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特許7072830高分離能を有する電気泳動用ゲルの製造方法およびその製造キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】高分離能を有する電気泳動用ゲルの製造方法およびその製造キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20220516BHJP
【FI】
G01N27/447 315F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017228332
(22)【出願日】2017-11-28
(65)【公開番号】P2019028051
(43)【公開日】2019-02-21
【審査請求日】2020-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2017144819
(32)【優先日】2017-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小原 政信
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表平06-503174(JP,A)
【文献】米国特許第05455344(US,A)
【文献】特開平10-048181(JP,A)
【文献】特開昭55-110946(JP,A)
【文献】特開平11-023530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アガロースを含む粉末とガンマ線照射されていないガラクトマンナンの粉末とを混合することによって混合粉末を得る工程と、
上記混合粉末を緩衝液に溶解することによって溶液を得る工程と、
上記溶液をゲル化させることによって核酸電気泳動用ゲルを得る工程と、を含む、核酸電気泳動用ゲルの製造方法。
【請求項2】
上記混合粉末におけるアガロースを含む粉末に対するガラクトマンナンの粉末の重量比(ガラクトマンナンの粉末の重量/アガロースを含む粉末の重量)が0.3~2である、請求項1に記載の核酸電気泳動用ゲルの製造方法。
【請求項3】
上記緩衝液が、トリス-酢酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液またはトリス-ホウ酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液である、請求項1または2に記載の核酸電気泳動用ゲルの製造方法。
【請求項4】
アガロースを含む粉末とガンマ線照射されていないガラクトマンナンの粉末とを含む混合粉末と、緩衝液とを備える核酸電気泳動用ゲル製造キット。
【請求項5】
上記アガロースを含む粉末に対する上記ガラクトマンナンの粉末の重量比(ガラクトマンナンの粉末の重量/アガロースを含む粉末の重量)が0.3~2である、請求項4に記載の核酸電気泳動用ゲル製造キット。
【請求項6】
上記緩衝液が、トリス-酢酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液またはトリス-ホウ酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液である、請求項4または5に記載の核酸電気泳動用ゲル製造キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気泳動用ゲル、特に分離能が向上した高分離能を有する電気泳動用ゲルの製造方法、およびこれを製造するためのキット等に関する。
【背景技術】
【0002】
電気泳動によって核酸またはタンパク質等を分離する場合には、ポリアクリルアミドゲルまたはアガロースゲルが主に用いられている。DNAなどの核酸を分離する際には、一般的にアガロースゲルがよく用いられている。
【0003】
アガロースゲルを用いて様々なサイズのDNAを分離する場合には、アガロースゲルの分離能に応じて好適なゲル濃度に調整したアガロースゲルを作製する必要があり、非常に操作が煩雑であった。また25kbpを超えるような大きいサイズのDNAを分離するためにはアガロースゲル濃度を0.5重量%未満にする必要があるが、これではゲルの強度が十分ではなく、電気泳動に供することが困難な場合があった。
【0004】
このため、十分な強度と高い分離能とを有する電気泳動用ゲルの開発が求められ、種々の検討がなされている。例えば、非特許文献1には、アガロースに特定の多糖類を組み合わせてゲルを作製する技術が開示されている。また、特許文献1には、ガンマ線を照射したガラクトマンナンをアガロースと組み合わせる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第92/12789号(1992年8月6日公開)
【非特許文献】
【0006】
【文献】Perlman, D. et. al.,Anal. Biochem. 163,p.247-254,1987
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来技術は、十分な強度および高い分離能を有するゲルを簡便に得るという観点からは改善の余地があった。
【0008】
通常、アガロースゲル等の電気泳動用ゲルを作製する際には、アガロース等の高濃度溶液を調製しておき、最終的に所望のゲル濃度となるようにバッファー等で高濃度溶液を希釈し、これをゲル化することにより電気泳動用ゲルを作製する。非特許文献1の第252頁左欄には、0.5%を超えるような高い濃度ガラクトマンナンを実用的に使用するためには、ガラクトマンナンを部分的に加水分解する必要があることが記載されている。同頁には、これは、ガラクトマンナン-アガロース溶液のゴムのような堅さと高いゲル温度とに起因することが記載されている。このため、特許文献1に記載の技術では、ガラクトマンナン溶液の粘度を減少させるために、予めガラクトマンナンにガンマ線を照射する必要があった。よって、アガロースとガラクトマンナンとを含む電気泳動用ゲルを簡便に作製することはできないということが技術的な課題となり、当業者はアガロースとガラクトマンナンとを含む電気泳動用ゲルを実用的に使用することはなかった。
【0009】
本発明の一態様は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、十分な強度および高い分離能を有するゲルを簡便に得る方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明者が鋭意研究を行った結果、意外なことに予めアガロースとガラクトマンナンとを粉末の状態で混合することによって、十分な強度および高い分離能を有するゲルが極めて簡便に得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の態様を含む。
【0011】
<1>アガロースを含む粉末とガラクトマンナンの粉末とを混合することによって混合粉末を得る工程と、上記混合粉末を緩衝液に溶解することによって溶液を得る工程と、上記溶液をゲル化させることによって電気泳動用ゲルを得る工程と、を含む、電気泳動用ゲルの製造方法。
【0012】
<2>上記混合粉末におけるアガロースを含む粉末に対するガラクトマンナンの粉末の重量比(ガラクトマンナンの粉末の重量/アガロースを含む粉末の重量)が0.3~2である、<1>に記載の電気泳動用ゲルの製造方法。
【0013】
<3>上記緩衝液が、トリス-酢酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液またはトリス-ホウ酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液である、<1>または<2>に記載の電気泳動用ゲルの製造方法。
【0014】
<4>アガロースを含む粉末とガラクトマンナンの粉末とを含む混合粉末。
【0015】
<5>上記アガロースを含む粉末に対する上記ガラクトマンナンの粉末の重量比(ガラクトマンナンの粉末の重量/アガロースを含む粉末の重量)が0.3~2である、<4>に記載の混合粉末。
【0016】
<6><4>または<5>に記載の混合粉末を備える電気泳動用ゲル製造キット。
【0017】
<7>トリス-酢酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液またはトリス-ホウ酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液をさらに備える、<6>に記載の電気泳動用ゲル製造キット。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、十分な強度および高い分離能を有する電気泳動用ゲルを簡便に作製することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】参考例1および実施例1の電気泳動の結果を示す図である。
図2】参考例2および参考例3の電気泳動の結果を示す図である。
図3】実施例2、実施例3および実施例4の電気泳動の結果を示す図である。
図4】実施例5および比較例1の電気泳動の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0021】
本明細書において、電気泳動用ゲルを単に「ゲル」と称する場合もある。ゲル中にてサイズの異なる核酸のバンド間の距離が離れているほど、分離能が高いと言える。
【0022】
〔1.電気泳動用ゲルの製造方法〕
本発明の一実施形態に係る電気泳動用ゲルの製造方法は、アガロースを含む粉末とガラクトマンナンの粉末とを混合することによって混合粉末を得る工程と、上記混合粉末を緩衝液に溶解することによって溶液を得る工程と、上記溶液をゲル化させることによって電気泳動用ゲルを得る工程と、を含む。アガロースにガラクトマンナンを混合することにより、得られるゲルの分離能および強度を向上させることができる。また、粉末の状態でアガロースとガラクトマンナンとを混合することにより、混合粉末を緩衝液へ均一に溶解させることができる。従って、十分な分離能および強度を有するゲルを簡便に作製することができる。なお、本発明の一実施形態によれば、ガラクトマンナンにガンマ線を照射する必要はない。
【0023】
これに対し、アガロースを溶解させた溶液と、ガラクトマンナンを溶解させた溶液とを別々に用意し、これらを混合した場合、十分な強度を有するゲルを作製することができない。例えば、ガラクトマンナンを高濃度にて溶解させる場合、ガラクトマンナンが均一に溶解せず、ゲルを作製することが困難となり得る。また、上述のようにガラクトマンナン溶液が高粘度となることもある。なお、ガラクトマンナンを含まず、アガロースのみを低濃度で含むゲルは、強度が不十分になり得る。
【0024】
以下では、電気泳動用ゲルの製造方法を単に「製造方法」とも称する。また、本明細書では、アガロースを含む粉末とガラクトマンナンの粉末とを混合した粉末を単に「混合粉末」とも称する。
【0025】
<1-1.混合工程>
上記製造方法は、アガロースを含む粉末とガラクトマンナンの粉末とを混合することによって混合粉末を得る工程を含む。すなわち、本発明の一実施形態に係る混合粉末は、アガロースを含む粉末とガラクトマンナンの粉末とを含む。本明細書において、この工程は、「混合工程」とも称される。
【0026】
アガロースを含む粉末は、100重量%中、アガロースを70重量%以上含むことが好ましく、80重量%以上含むことがより好ましく、90重量%以上含むことがさらに好ましい。アガロースを含む粉末は、アガロースからなる粉末(アガロースの粉末)であってもよく、寒天末であってもよい。寒天末は、寒天の粉末であり、アガロースに加えて、DNA分析を阻害しない程度にアガロース以外の多糖類も含み得る。
【0027】
アガロースは、1位と3位とで結合するβ-D-ガラクトースと、1位と4位とで結合する3,6-アンヒドロ-α-L-ガラクトースとが交互に結合した構造を有する多糖類である。換言すれば、アガロースは、D-ガラクトースが3,6-アンヒドロ-L-ガラクトースにβ1→4結合した繰り返し単位が、α1→3結合した構造を有する。市販のアガロースの粉末としては、Agarose H(ニッポンジーン社製)およびAgarose S(ニッポンジーン社製)等が挙げられる。
【0028】
なお、アガロースを含む粉末として、アガロースの粉末と寒天末とを併用してもよい。アガロースの粉末と寒天末との重量比は特に限定されないが、アガロースの粉末:寒天末=2.3:1~4:1であってもよい。
【0029】
ガラクトマンナンは、D-マンノースがβ1→4結合して形成された直線状主鎖に、D-ガラクトースがα1→6結合した構造を有する多糖類である。ガラクトマンナンは、ローカストビーン、グアーおよびフェヌグリーク等から抽出され得る。市販のガラクトマンナンの粉末としては、AgarMate(登録商標)(Diversified Biotech社製)およびLocust bean gum from Ceratonia siliqua seeds(Sigma-Aldrich社製)等が挙げられ、中でもAgarMateが好ましい。
【0030】
上記混合粉末におけるアガロースを含む粉末に対する上記ガラクトマンナンの粉末の重量比(ガラクトマンナンの粉末の重量/アガロースを含む粉末の重量)は、0.3~2であることが好ましい。上記重量比が0.3以上であれば、得られるゲルの分離能および強度をより高めることができる。また、上記重量比が2以下であれば、混合粉末が緩衝液に溶解しやすい。
【0031】
上記重量比は、例えば、0.8~2であってもよく、1~2であってもよい。このようにガラクトマンナンの濃度が比較的高い場合であっても、上記混合粉末は緩衝液に十分に溶解する。従って、十分な強度のゲルを得ることができる。これは、本発明の一実施形態ではアガロースとガラクトマンナンとが粉末の状態で混合されるためである。また、上記重量比は、0.3~0.6であってもよく、0.3~0.5であってもよい。このようにガラクトマンナンの濃度が比較的低い場合であっても、ゲルの分離能を十分に高めることができる。
【0032】
アガロースを含む粉末とガラクトマンナンの粉末とを混合する方法は、特に限定されない。これらの粉末は、手動で混合されてもよく、撹拌機構を備えた装置等によって混合されてもよい。いずれにせよ、アガロースを含む粉末とガラクトマンナンの粉末とが均一に混合されるように、これらの粉末を十分に撹拌することが好ましい。
【0033】
<1-2.溶解工程>
上記製造方法は、上記混合粉末を緩衝液に溶解することによって溶液を得る工程を含む。本明細書において、この工程は、「溶解工程」とも称される。上述の混合工程において、既にアガロースを含む粉末とガラクトマンナンの粉末とが混合されている。それゆえ、溶解工程において、混合粉末を均一に緩衝液に溶解させることができる。このようにして得られた均一な溶液は、後述のゲル化工程において、取り扱いが容易である。
【0034】
緩衝液は、トリス-酢酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液またはトリス-ホウ酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液であることが好ましい。
【0035】
トリス-酢酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液はTAE緩衝液とも称される。TAE緩衝液は、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、酢酸およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を水に溶解させることによって調製され得る。トリスヒドロキシメチルアミノメタンは、単にトリス(Tris)とも称される。トリスは塩の形態(例えば、トリス塩酸塩(Tris-HCL))で用いられてよい。また、酢酸は酢酸塩(例えば、酢酸ナトリウム)の形態で用いられてもよい。DNA回収および遺伝子工学的手法に提供するという観点からは、TAE緩衝液が好ましい。
【0036】
トリス-ホウ酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液は、TBE緩衝液とも称される。TBE緩衝液は、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ホウ酸およびEDTAを水に溶解させることによって調製され得る。1kbp以下のDNAを分離するという観点からは、TBE緩衝液が好ましい。
【0037】
上記溶液100重量%におけるアガロースを含む粉末およびガラクトマンナンの粉末の合計の添加量は、0.4~1.5重量%であることが好ましく、0.4~1.0重量%であることがより好ましい。上記濃度が0.4重量%以上であれば、ゲルの分離能および強度を十分向上させることができる。上記濃度が1.5重量%以下であれば、均一な溶液を容易に得ることができる。
【0038】
上記溶液100重量%におけるアガロースを含む粉末の添加量は、0.3~1.5重量%であることが好ましい。アガロースを含む粉末の添加量が0.3重量%以上であれば、十分な強度のゲルを得ることができる。アガロースを含む粉末の添加量が1.5重量%以下であれば、均一な溶液を容易に得ることができる。
【0039】
上記溶液100重量%におけるガラクトマンナンの粉末の添加量は、0.1~0.6重量%であることが好ましい。ガラクトマンナンの粉末の添加量が0.1重量%以上であれば、ゲルの分離能および強度を十分向上させることができる。ガラクトマンナンの粉末の添加量が0.6重量%以下であれば、均一な溶液を容易に得ることができる。
【0040】
混合粉末を、緩衝液中に投入した後、撹拌することが好ましい。手動で撹拌してもよく、撹拌機構を備えた装置によって撹拌してもよい。撹拌機構を備えた装置としては、マグネチックスターラー等が挙げられる。
【0041】
溶解工程においては、加熱しながら混合粉末を緩衝液に溶解させることが好ましい。これにより、容易に混合粉末を緩衝液に溶解させることができる。溶解工程における加熱温度は80~100℃であることが好ましい。加熱温度が上記範囲であれば、混合粉末を十分に溶解させることができる。加熱は、アガロースゲルの作製で通常用いられている、電子レンジなどを用いて行うことができる。
【0042】
混合粉末が均一に溶解しているか否かは目視で確認できる。本明細書においては、上記溶液において、溶解せずに残っているアガロースもしくは寒天、またはガラクトマンナンの塊が存在しなければ、均一に溶解していると判断する。
【0043】
<1-3.ゲル化工程>
上記製造方法は、上記溶液をゲル化させることによって電気泳動用ゲルを得る工程を含む。本明細書において、この工程は、「ゲル化工程」とも称される。本明細書において、「ゲル化」とは、上記溶液を固化させることによって、流動性を示さないゲルを得ることを意図している。上記ゲルは、上述の混合粉末を溶解させた溶液をゲル化させたものである。それゆえ、上記ゲルは、十分な強度および高い分離能を有している。
【0044】
ゲル化工程においては、上記溶液を放置することによって固化させることが好ましい。放置する温度は、20~60℃であることが好ましく、室温であることがより好ましい。ここで、上記溶液を型に流し込んだ後に放置することによって、所望の形状のゲルを得ることができる。また、固化する前の上記溶液にコームを差し込んでおくことによって、サンプルを導入するためのウェルを形成することもできる。
【0045】
〔2.電気泳動用ゲル製造キット〕
本発明の一実施形態に係る電気泳動用ゲル製造キットは、本発明の一実施形態に係る混合粉末を備える。それゆえ、上述のように、十分な強度および高い分離能を有するゲルを簡便に作製することができる。以下では、電気泳動用ゲル製造キットを単に「キット」とも称する。また、〔1.電気泳動用ゲルの製造方法〕で既に説明した事項については、以下では説明を省略し、適宜、上述の記載を援用する。
【0046】
上記キットは、緩衝液として、TAE緩衝液またはTBE緩衝液をさらに備えていてもよい。上述の混合粉末を当該緩衝液に溶解させて溶液を得ることができる。当該溶液をゲル化させることにより、ゲルを作製することができる。
【0047】
上記緩衝液は、使用される際の濃度に比べて高い濃度にて調製されたストック溶液であってもよい。例えば、ストック溶液は、使用される際の濃度に比べて5倍、10倍、または50倍の濃度であってもよい。当該ストック溶液を希釈して、ゲルの作製に使用することができる。
【0048】
また、上記キットは、トリス-酢酸-エチレンジアミン四酢酸の粉末またはトリス-ホウ酸-エチレンジアミン四酢酸の粉末を備えていてもよい。これらの粉末を水に溶解させることによって、TAE緩衝液またはTBE緩衝液を得ることができる。
【0049】
上記キットは、混合粉末および緩衝液以外に、ゲルを作製するための部材を備えていてもよい。例えば、上記キットは、上記溶液が流し込まれるトレーを備えていてもよい。また、上記キットは、形成されたゲルを支持するためのプレートを備えていてもよい。さらに、上記キットは、ゲルにウェルを形成するためのコームを備えていてもよい。
【0050】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0051】
本発明の一態様は、以下のように構成されてもよい。
【0052】
<1>アガロースの粉末とガラクトマンナンの粉末とを混合してアガロース-ガラクトマンナン混合粉末を得る工程と、上記アガロース-ガラクトマンナン混合粉末を緩衝液に溶解してアガロース-ガラクトマンナン溶液を得る工程と、上記アガロース-ガラクトマンナン溶液をゲル化させて電気泳動用ゲルを得る工程と、を含む、電気泳動用ゲルの製造方法。
【0053】
<2>上記アガロース-ガラクトマンナン混合粉末におけるアガロースの粉末に対するガラクトマンナンの粉末の重量比(ガラクトマンナンの粉末の重量/アガロースの粉末の重量)が0.3~2である、<1>に記載の電気泳動用ゲルの製造方法。
【0054】
<3>上記緩衝液が、トリス-酢酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液またはトリス-ホウ酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液である、<1>または<2>に記載の電気泳動用ゲルの製造方法。
【0055】
<4>アガロースの粉末とガラクトマンナンの粉末とを含むアガロース-ガラクトマンナン混合粉末。
【0056】
<5>上記アガロースの粉末に対する上記ガラクトマンナンの粉末の重量比(ガラクトマンナンの粉末の重量/アガロースの粉末の重量)が0.3~2である、<4>に記載のアガロース-ガラクトマンナン混合粉末。
【0057】
<6><4>または<5>に記載のアガロース-ガラクトマンナン混合粉末を備える電気泳動用ゲル製造キット。
【0058】
<7>トリス-酢酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液またはトリス-ホウ酸-エチレンジアミン四酢酸緩衝液をさらに備える、<6>に記載の電気泳動用ゲル製造キット。
【実施例
【0059】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
〔1.アガロースの粉末を用いた電気泳動方法〕
[1-1.電気泳動方法]
後述の実施例1~4および参考例1~3にて共通して行った電気泳動方法について説明する。
【0061】
(1)電気泳動
電気泳動装置(Mupidミニゲル泳動槽、ミューピッド社(旧アドバンス社)製)にゲルをセットした。ゲルに形成されたウェルに、DNAサイズマーカーを3~5μL加えた。DNAサイズマーカーとしては、下記の(a)~(d)を用いた。
(a)λHIIIマーカー(ニッポンジーン社製)に、発明者が作製した550bpおよび720bpのDNAを追加したもの
(b)1~10kbのDNA(1-10kb DNA Markers, FMC社製)
(c)0.1~10kbのDNA(Gene Ladder Fast2,ニッポンジーン社製)
(d)0.1~2kbのDNA(Gene Ladder 100, ニッポンジーン社製)
100Vで30分間、室温にて電気泳動を行った。泳動バッファーとしては、TAE緩衝液(pH8.0;40mM Tris-HCl、20mM 酢酸ナトリウム、2mM EDTA)を用いた。なお、電気泳動は、Molecular Cloning: A LABORATORY MANUAL, T. Maniatis, EF Fritsch, J. Sambrook, Cold Spring Harbor Laboratory, 1982を参考にして常法により実施した。
【0062】
(2)ゲルの染色
エチジウムブロマイド(0.5μg/mL)を溶かしたTAE緩衝液に、電気泳動後のゲルを15分間浸漬した。さらに、当該ゲルを蒸留水に5分間、静置浸漬した。
【0063】
(3)ゲルの撮影
アガロースゲル撮影装置(UVイルミネーター;Model BioDoc-It(登録商標) Imaging system, UVP社製)を用いてゲルを撮影した。
【0064】
[1-2.ガラクトマンナンの混合の有無に関する比較]
<参考例1>
(1)アガロースの溶解
蓋付きの200mLガラス瓶に、100mLのTAE緩衝液(pH8.0;40mM Tris-HCl、20mM 酢酸ナトリウム、2mM EDTA)およびスターラーバーを入れた。当該ガラス瓶に、アガロース(Agarose H, ニッポンジーン社製)0.5gを投入し、蓋をして上下に2~3回程度、素早く振盪した。マイクロウェーブオーブンを用いて、上記ガラス瓶を100℃で2分程度加熱し、アガロースを溶解させた。その後、ガラス瓶をスターラーに乗せ、撹拌した。これにより、アガロース溶液を得た。当該アガロース溶液においては、アガロースが完全に溶解されていることを確認した。
【0065】
(2)ゲルの作製
上述の電気泳動装置に付属しているサンプルコーム(8ウェル用)およびゲルプレート(幅54mm、長さ60mm、高さ10mm)をゲル作製用トレーにそれぞれセットした。当該ゲル作製用トレーにアガロース溶液13mLを流し込んだ。アガロース溶液を室温で1時間放置し、固化させた。
【0066】
固化したゲルの上にTAE緩衝液を少量入れ、サンプルコームを注意深く抜き取った。このようにしてゲルを作製した。
【0067】
<実施例1>
アガロース(Agarose H, ニッポンジーン社製)0.3gおよびガラクトマンナン(AgarMate(登録商標)(CAT No. AGM 200), Diversified Biotech社製)0.1gをそれぞれ秤量した。薬さじを用いて、これらをよく撹拌混合した。
【0068】
得られた混合粉末0.4gを、上述のアガロース0.5gの代わりに用いたこと以外は参考例1と同様に、ゲルを作製した。
【0069】
<電気泳動>
参考例1および実施例1のゲルについて同時に電気泳動を行った。図1は、参考例1および実施例1の電気泳動の結果を示す図である。図1に示したDNAのサイズを表す目盛は、参考例1のバンドに基づく。汎用されるアガロースの濃度範囲は、0.5~2重量%である。実施例1は、これよりも低濃度である0.3重量%のアガロースを含む。それにもかかわらず、実施例1では、参考例1と同等の分離能が得られた。参考例1および実施例1では、1~23kbpにて、1kbp毎の違いがよく分離されていることがわかる。
【0070】
なお、アガロース0.3重量%を単独で使用した場合は極めて脆弱なゲルが得られ、使用不可能であった。これに対し、実施例1では、ガラクトマンナンの添加により、ゲルの強度が増大した。
【0071】
[1-3.アガロースの含有量に関する比較]
<参考例2>
参考例1と同様にしてゲルを作製した。
【0072】
<参考例3>
アガロース0.5gの代わりにアガロース1.5gを用いたこと以外は参考例1と同様にして、ゲルを作製した。
【0073】
<電気泳動>
参考例2および参考例3のゲルについて同時に電気泳動を行った。図2は、参考例2および参考例3の電気泳動の結果を示す図である。アガロースをより高濃度にて用いた参考例3では、参考例2に比べてマーカーdの100bp毎の違いがより明確になった。参考例3では、参考例2に比べて分離能が改善されたことがわかる。
【0074】
[1-4.ガラクトマンナンの含有量に関する比較]
<実施例2>
実施例1と同様にしてゲルを作製した。
【0075】
<実施例3>
ガラクトマンナン0.1gの代わりにガラクトマンナン0.3gを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ゲルを作製した。
【0076】
<実施例4>
ガラクトマンナン0.1gの代わりにガラクトマンナン0.6gを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ゲルを作製した。
【0077】
<電気泳動>
実施例2、実施例3および実施例4のゲルについて同時に電気泳動を行った。図3は、実施例2、実施例3および実施例4の電気泳動の結果を示す図である。実施例2、実施例3および実施例4を比較すると、ガラクトマンナンの濃度を0.1重量%、0.3重量%、0.6重量%と増加させるにつれて、マーカーdの100bp毎の違いがより明確になることがわかった。上述の参考例3は、通常、研究室で汎用されているような、アガロースを1.5重量%含むゲルである。この参考例3のゲルに比べても、実施例2~4では、100~2000bpにおいて格段に高い分離能が示されている。100~2000bpの領域は、PCR反応の結果解析に多用される領域である。従って、本発明の一実施形態に係る電気泳動用ゲルの製造方法は、将来的に汎用されるものになり得ることが強く示唆される。なお、実施例2~4のゲルは、いずれも強度に優れていた。
【0078】
[1-5.まとめ]
参考例1~3および実施例1~4にて使用したゲルにおけるアガロースおよびガラクトマンナンの濃度を下記表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
従来、分離すべきDNAの長さに応じて、様々な濃度のアガロースゲルが利用されてきた。そして、その濃度毎に最適なアガロース製品が市販されている。本発明の一実施形態に係る電気泳動用ゲルの製造方法によれば、アガロースの粉末とガラクトマンナンの粉末とを混合した粉末を用いることにより、100bp~23kbpまでのDNAを簡単に分離できる。従って、作製したいアガロースゲルの濃度に応じて異なるアガロース製品を準備する必要はない。
【0081】
〔2.寒天末を用いた電気泳動方法〕
[2-1.電気泳動方法]
後述の実施例5および比較例1においては、DNAサイズマーカーとして下記の(e)および(f)を用いた以外は、[1-1.電気泳動方法]と同様に電気泳動を行った。
(e)0.1~20kbのDNA(Gene ladder wide 2, ニッポンジーン社製)
(f)0.1~2kbのDNA(Gene Ladder 100, ニッポンジーン社製)
[2-2.ガラクトマンナンの混合の有無に関する比較]
<実施例5>
アガロース0.3gの代わりに寒天末(精製寒天末, ナカライテスク社製)0.5gを用い、ガラクトマンナンを0.5g用いたこと以外は、実施例1と同様にしてゲルを作製した(寒天末0.5重量%、ガラクトマンナン0.5重量%)。
【0082】
<比較例1>
アガロースの代わりに寒天末(精製寒天末, ナカライテスク社製)を用いたこと以外は、参考例1と同様にしてゲルを作製した(寒天末0.5重量%)。
【0083】
<電気泳動>
実施例5および比較例1のゲルについて同時に電気泳動を行った。図4は、実施例5および比較例1の電気泳動の結果を示す図である。なお、図中の*は、2kbのDNAバンドの位置を示している。実施例5のマーカーeのDNAバンド18本のうちの16本、および、マーカーfのDNAバンド全12本が完全に分離されていることが分かる。比較例1では、マーカーeおよびfのいずれも、1kb以上のDNAバンドは分離されているが、0.1kb以上1kb未満のDNAバンドは分離できていないことが分かる。
【0084】
これらの結果は、アガロースの代わりに寒天末を用いた電気泳動においても、ガラクトマンナンの使用が低分子領域の分離に極めて有効であることを示している。また、寒天末を用いたゲルは脆弱であることが知られている。しかし、ガラクトマンナンの添加により、ゲルの強度が向上した。つまり、ガラクトマンナンの添加により、ゲルの強度の問題も解決することができた。寒天末はアガロースより低廉である。よって、ガラクトマンナンと組み合わせることによって寒天末の利用が増加することが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、電気泳動を伴う解析が行われる様々な分野に利用することができる。
図1
図2
図3
図4