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特許7073805液滴形成ヘッド、液滴形成装置、及び液滴形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】液滴形成ヘッド、液滴形成装置、及び液滴形成方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220517BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N1/00 K
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018046765
(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公開番号】P2019154339
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】岡野 覚
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】中澤 聡
(72)【発明者】
【氏名】村松 功一
(72)【発明者】
【氏名】倉持 譲
(72)【発明者】
【氏名】増子 龍也
【審査官】玉井 真人
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-315799(JP,A)
【文献】特開2017-077197(JP,A)
【文献】特開昭60-238762(JP,A)
【文献】特表2016-519760(JP,A)
【文献】特表平10-507524(JP,A)
【文献】特表平07-501481(JP,A)
【文献】特開2017-083439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沈降性粒子を懸濁した粒子懸濁液を収容可能であり、前記粒子懸濁液を供給する供給口を底部に備える第1の液収容部と、
前記第1の液収容部の前記供給口を内部に収容し、膜状部材に配置された吐出孔を底部に有し、液を収容可能な第2の液収容部と、
前記粒子懸濁液を前記液とともに前記吐出孔から液滴として吐出する吐出手段と、
を有し、
前記吐出手段が、前記膜状部材を振動させることにより、前記粒子懸濁液を前記液とともに前記吐出孔から液滴として吐出され、
前記第1の液収容部が、前記膜状部材の振動時に前記第1の液収容部に収容された粒子懸濁液が同伴されるように、前記供給口から前記吐出孔までの高さを調整可能な高さ調節機構を有することを特徴とする液滴形成ヘッド。
【請求項2】
前記吐出手段が、前記粒子懸濁液を加圧することにより、前記粒子懸濁液を前記液とともに前記吐出孔から液滴として吐出する請求項1に記載の液滴形成ヘッド。
【請求項3】
前記第1の液収容部が、前記粒子懸濁液を加圧する加圧機構を有する請求項1から2のいずれかに記載の液滴形成ヘッド。
【請求項4】
前記第1の液収容部が、前記第2の液収容部に対し着脱可能である請求項1から3のいずれかに記載の液滴形成ヘッド。
【請求項5】
前記第1の液収容部が、水平方向に位置を調整可能な位置調節機構を有する請求項1から4のいずれかに記載の液滴形成ヘッド。
【請求項6】
前記第2の液収容部が、内部を負圧にする負圧機構を備える請求項1から5のいずれかに記載の液滴形成ヘッド。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の液滴形成ヘッドを有する液滴形成装置。
【請求項8】
沈降性粒子を懸濁した粒子懸濁液を収容可能であり、前記粒子懸濁液を供給する供給口を底部に備える第1の液収容部と、
前記第1の液収容部の前記供給口を内部に収容し、膜状部材に配置された吐出孔を底部に有し、液を収容可能な第2の液収容部と、を有する液滴形成ヘッドを用い、
前記粒子懸濁液を前記第1の液収容部に収容し、前記液を前記第2の液収容部に収容し、前記粒子懸濁液を前記液とともに前記吐出孔から液滴として吐出する吐出工程を含み、
前記膜状部材を振動させることにより、前記粒子懸濁液を前記液とともに前記吐出孔から液滴として吐出され、
前記第1の液収容部が、前記膜状部材の振動時に前記第1の液収容部に収容された粒子懸濁液が同伴されるように、前記供給口から前記吐出孔までの高さを調整することを特徴とする液滴形成方法。
【請求項9】
前記液の粘度が、前記粒子懸濁液の粘度よりも高い請求項8に記載の液滴形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴形成ヘッド、液滴形成装置、及び液滴形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、幹細胞技術の進展に伴い、複数の細胞をインクジェット方式で吐出して組織体を形成する技術開発が行われている。
【0003】
インクジェット方式としては、例えば、圧電素子を用いた圧電加圧方式、ヒータを用いたサーマル方式、静電引力によって液を引っ張る静電方式などが挙げられる。この中でも、圧電加圧方式が、他の方式と比べて熱や電場によるダメージを細胞に与えにくいため、細胞溶液の液滴形成に用いるのに好適である。
【0004】
このため、圧電加圧方式による様々な液滴形成装置が提案されている(例えば、特許文献1及び2等参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、1吐出につき1つの沈降性粒子が含まれる液滴を形成可能な液滴形成ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するための手段としての本発明の液滴形成ヘッドは、沈降性粒子を懸濁した粒子懸濁液を収容可能であり、前記粒子懸濁液を供給する供給口を底部に備える第1の液収容部と、前記第1の液収容部の前記供給口を内部に収容し、吐出孔を底部に有し、液を収容可能な第2の液収容部と、前記粒子懸濁液を前記液とともに前記吐出孔から液滴として吐出する吐出手段と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、1吐出につき1つの沈降性粒子が含まれる液滴を形成可能な液滴形成ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施形態に係る液滴形成ヘッドを例示する断面図である。
図2図2は、圧電素子に印加される電圧を例示する説明図である。
図3A図3Aは、第1の実施形態に係る液滴形成ヘッドにより液滴が形成される過程を示す説明図である。
図3B図3Bは、第1の実施形態に係る液滴形成ヘッドにより液滴が形成される過程を示す説明図である。
図3C図3Cは、第1の実施形態に係る液滴形成ヘッドにより液滴が形成される過程を示す説明図である。
図4A図4Aは、第2の実施形態に係る高さ調節機構を例示する断面図である。
図4B図4Bは、第2の実施形態に係る高さ調節機構を例示する側面図である。
図5図5は、第3の実施形態に係る位置調節機構を例示する断面図である。
図6図6は、第4の実施形態に係る加圧機構を例示する断面図である。
図7図7は、第4の実施形態に係る他の加圧機構を例示する断面図である。
図8図8は、第5の実施形態に係る負圧機構を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(液滴形成ヘッド)
本発明の液滴形成ヘッドは、沈降性粒子を懸濁した粒子懸濁液を収容可能であり、粒子懸濁液を供給する供給口を底部に備える第1の液収容部と、第1の液収容部の供給口を内部に収容し、吐出孔を底部に有し、液を収容可能な第2の液収容部と、粒子懸濁液を液とともに吐出孔から液滴として吐出する吐出手段と、を有し、更に必要に応じて、その他の手段を有する。
【0010】
本発明の液滴形成ヘッドは、従来の液滴形成装置では、沈降性粒子が沈降するため、ノズル詰まりが懸念されて粒子密度を高めることができないことから、吐出する液滴に沈降性粒子が含まれていないときもあるという問題があったという知見に基づくものである。
本発明の液滴形成ヘッドは、従来の液滴形成装置では沈降性粒子として細胞を用いる場合、沈降した細胞は凝集して内部に固着するときもあるため、洗浄の手間が発生し、固着した細胞を廃棄しなければならないという問題があったという知見にも基づくものである。
【0011】
本発明の液滴形成ヘッドは、沈降性粒子を懸濁した粒子懸濁液が第1の液収容部に収容され、かつ第1の液収容部の供給口は吐出孔(ノズル)近傍に配置されている。このため、本発明の液滴形成ヘッドは、ノズルから液滴を吐出する際、第2の液収容部が収容する液とともに、第1の液収容部が収容する粒子懸濁液も同伴され、より確実に沈降性粒子を一緒に吐出することができる。また、本発明の液滴形成ヘッドでは、第2の液収容部に沈降性粒子が移流し拡散しないため、第2の液収容部で沈降して沈降性粒子同士が凝集したり固着したりすることもなく、沈降性粒子が無駄になることはない。
【0012】
以下、図面を参照しながら、発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。また、ここでは、沈降性粒子としての細胞を懸濁した細胞溶液の吐出を対象として例示するが、その他の分野の沈降性粒子を懸濁した粒子懸濁液の吐出に適用してもよい。
【0013】
(第1の実施形態)
[液滴形成ヘッドの構造]
第1の実施形態に係る液滴形成ヘッドについて説明する。
図1は、第1の実施形態に係る液滴形成ヘッドの一例を示す断面図である。
図1に示すように、液滴形成ヘッド100は、第1の液収容部としての第1の液室1と、第2の液収容部としての第2の液室2と、膜状部材としてのメンブレン3と、吐出手段の一部としての圧電素子4と、保持手段5とを有する。
なお、本実施形態では、便宜上、第1の液室1及び第2の液室2の液面が存在する側を上側、圧電素子4が存在する側を下側とする。また、各部位において、第1の液室1及び第2の液室2が存在する側の面を上面、圧電素子4が存在する面を下面とする。
【0014】
第1の液室1は、沈降性粒子を懸濁した粒子懸濁液としての、細胞Pを懸濁した細胞溶液Aを収容する。
第1の液室1の構造としては、細胞溶液Aを収容可能であり、細胞溶液Aを供給する供給口1aを底部に備えていれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、第1の液室1は、所定の量の細胞溶液Aを収容できるように、図1に示すように、第1の液室1の供給口1aよりも上側の部分の内径を、供給口1aの内径よりも大きくしてもよい。
第1の液室1の材質としては、例えば、金属、シリコン、セラミックなどが挙げられる。
第1の液室1の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0015】
供給口1aは、第2の液室2の内部に収容される。
供給口1aの内径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、後述する吐出孔3aの直径と同程度であることが好ましい。
第2の液室2の内部に収容されたときの供給口1aの位置としては、吐出孔3aの振動を阻害しない観点から、吐出孔3aに接触しない程度に近傍に配置されていることが好ましい。
【0016】
細胞溶液Aとしては、細胞Pと、細胞分散液とを含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。
【0017】
細胞Pとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、動物細胞、特にヒト由来の細胞などが挙げられる。
【0018】
細胞分散液としては、当該技術分野で通常用いられる細胞培養用培地であれば特に制限なく用いることができ、例えば、用いる細胞Pの種類に応じて、MEM培地、BME培地、DME培地、αMEM培地、IMDM培地、ES培地、DM-160培地、Fisher培地、F12培地、WE培地及びRPMI1640培地等、朝倉書店発行「日本組織培養学会編 組織培養の技術第三版」のp581に記載されている基礎培地などが挙げられる。
細胞分散液の主たる成分としては、細胞Pと親和性の高い水が好ましい。さらに、細胞分散液中には細胞Pとの浸透圧を調整するための塩、pHを調整するためのpH調整剤が含まれていることが好ましい。より具体的には、細胞分散液として、pHを調整したTrisバッファ水溶液や、Ca、K、Na等の金属塩を培養液と同等に加えたPBS溶液を用いることができる。
また、基礎培地には、血清(ウシ胎児血清等)、各種増殖因子、抗生物質、アミノ酸等を加えてもよい。また、Gibco無血清培地(インビトロジェン社)等の市販の無血清培地等を用いることができる。最終的に得られる細胞組織体の臨床応用を考慮して、動物由来成分を含まない培地を使用することが好ましい。
【0019】
第2の液室2は、底部にメンブレン3を有し、内部に第1の液室1の供給口1aを収容するとともに液Bを収容する。
液Bとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上述した細胞分散液などが挙げられる。
第2の液室2の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、第1の液室1の材質と同様の材質が挙げられる。
【0020】
メンブレン3は、第2の液室2の底部として配置されており、第2の液室2の下面の端部に固定されている。メンブレン3の略中心には、貫通孔である吐出孔3aが形成されており、第1の液室1に収容された細胞溶液Aは、第2の液室2に収容された液とともに、メンブレン3の振動により吐出孔3aから液滴として吐出される。
【0021】
メンブレン3を平面視したときの形状は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円形、楕円状、四角形などが挙げられ、第2の液室2の底部の形状に応じたものが好ましい。
【0022】
メンブレン3の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属、セラミック、ある程度の硬さをもった高分子材料などが挙げられる。これらの中でも細胞Pに対する付着性の低い材料であることが好ましい。
細胞Pに対する付着性の低い材料としては、例えば、親水性が高い材料、疎水性が高い材料などが挙げられる。
親水性が高い材料としては、例えば、金属材料、セラミック材料などが挙げられる。このほか、親水性が高い材料としては、例えば、金属材料やセラミック材料等で表面をコーティングしたもの、細胞膜を模した合成リン脂質ポリマー(例えば、日油株式会社製、Lipidure)で表面をコーティングしたものなどが挙げられる。
金属材料としては、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウムなどが挙げられる。
セラミック材料としては、例えば、二酸化ケイ素、アルミナ、ジルコニアなどが挙げられる。
疎水性が高い材料としては、例えば、フッ素樹脂などが挙げられる。
【0023】
吐出孔3aは、本実施例では、メンブレン3の略中心に実質的に真円状に形成されている。
吐出孔3aの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真円状などが挙げられる。
吐出孔3aの形状が真円状の場合、吐出孔3aの直径の上限値としては、200μm以下が好ましい。吐出孔3aの直径の上限値が200μm以下であると、液滴が大きくなり過ぎず、微小液滴を形成しやすくなる点で有利である。また、吐出孔3aの直径の下限値としては、沈降性粒子としての動物細胞、特にヒトの細胞の体積平均粒径は10μm以上30μm以下程度であるため、細胞が吐出孔3aに詰まることを避ける点から、細胞の体積平均粒径の2倍以上とすることが好ましい。すると、吐出孔3aの直径の下限値としては、20μm以上が好ましい。したがって、吐出孔3aの直径としては、20μm以上200μm以下が好ましい。
【0024】
細胞の体積平均粒径としては、例えば、下記の測定方法で測定することができる。
細胞溶液Aから10μL取り出してPMMA製プラスチックスライドに乗せ、自動セルカウンター(CountessAutomatedCellCounter、invitrogen社製)を用いることにより体積平均粒径を測定することができる。なお、細胞数も同様の測定方法により求めることができる。
【0025】
圧電素子4は、メンブレン3の下面側に配置されている。
圧電素子4の形状としては、メンブレン3の形状に合わせた形状が好ましい。例えば、メンブレン3を平面視したときの形状が円形である場合には、吐出孔3aの周囲に平面形状が円環状(リング状)の圧電素子4を配置することが好ましい。
【0026】
圧電素子4は、例えば、圧電材料の上面及び下面に電圧を印加するための電極を設けた構造であり、圧電素子4の上下電極に電圧を印加することによって紙面横方向に圧縮応力が加わりメンブレン3を振動させることができる。
圧電材料としては、例えば、ジルコン酸チタン酸鉛、ビスマス鉄酸化物、ニオブ酸金属物、チタン酸バリウム、これらに金属や異なる酸化物を加えた材料などが挙げられる。
【0027】
なお、本実施形態では、圧電素子4がメンブレン3を振動させるようにしたが、これに限ることなく、他の態様としてもよい。他の態様としては、例えば、メンブレン3上にメンブレン3とは線膨張係数が異なる材料を貼り付け、加熱することによって線膨張係数の差を利用してメンブレン3を振動させてもよい。この態様の場合には、線膨張係数の異なる材料の近傍にヒータを配置し、ヒータのON/OFFによりメンブレン3を振動させることが好ましい。
【0028】
保持手段5は、図1に示すように、棒状部材5aと、コネクタ5bとを有する。
棒状部材5aは、一端には第2の液室2の周縁部に着脱可能に取り付け得る構造を有し、他端にはコネクタ5bが接続されている。
コネクタ5bは、第1の液室1を固定して保持することができる。
よって、第1の液室1は、保持手段5により第2の液室2から着脱可能となる。第1の液室1が第2の液室2から着脱可能であると、液滴形成ヘッド100の保守やメンテナンスが容易になる。
【0029】
[液滴形成ヘッドによる液滴形成過程(動作)]
第1の実施形態に係る液滴形成ヘッドが液滴を形成する過程について説明する。
図2は、圧電素子に印加される電圧を例示する説明図である。図3A図3Cは、第1の実施形態に係る液滴形成ヘッドにより液滴が形成される過程を示す説明図である。
図2に示すパルス状の電圧が圧電素子4の上下電極に印加された場合には、図3A図3Cに示すように液滴Dを形成することができる。
【0030】
まず、図2中t1で示す印加電圧の立ち上がり時間では、図3Aに示すように、メンブレン3が急激に変形することにより、第2の液室2に収容された液Bとメンブレン3との間に高い圧力が発生し、この圧力によりノズルから第2の液室2に収容された液が下側に押し出される。このとき、吐出孔3aの近傍では、第2の液室2の、粘度と流れの速度勾配の積で定義される粘性力が第1の液室1の細胞溶液Aに作用し、第2の液室2に収容された液Bに同伴されて、第1の液室1に収容された細胞Pを含む細胞溶液Aも一緒に押し出される。
また、細胞溶液Aが液Bに同伴されやすくなる点で、液Bの粘度が細胞溶液Aの粘度よりも高いことが好ましい。これにより、第1の実施形態に係る液滴形成ヘッドは、一吐出につき一細胞を吐出しやすくすることができる。
【0031】
次に、図2中t2で示すように一定の電圧が圧電素子4に印加されている時間では、図3Bに示すように、発生した圧力が上方に緩和するまでの時間、吐出孔3aから液を押し出す状態が継続して液滴Dが成長する。
【0032】
そして、図2中t3で示す印加電圧の立ち下がり時間では、図3Cに示すように、メンブレン3が元の状態に戻る際に、細胞溶液Aとメンブレン3との界面近傍の液圧力が低下し、細胞Pを含有する液滴Dが形成される。このとき、第1の液室1に収容された細胞Pを含む細胞溶液Aは、液滴Dが吐出されると同時に、ほぼ液滴Dと同じ体積を埋めるために全体が下側に移動し、次の液滴を形成できる状態になる。
【0033】
このように、液滴形成ヘッド100は、図2に示すパルス状の電圧を圧電素子4に連続的に印加することで、図3Cに示すような液滴Dを連続的に形成することができる。
【0034】
なお、液滴形成ヘッド100において、第1の液室1に収容された細胞Pを含有する細胞溶液Aや、第2の液室2に収容された液中に気泡が混入する場合がある。この場合、液滴形成ヘッド100では、第1の液室1及び第2の液室2の上側に気液界面を有するため、気泡は液又は細胞溶液Aの比重の差により上側に上昇し、最終的に気相に排出される。気泡の直径が小さく、第1の液室1や第2の液室2の内壁に付着して気相に排出されにくい場合であっても、圧電素子4によるメンブレン3の振動で第1の液室1や第2の液室2の内壁も振動するため、気泡が内壁から離れて気相に排出される。
このため、効率的に気泡を排除する目的で、液滴を形成しないタイミングでメンブレン3を振動させ、積極的に気泡を第1の液室1や第2の液室2の上側の気相に排出するようにしてもよい。
【0035】
このように、本実施形態に係る液滴形成ヘッド100は、細胞溶液Aを供給する供給口1aを底部に備える第1の液室1と、吐出孔3aを底部に有し、内部に液Bと供給口1aを収容可能な第2の液室2と、細胞溶液Aを液Bとともに吐出する吐出手段とを有する。これにより、本実施形態に係る液滴形成ヘッド100は、1吐出につき1つの沈降性粒子が含まれる液滴を形成することができる。
【0036】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の液滴形成ヘッドでは、第1の実施形態の液滴形成ヘッドに加え、第1の液室1の高さを調節可能な高さ調節機構を更に有する。ここでは、高さ調節機構について説明する。
【0037】
図4Aは、第2の実施形態に係る高さ調節機構を例示する断面図である。図4Bは、第2の実施形態に係る高さ調節機構を例示する側面図である。
図4A及び図4Bに示すように、第2の実施形態では、第1の実施形態の液滴形成ヘッド100において、第1の液室1にねじ部1bを設け、コネクタ5bをねじ受け付コネクタ5cに変更することにより、第1の液室1の高さを調節可能な高さ調節機構を構成する。
例えば、第1の液室1の供給口1aが吐出孔3aと高さ方向で離れ過ぎている場合には、高さ調節機構により供給口1aを吐出孔3aに近づける。これにより、液滴形成ヘッド100は、メンブレン3が変形したときに第2の液室2に収容された液Bとメンブレン3との間に高い圧力が発生しやすくなる。このため、液滴吐出において、第1の液室1に収容された細胞溶液Aが同伴されやすくなり、より確実に細胞Pを含む液滴Dを形成することができる。また、第1の液室1を保守やメンテナンスする場合には、供給口1aを吐出孔3aから離れるようにすることもできる。
【0038】
このように、第2の実施形態に係る液滴形成ヘッド100は、高さ調節機構を有することにより、第1の液室1の供給口1aと吐出孔3aとの相対的な高さを調整することで、第1の液室1に収容された細胞溶液Aが同伴されやすくなり、より確実に細胞Pを含む液滴Dを形成することができる。
【0039】
(第3の実施形態)
第3の実施形態の液滴形成ヘッドでは、第2の実施形態の液滴形成ヘッドに加え、第1の液室1の水平方向の位置を調節可能な位置調節機構を更に有する。ここでは、位置調節機構について説明する。
【0040】
図5は、第3の実施形態に係る位置調節機構を例示する断面図である。
図5に示すように、第3の実施形態では、第2の実施形態の液滴形成ヘッド100において、棒状部材5aに摺動部材5d、5eを設けることにより、第1の液室1の水平方向の位置を調節可能な位置調節機構を構成する。
例えば、第1の液室1の供給口1aの中心が吐出孔3aの中心軸上ではない場合には、摺動部材5d、5eを図5中S1で示す方向にスライドさせて供給口1aの中心を吐出孔3aの中心軸上に合わせるようにする。これにより、液滴形成ヘッド100は、メンブレン3が変形したときに第1の液室1に収容された細胞溶液Aが同伴されやすくなり、より確実に細胞Pを含む液滴Dを形成することができる。
【0041】
このように、第3の実施形態に係る液滴形成ヘッド100は、位置調節機構を有することにより、供給口1aの中心を吐出孔3aの中心軸上に合わせることで、第1の液室1に収容された細胞溶液Aが同伴されやすくなり、より確実に細胞Pを含む液滴Dを形成することができる。
【0042】
(第4の実施形態)
第4の実施形態の液滴形成ヘッドでは、第1~第3のいずれかの実施形態の液滴形成ヘッドの第1の液室1において加圧機構を更に有する。ここでは、加圧機構について説明する。
【0043】
図6は、第4の実施形態に係る加圧機構を例示する断面図である。
図6に示すように、第4の実施形態では、第1~第3のいずれかの実施形態の液滴形成ヘッドの第1の液室1において、上部にシリンダ6を備え、第1の液室1を加圧することを可能にする加圧機構を構成する。
例えば、第1の液室1が収容する細胞溶液Aの粘度が高く、供給口1aから細胞Pが同伴されにくい場合には、シリンダ6の制御により第1の液室1を加圧する。これにより、第4の実施形態に係る液滴形成ヘッド100は、第1の液室1に収容された細胞溶液Aが同伴されやすくなり、より確実に細胞Pを含む液滴Dを形成することができる。
また、一吐出につき一細胞を目標としている場合、細胞溶液Aの粘度が低く、供給口1aから細胞Pが複数同伴されるとき、シリンダ6の制御により第1の液室1を加圧した後に軽く減圧する。これにより、第4の実施形態に係る液滴形成ヘッド100は、液滴吐出において、第1の液室1に収容された細胞溶液Aが同伴されすぎることを抑制できるため、単数で同伴されやすくなり、より確実に細胞Pを含む液滴Dを形成することができる。
【0044】
なお、第4の実施形態では、加圧機構としてシリンダ6を用いたが、これに限ることなく、図7に示すように、シリンダ6をポンプ7に変更してもよい。この場合には、第1の液室1の内部の気圧を計測する図示しないセンサと、センサからの計測値とポンプ7の圧力設定値に基づきフィードバックする制御回路又は装置とを有してもよい。
また、第1の実施形態では、メンブレン3及び圧電素子4を吐出手段として用いたが、これに限ることなく、シリンダ6やポンプ7を吐出手段として用いてもよい。
【0045】
(第5の実施形態)
第5の実施形態の液滴形成ヘッドでは、第1の実施形態の液滴形成ヘッドにおいて、保持手段5を負圧機構8に変更する。ここでは、負圧機構8について説明する。
【0046】
図8は、第5の実施形態に係る負圧機構を例示する断面図である。
図8に示すように、第5の実施形態の負圧機構8は、蓋8aと、Oリング8bと、開閉部8cと、通気口8dとを有する。
蓋8aは、第2の液室2を覆うように配置され、その中心ではOリング8bを介して第1の液室1を保持する。また、蓋8aには、通気口8dと、図8中S2で示す方向にスライドして通気口8dを開閉可能にする開閉部8cが設けられている。
これにより、負圧機構8は、第2の液室2の上部を密閉することで、第2の液室2を負圧にすることができる。このため、液滴吐出において、第2の液室2から液Bが供給されにくくなることから、第1の液室1に収容された細胞溶液Aが供給されやすくなり、より確実に細胞Pを含む液滴Dを形成することができる。
また、負圧機構8は、開閉部8dを開くことにより、負圧にした第2の液室2の内部を大気開放することができる。
【0047】
第1の液室1を外して液滴形成ヘッド100を清掃する等の保守・メンテナンスをする場合には、第2の液室2が密閉されていることにより、第1の液室1に収容されている細胞溶液Aが第2の液室2に流れ込む可能性がある。この場合、開閉部8dを開けて第2の液室2の密閉を解除することで、細胞溶液Aが第2の液室2に流れ込むことを回避することができ、細胞Pを無駄にすることはない。
また、第5の実施形態では、第1の液室1と蓋8aの間にOリングを配置することで密閉度を上げているが、これに限ることなく、例えば、第2の液室2と蓋8aの間にシール部材などを配置してもよい。
【0048】
(液滴形成装置)
液滴形成装置としては、上述の液滴形成ヘッドを有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
その他の手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、液滴形成ヘッドを3軸に走査可能な走査機構や、吐出方向を3軸に調整可能な吐出方向調整機構が好ましい。液滴形成装置が走査機構や吐出方向調整機構を有すると、平面におけるパターニング吐出が可能になる点で有利である。また、この場合、積層させるようにパターニング吐出することで、3次元造形が可能になる点で有利である。
【0049】
以上説明したように、本発明の液滴形成ヘッドは、沈降性粒子を懸濁した粒子懸濁液を収容可能であり、粒子懸濁液を供給する供給口を底部に備える第1の液収容部と、第1の液収容部の供給口を内部に収容し、吐出孔を底部に有し、液を収容可能な第2の液収容部と、粒子懸濁液を液とともに吐出孔から液滴として吐出する吐出手段と、を有する。これにより、本発明の液滴形成ヘッドは、1吐出につき1つの沈降性粒子が含まれる液滴を形成することができる。
【0050】
なお、本発明の液滴形成ヘッドは、1吐出につき1つの細胞が含まれる液滴を形成できることを例にして説明したが、これに限ることなく、例えば、内燃機関において、沈降性粒子としての燃焼促進剤を含む燃料を噴射する燃料噴射装置などにも適用できる。
【0051】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 沈降性粒子を懸濁した粒子懸濁液を収容可能であり、前記粒子懸濁液を供給する供給口を底部に備える第1の液収容部と、
前記第1の液収容部の前記供給口を内部に収容し、吐出孔を底部に有し、液を収容可能な第2の液収容部と、
前記粒子懸濁液を前記液とともに前記吐出孔から液滴として吐出する吐出手段と、
を有することを特徴とする液滴形成ヘッドである。
<2> 前記吐出手段が、前記粒子懸濁液を加圧することにより、前記粒子懸濁液を前記液とともに前記吐出孔から液滴として吐出する前記<1>に記載の液滴形成ヘッドである。
<3> 前記吐出孔が膜状部材に配置され、
前記吐出手段が、前記膜状部材を振動させることにより、前記粒子懸濁液を前記液とともに前記吐出孔から液滴として吐出する前記<1>に記載の液滴形成ヘッドである。
<4> 前記第1の液収容部が、前記粒子懸濁液を加圧する加圧機構を有する前記<1>から<3>のいずれかに記載の液滴形成ヘッドである。
<5> 前記第1の液収容部が、前記第2の液収容部に対し着脱可能である前記<1>から<4>のいずれかに記載の液滴形成ヘッドである。
<6> 前記第1の液収容部が、前記供給口から前記吐出孔までの高さを調整可能な高さ調節機構を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載の液滴形成ヘッドである。
<7> 前記第1の液収容部が、水平方向に位置を調整可能な位置調節機構を有する前記<1>から<6>のいずれかに記載の液滴形成ヘッドである。
<8> 前記第2の液収容部が、内部を負圧にする負圧機構を備える前記<1>から<7>のいずれかに記載の液滴形成ヘッドである。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の液滴形成ヘッドを有する液滴形成装置である。
<10> 沈降性粒子を懸濁した粒子懸濁液を収容可能であり、前記粒子懸濁液を供給する供給口を底部に備える第1の液収容部と、
前記第1の液収容部の前記供給口を内部に収容し、吐出孔を底部に有し、液を収容可能な第2の液収容部と、を有する液滴形成ヘッドを用い、
前記粒子懸濁液を前記第1の液収容部に収容し、前記液を前記第2の液収容部に収容し、前記粒子懸濁液を前記液とともに前記吐出孔から液滴として吐出する吐出工程を含むことを特徴とする液滴形成方法である。
<11> 前記液の粘度が、前記粒子懸濁液の粘度よりも高い前記<10>に記載の液滴形成方法である。
<12> 前記吐出工程は、前記粒子懸濁液を加圧することにより、前記粒子懸濁液を前記液とともに前記吐出孔から液滴として吐出する前記<10>から<11>のいずれかに記載の液滴形成方法である。
<13> 前記吐出工程は、前記吐出孔が配置されている膜状部材を振動させることにより、前記粒子懸濁液を前記液とともに前記吐出孔から液滴として吐出する前記<10>から<11>のいずれかに記載の液滴形成方法である。
<14> 前記第1の液収容部が有する加圧機構により、前記粒子懸濁液を加圧する前記<10>から<13>のいずれかに記載の液滴形成方法である。
<15> 前記第2の液収容部が有する負圧機構により、前記第1の液収容部の内部を負圧にする前記<10>から<14>のいずれかに記載の液滴形成方法である。
【0052】
前記<1>から<8>のいずれかに記載の液滴形成ヘッド、前記<9>に記載の液滴形成装置、前記<10>から<15>のいずれかに記載の液滴形成方法によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0053】
【文献】特表平07-501481号公報
【文献】特開2017-083439号公報
【符号の説明】
【0054】
1 第1の液室(第1の液収容部)
1b ねじ部(高さ調節機構の一部)
2 第2の液室(第2の液収容部)
3 メンブレン(膜状部材、吐出手段の一部)
3a 吐出孔
4 圧電素子(吐出手段の一部)
5 保持手段
5a 棒状部材
5b コネクタ
5c ねじ受け付コネクタ(高さ調節機構の一部)
5d、5e 摺動部材(位置調節機構の一部)
6 シリンダ(加圧機構の一例)
7 ポンプ(加圧機構の一例)
8 負圧機構
8a 蓋
8b Oリング
8c 開閉部
8d 通気口
100 液滴形成ヘッド
D 液滴
P 細胞(沈降性粒子)
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8