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特許7071597多孔膜の透過性の評価方法、細胞の評価方法及び薬剤の評価方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】多孔膜の透過性の評価方法、細胞の評価方法及び薬剤の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/08 20060101AFI20220511BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220511BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G01N15/08 A
C12Q1/02
G01N15/08 C
G01N37/00 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021546501
(86)(22)【出願日】2020-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2020018941
(87)【国際公開番号】W WO2021053877
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2019169806
(32)【優先日】2019-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三好 隼人
(72)【発明者】
【氏名】大場 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】奥 圭介
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-167645(JP,A)
【文献】実開平01-134244(JP,U)
【文献】特開昭61-175547(JP,A)
【文献】特表2013-512448(JP,A)
【文献】特開2016-090381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/08
C12Q 1/02
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の流路と第2の流路との間に挿入された多孔膜の透過性の評価方法であって、
前記第1の流路に供給圧力を変化させながら液体を供給した場合の、前記第2の流路に収容された液体に生じる変化を前記多孔膜の透過性の評価指標として取得する
評価方法。
【請求項2】
第1の流路と第2の流路とを隔てる多孔膜の透過性の評価方法であって、
前記第1の流路内の液体に圧力を供給し、前記第2の流路に収容された液体に生じる変化を前記多孔膜の透過性の評価指標として取得することを含み、
前記第1の流路に供給される液体に蛍光体を含め、
前記第2の流路を流れる液体に含まれる蛍光体から放射される光量の経時変化を前記評価指標として取得する
評価方法。
【請求項3】
第1の流路と第2の流路とを隔てる多孔膜の透過性の評価方法であって、
前記第1の流路内の液体に圧力を供給し、前記第2の流路に収容された液体に生じる変化を前記多孔膜の透過性の評価指標として取得することを含み、
前記第1の流路に供給される液体に特定成分を含め、
前記第2の流路を流れる液体に含まれる前記特定成分の濃度の経時変化を前記評価指標として取得する
評価方法。
【請求項4】
第1の流路と第2の流路とを隔てる多孔膜の透過性の評価方法を用いた細胞の評価方法であって、
前記第1の流路内の液体に圧力を供給し、前記第2の流路に収容された液体に生じる変化を前記多孔膜の透過性の評価指標として取得することを含み、
前記多孔膜の表面に評価対象の細胞を培養した状態において取得した前記評価指標を、前記評価対象の細胞が、前記第1の流路に供給される液体の前記第2の流路への漏洩を阻止する性能の指標として取得する
評価方法。
【請求項5】
第1の流路と第2の流路とを隔てる多孔膜の透過性の評価方法を用いた薬剤の評価方法であって、
前記第1の流路内の液体に圧力を供給し、前記第2の流路に収容された液体に生じる変化を前記多孔膜の透過性の評価指標として取得することを含み、
前記多孔膜の表面に細胞を培養し、前記細胞を評価対象の薬剤に晒した後に取得した前記評価指標を、前記評価対象の薬剤の前記細胞に対する毒性の指標として取得する
評価方法。
【請求項6】
第1の流路と第2の流路とを隔てる多孔膜の透過性の評価方法であって、
前記第1の流路内の液体に圧力を供給し、前記第2の流路に収容された液体に生じる変化を前記多孔膜の透過性の評価指標として取得することを含み、
前記第1の流路及び前記第2の流路を有するマイクロ流体デバイスを用いる
評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、多孔膜の透過性の評価方法、細胞の評価方法及び薬剤の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体デバイスを用いた細胞の観察方法として、以下の技術が知られている。例えば、特開2010-207143号公報には、多孔膜を介して隣接する細胞培養室及び薬液室と、細胞培養室に細胞含有液を導入後排出するための導入路及び排出路と、薬液室に薬液を導入後排出するための導入路及び排出路と、薬液室の多孔膜と対向する側に設けられた観察窓とを備える細胞観察用デバイスが記載されている。また、引用文献1には、細胞培養室に細胞含有液を導入すると共に薬液室に薬液を導入し、細胞または細胞による生成物に基づくルミネッセンス光を観察窓から観察する細胞観察方法が記載されている。
【0003】
また、特開平8-101212号公報には、多孔膜を介して接する試料通液路とキャリア通液路を有するろ過セルにおいて、被測定液中の試料の少なくとも一部が多孔膜を介してキャリア中に移動して得られたキャリアを注入器によって検出器に注入することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
第1の流路、第2の流路及びこれらの流路を隔てる多孔膜を有するマイクロ流体デバイスにおいて、多孔膜の透過性の評価方法として、以下の方法が考えられる。例えば、第1の流路に蛍光体を含有した液体を収容し、第2の流路に蛍光体を含まない液体を収容し、液体中を拡散し、多孔膜を透過して第2の流路に漏洩する蛍光体から放射される光の量をモニタする方法が考えられる。しかしながら、この方法によれば、蛍光体の拡散速度が遅いため、評価に多大な時間(例えば60分程度)を要する。
【0005】
本開示の技術は、上記の点に鑑みてなされたものであり、1つの側面として、多孔膜の透過性の評価を短時間で行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の技術に係る評価方法は、第1の流路と第2の流路とを隔てる多孔膜の透過性の評価方法であって、第1の流路内の液体に圧力を供給し、第2の流路に収容された液体に生じる変化を前記多孔膜の透過性の評価指標として取得することを含む。
【0007】
本開示の技術に係る評価方法は、第1の流路と第2の流路との間に挿入された多孔膜の透過性の評価方法であって、第1の流路に供給圧力を変化させながら液体を供給した場合の、第2の流路に収容された液体に生じる変化を多孔膜の透過性の評価指標として取得することを含む。
【0008】
本開示の技術の実施形態に係る評価方法によれば、多孔膜の透過性の評価を短時間で行うことが可能となる。
【0009】
第2の流路を通過する液体の流量の経時変化を評価指標として取得してもよい。また、第1の流路に供給される液体に蛍光体を含め、第2の流路を流れる液体に含まれる蛍光体から放射される光量の経時変化を評価指標として取得してもよい。また、第1の流路に供給される液体に特定成分を含め、第2の流路を流れる液体に含まれる特定成分の濃度の経時変化を評価指標として取得してもよい。
【0010】
本開示の技術に係る細胞の評価方法は、上記した多孔膜の透過性の評価方法を用いた細胞の評価方法であって、多孔膜の表面に評価対象の細胞を培養した状態において取得した評価指標を、評価対象の細胞が、第1の流路に供給される液体の第2の流路への漏洩を阻止する性能の指標として取得することを含む。
【0011】
本開示の技術に係る薬剤の評価方法は、上記した多孔膜の透過性の評価方法を用いた薬剤の評価方法であって、多孔膜の表面に細胞を培養し、細胞を評価対象の薬剤に晒した後に取得した評価指標を、評価対象の薬剤の細胞に対する毒性の指標として取得することを含む。
【0012】
本開示の技術に係る評価方法において、第1の流路及び第2の流路を有するマイクロ流体デバイスを用いてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示の技術によれば、多孔膜の透過性の評価を短時間で行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の技術の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの構成の一例を示す斜視図である。
図2】本開示の技術の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの分解斜視図である。
図3図1における3-3線に沿った断面の一部を示す模式図である。
図4A】本開示の技術の実施形態に係る多孔膜の構成の一例を示す平面図である。
図4B図4Aにおける4B-4B線に沿った断面図である。
図5】本開示の技術の実施形態に係る評価システムの構成の一例を示す図である。
図6】本開示の技術の実施形態に係る評価システムにおける流路構成を模式的に示した図である。
図7】本開示の技術の実施形態に係る多孔膜の透過性の評価方法の一例を示すフローチャートである。
図8】本開示の技術の実施形態に係る流量制御装置における供給圧力の時間推移の一例を示すグラフである。
図9】本開示の技術の実施形態に係る下側マイクロ流路を流れる液体の流量の時間推移の一例を示すグラフである。
図10】本開示の技術の実施形態に係る評価方法を用いて、孔径または開口率が異なる複数種の多孔膜の透過性を評価した結果の一例を示す図である。
図11】本開示の技術の他の実施形態に係る評価システムの構成の一例を示す図である。
図12】本開示の技術の他の実施形態に係る評価システムの流路構成を模式的に示した図である。
図13】本開示の技術の他の実施形態に係る多孔膜の透過性の評価方法の一例を示すフローチャートである。
図14】供給圧力を時間に対してリニアに変化させた場合の、蛍光光量の時間推移の一例を示すグラフである。
図15】本開示の技術の他の実施形態に係る評価システムの構成の一例を示す図である。
図16】本開示の技術の他の実施形態に係る評価システムの流路構成を模式的に示した図である。
図17】本開示の技術の他の実施形態に係る多孔膜の透過性の評価方法の一例を示すフローチャートである。
図18】供給圧力を時間に対してリニアに変化させた場合の、特定成分濃度の時間推移の一例を示すグラフである。
図19】本開示の技術の他の実施形態に係る細胞の評価方法の一例を示す流路構成図である。
図20】本開示の技術の他の実施形態に係る細胞の評価方法の一例を示すフローチャートである。
図21】本開示の技術の他の実施形態に係る薬剤の評価方法の一例を示すフローチャートである。
図22】本開示の技術の実施形態に係る評価方法を用いて、薬剤の毒性を評価した結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。尚、各図面において、実質的に同一又は等価な構成要素又は部分には同一の参照符号を付している。
【0016】
図1は、本開示の技術の実施形態に係る多孔膜の透過性の評価に用いるマイクロ流体デバイス110の構成の一例を示す斜視図であり、図2は、マイクロ流体デバイス110の分解斜視図である。図3は、図1における3-3線に沿った断面の一部を示す模式図である。マイクロ流体デバイス110は、厚さ方向に積層された一対のキャビティ部材としての、互いに対向する上側キャビティ部材12と下側キャビティ部材14とで構成されたキャビティユニット16を有している。上側キャビティ部材12及び下側キャビティ部材14は、一例としてPDMS(ポリジメチルシロキサン)等の可撓性を有する材料で構成されている。なお、上側キャビティ部材12及び下側キャビティ部材14を構成する材料としては、PDMSの他、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマー、ポリビニルアルコール等を用いることが可能である。
【0017】
図2に示すように、下側キャビティ部材14の上面、すなわち上側キャビティ部材12との対向面14Aには、下側マイクロ流路24を画成する凹部26が形成されている。下側マイクロ流路24は本開示の技術における第2の流路の一例である。凹部26は、流入口26A、流出口26B、及び流入口26Aと流出口26Bとを連通する流路部26Cを有している。
【0018】
同様に、上側キャビティ部材12の下面、すなわち下側キャビティ部材14との対向面12Aには、上側マイクロ流路18を画成する凹部20が形成されている。上側マイクロ流路18は本開示の技術における第1の流路の一例である。凹部20は、流入口20A、流出口20B、及び流入口20Aと流出口20Bとを連通する流路部20Cを有している。また、上側キャビティ部材12には、上側キャビティ部材12を厚さ方向に貫通する貫通孔22A、22Bが設けられている。貫通孔22A、22Bは、それぞれ、下端が流入口20A及び流出口20Bに連通している。
【0019】
下側キャビティ部材14の流入口26A及び流出口26Bは、上側キャビティ部材12の流入口20A及び流出口20Bと平面視で重ならない位置に設けられている。一方、下側キャビティ部材14の流路部26Cは、上側キャビティ部材12の流路部20Cと平面視で重なる位置に設けられている。
【0020】
上側キャビティ部材12には、上側キャビティ部材12を厚さ方向に貫通し、下端が下側キャビティ部材14の流入口26A及び流出口26Bに連通する貫通孔28A、28Bがそれぞれ設けられている。キャビティユニット16の外周面には、スペーサ46が配置される位置に凹部29がそれぞれ設けられている。
【0021】
上側キャビティ部材12及び下側キャビティ部材14の対向面12A、14A間には、多孔膜30が配置されている。多孔膜30の上面30A及び下面30Bは、上側マイクロ流路18及び下側マイクロ流路24の流路部20C、26Cを覆い、上側マイクロ流路18と下側マイクロ流路24とを隔てている。すなわち、下側マイクロ流路24及び上側マイクロ流路18は、多孔膜30を間に挟んで隣接している。具体的には、多孔膜30の上面30Aが上側キャビティ部材12の凹部20とともに上側マイクロ流路18を画成しており、多孔膜30の下面30Bが下側キャビティ部材14の凹部26とともに下側マイクロ流路24を画成している。
【0022】
多孔膜30は、一例として疎水性の有機溶媒に溶解可能な疎水性ポリマーを含んで構成されている。なお、疎水性の有機溶媒は、25℃の水に対する溶解度が10(g/100g水)以下の液体である。疎水性ポリマーとしては、例えば、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート等が挙げられる。
【0023】
図4Aは、多孔膜30の構成の一例を示す平面図である。図4Bは、図4Aにおける4B-4B線に沿った断面図である。多孔膜30には、厚さ方向に貫通する複数の膜内空間32が形成されており、多孔膜30の上面30A及び下面30Bの両面には膜内空間32の開口32Aがそれぞれ設けられている。また、開口32Aは平面視で円形である。開口32Aどうしは互いに離間して設けられており、隣り合う開口32Aの間には平坦部34が延在している。なお、開口32Aは円形には限られず、多角形や楕円形であってもよい。
【0024】
複数の開口32Aは、図4Aに示すように、ハニカム状に配置されている。ここで、ハニカム状の配置とは、任意の開口32A(膜の辺縁にある開口32Aを除く)の周囲に6個の開口32Aが等配され、その6個の開口32Aの中心が正六角形の頂点に位置し、その中心に位置する開口32Aの中心が当該正六角形の中心に相当するような配列をいう。なお、ここでいう「等配」とは、中心角60°で正確に配列されている必要は必ずしもなく、中心に位置する開口32Aに対して周囲の6個の開口32Aがほぼ等しい間隔で配列されていればよい。なお、「開口32Aの中心」とは、開口32Aの平面視における中心を意味する。
【0025】
図4Bに示すように、多孔膜30の膜内空間32は球体の上端及び下端を切り取った球台形状とされている。なお、ここでいう球体とは、真球であることを要さず、概ね球と認められる程度のゆがみは許容する。また、互いに隣接する膜内空間32どうしは、多孔膜30の内部において連通孔36によって連通した、横連通構造となっている。なお、横連通構造とは、隣接する膜内空間32が多孔膜30の内部で互いに連通する空間構造をいう。ここでいう「横」とは、多孔膜30の厚さ方向を縦とした場合、この縦の方向と直交する面方向をいう。多孔膜30では開口32Aがハニカム状に配列しているため、任意の膜内空間32は、その周囲に等配されている6個の膜内空間32の全てと連通している。なお、膜内空間32はバレル形状や円柱形状、又は多角柱形状等とされていてもよく、また、連通孔36は隣接する膜内空間32どうしを繋ぐ筒状の空隙とされていてもよい。
【0026】
開口32Aの平均開口径は、1μm以上200μm以下であることが好ましい。開口32Aの平均開口径を1μm以上とすることで、膜内空間32の横連通構造を形成することが容易である。また、開口32Aの平均開口径を200μm以下とすることで、隣り合う開口32Aどうしが融合することなく、ハニカム状の配列を保つことが容易である。なお、平均開口径とは、多孔膜30の表面における複数の開口32Aの直径の平均値をいう。この平均開口径は、例えば、顕微鏡下で多孔膜30の表面を観察して、相当数の開口32Aの直径を測定した値の平均値とすることができる。
【0027】
多孔膜30の空隙率は40%以上90%以下であることが好ましい。多孔膜30の空隙率を40%以上とすることで、膜内空間32の横連通構造を形成することが容易である。多孔膜30の空隙率を90%以下とすることで、多孔膜30としての形状を保つことが容易となり、強度も低下せずに破れにくくなる。なお、空隙率とは、多孔膜30の体積に占める膜内空間32の体積の割合をいう。この空隙率は、例えば、顕微鏡下で多孔膜30の断面を観察して、観察された膜内空間32を、上下二方及び側面六方が円形に削ぎ落とされた球台形状と推定して求めた複数の膜内空間32の体積を、それらの膜内空間32が存在する多孔膜30の体積で除して得られたパーセンテージとして求めることができる。
【0028】
多孔膜30の膜厚は0.5μm以上100μm以下であることが好ましい。ここで、この膜厚の数値は、開口32Aの開口径と、膜内空間32の高さとのアスペクト比(すなわち、開口32Aの開口径を、膜内空間32の高さで除した値)が2を超えることが現実的には不可能なことから導出される数値である。なお、単層の多孔膜30を使用する場合、膜厚は0.5~10μmが望ましい。また、複数の多孔膜30を積層して用いる場合、多孔膜30の総膜厚は10~200μmが望ましい。
【0029】
マイクロ流体デバイス110は、キャビティユニット16を厚さ方向に圧縮した状態で保持する保持部材としての一対の保持プレート38を有している。一対の保持プレート38は、キャビティユニット16の厚さ方向における両端、すなわち上側キャビティ部材12の上側及び下側キャビティ部材14の下側にキャビティユニット16と別体に設けられており、上側キャビティ部材12の上面全体及び下側キャビティ部材14の下面全体を覆う大きさとされている。
【0030】
図2に示すように、一対の保持プレート38の互いに対応する位置には、厚さ方向に貫通する複数(本実施形態では8つ)のボルト孔40がそれぞれ形成されている。また、上側キャビティ部材12の上側に設けられている保持プレート38には、上側キャビティ部材12の貫通孔22A、22B、28A、28Bにそれぞれ連通する貫通孔42A、42B、44A、44Bがそれぞれ形成されている。
【0031】
図1に示すように、貫通孔42A、44Aには流入チューブ62A、64Aがそれぞれ接続され、また、貫通孔42B、44Bには流出チューブ62B、64Bがそれぞれ接続されている。各種処理液及び細胞懸濁液は、流入チューブ62A、64Aを通して上側マイクロ流路18及び下側マイクロ流路24に流入する。上側マイクロ流路18及び下側マイクロ流路24を通過した各種溶液及び細胞懸濁液は、流出チューブ62B、64Bから流出する。
【0032】
一対の保持プレート38間におけるキャビティユニット16の凹部29の外側には、保持プレート38の間隔を規定する複数(本実施形態では8つ)のスペーサ46がそれぞれ設けられている。スペーサ46は、内径がボルト孔40の内径と略同じ大きさとされた円筒形状の部材であり、ボルト孔40に対応する位置にそれぞれ配置されている。
【0033】
一対の保持プレート38は、ボルト孔40及びスペーサ46に挿通されてナット48で固定された複数のボルト50によって互いに接合される。このとき、上側キャビティ部材12及び下側キャビティ部材14は、間に多孔膜30を挟んだ状態で一対の保持プレート38によって圧縮されて保持される。
【0034】
図5は、本開示の技術の実施形態に係る多孔膜の透過性の評価に用いる評価システム200の構成の一例を示す図である。評価システム200は、マイクロ流体デバイス110に加え、流量制御装置120、貯留部130及び流量センサ140を含んで構成されている。
【0035】
貯留部130には、マイクロ流体デバイス110の上側マイクロ流路18に供給される液体131を貯留する。上側マイクロ流路18に接続された流入チューブ62Aの先端部は、貯留部130に貯留された液体131内に挿入されている。
【0036】
流量制御装置120は、マイクロ流体デバイス110の上側マイクロ流路18に供給される液体131の流量(単位時間あたりの体積)を制御する機能を有する。流量制御装置120の排気口121には送気チューブ122の一端が接続され、送気チューブ122の他端は、貯留部130の気体導入口132に接続されている。流量制御装置120の排気口121から気体が排出されることで、貯留部130の内部の圧力が上昇し、貯留部130に貯留された液体131が、上側マイクロ流路18に供給される。流量制御装置120は、排気口121から排出する気体の圧力(以下、供給圧力という)を制御することで、上側マイクロ流路18に供給される液体131の流量を制御する。供給圧力は、貯留部130に貯留された液体131の液面に対する押圧である。供給圧力は、ユーザが任意に設定することが可能であり、供給圧力を連続的に変化させることも可能である。流量制御装置120として、例えば、ELVESYS社製ELVEFLOW(登録商標)を用いることが可能である。
【0037】
下側マイクロ流路24に接続された流出チューブ64Bは、流量センサ140が接続されている。流量センサ140は、下側マイクロ流路24を流れる液体の流量を検出し、検出した流量を出力する。
【0038】
上側マイクロ流路18に接続された流出チューブ62B及び下側マイクロ流路24に接続された流入チューブ64Aは、それぞれ、閉塞状態とされている。
【0039】
以下に、評価システム200を用いた本開示の技術の実施形態に係る多孔膜30の透過性の評価方法について説明する。図6は、評価システム200における流路構成を模式的に示した図である。図7は、本開示の技術の実施形態に係る多孔膜30の透過性の評価方法の一例を示すフローチャートである。
【0040】
はじめに、上側マイクロ流路18及び下側マイクロ流路24にそれぞれ、液体を充填する(ステップS1)。その後、流量制御装置120を稼働させる。流量制御装置120の供給圧力は、これが時間とともに変化するように設定される。すなわち、上側マイクロ流路18に供給圧力を変化させながら液体131を供給する(ステップS2)。供給圧力が時間とともに変化することで、貯留部130から上側マイクロ流路18に供給される液体131の流量が変化する。予め液体が充填された上側マイクロ流路18に更に液体131が供給されることで、上側マイクロ流路18に収容された液体は、多孔膜30を透過して下側マイクロ流路24に流出する。これにより下側マイクロ流路24において液流が発生する。下側マイクロ流路24を流れる液体の流量は、流量制御装置120における供給圧力に応じて変化し、且つ、多孔膜30の透過性に応じたものとなる。次に、流量センサ140によって、下側マイクロ流路24を流れる液体の流量の経時変化を評価指標として取得する(ステップS3)。
【0041】
図8は、流量制御装置120における供給圧力の時間推移の一例を示すグラフである。図8に示すように、供給圧力は、時間に対してリニアに変化するように設定されてもよい。図9は、供給圧力を時間に対してリニアに変化させた場合の下側マイクロ流路24を流れる液体の流量の時間推移の一例を示すグラフである。図9において、実線は多孔膜30の透過性が相対的に高い場合に対応し、点線は多孔膜30の透過性が相対的に低い場合に対応する。多孔膜30の透過性が相対的に高い場合には、多孔膜30の透過性が相対的に低い場合と比較して、下側マイクロ流路24を流れる液体の流量の変化率(傾き)は大きくなる。従って、下側マイクロ流路24を流れる液体の流量をモニタすることで、多孔膜30の透過性の評価を行うことが可能である。
【0042】
ステップS3において取得される、下側マイクロ流路24を流れる液体の流量の経時変化として、図9に示されるような、流量の時間推移を示すグラフを取得してもよい。また、下側マイクロ流路24を流れる液体の流量の経時変化として、下側マイクロ流路24を流れる液体の流量の変化率(傾き)を取得してもよい。具体的には、下側マイクロ流路24を流れる液体の流量の期間ΔTにおける変化量をΔQとしたとき、ΔQ/Δtを上記変化率(傾き)として取得してもよい。また、供給圧力をPとした場合の下側マイクロ流路24を流れる液体の流量をQとしたとき、Q/Pを、下側マイクロ流路24を流れる液体の流量の経時変化として取得してもよい。また、互いに異なる供給圧力P、P、・・・、Pにおける下側マイクロ流路24を流れる液体の流量をそれぞれQ、Q、・・・、Qとしたとき、Q/P、Q/P、・・・、Q/Pの平均値を、下側マイクロ流路24を流れる液体の流量の経時変化として取得してもよい。
【0043】
図10は、本開示の技術の実施形態に係る評価方法を用いて、孔径または開口率が異なる複数種の多孔膜の透過性を評価した結果の一例を示す図である。すなわち、図10には、供給圧力を時間に対してリニアに変化させた場合における、下側マイクロ流路24を流れる液体の流量の時間推移が複数種の多孔膜A~Iのそれぞれについて示されている。多孔膜A~Iの概要を下記の表1に示す。
【表1】

【0044】
図10に示すように、多孔膜の孔径が大きい程、また、多孔膜の開口率が大きい程、下側マイクロ流路24を流れる液体の流量の変化率(傾き)は大きくなる結果となった。なお、多孔膜F及び多孔膜Gにおいて、時間変化に対する流量の変化が非線形となっているのは、流路内に意図しないリークが生じたためである。
【0045】
以上のように、本開示の技術の実施形態に係る多孔膜の透過性の評価方法は、上側マイクロ流路18に供給圧力を変化させながら、液体を供給した場合の、下側マイクロ流路24に収容された液体に生じる変化を多孔膜の透過性の評価指標として取得するものである。本実施形態においては、「下側マイクロ流路24に収容された液体に生じる変化」として、下側マイクロ流路24を流れる液体の流量の経時変化が取得される。
【0046】
本開示の技術の実施形態に係る評価方法によれば、例えば、上側マイクロ流路18に蛍光体を含有した液体を収容し、下側マイクロ流路24に蛍光体を含まない液体を収容し、液体中を拡散し、多孔膜を透過して下側マイクロ流路24に漏洩する蛍光体から放射される光の量をモニタする方法と比較して、多孔膜の透過性の評価を短時間で行うことが可能となる。
【0047】
[第2の実施形態]
図11は、本開示の技術の第2の実施形態に係る評価システム200Aの構成の一例を示す図である。図12は、評価システム200Aの流路構成を模式的に示した図である。評価システム200Aは、第1の実施形態に係る評価システム200における流量センサ140に代えて光量センサ141を備えている。
【0048】
以下に、評価システム200Aを用いた本開示の技術の第2の実施形態に係る多孔膜30の透過性の評価方法について説明する。図13は、本開示の技術の第2の実施形態に係る多孔膜30の透過性の評価方法の一例を示すフローチャートである。
【0049】
はじめに、上側マイクロ流路18に蛍光体を含む液体を充填する(ステップS11)。次に、下側マイクロ流路24に蛍光体を含まない液体を充填する(ステップS12)。その後、流量制御装置120を稼働させる。流量制御装置120の供給圧力は、これが時間とともに変化するように設定される。貯留部130には、蛍光体を含む液体131が収容されている。すなわち、上側マイクロ流路18に供給圧力を変化させながら蛍光体を含む液体131を供給する(ステップS13)。供給圧力が変化することで、貯留部130から上側マイクロ流路18に供給される液体131の流量が変化する。予め蛍光体を含む液体が充填された上側マイクロ流路18に更に蛍光体を含む液体131が供給されることで、上側マイクロ流路18に収容された蛍光体を含む液体は、多孔膜30を透過して下側マイクロ流路24に流出する。これにより下側マイクロ流路24において蛍光体を含む液体による液流が発生する。下側マイクロ流路24を流れる液体に対して、図示しない光源から励起光が照射される。これにより、下側マイクロ流路24を流れる液体に含まれる蛍光体から光が放射される。下側マイクロ流路24を流れる液体に含まれる蛍光体から放射される光の量(以下、蛍光光量という)の変化率は、流量制御装置120における供給圧力に応じて変化し、且つ、多孔膜30の透過性に応じたものとなる。次に、光量センサ141によって、蛍光光量の経時変化を評価指標として取得する(ステップS14)。
【0050】
図14は、供給圧力を時間に対してリニアに変化させた場合の、蛍光光量の時間推移の一例を示すグラフである。図14において、実線は多孔膜30の透過性が相対的に高い場合に対応し、点線は多孔膜30の透過性が相対的に低い場合に対応する。多孔膜30の透過性が相対的に高い場合には、多孔膜30の透過性が相対的に低い場合と比較して、蛍光光量の変化率(傾き)は大きくなる。従って、蛍光光量をモニタすることで、多孔膜30の透過性の評価を行うことが可能である。
【0051】
ステップS14において取得される蛍光光量の経時変化として、図14に示されるような、蛍光光量の時間推移を示すグラフを取得してもよい。また、蛍光光量の経時変化として、蛍光光量の変化率(傾き)を取得してもよい。具体的には、蛍光光量の、期間ΔTにおける変化量をΔLとしたとき、ΔL/Δtを上記変化率(傾き)として取得してもよい。また、供給圧力をPとした場合の、蛍光光量をLとしたとき、L/Pを蛍光光量の経時変化として取得してもよい。また、互いに異なる供給圧力P、P、・・・、Pにおける蛍光光量をそれぞれL、L、・・・、Lとしたとき、L/P、L/P、・・・、L/Pの平均値を、蛍光光量の経時変化として取得してもよい。
【0052】
以上のように、本実施形態においては、「下側マイクロ流路24に収容された液体に生じる変化」として、下側マイクロ流路24に含まれる蛍光体から放射される光の量の経時変化が取得される。本実施形態に係る評価方法によれば、第1の実施形態に係る評価方法と同様、多孔膜の透過性の評価を短時間で行うことが可能となる。
【0053】
[第3の実施形態]
図15は、本開示の技術の第3の実施形態に係る評価システム200Bの構成の一例を示す図である。図16は、評価システム200Bの流路構成を模式的に示した図である。評価システム200Bは、第1の実施形態に係る評価システム200における流量センサ140に代えて濃度センサ142を備えている。
【0054】
以下に、評価システム200Bを用いた本開示の技術の第3の実施形態に係る多孔膜30の透過性の評価方法について説明する。図17は、本開示の技術の第3の実施形態に係る多孔膜30の透過性の評価方法の一例を示すフローチャートである。
【0055】
はじめに、上側マイクロ流路18に特定成分を含む液体を充填する(ステップS21)。次に、下側マイクロ流路24に特定成分を含まない液体を充填する(ステップS22)。その後、流量制御装置120を稼働させる。流量制御装置120の供給圧力は、これが時間とともに変化するように設定される。貯留部130には、特定成分を含む液体131が収容されている。すなわち、上側マイクロ流路18に供給圧力を変化させながら特定成分を含む液体131を供給する(ステップS23)。供給圧力が変化することで、貯留部130から上側マイクロ流路18に供給される液体131の流量が変化する。予め特定成分を含む液体が充填された上側マイクロ流路18に更に特定成分を含む液体131が供給されることで、上側マイクロ流路18に収容された特定成分を含む液体は、多孔膜30を透過して下側マイクロ流路24に流出する。これにより下側マイクロ流路24において特定成分を含む液体による液流が発生する。下側マイクロ流路24を流れる液体における特定成分の濃度(以下、特定成分濃度という)の変化率は、流量制御装置120における供給圧力に応じて変化し、且つ、多孔膜30の透過性に応じたものとなる。次に、濃度センサ142によって、特定成分濃度の経時変化を評価指標として取得する(ステップS24)。なお、特定成分としては、定量可能な物質なら何でも良く、例えば、色素、導電性物質、酵素、ナノ粒子、放射性同位体を含む物質、核酸、糖鎖などが挙げられる。液体クロマトグラフィ等の手法を用いることで、殆どの物質は定量可能である。
【0056】
図18は、供給圧力を時間に対してリニアに変化させた場合の、特定成分濃度の時間推移の一例を示すグラフである。図18において、実線は多孔膜30の透過性が相対的に高い場合に対応し、点線は多孔膜30の透過性が相対的に低い場合に対応する。多孔膜30の透過性が相対的に高い場合には、多孔膜30の透過性が相対的に低い場合と比較して、特定成分濃度の変化率(傾き)は大きくなる。従って、特定成分濃度をモニタすることで、多孔膜30の透過性の評価を行うことが可能である。
【0057】
ステップS24において取得される特定成分濃度の経時変化として、図18に示されるような、特定成分濃度の時間推移を示すグラフを取得してもよい。また、特定成分濃度の経時変化として、特定成分濃度の変化率(傾き)を取得してもよい。具体的には、特定成分濃度の、期間ΔTにおける変化量をΔCとした場合、ΔC/Δtを上記変化率(傾き)として取得してもよい。また、供給圧力をPとした場合の、特定成分濃度をCとしたとき、C/Pを特定成分濃度の経時変化として取得してもよい。また、互いに異なる供給圧力P、P、・・・、Pにおける特定成分濃度をそれぞれC、C、・・・、Cとしたとき、C/P、C/P、・・・、C/Pの平均値を特定成分濃度の経時変化として取得してもよい。
【0058】
本実施形態に係る評価方法によれば、第1の実施形態に係る評価方法と同様、多孔膜の透過性の評価を短時間で行うことが可能となる。
【0059】
[第4の実施形態]
図19及び図20は、それぞれ、本開示の技術の第4の実施形態に係る細胞の評価方法の一例を示す流路構成図及びフローチャートである。
【0060】
本実施形態に係る細胞の評価方法は、マイクロ流体デバイス110の多孔膜30の表面に、評価対象の細胞を培養することを含む(ステップS31)。例えば、多孔膜30の上側マイクロ流路18側の表面に内皮細胞301を培養し、多孔膜30の下側マイクロ流路24側の表面に平滑筋細胞302を培養してもよい。これにより、マイクロ流体デバイス110内において、血管(動脈)を模擬した構造体を形成することができる。内皮細胞301及び平滑筋細胞302は、上側マイクロ流路18及び下側マイクロ流路24に収容された培養液に浸漬された状態で培養される。なお、多孔膜30の一方の表面にのみ評価対象の細胞を培養してもよい。
【0061】
本実施形態に係る細胞の評価方法は、上記した第1乃至第3の実施形態のいずれかに係る多孔膜30の透過性の評価指標を、多孔膜30の表面に培養された評価対象の細胞のバリア性の指標として取得することを含む。すなわち、上側マイクロ流路18に供給圧力を変化させながら液体を供給した場合の、下側マイクロ流路24に収容された液体に生じる変化を、評価対象の細胞のバリア性の指標として取得する(ステップS32)。ここで、細胞のバリア性とは、多孔膜30の表面に培養された評価対象の細胞が上側マイクロ流路18に供給される液体の下側マイクロ流路24への漏洩を阻止する性能を意味する。
【0062】
多孔膜30の表面に培養された細胞が健全である場合、当該細胞のバリア性によって、上側マイクロ流路18から下側マイクロ流路24への液体の流出が抑制される。一方、多孔膜30の表面に培養された細胞に異常が生じ、当該細胞のバリア性が低下すると、上側マイクロ流路18から下側マイクロ流路24への液体の流出量が増加する。従って、上記した第1乃至第3の実施形態に係る多孔膜30の透過性の評価指標を、多孔膜30の表面に培養された評価対象の細胞のバリア性の指標として用いることが可能である。
【0063】
例えば、第1の実施形態に係る多孔膜30の透過性の評価指標を、評価対象の細胞のバリア性の指標として用いる場合、上側マイクロ流路18に供給圧力を変化させながら液体を供給した場合の、下側マイクロ流路を流れる液体の流量の経時変化が、評価対象の細胞のバリア性の指標として用いられる。
【0064】
本実施形態に係る細胞の評価方法によれば、例えば、上側マイクロ流路18に蛍光体を含有した液体を収容し、下側マイクロ流路24に蛍光体を含まない液体を収容し、液体中を拡散し、多孔膜を透過して下側マイクロ流路24に漏洩する蛍光体から放射される光の量をモニタする方法と比較して、細胞のバリア性の評価を短時間で行うことが可能となる。
【0065】
[第5の実施形態]
図21は、本開示の技術の第5の実施形態に係る薬剤の評価方法の一例を示すフローチャートである。
【0066】
本実施形態に係る薬剤の評価方法は、マイクロ流体デバイス110の多孔膜30の表面に、細胞を培養することを含む(ステップS41)。例えば、図19に示すように、多孔膜30の上側マイクロ流路18側の表面に内皮細胞301を培養し、多孔膜30の下側マイクロ流路24側の表面に平滑筋細胞302を培養してもよい。これにより、マイクロ流体デバイス110内において、血管(動脈)を模擬した構造体を形成することができる。なお、多孔膜30の一方の表面にのみ評価対象の細胞を培養してもよい。
【0067】
本実施形態に係る薬剤の評価方法は、多孔膜30の表面に培養された細胞を評価対象の薬剤に晒すことを含む(ステップS42)。すなわち、上側マイクロ流路18及び下側マイクロ流路24の各々に、評価対象の薬剤を含む液体が供給される。
【0068】
本実施形態に係る薬剤の評価方法は、上記した第1乃至第3の実施形態のいずれかに係る多孔膜30の透過性の評価指標を、評価対象の薬剤の細胞に対する毒性の指標として取得することを含む。すなわち、上側マイクロ流路18に供給圧力を変化させながら液体を供給した場合の、下側マイクロ流路24に収容された液体に生じる変化を、評価対象の薬剤の細胞に対する毒性の指標として取得する(ステップS43)。
【0069】
多孔膜30の表面に培養された細胞が健全である場合、これらの細胞のバリア性によって、上側マイクロ流路18から下側マイクロ流路24への液体の流出が抑制される。評価対象の薬剤が多孔膜30の表面に培養された細胞に対する毒性を有する場合、当該細胞に異常が生じ、当該細胞のバリア性が低下すると、上側マイクロ流路18から下側マイクロ流路24への液体の流出量が増加する。従って、上記した第1乃至第3の実施形態に係る多孔膜30の透過性の評価指標を、評価対象の薬剤の細胞に対する毒性の指標として用いることが可能である。
【0070】
例えば、第1の実施形態に係る多孔膜30の透過性の評価指標を、評価対象の薬剤の細胞に対する毒性の指標として取得する場合、上側マイクロ流路18に供給圧力を変化させながら液体を供給した場合の、下側マイクロ流路を流れる液体の流量の経時変化が、評価対象の薬剤の細胞に対する毒性の指標として取得される。
【0071】
図22は、本実施形態に係る評価方法を用いて、薬剤の毒性を評価した結果の一例を示す図である。すなわち、図22には、供給圧力を時間に対してリニアに変化させた場合における、下側マイクロ流路24を流れる液体の流量の時間推移が、評価対象の液体A~Eのそれぞれについて示されている。液体A~Eの概要を下記の表2に示す。液体A及び液体Bは、基本培地に、溶剤としてのDMSO(ジメチルスルホキシド)を加えたものに、評価対象の薬剤である濃度50μg/mlのcytochalasinを含有させたものである。液体C及び液体Dは、基本培地に、溶剤としてのDMSOを加えたものであり、評価対象の薬剤を含まない。液体Eは、基本培地を含み、DMSO及び評価対象の薬剤を含まない。なお、多孔膜30の上側マイクロ流路18側の表面に内皮細胞301を培養し、多孔膜30の下側マイクロ流路24側の表面に平滑筋細胞302を培養した。多孔膜30として、Millipore0.4μm(孔径0.4μm)を使用した。
【表2】

【0072】
薬剤としてcytochalasinを含む液体A及び液体Bに細胞を晒した場合の、下側マイクロ流路24を流れる液体の流量の変化率(傾き)は、Vehicle(液体C、液体D)及びControl(液体E)よりも顕著に大きくなった。このことは、液体A及び液体Bに含まれるcytochalasinが、内皮細胞301及び平滑筋細胞302に対して毒性を有することを示している。
【0073】
本実施形態に係る薬剤の評価方法によれば、例えば、上側マイクロ流路18に蛍光体を含有した液体を収容し、下側マイクロ流路24に蛍光体を含まない液体を収容し、液体中を拡散し、多孔膜を透過して下側マイクロ流路24に漏洩する蛍光体から放射される光の量をモニタする方法と比較して、薬剤の細胞に対する毒性の評価を短時間で行うことが可能となる。
【0074】
なお、2019年9月18日に出願された日本国特許出願2019-169806の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。また、本明細書に記載された全ての文献、特許出願および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22