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特許7070881トマト加熱処理物及びトマトベース飲食品、ならびにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】トマト加熱処理物及びトマトベース飲食品、ならびにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20220511BHJP
   A23L 27/60 20160101ALI20220511BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20220511BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20220511BHJP
【FI】
A23L19/00 A
A23L27/60 Z
A23L27/00 D
A23L27/10 C
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2017036258
(22)【出願日】2017-02-28
(65)【公開番号】P2018139538
(43)【公開日】2018-09-13
【審査請求日】2020-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100120905
【弁理士】
【氏名又は名称】深見 伸子
(72)【発明者】
【氏名】吉本 靖東
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 雄己
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-247059(JP,A)
【文献】特開2011-072306(JP,A)
【文献】特開2013-135639(JP,A)
【文献】3・13・8 トマトフレーバー,特許庁公報 周知・慣用技術集(香料)第II部 食品用香料,日本国特許庁,2000年01月14日,893~896
【文献】PIOMBINO, Paola et al.,Investigating physicochemical, volatile and sensory parameters playing a positive or a negative role,Food Research International,2013年,Vol. 50,409-419
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00
A23L 27/00
A23L 2/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンを含有するトマト加熱処理物であって、該トマト加熱処理物における2-イソブチルチアゾールの含有量が2.0ppb~1000ppbであるときに、3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの含有比率(GC/MS分析における3-ヘキセノール(m/z値41.0)と2-イソブチルチアゾール(m/z値99.0)のイオン面積比より算出した質量比)が、1.0:1.5~1.0:10.0であり、かつ、3-ヘキセノールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの含有比率(GC/MS分析における3-ヘキセノール(m/z値41.0)と6-メチル-5-ヘプテン-2-オン(m/z値43.0)のイオン面積比より算出した質量比)が、1.0:2.0~1.0:15.0の範囲内であること、及び、該トマト加熱処理物が、トマトの破砕物又は磨砕物を100℃で加熱処理されたものであること、を特徴とする、トマト加熱処理物。
【請求項2】
Brixが6~34であることを特徴とする、請求項1に記載のトマト加熱処理物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のトマト加熱処理物を含有するトマトベース飲食品。
【請求項4】
トマトベース飲食品におけるトマト加熱処理物の含有量が、20質量%~100質量%であることを特徴とする、請求項3に記載のトマトベース飲食品。
【請求項5】
トマトベース飲食品が、70℃以上100℃以下で、かつ、3分以上20分以下で加熱殺菌処理されていることを特徴とする、請求項3又は4に記載のトマトベース飲食品。
【請求項6】
原料トマトを破砕又は磨砕処理した後、トマトの破砕物又は磨砕物を100℃で加熱処理してトマト加熱処理物を調製する工程と、該トマト加熱処理物中の香気成分の含有量及び含有比率を調整する工程を含む、トマト加熱処理物又はトマト加熱処理物を含有するトマトベース飲食品の製造方法であって、該トマト加熱処理物中の香気成分である2-イソブチルチアゾールと3-ヘキセノールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンが、以下の条件:
(b1)2-イソブチルチアゾールの含有量が2.0ppb~1000ppbの範囲内であること;
(b2)3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの含有比率(GC/MS分析における3-ヘキセノール(m/z値41.0)と2-イソブチルチアゾール(m/z値99.0)のイオン面積比より算出した質量比)が、1.0:1.5~1.0:10.0の範囲内であること;及び
(b3)3-ヘキセノールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの含有比率(GC/MS分析における3-ヘキセノール(m/z値41.0)と6-メチル-5-ヘプテン-2-オン(m/z値43.0)のイオン面積比より算出した質量比)が、1.0:2.0~1.0:15.0の範囲内であること;
を満たすように調整することを特徴とする、トマト加熱処理物又はトマトベース飲食品の製造方法。
【請求項7】
トマト加熱処理物中の香気成分の含有量及び含有比率の調整が、以下の(i)~(v)からなる群から選ばれる1種又は2種以上の方法により行われる、請求項6に記載の製造方法。
(i)前記香気成分をトマト加熱処理物に添加する方法
(ii)前記香気成分を含有する香料をトマト加熱処理物に添加する方法
(iii)前記香気成分を含有する食品素材をトマト加熱処理物に添加する方法
(iv)未濃縮トマト及び/又は低濃縮トマトをトマト加熱処理物に混合する方法
(v)原料トマトとして前記香気成分含量の高いトマト品種及び/又は未熟果を使用する方法
【請求項8】
トマトベース飲食品におけるトマト加熱処理物の含有量が、20質量%~100質量%となるようにトマト加熱処理物を他の原料と混合することを特徴とする、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
トマト加熱処理物のBrixを6~34の範囲内に調整する工程を行う、請求項6~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
トマト加熱処理物又はトマトベース飲食品を70℃以上100℃以下、かつ、3分以上20分以下で加熱殺菌処理する工程を含む、請求項6~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
トマト加熱処理物中の香気成分の含有量及び含有比率を調整することによって、該トマト加熱処理物又は該トマト加熱処理物を含有するトマトベース飲食品における出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感を増強及び保持する方法であって、該トマト加熱処理物中の香気成分である2-イソブチルチアゾールと3-ヘキセノールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンが、以下の条件:
(b1)2-イソブチルチアゾールの含有量が2.0ppb~1000ppbの範囲内であること;
(b2)3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの含有比率(GC/MS分析における3-ヘキセノール(m/z値41.0)と2-イソブチルチアゾール(m/z値99.0)のイオン面積比より算出した質量比)が、1.0:1.5~1.0:10.0の範囲内であること;及び
(b3)3-ヘキセノールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの含有比率(GC/MS分析における3-ヘキセノール(m/z値41.0)と6-メチル-5-ヘプテン-2-オン(m/z値43.0)のイオン面積比より算出した質量比)が、1.0:2.0~1.0:15.0の範囲内であること;
を満たすように調整すること、及び、該トマト加熱処理物が、トマトの破砕物又は磨砕物を100℃で加熱処理されたものであることを特徴とする、前記方法。
【請求項12】
トマト加熱処理物中の香気成分の含有量及び含有比率の調整が、以下の(i)~(v)からなる群から選ばれる1種又は2種以上の方法により行われる、請求項11に記載の方法。
(i)前記香気成分をトマト加熱処理物に添加する方法
(ii)前記香気成分を含有する香料をトマト加熱処理物に添加する方法
(iii)前記香気成分を含有する食品素材をトマト加熱処理物に添加する方法
(iv)未濃縮トマト及び/又は低濃縮トマトをトマト加熱処理物に混合する方法
(v)原料トマトとして前記香気成分含量の高いトマト品種及び/又は未熟果を使用する方法
【請求項13】
トマト加熱処理物のBrixを6~34の範囲内に調整する工程を行う、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
トマト加熱処理物又はトマトベース飲食品を70℃以上100℃以下、かつ、3分以上20分以下で加熱殺菌処理する工程を含む、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1又は2に記載のトマト加熱処理物及び/又は請求項3~5のいずれか1項に記載のトマトベース飲食品をトマト料理に使用することによって、該トマト料理のフレッシュ感及び煮込み感を増強する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭で手作り調理した直後のような出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感が増強及び保持されたトマト加熱処理物、及び該トマト加熱処理物を含有するトマトベース飲食品、ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トマトペースト、トマトピューレ、トマトジュースなどの市販のトマト加熱処理物は、トマト破砕物を加熱濃縮によって適宜濃度を調整し、加熱殺菌処理を経て製造されている。このトマト加熱処理物に他の原料を混合して調味した各種のトマトベース飲食品もまた大量生産され、販売されている。しかしながら、前記加熱処理では、加熱に伴う水分の蒸発とともに、風味や呈味に影響する香気成分が揮散してしまい、製造されたトマト加熱処理物及びこれを使用した各種トマトベース飲食品は、家庭で手作り調理した直後のような出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感が失われ、風味や呈味が単調で満足できないものであった。また、加熱殺菌処理では、開放状態、密閉状態での加熱処理にかかわらず、香気成分の分解や香気成分同士の反応、香気成分と他成分との反応が起こり、同様の影響がある。また、トマト組織の崩壊を抑え、固形の状態を保つために酵素を失活(トマト由来のペクチナーゼの失活)させるための加熱処理を施したトマト加工品(ダイストマトやホールトマトなど)においても、その加熱処理により、同様の影響がある。さらに、販売時の陳列・保管中においても、そのような香気成分の分解や反応に起因する劣化によって風味や呈味の単調化が進んでしまうという問題があった。
【0003】
そのため、トマト加熱処理物又はトマト加熱処理物を含有するトマトベース飲食品に対し、家庭で手作り調理した直後のトマト料理の複雑な香気成分からなるフレッシュ感及び煮込み感を増強及び保持することが、その嗜好性向上のために強く求められていた。
【0004】
これまでトマト加熱処理物又はトマト加熱処理物を含有するトマトベース飲食品のフレッシュ感を保持するために様々な工夫がされている。例えば、特許文献1には、トマト果実が元来有しているフレッシュな香気を保持して、それが引き立ったトマト搾汁液を得ることを目的とし、トマト果実破砕物を、30~50℃/分の昇温速度で60~70℃まで加熱する予備加熱を行う方法が開示されている。しかしながら、この方法で得られたトマト搾汁液をトマトピューレやトマトペーストに加工する場合、トマト濃縮物としての粘度や濃度を得るためには濃縮に長時間を要し、生産効率が悪い。また、厳密な温度と時間の管理の必要な予備加熱を行うので製造工程が煩雑である。
【0005】
また、特許文献2には、糖質、カリウム及びナトリウムの含有量を特定範囲に調整することで、生のトマトに感じるフレッシュな香気が高められ、かつ味のバランスにも優れたトマトケチャップが得られることが記載されている。しかしながら、特許文献2の対象とするトマト加工品はトマトケチャップのみであり、別のトマト加工品について、上記の成分の含有量を同様に調整すると、そのトマト加工品本来の呈味や風味が得られない。
【0006】
また、特許文献3には、成分(A)6-メチル-5-ヘプテン-2-オン、成分(B)2-イソブチルチアゾール、及び成分(C)フルフラール、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド及びジメチルトリスルフィドの少なくとも一種の揮発成分を特定の割合で含有するフルーティーさ(フルーティー香)を備えたトマト加工品及びその製造方法が開示されている。しかしながら、90℃超の加熱処理では、この「フルーティー香」は極めて弱く、「加熱香」が強く、総合的に好ましくない香りになってしまうことが示されている(特許文献3の段落0070、表1の比較例4)。
【0007】
また、従来技術のトマト加工品で得られる上記の「フレッシュな香気」や「フルーティー香」は、生のトマト果実が有する新鮮な香りであり、家庭で調理された直後の出来立てのトマト料理の複雑な香気成分からなるフレッシュ感及び煮込み感とは異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-179号公報
【文献】特開2012-213393号公報
【文献】特開2011-72306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、複雑な製造工程を経ることなく、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感が増強及び保持されたトマト加熱処理物及び該トマト加熱処理物を含有するトマトベース飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく、トマト加熱処理物の一例として、トマト濃縮物の加熱濃縮前後における香気成分を比較分析した結果、3-ヘキセノール、2-イソブチルチアゾール、3-ヘキセノール(以下、「本発明の香気成分」と記載する場合がある)が、数多くある香気成分の中でも、加熱によって揮散しにくく、加熱耐性があることを見出した。本発明者らはまた、上記の香気成分のトマト加熱処理物中での含有量及び含有比率を特定の範囲に調整するという簡便な方法で、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感が増強され、かつ、長期間保持できるトマト加熱処理物及びトマトベース飲食品を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1] 3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールを含有するトマト加熱処理物であって、該トマト加熱処理物における2-イソブチルチアゾールの含有量が2.0ppb~1000ppbの範囲内であり、かつ、3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの含有比率が質量比で1.0:1.5~1.0:25.2の範囲内であることを特徴とする、トマト加熱処理物。
[2] 3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンを含有するトマト加熱処理物であって、該トマト加熱処理物における2-イソブチルチアゾールの含有量が2.0ppb~1000ppbであるときに、3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの含有比率が質量比で1.0:1.5~1.0:10.0であり、かつ、3-ヘキセノールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの含有比率が質量比で1.0:2.0~1.0:15.0の範囲内であることを特徴とする、トマト加熱処理物。
[3] Brixが6~34であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のトマト加熱処理物。
[4] トマト加熱処理物が、70℃以上100℃以下で、かつ、3分以上20分以下で加熱殺菌処理されていることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載のトマト加熱処理物。
[5] [1]~[4]のいずれか1つに記載のトマト加熱処理物を含有するトマトベース飲食品。
[6] トマトベース飲食品におけるトマト加熱処理物の含有量が、20質量%~100質量%であることを特徴とする、[5]に記載のトマトベース飲食品。
[7] トマトベース飲食品が、70℃以上100℃以下で、かつ、3分以上20分以下で加熱殺菌処理されていることを特徴とする、[5]又は[6]に記載のトマトベース飲食品。
[8] 原料トマトを破砕又は磨砕処理した後、加熱処理してトマト加熱処理物を調製する工程と、該トマト加熱処理物中の香気成分の含有量及び含有比率を調整する工程を含む、トマト加熱処理物又はトマト加熱処理物を含有するトマトベース飲食品の製造方法であって、該トマト加熱処理物中の香気成分である2-イソブチルチアゾールと3-ヘキセノールが、以下の条件:
(a1)2-イソブチルチアゾールの含有量が2.0ppb~1000ppbの範囲内であること;
(a2)3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの含有比率が質量比で1.0:1.5~1.0:25.2の範囲内であること;
を満たすように調整することを特徴とする、トマト加熱処理物又はトマトベース飲食品の製造方法。
[9] 原料トマトを破砕又は磨砕処理した後、加熱処理してトマト加熱処理物を調製する工程と、該トマト加熱処理物中の香気成分の含有量及び含有比率を調整する工程を含む、トマト加熱処理物又はトマト加熱処理物を含有するトマトベース飲食品の製造方法であって、該トマト加熱処理物中の香気成分である2-イソブチルチアゾールと3-ヘキセノールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンが、以下の条件:
(b1)2-イソブチルチアゾールの含有量が2.0ppb~1000ppbの範囲内であること;
(b2)3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの含有比率が質量比で1.0:1.5~1.0:10.0の範囲内であること;及び
(b3)3-ヘキセノールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの含有比率が質量比で1.0:2.0~1.0:15.0の範囲内であること;
を満たすように調整することを特徴とする、トマト加熱処理物又はトマトベース飲食品の製造方法。
[10] トマト加熱処理物中の香気成分の含有量及び含有比率の調整が、以下の(i)~(v)からなる群から選ばれる1種又は2種以上の方法により行われる、[8]又は[9]に記載の製造方法。
(i)前記香気成分をトマト加熱処理物に添加する方法
(ii)前記香気成分を含有する香料をトマト加熱処理物に添加する方法
(iii)前記香気成分を含有する食品素材をトマト加熱処理物に添加する方法
(iv)未濃縮トマト及び/又は低濃縮トマトをトマト加熱処理物に混合する方法
(v)原料トマトとして前記香気成分含量の高いトマト品種及び/又は未熟果を使用する方法
[11] トマトベース飲食品におけるトマト加熱処理物の含有量が、20質量%~100質量%となるようにトマト加熱処理物を他の原料と混合することを特徴とする、 [8]~[10]のいずれか1つに記載の製造方法。
[12] トマト加熱処理物のBrixを6~34の範囲内に調整する工程を行う、[8]~[11]のいずれか1つに記載の製造方法。
[13] トマト加熱処理物又はトマトベース飲食品を70℃以上100℃以下、かつ、3分以上20分以下で加熱殺菌処理する工程を含む、[8]~[12]のいずれか1つに記載の製造方法。
[14] トマト加熱処理物中の香気成分の含有量及び含有比率を調整することによって、該トマト加熱処理物又は該トマト加熱処理物を含有するトマトベース飲食品における出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感を増強及び保持する方法であって、該トマト加熱処理物中の香気成分である2-イソブチルチアゾールと3-ヘキセノールが、以下の条件:
(a1)2-イソブチルチアゾールの含有量が2.0ppb~1000ppbの範囲内であること;
(a2)3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの含有比率が質量比で1.0:1.5~1.0:25.2の範囲内であること;
を満たすように調整することを特徴とする、前記方法。
[15] トマト加熱処理物中の香気成分の含有量及び含有比率を調整することによって、該トマト加熱処理物又は該トマト加熱処理物を含有するトマトベース飲食品における出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感を増強及び保持する方法であって、該トマト加熱処理物中の香気成分である2-イソブチルチアゾールと3-ヘキセノールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンが、以下の条件:
(b1)2-イソブチルチアゾールの含有量が2.0ppb~1000ppbの範囲内であること;
(b2)3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの含有比率が質量比で1.0:1.5~1.0:10.0の範囲内であること;及び
(b3)3-ヘキセノールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの含有比率が質量比で1.0:2.0~1.0:15.0の範囲内であること;
を満たすように調整することを特徴とする、前記方法。
[16] トマト加熱処理物中の香気成分の含有量及び含有比率の調整が、以下の(i)~(v)からなる群から選ばれる1種又は2種以上の方法により行われる、[14]又は[15]に記載の方法。
(i)前記香気成分をトマト加熱処理物に添加する方法
(ii)前記香気成分を含有する香料をトマト加熱処理物に添加する方法
(iii)前記香気成分を含有する食品素材をトマト加熱処理物に添加する方法
(iv)未濃縮トマト及び/又は低濃縮トマトをトマト加熱処理物に混合する方法
(v)原料トマトとして前記香気成分含量の高いトマト品種及び/又は未熟果を使用する方法
[17] トマト加熱処理物のBrixを6~34の範囲内に調整する工程を行う、[14]~[16]のいずれか1つに記載の方法。
[18] トマト加熱処理物又はトマトベース飲食品を70℃以上100℃以下、かつ、3分以上20分以下で加熱殺菌処理する工程を含む、[14]~[17]のいずれか1つに記載の方法。
[19] [1]~[4]のいずれか1つに記載のトマト加熱処理物及び/又は[5]~[7]のいずれか1つに記載のトマトベース飲食品をトマト料理に使用することによって、該トマト料理のフレッシュ感及び煮込み感を増強する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、家庭で手作り調理した直後のような出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感が増強され、かつ長期にわたって安定に保持されるトマト加熱処理物及び当該トマト加熱処理物を含有するトマトベース飲食品が提供される。本発明のトマト加熱処理物及びトマトベース飲食品は、複雑な製造工程を経ることなく、特定の香気成分の含有量及び含有比率を調整するという簡便な方法にて製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、従来法による、トマト加熱処理物(トマト濃縮物)及びトマトベース飲食品の製造フローを示す。
図2図2は、本発明の香気成分自体をトマト加熱処理物(トマト濃縮物)に添加する方法による、トマト加熱処理物及びトマトベース飲食品の製造フローを示す。
図3図3は、本発明の香気成分を含む香料をトマト加熱処理物(トマト濃縮物)に添加する方法による、トマト加熱処理物及びトマトベース飲食品の製造フローを示す。
図4図4は、本発明の香気成分を含む食品素材をトマト加熱処理物(トマト濃縮物)に添加する方法による、トマト加熱処理物及びトマトベース飲食品の製造フローを示す。
図5図5は、未濃縮トマト(加熱濃縮工程なし)又は低濃縮トマトをトマト加熱処理物(トマト濃縮物)に混合する方法による、トマト加熱処理物及びトマトベース飲食品の製造フローを示す。
図6図6は、本発明の香気成分含量の高いトマト品種及び/又は未熟果を使用する方法による、トマト加熱処理物(トマト濃縮物)及びトマトベース飲食品の製造フローを示す。
図7図7は、トマト加熱処理物(トマト殺菌処理物)に、香気成分を添加する方法による、トマト加熱処理物及びトマトベース飲食品の製造フローを示す。
図8図8は、トマト加熱処理物(トマト酵素失活処理物)に、香気成分を添加する方法による、トマト加熱処理物及びトマトベース飲食品の製造フローを示す。
図9図9は、従来法によるトマト濃縮物(加熱濃縮工程あり)の香気成分分析結果(分析チャート)を示す。
図10図10は、トマト破砕物(加熱濃縮工程なし)の香気成分分析結果(分析チャート)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.トマト加熱処理物及びトマトベース飲食品
本発明における「トマト加熱処理物」とは、トマトに加熱処理を施したトマト加工品をいう。本発明の「トマト加熱処理物」には、例えば、原料トマトを破砕若しくは磨砕し、得られた破砕物若しくは磨砕物を加熱濃縮、好ましくは減圧加熱濃縮して調製されるトマト加工品(トマト濃縮物)、トマトの破砕物や磨砕物を濃縮しないまま加熱殺菌処理したトマト加工品(トマト殺菌処理物)、トマト組織の崩壊を抑え、固形の状態(例えばダイス状の形態)を保つために酵素失活(トマト由来のペクチナーゼの失活)させるために加熱処理を施したトマト加工品(トマト酵素失活処理物)等が包含される。トマト加工品の製品形態としては、トマトピュ-レ、トマトペ-スト、トマトジュ-ス、ダイストマト、ホールトマト、これらを混合したものなどが挙げられる。また、本発明において、「トマトベース飲食品」とは、上記トマト加熱処理物を含有し、上記トマト加熱処理物に他の原料等を混合し、適宜調味して調製される飲食品をいう。尚、無調味のトマト加熱処理物(トマト加工品100%)も含まれる。
【0015】
本発明の「トマト加熱処理物」は、3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾール、又は、3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンを、特定の含有量及び含有比率で含有することを特徴とする。
【0016】
3-ヘキセノール(cis-3-hexen-1-ol(CAS番号:928-96-1))、2-イソブチルチアゾール(2-isobutylthiazol(CAS番号:18640-74-9)、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン(6-methyl-5-hepten-2-one(CAS番号:110-93-0))の3成分は、それぞれ単独では異なる匂いの質を有し、単独では家庭で手作り調理したような、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感を奏することはない。具体的には、3-ヘキセノールは、植物全般が有する青臭い匂いを有し、2-イソブチルチアゾールは、湿った土の匂いを有し、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンは、花のような甘い匂いを有する、トマトが本来含有する香気成分の内の一部である。
【0017】
トマトが本来有する香気成分については、上記以外の多種多様な成分があり、例えば、2-ヘキセナール(CAS番号:6728-26-3、植物の青臭い匂い)、3-ヘキセナール(CAS番号:6789-80-6、植物の甘い匂い)などが挙げられるが、これらの2成分の沸点がそれぞれ、146℃、126℃であるのに対して、3-ヘキセノールの沸点は157℃、2-イソブチルチアゾールの沸点は180℃、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの沸点は173℃とより高く、熱負荷に対して比較的安定な香気成分といえる。
【0018】
本発明において、「出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感」とは、家庭でトマト料理を手作り調理した際に感じられる、複雑な香気成分から奏される風味をいう。当該風味は、トマトサラダを食したときに感じられる、新鮮な生のトマト青果が有する、フレッシュ感やフルーティー感とは異なり、調理・加工直後のトマト料理の出来立ての風味である。ここで、トマト料理の種類としては、トマトを用いるものであれば特に限定はされないが、トマトパスタ、ミートソーススパゲティ、トマト煮込み、ロールキャベツ、ラタテュイユ、ミネストローネ、トマトリゾット、トマトドリア、トマトグラタン、トマトラザニア、トマトシチュー、トマトピザ等が挙げられる。
【0019】
前記出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感は、香気成分の3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの2成分によっても得られるが、さらに、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンを加えると、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感の質がより高くなり、好ましい。
【0020】
出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感を、3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの2成分で得る場合、本発明のトマト加熱処理物における2-イソブチルチアゾールの含有量と3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの含有比率を所定範囲に調整する。
【0021】
本発明のトマト加熱処理物中の2-イソブチルチアゾールの含有量は2.0ppb~1000ppbの範囲内であれば、目的とする出来立てのトマト料理の煮込み感が増強及び保持できるが、香りのバランスとコク味の観点から、好ましくは2.0ppb~200ppbの範囲内であり、より好ましくは5.0ppb~50ppbの範囲内である。2-イソブチルチアゾールの香りは他の香気成分に比べて比較的強く感じられ易く、香りの質も湿った土様の匂いである。よって、2-イソブチルチアゾールの含有量が1000ppbより高いと、トマト加熱処理物及びトマトベース飲食品において香りのバランスが崩れやすく、2-イソブチルチアゾールの含有量が2.0ppbより低いと、出来立てのトマト料理の煮込み感が増強及び保持できないので好ましくない。
【0022】
本発明のトマト加熱処理物中の2-イソブチルチアゾールの含有量が、2.0ppb~1000ppbであるとき、3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの含有比率は、質量比で1.0:1.5~1.0:25.2の範囲内であれば、目的とする出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感が得られるが、香りのバランスの観点から、好ましくは1.0:5.6~1.0:20.7の範囲内であり、より好ましくは1.0:10.0~1.0:15.3の範囲内であり、最も好ましくは、1.0:10.0~1.0:12.7の範囲内である。3-ヘキセノールに対する2-イソブチルチアゾールの含有比率が、上記含有比率の範囲よりも高いと、湿った土様の匂いが強すぎて香りのバランスを欠くので好ましくなく、また、3-ヘキセノールに対する2-イソブチルチアゾールの含有比率が、上記含有比率の範囲よりも低いと、青臭い匂いが強すぎて香りのバランスを欠くので好ましくない。
【0023】
出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感を、3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの3成分で得る場合、本発明のトマト加熱処理物における2-イソブチルチアゾールの含有量、3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの含有比率、及び3-ヘキセノールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの含有比率を所定範囲に調整する。
【0024】
この場合、トマト加熱処理物中の2-イソブチルチアゾールの含有量の範囲は前記のとおりである。また、トマト加熱処理物中の3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの含有比率は、質量比で1.0:1.5~1.0:10.0の範囲内であり、好ましくは1.0:5.6~1.0:10.0の範囲内であり、かつ、3-ヘキセノールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの含有比率は、質量比で1.0:2.0~1.0:15.0の範囲内であり、好ましくは1.0:4.0~1.0:15.0の範囲内である。
【0025】
すなわち、本発明のトマト加熱処理物における3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの含有比率は、質量比で1.0:1.5:2.0~1.0:10.0:15.0の範囲が好ましく、1.0:1.5:4.0~1.0:10.0:15.0の範囲内がより好ましい。3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの含有比率が上記範囲であると、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感のバランスがよく、かつ、他の呈味(例えば、トマトの旨み、酸味、甘味、苦味などの呈味や熟成感)と合わせた全体の風味が強く、好ましい。3-ヘキセノール又は2-イソブチルチアゾールに対する6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの含有比率が、上記含有比率の範囲よりも高いと、花のような甘い匂いが強すぎて、香りのバランスを欠き、違和感を感じるので好ましくなく、また、3-ヘキセノール又は2-イソブチルチアゾールに対する6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの含有比率が、上記含有比率の範囲よりも低いと、香りのバランスを欠き、好ましくない。
【0026】
本発明のトマト加熱処理物において、上記の2又は3の香気成分は、前記の所定の含有量及び含有比率の範囲内となるのに必要な量から、被添加物であるトマト加熱処理物における上記の2又は3の香気成分の含有量を差し引いた量を添加すればよい。
【0027】
本発明のトマト加熱処理物は、Brix6~34の範囲である。当該トマト加熱処理物を使用してトマトベース飲食品を調製する際の他の原料との混合の容易性やトマトベース飲食品への風味づけのバランスの観点から、前記Brixは、10~34の範囲が好ましく、10~20の範囲がより好ましい。尚、前記トマトベース飲食品のBrixは、トマト加熱処理物の使用量、あるいは、使用する加熱処理物の濃縮度によって適宜調整すれば良い。固形状のトマト加工品の場合は、これをペースト状にして、測定すれば良い。
【0028】
本発明における、トマト加熱処理物及びトマトベース飲食品の加熱殺菌処理条件は、70℃以上100℃以下、かつ、3分以上20分以下の範囲であれば良いが、この範囲を逸脱すると、前記香気成分の調整によって再現された、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感を再度失ってしまうこととなり、好ましくない。また、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感を再度失わないという観点から、トマト加熱処理物及びトマトベース飲食品の加熱殺菌処理条件は、70℃以上100℃以下、かつ、3分以上10分以下がより好ましい。
【0029】
本発明のトマトベース飲食品中のトマト加熱処理物の含有量は、20質量%~100質量%の範囲内であればよく、トマト加熱処理物のみ(100質量%)を使用することもできる。トマトベース飲食品中のトマト加熱処理物の含有量が20質量%未満であると、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感が感じにくくなり、好ましくない。尚、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感の強弱の調整、その他の好ましいトマト風味の強さ、及び/又は、他の呈味を付与する調味・具材の添加などによる風味・種類のバリエーションを調製する余地の観点から、トマトベース飲食品中のトマト加熱処理物の含有量は、40質量%~100質量%の範囲がより好ましく、60質量%~100質量%の範囲がさらに好ましい。
【0030】
本発明のトマトベース飲食品は、本発明の効果(出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感の増強及び保持、喫食時の嗜好性向上効果)を損なわない範囲で、上記のトマト加熱処理物のほか、トマトベース飲食品に通常用いられる一般的な原料や添加物を含有させてもよい。そのような原料及び添加物としては、例えば、食用油脂、エタノール含有物又はその煮切り物、酢酸含有物又はその煮切り物、香辛料、香味原料、具材、食塩、糖類(砂糖、果糖、ブドウ糖、水飴、異性化液糖等)、旨味調味料(たん白加水分解物、酵母エキス等)、アミノ酸系調味料(グリシン、アラニン、グルタミン酸ナトリウム等)、核酸系調味料(イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等)、増粘剤(キサンタンガム、ローカストビーンガム、カラギーナン等のガム類、小麦澱粉、トウモロコシ澱粉等の澱粉類等)、酸味料(クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸等)、酸化防止剤(トコフェロール、塩酸システイン等)、呈味改善剤(例えば、苦味抑制剤等)、pH調整剤、着色料などが挙げられる。これらの原料や添加物は、トマトベース飲食品の種類と目的とする品質に合わせて、その種類及び添加量を適宜調整すればよい。
【0031】
本発明において用いる「食用油脂」とは、植物を起源とする油脂、又は動物を起源とする油脂をいう。植物を起源とする油脂としては、例えば、亜麻仁油、アケビ油、アボカドオイル、アーモンドオイル、アルガンオイル、オリーブ油、カラシ油、キャノーラ油、胡桃油、クランベリーシードオイル、グレープシードオイル、けし油、小麦胚芽油、こめ油、コーン油、胡麻油、山茶花油、サフラワー油、紫蘇油、大豆油、茶油、椿油、菜種油、パーム油、パンプキンシードオイル、蓖麻子油、向日葵油、ピスタチオオイル、ピーナッツオイル、ヘーゼルナッツオイル、マカダミアナッツオイル、綿実油、椰子油などが挙げられる。また、動物を起源とする油脂としては、例えば、バター、牛脂、豚脂、羊脂、鶏油、魚油などが挙げられる。食用油脂は、常温で液体であるものは、固体~半固形状になるように水素添加加工してもよい。上記の食用油脂のうちの1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
本発明において用いる「エタノール含有物又はその煮切り物」としては、ワイン、シェリー酒、その他果汁由来の酒類、穀物由来の酒類、醸造アルコール、又は、これらを加熱して煮切り、エタノールを揮発させてエタノールを低減、あるいは除いたものが挙げられる。上記のエタノール含有物又はその煮切り物のうちの1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
本発明において用いる「酢酸含有物又はその煮切り物」としては、バルサミコ酢、ワイン酢、その他果汁由来の食酢類、穀物由来の食酢類、醸造アルコール由来の食酢類、中国酢、合成酢、又は、これらを加熱して煮切り、酢酸を揮発させて酢酸を低減、あるいは除いたものが挙げられる。上記の酢酸含有物又はその煮切り物のうちの1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
本発明において用いる「香辛料」とは、特有の香り、刺激的な呈味、色調を有し、香り付け、消臭、調味、着色等の目的で飲食品に配合する植物体の一部(植物の果実、果皮、花、蕾、樹皮、茎、葉、種子、根、地下茎など)をいい、香辛料にはスパイス又はハーブが含まれる。
【0035】
スパイスとは香辛料のうち、利用部位として茎と葉と花を除くものをいい、例えば、胡椒(黒胡椒、白胡椒、赤胡椒)、ニンニク、ショウガ、ごま(ごまの種子)、唐辛子、ホースラディシュ(西洋ワサビ)、マスタード、ケシノミ、ゆず、ナツメグ、シナモン、パプリカ、カルダモン、クミン、サフラン、オールスパイス、クローブ、山椒、オレンジピール、ウイキョウ、カンゾウ、フェネグリーク、ディルシード、カショウ、ロングペパー、オリーブの実などが挙げられる。また、ハーブとは香辛料のうち、茎と葉と花を利用するものをいい、例えば、クレソン、コリアンダー、シソ、セロリ、タラゴン、チャイブ、チャービル、セージ、タイム、ローレル、ニラ、パセリ、マスタードグリーン(からしな)、ミョウガ、ヨモギ、バジル、オレガノ、ローズマリー、ペパーミント、サボリー、レモングラス、ディル、ワサビ葉、山椒の葉など、が挙げられる。上記の香辛料のうちの1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
本発明において用いる「香味原料」は、植物性であっても動物性であってもよい。香味原料としては、例えば、上記のハーブ以外の香味野菜類(ブロッコリー、小松菜、カボチャ、ニンジン、玉ねぎ、ピーマン等)、種実類(アーモンド、ピーナッツ、松の実、トウモロコシ、ココナッツ、ダイズ等)、果実類(リンゴ、オリーブ、グレープフルーツ、すだち、パインアップル、ブドウ、マンゴー、モモ、ユズ、ミカン、ライム、レモン、カボス、ウメ等)、魚介類(イワシ、エビ、カニ、ホタテ、イカ、タコ、アサリ、カキ、ツナ、タラコ等)、畜肉類(牛肉、豚肉、鶏肉等)、乳類(牛乳、成分調整牛乳、加工乳等)、乳製品類(ヨーグルト、クリーム、チーズ、バター、バターミルク、ギー、乳清、濃縮ホエイ、アイスクリーム、濃縮乳、れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、乳発酵酒、乳脂、乳酸菌飲料、乳飲料、カゼイン等)、又はこれらの加工処理物が挙げられる。ここで、加工処理物とは、液状物、濃縮物、抽出物(エキス)、乾燥物、摩砕物(ペースト、ピューレ)、粒状物、粉状物などをいう。
【0037】
本発明のトマトベース飲食品には、トマト以外の具材を用いてよい。尚、ここでいう「具材」とは、前記した一般的な原料や添加物以外の、見た目や風味、食感のアクセント付けのために添加される、目視できる比較的大きいサイズの食品素材である。尚、その形状や加工については特に限定されない。本発明において用いる「具材」としては、穀類(白米、玄米、麦等)、野菜類(キャベツ、ほうれん草、白菜、小松菜、チンゲン菜等の葉菜、ニンジン、大根、玉ねぎ等の根菜、ピーマン、ナス等の果菜、アスパラガス、たけのこ等の茎菜、ブロッコリー、カリフラワー等の花菜)、種実類(アーモンド、ピーナッツ、松の実、トウモロコシ、ココナッツ、ダイズ等)、きのこ類(しめじ、しいたけ、マッシュルーム、エリンギ、マイタケ等)、果実類(リンゴ、パイナップル、イチゴ、モモ、パパイヤ、マンゴー等)、キノコ類(しめじ、しいたけ、マッシュルーム、エリンギ、マイタケ等)、豆類(大豆、えんどう豆、レンズ豆、ひよこ豆、エジプト豆等)、魚介類(イカ、エビ、アサリ、ホタテ、ムール貝等)、畜肉類又は畜肉加工品(牛肉、鶏肉、豚肉、ハム、ベーコン、ソーセージ等)、海藻類(ひじき、わかめ、昆布等)、卵類、乳由来食品類や、その加工品類が挙げられる。上記の食品具材のうちの1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
さらに、上記の食用油脂、エタノール含有物又はその煮切り物、酢酸含有物又はその煮切り物、具材、香辛料、香味原料のうちの1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
また、本発明のトマトベース飲食品の種類としては、トマトをベースとして使用する飲食品であれば特に限定はされないが、例えば、パスタソース、ピザソース、サルサソース、カレー、シチュー、ジュース、スープ、ラグマン、ケチャップ、チリソース、バーベキューソース、ディップソース、スプレッド、ドレッシングなどが挙げられる。
【0040】
2.トマト加熱処理物又はトマトベース飲食品の製造方法
本発明のトマト加熱処理物又はトマトベース飲食品の製造方法は、原料トマトを破砕又は磨砕処理した後、加熱処理してトマト加熱処理物を調製する工程と、該トマト加熱処理物中の香気成分の含有量及び含有比率を調整する工程を含む。上記トマト加熱処理物は、トマトの破砕物や磨砕物を加熱濃縮するか、又は、トマトの破砕物や磨砕物を濃縮しないまま加熱殺菌処理するか、又は、トマト組織の崩壊を抑え、固形の状態(例えばダイス状の形態)を保つために酵素を失活(トマト由来のペクチナーゼの失活)させるために加熱処理することにより調製できる。尚、上記加熱処理が複数組み合わされる場合も含まれる。
【0041】
原料トマトとしては、トマト全果、果皮を除いた果実、果皮及び種子を除いた果肉、果皮、種子、及び、果汁のいずれであっても良い。また、これらの2種以上を組み合わせることもできる。また、これらを別々に使用し、後に処理物を混合することもできる。
【0042】
上記の加熱濃縮、好ましくは減圧加熱濃縮は、通常の真空蒸発濃縮機等の装置を用いて公知の方法で行えばよく、条件は、40~100℃にて10~500分が挙げられる。
上記の加熱殺菌処理は、通常のバッチ式加熱殺菌機等の装置を用いて公知の方法で行えばよく、条件は、70℃以上100℃以下、かつ、3分以上20分以下の範囲であれば良い。また、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感を再度失わないという観点から、70℃以上100℃以下、かつ、3分以上10分以下がより好ましい。上記の酵素失活処理は、通常のバッチ式加熱処理機等の装置を用いて公知の方法で行なえばよく、条件は、60~100℃にて3~30分が挙げられる。
【0043】
トマト加熱処理物中の香気成分(2-イソブチルチアゾールと3-ヘキセノールの2成分、又は、2-イソブチルチアゾールと3-ヘキセノールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの3成分)の含有量及び含有比率の範囲は前記のとおりである。また、その範囲は、各項目の説明において記載した理由によって、好ましい範囲、より好ましい範囲等が存在するが、これらの範囲もまた前記と同じである。
【0044】
本発明において、前記香気成分の含有量及び含有比率を調整するための方法は、トマト加熱処理物、及びトマト加熱処理物を含有するトマトベース飲食品の風味に違和感を生じることがなく、通常の製造ラインで採用できるものであれば、特にその方法は問わない。例えば、(i)前記香気成分をトマト加熱処理物に添加する方法(図2図7図8)、(ii)前記香気成分を含有する香料をトマト加熱処理物に添加する方法 (図3)、(iii)前記香気成分を含有する食品素材をトマト加熱処理物に添加する方法(図4)、(iv)未濃縮トマト(加熱濃縮工程なし)又は低濃縮トマトをトマト加熱処理物に混合する方法(図5)、(v)原料トマトとして前記香気成分含量の高いトマト品種及び/又は未熟果を使用する方法(図6)が挙げられるが、これらに限定はされない。また、上記方法のいずれか1種を用いてよく、2種以上を組み合わせてもよい。(i)又は(ii)において、前記の2又は3の香気成分は、前記の所定の含有量及び含有比率の範囲内になるのに必要な量から、被添加物であるトマト加熱処理物における当該香気成分の含有量を差し引いた量を添加すればよい。
【0045】
本発明のトマト加熱処理物又はトマトベース飲食品の製造方法において、香気成分、香気成分を含有する香料、香気成分を含有する食品素材の添加は、トマト加熱処理物の製造工程では、加熱処理工程後のトマト加熱処理物に対して行えばよく、トマトベース飲食品の製造工程では、他の原料及び添加物と混合と同時又は混合後のトマト加熱処理物に対して行えばよい。(iii)において、「食品素材」の例としては、ナス科の野菜類(一例として3-ヘキセノールや、2-イソブチルチアゾール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンを多量に含むピーマンやパプリカなど)や、その加工品(ジュースやペーストなど)などが挙げられる。(iv)において、「未濃縮トマト」とは、トマト破砕物又は磨砕物を加熱濃縮していないトマト加工品、「低濃縮トマト」とは、トマト破砕物又は磨砕物を香気成分が揮散しにくい高温(例えば、95℃程度)かつ極短時間(例えば、5分程度)で加熱濃縮して得られるトマト濃縮物をいう。(v)において、未熟(熟度が低い)トマトは、3-ヘキセノールを多く含み、完熟トマトは、3-ヘキセノールに対して2-イソブチルチアゾールを多く含み、これらの原料特性を利用することができる。また、これら香気成分含量の高いトマト品種があれば、これを選択あるいは育種して使用すればよい。
【0046】
本発明の上記製造方法において、トマト加熱処理物又はトマトベース飲食品のBrixの調整工程の条件、及び、加熱殺菌工程の条件としては、前記の通りであるが、前記各範囲は、各項目の説明において記載した理由によって、好ましい範囲、より好ましい範囲等が存在するが、これら範囲は前記と同じである。
【0047】
3.トマト加熱処理物又はトマトベース飲食品における出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感を増強及び保持する方法
上記のトマト加熱処理物又はトマトベース飲食品の製造方法は、トマト加熱処理物又は該トマト加熱処理物を含有するトマトベース飲食品における出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感を増強及び保持することできる。よって、本発明の別の側面によれば、トマト加熱処理物中の香気成分の含有量及び含有比率を調整することによって、該トマト加熱処理物又は該トマト加熱処理物を含有するトマトベース飲食品における出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感を増強及び保持する方法が提供される。当該方法において調整する香気成分、その含有量及び含有比率の範囲、及びその調整方法は前記のトマト加熱処理物又はトマトベース飲食品の製造方法と同じである。また、トマト加熱処理物又はトマトベース飲食品のBrixの調整工程の条件、及び、加熱殺菌工程の条件もまた、前記のトマト加熱処理物又はトマトベース飲食品の製造方法と同じである。
【実施例
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(参考例)トマト加熱処理物に含まれる香気成分の測定方法
試料溶液5mLをバイアルに入れて、その中に塩化ナトリウムを1.5g加え、TWISTER(GERSTEL社製、100%ポリジメチルシロキサン〔PDMS〕をコーティングさせた攪拌子、膜厚0.5mm、長さ10mm)を1本入れて蓋をし、室温で60分間攪拌して、香気成分を吸着させた。
【0050】
次いで、TWISTERをバイアルから取り出し、純水で充分に洗浄した後、紙ウェスを用いて水分を拭き取った。そして、水分を拭き取ったTWISTERを加熱脱着システム(型式MPS―TDS、GERSTEL社製)にセットし、GC/MSシステムに導入し、分析に供した。
【0051】
GC/MS分析は下記の条件で行った。
測定機器:Agilent Technologies社製、型式5975C MSD、カラム:InertCap WAX (ジーエルサイエンス社製、60M×0.25mmI.D.×0.25μmdf)。
温度プログラム:50℃で5分保持後、2℃/分の速度で230℃まで昇温。注入モード:ソルベントベントモード。キャリアガス:ヘリウム、流速1.8mL/分。スキャンモード: EI 70eV。
【0052】
3-ヘキセノールはRT(retention time)約28.2分で検出され、m/z 値41.0のイオン面積を定量イオンとして用いた。2-イソブチルチアゾールはRT約29.2分で検出され、m/z 値99.0のイオン面積を定量イオンとして用いた。6-メチル-5-ヘプテン-2-オンはRT約26.7分で検出され、m/z値43.0のイオン面積を定量イオンとして用いた。
【0053】
各香気成分含有量(質量濃度)の定量は、3-ヘキセノール、2-イソブチルチアゾール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンそれぞれについて、無水エタノールを用い、1ppb、10ppb、25ppbの含有量(質量濃度)に調整した標品を作製し、前記試料溶液と同様の操作を行い、前記方法と同様に測定した。
【0054】
一方で、この測定結果を基に、各香気成分の含有量(質量濃度)とイオン面積比の関係を求めた。結果、一例として、3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの含有量(質量濃度)が、1.5ppb:1.5ppb:9.95ppbのとき、イオン面積比は、1.0:5.6:15.0になることがわかった。これを、各香気成分の含有比率(質量比)として定義した。
【0055】
(実施例1)加熱により失われた出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感を付与できる香気成分の選抜
図1に示す従来法の製造工程に従い、トマト原料を破砕し、加熱濃縮(温度100℃、時間120分)を行って、トマト濃縮物(Brix30に調整)(以下、「従来法によるトマト濃縮物」という)を調製した。このトマト濃縮物(加熱濃縮工程あり)は出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感が明らかに損なわれていた。このトマト濃縮物について、参考例に示した測定方法によって、香気成分分析を行った。
【0056】
対照として、同品種のトマト原料を使用し、同様に破砕し、その後の加熱濃縮を行なわないトマト破砕物(Brix6)を調製した。このトマト破砕物は加熱濃縮工程がなく、風味は薄いものの、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感に相等する潤沢な風味を十分に奏していた。このトマト破砕物について、参考例に示した測定方法によって、香気成分分析を行った。
【0057】
上記の従来法によるトマト濃縮物(加熱濃縮工程あり)の香気成分分析結果を図9に、トマト破砕物(加熱濃縮工程なし)の香気成分分析結果を図10に示す。図9図10の香気成分組成の差異から、加熱により多くの香気成分が失われていたことがわかるが、3-ヘキセノール、2-イソブチルチアゾール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの3成分については、加熱濃縮を行わないトマト破砕物(加熱濃縮工程なし)よりもトマト濃縮物(加熱濃縮工程あり)のほうが少ないものの、僅かに残存しており、加熱耐性が比較的高いことが確認できた。
【0058】
以上の試験結果から、加熱耐性が比較的高い、3-ヘキセノール、2-イソブチルチアゾール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの3成分を、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感を付与できる候補成分として選抜した。尚、ここでは、トマト加熱処理物の一例として、トマト濃縮物を用いて検証したが、トマト殺菌処理物及びトマト酵素失活処理物でも同じ結果であった。
【0059】
(実施例2)2-イソブチルチアゾールの含有量の範囲の検討
(1)試験品の調製
実施例1で選抜した3-ヘキセノール、2-イソブチルチアゾール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンは、順に、青臭い匂い、湿った土の匂い、花のような甘い匂いを有する。
【0060】
したがって、トマト加熱処理物の、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感に対する影響が大きい香気成分は、最も異質な臭いを有する2-イソブチルチアゾールであると考え、その添加効果を調べたところ、2-イソブチルチアゾールは、出来立てのトマト料理のフレッシュ感よりも、煮込み感を奏する匂いの質を有していた。
【0061】
そこで、本実施例では、出来立てのトマト料理のフレッシュ感をマスキングする可能性があると考えられた、トマト加熱処理物中に含まれる2-イソブチルチアゾールの適切な含有量の範囲の検討を行なった。
【0062】
トマト加熱処理物の一例として、従来法によるトマト濃縮物(Brix34に調整)を適宜水で希釈して使用した。これに、2-イソブチルチアゾールの試薬を濃度を変えて添加し、試験品を調製した。尚、従来法によるトマト濃縮物(Brix34)中の2-イソブチルチアゾール添加前の2-イソブチルチアゾール含有量は、1.5ppbであった。よって、2-イソブチルチアゾールは、添加後の含有量が、表1に示す含有量となるように、その差分を試験品に添加した(試験No.1~10)。
【0063】
(2)官能評価
(1)で調製した各試験品を以下の基準で評価した。評価は、専門のパネラーのべ5名によって次の基準により行った。評価は複数回実施した。
【0064】
評価基準(出来立てのトマト料理の煮込み感)
A:出来立てのトマト料理の煮込み感を強く感じる。
B:出来立てのトマト料理の煮込み感を感じる。
C:出来立てのトマト料理の煮込み感をやや感じる。
D:出来立てのトマト料理の煮込み感をあまり感じない。
E:出来立てのトマト料理の煮込み感を感じない。
【0065】
結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示されるように、2-イソブチルチアゾールのトマト濃縮物中の含有量が、2.0ppb~1000ppbの範囲内の試験品は、違和感がなく、出来立てのトマト料理の煮込み感を有していた(試験No.2~No.No.9)。さらに、出来立ての煮込み感の質の好ましさの観点から、2-イソブチルチアゾールの含有量は、2.0ppb~200ppbの範囲が好ましく(試験No.2~No.No.7)、5.0ppb~50ppbの範囲がより好ましいことが分かった(試験No.4~No.No.6)。これに対し、2-イソブチルチアゾールのトマト濃縮物中の含有量が上記範囲にない試験品は、煮込み感が弱く、また異質な臭いが生じた(試験No.1、試験No.10)。
【0068】
(実施例3)3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの含有比率の検討
(1)試験品の調製
トマト加熱処理物の一例として、従来法によるトマト濃縮物(Brix34に調整)を使用し、実施例1で選抜した3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの2成分の含有比率を変化させて、試験品を調製した。上記2成分の含有比率の調整前のトマト濃縮物(Brix34)中の含有量は、実施例2の結果をふまえて2-イソブチルチアゾールを32.1ppbとし、3-ヘキセノールを150ppbとした。この場合の含有比率(質量比)は、3-ヘキセノール:2-イソブチルチアゾール=1.0:1.2であった。3-ヘキセノール及び2-イソブチルチアゾールは、添加後の含有量が、表2に示す含有量となるように、その差分をそれぞれ試験品に添加した(試験No.11~20)。
【0069】
(2)官能評価
(1)で調製した各試験品を以下の基準で評価した。評価は、専門のパネラーのべ5名によって次の基準により行った。評価は複数回実施した。
【0070】
評価基準1(出来立てのトマト料理のフレッシュ感)
A:出来立てのトマト料理のフレッシュ感を強く感じる。
B:出来立てのトマト料理のフレッシュ感を感じる。
C:出来立てのトマト料理のフレッシュ感をやや感じる。
D:出来立てのトマト料理のフレッシュ感をあまり感じない。
E:出来立てのトマト料理のフレッシュ感を感じない。
【0071】
評価基準2(出来立てのトマト料理の煮込み感)
A:出来立てのトマト料理の煮込み感を強く感じる。
B:出来立てのトマト料理の煮込み感を感じる。
C:出来立てのトマト料理の煮込み感をやや感じる。
D:出来立てのトマト料理の煮込み感をあまり感じない。
E:出来立てのトマト料理の煮込み感を感じない。
【0072】
評価基準3(総合的な手作り感:出来立てのトマト料理のフレッシュ感と煮込み感のバランス)
A:総合的な手作り感を強く感じる。
B:総合的な手作り感を感じる。
C:総合的な手作り感やや感じる。
D:総合的な手作り感をあまり感じない。
E:総合的な手作り感を感じない。
【0073】
結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示されるように、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感は、3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの含有比率(質量比)が1.0:1.5~1.0:25.2の範囲内であるときに得られた(試験No.12~19)。さらに、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感の質の好ましさの観点から、前記2成分の含有比率(質量比)は1.0:5.6~1.0:20.7の範囲が好ましく(試験No.13~18)、1.0:10.0~1.0:15.3の範囲がより好ましく(試験No.14~16)、1.0:10.0~1.0:12.7の範囲が特に好ましいことが分かった(試験No.14、15)。これに対し、3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの含有比率が上記範囲外であると、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感が弱く、あるいは両者のバランスが悪かった(試験No.11、20)。
【0076】
(実施例4)3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの含有比率の検討
(1)試験品の調製
トマト加熱処理物の一例として、従来法によるトマト濃縮物(Brix34に調整)を使用し、実施例1で選抜した3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの3成分の含有比率を変化させて、試験品を調製した。上記3成分の含有比率の調整前のトマト濃縮物(Brix34)中の含有量は、3-ヘキセノールが150ppbであり、2-イソブチルチアゾールが32.1ppbであり、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンが、225ppbであった。この場合の含有比率(質量比)は、3-ヘキセノール:2-イソブチルチアゾール:6-メチル-5-ヘプテン-2-オン=1.0:1.2:3.4であった。3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンは、添加後の含有量が、表3-1及び表3-2に示す含有量となるように、その差分をそれぞれ試験品に添加した(試験No.21~36)。
【0077】
本実施例では、トマト加熱処理物を用いたトマトベース飲食品の一例として、飲食品につけたり、かけたり、混ぜ合わせたりして使用できる汎用トマトソースを調製して評価に用いた。汎用トマトソースは、トマト濃縮物90質量%に、オリーブオイル8.8質量%、食塩1質量%、ガーリック粉末0.1質量%、コショウ粉末0.1質量%を加えて、100質量%とすることによって調製した。
【0078】
(2)官能評価
(1)で調製した各試験品(汎用トマトソース)について、実施例3と同様に評価した。
【0079】
結果を表3-1及び表3-2に示す。
【0080】
【表3-1】
【0081】
【表3-2】
【0082】
表3-1及び表3-2に示されるように、3-ヘキセノール、2-イソブチルチアゾール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンから構成される、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感は、3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの含有比率(質量比)が、1.0:1.5~1.0:10.0の範囲内であり、かつ3-ヘキセノールと6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの含有比率(質量比)が1.0:2.0~1.0:15.0の範囲内であると、実施例3の3-ヘキセノールと2-イソブチルチアゾールの2成分のみの場合よりも、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感がより効果的に増強できることが分かった(試験No.23、24、25、27、28、29、31、32、33)。また、風味全体の観点から、4.0~15.0の範囲内であればより好ましいことが分かった(試験No.24、25、28、29、32、33)。これらの結果から、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感の質の好ましさの観点から、3-ヘキセノール、2-イソブチルチアゾール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの3成分の含有比率(質量比)は、1.0:1.5:2.0~1.0:10.0:15.0の範囲が好ましく(試験No.23、24、25、27、28、29、31、32、33)、1.0:1.5:4.0~1.0:10.0:15.0の範囲がより好ましいことが分かった(試験No.24、25、28、29、32、33)。これに対し、上記3成分の含有比率が上記範囲外であると、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感が弱く、あるいは両者のバランスが悪かった(試験No.21、22、26、30、34、35、36)。さらに、油脂や調味料、香辛料を添加した汎用トマトソースであっても、上記の効果に対する影響がないことも確認できた。
【0083】
(実施例5)トマト加熱処理物のBrix適性範囲の検討
(1)試験品の調製
トマト加熱処理物の一例として、従来法によるトマト濃縮物(Brix34に調整)を使用し、Brixを変化させて、試験品を調製した。Brix調整前のトマト濃縮物(Brix34)に、3-ヘキセノール、2-イソブチルチアゾール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンを、実施例4の結果に基づき、含有比率(質量比)が1.0:5.6:15.0になるように添加した。尚、この時のトマト濃縮物中の各成分の含有量は、3-ヘキセノールが150ppbであり、2-イソブチルチアゾールが150ppbであり、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンが、995ppbであった。このトマト濃縮物(Brix34)に加水、希釈し、塩分濃度が1%になるように加塩し、味が一定になるように調整することにより、Brixのみが異なる試験品を調製した(試験No.37~42)。
【0084】
(2)官能評価
(1)で調製した各試験品について、実施例3と同様に評価した。
【0085】
結果を表4に示す。
【0086】
【表4】
【0087】
表4に示されるように、トマト濃縮物のBrixの範囲が6~34において、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感が増強され、嗜好性が向上した(試験No.38~42)。さらに、前記トマト濃縮物に付与した香りの感じ易さの観点から、トマト濃縮物のBrixは、10~34の範囲が好ましく(試験No.39~42)、10~20の範囲がより好ましいことが分かった(試験No.39、40)。これに対し、Brix値が上記範囲外であると、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感が弱く、あるいは両者のバランスが悪かった(試験No.37)。
【0088】
(実施例6)トマトベース飲食品の加熱殺菌による影響
(1)試験品の調製
実施例5と同様にして調製したトマト濃縮物(3-ヘキセノール:2-イソブチルチアゾール:6-メチル-5-ヘプテン-2-オン=1.0:5.6:15.0(含有比率(質量比)、3-ヘキセノール含有量150ppb、2-イソブチルチアゾール含有量150ppb、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン含有量995ppb、Brix34に調整)を使用し、実施例5の結果に基づき、Brixを20に調整した。
【0089】
上記トマト濃縮物90質量%に、オリーブオイル8.8質量%、食塩1質量%、ガーリック粉末0.1質量%、コショウ粉末0.1質量%を加えて、100質量%とし、飲食品につけたり、かけたり、混ぜ合わせたりして使用できる汎用トマトソースを調製した。調製した汎用トマトソースを各種条件で加熱殺菌し、水冷し、常温に戻し、加熱殺菌処理条件の異なる試験品を調製した(試験No.43~50)。
【0090】
(2)官能評価
(1)で調製した各試験品(汎用トマトソース)について、実施例3と同様に評価した。
【0091】
結果を表5に示す。
【0092】
【表5】
【0093】
表5に示されるように、前記のとおり香気成分を添加して付与された出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感を失わないための加熱殺菌処理条件としては、70℃以上100℃以下、かつ、3分以上20分以下の範囲であれば良いことが分かった(試験No.43、44、45、47、48、49)。また、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感をより失わないという観点から、加熱殺菌処理条件は、70℃以上100℃以下、かつ、3分以上10分以下がより好ましいことが分かった(試験No.43、44、47)。これに対し、加熱殺菌処理条件が上記範囲でないと、香りが飛散し、フレッシュ感が失われた(試験No.46、50)。
【0094】
(実施例7)トマトベース飲食品のトマト加熱処理物含有量の適性範囲の検討
(1)試験品の調製
実施例5と同様にして調製したトマト濃縮物(3-ヘキセノール:2-イソブチルチアゾール:6-メチル-5-ヘプテン-2-オン=1.0:5.6:15.0(含有比率(質量比)、3-ヘキセノール含有量150ppb、2-イソブチルチアゾール含有量150ppb、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン含有量995ppb、Brix34に調整)を使用し、実施例5の結果に基づき、Brixを20に調整した。
【0095】
このトマト濃縮物を用いてトマトベース飲食品の一例としてトマトベース地中海風パスタソースを以下のとおり調製した。
【0096】
上記のトマト濃縮物とは別に、エタノール含有物又はその煮切り物として、赤ワイン10質量部、酢酸含有物又はその煮切り物としてバルサミコ酢5質量部、食品具材として細断したアンチョビペースト10質量部、香辛料として黒胡椒5質量部、香味原料として細断したオリーブ10質量部、食塩5質量部、砂糖3質量部、核酸系調味料2質量部を、オリーブ油に混合して100質量部とした風味付与調味油脂を調製し、上記トマト濃縮物と表6に示した割合で混合し、トマト濃縮物の含有量が異なる各種パスタソースを調製した(試験No.51~57)。調製したトマトベース地中海風パスタソースを、実施例6の結果に基づき、80℃5分で加熱殺菌し、水冷し、常温に戻したものをゆでたパスタと合わせた。
【0097】
(2)官能評価
(1)で調製した各試験品について、実施例3と同様に評価した。
【0098】
結果を表6に示す。
【0099】
【表6】
【0100】
表6に示されるように、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感は、トマトパスタソース中のトマト濃縮物の含有量が、20質量%~100質量%の範囲内で得られた(試験No.53~57)。また、フレッシュ感及び煮込み感の強さとパスタソースとしての風味の好ましさの観点から、40質量%~100質量%がより好ましく(試験No.54~57)、60質量%~100質量%がさらに好ましいことが分かった(試験No.55~57)。一方、トマトパスタソース中のトマト濃縮物の含有量が上記範囲でないと、トマト風味が弱く、または感じられなかった(試験No.51、52)。
【0101】
(実施例8)各種製造方法による出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感の増強効果
(1)試験品の調製
トマト加熱処理物の一例として、従来法によるトマト濃縮物(Brixは34に調整)を用い、実施例4の結果に基づき、トマト濃縮物中の3-ヘキセノール、2-イソブチルチアゾール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの各成分の含有比率(質量比)を1.0:5.6:15.0になるように、各香気成分をトマト濃縮物に添加する方法(図2)、各香気成分を含有する香料をトマト濃縮物に添加する方法(図3)、各香気成分を含有する食品素材をトマト濃縮物に添加する方法(図4)、低濃縮トマトをトマト濃縮物に混合する方法 (図5)にて試験品を調製した(試験No.59~62)。また、比較として従来法(図1)の製造工程によってトマト濃縮物を調製した(試験No.58)。
【0102】
香気成分を含有する香料をトマト濃縮物に添加する方法(図3)では、香気成分をエタノールに溶解したものを使用した。香気成分を含有する食品素材をトマト濃縮物に添加する方法(図4)では、食品素材としてトマト缶詰及びパプリカを使用した。低濃縮トマトをトマト濃縮物に混合する方法 (図5)では、低濃縮トマトとして、Brix9の低濃縮トマトペーストを使用した。
【0103】
(2)官能評価
(1)で調製した各試験品について、実施例3と同様に評価した。
【0104】
結果を表7に示す。
【0105】
【表7】
【0106】
表7に示されるように、図1の従来法によるトマト濃縮物に対して(試験No.58)、図2図5の各方法によって製造したトマト濃縮物(試験No.59~62)は、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感が付与され、嗜好性が向上された品質になることが実証された。なお、図6の原料トマトとして香気成分含量の高いトマト品種及び/又は未熟果を使用する方法については、実証試験を行なわなかったが、図4の香気成分を含有する食品素材を添加する方法において本発明の効果が奏されていることから、より容易に本発明の効果を奏するトマト濃縮物が調製できることは明らかである。
【0107】
(実施例9)出来立てフレッシュ感及び煮込み感の保持性
(1)試験品の調製
トマト加熱処理物の一例として、従来法によるトマト濃縮物(Brix34に調整)に、3-ヘキセノール、2-イソブチルチアゾール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの各成分及び他の香気成分を含む香料を添加したトマト濃縮物を調製した。このトマト濃縮物中の3-ヘキセノール、2-イソブチルチアゾール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの各成分の含有比率(質量比)は1.0:1.5:4.0であった。
【0108】
上記従来法によるトマト濃縮物(Brix34)又は上記の香気成分を添加したトマト濃縮物を40質量部、乾燥タマネギを5質量部、乾燥ニンニクを0.5質量部、乾燥バジルを0.4質量部、コショウ粉末を0.1質量部、オリーブオイルを4質量部、水を50質量部加えて汎用トマトパスタソースを調製した。
【0109】
調製したパスタソース(従来法のトマト濃縮物又は香気成分を添加したトマト濃縮物を使用)を、実施例6の結果に基づき、95℃10分で加熱殺菌し、常温に戻した後、40℃で25日間又は35日間保存し、保存条件の異なる試験品のパスタソースを調製した(試験No.63~65)。なお、40℃25日間の保存は、常温では4ヶ月間の保存に相当し、40℃35日間の保存は、常温6ヶ月の保存に相当する。
【0110】
(2)官能評価
(1)で調製した各試験品について、実施例3と同様に評価した。
【0111】
結果を表8に示す。
【0112】
【表8】
【0113】
表8に示すように、香気成分を添加したトマト濃縮物を用いて調製したパスタソースは、当初から出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感が強いばかりでなく、経時的にもその効果が変化し難いことがわかった。これに対し、従来法によるトマト濃縮物を用いて調製したパスタソースは、保存時間の経過と共に、単調な風味となり、出来立てのトマト料理のフレッシュ感及び煮込み感が弱くなる傾向を示した。よって、本発明のパスタソースは、実際の製造販売の環境下でも、その品質を長期にわたって十分に保持できることが実証された。
【0114】
以上の実施例において、トマト加熱処理物の一例として「トマト濃縮物」を選択し、各評価試験を行なったが、同様に加熱処理が施される、殺菌処理及び酵素失活処理を施された、トマト加熱処理物についても、加熱処理の程度によってその影響度に差はあるものの、加熱によるトマト風味への影響と、香気成分の添加による本発明の作用効果の奏効の点において、何ら変わるところはないことは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、トマト加熱処理物及びトマトベース飲食品の製造分野において利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10