(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-12
(45)【発行日】2022-05-20
(54)【発明の名称】充電可能電池状態検出装置および充電可能電池状態検出方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20220513BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20220513BHJP
G01R 31/374 20190101ALI20220513BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20220513BHJP
G01R 31/3835 20190101ALI20220513BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20220513BHJP
G01R 31/387 20190101ALI20220513BHJP
G01R 31/388 20190101ALI20220513BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20220513BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20220513BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
H01M10/48 P
G01R31/367
G01R31/374
G01R31/382
G01R31/3835
G01R31/385
G01R31/387
G01R31/388
G01R31/389
G01R31/392
H01M10/48 301
H02J7/00 Q
(21)【出願番号】P 2018053570
(22)【出願日】2018-03-20
【審査請求日】2020-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100130247
【氏名又は名称】江村 美彦
(74)【代理人】
【識別番号】100167863
【氏名又は名称】大久保 恵
(72)【発明者】
【氏名】横山 真司
【審査官】坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-178213(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151848(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0016962(US,A1)
【文献】国際公開第2016/129260(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0267107(US,A1)
【文献】特開2015-210991(JP,A)
【文献】特開2015-169450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H02J 7/00
G01R 31/367
G01R 31/374
G01R 31/382
G01R 31/3835
G01R 31/385
G01R 31/387
G01R 31/388
G01R 31/389
G01R 31/392
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された充電可能電池の状態を検出する充電可能電池状態検出装置において、
前記充電可能電池の電圧および電流を測定する測定手段と、
前記測定手段によって測定された電圧および電流の値に基づいて、前記充電可能電池の電気的な等価回路を構成する素子の値を計算する計算手段と、
前記車両に搭載される前記充電可能電池の種類を特定する特定情報を前記車両から取得する取得手段と、
前記等価回路を構成する素子の値または素子の値から求められる所定の値が属する範囲を規定する所定の判定閾値と、素子の値または素子の値から求められる所定の値とを比較し、前記所定の範囲に属しない場合には、前記車両に搭載されている前記充電可能電池と前記特定情報との間に不整合が生じていると判定する判定手段と、
前記充電可能電池の状態に応じて、前記判定閾値を変更する変更手段と、
を有することを特徴とする充電可能電池状態検出装置。
【請求項2】
前記変更手段は、前記充電可能電池の電解液温度およびSOC(State of Charge)の少なくとも一方に応じて前記判定閾値を変更することを特徴とする請求項
1に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項3】
前記計算手段によって得られた前記等価回路を構成する素子の値を、前記充電可能電池の電解液温度およびSOCの少なくとも一方が基準状態である場合の素子の値に補正する補正手段を有することを特徴とする請求項1
または2に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項4】
前記特定情報は、前記充電可能電池のサイズを特定する情報であり、
前記判定閾値は、前記特定情報で特定されるサイズを有する前記充電可能電池の前記等価回路を構成する素子の値または素子の値から求まる所定の値が属する範囲を規定し、
前記判定手段は、前記計算手段によって得られた前記等価回路を構成する素子の値または素子の値から求まる所定の値が、前記判定閾値で規定する範囲に属しない場合には、前記車両に搭載されている前記充電可能電池と前記特定情報との間に不整合が生じていると判定することを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項5】
前記特定情報は、前記充電可能電池のサイズを特定する情報であり、
前記判定閾値は、前記特定情報で特定されるサイズを有する前記充電可能電池の熱的な特性を示す値が属する範囲を規定し、
前記判定手段は、前記計算手段によって得られた前記熱的な特性を示す値が、前記判定閾値で規定する範囲に属しない場合には、前記車両に搭載されている前記充電可能電池と前記特定情報との間に不整合が生じていると判定することを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項6】
前記特定情報は、前記充電可能電池の種類を特定する情報であり、
前記判定閾値は、前記特定情報で特定されるそれぞれの種類の前記充電可能電池の前記等価回路を構成する素子の値または素子の値から求まる所定の値が属する範囲を規定し、
前記判定手段は、前記計算手段によって得られた前記等価回路を構成する素子の値または素子の値から求まる値が、前記判定閾値で規定する範囲に属しない場合には、前記車両に搭載されている前記充電可能電池と前記特定情報との間に不整合が生じていると判定することを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項7】
前記充電可能電池の複数のサイズまたは種類に対応する複数の前記判定閾値を有し、
前記判定手段によって、前記車両に搭載されている前記充電可能電池と前記特定情報との間に不整合が生じていると判定された場合には、複数の前記判定閾値を用いて、前記車両に実際に搭載されている前記充電可能電池のサイズまたは種類を推定する推定手段を有する、
ことを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項8】
前記推定手段によって推定された前記充電可能電池のサイズまたは種類に基づいて、前記充電可能電池の状態を検出する検出手段を有することを特徴とする請求項
7に記載の充電可能電池状態検出装置。
【請求項9】
車両に搭載された充電可能電池の状態を検出する充電可能電池状態検出方法において、
前記充電可能電池の電圧および電流を測定する測定ステップと、
前記測定ステップにおいて測定された電圧および電流の値に基づいて、前記充電可能電池の電気的な等価回路を構成する素子の値を計算する計算ステップと、
前記車両に搭載される前記充電可能電池の種類を特定する特定情報を前記車両から取得する取得ステップと、
前記等価回路を構成する素子の値または素子の値から求められる所定の値が属する範囲を規定する所定の判定閾値と、素子の値または素子の値から求められる所定の値とを比較し、前記所定の範囲に属しない場合には、前記車両に搭載されている前記充電可能電池と前記特定情報との間に不整合が生じていると判定する判定ステップと、
前記充電可能電池の状態に応じて、前記判定閾値を変更する変更ステップと、
を有することを特徴とする充電可能電池状態検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電可能電池状態検出装置および充電可能電池状態検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示された技術では、充電可能電池の等価回路モデルの複数の素子定数の比と所定の閾値とを比較し、その大小関係に基づいて、充電可能電池の種類(例えば、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、ニッケルカドミウム電池、鉛電池の液式、シール式電池、アイドリングストップ用電池の識別、新品、劣化等)を識別し、識別結果に基づいて、充電可能電池の状態を推定する。
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、等価回路モデルの素子値の比と閾値で識別を行っているが、等価回路モデルの素子値は、温度またはSOCによって変動することから、環境によっては、誤判定が発生する場合がある。
【0004】
そこで、搭載されている充電可能電池に関する情報を車両から取得し、その情報に基づいて車両に搭載されている充電可能電池の状態推定を行う技術もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、充電可能電池に関する情報を車両から取得する技術の場合、ユーザが充電可能電池を交換した際に、車両に登録されている充電可能電池と異なる充電可能電池が搭載される場合がある。そのような場合、車両情報と搭載されている充電可能電池との間に不整合が発生し、充電可能電池の推定精度が低下するという問題点がある。
【0007】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、充電可能電池が交換されたことを正確に判定することが可能な充電可能電池状態検出装置および充電可能電池状態検出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、車両に搭載された充電可能電池の状態を検出する充電可能電池状態検出装置において、前記充電可能電池の電圧および電流を測定する測定手段と、前記測定手段によって測定された電圧および電流の値に基づいて、前記充電可能電池の電気的な等価回路を構成する素子の値を計算する計算手段と、前記車両に搭載される前記充電可能電池の種類を特定する特定情報を前記車両から取得する取得手段と、前記等価回路を構成する素子の値または素子の値から求められる所定の値が属する範囲を規定する所定の判定閾値と、素子の値または素子の値から求められる所定の値とを比較し、前記所定の範囲に属しない場合には、前記車両に搭載されている前記充電可能電池と前記特定情報との間に不整合が生じていると判定する判定手段と、を有することを特徴とする。
このような構成によれば、充電可能電池が交換されたことを正確に判定することが可能となる。
【0009】
また、本発明は、前記充電可能電池の状態に応じて、前記判定閾値を変更する変更手段を有することを特徴とする。
このような構成によれば、充電可能電池が交換されたことをより正確に判定することが可能になる。
【0010】
また、本発明は、前記変更手段は、前記充電可能電池の電解液温度およびSOC(State of Charge)の少なくとも一方に応じて前記判定閾値を変更することを特徴とする。
このような構成によれば、温度およびSOCの影響を低減しつつ、充電可能電池が交換されたことを正確に判定することが可能となる。
【0011】
また、本発明は、前記計算手段によって得られた前記等価回路を構成する素子の値を、前記充電可能電池の電解液温度およびSOCの少なくとも一方が基準状態である場合の素子の値に補正する補正手段を有することを特徴とする。
このような構成によれば、温度およびSOCの影響を低減しつつ、充電可能電池が交換されたことを正確に判定することが可能となる。
【0012】
また、本発明は、前記特定情報は、前記充電可能電池のサイズを特定する情報であり、前記判定閾値は、前記特定情報で特定されるサイズを有する前記充電可能電池の前記等価回路を構成する素子の値または素子の値から求まる所定の値が属する範囲を規定し、前記判定手段は、前記計算手段によって得られた前記等価回路を構成する素子の値または素子の値から求まる所定の値が、前記判定閾値で規定する範囲に属しない場合には、前記車両に搭載されている前記充電可能電池と前記特定情報との間に不整合が生じていると判定することを特徴とする。
このような構成によれば、異なるサイズの充電可能電池が搭載されたことを正確に判定することができる。
【0013】
また、本発明は、前記特定情報は、前記充電可能電池のサイズを特定する情報であり、前記判定閾値は、前記特定情報で特定されるサイズを有する前記充電可能電池の熱的な特性を示す値が属する範囲を規定し、前記判定手段は、前記計算手段によって得られた前記熱的な特性を示す値が、前記判定閾値で規定する範囲に属しない場合には、前記車両に搭載されている前記充電可能電池と前記特定情報との間に不整合が生じていると判定することを特徴とする。
このような構成によれば、異なる熱的特性の充電可能電池が搭載されたことを正確に判定することができる。
【0014】
また、本発明は、前記特定情報は、前記充電可能電池の種類を特定する情報であり、前記判定閾値は、前記特定情報で特定されるそれぞれの種類の前記充電可能電池の前記等価回路を構成する素子の値または素子の値から求まる所定の値が属する範囲を規定し、前記判定手段は、前記計算手段によって得られた前記等価回路を構成する素子の値または素子の値から求まる値が、前記判定閾値で規定する範囲に属しない場合には、前記車両に搭載されている前記充電可能電池と前記特定情報との間に不整合が生じていると判定することを特徴とする。
このような構成によれば、異なる種類の充電可能電池が搭載されたことを正確に判定することができる。
【0015】
また、本発明は、前記充電可能電池の複数のサイズまたは種類に対応する複数の前記判定閾値を有し、前記判定手段によって、前記車両に搭載されている前記充電可能電池と前記特定情報との間に不整合が生じていると判定された場合には、複数の前記判定閾値を用いて、前記車両に実際に搭載されている前記充電可能電池のサイズまたは種類を推定する推定手段を有する、ことを特徴とする。
このような構成によれば、異なるサイズまたは種類の充電可能電池が搭載された場合に、当該充電可能電池のサイズまたは種類を正確に推定することができる。
【0016】
また、本発明は、前記推定手段によって推定された前記充電可能電池のサイズまたは種類に基づいて、前記充電可能電池の状態を検出する検出手段を有することを特徴とする。
このような構成によれば、異なるサイズまたは種類の充電可能電池が搭載された場合でも、当該充電可能電池の状態を正確に検出することができる。
【0017】
また、本発明は、車両に搭載された充電可能電池の状態を検出する充電可能電池状態検出方法において、前記充電可能電池の電圧および電流を測定する測定ステップと、前記測定ステップにおいて測定された電圧および電流の値に基づいて、前記充電可能電池の電気的な等価回路を構成する素子の値を計算する計算ステップと、前記車両に搭載される前記充電可能電池の種類を特定する特定情報を前記車両から取得する取得ステップと、前記等価回路を構成する素子の値または素子の値から求められる所定の値が属する範囲を規定する所定の判定閾値と、素子の値または素子の値から求められる所定の値とを比較し、前記所定の範囲に属しない場合には、前記車両に搭載されている前記充電可能電池と前記特定情報との間に不整合が生じていると判定する判定ステップと、を有することを特徴とする。
このような方法によれば、充電可能電池が交換されたことを正確に判定することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、充電可能電池が交換されたことを正確に判定することが可能な充電可能電池状態検出装置および充電可能電池状態検出方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る充電可能電池状態検出装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図1の制御部の詳細な構成例を示すブロック図である。
【
図3】充電可能電池の電気的な等価回路の一例を示す図である。
【
図4】充電可能電池の導電抵抗・液抵抗Rohmを温度およびSOCに基づいて基準状態へ補正する様子を示す図である。
【
図5】充電可能電池のサイズを判定するための判定閾値の一例を示す図である。
【
図6】基準温度からのずれと等価回路素子の平均値からのずれの確率分布を示す図である。
【
図7】本発明の第1実施形態において実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図8】充電可能電池の種類を判別するための分離曲線を示す図である。
【
図9】本発明の第2実施形態において実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図10】第2実施形態の整合判定用の閾値の一例を示す図である。
【
図11】充電可能電池のサイズと温度の上昇率の関係を示す図である。
【
図12】本発明の第3実施形態において実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0021】
(A)本発明の第1実施形態の構成の説明
図1は、本発明の第1実施形態に係る充電可能電池状態検出装置を有する車両の電源系統を示す図である。この図において、充電可能電池状態検出装置1は、制御部10、電圧センサ11、電流センサ12、温度センサ13、および、放電回路15を主要な構成要素としており、充電可能電池14の状態を検出する。なお、制御部10、電圧センサ11、電流センサ12、温度センサ13、および、放電回路15を別々の構成とするのではなく、これらの一部または全てをまとめた構成としてもよい。
【0022】
ここで、制御部10は、電圧センサ11、電流センサ12、および、温度センサ13からの出力を参照し、充電可能電池14の状態を検出するとともに、オルタネータ16の発電電圧を制御することで充電可能電池14の充電状態を制御する。電圧センサ11は、充電可能電池14の端子電圧を検出し、制御部10に通知する。電流センサ12は、充電可能電池14に流れる電流を検出し、制御部10に通知する。温度センサ13は、充電可能電池14の電解液または充電可能電池14の周囲の温度を検出し、制御部10に通知する。なお、制御部10がオルタネータ16の発電電圧を制御することで充電可能電池14の充電状態を制御するのではなく、例えば、図示しないECU(Electric Control Unit)が充電状態を制御するようにしてもよい。
【0023】
充電可能電池14は、電解液を有する充電可能電池、例えば、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池、または、ニッケル水素電池等によって構成され、オルタネータ16によって充電され、スタータモータ18を駆動してエンジンを始動するとともに、負荷19に電力を供給する。なお、充電可能電池14は、複数のセルを直列接続して構成されている。
【0024】
放電回路15は、例えば、直列接続された半導体スイッチおよび抵抗素子等によって構成され、制御部10の制御に応じて半導体スイッチをオン/オフすることで、充電可能電池14を所定の電流で放電させる。
【0025】
オルタネータ16は、エンジン17によって駆動され、交流電力を発生して整流回路によって直流電力に変換し、充電可能電池14を充電する。オルタネータ16は、制御部10によって制御され、発電電圧を調整することが可能とされている。
【0026】
エンジン17は、例えば、ガソリンエンジンおよびディーゼルエンジン等のレシプロエンジンまたはロータリーエンジン等によって構成され、スタータモータ18によって始動され、トランスミッションを介して駆動輪を駆動し、車両に推進力を与えるとともに、オルタネータ16を駆動して電力を発生させる。スタータモータ18は、例えば、直流電動機によって構成され、充電可能電池14から供給される電力によって回転力を発生し、エンジン17を始動する。負荷19は、例えば、電動ステアリングモータ、デフォッガ、シートヒータ、イグニッションコイル、カーオーディオ、および、カーナビゲーション等によって構成され、充電可能電池14から供給される電力によって動作する。なお、
図1の例では、エンジン17のみが駆動力を出力する構成としたが、例えば、エンジン17をアシストする電動モータを具備したハイブリッド車であってもよい。ハイブリッド車の場合、充電可能電池14は、リチウム電池等によって構成される高圧システム(電動モータを駆動するシステム)を起動し、高圧システムがエンジン17を始動する。
【0027】
図2は、
図1に示す制御部10の詳細な構成例を示す図である。この図に示すように、制御部10は、CPU(Central Processing Unit)10a、ROM(Read Only Memory)10b、RAM(Random Access Memory)10c、通信部10d、I/F(Interface)10e、および、バス10fを有している。ここで、CPU10aは、ROM10bに格納されているプログラム10baに基づいて各部を制御する。ROM10bは、半導体メモリ等によって構成され、プログラム10ba等を格納している。RAM10cは、半導体メモリ等によって構成され、プログラム10baを実行する際に生成されるデータや、テーブル等のデータ10caを格納する。通信部10dは、上位の装置であるECU(Electronic Control Unit)等との間で通信を行い、検出した情報または制御情報を上位装置に通知する。I/F10eは、電圧センサ11、電流センサ12、および、温度センサ13から供給される信号をデジタル信号に変換して取り込むとともに、放電回路15、オルタネータ16、および、スタータモータ18等に駆動電流を供給してこれらを制御する。バス10fは、CPU10a、ROM10b、RAM10c、通信部10d、および、I/F10eを相互に接続し、これらの間で情報の授受を可能とするための信号線群である。
【0028】
(B)本発明の第1実施形態の動作の説明
つぎに、本発明の第1実施形態の動作について説明する。なお、以下では、本発明の第1実施形態の動作について説明した後、
図7を参照してこのような動作を実現するためのフローチャートの処理について説明する。
【0029】
本発明の第1実施形態の動作について説明する。車両のエンジン17が停止され、所定の時間(例えば、数時間)が経過し、充電可能電池14の分極および成層化が解消されると、制御部10のCPU10aは、図示しないECU(Electric Control Unit)から、通信部10dを介して充電可能電池14の種類を特定するための情報であるID(Identification)を取得する。より詳細には、ECUには、例えば、車両に搭載されるべき充電可能電池のサイズを特定するためのIDが格納されており、CPU10aは、ECUからIDを取得する。
【0030】
CPU10aは、ECUから取得したIDに対応する定数をROM10bから取得する。より詳細には、
図3に示す、充電可能電池14の電気的な等価回路を構成する素子の素子値を最適化するための定数を取得する。なお、充電可能電池14の電気的な等価回路を構成する素子の素子値を最適化するための定数は、充電可能電池14のサイズによって異なることから、ROM10bは、複数のサイズに対応する定数を記憶しておき、これら複数の定数の中からIDに対応する定数を取得する。
図3に示す等価回路では、導電抵抗および液抵抗(以下では「導電抵抗・液抵抗」と称する)であるRohm、反応抵抗であるRct1,Rct2、および、電気二重層容量であるC1,C2を有している。なお、最適化の手法としては、例えば、特許第4532416号に記載されているように、拡張カルマンフィルタ演算により最適な状態ベクトルXを推定し、推定された状態ベクトルXから等価回路の調整パラメータ(素子値)を最適なものに更新する。具体的には、ある状態における状態ベクトルXから得られる調整パラメータを用いた等価回路に基づき、所定の電流パターンで充電可能電池に放電させたときの電圧降下ΔVを計算し、これが実測値に近づくように状態ベクトルXを更新する。そして、更新により最適化された状態ベクトルXから、最適な調整パラメータを算出する。もちろん、これ以外の方法で最適化してもよい。
【0031】
つぎに、CPU10aは、放電回路15を制御して、充電可能電池14を所定の電流パターンとなるようにパルス放電させる。このとき、CPU10aは、所定の電流パターンで充電可能電池14に放電させたときの電圧降下ΔVを計算し、これが実測値に近づくように状態ベクトルXを更新する。そして、CPU10aは、最適化によって得られた等価回路の素子値から、導電抵抗・液抵抗Rohmを取得する。
【0032】
つぎに、CPU10aは、温度センサ13の出力を参照し、その時点における充電可能電池14の周辺温度を検出し、検出した周辺温度を、充電可能電池14の熱的等価回路に基づいて、充電可能電池14の電解液温度を推定する。例えば、充電可能電池14を、熱容量、熱抵抗、および、熱源からなる熱的等価回路として構成し、周辺温度および熱源からの熱量と、熱抵抗および熱容量とに基づいて、電解液の温度を推定する。
【0033】
また、CPU10aは、その時点のOCV(Open Circuit Voltage)から、充電可能電池14の充電率SOC(State of Charge)を計算する。
【0034】
つぎに、CPU10aは、電解液温度と、SOCとに基づいて、充電可能電池14の導電抵抗・液抵抗Rohmを補正する。
図4は、補正の様子を模式的に示す図である。
図4において、横軸は測定時の電解液温度を示し、縦軸は測定時のSOCを示している。例えば、Rohmを測定時の電解液温度がTm_1であり充電率がSOCm_1であった場合、これを基準状態である温度Tstdおよび充電率SOCstdの状態における値に補正するとRohm_stdになる。また、同様に、Rohmを測定時の電解液温度がTm_2であり充電率がSOCm_2であった場合、これを基準状態である温度Tstdおよび充電率SOCstdの状態における値に補正するとRohm_stdになる。なお、基準状態の電解液温度としては、例えば、25℃とすることができ、基準状態の充電率としては100%とすることができる。もちろん、これ以外の値としてもよい。
【0035】
つぎに、CPU10aは、充電可能電池14のサイズを判定するための判定閾値をROM10bから取得する。より詳細には、ROM10bには、充電可能電池14のサイズ毎に判定閾値が格納されている。CPU10aは、ECUから供給されたIDに対応する判定閾値をROM10bから取得する。
【0036】
図5は、ECUに登録されている指定サイズであるAサイズに対応する充電可能電池14の判定閾値の一例を示している。
図5の横軸は、導電抵抗・液抵抗Rohmの値を示し、右側ほどRohmの値が大きいことを示す。
図5の例では、例えば、EN(European Norm)規格のLN1に対応する規格であり、Aサイズの下限閾値および上限閾値、Aサイズよりも大きいサイズのBサイズの下限閾値、Aサイズよりも小さいサイズのCサイズの上限閾値が例示されている。RohmやRohm_stdの値を、このような閾値と比較することで、現在、車両に搭載されている充電可能電池14が、指定のAサイズであるか否かを判定することができる。
【0037】
ところで、等価回路の素子値は、測定時の条件によって、誤差の大小が異なる。
図6は、測定時の電解液温度と、等価回路の素子値の平均値からのずれを示す図である。
図6の横軸は、等価回路の素子値の平均値からのずれ[au(arbitrary unit)]を示し、縦軸は確率密度を示している。また、実線の曲線は基準温度(例えば、25℃)における等価回路の素子値の平均値からのずれの分布を示し、間隔が長い破線の曲線は基準温度±10℃における等価回路の素子値の平均値からのずれの分布を示し、間隔が短い破線の曲線は基準温度±20℃における等価回路の素子値の平均値からのずれの分布を示している。
図6に示すように、測定時の温度が基準温度から乖離するにつれて、分布曲線が広がっており、平均値からのずれが大きいことを示している。
【0038】
すなわち、測定時の電解液温度が、基準温度から乖離している場合、補正後の等価回路の素子値は、誤差を含む可能性が高い。このため、本実施形態では、
図5に示す判定閾値を、測定時の温度およびSOCに応じて変更する。例えば、電解液温度の場合、等価回路の素子値を測定した時点における電解液温度が、基準温度と等しい場合には、
図6に示す実線の縦線を判定閾値とし、基準温度±10である場合には、
図6に示す間隔が長い破線を判定閾値とし、基準温度±20である場合には、
図6に示す間隔が短い破線を判定閾値とする。
【0039】
これを、
図5を参照して説明すると、測定時の電解液温度が基準温度と等しい場合には、例えば、
図5に示すAサイズ下限閾値およびAサイズ上限閾値を用いて、Aサイズか否かの判定を行う。また、基準温度±10である場合には、
図5に示すAサイズ下限閾値およびAサイズ上限閾値の間隔を広く設定し、基準温度±20である場合には、
図5に示すAサイズ下限閾値およびAサイズ上限閾値の間隔をさらに広く設定する。
【0040】
この結果、Rohmの値が
図5に示すAサイズの範囲内に収まる場合には、ECUに格納されているIDによって特定される充電可能電池14のサイズと、実際に搭載されている充電可能電池14のサイズが同じと判定する。
【0041】
一方、Rohmの値が
図5に示すAサイズの範囲内に収まらない場合には、ECUに格納されているIDによって特定される充電可能電池14のサイズと、実際に搭載されている充電可能電池14のサイズが異なると判定する。なお、異なると判定した場合には、
図5の他の閾値と比較することで、実際に搭載されている充電可能電池14のサイズを推定する。例えば、Aサイズ上限閾値よりも大きく、Cサイズ上限閾値以下である場合には、Cサイズと推定することができる。
【0042】
CPU10aは、実際に搭載されている充電可能電池14のサイズが、IDによって特定されるサイズと同じである場合には、現在、使用している定数を使用して、充電可能電池14の状態を検出する。また、実際に搭載されている充電可能電池14のサイズが、IDによって特定されるサイズと異なると判定した場合には、推定されたサイズ(例えば、
図5の例では、Cサイズ)に対応する定数をROM10bから新たに取得し、新たに取得した定数に基づいて、充電可能電池14の状態を検出する。
【0043】
以上に説明したように、本発明の実施形態によれば、等価回路の素子値に基づいて、実際に搭載されている充電可能電池14のサイズが、IDによって特定されるサイズと同じか否かを判定することができるので、異なるサイズの充電可能電池14が搭載されたことを検出することができる。また、異なるサイズの充電可能電池14が搭載されている場合には、
図5に示す閾値に基づいて、実際に搭載されている充電可能電池14のサイズを推定し、推定した充電可能電池14に対応する定数を用いることで、充電可能電池14の状態を正確に推定することができる。
【0044】
つぎに、
図7を参照して、本発明の実施形態において実行される処理について説明する。
図7に示す処理は、例えば、車両が停車されてから所定の時間(例えば、数時間)が経過した場合に実行される。
図7の処理が開始されると、以下のステップが実行される。
【0045】
ステップS10では、CPU10aは、車両から充電可能電池14のIDを取得する。より詳細には、CPU10aは、通信部10dを介して、図示しないECUから、車両に搭載されるべき充電可能電池14を特定するためのIDを取得する。
【0046】
ステップS11では、CPU10aは、ステップS10で取得したIDに対応する定数を、ROM10bから取得する。より詳細には、CPU10aは、
図3に示す、充電可能電池14の電気的な等価回路を構成する素子値を最適化するための定数を取得する。
【0047】
ステップS12では、CPU10aは、放電回路15を制御して、充電可能電池14の放電を開始する。
【0048】
ステップS13では、CPU10aは、電圧センサ11および電流センサ12の出力を参照し、放電中の電圧および電流の値を測定する。
【0049】
ステップS14では、CPU10aは、測定を終了するか否かを判定し、測定を終了すると判定した場合(ステップS14:Y)にはステップS15に進み、それ以外の場合(ステップS14:N)にはステップS13に戻って同様の処理を繰り返す。ステップS13~ステップS14の処理の繰り返しにより、放電中における充電可能電池14の電圧および電流が測定されて、RAM10cに格納される。
【0050】
ステップS15では、CPU10aは、放電回路15を制御して、放電を終了する。
【0051】
ステップS16では、CPU10aは、等価回路の素子値を最適化する処理を実行する。より詳細には、所定の電流パターンで充電可能電池14に放電させたときの電圧降下ΔVを計算し、これが実測値に近づくように状態ベクトルXを更新することで、等価回路の素子値を最適化する。
【0052】
ステップS17では、CPU10aは、温度センサ13の出力を参照して充電可能電池14の周辺温度を検出し、検出した周辺温度を充電可能電池14の熱的な等価回路に適用することで、充電可能電池14の電解液の温度を推定する。
【0053】
ステップS18では、CPU10aは、電圧センサ11の出力を参照して、その時点のOCVを測定し、測定したOCVとSOCの関係式に基づいて、SOCを算出する。なお、OCVとSOCの関係式は、例えば、ROM10bに予め格納しておくことができる。
【0054】
ステップS19では、CPU10aは、ステップS16で最適化された等価回路に含まれる導電抵抗・液抵抗Rohmを、ステップS17で検出した電解液温度を参照して、基準温度(例えば、25℃)における導電抵抗・液抵抗Rohmの値に補正する。
【0055】
ステップS20では、CPU10aは、ステップS16で最適化された等価回路に含まれる導電抵抗・液抵抗Rohmを、ステップS18で検出したSOCの値を参照して、基準SOC(例えば、100%)における導電抵抗・液抵抗Rohmの値に補正する。
【0056】
ステップS21では、CPU10aは、ステップS10で取得したIDに対応する判定閾値をROM10bから取得する。例えば、IDによって指摘される標準の充電可能電池14のサイズがAサイズである場合には、
図5に示すAサイズ下限閾値およびAサイズ上限閾値が取得される。
【0057】
ステップS22では、CPU10aは、ステップS21で取得した判定閾値を、ステップS17で検出したその時点における電解液温度によって補正する。例えば、
図6に示すように、基準温度と同じ温度である場合には補正は行わない。また、基準温度±10℃である場合には、Aサイズ上限閾値を大きくし、Aサイズ下限閾値を小さくする。さらに、基準温度±20℃である場合には、Aサイズ上限閾値をさらに大きくし、Aサイズ下限閾値をさらに小さくする。
【0058】
ステップS23では、CPU10aは、ステップS22で補正した判定閾値を、ステップS18で算出したその時点におけるSOCによって補正する。例えば、基準SOCと同じ値である場合には補正は行わない。また、基準SOC±10%である場合には、Aサイズ上限閾値を大きくし、Aサイズ下限閾値を小さくする。さらに、基準SOC±20%である場合には、Aサイズ上限閾値をさらに大きくし、Aサイズ下限閾値をさらに小さくする。なお、SOCの場合、SOCの値が大きい場合(例えば、90%以上の場合)には、誤差は小さいが、SOCの値が小さい場合には誤差が大きくなるので、このような特性も考慮して、判定閾値を補正することが望ましい。
【0059】
ステップS24では、CPU10aは、IDと充電可能電池14が不整合か否かを判定し、不整合と判定した場合(ステップS24:Y)にはステップS25に進み、それ以外の場合(ステップS24:N)には処理を終了する。より詳細には、IDによってAサイズが指定されている場合に、搭載されている充電可能電池14がAサイズの場合にはNと判定して処理を終了し、それ以外の場合にはステップS25に進む。
【0060】
ステップS25では、CPU10aは、判定閾値に基づいて、正しい情報を推定する。例えば、
図5に示す閾値に基づいて、充電可能電池14のサイズを推定する。
【0061】
ステップS26では、CPU10aは、ステップS25で推定した正しい情報に対応する定数をROM10bから取得し、正しい定数として設定する。これにより、IDとはサイズが異なる充電可能電池14が搭載された場合であっても、充電可能電池14の状態を正確に検出することができる。
【0062】
なお、以上の処理によって正しい定数が設定されると、
図3に示す等価回路の素子値を正しく最適化することができるので、最適化した素子値に基づいて、充電可能電池14の状態(例えば、SOC、SOF(State of Function)、SOH(State of Health))を正しく推定することができる。
【0063】
(C)本発明の第2実施形態の説明
つぎに、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態の構成は、
図1と同様であるが、動作が異なっているので、以下では、第2実施形態の動作について説明する。
【0064】
第2実施形態では、車両に格納されているIDは、充電可能電池14の種類を特定する。より詳細には、充電可能電池14がアイドリングストップ専用であるか、または、ノーマル液式であるかを特定する。
【0065】
図8は、横軸が抵抗Rctを示し、縦軸が容量Cの逆数(=1/C)を示し、このようなグラフ上にアイドリングストップ専用の充電可能電池と、ノーマル液式の充電可能電池の測定結果をプロットしたものである。この
図8の例では、分離曲線よりも上側(図の上側)に存在する充電可能電池はアイドリングストップ専用であり、下側(図の下側)に存在する充電可能電池はノーマル液式である。したがって、分離曲線とCの逆数(=1/C)の大小関係を調べることによりアイドリングストップ専用であるかまたはノーマル液式であるかを判定することができる。
【0066】
図9は、第2実施形態において実行される処理の一例を示すフローチャートである。
図9において、
図7と対応する部分には同一の符号を付してその説明を省略する。なお、
図9では、
図7と比較すると、ステップS19~ステップS26がステップS30~ステップS37に置換されているので、これらを中心に説明する。
【0067】
ステップS30では、CPU10aは、ステップS16で最適化された等価回路の素子値から反応抵抗Rct1と電気二重層容量C1の値を取得し、これらの値をステップS17で検出した電解液温度に基づいて補正する。すなわち、反応抵抗Rct1と電気二重層容量C1の値を、基準温度(例えば、25℃)における値に補正する。
【0068】
ステップS31では、CPU10aは、ステップS30で補正された反応抵抗Rct1と電気二重層容量C1を、ステップS18で算出したSOCの値に基づいて補正する。すなわち、反応抵抗Rct1と電気二重層容量C1の値を、基準SOC(例えば、100%)における値に補正する。
【0069】
ステップS32では、CPU10aは、判定閾値を取得する。より詳細には、CPU10aは、取得したRct1の値を、例えば、所定の関数f(Rct1)に適用し、充電可能電池14の種類を識別するための指標値を算出する。なお、指標値を算出するための関数f(Rct1)としては、例えば、以下の式(1)を用いることができる。
【0070】
f(Rct1)=A×exp(B×Rct1)+C ・・・(1)
但し、A,B,Cは、実験等によって予め求めた定数である。
【0071】
ステップS33では、CPU10aは、判定閾値としての関数f(Rct1)を、ステップS17で検出した電解液温度に基づいて補正する。なお、補正の方法としては、温度の上昇および下降に応じた関数f(Rct1)の値の変動に基づいて補正することができる。
図10は、判定閾値の補正の様子を模式的に示す図である。
図10(A)は補正前の状態を示し、
図10(B)は補正後の状態を示している。なお、
図10において横軸はRct1[au]を示し、縦軸は1/C1[au]を示している。四角形は判定する対象となるデータを示している。また、間隔が短い破線はRct1の上限値を示し、間隔が長い破線はRct1の下限値を示し、一点鎖線はC1の上限値を示し、二点鎖線はC1の下限値を示している。例えば、電解液温度が基準温度に近い場合には、
図10(A)のような判定閾値とされ、電解液温度が基準温度の値から乖離している場合には、
図10(B)のような判定閾値とされる。
【0072】
ステップS34では、CPU10aは、判定閾値としての関数f(Rct1)を、ステップS18で算出したSOCの値に基づいて補正する。なお、補正の方法としては、SOCの増加および下降に応じた関数f(Rct1)の値の変動に基づいて補正することができる。なお、SOCについても、前述した
図10と同様の補正がされる。すなわち、SOCの値が基準SOCに近い場合には、
図10(A)のような判定閾値とされ、SOCの値が基準SOCから乖離している場合には、
図10(B)のような判定閾値とされる。
【0073】
ステップS35では、CPU10aは、IDと充電可能電池14が不整合か否かを判定する。より詳細には、CPU10aは、以上のようにして求めた指標値f(Rct1)と1/C1を比較し、1/C1が指標値f(Rct1)を超える場合には、充電可能電池14が、例えば、アイドリングストップ専用の充電可能電池と判定し、また、1/C1が指標値f(Rct1)を越えない場合には、充電可能電池14が、例えば、ノーマル液式の充電可能電池と判定する。そして、IDによって特定される充電可能電池14と、実際に搭載されている充電可能電池14が不整合か否かを判定し、不整合と判定した場合(ステップS35:Y)にはステップS36に進み、それ以外の場合(ステップS35:N)には処理を終了する。より詳細には、IDで特定されている充電可能電池14がアイドリングストップ専用である場合に、搭載されている充電可能電池14がアイドリングストップ専用であるときはNと判定して処理を終了し、それ以外の場合にはYと判定してステップS36に進む。
【0074】
なお、以上では、Rct1とC1を用いて判定するようにしたが、これ以外の値(例えば、Rct2とC2)を用いるようにしてもよい。もちろん、Rct1,Rct2,C1,C2を組み合わせて用いるようにしたり、Rct1とC2、Rct2とC1を組み合わせて用いるようにしたりしてもよい。
【0075】
図8に、分離曲線として示す曲線は、前述した指標値f(Rct)を示している。この
図8の例では、分離曲線よりも上側(図の上側)に存在する充電可能電池はアイドリングストップ専用であり、下側(図の下側)に存在する充電可能電池はノーマル液式である。したがって、分離曲線である指標値f(Rct)とCの逆数(=1/C)の大小関係を調べることによりアイドリングストップ専用であるかまたはノーマル液式であるかを判定することができる。
【0076】
ステップS36では、CPU10aは、正しい情報を推定する。より詳細には、CPU10aは、ステップS35での判定結果に基づいて、充電可能電池14がアイドリングストップ専用であるか、または、ノーマル液式かを推定する。
【0077】
ステップS37では、CPU10aは、ステップS37での推定結果に基づいて、定数を置換する。例えば、CPU10aが、充電可能電池14がアイドリングストップ専用であると判定した場合には、アイドリングストップ専用の定数をROM10bから取得し、取得した定数に基づいて等価回路を最適化し、最適化された等価回路に基づいて充電可能電池14の状態を検出する。一方、充電可能電池14がノーマル液式であると判定した場合には、ノーマル液式専用の定数をROM10bから取得し、取得した定数に基づいて等価回路を最適化し、最適化された等価回路に基づいて充電可能電池14の状態を検出する。
【0078】
以上に説明したように、本発明の第2実施形態によれば、車両が有している充電可能電池14のIDと、実際に搭載された充電可能電池14とが一致していない場合、例えば、車両情報ではアイドリングストップ専用の充電可能電池14が指示されているにも係わらず、ノーマル液式の充電可能電池14が搭載されている場合には、これを検出するとともに、定数をノーマル液式用に変更することができる。これにより、IDとは異なる充電可能電池14が搭載された場合でも、充電可能電池14の状態を正確に検出することができる。
【0079】
(D)本発明の第3実施形態の説明
つぎに、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態の構成は、
図1と同様であるが、動作が異なっているので、以下では、第3実施形態の動作について説明する。
【0080】
本発明の第3実施形態では、車両に格納されているIDは、充電可能電池14のサイズを特定し、充電可能電池状態検出装置1では、サイズに基づいて充電可能電池14の熱的特性を特定し、充電可能電池14の電解液温度を推定する。
【0081】
図11は、充電可能電池14のサイズと熱的特性の関係を示す図である。充電可能電池14に充放電電流が流れると、ジュール熱および化学反応熱が発生する。これらの熱は、充電可能電池14の温度を上昇させるが、上昇率は充電可能電池14のサイズによって異なる。すなわち、充電可能電池14のサイズが小さい方が温度上昇率(
図11に示すグラフの傾き)は大きくなる。
【0082】
図12は、第3実施形態において実行される処理の一例を示すフローチャートである。
図12において、
図7と対応する部分には同一の符号を付してその説明を省略する。なお、
図12では、
図7と比較すると、ステップS19~ステップS26がステップS50~ステップS57に置換されているので、これらを中心に説明する。
【0083】
ステップS50では、CPU10aは、ステップS16で最適化された等価回路の素子値から導電抵抗・液抵抗Rohmと反応抵抗Rct1の値を取得し、これらの値を、ステップS17で検出した電解液温度に基づいて補正する。すなわち、導電抵抗・液抵抗Rohmと反応抵抗Rct1の値を、基準温度(例えば、25℃)における値に補正する。
【0084】
ステップS51では、CPU10aは、ステップS50で補正された導電抵抗・液抵抗Rohmと反応抵抗Rct1の値を、ステップS18で算出したSOCの値に基づいて補正する。すなわち、導電抵抗・液抵抗Rohmと反応抵抗Rct1の値を、基準SOC(例えば、100%)における値に補正する。
【0085】
ステップS52では、CPU10aは、判定閾値を取得する。より詳細には、CPU10aは、
図11に示す充放電時の発熱量と、温度センサ13の温度上昇との関係における判定閾値を取得する。より詳細には、充電可能電池14に充放電電流が流れると、ジュール熱および化学反応熱が発生する。これらの熱は、充電可能電池14の温度を上昇させるが、上昇率は充電可能電池14のサイズによって異なる。すなわち、充電可能電池14のサイズが小さい方が温度上昇率(
図11に示すグラフの傾き)は大きくなる。例えば、充電可能電池14がAサイズである場合、判定閾値は間隔が長い破線と間隔が短い破線が判定閾値となる。CPU10aは、
図11にグラフで示す判定閾値を取得する。
【0086】
なお、発熱量Qと、導電抵抗・液抵抗Rohm、反応抵抗Rct1、電圧V、電流I、および、時間tとの間には以下の式(3)が成立する。ここで、g()は、括弧内を変数とする所定の関数である。なお、導電抵抗・液抵抗Rohm、反応抵抗Rct1、電圧V、電流I、および、時間tと、熱量との間には相関関係が存在するので、g()は、例えば、これらの変数の一次関数として示すことができる。
【0087】
Q=g(Rohm,Rct1,V,I,t) ・・・(3)
【0088】
また、温度センサ13による検出値の推定値θと、発熱量Qとの間には、以下の式(4)が成立する。ここで、h()は、括弧内を変数とする所定の関数である。なお、発熱量Qと、温度θとの間には相関関係が存在するので、h()は、例えば、これらの変数の一次関数として示すことができる。
【0089】
θ=h(Q)=h(g(Rohm,Rct1,V,I,t)) ・・・(4)
【0090】
ステップS53では、CPU10aは、判定閾値としての
図11の曲線を、ステップS17で検出した電解液の温度に基づいて補正する。なお、補正の方法としては、温度が基準温度から乖離するに応じて、
図11に示す判定閾値の間隔を広げるようにすればよい。より詳細には、間隔が長い破線(Aサイズ判定上限)を上方向に拡大するとともに、間隔が短い破線(Aサイズ判定下限)を下方向に拡大するようにすればよい。
【0091】
ステップS54では、CPU10aは、判定閾値としての
図11の曲線を、ステップS18で算出したSOCの値に基づいて補正する。なお、補正の方法としては、SOCの値が基準SOCの値から乖離するに応じて、
図11に示す判定閾値の間隔を広げるようにすればよい。より詳細には、間隔が長い破線(Aサイズ判定上限)を上方向に拡大するとともに、間隔が短い破線(Aサイズ判定下限)を下方向に拡大するようにすればよい。
【0092】
ステップS55では、CPU10aは、IDと充電可能電池14が不整合か否かを判定する。より詳細には、CPU10aは、以上のようにして求めた判定閾値と、IDによって示されている充電可能電池14のサイズとを比較し、搭載されている充電可能電池14がIDによって示されているサイズと等しいか否かを判定し、異なる(不整合)と判定した場合(ステップS55:Y)にはステップS56に進み、それ以外の場合(ステップS55:N)には処理を終了する。
【0093】
ステップS56では、CPU10aは、判定閾値に基づいて、正しい情報を推定する。例えば、
図11に示す判定閾値に基づいて、充電可能電池14のサイズを推定する。
【0094】
ステップS57では、CPU10aは、ステップS56で推定した正しい情報に対応する定数をROM10bから取得し、正しい定数として設定する。これにより、IDとはサイズが異なる充電可能電池14が搭載された場合であっても、誤検出がされることを防止できる。
【0095】
なお、以上の処理によって正しい定数が設定されると、
図3に示す等価回路の素子値を正しく最適化することができるので、最適化した素子値に基づいて、充電可能電池14の電解液温度を正しく推定することができる。このため、充電可能電池14の状態(例えば、SOC、SOF(State of Function)、SOH(State of Health))を正しく推定することができる。
【0096】
(C)変形実施形態の説明
以上の実施形態は一例であって、本発明が上述したような場合のみに限定されるものでないことはいうまでもない。例えば、以上の実施形態では、放電回路15によって充電可能電池14を放電させ、そのときの電圧および電流に基づいて、充電可能電池14の等価回路を構成する素子の値を最適化するようにしたが、充電可能電池14から負荷19に電力が供給されている際に、電圧および電流を測定して、等価回路を構成する素子の値を最適化するようにしてもよい。
【0097】
また、
図7、
図9、および、
図12に示すフローチャートは一例であって、本発明がこれらのフローチャートの処理のみに限定されるものではない。
【0098】
また、以上の各実施形態では、充電可能電池14の等価回路としては、
図3に示す等価回路を用いるようにしたが、これ以外の等価回路を用いるようにしてもよい。
【0099】
また、以上の各実施形態では、判定閾値は、電解液温度およびSOCの双方に基づいて補正するようにしたが、これらの少なくとも一方に基づいて補正するようにしてもよい。例えば、SOCの値が大きい場合には、小さい場合に比較して誤差が少なくなるので、SOCの値が大きい場合には、電解液温度のみに基づいて判定閾値を補正するようにしてもよい。
【0100】
以上の各実施形態では、等価回路の素子値は、電解液温度およびSOCの双方に基づいて補正するようにしたが、これらの少なくとも一方に基づいて補正するようにしてもよい。
【0101】
また、以上の各実施形態では、充電可能電池14の等価回路を構成する素子値と、判定閾値とを直接比較するようにしたが、素子値から所定の計算によって求まる値と、判定閾値を比較するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1 充電可能電池状態検出装置
10 制御部
10a CPU
10b ROM
10c RAM
10d 通信部
10e I/F
11 電圧センサ
12 電流センサ
13 温度センサ
14 充電可能電池
15 放電回路
16 オルタネータ
17 エンジン
18 スタータモータ
19 負荷