(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】表面分析方法、表面分析システム、および表面分析プログラム
(51)【国際特許分類】
G01Q 60/28 20100101AFI20220511BHJP
【FI】
G01Q60/28
(21)【出願番号】P 2021563549
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 JP2019048822
(87)【国際公開番号】W WO2021117203
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-03-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100144440
【氏名又は名称】保坂 一之
(72)【発明者】
【氏名】新井 勇貴
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-230933(JP,A)
【文献】特表2013-545110(JP,A)
【文献】特開2018-178016(JP,A)
【文献】特開平11-044696(JP,A)
【文献】特開2005-283433(JP,A)
【文献】特開平09-072925(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0089498(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00 - 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
探針を備える走査型プローブ顕微鏡による試料表面の測定に基づくフォースカーブを取得するステップと、
前記探針と前記試料表面との間の距離である探針-表面間距離によって前記フォースカーブを一階微分することで微分曲線を算出するステップと、
前記微分曲線に基づいて、
前記試料表面に接触していた前記探針が該試料表面から離れていくときの複数のピークを識別するステップと、
前記複数のピークの中から、前記試料表面から最も離れたピークを最遠のピークとして識別するステップと、
前記試料表面から、
前記最遠のピークまでの距離を、前記試料表面を形成する有機材料の破断長として算出するステップと、
前記破断長を出力するステップと
を含む表面分析方法。
【請求項2】
前記フォースカーブを取得するステップが、
前記走査型プローブ顕微鏡の圧電素子の稼働量と前記走査型プローブ顕微鏡の検出器の電圧との関係を示す電圧-稼働量曲線を取得するステップと、
前記電圧-稼働量曲線を前記フォースカーブに変換するステップとを含む、
請求項1に記載の表面分析方法。
【請求項3】
前記電圧-稼働量曲線を前記フォースカーブに変換するステップが、
前記探針を有するカンチレバーのばねたわみ量を前記稼働量から減ずることで前記探針-表面間距離を算出するステップと、
前記カンチレバーのばね定数に
前記ばねたわみ量を乗ずることで、前記探針に作用する力を算出するステップとを含む、
請求項2に記載の表面分析方法。
【請求項4】
前記試料表面上の複数の測定点のそれぞれにおける前記フォースカーブを取得するステップと、
複数の前記フォースカーブのそれぞれについて前記破断長を算出するステップと、
複数の前記破断長を出力するステップと
をさらに含む請求項1~3のいずれか一項に記載の表面分析方法。
【請求項5】
前記複数の破断長を出力するステップが、前記試料表面における前記破断長の分布を出力するステップを含む、
請求項4に記載の表面分析方法。
【請求項6】
前記複数の破断長を出力するステップが、前記複数の破断長をデータベースに格納するステップを含む、
請求項4または5に記載の表面分析方法。
【請求項7】
前記走査型プローブ顕微鏡による前記試料表面の測定に基づく追加の物性量を取得するステップと、
前記破断長と前記追加の物性量との組合せに基づく分析を実行するステップと、
前記分析の結果を出力するステップと
をさらに含む請求項1~6のいずれか一項に記載の表面分析方法。
【請求項8】
前記試料表面の測定が、水溶液中で前記探針を前記試料表面に接触させることを含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の表面分析方法。
【請求項9】
前記試料表面が粉体の表面である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の表面分析方法。
【請求項10】
少なくとも一つのプロセッサを備え、
前記少なくとも一つのプロセッサが、
探針を備える走査型プローブ顕微鏡による試料表面の測定に基づくフォースカーブを取得し、
前記探針と前記試料表面との間の距離である探針-表面間距離によって前記フォースカーブを一階微分することで微分曲線を算出し、
前記微分曲線に基づいて、
前記試料表面に接触していた前記探針が該試料表面から離れていくときの複数のピークを識別し、
前記複数のピークの中から、前記試料表面から最も離れたピークを最遠のピークとして識別し、
前記試料表面から、
前記最遠のピークまでの距離を、前記試料表面を形成する有機材料の破断長として算出し、
前記破断長を出力する、
表面分析システム。
【請求項11】
探針を備える走査型プローブ顕微鏡による試料表面の測定に基づくフォースカーブを取得するステップと、
前記探針と前記試料表面との間の距離である探針-表面間距離によって前記フォースカーブを一階微分することで微分曲線を算出するステップと、
前記微分曲線に基づいて、
前記試料表面に接触していた前記探針が該試料表面から離れていくときの複数のピークを識別するステップと、
前記複数のピークの中から、前記試料表面から最も離れたピークを最遠のピークとして識別するステップと、
前記試料表面から、
前記最遠のピークまでの距離を、前記試料表面を形成する有機材料の破断長として算出するステップと、
前記破断長を出力するステップと
をコンピュータに実行させる表面分析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一側面は表面分析方法、表面分析システム、および表面分析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機材料を含む試料の表面を分析するための手法が知られている。例えば、特許文献1には、高分子複合材料中の構造体のサイズを基に決定した厚みを持つ試料を用いて測定することを特徴とする力学物性測定方法が記載されている。この文献には、原子間力顕微鏡(AFM)によって試料の表面の硬さ、摩擦力等の力学的特性を測定できることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
試料の表面に形成された有機材料をより詳細に分析する手法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る表面分析方法は、探針を備える走査型プローブ顕微鏡による試料表面の測定に基づくフォースカーブを取得するステップと、探針と試料表面との間の距離である探針-表面間距離によってフォースカーブを一階微分することで微分曲線を算出するステップと、微分曲線に基づいて、試料表面から、最遠のピークまでの距離を、試料表面を形成する有機材料の破断長として算出するステップと、破断長を出力するステップとを含む。
【0006】
本開示の一側面に係る表面分析システムは、少なくとも一つのプロセッサを備える。少なくとも一つのプロセッサは、探針を備える走査型プローブ顕微鏡による試料表面の測定に基づくフォースカーブを取得し、探針と試料表面との間の距離である探針-表面間距離によってフォースカーブを一階微分することで微分曲線を算出し、微分曲線に基づいて、試料表面から、最遠のピークまでの距離を、試料表面を形成する有機材料の破断長として算出し、破断長を出力する。
【0007】
本開示の一側面に係る表面分析プログラムは、探針を備える走査型プローブ顕微鏡による試料表面の測定に基づくフォースカーブを取得するステップと、探針と試料表面との間の距離である探針-表面間距離によってフォースカーブを一階微分することで微分曲線を算出するステップと、微分曲線に基づいて、試料表面から、最遠のピークまでの距離を、試料表面を形成する有機材料の破断長として算出するステップと、破断長を出力するステップとをコンピュータに実行させる。
【0008】
このような側面においては、走査型プローブ顕微鏡による測定に基づくフォースカーブを探針-表面間距離によって一階微分することで、瞬間的に力が大きく変動した箇所(ピーク)を示す微分曲線が得られる。そして、この微分曲線に基づいて、表面から、最遠のピークまでの距離が、試料の表面を形成する有機材料の破断長として得られる。有機材料の特性を示す破断長がこの一連の処理により得られるので、試料の表面に形成された有機材料をより詳細に分析することができる。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一側面によれば、試料の表面に形成された有機材料をより詳細に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る表面分析システムを構成するコンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図2】実施形態に係る表面分析システムの機能構成の一例を示す図である。
【
図3】実施形態に係る表面分析システムの動作の一例を示すフローチャートである。
【
図5】電圧-稼働量曲線(F
v-Z曲線)からフォースカーブ(F
N-D曲線)への変換の一例を示す。
【
図6】試料表面の測定で用いられる液体とフォースカーブとの関係の一例を示す図である。
【
図7】フォースカーブおよび対応する微分曲線の一例を示す図である。
【
図8】フォースカーブおよび対応する微分曲線の別の例を示す図である。
【
図9】破断長を含む第1分析データの一例を示す図である。
【
図10】実施形態に係る表面分析システムのさらなる動作の一例を示すフローチャートである。
【
図11】破断長を含む第2分析データの一例を示す図である。
【
図12】走査型電子顕微鏡によって得られるシリカフィラの画像を示す図である。
【
図13】原子間力顕微鏡のダイナミックモード測定によって得られるシリカフィラの振幅像を示す図である。
【
図14】原子間力顕微鏡のダイナミックモード測定によって得られるシリカフィラの位相像を示す図である。
【
図15】観測点の範囲の一例を模式的に示す図である。
【
図16】未処理のフィラのフォースカーブを示す図である。
【
図17】未処理のフィラでの力の分布を示す図である。
【
図18】エポキシ処理されたフィラのフォースカーブを示す図である。
【
図19】エポキシ処理されたフィラでの力の分布を示す図である。
【
図20】フェニル処理されたフィラのフォースカーブを示す図である。
【
図21】フェニル処理されたフィラでの力の分布を示す図である。
【
図22】破断長を用いた第2分析データの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一または同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0012】
[表面分析システムの構成]
実施形態に係る表面分析システム10は、有機材料を含み得る試料の表面(本開示ではこれを「試料表面」ともいう)を分析するコンピュータシステムである。有機材料とは、有機化合物により構成される材料のことをいう。試料とは、表面を分析する対象となる物質のことをいう。一例では、「有機材料を含む試料」は、有機材料によって表面が形成された物質であり、例えば、フィラ等の粉体の表面に有機材料の層が形成された物質である。粉体とは、多数の微小な固体粒子の集合体のことをいう。試料表面の分析とは、試料表面の何らかの特性を明らかにする処理のことをいう。
【0013】
表面分析システム10は、走査型プローブ顕微鏡から得られるデータを用いて分析を実行する。走査型プローブ顕微鏡とは、物質の表面をカンチレバーの探針でなぞるように動かして該表面の物性(例えば、形状、性質、状態等)を観察する顕微鏡のことをいう。走査型プローブ顕微鏡の例として原子間力顕微鏡が挙げられるが、表面分析システム10と共に用いられる走査型プローブ顕微鏡の種類はその例に限定されない。本実施形態では原子間力顕微鏡(AFM)を走査型プローブ顕微鏡の一例として示す。AFMはコンタクトモード、ダイナミックモード、フォースモード等の様々な測定方法に対応し得る。フォースモードでは、弾性率、最大破断力(凝着力)、表面位置などの様々な物性量を得ることができる。
【0014】
表面分析システム10は1台以上のコンピュータで構成される。複数台のコンピュータを用いる場合には、これらのコンピュータがインターネット、イントラネット等の通信ネットワークを介して接続されることで、論理的に一つの表面分析システム10が構築される。
【0015】
図1は、表面分析システム10を構成するコンピュータ100の一般的なハードウェア構成の一例を示す図である。コンピュータ100は、オペレーティングシステム、アプリケーション・プログラム等を実行するプロセッサ(例えばCPU)101と、ROMおよびRAMで構成される主記憶部102と、ハードディスク、フラッシュメモリ等で構成される補助記憶部103と、ネットワークカードまたは無線通信モジュールで構成される通信制御部104と、キーボード、マウス等の入力装置105と、モニタ等の出力装置106とを備える。
【0016】
表面分析システム10の各機能要素は、プロセッサ101または主記憶部102の上に予め定められたプログラムを読み込ませてプロセッサ101にそのプログラムを実行させることで実現される。プロセッサ101はそのプログラムに従って、通信制御部104、入力装置105、または出力装置106を動作させ、主記憶部102または補助記憶部103におけるデータの読み出しおよび書き込みを行う。処理に必要なデータまたはデータベースは主記憶部102または補助記憶部103内に格納される。
【0017】
図2は表面分析システム10の機能構成の一例を示す図である。一例では、表面分析システム10は機能要素として第1分析部11および第2分析部12を備える。第1分析部11は、AFMにより得られるデータ(本開示ではこれを「入力データ」という)を処理することで、試料表面を形成する有機材料の破断長を求める機能要素である。本開示において、破断長とは、引力によって走査型プローブ顕微鏡(例えばAFM)の探針に付着していた有機材料が該探針から離れたときの、試料表面から探針までの距離のことをいう。破断長は、試料表面または有機材料の物性量の一例である。破断長の算出は、試料表面の分析の少なくとも一部である。第1分析部11は取得部111、算出部112、および格納部113を備える。取得部111は入力データを取得する機能要素である。算出部112はその入力データから破断長を算出する機能要素である。格納部113はその破断長を含む第1分析データをデータベース20に格納する機能要素である。第2分析部12はその第1分析データを用いて、試料表面に関するさらなる分析を実行し、その分析結果を示す第2分析データを出力する機能要素である。
【0018】
表面分析システム10の構築方法は限定されない。表面分析システム10が複数のコンピュータで構成される場合には、どのプロセッサがどの機能要素を実行するかが任意に決定されてよい。いずれにしても、少なくとも一つのプロセッサを備える表面分析システム10が第1分析部11(取得部111、算出部112、および格納部113)および第2分析部12として機能する。表面分析システム10は、AFMに組み込まれてもよいし、AFMとは独立したコンピュータシステムでもよい。
【0019】
表面分析システム10はデータベース20にアクセスすることができる。データベース20は分析データを非一時的に記憶する装置(記憶部)である。一例ではデータベース20はリレーショナルデータベースであるが、データベース20の構成はこれに限定されず、任意の方針で設計および構築されてよい。データベース20は表面分析システム10の一構成要素でもよいし、表面分析システム10とは異なるコンピュータシステム内に構築されてもよい。一例では、表面分析システム10は通信ネットワークを介してデータベース20に接続する。通信ネットワークの構成は何ら限定されず、例えば、通信ネットワークはインターネット、イントラネット等を用いて構築されてよい。
【0020】
[表面分析システムの動作]
図3および他の図面を参照しながら、表面分析システム10の動作を説明するとともに本実施形態に係る表面分析方法について説明する。
図3は表面分析システム10の動作の一例を処理フローS1として示すフローチャートである。処理フローS1は、試料表面上の少なくとも一つの観測点を分析する処理を示す。処理フローS1の契機は限定されない。例えば、処理フローS1は表面分析システム10のユーザの操作に応答して実行されてもよい。あるいは、処理フローS1は、AFMまたは他の装置での処理に応答して、ユーザ操作を介することなく自動的に実行されてもよい。
【0021】
ステップS11では、取得部111が一つの観測点についての入力データを取得する。入力データは、試料表面を測定したAFMによって生成され、試料表面を分析するために用いられるデータである。入力データの取得方法は限定されない。例えば、取得部111はAFMから入力データを直接に取得してもよいし、AFMから所定の記憶部(例えば、メモリ、データベース等)に格納されたデータを該記憶部から入力データとして読み出してもよい。入力データは、破断長を算出するために用いられるデータに加えて、測定位置の情報、最大破断力、表面位置等の他のデータを含んでもよい。このような他のデータの少なくとも一部は、破断長に加えて取得される追加の物性量であり得る。最大破断力は、試料表面から離れようとする探針に掛かる力の最大値であり、凝着力ともいう。表面位置は、Z方向(鉛直方向)における、所与の基準面から試料表面までの距離によって示され得る。最大破断力および表面位置はいずれも、破断長に加えて取得される追加の物性量の一例である。
【0022】
ステップS12では、算出部112が十分な量の入力データを取得したか否かを判定する。試料表面の測定では、探針が該表面に到達する前に印加電圧が限界値に達したり、試料表面が走査範囲外に位置したり、有機材料が探針から離れなかったりする等の何らかの理由で、十分な量の入力データが得られない可能性がある。そのため、算出部112は分析のために十分な量の入力データを取得したか否かを判定する。
【0023】
一例では、算出部112は、データの個数が所与の閾値以下である場合には入力データの量が十分でないと判定し、データの個数が該閾値より多い場合には入力データの量が十分であると判定する。その閾値は任意の方針で設定されてよい。例えば、一つの観測点についてZ方向に沿って1024個のデータを取得可能であれば、閾値は50でもよい。
【0024】
あるいは、算出部112は、データファイルのサイズが所与の閾値以下(例えば、平均サイズの1/5以下)であれば入力データの量が十分でないと判定し、サイズがその閾値より大きい場合には入力データの量が十分であると判定してもよい。
【0025】
あるいは、算出部112は、アプローチカーブにおいて試料表面から最も離れた区間(例えば、該当箇所に対応する10個のデータで示される区間)と、リリースカーブにおいて試料表面から最も離れた区間(例えば、該当箇所に対応する10個のデータで示される区間)とが重なるか否かによって、入力データの有効性を判定してもよい。この重なりが無い場合には、有機材料が最後まで探針から離れなかった蓋然性が高い。算出部112は、重なりがある場合には入力データが十分であると判定し、重なりが無い場合には入力データが不十分であると判定する。ここで、アプローチカーブは探針が試料表面に近づくときに測定される力を示し、リリースカーブは試料表面に接触した探針が該試料表面から離れていくときに測定される力を示す。
【0026】
十分な量の入力データを取得した場合には(ステップS12においてYES)、処理はステップS13に進む。一方、十分な量の入力データを取得しなかった場合には(ステップS12においてNO)、表面分析システム10はその入力データが無効であると判定して、現在の測定点についての処理を終了する。この場合には、表面分析システム10は、後述するステップS13~S17の処理を実行しない。
【0027】
ステップS13では、算出部112が、入力データの少なくとも一部によって表される電圧-稼働量曲線(Fv-Z曲線)をフォースカーブに変換する。
【0028】
フォースカーブとは、探針-表面間距離D(単位はnm(ナノメートル))と、AFMの探針(カンチレバー)に作用する力F
N(単位はnN(ナノニュートン))との関係を示す曲線(F
N-D曲線)である。
図4は、探針-表面間距離Dを説明するために示す、AFMの測定部の模式図である。この図は、カンチレバー31の端部に設けられた探針32と、ステージ33上に置かれた試料40と、その試料40を3次元方向に高精度に移動させるための圧電素子(ピエゾ素子)34とを示す。その図に示すように、探針-表面間距離Dとは、探針32の先端と試料表面41との間の距離のことをいう。
【0029】
電圧-稼働量曲線(Fv-Z曲線)とは、走査型プローブ顕微鏡(例えばAFM)の圧電素子の稼働量Z(単位はnm(ナノメートル))と、該走査型プローブ顕微鏡の検出器の電圧Fv(単位はV(ボルト))との関係を示す曲線である。
【0030】
算出部112はF
v-Z曲線をフォースカーブ(F
N-D曲線)に変換する。カンチレバーのたわみ量を、ばねたわみ量x(単位はnm)というとすると、算出部112はD=Z-xの式に従って、圧電素子の稼働量Zを探針-表面間距離Dに変換する。ばねたわみ量xは、x=(検出器の電圧F
v)/(光てこ感度)という式により得られる。光てこ感度の単位はnm/Vである。力F
Nはカンチレバーのばね定数kとばねたわみ量xとの積により得られ、従ってF
N=kxである。
図5は、電圧-稼働量曲線(F
v-Z曲線)からフォースカーブ(F
N-D曲線)への変換の一例を示す図である。フォースカーブにおいて、F
N>0の領域は探針に斥力が働くことを示し、F
N<0の領域は探針に引力が働くことを示す。
図5の例では、探針-表面間距離D=0の付近における引力の最大値が最大破断力に相当する。
【0031】
その最大破断力(凝着力)を明瞭に検出するための手法として、水溶液中で探針を試料表面に接触させることで試料表面を測定することが挙げられる。水溶液ではなく純水中で試料表面を測定すると、静電反発に起因する斥力が発生し、破断力がその斥力によって相殺されて確認できなくなる。水溶液中で試料表面を測定するとその静電反発が防止または抑制されるので、静電反発に起因する斥力も防止または抑制される。この結果、最大破断力が明瞭に現われるフォースカーブを得ることができる。一例では、蒸発しにくく、有機材料を溶かさず、かつ有機材料を膨潤させない水溶液が選択される。AFM等の走査型プローブ顕微鏡による試料表面の測定で用いられる水溶液の例として、塩化ナトリウム(NaCl)水溶液、硫酸ナトリウム(Na2SO4)水溶液、および塩化カリウム(KCl)水溶液が挙げられるが、これらに限定されない。水溶液のイオン強度は0.01(mol/L)以上であることが好ましい。例えば、モル濃度が10mM(mmol/L)のNaCl水溶液のイオン強度は0.01(mol/L)である。
【0032】
図6は試料表面の測定で用いられる液体とフォースカーブとの関係の一例を示す図である。この例では試料がニオブであるが、当然ながら試料の種類はこれに限定されない。
図6のグラフ(a)は、純水中で試料表面を測定した場合に得られるフォースカーブを示す。
図6のグラフ(b)は、NaCl水溶液中で試料表面を測定した場合に得られるフォースカーブを示す。両方のグラフにおいて、灰色の線(アプローチカーブ)は、探針が試料表面に近づいていくときに測定される力を示し、黒の線(リリースカーブ)は、試料表面に接触していた探針が該試料表面から離れていくときに測定される力を示す。
図6に示すように、水溶液を用いることで最大破断力を明瞭に検出することができる。
【0033】
ステップS14では、算出部112がフォースカーブを微分することで微分曲線を算出する。具体的には、算出部112はフォースカーブを探針-表面間距離Dによって一階微分(すなわち、dF
N/dD)することで微分曲線を算出する。
図7および
図8はいずれもフォースカーブおよび対応する微分曲線の一例を示す図である。これらの図では、上のグラフがフォースカーブを示し、下のグラフが微分曲線を示す。微分曲線の縦軸はdF
N/dDを示し、横軸は探針-表面間距離Dを示す。いずれのグラフにおいても、灰色の線(アプローチカーブ)は、探針が試料表面に近づいていくときに測定される力に関し、黒の線(リリースカーブ)は、試料表面に接触していた探針が該試料表面から離れていくときに測定される力に関する。
【0034】
ステップS15では、算出部112が微分曲線に適用するピーク閾値を決定する。本開示において、ピークとは、微分値が他の部分よりも突出した針状の部分における最大値のことをいい、探針(カンチレバー)に掛かる力が瞬間的に大きく変動した箇所に対応する。ピーク閾値とは、微分曲線におけるピークを識別するために設定される値である。ピーク閾値の設定方法は限定されない。一例では、算出部112は微分曲線の信号対雑音比(S/N)に基づいてピーク閾値を設定してもよく、例えば、ピーク閾値を5dB(デシベル)に設定してもよい。算出部112は、微分曲線のうち、探針に有機材料が付いていない区間におけるノイズの統計値(例えば平均二乗誤差)を、S/Nの基となるノイズレベルとして算出してもよい。
【0035】
ステップS16では、算出部112が微分曲線に基づいて、試料表面から、最遠のピークまでの距離を、有機材料の破断長として算出する。「最遠のピーク」とは、試料表面から最も離れたピークのことをいう。算出部112は、微分曲線においてピーク閾値よりも値が高い1以上の針状部分のそれぞれをピークとして識別する。有機材料が探針から離れる現象である破断が複数回発生する場合があり、これに対応して、探針に掛かる力がそれぞれの破断において瞬間的に大きく変動し得る。したがって、複数のピークが存在し得る。そのため、算出部112は、試料表面(微分曲線のグラフにおいてD=0の部分)から最も離れたピークを最遠のピークとして識別する。そして、算出部112は試料表面からその最遠のピークまでの距離を有機材料の破断長として算出する。
図7および
図8における距離Lはその破断長を示す。試料表面から最遠のピークまでの距離を破断長として求めることで、その破断長以上の長さを持つ有機材料の存在を知ることができる。
【0036】
微分曲線を求めることで、探針に掛かる力が瞬間的に大きく変動したタイミングをピークとして捉えることができる。この変動は破断を示すので、微分曲線でのピークの位置に基づいて破断長を正確に求めることができる。加えて、
図8から明らかなように、光の干渉によるフォースカーブのベースライン(力F
Nが0の付近における線)の長周期の歪みを微分曲線によって解消することができる。
【0037】
ステップS17では、格納部113が、破断長を少なくとも含む第1分析データをデータベース20に格納する。第1分析データは入力データの少なくとも一部を追加の物性量として含んでもよいし、このような追加の物性量を含まなくてもよい。
図9は第1分析データの一例を示す図である。この例では、一つの観測点についての分析データのレコードは観測点ID、ファイル名、X位置、Y位置、表面位置、破断長、および最大破断力を含む。観測点IDは個々の観測点を一意に特定する識別子である。ファイル名は入力データが書き込まれた電子ファイルの名称である。X位置およびY位置は、AFMのステージの表面(XY平面)に基づいて設定される観測点のX方向およびY方向の位置を示す。
図9に示す個々のレコードは、破断長と追加の物性量との組合せを示すといえる。
【0038】
ステップS18で示すように、表面分析システム10は試料表面上の少なくとも一つの観測点のすべてについて処理を実行する。未処理の観測点が存在する場合には(ステップS18においてNO)、残っている観測点のうちの一つについてステップS11~S17の処理が実行される。表面分析システム10がすべての観測点を処理した場合には(ステップS18においてYES)、処理フローS1が終了する。この結果、
図9に示すように、データベース20には、今回処理された1以上の観測点についての第1分析データが蓄積される。表面分析システム10は複数の測定点に対応する複数の破断長を出力してもよいし、単一の測定点に対応する単一の破断長を算出および出力してもよい。
【0039】
一例では、表面分析システム10はその分析データを用いてさらなる処理(例えばさらなる分析)を実行してもよい。
図10はそのさらなる処理の一例を処理フローS2として示すフローチャートである。本実施形態に係る表面分析方法はこの処理フローS2を含んでもよいし、含まなくてもよい。処理フローS2の契機は限定されない。一例では、処理フローS2は処理フローS1に続いて自動的に実行されてもよい。別の例では、処理フローS2は、表面分析システム10のユーザの操作に応答して実行されてもよい。あるいは、処理フローS2は、AFMまたは他の装置での処理に応答して、ユーザ操作を介することなく自動的に実行されてもよい。
【0040】
ステップS21では、第2分析部12が、処理しようとする第1分析データをデータベース20から取得する。ステップS22では、第2分析部12がその第1分析データを用いてさらなる処理を実行する。一例では、第2分析部12は1以上の観測点での破断長を少なくとも参照してさらなる分析を実行する。第2分析部12は破断長と追加の物性量との組合せに基づく分析を実行してもよい。ステップS23では、第2分析部12がその処理(例えば分析)の結果を示す第2分析データを出力する。第2分析データの出力方法は限定されない。例えば、第2分析部12は第2分析データを、モニタ上に出力してもよいし、データベース20等の任意の記憶部に格納してもよいし、他のコンピュータまたは装置に送信してもよいし、印刷してもよい。第2分析部12による処理は限定されず、これに対応して、第2分析データのデータ構造および表現形式も限定されない。
【0041】
以下では、さらなる図面を参照しながら、実施形態に係る表面分析システム10および表面分析方法に関してさらに説明する。
【0042】
図11は、破断長を含む第2分析データの一例を示す図であり、より具体的には、試料表面の特定の範囲における物性量の分布を示す第2分析データ200を示す。第2分析データ200は、表面位置の分布を示すマップ201と、最大破断力(凝着力)の分布を示すマップ202と、破断長の分布を示すマップ203とを含む。この第2分析データ200のように破断長を可視化することで、表面分析システム10のユーザは試料表面の有機材料の状態を視覚的に捉えることができる。第2分析データ200は、破断長と追加の物性量との組合せに基づく分析の結果の一例である。
【0043】
本発明者らは、破断長の分布を算出することで、試料表面上の有機材料の存在または種類を判別できることを見出した。この判別は、従来の手法によって顕微鏡から得られる画像を見るだけでは不可能または非常に困難である。
図12は走査型電子顕微鏡(SEM)によって得られる3種類のシリカフィラの画像を示す図である。シリカフィラは粉体の一例である。3種類のシリカフィラは、有機材料を含まないシリカフィラ(未処理のフィラ)、有機材料として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用いたシリカフィラ(エポキシ処理されたフィラ)、および、有機材料としてN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランを用いたシリカフィラ(フェニル処理されたフィラ)である。
図13はAFMのダイナミックモード測定によって得られる振幅像を示す図であり、上記3種類のシリカフィラのそれぞれについて4個のサンプルを示す。
図14はAFMのダイナミックモード測定によって得られる位相像を示す図であり、上記3種類のシリカフィラのそれぞれについて4個のサンプルを示す。
図12~
図14からわかるように、いずれの画像を用いても、3種類のシリカフィラを判別することは不可能または非常に困難である。
【0044】
例えば、フォースカーブは上記3種類のシリカフィラを判別するきっかけになる。
図15~
図22を参照しながらフォースカーブの表現の例を説明する。
図15は観測点の範囲の一例を模式的に示す図である。
図16は未処理のフィラの代表的な観測点でのフォースカーブを示す図である。
図17は未処理のフィラでの力の分布を示す図であり、
図16に対応する。
図18はエポキシ処理されたフィラの代表的な観測点でのフォースカーブを示す図である。
図19はエポキシ処理されたフィラでの力の分布を示す図であり、
図18に対応する。
図20はフェニル処理されたフィラの代表的な観測点でのフォースカーブを示す図である。
図21はフェニル処理されたフィラでの力の分布を示す図であり、
図20に対応する。
【0045】
測定環境は以下の通りであった。顕微鏡として株式会社島津製作所製の走査プローブ顕微鏡SPM8100を用い、ソフトウェアとして同社製のSPM9700を用いた。フォースモードでそれぞれのシリカフィラを測定した。カンチレバーにはオリンパス株式会社製のTR800PSA-1を用いた。このカンチレバーのばね定数は150pN/nmであった。光てこ感度は20nm/Vであった。Z方向の走査範囲は1um(マイクロメートル)であり、走査速度は1Hzとした。カンチレバーの最大押し込み力は、検出器電圧に換算して+0.2Vとした。試料表面の測定は、モル濃度が10mM(mmol/L)であるNaCl水溶液中で行った。
【0046】
図15はシリカフィラ50上に設定された観測点の範囲51を座標系と共に示す。AFMのステージの表面に沿ってXY平面を設定し、鉛直方向に沿ってZ軸を設定した。シリカフィラ50の平均粒径は500nmであった。範囲51の実寸は200nm×25nmであり、これは64×8個の観測点に対応した。
図15~
図21はいずれも特定のY位置におけるグラフまたはマップを示す。
図16、
図18、および
図20はいずれも、特定のY位置における7個の観測点(X=-75nm,-50nm,-25nm,0nm,25nm,50nm,75nm)でのフォースカーブを示す。それぞれのグラフにおいて、灰色の線(アプローチカーブ)は、探針が試料表面に近づいていくときに測定される力を示し、黒の線(リリースカーブ)は、試料表面に接触していた探針が該試料表面から離れていくときに測定される力を示す。
図17、
図19、および
図21はいずれも、特定のY位置でのXZ平面における力の分布を示し、マップの上に示す矢印は上記の7個の観測点を示す。
【0047】
図17において、明るい部分210は斥力を示し、これは未処理のフィラに対応する。色が変化する境界211は未処理のフィラの表面に対応する。このマップからは破断長を認めることができなかった。
【0048】
図19において、明るい部分220は斥力を示し、これはエポキシ処理されたフィラに対応する。色が変化する境界221はエポキシ処理されたフィラの表面に対応する。さらに色が変化する境界222は有機材料が探針から完全に離れる時点に対応する。したがって、Z軸方向における境界221から境界222までの距離が破断長に対応する。
【0049】
図21は
図19と同様である。すなわち、
図21において、明るい部分230は斥力を示し、これはフェニル処理されたフィラに対応する。色が変化する境界231はフェニル処理されたフィラの表面に対応する。さらに色が変化する境界232は有機材料が探針から完全に離れる時点に対応する。したがって、Z軸方向における境界231から境界232までの距離が破断長に対応する。
【0050】
図16~
図21に示すように、フォースカーブおよびそれに基づくマップによって試料表面の物性をある程度確認することができる。表面分析システム10を用いることで破断長を算出できるので、その物性をより詳しく確認することができる。
図22は算出された破断長を用いた第2分析データの一例を示す図であり、より具体的には、上記の3種類のシリカフィラについて破断長と最大破断力との関係を示すグラフである。このグラフは、破断長と追加の物性量との組合せに基づく分析の結果の一例である。グラフにおけるそれぞれの点はそれぞれの観測点に対応する。点群241は未処理のフィラについての結果を示し、点群242はエポキシ処理されたフィラについての結果を示し、点群243はフェニル処理されたフィラについての結果を示す。このグラフからわかるように、破断長を算出することでそれぞれのシリカフィラの点群がより明確に区別されるので、それぞれのシリカフィラを判別することが可能になる。
【0051】
[プログラム]
コンピュータシステムを表面分析システム10として機能させるための表面分析プログラムは、該コンピュータシステムを第1分析部11(取得部111、算出部112、および格納部113)および第2分析部12として機能させるためのプログラムコードを含む。表面分析プログラムを作成するためのプログラム言語は限定されず、例えば、そのプログラム言語はPython、Java(登録商標)、またはC++でもよい。表面分析プログラムは、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等の有形の記録媒体に非一時的に記録された上で提供されてもよい。あるいは、表面分析プログラムは、搬送波に重畳されたデータ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。提供された表面分析プログラムは例えば補助記憶部103に記憶される。プロセッサ101が補助記憶部103からその表面分析プログラムを読み出してそのプログラムを実行することで、上記の各機能要素が実現する。
【0052】
[効果]
以上説明したように、本開示の一側面に係る表面分析方法は、探針を備える走査型プローブ顕微鏡による試料表面の測定に基づくフォースカーブを取得するステップと、探針と試料表面との間の距離である探針-表面間距離によってフォースカーブを一階微分することで微分曲線を算出するステップと、微分曲線に基づいて、試料表面から、最遠のピークまでの距離を、試料表面を形成する有機材料の破断長として算出するステップと、破断長を出力するステップとを含む。
【0053】
本開示の一側面に係る表面分析システムは、少なくとも一つのプロセッサを備える。少なくとも一つのプロセッサは、探針を備える走査型プローブ顕微鏡による試料表面の測定に基づくフォースカーブを取得し、探針と試料表面との間の距離である探針-表面間距離によってフォースカーブを一階微分することで微分曲線を算出し、微分曲線に基づいて、試料表面から、最遠のピークまでの距離を、試料表面を形成する有機材料の破断長として算出し、破断長を出力する。
【0054】
本開示の一側面に係る表面分析プログラムは、探針を備える走査型プローブ顕微鏡による試料表面の測定に基づくフォースカーブを取得するステップと、探針と試料表面との間の距離である探針-表面間距離によってフォースカーブを一階微分することで微分曲線を算出するステップと、微分曲線に基づいて、試料表面から、最遠のピークまでの距離を、試料表面を形成する有機材料の破断長として算出するステップと、破断長を出力するステップとをコンピュータに実行させる。
【0055】
このような側面においては、走査型プローブ顕微鏡による測定に基づくフォースカーブを探針-表面間距離によって一階微分することで、瞬間的に力が大きく変動した箇所(ピーク)を示す微分曲線が得られる。そして、この微分曲線に基づいて、表面から、最遠のピークまでの距離が、試料の表面を形成する有機材料の破断長として得られる。有機材料の特性を示す破断長がこの一連の処理により得られるので、試料の表面に形成された有機材料をより詳細に分析することができる。
【0056】
他の側面に係る表面分析方法では、フォースカーブを取得するステップが、走査型プローブ顕微鏡の圧電素子の稼働量と走査型プローブ顕微鏡の検出器の電圧との関係を示す電圧-稼働量曲線を取得するステップと、電圧-稼働量曲線をフォースカーブに変換するステップとを含んでもよい。電圧-稼働量曲線をそのまま用いると、走査型プローブ顕微鏡のカンチレバーのたわみ量の分だけ破断長に誤差が生じてしまう(例えば、たわみ量の分だけ破断長が過大に評価されてしまう)。電圧-稼働量曲線をフォースカーブに変換することで、破断長をより正確に算出することができる。
【0057】
他の側面に係る表面分析方法では、電圧-稼働量曲線をフォースカーブに変換するステップが、探針を有するカンチレバーのばねたわみ量を稼働量から減ずることで探針-表面間距離を算出するステップと、カンチレバーのばね定数に探針-表面間距離を乗ずることで、探針に作用する力を算出するステップとを含んでもよい。このように探針-表面間距離および力を算出することで、フォースカーブを簡単な計算によって得ることができる。
【0058】
他の側面に係る表面分析方法では、試料表面上の複数の測定点のそれぞれにおけるフォースカーブを取得するステップと、複数のフォースカーブのそれぞれについて破断長を算出するステップと、複数の破断長を出力するステップとをさらに含んでもよい。複数の測定点について破断長を求めることで、破断長の分布、統計値等のような、破断長に関する更なる情報を得ることができる。
【0059】
他の側面に係る表面分析方法では、複数の破断長を出力するステップが、試料表面における破断長の分布を出力するステップを含んでもよい。この場合には、破断長に関する情報をわかり易くユーザに提示することができる。
【0060】
他の側面に係る表面分析方法では、複数の破断長を出力するステップが、複数の破断長をデータベースに格納するステップを含んでもよい。この場合には、破断長に関する情報を後続の様々な処理のために保存することができる。
【0061】
他の側面に係る表面分析方法では、走査型プローブ顕微鏡による試料表面の測定に基づく追加の物性量を取得するステップと、破断長と追加の物性量との組合せに基づく分析を実行するステップと、分析の結果を出力するステップとをさらに含んでもよい。この場合には、試料の表面に形成された有機材料をより詳細に分析することができる。
【0062】
他の側面に係る表面分析方法では、試料表面の測定が、水溶液中で探針を試料表面に接触させることを含んでもよい。水溶液中で試料表面を測定すると静電反発が防止または抑制されるので、静電反発に起因する斥力も防止または抑制される。この結果、最大破断力が明瞭に現われるフォースカーブを得ることができる。
【0063】
他の側面に係る表面分析方法では、試料表面が粉体の表面であってもよい。この場合には、粉体の表面に形成された有機材料をより詳細に分析することができる。
【0064】
[変形例]
以上、本開示での実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本開示は上記実施形態に限定されるものではない。本開示は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0065】
上記実施形態では表面分析システム10が電圧-稼働量曲線をフォースカーブに変換するが、この変換処理は必須ではない。例えば、表面分析システムは走査型プローブ顕微鏡または他のコンピュータシステムにより算出されたフォースカーブのデータを取得してもよい。
【0066】
上記実施形態では表面分析システム10がピーク閾値を用いて最遠のピークを識別するが、最遠のピークを特定するための手法はこれに限定されない。表面分析システムは他の手法を用いて最遠のピークを識別することで、破断長を算出してもよい。
【0067】
表面分析システム10の構成およびその周辺のシステム構成はいずれも上記実施形態に限定されない。第2分析部12は表面分析システムの必須の構成要素ではなく、例えば、表面分析システムとは別のコンピュータシステムが第2分析部12に相当する機能を有してもよい。破断長をデータベースに格納する処理も必須ではなく、例えば、表面分析システムは破断長を、モニタ上に表示してもよいし、他のコンピュータまたは装置に送信してもよいし、印刷してもよい。
【0068】
本開示において、「少なくとも一つのプロセッサが、第1の処理を実行し、第2の処理を実行し、…第nの処理を実行する。」との表現、またはこれに対応する表現は、第1の処理から第nの処理までのn個の処理の実行主体(すなわちプロセッサ)が途中で変わる場合を含む概念を示す。すなわち、この表現は、n個の処理のすべてが同じプロセッサで実行される場合と、n個の処理においてプロセッサが任意の方針で変わる場合との双方を含む概念を示す。
【0069】
少なくとも一つのプロセッサにより実行される方法の処理手順は上記実施形態での例に限定されない。例えば、上述したステップ(処理)の一部が省略されてもよいし、別の順序で各ステップが実行されてもよい。また、上述したステップのうちの任意の2以上のステップが組み合わされてもよいし、ステップの一部が修正又は削除されてもよい。あるいは、上記の各ステップに加えて他のステップが実行されてもよい。
【0070】
コンピュータシステムまたはコンピュータ内で二つの数値の大小関係を比較する際には、「以上」および「よりも大きい」という二つの基準のどちらを用いてもよく、「以下」および「未満」という二つの基準のうちのどちらを用いてもよい。このような基準の選択は、二つの数値の大小関係を比較する処理についての技術的意義を変更するものではない。
【符号の説明】
【0071】
10…表面分析システム、11…第1分析部、12…第2分析部、20…データベース、111…取得部、112…算出部、113…格納部、31…カンチレバー、32…探針、40…試料、41…試料表面。