IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧 ▶ 学校法人自治医科大学の特許一覧

特許7072771てんかん判定装置、てんかん判定システム、てんかん判定方法及びてんかん判定プログラム
<>
  • 特許-てんかん判定装置、てんかん判定システム、てんかん判定方法及びてんかん判定プログラム 図1
  • 特許-てんかん判定装置、てんかん判定システム、てんかん判定方法及びてんかん判定プログラム 図2
  • 特許-てんかん判定装置、てんかん判定システム、てんかん判定方法及びてんかん判定プログラム 図3
  • 特許-てんかん判定装置、てんかん判定システム、てんかん判定方法及びてんかん判定プログラム 図4
  • 特許-てんかん判定装置、てんかん判定システム、てんかん判定方法及びてんかん判定プログラム 図5
  • 特許-てんかん判定装置、てんかん判定システム、てんかん判定方法及びてんかん判定プログラム 図6
  • 特許-てんかん判定装置、てんかん判定システム、てんかん判定方法及びてんかん判定プログラム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】てんかん判定装置、てんかん判定システム、てんかん判定方法及びてんかん判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/372 20210101AFI20220516BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
A61B5/372 ZDM
A61B10/00 H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018051262
(22)【出願日】2018-03-19
(65)【公開番号】P2019162237
(43)【公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏知
(72)【発明者】
【氏名】江間見 亜利
(72)【発明者】
【氏名】川合 謙介
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-310564(JP,A)
【文献】特開2001-309898(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106821376(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108403111(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/369 - 5/386
A61B 10/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の脳波データを取得する取得部と、
前記脳波データを所定の時間幅で切り出して、脳波を表す複数の画像を生成する生成部と、
前記複数の画像を学習済みモデルに入力し、前記学習済みモデルによって、前記複数の画像のいずれかにてんかん発作の脳波が表れているかを判定させる判定部と、
を備えるてんかん判定装置。
【請求項2】
脳波を表す複数のテスト用画像を前記学習済みモデルに入力して、前記学習済みモデルの判定精度を評価する評価部と、
前記評価部による評価に基づいて、前記所定の時間幅の設定を行う設定部と、
前記設定部により設定された前記所定の時間幅で切り出された、脳波を表す複数の学習用画像と、前記複数の学習用画像がてんかん発作の脳波を表しているか否かに関する情報と、を学習用データとして学習モデルを学習させ、新たな学習済みモデルを生成する学習部と、
をさらに備える請求項1に記載のてんかん判定装置。
【請求項3】
前記評価部は、複数の指標に基づいて前記学習済みモデルの判定精度を評価する、
請求項2に記載のてんかん判定装置。
【請求項4】
前記複数の指標は、
てんかん発作が表れている画像について、てんかん発作が表れていると正しく判定できるかを示す指標と、
てんかん発作が表れていない画像について、てんかん発作が表れていないと正しく判定できるかを示す指標と、
てんかん発作が表れている画像について、てんかん発作が表れていないと誤って判定するかを示す指標と、
てんかん発作が表れていない画像について、てんかん発作が表れていると誤って判定するかを示す指標と、を含む、
請求項3に記載のてんかん判定装置。
【請求項5】
前記複数の画像は、前記脳波データを測定した複数の電極に対応する複数の色で示された波形を含む、
請求項1から4のいずれか一項に記載のてんかん判定装置。
【請求項6】
前記学習済みモデルは、学習済みの畳み込みニューラルネットワークである、
請求項1から5のいずれか一項に記載のてんかん判定装置。
【請求項7】
前記生成部は、前記脳波データに対してローパスフィルタ、ハイパスフィルタ及びノッチフィルタのうち少なくともいずれかを施した後、前記脳波データを前記所定の時間幅で切り出して、前記複数の画像を生成する、
請求項1から6のいずれか一項に記載のてんかん判定装置。
【請求項8】
対象者の脳波データを測定する測定装置と、前記脳波データに基づいて、てんかんを判定するてんかん判定装置と、を備えるてんかん判定システムであって、
前記てんかん判定装置は、
前記脳波データを所定の時間幅で切り出して、脳波を表す複数の画像を生成する生成部と、
前記複数の画像を学習済みモデルに入力し、前記学習済みモデルによって、前記複数の画像のいずれかにてんかん発作の脳波が表れているかを判定させる判定部と、
前記判定部により、前記複数の画像のいずれかにてんかん発作の脳波が表れていると判定された場合に、所定の端末に通知する通知部と、を有する、
てんかん判定システム。
【請求項9】
対象者の脳波データを取得することと、
前記脳波データを所定の時間幅で切り出して、脳波を表す複数の画像を生成することと、
前記複数の画像を学習済みモデルに入力し、前記学習済みモデルによって、前記複数の画像のいずれかにてんかん発作の脳波が表れているかを判定させることと、
を含むてんかん判定方法。
【請求項10】
てんかん判定装置に備えられたコンピュータを、
対象者の脳波データを取得する取得部、
前記脳波データを所定の時間幅で切り出して、脳波を表す複数の画像を生成する生成部、及び
前記複数の画像を学習済みモデルに入力し、前記学習済みモデルによって、前記複数の画像のいずれかにてんかん発作の脳波が表れているかを判定させる判定部、
として機能させるてんかん判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、てんかん判定装置、てんかん判定システム、てんかん判定方法及びてんかん判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、患者の頭部に電極を配置して脳波(Electroencephalogram:EEG)を測定し、てんかん発作に特有の脳波パターンを観察することがある。そのような脳波パターンの観察は、てんかんの専門医によって行われることがある。
【0003】
下記非特許文献1には、脳波を入力として、ウェーブレット変換により特徴量を抽出し、ニューラルネットワークによりてんかん発作が生じているか否かを分類する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】E. Juarez-Guerra、V. Alarcon-Aquino、P. Gomez- Gil、"Epilepsy seizure detection in eeg signals using wavelet transforms and neural networks"、2015年、Lecture Notes in Electrical Engineering、volume 312、p.261-269
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、てんかん発作には様々な種類があり、発作中の脳波パターンも多岐にわたることが知られている。そのため、従来の技術では、十分に高い精度でてんかん発作を判定することが難しかった。
【0006】
そこで、本発明は、てんかん発作をより高い精度で判定することができるてんかん判定装置、てんかん判定システム、てんかん判定方法及びてんかん判定プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るてんかん判定装置は、対象者の脳波データを取得する取得部と、脳波データを所定の時間幅で切り出して、脳波を表す複数の画像を生成する生成部と、複数の画像を学習済みモデルに入力し、学習済みモデルによって、複数の画像のいずれかにてんかん発作の脳波が表れているかを判定させる判定部と、を備える。
【0008】
この態様によれば、脳波データを所定の時間幅で切り出して、脳波を表す複数の画像を生成して、複数の画像のいずれかにてんかん発作の脳波が表れているかを学習済みモデルに判定させることで、専門医がてんかん発作を診断するのと同様の条件で判定を行うことができ、より高い精度でてんかん発作を判定することができる。
【0009】
上記態様において、脳波を表す複数のテスト用画像を学習済みモデルに入力して、学習済みモデルの判定精度を評価する評価部と、評価部による評価に基づいて、所定の時間幅の設定を行う設定部と、設定部により設定された所定の時間幅で切り出された、脳波を表す複数の学習用画像と、複数の学習用画像がてんかん発作の脳波を表しているか否かに関する情報と、を学習用データとして学習モデルを学習させ、新たな学習済みモデルを生成する学習部と、をさらに備えてもよい。
【0010】
この態様によれば、脳波データを切り出す時間幅を調整して、判定精度が向上するように新たな学習済みモデルを生成することができ、より高い精度でてんかん発作を判定することができる。
【0011】
上記態様において、評価部は、複数の指標に基づいて学習済みモデルの判定精度を評価してもよい。
【0012】
この態様によれば、学習済みモデルの判定精度を多面的に評価することができ、脳波データを切り出す時間幅をより適切に調整することができる。
【0013】
上記態様において、複数の指標は、てんかん発作が表れている画像について、てんかん発作が表れていると正しく判定できるかを示す指標と、てんかん発作が表れていない画像について、てんかん発作が表れていないと正しく判定できるかを示す指標と、てんかん発作が表れている画像について、てんかん発作が表れていないと誤って判定するかを示す指標と、てんかん発作が表れていない画像について、てんかん発作が表れていると誤って判定するかを示す指標と、を含んでよい。
【0014】
この態様によれば、トゥルー・ポジティブ、トゥルー・ネガティブ、フォールス・ネガティブ及びフォールス・ポジティブの場合について学習済みモデルの判定精度を多面的に評価することができ、脳波データを切り出す時間幅をより適切に調整することができる。
【0015】
上記態様において、複数の画像は、脳波データを測定した複数の電極に対応する複数の色で示された波形を含んでもよい。
【0016】
この態様によれば、脳波データを測定した複数の電極を区別して、専門医がてんかん発作を診断するのと同様の条件で判定を行うことができ、より高い精度でてんかん発作を判定することができる。
【0017】
上記態様において、学習済みモデルは、学習済みの畳み込みニューラルネットワークであってもよい。
【0018】
この態様によれば、人と同程度かそれ以上の判定精度を有する学習済みモデルを用いることができ、より高い精度でてんかん発作を判定することができる。
【0019】
上記態様において、生成部は、脳波データに対してローパスフィルタ、ハイパスフィルタ及びノッチフィルタのうち少なくともいずれかを施した後、脳波データを所定の時間幅で切り出して、複数の画像を生成してもよい。
【0020】
この態様によれば、脳波データに含まれることがあるノイズを除去した上で複数の画像を生成することができ、より高い精度でてんかん発作を判定することができる。
【0021】
本発明の他の態様に係るてんかん判定システムは、対象者の脳波データを測定する測定装置と、脳波データに基づいて、てんかんを判定するてんかん判定装置と、を備えるてんかん判定システムであって、てんかん判定装置は、脳波データを所定の時間幅で切り出して、脳波を表す複数の画像を生成する生成部と、複数の画像を学習済みモデルに入力し、学習済みモデルによって、複数の画像のいずれかにてんかん発作の脳波が表れているかを判定させる判定部と、判定部により、複数の画像のいずれかにてんかん発作の脳波が表れていると判定された場合に、所定の端末に通知する通知部と、を有する。
【0022】
この態様によれば、脳波データを所定の時間幅で切り出して、脳波を表す複数の画像を生成して、複数の画像のいずれかにてんかん発作の脳波が表れているかを学習済みモデルに判定させることで、専門医がてんかん発作を診断するのと同様の条件で判定を行うことができ、より高い精度でてんかん発作を判定することができる。また、てんかん発作の脳波が表れていると判定された場合に、所定の端末に通知することで、脳波の確認作業の負担を軽減することができる。
【0023】
本発明の他の態様に係るてんかん判定方法は、対象者の脳波データを取得することと、脳波データを所定の時間幅で切り出して、脳波を表す複数の画像を生成することと、複数の画像を学習済みモデルに入力し、学習済みモデルによって、複数の画像のいずれかにてんかん発作の脳波が表れているかを判定させることと、を含む。
【0024】
この態様によれば、脳波データを所定の時間幅で切り出して、脳波を表す複数の画像を生成して、複数の画像のいずれかにてんかん発作の脳波が表れているかを学習済みモデルに判定させることで、専門医がてんかん発作を診断するのと同様の条件で判定を行うことができ、より高い精度でてんかん発作を判定することができる。
【0025】
本発明の他の態様に係るてんかん判定プログラムは、てんかん判定装置に備えられたコンピュータを、対象者の脳波データを取得する取得部、脳波データを所定の時間幅で切り出して、脳波を表す複数の画像を生成する生成部、及び複数の画像を学習済みモデルに入力し、学習済みモデルによって、複数の画像のいずれかにてんかん発作の脳波が表れているかを判定させる判定部、として機能させる。
【0026】
この態様によれば、脳波データを所定の時間幅で切り出して、脳波を表す複数の画像を生成して、複数の画像のいずれかにてんかん発作の脳波が表れているかを学習済みモデルに判定させることで、専門医がてんかん発作を診断するのと同様の条件で判定を行うことができ、より高い精度でてんかん発作を判定することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、てんかん発作をより高い精度で判定することができるてんかん判定装置、てんかん判定システム、てんかん判定方法及びてんかん判定プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係るてんかん判定システムの機能ブロックを示す図である。
図2】本実施形態に係るてんかん判定装置の物理的構成を示す図である。
図3】本実施形態に係るてんかん判定装置の学習済みモデルに入力される画像の一例である。
図4】本実施形態に係るてんかん判定装置の判定精度を示す第1グラフである。
図5】本実施形態に係るてんかん判定装置の判定精度を示す第2グラフである。
図6】本実施形態に係るてんかん判定システムにより実行されるてんかん判定処理のフローチャートである。
図7】本実施形態に係るてんかん判定システムにより実行される学習処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係るてんかん判定システム1の機能ブロックを示す図である。てんかん判定システム1は、てんかん判定装置10と、測定装置20とを備える。測定装置20は、対象者の脳波を測定する装置であり、対象者の頭部に装着した複数の電極により、対象者の脳の電気活動を測定する。測定装置20は、例えば国際10-20法に従って配置された21個の電極を有してよいが、電極の数や配置は任意である。
【0031】
てんかん判定装置10は、取得部11、生成部12、判定部13、評価部14、設定部15、学習部16、通知部17及び記憶部18を有する。取得部11は、対象者の脳波データを取得する。取得部11は、測定装置20によって測定された対象者の脳波データを取得してよいが、予め記憶部18又は他の記憶装置に記憶された対象者の脳波データを取得してもよい。
【0032】
生成部12は、脳波データを所定の時間幅で切り出して、脳波を表す複数の画像を生成する。ここで、所定の時間幅は、任意に設定できるものであるが、例えば、0.5秒、1秒、2秒、5秒及び10秒等であってよい。例えば、所定の時間幅が10秒であり、脳波データの記録時間が1時間(3600秒)である場合、生成部12は、0~10秒の範囲の脳波データを切り出して脳波を表す第1画像を生成し、1~11秒の範囲の脳波データを切り出して脳波を表す第2画像を生成し、この処理を続けて、最後に3590~3600秒の脳波データを切り出して脳波を表す第3591画像を生成してよい。生成部12は、複数の画像により切り出される脳波データの範囲が重複するように、切り出す範囲を等間隔にずらすこととしてよいが、複数の画像により切り出される脳波データの範囲が重複しないようにしてもよい。
【0033】
生成部12は、脳波データに対してローパスフィルタ、ハイパスフィルタ及びノッチフィルタのうち少なくともいずれかを施した後、脳波データを所定の時間幅で切り出して、複数の画像を生成してよい。ここで、ローパスフィルタは、例えば60Hz以下の周波数のデータを通過させるフィルタであってよく、ハイパスフィルタは、例えば0.5Hz以上の周波数のデータを通過させるフィルタであってよく、ノッチフィルタは、50Hzの周波数のデータを阻止するフィルタであってよい。これにより、脳波データに含まれることがあるノイズを除去した上で複数の画像を生成することができ、より高い精度でてんかん発作を判定することができる。
【0034】
判定部13は、複数の画像を学習済みモデル13aに入力し、学習済みモデル13aによって、複数の画像のいずれかにてんかん発作の脳波が表れているかを判定させる。本実施形態に係るてんかん判定装置10において、学習済みモデル13aは、学習済みの畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network:CNN)である。学習済みモデル13aとして学習済みの畳み込みニューラルネットワークを用いることで、人と同程度かそれ以上の判定精度を達成することができ、より高い精度でてんかん発作を判定することができる。
【0035】
評価部14は、脳波を表す複数のテスト用画像を学習済みモデル13aに入力して、学習済みモデル13aの判定精度を評価する。ここで、評価部14は、複数の指標に基づいて学習済みモデル13aの判定精度を評価してよい。これにより、学習済みモデル13aの判定精度を多面的に評価することができ、脳波データを切り出す時間幅をより適切に調整することができる。
【0036】
より具体的には、複数の指標は、てんかん発作が表れている画像について、てんかん発作が表れていると正しく判定できるかを示す指標と、てんかん発作が表れていない画像について、てんかん発作が表れていないと正しく判定できるかを示す指標と、てんかん発作が表れている画像について、てんかん発作が表れていないと誤って判定するかを示す指標と、てんかん発作が表れていない画像について、てんかん発作が表れていると誤って判定するかを示す指標と、を含んでよい。このように、トゥルー・ポジティブ、トゥルー・ネガティブ、フォールス・ネガティブ及びフォールス・ポジティブの場合について学習済みモデル13aの判定精度を多面的に評価することで、判定精度を多面的に評価することができ、脳波データを切り出す時間幅をより適切に調整することができる。
【0037】
設定部15は、評価部14による評価に基づいて、所定の時間幅の設定を行う。設定部15は、評価部14による評価が向上するように、所定の時間幅を設定してよい。
【0038】
学習部16は、設定部15により設定された所定の時間幅で切り出された、脳波を表す複数の学習用画像と、複数の学習用画像がてんかん発作の脳波を表しているか否かに関する情報と、を学習用データとして学習モデルを学習させ、新たな学習済みモデルを生成する。ここで、脳波を表す複数の学習用画像は、過去に測定装置20により測定され、てんかん発作を表しているか否かに関する情報が関連付けられた画像であってよい。学習部16は、学習モデルが畳み込みニューラルネットワーク等のニューラルネットワークの場合、誤差逆伝播法によってニューラルネットワークの重み係数の学習処理を行ってよい。このようにして、設定部15により脳波データを切り出す時間幅を調整して、学習部16によって判定精度が向上するように新たな学習済みモデルを生成することができ、新たな学習済みモデルを判定部13に実装することで、てんかん判定装置10によってより高い精度でてんかん発作を判定することができる。
【0039】
通知部17は、判定部13により、複数の画像のいずれかにてんかん発作の脳波が表れていると判定された場合に、所定の端末に通知する。ここで、所定の端末は、任意の情報処理端末であってよいが、例えば、専門医の用いる端末であったり、対象者を看護する者が用いる端末であったり、対象者自身が用いる端末であったりしてよい。てんかん発作の脳波が表れていると判定された場合に、所定の端末に通知することで、脳波の確認作業の負担を軽減することができる。
【0040】
記憶部18は、学習部16により用いられる学習用データを記憶してよい。もっとも、学習部16及び記憶部18は、てんかん判定装置10に備えられていなくてもよく、学習モデルの学習処理は、通信ネットワークを介してアクセス可能な他の装置によって実行されてもよい。その場合、てんかん判定装置10は、学習処理を行う他の装置に対して学習処理の条件を送信し、学習済みモデルを構成するための情報を受信してよい。学習済みモデルを構成するための情報は、学習モデルを特定する情報であり、ニューラルネットワークの場合、レイヤーの数、レイヤーの種類、レイヤー間のノードの接続、ノードの接続の重み係数(閾値を含む)及び活性化関数の種類等を含んでよい。
【0041】
図2は、本実施形態に係るてんかん判定装置10の物理的構成を示す図である。てんかん判定装置10は、演算部に相当するCPU(Central Processing Unit)10aと、記憶部に相当するRAM(Random Access Memory)10bと、記憶部に相当するROM(Read only Memory)10cと、通信部10dと、入力部10eと、表示部10fと、を有する。これらの各構成は、バスを介して相互にデータ送受信可能に接続される。なお、本例ではてんかん判定装置10が一台のコンピュータで構成される場合について説明するが、てんかん判定装置10は、複数のコンピュータが組み合わされて実現されてもよい。また、図2で示す構成は一例であり、てんかん判定装置10はこれら以外の構成を有してもよいし、これらの構成のうち一部を有さなくてもよい。
【0042】
CPU10aは、RAM10b又はROM10cに記憶されたプログラムの実行に関する制御やデータの演算、加工を行う制御部である。CPU10aは、脳波を表す画像に基づいててんかんを判定するプログラム(てんかん判定プログラム)を実行する演算部である。CPU10aは、入力部10eや通信部10dから種々のデータを受け取り、データの演算結果を表示部10fに表示したり、RAM10bやROM10cに格納したりする。
【0043】
RAM10bは、記憶部のうちデータの書き換えが可能なものであり、例えば半導体記憶素子で構成されてよい。RAM10bは、CPU10aが実行するてんかん判定プログラムを記憶してよい。なお、これらは例示であって、RAM10bには、これら以外のデータが記憶されていてもよいし、これらの一部が記憶されていなくてもよい。
【0044】
ROM10cは、記憶部のうちデータの読み出しが可能なものであり、例えば半導体記憶素子で構成されてよい。ROM10cは、例えば探索プログラムや、書き換えが行われないデータを記憶してよい。
【0045】
通信部10dは、てんかん判定装置10を他の機器に接続するインターフェースである。通信部10dは、インターネットやLAN(Local Area Network)等の通信ネットワークに接続されてよい。
【0046】
入力部10eは、ユーザからデータの入力を受け付けるものであり、例えば、キーボード及びタッチパネルを含んでよい。
【0047】
表示部10fは、CPU10aによる演算結果を視覚的に表示するものであり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)により構成されてよい。表示部10fは、例えば脳波を表す画像や判定結果を表示してよい。
【0048】
てんかん判定プログラムは、RAM10bやROM10c等のコンピュータによって読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供されてもよいし、通信部10dにより接続される通信ネットワークを介して提供されてもよい。てんかん判定装置10では、CPU10aがてんかん判定プログラムを実行することにより、図1を用いて説明した様々な動作が実現される。なお、これらの物理的な構成は例示であって、必ずしも独立した構成でなくてもよい。例えば、てんかん判定装置10は、CPU10aとRAM10bやROM10cが一体化したLSI(Large-Scale Integration)を備えていてもよい。
【0049】
図3は、本実施形態に係るてんかん判定装置10の学習済みモデルに入力される画像Pの一例である。画像Pは、生成部12によって脳波データから切り出された画像の一例であり、本例では10秒間の脳波データを切り出している。
【0050】
画像Pは、測定装置20が有する21の電極により測定された脳波と、心電の波形とを示している。21の電極により測定された脳波は、グラフの最上部から21番目までの波形であり、心電の波形は、グラフの最下部に示された波形である。
【0051】
画像Pは、脳波データを測定した複数の電極に対応する複数の色で示された波形を含む。本例では、上下に隣り合って描画される波形が異なる色で示されたり、電極の配置に対応するように波形の色が変えられたりしているが、色の選択は任意である。このように色分けすることで、脳波データを測定した複数の電極を区別して、専門医がてんかん発作を診断するのと同様の条件で判定を行うことができ、より高い精度でてんかん発作を判定することができる。
【0052】
図4は、本実施形態に係るてんかん判定装置10の判定精度を示す第1グラフである。第1グラフは、24人の対象者について、それぞれ数十時間にわたって脳波データを測定し、本実施形態に係るてんかん判定装置10によって正しくてんかん発作を判定できるかテストした結果を示している。第1グラフは、横軸に設定部15により設定した時間幅(Time Window)を示し、縦軸に設定された時間幅で学習処理が行われた学習済みモデルの判定精度を示している。判定精度は、評価部14により評価されたトゥルー・ポジティブ(True Positive)の値である。すなわち、第1グラフで示す判定精度は、てんかん発作が表れている画像について、てんかん発作が表れていると正しく判定できるかを示す指標に基づき評価された判定精度である。
【0053】
第1グラフによると、時間幅が0.5秒の場合、箱ひげ図で表される中央値は0程度であり、上側四分位点は0.1よりやや大きく、最大値は0.2程度である。また、時間幅が1秒の場合、箱ひげ図で表される最小値は0程度であり、下側四分位点は0.5程度であり、中央値は0.7よりやや大きく、上側四分位点は0.9程度であり、最大値は1.0程度である。また、時間幅が2秒の場合、箱ひげ図で表される最小値は0程度であり、下側四分位点は0.4程度であり、中央値は0.7程度であり、上側四分位点は0.9程度であり、最大値は1.0程度である。また、時間幅が5秒の場合、箱ひげ図で表される最小値は0程度であり、下側四分位点は0.5程度であり、中央値は0.7よりやや小さく、上側四分位点は0.9よりやや小さく、最大値は1.0よりやや小さい程度である。また、時間幅が10秒の場合、箱ひげ図で表される最小値は0程度であり、下側四分位点は0.2程度であり、中央値は0.6程度であり、上側四分位点は0.8よりやや小さく、最大値は1.0程度である。
【0054】
このように、脳波データを切り出す時間幅は、学習モデルの学習処理が適切に行えるか否かに影響し、判定精度を変動させる要因となることがある。本実施形態に係るてんかん判定装置10では、脳波データを切り出す時間幅を調整して、判定精度が向上するように新たな学習済みモデルを生成することができ、より高い精度でてんかん発作を判定することができる。
【0055】
図5は、本実施形態に係るてんかん判定装置10の判定精度を示す第2グラフである。第2グラフは、24人の対象者について、それぞれ数十時間にわたって脳波データを測定し、本実施形態に係るてんかん判定装置10によって正しく正常状態を判定できるかテストした結果を示している。第2グラフは、横軸に設定部15により設定した時間幅(Time Window)を示し、縦軸に設定された時間幅で学習処理が行われた学習済みモデルの判定精度を示している。判定精度は、評価部14により評価されたトゥルー・ネガティブ(True Negative)の値である。すなわち、第2グラフで示す判定精度は、てんかん発作が表れていない画像について、てんかん発作が表れていないと正しく判定できるかを示す指標に基づき評価された判定精度である。
【0056】
第2グラフによると、時間幅が0.5秒、1秒、2秒、5秒及び10秒の場合、箱ひげ図で表される最小値は0.97~0.99程度であり、下側四分位点は0.98~0.99程度であり、中央値は0.99程度であり、上側四分位点は0.995程度であり、最大値は1.0程度である。
【0057】
図4の第1グラフと図5の第2グラフを比較すると、脳波データを切り出す時間幅と、判定精度との関係は、判定精度の評価に用いる指標によって異なることが確認できる。より具体的には、第1グラフでは、時間幅が0.5秒の場合に判定精度の中央値が0程度であるのに対して、第2グラフでは1.0に近いという違いがある。また、第1グラフでは、時間幅を1秒から10秒まで長くしていくと判定精度の中央値が低下していくのに対して、第2グラフでは、時間幅を1秒から10秒まで長くしていくと判定精度の中央値が上昇していくという違いがある。本実施形態に係るてんかん判定装置10は、複数の指標に基づいて学習済みモデルの判定精度を評価して、複数の指標に基づいて評価された判定精度をバランス良く向上させるように、脳波データを切り出す時間幅を設定してよい。例えば、複数の指標に基づいて評価された判定精度の総和を最大化するように、脳波データを切り出す時間幅を設定してよい。
【0058】
図6は、本実施形態に係るてんかん判定システム1により実行されるてんかん判定処理のフローチャートである。はじめに、測定装置20によって、対象者の脳波データを測定する(S10)。以降の処理は、脳波データが蓄積された後に実行してもよいし、脳波データを測定しながら逐次実行してもよい。
【0059】
てんかん判定装置10の生成部12は、取得した脳波データにフィルタを施して前処理を実行する(S11)。その後、生成部12は、脳波データを所定の時間幅で切り出して、複数の画像を生成する(S12)。
【0060】
てんかん判定装置10の判定部13は、複数の画像をCNN等の学習済みモデルに入力し、てんかん発作の脳波が表れているか判定する(S13)。ここで、てんかん発作有りと判定された場合(S14:YES)、てんかん判定装置10の通知部17は、所定の端末にてんかん発作が検出されたことを通知する(S15)。一方、てんかん発作有りと判定されない場合(S14:NO)、てんかん判定処理は終了する。
【0061】
本実施形態に係るてんかん判定装置10によれば、脳波データを所定の時間幅で切り出して、脳波を表す複数の画像を生成して、複数の画像のいずれかにてんかん発作の脳波が表れているかを学習済みモデルに判定させることで、専門医がてんかん発作を診断するのと同様の条件で判定を行うことができ、より高い精度でてんかん発作を判定することができる。
【0062】
また、本実施形態に係るてんかん判定システム1によれば、脳波データを所定の時間幅で切り出して、脳波を表す複数の画像を生成して、複数の画像のいずれかにてんかん発作の脳波が表れているかを学習済みモデルに判定させることで、専門医がてんかん発作を診断するのと同様の条件で判定を行うことができ、より高い精度でてんかん発作を判定することができる。また、てんかん発作の脳波が表れていると判定された場合に、所定の端末に通知することで、脳波の確認作業の負担を軽減することができる。
【0063】
図7は、本実施形態に係るてんかん判定システム1により実行される学習処理のフローチャートである。はじめに、てんかん判定装置10の評価部14は、テスト用画像を学習済みモデルに入力して、判定精度を評価する(S20)。設定部15は、評価部14による評価に基づいて、脳波データを切り出す時間幅を設定する(S21)。
【0064】
学習部16は、設定された時間幅で脳波データを切り出して、学習モデルの学習処理を実行し、新たな学習済みモデルを生成する(S22)。そして、てんかん判定装置10は、新たな学習済みモデルを判定部13に実装する(S23)。以上により、学習処理が終了する。
【0065】
このように、脳波データを切り出す時間幅を調整して、判定精度が向上するように新たな学習済みモデルを生成することができ、より高い精度でてんかん発作を判定することができる。また、学習用データが蓄積するに従って、より判定精度の高い学習済みモデルを生成して、判定部13に実装する学習済みモデルを更新していくことができ、てんかん判定システム1の運用を続けるほど、より高い精度でてんかん発作を判定することができるようになる。
【0066】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…てんかん判定システム、10…てんかん判定装置、10a…CPU、10b…RAM、10c…ROM、10d…通信部、10e…入力部、10f…表示部、11…取得部、12…生成部、13…判定部、13a…学習済みモデル、14…評価部、15…設定部、16…学習部、17…通知部、18…記憶部、20…測定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7