(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-16
(45)【発行日】2022-05-24
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/08 20060101AFI20220517BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20220517BHJP
B29C 70/18 20060101ALI20220517BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20220517BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20220517BHJP
B29K 105/12 20060101ALN20220517BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20220517BHJP
【FI】
B29C70/08
C08J5/24
B29C70/18
B29C70/42
B32B5/28 A
B29K105:12
B29K105:08
(21)【出願番号】P 2018049955
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2020-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】池田 和久
(72)【発明者】
【氏名】市野 正洋
(72)【発明者】
【氏名】古橋 佑真
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/007012(WO,A1)
【文献】特開2014-028511(JP,A)
【文献】特開平07-144390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16,15/08-15/14
C08J 5/04-5/10,5/24
B32B
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に沿って互いに反対側を向いた第1の面と第2の面を有するシートモールディングコンパウンド層の、第1の面上の一部に第1のプリプレグ層を積層するとともに第2の面上の一部に第2のプリプレグ層を積層して複合積層体を成形した後、圧縮成形法により前記複合積層体から成形品を得るものであって、
前記シートモールディングコンパウンド層の外周端部に沿うように第1のプリプレグ層および第2のプリプレグ層を枠状に配置して前記複合積層体を形成し、
第1のプリプレグ層および第2のプリプレグ層は、UDプリプレグおよび強化繊維布帛を基材とするプリプレグから選ばれる一種以上のプリプレグからなり、
前記複合積層体の厚さ方向において、第1のプリプレグ層と第2のプリプレグ層が対称な構成になっている、繊維強化複合材料成形品の製造方法。
【請求項2】
第1のプリプレグ層の枠幅と第2のプリプレグ層の枠幅が10mm以上である、請求項
1に記載の繊維強化複合材料成形品の製造方法。
【請求項3】
前記シートモールディングコンパウンド層の第1の面の面積に対する、第1のプリプレグ層の面積の割合Q
1と、前記シートモールディングコンパウンド層の第2の面の面積に対する、第2のプリプレグ層の面積の割合Q
2が、10%以上である、請求項1
または2に記載の繊維強化複合材料成形品の製造方法。
【請求項4】
前記割合Q
1
と前記割合Q
2
が、50%以下である、請求項3に記載の繊維強化複合材料成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツ、自動車、航空機、産業用途等の部材として、繊維強化複合材料成形品が広く用いられている。特に炭素繊維強化複合材料成形品(CFRP)は、軽量性と高い力学特性が求められる分野において積極的に採用されている。
【0003】
繊維強化複合材料成形品の製造方法としては、繊維強化複合材料を圧縮成形する方法が広く用いられている。繊維強化複合材料としては、連続繊維を含む強化繊維基材に熱硬化性樹脂組成物が含浸されたプリプレグや、短繊維を含む強化繊維基材に熱硬化性樹脂組成物が含浸されたシートモールディングコンパウンド(SMC)等が用いられる。
【0004】
SMCは強化繊維の繊維長が短いため、一般にプリプレグに比べて成形品の強度が低くなるものの、凸条等の複雑な形状を成形するのに好適である。例えば、成形型における凸条等の複雑な形状を形成する部分にSMCを配置し、そのSMCの上に基板を形成するプリプレグをさらに配置し、加熱、加圧して圧縮成形して繊維強化複合材料成形品を得る(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、プリプレグの樹脂組成物には力学特性を確保するために流動性が低いものが用いられ、SMCの樹脂組成物には形状追従性を確保するために流動性が高いものが用いられる。そのため、特許文献1のような方法では、プリプレグとSMCとの樹脂組成物の違い、繊維の長さや配向のばらつきが影響し、得られる成形品に反りが生じることがあり、寸法精度が悪くなる傾向がある。
【0007】
プリプレグとSMCに同一の樹脂組成物を用いれば反りの問題はある程度改善されるが、力学特性と形状追従性という、相反する性質を両立できる樹脂組成物は限定されるため、成形の自由度が低下する。プリプレグの繊維配向に応じてSMCの繊維配向を制御して反りを抑制することも困難である。
【0008】
本発明は、プリプレグとSMCを用いた成形により、反りの発生が抑制された寸法精度の高い繊維強化複合材料成形品を製造できる繊維強化複合材料成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]強化繊維と樹脂組成物を含むシートモールディングコンパウンド層の厚さ方向の第1の面側と第2の面側の両方に、強化繊維と樹脂組成物とを含むプリプレグ層を積層した複合積層体を成形する、繊維強化複合材料成形品の製造方法。
[2]前記シートモールディングコンパウンド層の第1の面側と第2の面側の両方に、前記シートモールディングコンパウンド層の外周端部に沿うように前記プリプレグ層を枠状に配置して前記複合積層体を形成する、[1]に記載の繊維強化複合材料成形品の製造方法。
[3]前記シートモールディングコンパウンド層の第1の面の面積に対する、前記シートモールディングコンパウンド層の第1の面側に積層される前記プリプレグ層が占める面積の割合Q1と、前記シートモールディングコンパウンド層の第2の面の面積に対する、前記シートモールディングコンパウンド層の第2の面側に積層される前記プリプレグ層が占める面積の割合Q2とが同じで、かつ10%以上である、[1]又は[2]に記載の繊維強化複合材料成形品の製造方法。
[4]前記シートモールディングコンパウンド層の第1の面側と第2の面側のそれぞれに配置された枠状の前記プリプレグ層の枠部分の幅が同じで、かつ10mm以上である、[2]又は[3]に記載の繊維強化複合材料成形品の製造方法。
[5]前記シートモールディングコンパウンド層の第1の面側と第2の面側に配置される前記プリプレグ層に含まれる強化繊維が連続繊維である、[1]~[4]のいずれかに記載の繊維強化複合材料成形品の製造方法。
[6]前記複合積層体を成形型で圧縮成形する、[1]~[5]のいずれかに記載の繊維強化複合材料成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プリプレグとSMCを用いた成形により、反りの発生が抑制された寸法精度の高い繊維強化複合材料成形品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の繊維強化複合材料成形品の製造方法における複合積層体の一例を示した平面図である。
【
図3】本発明の繊維強化複合材料成形品の製造方法における複合積層体の一例を示した断面図である。
【
図4】実施例1で作製した矩形の枠状のプリプレグを示した平面図である。
【
図5】比較例1で作製した複合積層体を示した断面図である。
【
図6】実施例及び比較例の反り評価の測定点を説明した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の繊維強化複合材料成形品(以下、単に「成形品」とも記す。)は、強化繊維と樹脂組成物を含むシートモールディングコンパウンド(以下、「SMC」とも記す。)層の厚さ方向の第1の面側と第2の面側の両方に、強化繊維と樹脂組成物とを含むプリプレグ層を積層した複合積層体を成形する方法である。
【0013】
プリプレグ層は、強化繊維と樹脂組成物を含むシート状のプリプレグによって形成される層である。プリプレグ層は、1枚のプリプレグからなる単層であってもよく、2枚以上のプリプレグからなる複層であってもよい。
【0014】
プリプレグに含まれる強化繊維としては、連続繊維が好ましい。連続繊維とは、繊維長が76.2mm以上の強化繊維である。
プリプレグの形態は、連続繊維が一方向に引き揃えられたUDプリプレグであってもよく、連続繊維が直交するように製織されたクロスプリプレグであってもよい。その他、バイアスクロス、3軸クロス、Multi-axial Warp Knit等の強化繊維布帛を基材としたプリプレグを用いてもよい。
【0015】
UDプリプレグを2枚以上積層してプリプレグ層とする場合、力学特性に優れる点から、隣接する2枚のUDプリプレグの強化繊維の繊維方向が直交するように積層することが好ましい。
プリプレグの積層作業が簡便で、成形品をより軽量化できる点では、UDプリプレグよりもクロスプリプレグを用いることが好ましい。
【0016】
プリプレグに含まれる強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、高強度ポリエステル繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維、ナイロン繊維等が挙げられる。これらの中でも、比強度及び比弾性に優れる点から、炭素繊維が好ましい。
【0017】
プリプレグに含まれる樹脂組成物としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等を含む樹脂組成物が挙げられる。これらの中でも、硬化後の強度を高くできる点から、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物が好ましい。
【0018】
SMC層は、強化繊維と樹脂組成物を含むSMCで形成される層である。SMC層は、1枚のSMCからなる単層であってもよく、2枚以上のSMCからなる複層であってもよい。
【0019】
SMCに含まれる強化繊維は、連続繊維を所定の繊維長に切断した短繊維である。複数の短繊維が分散されて形成されたシート状の繊維基材に樹脂組成物が含侵されることでシート状のSMCとされる。
【0020】
SMCに含まれる強化繊維としては、プリプレグに含まれる強化繊維として挙げたものと同じものが挙げられ、炭素繊維が好ましい。
SMCに含まれる短繊維の繊維長は、1.0~76.1mmが好ましく、12.7~25.4mmがより好ましい。
【0021】
SMCに含まれる樹脂組成物としては、プリプレグに含まれる強化繊維として挙げたものと同じものが挙げられ、成形における形状追従性に優れる点から、ビニルエステル樹脂を含む樹脂組成物が好ましい。
【0022】
本発明では、SMC層の第1の面側と第2の面側にプリプレグ層を積層した複合積層体を成形に用いる。前記複合積層体を用いることで、SMC層の第1の面側と第2の面側における、SMC層とプリプレグ層との間の樹脂組成物の違い、繊維の長さや配向のばらつきといった影響が厚さ方向において相殺されるため、得られる成形品の反りが抑制される。
【0023】
本発明では、成形品の反りを抑制しやすい点から、SMC層の第1の面側と第2の面側の両方に、SMC層の外周端部に沿うようにプリプレグ層を枠状に配置して複合積層体を形成することが好ましい。
なお、SMC層の第1の面側と第2の面側には、SMC層の全面を覆うようにSMC層と同形状のプリプレグ層を積層してもよい。
【0024】
図1及び
図2に複合積層体の一例を示す。なお、以下の説明において例示される図の寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0025】
複合積層体10は、
図1及び
図2に示すように、平面視で矩形状のSMC層12の第1の面12a側と第2の面12b側に、それぞれSMC層12の外周端部に沿うように矩形の枠状の第1のプリプレグ層14と第2のプリプレグ層16が積層されている。
SMC層12は、1枚のSMC13からなる単層である。第1のプリプレグ層14は、1枚の枠状のプリプレグ15からなる単層である。第2のプリプレグ層16は、1枚の枠状のプリプレグ17からなる単層である。
【0026】
複合積層体は、
図3に例示した複合積層体10Aであってもよい。
図3における
図2と同じ部分は同符号を付して説明を省略する。
複合積層体10Aは、平面視で矩形状のSMC層12の第1の面12a側と第2の面12b側に、それぞれSMC層12の外周端部に沿うように矩形の枠状の第1のプリプレグ層14Aと第2のプリプレグ層16Aが積層されている。
第1のプリプレグ層14Aは、2枚の枠状のプリプレグ15,15からなる複層である。第2のプリプレグ層16Aは、2枚の枠状のプリプレグ17,17からなる複層である。
【0027】
SMC層の外周端部に沿うようにプリプレグ層を枠状に配置する方法としては、プリプレグの中央部分をくり抜くように裁断して枠状のプリプレグを作製して積層する方法が好ましい。
クロスプリプレグであれば中央部分をくり抜くように裁断しても枠状のプリプレグ層の全体にわたって強化繊維が絡み合っているため、高強度が得られやすい。UDプリプレグの中央部分をくり抜くように裁断して枠状にする場合は、2枚以上のUDプリプレグを繊維方向が直交するように積層したものを、中央部分をくり抜くように裁断することが好ましい。
【0028】
なお、例えば平面視で矩形状のSMC層の外周端部に沿うようにプリプレグ層を枠状に配置する場合は、4つの帯状のプリプレグをSMC層の各辺の外周端部にそれぞれ沿うように配置して枠状のプリプレグ層としてもよい。
【0029】
本発明では、反りの抑制効果が高い点から、複合積層体の厚さ方向において、SMC層の第1の面側と第2の面側のプリプレグ層が対称な構成になっていることが好ましい。
厚さ方向に対称な積層構成としては、例えば、以下の構成が挙げられる。
SMC層の第1の面側と第2の面側の両方に、プリプレグ層を枠状に配置する。SMC層の第1の面側と第2の面側の両方に、クロスプリプレグを積層してプリプレグ層を形成する。SMC層の第1の面側と第2の面側の両方に、UDプリプレグを積層してプリプレグ層を形成する。SMC層の第1の面側と第2の面側に、同じ枚数のプリプレグを積層してプリプレグ層を形成する。
【0030】
また、SMC層の第1の面側と第2の面側のそれぞれに、複数のUDプリプレグを繊維方向が直交するように積層する場合、複合積層体の厚さ方向において、各UDプリプレグの繊維方向が対称になるように積層する構成が挙げられる。例えば、UDプリプレグ(0°)、UDプリプレグ(90°)、SMC、UDプリプレグ(90°)、UDプリプレグ(0°)をこの順に積層する(ただし、括弧内は平面視での強化繊維の繊維方向の角度を意味する。)。
【0031】
SMC層の第1の面側と第2の面側のそれぞれにプリプレグ層を枠状に配置する場合、枠状のプリプレグ層の枠幅が同一で、かつ10mm以上であることが好ましい。例えば、複合積層体10では、第1のプリプレグ層14の枠幅D1と第2のプリプレグ層16の枠幅D2が同じで、かつ10mm以上であることが好ましい。これにより、反りの抑制効果がより高くなる。
【0032】
枠状のプリプレグ層の枠幅は、SMC層の大きさにもよるが、10mm以上が好ましく、10mm以上300mm以下がより好ましく、20mm以上100mm以下がさらに好ましい。枠幅が前記範囲の下限値以上であれば、反りの抑制効果がより高くなる。枠幅が前記範囲の上限値以下であれば、形状の自由度が高められる。
【0033】
SMC層の第1の面の面積に対する、SMC層の第1の面側に積層されるプリプレグ層が占める面積の割合を割合Q1(%)とする。SMC層の第2の面の面積に対する、SMC層の第2の面側に積層されるプリプレグ層が占める面積の割合を割合Q2(%)とする。
本発明では、反りの抑制効果がより高くなる点から、割合Q1と割合Q2が同じで、かつ10%以上であることが好ましい。
【0034】
割合Q1は、10%以上が好ましく、12%以上100%以下がより好ましく、25%以上50%以下がさらに好ましい。割合Q1の上限値は100%である。割合Q1が100%であるとは、SMC層の第1の面側にSMC層の第1の面全体を覆うようにプリプレグ層を積層した状態を意味する。
割合Q1が前記範囲の下限値以上であれば、反りの抑制効果がより高くなる。割合Q1が前記範囲の上限値以下であれば、形状の自由度が高められる。
割合Q2の好ましい範囲は、割合Q1の好ましい範囲と同じである。
【0035】
複合積層体を成形する方法としては、成形型で圧縮成形する方法が好ましい。
例えば、目的の成形品の形状に相補的な形状のキャビティを形成する一対の金型を備える成形型内に複合積層体を投入し、プレス機を用いて所定の温度及び圧力で加熱加圧し、樹脂組成物を硬化させて成形品を得る方法が挙げられる。
【0036】
圧縮成形においては、成形型を所定の温度に調温しておき、成形後にその温度のまま成形品を取り出すことが好ましい。これにより、成形型の昇降温をする必要がなくなり、成形サイクルを高めることができるため、生産性を高くできる。
成形温度は、SMC及びプリプレグに用いる樹脂組成物によって適宜設定でき、例えば、130~150℃である。
成形時の設定圧力は、適宜設定でき、例えば、3~12MPaである。
【0037】
本発明では、成形型による圧縮成形(本成形)の前に、複合積層体を目的の成形品の形状に近い形状に予備成形してプリフォームを形成してもよい。
予備成形の方法は、特に限定されない。
【0038】
本発明によって製造されるプリフォーム及び繊維強化成形品の形状は、特に限定されない。成形時に各層にせん断変形を伴うような、平面展開できない曲面(複数の平面の組み合わせを含む)の形状、即ち三次元曲面形状であってもよく、せん断変形を伴わない成形で得られる平面展開可能な曲面の形状であってもよい。
【0039】
前述したように、圧縮成形で成形品を得た場合、成形品には反りが発生することがある。これは、SMCプリプレグとの間で強化繊維の繊維長や繊維配向にばらつきがあることで、成形時の加熱硬化とその後の冷却の際に、見かけ上の熱収縮の違いから不均一な収縮が起きやすいため、成形品内部に熱歪みが生じ、成形品が部分的に変形するためである。
【0040】
これに対して、本発明の繊維強化複合材料成形品の製造方法においては、SMC層の第1の面側と第2の面側の両方にプリプレグ層を形成する。これにより、成形品の厚さ方向において、SMC層の第1の面側と第2の面側で熱歪みが相殺されるため、反りの発生が抑制される。
本発明では、SMCの樹脂組成物とプリプレグの樹脂組成物の種類が異なる場合でも、成形品の反りが充分に抑制される。本発明は、特に凸条形状等を含む3次元形状の成形品を高い寸法精度で製造できる点で有効である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
(材料)
本実施例で使用したプリプレグ及びSMCを以下に示す。
プリプレグ(A-1):炭素繊維が直交するように製織されたクロス材にエポキシ樹脂組成物が含浸されたシート状のクロスプリプレグ(三菱ケミカル株式会社製、製品名:TR3110 360GMP)。
プリプレグ(A-2):炭素繊維が直交するように製織されたクロス材にエポキシ樹脂組成物が含浸されたシート状のクロスプリプレグ(三菱ケミカル株式会社製、製品名:TR3110 368GMP)。
プリプレグ(A-3):炭素繊維が一方向に引き揃えられてエポキシ樹脂組成物が含浸されたシート状のUDプリプレグ(三菱ケミカル株式会社製、製品名:TR361E250S)。
プリプレグ(A-4):炭素繊維が一方向に引き揃えられてエポキシ樹脂組成物が含浸されたシート状のUDプリプレグ(三菱ケミカル株式会社製、製品名:TR368E250S)。
【0042】
SMC(B-1):炭素繊維の短繊維がランダムに分散された強化繊維基材にビニルエステル樹脂組成物が含浸されたシート状のSMC(三菱ケミカル株式会社製、製品名:STR120N131-KA6N)。
SMC(B-2):炭素繊維の短繊維がランダムに分散された強化繊維基材にビニルエステル樹脂組成物が含浸されたシート状のSMC(三菱ケミカル株式会社製、製品名:STR101J129-KA6X)。
【0043】
(実施例1)
以下の手順1~3により複合積層体を得た。
手順1:プリプレグ(A-1)を300mm×300mm角の正方形状に裁断し、さらにその中央部分を280mm×280mm角にくり抜くように裁断して、
図4に示すように、
枠幅が10mmの矩形の枠状のプリプレグ(C-1)(プリプレグ20)とした。同様の手順で、枠状のプリプレグ(C-1)を合計2枚作製した。
手順2:SMC(B-1)を300mm×300mm角に裁断し、正方形状のSMC(D-1)とした。
手順3:SMC(D-1)の厚さ方向の第1の面側と第2の面側のそれぞれに、SMC(D-1)の外周端部に沿うように、枠状のプリプレグ(C-1)を1枚ずつ積層して3層構成の複合積層体とした。各々の枠状のプリプレグ(C-1)の外縁の4辺は、SMC(D-1)の外縁の4辺と一致させた。
【0044】
長さ300mm×幅300mm×厚み2mmの平板状の成形品に相補的な形状のキャビティを形成する一対の型を備える圧縮成形用金型を用意した。圧縮成形用金型を140℃に加熱し、型内に複合積層体を投入して型締めし、設定圧力4MPaで押切り加圧して5分間保持して、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0045】
(実施例2)
手順1において、300mm×300mm角の正方形状のプリプレグの中央部分を260mm×260mm角にくり抜くように裁断する以外は、実施例1の手順1と同様にして、枠幅が20mmの矩形の枠状のプリプレグ(C-2)を2枚作製した。
枠状のプリプレグ(C-1)の代わりに枠状のプリプレグ(C-2)を用いる以外は、実施例1と同様にして3層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0046】
(実施例3)
手順1において、300mm×300mm角の正方形状のプリプレグの中央部分を150mm×150mm角にくり抜くように裁断する以外は、実施例1の手順1と同様にして、枠幅が75mmの矩形の枠状のプリプレグ(C-3)を2枚作製した。
枠状のプリプレグ(C-1)の代わりに枠状のプリプレグ(C-3)を用いる以外は、実施例1と同様にして3層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0047】
(実施例4)
手順1において、300mm×300mm角の正方形状のプリプレグの中央部分を75mm×75mm角にくり抜くように裁断する以外は、実施例1の手順1と同様にして、枠幅が112.5mmの矩形の枠状のプリプレグ(C-4)を2枚作製した。
枠状のプリプレグ(C-1)の代わりに枠状のプリプレグ(C-4)を用いる以外は、実施例1と同様にして3層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0048】
(実施例5)
手順1において、プリプレグ(A-1)を300mm×300mm角の正方形状に裁断した後に中央部分を裁断せず、正方形状のプリプレグ(C-5)を得た。
枠状のプリプレグ(C-1)の代わりに枠状のプリプレグ(C-5)を用いる以外は、実施例1と同様にして3層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0049】
(実施例6)
手順1において枠状のプリプレグ(C-1)を4枚作製し、手順3においてSMC(D-1)の第1の面側と第2の面側にそれぞれ2枚ずつプリプレグ(C-1)を積層する以外は、実施例1と同様にして5層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0050】
(実施例7)
手順2においてSMC(B-1)の代わりにSMC(B-2)を用いる以外は、実施例1と同様にして3層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0051】
(実施例8)
手順1においてプリプレグ(A-1)の代わりにプリプレグ(A-2)を用いる以外は、実施例1と同様にして3層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0052】
(実施例9)
手順1においてプリプレグ(A-1)の代わりにプリプレグ(A-2)を用い、手順2においてSMC(B-1)の代わりにSMC(B-2)を用いる以外は、実施例1と同様にして3層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0053】
(実施例10)
手順1においてプリプレグ(A-1)の代わりにプリプレグ(A-3)を用い、手順3において、SMC(D-1)の第1の面側と第2の面側のそれぞれに、繊維方向が直交するように枠状のプリプレグを2枚ずつ積層する以外は、実施例1と同様にして5層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0054】
(実施例11)
手順2においてSMC(B-1)の代わりにSMC(B-2)を用いる以外は、実施例10と同様にして5層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0055】
(実施例12)
手順1においてプリプレグ(A-3)の代わりにプリプレグ(A-4)を用いる以外は、実施例10と同様にして5層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0056】
(実施例13)
手順1においてプリプレグ(A-3)の代わりにプリプレグ(A-4)を用い、手順2においてSMC(B-1)の代わりにSMC(B-2)を用いる以外は、実施例10と同様にして5層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0057】
(比較例1)
図5に示すように、SMC層12の第1の面12a側だけにプリプレグ15が積層されて第1のプリプレグ層14が形成された複合積層体200と同様の構成の複合積層体を作製し、成形に用いた。
具体的には、手順3においてSMC(D-1)の第1の面側だけに枠状のプリプレグ(C-1)を積層して2層構成の複合積層体とする以外は、実施例1と同様にして平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0058】
(比較例2)
手順2においてSMC(B-1)の代わりにSMC(B-2)を用いる以外は、比較例1と同様にして2層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0059】
(比較例3)
手順1においてプリプレグ(A-1)の代わりにプリプレグ(A-2)を用いる以外は、比較例1と同様にして2層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0060】
(比較例4)
手順1においてプリプレグ(A-1)の代わりにプリプレグ(A-2)を用い、手順2においてSMC(B-1)の代わりにSMC(B-2)を用いる以外は、比較例1と同様にして2層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0061】
(比較例5)
手順1においてプリプレグ(A-1)の代わりにプリプレグ(A-3)を用い、手順3において、SMC(D-1)の第1の面側だけに、繊維方向が直交するように2枚の枠状のプリプレグを積層する以外は、実施例1と同様にして3層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0062】
(比較例6)
手順2においてSMC(B-1)の代わりにSMC(B-2)を用いる以外は、比較例5と同様にして3層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0063】
(比較例7)
手順1においてプリプレグ(A-3)の代わりにプリプレグ(A-4)を用いる以外は、比較例5と同様にして3層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0064】
(比較例8)
手順1においてプリプレグ(A-3)の代わりにプリプレグ(A-4)を用い、手順2においてSMC(B-1)の代わりにSMC(B-2)を用いる以外は、比較例5と同様にして5層構成の複合積層体を作製し、平板状の繊維強化複合材料成形品を得た。
【0065】
(反り評価)
各例で得た平板形状の繊維強化複合材料成形品を定盤の上に置いた状態で、定盤の表面から繊維強化複合材料成形品の上面の測定点までの距離dを測定した。
図6に示すように、測定点aの数及び位置は、成形品100の平面視で、縦方向において外縁から10mmの位置から70mm間隔で5点、横方向において外縁から10mmの位置から70mm間隔で5点の合計25点とした。
25点の測定点のうち中央の測定点で測定した距離dを基準距離d
Sとし、それ以外の24点の測定点で測定した距離dについて、基準距離d
Sとの差の絶対値(|d-d
S|)を算出し、その最大値と最小値を足し合わせた値を反り(mm)とし、以下の基準で評価した。
<評価基準>
○(良好):反りが2.5mm未満である。
×(不良):反りが2.5mm以上である。
【0066】
各例の複合積層体の構成、及び繊維強化複合材料成形品の反りの評価結果を表1に示す。
なお、表1における積層構成の欄の「PP/SMC/PP」は、プリプレグ、SMC、プリプレグがこの順に積層された3層構成であることを意味し、他の表記についても同様である。また、積層構成の欄の括弧内の数値は、UDプリプレグの炭素繊維の繊維方向の角度を意味する。
【0067】
【0068】
表1に示すように、SMC層の第1の面側と第2の面側にプリプレグ層を積層した複合積層体を成形した実施例1~13では、SMC層の第1の面側だけにプリプレグ層を積層した比較例1~8に比べて反りが抑制されており、寸法精度が高かった。
【符号の説明】
【0069】
10,10A…複合積層体、12…SMC層、12a…第1の面、12b…第2の面、14…第1のプリプレグ層、15…枠状のプリプレグ、16…第2のプリプレグ層、17…枠状のプリプレグ。