(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】糸、撚り糸、縫糸、糸の製造方法及び撚り糸の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 10/00 20060101AFI20220513BHJP
D02G 3/46 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
D06M10/00 Z
D02G3/46
(21)【出願番号】P 2017232640
(22)【出願日】2017-12-04
【審査請求日】2020-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591030020
【氏名又は名称】株式会社フジックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】谷口 淳
(72)【発明者】
【氏名】伴野 統哉
(72)【発明者】
【氏名】福元 綾真
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-170070(JP,A)
【文献】特開2016-057256(JP,A)
【文献】特開2013-233540(JP,A)
【文献】特開2011-242463(JP,A)
【文献】特開2010-048902(JP,A)
【文献】特開2013-213293(JP,A)
【文献】特開2003-268647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M10/00-23/18
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
G02B1/10-1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にモスアイ構造が付与され、可視光域における反射率が1%以下
であり、前記モスアイ構造は、モスアイ構造が付与されない場合に比べて、可視光域における透過率が3%以上増大するものである、合成繊維又は再生繊維の糸。
【請求項2】
表面にモスアイ構造が付与され、生地上に配置して測定したときの色度と、生地のみを測定したときの色度との色差△E
CMC値が1以下であ
り、且つ透明であり、前記モスアイ構造は、モスアイ構造が付与されない場合に比べて、可視光域における透過率が3%以上増大するものである
、合成繊維又は再生繊維の糸。
【請求項3】
前記モスアイ構造の径に対する高さの比(高さ/径)が1以上である請求項1
又は請求項
2に記載の糸。
【請求項4】
前記モスアイ構造の径に対する高さの比(高さ/径)が5以下である請求項1~請求項
3のいずれか1項に記載の糸。
【請求項5】
スパン糸又はフィラメント糸である請求項1~請求項
4のいずれか1項に記載の糸。
【請求項6】
請求項1~請求項
5のいずれか1項に記載の糸で構成される撚り糸。
【請求項7】
請求項
6に記載の撚り糸で構成される縫糸。
【請求項8】
スパン糸又はフィラメント糸に酸素イオンビームを照射して、表面にモスアイ構造を形成する、請求項1~請求項
5のいずれか1項に記載の糸の製造方法。
【請求項9】
請求項
8に記載の製造方法により得られた糸を撚る、請求項
6に記載の撚り糸の製造方法。
【請求項10】
スパンヤーン又はフィラメントヤーンに酸素イオンビームを照射して、表面にモスアイ構造を形成する、請求項
6に記載の撚り糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸、撚り糸、縫糸、糸の製造方法及び撚り糸の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アパレル縫製用の縫糸は、生地の色相に対応し400種類以上の色種があり、縫糸メーカーでは、色数に応じた多品種小ロット染色を行っている。そのため、縫糸の製造や在庫管理に多大な労力及びコストを費やしている。また、そのユーザーである縫製工場においても、アパレルの商品企画毎に縫糸の残糸が生じ、この処分や保管に関して課題を抱えている。
【0003】
かかる欠点を解決するため、例えば、特許文献1では、1色の縫糸でその色に近い数色の衣料の縫製に適用できる性能(以下、カラーマッチング性)を有する高透明性ポリアミド繊維を利用した縫糸が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の縫糸は、上撚り数が100T/m~180T/m程度であり、この範囲においてはカラーマッチング性があるとされているが、当該範囲の上撚り数では本縫いや千鳥ミシンでの高速縫製に耐え得るものではない。そこで、特許文献1において上撚り数を多くすることが考えられるが、実施例5の結果で示されるように上撚り数を750T/mまで高めると、カラーマッチング性が低くなってしまう。
【0006】
本発明は、高速縫製の実用に耐え得る撚り数とした場合でも、生地への色の同化を達成可能な糸、糸の製造方法、この糸で構成される撚り糸、撚り糸の製造方法及び縫糸を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の形態を含む。
【0008】
<1> 表面にモスアイ構造が付与され、可視光域における反射率が1%以下の糸。
<2> 表面にモスアイ構造が付与されない場合に比べて、可視光域における透過率が3%以上増大している<1>に記載の糸。
<3> 表面にモスアイ構造が付与され、生地上に配置して測定したときの色度と、生地のみを測定したときの色度との色差△ECMC値が1以下である糸。
<4> 前記モスアイ構造の径に対する高さの比(高さ/径)が1以上である<1>又~<3>のいずれか1項に記載の糸。
<5> 前記モスアイ構造の径に対する高さの比(高さ/径)が5以下である<1>~<4>のいずれか1項に記載の糸。
<6> スパン糸又はフィラメント糸である<1>~<5>のいずれか1項に記載の糸。
<7> <1>~<6>のいずれか1項に記載の糸で構成される撚り糸。
<8> <7>に記載の撚り糸で構成される縫糸。
<9> スパン糸又はフィラメント糸に酸素イオンビームを照射して、表面にモスアイ構造を形成する、<1>~<6>のいずれか1項に記載の糸の製造方法。
<10> <9>に記載の製造方法により得られた糸を撚る、<7>に記載の撚り糸の製造方法。
<11> スパンヤーン又はフィラメントヤーンに酸素イオンビームを照射して、表面にモスアイ構造を形成する、<7>に記載の撚り糸の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高速縫製の実用に耐え得る撚り数とした場合でも、生地への色の同化を達成可能な糸、糸の製造方法、この糸で構成される撚り糸、撚り糸の製造方法及び縫糸を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で得られた糸の表面の電子顕微鏡写真であり、(A)は表面、(B)は裏面の様子を示す。
【
図2】実施例1で得られた糸の表面の反射率の測定結果を示すグラフである。
【
図3】実施例1で得られた糸の透過率の測定結果を示すグラフである。
【
図4】実験例における、PETフィルムのみ(左)、PETフィルム上にアクリル系樹脂のモスアイ構造を付与したフィルム(右)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0012】
<糸>
本開示の糸は、表面にモスアイ構造が付与され、可視光域における反射率が1%以下である。
糸の表面にモスアイ構造が付与されることにより、糸の表面での光の反射が抑えられ、糸の色が下地の生地の色に同化しやすくなる。例えば、糸が透明であっても糸の表面で光が反射すると白く見えるため、布地の色とは同化しない。これに対して、本発明では、表面にモスアイ構造を付与し、可視光域における反射率を1%以下とすることで、糸の色を生地の色に同化させることができる。
【0013】
本開示の糸によれば、1色の糸でその色に近い数色の衣料の縫製に適用可能である。つまり、糸の色と生地の色との関係が、一色対一色対応ではなく、一色対多色対応とすることが可能である。例えば、12色~50色のミシン糸で、400色以上に渡る生地色に対応可能となる。これにより、生産効率が向上し、染料を含む原材料の品数が低減でき、コストダウンにつながる。また、アパレルユーザーの縫製工場においては、仕様変更後(例えば、シーズン後)の残糸を廃棄物として処理する量を削減でき、グリーンイノベーションへの貢献に繋がるものと期待される。
【0014】
本開示の糸は、表面における反射率が、可視光域において1%以下であり、0.8%以下であることが好ましく、0.5%であることがさらに好ましい。
【0015】
そして、本開示の糸は、表面にモスアイ構造が付与されない場合に比べて、可視光域における透過率が3%以上増大していることが好ましく、5%以上増大していることがより好ましく、10%以上増大していることがさらに好ましい。
表面にモスアイ構造が付与されることで、可視光域における透過率が向上し、その結果、下地の生地の色を映し出すため、糸の色を下地の生地の色に同化させやすくなる。
【0016】
透過率は、糸の太さ等により変動するが、可視光域において、65%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。
【0017】
また、本開示の糸は、表面にモスアイ構造が付与され、生地上に配置して測定したときの色度と、生地のみを測定したときの色度との色差△ECMC値が1以下である糸であってもよい。
表面にモスアイ構造が付与されることにより、糸の表面での反射が抑えられ、さらに可視光域における透過率が向上する傾向にある。そのため、糸を生地上に配置して測定したときの色度は、生地のみを測定したときの色度に対する色差△ECMC値が1以下とすることができ、0.5以下とすることも可能であり、さらには0.3以下とすることも可能である。
【0018】
△ECMC値は、CIE1976(L*,a*,b*)表色系による以下の色差公式から求められる値である(JIS Z 8730:2009)。
【0019】
【0020】
色差△ECMC値の具体的な測定方法は以下のとおりである。
厚紙に染色された生地を貼り付け、その上から測定対象の糸を糸同士が並行となるよう巻き付けて測定サンプルを準備する。巻き付ける際の糸同士の巻取ピッチ及び巻取層数は、生地色が糸と糸の隙間から視認できないことを条件として、繊度に応じて設定する。例えば、糸の繊度が245dtexの場合、0.18mmの3層とする。
評価には、測色機(例えば、積分球分光光度計Color i5、X-rite社製)を用い、上述の測定サンプルで測色を行い、生地色を直接測色した値との比較を行う。比較には、色相管理ソフト(例えば、Color iQC Professional、X-rite社製)を用い、D65光源下でCIE1976(L*,a*,b*)表色系に基づく色差指標△ECMCを求める。
【0021】
糸の表面に付与されたモスアイ構造は、複数の突起物で構成される。各突起物は、ナノオーダーの大きさである。
【0022】
突起物の径に対する高さの比(高さ/径)(以下、「アスペクト比」ともいう)は、1以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2以上であることがさらに好ましい。アスペクト比が1以上であると、反射率の低減の効果が効果的に得られる。
また、アスペクト比は、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。アスペクト比が5以下であると、摩擦や押力などの外力による突起物の形状の変形が抑えられる傾向にある。
【0023】
突起物の高さは、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、200nm以上であることがさらに好ましい。また、突起物の高さは、1000nm以下であることが好ましく、800nm以下であることがより好ましく、500nm以下であることがさらに好ましい。
【0024】
突起物の径は、650nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることがさらに好ましく、150nm以下であることが特に好ましい。また、突起物の径は、35nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、80nm以上であることがさらに好ましい。
【0025】
突起物の間隔(隣り合う突起物の頂点間の距離、ピッチ)は、1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましく、150nm以下であることが特に好ましい。また、ピッチは、20nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましい。
【0026】
糸は、スパン糸(短繊維糸)であっても、フィラメント糸(長繊維糸)であってもよい。
【0027】
糸の断面形状はいずれであってもよく、丸形のほか、扁平形、矩形、Y型等の異形であってもよい。
【0028】
また、糸の材質はいずれであってもよく、綿、絹等の天然繊維であっても、ポリエステル、ナイロン、アクリル等の合成繊維であっても、レーヨン、キュプラ等の再生繊維であってもよい。
【0029】
糸の太さは特に制限されない。例えば、繊度を4dtex~12dtexとすることが好ましく、4dtex~9dtexとすることがより好ましく、6dtex~9dtexとすることがさらに好ましい。
繊度が4dtex以上であると、撚り糸を構成するフィラメント数を必要以上に多くしなくて済み、透明性の低下が抑えられる傾向にある。一方、単繊維繊度が12dtex以下であると、風合が柔らかくなる傾向にある。
【0030】
<撚り糸>
本開示の撚り糸は、本開示の糸で構成される。本開示の撚り糸は、高速縫製の実用に耐え得るよう撚数を多くしても、透明性の低下が抑えられる傾向にある。
【0031】
撚り糸は、仮撚糸を2本以上引き揃えて上撚りしてもよい。この場合、仮撚りの方向と上撚りの方向を反対にすることが好ましく、例えば、仮撚りはS方向に撚り、上撚りは反対方向のZ方向に撚ることが好ましい。
【0032】
上撚り数は、いずれであってもよく、例えば、100T/m~3,000T/mとすることができる。
上撚り係数はT×(D)1/2で定義され、Tは1m当りの撚数であり、Dは縫糸の総繊度を示す。
【0033】
高速縫製用の場合には、上撚り係数は、7000~13,000とすることが好ましい。なお、撚り数は、繊度との兼ね合いにおいて調整される。例えば、83dtexの2子撚りのミシン糸では、下撚り数は、S方向に1,000T/m~1,300T/m、上撚り数はZ方向に600T/m~1,100T/mとすることが好ましい。
【0034】
伸縮性を有する撚り糸は、例えば、仮撚糸を2本Z方向に上撚りした後、コーンに巻き上げ、スチームセットを施すか、又は直接的にチーズ染色又は綛染することにより得ることができる。伸縮性のある生地の縫製用の針糸は、伸縮伸長率を2%~20%とすることが好ましい。さらに伸縮性を必要とするジャージ衣料の縫製用の振り糸には、伸縮伸長率を80%~120%とすることが好ましい。
なお、本開示において、伸縮伸長率は、JIS L 1096:2010(C法(繰り返し伸び率測定後の定伸長法))に準じて測定した値をいう。
【0035】
<縫糸>
本開示の縫糸は、上述した本開示の撚り糸で構成される。縫糸は、ミシン糸、手縫い糸のいずれであってもよく、撚数を高くしても生地の色への同化性に優れることから、ミシン糸として特に好適に用いることができる。
【0036】
<糸及び撚り糸の製造方法>
本開示の糸の製造方法は、表面にモスアイ構造を形成できれば制限されず、いずれの方法であってもよく、酸素イオンビームを照射することで、糸の表面にモスアイ構造を形成することが好ましい。この方法は非接触でモスアイ構造を形成することが可能であるため、型押しにより糸の表面にモスアイ構造を形成する方法に比べて、糸自身の断面形状を維持することができ、縫製等への影響を抑えることができる。
【0037】
本開示の撚り糸の製造方法は、スパン糸又はフィラメント糸に酸素イオンビームを照射してから撚ってもよいし、スパン糸又はフィラメント糸を撚ったスパンヤーン又はフィラメントヤーンに酸素イオンビームを照射してもよい。
【0038】
酸素イオンビームの照射装置としては、電子サイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance、ECR)型イオンシャワー装置(例えば、株式会社エリオニクス製EIG-210ER)、誘導結合プラズマ(Inductive Coupling Plasma)型反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching、RIE)装置(例えば、株式会社エリオニクス製EIS-700)、大気圧プラズマ装置(日本プラズマトリート株式会社製FG5001+1PFW10)などを挙げることができる。
【0039】
酸素イオンビームの照射領域は、糸の反射率が1%以下となれば、糸の表面の一部であってもよいが、糸の全面であることが好ましい。
糸の全面を酸素イオンビームで照射する方法としては、周面を半面ずつ2回に分けて照射したり、周面を3分割以上に分けて全周面を照射したりする多段的な照射方法や、糸を回転させながら照射する連続的な照射方法が挙げられる。多段的に照射する場合、モスアイ構造の形成にムラが生じるのを抑える観点からは、周面を4つ以上に分割して4回以上に分けて全周面を照射することが好ましい。周面を回転させる際には、手動で行っても治具を用いてもよく、モスアイ構造を均一に形成する観点からは治具を用いることが好ましい。
【0040】
酸素イオンビームの照射条件は、糸の材質、形状等によって、適宜設定することができる。例えば、加速電圧400Vで、各照射面あたり3分程度照射する方法が挙げられる。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
ポリエステル製のフィラメント糸(直径20μm)に、電子サイクロトロン共鳴型イオンシャワー装置(株式会社エリオニクス製EIG-210ER)により酸素イオンビームを照射した。照射条件は、加速電圧400Vで、周囲を2面に分けて片面3分間照射した。
【0042】
得られた糸(加工後の糸)の表面を電子顕微鏡(株式会社エリオニクス製ERA-8800FE)で観察した。
図1に、その電子顕微鏡写真を示す。
図1に示すとおり、糸の表面に微細な凹凸が形成され、モスアイ構造が付与されていることがわかる。モスアイ構造の径は平均70nmであり、高さは平均300nmであった。
【0043】
また、加工後の糸の表面の反射率及び透過率を分光分析装置(株式会社島津製作所製SolidSpec-3700)で測定した。測定は、加工後の糸を約10本きっちりと隙間無く並べた状態で行った。比較として加工前の糸についても、表面の反射率及び透過率を測定した。
【0044】
図2に、加工後の糸の表面の反射率の測定結果を示し、
図3に、透過率の測定結果を示す。
図2及び
図3において、「400V3min表」は、おもて面のみを照射した糸における反射率及び透過率のグラフであり、「400V3min裏」は、おもて面照射後に裏面を照射した糸における反射率及び透過率のグラフである。
図2及び
図3に示すとおり、加工後の糸では、表面での反射率が低下し、透過率は向上していることがわかる。
【0045】
<色差△ECMC値の測定>
加工後の糸をS撚に加撚して下撚糸を作製し、そして、下撚糸を2本引き揃えてZ撚に600T/mで上撚して撚り糸を作製した。この撚り糸を用いて、以下の方法により、色差△ECMC値の測定を行った。結果を表1に示す。
【0046】
厚紙に染色された生地を貼り付け、その上から上記撚り糸を糸同士が並行となるよう巻き付けて測定サンプルを準備した。巻取ピッチ及び巻取層数は、色が糸と糸の隙間から視認できないことを条件として、撚数に応じて設定した。
評価には、積分球分光光度計Color i5、X-rite社製を用い、上述の測定サンプルで測色を行い、生地色を直接測色した値との比較を行った。比較には、Color iQC Professional、X-rite社製を用い、D65光源下でCIE1976(L*,a*,b*)表色系に基づく色差指標△ECMCを求めた。
【0047】
また、比較例として加工前の糸を用いて、実施例と同様にして撚り糸を作製し、色差△ECMC値を求めた。
【0048】
【0049】
(実験例)
ダミー基板上にアクリル系光硬化性樹脂を滴下し、そのアクリル系光硬化性樹脂に、モスアイパターンが形成されたグラッシーカーボン基板(東海カーボン(株)製、製品名GC20SS)をモスアイパターン面とは反対側からロールで押し付けた。これにより、モスアイパターンを有するグラッシーカーボン基板にアクリル系光硬化性樹脂が薄く付与された。
【0050】
アクリル系光硬化性樹脂が薄く付与されたモスアイパターンを有するグラッシーカーボン基板を、PETフィルム(東洋紡(株)社製、厚み100μm)に押し付け、UV照射装置(パナソニック(株)製、製品名ランプ方式SPOT型紫外線硬化装置 Aicure UP50、波長:365nm)により210mJ/cm2照射してアクリル系光硬化性樹脂を硬化させた。そして、PETフィルムからグラッシーカーボン基板を剥がした。これにより、PETフィルム上にアクリル系樹脂でモスアイ構造を付与したフィルムを得た。
【0051】
図4に、PETフィルムのみ(左)、PETフィルム上にアクリル系樹脂でモスアイ構造を付与したもの(右)の写真を示す。右の写真において、中心部分がモスアイ構造を付与した部分である。
【0052】
図4の写真に示されるとおり、PETフィルムのみの場合(左)には、蛍光灯が映り込み、反射していることがわかる。一方、PETフィルム上のモスアイ構造が付与された部分では、反射が抑制され、下にある文字が透けて見えている。このモスアイ構造が付与された部分における反射率は、可視光領域で0.5%であった。
【0053】
この実験例から、糸にモスアイ構造が付与されれば、下地の生地の色に同化させることが可能であることが推察される。