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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】調光部材
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/15 20190101AFI20220516BHJP
   B60J 3/04 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
G02F1/15 508
G02F1/15 502
B60J3/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018026586
(22)【出願日】2018-02-19
(65)【公開番号】P2019144330
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 純
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 暉
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】酒向 慎貴
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-199147(JP,A)
【文献】国際公開第2007/010653(WO,A1)
【文献】特開2010-256436(JP,A)
【文献】特開2016-157064(JP,A)
【文献】国際公開第2006/061987(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/010793(WO,A1)
【文献】KIM Byung-Kwon et al.,Electrochemical deposition of Pd nanoparticles on indium-tin oxide electrodes and their catalytic properties for formic acid oxidation,Electrochemistry Communications,2010年08月10日,Vol. 12, No.10,pp 1442-1445
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/19
B60J 3/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調光部材であって、
調光極と、
対向極と、
前記調光極と、前記対向極との間に挟まれた電解質と、を備え、
前記電解質には、イオン液体、有機溶媒、銀イオン、及びクエン酸が含まれ
前記調光極は、透明電極であり、
前記透明電極の表面には、Pdナノ微粒子が付着していることを特徴とする調光部材。
【請求項2】
前記Pdナノ微粒子の平均粒子径は、5~70nmであることを特徴とする請求項1に記載の調光部材。
【請求項3】
平均Pd表面密度は、1.0×10 -6 ~9.0×10 -6 g/cm であることを特徴とする請求項1又は2に記載の調光部材。
【請求項4】
電解メッキによる銀被膜の形成と、電解溶出による前記銀被膜の溶出とを可逆的に行うことで、可視光の反射率を変化させる構成であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の調光部材。
【請求項5】
前記電解メッキ時の電流密度は、0.5~20mA/cm であることを特徴とする請求項4に記載の調光部材。
【請求項6】
前記電解溶出時の電流密度は、0.1~10mA/cm であることを特徴とする請求項4に記載の調光部材。
【請求項7】
前記銀被膜は、鏡面を有していることを特徴とする請求項に記載の調光部材。
【請求項8】
前記イオン液体のカチオン部が下記一般式(1)で表されることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の調光部材。
【化1】

〔式(1)中、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立して、
水素原子、
置換されているかもしくは非置換の炭素数1~20の飽和もしくは不飽和の直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル基、
置換されているかもしくは非置換の炭素数6~30のアリール基、
置換されているかもしくは非置換の炭素数7~31のアリールアルキル基、又は
炭素数1~20のアルコキシ基であり、
前記アルキル基、前記アリール基又は前記アリールアルキル基が置換されている場合は、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシル基、アルキルスルファニル基、アリールスルファニル基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ホルミル基、メルカプト基、スルホ基、メシル基、p-トルエンスルホニル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、トリメチルシリル基、ホスフィニコ基、又はホスホノ基で置換されている。〕
【請求項9】
前記有機溶媒が極性溶媒であり、
前記極性溶媒は、アセトニトリル、エタノール、イソプロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、コハク酸メチルトリグリコールジエステル、アセトン、及び酢酸から選択されることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の調光部材。
【請求項10】
前記イオン液体と、前記有機溶媒との体積比率が90:10~10:90であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の調光部材。
【請求項11】
調光スマートウィンドウ、調光ミラー、又は意匠部品として用いられることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の調光部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、調光部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、調光部材としては、例えば、次のものが知られている。すなわち、エレクトロクロミック型の調光ガラス(樹脂ガラス)である(特許文献1参照)。この調光ガラス(樹脂ガラス)は、2枚のガラス(樹脂ガラス)板のそれぞれ片側面に調光機能を有する材料及び/又は透明導電体が付着されている。そして、ガラス(樹脂ガラス)板の付着面が内側に向かい合わされ、その間に調光用電解質が配され、通電することによって調光される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-344878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、調光部材を用いた商品開発が幅広くなされており、既存の調光部材では所望の効果が得られない場合もある。そこで、新規な構成の調光部材の開発が切望されている。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、新規な調光部材を提供することを目的とする。本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕調光部材であって、
調光極と、
対向極と、
前記調光極と、前記対向極との間に挟まれた電解質と、を備え、
前記電解質には、イオン液体、有機溶媒、銀イオン、及びクエン酸が含まれることを特徴とする調光部材。
【0006】
〔2〕電解メッキによる銀被膜の形成と、電解溶出による前記銀被膜の溶出とを可逆的に行うことで、可視光の反射率を変化させる構成であることを特徴とする〔1〕に記載の調光部材。
【0007】
〔3〕前記銀被膜は、鏡面を有していることを特徴とする〔2〕に記載の調光部材。
【0008】
〔4〕前記イオン液体のカチオン部が下記一般式(1)で表されることを特徴とする請求項〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の調光部材。
【化1】

〔式(1)中、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立して、
水素原子、
置換されているかもしくは非置換の炭素数1~20の飽和もしくは不飽和の直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル基、
置換されているかもしくは非置換の炭素数6~30のアリール基、
置換されているかもしくは非置換の炭素数7~31のアリールアルキル基、又は
炭素数1~20のアルコキシ基であり、
前記アルキル基、前記アリール基又は前記アリールアルキル基が置換されている場合は、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシル基、アルキルスルファニル基、アリールスルファニル基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ホルミル基、メルカプト基、スルホ基、メシル基、p-トルエンスルホニル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、トリメチルシリル基、ホスフィニコ基、又はホスホノ基で置換されている。〕
【0009】
〔5〕前記有機溶媒が極性溶媒であることを特徴とする〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の調光部材。
【0010】
〔6〕前記イオン液体と、前記有機溶媒との体積比率が90:10~10:90であることを特徴とする〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の調光部材。
【0011】
〔7〕調光スマートウィンドウ、調光ミラー、又は意匠部品として用いられることを特徴とする〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の調光部材。
【発明の効果】
【0012】
本発明の調光部材は、イオン液体、有機溶媒、銀イオン、及びクエン酸を含む電解質を用いた新規な調光部材であるため、調光部材の応用範囲が広がる。
電解メッキによる銀被膜の形成と、電解溶出による銀被膜の溶出とを可逆的に行うことで、可視光の反射率を変化させる構成では、ミラーとして有効に利用できる。
銀被膜が鏡面を有している場合には、可視光の反射率が向上する。なお、本明細書における可視光とは、波長が400~800nmの光を意味する。
特定のカチオンを有するイオン液体を用いると、電解メッキによる銀被膜の形成、及び電解溶出による銀被膜の溶出を円滑に行うことができる。
有機溶媒が極性溶媒であると、クエン酸が電解質によく溶解され、電解メッキによる銀被膜の形成、及び電解溶出による銀被膜の溶出を円滑に行うことができる。
イオン液体と、有機溶媒との体積比率が90:10~10:90である場合には、電解メッキによる銀被膜の形成、及び電解溶出による銀被膜の溶出を円滑に行うことができる。
本発明の調光部材は、調光スマートウィンドウ、調光ミラー、又は意匠部品として用いるられると実用上、非常に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明する。
図1】調光部材の構造を模式的に示す断面図である。
図2】実験装置を模式的に示す断面図である。
図3】調光極を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0015】
以下、本発明を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0016】
1.調光部材
本発明の調光部材1は、図1に示すように、調光極3と、対向極5と、電解質7と、を備えている。なお、符号9は、任意の構成要件であるシール材を意味する。
【0017】
(1)調光極
調光極3には、調光極として使用される公知の透明電極を適宜用いることができる。透明電極としては、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)等を含む透明導電膜を好適に採用できる。透明導電膜の基板には無機ガラス、樹脂ガラス、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル樹脂を好適に採用できる。
透明電極の表面にPdナノ微粒子を付着させてもよい。Pdナノ微粒子を付着させた透明電極を用いると、透明電極上に形成される銀被膜が、美しい鏡面光沢を呈する傾向がある。すなわち、透明電極上に形成される銀被膜の可視光の反射率が高くなる傾向にある。
透明電極表面へのPdナノ微粒子の付着方法は、特に限定されない。付着方法としてPd2+をストライクメッキしてPdナノ微粒子を付着する方法が好適に採用される。
Pdナノ微粒子のサイズは特に限定されない。Pdナノ微粒子の平均粒子径は、5~70nmであることが好ましく、10~60nmであることがより好ましく、30~50nmであることが特に好ましい。この範囲の平均粒子径とすると、透明電極上でのPdナノ微粒子の分散性が高くなり、電解メッキによって極めて均一性の高い銀被膜が形成される。
なお、Pdナノ微粒子の平均粒子径は、任意の200個以上のPdナノ微粒子の粒子径を走査型電子顕微鏡(SEM)により測定し、その測定値を平均化することにより求める。
また、Pdを担持させる場合の平均Pd表面密度は、特に限定されない。平均Pd表面密度は、好ましくは1.0×10-6~9.0×10-6g/cmであり、より好ましくは2.0×10-6~8.0×10-6g/cmであり、更に好ましくは3.0×10-6~7.0×10-6g/cmである。この範囲内であると、銀被膜形成前の調光極について、可視光に対する透過率を十分に確保できる。
【0018】
(2)対向極
対向極5には、対向極として使用される公知の電極を適宜用いることができる。対向極としてとしては、例えば、Ag電極、ITO電極、FTO電極等を好適に採用できる。
【0019】
(3)参照電極
調光部材は、参照電極を備えていてもよい。参照電極としては、例えば、Ag/Ag電極、Ag/AgCl電極、SCE電極等を好適に採用できる。
【0020】
(4)電解質
電解質7には、イオン液体、有機溶媒、銀イオン、及びクエン酸が含まれる。この「電解質」は「Agメッキ浴」と称される場合がある。
ここで、本発明がなされた経緯を説明する。
従来のAgメッキ浴は、猛毒のシアンが配位子として用いられている。また、従来のAgメッキ浴は水溶液系のメッキ浴であり、調光部材(デバイス)に使用する場合は、溶媒の揮発や電解質塩の析出という問題もある。また、電解メッキと、電解溶出とを可逆的に行うことができるAgメッキ浴は現状存在していない。
このような背景の下、本発明の電解質が開発されたのである。本発明の電解質は、シアンの代わりに安全なクエン酸を用いている。また、本発明の電解質は、水系ではなく、イオン液体と有機溶媒の混合系を用いている。そして、本発明者らは、イオン液体、有機溶媒、銀イオン、及びクエン酸を含む電解質を用いることにより、電解メッキと、電解溶出とが可逆的に行えるという予想外の事実を見いだし、この知見に基づいて本発明はなされた。
次に、各成分について詳細に説明する。
【0021】
(4.1)イオン液体
上述のイオン液体とは、常温(25℃)において溶融状態にあり、カチオン部とアニオン部からなるイオン性物質のことを示す。
イオン液体のカチオン部としては、通常のイオン液体に用いられるカチオンを用いることができる。例えば、窒素数1~3個の5~6員環化合物のオニウムカチオン、第四級アンモニウムカチオン、及び第四級ホスホニウムカチオンからなる群より選択されるカチオン部が挙げられる。
【0022】
窒素数1~3個の5~6員環化合物のオニウムカチオンとしては、例えば、イミダゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン等の5員環化合物のオニウムカチオンや、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン等の6員環化合物のオニウムカチオンを挙げることができる。これらの中でも、イミダゾリウムカチオンが、融点が低く液状になりやすい点で好ましい。
【0023】
イミダゾリウムカチオンとしては、特に限定されるものではない。例えば、下記一般式(1)の構造を有するものをあげることができる。
【化2】

〔式(1)中、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立して、
水素原子、
置換されているかもしくは非置換の炭素数1~20の飽和もしくは不飽和の直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル基、
置換されているかもしくは非置換の炭素数6~30のアリール基、
置換されているかもしくは非置換の炭素数7~31のアリールアルキル基、又は
炭素数1~20のアルコキシ基であり、
前記アルキル基、前記アリール基又は前記アリールアルキル基が置換されている場合は、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシル基、アルキルスルファニル基、アリールスルファニル基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ホルミル基、メルカプト基、スルホ基、メシル基、p-トルエンスルホニル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、トリメチルシリル基、ホスフィニコ基、又はホスホノ基で置換されている。〕
【0024】
前記化学式(1)中のR、R、R、R、Rとして用いられる置換されているかもしくは非置換の炭素数1~20の飽和もしくは不飽和の直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソアミル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、n-へキシル基、3-メチルペンタン-2-イル基、3-メチルペンタン-3-イル基、4-メチルペンチル基、4-メチルペンタン-2-イル基、1,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブタン-2-イル基、n-ヘプチル基、1-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、1-エチルペンチル基、1-(n-プロピル)ブチル基、1,1-ジメチルペンチル基、1,4-ジメチルペンチル基、1,1-ジエチルプロピル基、1,3,3-トリメチルブチル基、1-エチル-2,2-ジメチルプロピル基、n-オクチル基、2-メチルヘキサン-2-イル基、2,4-ジメチルペンタン-3-イル基、1,1-ジメチルペンタン-1-イル基、2,2-ジメチルヘキサン-3-イル基、2,3-ジメチルヘキサン-2-イル基、2,5-ジメチルヘキサン-2-イル基、2,5-ジメチルヘキサン-3-イル基、3,4-ジメチルヘキサン-3-イル基、3,5-ジメチルヘキサン-3-イル基、1-メチルヘプチル基、2-メチルヘプチル基、5-メチルヘプチル基、2-メチルヘプタン-2-イル基、3-メチルヘプタン-3-イル基、4-メチルヘプタン-3-イル基、4-メチルヘプタン-4-イル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、1-プロピルペンチル基、2-プロピルペンチル基、1,1-ジメチルヘキシル基、1,4-ジメチルヘキシル基、1,5-ジメチルヘキシル基、1-エチル-1-メチルペンチル基、1-エチル-4-メチルペンチル基、1,1,4-トリメチルペンチル基、2,4,4-トリメチルペンチル基、1-イソプロピル-1,2-ジメチルプロピル基、1,1,3,3-テトラメチルブチル基、n-ノニル基、1-メチルオクチル基、6-メチルオクチル基、1-エチルヘプチル基、1-(n-ブチル)ペンチル基、4-メチル-1-(n-プロピル)ペンチル基、1,5,5-トリメチルヘキシル基、1,1,5-トリメチルヘキシル基、2-メチルオクタン-3-イル基、n-デシル基、1-メチルノニル基、1-エチルオクチル基、1-(n-ブチル)ヘキシル基、1,1-ジメチルオクチル基、3,7-ジメチルオクチル基、n-ウンデシル基、1-メチルデシル基、1-エチルノニル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、1-メチルトリデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。入手容易性の観点から、置換されているかもしくは非置換の炭素数1~8の飽和もしくは不飽和の直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基が特に好ましい。
【0025】
前記化学式(1)中のR、R、R、R、Rとして用いられる置換されているかもしくは非置換の炭素数6~30のアリール基の例としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、9-アンスリル基、9-フェナントリル基、1-ピレニル基、5-ナフタセニル基、1-インデニル基、2-アズレニル基、9-フルオレニル基、ターフェニル基、クオーターフェニル基、メシチル基、ペンタレニル基、ビナフタレニル基、ターナフタレニル基、クオーターナフタレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、インダセニル基、フルオランテニル基、アセナフチレニル基、アセアントリレニル基、フェナレニル基、フルオレニル基、アントリル基、ビアントラセニル基、ターアントラセニル基、クオーターアントラセニル基、アントラキノリル基、フェナントリル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基、プレイアデニル基、ピセニル基、ペリレニル基、ペンタフェニル基、ペンタセニル基、テトラフェニレニル基、ヘキサフェニル基、ヘキサセニル基、ルビセニル基、コロネニル基、トリナフチレニル基、ヘプタフェニル基、ヘプタセニル基、ピラントレニル基、オバレニル基などが挙げられる。
【0026】
前記化学式(1)中のR、R、R、R、Rとして用いられる置換されているかもしくは非置換の炭素数7~31のアリールアルキル基の例としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、2-(1-ナフチル)エチル基、2-(2-ナフチル)エチル基、3-(1-ナフチル)プロピル基、又は3-(2-ナフチル)プロピル基などが挙げられる。
【0027】
前記化学式(1)中のR、R、R、R、Rとして用いられる炭素数1~20のアルコキシ基の例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、2-メチルプロポキシ基、1-メチルプロポキシ基、t-ブトキシ基等を挙げることができる。これらのなかでも、炭素数1~4のものが好ましい。
【0028】
前述した置換されているかもしくは非置換の炭素数1~20の飽和もしくは不飽和の直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル基、置換されているかもしくは非置換の炭素数6~30のアリール基、置換されているかもしくは非置換のアリールアルキル基、及びアルキレン基中の水素原子は、更に他の置換基で置換されていてもよい。
【0029】
そのような置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、メチル基、エチル基、tert-ブチル基、ドデシル基などのアルキル基、フェニル基、p-トリル基、キシリル基、クメニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナントリル基などのアリール基、メトキシ基、エトキシ基、tert-ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、p-トリルオキシ基などのアリールオキシ基、メトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、フェノキシカルボニルなど等のアルコキシカルボニル基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのアシルオキシ基、アセチル基、ベンゾイル基、イソブチリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メトキサリル基などのアシル基、メチルスルファニル基、tert-ブチルスルファニル基などのアルキルスルファニル基、フェニルスルファニル基、p-トリルスルファニル基などのアリールスルファニル基、メチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基などのアルキルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、モルホリノ基、ピペリジノ基などのジアルキルアミノ基、フェニルアミノ基、p-トリルアミノ基等のアリールアミノ基などの他、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ホルミル基、メルカプト基、スルホ基、メシル基、p-トルエンスルホニル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、トリメチルシリル基、ホスフィニコ基、ホスホノ基などが挙げられる。
【0030】
上記式(1)で示されるイミダゾリウムカチオンとしては、合成の容易さの点から、1,3-二置換イミダゾリウムカチオン、1,2,3-三置換イミダゾリウムカチオンが好ましく用いられ、特には1,3-二置換イミダゾリウムカチオンが好ましく用いられる。
具体的にイミダゾリウムカチオンとしては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-メチル-3-ペンチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘプチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムカチオン、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-プロピルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-エチルイミダゾリウムカチオンなどのジアルキルイミダゾリウムカチオン;3-エチル-1,2-ジメチル-イミダゾリウムカチオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1,2-ジメチル-3-ヘキシルイミダゾリウムカチオン、1,2-ジメチル-3-オクチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3,4-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1-イソプロピル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオンなどのトリアルキルイミダゾリウムカチオンなどを挙げることができる。
【0031】
ピロリジニウムカチオンとしては、例えば、N,N-ジメチルピロリジニウムカチオン、N-エチル-N-メチルピロリジニウムカチオン、N-メチル-N-プロピルピロリジニウムカチオン、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムカチオン、N-メチル-N-ペンチルピロリジニウムカチオン、N-ヘキシル-N-メチルピロリジニウムカチオン、N-メチル-N-オクチルピロリジニウムカチオン、N-デシル-N-メチルピロリジニウムカチオン、N-ドデシル-N-メチルピロリジニウムカチオン、N-(2-メトキシエチル)-N-メチルピロリジニウムカチオン、N-(2-エトキシエチル)-N-メチルピロリジニウムカチオン、N-(2-プロポキシエチル)-N-メチルピロリジニウムカチオン、N-(2-イソプロポキシエチル)-N-メチルピロリジニウムカチオンなどを挙げることができる。
【0032】
ピリジニウムカチオンとしては、例えば、N-メチルピリジニウムカチオン、N-エチルピリジニウムカチオン、N-ブチルピリジニウムカチオン、N-プロピルピリジニウムカチオンなどの炭素数1~16のアルキル基により置換されたピリジニウムカチオンなどを挙げることができる。
【0033】
ピペリジニウムカチオンとしては、例えば、N,N-ジメチルピペリジニウムカチオン、N-エチル-N-メチルピペリジニウムカチオン、N-メチル-N-プロピルピペリジニウムカチオン、N-ブチル-N-メチルピペリジニウムカチオン、N-メチル-N-ペンチルピペリジニウムカチオン、N-ヘキシル-N-メチルピペリジニウムカチオン、N-メチル-N-オクチルピペリジニウムカチオン、N-デシル-N-メチルピペリジニウムカチオン、N-ドデシル-N-メチルピペリジニウムカチオン、N-(2-メトキシエチル)-N-メチルピペリジニウムカチオン、N-(2-メトキシエチル)-N-エチルピペリジニウムカチオン、N-(2-エトキシエチル)-N-メチルピペリジニウムカチオン、N-メチル-N-(2-メトキシフェニル)ピペリジニウムカチオン、N-メチル-N-(4-メトキシフェニル)ピペリジニウムカチオン、N-エチル-N-(2-メトキシフェニル)ピペリジニウムカチオン、N-エチル-N-(4-メトキシフェニル)ピペリジニウムカチオンなどを挙げることができる。
【0034】
イオン液体(1)のアニオン部に関しては、特に限定されず、一般的なイオン液体で使用されるアニオンを用いることが可能である。例えば、アニオン部として、Cl、Br、AlCl 、AlCl 、BF 、PF 、ClO 、NO 、CHCOO、CFCOO、CHSO 、CFSO 、(CFSO、(CFSO、AsF 、SbF 、NbF 、TaF 、F(HF)n、(CN)、SCN、CSO 、(CSO、CCOO、(CFSO)(CFCO)Nなどの一般的なイオン液体で使用されるアニオンを用いることが可能である。
これらの中でも、ハロゲン原子を有するアニオンが好ましく、特にはフッ素原子含有アニオンが好ましく、更には、下記一般式(2)で示されるフッ素含有イミドアニオンを用いることが好ましい。
【0035】
(C2n+1SO ・・・(2)
(式中、nは、0~15の整数)
【0036】
一般式(2)で示されるフッ素含有イミドアニオンとして、具体的には、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンを用いることが好ましい。なお、上記nとしては、通常0~15、好ましくは0~8、特に好ましくは0~4である。
【0037】
イオン液体の製造方法は、特に限定されない。例えば、製造方法として、アニオン交換法又は酸エステル法などの公知の方法を適用することができる。より詳細には、例えば、用いる有機カチオンのハロゲン化塩とパーフルオロアルキルスルホネートアニオンのアルカリ金属塩とを用いてアニオン交換反応により得ることができる。ハロゲン化塩のハロゲンとしては、塩素又は臭素があげられる。アルカリ金属塩のアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。
【0038】
(4.2)有機溶媒
電解質に含まれる有機溶媒は、特に限定されない。有機溶媒は、クエン酸を溶解しやすいという観点から、極性溶媒であることが好ましい。極性溶媒としては、例えば、アセトニトリル、エタノール、イソプロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン(THF)、コハク酸メチルトリグリコールジエステル、アセトン、酢酸等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
(4.3)イオン液体と、有機溶媒との体積比率
イオン液体と、有機溶媒との体積比率は、特に限定されない。イオン液体と、有機溶媒との体積比率は、好ましくは、90:10~10:90であり、より好ましくは60:40~40:60であり、更に好ましくは55:45~45:55である。この範囲内であると、電解質にクエン酸を十分に溶解できる。
【0040】
(4.4)銀イオン
銀イオン源としては特に限定されないが、一般的に入手しやすいものとして、硝酸銀、硫酸銀などが挙げられる。これらを用いることが汎用性、コストの面でも望ましい。
電解質中の銀イオンの濃度は、特に限定されない。銀イオンの濃度は、好ましくは0.01~2.0Mであり、より好ましくは0.02~0.8Mであり、更に好ましくは0.1~0.3Mである。銀イオンの濃度を、この範囲にすると、可逆反応のために電解質に流すことができる電流量を十分に確保できる。
【0041】
(4.5)クエン酸
本発明では、電解質にクエン酸が含まれることで、電解メッキによる銀被膜の形成と、電解溶出による銀被膜の溶出とを可逆的に行うことができる。
電解質中のクエン酸の濃度は、特に限定されない。クエン酸の濃度は、クエン酸一水和物として、好ましくは0.5~1000mMであり、より好ましくは5~250mMであり、更に好ましくは20~100mMである。クエン酸の濃度を、この範囲にすると、電解メッキによる銀被膜の形成と、電解溶出による銀被膜の溶出とを十分に行うことができ、調光部材の特性が良好となる。
【0042】
(4.6)他の成分
電解質には、本発明の効果を阻害しない限り、他の成分を含んでもよい。
【0043】
(4.7)電解メッキ時の電流密度
電解メッキ時の電流密度は、特に限定されない。電解メッキ時の電流密度は、好ましくは0.5~20mA/cmであり、より好ましくは1から10mA/cmであり、更に好ましくは2~5mA/cmである。電解メッキ時の電流密度を、この範囲にすると、電解メッキによる銀被膜の形成を十分に行うことができ、調光部材の特性が良好となる。
【0044】
(4.8)電解溶出時の電流密度
電解溶出時の電流密度は、特に限定されない。電解溶出時の電流密度は、好ましくは0.1~10mA/cmであり、より好ましくは0.4から6mA/cmであり、更に好ましくは1~4mA/cmである。電解溶出時の電流密度を、この範囲にすると、電解溶出による銀被膜の溶出を十分に行うことができ、調光部材の特性が良好となる。
【0045】
2.本実施形態の調光部材の効果
本実施形態の調光部材は、電解メッキによる銀被膜の形成と、電解溶出による銀被膜の溶出とを可逆的に行うことができる。そして、この可逆反応によって、可視光の反射率を変化することができる。本実施形態の調光部材は、新規な調光部材であるため、調光部材の適用範囲が広がる。
【実施例
【0046】
以下、実施例により更に具体的に説明する。
【0047】
1.銀の電気メッキ試験、及び電解溶出試験
図2に示す装置を用いて銀の電気メッキ試験、及び電解溶出試験を行った。ここで、符号3は調光極を示し、符号5は対向極を示し、符号7は電解質を示し、符号9は参照極を示し、符号11はポテンショスタットを示す。
【0048】
(1)電解質
次の組成で6mLの電解質を調製した。なお、「電解質」は、上述のように「Agメッキ浴」と称される場合がある。使用したイオン液体は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである。

<電解質の組成>
0.2M AgNO
40mM クエン酸一水和物
アセトニトリル 2.9mL
イオン液体 3.1mL
【0049】
(2)電極
各電極としては、以下のものを用いた。
(2.1)調光極(作用電極)
調光極には、Pdナノ微粒子が分散した状態で付着したITO電極を用いた。Pdナノ微粒子をITO電極上に分散被覆するためのメッキ浴組成は0.049M PdCl、0.765M NHOH、0.44M NHPO、0.237M NHClを4mL HOに溶解したものである。ポテンショスタットを用いて作用電極に透明導電性のITO電極、参照電極にAg/Ag電極、対極にPt電極を用いて定電流電解にてパラジウムイオンの電解メッキを行った。この時、高電流(-5~-20mA/cm)を短時間(0.25~3s)印加してPd2+をストライクメッキしてPdナノ微粒子のサイズ制御及び分散度の制御を行い、各種サイズのPdナノ微粒子が分散した状態で付着したITO電極を作製した。これらのITO電極を調光極として使用した。
なお、図3(A)は、Pdナノ微粒子13を分散被覆する前のITO電極15を示し、図3(B)は、Pdナノ微粒子13を分散被覆した後のITO電極15たる調光極3を示す。すなわち、本実験においては、図3(B)の調光極3を使用した。
【0050】
(2.2)参照電極
参照電極には、Ag/Ag電極を用いた。
(2.3)対向極
対向極には、銀電極(銀線)を用いた。
【0051】
(3)試験
(3.1)試験1(クエン酸を含有する電解質を用いた試験)
上述の(2.1)で作製した各種の透明な調光極上に定電流(-4mA/cm)にて所定時間(25s)電解メッキを行った。その結果、いずれの場合にも、調光極上に鏡面を有する銀被膜が形成された。
次に、銀被膜が形成された調光極を用い、定電流密度(+1mA/cm)、所定時間(100s)の条件で、銀被膜の電解溶出を行った。その結果、いずれの場合にも、銀被膜が形成された調光極から、銀被膜が溶出して、透明性な元の調光極に戻ることが確認された。
この試験のようすを模式的に図3に示す。電解メッキでは、図3(B)に示す状態から、銀被膜17が被覆されて図3(C)の状態となる。電解溶出では、図3(C)に示す状態から、銀被膜17が溶出して図3(B)の状態になる。このように、電解メッキによる銀被膜17の形成と、電解溶出による銀被膜17の溶出とを可逆的に行うことで、可視光の反射率を変化できる。
【0052】
(3.2)試験2(クエン酸なしの電解質を用いた試験)
電解質からクエン酸を除いたことのみ異なる条件で、上記実験(3.1)と同様の実験をしたところ、Pdナノ微粒子が分散した状態で付着したITO電極上に、銀の白色被膜が形成された。電子顕微鏡で表面を観察すると、半球状多角形の銀結晶が形成されており、光の散乱により、白色に見えていた。このため、鏡面光沢にするためには、添加剤としてクエン酸が必須となることが確認された。クエン酸がない場合は銀結晶の成長が等方的に起こり、半球面を形成するが、クエン酸が存在することで、異方性成長となり、面状に銀結晶が成長することで、鏡面光沢になるものと推測される。
【0053】
(3.3)試験3(2-ヒドロキシピリジンを含有する電解質を用いた試験)
クエン酸に代えて2-ヒドロキシピリジンを用いて実験を行った。詳細には、次の組成で6mLの電解質を調製した。なお、使用したイオン液体は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである。

<電解質の組成>
0.2M AgNO
0.4M 2-ヒドロキシピリジン
アセトニトリル 2.9mL
イオン液体 3.1mL
【0054】
クエン酸の代わりに添加剤として2-ヒドロキシピリジンを用いると、鏡面光沢を持った銀被膜が形成された。しかし、電解溶出を行っても、完全に元の透明性な調光極には戻らず、灰色被膜が残ってしまった。更に、2-ヒドロキシピリジの電解酸化により電解質が褐色に変化した。これに対し、上述のクエン酸を用いた場合((3.1)試験1)では、電解溶出を行ってもメッキ浴は透明のままであった。このことからも、本発明が調光スマートウィンドウ等に適していることが確認された。
【0055】
(3.4)試験4(Pdナノ微粒子が付着していないITO電極を用いた実験)
Pdナノ微粒子が付着していないITO電極を用いて同様の実験をおこなったところ、銀被膜は形成できるが、やや鏡面光沢の少ないつや消しの銀被膜となった。よって、銀被膜の鏡面光沢性を高めるためには、ITO電極にPdナノ微粒子を付着させることが好ましいことが分かった。
【0056】
2.ITO電極に付着させるPdナノ微粒子の検討
(1)平均Pd表面密度の検討
上記(2.1)で記載したように、Pdのストライクメッキの条件は、-5~-20mA/cmを、0.25~3s印加している。このような種々の条件で作製されたPdナノ微粒子が付着したITO電極の可視光の平均透過率を測定した。結果を表1に示す。
なお、この表1では、「ITOのみ」はPdナノ微粒子が付着していないITO電極を意味し、「Pd(-5mA,1s)」は-5mA/cm,1sの条件で作製したITO電極を意味し、「Pd(-10mA,1s)」は-10mA/cm,1sの条件で作製したITO電極を意味し、「Pd(-10mA,3s)」は-10mA/cm,3sの条件で作製したITO電極を意味する。
【0057】
【表1】


【0058】
表1の結果から、平均Pd表面密度が5.5×10-6g/cmでは、可視光の平均透過率は、Pdナノ微粒子が付着していないITO電極と比べて、それ程低くならず、実用的であった。よって、平均Pd表面密度は1.0×10-6~9.0×10-6g/cmの範囲内が好ましいことが分かった。
【0059】
(2)Pdナノ微粒子の平均粒子径の検討
次に、電析量を5mC/cmと一定にし、電流密度を変化させて、Pdナノ微粒子の平均粒子径を測定した。また、Pdナノ微粒子のITO電極上での分散性を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。結果を表2に示す。
なお、この表2では、「Pd(-5mA,1s)」は-5mA/cm,1sの条件で作製したITO電極を意味し、「Pd(-10mA,0.5s)」は-10mA/cm,0.5sの条件で作製したITO電極を意味し、「Pd(-20mA,0.25s)」は-20mA/cm,0.25sの条件で作製したITO電極を意味する。
【0060】
【表2】
【0061】
表2の結果から、Pdナノ微粒子の平均粒子径が42nmの場合には、分散性が高いことが確認された。また、この電極を用いて、定電流(-4mA/cm)にて所定時間(25s)電解メッキを行った。その結果、調光極上に鏡面を有する極めて均一な銀被膜が形成された。よって、Pdナノ微粒子の平均粒子径を5~70nmの範囲内にすることで、極めて均一な銀被膜が形成されることが確認された。
【0062】
3.まとめ
クエン酸を含む電解質を用いることで、電解メッキによる銀被膜の形成と、電解溶出による銀被膜の溶出とを可逆的に行うことができることが確認された。
銀被膜の鏡面光沢性を高めるためには、ITO電極にPdナノ微粒子を付着させることが好ましいことが分かった。
【0063】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は本質から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0064】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の調光部材は、新規な構造を有しているため、調光部材の応用範囲を広げるために有効である。
【符号の説明】
【0066】
1…調光部材
3…調光極
5…対向極
7…電解質
9…参照極
11…ポテンショスタット
13…Pdナノ微粒子
15…ITO電極
17…銀被膜
図1
図2
図3