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  • 特許-変位測定装置 図1
  • 特許-変位測定装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-11
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】変位測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 21/00 20060101AFI20220512BHJP
   G01D 5/12 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
G01B21/00 A
G01D5/12 N
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017217250
(22)【出願日】2017-11-10
(65)【公開番号】P2019086493
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100143720
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100080252
【氏名又は名称】鈴木 征四郎
(72)【発明者】
【氏名】夜久 亨
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-056701(JP,A)
【文献】特開2017-067629(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105759246(CN,A)
【文献】特開平11-122902(JP,A)
【文献】特開2009-270647(JP,A)
【文献】特開2014-059297(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104101491(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00
G01D 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スケール収容筐体に収容されたスケールと、
前記スケールに対して相対移動可能に設けられ、前記スケールに対する相対変位を測定する位置検出用の第1センサを有するスライダと、を備えた変位測定装置において、
前記スライダおよび前記スケール収容筐体の少なくとも一方に第2センサが設けられ、
前記第2センサは、硫化水素、二酸化硫黄、窒素酸化物および酸素のうちの少なくとも一つを検出するものである
ことを特徴とする変位測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変位測定装置において、
外部機器から位置データ要求信号を受信したとき、当該変位測定装置は位置データとともに前記第2センサによる測定値を取得し、
当該変位測定装置から外部機器にデータを送信するときには、前記位置データと合わせて前記第2センサによる前記測定値を送信する
ことを特徴とする変位測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の変位測定装置において、
さらに、警報器が設けられ、
前記第2センサによる測定値が所定の閾値に達した場合、当該警報器から使用者に報知する
ことを特徴とする変位測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変位測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業機械において精密な位置制御を行うため、変位測定装置、いわゆるエンコーダが利用されている(特許文献1、2)。変位測定装置には、直線変位を計測するリニヤエンコーダの他、回転角(あるいは回転量)を計測するロータリーエンコーダもある。これら変位測定装置は、フライス盤や旋盤などの工作機械に搭載され、変位測定装置による計測に基づいた工作機械の動作制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-301541
【文献】特開2017-067629
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
変位測定装置は例えば工作機械の制御に利用されるものであるが、工作機械の使用環境は変位測定装置にとっては苛酷な環境であり、場合によっては測定精度が急激に劣化する場合がある。
例えば、工作機械ではワークの加工にあたって切削液が使用される。近年では、環境負荷を低減するため、水溶性切削液が使用されるようになってきている。水溶性切削液の場合、液中にバクテリアが繁殖してしまって硫化水素が発生する場合がある。各工場の作業ガイドラインにおいて切削液を適切に管理して定期的に廃棄することが決められており、もちろん作業者はガイドラインに従って適切な管理を行ってはいる。
【0005】
変位測定装置は、その構造上、スケールやステータの収容筐体の開口部が存在し、そこから液が浸入し、内部に滞留することがある。もちろん、開口部はできる限り液密な構造に設計されてはいるが、液の浸入を完全には防止できない。内部に滞留した切削液から硫化水素が発生すると、変位測定装置に実装されている電子部品の電極を腐食させてしまう恐れがある。これは、例えば、コネクタやリレーなどの接触不良を招いたりする恐れがある。
また、光学式の変位測定装置では反射膜を有する光学デバイス(例えば反射型回折格子)を有するが、硫化水素はその反射膜を腐食させて反射率を低下させてしまう。
特に、スケールやステータの収容筐体が液密な構造になっているため、もし収容筐体内でバクテリアが繁殖すると硫化水素の濃度が高くなりやすいという問題もある。
【0006】
また、工作機械の可動部にはボールベアリング等のベアリングが設けられるが、ベアリングが摩耗してくると工作機械に微小な振動が発生し、変位測定装置の精度に大きな影響を与えることもある。
【0007】
また、工作機械の駆動源としてリニヤモータが使用されることがある。リニヤモータからの磁気漏洩が大きいと変位測定装置の精度が劣化する。
【0008】
ちなみに、変位測定装置の精度が劣化しているかもしれないと気付いたとして、変位測定装置を分解しても原因が掴めないこともある。例えば、収容筐体に浸入した切削液が硫化水素を発生させたあと蒸発してしまっていることもある。振動や磁漏は工作機械の使用中にだけ生じる問題であるから、変位測定装置だけを詳細に調べても原因は分からない。サービスマンが現場に行って設置状況から点検すればわかるかもしれないが、これは大変な労力が必要である。
【0009】
本発明の目的は、変位測定装置が環境を自主検出できるようにし、環境の悪化あるいは測定精度の劣化要因に事前に気付くようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の変位測定装置は、
スケール収容筐体に収容されたスケールと、
前記スケールに対して相対移動可能に設けられ、前記スケールに対する相対変位を測定するスライダと、を備えた変位測定装置において、
前記スライダおよび前記スケール収容筐体の少なくとも一方に第2センサが設けられ、
前記第2センサは、硫化水素、二酸化硫黄、窒素酸化物、酸素、振動、音および磁気のうちの少なくとも一つを検出するものである
ことを特徴とする。
【0011】
本発明では、
外部機器から位置データ要求信号を受信したとき、当該変位測定装置は位置データとともに前記第2センサによる測定値を取得し、
当該変位測定装置から外部機器にデータを送信するときには、前記位置データと合わせて前記第2センサによる前記測定値を送信する
ことが好ましい。
【0012】
本発明では、
さらに、警報器が設けられ、
前記第2センサによる前記測定値が所定の閾値に達した場合、当該警報器から使用者に報知する
ことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】変位測定装置の構成を示す図である。
図2】変位測定装置の分解斜視図である。
図3】変位測定装置の断面図を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1は、変位測定装置100の構成を示す図である。
変位測定装置100そのものは既知のものであるが、簡単に説明しておく。
変位測定装置100は、長手状のスケール部200と、スケール部200に対して相対的にスライド移動可能に設けられたスライダ300と、と備える。
図2は、変位測定装置100の分解斜視図である。
スケール部200は、長手状のメインスケール210と、メインスケール210を収容するスケール収容筐体220と、を備える。
メインスケール210は、主としてガラス基板で構成されており、測長軸方向に目盛りが形成されている。光電式の例でいうと目盛りは回折格子である。
【0015】
スケール収容筐体220は中空かつ長尺状であり、例えばアルミニウム等の(軽量の)金属製であることが多い。
スケール収容筐体220は、その側面に軸方向に沿ったスリット221を有している。
メインスケール210は、スケール収容筐体220の内部に取り付け固定される。
スリット221の両側壁には、スリット221の開口を閉じるように樹脂(ゴム)製の薄板222、222が配設されている。この二枚のゴム板222、222により、スリット221からスケール収容筐体220の内部に液体(油や切削液など)がなるべく浸入しないようにしている。
【0016】
スライダ300は、スケール収容筐体220の長手方向に相対移動可能に設けられており、メインスケール210に対する相対変位量あるいは相対位置を検出する。
スライダ300は、メインスケール210上をメインスケール210に沿って走行する走行体310と、スケール収容筐体220の外部にあってスケール部200に沿ってスライド移動するキャリッジ部320と、
走行体310とキャリッジ部320とを連結する連結手段としてのネック部380と、を備える。走行体310には検出部が搭載され、検出部はメインスケール210に対する相対変位量を検出する。検出部は、例えば、発光素子と受光素子とで構成されている。
【0017】
図3は、変位測定装置100の断面図を模式的に示す図である。
図3中、図が見やすいように、断面のハッチングは省略した。)
図3においては、変位測定装置100を工作機械の可動部に取り付けている。
具体的には、キャリッジ部320を移動ステージ90のステージ91側に取り付け、スケール部200を移動ステージ90の基台92側に取り付けている。
キャリッジ部320は、キャリッジ筐体321と、キャリッジ筐体321の内部に収納された電装ユニット330と、を有する。電装ユニット330としては、光源の発光制御回路や、受光素子からの受光信号を処理する信号処理部などを搭載している。また、キャリッジ筐体321には、外部機器と接続するためのコネクタ340が設けられている。
【0018】
さらに、キャリッジ筐体321の内部には、センサ(第2センサ)350が配設されている。
このセンサ350は、硫化水素を検出する硫化水素センサ350である。硫化水素センサ350は、電装ユニット330に電気的に接続されており、硫化水素センサ350から出力される検知信号は電装ユニット330およびコネクタ340を介して外部に出力されるようになっている。
【0019】
変位測定装置にとって、位置検出用のセンサ(例えば受光素子)が第1のセンサであるから、この硫化水素センサを第2のセンサとする。
【0020】
なお、図3中においてはスケール収容筐体220の内部に切削液50が浸入して滞留している状態を例示している。
【0021】
このような本実施形態の構成において、スケール収容筐体の内部に侵入して滞留した切削液にバクテリアが繁殖して硫化水素が発生する場合がある。硫化水素は、スケール収容筐体の内部に充満したり、信号配線経路を通ってキャリッジ筐体321にも侵入したり、もちろん、スリット221を抜けて外部にも漏れる。
発生した硫化水素は、硫化水素センサ350で検出される。
硫化水素センサ350にて測定された硫化水素濃度データは電装ユニット330を介して外部機器(不図示)に送信される。
例えば、変位測定装置100が外部機器から位置データ要求信号を受信したとき、電装ユニット330は、位置データとともに硫化水素濃度データを取得する。
変位測定装置100から外部機器にデータを送信するときには、位置データに引き続いて硫化水素濃度データも送信する。これにより、外部機器は、位置データとともに、変位測定装置100が配設されている場所の硫化水素濃度を取得する。硫化水素濃度が高い場合、外部機器は、使用者に対して警告を発し、使用者に環境浄化を促すようにする。
【0022】
さらには、硫化水素濃度データは位置データとともに送られてくるので、キャリッジ部320が可動範囲を走査したときに可動範囲内において硫化水素濃度が特に高い領域を把握することができる。
スケール210の長さは、長いものでは2mから3mになる。変位測定装置100のキャリッジ部320に硫化水素センサ350を内蔵しておくことにより、2m~3mにわたる広い範囲において、しかも詳細な硫化水素濃度マップを得ることができる。これにより、硫化水素濃度が高い範囲のみについて効率的に環境浄化を行うことができる。
【0023】
(変形例1)
キャリッジ部320に警報ランプ360を取り付け、硫化水素センサ350で測定された硫化水素濃度に応じたステイタスを報知するように警報ランプ360を点灯させてもよい。
硫化水素濃度に応じたステイタスを例えば次のように設定しておく(閾値は例示であって、閾値の設定数や値は適宜変更されたい)。
硫化水素濃度が1ppm未満: 安全ステイタス
硫化水素濃度が1ppm以上5ppm未満: 注意ステイタス
硫化水素濃度が5ppm以上: 危険ステイタス
そして、警報ランプ360の点灯様式はステイタスによって異なるようにし、例えば、安全ステイタスでは緑色、注意ステイタスでは黄色、危険ステイタスでは赤色を点灯させるようにする。
これによって、使用者に対して注意喚起を与えることができる。
同時に、外部機器へステイタス情報を送信することもできる。
【0024】
警報ランプ360は、警報音を発する警報スピーカに置換してもよいだろう。
【0025】
(変形例2)
上記実施形態ではキャリッジ部320に硫化水素センサ350を搭載する例を説明した。
キャリッジ部320にはもともと電装ユニット330が収納されているので、硫化水素センサ350と電装ユニット330とを電気的に接続し易いメリットがある。
ただし、硫化水素センサ350をスケール収容筐体220の内部に配設するようにしてもよい。
スケール収容筐体220の内部に切削液50が滞留して硫化水素が発生することが考えられるのであるから、硫化水素センサ350をスケール収容筐体220の内部に設置することには一理ある。
電気的な信号をやり取りする手段としては、スケール収容筐体220から信号線を別途引き出すようにしてもよいだろうし、硫化水素センサ350から無線で信号を送受信するようにしてもよいだろう。
【0026】
変位測定装置100は常に水平に設置されるとは限らず、極端にはスケール210を縦向きにして高さ変位の測定に使用されることもある。あるいは、工作機械の可動部がもともと傾斜していれば、スケール210も傾斜した状態で取り付けられる。
このような場合、硫化水素は空気よりやや重いためスケール収容筐体220のなかでも重力方向で下の方から充満してくるわけであるから、硫化水素センサ350はスケール収容筐体220のなかのなるべく下寄りに設置するのがよいだろう。
【0027】
(変形例3)
上記実施形態の説明において、センサ350は硫化水素センサ350であったが、変位測定装置100に搭載するセンサ350としては、振動センサ、マイク、あるいは、磁気センサであってもよい。
振動センサは加速度計であってもよい。
変位測定装置100が取り付けられている可動部(例えば工作機械の移動ステージ9190)に何か故障の予兆があると、それは微小な振動として変位測定装置100に伝わる。この振動を変位測定装置100の振動センサで検知する。
【0028】
あるいは、可動部(例えば工作機械の移動ステージ9190)に何か故障の予兆があると、部品同士がわずかに擦れたり軋んだりして微小なノイズ音を発する。この微小なノイズ音が変位測定装置100に伝わるので、検知する。
【0029】
また、可動部(例えば工作機械の移動ステージ90)の駆動源としてリニヤモータが使用されている場合、部品の劣化等により磁気が漏洩する場合がある。すると、漏れた磁気が変位測定装置100の動作に影響を与える場合がある。また、変位測定装置100のスケール210に磁気パターンを配したような磁気式のリニヤエンコーダの場合、外部からの磁気の浸入はスケール読み取りに直接影響してしまう。
【0030】
センサで検出された振動データ、音データ、磁気データは変位測定装置100から位置データとともに外部機器に送られる。
これにより、キャリッジ部320が可動範囲を走査したときに可動範囲内において振動、音、磁気が特に高い領域を把握することができる。これにより、振動、音、磁気が特に高い範囲について詳細に検査を行い、工作機械の故障の予兆に早く気付くことができる。
【0031】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
センサ350として、硫化水素を検出する硫化水素センサを例に挙げたが、センサが検出する対象としては二酸化硫黄や窒素酸化物もあり得る。工業地帯の大気には二酸化硫黄や窒素酸化物が通常よりも高い濃度で含まれており、これらがスケール収容筐体の内部の滞留した水溶性切削液に溶け込むと、硫酸、硝酸となってスケールや電装部に影響する恐れがある。
上記に列挙したガスだけでなく、センサ350が検出対象とするガスとしては人体や電子機器(変位測定装置や工作機械)に影響があるものであれば種類を限定しない。例えば、酸素濃度が低すぎたり高濃度過ぎたりする場合には人体に影響があるから、場合によってはセンサ350として酸素センサも有り得る。
もちろん、振動、音、磁気といった物理量についても同様であり、センサ350の検出対象として、人体や電子機器(変位測定装置や工作機械)に影響があるものであれば種類を限定しない。
【0032】
上記実施形態の説明では、直線状のスケールで直線変位を測定する直線変位測定装置を例示したが、ロータリーエンコーダであってもよいことはもちろんである。
センサ350は一つではなく複数備えていても良く、複数のセンサは同じ種類のセンサでも、違う種類のセンサでも良い。
例えば、硫化水素センサ、振動センサ、マイク、磁気センサ、二酸化硫黄センサ、および、窒素酸化物センサのうちから検出したい対象に応じて選ばれる二つ以上のセンサが変位測定装置に搭載されていてもよい。
さらには、同じ種類のセンサが二つ以上あってもよいのであり、例えば、3つの硫化水素センサを長いスケールの両端と真ん中に設けるようにしてもよいだろう。
【符号の説明】
【0033】
50…切削液、
90…移動ステージ、91…ステージ、92…基台、
100…変位測定装置、
200…スケール部、210…メインスケール、220…スケール収容筐体、221…スリット、222…ゴム薄板、
300…スライダ、310…走行体、320…キャリッジ部、321…キャリッジ筐体、330…電装ユニット、340…コネクタ、
350…センサ、360…警報ランプ、380…ネック部。
図1
図2
図3