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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-13
(45)【発行日】2022-05-23
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/06 20190101AFI20220516BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
B32B7/06
G02B5/30
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020563318
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2019050676
(87)【国際公開番号】W WO2020138104
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2018243277
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々田 泰行
(72)【発明者】
【氏名】久永 和也
(72)【発明者】
【氏名】脇阪 大樹
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-103997(JP,A)
【文献】国際公開第2009/075086(WO,A1)
【文献】特開2015-143308(JP,A)
【文献】国際公開第2011/068111(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、転写層、接着層をこの順に含み、前記転写層と前記接着層が隣接し、前記転写層の面積が前記接着層の面積より広く、且つ、前記転写層の膜厚に面内分布があり、前記接着層の端部と前記転写層とが接した位置P1における前記転写層の膜厚t1が、それよりも内側の位置P2における前記転写層の膜厚t2より薄いことを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記P1における前記転写層と前記基材との接着力fa1と、前記P2における前記転写層と前記基材との接着力fa2との差が、3N/25mm未満である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記転写層の主材料が熱可塑性樹脂である請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記積層体が、長尺状の積層体である請求項1~3のいずれか一項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写層と接着層を含む積層体に関する。より詳細には、本発明は、例えば、液晶表示装置等に好適に利用することができる光学フィルムとして有用な転写層と接着層を含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置等の表示装置は、薄型化や大型化が急速に進んでおり、意匠性の確保や、環境変化に伴う表示装置の光ムラ故障を抑制する目的で、光学フィルムをはじめとする部材の薄手化が進んでいる。
【0003】
例えば、液晶表示装置の必須部材である偏光板において、環境湿度の変化によって偏光板が伸縮した場合に、偏光板が貼り合わされた液晶パネルが反り、パネルとバックライト部材とが接触することによって光ムラが発生すると考えられている。
【0004】
この問題を解決するために、低透湿性の光学フィルムを用いる方式(特許文献1)、光学フィルムの寸法変化によって発生する力を抑制する方式(特許文献2や特許文献3)などが提案されている。
【0005】
また、転写性の光学フィルムを用いて薄膜化し、パネルの反りを抑制する方式(特許文献4)などが提案されている。
【0006】
一方、転写層の品質を向上させる目的で、非転写領域を多層化する方法(特許文献5)、転写材を予め折り曲げた後に基材を剥離する転写方法(特許文献6)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2015-7768号公報
【文献】日本国特開2014-95880号公報
【文献】国際公開第2017/138551号公報
【文献】日本国特開2017-215562号公報
【文献】日本国特開2003-103997号公報
【文献】日本国特開平10-67199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献4に開示されている転写性の光学フィルムは、優れた効果を発揮するものであるが、近年更なる性能の向上が要求されており、特に基材剥離性(転写層を基材から安定的に剥離できる性能)と欠陥の低減について検討の余地がある。
【0009】
また、特許文献5に開示されている方法では、長尺状の積層体を生産する際に搬送位置ズレや、広幅の積層体における各材料の寸法変化に起因する位置ズレが生じ、基材剥離性が改善しないことがあることが分かった。更に、特許文献6に開示されている方法は、生産装置の構造上の制約で、適用できないことがあることが分かった。
【0010】
本発明の解決しようとする課題は、基材剥離性が良好で、欠陥の少ない転写層と接着層を含む積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
基材剥離性を改善するため、転写層の膜厚に面内分布を設け、接着層の端部と接した位置(P1)における転写層の膜厚を、それよりも内側の位置(P2)における転写層の膜厚より薄くすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
したがって、上記課題を解決するための具体的手段である本発明は、以下の通りである。
【0013】
<1>
基材、転写層、接着層をこの順に含み、転写層と接着層が隣接し、転写層の面積が接着層の面積より広く、且つ、転写層の膜厚に面内分布があり、接着層の端部と転写層とが接した位置(P1)における転写層の膜厚(t1)が、それよりも内側の位置(P2)における転写層の膜厚(t2)より薄いことを特徴とする積層体。
<2>
上記P1における転写層と基材との接着力(fa1)と、上記P2における転写層と基材との接着力(fa2)との差が、3N/25mm未満である<1>に記載の積層体。
<3>
上記転写層の主材料が熱可塑性樹脂である<1>または<2>に記載の積層体。
<4>
上記積層体が、長尺状の積層体である<1>~<3>のいずれか一項に記載の積層体。
<5>
上記転写層の主材料が、ビニル芳香族系樹脂、または環状オレフィン系樹脂である<3>に記載の積層体。
<6>
上記転写層の主材料が、硬化性組成物である<1>~<4>のいずれか一項に記載の積層体。
<7>
上記接着層の、転写層とは反対側の面に、光学フィルムが隣接した<1>~<6>のいずれか一項に記載の積層体。
<8>
上記光学フィルムが、偏光膜、または偏光膜の保護フィルムである<7>に記載の積層体。
<9>
上記光学フィルムが、位相差フィルムである<7>に記載の積層体。
<10>
液晶セルと、<1>~<9>のいずれか一項に記載の積層体を含む液晶表示装置。
<11>
有機エレクトロルミネッセンス素子と、<1>~<9>のいずれか一項に記載の積層体を含む有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基材剥離性が良好で、欠陥の少ない転写層と接着層を含む積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の積層体の一例と被転写体の一例を示す模式図。
図2】本発明の積層体の一例の接着層の端部付近を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。尚、本願明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0017】
<<転写層>>
本発明における転写層について説明する。
本発明の積層体において、転写層は接着層と隣接しており、典型的には、他の物品(被転写体)に本発明の積層体の接着層を接着させる、または被転写体と本発明の転写層・基材とを接着剤(接着層)を介して積層させ(図1参照)、本発明の積層体の基材を剥がすことで、転写層は基材から剥離して接着層と共に他の物品上に転写されるものである。
この際、転写層の引き裂きに必要な力が、転写層を基材から剥がすのに必要な力を下回れば、P1より内側は転写層と基材間で剥離し、P1より外側は転写層が基材側に残る状態となるため、例えば、後工程で転写層が千切れるような問題が起こらず、欠陥を低減することができ、好ましい。
【0018】
<膜厚>
本発明の転写層は、膜厚の面内分布があり、転写層と接着層とを積層する際に、接着層の端部と転写層とが接しうる位置(P1)における転写層の膜厚(t1)が、それよりも内側の位置(P2)における転写層の膜厚(t2)より薄いことを特徴とする。ここで、「内側の位置(P2)」は、典型的には、接着層と転写層とが接する位置であって、P1よりも接着層の中央に近い側の位置を表す(図1及び図2参照)。
基材剥離性は、P1付近の膜厚を低減し、転写層が裂けやすくすることによって改善することができる。具体的には、t1とt2との比(t1/t2)は1未満であり、0.9以下が好ましく、0.8以下がより好ましく、0.7以下がさらに好ましく、0.6以下が最も好ましい。t1/t2を小さくすることで、想定外の位置から裂ける頻度を低減することができ、基材剥離性が良化し、積層体の欠陥を低減することができる。
【0019】
t1は、上記t1/t2比を満たす範囲内で設定され、0.05~7.0μmが好ましく、0.2~4.5μmがより好ましく、0.5~4.0μmが更に好ましく、0.7~3.5μmが最も好ましい。t1が0.05μm以上であるとP1付近の転写層に、穴あき等の欠陥が発生する頻度が抑制されるため好ましい。
また、本発明の積層体における転写層は、接着層の端部と接する位置P1から転写層の端部にかけて膜厚がt1である領域(「P1領域」とも呼ぶ。図2参照。)を有していることが好ましい。P1領域は、図1に示したように転写される領域(接着層に接している領域(「転写領域」とも呼ぶ。))と非転写領域を含むものであってもよいが、P1領域中の転写領域は、例えば製品としての光学フィルムとして所望の性能を発揮するための膜厚を有していない場合には、非製品部として扱われる場合もある。このような観点からは、膜厚をt1とする領域(P1領域)の幅は、製品の得率を上げる観点では狭いほうが好ましいが、転写層と接着層とを積層する際の位置決めの精度や、転写層や被転写体の寸法変化等を考慮して設定されることが好ましい。例えば、本発明の積層体が、長尺状の積層体である場合にはP1は幅方向両端部付近となり、t1の幅は、ウェブの幅手方向の搬送位置精度を考慮し、通常、片側3~50mmが好ましく、5~30mmがより好ましく、10~20mmが更に好ましい。転写層や被転写層の温度や湿度による寸法変化が位置精度に優位に影響する場合には、搬送位置精度を考慮したt1の幅に、材料の寸法変化に起因する幅を上乗せすることが好ましい(この場合、t1の幅の上乗せ量は、寸法変化率を考慮して決定することが好ましく、材料の幅に応じて、上乗せ量を増減することが好ましい)。
【0020】
本発明の積層体における転写層は、膜厚がt2である領域(「P2領域」とも呼ぶ。図2参照。)を有していることが好ましい。t2は、典型的には、図1に示したように、製品部分となる転写領域の膜厚であり、例えば力学強度といった他性能を満たすことが好ましく、0.1~10μmが好ましく、0.5~7.0μmがより好ましく、1.0~6.0μmが更に好ましく、1.5~5.5μmが最も好ましい。t2が0.1μm以上であると製品となる転写領域の他性能を担保する観点で好ましく、10μm以下であると基材剥離性や、積層体の薄手化の観点で好ましい。
【0021】
t1を部分的に薄くする具体的な方法としては、転写層がコーティング膜の場合、塗膜の乾燥が終了する前に、P1近傍に塗膜を除去する板状の冶具を設けて掻き取る方法や、P1近傍の塗膜にワイヤーバーのような冶具を押し当てて薄くする方法等で実施することができる。ワイヤーバーのような冶具を押し当てた場合は、幅手方向に膜厚の不均一性が生じることがあり、その場合、t1は、最も薄い部分で評価される。また、転写層を重層塗布で形成し、1層目と2層目の塗布幅を変えることによって実現する方法がある。この場合、幅広の層と狭幅の層の材料を変え、広幅の層を裂けやすい材料にしておくこともできる。
t1を部分的に薄くする別の方法として、転写層が非晶性ポリマーの場合に、P1近傍の領域にかかる温度を転写層のTg未満とし、P2領域にかかる温度を転写層のTg以上とすることにより、P1近傍の領域の面配向を進め、P2領域は面配向が抑制された状態とする方法がある。また、転写層が結晶性ポリマーの場合に、P1近傍の領域を、部分的に結晶化温度以上まで加熱する方法がある。
【0022】
<転写層と基材との接着力>
本発明の転写層と基材の複層フィルムにおいて、基材を安定的に剥離するために、転写層と基材との接着力の面内分布は小さい方が好ましく、P1における接着力と、P2における接着力との差は、3N/25mm未満であることが好ましく、1N/25mm未満であることがより好ましく、0.5N/25mm未満であることが更に好ましい。
P1における接着力は、0.001~5N/25mmが好ましく、0.01~3N/25mmがより好ましく、0.1~1N/25mmが更に好ましく、0.15~0.8N/25mmが最も好ましい。0.001N/25mm以上であれば、基材の剥離工程以外における想定外の剥離故障を防ぐことができ、5N/25mm以下であれば、剥離工程における剥離不良(例えば、ジッピングや、転写層の割れ)を防ぐことができる。
また、P2における接着力は、高い方が基材剥離性は良化するが、接着力の面内分布が大きいと、基材や被転写体にシワやツレが発生し、散発的に基材剥離性が悪化することがあるため、接着力の面内分布が前述の範囲になるように、P2は設定されることが好ましい。すなわち、転写層の基材を剥離する際に、基材や被転写体にシワやツレの発生がなく、安定的に剥離するためには、転写層と基材との接着力の面内分布は小さい方が好ましい。
本発明の転写層を、コーティング法で形成させる場合、転写層と基材との間の接着力は、上記転写層の材料、基材の材料、転写層の内部歪み等を調整して制御することができる。
【0023】
本明細書において、転写層と基材との接着力は、幅25mm、長さ80mmに裁断した複層フィルムの転写層を、アクリル系粘着シートを介してガラス基板に貼合して固定した後に、引張り試験機((株)エー・アンド・デイ製RTF-1210)を用いて、試験片の長さ方向一端(幅25mmの一辺)の基材を掴み、温度23℃、相対湿度60%の雰囲気下、クロスヘッドスピード(チャック移動速度)300mm/分で、JIS K 6854-1:1999 「接着剤-はく離接着強さ試験方法-第1部:90度はく離」に準拠した90°剥離試験で評価した。
【0024】
<破断伸度>
本発明の転写層の破断伸度は、特に限定されないが、0.1~10%であることが好ましく、0.3~7%がより好ましく、0.5~5%が更に好ましい。転写層の破断伸度が0.1%以上であると、転写層にクラックが入り難くなるため好ましく、10%以下であると、基材剥離性が良化するため好ましい。転写層の破断伸度は、転写層と基材の複層フィルムの状態で、転写層を曲げの外側に配置し、JIS K5600-5-1に準じた円筒形マンドレル法でクラックの起こらなかった直径から、転写層の歪みを算出して求める。
【0025】
<弾性率>
本発明の転写層の弾性率は、特に限定されないが、0.5~6.0GPaが好ましく、1.5~4.5GPaがより好ましく、2.0~3.5GPaが更に好ましい。転写層の弾性率が0.5GPa以上であると、基材剥離性が良化するため好ましい。
【0026】
本明細書において、転写層の弾性率(引張り弾性率)は、必要に応じて自己支持性が保てるように膜厚を厚くしたフィルムを用いて測定することができる。フィルムの弾性率は、測定方向がフィルム長手方向となり、測定部分が10cm×1cmのサイズになるようにフィルムを切り出し、25℃、相対湿度60%において24時間調湿し、東洋ボールドウィン(株)製万能引っ張り試験機“STM T50BP”を用い、引張速度10%/分で0.1%伸びと0.5%伸びにおける応力を測定し、その傾きから弾性率を算出する。
【0027】
<ガラス転移温度(Tg)>
本発明の転写層や、転写層に用いる樹脂のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されない。Tgは、例えば、25℃、相対湿度10%において24時間調湿した後、測定パンにサンプルを封入し、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量計“DSC6200”を用い、20℃/分で昇温させて得られたサーモグラムから、ベースラインと変曲点での接線との交点温度として求めることができる。
【0028】
<その他特性>
本発明の転写層の上述以外の特性値は、特に限定されることはなく、一般的な公知の転写膜と同等の性能を適宜実装することができ、一般的な光学フィルムに要求される性能を適宜実装していることが好ましい。具体的な特性値としては、表示特性に関連するヘイズ、光線透過率、分光特性、レタデーション、レタデーションの湿熱耐久性等を挙げることができ、力学特性や加工適性に関連する湿度や温度や湿熱サーモに伴う寸法変化率、平衡吸湿率、透湿度、接触角等を挙げることができる。
【0029】
<層構成>
本発明の転写層は、単層であっても、2層以上の積層構造を有していてもよい。2層以上の積層構造の場合には、転写層を構成する各層の幅が異なっていてもよく、例えば、t1とt2の膜厚差を付与する目的で、2層以上の積層構造としてもよい。また、機能層を積層して、別の機能を複合化することもできる。
【0030】
<主材料>
本発明の転写層を構成する主材料は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂、または反応性モノマーを含む組成物の硬化組成物などを好適に用いることができる。
なお、転写層を構成する主材料とは、転写層に含まれる成分のうち最も含有量(質量基準)が多い成分である。
【0031】
・熱可塑性樹脂
本発明の転写層を構成する熱可塑性樹脂は特に限定されないが、脆性及び弾性率改良の観点からポリマー分子間の相互作用を強くするような、例えば極性構造を含むことが好ましく、結晶性ポリマーであっても、非晶性ポリマーであっても、液晶性ポリマーであってもよい。具体的な例として、公知のビニル芳香族系樹脂(スチレン系樹脂、ジビニルベンゼン系樹脂、ビニルピリジン系樹脂等)、環状オレフィン系樹脂、セルロース系樹脂(セルロースアシレート樹脂、セルロースエーテル樹脂等)、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ビニル芳香族系樹脂以外のビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂等を挙げることができる。これらのうち、スチレン系樹脂、環状オレフィン樹脂は、材料の疎水性の観点で好ましく、セルロースアシレート樹脂は脆性の観点で好ましい。
【0032】
ビニル芳香族系樹脂について、具体的には、特開2017-167514号公報の段落[0035]~[0041]にビニル芳香族系樹脂、およびスチレン系樹脂の記載があり、適宜使用することができる。
【0033】
環状オレフィン系樹脂について、具体的には、特開2017-215562号公報の段落[0047]~[0049]に記載があり、適宜使用することができる。
【0034】
セルロースアシレート樹脂の例としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレート、セルロースアセテートベンゾエート等が挙げられる。その中でも、微結晶性の性質を有し、力学強度や熱的な寸法安定性に優れるセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートが好ましい。
ポリカーボネート樹脂の例としては、ポリカーボネート、ビスフェノールAがフルオレン変性された構造単位を含むポリカーボネート、ビスフェノールAが1,3-シクロヘキシリデン変性された構造単位を含むポリカーボネート等が挙げられる。
ビニル系樹脂の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、等が挙げられる。
【0035】
本発明の転写層を構成する熱可塑性樹脂は、1種類でもよく、2種類以上を含んでいてもよい。また、転写層が多層から形成される場合、各層の熱可塑性樹脂は異なっていてもよい。
【0036】
・硬化性組成物
本発明の転写層の別の態様として公知の硬化性組成物を用いることができる。硬化性組成物は、特に限定されることはなく、公知のアクリル系モノマー、エポキシ系モノマー等を含む。また、適宜前述の熱可塑性樹脂に硬化性組成物を混合して実施してもよい。
【0037】
反応性モノマーについて、具体的には、特開2014-170130号公報の段落[0016]~[0044]に記載の環状脂肪族炭化水素基と不飽和二重結合基とを有する化合物、フルオレン環と不飽和二重結合基とを有する化合物、特開2013-231955号公報の段落[0109]~[0133]に記載の多官能性モノマー等に記載があり、適宜使用することができる。また、偏光膜との水糊接着性を付与するため、WO2015/053359号公報に記載のボロン酸モノマーを併用することもできる。
【0038】
・重合開始剤
上記の硬化性組成物は、公知の重合開始剤を含むことができ、光重合開始剤が好ましい。
光重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3-ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類、芳香族スルホニウム類、ロフィンダイマー類、オニウム塩類、ボレート塩類、活性エステル類、活性ハロゲン類、無機錯体、クマリン類などが挙げられる。光重合開始剤の具体例、及び好ましい態様、市販品などは、特開2009-098658号公報の段落[0133]~[0151]に記載があり、適宜使用することができる。
【0039】
「最新UV硬化技術」{(株)技術情報協会}(1991年)、p.159、及び、「紫外線硬化システム」加藤清視著(平成元年、総合技術センター発行)、p.65~148にも種々の例が記載されており本発明に有用である。
【0040】
<添加剤>
本発明の転写層には、公知の添加剤を適宜混合することができる。公知の添加剤として、低分子可塑剤、レベリング剤、オリゴマー系添加剤、ポリエステル系添加剤、レタデーション調整剤、微粒子、紫外線吸収剤、劣化防止剤、剥離促進剤、可視光吸収剤(色素)、赤外線吸収剤、酸化防止剤、フィラー、相溶化剤、偏光度向上剤、褪色防止剤等を挙げることができる。
これらの添加剤は、一般的に、添加量が増えると、転写層が裂けやすくなることが多く、転写層の裂けやすさを制御する目的で使うこともできる。また、転写層と基材との接着力を制御する目的で使うこともできる。
転写層が多層から形成される場合、各層の添加剤の種類や量は異なっていてもよい。
【0041】
・微粒子
本発明の転写層には、裂けやすさの制御、滑り性やブロッキング防止等の目的で、微粒子を添加することができる。微粒子の添加量は、転写層の透明性が損なわれない範囲で添加されることが好ましい。この微粒子としては、疎水基で表面が被覆され、二次粒子の態様をとっているシリカ(二酸化ケイ素,SiO)が好ましく用いられる。なお、微粒子には、シリカとともに、あるいはシリカに代えて、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、燐酸カルシウムなどの微粒子を用いてもよい。市販の商品としては、微粒子は商品名R972、またはNX90S(いずれも日本アエロジル(株)製)などが挙げられる。
【0042】
・ポリエステル系添加剤
本発明の転写層には、転写層と基材との接着力を制御する等の目的で、公知のポリエステル系添加剤を適宜混合することができる。転写層と基材との表面エネルギー差が小さくなるような化合物や、ガラス転移温度が常温より低い成分を含む化合物や、基材への浸透性がある化合物を添加すると、転写層と基材との接着力を上昇させる効果がある。
ポリエステル系添加剤について、具体的には、特開2013-231955号公報の段落[0075]~[0082]に記載があり、適宜使用することができる。
【0043】
・レベリング剤
本発明の転写層には、公知のレベリング剤(界面活性剤)を適宜混合することができる。レベリング剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、特に含フッ素界面活性剤が好ましい。具体的には、例えば特開2001-330725号公報明細書中の段落番号[0028]~[0056]記載の化合物が挙げられる。
【0044】
・色素
本発明の転写層には、適宜色素を添加することができる。色素の最適な吸収波長帯は、表示装置の設計に応じて適宜変わるが、例えば、波長460~520nmに主吸収波長帯域を有する色素(以下、染料Aという。)、または、波長560~620nmに主吸収波長帯域を有する色素(以下、染料Bという。)が好ましい。また、本発明の転写層は染料Aおよび染料B以外の染料を含有することもできる。
【0045】
染料Aは、波長460~520nmに主吸収波長帯域を有するものであれば特に制限されず、各種染料を用いることができる。この染料Aは、蛍光を示すものが多い。
本発明において、波長XX~YYnmに主吸収波長帯域を有するとは、可視光吸収スペクトル(波長領域380~750nm)において、極大吸収波長を示す波長が波長領域XX~YYnmに存在することを意味する。したがって、この波長が上記波長領域内にあれば、この波長を含む吸収帯域全体が上記波長領域内にあってもよく、上記波長領域外まで広がっていてもよい。また、極大吸収波長が複数存在する場合、最高ではない吸光度を示す極大吸収波長が波長領域XX~YYnm外に存在していてもよい。なお、極大吸収波長を示す波長が複数ある場合、そのうちの1つが上記波長領域に存在していればよい。
【0046】
染料Aの具体例としては、例えば、ピロールメチン(pyrrole methine、PM)系、ローダミン(rhodamine、RH)系、ボロンジピロメテン(boron dipyrromethene、BODIPY)系、スクアリン(squarine、SQ)系等の各染料が挙げられる。例えば、FDB-007(商品名、メロシアニン系染料、山田化学工業社製)等の市販品も染料Aとして好ましく用いることができる。
【0047】
染料Bは、波長560~620nmに主吸収波長帯域を有するものであれば特に制限されず、各種染料を用いることができる。この染料Bは、染料Aよりも蛍光が弱い、又は蛍光を示さないものが多い。
染料Bの具体例としては、例えば、テトラアザポルフィリン(tetraaza porphyrin、TAP)系、スクアリン系、シアニン(cyanine、CY)系の各染料が挙げられる。また、PD-311S(商品名、テトラアザポルフィリン系染料、山本化成社製)、FDG-006(商品名、テトラアザポルフィリン系染料、山田化学工業社製)等の市販品も染料Bとして好ましく用いることができる。
【0048】
・褪色防止剤
本発明の転写膜には、適宜褪色防止剤を添加することができる。本発明に用いる褪色防止剤としては、国際公開第2015/005398号の段落[0143]~[0165]に記載の酸化防止剤、同[0166]~[0199]に記載のラジカル捕捉剤、及び同[0205]~[0206]に記載の劣化防止剤を用いることができる。
【0049】
<<基材>>
転写層を、コーティング法で形成させるために用いられる基材は、膜厚が5~100μmであることが好ましく、10~75μmがより好ましく、15~55μmが更に好ましい。膜厚が5μm以上であると、十分な機械強度を確保しやすく、カール、シワ、座屈等の故障が生じにくいため、好ましい。また、膜厚が100μm以下であると、基材剥離性が良化する傾向があり、好ましい。基材の膜厚が薄い方が、基材剥離性が良化するメカニズムは不詳だが、基材の剥離角度が鋭角に近づくため、転写層が引裂かれやすくなるためであると考えられる。
【0050】
基材の表面エネルギーは、特に限定されることはないが、転写層の材料やコーティング溶液の表面エネルギーと、基材の転写層を形成させる側の表面の表面エネルギーとの関係性を調整することによって、転写層と基材との間の接着力を調整することができる。表面エネルギー差を小さくすれば、接着力が上昇する傾向があり、表面エネルギー差を大きくすれば、接着力が低下する傾向があり、適宜設定することができる。
【0051】
基材の表面エネルギーは、水及びヨウ化メチレンの接触角値からOwensの方法を用いて計算することが出来る。接触角の測定には、例えば、DM901(協和界面科学(株)製、接触角計)を用いることができる。
基材の転写層を形成する側の表面エネルギーは、特に限定されないが、41.0~48.0mN/mであることが好ましく、42.0~48.0mN/mであることが、より好ましい。表面エネルギーが41.0mN/m以上であると、転写層の膜厚の均一性を高められるため好ましく、48.0mN/m以下であると、転写層を基材との剥離力を適切な範囲に制御しやすいため、好ましい。
【0052】
また、基材の表面凹凸は、特に限定されることはないが、転写層表面の表面エネルギー、硬度、表面凹凸と、基材の転写層を形成させる側とは反対側の表面の表面エネルギー、硬度との関係性に応じて、例えば本発明の複層フィルムを長尺のロール形態で保管する場合の接着故障を防ぐ目的で調整することができる。表面凹凸を大きくすれば、接着故障を抑制する傾向にあり、表面凹凸を小さくすれば、転写層の表面凹凸が減少し、転写層のヘイズが小さくなる傾向にあり、適宜設定することができる。
【0053】
このような基材としては、公知の素材やフィルムを適宜使用することができる。具体的な材料として、ポリエステル系ポリマー、オレフィン系ポリマー、シクロオレフィン系ポリマー、(メタ)アクリル系ポリマー、セルロース系ポリマー、ポリアミド系ポリマー等を挙げることができる。また、基材の表面性を調整する目的で、適宜表面処理を行うことが出来る。表面エネルギーを低下させるには、例えば、コロナ処理、常温プラズマ処理、鹸化処理等、を行うことができ、表面エネルギーを上昇させるには、シリコーン処理、フッ素処理、オレフィン処理等を行うことができる。
【0054】
<<転写層の作製>>
本発明の転写層は、基材上に公知の方法でコーティング層を形成する方法で作製することができ、転写層の主材料が熱可塑性樹脂の場合には、公知の溶液製膜法、溶融押出し法に準じて、共流延や共押出し、適宜延伸等を組合せて作製することもできる。
【0055】
コーティング法は、基材であるフィルムに転写層の材料を塗布し、コーティング層を形成する。基材表面には、コーティング層との接着性を制御するため、適宜離型剤等を予め塗布しておいてもよい。コーティング層は、後工程で接着剤や粘着剤を介して偏光層と積層させた後、基材を剥離して用いることができる。なお、基材にポリマー溶液またはコーティング層が積層された状態で、適宜基材ごと延伸して、光学特性や力学物性を調整することができる。
【0056】
溶液製膜法は、転写層の材料を有機溶媒または水に溶解した溶液を調製し、濃縮工程やろ過工程などを適宜実施した後に、支持体上に均一に流延する。次に、生乾きの膜を支持体から剥離し、適宜ウェブの両端をクリップなどで把持して乾燥ゾーンで溶媒を乾燥させる。また、延伸は、フィルムの乾燥中や乾燥が終了した後に別途実施することもできる。
【0057】
転写層材料の溶液に用いられる溶媒は、転写層材料を溶解または分散可能であること、塗布工程、乾燥工程において均一な面状となり易いこと、液保存性が確保できること、適度な飽和蒸気圧を有すること、等の観点で適宜選択することができる。
【0058】
溶融押出し法について、具体的には、特開2017-215562号公報の段落[0085]~[0090]に記載があり、適宜使用することができる。
【0059】
転写層には公知のグロー放電処理、コロナ放電処理、又は、アルカリ鹸化処理などにより親水化処理を施すことが好ましく、コロナ放電処理が最も好ましく用いられる。特開平6-94915号公報、または同6-118232号公報などに開示されている方法などを適用することも好ましい。
【0060】
なお、得られたフィルムには、必要に応じて、熱処理工程、過熱水蒸気接触工程、有機溶媒接触工程などを実施することができる。また、表面処理を実施し、ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムとして適用することもできる。
【0061】
<<接着層>>
本発明の接着層として用いる材料は、特に限定されることはなく、公知の接着剤や粘着剤組成物を用いることができる。
【0062】
・硬化型接着剤
硬化型接着剤として、紫外線硬化型接着剤を好ましく用いることができる。紫外線硬化型接着剤の種類としては、特に限定されないが、特開2015-187744号公報に記載のエポキシ系紫外線硬化型接着剤や、特開2015-11094号公報に記載のアクリレート系紫外線硬化型接着剤を使用することが好ましい。
【0063】
・水系接着剤
水系接着剤として、ポリビニルアルコール又はポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例えば、ポリブチルアクリレート)のラテックスを用いることができる。
【0064】
・粘着剤組成物
感圧性接着剤(粘着剤)として、粘着剤組成物を用いることができる。粘着剤組成物について、具体的には、特開2017-215562号公報の段落[0106]~[0111]に記載の粘着剤組成物、段落[124]に記載の架橋剤を、適宜使用することができる。
【0065】
<接着層の膜厚>
本発明の接着層の膜厚は、特に限定されないが、硬化型接着剤の場合は、被転写体との接着性と、接着の硬化性とを両立する観点から、0.1~10μmが好ましく、0.5~5μmがより好ましく、1~3μmが更に好ましい。また、水系接着剤の場合は、被転写体との接着性と、接着剤の乾燥性とを両立する観点から、1~1000nmが好ましく、10~500nmがより好ましく、30~300nmが更に好ましい。
【0066】
<<積層体>>
本発明の転写層は、基材、転写層、接着層をこの順に含む。本発明の積層体は、公知の方法で作製することができ、転写層と接着層が隣接し、転写層が接着層より広くなるように積層される。すなわち、本発明の積層体において、転写層の面積が接着層の面積より広い。典型的には、本発明の積層体は矩形(長尺状であっても良い)であり(更に、基材、転写層、及び接着層が矩形であり)、転写層の幅方向の端部が露出するように接着層を積層することができる(図1及び図2参照)。
本発明の積層体が、長尺状の積層体である場合には、接着剤を介して積層される被転写体、および転写層を含む基材とも長尺状であり、ロールツーロールで貼合できることが好ましい。図1に積層体の一例として、本発明の積層体が長尺状の積層体である場合の模式図を示す。
本発明の積層体は、基材剥離性及び欠陥の観点で優れるものである。したがって、本発明の積層体を用いることで、例えば、液晶表示装置等に利用される光学フィルムとして有用な転写層と接着層の積層フィルムを歩留りよく提供することができる。また、本発明の積層体を用いることで、光ムラが発生しにくく、信頼性に優れる液晶表示装置を提供可能となる。
【0067】
<偏光膜>
本発明の接着層の、転写層とは反対側に、偏光膜を配置することもできる。好ましく用いられる偏光膜としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸したもの等を用いることができる。本発明の転写層は、前述の接着層を介して、偏光膜の片面または両面に対し、貼り合わせることができる。
【0068】
<転写層の基材の剥離>
本発明の積層体を作製した後の工程において、転写層から基材を剥離除去する工程を有する。基材の剥離除去は、例えば、通常の粘着剤に用いられるセパレータ(剥離フィルム)の剥離工程と同様の方法で実施することができ、剥離するタイミングは、次工程や、一度ロール状に巻き取った後の別工程など、任意のタイミングで実施することができる。
【0069】
<帯電防止層>
本発明の転写層を含む積層体には、更に帯電防止層を積層することもできる。帯電防止層は、帯電防止剤を含有していれば特に限定されないが、良好な帯電防止性能を得る観点から、層の弾性率が1GPa未満であることが好ましく、0.1GPa以下であることがより好ましく、0.05GPa以下であることが更に好ましい。
具体的には、帯電防止剤を含む粘着剤組成物などが挙げられ、例えば、特開2017-215562号公報の段落[0112]~[0122]に記載の帯電防止剤や、帯電防止剤を含む粘着剤組成物を、適宜使用することができる。帯電防止層は、例えば、約1×10~1×1011Ω/cmの表面抵抗値を有するように帯電防止剤が添加された粘着剤組成物を、離型フィルム、光学フィルムなどの基材に塗布することによって形成することができる。
【0070】
<<表示装置>>
本発明の積層体は、公知の液晶表示装置や、有機エレクトロルミネッセンス表示装置に使用することができる。
【実施例
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0072】
<<複層フィルムの作製>>
【0073】
<複層フィルムA1>
下記に示す方法で、剥離性複層フィルムを作製した。
1)塗布液の調製
下記に示す組成で、複層フィルム形成用の塗布液1を調製した。
【0074】
2)塗布液1の組成
SGP-10 50.0質量部
エポクロスRPS-1005 48.7質量部
バイロン550 1.0質量部
A-19-1 0.3質量部
酢酸エチル 600.0質量部
得られた塗布液は絶対濾過精度1μmのフィルターで濾過し、塗布液1Sを得た。
【0075】
使用した材料を以下に示す。
・SGP-10:ポリスチレン[PSジャパン製]
・エポクロスRPS-1005:スチレン-オキサゾリン共重合体[日本触媒製]
・バイロン550[東洋紡(株)製]
・含フッ素共重合体(A-19-1):下記構造の重合体である。特開2018-5215号公報の合成例22([0183]~[0185])と同様に作製した。
【0076】
【化1】
【0077】
3)複層フィルムの塗設
市販のポリエチレンテレフタレートフィルム、エンブレットS38(膜厚38μm、幅1340mm、ユニチカ(株)製)を基材(コーティング基材)として用い、塗布液1Sを使用した。塗膜幅が1320mm、乾燥後の幅手中央付近の膜厚(t2)が表1記載の値となるように作製して、複層フィルムA1を得た。具体的には、特開2006-122889号公報実施例1記載のスロットダイを用いたダイコート法で、搬送速度30m/分の条件で塗布し、塗膜のエッジから両端20mmの部分は、塗布直後に塗膜を掻き取って、乾燥後の膜厚(t1)が表1記載の値となるようにし、105℃で30秒乾燥させた。その後、巻き取った。
【0078】
<複層フィルムA2>
上記複層フィルムA1の塗布液を、下記の塗布液2に替えた以外は複層フィルムA1と同様にしてフィルムを作製し、複層フィルムA2を得た。
【0079】
2)塗布液2の組成
AS-70 100.0質量部
SMA2000P 5.0質量部
バイロン500 0.9質量部
界面活性剤1 0.1質量部
酢酸メチル 250.0質量部
アセトニトリル 225.0質量部
エタノール 25.0質量部
得られた塗布液は絶対濾過精度1μmのフィルターで濾過した。
【0080】
使用した材料を以下に示す。
・AS-70:アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂[新日鉄住金化学(株)製]
・SMA2000P[川原油化(株)]
・バイロン500[東洋紡(株)製]
・界面活性剤1:下記構造の界面活性剤を用いた。
【0081】
【化2】
【0082】
<複層フィルムA3>
上記複層フィルムA1の塗布液のうち、バイロン550の添加量を1.0質量部から3.0質量部に替え、更に基材を両端30mmずつをコロナ処理したポリエチレンテレフタレートフィルムに替えた以外は複層フィルムA1と同様にしてフィルムを作製し、複層フィルムA3を得た。
【0083】
<複層フィルムA4>
上記複層フィルムA1の塗布液を、下記の塗布液4に替え、コーティング基材を、市販のポリエチレンテレフタレートフィルム、エンブレットSK50(膜厚50μm、幅1340mm、ユニチカ(株)製)に替え、且つ塗膜の乾燥温度を120℃に替えた以外は複層フィルムA1と同様にしてフィルムを作製し、複層フィルムA4を得た。
【0084】
2)塗布液4の組成
SGP-10 85.6質量部
ザイロンS201A 10.0質量部
バイロン550 0.10質量部
色素1 0.33質量部
褪色防止剤1 4.0質量部
界面活性剤2 0.1質量部
マット剤1 0.002質量部
トルエン 767.3質量部
得られた塗布液は絶対濾過精度1μmのフィルターで濾過した。
【0085】
使用した材料を以下に示す。
・SGP-10:ポリスチレン[PSジャパン製]
・ザイロンS201A:ポリフェニレンエーテル樹脂[旭化成(株)製]
・バイロン550[東洋紡(株)製]
・色素1:下記構造の色素を用いた。
【0086】
【化3】
【0087】
・褪色防止剤1:下記構造の界面活性剤を用いた。
【0088】
【化4】
【0089】
・界面活性剤2:下記構造の界面活性剤を用いた。下記構造式中、t-Buはtert-ブチル基を意味する。
【0090】
【化5】
【0091】
・マット剤1: 二酸化ケイ素微粒子、NX90S[日本アエロジル(株)製]
【0092】
<<偏光板の作製>>
上記複層フィルム、接着剤、および偏光子、対向フィルムを用い、積層体である偏光板を作製した。
1)接着剤の調製
下記に示す方法で、重合性化合物、開始剤、増感剤を混合し、接着剤組成物を調製した。
【0093】
2)接着剤組成物の組成
エピオールEH-N 10.0質量部
リカレジンDME-100 20.0質量部
セロキサイド2021P 70.0質量部
CPI-100P 1.0質量部
IRGACURE290 4.0質量部
DarocurITX 0.5質量部
【0094】
使用した材料を以下に示す。
・エピオールEH-N[日油(株)製]
・リカレジンDME-100[新日本理化(株)製]
・セロキサイド2021P[ダイセル(株)製]
・CPI-100P[サンアプロ(株)製]
・IRGACURE290[BASF製]
・DarocurITX[BASF製]
【0095】
3)対向フィルムの作製
特開2015-227458号公報の実施例1に準じて、厚さ60μmのポリメチルメタクリレートフィルムを作製し、対向フィルムA1とした。
【0096】
4〕複層フィルムの表面処理
上記作製した複層フィルムの基材側の界面とは反対側の面、及び対向フィルムA1にコロナ処理を行った。
【0097】
5〕偏光子の作製
特開2001-141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、膜厚15μmの偏光子を作製した。
【0098】
6)貼り合わせ
上記表面処理した複層フィルム、偏光子、対向フィルムA1をこの順で積層し、偏光板を得た。この際、フィルムの表面処理した面が偏光子側になるように配置し、接着には上記接着剤組成物を用いた。また、偏光子の吸収軸、複層フィルム、および対向フィルムA1の長手方向が平行になるようにロールツーロールで積層した。このとき、接着剤組成物の塗布幅は1300mmとし、接着剤組成物の両方の端部が、転写層のP1領域にくるように積層した。続けて、空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照射量300mJ/cmの紫外線を照射して硬化させた。得られた偏光板を切削して断面を光学顕微鏡で観察し、複層フィルム側、対向フィルム側とも、接着剤(接着層)の厚みが2.5μmであることを確認した。
【0099】
7)基材の剥離
上記作製した積層体である偏光板から、複層フィルムの基材を、セパレータの剥離装置と同様の装置を用いて連続剥離し、基材を剥離した後の積層体に関し、P1付近の転写層の切断状態を目視で確認した。結果(基材剥離性)は以下のように判定し、表1に示した。
<基材剥離性の評価>
A:剥離直後の基材をツレやシワなく安定的に剥離することができ、基材を剥離した後の転写層は欠陥がなく良好であった。
B:剥離直後の基材に、散発的にツレやシワが生じたが、基材を剥離した後の転写層は欠陥がなく良好であった。
C:剥離直後の基材に、散発的にツレやシワが生じ、基材を剥離した後の転写層に僅かに塵埃が発生したり、転写層に僅かな割れが生じることがあった。
D:剥離直後の基材に、常時ツレやシワが確認され、基材を剥離した後の転写層に塵埃が発生したり、転写層に割れが生じたりしたため、次工程である粘着剤の塗工を実施することができなかった。
【0100】
8)粘着剤の塗工
上記作製した偏光板の、基材を剥離した面に、セパレータ上に塗工した帯電防止剤を含むアクリル系粘着剤を転写し、偏光板の加工を完了した。
【0101】
【表1】
【0102】
なお、比較例3では、剥離直後の基材に、常時ツレが確認され、異音を立てながら剥離されていた。
【0103】
上記表1より、本発明の転写フィルム(積層体)は基材剥離性に優れ、かつ欠陥が少ないものであった。これにより、本発明の積層体を用いれば、偏光板などの製品を歩留りよく作製できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によれば、基材剥離性が良好で、欠陥の少ない転写層と接着層を含む積層体を提供することができる。
【0105】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2018年12月26日出願の日本特許出願(特願2018-243277)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。


図1
図2