(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 11/02 20060101AFI20220511BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
H01B11/02
H01B7/18 D
H01B7/18 H
(21)【出願番号】P 2020209945
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2022-02-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】小林 正則
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-209604(JP,A)
【文献】中国実用新案第210039740(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/02
H01B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の対撚線が撚り合わされたケーブルコアと、
前記ケーブルコアの周囲を一括して覆う一括シールド層と、
前記一括シールド層の周囲を覆うシースと、を備え、
前記対撚線は、撚り合わされた一対の電線と、金属テープを前記一対の電線の周囲に巻きつけてなるシールド層と、を有し、
前記ケーブルコアは、
複数本の前記対撚線からなる内層と、前記内層の周囲に配置された複数本の前記対撚線からなる外層と、
前記対撚線のそれぞれの周囲に充填された繊維からなる介在と、
前記外層を構成する複数本の前記対撚線の所定の本数毎の周期で配置され、かつ、前記外層を構成する前記所定の本数毎の前記対撚線の少なくとも一本に接する複数本のドレイン線と、を有し、
前記内層を構成する複数本の前記対撚線のそれぞれは、前記外層を構成する複数本の前記対撚線のいずれかに前記シールド層同士で接している、
ケーブル。
【請求項2】
前記複数本のドレイン線は、前記外層においてケーブル周方向に隣り合う前記対撚線の間に配置されると共に、前記外層の2本の前記対撚線毎にそれぞれ設けられており、かつ、ケーブル周方向に隣り合う前記外層の2本の対撚線の少なくとも一方に接している、
請求項1に記載のケーブル。
【請求項3】
前記ドレイン線は、前記対撚線を構成する前記電線の導体よりも断面積が大きい、
請求項1または2に記載のケーブル。
【請求項4】
前記対撚線を構成する前記電線の導体は、複数本の金属素線を撚り合わせ、かつ断面形状が円形状となるように圧縮した圧縮撚線導体からなる、
請求項1乃至3の何れか1項に記載のケーブル。
【請求項5】
前記一対の電線の撚り合わせ方向と、前記シールド層における前記金属テープの巻き付け方向とが、同じ方向である、
請求項1乃至4の何れか1項に記載のケーブル。
【請求項6】
前記ケーブルコアの周囲に螺旋状に巻き付けられた樹脂テープからなるテープ層を備え、
前記テープ層の周囲を覆うように前記一括シールド層が設けられている、
請求項1乃至5の何れか1項に記載のケーブル。
【請求項7】
前記シールド層を構成する金属テープは、ポリエチレンテレフタレートからなる樹脂層の一方の面に、アルミニウムからなる金属層を有する、
請求項1乃至6の何れか1項に記載のケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ等のOA機器によって構成されるローカルエリアネットワーク(LAN)に好適なケーブルとして、例えば、特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、例えば工場内の生産ラインを監視するために用いられるカメラとして、移動可能なカメラが用いられてきている。具体的には、例えば、工場内の生産ラインで使用されるロボットにカメラが設置されており、ロボットの動きに合わせてカメラも移動する。このような移動可能なカメラに接続されるケーブルとして、カメラリンクケーブルがある。カメラリンクケーブルは、U字状に配線されて、カメラの移動に伴って繰り返しスライド動作(U字スライド動作)される場合がある。そのため、U字スライド動作に対する耐性を向上させたケーブルが求められる。
【0005】
また、工場等での使用が想定される場合、カメラリンクケーブルとして用いられるケーブルは、例えば10mを超える長距離にわたって布設される場合がある。そのため、カメラからの画像や映像等の信号を10mを超える長距離にわたって高速伝送が可能なケーブルが要求されている。
【0006】
そこで、本発明は、U字スライド動作に対する耐性を向上させ、かつ、長距離にわたる高速伝送が可能なケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、複数本の対撚線が撚り合わされたケーブルコアと、前記ケーブルコアの周囲を一括して覆う一括シールド層と、前記一括シールド層の周囲を覆うシースと、を備え、前記対撚線は、撚り合わされた一対の電線と、金属テープを前記一対の電線の周囲に巻きつけてなるシールド層と、を有し、前記ケーブルコアは、複数本の前記対撚線からなる内層と、前記内層の周囲に配置された複数本の前記対撚線からなる外層と、前記対撚線のそれぞれの周囲に充填された繊維からなる介在と、前記外層を構成する複数本の前記対撚線の所定の本数毎の周期で配置され、かつ、前記外層を構成する前記所定の本数毎の前記対撚線の少なくとも一本に接する複数本のドレイン線と、を有し、前記内層を構成する複数本の前記対撚線のそれぞれは、前記外層を構成する複数本の前記対撚線のいずれかに前記シールド層同士で接している、ケーブルを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、U字スライド動作に対する耐性を向上させ、かつ、長距離にわたる高速伝送が可能なケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施の形態に係るケーブルの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図1に示すケーブル1は、例えば、工場内の生産ラインを監視する移動可能なカメラに接続されるカメラリンクケーブルとして用いられるものである。
【0012】
図1に示すように、ケーブル1は、ケーブル中心を軸として複数本(ここでは11本)の対撚線2が撚り合わされたケーブルコア3と、ケーブルコア3の周囲を一括して覆う一括シールド層4と、一括シールド層4の周囲を覆うシース5と、を備えている。
【0013】
(対撚線2)
対撚線2は、撚り合わされた一対の電線21と、一対の電線21の周囲を覆うシールド層22と、を有している。電線21は、導体211と、導体211の周囲を被覆している絶縁体212と、を有している。なお、対撚線2は、10MHz以上の周波数帯域において、ケーブル長手方向に対して一様に100±10Ωの特性インピーダンスを有する。また、対撚線2は、10MHz以上の周波数帯域において、一対の電線21間のスキューが50ps/m以下である。対撚線2の特性インピーダンス、およびスキューの測定は、例えば、TDR(Time Domain Reflectometry:時間領域反射)法によって求めることができる。
【0014】
本実施の形態では、導体211として、複数本の金属素線を撚り合わせ、かつ断面形状が円形状となるように圧縮(軽圧縮)した圧縮撚線導体からなるものを用いた。これにより、金属素線間の隙間を小さくして、導体211の外径を大きくすることなく導体断面積を大きくすることが可能になり、電気特性を良好に維持しつつもケーブル1全体の外径を小さく維持することが可能になる。その結果、長距離にわたって高速伝送が可能な良好な電気特性が得られる。また、圧縮することにより導体211の引っ張り強さが向上するため、U字スライド動作に対する耐性を向上させることも可能になる。導体211に用いる金属素線としては、例えば、銀めっき軟銅線等を用いることができる。導体211は、例えば、外径が0.05mm以上0.10mm以下の金属素線を複数本(例えば、19本以上50本以下)撚り合わせた後、軽圧縮して構成される。なお、導体211は、外径が0.08mm未満(例えば、外径が0.05mm)の金属素線を50本撚り合わせた後、軽圧縮して構成されてもよい。ただし、この場合は、金属素線の本数が多くなり、コストが高くなるので、コストを抑える観点からは、外径が0.08mm以上0.10mm以下の金属素線を用いることがより好ましい。本実施の形態では、外径が0.08mmの金属素線を19本撚り合わせた後、軽圧縮を行うことにより、26AWG程度の導体断面積を維持しつつも、28AWG程度の小さい(26AWGよりも小さい)外径の導体211とした。
【0015】
絶縁体212としては、高速信号の伝送に適した誘電率の低い絶縁性樹脂からなるものを用いるとよい。具体的には、ポリエチレンやポリプロピレンなどからなる絶縁性樹脂を用いるとよい。これらの絶縁性樹脂で形成された絶縁体212は、電子線が照射されることによって架橋された照射架橋絶縁体であるとよい。また、絶縁体212は、チューブ押出により筒状に形成されることが望ましい。これにより、絶縁体212を構成する樹脂が導体211の金属素線間に侵入してしまうことが抑制され、ケーブル屈曲時に導体211が絶縁体212に対して相対的に移動可能となるため、U字スライド動作に対する耐性を向上することができる。なお、絶縁体212は、上述した絶縁性樹脂を充実押出することによって形成されたものでもよい。なお、本実施の形態では、ポリエチレンからなる絶縁性樹脂で構成される絶縁体212とした。
【0016】
シールド層22は、樹脂層の一方の面に金属層を有する金属テープで構成されている。シールド層22は、一対の電線21の周囲に、金属テープを金属層が外側となるように螺旋状に巻きつけて構成されている。本実施の形態では、シールド層22を構成する金属テープとして、PET(ポリエチレンテレフタレート)からなる樹脂層の一方の面に、アルミニウムからなる金属層を有するAL/PETテープを用いた。シールド層22は、対撚線2の最外層となる。つまり、シールド層22を構成する金属テープの金属層が対撚線2の最外層となる。
【0017】
対撚線2において、一対の電線21の撚り合わせ方向と、シールド層22を構成する金属テープの巻き付け方向とは、同じ方向であるとよい。これにより、シールド層22を構成する金属テープが一対の電線21の周囲に接触しやすくなる。その結果、シールド層22の表面が一対の電線21の外形に沿った凹凸の形状となりやすくなり、ケーブルコア3を構成した際に隣り合う対撚線2同士の接触面積を小さくして、対撚線2同士の擦れによるシールド層22の破損を抑制することが可能になり、ケーブル1のU字スライド動作に対する耐性を向上させることが可能になる。また、一対の電線21の撚り合わせ方向と、シールド層22を構成する金属テープの巻き付け方向とは、後述するケーブルコア3、テープ層6、および金属テープ41と同じ方向であるとよい。これにより、ケーブル1のU字スライド動作に対して、シールド層22を構成する金属テープの巻き口が開きにくくなる。金属テープの巻き口が開きにくくなると、ケーブル1をU字スライド動作させたときに、対撚線2同士の接触によって金属テープが損傷することを低減することができる。その結果、ケーブル1のU字スライド動作に対する耐性をさらに向上させることが可能になる。すなわち、ケーブル1を500万回~1000万回の範囲で繰り返しU字スライド動作させたときにも、シールド層22を構成する金属テープが損傷しにくく、長距離にわたる高速伝送が可能なケーブル1を実現することができる。また、一対の電線21の撚りピッチは、後述するケーブルコア3を構成する複数本の対撚線2の撚りピッチよりも小さいことがよい。なお、一対の電線21の撚り合わせ方向とは、対撚線2の一端から見たときに、他端から一端にかけて電線21が回転している方向である。また、金属テープの巻き付け方向とは、対撚線2の一端から見たときに、他端から一端にかけて金属テープが回転している方向である。なお、本実施の形態では、一対の電線21の撚り合わせ方向、およびシールド層22を構成する金属テープの巻き付け方向は、ケーブルコア3の撚り合わせ方向、テープ層6の巻き付け方向、および金属テープ41の巻き付け方向と同じ方向とした。
【0018】
(ケーブルコア3)
ケーブルコア3は、複数本の対撚線2からなる内層31と、内層31の周囲に配置された複数本の対撚線2からなる外層32と、を有する。本実施の形態では、ケーブルコア3は、ケーブル中心に配置された3本の対撚線2からなる内層31と、内層31の周囲に配置された8本の対撚線2からなる外層32と、を有する。このように、内層31を3本の対撚線2で構成し、その周囲に8本の対撚線2を配置して外層32を構成することで、11本の対撚線2を安定して撚り合わせることが可能になり、かつ、ケーブル1の外径を小さく維持することができる。内層31を構成する3本の対撚線2と、外層32を構成する8本の対撚線2とは、いずれも一対の電線21の撚り合わせ方向と同じ撚り合わせ方向に撚り合わせられていることがよい。このように、撚り合わせ方向を同じにすることにより、ケーブル1の外径を小さくしつつ、内層31を構成する3本の対撚線2のそれぞれが、外層32を構成する8本の対撚線2の少なくとも1本に接するように配置されやすくなる。
【0019】
また、ケーブルコア3は、対撚線2のそれぞれの周囲に充填された繊維からなる介在33を有している。介在33は、ケーブル屈曲時に対撚線2同士が擦れてしまうことを抑制し、対撚線2同士の擦れによるシールド層22の摩耗を抑制する役割を果たしている。また、介在33は、ケーブル1の外形を円形状に近づける役割を果たしている。介在33は、内層31を構成する対撚線2の間、外層32を構成する対撚線2の間、内層31を構成する対撚線2と外層32を構成する対撚線2との間、及び、外層32を構成する対撚線2と後述するテープ層6との間に、それぞれ設けられている。また、繊維からなる介在33は、対撚線2のそれぞれの周囲に充填されていることにより、ケーブル1をU字スライド動作したときに、
図1に示すようなケーブルコア3の構造を保つことができる。すなわち、ケーブル1では、繊維からなる介在33が対撚線2のそれぞれの周囲に充填されていることにより、対撚線2同士が接触したときに、対撚線2を構成するシールド層22が摩耗によって損傷しにくい程度の接触にすることができる。また、対撚線2同士の接触によって一方の対撚線2が他方の対撚線2に押し付けられた場合であっても、当該押し付け力によって対撚線2がその他の対撚線2へ接触するまで移動することを、介在33によって規制することができる。その結果、ケーブル1を500万回~1000万回の範囲でU字スライド動作させたときに、シールド層22を構成する金属テープが損傷しにくく、長距離にわたる高速伝送が可能なケーブル1を実現することができる。介在33は、2.0g/m以上4.0g/m以下の範囲の目付量でケーブルコア3内に充填されていることがよい。これにより、上述した作用および効果が発現されるケーブル1が得られやすくなる。なお、本実施の形態では、介在33を2.5g/m以上3.5g/m以下の目付量でケーブルコア3内に充填した。
【0020】
なお、介在33は繊維状であるため、対撚線2の周囲に介在33を設けた状態で撚り合わせると、介在33の偏りや対撚線2の位置ずれが自然に発生し、ケーブル長手方向において部分的に隣り合う対撚線2同士の接触が発生する。本実施の形態においては、内層31の3本の対撚線2のそれぞれが、外層32の8本の対撚線2のいずれかに接している。また、内層31の3本の対撚線2が、ケーブル長手方向の何処かで互いに接触していることが望ましい。
【0021】
介在33としては、スフ糸(ステープルファイバー糸)、ナイロン糸等の樹脂からなるものを用いるとよい。本実施の形態では、スフ糸からなる介在33を用いた。介在33としては、隣り合う対撚線2同士の接触を発生させつつ、対撚線2間の隙間を埋めて対撚線2同士の擦れを抑制可能とするために、比較的外径が小さいものを用いることが望ましい。具体的には、介在33としてスフ糸を用いる場合、スフ糸の種類は、10番手~60番手の単糸、または2個撚糸からなるとよい。好ましくは、スフ糸としては、10番手,20番手,40番手,60番手の2個撚糸、あるいは、10番手,20番手の単糸を用いるとよい。なお、10番手~20番手の2個撚糸で構成された介在33とすることで、上述した作用、効果が特に得られやすい。また、介在33を構成するスフ糸は、引張強さが2.5N以上であり、伸びが10%以上であることが望ましい。引張強さ及び伸びは、JIS L 1095(2010)の9.5.1項に準拠する試験方法によって求めることができる。
【0022】
さらに、ケーブルコア3は、4本のドレイン線34を有している。ケーブルコア3は、11本の対撚線2と、介在33と、4本のドレイン線34とを一括して撚り合わせて構成されている。ドレイン線34は、外層32を構成する複数本(ここでは8本)の対撚線2の所定の本数毎(ここでは2本毎)の周期で配置され、かつ、外層32を構成する所定の本数毎の対撚線2の少なくとも一つに接している。本実施の形態では、ドレイン線34は、外層32に配置された対撚線2において、ケーブル周方向に隣り合う2本の対撚線2の間に当該2本の対撚線2の少なくとも一方に接するように配置され、かつ、外層32の2本の対撚線2毎に設けられている。つまり、外層32を構成する8本の対撚線2のそれぞれがケーブル周方向に対して互いに隣り合うように配置されているときに、互いに隣り合う部分の間となる8箇所のうち、ケーブル周方向において1つおきの4箇所に、ドレイン線34がそれぞれ配置されている。ドレイン線34は、対撚線2のシールド層22と接する。なお、ドレイン線34の本数は4本に限定されず、2本以上であるとよい。また、本実施の形態では、外層32の2本の対撚線2毎にドレイン線34を設けたが、これに限らず、例えば外層31の3本以上の対撚線2毎にドレイン線34を設けてもよい。
【0023】
ドレイン線34の周囲にも介在33が配置されているが、上述のように、介在33は繊維状であり、かつドレイン線34は比較的細径で介在33よりも剛性が高いために、ケーブルコア3を構成する際の撚り合わせによって、対撚線2と同様にドレイン線34の周方向位置が変動しやすい。本実施の形態では、ドレイン線34は、ドレイン線34を挟んでケーブル周方向に隣り合う外層32の2本の対撚線2のうち少なくとも一方に接している。より好ましくは、ケーブル長手方向の何処かの位置において、ドレイン線34は、ドレイン線34を挟んでケーブル周方向に隣り合う外層32の2本の対撚線2の両方に接触しているとよい。
【0024】
上述のように、内層31の対撚線2は外層32のいずれかの対撚線2に接していることから、ドレイン線34を挟んでケーブル周方向に隣り合う外層32の2本の対撚線2の両方にドレイン線34を接触させることで、各対撚線2のシールド層22と、ドレイン線34とが、電気的に接続されることになる。よって、端末加工時に、4本のドレイン線34をグランド(シグナルグランド)に接続することで、各対撚線2で安定したグランドを維持することが可能になり、例えば10mを超える長距離にわたって高速伝送を安定して行うことが可能になる。なお、例えば、端末加工時等に端末で露出させた各対撚線2を束ねることで、意図的に全ての対撚線2のシールド層22とドレイン線34とを電気的に接続させるようにしてもよい。
【0025】
ドレイン線34の本数を、4本よりも少ない本数(例えば1本)とすることも考えられるが、この場合、各対撚線2の接触状況によっては、各対撚線2で安定したグランドを維持できないおそれが生じる。また、ドレイン線34の本数を4本よりも多い本数(例えば8本)とすることも考えられるが、この場合、ドレイン線34の本数が増えることによるケーブル1の大径化や、端末加工時の作業性の低下のおそれが生じ、コストも増大してしまう。本実施の形態のように、4本のドレイン線34を、外層32の2本の対撚線2毎に配置するよう構成することで、周方向にバランス良くドレイン線34を配置でき、ドレイン線34の本数増加によるケーブル外径の増大や端末加工時の作業性の低下等を抑制しつつも、各対撚線2で安定したグランドを維持することが可能になる。
【0026】
ドレイン線34は、対撚線2を構成する電線21の導体211よりも断面積が大きい。具体的には、ケーブル長手方向に垂直な断面において、ドレイン線34の断面積は、導体211の断面積の1.1倍以上1.5倍以下(例えば、24AWG以上28AWG以下の断面積を有する導線)であるとよい。ドレイン線34は、このような断面積であることにより、ケーブルコア3の外径を大きくすることなく、2本の対撚線2の間にドレイン線34を配置することができ、かつ、配置されたドレイン線34が当該2本の対撚線2のいずれかに接触する際に、対撚線2を構成するシールド層22がドレイン線34と擦れることによってシールド層22が損傷することを低減することができる。また、ドレイン線34としては、複数本の金属素線を集合撚りによって撚り合わせた撚線導体を用いるとよい。ドレイン線34を構成する撚線導体の撚り合わせ方向は、対撚線2を構成する一対の電線21の撚り合わせ方向、およびシールド層22を構成する金属テープの巻き付け方向と同じであるとよい。ドレイン線34に用いる金属素線としては、軟銅線や銅合金線などの銅線が用いられる。なお、本実施の形態では、ドレイン線34の断面積を26AWGとした。
【0027】
(テープ層6)
ケーブル1は、ケーブルコア3の周囲に螺旋状に巻き付けられた樹脂テープからなるテープ層6を備えている。テープ層6は、ケーブルコア3の撚りがほどけないように保持する役割と、各対撚線2のシールド層22及びドレイン線34と、一括シールド層4とを絶縁する役割とを果たしている。これに加えて、テープ層6は、対撚線2を構成するシールド層22、ドレイン線34、および後述する金属テープ41が、ケーブル1のU字スライド動作によって損傷することを抑制する役割を果たしている。テープ層6に用いる樹脂テープとしては、例えば、ナイロン、フッ素樹脂(例えば、PTFE、ETFEなど)からなるものを用いることができる。テープ層6の厚さは、例えば、25μm以上100μm以下である。テープ層6をこのような厚さとすることにより、ケーブル1を繰り返しU字スライド動作させることによってテープ層6自体が損傷しにくくなるため、上記した役割を果たすのに有効である。なお、本実施の形態では、テープ層6をナイロン(厚さ50μ程度)からなるものを用いた。
【0028】
(一括シールド層4)
一括シールド層4は、テープ層6の周囲を覆うように設けられている。一括シールド層4は、ドレイン線34(及び各対撚線2のシールド層22)とは異なるグランド(ケースグランド)に電気的に接続される。本実施の形態では、一括シールド層4は、テープ層6の周囲に螺旋状に巻き付けられた金属テープ41と、金属テープ41の周囲を覆うように設けられた編組シールド42と、から構成されている。
【0029】
金属テープ41は、樹脂層と、樹脂層の一方の面に設けられた金属層と、を有している。樹脂層は、例えばPETからなる。金属層は、例えば銅やアルミニウムからなる。本実施の形態では、金属テープ41として、PETからなる樹脂層の一方の面に、アルミニウムからなる金属層を有するAL/PETテープを用いた。金属テープ41は、金属層が外側(編組シールド42側)となるように、テープ層6の周囲に螺旋状に巻き付けられている。また、金属テープ41は、樹脂層の他方の面(金属層と反対側の面)に設けられた接着層を有していてもよく、接着層によりテープ層6に接着されていてもよい。
【0030】
編組シールド42は、金属素線を編み組みして構成されており、金属テープ41の外面、すなわち金属層の表面に接触している。編組シールド42に用いる金属素線としては、軟銅線や銅合金を用いることができ、錫等のめっきを施したものも用いることができる。また、編組シールド42は、編組密度が85%以上である。編組シールド42は、編組角度が30度以上40度以下である。なお、本実施の形態では、編組シールド42として、約0.1mmの外径を有する複数本の軟銅線を編み組みしたもの(編組密度:85%以上、編組角度:30度以上40度以下)を用いた。
【0031】
例えば、一括シールド層4を編組シールド42のみで構成した場合、編組シールド42には編み目による隙間が存在するために、外部ノイズを十分に抑制することができない場合がある。他方、一括シールド層4を金属テープ41のみで構成した場合、ケーブル長手方向に周期的に絶縁体(樹脂層)が存在することとなり、特定の周波数(例えば数GHzの帯域)で損失が急激に大きくなるサックアウトと呼ばれる現象が生じ、高周波特性が劣化してしまう可能性がある。本実施の形態のように、一括シールド層4を金属テープ41と編組シールド42とし、これらが互いに接していることで、外部ノイズの影響を十分に抑制し、かつ、サックアウトの発生を抑制することが可能になる。また、一括シールド層4が編組シールド42を有することにより、ケーブル1を500万回~1000万回の範囲で繰り返しU字スライド動作させたときに、編組シールド42によって、ケーブルコア3を構成する対撚線2やドレイン線34などがケーブルコア3の外部へ出て来ないように抑えることが可能になる。これは、編組シールド42が、ケーブルコア3の外側からケーブルコア3の全周囲にわたって均一に包み込む状態で配置することができるためである。つまり、一括シールド層4に編組シールド42を用いることにより、一括シールド層4に金属素線を螺旋状に巻き付けた横巻シールドを用いた場合と比べて、繰り返しU字スライド動作によってケーブルコア3から対撚線2やドレイン線34などが外部へ突出することを抑制することが可能になる。また、金属テープ41を押え巻きテープ6の周囲に巻き付けること(テープ層6と編組シールド42との間に金属テープ41を配置すること)により、繰り返しU字スライド動作による擦れによって静電気などの電気的なノイズがテープ層6と編組シールド42との間に生じてしまうことを抑制できる。
【0032】
(シース5)
シース5は、編組シールド42の周囲を被覆するように設けられており、ケーブルコア3や一括シールド層4を保護する役割を果たす。シース5は、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)樹脂組成物からなる。シース5は、チューブ押出により筒状に形成されることが望ましい。これにより、シース5を構成する樹脂が編組シールド42の編み目に侵入してしまうことが抑制され、ケーブル屈曲時にシース5に対して編組シールド42が相対的に移動可能となるため、U字スライド動作に対する耐性を向上することができる。シース5の外径、すなわちケーブル1の外径は、9.5mm以下とされる。本実施の形態ではシース5の外径、すなわちケーブル1の外径を9.3mmとした。
【0033】
(ケーブル1の特性)
以上説明した本実施の形態に係るケーブル1を実施例として試作し、U字屈曲試験を行った。
【0034】
U字屈曲試験では、
図2に示すように、ケーブル1の一端部を固定プレート14に固定すると共に、ケーブル1を固定プレート14と平行に延出し、延出したケーブル1をU字状に折り返した後に、ケーブル1の他端部を固定プレート14と平行に配置された移動プレート15に固定した(初期状態)。この状態で移動プレート15を、移動プレート15からのケーブル1の延出方向と平行な方向にストローク長L=300mmで往復移動させることを繰り返した。ケーブル1の曲げ半径はケーブル1の外径の約7.5倍とした。ストローク速度は60回/分とし、ストローク回数は、移動プレート15を一往復させたときを1回としてカウントした。また、適宜回ごとにケーブル1の両端部間で導体211の導通検査を行い、初期状態における抵抗値からの変化量(抵抗値増加率)が10%以上となったストローク回数をU字屈曲寿命とした。その結果、本実施の形態に係るケーブル1では、ストローク回数が500万回に到達しても抵抗値増加率が10%未満であった。すなわち、本実施の形態に係るケーブル1では、U字屈曲寿命が500万回以上であることが分かった。
【0035】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るケーブル1では、ケーブルコア3は、複数本の対撚線2からなる内層31と、内層31の周囲に配置された複数本の対撚線2からなる外層32と、を有すると共に、対撚線2のそれぞれの周囲に充填された繊維からなる介在33と、外層32を構成する複数本の対撚線2の所定の本数毎の周期で配置され、かつ、外層32を構成する所定の本数毎の対撚線2の少なくとも一本に接する複数本のドレイン線34と、を有し、内層31を構成する複数本の対撚線2のそれぞれは、外層32を構成する複数本の対撚線2のいずれかにシールド層22同士で接している。
【0036】
対撚線2のそれぞれの周囲に介在33を充填することで、ケーブル屈曲時の対撚線2同士の擦れによるシールド層22の摩耗を抑制でき、U字スライド動作に対する耐性を向上させることができる。より具体的には、本実施の形態によれば、500万回のU字スライド動作でも断線が生じないケーブル1を実現できる。
【0037】
さらに、内層31と外層32の対撚線2を接触させ、かつ、外層32の複数本(ここでは2本)の対撚線2毎に設けられた複数本(ここでは4本)のドレイン線34を、外層32の対撚線2にそれぞれ接触させる構成とすることで、各対撚線2のシールド層22とドレイン線34を電気的に接続することができる。そして、ドレイン線34をグランドに接続することで、各対撚線2のグランドを安定させて信号ロスを少なくし、10mを超える長距離にわたって高速伝送が可能なケーブル1を実現することができる。つまり、本実施の形態によれば、対撚線2同士の擦れによるシールド層22の摩耗を抑制しつつも、各対撚線2のシールド層22とドレイン線34とを電気的に接続してグランドを安定させることが可能となり、これにより、U字スライド動作に対する耐性を向上させ、かつ、長距離にわたる高速伝送が可能なケーブル1を実現できる。
【0038】
さらに、ケーブルコア3の内層31を3本、外層32を8本の対撚線2で構成することで、ケーブルコア3を安定して撚り合わせることができ、かつ、ケーブル外径を小さく維持することが可能になる。
【0039】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0040】
[1]複数本の対撚線(2)が撚り合わされたケーブルコア(3)と、前記ケーブルコア(3)の周囲を一括して覆う一括シールド層(4)と、前記一括シールド層(4)の周囲を覆うシース(5)と、を備え、前記対撚線(2)は、撚り合わされた一対の電線(21)と、金属テープを前記一対の電線(21)の周囲に巻きつけてなるシールド層(22)と、を有し、前記ケーブルコア(3)は、複数本の前記対撚線(2)からなる内層(31)と、前記内層(31)の周囲に配置された複数本の前記対撚線(2)からなる外層(32)と、前記対撚線(2)のそれぞれの周囲に充填された繊維からなる介在(33)と、前記外層(32)を構成する複数本の前記対撚線(2)の所定の本数毎の周期で配置され、かつ、前記外層(32)を構成する前記所定の本数毎の前記対撚線(2)の少なくとも一本に接する複数本のドレイン線(34)と、を有し、前記内層(31)を構成する複数本の前記対撚線(2)のそれぞれは、前記外層(32)を構成する複数本の前記対撚線(2)のいずれかに前記シールド層(22)同士で接している、ケーブル(1)。
【0041】
[2]前記複数本のドレイン線(34)は、前記外層(32)においてケーブル周方向に隣り合う前記対撚線(2)の間に配置されると共に、前記外層(32)の2本の前記対撚線(2)毎にそれぞれ設けられており、かつ、ケーブル周方向に隣り合う前記外層(32)の2本の対撚線(2)の少なくとも一方に接している、[1]に記載のケーブル(1)。
【0042】
[3]前記ドレイン線(34)は、前記対撚線(2)を構成する前記電線(21)の導体(211)よりも断面積が大きい、[1]または[2]に記載のケーブル(1)。
【0043】
[4]前記対撚線(2)を構成する前記電線(21)の導体(211)は、複数本の金属素線を撚り合わせ、かつ断面形状が円形状となるように圧縮した圧縮撚線導体からなる、[1]乃至[3]の何れか1項に記載のケーブル(1)。
【0044】
[5]前記一対の電線(21)の撚り合わせ方向と、前記シールド層(22)における前記金属テープの巻き付け方向とが、同じ方向である、[1]乃至[4]の何れか1項に記載のケーブル(1)。
【0045】
[6]前記ケーブルコア(3)の周囲に螺旋状に巻き付けられた樹脂テープからなるテープ層(6)を備え、前記テープ層(6)の周囲を覆うように前記一括シールド層(4)が設けられている、[1]乃至[5]の何れか1項に記載のケーブル(1)。
【0046】
[7]前記シールド層(22)を構成する金属テープは、ポリエチレンテレフタレートからなる樹脂層の一方の面に、アルミニウムからなる金属層を有する、[1]乃至[6]の何れか1項に記載のケーブル(1)。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…ケーブル
2…対撚線
21…電線
211…導体
212…絶縁体
22…シールド層
3…ケーブルコア
31…内層
32…外層
33…介在
34…ドレイン線
4…一括シールド層
41…金属テープ
42…編組シールド
5…シース
6…テープ層
【要約】
【課題】U字スライド動作に対する耐性を向上させ、かつ、長距離にわたる高速伝送が可能なケーブルを提供する。
【解決手段】複数本の対撚線2が撚り合わされたケーブルコア3を備え、対撚線2は、撚り合わされた一対の電線21と、金属テープを一対の電線21の周囲に巻きつけてなるシールド層22と、を有し、ケーブルコア3は、複数本の対撚線2からなる内層31と、内層31の周囲に配置された複数本の対撚線2からなる外層32と、対撚線2のそれぞれの周囲に充填された繊維からなる介在33と、外層32を構成する複数本の対撚線2の所定の本数毎の周期で配置され、かつ、外層32を構成する所定の本数毎の対撚線2の少なくとも一本に接する複数本のドレイン線34と、を有し、内層31を構成する複数本の対撚線2のそれぞれは、外層32を構成する複数本の対撚線2のいずれかにシールド層22同士で接している。
【選択図】
図1