(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の製造方法及び電波吸収体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/34 20060101AFI20220511BHJP
H01F 1/37 20060101ALI20220511BHJP
H01F 1/10 20060101ALI20220511BHJP
H01F 1/113 20060101ALI20220511BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
H01F1/34 180
H01F1/37
H01F1/10
H01F1/113
H05K9/00 M
(21)【出願番号】P 2020540047
(86)(22)【出願日】2019-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2019016009
(87)【国際公開番号】W WO2020044649
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2018159194
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 浩一
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-000707(JP,A)
【文献】特開2007-250823(JP,A)
【文献】特開平11-354972(JP,A)
【文献】特開2011-093762(JP,A)
【文献】特開2011-207732(JP,A)
【文献】特開2015-127985(JP,A)
【文献】特開平07-172839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/34
H01F 1/37
H01F 1/10
H01F 1/113
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表される化合物の粒子の集合体であるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の製造方法であり、
Fe塩と、Al塩と、Sr塩、Ba塩、Ca塩、及びPb塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素の塩と、を含む水溶液のpHを8.0超に調整して反応生成物を得る工程Aと、
前記工程Aにて得られた前記反応生成物を乾燥して乾燥物を得る工程Bと、
前記工程Bにて得られた前記乾燥物を焼成して焼成物を得る工程Cと、
を含
み、
前記工程Aでは、前記水溶液の液温が15℃以上40℃以下であるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の製造方法。
【化1】
式(1)中、Aは、Sr、Ba、Ca、及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を表し、xは、1.5≦x≦8.0を満たす。
【請求項2】
前記工程Aでは、前記水溶液のpHを9.0以上に調整して反応生成物を得る請求項1に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の製造方法。
【請求項3】
前記式(1)におけるxが、1.5≦x≦3.0を満たす請求項1
又は請求項2に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の製造方法。
【請求項4】
請求項1~請求項
3のいずれか1項に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の製造方法により、マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を得る工程Iと、
前記工程Iにて得られた前記マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体と、バインダーと、を含む電波吸収体用組成物を用いて、成形体を形成する工程IIと、
を含む電波吸収体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の製造方法及び電波吸収体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子料金収受システム(ETC:Electronic Toll Collection System)、走行支援道路システム(AHS:Advanced Cruise-Assist Highway Systems)、衛星放送等、高周波数帯域における電波の利用形態の多様化に伴い、電波干渉による電子機器の誤作動、故障等が問題となっている。このような電波干渉が電子機器へ与える影響を低減するため、電波吸収体に不要な電波を吸収させ、電波の反射を防止することが行われている。
【0003】
電波吸収体としては、磁性体を使用したものが多用されている。磁性体を含む電波吸収体に入射した電波は、磁性体の中に磁場を発生させる。その発生した磁場が電波のエネルギーに還元される際、一部のエネルギーが失われて吸収される。そのため、磁性体を含む電波吸収体では、使用する磁性体の種類によって効果を奏する周波数帯域が異なる。
【0004】
例えば、特許第4674380号公報には、組成式AFe(12-x)AlxO19、但し、AはSr、Ba、Ca及びPbの1種以上、x:1.0~2.2、で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体において、レーザ回折散乱粒度分布のピーク粒径が10μm以上である電波吸収体用磁性粉体が記載されている。特許第4674380号公報に記載の電波吸収体用磁性粉体によれば、76GHz付近で優れた電波吸収性能を呈するとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の情報通信技術の急速な発展に伴い、電波の利用形態は、益々多様化するものと思われる。そのため、様々な周波数の電波に対応する観点から、ターゲットの周波数帯域において、優れた電波吸収性能を示し得る電波吸収体の開発が望まれる。
本発明者は、電波吸収体に好適な磁性体として、鉄の一部がアルミニウムに置換されたマグネトプランバイト型六方晶フェライト(以下、単に「マグネトプランバイト型六方晶フェライト」ともいう。)に着目した。しかし、マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を用いた電波吸収体では、ターゲットの周波数帯域にマグネトプランバイト型六方晶フェライトのピーク周波数を合わせることは非常に困難である。
【0006】
上述の点に関し、特許第4674380号公報では、ターゲットの周波数帯域にマグネトプランバイト型六方晶フェライトのピーク周波数を合わせることについては、何ら言及していない。
【0007】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、所望のピーク周波数を有するマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を製造できるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の製造方法、及び、電波吸収体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 下記の式(1)で表される化合物の粒子の集合体であるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の製造方法であり、
Fe塩と、Al塩と、Sr塩、Ba塩、Ca塩、及びPb塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素の塩と、を含む水溶液のpHを8.0超に調整して反応生成物を得る工程Aと、
上記工程Aにて得られた上記反応生成物を乾燥して乾燥物を得る工程Bと、
上記工程Bにて得られた上記乾燥物を焼成して焼成物を得る工程Cと、
を含むマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の製造方法。
【0009】
【0010】
式(1)中、Aは、Sr、Ba、Ca、及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を表し、xは、1.5≦x≦8.0を満たす。
【0011】
<2> 上記工程Aでは、上記水溶液のpHを9.0以上に調整して反応生成物を得る<1>に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の製造方法。
<3> 上記工程Aでは、上記水溶液の液温が15℃以上40℃以下である<1>又は<2>に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の製造方法。
<4> 上記式(1)におけるxが、1.5≦x≦3.0を満たす<1>~<3>のいずれか1つに記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の製造方法。
【0012】
<5> <1>~<4>のいずれか1つに記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の製造方法により、マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を得る工程Iと、
上記工程Iにて得られた上記マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体と、バインダーと、を含む電波吸収体用組成物を用いて、成形体を形成する工程IIと、
を含む電波吸収体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態によれば、所望のピーク周波数を有するマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を製造できるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の製造方法、及び、電波吸収体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例における式(1)中のxの値と透磁率μ''のピーク周波数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用したマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の製造方法の実施形態の一例について説明する。
但し、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜、変更を加えて実施できる。
【0016】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
【0017】
本開示において、「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。
【0018】
[マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の製造方法]
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体(以下、「マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体」ともいう。)の製造方法は、下記の式(1)で表される化合物の粒子の集合体であるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の製造方法であり、Fe塩と、Al塩と、Sr塩、Ba塩、Ca塩、及びPb塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素(以下、「特定金属元素」ともいう。)の塩と、を含む水溶液(以下、「原料水溶液」ともいう。)のpHを8.0超に調整して反応生成物を得る工程Aと、工程Aにて得られた反応生成物を乾燥して乾燥物を得る工程Bと、工程Bにて得られた乾燥物を焼成して焼成物を得る工程Cと、を含む。
以下、「本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の製造方法」を「本開示の製造方法」ともいう。
工程A、工程B、及び工程Cは、それぞれ2段階以上に分かれていてもよい。また、本開示の製造方法は、発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、工程A、工程B、及び工程C以外の工程を含んでいてもよい。
【0019】
【0020】
式(1)中、Aは、Sr、Ba、Ca、及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を表し、xは、1.5≦x≦8.0を満たす。
【0021】
既述のとおり、近年の情報通信技術の急速な発展に伴い、様々な周波数の電波に対応する観点から、ターゲットの周波数帯域において、優れた電波吸収性能を示し得る電波吸収体が求められている。
本発明者は、電波吸収体に好適な磁性体として、鉄の一部がアルミニウムに置換されたマグネトプランバイト型六方晶フェライトに着目した。しかし、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を用いた電波吸収体では、ターゲットの周波数帯域にマグネトプランバイト型六方晶フェライトのピーク周波数を合わせることは非常に困難であった。
これに対し、本開示の製造方法によれば、Fe塩と、Al塩と、Sr塩、Ba塩、Ca塩、及びPb塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素の塩と、を含む水溶液(即ち、原料水溶液)のpHを8.0超に調整して反応生成物を得る工程Aを含むため、所望のピーク周波数を有するマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を製造できる。
【0022】
原料水溶液のpHを8.0超に調整して反応生成物を得る工程Aにおいて、原料水溶液の調整pHを高くすると、最終的に得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライトにおけるFe原子に対するAl原子の割合〔即ち、式(1)中のxの値〕は小さくなる。また、原料水溶液の調整pHと、式(1)中のxの値との間には、高い相関関係がある。
一方、マグネトプランバイト型六方晶フェライトにおけるFe原子に対するAl原子の割合〔即ち、式(1)中のxの値〕を高めると、マグネトプランバイト型六方晶フェライトが有するピーク周波数が、より高周波数帯域にシフトする。また、式(1)中のxの値と、マグネトプランバイト型六方晶フェライトが有するピーク周波数との間には、高い相関関係がある。
本開示の製造方法は、原料水溶液のpHを8.0超に調整して反応生成物を得る工程Aを含むことで、原料水溶液の調整pHによる式(1)中のxの値の制御が可能となり、その結果、所望のピーク周波数を有するマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を製造できる。
【0023】
以下、本開示の製造方法における各工程について、詳細に説明する。
【0024】
<工程A>
工程Aは、Fe塩と、Al塩と、Sr塩、Ba塩、Ca塩、及びPb塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素(即ち、特定金属元素)の塩と、を含む水溶液(即ち、原料水溶液)のpHを8.0超に調整して反応生成物を得る工程である。
工程Aでは、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の前駆体となる反応生成物を得ることができる。工程Aにて得られる反応生成物は、水酸化鉄、水酸化アルミニウム、鉄とアルミニウムと特定金属元素との複合水酸化物等であると推測される。
【0025】
原料水溶液のpHを8.0超に調整して反応生成物を得る工程Aにおいて、原料水溶液の調整pHを高くすると、最終的に得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライトにおけるFe原子に対するAl原子の割合〔即ち、式(1)中のxの値〕が小さくなる。また、原料水溶液の調整pHと、式(1)中のxの値との間には、高い相関関係がある。さらに、式(1)中のxの値と、マグネトプランバイト型六方晶フェライトが有するピーク周波数との間にも、高い相関関係がある。したがって、本開示の製造方法では、原料水溶液のpHを8.0超に調整して反応生成物を得る工程Aにおいて、原料水溶液の調整pHを制御することで、式(1)中のxの値の制御が可能となるため、所望のピーク周波数を有するマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を製造できる。
【0026】
Fe塩、Al塩、及び特定金属元素の塩における塩としては、特に制限されず、例えば、入手容易性及びコストの観点から、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等の水溶性の無機酸塩が好ましい。
Fe塩の具体例としては、塩化鉄(III)六水和物〔FeCl3・6H2O〕、硝酸鉄(III)九水和物〔Fe(NO3)3・9H2O〕等が挙げられる。
Al塩の具体例としては、塩化アルミニウム六水和物〔AlCl3・6H2O〕、硝酸アルミニウム九水和物〔Al(NO3)3・9H2O〕等が挙げられる。
Sr塩の具体例としては、塩化ストロンチウム六水和物〔SrCl2・6H2O〕、硝酸ストロンチウム〔Sr(NO3)2〕、酢酸ストロンチウム0.5水和物〔Sr(CH3COO)2・0.5H2O〕等が挙げられる。
Ba塩の具体例としては、塩化バリウム二水和物〔BaCl2・2H2O〕、硝酸バリウム〔Ba(NO3)2〕、酢酸バリウム〔(CH3COO)2Ba〕等が挙げられる。
Ca塩の具体例としては、塩化カルシウム二水和物〔CaCl2・2H2O〕、硝酸カルシウム四水和物〔Ca(NO3)2・4H2O〕、酢酸カルシウム一水和物〔(CH3COO)2Ca・H2O〕等が挙げられる。
Pb塩の具体例としては、塩化鉛(II)〔PbCl2〕、硝酸鉛(II)〔Pb(NO3)2〕等が挙げられる。
【0027】
特定金属元素の塩は、Sr塩、Ba塩、Ca塩、及びPb塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素の塩であれば、種類及び数は、特に制限されない。
特定金属元素の塩は、例えば、操作性及び取り扱い性の観点から、Sr塩、Ba塩、及びCa塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素の塩であることが好ましい。
また、特定金属元素の塩は、例えば、79GHz付近で優れた電波吸収性能を発揮する電波吸収体を製造できるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を得られるという観点から、Sr塩を含むことが好ましく、Sr塩であることがより好ましい。
【0028】
工程Aでは、原料水溶液のpHを8.0超に調整して反応生成物を得る。
工程Aでは、2段階以上の多段階で、原料水溶液のpHを8.0超に調整して反応生成物を得てもよい。
原料水溶液の調整pHは、例えば、式(1)中のxの値をより良好に制御できるという観点から、8.5以上が好ましく、9.0以上がより好ましく、9.5以上が更に好ましい。
原料水溶液の調整pHは、例えば、反応生成物をより得やすいという観点から、13.0以下が好ましく、12.5以下がより好ましく、12.0以下が更に好ましく、11.5以下が更に好ましく、11.0以下が更に好ましい。
原料水溶液の調整pHは、pHメータを用いて測定される値である。
pHメータとしては、例えば、(株)堀場製作所の卓上型pHメータ F-71(製品名)を好適に用いることができる。但し、pHメータは、これに限定されない。
【0029】
pHを8.0超に調整する際の原料水溶液の液温は、特に制限されず、例えば、反応生成物がより効率良く得られるという観点から、5℃以上90℃以下が好ましく、10℃以上55℃以下がより好ましく、15℃以上40℃以下が更に好ましい。
温度を調整する手段としては、特に制限はなく、一般的な加熱装置、冷却装置等を用いることができる。
【0030】
工程Aの好ましい態様は、原料水溶液の液温を15℃以上40℃以下に保持した状態で、原料水溶液のpHを8.5以上に調整して反応生成物を得る態様である。
工程Aのより好ましい態様は、原料水溶液の液温を15℃以上40℃以下に保持した状態で、原料水溶液のpHを9.0以上に調整して反応生成物を得る態様である。
工程Aの更に好ましい態様は、原料水溶液の液温を30℃以上40℃以下に保持した状態で、原料水溶液のpHを6.0以上8.0以下に調整して第1の液を得る第1のpH調整工程と、第1のpH調整工程にて得られた第1の液の液温を20℃以上30℃未満に変更した後、第1の液のpHを8.5以上に調整して第2の液を得る第2のpH調整工程と、を経て、反応生成物を得る態様である。
工程Aの特に好ましい態様は、原料水溶液の液温を30℃以上40℃以下に保持した状態で、原料水溶液のpHを6.0以上8.0以下に調整して第1の液を得る第1のpH調整工程と、第1のpH調整工程にて得られた第1の液の液温を20℃以上30℃未満に変更した後、第1の液のpHを9.0以上に調整して第2の液を得る第2のpH調整工程と、を経て、反応生成物を得る態様である。
【0031】
工程Aは、Fe塩、Al塩、及び特定金属元素の塩を含む水溶液(即ち、原料水溶液)と、アルカリ水溶液とを混合し、原料水溶液のpHを8.0超に調整して、反応生成物を含む液(所謂、前駆体含有液)を得る工程(以下、「工程A1」ともいう。)を含むことが好ましい。
また、工程Aは、工程A1にて得られた反応生成物を含む液から反応生成物を分離する工程(以下、「工程A2」ともいう。)を含むことが好ましい。
【0032】
(工程A1)
工程A1は、Fe塩、Al塩、及び特定金属元素の塩を含む水溶液(即ち、原料水溶液)と、アルカリ水溶液とを混合し、原料水溶液のpHを8.0超に調整して、反応生成物を含む液を得る工程である。
工程A1では、原料水溶液とアルカリ水溶液との混合により、原料水溶液のpHが8.0超になることで、反応生成物の沈殿物が生じる。
【0033】
アルカリ水溶液としては、特に制限はなく、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が挙げられる。
アルカリ水溶液の濃度は、特に制限されず、例えば、0.1mol/L(リットル;以下、同じ)~10.0mol/Lとすることができる。
【0034】
原料水溶液とアルカリ水溶液とは、単に混合すればよい。
原料水溶液とアルカリ水溶液とは、予め準備した全量を一度に混合してもよく、原料水溶液とアルカリ水溶液とを少しずつ徐々に混合してもよい。また、原料水溶液及びアルカリ水溶液のいずれか一方に、他方を少しずつ添加しながら混合してもよい。
例えば、原料水溶液の調整pHの制御が容易であるという観点からは、原料水溶液にアルカリ水溶液を添加しながら混合することが好ましい。
また、例えば、反応生成物の組成の再現性の観点からは、原料水溶液とアルカリ水溶液とを少しずつ徐々に混合することが好ましい。
原料水溶液とアルカリ水溶液とを混合する方法は、特に制限されず、例えば、撹拌により混合する方法が挙げられる。
撹拌手段としては、特に制限はなく、一般的な撹拌器具又は撹拌装置を用いることができる。
【0035】
撹拌時間は、混合する成分の反応が終了すれば、特に制限されず、原料水溶液の組成、撹拌器具又は撹拌装置の種類等に応じて、適宜設定できる。
【0036】
原料水溶液とアルカリ水溶液との混合比率は、特に制限されず、例えば、所望とする原料水溶液の調整pHに応じて、適宜設定される。
【0037】
(工程A2)
工程A2は、工程A1にて得られた反応生成物を含む液から反応生成物を分離する工程である。
工程A2では、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の前駆体となる反応生成物(即ち、工程Aにおける反応生成物)を得ることができる。
【0038】
反応生成物を含む液から反応生成物を分離する方法は、特に制限されず、デカンテーション、遠心分離、濾過(例えば、吸引濾過及び加圧濾過)等の方法が挙げられる。
反応生成物を含む液から反応生成物を分離する方法が遠心分離である場合、遠心分離の条件は、特に制限されない。例えば、回転数2000rpm(revolutions per minute;以下、同じ)以上で、3分間~30分間遠心分離することが好ましい。また、遠心分離は、複数回行ってもよい。
【0039】
<工程B>
工程Bは、工程Aにて得られた反応生成物を乾燥して乾燥物(所謂、前駆体の粉体)を得る工程である。
工程Aにて得られた反応生成物を焼成前に乾燥させることにより、電波吸収体の製造に用いた場合に、電波吸収体の電波吸収性能の再現性が良好となる傾向がある。
【0040】
乾燥手段は、特に制限されず、例えば、オーブン等の乾燥機が挙げられる。
乾燥温度としては、特に制限はなく、例えば、50℃~200℃が好ましく、70℃~150℃がより好ましい。
乾燥時間としては、特に制限はなく、例えば、2時間~50時間が好ましく、5時間~30時間がより好ましい。
【0041】
<工程C>
工程Cは、工程Bにて得られた乾燥物を焼成して焼成物を得る工程である。
工程Cでは、工程Bにて得られた乾燥物を焼成することにより、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体である焼成物を得ることができる。
【0042】
焼成は、加熱装置を用いて行うことができる。
加熱装置は、目的の温度に加熱することができれば、特に制限されず、公知の加熱装置をいずれも用いることができる。加熱装置としては、例えば、電気炉の他、製造ラインに合わせて独自に作製した焼成装置を用いることができる。
焼成は、大気雰囲気下で行うことが好ましい。
焼成温度としては、特に制限はなく、例えば、900℃以上が好ましく、900℃~1400℃がより好ましく、1000℃~1200℃が更に好ましい。
焼成時間としては、特に制限はなく、例えば、1時間~10時間が好ましく、2時間~6時間がより好ましい。
【0043】
-マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体-
本開示の製造方法によれば、式(1)で表される化合物の粒子の集合体であるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を製造できる。
式(1)におけるAは、Sr、Ba、Ca、及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素であれば、金属元素の種類及び数は、特に制限されない。
式(1)におけるAは、例えば、操作性及び取り扱い性の観点から、Sr、Ba、及びCaからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素であることが好ましい。
また、式(1)におけるAは、例えば、79GHz付近で優れた電波吸収性能を発揮する電波吸収体を製造できるという観点から、Srを含むことが好ましく、Srであることがより好ましい。
【0044】
式(1)におけるxは、1.5≦x≦8.0を満たし、1.5≦x≦6.0を満たすことが好ましく、1.5≦x≦4.0を満たすことがより好ましく、1.5≦x≦3.0を満たすことが更に好ましい。
式(1)におけるxが1.5以上であると、60GHzよりも高い周波数帯域の電波を吸収できる。
また、式(1)におけるxが8.0以下であると、マグネトプランバイト型六方晶フェライトが磁性を有する。
【0045】
本開示の製造方法により得られる、式(1)で表される化合物であるマグネトプランバイト型六方晶フェライトとしては、SrFe(10.44)Al(1.56)O19、SrFe(10.20)Al(1.80)O19、SrFe(10.13)Al(1.87)O19、SrFe(10.00)Al(2.00)O19、SrFe(9.95)Al(2.05)O19、SrFe(9.86)Al(2.14)O19、SrFe(9.85)Al(2.15)O19、SrFe(9.79)Al(2.21)O19、SrFe(9.74)Al(2.26)O19、SrFe(9.72)Al(2.28)O19、SrFe(9.65)Al(2.35)O19、SrFe(9.58)Al(2.42)O19、SrFe(9.37)Al(2.63)O19、SrFe(9.33)Al(2.67)O19、SrFe(9.27)Al(2.73)O19、SrFe(7.88)Al(4.12)O19、SrFe(7.71)Al(4.29)O19、SrFe(7.37)Al(4.63)O19、SrFe(7.04)Al(4.96)O19、SrFe(6.25)Al(5.75)O19、BaFe(9.50)Al(2.50)O19、BaFe(10.05)Al(1.95)O19、CaFe(10.00)Al(2.00)O19、PbFe(9.00)Al(3.00)O19、Sr(0.80)Ba(0.10)Ca(0.10)Fe(9.83)Al(2.17)O19、Sr(0.80)Ba(0.10)Ca(0.10)Fe(9.69)Al(2.31)O19、Sr(0.80)Ba(0.10)Ca(0.10)Fe(8.85)Al(3.15)O19等が挙げられる。
【0046】
本開示の製造方法により得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの組成は、高周波誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法により確認する。
具体的には、試料粉体12mg及び4mol/Lの塩酸水溶液10mLを入れた耐圧容器を、設定温度120℃のオーブン内に12時間保持し、溶解液を得る。次いで、得られた溶解液に純水30mLを加えた後、0.1μmのメンブレンフィルタを用いてろ過する。このようにして得られたろ液の元素分析を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置を用いて行う。得られた元素分析の結果に基づき、Fe原子100原子%に対する各金属原子の含有率を求める。求めた含有率に基づき、組成を確認する。
ICP発光分光分析装置としては、例えば、(株)島津製作所のICPS-8100(型番)を好適に用いることができる。但し、ICP発光分光分析装置は、これに限定されない。
【0047】
本開示の製造方法により得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの結晶相は、単相でもよいし、単相でなくてもよいが、好ましくは単相である。
結晶相が単相であるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体は、アルミニウムの含有割合が同じである場合、結晶相が単相ではない(例えば、結晶相が二相である)マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体と比較して、保磁力が高く、磁気特性により優れる傾向がある。
【0048】
本開示において、「結晶相が単相である」場合とは、粉末X線回折(XRD:X-Ray-Diffraction)測定において、任意の組成のマグネトプランバイト型六方晶フェライトの結晶構造を示す回折パターンが1種類のみ観察される場合をいう。
一方、本開示において、「結晶相が単相ではない」場合とは、任意の組成のマグネトプランバイト型六方晶フェライトが複数混在し、回折パターンが2種類以上観察されたり、マグネトプランバイト型六方晶フェライト以外の結晶の回折パターンが観察されたりする場合をいう。
【0049】
結晶相が単相ではない場合、主たるピークとそれ以外のピークとが存在する回折パターンが得られる。ここで、「主たるピーク」とは、観察される回折パターンにおいて、回折強度の値が最も高いピークを指す。
本開示の製造方法により得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体が、単相ではないマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を含む場合、粉末X線回折(XRD)測定により得られる、主たるピークの回折強度の値(以下「Im」と称する。)に対する、それ以外のピークの回折強度の値(以下「Is」と称する。)の比(Is/Im)は、例えば、電波吸収性能により優れる電波吸収体を製造できるという観点から、1/2以下であることが好ましく、1/5以下であることがより好ましい。
なお、2種以上の回折パターンが重なり、それぞれの回折パターンのピークが極大値を有している場合には、それぞれの極大値をIm及びIsと定義し、比を求める。また、2種以上の回折パターンが重なり、主たるピークの肩部として、それ以外のピークが観察される場合には、肩部の最大強度値をIsと定義し、比を求める。
また、それ以外のピークが2つ以上存在する場合には、それぞれの回折強度の合計値をIsと定義し、比を求める。
【0050】
回折パターンの帰属には、例えば、国際回折データセンター(ICDD:International Centre for Diffraction Data、登録商標)のデータベースを参照できる。
例えば、Srを含むマグネトプランバイト型六方晶フェライトの回折パターンは、国際回折データセンター(ICDD)の「00-033-1340」を参照できる。但し、鉄の一部がアルミニウムに置換されると、ピーク位置はシフトする。
【0051】
マグネトプランバイト型六方晶フェライトの結晶相が単相であることは、既述のとおり、粉末X線回折(XRD)測定により確認する。
具体的には、粉末X線回折装置を用い、以下の条件にて測定する。
粉末X線回折装置としては、例えば、PANalytical社のX’Pert Pro MPD(製品名)を好適に用いることができる。但し、粉末X線回折装置は、これに限定されない。
【0052】
-条件-
X線源:CuKα線
〔波長:1.54Å(0.154nm)、出力:40mA,45kV〕
スキャン範囲:20°<2θ<70°
スキャン間隔:0.05°
スキャンスピード:0.75°/min
【0053】
本開示の製造方法により得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を構成する個々の粒子の形状は、例えば、板状、不定形状等である。
【0054】
本開示の製造方法により得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を構成する個々の粒子の粒径は、特に制限されない。
本開示の製造方法により得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体は、例えば、レーザ回折散乱法により測定した個数基準の粒度分布における累積50%径(D50)が、2μm以上100μm以下である。
【0055】
本開示の製造方法により得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の上記累積50%径(D50)は、具体的には、以下の方法により測定される値である。
マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体10mgにシクロヘキサノン500mLを加えて希釈した後、振とう機を用いて30秒間撹拌し、得られた液を粒度分布測定用サンプルとする。次いで、粒度分布測定用サンプルを用いて、レーザ回折散乱法により粒度分布を測定する。測定装置には、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いる。
【0056】
レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置としては、例えば、(株)堀場製作所のPartica LA-960(製品名)を好適に用いることができる。但し、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置は、これに限定されない。
【0057】
本開示の製造方法により得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の保磁力(Hc)は、400kA/m以上が好ましく、500kA/m以上がより好ましく、600kA/m以上が更に好ましい。
マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の保磁力(Hc)が400kA/m以上であると、高周波数帯域でも優れた電波吸収性能を示す電波吸収体を製造できる。
本開示の製造方法により得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の保磁力(Hc)の上限は、特に制限されず、例えば、1500kA/m以下が好ましい。
【0058】
本開示の製造方法により得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の単位質量あたりの飽和磁化(δs)は、10Am2/kg以上が好ましく、20Am2/kg以上がより好ましく、30Am2/kg以上が更に好ましい。
マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の単位質量あたりの飽和磁化(δs)が10Am2/kg以上であると、電波吸収性能により優れる電波吸収体を製造できる。
本開示の製造方法により得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の単位質量あたりの飽和磁化(δs)の上限は、特に制限されず、例えば、60Am2/kg以下が好ましい。
【0059】
上記のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の保磁力(Hc)及び単位質量あたりの飽和磁化(δs)は、振動試料型磁力計を用いて、雰囲気温度23℃の環境下、最大印加磁界3589kA/m、及び磁界掃引速度1.994kA/m/s(秒)の条件にて測定した値である。
振動試料型磁力計としては、例えば、(株)玉川製作所のTM-TRVSM5050-SMSL型(型番)を好適に用いることができる。但し、振動試料型磁力計は、これに限定されない。
【0060】
本開示の製造方法により得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体全体に占める、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体以外の粉体の割合は、例えば、電波吸収性能により優れる電波吸収体を製造できるという観点から、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましく、0質量%であること、即ち、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体以外の粉体を含まないことが特に好ましい。
【0061】
-マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の用途-
本開示の製造方法により得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体は、磁気特性に優れるため、電波吸収体の製造に好適に用いられる。
本開示の製造方法により得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体は、工程Aにおける原料水溶液の調整pHにより、Fe原子に対するAl原子の割合〔即ち、式(1)中のxの値〕が制御されているため、所望のピーク周波数を有する。そのため、本開示の製造方法により得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体によれば、ターゲットの周波数帯域において、優れた電波吸収性能を示し得る電波吸収体を製造できる。
【0062】
[電波吸収体の製造方法]
本開示の電波吸収体の製造方法は、既述の本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の製造方法により、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を得る工程Iと、工程Iにて得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体と、バインダーと、を含む電波吸収体用組成物を用いて、成形体を形成する工程IIと、を含む。
本開示の電波吸収体の製造方法により得られる電波吸収体は、所望のピーク周波数を有するマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を含む。したがって、本開示の電波吸収体の製造方法によれば、所望の周波数帯域、例えば、70GHz~90GHzの高周波数帯域において、優れた電波吸収性能を発揮する電波吸収体を製造できる。
【0063】
<工程I>
工程Iは、本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の製造方法により、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を得る工程である。
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の製造方法については、既述のとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0064】
<工程II>
工程IIは、工程Iにて得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体(以下、「特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体」ともいう。)と、バインダーと、を含む電波吸収体用組成物を用いて、成形体を形成する工程である。
工程IIにおいて形成される成形体は、電波吸収体の少なくとも一部をなす。
【0065】
工程IIにおいて形成される成形体は、平面形状を有していてもよく、立体形状を有していてもよく、線形状を有していてもよい。
平面形状としては、例えば、シート形状及びフィルム形状が挙げられる。
立体形状としては、例えば、三角形以上の多角形の柱形状、円柱形状、角錐形状、円錐形状、及びハニカム形状が挙げられる。また、立体形状としては、上記平面形状と上記立体形状とを組み合わせた形状も挙げられる。
線形状としては、例えば、フィラメント形状及びストランド形状が挙げられる。
なお、電波吸収体の電波吸収性能は、電波吸収体中における特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の含有率のみならず、電波吸収体の形状によっても制御することが可能である。
【0066】
電波吸収体用組成物は、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を含む。
電波吸収体用組成物は、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
電波吸収体用組成物は、例えば、組成の異なる2種以上の特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を含んでいてもよい。
【0067】
電波吸収体用組成物中における特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の含有率は、特に制限されず、例えば、良好な電波吸収特性の確保の観点から、電波吸収体用組成物中の全固形分量に対して、10質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。
また、電波吸収体用組成物中における特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の含有率は、例えば、電波吸収体の製造適性及び耐久性の観点から、電波吸収体用組成物中の全固形分量に対して、98質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、92質量%以下が更に好ましい。
【0068】
本開示において、電波吸収体用組成物中の全固形分量とは、電波吸収体用組成物が溶剤を含まない場合には、電波吸収体用組成物の全質量を意味し、電波吸収体用組成物が溶剤を含む場合には、電波吸収体用組成物から溶剤を除いた全質量を意味する。
【0069】
電波吸収体用組成物は、バインダーを含む。
本開示において、「バインダー」とは、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を分散させた状態に保ち、かつ、電波吸収体の形態を形成し得る物質の総称である。
バインダーとしては、特に制限はなく、例えば、樹脂、ゴム、又は、熱可塑性エラストマー(TPE)が挙げられる。
これらの中でも、バインダーとしては、例えば、引張り強度及び耐屈曲性の観点から、熱可塑性エラストマー(TPE)が好ましい。
【0070】
樹脂は、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。
熱可塑性樹脂としては、具体的には、アクリル樹脂;ポリアセタール;ポリアミド;ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリカーボネート;ポリスチレン;ポリフェニレンサルファイド;ポリプロピレン;ポリ塩化ビニル;アクリロニトリルとブタジエンとスチレンとの共重合により得られるABS(acrylonitrile butadiene styrene)樹脂;アクリロニトリルとスチレンとの共重合により得られるAS(acrylonitrile styrene)樹脂等が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、具体的には、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
【0071】
ゴムとしては、特に制限はなく、例えば、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体との混合性が良好であり、かつ、耐久性、耐候性、及び耐衝撃性により優れる電波吸収体を製造できるという観点から、ブタジエンゴム;イソプレンゴム;クロロプレンゴム;ハロゲン化ブチルゴム;フッ素ゴム;ウレタンゴム;アクリル酸エステル(例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、及びアクリル酸2-エチルヘキシル)と他の単量体との共重合により得られるアクリルゴム(ACM);チーグラー触媒を用いたエチレンとプロピレンとの配位重合により得られるエチレン-プロピレンゴム;イソブチレンとイソプレンとの共重合により得られるブチルゴム(IIR);ブタジエンとスチレンとの共重合により得られるスチレンブタジエンゴム(SBR);アクリロニトリルとブタジエンとの共重合により得られるアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR);シリコーンゴム等の合成ゴムが好ましい。
【0072】
熱可塑性エラストマーとしては、具体的には、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)等が挙げられる。
【0073】
電波吸収体用組成物は、バインダーとしてゴムを含む場合、ゴムに加えて、加硫剤、加硫助剤、軟化剤、可塑剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
加硫剤としては、硫黄、有機硫黄化合物、金属酸化物等が挙げられる。
【0074】
バインダーのメルトマススローレイト(以下、「MFR」ともいう。)は、特に制限されず、例えば、1g/10min~200g/10minが好ましく、3g/10min~100g/10minがより好ましく、5g/10min~80g/10minが更に好ましく、10g/10min~50g/10minが特に好ましい。
バインダーのMFRが1g/10min以上であると、流動性が十分に高く、外観不良がより生じ難い。
バインダーのMFRが200g/10min以下であると、成形体の強度等の機械特性をより高めやすい。
バインダーのMFRは、JIS K 7210:1999に準拠して、測定温度230℃及び荷重10kgの条件で測定される値である。
【0075】
バインダーの硬度は、特に制限されず、例えば、成形適性の観点から、5g~150gが好ましく、10g~120gがより好ましく、30g~100gが更に好ましく、40g~90gが特に好ましい。
バインダーの硬度は、JIS K 6253-3:2012に準拠して測定される瞬間値である。
【0076】
バインダーの密度は、特に制限されず、例えば、成形適性の観点から、600kg/m3~1100kg/m3が好ましく、700kg/m3~1000kg/m3がより好ましく、750kg/m3~1050kg/m3が更に好ましく、800kg/m3~950kg/m3が特に好ましい。
バインダーの密度は、JIS K 0061:2001に準拠して測定される値である。
【0077】
バインダーの100%引張応力は、特に制限されず、例えば、成形適性の観点から、0.2MPa~20MPaが好ましく、0.5MPa~10MPaがより好ましく、1MPa~5MPaが更に好ましく、1.5MPa~3MPaが特に好ましい。
バインダーの引張強さは、特に制限されず、例えば、成形適性の観点から、1MPa~20MPaが好ましく、2MPa~15MPaがより好ましく、3MPa~10MPaが更に好ましく、5MPa~8MPaが特に好ましい。
バインダーの切断時伸びは、特に制限されず、例えば、成形適性の観点から、110%~1500%が好ましく、150%~1000%がより好ましく、200%~900%が更に好ましく、400%~800%が特に好ましい。
以上の引張特性は、JIS K 6251:2010に準拠して測定される値である。測定は、試験片としてJIS 3号ダンベルを用い、引張速度500mm/minの条件で行う。
【0078】
電波吸収体用組成物は、バインダーを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0079】
電波吸収体用組成物中におけるバインダーの含有率は、特に制限されず、例えば、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の分散性の観点、並びに、電波吸収体の製造適性及び耐久性の観点から、電波吸収体用組成物中の全固形分量に対して、2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、8質量%以上が更に好ましい。
また、電波吸収体用組成物中におけるバインダーの含有率は、例えば、良好な電波吸収特性の確保の観点から、電波吸収体用組成物中の全固形分量に対して、90質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、50質量%以下が更に好ましい。
【0080】
電波吸収体用組成物中において、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体とバインダーとは、単に混合されていればよい。
特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体とバインダーとを混合する方法は、特に制限されず、例えば、撹拌により混合する方法が挙げられる。
撹拌手段としては、特に制限されず、一般的な撹拌装置を用いることができる。
撹拌装置としては、パドルミキサー、インペラーミキサー等のミキサーが挙げられる。
撹拌時間は、特に制限されず、例えば、撹拌装置の種類、電波吸収体用組成物の組成等に応じて、適宜設定できる。
【0081】
成形体を形成する方法としては、特に制限はない。
成形体を形成する方法としては、例えば、電波吸収体用組成物を支持体上に塗布した後、乾燥させる方法、電波吸収体用組成物を支持体上にノズルを用いて吐出した後、乾燥させる方法、電波吸収体用組成物を射出成形する方法、電波吸収体用組成物をプレス成形する方法等が挙げられる。
【0082】
工程IIの好ましい態様の1つは、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体と、バインダーと、を含む電波吸収体用組成物を、支持体上に塗布して電波吸収体用組成物層を形成する工程II-a1と、工程II-a1にて形成した電波吸収体用組成物層を乾燥して電波吸収層を形成する工程II-a2と、を含む態様である。
工程II-a2における電波吸収層が、工程IIにおける成形体に相当する。
【0083】
(工程II-a1)
工程II-a1は、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体と、バインダーと、を含む電波吸収体用組成物を、支持体上に塗布して電波吸収体用組成物層を形成する工程である。
工程II-a1における特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体及びバインダーは、既述のとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0084】
工程II-a1における電波吸収体用組成物は、溶剤を含むことが好ましい。
溶剤としては、特に制限はなく、例えば、水、有機溶媒、又は、水と有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。
有機溶媒としては、特に制限はなく、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、メトキシプロパノール等のアルコール化合物、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等のケトン化合物、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、酢酸エチル、トルエンなどが挙げられる。
これらの中でも、溶剤としては、沸点が比較的低く、乾燥させやすいという観点から、メチルエチルケトン及びシクロヘキサンから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0085】
電波吸収体用組成物が溶剤を含む場合、電波吸収体用組成物中における溶剤の含有率は、特に制限されず、例えば、電波吸収体用組成物に配合される成分の種類、量等により、適宜設定される。
【0086】
電波吸収体用組成物は、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体、バインダー、及び溶剤以外に、必要に応じて、種々の添加剤(所謂、他の添加剤)を含んでいてもよい。
他の添加剤としては、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等が挙げられる。他の添加剤は、1つの成分が2つ以上の機能を担うものであってもよい。
【0087】
支持体としては、特に制限はなく、公知の支持体を用いることができる。
支持体を構成する材料としては、例えば、金属板(アルミニウム、亜鉛、銅等の金属の板)、ガラス板、プラスチックシート〔ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びポリブチレンテレフタレート)、ポリエチレン(例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、及び高密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂等のシート〕、上述した金属がラミネートされ又は蒸着されたプラスチックシートなどが挙げられる。
なお、プラスチックシートは、二軸延伸されていることが好ましい。
支持体は、電波吸収体の形態を保持するために機能し得る。なお、電波吸収体がそれ自身の形態を保持できる場合には、支持体として、例えば、金属板、ガラス板、又は表面に離型処理が施されたプラスチックシートを用い、電波吸収体の製造後に電波吸収体から除去してもよい。
【0088】
支持体の形状、構造、大きさ等については、目的に応じて適宜選択できる。
支持体の形状としては、特に制限はなく、例えば、平板状が挙げられる。
支持体の構造は、単層構造であってもよいし、2層以上の積層構造であってもよい。
支持体の大きさとしては、特に制限はなく、例えば、電波吸収体の大きさに応じて、適宜選択できる。
【0089】
支持体の厚みは、特に制限されず、通常は0.01mm~10mm程度であり、例えば、取り扱い性の観点から、0.02mm~3mmであることが好ましく、0.05mm~1mmであることがより好ましい。
【0090】
支持体上に、電波吸収体用組成物を塗布する方法としては、特に制限はなく、例えば、ダイコーター、ナイフコーター、アプリケーター等を用いる方法が挙げられる。
【0091】
電波吸収体用組成物層の厚みは、特に制限されず、例えば、5μm以上5mm以下とすることができる。
【0092】
(工程II-a2)
工程II-a2は、工程II-a1にて形成した電波吸収体用組成物層を乾燥して電波吸収層を形成する工程である。
電波吸収体用組成物層を乾燥させる方法としては、特に制限はなく、例えば、オーブン等の加熱装置を用いる方法が挙げられる。
乾燥温度及び乾燥時間は、電波吸収体用組成物層中の溶剤を揮発させることができれば、特に制限されない。一例を挙げれば、30℃~150℃にて、0.01時間~2時間加熱することにより、乾燥させることができる。
【0093】
工程IIの別の好ましい態様の1つは、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体と、バインダーと、を混練して混練物を得る工程II-b1と、工程II-b1にて得られた混練物を成形して成形体を得る工程II-b2と、を含む態様である。
工程II-b2における成形体が、工程IIにおける成形体に相当する。
【0094】
(工程II-b1)
工程II-b1は、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体と、バインダーと、を混練して混練物を得る工程である。
工程II-b1における特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体及びバインダーは、既述のとおりであるため、ここでは説明を省略する。
工程II-b1では、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体及びバインダーに加えて、発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、溶剤、種々の添加剤(所謂、他の添加剤)等を混練してもよい。
工程II-b1における溶剤及び他の添加剤は、既述のとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0095】
混練手段としては、特に制限されず、一般的な混練装置を用いることができる。
混練装置としては、二本ロール、ニーダー、押し出し機等の装置が挙げられる。
混練時間は、特に制限されず、例えば、混練装置の種類、混練する成分の種類及び量等に応じて、適宜設定できる。
【0096】
(工程II-b2)
工程II-b2は、工程II-b1にて得られた混練物を成形して成形体を得る工程である。
成形手段としては、特に制限されず、プレス成形、押し出し成形、射出成形、インモールド成形等が挙げられる。
成形条件としては、特に制限はなく、混練物に含まれる成分の種類、成形手段等に応じて、適宜設定できる。
【0097】
本開示の電波吸収体の製造方法により得られた電波吸収体に、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体が含まれていることは、例えば、以下の方法により確認できる。
電波吸収体を細かく切り刻んだ後、溶剤(例えば、アセトン)中に1日間~2日間浸漬した後、乾燥させる。乾燥後の電波吸収体を更に細かく磨り潰し、粉末X線回折(XRD)測定を行うことにより、構造を確認できる。また、電波吸収体の断面を切り出した後、例えば、エネルギー分散型X線分析装置を用いることで、組成を確認できる。
【実施例】
【0098】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0099】
<製造例1>
(1)マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の作製
35℃に保温した水400.0gを撹拌し、撹拌中の水に、塩化鉄(III)六水和物〔FeCl3・6H2O〕57.0g、塩化ストロンチウム六水和物〔SrCl2・6H2O〕27.8g、及び塩化アルミニウム六水和物〔AlCl3・6H2O〕10.7gを水216.0gに溶解して調製した原料水溶液と、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液181.3gに水113.0gを加えて調製した溶液と、をそれぞれ10mL/minの流速にて、添加のタイミングを同じくして、全量添加し、第1の液を得た。
次いで、第1の液の温度を25℃に変更した後、温度を保持した状態で、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液24.7gを添加し、第2の液を得た。得られた第2の液のpHは、9.0であった。なお、第2の液のpHは、(株)堀場製作所の卓上型pHメータ F-71(製品名)を用いて測定した(以下、同じ)。
次いで、第2の液を15分間撹拌し、反応を終了させて、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の前駆体となる反応生成物を含む液(即ち、前駆体含有液)を得た。
次いで、前駆体含有液に対し、遠心分離処理(回転数:3000rpm、回転時間:10分間)を3回行い、得られた沈殿物を回収した。
次いで、回収した沈殿物を内部雰囲気温度80℃のオーブン内で12時間乾燥させて、前駆体からなる粒子の集合体(即ち、前駆体の粉体)を得た。
次いで、前駆体の粉体をマッフル炉の中に入れ、大気雰囲気下において、炉内の温度を1100℃の温度条件に設定し、4時間焼成することにより、粉体1を得た。
【0100】
(2)電波吸収シートの作製
粉体1(即ち、製造例1の方法により作製した粉体)9.0g、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)〔グレード:JSR N215SL、JSR(株)、バインダー〕1.05g、及びシクロヘキサノン6.1gを、撹拌装置〔製品名:あわとり練太郎 ARE-310、シンキー(株)〕を用い、回転数2000rpmにて5分間撹拌し、混合することにより、電波吸収体用組成物を調製した。次いで、ガラス板上に、調製した電波吸収体用組成物を、アプリケーターを用いて塗布し、電波吸収体用組成物層を形成した。次いで、形成した電波吸収体用組成物層を、内部雰囲気温度80℃のオーブン内で2時間乾燥させることにより、ガラス板上に電波吸収層を形成した。次いで、ガラス板から電波吸収層を剥離し、剥離した電波吸収層を電波吸収シート1(シート厚み:96μm)とした。
【0101】
<製造例2>
(1)マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の作製
以下のようにして、前駆体含有液を得たこと以外は、粉体1の作製方法と同様の操作を行い、粉体2を得た。
35℃に保温した水400.0gを撹拌し、撹拌中の水に、塩化鉄(III)六水和物〔FeCl3・6H2O〕57.0g、塩化ストロンチウム六水和物〔SrCl2・6H2O〕27.8g、及び塩化アルミニウム六水和物〔AlCl3・6H2O〕10.7gを水216.0gに溶解して調製した原料水溶液と、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液181.3gに水113.0gを加えて調製した溶液と、をそれぞれ10mL/minの流速にて、添加のタイミングを同じくして、全量添加し、第1の液を得た。
次いで、第1の液の温度を25℃に変更した後、温度を保持した状態で、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液30.2gを添加し、第2の液を得た。得られた第2の液のpHは、9.5であった。
次いで、第2の液を15分間撹拌し、反応を終了させて、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の前駆体となる反応生成物を含む液(即ち、前駆体含有液)を得た。
【0102】
(2)電波吸収シートの作製
粉体1の代わりに、粉体2を用いたこと以外は、電波吸収シート1の作製方法と同様の操作を行い、電波吸収シート2(シート厚み:103μm)を得た。
【0103】
<製造例3>
(1)マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の作製
以下のようにして、前駆体含有液を得たこと以外は、粉体1の作製方法と同様の操作を行い、粉体3を得た。
35℃に保温した水400.0gを撹拌し、撹拌中の水に、塩化鉄(III)六水和物〔FeCl3・6H2O〕57.0g、塩化ストロンチウム六水和物〔SrCl2・6H2O〕27.8g、及び塩化アルミニウム六水和物〔AlCl3・6H2O〕10.7gを水216.0gに溶解して調製した原料水溶液と、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液181.3gに水113.0gを加えて調製した溶液と、をそれぞれ10mL/minの流速にて、添加のタイミングを同じくして、全量添加し、第1の液を得た。
次いで、第1の液の温度を25℃に変更した後、温度を保持した状態で、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液35.1gを添加し、第2の液を得た。得られた第2の液のpHは、10.0であった。
次いで、第2の液を15分間撹拌し、反応を終了させて、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の前駆体となる反応生成物を含む液(即ち、前駆体含有液)を得た。
【0104】
(2)電波吸収シートの作製
粉体1の代わりに、粉体3を用いたこと以外は、電波吸収シート1の作製方法と同様の操作を行い、電波吸収シート3(シート厚み:101μm)を得た。
【0105】
<製造例4>
(1)マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の作製
以下のようにして、前駆体含有液を得たこと以外は、粉体1の作製方法と同様の操作を行い、粉体4を得た。
35℃に保温した水400.0gを撹拌し、撹拌中の水に、塩化鉄(III)六水和物〔FeCl3・6H2O〕57.0g、塩化ストロンチウム六水和物〔SrCl2・6H2O〕27.8g、及び塩化アルミニウム六水和物〔AlCl3・6H2O〕10.7gを水216.0gに溶解して調製した原料水溶液と、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液181.3gに水113.0gを加えて調製した溶液と、をそれぞれ10mL/minの流速にて、添加のタイミングを同じくして、全量添加し、第1の液を得た。
次いで、第1の液の温度を25℃に変更した後、温度を保持した状態で、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液39.8gを添加し、第2の液を得た。得られた第2の液のpHは、10.5であった。
次いで、第2の液を15分間撹拌し、反応を終了させて、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の前駆体となる反応生成物を含む液(即ち、前駆体含有液)を得た。
【0106】
(2)電波吸収シートの作製
粉体1の代わりに、粉体4を用いたこと以外は、電波吸収シート1の作製方法と同様の操作を行い、電波吸収シート4(シート厚み:97μm)を得た。
【0107】
<製造例5>
(1)マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の作製
以下のようにして、前駆体含有液を得たこと以外は、粉体1の作製方法と同様の操作を行い、粉体5を得た。
35℃に保温した水400.0gを撹拌し、撹拌中の水に、塩化鉄(III)六水和物〔FeCl3・6H2O〕57.0g、塩化ストロンチウム六水和物〔SrCl2・6H2O〕27.8g、及び塩化アルミニウム六水和物〔AlCl3・6H2O〕10.7gを水216.0gに溶解して調製した原料水溶液と、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液181.3gに水113.0gを加えて調製した溶液と、をそれぞれ10mL/minの流速にて、添加のタイミングを同じくして、全量添加し、第1の液を得た。
次いで、第1の液の温度を25℃に変更した後、温度を保持した状態で、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液45.3gを添加し、第2の液を得た。得られた第2の液のpHは、11.0であった。
次いで、第2の液を15分間撹拌し、反応を終了させて、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の前駆体となる反応生成物を含む液(即ち、前駆体含有液)を得た。
【0108】
(2)電波吸収シートの作製
粉体1の代わりに、粉体5を用いたこと以外は、電波吸収シート1の作製方法と同様の操作を行い、電波吸収シート5(シート厚み:99μm)を得た。
【0109】
<製造例6>
(1)マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の作製
以下のようにして、前駆体含有液を得たこと以外は、粉体1の作製方法と同様の操作を行い、粉体6を得た。
35℃に保温した水400.0gを撹拌し、撹拌中の水に、塩化鉄(III)六水和物〔FeCl3・6H2O〕57.0g、塩化ストロンチウム六水和物〔SrCl2・6H2O〕27.8g、及び塩化アルミニウム六水和物〔AlCl3・6H2O〕10.7gを水216.0gに溶解して調製した原料水溶液と、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液181.3gに水113.0gを加えて調製した溶液と、をそれぞれ10mL/minの流速にて、添加のタイミングを同じくして、全量添加し、第1の液を得た。
次いで、第1の液の温度を25℃に変更した後、温度を保持した状態で、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液50.8gを添加し、第2の液を得た。得られた第2の液のpHは、11.5であった。
次いで、第2の液を15分間撹拌し、反応を終了させて、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の前駆体となる反応生成物を含む液(即ち、前駆体含有液)を得た。
【0110】
(2)電波吸収シートの作製
粉体1の代わりに、粉体6を用いたこと以外は、電波吸収シート1の作製方法と同様の操作を行い、電波吸収シート6(シート厚み:107μm)を得た。
【0111】
<製造例7>
(1)マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の作製
以下のようにして、前駆体含有液を得たこと以外は、粉体1の作製方法と同様の操作を行い、粉体7を得た。
35℃に保温した水400.0gを撹拌し、撹拌中の水に、塩化鉄(III)六水和物〔FeCl3・6H2O〕57.0g、塩化ストロンチウム六水和物〔SrCl2・6H2O〕27.8g、及び塩化アルミニウム六水和物〔AlCl3・6H2O〕10.7gを水216.0gに溶解して調製した原料水溶液と、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液181.3gに水113.0gを加えて調製した溶液と、をそれぞれ10mL/minの流速にて、添加のタイミングを同じくして、全量添加し、第1の液を得た。
次いで、第1の液の温度を25℃に変更した後、温度を保持した状態で、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液55.6gを添加し、第2の液を得た。得られた第2の液のpHは、12.0であった。
次いで、第2の液を15分間撹拌し、反応を終了させて、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の前駆体となる反応生成物を含む液(即ち、前駆体含有液)を得た。
【0112】
(2)電波吸収シートの作製
粉体1の代わりに、粉体7を用いたこと以外は、電波吸収シート1の作製方法と同様の操作を行い、電波吸収シート7(シート厚み:104μm)を得た。
【0113】
<製造例8>
(1)マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の作製
35℃に保温した水400.0gを撹拌し、撹拌中の水に、塩化鉄(III)六水和物〔FeCl3・6H2O〕57.0g、塩化ストロンチウム六水和物〔SrCl2・6H2O〕22.3g、塩化バリウム二水和物〔BaCl2・2H2O〕2.6g、塩化カルシウム二水和物〔CaCl2・2H2O〕1.5g、及び塩化アルミニウム六水和物〔AlCl3・6H2O〕10.2gを水216.0gに溶解して調製した原料水溶液と、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液181.3gに水113.0gを加えて調製した溶液と、をそれぞれ10mL/minの流速にて、添加のタイミングを同じくして、全量添加し、第1の液を得た。
次いで、第1の液の温度を25℃に変更した後、温度を保持した状態で、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液30.4gを添加し、第2の液を得た。得られた第2の液のpHは、9.5であった。
次いで、第2の液を15分間撹拌し、反応を終了させて、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の前駆体となる反応生成物を含む液(即ち、前駆体含有液)を得た。
次いで、前駆体含有液に対し、遠心分離処理(回転数:3000rpm、回転時間:10分間)を3回行い、得られた沈殿物を回収した。
次いで、回収した沈殿物を内部雰囲気温度80℃のオーブン内で12時間乾燥させて、前駆体からなる粒子の集合体(即ち、前駆体の粉体)を得た。
次いで、前駆体の粉体をマッフル炉の中に入れ、大気雰囲気下において、炉内の温度を1100℃の温度条件に設定し、4時間焼成することにより、粉体8を得た。
【0114】
(2)電波吸収シートの作製
粉体1の代わりに、粉体8を用いたこと以外は、電波吸収シート1の作製方法と同様の操作を行い、電波吸収シート8(シート厚み:100μm)を得た。
【0115】
<製造例9>
(1)マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の作製
以下のようにして、前駆体含有液を得たこと以外は、粉体8の作製方法と同様の操作を行い、粉体9を得た。
35℃に保温した水400.0gを撹拌し、撹拌中の水に、塩化鉄(III)六水和物〔FeCl3・6H2O〕57.0g、塩化ストロンチウム六水和物〔SrCl2・6H2O〕22.3g、塩化バリウム二水和物〔BaCl2・2H2O〕2.6g、塩化カルシウム二水和物〔CaCl2・2H2O〕1.5g、及び塩化アルミニウム六水和物〔AlCl3・6H2O〕10.2gを水216.0gに溶解して調製した原料水溶液と、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液181.3gに水113.0gを加えて調製した溶液と、をそれぞれ10mL/minの流速にて、添加のタイミングを同じくして、全量添加し、第1の液を得た。
次いで、第1の液の温度を25℃に変更した後、温度を保持した状態で、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液39.8gを添加し、第2の液を得た。得られた第2の液のpHは、10.5であった。
次いで、第2の液を15分間撹拌し、反応を終了させて、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の前駆体となる反応生成物を含む液(即ち、前駆体含有液)を得た。
【0116】
(2)電波吸収シートの作製
粉体1の代わりに、粉体9を用いたこと以外は、電波吸収シート1の作製方法と同様の操作を行い、電波吸収シート9(シート厚み:100μm)を得た。
【0117】
1.結晶構造の確認
粉体1~粉体9の各粉体を形成する磁性体(以下、それぞれ「磁性体1~磁性体9」ともいう。)の結晶構造を、X線回折(XRD)法により確認した。
具体的には、マグネトプランバイト型の結晶構造を有しているか、及び、単相であるか、又は、二相以上の異なる結晶相を有しているかについて確認した。
測定装置には、粉末X線回折装置であるPANalytical社のX’Pert Pro MPD(製品名)を使用した。測定条件を以下に示す。
【0118】
-測定条件-
X線源:CuKα線
〔波長:1.54Å(0.154nm)、出力:40mA、45kV〕
スキャン範囲:20°<2θ<70°
スキャン間隔:0.05°
スキャンスピード:0.75°/min
【0119】
その結果、磁性体1~磁性体9は、いずれもマグネトプランバイト型の結晶構造を有しており、マグネトプランバイト型以外の結晶構造を含まない単相のマグネトプランバイト型六方晶フェライトであることが確認された。
【0120】
2.組成の確認
粉体1~粉体9の各粉体を形成する磁性体(即ち、磁性体1~磁性体9)の組成を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により確認した。
具体的には、各粉体12mg及び4mol/Lの塩酸水溶液10mLを入れた耐圧容器であるビーカーを、設定温度120℃のオーブン内に12時間保持し、溶解液を得た。得られた溶解液に純水30mLを加えた後、0.1μmのメンブレンフィルタを用いて濾過した。このようにして得られた濾液の元素分析を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置〔型番:ICPS-8100、(株)島津製作所〕を用いて行った。
得られた元素分析の結果に基づき、Fe原子100原子%に対する各金属原子の含有率を求めた。そして、得られた含有率に基づき、磁性体1~磁性体9の組成を確認した。磁性体1~磁性体9の各磁性体の組成を以下に示す。
【0121】
磁性体1:SrFe(9.65)Al(2.35)O19
磁性体2:SrFe(9.72)Al(2.28)O19
磁性体3:SrFe(9.79)Al(2.21)O19
磁性体4:SrFe(9.86)Al(2.14)O19
磁性体5:SrFe(10.00)Al(2.00)O19
磁性体6:SrFe(10.13)Al(1.87)O19
磁性体7:SrFe(10.20)Al(1.80)O19
磁性体8:Sr(0.80)Ba(0.10)Ca(0.10)Fe(9.69)Al(2.31)O19
磁性体9:Sr(0.80)Ba(0.10)Ca(0.10)Fe(9.83)Al(2.17)O19
【0122】
3.透磁率μ''のピーク周波数
電波吸収シート1~電波吸収シート9の各電波吸収シートを、20mm×70mmの短冊状に切断し、評価用電波吸収シートとした。この評価用電波吸収シートの入射角0°におけるSパラメータを、自由空間法により、48GHz~93GHzの範囲で測定した。そして、測定したSパラメータから、ニコルソン-ロスモデル法を用いて、虚部の透磁率μ''のピーク周波数(単位:GHz)を算出した。なお、測定装置には、アジレント・テクノロジー(株)のネットワークアナライザーを使用した。
【0123】
式(1)中のxの値、第2液のpH(即ち、原料水溶液の調整pH)、及び透磁率μ''のピーク周波数を表1及び表2に示す。
また、式(1)中のxの値と透磁率μ''のピーク周波数との関係を示すグラフを
図1に示す。なお、
図1中の各プロットは、表1に記載の製造例1~製造例7の「xの値」及び「透磁率μ''のピーク周波数」に対応する。
表1では、「電波吸収シート1~電波吸収シート7」を、それぞれ「シート1~シート7」と表記する。また、表2では、「電波吸収シート8及び電波吸収シート9」を、それぞれ「シート8及びシート9」と表記する。
【0124】
【0125】
【0126】
表1及び表2に示す結果から、本開示の製造方法によれば、原料水溶液のpHを8.0超に調整して反応生成物を得る工程Aにおいて、原料水溶液の調整pHを高くすることで、最終的に得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライトにおけるFe原子に対するAl原子の割合〔即ち、式(1)中のxの値〕が小さくなること、及び、原料水溶液の調整pHと、式(1)中のxの値との間には、高い相関関係があることがわかった。
また、表1及び
図1に示す結果から、式(1)中のxの値と透磁率μ''のピーク周波数との間にも、高い相関関係があることがわかった。
以上のことから、本開示の製造方法は、原料水溶液のpHを8超に調整して反応生成物を得る工程Aを含むことで、原料水溶液の調整pHによる式(1)中のxの値の制御が可能となり、その結果、所望のピーク周波数を有するマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を製造できることが明らかとなった。
【0127】
2018年8月28日に出願された日本国特許出願2018-159194号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的に、かつ、個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。