(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】フラットケーブル、及びこれを用いた回転コネクタ
(51)【国際特許分類】
H01B 7/08 20060101AFI20220513BHJP
H01B 7/295 20060101ALI20220513BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20220513BHJP
H01R 35/04 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
H01B7/08
H01B7/295
H01B7/02 Z
H01R35/04 P
(21)【出願番号】P 2018031950
(22)【出願日】2018-02-26
【審査請求日】2020-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【氏名又は名称】松下 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100173680
【氏名又は名称】納口 慶太
(74)【代理人】
【識別番号】100210158
【氏名又は名称】谷山 輝恵
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 倫正
(72)【発明者】
【氏名】押野 貴志
(72)【発明者】
【氏名】渡部 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 瞳
(72)【発明者】
【氏名】山下 健二 ホドリーゴ
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-007840(JP,A)
【文献】特開平07-002431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/08
H01B 7/295
H01B 7/02
H01R 35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導体と、前記導体の周囲を被膜する絶縁層とを有し、
前記絶縁層の外層は、
VTM-0で規定される難燃性を有するポリフェニレンサルファイドにより構成されており、
前記絶縁層の内層はエポキシ系樹脂を主成分とする樹脂組成物から構成されており、
前記内層のガラス転移温度は100℃以上であり、
前記内層は臭素系難燃剤、水酸化アルミニウムを含み、臭素含有率が5wt%以上15wt%以下、アルミニウム含有率が3wt%以上15wt%以下である
ことを特徴とするフラットケーブル。
【請求項2】
複数の導体と、前記導体の周囲を被膜する絶縁層とを有し、
前記絶縁層の外層は、VTM-0で規定される難燃性を有する難燃性ポリエステルにより構成されており、
前記絶縁層の内層はエポキシ系樹脂を主成分とする樹脂組成物から構成されており、
前記内層のガラス転移温度は100℃以上であり、
前記内層は臭素系難燃剤、水酸化アルミニウムを含み、臭素含有率が8wt%以上~15wt%以下、アルミニウム含有率が3wt%以上~15wt%以下である
ことを特徴とするフラットケーブル。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか1項に記載のフラットケーブルを内蔵することを特徴とする回転コネクタ。
【請求項4】
前記内蔵されるフラットケーブルの外表面、及び外装ケースの内周面には、炭化水素系材料を含有する潤滑剤が塗工されていることを特徴とする請求項3に記載の回転コネクタ。
【請求項5】
前記内蔵されるフラットケーブルの最小屈曲半径は、3mm以上8mm以下であることを特徴とする請求項3または4に記載の回転コネクタ。
【請求項6】
前記内蔵されるフラットケーブルは5.5A以上の電流を通電可能であることを特徴とする請求項3~5のいずれか1項に記載の回転コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両に搭載される回転コネクタなどに使用されるフラットケーブル、及びこれを用いた回転コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
フラットケーブルは様々な場所で広く活用されている。例えばステアリング装置に用いられる車両用の回転コネクタには、屈曲性に優れたフラットケーブルが電気配線体として内蔵されている。回転コネクタ内のフラットケーブルによって、ステアリング装置と車両側が電気的に接続されており、フラットケーブルは、車両側からの信号や電源をステアリング装置内の各種スイッチに通電する役割を持つ。例えば、事故の際にエアバックを起動させるための起爆信号もフラットケーブルを介して伝達される。
【0003】
回転コネクタに用いられるフラットケーブルは、耐熱性や機械的強度といった要求に応えるために、一般的に、耐熱性を有する絶縁性のプラスチックフィルムの間に接着剤を介して導体を埋め込んだ構造を採用している。
【0004】
例えば特許文献1には、ポリエチレンテレフタレートのような汎用プラスチック(絶縁性プラスチックフィルム)の一面に熱可塑性接着剤を塗布したラミネートフィルムを二枚用意しておき、これらのラミネートフィルムが有する互いの熱可塑性接着剤層の間に平型の導体を平行に配列して挟み込み、加熱溶融後の冷却によって接着した熱可塑性接着剤によってラミネートフィルムを張り合わせたフラットケーブルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-248042号公報
【文献】特開2011-204496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、車両の電装化が急速に進んだために電源が大容量化し、回転コネクタに内蔵されるフラットケーブルにも大容量化への対応が求められるようになってきている。
ところが、フラットケーブルは回転コネクタに内蔵されることから寸法上の制約が厳しく、また屈曲性が要求されるために導体の厚みを厚くして電流容量を稼ぐことができないという宿命がある。このためフラットケーブルの高耐熱化が必要となるわけであるが、従来のフラットケーブルでは十分な高耐熱化を期待することができない。
【0007】
そこで、特許文献2には、高温や摺動の厳しい環境下でも十分な柔軟性と耐熱性をあわせ持つフラットケーブルを提供するため、フラットケーブル被覆材として粘接着剤がアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、及び硬化剤を含むものが開示されている。しかしながら、開示されている技術では、回転コネクタ用フラットケーブルとして求められている十分な難燃性が得られないのが現状である。
【0008】
本発明は、上記した課題に着目してなされたものであり、耐熱性、難燃性、屈曲性及び耐久性に優れるフラットケーブル、及び、これを用いた回転コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係るフラットケーブルは、複数の導体と、前記導体の周囲を被膜する絶縁層とを有し、前記絶縁層の外層はVTM-0で規定される難燃性を有する樹脂により構成されており、前記絶縁層の内層はエポキシ系樹脂を主成分とする樹脂組成物から構成されており、前記内層のガラス転移温度は100℃以上であり、前記内層は臭素系難燃剤、水酸化アルミニウムを含み、臭素含有率が5~15wt%、アルミニウム含有率が3~15wt%であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るフラットケーブルの他の態様は、複数の導体と、前記導体の周囲を被膜する絶縁層とを有し、前記絶縁層の外層は難燃性ポリエステルにより構成されており、前記絶縁層の内層はエポキシ系樹脂を主成分とする樹脂組成物から構成されており、前記内層のガラス転移温度は100℃以上であり、前記内層は臭素系難燃剤、水酸化アルミニウムを含み、臭素含有率が5~15wt%、アルミニウム含有率が3~15wt%であることを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係る回転コネクタは、上記フラットケーブルを内蔵することを特徴とする。
【0012】
上記回転コネクタは、前記内蔵されるフラットケーブルの外表面、及び外装ケースの内周面には、炭化水素系材料を含有する潤滑剤が塗工されていることが好ましい。
【0013】
上記回転コネクタは、前記内蔵されるフラットケーブルの最小屈曲半径は、3mm以上8mm以下であることが好ましい。
【0014】
上記回転コネクタは、前記内蔵されるフラットケーブルが5.5A以上の電流を通電可能であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフラットケーブル、及び、これを用いた回転コネクタによれば、耐熱性、難燃性及び屈曲性に優れたフラットケーブル及び回転コネクタを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係るフラットケーブルを内蔵した回転コネクタの一実施形態を示す斜視図である。
【
図2】
図1の回転コネクタのフラットケーブルの収容部を模式的に示した横断平面図である。
【
図3】本発明に係るフラットケーブルの一実施形態を示す斜視図である。
【
図4】
図3のフラットケーブルの一部の幅方向断面図である。
【
図5】本発明に係るフラットケーブルの製造方法を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明に係るフラットケーブル10を内蔵した回転コネクタ20の一実施形態を示す斜視図であり、
図2は、回転コネクタ20のフラットケーブル10の収容部を模式的に示した横断平面図である。
【0018】
本実施形態の回転コネクタ20は、例えば自動車のステアリング装置に用いられ、固定体であるステアリングポストと回転体であるステアリングホイール(ともに図示せず)との間に配置される。回転コネクタ20内のフラットケーブル10によって、ステアリング装置と車両側が電気的に接続され、車両側からの信号の伝送や電源からの電力がステアリング装置内の各種スイッチに供給される。
【0019】
図1に示すように、回転コネクタ20は、平たい略円筒状の外装ケース21と回転部22を有する。外装ケース21はステアリングポスト側に固定され、回転部22はステアリングホイール側に固定され、同軸上で回転自在となるように互いに連結されている。回転コネクタ20の中心には貫通孔24が形成されており、この貫通孔24にステアリングホイールに固定されたステアリングシャフト(図示せず)が挿入される。
また、外装ケース21には、車両側の電気系統と接続される第1コネクタ26が形成されており、回転部22には、ステアリング装置の電気系統と接続される第2コネクタ28が形成されている。
【0020】
図2に示すように、フラットケーブル10は、その幅方向を外装ケース21及び回転部22の軸方向に沿わせて隙間Sに収容されており、一方の端部を外装ケース21の端子21Aに、他方の端部を回転部22の端子22Aに接続固定されている。フラットケーブル10は、端子21Aに接続された一方側が外装ケース21の内周面21Bに反時計回りに巻き付けられており、端子22Aに接続された他方側が回転部22の外周面に時計回りに巻き付けられている。両者の巻き付け方向が逆向きであることから、いずれにも巻き付けられない中間領域のフラットケーブル10には向きが反転する屈曲部10Aが存在する。この屈曲部10Aによって、ステアリングポスト(外装ケース21)に対するステアリングホイール(回転部22)の回転範囲内において、フラットケーブル10が延びきらないように構成されている。
【0021】
このためフラットケーブル10は屈曲性に優れている必要があり、具体的には屈曲部10Aにおける最小屈曲半径は3mm以上8mm以下であることが好ましい。屈曲半径8mm以下で屈曲できない場合、回転コネクタ20の隙間Sに、屈曲部10Aを収容し難くなってしまう。無理に収容できた場合であっても、フラットケーブル10が屈曲部10Aで破断する等の不具合が生じてしまう。屈曲半径は8mm以下であれば、より小さい方が屈曲性はより高くなるが、3mm未満になると事実上折り曲げた状態となるため、回転コネクタ20に収容する上では、最小屈曲半径3mm未満の領域の屈曲性は非現実的である。
【0022】
フラットケーブル10の外表面、及び外装ケース21の内周面21Bは潤滑剤(図示せず)が塗工されていることが好ましい。潤滑剤の表面張力によって、フラットケーブル10の一方側を外装ケース21の内周面21Bに密接した状態で巻き付けることができるようになる。また、ステアリングホイール(回転部22)が回転した場合でも、フラットケーブル10の一方側の巻崩れを防ぐことができる。潤滑剤はこのような作用効果を奏し、耐熱性、難燃性を有するものであれば特に限定されず、シリコンやフッ素を含有するもの等でも良いが、本実施形態では、低コストである炭化水素系材料を含有する潤滑剤を用いている。
【0023】
ステアリング・ヒーター機能等を備える車両向けには、回転コネクタ20に内蔵されるフラットケーブル10は加熱用の大電流を流す必要があり、少なくとも5.5Aの電流を通電可能であることが好ましく、その場合、100℃の耐熱性を有することが好ましい。
【0024】
図2に示す回転コネクタ20は、4本のフラットケーブル10を内蔵しているが、必ずしも4本を内蔵していなくても良い。車両が必要とする電気配線の数に応じて、1本以上で適宜変更可能である。フラットケーブル10の内蔵数が1から3本の場合には、フラットケーブル10が接続されない端子21A及び22Aには、より安価なダミーケーブルを接続することが好ましい。これによって、回転コネクタ20の対称性が保たれ、重心の位置が維持される。
【0025】
また、車両のさらなる多回路化に応じて、フラットケーブル10の内蔵数は5本以上であっても良い。ただし、
図2のように、複数のフラットケーブル10は円周上に均等に配置され、フラットケーブル10の屈曲部10A同士が、ステアリングホイール(回転部22)が回転した場合であっても、接触しないように収容されていることが好ましい。接触による異音発生等を防止可能となる。
【0026】
次に、
図3~4を参照して、本実施形態におけるフラットケーブル10の詳細について説明する。
図3はフラットケーブル10の全体斜視図を示す。
図4はフラットケーブル10の一部の幅方向の断面図を示す。
【0027】
フラットケーブル10は、複数の導体11と、導体11の周囲を被覆する絶縁層12とを有する。導体11は銅箔であるが、材質及び形状はこれに限定されず、導電性を有する材質で構成されていれば良い。
【0028】
また、
図3~4において、導体11は同一の断面形状、断面積を具備するものが示されているが、断面形状及び断面積はいずれも同一である必要はなく、また埋設される導体11の数も限られない。さらに導体11の間隔も、導体11が電気的に絶縁されていれば良く、所望の仕様に応じて適宜変更可能である。
【0029】
図4で示すように、絶縁層12は層状の複数層を含んでおり、外部と接する外層13、及び導体11と接着する内層14を有する。外層13及び内層14の間には、中間層(図示せず)を有していても良い。
【0030】
外層13には、JIS規格においてVTM-0で規定される難燃性を有する樹脂を用いることが好ましい。具体的には、難燃性ポリエステル(難燃PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、アラミド、ポリイミドフィルムが好ましい。
【0031】
内層14には、エポキシ系樹脂を主成分とし、これに硬化剤、難燃剤を添加した樹脂組成物が用いられる。エポキシ系樹脂としては、分子中にエポキシ基を2つ以上有するものである限り、分子構造、分子量等に特に制限はなく、公知のエポキシ樹脂の中から適宜選択することができる。上記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂等のビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノールや水添ビスフェノールA等から得られる脂環式エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物であるエポキシ化物、及びビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、等のノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン-フェノール付加反応型エポキシ樹脂、及びフェノールアラルキル型エポキシ樹脂等が挙げられる。 上記したエポキシ樹脂は単独で用いても、2種以上を併用しても良い。硬化剤としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(ザイロック樹脂)、ナフトールアラルキル樹脂、トリスフェニロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮合ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮合ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(フェノール骨格、トリアジン環及び1級アミノ基を分子構造中に有する化合物)、及び、アルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂(ホルムアルデヒドでフェノール核及びアルコキシ基含有芳香環が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物、などのフェノール樹脂類、ジエチルトルエンジアミン、1-メチル-3,5-ジエチル-2,4-ジアミノベンゼン、1-メチル-3,5-ジエチル-2,6-ジアミノベンゼン、1,3,5-トリエチル-2,6-ジアミノベンゼン、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、及び3,5,3’,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、などの芳香族アミン類、ジシアンジアミド型、イミダゾール型、ポリアミン型化合物、などの潜在性硬化剤、及び無水ハイミック酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水メチルハイミック酸、無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸-無水マレイン酸付加物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、及び水素化メチルナジック酸無水物、などの酸無水物類が挙げられる。上記した硬化剤は単独で用いても、2種以上を併用しても良い。難燃剤としては、臭素系難燃剤と水酸化アルミニウムを含んだものが用いられ、臭素系難燃剤としては、RoHS(特定有害物質使用制限)指令で規制されるポリ臭素化ビフェニル(PBB)、ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)を除くものが使用でき、テトラブロモビスフェノールA(TBBA)、TBBAエポキシオリゴマー、TBBAカーボネートオリゴマー、TBBA・ビス(ジブロモプロピルエーテル)、TBBA・ビス(アリールエーテル)、などTBBA、及びその誘導体、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、1,2-ビス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)エタン、2,4,6-トリスブロモフェノキシ)-1,3,5-トリアジン、2,6-or(2,4-)ジブロモフェノール、ホモポリマー、など多ベンゼン環化合物、臭素化ポリスチレン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモベンジルアクリレート、などが挙げられる。上記した臭素系難燃剤は単独で用いても2種以上を併用しても良い。
【0032】
内層14に用いられる樹脂組成物において、臭素系難燃剤、水酸化アルミニウムの含有量は、それぞれ臭素(Br)含有率が5~15wt%、アルミニウム(Al)含有率が3~15wt%の範囲内に調整されることが好ましい。Br、Alいずれかの含有率が下限より少ない場合、フラットケーブル10の難燃性が低下してしまう。一方、上限より多い場合、ラミネートによりフラットケーブル10を製造する際に、導体11間に空隙が発生してしまい、絶縁性や屈曲性の低下の原因となる。なお、フラットケーブル10のラミネートによる製造方法については後述する。
【0033】
更に、外層13として難燃PETが用いられる場合には、内層14の難燃性をより高めるために、Br含有率を8~15wt%、Al含有率を5~15wt%とすることがより好ましい。
【0034】
<製造方法>
次に、本実施形態に係るフラットケーブル10の製造方法の一例について、説明する。
図5は、本実施形態の製造方法を示す断面模式図である。
【0035】
まず最初に、外層13となる厚さ25μmのフィルム(以下、外層フィルム13aと記す)に、内層14となる液体(以下、内層剤14aと記す)を20μmの仕上がり厚さとなるように塗布し、絶縁層フィルム12aを製造する。次に、厚さ35μm、幅1.4mmの平角状の導体11を複数本並べ、
図3に示すように、複数のボビン(図示せず)から導体11を矢印hの方向に送り出す。また、二つの送出ロールRから、前記絶縁層フィルム12aを1枚ずつ、内層剤14aの塗布面が導体11と接するように、それぞれ矢印i、jの方向に送り出す。
【0036】
絶縁層フィルム12aは、導体11を挟む込むように、一対の約160℃の加熱ロールHRのロール面に導入されると、内層剤14a同士が融着されてラミネートされ、積層体が形成される。更に、その積層体を約160℃の恒温槽で約1.5時間加熱して、内層剤14aを硬化処理させると、
図2に示すフラットケーブル10となる。
【0037】
ここで、硬化処理後の内層14のガラス転移温度Tgの下限は100℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度Tgの上限は、200℃以下であることが好ましく、より好ましくは150℃以下である。100℃未満であると高温での屈曲性や耐久性の低下を引き起こしてしまう。200℃を超えるものも使用できるが、硬化温度が高く、処理時間が長くなり、前記の製造方法を用いた場合は生産性の面から好ましくない。なお、ガラス転移温度Tgの測定方法は後述する。
【0038】
<実施例>
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、上記した製造方法によって作製したフラットケーブルの実施例について詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例は、以下の条件をいずれも満足している。
(条件1)外層13にVTM-0の難燃性を有する樹脂が用いられる。
(条件2)内層14に用いられる樹脂組成物のBr含有率は5~15wt%(組み合わせる外層13として難燃PETが用いられる場合は8~15wt%)である。
(条件3)内層14に用いられる樹脂組成物のAl含有率3~15wt%(組み合わせる外層13として難燃PETが用いられる場合は5~15wt%)である。
(条件4)内層14に用いられる樹脂組成物のガラス転移温度は100℃以上である。
【0039】
<実施例1~3>
外層フィルム13aの材質として実施例1及び実施例3はPPS、実施例2は難燃PETを用いた。内層剤14aの材質はエポキシ樹脂を主成分とする樹脂組成物であって、Br含有率、及びAl含有率はそれぞれ表1に示す通りである。
【0040】
<比較例>
実施例と比較するために、比較例となるフラットケーブルを実施例と同様に作製した。表2に示す通り、比較例は、実施例と異なり、上記した条件の少なくとも一つを満たしていない。
【0041】
<比較例1>
比較例1は、上記した条件2及び3を満たしていない。
内層剤14aのBr含有率、及びAl含有率は、いずれも0%と低い。
【0042】
<比較例2>
比較例2は、上記した条件1を満たしていない。
外層フィルム13aはVTM-2の難燃性を有するPETである(JIS規格において、難燃性はVTM-0、VTM-1、VTM-2の順に低い)。
【0043】
<比較例3>
比較例3は、上記した条件3を満たしていない。
内層剤14aのAl含有率は、20wt%と高い。
【0044】
<比較例4>
比較例4は、上記した条件4を満たしていない。
内層剤14aのガラス転移温度は70℃である。
【0045】
<比較例5>
比較例5は、上記した条件3を満たしていない。
内層剤14aのAl含有率は、0~2wt%程度と低い。
【0046】
<比較例6>
比較例6は、上記した条件2を満たしていない。
内層剤14aのBr含有率は、3~5wt%程度と低い。
【0047】
<比較例7>
比較例7は、上記した条件2を満たしていない。
内層剤14aのBr含有率は、16wt%以上と高い。
【0048】
実施例1~3及び比較例1~7のフラットケーブルを所定の幅と長さに切断した後、耐熱性試験(ガラス転移温度)、ラミネート性試験、難燃性試験、摺動屈曲性試験を行った。また、これらのフラットケーブルを
図1のように内蔵し、フラットケーブル及び外装ケースの内周面に炭化水素系材料を含有する潤滑剤を塗工した回転コネクタについて、耐久性試験を行った。これらの試験結果を表1~2に示す。
【0049】
<フラットケーブルの耐熱性試験>
内層剤14aのガラス転移温度Tgを測定した。ガラス転移温度が100℃以上の場合、耐熱性を有するものとした。ガラス転移温度Tgは、DMA (Dynamic Mechanical Analysis)測定によって、tanδのピーク値を測定することにより求めた。DMA測定条件は、引張モードで昇温速度5℃/min、周波数1Hzで実施した。
【0050】
<フラットケーブルのラミネート性試験>
製造時において、ラミネート直後の導体11の埋め込み状態を確認し、導体11間に空隙がないものを合格とした。
【0051】
<フラットケーブルの摺動屈曲性試験>
屈曲試験は、130℃において、6mmの屈曲半径でフラットケーブルを曲げたり真っ直ぐに伸ばしたりする動作を繰り返し、内部の導体が破断するまでの回数を測定した。従って、表1~2に示す試験結果の数字が大きいほど、耐屈曲性に優れることになる。
【0052】
<フラットケーブルの難燃性試験>
難燃性試験はUL1581のVW-1(垂直燃焼試験)に従った。試料を垂直に保持し、20度の角度でバーナーの炎をあて15秒着火、15秒休止を5回繰り返し、(1)接炎後残炎時間が60秒以下の場合、(2)表示旗の燃焼が25%以下の場合、または(3)落下物により底部の外科用綿が燃焼しない場合を合格とした。
【0053】
<回転コネクタの耐久性試験>
耐久性試験は、130℃において、回転コネクタを40万サイクル回転させて行った。1サイクルは毎秒1回転の速度で左右2回転ずつとした。耐久性試験前後で、フラットケーブルの回路導体の抵抗上昇率が50%未満の場合を合格とした。
【0054】
【0055】
表1に示すように、実施例1~3のフラットケーブルは、いずれの試験においても良好な結果が得られた。また、これらのフラットケーブルを内蔵した回転コネクタも、耐久性試験において良好な結果が得られた。
【0056】
【0057】
これに対して、表2の比較例1、比較例2、比較例5、及び比較例6のフラットケーブルは、難燃性試験が不合格だった。
【0058】
比較例3のフラットケーブルは、ラミネート性試験が不合格だった。また、これを内蔵した回転コネクタは、耐久性試験が不合格だった。
【0059】
比較例4のフラットケーブルは、ガラス転移温度Tgが70℃と低く、十分な耐熱性が得られなかった。また、摺動屈曲性試験においても劣る結果となった。さらに、これを内蔵した回転コネクタも、耐久性試験が不合格だった。
【0060】
比較例7のフラットケーブルは、ラミネート性試験が不合格だった。
【符号の説明】
【0061】
10 フラットケーブル
11 導体
12 絶縁層
12a 絶縁層フィルム
13 外層
13a 外層フィルム
14 内層
14a 内層剤
20 回転コネクタ
21 外装ケース
21B 外装ケースの内周面