(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】封止材、電子部品、電子回路基板、及び封止材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/29 20060101AFI20220511BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20220511BHJP
H01L 23/00 20060101ALI20220511BHJP
H01L 21/56 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
H01L23/30 R
H01L23/00 C
H01L21/56 C
(21)【出願番号】P 2020514895
(86)(22)【出願日】2018-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2018016360
(87)【国際公開番号】W WO2019202741
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 一雅
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】伊豆 里奈
【審査官】多賀 和宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-283900(JP,A)
【文献】特開2017-188647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/00、23/29-23/31
H01L 21/56
C08K 3/22、3/32
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属粒子と樹脂組成物とを備える封止材であって、
前記封止材の表面の少なくとも一部おける単位長さ当たりの抵抗が、0.1kΩ/mm以上20kΩ/mm以下であり、
前記封止材の内部における単位長さ当たりの抵抗が、0.2GΩ/mm以上10TΩ/mm以下である、
封止材。
【請求項2】
前記金属粒子が、前記金属粒子に由来する金属のリン酸塩によって覆われている、
請求項1に記載の封止材。
【請求項3】
前記金属粒子が鉄を含む、
請求項1又は2に記載の封止材。
【請求項4】
前記樹脂組成物が熱硬化性樹脂を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の封止材。
【請求項5】
前記樹脂組成物が硬化物である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の封止材。
【請求項6】
前記封止材における前記金属粒子の含有量が、90質量%以上100質量%未満である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の封止材。
【請求項7】
前記封止材の表面において、前記金属粒子が前記樹脂組成物から突出している、
請求項1~6のいずれか一項に記載の封止材。
【請求項8】
前記封止材の表面において、前記金属粒子及び前記樹脂組成物が露出している、
請求項1~7のいずれか一項に記載の封止材。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の封止材と、
前記封止材で覆われた素子と、
を備える、
電子部品。
【請求項10】
基板と、
前記基板の表面に設置された素子と、
前記素子を覆う封止材と、
を備え、
前記封止材が、請求項1~8のいずれか一項に記載の封止材である、
電子回路基板。
【請求項11】
複数の金属粒子と樹脂組成物とを含むコンパウンドを加熱することにより、前記樹脂組成物を硬化する第一加熱工程と、
前記第一加熱工程を経た前記コンパウンドを更に加熱することにより、前記コンパウンドの表面の少なくとも一部における単位長さ当たりの抵抗を低下させ、前記単位長さ当たりの抵抗を0.1kΩ/mm以上20kΩ/mm以下に調整する第二加熱工程と、
を備える、
封止材の製造方法。
【請求項12】
前記第二加熱工程では、前記コンパウンドを140℃以上180℃以下で加熱する、
請求項11に記載の封止材の製造方法。
【請求項13】
前記金属粒子が、前記金属粒子に由来する金属のリン酸塩によって覆われている、
請求項11又は12に記載の封止材の製造方法。
【請求項14】
前記金属粒子が鉄を含む、
請求項11~13のいずれか一項に記載の封止材の製造方法。
【請求項15】
前記樹脂組成物が熱硬化性樹脂を含む、
請求項11~14のいずれか一項に記載の封止材の製造方法。
【請求項16】
前記コンパウンドにおける前記金属粒子の含有量が、90質量%以上100質量%未満である、
請求項11~15のいずれか一項に記載の封止材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止材、電子部品、電子回路基板、及び封止材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器は、電子機器の内外で発生した電磁波を遮蔽する電磁シールドを備えている。電磁シールドにより、ノイズ、電磁気的干渉、誤作動、及び電磁気的情報の漏洩又は消失等の問題が防止される。電磁シールド性は電気伝導性に起因するので、従来の電磁シールドは、電気伝導性を有する金属箔と、金属箔に重なる接着剤層とを備えている。金属箔の代わりに、鉄粉と有機バインダーとの混合物からなるシールド層を備える電磁シールドも知られている。(下記特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子機器が備える半導体チップ等の素子は、封止材で覆われることより、光、熱、湿気、ほこり及び物理的衝撃等から保護される。一般的な封止材は、エポキシ樹脂等の樹脂組成物とシリカフィラー等の充填材の混合物であり、樹脂組成物に起因する絶縁性を有している。封止材の絶縁性は、電子機器内における電気的な短絡を抑制するために要求されることもある。
【0005】
上記のように、電磁シールドの電気伝導性と、封止材の絶縁性とは、互いに相容れない物性である。したがって、電磁波の遮蔽と封止材による素子の保護の両方が要求される場合、電磁シールド及び封止材の両方で素子を覆うための複雑な工程が必要であり、電子機器の製造コストが増加する。また電磁シールドが備える金属箔又はシールド層は、成形等の加工によって容易に破損してしまう。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電磁シールド性と絶縁性を有する封止材、封止材を備える電子部品、封止材を備える電子回路基板、及び封止材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(封止材)
本発明の一側面に係る封止材は、複数の金属粒子と樹脂組成物とを備える封止材であって、封止材の表面の少なくとも一部における単位長さ当たりの抵抗が、0.1kΩ/mm以上20kΩ/mm以下であり、封止材の内部における単位長さ当たりの抵抗が、0.2GΩ/mm以上10TΩ/mm以下である。
【0008】
金属粒子が、金属粒子に由来する金属のリン酸塩によって覆われていてよい。
【0009】
金属粒子が鉄を含んでよい。
【0010】
樹脂組成物が熱硬化性樹脂を含んでよい。
【0011】
樹脂組成物が硬化物であってよい。
【0012】
封止材における金属粒子の含有量が、90質量%以上100質量%未満であってよい。
【0013】
封止材の表面において、金属粒子が樹脂組成物から突出していてよい。
【0014】
封止材の表面において、金属粒子及び樹脂組成物が露出していてよい。
【0015】
(電子部品)
本発明の一側面に係る電子部品は、上記の封止材と、封止材で覆われた素子と、を備える。
【0016】
(電子回路基板)
本発明の一側面に係る電子回路基板は、基板と、基板の表面に設置された素子と、素子を覆う封止材と、を備え、封止材が上記の封止材である。
【0017】
(封止材の製造方法)
本発明の一側面に係る封止材の製造方法は、複数の金属粒子と樹脂組成物とを含むコンパウンドを加熱することにより、樹脂組成物を硬化する第一加熱工程と、第一加熱工程を経たコンパウンドを更に加熱することにより、コンパウンドの表面の少なくとも一部における単位長さ当たりの抵抗を低下させ、単位長さ当たりの抵抗を0.1kΩ/mm以上20kΩ/mm以下に調整する第二加熱工程と、を備える。
【0018】
第二加熱工程では、コンパウンドを140℃以上180℃以下で加熱してよい。
【0019】
金属粒子が、金属粒子に由来する金属のリン酸塩によって覆われていてよい。
【0020】
金属粒子が鉄を含んでよい。
【0021】
樹脂組成物が熱硬化性樹脂を含んでよい。
【0022】
コンパウンドにおける金属粒子の含有量が、90質量%以上100質量%未満であってよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電磁シールド性と絶縁性を有する封止材、封止材を備える電子部品、封止材を備える電子回路基板、及び封止材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1中の(a)は、本発明の一実施形態に係る封止材の模式的な斜視図であり、
図1中の(b)は、
図1中の(a)に示されるb‐b線方向において見られる封止材の模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、
図1中の(b)に示される封止材の断面の一部(領域II)の拡大図である。
【
図3】
図3中の(a)は、本発明の一実施形態に係る電子部品の模式的な断面図であり、
図3中の(b)は、本発明の他の一実施形態に係る電子部品の模式的な断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る電子回路基板の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明する。図面において、同等の構成要素には同等の符号を付す。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。各図に示すX,Y及びZは、互いに直交する3つの座標軸を意味する。各図中のXYZ座標軸其々が示す方向は各図に共通する。
【0026】
(封止材の概要)
図1中の(b)及び
図2に示されるように、本実施形態に係る封止材2は、複数(多数)の金属粒子4と樹脂組成物6とを備える。樹脂組成物6は、複数の金属粒子4の間に存在してよく、複数の金属粒子4は樹脂組成物6を介して互いに結着されていてよい。複数の金属粒子4は、樹脂組成物6中に分散していてよい。以下では、複数の金属粒子4が「金属粉」と表記される場合がある。
【0027】
説明の便宜上、
図1中の(a)に示される封止材2は直方体であるが、封止材2の形状は直方体に限定されない。被封止物(後述される素子)の形状、又は封止材2の用途に応じて、封止材2の形状及び寸法は適宜変更されてよい。
【0028】
図1中の(a)に示されるように、封止材2の表面2sの一部又は全体における単位長さL‐s当たりの抵抗は、0.1kΩ/mm以上20kΩ/mm以下である。封止材2の外表面(2s)の一部又は全体における単位長さ当たりの抵抗は、0.1kΩ/mm以上20kΩ/mm以下であってよい。換言すれば、封止材2の露出している表面(2s)の一部又は全体における単位長さ当たりの抵抗は、0.1kΩ/mm以上20kΩ/mm以下であってよい。以下では、封止材2の表面2sの一部又は全体における単位長さL‐s当たりの抵抗が、「R‐s」と表記される場合がある。
【0029】
R‐sが20kΩ/mm以下であることにより、封止材2の表面2s(表面2sの一部又は全体)が優れた電磁シールド性を有することができる。封止材2における金属粒子の含有量の増加に伴って、封止材2における樹脂組成物の含有量が低下し、R‐sが低下し、電磁シールド性が向上する。しかしR‐sが上記の下限値未満である場合、封止材2における樹脂組成物の含有量が少な過ぎて、封止材2の内部が十分な絶縁性を有することが困難である。またR‐sが上記の下限値未満である場合、封止材2における樹脂組成物の含有量が少な過ぎて、複数の金属粒子4が樹脂組成物6を介して結着され難く、封止材2の耐久性(例えば耐光性、耐熱性、耐湿性、耐塵性及び機械的強度)が損なわれる。封止材2の表面2sの電磁シールド性が向上し易く、且つ封止材2の内部の絶縁性及び封止材2全体の耐久性が損なわれ難い観点において、R‐sは、8kΩ/mm以上20kΩ/mm以下、又は10kΩ/mm以上12kΩ/mm以下であってよい。
【0030】
R‐sは、以下の二端子測定法で測定されてよい。二つの端子を、封止材2の表面2sの任意の二点に接触させる。そして、二つの端子間に電圧を印加して、任意の二点間の抵抗Rをテスターで測定する。Rを二点間の距離Lで除することにより、R‐sが算出される。つまり、R‐sはR/Lに等しい。単位長さL‐sは1mmであるが、抵抗Rが測定される二点間の距離Lは、1mmより長くてもよく、1mmより短くてもよい。抵抗Rが測定される二点間の距離Lは、単位長さL‐s(つまり1mm)に等しくてもよい。任意の2点間に印加される電圧は、例えば、数V以上10V以下であってよい。封止材2の表面2sにおける複数箇所で測定されたR‐sの平均値が、0.1kΩ/mm以上20kΩ/mm以下であってよい。R‐sの平均値の算出に用いるサンプル数(R‐sの測定箇所の数)は、例えば、2以上50以下であってよい。R‐sは室温で測定されてよい。室温とは、例えば、1℃以上30℃以下、又は15℃以上25℃以下であってよい。
【0031】
図1中の(b)に示されるように、封止材2の内部2iにおける単位長さL‐i当たりの抵抗は、0.2GΩ/mm以上10TΩ/mm以下である。換言すれば、封止材2の表面2sに垂直な方向における封止材2の断面の一部又は全体における単位長さL‐i当たりの抵抗が、0.2GΩ/mm以上10TΩ/mm以下である。封止材2の内部2iとは、封止材2の表面2s(外表面)に囲まれた部分である。以下では、封止材2の内部2iにおける単位長さL‐i当たりの抵抗が、「R‐i」と表記される場合がある。
【0032】
R‐iが0.2GΩ/mm以上であることにより、封止材2の内部2iが優れた絶縁性を有することができる。封止材2における樹脂組成物の含有量の増加に伴って、封止材2における金属粒子の含有量が低下し、R‐iが増加し、封止材2の内部2iの絶縁性が向上する。また封止材2における樹脂組成物の含有量の増加に伴って、金属粒子4同士が強固に結着され易く、封止材2の耐久性(例えば耐光性、耐熱性、耐湿性、耐塵性及び機械的強度)が向上し易い。しかしR‐iが上記の上限値を超える場合、封止材2における金属粒子の含有量が少な過ぎて、封止材2の表面2sが十分な電磁シールド性を有することが困難である。封止材2の内部2iの絶縁性、封止材2全体の耐久性、及び封止材2の表面2sの電磁シールド性が向上し易い観点において、R‐iは、0.3GΩ/mm以上0.8GΩ/mm以下、0.2GΩ/mm以上5TΩ/mm以下、又は0.2TΩ/mm以上10TΩ/mm以下であってよい。
【0033】
R‐iは、以下の二端子測定法で測定されてよい。封止材2の表面2sに垂直な方向において、封止材2を切断して封止材2の内部を断面に露出させる。二つの端子を、封止材2の断面の任意の二点に接触させる。そして、二つの端子間に電圧を印加して、任意の二点間の抵抗R’を絶縁抵抗計で測定する。R’を二点間の距離L’で除することにより、R‐iが算出される。つまり、R‐iはR’/L’に等しい。単位長さL‐iは1mmであるが、抵抗R’が測定される二点間の距離L’は、1mmより長くてもよく、1mmより短くてもよい。抵抗R’が測定される二点間の距離L’は、単位長さL‐i(つまり1mm)に等しくてもよい。任意の2点間に印加される電圧は、例えば、1V以上100V以下であってよい。封止材2の内部2i(断面)における複数箇所で測定されたR‐iの平均値が、0.2GΩ/mm以上10TΩ/mm以下であってよい。R‐iの平均値の算出に用いるサンプル数(R‐iの測定箇所の数)は、例えば、2以上50以下であってよい。R‐iは室温で測定されてよい。
【0034】
一部又は全ての金属粒子4が、金属粒子4に由来する金属のリン酸塩によって覆われていてよい。つまり、一部又は全ての金属粒子4がリン酸塩の被膜によって覆われていてよい。各金属粒子4の表面の一部又は全体が、金属粒子4に由来する金属のリン酸塩によって覆われていてよい。つまり、各金属粒子4の表面の一部又は全体が、リン酸塩の被膜によって覆われていてよい。「金属のリン酸塩」とは無機リン酸(H3PO4)の金属塩であってよい。例えば金属粒子4が鉄を含む場合、金属粒子4は、リン酸鉄(II)及びリン酸鉄(III)のうち一方又は両方によって覆われていてよい。つまり金属粒子4が鉄を含む場合、金属粒子4は、Fe3(PO4)2及びFePO4のうち一方又は両方によって覆われていてよい。リン酸塩は絶縁性を有するため、金属粒子4がリン酸塩によって覆われることにより、互いに接する2つの金属粒子4の間にリン酸塩が介在し易く、金属粒子4間の電気伝導が抑制され易い。その結果、封止材2の内部2iの絶縁性が向上し易い。また金属粒子4がリン酸塩によって覆われることにより、金属粒子4の耐食性が向上する。
【0035】
金属粒子4を覆うリン酸塩は、金属粒子4のリン酸塩処理(化成処理)によって形成されてよい。リン酸塩処理では、脱脂、水洗及び除錆等の前処理を経た金属粒子4をリン酸塩の水溶液(処理液)に浸漬してよい。その結果、金属粒子4の表面がリン酸塩の被膜によって覆われる。処理液に含まれるリン酸塩は、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸マンガン及びリン酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。処理液に由来する亜鉛、マンガン、鉄及びカルシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むリン酸塩が金属粒子4の表面を覆っていてよい。
【0036】
図2に示されるように、封止材2の表面2sにおいて、金属粒子4が樹脂組成物6から突出していてよい。封止材2の表面2sにおいて、金属粒子4及び樹脂組成物6が露出していてよい。封止材2の表面2sにおいて、金属粒子4及び樹脂組成物6が混合されていてよい。上記のように、本実施形態に係る封止材2の表面には、従来の電磁シールドが有するような金属箔が存在しなくてよい。金属箔が封止材2の表面に存在しない場合であっても、封止材2の表面2s自体が電磁シールド性を有しているため、封止材2は、絶縁性及び耐久性のみならず、電磁シールド性を有することができる。
【0037】
封止材2の表面2sにおいて、複数の金属粒子4が互いに直接接触してよい。封止材2の表面2sにおいて、各金属粒子4の表面の一部が、樹脂組成物6及びリン酸塩を介することなく直接接触してよい。一方、封止材2の内部2iにおいては、複数の金属粒子4の間に樹脂組成物6が介在してよい。封止材2の表面2sにおいて複数の金属粒子4が互いに直接接触しているため、封止材2の表面2sの抵抗R‐sが封止材2の内部2iの抵抗R‐iより低く、封止材2の表面2sが高い電気伝導率と電磁シールド性を有することができる。上述された封止材2の表面2sの形状及び構造は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察・特定されてよい。SEMの視野内において、電子を反射する金属粒子4は明るい色に見える一方、樹脂組成物6は暗い色に見える。ただし、上述された封止材2の表面2sの形状及び構造と、封止材2の表面2sの電気伝導率及び電磁シールド性との因果関係は、仮説である。
【0038】
上述された形状及び構造を有する封止材2の表面2sは、あくまで二次元的な面(例えば平面、曲面又は凹凸面)であり、封止材2の表面2sは、封止材2の内部2iを覆う表層として、封止材2内部2iと明確に識別されるとは限らない。換言すれば、高い電気伝導率と電磁シールド性を有する表層と封止材2の内部2iとを明確に画する界面は必ずしも存在しなくてよい。
【0039】
樹脂組成物は熱硬化性樹脂を含んでよい。樹脂組成物は硬化物であってよい。樹脂組成物は、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂を含んでよい。樹脂組成物は、エポキシ樹脂とフェノール樹脂とを含んでもよい。樹脂組成物としてエポキシ樹脂を含む封止材2は、表面2sの電磁シールド性、内部2iの絶縁性、及び封止材2全体の耐久性に優れている。樹脂組成物の詳細は後述される。
【0040】
封止材2における金属粒子4の含有量は、封止材2全体の質量に対して、90質量%以上100質量%未満、又は97質量%以上99.8質量%以下であってよい。金属粒子4の含有量の増加に伴い、封止材2の表面2sの抵抗R‐sが増加する傾向がある。金属粒子4の含有量が上記の範囲内である場合、R‐sが0.1kΩ/mm以上20kΩ/mm以下であり、且つR‐iが0.2GΩ/mm以上10TΩ/mm以下である封止材2が得られ易い。
【0041】
封止材2におけるにおける樹脂組成物6の含有量は、封止材2全体の質量に対して、0質量%より大きく10質量%以下、又は0.2質量%以上3質量%以下であってよい。樹脂組成物6の含有量の増加に伴い、封止材2の内部2iの抵抗R‐iが増加する傾向がある。樹脂組成物6の含有量が上記の範囲内である場合、R‐sが0.1kΩ/mm以上20kΩ/mm以下であり、且つR‐iが0.2GΩ/mm以上10TΩ/mm以下である封止材2が得られ易い。
【0042】
封止材2は、複数の金属粒子4と樹脂組成物6に加えて、充填材(フィラー)を更に備えてよい。金属粒子4及び充填材が、樹脂組成物6中に分散していてよい。充填材は、例えば、複数(多数)のシリカ粒子であってよい。
【0043】
(電子部品)
図3中の(a)及び(b)に示されるように、本実施形態に係る電子部品10a,10bは、上記の封止材2と、封止材2で覆われた素子(device)3と、を備える。素子3は、特に限定されないが、例えば、半導体チップ、MEMS(微小電気機械システム)、及びコイルからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。半導体チップは、特に限定されないが、IC、LSI、システムLSI、SRAM、DRAM及びフラッシュメモリーからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。封止材2の内表面(封止材2において素子3と接触する面)の単位長さ当たりの抵抗は、封止材2の内部2iの単位長さL‐i当たりの抵抗R‐iと等しくてよい。
【0044】
図3中の(a)に示されるように、電子部品10aは、上記の封止材2と、封止材2中に埋設された素子5と、を備えてよい。換言すれば、電子部品10aは、素子5と、素子5の全体を覆う封止材2と、を備えてよい。例えば、素子5がコイルであり、電子部品10aがインダクタ、フィルタ(例えば、EMIフィルタ)又はトランスであってよい。
【0045】
図3中の(b)に示されるように、封止材2で覆われた素子3の一部が封止材2の外へ延在(extend)していてよい。と、換言すれば、電子部品10bは、素子3と、素子3を部分的に覆う封止材2と、を備えてよい。例えば、電子部品10bは、インターポーザー9(リードフレーム)と、インターポーザー9上に設置された半導体チップ7と、インターポーザー9及び半導体チップ7を覆う封止材2と、を備える半導体パッケージであってよく、インターポーザー9の一部であるアウターリードが封止材2の外へ延在していてよい。アウターリードが位置する封止材2の側面はアウターリードと電気的に絶縁されていてよい。
【0046】
(電子回路基板)
図4に示されるように、本実施形態に係る電子回路基板100は、基板11と、基板11の表面に設置された素子3と、素子3を覆う上記の封止材2と、を備えてよい。基板11は、特に限定されないが、例えば、リジッド基板、フレキシブル基板及びリジッドフレキシブル基板からなる群より選ばれる少なくとも一種のプリント基板であってよい。封止材2の内表面(封止材2において素子3と接触する面)の単位長さ当たりの抵抗は、封止材2の内部2iの単位長さL‐i当たりの抵抗R‐iと等しくてよい。封止材2の表面2sは、基板11と電気的に絶縁されていてよい。基板11と接する封止材2の表面(基板11と封止材2の界面に位置する封止材2の面)の単位長さ当たりの抵抗は、封止材2の内部2iの単位長さL‐i当たりの抵抗R‐iと等しくてよい。封止材2は、素子3及び基板11の両方を覆ってよい。封止材2は、素子3及び基板11の表面全体を覆ってもよい。
【0047】
(金属粒子)
金属粒子(金属粉)は、例えば、金属単体、合金及び金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有してよい。金属粒子は、例えば、金属単体、合金及び金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種からなっていてよい。合金は、固溶体、共晶及び金属間化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。合金とは、例えば、ステンレス鋼(Fe‐Cr系合金、Fe‐Ni‐Cr系合金等)であってよい。金属粒子は、一種の金属元素又は複数種の金属元素を含んでよい。金属粒子に含まれる金属元素は、例えば、卑金属元素、貴金属元素、遷移金属元素、又は希土類元素であってよい。コンパウンドは、一種の金属粒子を含んでよく、組成が異なる複数種の金属粒子を含んでもよい。
【0048】
金属粒子は上記の組成物に限定されない。金属粒子に含まれる金属元素は、例えば、鉄(Fe)、銅(Cu)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、鉛(Pb)、銀(Ag)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)及びジスプロシウム(Dy)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。金属粒子は、金属元素以外の元素を更に含んでもよい。金属粒子は、例えば、酸素(О)、ベリリウム(Be)、リン(P)、ホウ素(B)、又はケイ素(Si)を含んでもよい。金属粒子は、磁性粉であってよい。金属粒子は、軟磁性合金、又は強磁性合金であってよい。金属粒子は、例えば、Fe‐Si系合金、Fe‐Si‐Al系合金(センダスト)、Fe‐Ni系合金(パーマロイ)、Fe‐Cu‐Ni系合金(パーマロイ)、Fe‐Co系合金(パーメンジュール)、Fe‐Cr‐Si系合金(電磁ステンレス鋼)、Nd‐Fe‐B系合金(希土類磁石)、Sm‐Co系合金(希土類磁石)、Sm‐Fe‐N系合金(希土類磁石)、及びAl‐Ni‐Co系合金(アルニコ磁石)からなる群より選ばれる少なくとも一種からなる磁性粉であってよい。金属粒子は、Cu‐Sn系合金、Cu‐Sn‐P系合金、Cu-Ni系合金、又はCu‐Be系合金等の銅合金であってもよい。金属粒子は、上記の元素及び組成物のうち一種を含んでよく、上記の元素及び組成物のうち複数種を含んでもよい。
【0049】
金属粒子は鉄を含んでよい。金属粒子は鉄のみからなっていてよい。金属粒子が鉄を含む場合、R‐sが0.1kΩ/mm以上20kΩ/mm以下であり、且つR‐iが0.2GΩ/mm以上10TΩ/mm以下である封止材2が得られ易い。同様の理由から、金属粒子は、カルボニル鉄粉(純鉄の粉)であることが好ましい。カルボニル鉄粉(BASFジャパン株式会社製のカルボニル鉄粉)は、例えば、SQ、SQ‐I、SP‐I、SW‐S、EW及びHQからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。金属粒子は、アモルファス系鉄粉であってもよい。
【0050】
金属粒子は、鉄を含む合金(Fe系合金)であってもよい。Fe系合金は、例えば、Fe‐Si‐Cr系合金、又はNd‐Fe‐B系合金であってよい。金属粒子は、Feアモルファス合金であってもよい。Feアモルファス合金粉の市販品としては、例えば、AW2‐08、KUAMET‐6B2(以上、エプソンアトミックス株式会社製の商品名)、DAP MS3、DAP MS7、DAP MSA10、DAP PB、DAP PC、DAP MKV49、DAP 410L、DAP 430L、DAP HYBシリーズ(以上、大同特殊鋼株式会社製の商品名)、MH45D、MH28D、MH25D、及びMH20D(以上、神戸製鋼株式会社製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種が用いられてよい。
【0051】
金属粒子は、Fe及びNbを含有するFe系合金であってよい。金属粒子は、Fe、Nb、Cu、Si及びBを含有するFe系合金であってもよい。金属粒子は、結晶粒径が10nm以下であるFe系合金の結晶を含んでよい。金属粒子は、に含まれるFe系合金の結晶粒径が10nm以下であることにより、金属粒子は、優れた磁気特性(例えば、高い比透磁率)を有することができる。金属粒子に含まれるFe系合金の結晶粒径(例えば結晶粒径の平均値)は、5nm以上10nm以下であってよい。金属粒子に含まれるFe系合金の結晶粒径の測定手段は、特に限定されないが、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)、又は透過型電子顕微鏡(TEM)であってよい。粉末X線回折法に基づくシェラー(Scherrer)の式を用いて、金属粒子に含まれるFe系合金の結晶粒径が特定されてもよい。
【0052】
封止材2に含まれる金属粒子の組成又は組合せに応じて、封止材2の電磁気的特性又は熱伝導性等の諸物性を自在に制御し、封止材2を様々な工業製品に利用することができる。
【0053】
金属粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、1μm以上300μm以下であってよい。金属粒子の平均粒子径が小さいほど、金属粒子の比表面積が小さく、金属粒子の間の接点(電気伝導経路)が多く、封止材の表面における抵抗R‐sが低い傾向がある。金属粒子の平均粒子径が大きいほど、金属粒子の比表面積が大きく、金属粒子の間の接点(電気伝導経路)が少なく、封止材の内部における抵抗R‐iが高い傾向がある。
【0054】
(樹脂組成物)
樹脂組成物は、樹脂、硬化剤、硬化促進剤及び添加剤を包含し得る成分であって、有機溶媒と金属粒子とを除く残りの成分(不揮発性成分)であってよい。添加剤とは、樹脂組成物のうち、樹脂、硬化剤及び硬化促進剤を除く残部の成分である。添加剤とは、例えば、カップリング剤又は難燃剤等である。樹脂組成物が添加剤としてワックスを含んでいてもよい。上記の金属粒子(金属粉)と、未硬化の樹脂組成物(加熱される前の樹脂組成物)との混合物は、いわゆるコンパウンドであり、封止材の原料である。コンパウンドから形成された成形体中の樹脂組成物を硬化させることにより、封止材が得られる。コンパウンドから形成されたタブレットを、封止材の出発原料として用いてもよい。以下に記載の樹脂組成物の組成は、コンパウンドに含まれる未硬化の樹脂組成物とみなされてもよい。
【0055】
樹脂組成物は金属粒子の結合剤(バインダー)としての機能を有し、コンパウンドから形成される封止材に機械的強度を付与する。例えば、樹脂組成物は、金型を用いてコンパウンドが高圧で成形される際に、金属粒子の間に充填され、金属粒子を互いに結着する。コンパウンドから形成された成形体中の樹脂組成物を硬化させることにより、樹脂組成物の硬化物が金属粒子同士を強固に結着して、高い機械的強度を有する封止材が得られる。
【0056】
樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含有してよい。熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及びポリアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。樹脂組成物がエポキシ樹脂及びフェノール樹脂の両方を含む場合、フェノール樹脂はエポキシ樹脂の硬化剤として機能してもよい。樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含んでもよい。熱可塑性樹脂は、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、及びポリエチレンテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。樹脂組成物は、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の両方を含んでよい。樹脂組成物は、シリコーン樹脂を含んでもよい。
【0057】
樹脂組成物はエポキシ樹脂を含有してよい。樹脂組成物がエポキシ樹脂を含有することにより、R‐sが0.1kΩ/mm以上20kΩ/mm以下であり、且つR‐iが0.2GΩ/mm以上10TΩ/mm以下であり、且つ耐久性に優れた封止材2が得られ易い。
【0058】
エポキシ樹脂は、例えば、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂であってよい。エポキシ樹脂は、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂、アラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール類のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジル型又はメチルグリシジル型のエポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、及びオレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0059】
エポキシ樹脂の中でも、結晶性のエポキシ樹脂が好ましい。結晶性のエポキシ樹脂の分子量は比較的低いにもかかわらず、結晶性のエポキシ樹脂は比較的高い融点を有し、且つ流動性に優れる。結晶性のエポキシ樹脂(結晶性の高いエポキシ樹脂)は、例えば、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、チオエーテル型エポキシ樹脂、及びビフェニル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。結晶性のエポキシ樹脂の市販品は、例えば、エピクロン860、エピクロン1050、エピクロン1055、エピクロン2050、エピクロン3050、エピクロン4050、エピクロン7050、エピクロンHM-091、エピクロンHM-101、エピクロンN-730A、エピクロンN-740、エピクロンN-770、エピクロンN-775、エピクロンN-865、エピクロンHP-4032D、エピクロンHP-7200L、エピクロンHP-7200、エピクロンHP-7200H、エピクロンHP-7200HH、エピクロンHP-7200HHH、エピクロンHP-4700、エピクロンHP-4710、エピクロンHP-4770、エピクロンHP-5000、エピクロンHP-6000、及びN500P-2(以上、DIC株式会社製の商品名)、NC-3000、NC-3000-L、NC-3000-H、NC-3100、CER-3000-L、NC-2000-L、XD-1000、NC-7000-L、NC-7300-L、EPPN-501H、EPPN-501HY、EPPN-502H、EOCN-1020、EOCN-102S、EOCN-103S、EOCN-104S、CER-1020、EPPN-201、BREN-S、BREN-10S(以上、日本化薬株式会社製の商品名)、YX-4000、YX-4000H、YL4121H、及びYX-8800(以上、三菱ケミカル株式会社製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0060】
樹脂組成物は、上記のうち一種のエポキシ樹脂を含有してよい。樹脂組成物は、上記のうち複数種のエポキシ樹脂を含有してもよい。
【0061】
硬化剤は、低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤と、加熱に伴ってエポキシ樹脂を硬化させる加熱硬化型硬化剤と、に分類される。低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤は、例えば、脂肪族ポリアミン、ポリアミノアミド、及びポリメルカプタン等である。加熱硬化型硬化剤は、例えば、芳香族ポリアミン、酸無水物、フェノールノボラック樹脂、及びジシアンジアミド(DICY)等である。
【0062】
低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤を用いた場合、エポキシ樹脂の硬化物のガラス転移点は低く、エポキシ樹脂の硬化物は軟らかい傾向がある。その結果、コンパウンドから形成された封止材も軟らかくなり易い。一方、封止材の耐熱性を向上させる観点から、硬化剤は、好ましくは加熱硬化型の硬化剤、より好ましくはフェノール樹脂、さらに好ましくはフェノールノボラック樹脂であってよい。特に硬化剤としてフェノールノボラック樹脂を用いることで、ガラス転移点が高いエポキシ樹脂の硬化物が得られ易い。その結果、封止材の耐熱性及び機械的強度が向上し易い。
【0063】
フェノール樹脂は、例えば、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型フェノールとアラルキル型フェノールとの共重合型フェノール樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、及びトリフェニルメタン型フェノール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノール樹脂は、上記のうちの2種以上から構成される共重合体であってもよい。フェノール樹脂の市販品としては、例えば、荒川化学工業株式会社製のタマノル758、又は日立化成株式会社製のHP-850N等を用いてもよい。
【0064】
フェノールノボラック樹脂は、例えば、フェノール類及び/又はナフトール類と、アルデヒド類と、を酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られる樹脂であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するフェノール類は、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール及びアミノフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するナフトール類は、例えば、α‐ナフトール、β‐ナフトール及びジヒドロキシナフタレンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するアルデヒド類は、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド及びサリチルアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0065】
硬化剤は、例えば、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物であってもよい。1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物は、例えば、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、及び置換又は非置換のビフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0066】
樹脂組成物は、上記のうち一種のフェノール樹脂を含有してよい。樹脂組成物は、上記のうち複数種のフェノール樹脂を備えてもよい。樹脂組成物は、上記のうち一種の硬化剤を含有してよい。樹脂組成物は、上記のうち複数種の硬化剤を含有してもよい。フェノール樹脂の市販品としては、例えば、荒川化学工業株式会社製のタマノル758、又は日立化成株式会社製のHP-850N等を用いてもよい。
【0067】
エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応する硬化剤中の活性基(フェノール性OH基)の比率は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、好ましくは0.5~1.5当量、より好ましくは0.9~1.4当量、さらに好ましくは1.0~1.2当量であってよい。硬化剤中の活性基の比率が0.5当量未満である場合、硬化後のエポキシ樹脂の単位重量当たりのOH量が少なくなり、樹脂組成物(エポキシ樹脂)の硬化速度が低下する。また硬化剤中の活性基の比率が0.5当量未満である場合、得られる硬化物のガラス転移温度が低くなったり、硬化物の充分な弾性率が得られなかったりする。一方、硬化剤中の活性基の比率が1.5当量を超える場合、コンパウンドから形成された封止材の機械的強度が低下する傾向がある。ただし、硬化剤中の活性基の比率が上記範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0068】
硬化促進剤は、例えば、エポキシ樹脂と反応してエポキシ樹脂の硬化を促進させる組成物であれば限定されない。硬化促進剤は、例えば、アルキル基置換イミダゾール、又はベンゾイミダゾール等のイミダゾール類であってよい。樹脂組成物は、一種の硬化促進剤を備えてよい。樹脂組成物は、複数種の硬化促進剤を備えてもよい。樹脂組成物が、硬化促進剤を含有することにより、コンパウンドの成形性及び離型性が向上し易いが樹脂組成物が硬化促進剤を含有することにより、コンパウンドを用いて製造された封止材の機械的強度が向上したり、高温・高湿な環境下におけるコンパウンドの保存安定性が向上したりする。イミダゾール系硬化促進剤の市販品としては、例えば、2MZ-H、C11Z、C17Z、1,2DMZ、2E4MZ、2PZ-PW、2P4MZ、1B2MZ、1B2PZ、2MZ-CN、C11Z-CN、2E4MZ-CN、2PZ-CN、C11Z-CNS、2P4MHZ、TPZ、及びSFZ(以上、四国化成工業株式会社製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種を用いてよい。これらの中でも、長鎖アルキル基を有するイミダゾール系硬化促進剤が好ましく、C11Z-CN(1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール)が好ましい。
【0069】
硬化促進剤の配合量は、硬化促進効果が得られる量であればよく、特に限定されない。ただし、樹脂組成物の吸湿時の硬化性及び流動性を改善する観点からは、硬化促進剤の配合量は、100質量部のエポキシ樹脂に対して、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは1~15質量部であってよい。硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂及び硬化剤(例えばフェノール樹脂)の質量の合計に対して0.001質量部以上5質量部以下であることが好ましい。硬化促進剤の配合量が0.1質量部未満である場合、十分な硬化促進効果が得られ難い。硬化促進剤の配合量が30質量部を超える場合、コンパウンドの保存安定性が低下し易い。ただし、硬化促進剤の配合量及び含有量が上記範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0070】
カップリング剤は、樹脂組成物と金属粒子との密着性を向上させ、コンパウンドから形成される封止材の可撓性及び機械的強度を向上させる。カップリング剤は、例えば、シラン系化合物(シランカップリング剤)、チタン系化合物、アルミニウム化合物(アルミニウムキレート類)、及びアルミニウム/ジルコニウム系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。シランカップリング剤は、例えば、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、酸無水物系シラン及びビニルシランからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。特に、アミノフェニル系のシランカップリング剤が好ましい。コンパウンドは、上記のうち一種のカップリング剤を備えてよく、上記のうち複数種のカップリング剤を備えてもよい。
【0071】
コンパウンドの環境安全性、リサイクル性、成形加工性及び低コストのために、コンパウンドは難燃剤を含んでよい。難燃剤は、例えば、臭素系難燃剤、鱗茎難燃剤、水和金属化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素含有化合物、ヒンダードアミン化合物、有機金属化合物及び芳香族エンプラからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。コンパウンドは、上記のうち一種の難燃剤を備えてよく、上記のうち複数種の難燃剤を備えてもよい。
【0072】
金型を用いてコンパウンドから封止材を形成する場合、樹脂組成物は、ワックスを含有してよい。ワックスは、コンパウンドの成形(例えばトランスファー成形)におけるコンパウンドの流動性を高めると共に、離型剤として機能する。ワックスは、高級脂肪酸等の脂肪酸、及び脂肪酸エステルのうち少なくともいずれか一つであってよい。
【0073】
ワックスは、例えば、モンタン酸、ステアリン酸、12-オキシステアリン酸、ラウリン酸等の脂肪酸類又はこれらのエステル;ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアエン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、リノール酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、2-エチルヘキソイン酸亜鉛等の脂肪酸塩;ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ジオレイルアジピン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘン酸アミド等の脂肪酸アミド;ステアリン酸ブチル等の脂肪酸エステル;エチレングリコール、ステアリルアルコール等のアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール及びこれらの変性物からなるポリエーテル類;シリコーンオイル、シリコングリース等のポリシロキサン類;フッ素系オイル、フッ素系グリース、含フッ素樹脂粉末等のフッ素化合物;並びに、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、アマイドワックス、ポリプロピレンワックス、エステルワックス、カルナウバ、マイクロワックス等のワックス類;からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0074】
(コンパウンドの製造方法)
金属粒子(金属粉)と樹脂組成物(加熱される前の樹脂組成物)とを加熱しながら混合することでコンパウンドが得られる。
【0075】
コンパウンドの製造では、例えば、金属粒子と樹脂組成物とを加熱しながらニーダー又は攪拌機で混練してよい。
【0076】
混練では、金属粒子、エポキシ樹脂等の樹脂、フェノール樹脂等の硬化剤、硬化促進剤、及びカップリング剤を槽内で混練してよい。金属粒子及びカップリング剤を槽内に投入して混合した後、樹脂、硬化剤、及び硬化促進剤を槽内へ投入して、槽内の原料を混練してもよい。樹脂、硬化剤、カップリング剤を槽内で混練した後、硬化促進剤を槽内入れて、更に槽内の原料を混練してもよい。予め樹脂、硬化剤、及び硬化促進剤の混合粉(樹脂混合粉)を作製して、続いて、金属粒子とカップリング剤とを混練して金属混合粉を作製して、続いて、金属混合粉と上記の樹脂混合粉とを混練してもよい。
【0077】
ニーダーによる混練時間は、槽の容積、コンパウンドの製造量にもよるが、例えば、5分以上であることが好ましく、10分以上であることがより好ましく、20分以上であることがさらに好ましい。またニーダーによる混練時間は、120分以下であることが好ましく、60分以下であることがより好ましく、40分以下であることがさらに好ましい。混練時間が5分未満ある場合、混練が不十分であり、コンパウンドの成形性が損なわれ、コンパウンドの硬化度にばらつきが生じる。混練時間が120分を超える場合、例えば、槽内で樹脂組成物(例えばエポキシ樹脂及びフェノール樹脂)の硬化が進み、コンパウンドの流動性及び成形性が損なわれ易い。槽内の原料を加熱しながらニーダーで混練する場合、加熱温度は樹脂組成物の組成に依るので限定されない。加熱温度は、例えば、50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがさらに好ましい。加熱温度は、150℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、110℃以下であることがさらに好ましい。加熱温度が上記の範囲内である場合、槽内の樹脂組成物が軟化して金属粒子の表面を被覆し易く、混練中の樹脂組成物の硬化が抑制され易い。
【0078】
以上の混練によって、コンパウンドが完成される。
【0079】
コンパウンドにおける金属粒子の含有量は、コンパウンド全体の質量に対して、90質量%以上100質量%未満、又は97質量%以上99.8質量%以下に調整されてよい。コンパウンドにおけるにおける樹脂組成物の含有量は、コンパウンド全体の質量に対して、0質量%より大きく10質量%以下、又は0.2質量%以上3質量%以下に調整されてよい。
【0080】
コンパウンドを所定の金型に充填して加圧により成形することで、タブレットを形成してもよい。タブレットの形状及び寸法は、特に制限はない。例えば、タブレットが円柱状である場合、タブレットの直径は5mm以上であってよく、タブレットの高さ(長さ)は5mm以上であってよい。タブレットの成形圧力は、例えば、500MPa以上であることが好ましく、1000MPa以上であることがより好ましく、2000MPa以上であるとさらに好ましい。
【0081】
(封止材、電子部品及び電子回路基板其々の製造方法)
本実施形態に係る封止材、電子部品及び電子回路基板其々の製造方法は、第一加熱工程と第二加熱工程とを備える。
【0082】
第一加熱工程では、複数の金属粒子(金属粉)と樹脂組成物(未硬化の樹脂組成物)とを含む上記のコンパウンドを加熱することにより、樹脂組成物を硬化する。第一加熱工程においてコンパウンドを金型で加圧しながら加熱してよい。つまり第一加熱工程では、コンパウンドを成形しながら加熱してよい。電子部品を製造する場合、第一加熱工程では、素子(被封止物)を覆っているコンパウンド(成形体)を加熱しよい。電子回路基板を製造する場合、基板の表面に設置された素子を覆っているコンパウンド(成形体)を加熱してよい。第一加熱工程では、コンパウンド(成形体)を130℃以上200℃以下で加熱してよい。第一加熱工程においてコンパウンド(成形体)が上記の温度で加熱される時間は、2分以上30分以下であってよい。第一加熱工程では、窒素等の不活性ガス中でコンパウンドを加熱してよい。
【0083】
第一加熱工程として、コンパウンドのトランスファー成形を実施してもよい。トランスファー成形では、コンパウンドを500MPa以上2500MPa以下で加圧してよい。成形圧力が高いほど、機械的強度に優れた封止材が得られ易い。封止材の量産性及び金型の寿命を考慮した場合、成形圧力は1400MPa以上2000MPa以下であることが好ましい。トランスファー成形によって形成される成形体の密度は、コンパウンドの真密度に対して、好ましくは75%以上86%以下、より好ましくは80%以上86%以下であってよい。成形体の密度が75%以上86%以下である場合、機械的強度に優れた封止材が得られ易い。トランスファー成形において、第一加熱工程と第二加熱工程とを一括して実施してもよい。
【0084】
第二加熱工程では、第一加熱工程を経たコンパウンド(成形体)を更に加熱することにより、コンパウンド(成形体)の表面の一部又は全体における単位長さL‐s当たりの抵抗Rsを低下させ、抵抗Rsを0.1kΩ/mm以上20kΩ/mm以下に調整する。第二加熱工程では、大気中でコンパウンド(成形体)を加熱してよい。
【0085】
第二加熱工程では、コンパウンド(成形体)を140℃以上180℃以下で加熱してよい。第二加熱工程においてコンパウンド又は成形体が上記の温度で加熱される時間は、特に限定されないが、30時間以上150時間以下であってよい。第二加熱工程では、コンパウンド(成形体)の加熱温度が高いほど、コンパウンド(成形体)を加熱する時間は短くてよい。換言すれば、コンパウンド(成形体)の加熱温度が低いほど、コンパウンド(成形体)を加熱する時間は長くてよい。例えば、第二加熱工程では、コンパウンド(成形体)を150℃で150時間加熱してよく、コンパウンド(成形体)を160℃で60時間加熱してもよく、コンパウンド(成形体)を180℃で30時間してもよい。電子部品又は電子回路基板を製造する場合、コンパウンド(成形体)の加熱温度が高いほど、抵抗Rsが短時間で低下し易く、封止材の生産性が高いが、コンパウンド(成形体)によって覆われている素子又は基板が劣化し易い。また電子部品又は電子回路基板を製造する場合、コンパウンド(成形体)を加熱する時間が長いほど、封止材の生産性が低い。コンパウンド(成形体)を低温で長時間加熱する場合、コンパウンド(成形体)によって覆われている素子又は基板は劣化し難いが、封止材の生産性が低い。
【0086】
少なくとも上記の工程が実施されることにより、本実施形態に係る封止材、電子部品及び電子回路基板が得られる。
【0087】
本実施形態では、素子(被封止物)を覆うコンパウンドを第一加熱工程と第二加熱工程によって二回加熱するだけで、電磁シールド性を有する封止材で素子(被封止物)を覆うことができる。一方、従来の電磁シールド(金属箔)と従来の封止材で素子(被封止物)を覆う場合、素子を覆うコンパウンドを加熱・硬化して封止材を形成する工程と、接着剤を介して金属箔を封止材の表面に貼る工程が必要である。また金属箔は、ハンドリングに伴って容易に破損してしまう。以上のように、本実施形態に係る封止材、電子部品及び電子回路基板其々の製造方法は、従来の封止材及び電磁シールドを用いる方法よりも簡便であり、封止材、電子部品及び電子回路基板の生産性に優れている。
【0088】
素子を覆う従来のコンパウンドを加熱・硬化して封止材を形成した後、金属ターゲットのスパッタリングによって、金属膜(電磁シールド)を封止材の表面に形成する場合、金属ターゲットと封止材との相対的な位置関係に起因して、封止材の表面を斑なく金属膜で覆うことは困難である。つまり、スパッタリングは異方性のある加工方法である。一方、本実施形態の第二加熱工程では、異方性のない熱を用いるため、コンパウンド(成形体)の表面全体に対して均一に電磁シールド性を付与することができる。
【0089】
第二加熱工程において、
図2に示されるような封止材2の表面2sの形状及び構造が形成されることは、本発明者らが行った研究によって確認されている。エポキシ樹脂等の熱硬化樹脂は酸化によって膨張する傾向があるが、第二加熱工程で得られた封止材2の表面2sにおける元素分析では、酸化を裏付ける程度の量の酸素は検出されなかった。つまり、コンパウンド(成形体)の表面における抵抗Rsの低下は、第二加熱工程における樹脂組成物の酸化には起因していない可能性が高い。しかし、
図2に示されるような封止材2の表面2sの形状及び構造が第二加熱工程において形成され、コンパウンド(成形体)の表面の一部又は全体における抵抗が低下する理由は不明である。以下は、仮説である。
【0090】
第二加熱工程では、樹脂組成物の酸化及び分解ではなく、樹脂組成物の硬化・収縮がコンパウンド(成形体)の表面において局所的に進行する。つまりコンパウンド(成形体)の表面において、いわゆる「膜減り」のような現象が起きている。その結果、封止材2の表面2sにおいて、金属粒子4及び樹脂組成物6が露出し易く、金属粒子4が樹脂組成物6から突出し易い。そして、金属粒子4の間に介在する樹脂組成物の収縮に伴い、金属粒子4同士が直接接触し易くなり、金属粒子4間の接点(電気伝導経路)が増加する。金属粒子4がリン酸塩で覆われている場合、金属粒子4を覆う樹脂組成物の収縮に伴って、絶縁性のリン酸塩が金属粒子4の表面から脱離して、コンパウンド(成形体)の表面における金属粒子4間の電気的絶縁が破壊される可能性もある。またコンパウンド(成形体)の表面において金属粒子4を覆うリン酸塩が樹脂組成物に対して化学的に作用して、樹脂組成物が不安定になり、樹脂組成物の一部が分解している可能性もある。以上の要因により、コンパウンド(成形体)の表面の一部又は全体における抵抗が低下する。ただし、本発明の技術的範囲は上記の仮説によって限定されるものではない。
【0091】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態に係る電子部品又は電子回路基板は、素子3と、素子3の一部又は全体を覆う従来の封止材(電磁シールド性を有しない封止材)と、従来の封止材を覆う本実施形態に係る封止材2(電磁シールド性を有する封止材)と、を備えてもよい。
【0092】
コンパウンドの成形及び加熱硬化によって成形体を形成した後、成形体の表面をイオンミリングによって研磨することにより、抵抗R‐sが0.1kΩ/mm以上20kΩ/mm以下である封止材2の表面2sを形成してもよい。コンパウンドの成形及び加熱硬化によって成形体を形成した後、成形体の表面に対するデスミア処理を実施することにより、抵抗R‐sが0.1kΩ/mm以上20kΩ/mm以下である封止材2の表面2sを形成してもよい。イオンミリング及びデスミア処理のいずれの場合であっても、成形体の表面から樹脂組成物が除去され易く、金属粒子が成形体の表面に残存し易い。その結果、抵抗R‐sが0.1kΩ/mm以上20kΩ/mm以下である封止材2の表面2sが形成される。
【0093】
電子部品又は電子回路基板を製造する場合、素子(被封止物)の全体を封止材で覆った後、封止材の表面の切削・研磨により、封止材内の素子の一部を露出させてよい。封止材から露出した素子を、他の素子又は基板と電気的に接続してよい。封止材から露出した素子を、封止材と共に、基板の表面に固定してもよい。
【実施例】
【0094】
以下では実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0095】
(実施例1)
[封止材の作製]
実施例1の金属粉として、鉄アモルファス合金粉とカルボニル鉄粉(純鉄粉)の混合物を用いた。実施例1の金属粉全体の質量(100質量部)に占める鉄アモルファス合金粉の質量の割合は、80質量部であった。実施例1の金属粉全体の質量(100質量部)に占めるカルボニル鉄粉の質量の割合は、20質量部であった。鉄アモルファス合金粉としては、エプソンアトミックス株式会社製のKUAMET 9A4‐IIを用いた。カルボニル鉄粉としては、BASFジャパン株式会社製のSQ‐Iを用いた。SQ‐Iは、リン酸処理が施された純鉄粉である。つまり、SQ‐Iを構成する各粒子(純鉄からなる粒子)の表面には、リン酸塩(リン酸鉄)からなる被膜が形成されている。一方、後述される比較例2で用いたSQは、BASFジャパン株式会社製の別の純鉄粉であり、リン酸処理が施されていない純鉄粉である。つまり、「SQ」を構成する各粒子(純鉄からなる粒子)の表面には、リン酸塩(リン酸鉄)からなる被膜が形成されていない。後述される実施例2,3及び比較例1~3のいずれの場合も、コンパウンド粉の作製に用いた金属粉全体の質量(単位:g)は、実施例1の場合と同じであった。
【0096】
実施例1で調製された樹脂組成物は、100.0gのエポキシ樹脂、39.7gのフェノールノボラック樹脂、3.0gの硬化促進剤、10.5gのシランカップリング剤、及び15gのワックスの混合物であった。エポキシ樹脂としては、日本化薬株式会社製のNC3000H(エポキシ当量:290)を用いた。フェノールノボラック樹脂としては、日立化成株式会社製のHP-850N(水酸基当量:108)を用いた。硬化促進剤としては、四国化成工業株式会社のC11Z-CNを用いた。シランカップリング剤としては、信越化学工業株式会社製のKBM-403を用いた。ワックスとしては、クラリアントケミカルズ株式会社製のリコワックスEを用いた。
【0097】
100質量部の上記金属粉と5質量部の上記樹脂組成物とをプラスチック容器内で混合して混合物を得た。この混合物をニーダーの槽内に容れて、槽内の温度を80℃に維持しながら槽内の混合物を30分間混練した。混練後の混合物の塊を自然冷却してから粉砕することにより、コンパウンド粉を得た。コンパウンド粉を、円筒状の金型に入れて、金型内のコンパウンドを2000MPaで加圧することにより、タブレットを得た。金型(キャビティ)の寸法は、(直径13mm)×(高さ13mm)であった。以下では、コンパウンド粉の作製に用いた金属粉の相対的質量は「MMETAL」(単位:質量部)と表記される。コンパウンド粉の作製に用いた金属粉の相対的質量は「MRESIN」(単位:質量部)と表記される。
【0098】
所定の金型を用いたトランスファー成形により、タブレット状のコンパウンドから棒状の成形体を作製した。トランスファー成形では、10分間にわたって、コンパウンドを170℃で加熱しながら6.9MPaで加圧した。トランスファー成形は、第一加熱工程に相当する。棒状の成形体の寸法は、(縦幅10mm)×(横幅3mm)×(高さ:30mm)であった。別の型を用いたこと以外は上記の同様のトランスファー成形により、タブレット状のコンパウンドから板状の成形体も作製した。板状の成形体の寸法は、(縦幅100mm)×(横幅100mm)×(厚み1mm)であった。
【0099】
第二加熱工程では、トランスファー成形(第一加熱工程)を経た二種類の成形体其々を、空気で満たされた恒温槽中において、150℃で150時間加熱した。
【0100】
以上の工程により、実施例1の封止材(棒状の封止材及び板状の封止材)を作製した。
【0101】
[表面の抵抗の測定]
棒状の封止材の表面における5箇所において、二端子測定法により二点間の抵抗を測定して、抵抗の平均値を算出した。二点間の距離は5mmであった。二点間に印加した電圧は、5Vであった。いずれの測定も室温で実施した。測定には、低抵抗測定用の市販のテスターを用いた。封止材の表面における二点間の抵抗の平均値RSURFACE(単位:Ω)は、下記表1に示される。封止材の表面における単位長当たりの抵抗の平均値R‐s(単位:Ω/mm)は、下記表1に示される。
【0102】
[内部の抵抗の測定]
棒状の封止材の表面に垂直な方向において、棒状の封止材をダイヤモンドカッターで切断した。棒状の封止材の断面(内部)における5箇所において、二端子測定法により二点間の抵抗を測定して、抵抗の平均値を算出した。二点間の距離は5mmであった。二点間に印加した電圧は、100Vであった。いずれの測定も室温で実施した。測定には、共立電気計器株式会社製のメガー「MODEL6018」を用いた。封止材の断面(内部)における二点間の抵抗の平均値RINTERNAL(単位:Ω)は、下記表1に示される。封止材の断面(内部)における単位長当たりの抵抗の平均値R‐i(単位:Ω/mm)は、下記表1に示される。
【0103】
[電界シールド値の測定]
板状の封止材を用いて、関西電子工業振興センター(KEC)法により、電界シールド値SE(単位:dB)を求めた。電界シールド値SEは下記式Aで定義される。
SE=20×log10(E0/E1) (A)
式Aにおいて、E0は、板状の封止材が無いときの電界の強度(単位:V/m)である。E1は、板状の封止材を介して測定された電界の強度(単位:V/m)である。E0及びE1の測定には、アンリツ株式会社製のネットワークアナライザ 37247Cを用いた。測定に用いた電磁波の周波数は1MHzであった。SEが大きいほど、封止材は電磁シールド性に優れる。
【0104】
[磁界シールド値の測定]
板状の封止材を用いて、磁界シールド値SM(単位:dB)を求めた。磁界シールド値SMは下記式Bで定義される。
SM=20×log10(H0/H1) (B)
式Aにおいて、H0は、板状の封止材が無いときの磁界の強度(単位:A/m)である。E1は、板状の封止材を介して測定された磁界の強度(単位:A/m)である。H0及びH1の測定には、アンリツ株式会社製のネットワークアナライザ「37247C」を用いた。SMが大きいほど、封止材は電磁シールド性に優れる。
【0105】
板状の封止材を用いた電界シールド値及び磁界シールド値の測定後、上記の方法で、板状の封止材のRSURFACEを測定して、R‐sを算出した。板状の封止材のRSURFACEは、棒状の封止材のRSURFACEと略同じであり、板状の封止材のR‐sも、棒状の封止材のR‐sと略同じであった。また板状の封止材を厚み方向に切断して、上記の方法で、板状の封止材のRINTERNALを測定して、R‐iを算出した。板状の封止材のRINTERNALは、棒状の封止材のRINTERNALと略同じであり、板状の封止材のR‐iも、棒状の封止材のR‐iと略同じであった。
【0106】
(実施例2,3、比較例1~3)
実施例2の金属粉全体の質量(100質量部)に占めるFeアモルファス合金粉の質量の割合は、60質量部であった。実施例2の金属粉全体の質量(100質量部)に占めるカルボニル鉄粉の質量の割合は、40質量部であった。
【0107】
実施例3の金属粉全体の質量(100質量部)に占めるFeアモルファス合金粉の質量の割合は、50質量部であった。実施例3の金属粉全体の質量(100質量部)に占めるカルボニル鉄粉の質量の割合は、50質量部であった。実施例3では、MMETAL/MRESINを100/5に調整した。
【0108】
比較例1では、金属粉として、Feアモルファス合金粉(9A4‐II)のみを用いた。
【0109】
比較例2では、カルボニル鉄粉として、SQ‐Iの代わりに、リン酸塩の被膜を有していないSQを用いた。比較例2の金属粉全体の質量(100質量部)に占めるFeアモルファス合金粉の質量の割合は、60質量部であった。比較例2の金属粉全体の質量(100質量部)に占めるカルボニル鉄粉の質量の割合は、40質量部であった。
【0110】
比較例3では、第二加熱工程を実施しなかった。
【0111】
上記の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2,3及び比較例1~3其々の封止材(棒状の封止材及び板状の封止材)を個別に作製した。実施例2,3及び比較例1~3其々の封止材を用いて、実施例1と同様の測定を実施した。測定結果は、下記表1に示される。
【0112】
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明に係る封止材の内部は、電磁シールド性を有する封止材の表面によって電磁気的に遮蔽されているので、本発明に係る封止材は例えばEMIフィルタ用の封止材として利用される。
【符号の説明】
【0114】
2…封止材、2s…封止材の表面、2i…封止材の内部(断面)、3,5…素子、4…金属粒子、6…樹脂組成物、7…半導体チップ、9…インターポーザー、10a,10b…電子部品、11…基板、100…電子回路基板、L‐s…封止材の表面における単位長さ、L‐i…封止材の表面の内部(断面)における単位長さ。