおそれがある。
【0024】
次に、上記の溶媒の混合により調製したニッケルコバルト複合水酸化物スラリーを反応槽に装入し、この反応槽内のスラリーを攪拌しながらアルカリを添加して所定のpH値に調整すると共に所定量の硫酸銅溶液を好ましくは滴下により供給する。これにより、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面を水酸化銅の微粒子で被覆することができる。上記の反応槽内では、該反応槽の底部にニッケルコバルト複合水酸化物粒子が沈殿することなく反応槽内の全ての部分でほぼ均一なスラリー濃度が維持される程度に攪拌を行うのが好ましい。このような撹拌状態を確保できるのであれば、撹拌機の型式や動力、攪拌機に用いる攪拌翼の形状などの具体的な攪拌条件については特に制約はなく、反応槽の形状や大きさ等に応じて適宜選択することができる。なお、上記水酸化銅の微粒子の粒径は、基粒子としてのニッケルコバルト複合水酸化物粒子の粒径よりも2オーダー程度小さい0.1~0.3μm程度である。
【0025】
上記の被覆処理の際に調整する反応槽内のスラリーのpHは下限値が7.0よりも高く、8.0以上であるのが好ましい。反応槽内のpHが7.0以下では水酸化銅の電位-pH関係から判断して水酸化銅が析出しにくくなり、水酸化銅による被覆処理が不可能になる。なお、反応槽内のpHが8.0より低い場合では水酸化銅は析出するものの、ニッケルコバルト複合水酸化物が一部溶解するので、ニッケルやコバルトの溶出ロスの量が増大すると共に、最終的に得られる水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物の好適な平均粒径である10~30μmよりも小さくなるおそれがある。一方、上記反応槽内のpHの上限値は12.0以下であるのが好まし。このpHが12.0を超えると水酸化物は晶析析出するものの、反応槽内において硫酸銅溶液の供給部分及びその近傍で直ちに析出する水酸化物が増えるため、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面を被覆しないで単独で存在する水酸化物の割合が多くなりすぎ、上記基粒子表面の均一な被覆が難しくなる。なお、上記の平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めた粒度分布の積算値50%に相当する粒径(D50)である。
【0026】
上記のように反応槽内のスラリーのpH値を所定の範囲内に調整する方法としては、例えば反応槽内のスラリーの接液部に挿入したpH電極の測定値に基づいてアルカリの添加量を調整すればよい。例えば、該pH電極で測定した反応槽内のpHが下限値よりも低ければアルカリ溶液を供給し、上限値よりも高ければアルカリ溶液の供給を停止すればよい。このアルカリ溶液の供給と停止は、反応槽内へのアルカリ溶液の供給配管に設けた供給ポンプを該pH電極の測定値に基づいてオンオフするようにしてもよいが、該供給ポンプの供給流量を該pH電極で測定した測定値とその目標値との偏差の大きさに比例させた出力を出すP動作と、偏差の積分に比例した出力を出すI動作と、偏差の微分に比例した出力を出すD動作の和からなるPID制御でフィードバック制御するのが好ましく、これにより反応槽内のpHをより一層安定させることが可能になる。
【0027】
上記硫酸銅溶液は、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子1kg当たり硫酸銅換算で0.05モル/分以上、0.4モル/分以下の速度で供給されるように該反応槽に供給することが好ましい。この供給量が硫酸銅で0.4モル/分よりも多い場合は、水酸化銅の生成速度に対して反応槽内に存在するニッケルコバルト複合水酸化物粒子の量が多すぎるので、基粒子としての該ニッケルコバルト複合水酸化物粒子に被覆量の多いものと少ないものが発生しやすくなるので好ましくない。このように基粒子において水酸化銅の被覆量のばらつきが顕著になると、後述するように正極活物質を作製したときに粒子内部への銅の拡散が不均一になるので好ましくない。
【0028】
逆に、上記の供給速度が硫酸銅で0.05モル/分よりも少ない場合は、上記の被覆量のばらつきの問題は生じにくくなるものの、被覆工程に過度に時間がかかるので生産効率が低下する。上記の硫酸銅溶液の供給速度は上記範囲内であれば必ずしも一定の速度を維持する必要はないが、前述したようにpHを目標値に維持するためにアルカリ溶液の供給速度を制御しているため、また、各粒子の被覆状態をできるだけ均一にするためには、該硫酸銅溶液の供給速度は可能な限り変動しないことが好ましい。
【0029】
上記反応槽に供給する硫酸銅溶液は、濃度0.5モル/L以上2.0モル/L以下であるのが好ましい。この硫酸銅溶液の濃度が0.5モル/Lよりも薄いと、反応槽内においてニッケルコバルト複合水酸化物粒子のスラリーが希釈され過ぎ、反応槽内で撹拌状態にあるニッケルコバルト複合水酸化物粒子群のうち晶析析出した水酸化銅によって粒子表面が被覆されないものが発生する割合が高くなる。逆に、上記硫酸銅溶液の濃度が2.0モル/Lを超えると、反応槽内のスラリーに硫酸銅溶液が滴下等により供給される部分又はその近傍で多量に水酸化銅が析出するため、この場合も反応槽内で撹拌状態にあるニッケルコバルト複合水酸化物粒子群のうち粒子表面が水酸化銅によって被覆されないものが発生する割合が高くなる。
【0030】
上記の被覆工程の終了後は、生成した水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を回収する前に反応槽内においてそのままスラリーを20~30分間程度撹拌し続けるのが好ましい。これにより反応槽内において化学反応をほぼ平衡状態に到達させることができるので、回収した水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子は水酸化銅による被覆層がより均一になる。上記反応槽からの水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の回収方法は特に限定はなく、例えば吸引ろ過やフィルタープレスにスラリーを導入して固液分離を行えばよい。
【0031】
このようにして回収した湿潤状態の水酸化銅被覆複合水酸化物粒子ケーキに対して、質量基準で8~10倍の水を数回に分けて混合して水洗した後に固液分離して固形分として回収するレパルプ洗浄を繰り返すことで該水酸化銅被覆複合水酸化物粒子の表面に残留するアルカリ性水溶液等の不純物を除去することができる。上記のレパルプ洗浄に使用する水は脱イオン水又は純水が好ましい。これにより不純物がほとんど含まれていない高品質の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を得ることができる。このレパルプ洗浄後の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物は、次に定置乾燥機や真空流動乾燥機などの乾燥機を用いて物質の温度を100℃以上に加熱して乾燥するのが好ましく、これにより正極活物質の前駆体としての水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物の乾燥粉末を得ることができる。
【0032】
このように、本発明の実施形態の製造方法により、硫酸銅溶液から析出した水酸化銅をニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面に均一かつ効率よく被覆させることができ、また、反応後の残液への銅の流出等のロスを抑えることができるため、必要以上に銅が消費されるのを防ぐことができる。更に、正極活物質として作製したときの金属元素の物質量比を容易にコントロールできる。これにより、一般式がNi1-x-y-zCoxMyCuz(OH)2(式中、MはAl、Mg、Mn、Ti、Fe、Cu、Zn、Gaからなる群から選ばれる1種以上の添加元素であり、0.05≦x≦0.5、0≦y≦0.10、0.01≦z≦0.05である)の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物を製造することができる。
【0033】
上記にて作製した水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子に対して、リチウム化合物として好ましくは水酸化リチウム若しくは炭酸リチウム又はそれらの両方を混合し、好適な熱処理条件として大気雰囲気下で700℃以上850℃以下で5~20時間かけて焼成を行うことで、銅を粒子内部に拡散固溶させることができる。これにより、銅が内部までほぼ均一に固溶したリチウムニッケルコバルト銅複合酸化物を作製することができる。このようにして得たリチウムニッケルコバルト銅複合酸化物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池は品質が極めて安定しており、よって該リチウムイオン二次電池の信頼性を高めることができる。
【0034】
以上、本発明の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変形例や変更例を含むことができる。すなわち、本発明の権利範囲は特許請求の範囲及びその均等の範囲に及ぶものである。
【実施例】
【0035】
[実施例1]
(ニッケルコバルト複合水酸化物の製造)
有効容積5Lの晶析用反応槽内に純水を2.5L入れ、ディスクタービン状攪拌翼を有する撹拌機を用いて500rpmで撹拌しながら槽内の液温を40±0.5℃に維持した。この反応槽内の雰囲気は、酸素濃度が1容量%以下の窒素雰囲気とした。この反応槽内の純水に25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水とを加えて、pH値が液温25℃基準で11.5であって且つアンモニア濃度が5g/Lの初期反応水溶液を調製した。また、別途用意した純水に硫酸ニッケルと硫酸コバルトとを溶解して、ニッケルとコバルトの物質量比がNi:Coで0.85:0.15であって且つニッケルとコバルトの合計物質量濃度が2.0モル/Lの原料金属塩溶液を調製した。
【0036】
このようにして調製した原料金属塩溶液を、反応槽内の上記初期反応水溶液に10mL/分の一定速度で供給して晶析反応を生じさせた。この際、反応槽内の反応液に対して、25質量%アンモニア水を一定速度で供給すると共に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液を反応槽内の該反応液のpH値が液温25℃基準で11.5に維持されるように流量を調整しつつ供給した。そして、定期的に反応槽内の反応液のアンモニア濃度を測定し、反応中は5g/Lに維持されていることを確認した。係る操作により、ニッケルコバルト複合水酸化物の晶析反応を生じさせた。
【0037】
生成したニッケルコバルト複合水酸化物を含むスラリーは、反応槽に設けられたオーバーフロー口から連続的に排出され、ろ過により固液分離し、固形分としてニッケルコバルト複合水酸化物を回収した。回収したニッケルコバルト複合水酸化物は、脱イオン水で水洗して水溶性の不純物を除去した後、120℃で18時間かけて乾燥した。これにより、粉末状のニッケルコバルト複合水酸化物を得た。
【0038】
(被覆工程)
上記ニッケルコバルト複合水酸化物粉末600gを有効容積5Lの容器内に入れ、純水を投入しながら攪拌し全容積2Lのスラリーとした。この時のスラリー濃度は300g/Lである。ディスクタービン形状の攪拌翼を取り付けた撹拌機にて300rpmで撹拌し、スラリー内のニッケルコバルト複合水酸化物が底部に沈降することなく、スラリー全体がほぼ均一に混合された状態であることを確認した。この撹拌状態のスラリーに対して、pHコントローラーを用いて供給量を自動制御しながら25質量%水酸化ナトリウム水溶液を供給することで、スラリーのpHを12.0に維持した。
【0039】
上記のpH調整が行われているスラリーに、別途調製した0.8モル/Lの硫酸銅水溶液を、硫酸銅が0.08モル/分(すなわち、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子1kg当たり0.13モル/分)で供給されるように滴下し、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子表面に水酸化銅を析出させることで被覆した。この硫酸銅水溶液の滴下量が200mlとなった時点で滴下を終了した。このようにして生成した水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物のスラリーをブフナーロートを用いてろ過し、更に5Lの脱イオン水で掛け水洗浄した。その後、水分率10質量%以下になるまでろ過することで回収した湿潤状態の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物ケーキを、大気乾燥機にて120℃で24時間かけて乾燥させた。
【0040】
このようにして得た前駆体としての試料1の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物に対して、その銅の含有量をICP発光分析にて測定した。その結果、硫酸銅水溶液として供給した銅の98%が該前駆体に含有されていた。また、上記被覆前後の粒子の平均粒径D50をレーザー回折散乱式粒度分析計による体積積算値から求めたところ、被覆前のD50は8.2μm、被覆後のD50は8.6μmであり、その変化率すなわち被覆前の平均粒径に対する被覆後の平均粒径は+4.9%であった。更にSEM(走査電子顕微鏡)で撮影した水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子群のSEM像から平均粒径±1.5μmの粒子をランダムに100個選択し、それら100個の粒子のうち水酸化銅微粒子の付着している粒子の個数を数えたところ98個(すなわち、被覆粒子の個数割合98%)であった。なお、SEM像において水酸化銅微粒子が付着している個数が10個未満のニッケルコバルト複合水酸化物粒子は、水酸化銅微粒子が付着していないと判断した。
【0041】
次に、得られた前駆体を用いてLiと金属成分(Ni+Co+Cu)の原子比率が1:2となるように水酸化Li粉と前駆体を混合し、焼成炉にて酸素雰囲気下で700℃に加熱し、700℃に達してから7時間保持後に冷却して正極活物質粉を得た。得られた正極活物質粉の断面についてエネルギー分散型X線分光器(以降EDSと略する)による面分析を行い、Cuが均一に分散しているか確認を行ったところ、均一に分布しており、偏析は見られなかった。
【0042】
上記と同様にしてスラリー濃度300g/Lのニッケルコバルト複合水酸化物を含むスラリー2Lが入れられた5L容器を6個用意し、それぞれのpHを12.0に代えて11.0(試料2)、10.0(試料3)、9.0(試料4)、8.0(試料5)、7.0(試料6)、及び6.0(試料7)にした以外は上記試料1の場合と同様にして試料2~6の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物を得た。これら試料2~6の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物に対して試料1の場合と同様にして評価した。その結果を試料1のものと併せて下記表1に示す。なお、試料7ではニッケルコバルト複合水酸化物が全て溶液中に溶解したため、ろ過物は残らなかった。
【0043】
【0044】
上記表1の結果から、晶析により作製したニッケルコバルト複合水酸化物粒子に水を加えて調製したスラリーに対して、そのpHを7.0を超え12.0以下に調整しながら硫酸銅溶液を連続的に供給することで、該ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面にほぼ均一且つ効率よく水酸化銅微粒子を被覆できるので、Cuによる偏析のない正極活物質が得られることが分かる。
【0045】
[実施例2]
ニッケルコバルト複合水酸化物のスラリー濃度を、300g/Lに代えて、それぞれ50g/L(試料8)、100g/L(試料9)、500g/L(試料10)、及び550g/L(試料11)のニッケルコバルト複合水酸化物を含むスラリーを調製した以外は上記実施例1の試料3の場合と同様にして試料8~11の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物を得た。これら試料8~11の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物に対して実施例1と同様にして評価した。その結果を下記表2に示す。
【0046】
【0047】
上記表2の結果から、用いるニッケルコバルト複合水酸化物のスラリー濃度が100g/Lよりも低いと析出した水酸化銅粒子が付着しないニッケルコバルト複合水酸化物粒子の存在割合が増加してしまい、付着しなかった水酸化銅粒子が工程ロスとなることで銅の回収効率が低下する。一方、ニッケルコバルト複合水酸化物のスラリー濃度が500g/Lを超えると析出した水酸化銅を媒介としてニッケルコバルト複合水酸化物の凝集が起こり、銅添加後に得られる複合水酸化物粒子の平均粒径が増加することが分かる。
【0048】
[実施例3]
反応槽内のpH調整されたニッケルコバルト複合水酸化物のスラリーに滴下する硫酸銅水溶液の濃度を、0.8モル/Lに代えて、それぞれ0.3モル/L(試料12)、0.5モル/L(試料13)、2.0モル/L(試料14)、及び2.5モル/L(試料15)にした以外は上記実施例1の試料3の場合と同様にして試料12~15の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物を得た。これら試料12~15の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物に対して実施例1と同様にして評価した。その結果を下記表3に示す。
【0049】
【0050】
上記表3の結果から、反応に用いる硫酸銅水溶液の濃度が0.5モル/Lよりも低いとニッケルコバルト複合水酸化物粒子のスラリーが希釈され過ぎ、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子群のうち晶析析出した水酸化銅によって粒子表面が被覆されないものが発生する割合が高く、すなわち水酸化銅微粒子の付着してる複合水酸化物粒子の割合が低くなる。逆に、硫酸銅溶液の濃度が2.0モル/Lを超えると、反応槽内のスラリーに硫酸銅溶液が滴下等により供給される部分又はその近傍で多量に水酸化銅が析出するため、この場合も反応槽内で撹拌状態にあるニッケルコバルト複合水酸化物粒子群のうち粒子表面が水酸化銅微粒子によって被覆されないものが発生する割合が高くなることが分かる。
【0051】
[実施例4]
反応槽内のpH調整されたニッケルコバルト複合水酸化物スラリーに滴下する硫酸銅水溶液の供給速度を、硫酸銅0.08モル/分に代えて、それぞれ0.03モル/分(試料16)、0.05モル/分(試料17)、0.2モル/分(試料18)、及び0.25モル/分(試料19)にした以外は上記実施例1の試料3の場合と同様にして試料16~19の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物を得た。なお、上記の供給速度は、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子1kg当たりで換算すると、それぞれ0.05モル/分(試料16)、0.08モル/分(試料17)、0.33モル/分(試料18)、及び0.42モル/分(試料19)となる。これら試料16~19の水酸化銅被覆ニッケルコバルト複合水酸化物に対して実施例1と同様にして評価した。その結果を下記表4に示す。
【0052】
【0053】
上記表4の結果から、硫酸銅水溶液の供給速度がニッケルコバルト複合水酸化物粒子1kg当たり0.05モル/分以下では、水酸化銅微粒子の被覆量のバラツキは小さいが被覆工程にかかる時間が長くなり生産効率が低下する。逆に硫酸銅水溶液の供給速度がニッケルコバルト複合水酸化物粒子1kg当たり0.4モル/分よりも大きいと、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子に被覆量のバラツキが大きくなることが分かる。なお、水酸化銅微粒子の付着した粒子のうち、最も水酸化銅微粒子の付着数の多い粒子の水酸化銅微粒子の付着数が200個以上の場合は被覆量のバラツキが大きいと判断し、該付着数が200個未満50個以上はバラツキが平均的と判断し、該付着数が50個未満の場合はばらつきが小さいと判断した。また、被覆工程にかかる時間が5分以上の場合は生産効率「×」と判断し、5分未満の場合は生産効率「○」と判断した。